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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】電気分解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20210101AFI20231101BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231101BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231101BHJP
【FI】
C25B11/04
C25B1/04
C25B9/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019198492
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070850
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥中 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和弘
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024452(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110016691(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clイオンを含む電解液を有する槽と、
前記電解液に浸漬された第1電極と、
前記電解液に浸漬され、前記第1電極と電源を介して接続された第2電極と、
前記第1電極に光を照射するための手段と、
を有する電気分解装置であって、
前記第1電極は、
電気導電性の基材と、
前記基材の上に設けられた半導体層と、
前記半導体層のに設けられたMn化合物層と、
を有する光電極である、電気分解装置
【請求項2】
請求項1に記載の電気分解装置において、
前記光電極は、Clイオンを含む水溶液を電気分解するための光電極であって、
前記半導体層に光照射することで起こる塩素イオンの酸化反応に基づくファラデー効率が、水の酸化反応に基づくファラデー効率より低い、電気分解装置
【請求項3】
請求項1または2記載の電気分解装置において、
前記半導体層は、BiVO、XドープBiVO(X:Mo,W)、SnNb、WO、BiWO、FeTiO、Fe、BiMoO、GaN?ZnO固溶体、LaTiON、BaTaON、BaNbON、TaON、Ta、Ge
から選択される1以上の金属化合物を有する、電気分解装置
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気分解装置において、
前記Mn化合物層は、Mnを含む酸化物またはMnを含む水酸化物である、電気分解装置
【請求項5】
請求項4記載の電気分解装置において、
前記Mn化合物層は、
Mnの酸化物またはMnと他の金属酸化物であって、
前記他の金属は、モリブデン、鉄、コバルト、カルシウム、ニッケル、クロム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、アルミニウム、マグネシウム、ランタン、セリウムから選ばれる金属である、電気分解装置
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電気分解装置において、
前記Mn化合物層の平均覆厚は、3nm以上70nm未満である、電気分解装置
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電気分解装置において、
前記Mn化合物層の被覆率は、30%以上100%以下である、電気分解装置
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電気分解装置において、
前記Clイオンを含む電解液は海水であり、
前記第1電極において、酸素が生成され、
前記第2電極において、水素が生成される、電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電極、電気分解装置および酸素の製造方法に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
水(淡水)の電気分解により、水素(水素燃料)を得る技術が検討されている。これは、水を電気分解し、アノード電極側で酸素、カソード電極側で水素を発生する技術である。
【0003】
この水の電気分解において、安価で大量に存在する海水を用いることが検討されている。例えば、非特許文献1には、海水の電気分解により、塩素(Cl2)の発生を抑制して、選択的に酸素を製造するためのアノード電極として、IrO2/Ti基板に、酸化マンガン(MnOX)や、タングステン(W)やモリブデン(Mo)を添加した酸化マンガンを電着した電極を用いることが記載されている。なお、この電極には、光照射は行わない。また、非特許文献2にも、同様の技術が記載されている。
【0004】
一方、NaCl水溶液からアノード側で酸素を発生するのではなく、積極的に次亜塩素酸を製造する方法も検討されている。例えば、非特許文献3には、NaCl水溶液の電気分解により、次亜塩素酸(HClO)を効率的に製造するためのアノード電極として、BiVO4/WO3/FTO電極を用いることが記載されている。この電極に光照射を行うことにより次亜塩素酸の生成効率が高まり、印加電圧の低減を図ることができる。特許文献1の(実施例6)にも同様の技術が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-8925号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】橋本巧二 他、水素エネルギーシステム、Voi.25, No.1, (2000), pp55-63
【文献】A. Moneim, N. Kumagai and K. Hashimoto, Mater. Trans., 2009, 50, pp1969-1977.
【文献】S. Iguchi, Y. Miseki and K. Sayama, Sustainable Enagy Fuels, 2018, 2, pp155-162.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、電気分解装置に用いられる光電極について、鋭意検討している。非特許文献3ではNaCl水溶液から次亜塩素酸を効率的に生成する光電極が検討されているが、本願発明者等は発想を転換して、次亜塩素酸の発生を抑制できれば、通常の水(淡水)の電気分解と同様に、カソード電極で水素を発生させるとともにアノード電極で酸素を発生させることができ、さらに光電極反応が利用できれば、印加電圧を低減できることを見出した。すなわち海水を電気分解してカソード電極で有用な水素を発生して回収し、アノード電極で発生する酸素は回収して利用することもできるし、回収せずに大量に放出したとしても環境に対する悪影響は生じない。アノード電極で次亜塩素酸や塩素を発生した場合は、積極的に回収して利用しなければ、大量に放出させた場合にはかえって環境負荷を悪化させる生成物になってしまうこともある。
【0008】
このように、Clイオンを含む水溶液の電気分解において、次亜塩素酸の生成を抑制し、酸素の生成効率を向上させることができれば、非常に有用である。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本願において開示される一実施の形態に示される光電極は、電気導電性の基材と、前記基材の上に設けられた半導体層と、前記半導体層の表層に対して全面または一部に設けられたMn化合物層と、を有する。
【0012】
本願において開示される一実施の形態に示される光電極は、Clイオンを含む水溶液を電気分解するための光電極であって、電気導電性の基材と、前記基材の上に設けられた半導体層と、前記半導体層の表層に対して全面または一部に設けられたMn化合物層と、を有し、前記半導体層に光照射することで起こる塩素イオンの酸化反応に基づくファラデー効率が、水の酸化反応に基づくファラデー効率より低い。
【0013】
本願において開示される一実施の形態に示される電気分解装置は、Clイオンを含む電解液を有する槽と、前記電解液に浸漬された第1電極と、前記電解液に浸漬され、前記第1電極と電源を介して接続された第2電極と、前記第1電極に光を照射するための手段と、を有する電気分解装置であって、前記第1電極として、前記光電極を有する。
【0014】
本願において開示される一実施の形態に示される酸素の製造方法は、Clイオンを含む水溶液の電気分解による酸素の製造方法であって、Clイオンを含む水溶液に浸漬された光電極に光を照射する工程を有し、前記光電極は、電気導電性の基材と、前記基材の上に設けられた半導体層と、前記半導体層の表層に対して全面または一部に設けられたMn化合物層と、を有し、前記半導体層に光照射することで起こる塩素イオンの酸化反応に基づくファラデー効率が、水の酸化反応に基づくファラデー効率より低い。
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される光電極によれば、Clイオンを含む水溶液を電解液とした電気分解を行う場合であっても、アノード電極側での酸素の生成効率を向上させ、塩素化合物の生成を抑制することができる。
【0016】
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される光電極を用いた電気分解装置によれば、Clイオンを含む水溶液を電解液とした電気分解を行う場合であっても、アノード電極側での酸素の生成効率を向上させ、塩素化合物の生成を抑制することができる。
【0017】
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される光電極を用いた酸素の製造方法によれば、Clイオンを含む水溶液を電解液とした電気分解による酸素の製造方法において、塩素化合物の生成を抑制し、アノード電極側での酸素の生成効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態1の電気分解装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1のアノード電極の構成および製造工程を示す断面図である。
図3】電気分解(酸化反応、還元反応)の様子を示す模式図である。
図4】実施の形態1のアノード電極の構成を模式的に示す断面図である。
図5】実施の形態1のアノード電極の他の構成を模式的に示す断面図である。
図6】実施の形態1のアノード電極の他の構成を模式的に示す断面図である。
図7】実施例で使用した電気分解装置の構成を模式的に示す図である。
図8】試料のSEM像である。
図9】FTO基板および(MnOX/FTO)よりなる積層体のSEM像である。
図10】試料のSTEM像である。
図11】試料のSTEM像(模写図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態の電気分解装置の構成を模式的に示す図である。この電気分解装置は、海水などのClイオンを含有する水溶液を電解液として、電気分解により、主に、酸素と水素を生成する装置である。水素は、次世代燃料として有用視されており、このような電気分解装置は、水素製造装置とも呼ばれ、水素製造プラントに組み込まれる。
【0021】
図1に示す電気分解装置は、電解槽(容器)10と、電解槽10に充填された電解液(Clイオンを含有する水溶液)13と、電解液13に浸漬され、電源PWに接続された2つの電極(アノード電極AEおよびカソード電極CE)と、を備えている。電解槽10は、隔膜15により区分されたアノード室ARと、カソード室CRを有し、アノード室ARにアノード電極AEが配置され、カソード室CRにカソード電極CEが配置されている。
【0022】
図2は、本実施の形態のアノード電極の構成および製造工程を示す断面図である。図2(D)に示すように、本実施の形態のアノード電極(光電極)AEは、基材21と、その上に形成された光触媒層23と、その上に形成された反応選択性制御部25とを有する。詳細な構成および製造工程については、後述する。
【0023】
このように、本実施の形態においては、アノード電極AEの光触媒層23上に反応選択性制御部25を設けたので、アノード電極側での次亜塩素酸の生成を抑制し、酸素の生成効率を向上させることができる。
【0024】
図3は、電気分解(酸化反応、還元反応)の様子を示す模式図である。電気分解槽に光(hν)を照射すると、アノード電極AEの光触媒層23において、伝導帯に電子(e-)が生成し、価電子帯に正孔(h+)が生成する。正孔は、アノード電極上で電解液(Clイオンを含有する水溶液)中の被酸化物を酸化する。また、電子は、アノード電極の基材21に移動した後、外部短絡線を通り対極であるカソード電極CEに移動する。この際、光触媒層23の伝導帯は水素の発生電位よりも正側であるため、アノード電極の光触媒層23と対極であるカソード電極CEとの間の電源PWによりバイアス電位をかけることにより、電子のエネルギーを高くする。このようにしてエネルギーが高められた電子は、カソード電極CE上で電解液(Clイオンを含有する水溶液)中の被還元物を還元する。具体的には、H+イオンが還元されて水素(H2)が生成する。
【0025】
ここで、海水のようなClイオンを含有する水溶液を電解液とする場合においては、水やClイオンが被酸化物となり、水の酸化により酸素が生じ、Clイオンの酸化により次亜塩素酸が生じる。
【0026】
酸素生成反応(R1)に必要な平衡電極電位は、次亜塩素酸生成反応(R2)の平衡電極電位に比べて0.25V低いため、熱力学的には酸素が容易に生成するはずである。しかしながら、酸素生成反応は何段階もの素反応からなる複雑な反応であるため、酸素生成反応(R1)の電解電位は、次亜塩素酸生成反応(R2)の平衡電極電位を超えてしまう。したがって、アノードにおいては、酸素生成反応(R1)と次亜塩素酸生成反応(R2)が競争的に進行してしまう(図3)。
【0027】
これに対し、アノード電極AEの光触媒層23上に反応選択性制御部25を設けることにより、アノード電極側での次亜塩素酸の生成を抑制し、酸素の生成効率を向上させることができる。
【0028】
以下に、図2を参照しながら、アノード電極(光電極、半導体光電極)の構成および製造工程を詳細に説明する。
【0029】
図2(D)に示すように、本実施の形態のアノード電極(光電極)は、基材(例えば、FTO)21と、基材21上に形成された光触媒層(n型半導体層)23と、光触媒層23上に形成された反応選択性制御部(例えば、MnOX)25とを有する。ここでは、光触媒層23として、第1光触媒層(例えば、WO3)23aと第2光触媒層(例えば、BiVO4)23bとの積層体を用いている。本実施の形態のアノード電極は、例えば、(MnOX/BiVO4/WO3/FTO)よりなる。本明細書において、“(A/B)”と表記する場合、B上にAが形成された積層体を示すものとする。
【0030】
本実施の形態のアノード電極は、以下の様にして形成することができる。
【0031】
まず、図2(A)に示す基材21上に、図2(B)に示すように、第1光触媒層(例えば、WO3)23aを形成する。第1光触媒層23aは、例えば、前駆体液の塗布、乾燥、焼成により形成することができる(MOD法、湿式成膜法)。この他、乾式成膜法(スパッタ法、蒸着法、CVD法、原子層堆積法など)により第1光触媒層23aを形成してもよい。また、電気泳動法、コロイド吸着法などにより、第1光触媒層23aを形成してもよい。
【0032】
次いで、第1光触媒層23a上に、図2(C)に示すように第2光触媒層(例えば、BiVO4)23bを形成する。第2光触媒層23bは、例えば、前駆体液の塗布、乾燥、焼成により形成することができる(MOD法、湿式成膜法)。第1光触媒層23aの場合と同様に、乾式成膜法や化学還元法などにより、第2光触媒層23bを形成してもよい。これにより、基材21上に、第1光触媒層(例えば、WO3)23aと第2光触媒層(例えば、BiVO4)23bとの積層体よりなる光触媒層23を形成することができる。なお、ここでは、光触媒層23を2層の光触媒(半導体)で構成したが、単層の光触媒や3層以上の光触媒で構成してもよい(図6参照)。
【0033】
次いで、光触媒層23上に、図2(D)に示すように反応選択性制御部(例えば、MnOX)25を形成する。反応選択性制御部25は、例えば、前駆体液の塗布、乾燥、焼成により形成することができる(MOD法、湿式成膜法)。この他、乾式成膜法(スパッタ法、蒸着法、CVD法、原子層堆積法など)により反応選択性制御部25を形成してもよい。また、化学還元法、光還元法、電気泳動法、コロイド吸着法などにより、反応選択性制御部25を形成してもよい。
【0034】
以上の工程により、本実施の形態のアノード電極(光電極)を形成することができる。
【0035】
このように、本実施の形態においては、アノード電極(光電極)AEの光触媒層23上に反応選択性制御部25を設けたので、上記電気分解(酸化反応、還元反応、図3参照)において、アノード電極側での次亜塩素酸の生成を抑制し、酸素の生成効率を向上させることができる。
【0036】
以下に、図1等を参照しながら、本実施の形態の電気分解装置の各部位に用いられる材料や製法について詳細に説明する。
【0037】
電解槽10に照射する光(hν)としては、可視光を用いることができる。「可視光」とは、人間の目で視認可能な波長の電磁波(光)を意味し、具体的には、波長380nm以上の光、より好ましくは、波長420nm以上の光である。可視光を含む光として、太陽光、集光してエネルギー密度を高めた集光太陽光の他、人工光源を用いることができる。人工光源としては、キセノンランプ、ハロゲンランプ、ナトリウムランプ、蛍光灯、発光ダイオード等を用いることができる。中でも、地球上に無尽蔵に降り注いでいる太陽光は、約52%を可視光が占めており、太陽光を光源として用いることにより、海水のようなClイオンを含有する水溶液から水素および酸素を効率的に取り出すことができる。
【0038】
基材21としては、その表面に光触媒層を固定し得る導電性材料(電気伝導性材料)であれば制限はなく、例えば、導電性の無機基材を用いることができる。このような無機基材としては、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)やインジウムドープ酸化スズ(ITO)などのガラス基材を挙げることができる。また、金属基材を用いることができる。金属基材としては、例えば、チタン、アルミニウム、鉄、ステンレス等よりなる基材を挙げることができる。また、有機基材を用いることができる。有機基材としては、例えば、カーボン基材を挙げることができる。実用上、金属基材や有機基材よりも無機基材を用いることが好ましい。
【0039】
基材21としては、300℃以上、より好ましくは400℃以上の加熱によって分解されにくい材料を用いることが好ましい。また、光透過性を有する基材を用いることが好ましいが、不透過性の基材を用いてもよい。
【0040】
光触媒層23としては、金属化合物を用いることができ、可視光応答型の光触媒作用を有する金属化合物を用いることが好ましい。具体的には、酸素発生可能な光学的バンドギャップを有する半導体である金属化合物を用いることが好ましい。例えば、価電子帯が、例えば、水の酸化電位(+1.23V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも正な位置にある金属化合物を用いることが好ましい。なお、伝導帯は、プロトンの還元電位(0V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも負な位置にあっても、正な位置にあってもよい。
【0041】
このような金属化合物としては、BiVO4、XドープBiVO4(X:Mo,W)、SnNb26、WO3、Bi2WO6、Fe2TiO5、Fe23、Bi2MoO6、GaN-ZnO固溶体、LaTiO2N、BaTaO2N、BaNbO2N、TaON、Ta35、Ge34、Bi4NbO8Cl等の遷移金属あるいは典型金属を構成元素とする酸化物、酸窒化物、窒化物または酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0042】
中でも、BiVO4、XドープBiVO4(X:Mo)、SnNb26、WO3、Bi2WO6、Fe23、BaTaO2Nからなる群から選択される1種以上の金属化合物を用いることが好ましい。
【0043】
特に、WO3と、WO3が応答する可視光よりも長波長の可視光に応答するBiVO4との積層体は、水の電気分解において、太陽光エネルギーの変換効率が高く、光触媒層23として用いて好ましい。
【0044】
光触媒層23は、緻密な連続膜であってもよく、また、不連続な部分を有する膜であってもよい。例えば、基材の表面に島状に光触媒層を点在させていてもよい。また、光触媒層を、波状、くし型状、ファイバー状、メッシュ状などとしてもよい。
【0045】
光触媒層23の平均膜厚は、0.05μm以上50μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがより好ましい。光触媒層の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。基材表面から光触媒層の最上部までの距離を膜厚とし、複数の点の膜厚から平均膜厚を算出することができる。
【0046】
また、光触媒層は、複数の粒子から構成されていてもよい。図4は、本実施の形態のアノード電極の構成を模式的に示す断面図である。図4(A)に示すように、光触媒層(ここでは、23a、23b)を構成する複数の粒子は、例えば、結晶粒(グレイン)である。粒子間は細孔(P1、P2)となる。光触媒層を構成する粒子径(平均粒子径、直径)は、例えば、50nm以上5000nm以下である。また、細孔径(平均細孔径、直径)は、20nm以上500nm以下であり、好ましくは20nm以上100nm以下である。このような粒子径とすることで、粒子間、粒子と基材との間の接触性が大きくなる。これにより、基材21との良好な導通が担保でき、酸化反応サイトを増加させ、電気分解効率を向上させることができる。また、細孔を有する構成とすることで、電解液や光との接触性が高まり、電気分解効率を向上させることができる。
【0047】
光触媒層を構成する粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。例えば、例えば、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4100)により、倍率40000倍で観察した複数の粒子についてそれぞれの形状を円形近似し、その直径を平均することで求めることができる。
【0048】
光触媒層の形成に用いられる前駆体溶液としては、光触媒層の構成金属元素イオン含有溶液を用いることができる。具体的には、金属塩および金属錯体を用いることができる。
【0049】
反応選択性制御部(被覆層)25としては、Mn化合物である、Mnを含む酸化物、Mnを含む水酸化物、Mnを含むリン酸塩を用いることができる。具体的には、Mnの酸化物、水酸化物若しくはリン酸塩、またはMnと他の金属(モリブデン、鉄、コバルト、カルシウム、ニッケル、クロム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、アルミニウム、マグネシウム、ランタン、セリウムから選ばれる1種以上の金属)酸化物、水酸化物若しくはリン酸塩を用いることが好ましい。さらに、具体的には、MnOを用いることが好ましく、より具体的には、Mn、Mn、MnOを用いることが好ましい。
【0050】
反応選択性制御部25は、緻密な連続膜であってもよく、また、不連続な部分を有する膜であってもよい(図4(B)、図5図6参照)。例えば、光触媒層23の表面に島状に反応選択性制御部25を点在させていてもよい。なお、反応選択性制御部25の断面構成については、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分析することができる。
【0051】
反応選択性制御部25の膜厚(平均膜厚)は、電解液や光との接触性を著しく阻害しない範囲で調整することができる。反応選択性制御部25の平均膜厚は、100nm以下とすることが好ましく、2nm以上60nm以下とすることがより好ましい。反応選択性制御部25を厚膜化した場合、光吸収が阻害され、また、電解液や光との接触面積が低下してしまうが、上記範囲の膜厚の反応選択性制御部25によれば、光吸収が阻害されず、アノード光電流を維持しながら、酸素の生成の優先度を高めることができる。また、前述したとおり、反応選択性制御部25は、不連続な部分を有する膜、即ち、下層の光触媒層が露出する箇所があってもよく、このような膜でも、光吸収を阻害することなく、アノード光電流を維持しながら、酸素の生成の優先度を高めることができる。例えば、水の酸化反応に基づくファラデー効率を95%以上とすることができる。
【0052】
反応選択性制御部25の形成に用いられる前駆体溶液としては、Mnイオン含有溶液を用いることができる。具体的には、金属塩および金属錯体を用いることができる。金属錯体は、金属に配位する非金属原子を含む構造部(配位子)を有し、配位子としてモノマー、オリゴマーまたはポリマー状の金属を含む化合物を用いることができる。金属塩として、例えば、硝酸マンガンなどを用いることができ、金属錯体として、例えば、マンガンヘキサン酸などを用いることができる。また、Mnイオン含有溶液として、例えば、n塗布溶液(高純度化学製)などを用いることができる。上記前駆体溶液の焼成条件としては、例えば、焼成温度100~550℃で、焼成時間30分~3時間などとすることができる。
【0053】
例えば、上記前駆体溶液の焼成により多結晶の反応選択性制御部25を得ることができる(図4(B)参照)。別の言い方をすれば、複数の結晶粒子(グレイン)からなる反応選択性制御部25を得ることができる。なお、乾式成膜法(スパッタ法、蒸着法、CVD法、原子層堆積法など)や、化学還元法、光還元法、電気泳動法、コロイド吸着法などにより多結晶の反応選択性制御部25を得ることができる。
【0054】
反応選択性制御部25としては、上記多結晶状のものの他、アモルファス状、単結晶状のものを用いてもよい。図5および図6は、本実施の形態のアノード電極の他の構成を模式的に示す断面図である。例えば、図5(A)に示すように、光触媒層(23a、23b)上に、アモルファス状の反応選択性制御部25が連続的に設けられていてもよい。また、反応選択性制御部25が不連続に設けられていてもよい。なお、図5(B)に示すように、光触媒層(23a、23b)上に、多結晶状の反応選択性制御部25が不連続に設けられていてもよい。また、図6に示すように、光触媒層を単層(ここでは、23aのみ)とし、この上に、アモルファス状の反応選択性制御部25が連続的に設けられていてもよい。
【0055】
隔膜15としては、水素、酸素、金属イオンを拡散、および透過しにくい膜を用いることが好ましい。このような膜として、特に、イオン交換膜を用いることが好ましい。これにより、カソード電極側からアノード電極側へClイオンが移動することを防止することができる。
【0056】
カソード電極CEとしては、Pt電極などを用いることができる。
【0057】
<<実施例>>
以下、実施例により本実施の形態をさらに具体的に説明する。
【0058】
(実施例A)
(試料の形成)
基材として、1.5cm×5cm×厚さ1.1mmのフッ素ドープ酸化スズガラス基板(F-SnO2、FTO基板)を用いた。このFTO基板上に、タングステン過酸化水素水溶液(1.4mol/L)を塗布面積が6cm2(1.5cm×4cm)となるようにスピンコートした後、500℃で30分間、空気焼成することでFTO基板上にWO3膜を形成した(WO3/FTO)。次いで、WO3膜上に、以下のBiおよびV含有溶液を塗布面積が6cm2(1.5cm×4cm)となるようにスピンコートした後、550℃で30分間、空気焼成することでWO3膜上にBiVO4膜を形成した(BiVO4/WO3/FTO)。上記BiおよびV含有溶液は、ビスマス前駆体塗布液(高純度化学研究所製、EMOD塗布型材料)と、バナジウム前駆体塗布液(高純度化学研究所製、EMOD塗布型材料)と、エチルセルロース(増粘剤)とを溶解した酢酸ブチルからなる溶液(Bi、V濃度各0.04M)である。このようにして、FTO基板上にWO3膜とBiVO4膜が積層された積層体(BiVO4/WO3/FTO)を形成した。
【0059】
次いで、上記積層体上(即ち、BiVO4膜上)に、以下のMn含有溶液を塗布面積が6cm2(1.5cm×4cm)となるようにスピンコートした後、400℃で1時間、空気焼成することでBiVO4膜上にMnOX膜を形成した(MnOX/BiVO4/WO3/FTO)。上記Mn含有溶液は、マンガン前駆体塗布液(高純度化学研究所製、EMOD塗布型材料、0.5M)を酢酸ブチルで希釈した溶液である。このようにして、FTO基板上にWO3膜とBiVO4膜とMnOX膜が積層された試料(MnOX/BiVO4/WO3/FTO)を形成した。
【0060】
この実施例Aにおいては、上記Mn含有溶液において、Mn濃度が0.001M~0.5Mとなるように調整して試料S2~S9を形成した。
【0061】
なお、試料S1においては、BiVO4膜上にMnOX膜を形成していない状態(BiVO4/WO3/FTO)の試料を形成した。別の言い方をすれば、Mn濃度が0Mの試料を形成した。上記試料S1~S9について、図7に示す電気分解装置を用いて、後述の評価を行った。図7は、実施例で使用した電気分解装置の構成を模式的に示す図である。図7においては、アノード室に参照電極REが配置され、アノード電極AE、カソード電極CEおよび参照電極REが定電圧電源装置(ポテンショスタット)に接続されている。
【0062】
表1にMnOX膜の有無、Mn濃度、評価結果を示す。
【表1】
【0063】
(試料の検証)
(試料の構造確認1)
形成した試料S1、S2についてSEM観察を行った。図8は、試料のSEM像である。図8(A)は、試料S1のSEM像であり、図8(B)は、試料S2のSEM像である。これらの像は、試料の表面を観察した像である。
【0064】
図8(A)から試料S1の最上層のBiVO4の細孔(P2)が確認でき、また、より下層のWO3膜の細孔(P1)が確認できる。また、図8(A)と図8(B)との対比から図8(B)においては、上記細孔(P1、P2)が若干不明確となっていることから、BiVO4膜上にMnOX膜が形成されていることが分かるものの、MnOX膜の粒子形状までは確認できない。
【0065】
なお、図9にFTO基板および(MnOX/FTO)よりなる積層体のSEM像を示す。図9(A)のFTO基板のSEM像と図9(B)のMnOXのSEM像との対比から、図9(B)においてはアモルファス状のMnOXがFTO基板を覆っていることが分かる。
【0066】
(試料の構造確認2)
形成した試料S2についてSTEM(走査型透過電子顕微鏡)観察を行った。図10および図11は、試料のSTEM像である。図10(A)の“STEM”欄の積層体が、図10(B)~(F)において、下層からFTOのSn、WO3膜のW、BiVO4膜のVおよびBi、MnOX膜のMnが確認できる。即ち、図11の模写図に示すように、MnOX膜が(BiVO4/WO3/FTO)よりなる積層体を被覆していることが確認できる。
【0067】
(試料の構造確認3)
形成した試料S1、S7についてXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定を行った。試料S7では、試料S1と比較し、光触媒層(BiVO4/WO3)に由来するピーク強度が減少し、反応選択性制御部(MnOX膜)に含まれるMn由来のピークが観測され、この結果からも、試料中にMn化合物が存在することが確認できる。
(MnOX膜の被覆厚および被覆率)
形成した試料についてXRF(X-ray Fluorescence)測定およびXPS測定を行った。XRF測定結果(担持量)からMnOX膜の被覆厚(平均膜厚、[nm])を算出した。また、XPS測定結果からMnOX膜の被覆率[%]を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
ここで、被覆厚(単位面積[cm]当たりの平均膜厚、[nm])は、MnOX膜の形成領域(塗布領域等)における膜厚の平均を意味する。例えば、被覆率が70%である場合、30%の領域については膜厚を0として算出される。なお、試料S5については、TEMにより被覆厚(平均膜厚、[nm])を測定した。TEMによる被覆厚は30nmであり、XRFにより算出したもの(34nm)と大差なかった。
【0069】
また、被覆率[%]は、XPS測定結果から、下層の金属含有量(ここでは、BiおよびV、W)と上層の金属含有量(ここでは、Mn)との和における上層の金属含有量(ここでは、Mn)の割合として算出される。
【0070】
(評価1)
カチオン交換膜を隔膜とした二室型の電解槽のアノード室にアノード電極として試料(S1~S9)を、カソード室にカソード電極としてPt電極を、それぞれ設置し、直流電源を介してこれらの電極を電気的に接続した。次いで、0.5MのNaCl水溶液をアノード室およびカソード室に35mLずつ注入した。次いで、電解槽に疑似太陽光(AM 1.5G)を照射し、ポテンショスタットで2mAの一定電流で2Cの電気量を流した。
【0071】
アノード室において、光吸収と酸化反応が生じる。酸素の定量は、上記のシステム内に、酸素センサー(BAS社製)を設置して、直接測定した。次亜塩素酸の定量は、得られた試料液1.0mLを9mLの水に添加し、DPD試薬0.1gを添加して、20秒間攪拌した後、ポータブル型残留塩素測定装置(HACH社製)を用いて行った。酸素と次亜塩素酸の生成量からファラデー効率[%]を求めた。HClOファラデー効率[%]は、塩素イオンの酸化反応に基づくファラデー効率であり、通電電流に対しHClOの生成に利用された電流の割合である。また、O2ファラデー効率[%]は、水の酸化反応に基づくファラデー効率であり、通電電流に対し酸素の生成に利用された電流の割合である。
【0072】
(評価2)
カチオン交換膜を隔膜とした二室型の電解槽のアノード室にアノード電極として試料(S1~S9)を、カソード室にカソード電極としてPt電極を、それぞれ設置し、直流電源を介してこれらの電極を電気的に接続した。次いで、0.5MのNaCl水溶液をアノード室およびカソード室に35mLずつ注入した。次いで、電解槽に疑似太陽光(AM 1.5G)を照射し、ポテンショスタットで電位を-0.5Vから1V(vs.Ag/AgCl)に掃引して、アノード光電流を測定した。
【0073】
(まとめ)
表1に示すように、反応選択性制御部としてMnOXを設けた場合(S2~S9)においては、MnOXを設けていない場合(S1)と比較し、次亜塩素酸の生成割合が小さく、次亜塩素酸の生成抑制効果が確認された。
【0074】
特に、反応選択性制御部であるMnOX膜の被覆厚(平均膜厚)が、3nm以上106nm以下の場合には、次亜塩素酸の生成割合が小さく、HClOファラデー効率が3%以下となり、高い次亜塩素酸の生成抑制効果が確認された。
【0075】
さらに、反応選択性制御部であるMnOX膜の被覆厚が、3nm以上70nm未満の場合には、次亜塩素酸の生成割合が小さく、かつ、2.5mA以上の高いアノード光電流を得ることが確認された。
【0076】
以上の考察より、MnOX膜の被覆厚(平均膜厚)は、3nm以上70nm未満が好ましいことが確認された。
【0077】
また、表1に示す反応選択性制御部(MnOX)の被覆率から、反応選択性制御部(MnOXを)は連続膜であってもまた、不連続な部分を有する膜であっても、次亜塩素酸の生成抑制効果を有することが確認された。
【0078】
特に、被覆率30%程度(試料S3)でもO2ファラデー効率を95%以上とすることができ、かつ、2.5mA以上の高いアノード光電流を得ることが確認された。このように、被覆率が30%以上100%以下において、次亜塩素酸の生成を抑制することが確認された。ここで、被覆率100%の試料S7~S9の対比において、被覆厚が70nm以上となると、アノード光電流が低下している。このように、被覆厚が大きくなり過ぎると光吸収が阻害され、アノード光電流が低下するため、部分的に反応選択性制御部(MnOX)が形成される場合において、当該部分における厚さは3nm以上70nm未満が好ましい。
【0079】
<<他の実施例>>
(実施例B)
実施例Aにおいては、反応選択性制御部25としてMnOX膜、即ち、Mn化合物を用いたが、他の金属化合物を用いた場合の実施例について以下に説明する。MnOX膜に代えて、NiOX膜、FeOX膜を反応選択性制御部25とした試料S10、S11を形成し、実施例Aと同様に評価した。なお、Ni濃度は、0.1M、Fe濃度は、0.1Mとした。
【0080】
試料(NiOX/BiVO4/WO3/FTO)S10の被覆厚は48nm、O2ファラデー効率は23.7%、HClOファラデー効率は76.3%であった。
【0081】
試料(FeOX/BiVO4/WO3/FTO)S11の被覆厚は36nm、O2ファラデー効率は76.1%、HClOファラデー効率は23.9%であった。
【0082】
このように、Mnの酸化物において、特異的に次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。
【0083】
なお、(MnOX/FTO)電極において、暗所下における水の電気分解反応においても、次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた(HClOファラデー効率は3%)。この暗所下における水の電気分解反応において、Cu、Cr、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Irなどの酸化物について、HClOファラデー効率を評価したところ、いずれの酸化物もHClOファラデー効率は50%以上であり、Mnの酸化物において、特異的に次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。
【0084】
(実施例C)
実施例Aにおいては、MnOX膜を用いたが、他のMn化合物を用いた場合の実施例について以下に説明する。
【0085】
MnOX膜に代えて、Mn4Ca1X膜を反応選択性制御部25とした試料S12を形成し、実施例Aと同様に評価した。なお、MnとCa濃度は、0.1Mとした。
【0086】
試料(Mn4Ca1X/BiVO4/WO3/FTO)S12のO2ファラデー効率は95.6%、HClOファラデー効率は4.4%であり、アノード光電流は2.4mAであった。
【0087】
このように、Mnと他の金属(ここでは、カルシウム)の酸化物においても、次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。他の金属としては、モリブデン、鉄、コバルト、カルシウム、ニッケル、クロム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、アルミニウム、マグネシウム、ランタン、セリウムから選ばれる金属が有用であると考えられる。また、酸化物の他、水酸化物、リン酸塩も次亜塩素酸の生成抑制効果が認められると考えられる。
【0088】
(実施例D)
MnOX膜の形成時の焼成温度の影響について検討した。成膜時の焼成温度を200℃~500℃の範囲で調整してMnOX膜を形成し、実施例Aと同様に評価したところ、いずれの酸化物も次亜塩素酸の生成抑制効果が認められたが、特に、200℃~400℃が好ましく、250℃~400℃がさらに好ましいことが確認された。特に、250℃以上の焼成体においては、有機物よりなる不純物が極めて少なく、次亜塩素酸の生成抑制効果を向上させることができる。
【0089】
(実施例E)
実施例Aにおいては、0.5MのNaCl水溶液を電解液としたが、希薄溶液(0.5mMのNaCl水溶液)を電解液とした場合にも次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。また、より濃い1.0MのNaCl水溶液を電解液とした場合にも次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。また、0.5MのNaCl水溶液に代えて人工海水を用いた場合にも次亜塩素酸の生成抑制効果が認められた。
【0090】
(実施例F)
MnOXのXの値(Mnの価数)の影響について検討した。電界析出法により、アモルファス状態のMnOX、Mn23、Mn34を形成し、実施例Aと同様に評価したところ、いずれの酸化物も次亜塩素酸の生成抑制効果が確認された。
【0091】
(実施例G)
次亜塩素酸の生成抑制効果に及ぼす印加電圧の影響を検討した。印加電圧を2~2.3Vの範囲で変化させたが、次亜塩素酸の生成抑制効果に変化はなかった。
【0092】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、実施の形態1の応用例について説明する。
【0093】
(応用例1)
実施の形態1(図1)においては、カチオン交換膜を隔膜とした二室型の電気分解装置を用いたが、隔膜を省略した一室型としてもよい。
【0094】
(応用例2)
実施の形態1で説明した電気分解装置は、例えば、水素製造プラント(水素製造システム、水素製造モジュールとも言う)に組み込むことができる。
【0095】
水素製造プラントは、海水の供給装置、海水中の不純物を除去するためのろ過装置、実施の形態1で説明した電気分解装置、水素分離装置および水素貯蔵装置などからなる。このように、実施の形態1で説明した電気分解装置を水素製造プラントに組み込むことで、再生可能エネルギーである太陽光と海水から水素を製造するとともに、海洋汚染物質となる塩素化合物の生成を抑制しつつ、有用な酸素を得ることができる。
【0096】
(応用例3)
実施の形態1(図1)においては、光触媒層(23)として主に“酸素発生用可視光応答型の材料”を例(BiVO4/WO3など)に説明したが、例えば、紫外光応答型のTiOなどを用いてもよい。但し、前述したように、太陽光は、約52%の可視光を有するのに対し、紫外光は3%程度であり、太陽光を光源として用いる場合には、“酸素発生用可視光応答型の材料”を用いることが効果的である。
【符号の説明】
【0097】
10 電解槽
13 電解液
15 隔膜
21 基材
23 光触媒層
23a 第1光触媒層
23b 第2光触媒層
25 反応選択性制御部
AE アノード電極
AR アノード室
CE カソード電極
CR カソード室
hν 光
P1 細孔
P2 細孔
PW 電源
R1 酸素生成反応
R2 次亜塩素酸生成反応
RE 参照電極
S1~S12 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11