(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】加工食品生地および加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20231031BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20231031BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20231031BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20231031BHJP
【FI】
A23L5/00 M
A23J3/00 505
A23J3/16
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2019175057
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳永 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】室賀 香織
(72)【発明者】
【氏名】柑本 雅司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敏樹
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-355001(JP,A)
【文献】特開2008-263880(JP,A)
【文献】特許第6565013(JP,B1)
【文献】特開平10-056976(JP,A)
【文献】特開2009-011207(JP,A)
【文献】特開2018-126094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23J 3/00
A23J 3/16
A23L 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状植物性蛋白を含むエマルション
(ただし、揚げ物用衣材を除く)を
5~50質量%含む、
挽肉または挽肉様の加工食品生地であって、前記エマルションが、
50質量%以上が目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材を
、水あるいは調味液で戻す前の量として0.1~3質量%含む、前記加工食品生地。
【請求項2】
前記多孔質素材の粒度が、目開き2380μm篩下である、請求項1に記載の加工食品生地。
【請求項3】
前記多孔質素材が、組織状植物性蛋白、おから粉、高野豆腐粉砕物、から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の加工食品生地。
【請求項4】
蛋白の全含有量に占める植物性蛋白の割合が50質量%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の加工食品生地。
【請求項5】
前記エマルションに含まれる多孔質素材とは別に、前記エマルションを除いた部分に
組織状植物性蛋白が含まれる、請求項1~4の何れか1項に記載の加工食品生地。
【請求項6】
前記エマルションを除いた部分に含まれる組織状植物性蛋白の量に対する、前記エマルションに含まれる多孔質素材の量の質量比が、0.002~2である、請求項5に記載の加工食品生地。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の加工食品生地が冷凍された状態にある、加工食品冷凍生地。
【請求項8】
粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程を含む、請求項1~6の何れか1項に記載の加工食品生地または請求項7に記載の加工食品冷凍生地、の製造方法。
【請求項9】
粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程から、60分以内に製造を完了する、請求項8に記載の加工食品生地または加工食品冷凍生地、の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6の何れか1項に記載の加工食品生地または請求項7記載の加工食品冷凍生地が加熱調理された状態にある、加工食品。
【請求項11】
請求項1~6の何れか1項に記載の加工食品生地または請求項7記載の加工食品冷凍生地を加熱調理する、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挽肉または挽肉様の加工食品生地および加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性蛋白をエクストルーダーで処理して得られる組織状植物性蛋白は、弾力のある食感を有するので、肉様蛋白食品の原材料に適している。肉様蛋白食品は、味や風味を改良するために、組織状大豆蛋白の原料に、調味成分を吸着させた微粒シリカゲルを添加する方法が開発されている(特許文献1)。また、調味成分を包接させたサイクロデキストリンを添加する方法が開発されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1、2においては、肉様蛋白食品の味の改良は行われているものの、挽肉加工食品が有しているようなジューシー感やソフト感、ほぐれ感を、肉様蛋白食品に付与することついては何ら検討されていなかった。
【0003】
また、挽肉加工食品の食感に、ソフト感、ジュージー感を付与し、さらに加熱時のドリップを低減させる方法として、分離大豆蛋白を使用したエマルションカード法が挙げられる(例えば、特許文献3)。しかしながら、エマルションカードの使用量が増えると、練り製品様の食感や均一感が出やすく、特に、組織状植物性蛋白を主原料にした挽肉様の加工食品に添加すると、挽肉様の食感、特にジューシー感が損なわれる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-98685号公報
【文献】特開平6-98686号公報
【文献】特開平6-245710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、食感、ジューシー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品の開発が望まれていた。特に、近年需要が高まりつつある畜肉を使用しない所謂ミートレスにおいて、挽肉様の食感、ジュージー感を有する、加工食品の開発が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、食感、ジュージー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品、当該加工食品を得るための加工食品生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した。その結果、粉末状植物性蛋白を使用したエマルションに、目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材を含ませると、挽肉または挽肉様の加工食品の食感、ジューシー感を改善できることを見出した。これにより、本発明は完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様をとり得る。
[1]粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含む、加工食品生地であって、前記エマルションが、目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材を含む、前記加工食品生地。
[2]前記多孔質素材の粒度が、目開き2380μm篩下である、[1]の加工食品生地。
[3]前記多孔質素材が、組織状植物性蛋白、おから粉、高野豆腐粉砕物、から選ばれる1種以上である、[1]または[2]の加工食品生地。
[4]蛋白の全含有量に占める植物性蛋白の割合が50質量%以上である、[1]~[3]の何れか1つの加工食品生地。
[5]組織状植物性蛋白が、前記エマルションを除いた部分に含まれる、[1]~[4]の何れか1つの加工食品生地。
[6]前記エマルションを除いた部分に含まれる組織状植物性蛋白の量に対する、前記エマルションに含まれる多孔質素材の量の質量比が、0.002~2である、[5]の加工食品生地。
[7][1]~[6]の何れか1つの加工食品生地が冷凍された状態にある、加工食品冷凍生地。
[8]粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程を含む、[1]~[6]の何れか1つの加工食品生地または[7]の加工食品冷凍生地、の製造方法。
[9]粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程から、60分以内に製造を完了する、[8]の加工食品生地または加工食品冷凍生地、の製造方法。
[10][1]~[6]の何れか1つの加工食品生地または[7]の加工食品冷凍生地が加熱調理された状態にある、加工食品。
[11][1]~[6]の何れか1つの加工食品生地または[7]の加工食品冷凍生地を加熱調理する、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食感、ジュージー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品、当該加工食品を得るための加工食品生地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための態様について詳細に説明する。
なお、本発明において、A~Bは、A以上B以下を意味する。例えば、A~B質量%は、A質量%以上B質量%以下を意味する。
【0011】
挽肉加工食品は、原料に挽肉を使用した加工食品である。挽肉加工食品としては、例えば、ハンバーグ、バーガーパティ、ミートボール(肉団子)、つくね、ミートローフ、メンチカツ、ロールキャベツ等が挙げられる。本発明の態様によれば、加工食品は、食品に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、ことさらに好ましくは99質量%以上の食品であり得る。特に好ましくは、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉および魚肉を含有しない、いわゆるミートレス食品であり得る。なお、本発明においては、挽肉加工食品と挽肉様加工食品は、必要に応じて、食品に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合が50質量%未満である場合、挽肉加工食品とし、50質量%以上である場合、挽肉様加工食品とすることで、便宜上区別し得る。挽肉様加工食品は、食品に含まれる蛋白の構成を除いては、上記の挽肉加工食品に準じる食品である。
【0012】
本発明の態様によれば、加工食品生地は、挽肉または挽肉様の加工食品を得るために調製された、加熱調理前の原材料の調製物である。すなわち、本発明の態様の1つである加工食品は、加工食品生地を加熱調理することにより得られる。加工食品生地は、原材料から調製後、そのまま加熱調理されてもよいし、一旦冷凍して、加熱調理に供されるまで、冷凍状態で流通ないし保管されてもよい。冷凍状態の加工食品生地の温度は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下に保持される。
【0013】
本発明の態様によれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含有する。エマルションに含まれる粉末状植物性蛋白は、分離大豆蛋白であり得る。分離大豆蛋白は、大豆から分離した水溶性蛋白を主成分として含み、水分のない乾物状態(乾物ベース)で90質量%以上の蛋白を含有し得る(分離大豆蛋白は、通常3~7質量%の水を含有する)。分離大豆蛋白は、公知の方法により製造してもよく、市販品を入手してもよい。分離大豆蛋白の市販品としては、例えば、粉末状分離大豆蛋白(商品名「ソルピー4000H」、日清オイリオグループ株式会社販売)が挙げられる。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる粉末状植物性蛋白の含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは7~24質量%であり、さらに好ましくは11~20質量%である。
【0014】
本発明の態様の1つである加工食品生地に含まれる、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、目開き4000μm(ASTM5メッシュ、Tyler5メッシュ)篩下の粒度を有する多孔質素材を含有する。前記多孔質素材の粒度は、好ましくは目開き2380μm(ASTM8メッシュ、Tyler8メッシュ)篩下の粒度を有し、より好ましくは目開き2000μm(ASTM10メッシュ、Tyler9メッシュ)篩下の粒度を有する。また、前記多孔質素材の粒度は、好ましくは目開き350μm(ASTM45メッシュ、Tyler42)篩上の粒度を有し、より好ましくは目開き840μm(ASTM20メッシュ、Tyler20メッシュ)篩上の粒度を有する。目開きの大きさの上限と下限は任意に組み合わせられる。ここで、目開きXμmの篩上または篩下とは、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の多孔質素材を目開きXμmの篩を使用して篩掛けした時に、篩を通過する部分をXμm篩下、篩の網上に残る部分をXμm篩上と呼ぶ。篩の目開きは、JIS Z8801-1を適用すればよいが、対応するASTMあるいはTylerの篩を使用してもよい。規格による篩の差異は極めて微小であり、本発明には影響しない。また、ここで、例えば、目開き4000μm篩下かつ目開き350μm篩上の粒度を有する多孔質素材とは、多孔性素材に占める当該画分の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である多孔質素材である。
【0015】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに含まれる目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材は、食材であれば特に限定されない。多孔質素材としては、例えば、おから粉、高野豆腐粉砕物、組織状大豆蛋白、およびこれらの組合せなどが挙げられる。多孔質素材は、好ましくは組織状大豆蛋白である。本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに含まれる目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材の含有量は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、さらに好ましくは0.3~1質量%である。また、本発明の態様の1つによれば、多孔質素材のゆるめ嵩密度は、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.15~0.45g/cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.4g/cm3である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から多孔質素材の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL(cm3)当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求められる。
【0016】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、油脂を含み得る。エマルションに含まれる油脂は、食用に適する限り特に限定されない。エマルションに含まれる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、(焙煎)ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、ヤシ油、ココアバター、豚脂、牛脂などの動植物性油脂、及びこれらの混合油、分別油、硬化油、エステル交換油などが挙げられる。上記油脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる油脂の含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは7~24質量%であり、さらに好ましくは11~20質量%である。
【0017】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、水を含み得る。エマルションに含まれる水は、飲食用に適する限り特に限定されない。例えば、水道水(上水)、湧き水、井戸水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられる。上記水は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる水の含有量は、粉末状植物性蛋白などの原料に含まれる水を除いて、好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、さらに好ましくは55~75質量%である。
【0018】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、通常のエマルションの調製方法により、調製され得る。例えば、粉末状植物性蛋白と約半量の水とを、フードプロセッサ、ミキサーなどにより、攪拌混合して均質化する。残りの水を攪拌しながら加えた後、油を少量ずつ攪拌しながら加える。その後、目開き4000篩下の粒度を有する多孔質素材(例えば、組織状大豆蛋白)および必要に応じてその他の副素材、を加えて攪拌、均一化することでエマルションを得る。多孔質素材は、水や調味液で戻した状態で、または、水や調味液で戻すことなくそのままの状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、加えられてもよい。しかし、多孔質素材は、好ましくは水や調味液で戻すことなくそのままの状態で加えられる。
【0019】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に含まれる粉末状植物性蛋白を含むエマルションの含有量は、当該エマルションを加工食品生地の原材料の1つとした原材料配合ベースで、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~20質量%である。
【0020】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、上記エマルション以外の原材料として、組織状植物性蛋白を含有する。組織状植物性蛋白は、例えば、エクストルーダーに植物性蛋白を含む原料を供給し、加圧・加熱しながら混合・混練することにより製造される。エクストルーダー処理により、蛋白質が膨化し、多孔質な組織が形成される。エクストルーダーとしては、例えば、二軸エクストルーダーが使用できる。植物性蛋白としては、例えば、脱脂大豆、分離大豆蛋白、小麦グルテン等が使用できる。植物性蛋白に、澱粉、食用油脂等を混合して、組織状植物性蛋白の原料が得られる。組織状植物性蛋白は、大豆由来の蛋白を使用して製造されたものを、組織状大豆蛋白といい、小麦由来の蛋白を使用して製造されたものを、組織状小麦蛋白という。組織状植物性蛋白は、粉砕され、用途に応じて篩掛け等により粒度が調整され得る。組織状植物性蛋白に占める蛋白の割合は、実質的に水分を含まない乾物ベース(水分1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満)で、好ましくは40~60質量%であり、より好ましくは45~55質量%であり、さらに好ましくは50~55質量%である。食品や食品原材料に含まれる蛋白の含有量は、例えば、当分野で常用されるケルダール法により、粗蛋白質量として求められる。
【0021】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、植物性蛋白として脱脂大豆を使用した組織状大豆蛋白であり得る。脱脂大豆は、大豆から大豆油を除去して残った固形分である。脱脂大豆を得るための大豆の品種や産地は特に限定されない。脱脂大豆は、圧搾又は抽出により、大豆から大豆油を除去することにより得られる。脱脂大豆の製造方法は特に限定されない。公知の方法が適用され得る。脱脂大豆は、例えば、n-ヘキサンを抽出溶剤として、60~80℃の低温で、大豆から大豆油を抽出することにより得られる。脱脂大豆は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、低変性脱脂大豆(商品名「ソーヤフラワーA」、日清オイリオグループ株式会社販売)が挙げられる。組織状大豆蛋白の水分は、通常10質量%以下であり、4~9質量%であり得る。水の含有量(水分)は、当分野で常用される方法(常圧加熱乾燥法など)により求められる。
【0022】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、好ましくは目開き5600μm(ASTM3.5メッシュ、Tyler3.5メッシュ)篩上の画分を実質的に含有しない。また、好ましくは目開き840μm篩上の粒度を有し、篩下の画分を実質的に含有しない。すなわち、目開き5600μm篩上画分の含有量、および/または、目開き840μm篩下画分の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。また、本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、目開き4000μm篩下の粒度を有し得る、また、目開き2000μm篩上または目開き2380μm篩上の粒度を有し得る。目開きの大きさの上限と下限は任意に組み合わせられる。ここで、目開きXμmの篩上または篩下とは、上記多孔質素材の場合と同様である。
【0023】
本発明の態様の1つによれば、本発明で使用する組織状植物性蛋白は、市販品を使用してもよい。組織状植物性蛋白である組織状大豆蛋白の市販品としては、例えば、日清オイリオグループ株式会社製の商品、ニューソイミーS10、ニューソイミーS11、ニューソイミーS20F、ニューソイミーS21F、ニューソイミーS21MKJ、ニューソイミーS22F、ニューソイミーS31B、ニューソイミーS50、ニューコミテックスA-301、ニューコミテックスA-302、ニューコミテックスA-318、ニューコミテックスA-320、ニューコミテックスA-321S、ニューコミテックスA-400、ニューソイミーF2010、ニューソイミーF3010など、が挙げられる。市販の組織状植物性蛋白を、粉砕、篩掛けなどを施し、上記粒度特性を有する画分を調製すればよい。
【0024】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白の含有量は、原材料の配合ベース(組織状植物性蛋白が水分10質量%以下の状態として)で、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~17質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0025】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、予め、水および/または調味液で膨潤させてもよい。水は、例えば、水道水、地下水、イオン交換水、純水等であってもよい。調味液は、ビーフエキス、ボークエキス、チキンエキス等の畜肉系エキス、ジンジャーエキス、ニンジンエキス、トマトエキス等の野菜エキス、エビエキス、カニエキス、牡蠣エキス、ホタテエキス等の魚介エキス、酵母エキス、砂糖、塩、お酢、醤油、味噌、みりん、コンソメ、グルタミン酸ソーダ等のアミノ酸調味料、こしょう等の香辛料等の調味材料、を水で希釈した水溶液であってもよい。膨潤させる水および/または調味液の量は、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白(水分10質量%以下の状態、好ましくは4~9質量%の状態)100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部であり、より好ましくは50~500質量部であり、さらに好ましくは100~300質量部である。
【0026】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、予め、水および/または調味液で膨潤させる以外に、そのままの状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、生地に加えられる部分があってもよい。そのままの状態で生地に加えられる組織状植物性蛋白は、原材料の配合ベースで(原材料に占める割合で)、好ましくは0.5~8質量%、より好ましくは1~6質量%、さらに好ましくは2~5質量%であり得る。
【0027】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地の原材料に占める(原材料ベースにおける)、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の量に対する、上記エマルションに含まれる多孔質素材(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の量の比(質量比)は、好ましくは0.002~2である。当該比は、より好ましくは0.005~1であり、さらに好ましくは0.01~0.1であり、ことさらに好ましくは0.01~0.05である。
【0028】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、上記の、粉末状植物性蛋白を含むエマルションおよびエマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白、以外に、一般に挽肉加工食品に使用される原材料を含有してもよい。例えば、卵白、デンプン、パン粉などの結着性素材、タマネギ、ネギ、ニンジンなどの野菜、食用油脂、調味材料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料、着色料、保存料などが挙げられる。本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を除く、パン粉、卵白、デンプン、デキストリン、マッシュポテトなどの澱粉類、キサンタンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードランなどの増粘多糖類、焼成カルシウムなどのカルシウム塩、トランスグルタミナーゼなどの酵素類、などの結着性素材を含み得る。加工食品生地に含まれる粉末状植物性蛋白を除く結着性素材の含有量は、原材料配合ベースで、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0029】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含む加工食品生地は、通常の挽肉加工食品生地と同様の調製方法により、調製され得る。例えば、ミキサーに粉末状植物性蛋白を含むエマルションを取り、軽く攪拌する。その後、必要に応じて、挽肉、水および/または調味液で戻した組織状植物性蛋白、を加えて、さらに攪拌する。さらに、結着性素材、調味料、タマネギ等を加えて、練り物状態になるまで攪拌することで、生地は調製され得る。生地は、適当な大きさ、形状に成型されてもよい。例えば、ハンバーグ類似の加工食品の場合、生地は、縦50~100cm、横30~60cm、厚さ8~12mmの楕円形に成型されてもよい。調製された加工食品生地は、好ましくは-18℃以下、より好ましくは-25~-40℃の急速冷凍機を用いて冷凍し、冷凍生地としてもよい。冷凍は、生地調製後、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内に行われ得る。本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程から、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内に製造を完了される。
【0030】
本発明の態様によれば、加工食品は、加工食品生地を、加熱調理することにより製造できる。加熱調理は、焼く、蒸す、煮る、電子レンジ加熱する等、公知の加熱調理方法を適用できる。加熱調理は、加工食品生地の調製後、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内に行われ得る。加工食品生地が冷凍状態である場合は、好ましくは解凍されることなく速やかに加熱調理される。加工食品生地が加熱調理された加工食品は、保存、流通のために、冷凍し、調理済みの冷凍加工食品としてもよい。冷凍は、好ましくは-18℃以下、より好ましくは-25~-40℃の急速冷凍機を用いて行われてもよい。冷凍状態の加工食品の温度は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下に保持される。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0032】
<組織状植物性蛋白の粒度調製>
市販の組織状大豆蛋白(商品名:ニューソイミーN50C、日清オイリオグループ株式会社製、水分8質量%、乾物ベースの粗蛋白質含量54質量%)を粉砕し、目開きが異なる篩で篩分けすることにより、目開き5600μm篩上の含有量が0.1質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き840μm篩上の含有量が99.4質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き2000μm篩上の含有量が81.3質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き2380μm篩上の含有量が72.8質量%、目開き4000μm篩下の含有量が80.7質量%である、組織状大豆蛋白L(ゆるめ嵩密度0.25g/cm3)を得た。また、目開き2000μm篩下かつ目開き350μm篩上の含有量が95.1質量%であり、目開き2000μm篩下かつ目開き840μm篩上の含有量が86.1質量%である組織状大豆蛋白S(ゆるめ嵩密度0.38g/cm3)を得た。
【0033】
<粉末状植物性蛋白を含むエマルションの調製>
表1の原材料配合にしたがって、エマルション1、2、3を調製した。すなわち、ミキサー(フードプロセッサー)に粉末状大豆蛋白と水(冷水)とを1:2の割合で採り、均一になるまで攪拌した。残りの水をフレーバーと共に攪拌しながら徐々に加え、均一な状態にした後、菜種油を少量ずつ加えて均一になるまで攪拌し、エマルション(エマルション1)を得た。エマルション1の状態に、さらに水分8質量%の組織状大豆蛋白SまたはLを加えて均一になるまで攪拌し、エマルション2、3を得た。
【0034】
【0035】
<ミートレスハンバーグ生地の調製>
表2、3の配合にしたがって、ミートレスハンバーグ生地1、2、3、4を調製した。すなわち、前処理として、表2の配合にしたがって、組織状大豆蛋白Lを水および調味液で膨化した(戻した)処理済組織状大豆蛋白Lを調製した。膨化は、水と調味液の混合液に組織状大豆蛋白Lを混ぜ合わせ、1時間静置することで行った。生地の調製は、次の手順で行った。縦型ミキサーにエマルションを取り、低速で軽く攪拌した。その後、膨化処理済の組織状大豆蛋白Lと必要に応じて未処理の組織状大豆蛋白Lを加えて、低速で均一になるように軽く攪拌した。さらに、粉体の結着性素材と調味料、液体調味料とフレーバーを加えた後、それぞれ低速で均一になるように軽く攪拌した。最後にタマネギを加え、低速で均一になるように軽く攪拌して、生地を仕上げた。生地の調製は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションの調製を含め、60分以内であった。ミートレスハンバーグ生地1、2、3、4に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合は、88質量%であった。
【0036】
【0037】
【0038】
<ミートレスハンバーグの調製および評価>
上記で調製された60gのミートレスハンバーグ生地1、2、3、4を、それぞれ成形型に入れて略楕円状に成型した。成型生地を180℃に加熱したプレート上で両面に焼き色を付けた後、85~90℃で30分間蒸して、ミートレスハンバーグ1、2、3、4を調製した。ミートレスハンバーグの加熱調理は、生地調製後60分以内に行われた。ミートレスハンバーグ1を対照として、ミートレスハンバーグ2、3、4のそれぞれに対しての食感およびジューシー感の2点比較を、一般パネラー15人を用いて行った。結果を表4に示した。
【0039】
【0040】
<ハンバーグ生地の調製>
表5の原材料配合にしたがって、ハンバーグ生地1、2、3、4を調製した。すなわち、前処理として、ミキサー(フードプロセッサー)に粉末状大豆蛋白と水(冷水)とを1:2の割合で採り、均一になるまで攪拌した。残りの水を攪拌しながら徐々に加え、均一な状態にした後、菜種油を少量ずつ加えて均一になるまで攪拌し、生地1、2のエマルションを得た。生地1、2のエマルションの状態に、さらに水分8質量%の組織状大豆蛋白SまたはLを加えて均一になるまで攪拌し、生地3、4のエマルションを得た。ハンバーグ生地の調製は、次の手順で行った。縦型ミキサーに挽肉とエマルションを取り、低速で軽く攪拌した。その後、ハンバーグミックスと水を混合して加えて、低速で均一になるように軽く攪拌した。さらに、炒めタマネギベース(生地2は、さらに水分8質量%の組織状大豆蛋白S)を加えた後、それぞれ低速で均一になるように軽く攪拌して、生地を仕上げた。生地の調製は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションの調製を含め、60分以内であった。ハンバーグ生地1、2、3、4に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合は、20質量%であった。
【0041】
【0042】
<ハンバーグの調製および評価>
上記で調製された72gのハンバーグ生地1、2、3、4を、それぞれ成形型に入れて略楕円状に成型した。成型生地を180℃に加熱したプレート上で両面に焼き色を付けた後、92℃で12分間蒸して、ハンバーグ1、2、3、4を調製した。ハンバーグの加熱調理は、生地調製後60分以内に行われた。各ハンバーグについて生地重量に対する歩留まりを求めた(結果は表1に記載)。また、ハンバーグ1を対照として、ハンバーグ2、3、4のそれぞれに対しての食感およびジューシー感の2点比較を、一般パネラー15人を用いて行った。結果を表6に示した。
【0043】