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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】リチウムの回収のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20231031BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231031BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20231031BHJP
   C01D 15/04 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B5/02
C01D15/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021526329
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2019079762
(87)【国際公開番号】W WO2020104164
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】18207942.6
(32)【優先日】2018-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レンナルト・ショイニス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレム・カレボー
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506048(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107964593(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105154659(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第00250342(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
C01D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ヒューム中のリチウムの濃縮のためのプロセスであって、前記プロセスが、
-金属溶融浴炉を提供する工程と、
-リチウム含有材料、遷移金属、及びフラックス剤を含む金属装入物を調製する工程と、
-前記炉内の還元条件で前記金属装入物及びフラックス剤を製錬し、それによって合金及びスラグ相を有する溶融浴を得る工程と、を含み、
前記リチウムの大部分が、前記合金相及び前記スラグ相を有する前記溶融浴にアルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物を添加することによって、前記溶融スラグからLiClとしてヒューム化されることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記アルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物が、前記ヒューム中の前記Liに対して化学量論的過剰に相当する量で添加される、請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物の化学量論的過剰量が少なくとも10%になる、請求項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物がCaClである、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アルカリ及び/又はアルカリ土類塩化物がMgCl である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記リチウム含有材料がニッケル及び/又はコバルトも含み、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも1つの大部分を前記合金相に還元するのに十分に低いpOが維持される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記リチウム含有材料が、Li電池、それらのスクラップ、又はそれらの生産廃棄物を含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記合金と前記スラグ相とを分離する工程を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属ヒューム中のリチウムの濃縮のためのプロセスに関する。次いで、リチウムは、既知の湿式冶金原理に従って、これらのヒュームから回収することができる。
【背景技術】
【0002】
リチウムの世界消費は、過去10年で2倍を超えている。この増加は、主に、充電式リチウムイオン電池での使用によるものである。リチウムイオン電池は、重量又は体積が重視される用途において高エネルギー又は高電力が所望される場合には、実際に、電気エネルギーの好ましい供給源となっている。この成長は、翌年に継続する可能性が高い。毎年市場に出荷されるリチウムイオン電池の世界的な生産量は、2020年後半までに数百ギガワット時に達すると予想される。
【0003】
異なる種類の電池化学物質が使用されており、それらのすべては、リチウムの酸化及び還元に基づく。広く使用されているカソード化合物としては、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)が挙げられる。アノードでは、リチウム-グラファイトインターカレーション化合物が典型的であり、リチウム金属又はチタン酸リチウム(LTO)も開発されている。リチウムは更に、LiPFの形態で電解質中で使用される。リチウムイオン電池における現在のリチウム消費は、総リチウム生産量の約半分を占める。
【0004】
リチウムはまた、リチウム一次電池などの他の製品、並びにリチウム含有ガラス、セラミック、ポリマー、鋳造粉末、合金、グリース、及び医薬品にも使用される。
【0005】
上記から、大量のリチウムがあらゆる種類の製造スクラップ及び使用済み製品で利用可能となることが明らかに思われる。そのリチウムの回収は、効率的なプロセスが開発された場合に興味深い工業的観点を提供し得る。
【0006】
今まで、非電池関連材料からのリチウムの再生利用は、ガラス及びセラミック産業などの製造プロセスの特定の製造スクラップの再利用にほとんど限定されている。したがって、今後はリチウムイオン電池からのリチウムの回収に重点が置かれることが予想される。
【0007】
リチウムイオン電池は、多くの場合、ニッケル及びコバルトなどの特に貴重な金属を含む複合化合物を含む。したがって、電池再生利用の分野における研究は、リチウムに対してではなくこれらの金属の回収に焦点を当ててきた。文献は、リチウムイオン電池廃棄物に由来する粉末からニッケル及びコバルトを回収するための様々な抽出及び精製工程を使用するいくつかの湿式冶金プロセスについて記載している。リチウムは、典型的には、最後の湿式冶金工程の残留液中で希釈されてしまう。多くの場合、この流れは、リチウムを回収しようとすることなく、廃棄水処理設備に直接進む。まれな場合では、リチウムは、それにもかかわらず、沈殿によって回収され、この工程は、一般に、エネルギー集約的な結晶化及び蒸発工程と組み合わされない限り、低い回収率しかもたらさない。
【0008】
完全な湿式冶金プロセスの代替として、乾式冶金の第1の工程を含むハイブリッドプロセスを選択することができる。乾式冶金は、供給物の組成に対して堅牢で柔軟性があるというよく知られた利点を有し、そこから特定の元素を金属相の1つに容易に濃縮することができる。したがって、リチウム再生利用の観点から、一次電池、充電式電池、ガラス、セラミック、ポリマー、及び鋳造粉末を含む、多種多様なリチウム含有スクラップが想定され得る。
【0009】
リチウムイオン電池の再生利用との関係において、乾式冶金によるリチウムの回収は、「Valorisation of battery recycling slags」(Proceedings of the second international slag valorization symposium,pages 365-373,April 20th,2011)に記載されている。リチウムは、最も容易に酸化される元素の1つであり、スラグに出ると言われている。続いて、スラグからリチウムを回収するための湿式冶金プロセスについて記載する。しかしながら、これは、スラグ中のリチウムの希釈による複雑な作業であり、かろうじて利用可能なレベルのリチウムを含む希釈された液をもたらす。
【0010】
本発明は、スラグ中にではなく、製錬操作のヒューム中にリチウムを濃縮することにより、この希釈問題を解決する。これらのヒュームは、スラグと比較してはるかに少量で形成され、したがって、湿式冶金プロセスのためのより興味深い出発生成物を提供する。濃縮されたリチウムヒュームは、更に容易に浸出可能であり、それによって精製工程を容易にする。この結果は、好適な塩化物源を製錬炉に添加することによって達成される。
【0011】
塩化物源としてCaClを使用したLiCIとしてのリチウムの形成及びヒューム化は、スポジュメンからのリチウム回収との関係において記載されていることに留意されたい。微細粉砕されたスポジュメンを粉末状のCaClと混合し、次いで、この混合物を固相で高温焙焼するプロセスが実際に記載されている。
【0012】
このような塩素化焙焼プロセスは、米国特許第2,561,439号及び同第2,627,452号に開示されている。
【0013】
米国特許第2,561,439号は、CaClを用いてペレット化された粉砕されたスポジュメンの真空塩素化-焙焼プロセスを教示している。LiCIが発生し、これは凝縮され回収される。
【0014】
米国特許第2,627,452号は、アルファからベータスポジュメンへの事前の熱変換、続いてCaClの添加、及びLiCIが形成され揮発する回転炉での第2の熱処理について教示している。
【0015】
この塩素化-焙焼プロセスはまた、使用済みリチウム電池からの金属の回収のための還元製錬プロセスから得られるリチウム含有スラグにも適用されている。これは、中国特許出願公開第107964593号に示されており、固化されたリチウム含有スラグは最初に粉砕され、次いでCaClなどの金属塩化物と混合される。続いて、この混合物は焙焼され、発生するLiCIは捕捉される。このような多段階プロセスは、製錬によるスラグの製造、スラグの固化、その粉砕、微細なCaClとの混合、この混合物の焙焼及びLiCIの捕捉を含むが、高価でかつエネルギー集約的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
しかしながら、本プロセスでは、製錬中に液相が得られるという事実を有効活用して、単一の操作で合金相中の鉄、銅、コバルト、及びニッケルなどの貴重な金属と、ヒューム中のリチウムとを合わせて回収することができる。上記の先行技術と比較して、本プロセスは、スラグを分離し、塩化物源と混合し、その後、再加熱してLiCIをヒューム化する必要がないため、大幅に効率の良い利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この目的のために、金属ヒューム中のリチウムの濃縮のためのプロセスが記載されており、このプロセスは、
-金属溶融浴炉を提供する工程と、
-リチウム含有材料、遷移金属、及びフラックス剤を含む金属装入物を調製する工程と、
-当該炉内の還元条件で金属装入物及びフラックス剤を製錬し、それによって合金及びスラグ相を有する溶融浴を得る工程と、
-任意選択的に、合金とスラグ相とを分離する工程と、を含み、
リチウムの大部分が、プロセスにアルカリ又はアルカリ土類塩化物を添加することによって、溶融スラグからLiCIとしてヒューム化されることを特徴とする。
【0018】
LiCIのヒューム化をもたらす塩化物の添加は、出鋼などによって合金から分離された後に、溶融スラグに対して実施することができる。
【0019】
リチウムの大部分とは、プロセスに関わるリチウムの少なくとも50重量%を意味する。「アルカリ又はアルカリ土類塩化物の添加」とは、アルカリ及びアルカリ土類塩化物の混合物も添加することができることを意味する。
【0020】
このプロセスでは、最も関心のある遷移金属は、鉄、銅、ニッケル、及びコバルトである。
【0021】
好ましい実施形態では、アルカリ又はアルカリ土類塩化物は、金属装入物の一部として、フラックス剤の一部として炉に供給されてもよく、又は製錬中若しくは製錬後に別々に液体スラグに添加されてもよい。
【0022】
塩化物の化学量論は、CaCl又はMgClの場合、それぞれ以下の反応に従って決定される。
LiO+CaCl→LiCl+CaO (1)
LiO+MgCl→LiCl+MgO (2)
【0023】
超過した化学量論量の塩化物は、これらの反応を完了させるのに役立つ。添加される塩化物の量は、好ましくは、ヒューム中のリチウムに対して少なくとも化学量論的であるべきである。より好ましくは、化学量論的過剰の10%を超えて使用される。
【0024】
非常に高い収率が望ましい場合、添加される塩化物の量は、好ましくは、スラグ中のリチウムに対して少なくとも化学量論的であるべきである。より好ましくは、化学量論的過剰の10%を超えて使用される。これは、CaCIの使用と組み合わせて、80%を超える、又は更には90%を超えるリチウムのヒューム収率を確実にする。
【0025】
好ましい塩化物源は、MgCI、より好ましくはCaCIである。これらの塩化物は、標準圧力でそれぞれ1412℃及び1935℃の高沸点を有し、製錬炉の動作温度でスラグ中の酸化リチウムと反応させるこれらの塩化物の良好な有用性を保証する。
【0026】
このプロセスは、ニッケル及び/又はコバルトも含む材料中に存在するリチウムを濃縮するのに特に好適である。次いで、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも1つの大部分を金属状態に還元するのに十分に低いpOが維持され、これらの元素を合金相に出すことができる。大部分とは、プロセスに関わる金属の少なくとも50重量%を意味する。
【0027】
当業者は、空気又はOなどの酸化剤と還元剤との比を調整することによって、酸化還元電位を変化させる方法を知っている。典型的な還元剤は天然ガス又は石炭であるが、アルミニウム、元素状炭素、及び金属装入物中に存在するプラスチックなどの金属画分であってもよい。酸化還元電位は、合金に対するニッケル及びコバルトなどの金属の収率をモニタリングすることによって決定することができる。
【0028】
容易に酸化するリチウムは、スラグに定量的に出るものと想定される。次いで、添加された塩化物と反応し、LiCIを形成し、これは、ヒュームとして蒸発する。
【0029】
したがって、このプロセスは、リチウム電池、それらのスクラップ、又はそれらの製造廃棄物を含むリチウム含有材料を処理するために特別に適合される。
【0030】
フュームに出るLiCIは、スクラバー、バグハウスフィルタ、電気集塵器及びサイクロンなどの一般的な単位操作を使用することによって、煙道ガスから分離及び回収することができる。
【実施例
【0031】
表1の組成を有する使用済み電池を、操作及び投入をより容易にするために細断する。
【0032】
次いで、400gの出発スラグを1500℃の温度で誘導炉内で加熱溶融させ、2Lのアルミナるつぼに溶融浴を調製する。この出発スラグは、前の操作から生じたものであり、電池を添加することができる液体浴を提供するために使用される。スラグの組成を表2に示す。
【0033】
スラグが溶融すると、電池は、石灰岩及び砂フラックスと共に添加される。添加は、2時間にわたって徐々に行われる。この間、Oを浴上に160L/時の速度で吹き付けて、電池内に存在する金属Al及び炭素を燃焼させる。
【0034】
電池スクラップの最終添加後、COを60L/時の速度で30分間浴を通して吹き込んで、均質な浴を得、最終的な還元レベルを固定する。合金及びスラグのサンプルを採取する。スラグ及び合金の質量収支を表2に示す。収率は、合金及びスラグ相のみに基づいて計算され、したがって、(微量の)損失又はガス相に対するキャリーオーバーを放棄する。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
1500℃である間、スラグの混合を確実にするために、アルゴンを液体浴を通して60L/時の速度で吹き込む。この実験から、塩化物の添加なしでは、Liはスラグ中に残存することが明らかである。
【0038】
上記表2のリチウム含有スラグから毎回開始し、CaClの合計量のみが異なった4つの異なる実験を行った。これらの4つの量は、スラグ中に存在するLiと化学量論的反応に必要な塩化物の0%、60%、100%及び120%を表す。CaClは、5分毎に12回均等に、最初の数時間中に徐々に添加される。試験に先立って、CaClを150℃の温度で乾燥させて、余分な水を除去する。スラグは、Arでガス吹き込みを継続しながら、最後のCaCl添加後に更に30分間反応させる。
【0039】
スラグのサンプルを、CaCl添加前、最終添加後、及び最終添加の30分後に採取する。結果を、ヒュームに対するLiの全収率と共に表3に示す。
【0040】
60%の化学量論以下の添加では、すべてのCaClは、スラグ中のLiと反応して揮発性LiCIを形成する。しかしながら、100%化学量論量のCaClは、リチウムを定量的に蒸発させるのに十分ではない。20%過剰に相当する120%の超過した化学量論量は、96%のリチウム収率を達成する。
【0041】
ヒュームのサンプルはすべて15%のリチウム濃度を示し、これは90%を超えるLiCI含有量に相当する。残りは主にCaClであり、機械的なキャリーオーバーにより存在する。
【0042】
【表3】
【0043】
CaClを用いた4つの実験と同様に、MgClを使用して2つの実験を実施した。結果を表4に示す。リチウムの収率は著しく低いが、特に200%化学量論を使用する場合には、依然として申し分のないものである。
【0044】
【表4】
【0045】
NaCIも塩素化剤として試験し、100%化学量論を使用した場合には26%の収率を得た。250%NaCIの超過した化学量論的添加は、50%を超えて申し分のない収率をもたらす。これを表5に示す。
【0046】
【表5】