(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
C23C14/24 A
(21)【出願番号】P 2020089534
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】若松 宏典
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/060739(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0269755(US,A1)
【文献】特開2008-024998(JP,A)
【文献】特開2015-067846(JP,A)
【文献】特開2014-198863(JP,A)
【文献】特開2011-162867(JP,A)
【文献】特開2006-002218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源において、
蒸着物質が充填される坩堝と、坩堝の上面開口にこの坩堝と熱的に縁切りさせた状態で取り付けられるキャップ体と、キャップ体を主として加熱する加熱手段とを備え、加熱手段で加熱されるキャップ体からの輻射で坩堝に充填された蒸着物質の上層部が加熱され、
キャップ体に、加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する放出開口が開設されることを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記キャップ体は、前記蒸着物質の上層部に対向配置され、前記放出開口が開設された板状部を有し、前記坩堝は、前記蒸着物質が充填される下坩堝部と、下坩堝部の上側にこの下坩堝部と熱的に縁切りさせた状態で組み付けられ、前記キャップ体の板状部を内包する上坩堝部とを有し、上坩堝部の周囲に前記加熱手段が配置されることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
前記キャップ体と前記上坩堝部とが一体に形成されることを特徴とする請求項2記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項4】
前記キャップ体は、前記板状部の外縁から上方向及び下方向の少なくとも一方向にのびて上坩堝部の内面に少なくとも部分的に対向する筒状部を有することを特徴とする請求項2記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項5】
前記下坩堝部は、前記上坩堝部と同等以下の熱伝導率を有する材料で構成されることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項6】
前記上坩堝部及び前記キャップ体の少なくとも一方が導電性材料で構成され、前記加熱手段が誘導加熱式のものであることを特徴とする請求項2~5のいずれか1項記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置されて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関し、より詳しくは、蒸着物質が熱安定性の低い有機材料の蒸着に適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の真空蒸着装置用の蒸着源は例えば特許文献1で知られている。このものは、蒸着物質が充填される坩堝(セル)と、坩堝の上面開口に取り付けられるキャップ体と、坩堝及びキャップ体の周囲にその全体に亘って配置される加熱手段とを備える。キャップ体には、加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する放出開口が開設されている。
【0003】
上記従来例の蒸着源では、坩堝内に充填された蒸着物質が、加熱手段により加熱される坩堝の壁部全体からの伝熱で主として加熱される一方で、坩堝内の蒸着物質は、放出開口の臨むその上層部からしか気化または昇華しない。このため、上層部分に存する蒸着物質が気化または昇華する温度に達するように、加熱手段により坩堝に加える熱量が調整されるが、これでは、坩堝内の蒸着物質に、その下方に向かうに従い温度が次第に高くなる温度勾配が生じてしまう。このような場合、坩堝内の下層部分に存する蒸着物質には熱負荷が過剰に加わる場合があり、蒸着物質が熱安定性の低い有機材料であると、蒸着物質が熱劣化(熱分解や熱変性等)してしまうという問題を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、坩堝内に充填した蒸着物質を加熱して気化または昇華させる際に、坩堝内の下層部分に存する蒸着物質に余計な熱負荷が加わることを防止できる真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着物質が充填される坩堝と、坩堝の上面開口にこの坩堝と熱的に縁切りさせた状態で取り付けられるキャップ体と、キャップ体を主として加熱する加熱手段とを備え、加熱手段で加熱されるキャップ体からの輻射で坩堝に充填された蒸着物質の上層部が加熱され、キャップ体に、加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する放出開口が開設されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、坩堝内に充填した蒸着物質を加熱して気化または昇華させる場合、加熱手段によりキャップ体を加熱すると、この加熱されたキャップ体からの輻射で主として坩堝内の蒸着物質の上層部が加熱される。そして、上層部に存する蒸着物質がその気化温度または昇華温度に達すると、気化または昇華し、この気化または昇華した蒸着物質がキャップ体の放出開口から放出される。このとき、キャップ体と坩堝とは熱的に縁切りされているので、坩堝は、キャップ体から伝熱で加熱されることはなく、精々キャップ体からの輻射や加熱された蒸着物質からの伝熱で加熱されるだけとなる。このため、坩堝内の蒸着物質は、上記従来例のものとは異なり、その下方に向かうに従い次第に温度が低くなる温度勾配を持つようになり、坩堝内の下層部分に存する蒸着物質に余計な熱負荷が加わるといった不具合は発生しない。その結果、本発明は、特に蒸着物質が熱安定性の低い有機材料の蒸着に適したものとなる。ここで、本発明において、「熱的に縁切りさせた状態」とは、坩堝とキャップ体とを物理的に分離し、キャップ体から坩堝への伝熱が遮断されるようにした形態の他、例えば、キャップ体からの伝熱が可及的に抑制されるように、坩堝とキャップ体との間に断熱材を介在させたような場合、坩堝とキャップ体とを熱伝導率の異なる材質で製作したような場合や、キャップ体から坩堝へ熱引けする箇所を可及的に少なくして両者が接触しているような場合も含む。
【0008】
また、本発明において、前記キャップ体は、前記蒸着物質の上層部に対向配置され、前記放出開口が開設された板状部を有し、前記坩堝は、前記蒸着物質が充填される下坩堝部と、下坩堝部の上側にこの下坩堝部と熱的に縁切りさせた状態で組み付けられ、前記キャップ体の板状部を内包する上坩堝部とを有し、上坩堝部の周囲に前記加熱手段が配置される構成を採用することができる。これによれば、板状部より上方にのびる上坩堝部の部分によりキャップ体の放出開口から放出される気化または昇華された蒸着物質の指向性を制御することができる。このとき、上坩堝部もまた加熱されていることで、気化または昇華された蒸着物質が上坩堝部内面に再付着して凝縮または凝固するといった不具合も生じない。この場合、前記キャップ体と前記上坩堝部とが一体に形成される構成を採用してもよい。これによれば、加熱手段によって上坩堝部を加熱する際に、主として上坩堝部からの伝熱でキャップ体が加熱されることでキャップ体を応答性よく加熱できる。
【0009】
ところで、坩堝とキャップ体とを物理的に分離するために上坩堝部と下坩堝部とを物理的に分離した場合、気化または昇華された蒸着物質が上坩堝部と下坩堝部との間の上下方向の隙間から漏洩する(即ち、キャップ体の放出開口以外の部分から放出される)虞がある。このような場合、前記キャップ体は、前記板状部の外縁から上方向及び下方向の少なくとも一方向にのびて上坩堝部の内面に少なくとも部分的に対向する筒状部を有する構成を採用し、この筒状部を隙間にオーバーラップさせておけば、気化または昇華された蒸着物質が上坩堝部と下坩堝部との間の隙間から漏洩するといったことを確実に防止することができる。しかも、上坩堝部からの輻射でキャップ体を加熱する際に、筒状部が受熱面となることで、キャップ体を効率よく加熱することができる。
【0010】
また、本発明においては、前記下坩堝部は、前記上坩堝部と同等以下の熱伝導率を有する材料で構成されることが好ましい。これによれば、坩堝内の下層部分に存する蒸着物質に余計な熱負荷が加わることを確実に防止できる。この場合、前記上坩堝部及び前記キャップ体の少なくとも一方が導電性材料で構成され、前記加熱手段が誘導加熱式のものである構成を採用することができる。これによれば、上坩堝部、キャップ体及び下坩堝部の形状と材質(固有抵抗値、透磁率)を適宜選択することで加熱効率を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の真空蒸着装置の構成を説明する部分斜視図。
【
図3】坩堝に充填された蒸着物質の温度分布を示す図。
【
図4】(a)~(d)は、本発明の変形例に係る蒸着源を夫々示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に蒸着して所定の薄膜を成膜する場合を例に本発明の蒸着装置用の蒸着源DS
1を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図1を基準として説明する。
【0013】
図1を参照して、Dmは、第1の本実施形態の蒸着源DS
1を備える真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には、基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては、公知のものを利用できるため、これ以上の説明は省略する。そして、真空チャンバ1の底面に、第1の本実施形態の蒸着源DS
1が基板Swの移動方向に間隔で複数個並設されている。
【0014】
図2も参照して、各蒸着源DS
1は、同一の構造を有し、開口3aを上方に向けた姿勢で真空チャンバ1の底面に設置される有底円筒状の格納容器3を備え、格納容器3内に坩堝4が格納されている。坩堝4は、格納容器3の上端で支持される上坩堝部41と、格納容器3の下面に設置される有底円筒状の下坩堝部42とを備え、格納容器3の設置姿勢では、上坩堝部41と下坩堝部42との間に上下方向の隙間が設けられて物理的に分離、即ち、上坩堝部41と下坩堝部42とが熱的に縁切りされている。また、下坩堝部42には、その上面開口42a側から内坩堝部43が出し入れ自在に挿設される。この場合、内坩堝部43は、下坩堝部42への挿設状態でその上端が下坩堝部42の上端より一段低くなるように定寸されている。また、下坩堝部42及び内坩堝部43は、耐熱性を有し且つ比較的熱伝導率が小さい材料、例えば、セラミックス、チタン、SUS製であり、上坩堝部41は、耐熱性を有し且つ比較的熱伝導率が大きい材料、グラファイト、モリブデン、アルミニウム、銅製である。そして、内坩堝部43に蒸着物質Vmが充填される。蒸着物質Vmとしては、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて有機材料が適宜選択され、顆粒状またはタブレット状のものが利用される。
【0015】
また、上坩堝部41の内側には、径方向の隙間を存して且つ内坩堝部43の上端で支持させてキャップ体5が設置されている。キャップ体5は、内坩堝部43内の蒸着物質Vmの上層部Hpに対向配置され、複数の開口51a(放出開口51a)が開設される板状部51と、板状部51の外周から下方にのびて上坩堝部41の内壁面41aに対峙する筒状部52とを備え、キャップ体5の設置状態で筒状部52が上坩堝部41と下坩堝部42との間の上下方向の隙間と上下方向でオーバーラップするようになっている。この場合、特に図示して説明しないが、筒状部52の下端には脚片が周方向に間隔を置いて設けられ、各脚片で内坩堝部43の上端に点接触するようになっている。また、キャップ体5は、上坩堝部41と同様、耐熱性を有し且つ比較的熱伝導率が大きい材料、グラファイト、モリブデン、アルミニウム、銅製であり、これにより、内坩堝部43とキャップ体5とを熱的に縁切りしている。板状部51の上面から上坩堝部41の上端までの高さは、気化または昇華した蒸着物質Vmの飛散分布に応じて、例えば内坩堝部43の上下方向長さを調整することで適宜設定される。また、筒状部52の上下方向の長さ(具体的には、上坩堝部41とオーバーラップする筒状部52の上下方向の長さ)や、筒状部52の外壁面と上坩堝部41の内壁面41aとの隙間の大きさは、予め実験的に求められる、蒸着時における真空チャンバ1内の圧力と、内坩堝部43及びキャップ体5で区画される空間の圧力差から、間隙におけるコンダクタンス値が所定値になるように設定され、気化または昇華した蒸着物質Vmが放出開口51aのみから放出されるようにしている。
【0016】
格納容器3の内面には、上坩堝部41の外壁面をその全体に亘って覆うように加熱手段としてのシースヒータ6が設けられている。なお、本実施形態では、加熱手段として、シースヒータ6を備えるものを例に説明するが、ランプヒータ等の公知の抵抗加熱方式のものを用いることができ、この場合、上坩堝部41の配置位置や材質(輻射率と熱伝導率)を適宜選択することで、上坩堝部41を効率的に加熱することができる。そして、シースヒータ6により上坩堝部41を加熱することで、上坩堝部41からの輻射でキャップ体5が加熱されるようになっている。なお、本実施形態では、シースヒータ6が上坩堝部41及びキャップ体5を加熱するものを例に説明するが、シースヒータ6がキャップ体5のみを加熱するように構成することもできる。
【0017】
以上によれば、上記真空蒸着装置Dmにより基板Swの下面に所定の有機膜を蒸着する場合、真空チャンバ1内の真空雰囲気中にてシースヒータ6を作動させて上坩堝部41及びキャップ体5を加熱すると、加熱されたキャップ体5からの輻射で内坩堝部43内の蒸着物質Vmの上層部Hpが加熱される。そして、上層部Hpに存する蒸着物質Vmがその気化温度または昇華温度に達すると、気化または昇華されて、気化または昇華された蒸着物質Vmがキャップ体5の放出開口51aから放出される。このとき、キャップ体5は、下坩堝部42と熱的に縁切りされており、下坩堝部42はキャップ体5からの伝熱によって加熱されない。このため、内坩堝部43内の蒸着物質Vmは、その下方に向かうに従い次第に温度が低くなる温度勾配を持つようになり、内坩堝部43内の下層部Lpに存する蒸着物質Vmに余計な熱負荷が加わるといった不具合が発生しない。
【0018】
また、本発明によれば、キャップ体5の板状部51を内包し、板状部51より上方にのびる上坩堝部41の部分によりキャップ体5の放出開口51aから放出される気化または昇華された蒸着物質Vmの指向性を制御することができる。このとき、上坩堝部41もまた加熱されており、気化または昇華された蒸着物質Vmが上坩堝部41の内壁面41aに再付着して凝縮または凝固するといった不具合も生じない。また、キャップ体5の筒状部52を上坩堝部41と下坩堝部42との間の上下方向の隙間にオーバーラップさせたことで、気化または昇華された蒸着物質Vmが上坩堝部41と下坩堝部42との間の隙間から漏洩するといった不具合は生じない。しかも、上坩堝部41からの輻射でキャップ体5を加熱する際に、筒状部52も受熱面となることで、キャップ体5を効率よく加熱することができる。なお、下坩堝部42が上坩堝部41と同等以下の熱伝導率を有する材料(つまり、下坩堝部42と上坩堝部41とが同一材料である場合も含む)で構成されていれば、内坩堝部43内の下層部Lpに存する蒸着物質Vmに余計な熱負荷が加わることを確実に防止できる。
【0019】
上記効果を確認するため、上記真空蒸着装置Dmを用いて次の評価を行った。即ち、蒸着物質VmとしてLiq(8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)を用い、真空チャンバ1内を所定圧力(10
-5Pa)まで真空排気した後、シースヒータ6を20Wの電力で10時間稼働させて、内坩堝部43内に充填された蒸着物質Vmの温度分布を評価した。このとき、上坩堝部41及びキャップ体5としてグラファイト製のものを、下坩堝部42及び内坩堝部43としてチタン製のものを用いた。なお、比較実験として、上記従来例の蒸着源(即ち、坩堝の上面開口に坩堝と縁切りせずにキャップ体を取り付け、坩堝及びキャップ体の外周面をその全体に亘って覆うようにシースヒータを設けたもの)を用いて、坩堝内に充填された蒸着物質Vmの温度分布を評価した(
図3参照)。
【0020】
図3は、各蒸着源の坩堝内に充填された蒸着物質Vmの温度分布を示している。
図3(a)に示す比較実験では、蒸着物質Vmの上層部Hpの温度は426℃、下層部Lpの温度は446℃であり、下層部Lpの温度が上層部Hpの温度よりも21℃高く、蒸着物質Vmの下方に向かうに従い温度が次第に高くなる温度勾配が生じた。それに対して、
図3(b)に示す発明実験では、蒸着物質Vmの上層部Hpの温度は471℃、下層部Lpの温度は388℃であり、下層部Lpの温度は上層部Hpの温度より83℃低く、蒸着物質Vmの下方に向かうに従い次第に温度が低くなる温度勾配が生じることが確認された。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記第1の実施形態の蒸着源DS1では、熱的に縁切りさせた状態として、キャップ体5を下坩堝部42と物理的に分離し、キャップ体5から下坩堝部42への伝熱が遮断されるようにしたものを例に説明したが、例えば、キャップ体5からの伝熱が可及的に抑制されるように、坩堝4とキャップ体5との間に断熱材を介在させたり、坩堝4とキャップ体5とを熱伝導率の異なる材質で製作することもできる。
【0022】
また、上記第1の実施形態の蒸着源DS
1では、キャップ体5として板状部51の外周から下方にのびる筒状部52を有するものを例に説明したが、これに限定されるものではない。同一の部材または要素につき同一の符号を付した
図4(a)及び
図4(b)を参照して、第2の実施形態の蒸着源DS
2では、キャップ体500が、放出開口501aを有する板状部501と、その外縁から上方向にのびて上坩堝部41の内壁面41aに少なくとも部分的に対向する筒状部502とで構成され、板状部501の外縁を介して内坩堝部43の上端で支持されるようになっている(
図4(a)参照)。他方、第3の実施形態の蒸着源DS
3では、キャップ体510が、放出開口511aを有する板状部511と、その外縁から上方向及び下方向の両方向にのびて上坩堝部41の内壁面41aに少なくとも部分的に対向する筒状部512とで構成され、上記同様、筒状部512の下端を介して内坩堝部43の上端で支持されるようになっている(
図4(c)参照)。
【0023】
また、上記第1の実施形態では、キャップ体5の設置状態で筒状部52が上坩堝部41と下坩堝部42との間の上下方向の隙間と上下方向でオーバーラップするようにしたものを例に説明したが、これに限定されるものではない。同一の部材または要素につき同一の符号を付した
図4(c)を参照して、第4の実施形態の蒸着源DS
4では、キャップ体520が、筒状部を備えずに、放出開口521aを有する板状部521のみで構成されると共に、内坩堝部43が、下坩堝部42への挿設状態でその上端が下坩堝部42の上端と面一になるように定寸されている。そして、キャップ体520が、板状部521の外縁を介して内坩堝部43の上端で支持され、このとき、所定の板厚を持つ板状部521が上坩堝部41と下坩堝部42との間の上下方向の隙間と上下方向でオーバーラップするようにしている。これにより、キャップ体520を含め、蒸着源DS
4の構成を簡素化することができる。他方、第5の実施形態の蒸着源DS
5では、キャップ体530は、上記第1の実施形態と同等の構成を持つ上坩堝部410と、上坩堝部410の下端に一体に形成された、放出開口531aを有する板状部531とで構成される。これによれば、シースヒータ6によって上坩堝部410を加熱すると、主として上坩堝部410からの伝熱でキャップ体530が加熱されることでキャップ体530を応答性よく加熱できる。
【0024】
上記第1~第5の実施形態の蒸着源DS1~DS5では、加熱手段として、抵抗加熱方式のシースヒータ6を備えるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上坩堝部41及びキャップ体5,500,510,520,530の少なくとも一方が導電性材料で構成される場合、加熱手段として誘導加熱式のものを用いることもできる。この場合、上坩堝部41、キャップ体5,500,510,520,530及び下坩堝部42の形状と材質(固有抵抗値、透磁率)を適宜選択することで加熱効率を最適化することができる。また、上記第1~第5の実施形態の蒸着源DS1~DS5では、坩堝4として内坩堝部43を備え、内坩堝部43内に蒸着物質Vmを充填するものを例に説明したが、坩堝4に内坩堝部43を設けず、下坩堝部42内に蒸着物質Vmを充填するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
Dm…真空蒸着装置、DS1~DS5…蒸着源、Sw…基板(被蒸着物)、Vm…蒸着物質、Hp…蒸着物質の上層部、1…真空チャンバ、4…坩堝、41,410…上坩堝部、42…下坩堝部、42a…上面開口、5,500,510,520,530…キャップ体、51,501,511,521,531…板状部、51a,501a,511a,521a,531a…放出開口、52,502,512…筒状部、6…シースヒータ(加熱手段)。