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特許7377010重合体組成物、成形体、光学部材および重合体組成物の製造方法
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  • 特許-重合体組成物、成形体、光学部材および重合体組成物の製造方法 図1
  • 特許-重合体組成物、成形体、光学部材および重合体組成物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】重合体組成物、成形体、光学部材および重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 35/00 20060101AFI20231101BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20231101BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C08L35/00
C08L33/00
C08K5/49
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019102642
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196794
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 誠
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013186(WO,A1)
【文献】特開2018-203911(JP,A)
【文献】特開2017-101225(JP,A)
【文献】特開2017-039951(JP,A)
【文献】特開2010-111729(JP,A)
【文献】特開2019-048965(JP,A)
【文献】特開2003-105158(JP,A)
【文献】特開2004-224813(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環構造を有するモノマー単位を含む重合体を含む重合体組成物であって、
前記環構造を有するモノマー単位を含む重合体は、
前記環構造を有するモノマー単位として、無水グルタル酸構造単位を含み、
(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位および(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を含み、
前記無水グルタル酸構造単位の割合は、該重合体を構成する全モノマー単位に対して、0.15モル%超5モル%以下であり、
前記(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位の割合は、該重合体を構成する全モノマー単位に対して、80モル%以上98.99モル%以下であり、
前記(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位の割合は、該重合体を構成する全モノマー単位に対して、0.5モル%以上12.8モル%以下であり、
該重合体組成物は、リン系酸化防止剤をさらに含み、その含有量は前記重合体100質量部に対して、0.005質量部以上0.2質量部以下であり、
該重合体組成物から、以下の射出成形条件:
(1)ノンベント式射出成形機を使用、
(2)コールドランナー方式の金型を使用、
(3)シリンダー温度は260℃、および
(4)成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比は4.5
で、120mm×100mm×3.0mm厚の平板を成形したとき、冷却時間5分の条件において得られる前記平板中の含有モノマー量と、冷却時間1分の条件において得られる前記平板中の含有モノマー量との差が1000質量ppm以上12000質量ppm以下である、
重合体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の重合体組成物から構成される、成形体。
【請求項3】
請求項2に記載の成形体を含む、光学部材。
【請求項4】
請求項1に記載の環構造を有するモノマー単位を含む重合体を含む重合体組成物の製造方法であって、
(メタ)アクリル酸に由来するモノマーおよび(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bを、押出機を用いて、シリンダー温度240℃以上270℃以下で押出して、重合体組成物を得る工程、
を含む、方法。
【請求項5】
前記押出により、一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bの環化物を得る、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物、該重合体組成物から構成される成形体、該成形体を含む光学部材および該重合体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンおよびメタクリル酸メチル―スチレン共重合体等の重合体は、その優れた透明性、機械的性質および成形加工性等から、車両用部材、電気関係部材または工業部材等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
このような重合体および成形体は、使用される分野に応じて、透明性等の光学特性、成形加工性、耐熱性、耐候性、強度等に関して、より優れた特性が要求される場合がある。例えば、車両用部材等の分野において、ランプの光学レンズ等の光学部材の原材料として前述の重合体が使用されている。今後、ランプの光源として、より高輝度のLEDランプが使用されることが想定されるため、重合体は十分な耐熱性と光学特性を備えることが要求される。そのため、重合体の耐熱性や光学特性を改良する様々な試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、改良された耐熱性と高度な無色透明性を有するアクリル系樹脂として、6員環構造を有する酸無水物単位の含有量が0.01~10質量部であり、かつ特定の重量平均分子量を有するアクリル系樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献2には、耐熱性、外観等に優れた共重合体として、メチル(メタ)アクリレート単位を80モル%以上含む共重合体が開示されている。
【0006】
特許文献3には、耐熱性、外観、耐候性等に優れた熱可塑性樹脂組成物として、共重合体と酸化防止剤とを含み、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位を0.001mol%以上0.15mol%以下含む、熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-256406号公報
【文献】国際公開第2017/022393号
【文献】国際公開第2019/013186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案されているアクリル系樹脂や特許文献2で提案されている共重合体は、樹脂や重合体中の単量体単位の量を特定の範囲に設定する、という方法に限られており、この方法で得られた重合体を上記光学部材として使用するには、耐熱性と光学特性が不十分であった。
【0009】
特許文献3で提案されている熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤を配合することで着色は改善されているが、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位の含量が少ないため、必ずしも耐熱性が十分ではなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、十分な耐熱性と光学特性を有する重合体組成物、該重合体組成物から構成される成形体、該成形体を含む光学部材および重合体組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕環構造を有するモノマー単位を含む重合体を含む重合体組成物であって、
該重合体組成物は、環構造を有するモノマーの重合体を含む重合体組成物Aであるか、または、一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bの環化物としての重合体組成物であり、
該重合体組成物から、以下の射出成形条件:
(1)ノンベント式射出成形機を使用、
(2)コールドランナー方式の金型を使用、
(3)シリンダー温度は260℃、および
(4)成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比は4.5
で、120mm×100mm×3.0mm厚の平板を成形したとき、冷却時間5分の条件において得られる前記平板中の含有モノマー量と、冷却時間1分の条件において得られる前記平板中の含有モノマー量との差が1000質量ppm以上12000質量ppm以下である、
重合体組成物。
〔2〕前記環構造を有するモノマー単位は、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位およびラクトン構造単位からなる群から選択される1以上を含む、前記〔1〕に記載の重合体組成物。
〔3〕前記環構造を有するモノマー単位は、無水グルタル酸構造単位を含む、前記〔2〕に記載の重合体組成物。
〔4〕前記重合体組成物は、リン系酸化防止剤をさらに含み、その含有量は前記重合体100質量部に対して、0.005質量部以上0.2質量部以下である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の重合体組成物。
〔5〕前記重合体は、前記環構造を有するモノマー単位以外のモノマー単位として、メタクリル酸に由来するモノマー単位、メタクリル酸エステルに由来するモノマー単位、アクリル酸に由来するモノマー単位およびアクリル酸エステルに由来するモノマー単位からなる群から選択される1以上を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の重合体組成物。
〔6〕前記重合体は、該重合体を構成する全モノマー単位に対して、0.15モル%超5モル%以下の前記環構造を有するモノマー単位を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の重合体組成物。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の重合体組成物から構成される、成形体。
〔8〕前記〔7〕に記載の成形体を含む、光学部材。
〔9〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の環構造を有するモノマー単位を含む重合体を含む重合体組成物の製造方法であって、
環構造を有するモノマーの重合体を含む重合体組成物A、または、一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bを、押出機を用いて、シリンダー温度240℃以上270℃以下で押出して、重合体組成物を得る工程、
を含む、方法。
〔10〕前記押出により、一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bの環化物を得る、前記〔9〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な耐熱性と光学特性を有する重合体組成物、該重合体組成物から構成される成形体、該成形体を含む光学部材および重合体組成物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の重合体組成物を成形するためのノンベント式射出成形機を示す図である。
図2】本発明の重合体組成物から射出成形によって作製した試験成形片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0015】
<重合体組成物>
本発明の重合体組成物は、環構造を有するモノマー単位を含む重合体を含む。該重合体組成物は、環構造を有するモノマーの重合体を含む重合体組成物Aであるか、または、一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bの環化物としての重合体組成物である。
【0016】
本明細書において、環構造を有するモノマー単位としては、環構造を有するモノマーに由来する環構造を含むモノマー単位、および一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーが、例えば縮合反応などによって形成した環構造を含むモノマー単位が例示される。環構造を有するモノマー単位としては、これらの一方または両方が重合体に含まれていてよい。
【0017】
本明細書において、「一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマー」とは、2種以上のモノマーが重合してできた重合体中で、任意の1種のモノマー単位が、任意の他の1種のモノマー単位と反応(例えば縮合反応)することによって、重合体中に1つの環構造を形成し、環構造を有するモノマー単位となる、任意の2種以上のモノマーを指す。
【0018】
本明細書において、用語「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0019】
以下、本発明の重合体組成物について、これに含まれる重合体およびその他の成分について詳細に説明する。
【0020】
(A)重合体
(a)環構造を有するモノマー単位
環構造を有するモノマー単位(以下、環構造モノマー単位ともいう)は、特に限定されない。好ましくは、環構造モノマー単位は、6員環の環構造モノマー単位または5員環の環構造モノマー単位である。
【0021】
環構造モノマー単位は、例えば、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位およびラクトン構造単位からなる群から選択される1つ以上を含む。環構造モノマー単位は、無水グルタル酸構造単位を含むことが好ましい。以下、それぞれの具体例における環構造モノマー単位について説明する。
【0022】
・無水グルタル酸構造単位(a-1)
以下の式(1)に、無水グルタル酸構造単位を示す。
【化1】
[式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0023】
無水グルタル酸構造単位(a-1)は、例えば、原料のモノマーとしてアクリル酸エステルとアクリル酸、またはメタクリル酸エステルとメタクリル酸を用いて、これらの重合により得られる重合体に環化反応を起こすことにより形成させることができる。重合体中に無水グルタル酸構造単位(a-1)が含まれると、特に重合体組成物から構成される成形体の耐熱性が向上し得る。
【0024】
・無水マレイン酸構造単位(a-2)
以下の式(2)に、無水マレイン酸構造単位を示す。
【化2】
[式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が6以上20以下の置換または非置換のアリール基、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基またはアリール基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0025】
無水マレイン酸構造単位(a-2)は、原料のモノマーとして、置換または非置換の無水マレイン酸を用いて共重合させた重合体に含まれる。置換または非置換の無水マレイン酸としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等が挙げられる。これらの置換または非置換の無水マレイン酸のうち、重合体を得るための共重合が容易なことから、無水マレイン酸の使用が好ましい。
【0026】
・マレイミド構造単位(a-3)
以下の式(3)に、マレイミド構造単位を示す。
【化3】
[式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、または、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0027】
好ましくは、上記式(3)は次の通りである。
[式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0028】
マレイミド構造単位(a-3)は、例えば、特定のモノマーを用いることにより、重合体に含ませることができる。このような原料のモノマーとしては、特に限定されるものではない。例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-エチルフェニルマレイミド、N-ブチルフェニルマレイミド、N-ジメチルフェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-(o-クロロフェニル)マレイミド、N-(m-クロロフェニル)マレイミド、N-(p-クロロフェニル)マレイミド等のN-アリール基置換マレイミドが挙げられる。
【0029】
・グルタルイミド構造単位(a-4)
以下の式(4)に、グルタルイミド構造単位を示す。
【化4】
[式(4)中、R、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、または、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0030】
好ましくは、上記式(4)は次の通りである。
[式(4)中、R、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0031】
グルタルイミド構造単位(a-4)は、例えば、原料のモノマーとしてメタクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸を用いて共重合させ、高温下でアンモニア、アミンまたは尿素を反応させる方法で重合体に含ませることができる。またはポリメタクリル酸無水物とアンモニアまたはアミンとを反応させる方法等の公知の方法も使用できる。
【0032】
・ラクトン構造単位(a-5)
以下の式(5)に、ラクトン構造単位を示す。
【化5】
[式(5)中、R13、R14およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、または、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0033】
好ましくは、上記式(5)は次の通りである。
[式(5)中、R13、R14およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、または、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上12以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0034】
ラクトン構造単位(a-5)を重合体中に導入する方法は、特に限定はされない。ラクトン構造は、例えば、原料のモノマーとして、置換基としてヒドロキシ基を有するアクリル酸またはアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルとを用いて共重合し、さらに分子鎖にヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基とを導入して、これらのヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基との間で、脱アルコールまたは脱水縮合を生じさせることにより形成させることができる。
【0035】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸またはアクリル酸エステルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキルが挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸または2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルである。2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらのうち、特に好ましくは、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルまたは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0036】
環構造モノマー単位は、本発明の重合体組成物に含まれる重合体を構成する全モノマー単位に対して、好ましくは0.15モル%超5モル%以下、より好ましくは0.2モル%以上4.5モル%以下、さらに好ましくは0.26モル%以上4モル%以下、よりさらに好ましくは0.3モル%以上3モル%以下、またさらに好ましくは0.6モル%以上1モル%以下の割合で重合体に含まれる。
【0037】
本発明の重合体組成物に含まれる重合体中の環構造モノマー単位の割合(モル%)は、13C-NMR法によって各種環構造モノマー単位に応じたピーク範囲におけるピークの積分値を求めることによって算出される。または、含まれる環構造に応じて、13C-NMR法とさらにH-NMR法および/またはIR法も用いてよい。
【0038】
(b)環構造を有するモノマー単位以外のモノマー単位
本発明の重合体組成物に含まれる重合体は、前記環構造を有するモノマー単位以外のモノマー単位(以下、非環構造モノマー単位ともいう)を含んでもよい。
【0039】
非環構造モノマー単位は、重合体組成物に含まれる重合体の原料のモノマーに由来する。前記モノマーは、重合可能なビニル系モノマーであれば特に限定されない。非環構造モノマー単位には、一緒になって環形成性を有するモノマーが、前述したような環構造を形成せず、そのまま前記重合体中で非環構造モノマー単位として存在するモノマー単位も含まれる。
【0040】
例えば、前記環構造を有するモノマー単位以外のモノマー単位は、メタクリル酸に由来するモノマー単位(下記式(6))、メタクリル酸エステルに由来するモノマー単位(下記式(7))、アクリル酸に由来するモノマー単位(下記式(8))、アクリル酸エステルに由来するモノマー単位(下記式(9))および芳香族ビニルに由来するモノマー単位(下記式(10))からなる群から選択される1以上を含み得る。前記環構造を有するモノマー単位以外のモノマー単位は、好ましくは、メタクリル酸に由来するモノマー単位、メタクリル酸エステルに由来するモノマー単位、アクリル酸に由来するモノマー単位およびアクリル酸エステルに由来するモノマー単位からなる群から選択される1以上を含む。
【0041】
【化6】
【0042】
【化7】
[式(7)中、R18は、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0043】
【化8】
【0044】
【化9】
[式(9)中、R20は、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0045】
【化10】
[式(10)中、R21は、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、または、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0046】
本発明の重合体組成物に含まれる重合体に、上記の非環構造モノマー単位が含まれる場合、原料のモノマーは、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(下記式(11))、アクリル酸、アクリル酸エステル(下記式(12))および芳香族ビニル(下記式(13))からなる群から選択される2以上を含み得る。該原料のモノマーは、単一の種類であっても複数の種類であってもよい。該原料のモノマーは、好ましくは、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびアクリル酸エステルからなる群から選択される2以上を含み、より好ましくは、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルを含む。
【0047】
【化11】
[式(11)中、R17はメチル基を表し、
18は、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0048】
上記式(11)に示すメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられるが、これらに限定されない。メタクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
【化12】
[式(12)中、R19は水素原子を表し、
20は、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0050】
上記式(12)に示すアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等が挙げられるが、これらに限定されない。アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
【化13】
[式(13)中、R21は、水素原子、または、炭素数が1以上20以下の置換または非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1以上8以下の置換または非置換のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1以上6以下の置換または非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、または、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルキル基、炭素数が1以上12以下の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリール基および炭素数が6以上18以下の置換または非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0052】
上記式(13)に示す芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルベンゼン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されない。芳香族ビニルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
特に限定されるものではないが、前述したようなモノマーから得られる本発明の重合体組成物に含まれる重合体は、例えば、以下のような環構造モノマー単位を有する構造単位を重合体の一部に含む。なお、式中、nは整数を表す。
【0054】
例えば、原料のモノマーとして、メタクリル酸メチル、メタクリル酸およびスチレンを用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a-1)を有する構造単位(下記式(14))が形成される。
【化14】
【0055】
例えば、原料のモノマーとして、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸を用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a-1)を有する構造単位(下記式(15))が形成される。
【化15】
【0056】
例えば、原料のモノマーとして、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレンおよびα-メチルスチレンを用いることによって、以下のような無水マレイン酸構造単位(a-2)を有する構造単位(下記式(16))が形成される。
【化16】
【0057】
例えば、原料のモノマーとして、メタクリル酸メチル、N-シクロヘキシルマレイミドおよびスチレンを用いることによって、以下のようなマレイミド構造単位(a-3)を有する構造単位(下記式(17))が形成される。
【化17】
【0058】
例えば、原料のモノマーとして、メタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルおよび2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを用いることによって、以下のようなラクトン構造単位(a-5)を有する構造単位(下記式(18))が形成される。
【化18】
【0059】
前記重合体を構成する全モノマーに対する、非環構造モノマー単位の割合は、100モル%から前記重合体中に含まれる前述の環構造モノマー単位のモル%を差し引いた値(モル%)となる。
【0060】
1例として、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルが、原料のモノマーの一部または全部として用いられる場合について述べる。そのような場合、前駆体ポリマーは、(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位および(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を含み得る。さらに、押出等による環化縮合反応後の重合体は、(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位および(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとが環化縮合した無水グルタル酸構造単位を含み得る。
【0061】
このような重合体では、重合体を構成する全モノマーに対して、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を、好ましくは80モル%以上98.99モル%以下、より好ましくは90モル%以上95モル%以下、特に好ましくは92.8モル%以上94.2モル%以下含み得、(メタ)アクリル酸に由来するモノマー単位を、好ましくは0.5モル%以上12.8モル%以下、より好ましくは1モル%以上10モル%以下、さらに好ましくは1.5モル%以上6.5モル%以下、さらにより好ましくは5.2モル%以上6.2モル%以下含み得、無水グルタル酸構造単位を、好ましくは0.15モル%超5モル%以下、より好ましくは0.2モル%以上4.5モル以下、さらに好ましくは0.26モル%以上4モル%以下、よりさらに好ましくは0.3モル%以上3モル%以下、またさらにより好ましくは0.6モル%以上1モル%以下、含み得る。なお、(メタ)アクリル酸エステルは好ましくは(メタ)アクリル酸メチルである。
【0062】
(B)リン系酸化防止剤
本発明の重合体組成物は、リン系酸化防止剤を含んでいてもよい。リン系酸化防止剤としては、例えば、亜リン酸モノエステル、ジエステル又はトリエステル(例えば、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル等)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-N,N-ビス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイトやテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスファイト等を挙げることができる。市販されているリン系酸化防止剤を用いても構わず、例えば、Irgafos168(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、BASFジャパン(株)製)、Sumilizer GP((6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン、住友化学(株)製)、JPP100(テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、城北化学工業(株)製)、JPH3800(水添ビスフェノールA-ペンタエリスリトールホスファイトポリマー、城北化学工業(株)製)、Irgafos12(トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、BASFジャパン(株)製)、Irgafos38(亜リン酸エチルビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)、BASFジャパン(株)製)、アデカスタブHP-10(2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、(株)ADEKA製)、アデカスタブPEP36(ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(株)ADEKA製)、アデカスタブPEP36A(ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(株)ADEKA製)、アデカスタブPEP-8(サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト、(株)ADEKA製)、HostanoxP-EPQ(PEPQ:テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、クラリアントCo.Ltd製)、GSY-P101(テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、堺化学工業(株)製)等を挙げることができる。リン系酸化防止剤を、本発明に含まれる重合体100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.15質量部以下、さらに好ましくは0.10質量部以下、よりさらに好ましくは0.09質量部以下、極めて好ましくは0.08質量部以下の割合で、本発明の重合体組成物に含むことができる。リン系酸化防止剤の下限は特に限定されないが、例えば0.005質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上である。
【0063】
(C)その他の成分
本発明の重合体組成物は、重合体、リン系酸化防止剤の他に、例えば、他の酸化防止剤、光安定化剤、滑剤、ブルーイング剤、難燃剤等を含んでいてもよい。それぞれ、本発明の重合体組成物から構成される成形体に対して、着色防止効果、耐候効果、金型離型効果、黄色値低減効果を付与することができる。また、製造工程等において不可避的に混入してしまう微量成分(重合開始剤、重合安定剤、分子量調整剤等の添加剤の残留物)を含んでいてもよい。
【0064】
<含有モノマー>
本発明の重合体組成物Aまたは重合組成物Bを、以下の射出条件:
(1)ノンベント式射出成形機を使用、
(2)コールドランナー方式の金型を使用、
(3)シリンダー温度は260℃、および
(4)成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比は4.5
で、120mm×100mm×3.0mm厚の平板を成形したとき、金型中での冷却時間が5分(以下5分サイクルともいう)の条件において得られる該重合体組成物からなる前記平板中の含有モノマー量と、金型中での冷却時間が1分(以下1分サイクルともいう)の条件において得られる該重合体組成物からなる前記平板中の含有モノマー量との差(以下、含有モノマー増加量ともいう)は1000質量ppm以上12000質量ppm以下である。ここで、ノンベント式射出成形機とは、射出成形機のシリンダー部分にベント開口部が設けられておらず、重合体組成物中に含まれる水分や含有モノマー等の揮発性ガス等がベント開口部から排出されない射出成形機であり、例えば東芝機械(株)製eC130SXII-4Aが挙げられる。また、コールドランナー方式とは、金型内でランナーが冷やされ、成形品と共に取り出されるランナー方式である。さらに、成形品体積とは、スプルーやランナー部を含む成形品1ショットあたりの重合体組成物の体積を表し、射出成形機の射出体積とは射出成形機のシリンダーに充填される重合体組成物の最大体積を表す。成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比4.5とは4.45から4.54の範囲を意味する。これら金型のランナー方式及び成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比は、成形する際の重合体組成物の熱履歴に影響を及ぼす。また、シリンダー温度260℃とは、射出成形機のヒーター条件を、原料投入口(ホッパー)から出口までのヒーターについて、原料投入口側からそれぞれ、ホッパー下ヒーターを55℃から65℃、ホッパー下ヒーター横(下流側)のヒーターを220℃から230℃、ノズルヒーターを250℃から260℃に設定し、これらを除いたヒーターの温度条件を260℃に設定した条件である。
【0065】
成形体中に含まれる含有モノマー量が低いことが、成形体の物性にとって有利であることは当業者にとって一般的に知られているが、含有モノマー増加量を前述の範囲に設定することで、光学特性と耐熱性に優れた成形体が得られることが見出された。
【0066】
本明細書において、含有モノマー増加量とは、5分サイクルで製造される成形体中の含有モノマー量から1分サイクルで製造される成形体中の含有モノマー量を引いた値である。
【0067】
本明細書において、シリンダー温度は押出機の設定温度を指すが、通常シリンダー内における重合体組成物の温度は設定温度と同じであるため、重合体組成物の温度を押出機の設定温度とみなしてよい。
【0068】
成形時のノズル先端での重合体組成物の線速度は通常3.6m/秒から14.2m/秒の範囲で実施する。また、射出成形の計量時のスクリュー回転数は通常20rpmから80rpmであり、金型のゲート断面積は通常20から30mm、ゲート箇所は通常1から2点である。
【0069】
本発明の重合体組成物から構成される成形体中の含有モノマーとは、重合しないまま成形体中に残存している原料のモノマーおよび造粒や射出成形時の熱で重合体が分解されることにより成形体中に含まれるモノマーを指す。成形体中の含有モノマー量は、例えばガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0070】
含有モノマー増加量が、1000質量ppm以上であると、重合体組成物から構成される成形体の黄色度の値を低くすることができ、併せて成形体の全光線透過率が高まり得る。具体的には、本発明の重合体組成物を用いて5分サイクルで製造される成形体の黄色度を好ましくは17.4以下、より好ましくは13.6以下、さらに好ましくは12.8以下、よりさらに好ましくは11.1以下、またさらに好ましくは8.9以下、よりさらに好ましくは7.8以下、またさらに好ましくは5.9以下とすることができる。同時に5分サイクルで製造される成形体の全光線透過率を好ましくは75.1%以上、より好ましくは78.6%以上、さらに好ましくは79.0%以上、よりさらに好ましくは80.5%以上、またさらに好ましくは81.2%以上、よりさらに好ましくは82.0%以上、またさらに好ましくは83.6%以上とすることができる。さらに、本発明の重合体組成物を用いて1分サイクルで製造される成形体の黄色度を好ましくは9.9以下、より好ましくは9.3以下、さらに好ましくは8.5以下、よりさらに好ましくは8.1以下、またさらに好ましくは6.2以下、よりさらに好ましくは5.5以下、またさらに好ましくは5.0以下とすることができる。同時に1分サイクルで製造される成形体の全光線透過率を好ましくは79.6%以上、より好ましくは80.2%以上、さらに好ましくは81.0%以上、よりさらに好ましくは83.7%以上、またさらに好ましくは84.0%以上、よりさらに好ましくは84.5%以上とすることができる。成形体の黄色度と全光線透過率は、例えば分光光度計を使用して測定することができる
【0071】
含有モノマー増加量が、12000質量ppm以下であると、重合体組成物から構成される成形体が十分な耐熱性を有し得る。具体的には、本発明の重合体組成物を用いて5分サイクルで製造される成形体のビカット軟化温度を好ましくは107℃以上、より好ましくは108℃以上とすることができる。特に、5分サイクルで製造される成形体と1分サイクルで製造される成形体のビカット軟化温度の低下を、好ましくは9.7℃以下、より好ましくは7.5℃以下、さらにより好ましくは5.0℃以下とすることができ、サイクル時間の差異による耐熱性の極度な低下を防止することができる。成形体のビカット軟化温度は、例えばJIS K7206(B50法)によって測定することができる。
【0072】
加えて、含有モノマー増加量が、12000質量ppm以下であると、成形体を120℃で400時間にわたり放置した時の黄色度を、好ましくは46.1以下、より好ましくは40.0以下、さらに好ましくは30.0以下、よりさらに好ましくは18.5以下、またさらに好ましくは6.2以下、よりさらに好ましくは5.5以下とすることができ、良好な耐熱劣化特性を有し得る。重合体組成物の耐熱劣化特性は黄色度で評価し、例えば分光光度計で測定することができる。
【0073】
含有モノマー増加量は、1000質量ppm以上12000質量ppm以下、好ましくは2000質量ppm以上11500質量ppm以下、より好ましくは6000質量ppm以上11000質量ppm以下、さらに好ましくは7000質量ppm以上10800質量ppm以下、よりさらに好ましくは8000質量ppm以上10600質量ppm以下である。
【0074】
上述の含有モノマー増加量は、様々な条件に影響を受ける。例えば、環構造モノマー単位の含有量を前述の範囲内とすることで、含有モノマー増加量を前述した所定の範囲内に調整することができる。具体的には、前述したように環構造モノマー単位は該全モノマーに対して、好ましくは0.15モル%超5モル%以下、より好ましくは0.2モル%以上4.5モル%以下、さらに好ましくは0.26モル%以上4モル%以下、さらにより好ましくは0.3モル%以上3モル%以下、またさらに好ましくは0.6モル%以上1モル%以下の割合で、重合体に含有されることが好ましい。重合体中の環構造モノマー単位を前述の範囲内に調整することで、含有モノマー増加量を増加させ、1000質量ppmを下回ってしまう可能性を低くすることができる。環構造モノマー単位の含有量は、原料中の環構造を有するモノマー、もしくは環構造を形成するモノマーの割合(モル%または質量%)、ならびに押出造粒時の温度や、押出造粒時に環構造の形成反応の促進剤を添加することで調整することが可能である。
【0075】
さらに、リン系酸化防止剤の配合量も含有モノマー増加量に影響し得る。例えば、リン系酸化防止剤の配合量の上限を好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.15質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以下、よりさらに好ましくは0.09質量部以下、極めて好ましくは0.08質量部以下、下限を好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上とすることで、含有モノマー増加量が大きくなってしまうことを抑制することができる。含有モノマー増加量が大きくなってしまうことを抑制することによって、成形体に優れた耐熱性を付与することができる。成形体がより優れた耐熱性を有することによって、特に高耐熱性が要求される高輝度LEDランプの光学レンズの光学部材の原材料として利用される際に有利である。
【0076】
本発明の重合体組成物の、230℃、3.8kg荷重でのMFR(メルトフローレート)値は、好ましくは0.1以上10以下、より好ましくは1以上6以下、さらに好ましくは2以上5以下、よりさらに好ましくは2.5以上4以下の範囲であり得る。MFRをこのような値にすることによって、重合体組成物が光学レンズ等の光学部材の原材料として利用される際に、例えば重合体組成物が射出成形等されるとき、好適な流動性を奏する。本明細書において、MFR値は、JIS K7210に規定された方法において測定することができる。
【0077】
本発明の重合体組成物に含まれる重合体の重量平均分子量は、好ましくは50000以上120000以下、より好ましくは60000以上100000以下、さらに好ましくは70000以上90000以下の範囲であり得る。重量平均分子量をこのような値にすることによって、本発明の重合体組成物から構成される成形体の機械特性を良好とすることができる。重合体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0078】
本発明の重合体組成物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは115以上130以下、より好ましくは120以上126以下の範囲であり得る。本発明の重合体組成物の吸水率は、好ましくは0.1以上0.5以下、より好ましくは0.2以上0.4以下の範囲であり得る。本発明の重合体組成物のガラス転移温度は、例えばJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を用いて、吸水率はJIS K7209に準拠した方法で測定することができる。
【0079】
<重合体組成物の製造方法>
本発明の重合体組成物の製造方法は、まず、原料となる2つ以上のモノマーを重合し、必要に応じてその他の成分を添加して重合体組成物Aまたは重合体組成物Bを得る。モノマーの重合方法については、特に制限はなく、例えば、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の公知の重合法を採用することができる。特に、懸濁重合を採用することができる。懸濁重合は、例えば、水、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁安定剤および必要に応じて他の添加剤等をオートクレーブに仕込み、通常、攪拌下にモノマーの成分を供給して加熱することにより実施してよい。水の使用量は、容量比で、モノマーの成分に対して、通常1~5倍量、特に1~3倍量程度とする。
【0080】
重合開始剤は、特に制限されるものではなく、例えば、ラウリルパーオキサイド、1,1―ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0081】
連鎖移動剤は、特に制限されないが、例えば、n-ドデシルメルカプタン(特に、1-ドデシルメルカプタン)、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート等のメルカプタン類等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種のみであってよいし、2種以上であってよい。
【0082】
懸濁安定剤は、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテルが挙げられる。また、部分けん化されたビニルアルコール、アクリル酸重合体およびゼラチン等の水溶性ポリマーを使用することもできる。
【0083】
懸濁重合では、例えば、重合後に得られたスラリー状の反応物を脱水および必要に応じて洗浄した後、乾燥させる。乾燥後、ビーズ状の重合体組成物Aまたは重合体組成物Bが得られる。ビーズ状の重合体組成物Aまたは重合体組成物Bはそのまま使用してもよいし、前述したようなその他の成分を加えてもよい。重合体組成物Aまたは重合体組成物Bと必要に応じて添加されたその他の成分とを、さらに押出機(例えば脱気押出機)で押出すると、ペレット形状の本発明の重合体組成物が得られる。
【0084】
より具体的には、本発明の重合体組成物は、環構造を有するモノマーの重合体を含む重合体組成物Aであるか、または一緒になって環形成性を有する2種以上のモノマーの重合体である前駆体ポリマーを含む重合体組成物Bの環化物としての重合体組成物であり、該重合体組成物Aまたは該重合体組成物Bをシリンダー温度を通常200℃以上280℃未満、好ましくは220℃以上275℃以下、より好ましくは240℃以上270℃以下の押出機で押出して得ることができる。シリンダー温度を上記範囲内に設定することによって、含有モノマー増加量を前述した所定の範囲内に容易に調整することができ、その結果、重合体組成物から構成される成形体の黄色度の値を特に低くすることができる。特に、シリンダー温度を280℃未満とすることによって、含有モノマー増加量が1000質量ppmを下回ってしまう可能性を低くすることができ、その結果、重合体組成物から構成される成形体の黄色度の値を特に低くすることができ、併せて全光線透過率も高めることができる。
【0085】
さらに、本発明の重合体組成物の製造方法では、重合体組成物Bから本発明の重合体組成物を製造する場合、押出機での押出によって、該2種以上の一緒になって環形成性を有するモノマー単位を環化させる工程をさらに含み得る。
【0086】
前述したように、本発明の重合体組成物から製造される成形体の含有モノマー増加量が前述した所定の範囲内に調整されていることによって、該成形体は黄色度の値が特に低く、かつ十分な耐熱性を有する。例えば、重合反応の原料のモノマーとして反応速度の速いモノマーをより多く含ませることによって、1分サイクルおよび5分サイクルにおける含有モノマー量を減少させることができる。さらに、例えば、懸濁重合等のモノマーの重合率がより高い重合方法を選択することによって、1分サイクルおよび5分サイクルにおける含有モノマー量を減少させることができる。加えて、重合時間を短くする、重合開始剤の添加量を減少させる等の重合条件にすることによって、1分サイクルおよび5分サイクルにおける含有モノマー量を増加させることもできる。
【0087】
本発明の重合体組成物の製造方法では、押出機のシリンダー温度だけでなく、好ましくは、射出成形機内でのサイクル時間も長すぎない適切な時間に設定する。例えば、押出機内でのサイクル時間毎の組成物処理量に換算すると、押出機のスクリュー回転数が好ましくは100rpm以上400rpm、より好ましくは200rpm以上300rpmの場合、好ましくは処理量5kg/Hr以上20kg/Hr以下、より好ましくは処理量10kg/Hr以上17kg/Hr以下に設定する。あるいは、例えば後処理において高温(例えば290℃程度)で長く加熱しすぎないようにする。このように製造条件を適宜選択して設定することによって、顕著に物性が変化してしまうことを防止することができる。その結果、成形体の黄色度の値を低くすることができ、かつ該成形体は十分な耐熱性を有することができる。
【0088】
<成形体および光学部材>
本発明の重合体組成物から構成される成形体は、所望の用途に応じた形状を適宜とり得る。該成形体は、例えば本発明の重合体組成物を射出充填して得ることができる。具体的には、本発明の重合体組成物を前述したようにペレット状にして、ホッパーからシリンダー内に投入し、スクリューを回転させながら該重合体組成物を溶融させ、スクリューを後退させて、シリンダー内に重合体組成物を所定量充填し、スクリューを前進させることにより圧力をかけながら溶融した重合体組成物を金型に射出充填し、金型が充分に冷めるまで一定時間保圧した後、金型を開いて成形体を取り出すことで得ることができる。前記成形体を製造する際の諸条件(例えば、成形材料のキャビティ内での溶融温度、成形材料を金型に射出する際の金型温度、重合体組成物を金型に充填した後に保圧する際の圧力等)は、適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0089】
本発明の重合体組成物から構成される成形体を用いて、光学部材を製造することができる。そのため、該光学部材は、その黄色度の値が低く、かつ耐熱性を有する。光学部材とは、光学レンズ、導光部材等を意味する。例えば、自動車もしくはオートバイ等の車輌灯、街路灯、電気スタンドまたは家庭用一般照明等の点灯器具全般に使用され得る光学レンズまたは導光部材等を意味する。
【実施例
【0090】
以下の実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0091】
本明細書において、「メタクリル系重合体組成物」とは、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルからなる群から選択される1以上のモノマーを少なくとも一部において重合させてなる重合体を含む組成物を意味する。また、以下に重合体組成物およびその試験成形片(成形体)の物性の測定方法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性および測定(または物性値および測定値)は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0092】
・メタクリル系重合体組成物の調製および試験成形片の作製
(実施例1)
攪拌機の備わった5Lオートクレーブ内において、メタクリル酸(以下MAAと記す、(株)日本触媒製)5質量部とメタクリル酸メチル(以下MMAと記す、住友化学(株)製)95質量部とを混合してモノマー成分を得た。このモノマー成分に、モノマー成分の総和100質量部に対し、重合開始剤としてラウリルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製「ラウロックスK」)を0.4質量部および連鎖移動剤として1-ドデシルメルカプタンを0.6質量部添加し、これらを溶解させた。さらに、モノマー成分の総和100質量部に対し、懸濁安定剤としてヒドロキシエチルセルロース(以下HECと記す、三昌(株)製「SANHEC H」)0.060質量部をイオン交換水に溶解させて懸濁重合水相としたうえで、前述のモノマー成分の総和100質量部に対し水相150質量部を添加し、懸濁重合を行った。得られたスラリー状の反応液を脱水機((株)コクサン製「遠心機 H-122」)を使用して、脱水および40Lのイオン交換水を用いて2回洗浄した後、乾燥させ、ビーズ状の重合体組成物を得た。このビーズ状の重合体組成物に、重合体組成物100質量部に対して、リン系酸化防止剤(住友化学(株)製、「Sumilizer GP」)0.06質量部をブレンドして、(株)日本製鋼所製二軸押出機(型式:TEX30SS-30AW-2V)を使用し、以下の混練条件で溶融混練してストランド状に押出し、水冷してストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル系重合体組成物を得た。
(混練条件)
押出機温度:240℃(原料投入口から出口までの8つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ210℃、220℃、240℃、240℃、240℃、240℃、240℃、255℃に設定した。)
回転数:250rpm
原料の投入速度:10kg/時
【0093】
得られたペレット形状のメタクリル系重合体組成物を、ノンベント式射出成形機(東芝機械(株)製eC130SXII-4A、ノズル径3mm)を用いて、以下の成形条件で各サンプルにつき冷却タイマー1分(すなわち1分サイクル)の条件及び5分(すなわち5分サイクル)の条件で120mm×100mm×3.0mm厚の平板形状に成形し、試験成形片を得た。
(成形条件)
シリンダー温度:260℃(図1に示すように、原料投入口(ホッパー)から出口までの5つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ60℃(ホッパー下ヒーター)、225℃(H3)、260℃(H2)、260℃(H1)、255℃(ノズルヒーター)に設定した。)
成形品体積に対する射出成形機の射出体積の比:4.5
スクリュー径:40mm
射出速度:50mm/秒
ノズルでの線速度:7.1m/秒
最大射出圧力:110MPa
保圧:60MPa
保圧速度:20mm/秒
射出タイマー:8秒
金型温度:60℃
ランナー方式:コールドランナー
ゲート箇所:1点
ゲート断面積:24mm(幅8mm×高さ3mm)
冷却タイマー:条件1)60秒 条件2)300秒
計量時のスクリュー回転数:40rpm
背圧:10%
【0094】
(実施例2および実施例3)
ビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤(住友化学(株)製、「Sumilizer GP」)の量を、それぞれ、0.08質量部または0.10質量部とした以外は実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0095】
(実施例4)
ビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤を、リン系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、「Irgafos 168」)とした以外は実施例3と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0096】
(実施例5)
オートクレーブ内に投入および混合したMAAおよびMMAを各々4質量部および96質量部とし、MAAとMMAとの混合比を変化させて最終的に得られるメタクリル系重合体組成物の重合組成を変化させ(後に示す表1参照)、かつビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤(住友化学(株)製、「Sumilizer GP」)の量を、0.05質量部とした以外は実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0097】
(実施例6~実施例8)
ビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤とその量を、それぞれ、リン系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、「Irgafos 168」)0.07質量部、0.15質量部または0.03質量部とした以外は実施例5と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0098】
(比較例1)
ビーズ状の重合体組成物にリン系酸化防止剤をブレンドしなかったこと以外は実施例1と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0099】
(比較例2)
ビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤(住友化学(株)製、「Sumilizer GP」)の量を0.30質量部とした以外は実施例5と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0100】
(比較例3)
ビーズ状の重合体組成物にブレンドしたリン系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、「Irgafos 168」)の量を0.25質量部とした以外は実施例5と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0101】
(比較例4)
(株)日本製鋼所製二軸押出機(型式:TEX30SS-30AW-2V)を使用する際の混練条件を以下のように設定したこと以外は実施例5と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
押出機温度:280℃(原料投入口から出口までの8つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ210℃、220℃、280℃、280℃、280℃、280℃、280℃、280℃に設定した。)
【0102】
(比較例5)
オートクレーブ内に投入および混合したMAAおよびMMAを各々90質量部および10質量部とし、MAAとMMAとの混合比を変化させ得られたビーズ状の重合体組成物に、重合体組成物100質量部に対して、水酸化ナトリウム水溶液25wt%とリン系酸化防止剤(住友化学(株)製、「Sumilizer GP」)0.05重量部添加した点以外は実施例6と同様にして重合体組成物を得た。最終的に得られるメタクリル系重合体組成物の重合組成を変化させたこと(後に示す表1参照)以外は実施例5と同様にして、メタクリル系重合体組成物、ならびに1分サイクルおよび5分サイクルでの試験成形片を得た。
【0103】
・分析および測定
<メタクリル系重合体組成物の重合組成の分析>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物の重合組成を、核磁気共鳴装置(Bruker社製「Avance600」(10mmクライオプローブ))で13C-NMRを測定することによって分析した。測定溶媒は重クロロホルムを用い、測定温度は27℃とし、インバースゲートプロトンデカップリング法によって測定した。パルス繰り返し時間は20秒とし、積算回数は4000回とし、化学シフト値基準はクロロホルムとした。MMAの値は、173.0~180.4ppmのピークの積分値より求めた。MAAの値は、180.4~188.0ppmのピークの積分値より求めた。MMAとMAAとが環化縮合することによって形成される無水グルタル酸構造(以下GAHとも記す)の値は、170.0~173.0ppmのピークの積分値より求めた。
【0104】
<メタクリル系重合体組成物の耐熱劣化特性の測定>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物について、耐熱劣化特性を評価した。得られたペレット状のメタクリル系重合体組成物を、80℃で12時間乾燥した後、プレス成形機((株)神藤金属工業所製「シンドー式ASF型油圧プレス」)を用いて220℃のプレス温度でプレス成形を行い、50mm×50mm×3mmの試験片を得た。次いで、得られた各々の試験片を、温度120℃に設定した恒温器(エスペック(株)製パーフェクトオーブン「PH-101」)中に400時間静置した。試験前と試験後の試験片の光路長50mmにおける黄変度を、分光光度計((株)日立ハイテクフィールディング製「日立分光光度計U-4000」)を用いて測定した。
【0105】
<試験成形片の全光線透過率(Tt)の測定>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物の1分サイクルおよび5分サイクルでの各々の試験成形片について、全光線透過率を測定した。分光光度計((株)日立ハイテクフィールディング製「日立分光光度計U-4000」)を用いて、光路長100mmでの380nmから780nmにおける全光線透過率を測定した。
【0106】
<試験成形片の黄色度(イエローインデックス(YI))の測定>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物の1分サイクルおよび5分サイクルでの各々の試験成形片について、黄色度を測定した。分光光度計((株)日立ハイテクフィールディング製「日立分光光度計U-4000」)を用いて、光路長100mmでの380nmから780nmにおける黄色度を測定した。
【0107】
<試験成形片のビカット軟化温度(VST)の測定>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物の1分サイクルおよび5分サイクルでの各々の試験成形片について、ビカット軟化温度を測定した。JIS K7206(B50法)に準拠して、ヒートデストーションテスター((株)安田精機製作所製「148-6連型」)を用いて、得られたメタクリル系重合体組成物の射出成形片を用いて、そのビカット軟化温度(℃)を測定した。
【0108】
<試験成形片の含有モノマー量の測定>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で得られたメタクリル系重合体組成物の1分サイクルおよび5分サイクルでの各々の試験成形片について、含有モノマー量、すなわちMMAモノマーおよびMAAモノマーの量を測定した。
(サンプル調整)
得られた重合体組成物の試験成形片を、図2に示すように反ゲート側の部分から2.5cm×10cm切り出し、そのうち2.5gを精秤し、アセトン(特級)10ccを加えた。完全に溶解させた後に、内部標準液(メタノールにメチルイソブチルケトン(MIBK)を1%溶解させたもの)1ccを加え、十分に攪拌させた。更に、メタノール30ccを加え、共重合体を再沈殿させた後に上澄み溶液を採取した。
(測定条件)
装置:GC-2010 Plus((株)島津製作所製)
カラム:DB-1(アジレント・テクノロジー(株)社製)
検出器:FID 2010 Plus((株)島津製作所製)
カラムオーブン条件(MMAモノマー)
初期温度:40℃(ホールド時間1分)
昇温速度:8℃/分
中間温度:120℃(ホールド時間0分)
昇温速度:20℃/分
最終温度:250℃(ホールド時間5分)
カラムオーブン条件(MAAモノマー)
初期温度:80℃(ホールド時間3分)
昇温速度:10℃/分
最終温度:300℃(ホールド時間5分)
試料気化条件(MMAモノマー)
気化室温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
圧力:50kPa
全流量:58.3mL/分
カラム流量:1.08mL/分
線速度:31.1cm/秒
パージ線量:3.0mL/分
スプリット比:50
試料気化条件(MAAモノマー)
気化室温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
圧力:64Kpa
全流量:124.3mL/分
カラム流量:1.20mL/分
線速度:36.6cm/秒
パージ線量:3.0mL/分
スプリット比:100
検出器条件
検出器温度:300℃
サンプリングレート:40msec
メイクアップガス:N
メイクアップ流量:30mL/分
H2流量:40mL/分
Air流量:400mL/分
オートサンプラー条件
注入量:1μL
上記の条件で、各重合体組成物の測定を行ったときに検出されるMMAモノマーもしくはMAAモノマーに対応するピーク面積(a1)及びMIBKに対応するピーク面積(b1)を測定した。そして、これらのピーク面積から、ピーク面積比A(=a1/b1)を求めた。
一方、MMAモノマーもしくはMAAモノマーに対するMIBKの重量比がW0(既知)である標準品を上記の条件で測定した際に検出されるMMAモノマーもしくはMAAモノマーに対応するピーク面積(a0)及びMIBKに対応するピーク面積(b0)を測定し、これらピーク面積から、ピーク面積比A0(=a0/b0)を求めた。
そして、このピーク面積比A0と、上記の重量比W0とから、ファクターf(=W0/A0)をMMAモノマーとMAAモノマーのそれぞれで求めた。
次に、上記のピーク面積比Aに上記のファクターfを乗じることにより、測定対象の上記重合体組成物に含まれるMMAモノマーもしくはMAAモノマーのMIBKに対する重量比Wを求め、この重量比Wと分析に用いた重合体組成物の射出成形片の重量から射出成形片中のMMAモノマーもしくはMAAモノマーの比率(ppm)をそれぞれ算出した。
【0109】
以下の表1に、実施例1~実施例8および比較例1~比較例5の各々の重合体組成物の重合組成の分析結果および耐熱劣化特性の評価結果、ならびに各々の試験成形片の各測定結果を示す。さらに、5分サイクルで製造された試験成形片の物性値から、1分サイクルで製造された試験成形片の物性値を引いた値、および5分サイクルで製造された試験成形片中の含有モノマー量と1分サイクルで製造された試験成形片中の含有モノマー量との差を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
上記表1から分かるように、含有モノマー増加量が1000ppm以上12000ppmの範囲にある実施例1~8は、1分サイクルで製造された成形体および5分サイクルで製造された成形体の黄色度が抑えられ、十分な耐熱性を有することが分かる。一方、含有モノマー増加量が1000ppm以下である比較例1、比較例4および比較例5は、黄色度が高く十分な透明性を有していない。また、含有モノマー増加量が12000ppm以上である比較例2および3は、特に5分サイクルで成形した成形体のビカット軟化点が低く耐熱性、耐熱劣化特性が十分ではない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の重合体組成物から構成される成形体は、黄色度が低く高い耐熱性を有している。そのため、前記成形体は、光学レンズまたは導光部材として、例えば自動車もしくはオートバイ等の車輌灯、街路灯、電気スタンドまたは家庭用一般照明等の点灯器具全般などに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0113】
1:ノズルヒーター
2:H1ヒーター
3:H2ヒーター
4:H3ヒーター
5:ホッパー下ヒーター
6:ホッパー
7:ノズル
8:試験成形片
9:ゲート
10:切り出し部分
図1
図2