(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231031BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231031BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231031BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022500096
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068730
(87)【国際公開番号】W WO2021001505
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-01-04
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】キョンスブ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ビン-ナ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】オレシア・カラクリナ
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-073482(JP,A)
【文献】特開2001-006672(JP,A)
【文献】特表2017-506805(JP,A)
【文献】特開2008-166269(JP,A)
【文献】特開2009-146739(JP,A)
【文献】特開2002-015739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池用の正極活物質粉末であって、前記粒子はコア及び表面層を含み、前記表面層は前記コアの上部にあり、前記粒子は、元素:
Li、M’及び酸素であり、M’は式:M’=Ni
zMn
yCo
xA
kを有し、Aはドーパントであり、0.80≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、0≦k≦0.01であり、
前記正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び10nm~200nmの範囲の表面層の厚さを有し、前記表面層は、正極活物質の総重量に対して、6.78・z-4.83重量%以上6.78・z-4.33重量%以下の含有量で硫酸イオン(SO
4
2-)を含む、正極活物質粉末。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属系酸化物粒子が、アルミニウムを更に含み、100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、前記表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、前記原子比A1は、XPSスペクトル分析により得られ、A2は、前記粒子に含有されるAl、Ni、Mn、Co、及びSの合計の原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、ICPにより得られたものである、請求項1に記載の正極活物質粉末。
【請求項3】
200ppm未満の炭素含有量を有する、請求項1又は2に記載の正極活物質粉末。
【請求項4】
0.96以上1.05以下のLi/(Ni+Mn+Co+A)原子比又はLi/(Ni+Mn+Co+A+Al)原子比を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項5】
前記表面層が、73.0±0.2eV~74.5±0.2e
Vの範囲の結合エネルギーで最大ピーク強度を有するAl2pピークを示し、前記強度が、XPSスペクトル分析によって得られる、請求項2~4のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項6】
リチウム遷移金属系酸化物粒子の前記表面層が、LiAlO
2相及びLiM’’
1-aAl
aO
2相を含み、M’’は、Ni、Mn、及びCoを含み、前記LiAlO
2相は、前記正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で前記表面層に存在し、前記LiM’’
1-aAl
aO
2相は、前記正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%未満の含有量で前記表面層に存在する、請求項2~5のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項7】
前記リチウム遷移金属系酸化物粒子が、0.85より大きく2.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有し、S1が、前記表面層に含有される硫酸イオンの量であり、S2が、前記粒子に含有される硫酸イオンの総量であり、両方ともICPで得られたものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項8】
一般式:Li
1+a’(Ni
z’Mn
y’
C
Ox’Al
vS
w)
1-kA
k)
1-a’O
2を有し、Aのみがドーパントであり、0.80≦z’≦0.90、0.05≦y’≦0.20、0.05≦x’≦0.20、x’+y’+z’+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a’≦0.05、0≦k≦0.01である、請求項2~7のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項9】
Aが、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上であり、前記Aの元素のそれぞれの量が、前記正極活物質粉末の総重量に対して、100ppmよりも多い、請求項1~
7のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の正極活物質粉末であって、前記表面層の厚さが、以下のいずれかで定義される最小距離Dに相当し:
D(nm単位)=L
S1-L
S2、
L
S1は、粒子の
周辺にある第1の点の位置であり、L
S2は、前記第1の点の位置と前記粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、
前記第2の点の位置L
S2においてTEM-EDSによって測定されたSの含有量は、0原子%以上であり、前記第1の点の位置で測定されたSの含有量の5.0原子%以下であり、
前記第2の点の位置L
S2
においてTEM-EDSによって測定されたSの含有量(S
2)は、以下のように定義され:
S
2(原子%単位)=S
3±0.1原子%、
S
3は、前記線の第3の点の位置(LS
3)におけるSの含有量(原子%単位)であり、前記第3の点は、前記粒子の前記幾何学的中心と前記第2の点の位置L
S2との間の任意の位置に位置している、正極活物質粉末。
【請求項11】
S
1-S
2≧10.0原子%
S
1は、前記第1の点の位置(LS
1)におけるSの第1の含有量(原子%単位)である、請求項10に記載の正極活物質粉末。
【請求項12】
Alが、以下のように定義された含有量lで前記表面層に存在する、請求項1
1に記載の正極活物質粉末であって、
【数1】
式中、
【数2】
は、ICPによって測定された前記粉末中のAl含有量のM
*含有量に対する原子比であり、
M
*
は、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総原子であり、
【数3】
式中、
Al
surfaceは、EDSによって測定された表面層におけるAlの含有量(原子%単位)であり、
Al
totalは、EDSによって測定された前記粉末の前記粒子中のAlの総含有量(原子%単位)であり、
Area1は、Dにわたって断面TEM-EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分であり、
【数4】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M
*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、前記第1の点の位置と前記第2の点の位置との間のTEMによって測定されたnm単位で表される距離であり、
Area2は、距離Cにわたって断面SEM-EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分であり、
【数5】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M
*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、nm単位で表される距離であり、前記第1の点の位置(x=0nm)と前記粒子の前記幾何学的中心(x=C)との間でTEMによって測定される、正極活物質粉末。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法であって、連続した、
a)リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製する工程と、
b)前記リチウム遷移金属系酸化物化合物を、硫酸イオン源及び水とを混合して、混合物を得る工程と、
c)前記混合物を炉内において酸化性雰囲気中で、350℃~500℃未
満の温度にて、1時間~10時間加熱することにより、本発明による正極活物質粉末を得る工程と、を含む、方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を含む電池。
【請求項15】
電気自動車又はハイブリッド電気自動車における請求項14に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野及び背景技術
本発明は、コア及びコアの上部の表面層を有するリチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)用途に好適なリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質粉末に関する。表面層は、硫酸イオン(SO4
2-)を含むのに対し、粒子は、元素:Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式M’=NizMnyCoxAkを有し、Aは、ドーパントであり、0.80≦z<0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及び0≦k≦0.01である。
【0002】
特に、本発明は、高ニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質(以降、「hN(M)C化合物」と称される)、すなわち、hN(M)C化合物に関し、Ni対M’の原子比は、少なくとも75.0%(又は75.0原子%)、好ましくは少なくとも77.5%(又は77.5原子%)、より好ましくは少なくとも80.0%(又は80.0原子%)である。
【0003】
本発明のフレームワークにおいて、原子%(at%単位)は、原子百分率を意味する。所与の元素の濃度表現としての原子%又は「原子パーセント」は、特許請求される化合物中の全ての原子のうち何パーセントが当該元素の原子であるかを意味する。
【0004】
材料中の第1の元素E(Ewt1)の重量パーセント(重量%)は、次の式:
【0005】
【0006】
[式中、Eat1とEaw1(Eaw1は第1の元素Eの原子量(又は分子量)である)との積は、材料中の他の元素のEati×Eawiの合計で除算され、nは、材料に含まれた異なる元素の数を表す整数である]を適用することにより、当該材料中の当該第1の元素E(Eat1)の所与の原子パーセント(原子%)から変換できる。
【背景技術】
【0007】
EV及びHEVの開発に伴い、このような用途に適したリチウムイオン電池が求められるようになり、hN(M)Cクラスの化合物は、比較的安価なコスト(リチウムコバルト系酸化物などの代替品に関して)、及びより高い動作電圧におけるより高い容量から、LIBの正極活物質としての使用が確実に見込まれる候補としてますます開発が進められている。
【0008】
このようなhN(M)C化合物は、例えば、特許第5584456(B2)号(以下「JP’456」と呼ぶ)又は特許第5251401(B2)号(以下「JP’401」と呼ぶ)から既に知られており、JP’456では、hN(M)C化合物を開示しており、当該hN(M)C化合物の粒子の表面層に1000ppm~4000ppmの範囲の含有量で、SO4
2-イオン(例えば、JP’456の言い回しによる硫酸ラジカル)を有する。JP’456は、硫酸ラジカルの量が上記範囲内にあると、化合物の容量保持率及び放電容量特性が増加することを説明している。しかしながら、硫酸ラジカルの量が上記範囲未満であると容量保持率が低下し、この量が上記範囲を超えると放電容量が低下する。
【0009】
JP’401は、一次粒子にサルフェートコーティング、特にリチウムサルフェートコーティングを適用すると、当該サルフェートでコーティングされた一次粒子の凝集から生じる二次粒子を設計でき、当該二次粒子から作製されたhN(M)C化合物に、より高いサイクル耐久性及びより高い初期放電容量を与えることを可能にする特定の細孔構造をもたせることができることを教示している。更に、JP’401は、このような特定の細孔構造は、当該サルフェートコーティングを洗浄して除去すると達成されると説明している。
【0010】
hN(M)C化合物は上記の利点に関し有望であるが、また、Ni含有量が多いため、サイクル安定性の低下などの欠点もある。
【0011】
これらの欠点の例として、従来技術のhN(M)C化合物は、180mAh/g(JP’456)以下の低い第1の放電容量又は最大86%の制限された容量保持(JP’401)のいずれかを有する。
【0012】
したがって、現在、十分に高い第1の放電容量(すなわち、少なくとも200mAh/g)を有するhN(M)C化合物を実現する必要があり、これは、本発明によれば、このようなhN(M)C化合物を(H)EV用途に適したLIBに使用するための前提条件となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池で使用するのに十分安全であると共に、本発明の分析方法によって得られた、最大11.0%の改善された不可逆容量(IRRQ)を有する正極活物質粉末を提供することである。本発明はまた、NiとM’との原子比が78原子%~85原子%(例えば、EX1の場合は80原子%)の場合、少なくとも200mAh/g、及びNiとM’との原子比が85原子%~90原子%(例えば、EX2.1の場合は86原子%)の場合、少なくとも215mAh/gの、改善された第1の充電容量を有する正極活物質粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本発明は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池用の正極活物質粉末であり、当該粒子は、コア及び表面層を含み、当該表面層は、当該コアの上部にあり、当該粒子は、元素:
Li、M’及び酸素を含み、M’は式:M’=NizMnyCoxAkを有し、Aはドーパントであり、0.80≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、0≦k≦0.01であり、当該正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び10nm~200nmの範囲の表面層の厚さを有し、当該表面層は、正極活物質の総重量に対して、6.78・z-4.83wt%以上、6.78・z-4.33wt%以下の含有量で硫酸イオン(SO4
2-)を含む。
【0015】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、アルミニウムを更に含み、100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比AI/(Ni+Mn+Co+AI+S)であり、当該原子比A1は、XPSスペクトル分析により得られ、A2は、粒子に含有されるAl、Ni、Mn、Co、及びSの合計の原子比AI/(Ni+Mn+Co+AI+S)であり、ICPにより得られたものである。
【0016】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、200ppm未満の炭素含有量を有する。
【0017】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、0.96以上及び1.05以下のLi/(Ni+Mn+Co+A)原子比又はLi/(Ni+Mn+Co+A+Al)原子比を有する。
【0018】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、73.0±0.2eV~74.5±0.2eV、好ましくは、73.6±0.2eV~74.1±0.2eVの範囲の結合エネルギーにおいて、最大ピーク強度を有するAI2pピークを示し、当該強度は、XPSスペクトル分析によって得られる。
【0019】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、LiAlO2相及びLiM’’1-aAlaO2相を含み、M’’は、Ni、Mn、及びCoを含み、当該LiAlO2相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で表面層に存在し、当該LiM’’1-aAlaO2相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%未満の含有量で表面層に存在する。
【0020】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、0.85より大きく2.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有し、S1は、表面層に含有される硫酸イオンの量であり、S2は、粒子中の硫酸イオンの総量であり、両方ともICPによって得られたものである。
【0021】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、一般式:
Li1+a’((Niz’Mny’COx’AlvSw)1-kAk)1-aO2を有し、Aのみが、ドーパントであり、0.80≦z’<0.90、0.05≦y’≦0.20、0.05≦x’≦0.20、x’+y’+z’+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a’≦0.05、0≦k≦0.01である。
【0022】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、Aが、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上であり、Aの元素のそれぞれの量が、正極活物質粉末の総重量に対して、l00ppmよりも多い。
【0023】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、表面層の厚さは、以下のいずれかとして定義される最小距離Dに対応する:
D(nm単位)=LS1-LS2
LS1は、粒子の中心にある第1の点の位置であり、LS2は、当該第1の点の位置と当該粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、
第2の点の位置LS2においてTEM-EDSによって測定されたSの含有量は、0原子%以上であり、第1の点の位置で測定されたSの含有量の5.0%以下であり、Sの当該第2の含有量(S2)は、以下のように定義される:
S2(原子%単位)=S3±0.1原子%、
S3は、当該線の第3の点の位置(LS3)におけるSの含有量(原子%単位)であり、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置LS2との間の任意の位置に位置している。
【0024】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、
S1-S2≧10.0原子%
S1は第1の点の位置(LS1)におけるSの第1の含有量(原子%単位)である。
【0025】
本発明の更なる態様は、正極活物質粉末であり、Alは、以下のように定義された含有量lで表面層に存在する。
【0026】
【0027】
式中、
【0028】
【0029】
は、ICPによって測定された粉末中のAl含有量のM*含有量に対する原子比であり、M*は、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総原子含有量であり、
【0030】
【0031】
式中、
Alsurfaceは、EDSによって測定された表面層におけるAlの含有量(原子%単位)であり、
Altotalは、EDSによって測定された当該粉末の粒子中のAlの総含有量(原子%単位)であり、
Area1は、Dにわたって断面TEM-EDSによって測定されたAl/M*含有量の積分であり、
【0032】
【0033】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、当該第1の点の位置と第2の点の位置との間のTEMによって測定されたnm単位で表される距離であり、
Area2は、距離Cにわたって断面SEM-EDSによって測定されたAl/M*含有量の積分であり、
【0034】
【0035】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、nm単位で表される距離であり、当該第1の点の位置(x=0nm)と当該粒子の幾何学的中心(x=C)との間でTEMによって測定され、Cは、好ましくは2.5μm~7.5μmの範囲である。
【0036】
本発明の更なる態様は、前述の特許請求の範囲のいずれかに記載の正極活物質の製造方法であり、該プロセスは、連続した、
a)リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製する工程と、
b)当該リチウム遷移金属系酸化物化合物を、硫酸イオン源及び水とを混合して、混合物を得る工程と、
c)混合物を炉内の酸化性雰囲気中で、350℃~500℃未満、好ましくは最大450℃の温度にて、1時間~10時間加熱することにより、本発明による正極活物質粉末を得る工程と、を含む。
【0037】
本発明の更なる態様は、前述の特許請求の範囲のいずれかに記載の正極活物質粉末を含む電池である。
【0038】
本発明の更なる態様は、電気自動車又はハイブリッド電気自動車における本発明の電池又は正極活物質の使用である。
【0039】
この目的は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池用の正極活物質化合物を提供することによって達成され、当該粒子は、コア及び表面層を含み、当該表面層は、当該コアの上部にあり、当該粒子は、元素:
Li、M’及び酸素を含み、M’は、式:M’=NizMnyCoxAkを有し、Aはドーパントであり、0.80≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、0≦k≦0.01であり、当該正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50を有する粒子を含み、当該粒子は、5nm~200nm、好ましくは10nm~200nmの厚さを有する表面層を含み、当該表面層は、正極活物質の総重量に対して、6.78・z-4.83重量%以上6.78・z-4.33重量%以下の含有量で硫酸イオン(SO4
2-)を含む。好ましくは、正極活物質は、それらの値を含む0.80~0.86の範囲のz値を有する。
【0040】
本発明のフレームワークにおいて、ppmは、濃度の単位について百万分率を意味し、1ppm=0.0001重量%を表す。
【0041】
更に、本発明のフレームワークにおいて、「硫黄」という用語は、特許請求される正極活物質化合物における硫黄原子又は硫黄元素(元素状硫黄とも呼ばれる)の存在を指す。
【0042】
好ましい実施形態では、表3に提供される結果(以下のセクションG)結果に示されるように、200mAh/gを超える改善された第1の放電容量は、以下の特徴を有する、実施例EX1による正極活物質粉末を80原子%のニッケル含有量で使用する電池で達成される:
粉末の総重量に対して0.28重量%の表面層における硫黄含有量、
表面層における0.84重量%の硫酸イオン含有量、
100nmの厚さ及び12.8μmの中央粒径D50を有する表面層。
【0043】
この観察は、hN(M)C化合物の表面層におけるSO4
2-含有量が4000ppmを超えると、化合物の放電容量が低下するという従来の技術の常識を覆すものであることから、驚くべきことである。
【0044】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0045】
実施形態1
第1の態様では、本発明は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池に好適な正極活物質粉末に関し、当該粒子は、コア及び表面層を含み、当該表面層は、当該コアの上部にあり、当該粒子は、元素:
Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=NizMnyCoxAkを有し、Aは、ドーパントであり、0.80≦z≦0.90、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及び0≦k≦0.01であり、当該正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び5nm~200nmの範囲、好ましくは少なくとも10nm~200nm以下の表面層の厚さを有し、
当該表面層は、正極活物質の総重量に対して、6.78z-4.83重量%以上、6.78z-4.33重量%以下の含有量で硫酸イオン(SO4
2-)を含む。
【0046】
別の実施形態では、当該表面層は、正極活物質の総重量に対して、6.78z-4.68重量%以上、6.78z-4.48重量%以下の含有量で硫酸イオン(SO4
2-)を含む。
【0047】
好ましくは、表面層は、50nm~200nm、より好ましくは100nm~200nm、最も好ましくは100nm~150nmの範囲の厚さを有する。
【0048】
別の実施形態では、この実施形態1に記載の正極活物質粉末は、0.85より大きく2.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有するリチウム遷移金属系酸化物粒子を含み、S1は、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層に含有される硫酸イオンの量であり、S2は、正極活物質粉末中の硫酸イオンの総量である。
【0049】
別の実施形態では、正極活物質粉末はまた、ドーパントAを含む。Aの供給源は、前駆体作製の共沈工程中にスラリーに供給され得る、又はその後、作製された前駆体とブレンドされ、続いて加熱され得る。例えば、Aの供給源は、これらの例に限定されるものではないが、硝酸塩、酸化物、硫酸塩、又は炭酸塩化合物であり得る。ドーパントは、概して、リチウム拡散を支持するため、又は電解質との副反応を抑制するためなど、正極活物質の性能を改善するために添加される。ドーパントは、概して、コア内に均質に分散される。正極活物質中のドーパントは、誘導結合プラズマ(ICP)法及びTEM-EDS(透過型電子顕微鏡-エネルギー分散X線分光法)(セクションE参照)の組み合わせなどの分析方法の組み合わせによって特定される。
【0050】
好ましくは、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、モノリシック又は多結晶形態を有する。モノリシック形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)のような適切な顕微鏡技術で観察される、単一粒子又は2つ若しくは3つの一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。粉末は、SEMによって提供される少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm
2)、好ましくは:少なくとも100μm×少なくとも100μm(すなわち、少なくとも10000μm
2)の視野内の粒子数の80%以上がモノリシック形態を有する場合、モノリシック粉末と呼ばれる。多結晶形態は、3超の一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。モノリシック及び多結晶の形態を有する粒子のSEM画像の例をそれぞれ
図1.1及び
図1.2に示す。
【0051】
正活物質は、正極において電気化学的に活性である材料として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる材料であると理解する必要がある。
【0052】
実施形態2
第2の実施形態では、好ましくは、第1の実施形態によると、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、アルミニウムを更に含み、73.0±0.2eV~74.5±0.2eV、好ましくは73.6±0.2eV~74.1±0.2eVの結合エネルギーの範囲で最大強度を有するAI2pピークを有し、当該強度は、XPSスペクトル分析によって得られたものである。
【0053】
上記の範囲のAI2pピークの最大ピーク強度は、表面層における主要なAl形態がLiAlO2であることを示す。73.0eVから、好ましくは73.6eVから74.5eV、好ましくは74.1eVまでの範囲でAI2pピークの最大ピーク強度を有するhN(M)C化合物は、表3及び表5に示すように、電池に使用される場合、より高い比容量及びより良好なサイクル寿命を示す。
【0054】
実施形態3
第3の実施形態では、好ましくは実施形態2によると、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、当該原子比A1は、XPSスペクトル分析によって得られ、A2は、粒子に含有されるAl、Ni、Mn、Co、及びSの合計の原子比AI/(Ni+Mn+Co+AI+S)であり、ICPにより得られたものである。
【0055】
A1は、以下の連続した工程を含む以下の方法によって得られる:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子のXPSスペクトルを取得する工程、
2)それぞれ、LiM’’1-aAlaO2(Alピーク1;area_1)、LiAlO2(Alピーク2;area_2)、及びAl2O3(Alピーク3;area_3)化合物に帰属する3つのそれぞれの領域(area_1、area_2、area_3)を有する、3つの個々のピーク(Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3)を識別するように、当該XPSスペクトルをデコンボリューションする工程、
3)当該3つの個々のピークの領域(_1~_3)を合計することによって、総AI2pピーク面積値を計算する工程、及び
4)AI2pピーク面積の当該値を、原子比A1(原子%/原子%)=(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S))に変換する工程。
【0056】
工程4)は、以下の連続した工程を含む以下の方法に従って得られる:
a)スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantageソフトウェアを使用することにより、Ni、Mn、Co、及びSの一次XPSピークを当てはめ、各元素のピーク面積を取得する工程、
b)Thermo Scientific Avantageソフトウェア及びScofield相対感度ライブラリを使用して、工程4 a)で得られたNi、Mn、Co、及びSのピーク面積及び工程3)で得られたAlピーク面積を原子%に変換する工程、
c)Al原子%の値をNi、Mn、Co、Al、及びSの原子%の合計で割ることにより、当該AI2p原子%をA1に変換する工程。
【0057】
少なくとも100のAl表面被覆率A1/A2の値は、表面層に含有されるAlの均一な空間分布が存在することを示す。実施例1に示すように、Alが表面層に均一に分布しているhN(M)C化合物は、表3及び表5に示されるように、電池で使用される場合、より高い比容量及びより良好なれたサイクル寿命を示す。
【0058】
実施形態4
第4の実施形態では、好ましくは、実施形態2又は3によると、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、粉末の総重量に対して、0.05重量%~0.15重量%のアルミニウム含有量を有する。
【0059】
実施形態5
第5の実施形態では、好ましくは、実施形態2~4のいずれか1つによると、リチウム遷移金属系酸化物粒子の当該表面層は、LiAlO2相及びLiM”1-aAlaO2[式中、M”はNi、Mn、及びCoを含む]を含む。
【0060】
表面層におけるLiAlO2相(原子)含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下である。
【0061】
表面層におけるLiM”1-aAlaO2相(原子)の含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0原子%以上0.14原子%以下である。
【0062】
LiM”1-aAlaO2相の原子含有量が0.14原子%を超えると、電池性能が低下する。
【0063】
別の実施形態では、表面層に含有されるアルミニウムの含有量のうち、少なくとも19原子%、最大で56原子%が、当該表面層のLiAlO2相に含まれる。
【0064】
そのため、これは、LiAlO2化合物を構成する元素として当該表面層に存在する。
【0065】
別の実施形態では、表面層に含有されるアルミニウムの含有量の最大26原子%が、当該表面層のLiM”1-aAlaO2相に含まれる。
【0066】
本発明のフレームワークにおいて、「アルミニウム」という用語は、実施形態5による正極活物質化合物において、アルミニウム原子又はアルミニウム元素(元素状アルミニウムとも呼ばれる)が存在することを指す。
【0067】
LiAlO2相及びLiM”1-aAlaO2相のそれぞれの量は、実施形態3で説明した工程4)a~c)に従って得られる。
【0068】
実施形態6
第6の実施形態では、好ましくは実施形態1~5のいずれか1つによると、当該正極活物質粉末は、200ppm未満の炭素含有量を有する。
【0069】
高い炭素含有量(例えば、200ppmより高い)は、正極活物質粉末が電池の電解質と接触しているときのサイクリング中の副反応に関係するため、より低い炭素含有量(例えば、200ppm以下)のhN(M)C化合物は、電池でサイクルした場合、良好な不可逆容量などの電気化学的性能の改善につながるが、それに限定される。
【0070】
実施形態7
第7の実施形態では、好ましくは、実施形態1~6のいずれか1つによると、正極活物質粉末は、一般式:Li1+a’((Niz’Mny’COx’AlvSw)1-kAk)1-a’O2を有し、Aのみがドーパントであり、0.80≦z’<0.90、0.05≦y’≦0.20、0.05≦x’≦0.20、x’+y’+z’+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a’≦0.05、0≦k≦0.01である。別の実施形態では、z’は0.86以下であり、0.80以上である。
【0071】
実施形態8
第8の実施形態では、好ましくは実施形態1~7のいずれか1つによると、Aは、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上の元素である。別の実施形態では、Aの各元素の量は、正極活物質粉末の総重量に対して100ppm超である。
【0072】
実施形態9
第9の実施形態では、好ましくは、実施形態1~8のいずれか1つによると、コアは、S元素及び/又はAl元素を含まない。
【0073】
実施形態10
第10の実施形態では、好ましくは実施形態1~9のいずれか1つによると、表面層の厚さは、粒子の断面の周辺に位置する第1の点と、当該第1の点と当該粒子の幾何学的中心(又は重心)との間に定義される線に位置する第2の点との間の最小距離として定義され、TEM-EDS(セクションE参照)によって第2の点の位置(S2)及び当該第2の点の位置と粒子の中心との間の任意の位置で測定されたSの含有量は、0原子%±0.1原子%である。
【0074】
第2の点の位置におけるSの含有量(S2)は一定であり、0原子%超である可能性があり、第1の点の位置におけるSの第1の含有量(S1)の5.0%以下である必要があり、当該S2の第2の含有量は、当該線の第3の点位置におけるSの含有量(S3)に等しく、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置との間の任意の位置に位置している。
【0075】
換言すれば、表面層の厚さは、以下のように定義される最小距離Dに対応する:
D(nm単位)=L
S1-L
S2
L
S1は、粒子の周辺にある第1の点の位置であり、L
S2は、
図2に示すように、当該第1の点の位置と当該粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、
Sの第2の含有量は、第2の点の位置L
S2においてTEM-EDSによって測定され、0原子%以上であり、第1の点の位置で測定されたSの第1の含有量(S
1)の5.0%以下であり、Sの当該第2の含有量(S
2)は、
S
2(原子%単位)=S
3±0.1原子%、及び任意選択で
S
1-S
2≧10.0原子%
S
3は、当該線の第3の点の位置(LS
3)におけるSの第3の含有量(原子%単位)であり、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置L
S2との間の任意の位置に位置している。
【0076】
S2及びS3が0.0原子%超である場合、Sの第2及び第3の含有量は、本発明による粒子のコアにドーパントとして存在する、TEM-EDSによって測定されたSの含有量に対応する。
【0077】
TEM-EDSプロトコルは次のように適用される。
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子の断面TEMラメラは、Gaイオンビームを使用して粒子サンプルを切断することにより抜き出され、作製されたサンプルが得られる。
2)作製されたサンプル(粒子の断面)は、TEM/EDSラインスキャンで、表面層の外縁からリチウム遷移金属系酸化物粒子の中心までスキャンされることにより、断面の定量的元素分析を提供する。
3)EDSによって検出されたAl含有量及びS含有量は、M*によって正規化され、ここで、M*は、スキャンされたラメラ内のNi、Mn、Co、Al、及びSの総原子である。
4)次いで、Al/M*及びS/M*の測定されたラインスキャンが、当該粒子の断面における直線距離の関数としてプロットされる。
【0078】
前述の工程1)~4)は、分析する粒子の数だけ繰り返される。
【0079】
前述のTEM-EDS測定は、少なくとも1つの粒子に対して実施される。2つ以上の粒子が測定される場合、Al/M*及びS/M*は、数値的に平均化される。
【0080】
実施形態11
第11の実施形態では、好ましくは実施形態10によると、Alが、以下のように定義された含有量lで表面層に存在し、
【0081】
【0082】
ここで、
【0083】
【0084】
は、ICPによって測定された粉末中のAl含有量のM*含有量に対する原子比であり、M*は、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総原子含有量であり、
【0085】
【0086】
式中、
Alsurfaceは、EDSによって測定された表面層におけるAlの含有量(原子%単位)であり、
Altotalは、EDSによって測定された当該粉末の粒子中のAlの総含有量(原子%単位)であり、
Area1は、Dにわたって断面TEM-EDSによって測定されたAl/M*含有量の積分であり、
【0087】
【0088】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、当該第1の点の位置と第2の点の位置との間のTEMによって測定されたnm単位で表される距離であり、
Area2は、距離Cにわたって断面SEM-EDSによって測定されたAl/M*含有量の積分であり、
【0089】
【0090】
式中、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるAlの原子含有量であり、
M*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xにおけるNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、nm単位で表される距離であり、当該第1の点の位置(x=0nm)と当該粒子の幾何学的中心(x=C)との間でTEMによって測定され、Cは、好ましくは2.5μm~7.5μmの範囲である。
【0091】
上記実施形態1~11のいずれも、組み合わせ可能である。
【0092】
本発明は、電池における前述の実施形態1~11のいずれか1つに記載の正極活物質粉末の使用に関する。
【0093】
また、本発明は、実施形態1~11のいずれか1つに記載の正極活物質粉末の製造方法を含み、
該方法は、
第1の焼結リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製する工程と、
当該第1の焼結リチウム遷移金属系酸化物化合物を、硫酸イオン源、好ましくはAl2(SO4)3及び/又はH2SO4、及び水と混合し、それによって混合物を得る工程と、
混合物を炉内の酸化性雰囲気中で、350℃~500℃未満、好ましくは最大450℃の温度で、1時間~10時間加熱することにより、本発明による正極活物質粉末を得る工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1.1】モノリシック形態を有する粒子のSEM画像である。
【
図1.2】多結晶形態を有する粒子のSEM画像である。
【
図2】正極活物質粒子の断面の概略画像であり、L
S1は粒子の断面の周辺にある第1の点の位置、L
S2は当該粒子の幾何学的中心とL
S1との間の仮想線上に位置する第2の点の位置である。Dは、L
S1とL
S2との間の距離として定義される表面層の厚さである(実施形態10参照)。
【
図3.1】当てはめプロセス前のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図3.2】当てはめプロセス後のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図4.1】EX1、及びCEX1.1のAI2p及びNi3p XPSスペクトル(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図4.2】LiM’’
1-aAl
aO
2、LiAlO
2、及びAl
2O
3相の各々の、 AI2p3 XPSピークの結合エネルギー範囲である。垂直の実線は、EX1のAI2p3 XPSのピーク位置を示す。
【
図5.1】EX1のS/M
*のTEM-EDS分析結果(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比での元素)である。
【
図5.2】EX1のAl/M
*のTEM-EDS分析結果(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比での元素)である。
【
図6】原子%単位での正極活物質のNi/M’含有量(z)(x軸)対S1(重量%単位での表面層におけるSO
4
2-含有量、;y軸)で示したグラフである。パターン化された領域は、本発明における請求範囲を示している。
【発明を実施するための形態】
【0095】
本発明の実施を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して説明されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の詳細な説明及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、修正、及び同等物を含む。
【0096】
A)ICP分析
正極活物質粉末のLi、Ni、Mn、Co、Al、及びS含有量は、Agillent ICP720-ESを使用することにより、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法を用いて測定する。三角フラスコ中で、2gの生成物粉末サンプルを10mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをガラスでカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコの250mLの標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全に均質化させた。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコの250mLの標線まで内部標準物質及び10%塩酸を充填した後、均一化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%))は、A2と名づけられる。
【0097】
S2と名づけられた粉末全体中の硫酸イオン(SO4
2-)の量は、以下の等式によって得られる:
【0098】
【0099】
*MWSO4/MWSでは、SO4の分子量を元素状Sの分子量で割ると、2.996の値になる。
【0100】
本発明によるリチウム遷移金属系酸化物粒子の表面におけるS含有量を調査するために、洗浄及び濾過プロセスが実施される。ビーカー内で5gの正極活物質粉末及び100gの超純水を測定する。電極活物質粉末を、磁気撹拌器を使用して25℃で5分間水に分散させる。分散液を真空濾過し、濾過した溶液を上記のICP測定によって分析して、表面層に存在するSの量を測定する。洗浄及び濾過プロセス後の洗浄粉末中の残りのSの量は、ドーパント(コア中に存在するSの含有量に対応するもの)として定義され、洗浄及び濾過プロセス後の洗浄粉末から除去されたSの量は、表面層に存在するSの量として定義される。粒子表面層の硫酸イオン(SO4
2-)の量は、この分析からのSの量に2.996及び10000ppmを掛けることによって得られる。これをS1と名づける。硫酸イオン表面被覆率S1/S2は、S1をS2で割ることによって計算される。
【0101】
B)X線光電子分光分析
本発明では、X線光電子分光法(XPS)を使用して、本発明によるカソード材料粒子の表面層に存在するAl系化合物又は相の各々の含有量(原子%単位)を特定及び決定する。
【0102】
このような特定には、以下を実施することが含まれる:i)XPSによって識別されたAI2pピークの当てはめ(セクションB2-XPSピーク処理を参照)、続いてii)AI2pピークの当てはめによって特定された各化合物の表面層における含有量を計算することによる定量的相分析(セクションB3-Al系化合物の含有量を参照)。
【0103】
また、XPSは、本発明のフレームワークにおいて、本発明による粒子の表面層における当該Al分布の均一性の程度を示すAl表面被覆率値を測定するために使用される。
【0104】
以下に提供される手順は、本発明による任意のカソード材料及び本明細書に記載される比較例に適用可能である。
【0105】
B1)XPS測定条件
リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面分析では、XPS測定は、ThermoK-α+(Thermo Scientific)分光計を使用して実施される。単色Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を特定するための広範な調査スキャンは、200eVのパスエネルギーで実施される。284.8eVに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、特定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が決定される。
【0106】
B2)XPSピーク処理
XPS測定では、信号は、サンプル表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。したがって、表面層は、特定された相の均質な分布を有すると想定される。
【0107】
XPS生データの定量的相分析は、XPS信号の処理に基づくものであり、XPSピークのデコンボリューション及びデコンボリューションされたピークへの既存のAl系化合物の寄与の決定につながる。
【0108】
XPSピークデコンボリューションは、調査対象の正極活物質粒子の表面層におけるLiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3を含む原子Al系化合物の異なる寄与を得るために実施される。Al2O3化合物は、第1の焼結リチウム遷移金属系酸化物化合物のリチウムと反応しなかったAl2(SO4)3を加熱することにより生じる。
【0109】
本発明による正極活物質粉末について測定されたXPSピークは、本質的に、狭い範囲の結合エネルギー内に位置する複数のサブピークの組み合わせである。70eV~79eVの結合エネルギーの範囲で現れる(又は中心にある)最大強度を有するAI2pピークは、異なるAl含有化合物の異なるサブピークからの寄与で構成される。各サブピークの位置(最大強度の位置)は互いに異なる。
【0110】
本発明におけるXPSピークデコンボリューションプロセスを含むXPS信号処理は、以下に提供される工程に従う。
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去、
工程2)当てはめモデルの方程式を決定、
工程3)当てはめモデルの方程式の変数の制約を決定、
工程4)計算前に変数の初期値を決定、
工程5)計算を実施
【0111】
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去
本発明では、XPS信号処理が、65±0.5eV~85±0.5eVの範囲のAI2pナロースキャンのスペクトルを使用して実施され、スペクトルは、70eV~85eVの範囲の最大強度を有する(又は中心にある)AI2pピークを含み、Ni3pピークと重なり、これらのピークのそれぞれは、65eV~71eVの範囲で最大強度を有する(又は中心にある)。測定されたデータポイントのバックグラウンドは、65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲で線形にベースライン化される。
【0112】
工程2)当てはめモデルの方程式を決定
Ni3pピークには4つのサブピークがあり、AI2pピークには3つのサブピークがあり、最大強度は65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲である。ピークには、Ni3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のラベルが付けられている。サテライトピークは、その一次ピークよりも数eV高い結合エネルギーで現れるわずかな付随するピークである。これは、XPS装置のアノード材料からのフィルタリングされていないX線源に関連付けられる。Alピーク1~3は、粒子表面層に存在する化合物に対応し、各々が、i)LiM’’1-aAlaO2、ii)LiAlO2、及びiii)Al2O3相にそれぞれ関連する。
【0113】
表1.1は、LiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3相の最大ピーク強度の位置範囲の基準を示す。Alピーク1の結合エネルギーの範囲は、構造中にドープされたAlの量によって異なる。
【0114】
【0115】
当てはめモデルの方程式は、XPSピーク当てはめに一般的に使用されるガウス関数及びローレンツ関数の組み合わせである疑似フォークト方程式に従う。式は、以下のとおりである。
【0116】
【0117】
y0=オフセット、xc=サブピークの中心位置、A’=サブピークの面積、w=サブピークの幅(半値全幅又はFWHM)、及びmu=プロファイル形状係数。
【0118】
工程3)当てはめモデルの方程式の変数の制約を決定
5つの変数(y0、xc、A’、w、mu)の制約を以下に説明する。
y0(オフセット):
全ての7つのサブピークのy0は0である。
Xc(サブピークの中心位置):
Ni3p1のXc≧66.0eV;
Ni3p1のXc≦Ni3p1サテライトのXc-0.7eV;
Ni3p1サテライトのXc≦Ni3p2のXc-0.7eV;
Ni3p2のXc≦72eV
Ni3p2のXc≦Ni3p2サテライトのXc-0.7eV;
72.3eV≦Alピーク1のXc≦73.3eV;
73.5eV≦Alピーク2のXc≦73.9eV;及び
73.9eV≦Alピーク3のXc≦74.3eV。
【0119】
Alピーク1~3のXcの範囲は、Chem.Mater.Vol.19,No.23,5748-5757,2007;J.Electrochem.Soc.,154(12)A1088-1099,2007;及びChem.Mater.Vol.21,No.23,5607-5616,2009から決定される。
A’(サブピークの面積):
Ni3p1のA’*0.1≦Ni3p1サテライトのA’*1.2≦Ni3p1のA’;
Ni3p2のA’*0.1≦Ni3p2サテライトのA’;及び
全ての7つのサブピークのA’は1.0超である。
w(サブピークの幅):
1.2≦w≦1.8
Mu(プロファイル形状係数):
0.1≦mu≦0.9
【0120】
工程4)計算前に変数の初期値を決定
変数の初期値が次の手順により取得されると、サブピークを当てはめるための計算が再現可能になる。
1)y0、w、muの初期値は、それぞれ0.0、1.5、0.7に設定される。
2)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のxcの初期値は、それぞれ、67.0eV、68.0eV、69.0eV、70.0eV、73.0eV、73.7eV、及び74.3eVである。
3)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、及びNi3p2サテライトのA’の初期値は、次の追加の手順で取得される。
3.a)Ni3p1のサブピークのA’は、Ni3pピークの最大ピーク強度に1.5の係数を掛けたものであり、ピークの形状は、底辺が3eVである三角形として推定される。
3.b)Ni3p2のサブピークのA’は、Ni3p1のA’の60%である。
3.c)Ni3p1サテライトのサブピークのA’は、Ni3p1のA’の80%である。
3.d)Ni3p2サテライトのサブピークのA’は、Ni3p2のA’の80%である。
4)Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のサブピークA’の初期値は、以下の手順で取得される。
4.a)AI2pの3つのサブピークのA’値は、次の式に従って計算される。
A’=分画係数(FF)×推定面積×正規化係数(NF)
分画係数(FF)は、x0~xnの範囲のAI2pの3つのサブピークのxcの関数であり、x0=72.8eV及びxn=74.6eVである。Alピーク1の強度は、xnからx0まで直線的に減少する。4.b)Alピーク3の強度は、xnからx0まで直線的に増加する。したがって、Alピーク1とAlピーク3との間に位置するAlピーク2の強度は、その中心73.7eVで最も高い強度を有する。各サブピークの分画係数(FF)は、次の式に従って計算される。
【0121】
【0122】
推定面積は、AI2pピークの最大ピーク強度*2.5であり、ピークの形状は、底辺が5eVである三角形として推定される。
【0123】
4.c)正規化係数(NF)が追加され、サブピークが合計されたときに計算されたピークの合計から重複面積が差し引かれる。ピーク面積(A’)の式の最初の2つの要素(分画係数及び推定面積)には、計算された強度を過度に高くするいくつかの重複面積が含まれているため、重要である。計算方法では、サブピークは、高さt及び底辺bの三角形とみなされるように単純化される。
【0124】
最大強度の位置は、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のxcで、それぞれ73.0V、73.7eV、74.3eVである。全てのサブピークは、ベースと同じサイズ及び形状を有すると想定され、3eVに設定される。各サブピークの正規化係数は、以下のように計算される。
【0125】
【0126】
表1.2に、EX1の変数の初期値の例を示す。
【0127】
【0128】
工程5)計算を実施
ピークデコンボリューションプロセスは、Microsoft Excelソフトウェアバージョン1808に組み込まれたソルバーツールによって支援される。ソルバー計算の目的として、ターゲットセルの最小値が設定される。ターゲットセルは、測定された曲線と計算された曲線との差の2乗の合計を返す。測定された曲線と計算された曲線との相関係数が99.5%以上になると計算を終了する。数値が100%に近づくと、計算された曲線の形状が測定された曲線の形状と密接に一致していることを示す。それ以外の場合、目的の最小値に到達するまで、反復が続く。
【0129】
当てはめプロセス前後のEX1のAI2pピークを、それぞれ、
図3.1(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)及び
図3.2(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示す。計算された変数の結果を表1.3に示す。
【0130】
【0131】
B3)識別されたAlサブピーク1~3に関連付けたAl系化合物の含有量
各AlサブピークのA’(面積)の比率は、各Alサブピークの面積を全ての3つのAlサブピークの面積の合計で割ることによって、表面層の対応するAl化合物間の相対原子比に直接変換される。次いで、LiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3の量が、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して提供される。
【0132】
例えば、表1.2に基づくと、EX1の表面層におけるAlピーク1(LiM’’1-aAlaO2):Alピーク2(LiAlO2):Alピーク3(Al2O3)の相対原子比は、23.7原子%:40.5原子%:35.8原子%である。アルミニウムの総含有量はEX1の表面層に含有されているものであり、ICP分析によって得られるため、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対するLiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3の量は、正極活物質粉末中のAl/M’の原子百分率(ICPで測定)及び各Alサブピークの相対原子比(XPSで測定)を乗算することによって得られる。例えば、EX1のLiAlO2の量は、0.377(原子%)(Al/M’)*40.5%(LiAlO2/(LiM’’1-aAlaO2+LiAlO2+Al2O3)=0.15原子%である。
【0133】
B4)XPSピークの積分及び被覆率
AI2pを除く他の元素の全ての一次ピークは、スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantageソフトウェアを使用して当てはめられる。スマートバックグラウンドはシャーリータイプのベースラインであり、バックグラウンドの強度はデータポイントの強度よりも低い必要があるという制約がある。AI2pピーク積分面積は、B2)XPSデコンボリューションプロセスにおけるAlピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3の面積の合計として計算される。スコフィールド相対感度ライブラリは、積分されたピーク面積からの原子分率の計算に使用される。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%/原子%)は、A1と名づけられている。
【0134】
Al表面被覆率値は、XPSで測定された粒子(A1)の表面のAlの分率を、ICPで測定された粒子(A2)のAlの分率で割ったものとして計算される。Alによる正極活物質の表面被覆率は、次のように計算される。
【0135】
【0136】
式中、M*は、正極活物質粒子のNi、Mn、Co、Al、及びSの合計原子分率である。
【0137】
Alによる表面被覆率は、アルミニウムによる正極活物質粒子(positive active electrode active material)の被覆の程度を示す。Al表面被覆率値が高い場合、Al化合物は、均質な分布で表面を被覆する。
【0138】
C)炭素測定
Horiba EMIA-320V炭素/硫黄分析器によって、正極活物質粉末の炭素含有量を測定し、高周波誘導炉内のセラミックるつぼ内に1gのhNMC粉末を置く。タングステン1.5g及びスズ0.3gを、促進剤として坩堝中に加える。プログラム可能な温度で、粉末を加熱する。次いで、燃焼中に発生したガスを、4つの赤外線検出器により分析する。低及び高CO2及びCOの分析により、炭素濃度を求める。
【0139】
D)PSD測定
粒径分布(PSD)は、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における二次粒径として定義される。スパンは、スパン=(D90-D10)/D50として定義される。
【0140】
E)TEM-EDS測定
リチウム遷移金属系酸化物粒子内のAl及びS分布を調べるため、粒子の断面TEMラメラを、Helios Nanolab 450hpデュアルビーム走査型電子顕微鏡集束イオンビーム(SEM-FIB)によって準備する。(FEI,USA,https://www.nanolabtechnologies.com/helios-nanolab-450-fei/)。Gaイオンビームは、30kVの電圧と30pA~7nAの電流で使用される。得られたエッチングサンプルの寸法は5×8μm、表面層の厚さは100nmである。準備した(エッチングした)サンプルを使用して、リチウム遷移金属系酸化物粒子の上部から中心までの表面特性を、TEM及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって分析する。TEM-EDSのラインスキャンは、JEM-2100F(JEOL,https://www.jeol.co.jp/en/products/detail/JEM-2100F.html)上で、X-MaxN 80T(Oxford instruments,https://nano.oxinst.com/products/x-max/x-max)を用いて行った。リチウム遷移金属系酸化物粒子のEDS分析は、断面の定量的元素分析を提供する。Al及びSは、M*で正規化され、ここで、M*は、Ni、Mn、Co、Al、及びSの合計原子分率である。
【0141】
粒子の断面における直線距離の関数としてAl/M*及びS/M*の測定されるラインスキャンは、Origin 9.1ソフトウェアを使用して20点のSavitzhky-Golay法によって、EDSの固有の分析エラーを軽減するために平滑化される。
【0142】
F)コインセル試験
F1)コインセルの作製
正極の作製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって作製する。均一化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃にて乾燥させて、次にカレンダーツールを使用してプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6は、電解質として使用され、セパレータと電極との間に滴下される。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0143】
F2)試験方法
試験方法は、従来の「一定のカットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表2に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(TOYO製)を用いて、25℃でサイクルする。
【0144】
このスケジュールでは、220mA/gの1C電流の定義を使用する。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)は、4.3V~3.0V/Li金属の範囲域(window range)において、0.1CのCレートで、定電流モード(CC)で測定される。
【0145】
不可逆容量IRRQは、以下のように%で表される。
【0146】
【0147】
【0148】
G)結果
本発明を以下の(非限定的な)実施例において更に説明する。
【0149】
[実施例]
比較例:表面処理なし
式Li1+a(Ni0.80Mn0.10Co0.10)1-aO2を有する多結晶hNMC粉末(CEX1.1)は、リチウム源と遷移金属系源との間の固相反応である二重焼結プロセスを以下のように実施することによって得られる。
1)共沈:大型連続撹拌槽反応器(CSTR)においてニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈プロセスにより、金属組成M’=Ni0.80Mn0.10Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M’O0.24(OH)1.76が作製される。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化前駆体と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.01のリチウム対金属M’(Li/M’)比で均質にブレンドする。
3)1回目の焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、730℃で12時間焼結する。焼結した粉末は、砕かれ分級及びふるい分けされることにより、焼結後中間体生成物が得られる。
4)2回目の焼結:中間体生成物を、酸素雰囲気下、830℃で12時間焼結することにより、凝集した一次粒子の焼結粉末を得る。焼結した粉末を砕き、分級し、ふるい分けすることにより、式Li1.005M’0.995O2(a=0.005)、式中、M’=Ni0.80Mn0.10Co0.10のCEX1.1を得る。CEX1.1のD50は12.0μm、スパンは1.24である。CEX1.1は、工程1)の共沈プロセスで金属サルフェート源から得られた微量の硫黄を含む。
【0150】
任意選択で、ドーパント源を、工程1)の共沈プロセス又は工程2)のブレンド工程で、リチウム源と一緒に加えることができる。例えば、ドーパントを加えて、正極活物質粉末生成物の電気化学的特性を改善することができる。
【0151】
CEX1.1は、表面処理を含んでいないため、本発明によるものではない。
【0152】
実施例1:表面処理-EX1
本発明によるEX1は、次の手順によって作製される:11.68gのAl2(SO4)3・16H2Oを29.66mLの脱イオン水に溶解することにより作製されるアルミニウム及び硫酸イオン溶液と、1kgのCEX1.1をブレンドする。作製したブレンドを酸素雰囲気下で、375℃で8時間加熱する。加熱後に、粉末を砕き、分級し、ふるい分けすることにより、EX1を得る。したがって、hNMC化合物(EX1)は、EX1の総重量に対して約1000ppmのAlを含有する。CEX1.1からのEX1の作製は、本発明のフレームワークにおいて、表面処理とも呼ばれる。
【0153】
比較例CEX1.2
CEX1.2を、23gのAl2(SO4)3・16H2Oを加えた以外は、EX1と同じ方法によって調製する。CEX1.2には、CEX1.2の総重量に対して、約2000ppmのAlが含まれている。
【0154】
CEX1.2は、本発明によるものではない。
【0155】
実施例EX1の多結晶及びモノリシックの実施形態
EX1は、多結晶形態を有する。この形態は、2回目の焼結後に、及びその後の砕く工程、分類工程、及びふるい分け工程の前に、次の工程4a及び4b[すなわち、実施例1によるCEX1.1の製造工程の工程4]を適用することにより、モノリシック形態に変更できる。
4a)焼結した中間体生成物を湿式ボールミル粉砕工程に供し、それによって、凝集した一次粒子を解凝集し、解凝集された一次粒子を含むスラリーを得ること、及び
4b)解凝集した一次粒子をスラリーから分離し、この解凝集した一次粒子を第2の焼結工程(4)の温度よりも300℃から少なくとも200℃低い温度[すなわち、最大630℃]で熱処理して、それにより、単結晶モノリシック粒子を得ること。
【0156】
多結晶粒子をモノリシック粒子に変換するこのような処理は、国際公開第2019/185349号のEX1、20ページの11行目から、20ページの33行目により既知である。
【0157】
比較例CEX2
式Li1+a(Ni0.86Mn0.04Co0.10)1-aO2を有するNiとM’との原子比が86原子%の多結晶hNMC粉末を作製して、表面処理効果を次のように特定する:
1)共沈:CSTRにおいてニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈プロセスにより、金属組成M’=Ni0.86Mn0.04Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体MO0.16(OH)0.84が作製される。
2)ブレンド:中間体生成物を得るために、工程1)で作製した、混合した遷移金属系前駆体と、リチウム源としてのLiOH・H2Oとを、工業用ブレンド装置において1.02のLi/M’比で均質にブレンドする。
3)焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、765°Cで12時間焼結する。
【0158】
焼結後に、焼結した粉末を、非凝集型hNMC粉末を得るために分級及びふるい分けする。
【0159】
CEX2と名付けた最終hNMC粉末は、式Li0.002M’0.998O2を有し、そのD50及びスパンは、それぞれ11.2μm及び0.53である。
【0160】
CEX2は、本発明によらない。
【0161】
実施例EX2.1、EX2.2、EX2.3
EX2.1は、CEX1.1の代わりにCEX2を使用することを除いて、EX1と同じ方法によって作製される。
【0162】
EX2.1は、本発明による。
【0163】
EX2.2は、CEX1.1の代わりにCEX2を使用し、17gのAl2(SO4)3・16H2Oを加えたことを除いて、EX1と同じ方法によって調製する。EX2.2は、EX2.2の総重量に対して、約1500ppmのAlを含む。
【0164】
EX2.2は本発明による。
【0165】
EX2.3は、Al2(SO4)3と共に98重量%のH2SO4を用いて、ブレンド中に717ppmのSを追加で加えることを除いて、EX1と同じ方法によって調製される。
【0166】
EX2.3は本発明による。
【0167】
【0168】
実施例及び比較例の組成及び電気化学的特性を表3にまとめる。更に、Ni含有量と表面層(S1)におけるSO
4
2-’との関係を
図6に示す。表3及び
図6から、正極活物質の電気化学特性を改善させるためには、ある一定の量のSIが必要であることを示しており、その改善は正極活物質中のNi含有量の関数である。Ni含有量のより高い正極活物質は、より多くのSO
4
2-を必要とする。
【0169】
XPS分析を行い、Al化合物とその表面層における分布を調べている。EX1及びCEX1.1は、セクションB)XPS測定で説明した手順に従って分析される。
【0170】
図4.1(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示すように、XPSスペクトルは、80eV~65eVの範囲で最大強度を有するAI2p及びNi3pのピークを示す。EX1のAI2pの最大ピーク強度は、73.78eVの結合エネルギーにある。最大強度を有するEX1のAI2pピーク位置を表5に示す。Chem.Mater.,2017,19,5748-5757に開示されているとおり、Ni3pピーク位置が変化しないのに、AI2pピーク位置がより低い結合エネルギーにシフトする場合、LiAlO
2化合物の存在を示している。表3に示すように、より良好な電池性能は、EX1などのLiAlO
2化合物の存在に対応する、73.6eV~74.1eVの範囲のAI2pピークの出現による寄与を受ける。
図4.2は、LiM’’
1-aAl
aO
2、LiAlO
2、及びAl
2O
3相の各々の、AI2p3 XPSピークの結合エネルギー範囲を示す。垂直の実線は、EX1のAI2p3 XPSのピーク位置を示す。
【0171】
AI2pピークには、LiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3などの化合物が含有されており、これらの化合物のそれぞれの量は、セクションB2)XPSピークデコンボリューションで説明されている手順によって定量される。表4に、Al化合物の定量を示す。電気化学的性能に優れたEX1の場合、LiAlO2相の存在を示すAlピーク2の含有量が、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下であることが確認された。更に、LiM’’1-aAlaO2含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%より少ない。
【0172】
正極活物質粉末におけるAlによる表面被覆率を調査するために、B4)XPSピーク積分及び被覆率によって示されるように、XPS分析からのAl/M’’の原子比(A1)をICP分析からのAl/M’’の原子比(A2)で割る。AI1/AI2の値が100以上の場合、正極活物質化合物が、表面層に均一に分布したAlを有することを意味する。表5に示すように、EX1は表面層に均質なAl分布を有する。
【0173】
【0174】
【0175】
EX1の表面層は、セクションE)TEM-EDS測定で説明したように確認され、結果は
図5.1と
図5.2に示されている(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比での元素)。SEM-FIBで作製した断面サンプルをTEM/EDS装置で調査し、遷移金属、Al、及びSの総量で割って、原子比でのサンプルのAl含有量及びS含有量を得る。
【0176】
図5.1に、粒子の表面層の外縁から100nmの直線距離(又は距離)でS/M
*比が0原子%に達することを示す。したがって、EX1粒子の表面層の厚さは、100nmである。
【0177】
図5.2は、アルミニウムの総含有量が、EX1粒子の100nmの厚さの表面層に含有されることを示す。
【0178】
CEX1.1粒子(表面処理前)にはアルミニウムが含有されていないため、これは実際に予想される。
【0179】
コアに存在するドーパントとしてアルミニウムを含有するhNMCの場合、つまり表面処理が適用される前に、本発明によるhNMCの表面処理を適用した後の正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al
total)に対する表面層におけるアルミニウムの量(Al
surface)は、以下の手順により得られる。
1)第1に、正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al/M
*
ICP)をICP分析によって得る。
2)第2に、粒子の断面の元素ラインプロファイルは、EDS及び/又はEELS(電子エネルギー損失分光法)などの技術によって測定される。
3)第3に、表面層の厚さは、粒子の外縁からの距離に対する硫黄含有量の曲線に基づいて決定される(S/M
*=0又はS/M
*が一定の場合の、表面層の外縁から粒子内の一点までの距離)。
第4に、Arealパラメータは、一次元EDS及び/又はEELSベースの元素平滑化ラインプロファイルの表面層における距離でAl/M
*を積分することにより得られ(
図5.2参照)、Area2パラメータは、Al/M
*を表面層の外縁から一次元EDS及び/又はEELSベースの元素ラインプロファイルの粒子の中心までの距離で積分して得られる。粒子が球形で表面層が均一であると仮定し、Area1及びArea2を使用して、次式で原子比を計算する。
【0180】
【0181】
正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対する表面層におけるアルミニウムの量は、次式:Al/M*
ICP*Alsurface/Altotalに従って、Al/M*
ICP比にAlsurface/Altotal比を掛けることによって得られる。