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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】エッチング液組成物及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/30 20060101AFI20231101BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C23F1/30
H05K3/06 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553090
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2019039614
(87)【国際公開番号】W WO2020080178
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2018195565
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】齋尾 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】大宮 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 珠美
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-028385(JP,A)
【文献】特公昭48-008704(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第2003-0079322(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0048144(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-1/46
H05K 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有材料をエッチングするために用いられるエッチング液組成物であって、
(A)過酸化水素0.5~15質量%、
(B)カルボン酸塩0.05~60質量%、及び
水を含有し、
前記(B)カルボン酸塩が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム二水和物、及びクエン酸三アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
pHが2.5以上であるエッチング液組成物。
【請求項2】
前記(B)カルボン酸塩が、クエン酸三ナトリウム及びクエン酸三ナトリウム二水和物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記(B)カルボン酸塩の濃度が、0.1~30質量%である請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
さらに、(C)カルボン酸0.1~30質量%を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
前記(C)カルボン酸が、クエン酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて銀含有材料をエッチングする工程を有するエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有材料をエッチングするために用いるエッチング液組成物、及びそれを用いたエッチング方法に関する。さらに詳しくは、微細パターンの回路配線を形状不良なく良好にエッチングしうる銀含有材料用のエッチング液組成物、及びそれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に回路を形成したプリント配線板(又はフィルム)が、電子部品や半導体素子等を実装するために広く用いられている。これらのプリント配線板等に用いられる配線には銅を用いたものが多いが、銀を用いた配線についても活発に検討されている。そして、近年の電子機器の小型化や高機能化の要求に伴い、プリント配線板等に対しては薄型化や回路配線の高密度化が望まれている。高密度な回路配線をウェットエッチングで形成する方法としては、サブトラクティブ法やセミアディティブ法と呼ばれる方法がある。
【0003】
微細パターンの回路配線を形成するためには、エッチング部分の残膜がないこと、上部からみた回路配線の側面が直線となること、回路配線の断面が矩形となること、高いエッチングファクターを示すこと、エッチング速度が速いこと、所望の幅の配線であること、及び基体や周辺の部材へのダメージがないことが理想である。
【0004】
銀をエッチングするために用いられるエッチング液について、これまでに多数報告されている。例えば、特許文献1には、銀を主成分とする金属薄膜をエッチングするために用いられる、リン酸、硝酸、酢酸、及び水を配合したエッチング液組成物が開示されている。また、特許文献2には、ヨウ素とヨウ化物を水性媒体中に含有させた銀系薄膜用エッチング液が開示されている。さらに、特許文献3には、硫酸第2鉄を有効成分として含有する酸性水溶液からなる銀薄膜用エッチング液が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、酢酸等のカルボン酸化合物と過酸化水素を含有する銀メッキ層溶解液が開示されている。なお、特許文献4には、酢酸よりも過酸化水素の含有量のほうが多いこと、及び過酸化水素の含有量は900mL/L以上990mL/L以下であることが好ましいこと等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-176115号公報
【文献】特開2003-213460号公報
【文献】特開平10-060671号公報
【文献】特開2012-194024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の銀含有材料用のエッチング液組成物を用いた場合、いずれもエッチング速度が遅いことや、細線の腹部に大きな細りが発生する場合が多いことが課題となっていた。また、特許文献4で開示された溶解液は、高濃度の過酸化水素が爆発的に分解する可能性があるため、取り扱いに注意を要するものであった。さらに、特許文献4で開示された溶解液は、細線の細り幅が大きくなりやすいため、微細なパターンが形成しにくいとともに、細線が基体から剥がれやすくなるといった課題があった。
【0008】
したがって、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、より速い速度で銀含有材料をエッチングすることができ、かつ、腹部の細り幅が少ない細線を形成することが可能な銀含有材料用のエッチング液組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記エッチング液組成物を用いたエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の成分を特定濃度で含有させるとともに、pHを所定の範囲としたエッチング液組成物が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、銀含有材料をエッチングするために用いられるエッチング液組成物であって、(A)過酸化水素0.1~30質量%、(B)カルボン酸塩0.05~60質量%、及び水を含有し、pHが2.5以上であるエッチング液組成物が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記のエッチング液組成物を用いて銀含有材料をエッチングする工程を有するエッチング方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より速い速度で銀含有材料をエッチングすることができ、かつ、腹部の細り幅が少ない細線を形成することが可能な銀含有材料用のエッチング液組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記エッチング液組成物を用いたエッチング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。本明細書における「エッチング」とは、化学薬品などの腐食作用を利用した塑形又は表面加工の技法を意味する。本発明の銀含有材料用エッチング液組成物の具体的な用途としては、例えば、除去剤、表面平滑化剤、表面粗化剤、パターン形成用薬剤、基体に微量付着した成分の洗浄液などを挙げることができる。本発明の銀含有材料用エッチング液は、銀を含有する層の除去速度が速いことから除去剤として好適に用いることができる。また、3次元構造を有する微細な形状のパターンの形成に用いると、矩形などの所望の形状のパターンを得ることができるため、パターン形成用薬剤としても好適に用いることができる。さらに、本明細書における「銀含有材料」は、銀を含有するものであればよく、例えば、金属銀(銀単体);銀-銅合金、銀-スズ合金等の銀合金;銀ナノワイヤー、銀ナノ粒子、導電性ポリマーと銀を含有する材料、塩化銀、酸化銀などを挙げることができる。なかでも、銀含有材料は、銀を1質量%以上含有する材料が好ましく、銀を5質量%以上含有する材料がさらに好ましい。
【0014】
上記の導電性ポリマーとしては、例えば、カーボンナノチューブを含有するポリマー、ポリピロール、ポリ[2-メトキシ-5-(3’,7’-ジメチルオクチルオキシ)1,4-フェニレンビニレン](MDMO-PPV)、1-(3-メトキシカルボニル)-プロピル-1-フェニル[6,6]C61(PCBM)、ポリ(3-ヘキシル-チオフェン)ポリマー、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PeDOT)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、及びこれらのポリマーの組み合わせ等を挙げることができる。
【0015】
本発明の一実施形態であるエッチング液組成物は、銀含有材料をエッチングするために用いられる液状の組成物であり、(A)過酸化水素0.1~30質量%、(B)カルボン酸塩0.05~60質量%、及び水を含有し、pHが2.5以上である。
【0016】
エッチング液組成物中の(A)過酸化水素(以下、「(A)成分」とも記す)の濃度は、0.1~30質量%である。(A)成分の濃度が0.1質量%未満であると、エッチング速度が著しく遅くなる。一方、(A)成分の濃度が30質量%超であると、エッチング速度が速くなりすぎてしまい、エッチング速度を制御することが困難になる。(A)成分の濃度が0.5~15質量%であると、エッチング速度が制御可能な範囲で速いことから好ましい。
【0017】
エッチング液組成物に含有させる(B)カルボン酸塩(以下、「(B)成分」とも記す)は、周知一般のカルボン酸塩であればよい。(B)成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等の脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族多価カルボン酸;乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシ酸;安息香酸、サリチル酸、没食子酸、桂皮酸等の芳香族モノカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、メリト酸、ビフェニルジカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸;ピルビン酸等のオキソカルボン酸の塩を挙げることができる。
【0018】
ルボン酸塩を構成するカウンターカチオンとしては、アンモニウムイオンや金属イオンを挙げることができ、アンモニウムイオンや、アルカリ金属、アルカリ土類金属のイオンを好ましく使用することができる。なかでも、アンモニウムイオンが好ましい。
ルボン酸塩のなかでも、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸ナトリウム塩及びこれらの水和物;酢酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸二アンモニウムなどの有機カルボン酸アンモニウム塩及びこれらの水和物を用いると、細線の細り幅をより小さくすることができるために好ましい。なかでも、酢酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸二アンモニウム及びこれらの水和物が特に好ましい。
【0019】
エッチング液組成物中の(B)成分の濃度は、0.05~60質量%である。(B)成分の濃度が0.05質量%未満であると、エッチング速度が著しく遅くなる。一方、(B)成分の濃度が60質量%超であると、塩が溶解しにくくなる場合がある。(B)成分の濃度が0.05~50質量%であると、エッチング速度が制御可能な範囲で速いことから好ましく、0.1~30質量%であることが特に好ましい。
【0020】
エッチング液組成物は、(A)成分、(B)成分、及び水を含有する水溶液であり、pHが2.5以上である。エッチング液組成物のpHが3.5~10であると、エッチング後の細線の剥がれを抑制する効果がより高いために好ましく、pHが4~9であることが特に好ましい。エッチング液組成物のpHが2.5未満であると、細線が基体から剥がれてしまう場合がある。
【0021】
エッチング液組成物には、さらに、(C)カルボン酸(以下、「(C)成分」とも記す)を含有させることが好ましい。(C)成分は、エッチング速度を遅くする効果がある。このため、(C)成分を含有させることで、エッチング速度を調整することができ、非常に精密な細線を形成することが可能になる。
【0022】
ルボン酸としては、前述の(B)成分((B)カルボン酸塩)を構成するカルボン酸の具体例と同様のものを例示することができる。(C)成分は、(B)成分を構成するカルボン酸と同一であってもよく、異なってもよい。エッチング液組成物中の(C)成分の濃度は、0.1~30質量%であることが好ましい。(C)成分の濃度が0.1質量%未満であると、エッチング速度を遅くする効果が得られない場合がある。一方、(C)成分の濃度が30質量%超としても、(C)成分を配合したことで得られる効果は向上しない。
【0023】
エッチング液組成物は、水を含有する。エッチング液組成物において、水を溶媒として使用することができ、エッチング液組成物を水溶液の形態とすることができる。エッチング液組成物中の水の含有量は、前述の(A)~(C)成分の濃度に応じて、その残部とすることが好ましい。後述する添加剤を使用する場合における、エッチング液組成物中の水の含有量は、(A)~(C)成分及び添加剤の濃度に応じて、その残部とすることが好ましい。
【0024】
エッチング液組成物には、前述の各成分及び水に加えて、本発明の効果を阻害することのない範囲で、周知の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、還元剤、界面活性剤、エッチング液組成物の安定化剤、各成分の可溶化剤、消泡剤、比重調整剤、粘度調整剤、濡れ性改善剤、酸化剤、ポリアルキレングリコール化合物、アゾール類化合物、ピリミジン類化合物、チオ尿素類化合物、アルキルピロリドン類化合物、ポリアクリルアミド類化合物、及び過硫酸塩を挙げることができる。これらの添加剤の濃度は、一般的に、それぞれ0.001~50質量%の範囲である。
【0025】
ポリアルキレングリコール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコールジメチルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタノール及び1,4-ブタノール等のジオールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドをブロック又はランダム付加させたポリアルキレングリコールを挙げることができる。
【0026】
界面活性剤としては、例えば、フルオロアルキルベタイン及びフルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル等のフッ素系両性界面活性剤;上記ポリアルキレングリコール化合物以外のノニオン系界面活性剤を挙げることができる。
【0027】
アゾール類化合物としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、及び2-メチルベンゾイミダゾール等のアルキルイミダゾール類;ベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-ウンデシルベンゾイミダゾール、2-フェニルベンゾイミダゾール、及び2-メルカプトベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール類;1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、4-アミノベンゾトリアゾール、1-ビスアミノメチルベンゾトリアゾール、1-メチル-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び5-クロロベンゾトリアゾール等のトリアゾール類;1H-テトラゾール、5-アミノ-1H-テトラゾール、5-メチル-1H-テトラゾール、5-フェニル-1H-テトラゾール、5-メルカプト-1H-テトラゾール、1-フェニル-5-メルカプト-1H-テトラゾール、1-シクロヘキシル-5-メルカプト-1H-テトラゾール、及び5,5’-ビス-1H-テトラゾール等のテトラゾール類;並びにベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-フェニルチアゾール、2-アミノベンゾチアゾール、2-アミノ-6-ニトロベンゾチアゾール、2-アミノ-6-メトキシベンゾチアゾール、及び2-アミノ-6-クロロベンゾチアゾール等のチアゾール類等を挙げることができる。
【0028】
ピリミジン類化合物としては、例えば、ジアミノピリミジン、トリアミノピリミジン、テトラアミノピリミジン、及びメルカプトピリミジン等を挙げることができる。
【0029】
チオ尿素類化合物としては、例えば、チオ尿素、エチレンチオ尿素、チオジグリコール、メルカプタン等を挙げることができる。
【0030】
アルキルピロリドン類化合物としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、N-アミル-2-ピロリドン、N-ヘキシル-2-ピロリドン、N-ヘプチル-2-ピロリドン、及びN-オクチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。
【0031】
ポリアクリルアミド類化合物としては、例えば、ポリアクリルアミド、及びt-ブチルアクリルアミドスルホン酸等を挙げることができる。
【0032】
過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸カリウムを挙げることができる。
【0033】
本発明の一実施形態であるエッチング方法は、上述のエッチング液組成物を用いて銀含有材料をエッチングする工程を有する。銀含有材料をエッチングする方法は特に限定されず、一般的なエッチング方法を採用すればよい。例えば、ディップ式、スプレー式、スピン式等によるエッチング方法を挙げることができる。被エッチング材料である銀含有材料としては、例えば、銀-銅合金等の銀合金や銀を挙げることができる。なかでも、銀が好ましい。また、エッチング方法や条件についても特に限定されず、バッチ式、フロー式、エッチャントの酸化還元電位、比重、酸濃度によるオートコントロール式等の周知一般の様々な方式を採用することができる。
【0034】
エッチングの対象である銀含有材料は、通常、基体上に被膜の状態で形成されている。基体としては、当該技術分野で一般に用いられている材料から形成されたものを用いることができる。基体の材質としては、ガラス、シリコン、PP、PE、PETなどを挙げることができる。
【0035】
基体上に銀含有材料によって形成された被膜を、エッチング液組成物を用いてエッチングすることで、様々な細線からなる配線パターンを形成することができる。特に、本発明の一実施形態であるエッチング液組成物は、積層被膜をエッチングする場合に一括エッチングが可能である。このため、積層被膜を構成する層ごとにエッチング液組成物の種類を変えてエッチングを行う選択エッチングを行う必要がなく、エッチング処理の工程を簡素化することができる。
【0036】
配線パターンに対応するレジストパターンを被膜上に形成し、エッチング後にレジストパターンを剥離させることで、配線パターンを形成することができる。レジストの種類は、特に限定されず、ドライフィルムレジストなどのフォトレジストを用いることができる。
【0037】
ディップ式のエッチング方法におけるエッチング条件は特に限定されず、基体(被エッチング体)の形状や膜厚等に応じて任意に設定すればよい。例えば、エッチング温度は10~40℃とすることが好ましく、20~40℃とすることがさらに好ましい。エッチング液組成物の温度は反応熱により上昇することがある。このため、必要に応じて、エッチング液組成物の温度を上記の範囲内に維持するように公知の手段によって温度制御してもよい。また、エッチング時間は、エッチングが完了するのに十分な時間とすればよく、特に限定されない。例えば、膜厚1nm~100μm程度であれば、上記の温度範囲で10秒~1時間程度エッチングすればよい。
【0038】
スプレー式のエッチング方法によって、ガラスエポキシ基体上に銀が成膜された基体をエッチングする場合、エッチング液組成物を適切な条件で基体に噴霧することで、ガラスエポキシ基体上の銀をエッチングすることができる。
【0039】
スプレー式のエッチング方法におけるエッチング条件は特に限定されず、被エッチング体の形状や膜厚等に応じて任意に設定すればよい。例えば、噴霧条件は0.01~1.0MPaの範囲から選択することができ、好ましくは0.02~0.1MPaの範囲、さらに好ましくは0.03~0.08MPaの範囲である。本発明のエッチング液組成物を用いてスプレー法によって細線を形成する場合、スプレー圧を0.03~0.08MPaの範囲とすると、形成される細線の上部の幅と下部の幅との差を非常に小さくできるために特に好ましい。また、エッチング温度は10~60℃とすることが好ましく、20~40℃とすることがさらに好ましい。エッチング液組成物の温度は反応熱により上昇することがある。このため、必要に応じて、エッチング液組成物の温度を上記の範囲内に維持するように公知の手段によって温度制御してもよい。また、エッチング時間は、エッチングが完了するのに十分な時間とすればよく、特に限定されない。例えば、膜厚1nm~100μm程度であれば、上記の温度範囲で10秒~1時間程度エッチングすればよい。
【0040】
本発明の一実施形態であるエッチング方法は、エッチングの繰り返しによるエッチング液組成物の劣化を回復させるために、エッチング液組成物に補給液を加える工程をさらに有することが好ましい。特に、前述のオートコントロール式のエッチングの場合、エッチング装置に補給液を予めセットしておけば、エッチング液組成物に補給液を適宜添加することができる。補給液としては、例えば、(A)成分、(B)成分、及び水を含有する水溶液や、(B)成分及び水を含有する水溶液などを用いることができる。各成分の濃度は、エッチング液組成物中の各成分の濃度の3~20倍程度とすればよい。この補給液には、エッチング液組成物に必須成分として又は任意成分として含有される前述の各成分を必要に応じて添加してもよい。
【0041】
上述のエッチング液組成物及びエッチング方法によれば、微細パターンの精密な回路配線を形成することができる。このため、上述のエッチング液組成物及びエッチング方法は、タッチセンサー用の電極形成等のプリント配線基板のほか、ファインピッチが要求されるパッケージ用基板、COF、及びTAB用途のサブトラクティブ法や、セミアディティブ法に好適に使用することができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0043】
<エッチング液組成物(1)>
(実施例1~13)
表1に示す配合となるように各成分を混合してエッチング液組成物(実施例組成物No.1~13)を得た。表1中、(A)成分及び(B)成分以外の成分は、エッチング液組成物の合計が100質量%となるように配合した水である。
【0044】
【0045】
(比較例1~6)
表2に示す配合となるように各成分を混合してエッチング液組成物(比較例組成物1~6)を得た。表2中、(A)成分及び(B)成分以外の成分は、エッチング液組成物の合計が100質量%となるように配合した水である。
【0046】
【0047】
<エッチング方法(1)>
(実施例14~26)
ガラス基板上に金属銀、銀ナノワイヤー、及び銀合金層の積層膜(厚み80~100nm)を形成した基体上に、ポジ型ドライフィルムレジストを用いて幅60μm、開口部60μmのレジストパターンを形成した。レジストパターンを形成した基体を50mm×50mmに切断してテストピースを得た。得られたテストピースについて、実施例組成物No.1~13を用いて、配線間の残渣が目視で確認できなくなるまでの時間、35℃、撹拌下でディップ式によるエッチング処理を行うことで、評価用パターンNo.1~13を形成した。
【0048】
(比較例7~12)
実施例組成物No.1~13に代えて、比較例組成物1~6をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例14~26と同様にして、比較用パターン1~6を形成した。
【0049】
<評価>
(評価1)
レーザー顕微鏡を使用して、細線の剥がれ、及びレジストパターンの幅と細線の幅とのズレを評価した。細線の剥がれについては、細線に剥がれが確認されたものを「-」と評価し、細線に剥がれが確認されなかったものを「+」と評価した。また、レジストパターンの幅と細線の幅とのズレについては、下記式(A)から、エッチング処理前のレジストパターンの幅と、形成された細線上部の幅との差の絶対値「L」を算出して評価した。「L」の値が「0」である場合は、エッチング処理前のレジストパターンの幅と、形成された細線の幅が同じであり、所望とする幅の細線が形成されたことを意味する。一方、「L」の値が大きいほど、エッチング処理前のレジストパターンの幅と、形成された細線の幅との差が大きく、所望とする幅の細線が形成されなかったことを意味する。評価結果を表3に示す。
【0050】

|(エッチング処理前のレジストパターンの幅)-(形成された細線上部の幅)|
・・・(A)
【0051】
【0052】
表3に示す結果から、評価例1-1~1-13では剥がれが確認されなかったこと、及びLがいずれも小さい値を示したことがわかる。一方、比較評価例1-1ではエッチングすることができなかった。また、比較評価例1-2~1-6では、剥がれが発生している箇所が確認できた。さらに、比較評価例1-2~1-6では、剥がれていない細線のLも比較的大きい値を示していた。
【0053】
(評価2)
評価1の結果が良好であった評価用パターンNo.3、4、及び8、並びに剥がれが確認されたもののLが比較的小さい値だった比較用パターン4について、エッチングに要した時間S(配線間の残渣が目視で確認できなくなるまでの時間(秒))を評価した。配線間の残渣が目視で確認できなくなるまでの時間が短いほど、生産性よく細線を形成することができると判断することができる。評価結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
表4に示す結果から、評価例2-1~2-3では、比較評価例2-1よりも非常に短い時間でエッチングが完了したことがわかる。なかでも、クエン酸三アンモニウムを(B)成分として用いた評価例2-1及び2-2では、特に優れた生産性で細線を形成できることがわかる。
【0056】
<エッチング液組成物(2)>
(実施例27~31)
表5に示す配合となるように各成分を混合してエッチング液組成物(実施例組成物No.14~18)を得た。表5中、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分以外の成分は、エッチング液組成物の合計が100質量%となるように配合した水である。
【0057】
【0058】
<エッチング方法(2)>
(実施例32~36)
実施例組成物No.1~13に代えて、実施例組成物No.14~18のエッチング液組成物を用いたこと以外は、前述の実施例14~26と同様にして、評価用パターンNo.14~18を形成した。
【0059】
<評価>
(評価3)
評価用パターンNo.14~18について、前述の評価1及び評価2と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
【0060】
【0061】
表6に示す結果から、評価用パターンNo.14~18では剥がれが確認されなかったこと、及びLがいずれも小さい値を示したことがわかる。なかでも、評価用パターンNo.15~17のLが非常に小さい値であったことがわかる。評価例2-1~2-3の「S(秒)」(表4)と、評価例3-1~3-5の「S(秒)」(表6)とを比較すると、評価例3-1~3-5の「S(秒)」のほうが大きい。すなわち、評価例3-1~3-5では、評価例2-1~2-3と比較して、ゆっくりとエッチングできたことがわかる。
【0062】
<エッチング方法(3)>
(実施例37~49)
ガラス基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸からなる複合物である導電性ポリマーに、金属銀及び銀ナノワイヤーを配合した材料を積層した基体を用意した。用意した基体上に、ポジ型ドライフィルムレジストを用いて幅60μm、開口部60μmのレジストパターンを形成した。レジストパターンを形成した基体を50mm×50mmに切断してテストピースを得た。得られたテストピースについて、実施例組成物No.1~13を用いて、配線間の残渣が目視で確認できなくなるまでの時間、35℃、撹拌下でディップ式によるエッチング処理を行うことで、評価用パターンNo.19~31を形成した。
【0063】
<評価>
(評価4)
評価用パターンNo.19~31について、前述の評価1と同様にして、エッチング処理前のレジストパターンの幅と、形成された細線上部の幅との差の絶対値「L」を算出して評価した。評価結果を表7に示す。
【0064】
【0065】
表7に示す結果より、導電性ポリマーに銀材料を配合した材料に対しても、腹部の細り幅が少ない細線を形成できることを確認した。