(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】光周波数掃引レーザ光源
(51)【国際特許分類】
H01S 3/13 20060101AFI20231101BHJP
G02F 1/377 20060101ALI20231101BHJP
G02F 2/02 20060101ALI20231101BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20231101BHJP
H01S 5/0687 20060101ALI20231101BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
H01S3/13
G02F1/377
G02F2/02
H01S3/00 G
H01S5/0687
H01S5/40
(21)【出願番号】P 2020010693
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】稲場 肇
(72)【発明者】
【氏名】大久保 章
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-151000(JP,A)
【文献】特開昭63-077180(JP,A)
【文献】特開2017-191815(JP,A)
【文献】特開2014-190759(JP,A)
【文献】特開2009-244304(JP,A)
【文献】特開2009-020492(JP,A)
【文献】特開2004-077979(JP,A)
【文献】特開2002-043685(JP,A)
【文献】特開2000-275107(JP,A)
【文献】特開平09-297065(JP,A)
【文献】特開平09-064486(JP,A)
【文献】特開平07-264136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0021082(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0048113(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106019763(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0308663(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101800395(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0245306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G01B 9/00 - 11/30
G01N 21/17 - 21/61
G01S 7/48 - 7/51
G01S 17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーザ光を出力する第1のレーザ光源と、
周波数可変の第2のレーザ光を出力する第2のレーザ光源と、
前記第2のレーザ光の一部を変調周波数で周波数変調して、前記第2のレーザ光の周波数と前記変調周波数だけ異なる周波数を有する第3のレーザ光を出力する電気光学変調部と、
前記第1のレーザ光と前記第3のレーザ光とを干渉させて前記第1のレーザ光の周波数と前記第3のレーザ光の周波数との差に対応し且つ電気信号である差周波信号を生成する差周波信号生成部と、
前記差周波信号に基づき、前記差が所定の固定周波数となるように前記第2のレーザ光の周波数を制御するための信号を前記第2のレーザ光源に出力する制御部と、
掃引可能な前記変調周波数の変調信号を前記電気光学変調部に出力する周波数シンセサイザと、
を有し、
前記第2のレーザ光の他の一部を出力光とする
光周波数掃引レーザ光源。
【請求項2】
第1のレーザ光を出力する第1のレーザ光源と、
周波数可変の第2のレーザ光を出力する第2のレーザ光源と、
前記第1のレーザ光を変調周波数で周波数変調して、前記第1のレーザ光の周波数と前記変調周波数だけ異なる周波数を有する第3のレーザ光を出力する電気光学変調部と、
前記第2のレーザ光の一部と前記第3のレーザ光とを干渉させて前記第2のレーザ光の周波数と前記第3のレーザ光の周波数との差に対応し且つ電気信号である差周波信号を生成する差周波信号生成部と、
前記差周波信号に基づき、前記差が所定の固定周波数となるように前記第2のレーザ光の周波数を制御するための信号を前記第2のレーザ光源に出力する制御部と、
掃引可能な前記変調周波数の変調信号を前記電気光学変調部に出力する周波数シンセサイザと、
を有し、
前記第2のレーザ光の他の一部を出力光とする
光周波数掃引レーザ光源。
【請求項3】
第1のレーザ光を出力する第1のレーザ光源と、
周波数可変の第2のレーザ光を出力する第2のレーザ光源と、
前記第1のレーザ光を第1の変調周波数で周波数変調して、前記第1のレーザ光の周波数と前記第1の変調周波数だけ異なる周波数を有する第3のレーザ光を出力する第1の電気光学変調部と、
前記第2のレーザ光の一部を第2の変調周波数で周波数変調して、前記第2のレーザ光の周波数と前記第2の変調周波数だけ異なる周波数を有する第4のレーザ光を出力する第2の電気光学変調部と、
前記第3のレーザ光と前記第4のレーザ光とを干渉させて前記第3のレーザ光の周波数と前記第4のレーザ光の周波数との差に対応し且つ電気信号である差周波信号を生成する差周波信号生成部と、
前記差周波信号に基づき、前記差が所定の固定周波数となるように前記第2のレーザ光の周波数を制御するための信号を前記第2のレーザ光源に出力する制御部と、
掃引可能な前記第1の変調周波数の変調信号と掃引可能な前記第2の変調周波数の変調信号とを前記電気光学変調部に出力する周波数シンセサイザと、
を有し、
前記第2のレーザ光の他の一部を出力光とする
光周波数掃引レーザ光源。
【請求項4】
前記第2のレーザ光の他の一部の波長を変換するための波長変換部をさらに含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の光周波数掃引レーザ光源。
【請求項5】
前記波長変換部は、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)を含む、請求項
4に記載の光周波数掃引レーザ光源。
【請求項6】
前記差周波
信号生成部は、
入力された2つのレーザ光を合波して合波光を出力する合波部、及び前記合波光を受光しヘテロダイン干渉によって前記差周波信号を生成する光検出部を含む、請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の光周波数掃引レーザ光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源、より具体的には光周波数掃引レーザ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数の精度が高いCWレーザは、科学や産業の発展において重要な役割を果たしてきた。特に、精密原子分子分光や干渉計測に基づく長さ・形状測定においては必要不可欠な基本技術である。例えば干渉計測においては、光の周波数変化が干渉信号の位相変化に対応することを利用した距離や表面形状の高精度な絶対値測定に応用されてきた。最近、光周波数コムを基準として高い周波数精度を持ち、かつ広い周波数範囲を連続掃引できるCWレーザが、分子遷移の絶対周波数測定やそれによる精密なエネルギー構造の解明、吸収線のスペクトル形状の理論構築、スペクトル形状(Doppler profile)を利用したボルツマン定数の精密測定、精密光学素子の評価などの研究に使用されるようになってきている。
【0003】
このような精密分光や干渉計測では、光コムなどを周波数基準として周波数精度を確保するとともに、周波数を10GHz以上連続掃引できるようなCWレーザシステムが求められている。これを実現するために従来技術として、例えば、マスターとスレーブのレーザのビートを検出し、直接位相同期する方法(非特許文献1)、マスターレーザに電気光学変調器(EOM)で変調サイドバンド(光)を発生させ、変調周波数を掃引することでサイドバンド光の周波数を掃引する方法(非特許文献2)、光コムをマスターとして用い、光コムのfrepを掃引することでスレーブの周波数を掃引する方法(非特許文献3)、光コムをマスターとして用い、ビート信号の周波数軸上での重なりを回避してスレーブを広範囲に周波数掃引する方法(非特許文献4)などが提案されている。
【0004】
また、周波数範囲を連続掃引できるCWレーザとして、レーザレーダへの適用のために光周波数掃引レーザ光源が提案されている(特許文献1)。この光周波数掃引レーザ光源は、外部信号に基づいて周波数の制御が可能な周波数可変レーザ光源と、第1のレーザ光と第2のレーザ光とを干渉させて電気信号である差周波信号を生成する差周波生成部と、時間の経過に伴って周波数が変化する掃引電気信号を発生する掃引信号源と、差周波信号と掃引電気信号とに基づく位相同期制御により外部信号を生成する位相同期部とを含み、周波数可変レーザ光源から出力されるレーザ光を出力光とするものである。
【0005】
上記したような従来の方法は、多くの目的、波長において利用可能な汎用的な技術であるが、10GHz程度以上の高周波でのビート検出が求められたり、光コムのfrep掃引が必要だったり、あるいは変調サイドバンドを掃引するので干渉測長に十分なCWレーザのパワーを確保することが難しかったりするといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】N. Kuramoto, et. al., “Interferometric determination of the diameter of a silicon sphere using a direct optical frequency tuning system“,IEEE Trans. Instrum. Meas. 52, 631 (2003)
【文献】H. Inaba, et. al.,“Doppler-free spectroscopy using a continuous-wave optical frequency synthesizer,”Appl. Opt. 45, 4910 (2006)
【文献】K. M. T. Yamada, et. al., “High precision line profile measurements on 13C acetylene using a near infrared frequency comb spectrometer,”J. Mol. Spectrosc. 249, 95 (2008)
【文献】T. R. Schibli, et. al.,“Phase-locked widely tunable optical single-frequency generator based on a femtosecond comb,”Opt. Lett. 30, 2323 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、例えば分子分光による精密スペクトルプロファイル取得や干渉測長における位相シフト法等の各種測定において利用できる連続周波数掃引可能な光周波数掃引レーザ光源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の光周波数掃引レーザ光源は、第1のレーザ光を出力する基準レーザ光源と、外部信号に基づいて発振周波数の制御が可能な周波数可変レーザ光源と、周波数可変レーザ光源が出力する第2のレーザ光の一部を周波数変調する電気光学変調部と、第1のレーザ光と周波数変調後の第2のレーザ光の一部とを干渉させて電気信号である差周波信号を生成する差周波生成部と、差周波信号と基準周波数信号とに基づく位相同期制御により外部信号を生成する位相同期部とを含み、周波数可変レーザ光源から出力される第2のレーザ光の他の一部を出力光とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様の光周波数掃引レーザ光源によれば、電気光学変調器による変調周波数掃引と、例えば数10MHzでのビート検出を基本に、十分なレーザパワーを確保しつつ、光コムのfrep掃引と、高周波(例えば10GHz程度)でのビート検出無しで、所定波長(例えば波長852nm)で広帯域(例えば10GHz以上)にわたり連続周波数掃引することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での各周波数の関係を示す図である。
【
図4】本発明の他の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。
【
図5】本発明の他の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。
【
図6】本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(位相同期性能)の測定結果を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(光出力性能)の測定結果を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(連続周波数掃引性能)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。光周波数基準となる単一周波数発振レーザ(マスターレーザ)と、広範囲にわたり掃引させる単一周波数発振レーザ(スレーブレーザ)を用いる。マスターレーザ(以下マスターと呼ぶ)にオフセットロック(
図1の周波数fに安定化)したスレーブレーザ(以下スレーブと呼ぶ)を広範囲
にわたり周波数掃引する(
図1のΔfを大きくする)。
【0013】
具体的には、スレーブのマスターへの周波数ロックは、スレーブに電気光学変調器により発生させた変調サイドバンドの一つと、マスターとのビート周波数(
図1の周波数f)が一定になるようにスレーブ周波数を制御することにより実現する。スレーブをマスターにロックした状態で、スレーブの変調周波数を掃引
(図1のΔf)すれば、スレーブのキャリア周波数を掃引できる。その周波数掃引範囲は、例えば10GHz以上とする。マスターの周波数を例えば原子分子の吸収線や光コムにロックすることで、周波数が精密でかつ広範囲にわたり掃引できる光周波数掃引レーザ光源が実現できる。
【0014】
これにより、電気光学変調器による変調サイドバンドの直接利用をすることなくスレーブのキャリアを利用できるので、比較的大きな光出力を得ることが可能となる。また、10GHz程度以上の高周波でのビート検出をすることはなく、かつマスターとスレーブの変調サイドバンドとのビートは固定周波数で検出できるので、S/Nの低下あるいは変調周波数の掃引により信号処理が困難になることを防ぐことができる。さらに、光コムと広く掃引するスレーブレーザとのビート信号検出が不要なので、光コムとのビート信号検出のために狭いスペクトル線幅のスレーブレーザを用いる必要がない。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源の構成例を示す図である。
図2の構成では、マスターとしてIF-ECDL、すなわち干渉フィルタ(IF)を用いた外部共振器型半導体レーザ(ECDL)を用い、スレーブとしてDBR laser、すなわち分布反射型(DBR)レーザを用いる。IF-ECDL(マスター)はモードホップフリーの同調範囲が狭いが、発振スペクトル線幅が狭いため、原子分子の吸収線や光コムに周波数安定化しやすい。一方DBR laser(スレーブ)はモードホップフリーの同調範囲が100GHz以上と広く、出力パワーも100mW以上であり、増幅なしで第2次高調波を発生させることができる。
【0016】
図2中のOIは光アイソレータであり、破線SMFはシングルモードファイバであり、太い実線PMFは偏波保持ファイバであり、FCは光ファイバカプラであり、PDは光検出器(フォトダイオード)であり、EOMは電気光学変調器であり、WG-PPLNは周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路(WG)であり、Synthesizerは周波数シンセサイザ(発振器)であり、phase-lock electronicsは位相同期回路である。
【0017】
使用したIF-ECDLのレーザ共振器は、片面が高反射コートされた半導体ゲインチップと反射率20%のハーフミラーとで構成され、共振器内に半値幅(FWHM)が0.5nmの干渉型狭線幅光バンドパスフィルタが挿入されている。フィルタの光軸に対する角度を調整して波長を選択することができる。使用したDBR laserのチップは、市販の製品で、熱電冷却器(TEC)とともにTOー8パッケージに内蔵されている。テストデータにおける最大パワーと同調波長範囲はそれぞれ240mW以上、851.9~852.5nm以上であり、温度による同調を行ったところ、モードホップなしで130GHz以上の周波数掃引ができた。
【0018】
図3は、
図2の本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での各周波数の関係を示す図である。
図2と
図3を参照しながら光周波数掃引レーザ光源の動作について説明する。マスター(IF-ECDL)からの出射光は、戻り光を防ぐための光アイソレータ(OI)を通過したのち、シングルモードファイバ(SMF)中を進み、スレーブ(DBR laser)とのビート信号検出のために、光ファイバカプラ(FC)に入射する。一方、スレーブ(DBR laser)からの出射ビームは、光アイソレータ(OI)を通過したのち偏波保持ファイバ(PMF)中を進み、光ファイバカプラ(FC)で99%と1%の割合で分岐される。1%の分岐光は、インライン(in-line)の電気光学変調器(EOM)を通過したのちビート信号検出のために光ファイバカプラ(FC)に入射する。
【0019】
電気光学変調器(EOM)には周波数シンセサイザ(Synthesizer)によって周波数f
modの変調信号が印加され、スレーブ(DBR laser)のキャリア周波数の両側にサイドバンド成分(
図3の-1st sidebandと+1st sideband)が発生する。光ファイバカプラ(FC)で結合されたビームは、スレーブのサイドバンドとマスターとのビート信号(
図3のf
beatに対応)を検出するために、フォトダイオード(PD)に入射される。一方、スレーブの99%の分岐光は3次の位相整合による第二次高調波発生(SHG)で波長426nm光を生成するため、分極反転周期9.6625μmのリッジ導波路型のPPLN(WG-PPLN)に入射される。
【0020】
図3では、マスター(IF-ECDL)とスレーブ(DBR laser)のキャリアの周波数(ν
master、ν
slave)と、+及び-の一次サイドバンド(-1st、+1st sideband)の周波数との関係が示されている。位相同期回路(phase-lock electronics)により、スレーブの-1次のサイドバンド(-1st sideband)がマスター(周波数ν
master)からf
beat離れた周波数に位相同期されている。位相同期回路において、スレーブの-1次のサイドバンドとマスターとのビート周波数f
beatは、200分周したのちファンクションジェネレータ(FG)からの1MHzの基準周波数と位相比較される。得られた誤差信号をループフィルタ(LF)を介してスレーブの注入電流(injection current)と熱電冷却器(TEC)にフィードバックすることで、スレーブがマスターにオフセット周波数f
beat=200MHzで位相同期される。
【0021】
このときスレーブ(DBR laser)のキャリアの周波数νslaveは、マスター(IF-ECDL)の周波数νmaster、オフセット周波数fbeat、及び変調周波数fmodを用いて下記の式で与えられる。
νslave=νmaster+fbeat+fmod
上式から周波数シンセサイザから電気光学変調器(EOM)に印可する変調周波数fmodを掃引することでスレーブ(DBR laser)のキャリアの周波数νslaveを掃引することができる。
【0022】
図4は、本発明の他の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。
図4は、スレーブに代わりマスターにサイドバンドを発生させる場合の例である。マスターに電気光学変調器(EOM)でサイドバンドを発生させ、スレーブの周波数とマスターのサイドバンドの周波数を固定周波数f
2で位相同期させる。電気光学変調器(EOM)に印可する変調周波数f
1を掃引することでスレーブの周波数ν
slave(=ν
0+f
1+f
2)を掃引する。
【0023】
図5は、本発明の他の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源での周波数掃引方法の概要(設計指針)を説明するための図である。
図5は、マスターとスレーブの両方にサイドバンドを発生させる場合の例である。マスターとスレーブの両方に電気光学変調器(EOM)でサイドバンドを発生させ、サイドバンド同士のビート(周波数差)を固定周波数f
2で位相同期させる。電気光学変調器(EOM)に印可する変調周波数f
1とf
3を掃引することでスレーブのキャリアの周波数νslave(=ν
0+f
1+f
2+f
3)を掃引する。これによりスレーブのキャリアの周波数をより広く掃引できる。
【実施例】
【0024】
図2の本発明の一実施形態の光周波数掃引レーザ光源の構成例を用いて実際に周波数掃引を行った。その際、変調周波数f
modを0.2~20GHzの範囲で掃引することで、スレーブの第2次高調波である426nmにおいて約40GHzの連続掃引を行った。基本波における掃引周波数ステップは5MHz、ステップ周期は50msに設定した。これは周波数掃引速度100MHz/sに相当する。使用したEOMの帯域は10GHzだが、f
modに応じて信号パワーを調整することで、f
mod=20GHzまで十分なパワーのサイドバンドを発生できた。なお、f
modの掃引範囲は使用したシンセサイザの最大出力周波数で制限されている。
【0025】
図6は、本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(位相同期性能)の測定結果を示す図である。
図6(a)は、フォトダイオード(PD)で検出したマスターとスレーブのビート信号f
beatである。マスター(IF-ECDL)と、スレーブ(DBR laser)のキャリア(carrier)および+と-の1次の変調サイドバンドとのビート信号が観察される。このうちマスターとスレーブのプラス(+)とマイナス(-)の1次のサイドバンド(sideband)とのビート周波数(f
beat)が200MHzで位相同期されている。一方、スレーブの変調周波数f
modは200MHzから20GHzまで変化させることができる。ここではf
mod=200MHzに設定した時のビートスペクトルを示している。
【0026】
図6(b)は、ビート信号f
beatのインループ(In-loop)スペクトルである。さらに、位相同期の性能を評価するために、π型デッドタイムフリーカウンターを用いてゲートタイム1sでインループのビート信号f
beatを測定した。
図6(c)は、インループビート信号f
beat(red closed circle)のアラン偏差を示す。アラン偏差は1/τ(τは平均時間(秒))に比例して小さくなっており、位相同期が正しく働いていることを示している。また、アラン偏差を波長852nmに相当する周波数352THzで割って得られるスレーブの相対アラン偏差は2.8×10
-14/τである。この値は、マスターを十分安定な周波数標準に安定化した場合に実現できるスレーブの最良の周波数安定度ということができる。
【0027】
リッジ導波路型のPPLN(WG-PPLN)による波長426nmの光の発生についての評価結果を示す。
図7は、本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(光出力性能)の測定結果を示す図である。
図7(a)は、WG-PPLNの入射ファイバ(PMF)における基本波パワーの関数として測定した第二次高調波発生(SHG)パワーを示す。実線は、SHGパワーと基本波パワーをそれぞれP
2ω、Pωとし、変換効率ηをフィッティングパラメータとして測定結果をP
2ω=ηPω
2でフィットした結果である。フィットの結果得られた変換効率は14%/Wであった。
【0028】
図7(b)と(c)は、SHGパワーのPPLN温度依存性とSHG周波数依存性を示す。測定時の入力光パワーはともに45mWである。位相整合の許容範囲(半値全幅)は、温度で0.3℃、SHG周波数で16GHzである。位相整合許容範囲が狭いので、レーザ周波数の変化に対して安定で高いSHGパワーを得るためには、レーザ周波数に応じたWG-PPLN温度の精密な調整が求められる。本実施例では事前に、レーザ周波数を852nmで20GHz掃引し、200MHz毎にSHGパワーが最大となる温度を測定した。そして、レーザ周波数に応じて常にSHGパワーが最大になるようWG-PPLN温度をフィードフォワード制御した。
図5(c)は、レーザ周波数を掃引したときのSHGパワーの変化に関し、温度のフィードフォワード制御の有り(A)と無し(B)による違いも示している。
【0029】
波長426nmの光の連続周波数掃引の実証結果について説明する。
図8は、本発明の一実施例の光周波数掃引レーザ光源の特性(連続周波数掃引性能)の測定結果を示す図である。モードホップなどが起きていないことを確認するため、WG-PPLNから出射した波長426nmの光をマイケルソン干渉計に入射し、レーザ周波数を掃引しながらその出力光強度を干渉信号として測定した。
図8では、マイケルソン干渉計によって得られた干渉信号を示している。繰り返し周期約4.5GHzの連続かつ周期的な干渉信号が得られており、これは波長426nmの光をモードホップなしで40GHzの連続掃引できていることを示している。また、繰り返し周期約4.5GHzはメジャーで直接測定した干渉計の光路長差(70±10)mmとも整合している。干渉信号の歪みは、マイケルソン干渉計の光路長揺らぎに依るものであると考えられる。
【0030】
本発明では、スレーブのキャリア成分をアプリケーションに用いるため、サイドバンド成分を用いる場合に比べてパワー利用効率が高い。このことは、本発明のように第二次高調波発生(SHG)はもちろん、分光、干渉計などの光源にスレーブを用いるときには優れた特長になる。本発明ではまた、検出が必要なビート信号は、マスターと、スレーブのサイドバンドとのビート信号のみであり、その周波数は固定なので、基準周波数、ロック回路のためのフィルタやアンプは一般的なものが使え、10GHz級高周波のビート信号を検出する必要はない。そのため高いS/Nのビート信号を得やすく、堅牢な位相同期を得やすい。
【0031】
また、もちろん周波数掃引に光コムを使う必要はなく、マスターを光コムに位相同期したとしても、frepは固定しておくことができる。これはその光コムを同時に別な用途でも使用している場合には重要だろう。さらに、スレーブに絶対周波数を付与するには、マスターを光コムのひとつのモードや原子分子の吸収線(例えばCs原子のD2線)に安定化したレーザに位相同期すれば良い。直接マスターを原子分子の吸収線に安定化することも可能である。
【0032】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。さらに、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の光周波数掃引レーザ光源は、分光測定装置、干渉測長装置、光周波数シンセサイザなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
IF-ECDL:干渉フィルタ(IF)を用いた外部共振器型半導体レーザ
DBR laser:分布反射型レーザ
OI:光アイソレータ
SMF:シングルモードファイバ
PMF:偏波保持ファイバ
FC:光ファイバカプラ
PD:光検出器(フォトダイオード)
EOM:電気光学変調器
WG-PPLN:周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路(WG)