(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】温度推定監視装置
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20231101BHJP
【FI】
F02C7/00 A
(21)【出願番号】P 2019132167
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-05-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】酒井 英司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智晴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 満利
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-108440(JP,A)
【文献】特開2017-227452(JP,A)
【文献】特開2008-273796(JP,A)
【文献】国際公開第2019/100082(WO,A1)
【文献】特開2001-125933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/08
F01D 9/02
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの運転情報を数値モデルの入力パラメータへと変換するデータ変換部と、
前記運転情報と前記ガスタービンの部品の温度分布とを関連付ける前記数値モデルと前記入力パラメータとに基づいて前記温度分布を推定する温度分布算出部と、
前記温度分布算出部により算出された温度分布を表示する表示部と
を備え、
前記運転情報には、空気流量、燃料流量、燃焼ガス温度、及び冷却空気温度が含まれ、
前記データ変換部は、前記ガスタービンの設計情報に基づいて、前記運転情報を前記ガスタービンの運転中における燃焼ガスの流量及び温度を含む前記入力パラメータに変換し、
前記数値モデルは、前記部品周りの熱流動と前記部品内部の熱伝導とを含めてモデル化したCHT解析結果に基づいて導出されたモデルである、
ことを特徴とする温度推定監視装置。
【請求項2】
前記数値モデルは、多項式カオス展開により温度分布を近似する近似式であることを特徴とする請求項1記載の温度推定監視装置。
【請求項3】
前記部品は、タービン翼であり、
前記データ変換部は、前記タービン翼の設計情報に基づいて、前記運転情報を変換することを特徴とする
請求項1または2に記載の温度推定監視装置。
【請求項4】
前記入力パラメータは、遮熱コーティング厚さを含むことを特徴とする
請求項1~3のいずれか一項に記載の温度推定監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度推定監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおいては、タービン翼等の部品において、高温環境下に長時間置かれるため、酸化減肉や、クリープ、疲労等が生じる可能性がある。このような損傷は、運転中の上記部品における温度分布や温度履歴に依存すると考えられる。したがって、ガスタービンの計画外停止の防止や、安定運転のためには、損傷が懸念されるタービン翼等の部品の温度分布をリアルタイムで推定・監視し、使用温度履歴を管理することが重要である。運転中のガスタービンの高温高圧下において、上記部品の温度を計測することは難しく、部品における温度分布を把握することができない。このため、例えば、非特許文献1においては、産業用ガスタービンの冷却翼の温度分布について、CHT解析を用いて検討している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】堀内 豪、「産業用ガスタービン開発へのタービン冷却翼CHT解析の適用検討」、日本ガスタービン学会誌、日本ガスタービン学会、平成30年7月、第46巻、第4号、p.298-305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような数値流体解析手法においては、タービン翼温度分布について、一つの条件を解析する為に相当の計算時間及び計算機資源が必要であり、例えば発電所にて運転中のガスタービンについて、リアルタイムで温度を推定監視することが困難である。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ガスタービンにおいて高温部品の温度分布をリアルタイムで推定監視することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、ガスタービンの運転情報を数値モデルの入力パラメータへと変換するデータ変換部と、前記運転情報と前記ガスタービンの部品の温度分布とを関連付ける前記数値モデルと前記入力パラメータとに基づいて前記温度分布を推定する温度分布算出部と、前記温度分布算出部により算出された温度分布を表示する表示部とを備える、という構成を採用する。
【0007】
第2の手段として、上記第1の手段において、前記数値モデルは、多項式カオス展開により温度分布を近似する近似式である、という構成を採用する。
【0008】
第3の手段として、上記第1または第2の手段において、前記入力パラメータは、前記ガスタービンの運転中における燃焼ガスの流量及び温度を含む、という構成を採用する。
【0009】
第4の手段として、上記第1~3のいずれかの手段において、前記部品は、タービン翼であり、前記データ変換部は、前記タービン翼の設計情報に基づいて、前記運転情報を変換する、という構成を採用する。
【0010】
第5の手段として、上記第1~4のいずれかの手段において、前記入力パラメータは、遮熱コーティング厚さを含む、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運転情報とガスタービンの部品の温度分布とを関連付ける温度推定モデルと運転データとを用いることにより、温度測定が不可能な部位についても、素早く温度推定を行うことが可能である。したがって、運転データをリアルタイムで取得することにより、各部位の温度をリアルタイムに推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る温度推定装置の概要を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る温度推定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る温度推定装置における出力結果を示すコンター図である。
【
図4】本発明の一実施形態における温度推定モデルによる計算時間と、数値流体解析による計算時間とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る温度推定監視装置の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る温度推定装置1は、例えばガスタービンの運転計画システムの一環として備えられており、ガスタービンの翼温度のリアルタイム推定を行う。この温度推定装置1は、データ抽出部2と、データ変換部3と、温度分布算出部4と、表示部5とを備えている。なお、温度推定装置1は、例えばコンピュータに一機能として組み込まれている。本実施形態におけるコンピュータは、ICチップやメモリ等のハードウェアと、メモリ等に記憶されるソフトウェアとを備えている。データ抽出部2、データ変換部3、温度分布算出部4及び表示部5は、上述のハードウェアとソフトウェアが協働することにより具現化されている。
【0015】
データ抽出部2は、ガスタービンに設けられる管理計算機から各運転データ(運転情報)を取得する。運転データには、例えば、空気流量、燃料流量や、燃焼ガスや冷却空気温度のデータが含まれている。データ抽出部2は、運転データから、温度推定監視に必要となる情報(圧縮機入口流量、燃料流量、タービン入口ガス温度、冷却空気等)を抽出する。
【0016】
データ変換部3は、ガスタービンの設計情報(冷却空気のバランス、遮熱コーティング厚さ等)を予め記憶している。データ変換部3は、上記設計情報に基づいて、データ抽出部2により抽出された情報を温度分布算出部4の入力パラメータの形式に合うように変換する。なお、データ変換部3は、データ抽出部2と同期して上記データ変換を行う。また、データ変換部3は、メーカ設計情報中に冷却空気のバランスの情報がない場合には、冷却空気のバランスを特定の値に仮定してデータ変換を行う。
【0017】
温度分布算出部4は、予め求められた温度推定モデル式を記憶している。そして、温度分布算出部4は、データ変換部3により変換された各パラメータを上記温度推定モデル式に代入することにより、各部位における温度を推定する。
【0018】
表示部5は、モニタへと翼の部位ごとに温度分布算出部4により推定された温度分布を表示する。
【0019】
続いて、温度推定モデル式の導出について説明する。
本実施形態においては、温度推定にあたり、少数のサンプル計算結果(CHTによる解析結果)に基づいて、翼温度の変化を予測するため、温度推定モデルの導出に、多項式カオス展開を用いている。まず、入力パラメータXが正規分布に従うものである場合、平均値をμ、標準偏差をσとして、確率変数ξを用いて下式(1)のように表すことができる。
【0020】
【0021】
そして、式(1)における確率変数ξに対する出力T(翼温度)は、係数をai(x)として、下式(2)のように近似することができる。なお、式(2)における基底関数ψi(ξ)は、エルミート多項式であり、運転中の冷却空気や燃焼ガスの温度や流量、あるいは翼形状といった入力パラメータ毎に設定される。翼形状については、メーカ設計情報におけるCADデータ等を取得している。
【0022】
【0023】
本実施形態においては、式(2)を温度推定モデル(数値モデル)として用いる。この温度推定モデルは、運転データに基づく入力パラメータと、翼温度分布とを直接関係づける代数式である。また、式(2)の係数をai(x)の算出にあたり必要となるサンプル計算数Npは、展開次数をd、入力パラメータの数をnvとして、式(3)のように表される。
【0024】
【0025】
このような多項式カオス展開を用いた温度推定モデルは、SC法、Kriging法等の他の推定手法と比較して、式の形が単純であり、技術計算言語あるいはライブラリを必要としないため、発電所の汎用コンピュータ上で容易に計算が行うことができる。また各入力パラメータの多項式の形で翼温度分布が記述されるため、翼温度に対する各入力パラメータの影響度が容易に把握でき、異常な高温の発生時に、これを抑制するため、運転条件の調整を容易に行うことができる。予め行う少ないサンプル計算結果に基づいて温度推定モデルを導出しておくことで、任意の運転条件に対応して、新たにCHT解析を行うことなく温度推定モデルを用いて高速に温度分布を推定することができる。
【0026】
また、本実施形態においては、入力パラメータXとして、主流全温Tg、主流流量Gg、ガスタービンにおける冷却空気の冷却空気全温Tc、冷却空気流量Gc、遮熱コーティング厚さnTBCを選定した。そして、上記の入力パラメータXについて、運転条件の広範な変化に対応可能な温度推定モデルとするため、入力パラメータの正規分布を広く設定し、エルミート多項式に基づいて計算条件を設定し、式(2)における係数ai(x)を算出した。
【0027】
続いて、本実施形態に係る温度推定装置1の動作について、
図2を参照して説明する。
本実施形態に係る温度推定装置1においては、まず、データ抽出部2が、ガスタービンに設けられる管理計算機から各運転データを取得する(ステップS1)。そして、データ抽出部2は、運転データから、温度監視に必要となる情報(圧縮機入口流量、燃料流量、タービン入口ガス温度、冷却空気温度等)を抽出する(ステップS2)。なお、温度監視に必要となる情報とは、上記温度推定モデル式において必要となる入力パラメータXを導出するための情報である。
【0028】
そして、データ変換部3は、データ抽出部2により抽出された各情報のデータ変換を行う(ステップS3)。具体的な一例として、ステップS3において、データ変換部3は、圧縮機入口流量Gcomp、燃料流量Gfuel、タービン入口ガス温度Tls及び冷却空気温度Tlccと、メーカ設計情報であるロータ冷却空気流量Grot、1~4段の静翼の冷却空気流量G1cc~G1cc、動翼の冷却空気流量G1sc及び静翼のシール空気流量G1csとに基づいて、下式(4)~(7)により、初段動翼入口における主流流量G1s及び初段動翼入口温度T1sを算出する。また、遮熱コーティング厚さについては、データ変換部3が、遮熱コーティングの運転中における減肉量を計測したデータを予め記憶しており、時間経過に応じて、遮熱コーティングの推定厚さを算出する。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
次に、温度分布算出部4は、式(2)に基づいて、翼における部位(座標)ごとの温度分布を算出する(ステップS4)。ステップS4においては、翼温度を算出すると共に、温度データを記憶媒体へと蓄積する。
【0034】
そして、表示部5は、例えば、
図3(a)~(d)に示すように、温度分布算出部4により算出された翼温度の分布を、色・あるいは濃度情報へと変換し、コンター図により示す(ステップS5)。また、表示部5は、閾値を設定することにより、算出された各部位の翼温度から特に高温となる部位を抽出し、特に高温となる部位について、温度を表示する。なお、本実施形態における温度推定モデルは、翼形状を考慮したCHT解析結果に基づいて導出されているため、翼内部の温度についても推定監視が可能である。
【0035】
温度推定装置1は、上記のステップS1~S5について、運転データの入力頻度(例えば、数秒に1回程度)に合わせて、都度実施する。これにより、各部位のリアルタイムによる温度監視が可能である。
【0036】
本実施形態によれば、運転データと温度分布とを直接関係づける温度推定モデルと、更新される運転データとを用いることにより、翼温度を推定することが可能である。
図4には、数値流体解析による計算時間と、本実施形態の温度推定モデルによる計算時間を比較した対数グラフを示している。この
図4に示すように、温度推定モデルにおいては、1回の計算を1秒程度で完了可能である。したがって、実際にセンサ等によりリアルタイムの温度測定が困難な部位においても、リアルタイムの温度を推定監視することが可能である。
【0037】
また、本実施形態によれば、温度推定モデルとして、多項式カオス展開による近似式を用いている。これにより、任意の運転条件に対応してその都度計算処理に時間のかかるCHT解析を行う必要が無く、迅速に推定温度を算出可能である。したがって、温度推定装置1は、リアルタイムでの温度推定が容易に実施可能である。
【0038】
また、本実施形態によれば、入力パラメータとして、主流全温Tg、主流流量Gg、ガスタービンにおけるフイルム冷却空気の冷却空気全温Tc、冷却空気流量Gc、遮熱コーティング厚さnTBCを用いている。上記入力パラメータは、データ変換部3により、運転データとメーカ設計情報とから変換することが可能であり、算出が容易である。
【0039】
また、本実施形態においては、温度推定装置1は、表示部5により温度分布をコンター図にて表示する。これにより、タービン翼の温度分布の視認性が高くなる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
上記実施形態においては、温度推定モデルとして、上式(2)を用いるものとしたが、本発明はこれに限定されない。温度推定モデルは、取得可能なパラメータや、メーカ設計情報等に基づき、適宜変更が可能である。また、本実施形態においては、多項式カオス展開による近似を行ったが、SC法におけるラグランジュ補間、Kriging法等の他の推定手法を用いるものとしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、コンター図により算出された翼温度を示すものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、算出された翼温度は、特に高温の部位のみを数値で表示するものとしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態においては、出力として翼温度を示すものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、タービン翼の余寿命を評価するものとしてもよい。タービン翼においては、部分負荷運転時においてタービン翼温度が低くなるため、寿命消費が抑えられる傾向を有している。したがって、温度推定装置1は、推定した翼温度を記録し、予め記憶しているクリープ寿命のマスターカーブとあわせて部分負荷運転を指示することにより、タービン翼の使用可能時間の延伸を行うことが可能である。
【0044】
また、上記実施形態においては、温度推定装置1は、タービン翼の温度を推定するものとしたが、本発明はこれに限定されず、形状のデータを取得可能な部品であれば、タービンにおける他部品の温度推定を行うものとしてもよい。また、この場合、入力パラメータについても、他の部位における冷却空気や燃焼ガスの流量または温度を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 温度推定装置
2 データ抽出部
3 データ変換部
4 温度分布算出部
5 表示部