(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20231101BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231101BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20231101BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20231101BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/28 B
H01J37/28 A
H01J37/22 502Z
H01J37/20 H
H01L21/66 C
(21)【出願番号】P 2022558613
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2020040104
(87)【国際公開番号】W WO2022091180
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】白崎 保宏
(72)【発明者】
【氏名】庄子 美南
(72)【発明者】
【氏名】三次 将太
(72)【発明者】
【氏名】笹氣 裕子
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-135833(JP,A)
【文献】特開2012-009247(JP,A)
【文献】特開2003-151483(JP,A)
【文献】特開2008-130582(JP,A)
【文献】特開2003-100823(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102603(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/053967(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00―G01N 23/2276
H01J 37/00―H01J 37/36
H01L 21/00―H01L 21/98
G01B 15/00―G01B 15/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、
光を前記試料に照射する光学系と、
前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、
所定の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて前記光を前記試料に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
前記所定の電子線パルス条件及び前記所定の光照射条件を設定する計算装置とを有し、
前記計算装置は、複数の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、第1の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量と前記第1の電子線パルス条件とは異なる第2の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量との差分に基づき、前記複数の光照射条件のいずれかを前記所定の光照射条件に設定する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記計算装置は、前記所定の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、第3の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量と第4の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量との差分が所定のしきい値を超え、前記第3の電子線パルス条件による前記パルス荷電粒子線の非照射時間であるインターバル時間と前記第4の電子線パルス条件によるインターバル時間との和が最小となる、あるいは所定のしきい値以下となる2つの電子線パルス条件を前記所定の電子線パルス条件に設定する荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記計算装置は、前記所定の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、前記2つの前記所定の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより得られた第1の二次荷電粒子信号量と第2の二次荷電粒子信号量とに基づき、前記所定の光照射条件で前記光が照射された状態での前記試料の抵抗値及び容量値を推定する荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御部は、前記光の前記試料への照射を行うことなく、任意の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、
前記計算装置は、前記光の前記試料への照射を行うことなく、前記任意の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射することにより得られた第3の二次荷電粒子信号量と推定した前記試料の容量値とに基づき、前記光が照射されていない状態での前記試料の抵抗値を推定する荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御部が制御する電子線パルス条件は前記パルス荷電粒子線の非照射時間であるインターバル時間であり、前記制御部が制御する光照射条件は前記光の照射光強度である荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御部は、前記検出器が、前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出するサンプリングタイミングを制御する荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項3または請求項4において、
前記計算装置は、前記試料について、前記試料の容量値ごとに前記試料の抵抗値をパラメタとして、前記電子線パルス条件に対する二次荷電粒子信号量の依存性についての情報を保持するデータベースを有しており、前記データベースを参照して前記試料の抵抗値または容量値を推定する荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項2において、
前記計算装置が前記所定の光照射条件を設定した後、前記試料の帯電状態がリセットされ、前記所定の電子線パルス条件を設定するため、前記制御部は、前記所定の光照射条件で帯電状態がリセットされた前記試料に前記光を照射するよう前記光学系を制御する荷電粒子線装置。
【請求項9】
パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、
光を前記試料に照射する光学系と、
前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、
所定の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて前記光を前記試料に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
前記所定の電子線パルス条件及び前記所定の光照射条件を設定する計算装置とを有し、
前記計算装置は、前記光を前記試料に照射することなく第1の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する第1の二次荷電粒子信号量と前記第1の電子線パルス条件よりも前記パルス荷電粒子線の非照射時間であるインターバル時間の長い第2の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する第2の二次荷電粒子信号量との中間値を求め、前記試料に前記光を照射し、任意の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量が前記中間値相当の値となる光照射条件を前記所定の光照射条件に設定し、前記所定の光照射条件を設定したときの前記任意の電子線パルス条件を前記所定の電子線パルス条件に設定する荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記中間値は、前記第1の二次荷電粒子信号量及び前記第2の二次荷電粒子信号量の平均またはあらかじめ指定した計算式に代入して求められる荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記第1の二次荷電粒子信号量が検出されたときの前記試料はその帯電が飽和状態にあり、前記第2の二次荷電粒子信号量が検出されたときの前記試料は除電されている荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項9において、
前記計算装置は、前記試料の基準サンプルの抵抗値及び容量値と、前記所定の光照射条件で前記基準サンプルに前記光を照射し、前記所定の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量とを含む基準サンプル情報を保持しており、
前記計算装置は、前記所定の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、前記所定の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより得られた二次荷電粒子信号量と、前記計算装置が保持する前記基準サンプル情報とに基づき、前記試料の抵抗値及び容量値を推定する荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項9において、
前記制御部が制御する電子線パルス条件は前記パルス荷電粒子線の非照射時間であるインターバル時間であり、前記制御部が制御する光照射条件は前記光の照射光強度である荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項9において、
前記制御部は、前記検出器が、前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出するサンプリングタイミングを制御する荷電粒子線装置。
【請求項15】
パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、
光を前記試料に照射する光学系と、
前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、
所定の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて前記光を前記試料に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
前記試料の電気特性として抵抗値と容量値とを推定する計算装置とを有し、
前記計算装置は、前記所定の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、第1の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する第1の二次荷電粒子信号量と前記第1の電子線パルス条件とは異なる第2の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する第2の二次荷電粒子信号量とに基づき、前記所定の光照射条件で前記光が照射された状態での前記試料の抵抗値及び容量値を推定し、
前記制御部は、前記光の前記試料への照射を行うことなく、任意の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、
前記計算装置は、前記光の前記試料への照射を行うことなく、前記任意の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射することにより得られた第3の二次荷電粒子信号量と推定した前記試料の容量値とに基づき、前記光が照射されていない状態での前記試料の抵抗値を推定する荷電粒子線装置。
【請求項16】
パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、
光を前記試料に照射する光学系と、
前記パルス荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、
所定の電子線パルス条件にて前記パルス荷電粒子線を前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて前記光を前記試料に照射するよう前記光学系を制御する制御部と、
前記試料の基準サンプルの抵抗値及び容量値と、前記所定の光照射条件で前記基準サンプルに前記光を照射し、前記所定の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより前記検出器が検出する二次荷電粒子信号量とを含む基準サンプル情報を保持し、前記試料の電気特性として抵抗値と容量値とを推定する計算装置とを有し、
前記計算装置は、前記所定の光照射条件で前記試料に前記光を照射し、前記所定の電子線パルス条件で前記パルス荷電粒子線を照射することにより得られた二次荷電粒子信号量と、前記計算装置が保持する前記基準サンプル情報とに基づき、前記試料の抵抗値及び容量値を推定する荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡を用いた試料解析法の1つに、電子ビームを試料に照射することによって得られる二次電子等の検出に基づいて電位コントラスト像を形成し、電位コントラスト像の解析に基づいて、試料上に形成された素子の電気特性を評価する手法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電位コントラストから電気抵抗値を算出し、欠陥を判別する方法が開示されている。また、特許文献2には、電位コントラストから回路素子の電気特性および接続情報を含む情報を記述するネットリストを等価回路として作成することで、電気抵抗値等の欠陥の特性を正確に予測する方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には電子線をパルス化し、電子線のパルス化タイミングと同期して試料から放出される二次電子をサンプリングするタイミングを制御することで、帯電量の時間的な変化がとらえられることが開示されている。
【0005】
特許文献4には、紫外光を試料に照射することにより、絶縁膜表面が導電化され、絶縁膜表面に異常な帯電が形成された場合であっても、異常帯電が緩和され、表面電位を安定化できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-100823号公報
【文献】特開2008-130582号公報
【文献】特開2012-252913号公報
【文献】特開2003-151483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2は、電位コントラストを用いて試料の抵抗値を推定する方法を開示している。一方、試料の容量特性を推定するためには、電子線照射に伴うある時点(定常状態)での帯電量ではなく、帯電量の時間的な変化(過渡応答)の情報が必要となる。このため、特許文献3に開示されるような観察方法が有効である。しかしながら、このような時間的な変化を観察する場合、試料が高抵抗であると帯電量が変化するのに要する時間が長くなるため、充分なコントラストの表れた画像を取得するのに必要な撮像時間が増大する。
【0008】
ここで、特許文献4に開示されるように、紫外線等の光を試料に照射させて抵抗値を低下させることができれば、撮像時間を短縮することができる。しかしながら、光の照射により抵抗値が著しく低くなってしまうと、逆に帯電量が極短時間に変化してしまうことによって、時間変化をとらえることができなくなってしまう。
【0009】
本発明はこのようなことに鑑み、その目的の一つは、容量特性を含めた試料の電気特性を高速に推定可能な荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0011】
本発明の一実施の形態である荷電粒子線装置は、パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、光を試料に照射する光学系と、パルス荷電粒子線が試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、所定の電子線パルス条件にてパルス荷電粒子線を試料に照射するよう荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて光を試料に照射するよう光学系を制御する制御部と、所定の電子線パルス条件及び所定の光照射条件を設定する計算装置とを有し、計算装置は、複数の光照射条件で試料に光を照射し、第1の電子線パルス条件でパルス荷電粒子線を照射することにより検出器が検出する二次荷電粒子信号量と第1の電子線パルス条件とは異なる第2の電子線パルス条件でパルス荷電粒子線を照射することにより検出器が検出する二次荷電粒子信号量との差分に基づき、複数の光照射条件のいずれかを所定の光照射条件に設定する。
【0012】
また、本発明の他の一実施の形態である荷電粒子線装置は、パルス荷電粒子線を試料に照射する荷電粒子光学系と、光を試料に照射する光学系と、パルス荷電粒子線が試料に照射されることにより放出される二次荷電粒子を検出する検出器と、所定の電子線パルス条件にてパルス荷電粒子線を試料に照射するよう荷電粒子光学系を制御し、所定の光照射条件にて光を試料に照射するよう光学系を制御する制御部と、所定の電子線パルス条件及び所定の光照射条件を設定する計算装置とを有し、計算装置は、光を試料に照射することなく第1の電子線パルス条件でパルス荷電粒子線を照射することにより検出器が検出する第1の二次荷電粒子信号量と第1の電子線パルス条件よりもパルス荷電粒子線の非照射時間であるインターバル時間の長い第2の電子線パルス条件でパルス荷電粒子線を照射することにより検出器が検出する第2の二次荷電粒子信号量との中間値を求め、試料に光を照射し、任意の電子線パルス条件でパルス荷電粒子線を照射することにより検出器が検出する二次荷電粒子信号量が中間値相当の値となる光照射条件を所定の光照射条件に設定し、所定の光照射条件を設定したときの任意の電子線パルス条件を所定の電子線パルス条件に設定する。
【発明の効果】
【0013】
容量特性、抵抗特性を含む試料の電気特性を高速に推定、検査可能な荷電粒子線装置を提供する。
【0014】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】電子線及び光の照射による試料帯電の過渡応答について説明するための図である。
【
図2B】電子線及び光の照射による試料帯電の過渡応答について説明するための図である。
【
図5A】明度の照射光強度に対する依存性を示す図である。
【
図5B】明度の照射光強度に対する依存性を示す図である。
【
図6】明度のインターバル時間に対する依存性を示す図である。
【
図8A】電子線スキャン時における電子線照射、光照射の時間関係の例である。
【
図8B】電子線スキャン時における電子線照射、光照射の時間関係の例である。
【
図8C】電子線スキャン時における電子線照射、光照射の時間関係の例である。
【
図8D】電子線スキャン時における電子線照射、光照射の時間関係の例である。
【
図8E】電子線スキャン時における電子線照射、光照射の時間関係の例である。
【
図8F】電子線スキャン時における電子線照射、光照射、サンプリングの時間関係の例である。
【
図10】明度のインターバル時間に対する依存性を示す図である。
【
図15A】試料の帯電量の測定方法を説明するための図である。
【
図15B】試料の帯電量の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合または、原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。また、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合または、原理的に明らかに必須であると考えられる場合などを除き、必ずしも必須のものではない。同様に、構成要素などの形状、位置関係などに言及するときは、特に明示した場合または、原理的に明らかにそうでないと考えられる場合などを除き、その形状等に近似または類似するもの等を含む。このことは、上記数値や範囲等についても同様である。
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
図1に、荷電粒子線装置の一構成例を示す。電子顕微鏡本体100は、その主要な構成として、電子光学系、ステージ機構系、制御系、信号解析系、画像処理系といった一般的な電子顕微鏡を構成する要素に加え、試料上に光を照射するための光照射系を有する。
【0019】
電子光学系は荷電粒子源となる電子銃101、ブランカ102、絞り103、偏向器104、対物レンズ105を含む。電子銃101から放出された電子はブランカ102と絞り103によりパルス化され、対物レンズ105によって試料106上に集束される。パルス電子線は、偏向器104によって試料106上を2次元的にスキャンされる。
【0020】
ステージ機構系はXYZ軸に移動可能なステージ107とステージ107上の試料台108を有し、試料106は試料台108上に設置される。また、図示されていないが、試料106に電圧を印加するためのリターディング電源が接続されていてもよい。
【0021】
光照射系は光源109、光路遮断機110、光路111を含む。光源109から射出された連続光またはパルス光は光路遮断機110によってゲーティングされることによって、試料106への照射が制御される。光源109からの光は、光路111により試料106上に集束される。光路111はミラー、レンズ、スプリッタ等の一般的な光学素子や光ファイバ等を含んで構成されていてもよい。
【0022】
制御装置112は電子光学系と接続されて、電子線の加速電圧、照射電流の制御や偏向位置の制御を行い、光照射系と接続されて、光の波長、強度の制御や集束位置の制御を行う。また、制御装置112は、ブランカ102、光路遮断機110、検出器113に接続され、電子線のパルス化タイミング、光のON/OFFタイミング及び、二次電子のサンプリングタイミングを同期させる制御を行うよう、構成されている。
【0023】
計算装置114は、検出器113および制御装置112によって取得された二次電子信号をもとに画像の生成、欠陥の分類、電気特性の測定などを行い、入出力装置115へ出力する。入出力装置115はディスプレイ、キーボード、マウス、制御パネル状のスイッチ等で実装されるが、ネットワークを介した遠隔のPC等でもよい。
【0024】
また、試料が半導体ウェハである場合、荷電粒子線装置はウェハ搬送系を含んでもよい。この場合、ウェハを設置するウェハカセット116、ウェハを電子顕微鏡内部へ導入するウェハローダ117、ウェハを試料室119へ導入する前にウェハを設置する準備室118などが設けられる。
【0025】
図2A~Bを用いて電子線及び光の照射による試料帯電の過渡応答について説明する。電子顕微鏡が試料上に一定の加速電圧を与えて電子線を照射すると、試料から二次電子が放出される。放出された二次電子を検出器によって検出し、電子線のスキャンと同期させることで二次電子像が形成される。ここで、試料に入射する電子線の電流、加速電圧、試料表面の材質、凹凸構造、あるいは表面の帯電等によって、試料から放出される二次電子の量は変化する。加速電圧によっては、試料から放出される二次電子の量が入射電子数より多い正帯電の状態や、逆に放出される二次電子の量が入射電子数より少ない負帯電の状態が発生する。以下の説明では、電子線の照射により正帯電が生じる状態の例で説明するが、負帯電が生じる状態であっても試料の表面電位の変化が異なるだけで、同様である。
【0026】
図2Aは、試料106の一例の断面図である。ウェハ基板201上に絶縁膜202が形成され、その上に浮遊導体203が形成されている。絶縁膜202はたとえばSiO
2やSi
3N
4などである。このとき、浮遊導体203とウェハ基板201との間には、図に示すような等価抵抗R、等価容量Cが存在している。
【0027】
図2Aの試料にパルス電子線を照射したときの浮遊導体203の表面電位の変化を
図2Bに示す。入射電子線が正帯電を生じさせる場合、パルス電子線の照射期間は試料の表面電位が増加する一方、パルス電子線の非照射期間は前述の等価抵抗Rと等価容量Cとの積から決定される時定数に従って、ウェハ基板へ電流が流れることによって、試料の表面電位は低下する。また、試料の表面電位が増加すると試料直上の電界が変化し電位障壁が発生することにより、一旦試料から放出された二次電子のうち、エネルギーの低い二次電子が再び試料に戻される。したがって、表面電位が高い程、検出器で検出される二次電子の量は低下し、表面電位が低い程、検出器で検出される二次電子の量は増大する。このような表面電位の変化によって画像に発生するコントラストを電位コントラストと呼ぶ。電位コントラストによって間接的に試料の帯電の変化をとらえることが可能である。
【0028】
図2Bには、表面電位変化の時定数が短い場合と表面電位変化の時定数が長い場合における、パルス化された電子線を試料に照射した場合に検出される二次電子信号量を示している。このように、両者で同じ二次電子信号量を得ようとすれば、表面電位変化の時定数が長い場合のパルス非照射時間(インターバル時間)T
2は、表面電位変化の時定数が短い場合のパルス非照射時間T
1よりも長くしなければならない。このため、例えば電子線電流、二次電子電流の時間ばらつきや検出器のノイズ等により、一定以上の二次電子信号量の変化が求められる場合、表面電位変化の時定数の長い試料に対しては長いインターバル時間を用いて検査を行う必要が発生する。長いインターバル時間は時間当たりの検査数(検査スループット)を低下させる。
【0029】
そこで、パルス電子線の照射点に対して、絶縁膜の吸収端より短い波長の光(絶縁膜のバンドギャップを超えるエネルギーを有する光)を照射することにより、絶縁膜を導電化する。絶縁膜を導電化することで、
図2Aに示す等価抵抗Rが低下することになり、その結果、等価抵抗Rと等価容量Cとの積で決まる時定数は短くなる。このように、所定の波長の光を試料に照射してパルス電子線を照射することにより、短いインターバル時間でも大きな二次電子信号量を得ることが可能になる。
【0030】
図3は等価容量Cを固定とし、インターバル時間によって二次電子信号量が変化する様子について等価抵抗Rをパラメタとしてプロットしたものである。等価抵抗Rが100 GΩの場合、パルスインターバル時間を増加しても二次電子信号量の変化はほとんどみられないが、抵抗値が10 GΩ、1 GΩの場合はパルスインターバル時間に応じた二次電子信号量の変化が広い範囲でみられる。しかし、0.1 GΩまで抵抗値が低くなると再びインターバル時間に応じた変化が見られなくなる。これは、電位変化の時定数が短くなりすぎて、帯電がただちに定常状態へ収束してしまったためである。このように変化時定数が大きすぎても小さすぎても、適切な二次電子信号量の変化を得ることができない。したがって、精度やスループットの問題が生じないよう、適切な時定数が得られる光と電子線の照射条件を設定する必要がある。
【実施例1】
【0031】
図4A~Bに実施例1における光・電子線の照射条件を設定し、検査を実行するフローを示す。計算装置114が本フローを実行する。試料がロードされ、加速電圧、照射電流などの電子線光学条件を設定した後、条件設定用の試料座標の位置へ移動する(S401)。なお、条件設定用座標は、当該座標における試料の構造が検査対象座標における構造と同じ構造を有していれば、任意に定めてよい。次に電子線パルス条件をある条件(電子線パルス条件Aとする)に設定する。一例として、ここでは電子線パルス条件Aをインターバル時間Ta[秒]とする。次に光の照射条件を指定範囲内のいずれかに設定する。一例として、ここでは光の照射条件を照射光強度とし、照射光強度はP1,P2,…Pk、…Pn[W](nは自然数、kは1~nのいずれか)のn通りの指定が可能であるとする。この場合、照射光強度をPk[W]に設定し(S403)、試料に光と電子線とを照射し、二次電子信号S(Ta,Pk)を取得する(S404)。ここで二次電子信号量としては、検査対象の構造をスキャンして平均値をとってもよいし、ある一点から取得された値でもよい。ステップS403、S404を全ての光照射条件P1~Pnに対して実行し、終了後(S405)、異なる電子線パルス条件Bを設定する。ここでは電子線パルス条件Bをインターバル時間Tb[秒]とする(S406)。電子線パルス条件Aの場合と同様に全ての光照射条件P1~Pnに対して二次電子信号S(Tb,Pk)を取得する(S407~S409)。
【0032】
次に電子線パルス条件Aと電子線パルス条件Bにて取得された二次電子信号量の差分Sd(Pk)をそれぞれ同じ光照射条件に対して計算する。即ちSd(Pk)=S(Tb,Pk)-S(Ta,Pk)である。この計算結果から、Sd(Pk)の絶対値が最大となる光照射条件(Pmax)を光照射条件αとして設定する(S410)。次に電子線パルス条件を指定範囲内のいずれかに設定する。ここでは電子線パルス条件をインターバル時間とし、インターバル時間はT1,T2,…Tl、…Tm[秒](mは自然数、lは1~mのいずれか)のm通りの指定が可能であるとする。この場合、インターバル時間をTl[秒]に設定し(S411)、試料に光と電子線とを照射し、二次電子信号S(Tl,Pmax)を取得する(S412)。ステップS411、S412を全てのインターバル時間T1~Tmに対して実行する(S413)。次に異なる2点のインターバル時間Tl1,Tl2に対し、差分{S(Tl1,Pmax)-S(Tl2,Pmax)}を計算し、差分があらかじめ決められた閾値以上であり、かつ合計(Tl1+Tl2)が最小となるようなインターバル時間Tl1,Tl2を求め、それぞれを電子線パルス条件X,Yとする(S414)。ここでは、電子線パルス条件X,Yはそれぞれ、インターバル時間Tx,Ty[秒]とする。
【0033】
次に検査対象座標へステージ移動し(S415)、光照射条件αおよび電子線パルス条件X,Yにて各検査座標についての二次電子信号S(Tx、Pmax)、S(Ty、Pmax)を取得する(S416)。ここで、荷電粒子線装置は、シミュレーションまたは事前に同様の試料によって取得した二次電子信号Sと試料の抵抗値・容量値との関係についてのデータベースを保持している。データベースは例えば、所定の構造を有する試料について、等価容量Cごとに、
図3に示したような、等価抵抗Rをパラメタとしたインターバル時間に対する二次電子信号量の依存性についての情報を保持している。なお、電子線パルス条件としてインターバル時間以外の条件を制御する場合には、当該条件に対する二次電子信号量の依存性についての情報を保持するデータベースを保持しておく。
【0034】
このようなデータベースを参照し、S(Tx,Pmax)およびS(Ty、Pmax)となるような抵抗値・容量値を推定し、検査対象の仮の抵抗値、容量値とする(S417)。ここで「仮の抵抗値」と称するのは、ここで推定された抵抗値は、光照射条件αによる光照射の影響を受けた状態での抵抗値(光照射のない状態よりも低い抵抗値となっている)であるためである。容量値については光の影響を考える必要はない。
【0035】
そこで、光照射を停止し、何らかの電子線パルス条件V(インターバル時間をTvとする)に設定し、二次電子信号量S(Tv)を取得する(S418)。ステップS417にて求めた容量値とステップS418で取得した二次電子信号量Sの値に基づき、データベースを参照することにより、光照射の影響のない状態での抵抗値を推定する(S419)。
【0036】
以下、
図4A,Bに示したフローにおけるステップの詳細について説明する。
図5AはステップS402~S405(電子線パルス条件A)、ステップS406~S409(電子線パルス条件B)にて、照射光強度をP1~P5に変更させて試料上の円形パタンから放出される二次電子信号量を明度(brightness)として表示したものである。いずれの電子線パルス条件においても、照射光強度を増加させることにより、パタンの導電性が高まり(抵抗値が低くなり)、帯電が減少することで二次電子信号量が増加する(明度が高くなる)が、その変化には違いがある。横軸を照射光強度、縦軸を明度(二次電子信号量)としてプロットすると、
図5Bのようになる。電子線パルス条件Aにおける照射光強度に対する依存性501と電子線パルス条件Bにおける照射光強度に対する依存性502とが異なることが分かる。
図5Bにおいて、電子線パルス条件Bは電子線パルス条件Aと比較してインターバル時間を長く設定した例であり(Tb>Ta)、電子線パルス条件Bの方が電子線パルス条件Aよりも試料の表面電位の低下が進行し、二次電子信号量が増加することで明度が高くなる。両者の違いは、照射光強度が中程度のとき顕著に表れる一方、照射光強度が弱い領域では抵抗値の低減が十分でなく、また照射光強度が強い領域では抵抗値の低減が過度であることにより、両者の明度差が小さくなる。そこで、これら2つの電子線パルス条件間で取得した明度差Δbを計算し、もっとも差分が大きくなる照射光強度Pmax(
図5Bの例ではP3)を光照射条件αとして選ぶ(S410)ことで、当該試料構造について電子線パルス条件の変化に対して二次電子信号量の変化率を最大とする光照射条件(感度最大化条件)を選択することができる。
【0037】
図6は、ステップS411~S413において取得された明度(二次電子信号量)を縦軸に、インターバル時間を横軸としてプロットしたものである。すでにステップS410においてインターバル時間変化に対する明度変化を最大化する光照射条件αが選択されているので、ここではスループットを向上させることを目的として、必要最小限のインターバル時間を選択する。このため、あらかじめ設定された変化量閾値b
thに対して、ある2点の電子線パルス条件としてインターバル時間Tx,Tyを選択した際、それらの条件で得られる明度(二次電子信号量)の差が変化量閾値b
thを超えており、かつ、インターバル時間の合計(Tx+Ty)が最小となる、あるいは所定のしきい値以下となる2条件を選択する。
【0038】
ステップS411~S414では、総当たり的に二次電子信号量(明度)を取得し、前述した条件を満たす2条件を電子線パルス条件X,Yとして選択する。これに限られず、例えば設定可能な最もインターバル時間の短い電子線パルス条件(電子線パルス条件A)を自動的に電子線パルス条件Xとして設定し、電子線パルス条件Yを、電子線パルス条件Xに対し明度変化が変化量閾値bthを超える、できるだけ短いインターバル時間として選ぶことも可能である。この場合、インターバル時間の短い順に二次電子信号量(明度)を取得していくことで、明度変化が変化量閾値bthを超えた時点でパラメタの更新を打ち切ることが可能となるので、調整時間を短縮する効果が得られる。
【0039】
このように検査対象座標ごとにして求めた抵抗値、容量値をチップまたはウェハ間で分布をとることにより、デバイスの製造ばらつきや品質を検証することが可能になる。なお、この一連のステップはウェハ上の指定した全ての検査対象座標に対して行ってもよいし、電子線パルス条件XまたはYだけを使用してウェハ全体を検査し、特異的な二次電子信号量を示した検査対象座標に対してのみ、光照射条件α、電子線パルス条件X及びYを適用して抵抗値や容量値を求めるようにしてもよい。
【0040】
図7に入出力装置115に表示されるGUIの一例を示す。GUIは電子光学条件入力部701、座標入力部702、光照射条件入力部703、電子線パルス条件入力部704、光照射条件出力部705、電子線パルス条件出力部706を含む。電子光学条件入力部701は電子線の加速電圧、照射電流、倍率などを設定する。座標入力部702は条件設定用座標や検査対象座標を設定する。光照射条件入力部703は光照射条件を求める際の、求めたい光照射条件(照射光強度、波長、偏向、周期など)とその設定範囲を入力する。
図7では光照射条件を照射光強度とした例を示している。電子線パルス条件入力部704は求めたい電子線パルス条件(インターバル時間、光照射-電子線照射の遅延時間など)とその設定範囲を入力する。
図7では電子線パルス条件をインターバル時間とした例を示している。光照射条件出力部705、電子線パルス条件出力部706はそれぞれ、光照射条件入力部703、電子線パルス条件入力部704の設定に従って、光、電子線を照射したときの結果を表示する。入力部701~704に対する入力は、GUI上で直接入力してもよいし、あらかじめ保存されたテキストファイル等に保存されたデータを読み込むような形式でもよい。出力部705,706への出力は、GUI上にグラフとして直接出力してもよいし、データとしてファイルへ出力する形式でもよい。
【0041】
図8A~Fに、電子線スキャン時の電子線照射、光照射および二次電子の検出タイミングの時間関係の例を示す。いずれの図も1ラインの電子線照射において、X座標方向へ電子線の照射点をpixel単位でシフトしている様子を示している。これをY座標方向に位置をずらしつつ複数回繰り返すことで2次元データを取得することができる。
図8Aは電子線も光もすべてのピクセルで照射しているものである。なお、光のスポット径を電子線がスキャンする範囲を含む大きさとすることで、光を観察視野に定点照射させればよい。
図8Bは1ラインの電子線照射の前後に光を照射し、電子線の照射時には光を照射しない例を示している。
【0042】
図8Cは光、電子線をそれぞれ間欠的にある間隔で照射している例を示しており、それぞれのインターバル時間I、位相(遅延)関係D、照射時間幅(デューティ)Wおよび、二次電子のサンプリングタイミング(図示せず)などがパラメタとなる。この場合、電子線の照射が間欠的である(パルス化されている)ため、電子線の非照射期間に該当する画像ピクセルで取得される二次電子信号量はゼロもしくはノイズ値程度となるが、後続するフレームの開始ピクセル(例えばフレーム2)を先行するフレーム(例えばフレーム1)の開始ピクセルに対してずらしてデータを取得することを繰り返すことによって、全ピクセルに対する二次電子信号量を取得することが可能である。
【0043】
図8Dは電子線のみ間欠照射されており、光は連続照射されている例を示している。また、
図8Eでは、電子線は間欠照射されているのは
図8Dと同じであるが、光は
図8Bと同様に1ラインの照射前後のみ光を照射する例を示している。
図8Fでは、電子線は連続照射、光は間欠照射され、光照射のタイミングに対して、二次電子信号を取得するサンプリングの時間オフセットをパラメタとしている例である。これにより、光パルスの作用に対する過渡応答のどの時間を取り込むかを指定することができる。このように、電子線パルス化条件には検出タイミングの条件を含んでもよい。同様に、
図8C~Eについても、電子線の照射タイミングや光の照射タイミングに対するサンプリングタイミングを電子線パルス条件、光照射条件の一種として調整パラメタに指定してもよい。
【0044】
図1では、電子線や光の照射をブランカ102や光路遮断機110によるゲート制御によってパルス化しなくても、電子源や光源自体がピコ秒やフェムト秒でパルス発振している場合がある。
図12A~Dはこのような例を示している。
図12A~Bは電子源や光源が連続である状態でゲート制御をしたときの試料へ照射される電子線または光の様子を示している。一方、
図12C~Dは電子源や光源がパルス発振している場合にブランカ102や光路遮断機110によってゲート制御した様子を示しており、ゲート制御されることにより、バースト状の電子線または光が試料に照射される。
図8C~Fにおけるパルス波形の1区切りは
図12Dに示される微小時間のパルスが連なったバースト波形の一区切りであってもよいし、
図12Bに示される1つの連続するパルス波形であってもよい。
【0045】
また、電子線パルス条件および光照射条件を切り替えた際に、試料の帯電状態をリセットする処理を加えてもよい。例えば、
図11のようにある光照射条件と電子線パルス条件のセットによりウェハの検査を行った(S1101~S1103、S1106~S1107)後、次の光照射条件と電子線パルス条件をセットする前に、ウェハを試料室119から搬出するステップを設ける(S1104,S1108)ことにより、帯電をリセットしてもよい。
【0046】
また、検査領域内に複数の異なる種類の検査対象構造がある場合、それぞれの検査対象構造に対して、電子線・光の照射条件を求めてもよい。
図13A,Bはゲート電極1301と接合電極1302を有する試料の例を示すものであり、
図13Aは上面図、
図13Bは断面図である。ゲート電極1301はゲート1303に接続され、ゲート1303の下には絶縁膜1304が形成され、P型シリコン基板1306の上に配置されている。接合電極1302はシリコン基板1306内にN型のドープを行うことで形成された拡散層1305に接続されている。シリコン基板1306と拡散層1305との界面にはPN接合が形成されている。
【0047】
この2種類の電極は構造が異なっているため、それぞれ帯電したときに除電を行うのに必要な光の波長やエネルギーは異なる。このため、接合電極1302を検査するときはゲート電極1301の絶縁膜1304に影響を与えない程度に長い波長を選択し、ゲート電極1301を検査するときは短い波長を選択してもよい。一方、このように複数の異なる種類の検査対象構造がある場合でも、全体の二次電子信号量の平均値または特定の箇所の二次電子信号量を利用して電子線および光の照射条件を設定し、同じ条件で構造の異なる検査対象構造を検査してもよい。
【0048】
また、
図4のステップS414において照射条件が定まった後、ステップS415で検査対象座標へステージ移動をする際、あるいはステップS401の条件設定を開始する前に、特定の位置に電子線や光を照射するステップを有してもよい。
図14A,Bは試料がメモリアレイの例であり、
図14Aは上面図、
図14Bは回路図である。試料は、ゲート電極1401およびドレイン電極1402、ドレイン電極領域1403を備えている。
図14Bに示すように、
図14A中の各行において、ゲート電極1401はドレイン電極1402を配線1405に接続するためのMOSトランジスタ1404のゲートに接続されている。このときドレイン電極1402から配線1405への抵抗値はゲート電極1401の電位に依存する。そこで、ドレイン電極領域1403とその中に含まれるドレイン電極1402が検査対象であるとき、検査対象に対して電子線及び光を照射する前に、あらかじめゲート電極1401に電子線及び光を照射することで帯電電圧を制御するようなステップを設けることで、ドレイン電極1402の抵抗を精度よく調整することが可能である。電位調整手段としては、ある電子線パルス条件におけるドレイン電極1402の二次電子信号値が特定の値になるように、条件を変えながら光・電子線をゲート電極1401に照射するような方法でもよいし、以下のように電位を測定し、指定した電位になるような照射条件を求めてもよい。
【0049】
図15Aは検出器113がエネルギーフィルタを有する場合に、試料電位に依存した二次電子信号量の変化を説明するものである。試料に電子線を照射したときに放出される二次電子信号量は
図15Aに示すような分布を示す。ここで、V
Rは試料に印加されるリターディング電圧、Vsは試料の表面帯電電位、eは1電子ボルト(1[eV])である。試料が帯電し、試料の表面電位が(V
R+Vs)になったとき放出される二次電子のエネルギー分布1502は帯電のないときのエネルギー分布1501に対して、全体的にeVsだけシフトしたような分布となる。ここで、エネルギーフィルタの電圧がV
F[V]の場合、eV
F[eV]以上のエネルギーをもつ二次電子のみが検出される(
図15Aの網掛け部分)ため、試料に帯電が発生すると同じエネルギーフィルタの電圧でも検出される二次電子数は変化する。そこで、帯電のない状態でエネルギーフィルタの電圧V
Fを変えながら二次電子信号検出量を
図15Bのようにプロットしておき、観察時のエネルギーフィルタの電圧V
F1と、そのときの検出電子数(明度)と等しい検出電子数を与える、帯電のない状態でのエネルギーフィルタの電圧V
F2との差分として帯電量Vsを測定することが可能である。
【0050】
このように、検査領域の検査を開始する前に、電子線・光を検査領域内外の電極や領域に照射し、電位を調整することで、検査領域内の抵抗値を事前に調整するステップを追加してもよい。
【実施例2】
【0051】
図9に実施例2における光・電子線の照射条件を設定し、検査を実行するフローを示す。計算装置114が本フローを実行する。実施例2は、例えば量産工程での検査のように、検査対象試料の標準的な電気特性があらかじめ特定されており、外れ値を示す試料だけを検出したい場合に適したフローである。
【0052】
加速電圧、照射電流などの電子線光学条件を設定した後、条件設定用座標へステージ移動する(S901)。次にあらかじめ指定した電子線パルス条件A,B(ここではそれぞれ、インターバル時間Ta[秒],Tb[秒]、ただしTa<Tbとする)にて、二次電子信号量S(Ta)、S(Tb)を取得する(S902)。このとき、インターバル時間Ta[秒]の条件では光の照射をしないで取得し、インターバル時間Tb[秒]の条件では光の照射をしてもしなくてもよい。S(Ta)とS(Tb)の2点の平均、もしくはあらかじめ指定した計算式に代入して求めた中間点の値Sm(Ta,Tb)を求める(S903)。この計算式は例えばS(Ta)とS(Tb)の重み付け平均であってもよいし、S(Ta)もしくはS(Tb)そのものであってもよい。
【0053】
次に電子線パルス条件C(ここではインターバル時間Tc[秒]とする)を設定し(S904)、次にあらかじめ指定された範囲の中で光照射条件を選択する(S905)。インターバル時間Tcは、インターバル時間Taと同一としてもよい。この状態で条件設定用座標の試料パタンに電子線を照射し、二次電子信号量Sx(Tc)を求める(S906)。Sx(Tc)とSm(Ta,Tb)とが等しいかどうかを判定し、等しくない場合は別の光照射条件を設定し、改めて二次電子信号量を取得し、同様の判定を行う(S907)。ここで、SxとSmの等しさの判定においては一定基準の誤差範囲をあらかじめ指定しておいてもよい。ここで、あらかじめ指定した範囲の全ての光照射条件に対して判定を行って(S912)、SxとSmとが等しい条件がみつからない場合には該当条件の探索が不可であった旨のエラーを出力し、処理を中断する(S913)。等しい条件がみつかった場合にはそのときの光照射条件を光照射条件αとして保存する(S908)。
【0054】
次に検査対象座標へステージ移動し(S909)、光照射条件αかつ電子線パルス条件Cに設定して、二次電子信号量を取得する(S910)。これをすべての検査対象座標で実行する。各検査対象座標での電気特性(抵抗・容量など)を、あらかじめ求めておいた基準サンプルでの抵抗値・容量値と、ステップS910と同じ光照射条件・電子線照射条件において取得された基準サンプルの二次電子信号値およびステップS910で取得した各検査対象座標の二次電子信号値とに基づき各検査対象座標での抵抗値・容量値を計算し、表示もしくは保存する(S911)。ステップS910で取得した二次電子信号量をヒートマップとして表示するステップを有してもよい。また、基準値から一定以上ずれた検査対象座標について、もう一度別の光照射条件、電子線パルス条件にて検査し、抵抗値や容量値を求めるステップに分岐してもよい。
【0055】
以下、
図9に示したフローにおけるステップの詳細について説明する。
図10は電子線パルス条件としてインターバル時間を横軸にとり、縦軸に明度(二次電子信号量)をとり、光照射条件として照射光強度をパラメタとしてプロットしたものである。実線で示される光照射のない状態において電子線パルス条件A(インターバル時間Ta)で取得された二次電子信号量は、最も抵抗が高い状態での二次電子信号量であり、帯電が大きいため、二次電子信号量は小さい。特に電子線の照射電流値が十分大きく、パルスインターバル時間Taが0秒であった場合(すなわち電子線は連続照射)、帯電がそれ以上進行しない飽和状態となる。
【0056】
一方、電子線パルス条件B(インターバル時間Tb)での二次電子信号量はインターバル時間の増加に伴って、帯電量が低下し、二次電子信号量が最も大きくなっている。特にインターバル時間Tb以上にインターバル時間を増やしても変化が見られない場合は帯電電荷が放電し切っている(除電されている)と考えられるため、二次電子信号量の最大点として考えることができる。これに対して、試料の抵抗値・容量値が大きく、インターバル時間Tb近傍でも緩やかに二次電子信号量が変化している場合には、適切な波長と強度の光を照射することによって試料の等価抵抗値を低減することによって、二次電子信号量の最大値を得ることができる。
【0057】
このように求めたインターバル時間Taとインターバル時間Tbにおける二次電子信号量の中間点となるような明度bmidを電子線パルス条件Cと光照射条件αにて作り出すことにより、帯電の飽和状態と帯電がない状態の中間電位を生成することができる。この状態を用いて検査を行うことで、半導体ウェハの製造不良等に起因する電気特性の変化に対し、帯電量が変化し、その結果として二次電子信号の変化が発生するため、感度良く検査を行うことが可能となる。なお、以上の説明では光の照射条件を1つ定める方法について説明したが、中間値Smを複数設定し、それぞれの中間点Smに対して、異なる光の照射条件を求め、複数の光照射条件を使用して検査を行ってもよい。
【符号の説明】
【0058】
100:電子顕微鏡本体、101:電子銃、102:ブランカ、103:絞り、104:偏向器、105:対物レンズ、106:試料、107:ステージ、108:試料台、109:光源、110:光路遮断機、111:光路、112:制御装置、113:検出器、114:計算装置、115:入出力装置、116:ウェハカセット、117:ウェハローダ、118:準備室、119:試料室、201:ウェハ基板、202:絶縁膜、203:浮遊導体、701:電子光学条件入力部、702:座標入力部、703:光照射条件入力部、704:電子線パルス条件入力部、705:光照射条件出力部、706:電子線パルス条件出力部、1301:ゲート電極、1302:接合電極、1303:ゲート、1304:絶縁膜、1305:拡散層、1306:シリコン基板、1401:ゲート電極、1402:ドレイン電極、1403:ドレイン電極領域、1404:MOSトランジスタ、1405:配線。