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特許7377460電気防食工法、埋戻材の選定方法、排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】電気防食工法、埋戻材の選定方法、排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/04 20060101AFI20231102BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20231102BHJP
   E04B 1/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C23F13/04
C23F13/02 L
C23F13/02 B
E04B1/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020054042
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155765
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】茂庭 柾彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸子
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009217(JP,A)
【文献】特開2017-014567(JP,A)
【文献】特開2019-167611(JP,A)
【文献】特開2015-200003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00-13/22
E04B 1/62-1/99
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する電気防食工法において、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、
該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する、
電気防食工法。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【請求項2】
基準埋戻部の電気抵抗率が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である個別基準電気抵抗率比と、
各基準構造物に前記電流供給工程を行って基準コンクリート部における鋼材の分極量を100mVとした際の基準埋戻部における鋼材の分極量と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて個別基準電気抵抗率比に対する基準埋戻部における鋼材の分極量の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて基準埋戻部における鋼材の分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とする、
請求項1に記載の電気防食工法。
【請求項3】
基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて塩化物イオンの含有量に対する基準電気抵抗率比の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求める、
請求項1または2に記載の電気防食工法。
【請求項4】
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する際の埋戻材の選定方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する埋戻材を選定する、
埋戻材の選定方法。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【請求項5】
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する排流端子の設置方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する、
排流端子の設置方法。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【請求項6】
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートが斫り取られて形成された凹部と、鋼材における凹部内に露出した部分に連結された排流端子と、凹部が埋戻材で埋め戻されて形成された埋戻部とを備えるコンクリート構造物であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図における対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて算出される要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を備え、
前記埋戻部は、塩化物イオンを含まない、
コンクリート構造物。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食工法、および、電気防食工法で用いる埋戻材の選定方法に関する。また、本発明は、電気防食工法における排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中に埋設されている鋼材(鉄製の配管や鉄筋など)は、表面に不動態皮膜が形成されることによって、本来、腐食から保護されている。ところが、沿岸地域や凍結防止剤が頻繁に使用される地域などのように、塩素成分が多量に存在する環境下では、鋼材に塩素成分が接触して不動態皮膜が部分的に破壊される場合がある。そして、不動態皮膜が破壊された部分からは、鋼材中の鉄イオンが溶出して、鋼材の腐食(酸化)を促進させる。このような鋼材の腐食は、鋼材自体の強度を低下させると共に、コンクリート構造物中においては腐食部分の体積の膨張によってコンクリート構造物に亀裂、如いてはコンクリートの剥落を生じさせる虞がある。
【0003】
上記のように、鋼材に部分的に腐食が生じることによって、鋼材の腐食した領域(アノード部)と腐食していない領域(カソード部)との間には電位差が生じることとなる。これにより、アノード部からカソード部へ電子が流れることで腐食電流が発生し、アノード部からの鉄イオンの溶出が更に進行する。
【0004】
このような腐食の進行を防止する方法としては、例えばチタンなどの素材を用いて形成された陽極材からコンクリートを介してコンクリート構造物中の鋼材に電流(防食電流)を供給する電気防食工法が知られている。該電気防食工法は、鋼材に対して防食電流を供給することで、アノード部とカソード部との間に生じる電位差を解消し、腐食電流が発生するのを防止する方法である(特許文献1参照)。
【0005】
上記のような電気防食工法では、コンクリート構造物中の鋼材および陽極材は、電源装置に電気的に連結される。鋼材と電源装置とを電気的に連結する際には、既存のコンクリート構造物のコンクリートを斫り取って鋼材が露出するように凹部を形成し、該凹部に露出した鋼材の部分に、電源装置の排流端子を接続する。そして、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する(特許文献2参照)。
【0006】
上記のような電気防食工法において、効果的な防食を行うためには、鋼材の分極量が100mV程度となるように鋼材に防食電流を供給することが要求される。
しかしながら、既存のコンクリート構造物の電気抵抗率が埋戻部の電気抵抗率よりも高い場合、防食電流が埋戻部に集中し、埋戻部以外の領域への防食電流の供給量が減少することになる。このため、埋戻部以外の位置では、電気防食を効果的に行うことができない虞がある。又は、埋戻部以外の部分で効果的な電気防食が行えるように防食電流の供給量を設定すると、埋戻部における防食電流の供給量が過剰になり、コンクリート構造物全体での電気防食の効率が低下することになる。
【0007】
以上のことから、埋戻部の電気抵抗率は、コンクリート構造物の電気抵抗率と等しいことが推奨されている。これにより、埋戻部における防食電流の供給量と埋戻部以外の部分における防食電流の供給量とが同等になるため、埋戻部以外の部分で効果的な電気防食を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-167611号公報
【文献】特開2017-14567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、コンクリート構造物の腐食の状態(塩化物イオンの含有量)によっては、埋戻部の電気抵抗率を埋戻部以外の部分の電気抵抗率と等しくしても、上述のように埋戻部に防食電流が集中してしまう虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行うことができると共に、埋戻部に位置する鋼材の部分に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる電気防食工法、および、電気防食工法で使用する埋戻材の選定方法を提供することを課題とする。また、本発明は、埋戻部に防食電流が集中するのを抑制することができる排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電気防食工法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する電気防食工法において、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、
該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0012】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。これにより、対象コンクリート構造物における埋戻部以外の領域に位置する鋼材で100mV程度の分極を生じさせても埋戻部に位置する鋼材では100mVを超えないことになる。このため、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部では鋼材に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る電気防食工法は、
基準埋戻部の電気抵抗率が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である個別基準電気抵抗率比と、
各基準構造物に前記電流供給工程を行って基準コンクリート部における鋼材の分極量を100mVとした際の基準埋戻部における鋼材の分極量と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて個別基準電気抵抗率比に対する基準埋戻部における鋼材の分極量の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて基準埋戻部における鋼材の分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とすることが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、個別基準電気抵抗率比と、基準コンクリート部における鋼材の分極量を100mVとした際の基準埋戻部における鋼材の分極量と、の関係を示す散布図を作成する。そして、該散布図の近似曲線に基づいて基準埋戻部における鋼材の分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とする。これにより、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図をより正確に作成することができるため、上記の効果を得るために要求される埋戻部の電気抵抗率をより正確に推定することができる。
【0015】
本発明に係る電気防食工法は、
基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図を作成し、該散布図に基づいて塩化物イオンの含有量に対する基準電気抵抗率比の近似曲線を作成し、
該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求めることが好ましい。
【0016】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物のそれぞれにおける基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図を作成すると共に、該散布図の近似曲線を作成する。そして、該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求めることで、上記の効果を得るために要求される埋戻部の電気抵抗率を対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に基づいて容易に推定することができる。
【0017】
本発明に係る埋戻材の選定方法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する際の埋戻材の選定方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する埋戻材を選定する。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0018】
斯かる構成によれば、基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象基準電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する埋戻材を選定する。これにより、選定した埋戻材で対象コンクリート構造物に埋戻部を形成した際に、対象コンクリート構造物における埋戻部以外の領域に位置する鋼材で100mV程度の分極を生じさせても埋戻部に位置する鋼材では100mVを超えないことになる。このため、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部では鋼材に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る排流端子の設置方法は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートを斫り取って凹部を形成し、鋼材における凹部内に露出した部分に排流端子を連結し、凹部を埋戻材で埋め戻して埋戻部を形成する排流端子の設置方法であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、
基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、
の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求め、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成する。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0020】
本発明に係るコンクリート構造物は、
電気防食の対象となるコンクリート構造物中の鋼材が露出するようにコンクリートが斫り取られて形成された凹部と、鋼材における凹部内に露出した部分に連結された排流端子と、凹部が埋戻材で埋め戻されて形成された埋戻部とを備えるコンクリート構造物であって、
基準埋戻材で形成した基準埋戻部と基準コンクリートで形成した基準コンクリート部とを備える基準構造物における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と、基準構造物に埋設された鋼材に基準構造物に設置した陽極材から電流を供給する電流供給工程を行った際に基準埋戻部および基準コンクリート部における鋼材の分極量が100mVとなるときの基準コンクリート部の電気抵抗率に対する基準埋戻部の電気抵抗率の比である基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図における対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて算出される要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を備える。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行うことができると共に、埋戻部に位置する鋼材の部分に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る電気防食工法の構成を示した概略図。
図2】同実施形態に係る電気防食工法で用いる基準構造物の構成を示した概略図。
図3】(a)は、同実施形態に係る電気防食工法において基準埋戻部の電気抵抗率を測定する方法を示した概略図、(b)は、同実施形態に係る電気防食工法において基準コンクリート部の電気抵抗率を測定する方法を示した概略図。
図4】(a)は、同実施形態に係る電気防食工法において基準埋戻部に位置する鋼材の自然電位を測定する方法を示した概略図、(b)は、同実施形態に係る電気防食工法において基準コンクリート部の自然電位を測定する方法を示した概略図。
図5】(a)は、実施例で使用した基準埋戻部の構成を示した概略図、(b)は、実施例で使用した基準コンクリート部の構成を示した概略図。
図6】実施例の試験における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が12.0kg/mであるときの散布図。
図7】実施例の試験における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が2.4kg/mであるときの散布図。
図8】実施例の試験における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量が0kg/mであるときの散布図。
図9】実施例の試験における基準コンクリート部の塩化物イオンの含有量と基準電気抵抗率比との関係を示した散布図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0024】
本実施形態に係る電気防食工法では、図1に示すように、電気防食の対象となる対象コンクリート構造物1中の鋼材1aが露出するようにコンクリートを斫り取って凹部1bを形成する。そして、電源装置(図示せず)の排流端子3を凹部1b内に露出した鋼材1aの部分に連結し、凹部1bを埋戻材で埋め戻して埋戻部4を形成する。
【0025】
対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量としては、特に限定されるものではなく、例えば、0kg/m以上12.0kg/m以下であってもよく、1.5kg/m以上2.4kg/m以下であってもよい。
塩化物イオンの含有量は、JIS A 1154(硬化コンクリート中に含まれる塩化物試験方法)の規定に基づいて測定することができる。
【0026】
また、対象コンクリート構造物1の電気抵抗率としては、特に限定されるものではなく、例えば、5kΩ・cm以上100kΩ・cm以下であってもよく、10kΩ・cm以上200kΩ・cm以下であってもよい。対象コンクリート構造物1の電気抵抗率は、後述の基準コンクリート部10bの電気抵抗率の測定方法で求めることができる。
【0027】
埋戻材としては、特に限定されるものではなく、例えば、セメント系埋戻材や、樹脂系埋戻材(具体的には、エポキシ樹脂やゴム材)等が挙げられる。また、埋戻部4は、実質的に塩化物イオンを含まない(具体的には、埋戻部4を形成する際に塩素化合物が添加されない)ことが好ましい。
【0028】
埋戻部4の電気抵抗率としては、特に限定されるものではなく、例えば、1.5kΩ・cm以上30kΩ・cm以下であってもよく、15kΩ・cm以上300kΩ・cm以下であってもよい。埋戻部4の電気抵抗率は、埋戻部4を形成する埋戻材を用いて、後述する基準埋戻部10aと同様の硬化体を作製し、基準埋戻部10aの電気抵抗率の測定方法と同じ方法で該硬化体の電気抵抗率を求めることができる。
【0029】
埋戻部4を形成する際には、以下の方法で、埋戻部4に要求される電気抵抗率を決定し、該電気抵抗率を有する埋戻部4を形成し得る埋戻材を選択する。
【0030】
<基準構造物の作製>
図2に示すように、基準埋戻材で形成した基準埋戻部10aと基準コンクリートで形成した2つの基準コンクリート部10bとを備える基準構造物10を作成する。該基準構造物10には、鋼材10cが埋設されると共に、陽極材20が設置される。具体的には、基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bのそれぞれに、鋼材10cおよび陽極材20が埋設される。
各鋼材10cは、抵抗器R1~R3を介して直流電源装置X1に並列に電気的に連結される。また、基準埋戻部10aの陽極材20は、2つの基準コンクリート部10bの陽極材20と電気的に連結される。そして、基準埋戻部10aの陽極材20が直流電源装置X1に電気的に連結される。
【0031】
基準埋戻材としては、特に限定されるものではなく、例えば、対象コンクリート構造物1に埋戻部4を形成する際に使用する上記の埋戻材を使用することができ、斯かる埋戻材と、同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0032】
基準埋戻部10aとしては、電気抵抗率が異なるものを複数準備する。
また、基準コンクリート部10bとしては、塩化物イオンの含有量が異なるものを複数準備する。
そして、塩化物イオンの含有量が同一の2つの基準コンクリート部10bの間に一つの基準埋戻部10aを配置して導電性クリームを塗布して密着させることで、基準構造物10を作製する。つまり、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と基準埋戻部10aの電気抵抗率との組み合わせが異なる複数の基準構造物10を作製する。
【0033】
<基準埋戻部、および、基準コンクリート部の電気抵抗率>
基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bの電気抵抗率を以下の方法で求める。なお、電気抵抗率は、基準構造物10において陽極材20から鋼材10cへ電流を供給する前に求める。
具体的には、図3(a)(b)に示すように、基準埋戻部10a(または基準コンクリート部10b)に位置する陽極材20と鋼材10cとを交流電源装置X2及び電位差計V1に電気的に接続する。また、鋼材10cと交流電源装置X2との間に、抵抗器R4を電気的に接続すると共に該抵抗器R4にかかる電圧を測定する電位差計V2を電気的に接続する。
そして、電位差計V1で測定される電圧V、電位差計V2で測定される電圧V、抵抗器R4の抵抗値R、および、下記(2)式に基づいて、基準埋戻部10a(または基準コンクリート部10b)の電気抵抗率を求める。

電気抵抗率=V/I=V/(V/R)…(2)
(V:基準埋戻部10a(または基準コンクリート部10b)にかかる交流電圧,V:抵抗器R4にかかる電圧,I:回路に流れる電流値,R:抵抗器R4の抵抗値)
【0034】
<個別基準電気抵抗率比>
各基準構造物10それぞれについて、下記(3)式に基づいて、基準コンクリート部10bの電気抵抗率に対する基準埋戻部10aの電気抵抗率の比(個別基準電気抵抗率比)を算出する。

個別基準電気抵抗率比=
基準埋戻部の電気抵抗率/基準コンクリート部の電気抵抗率…(3)
【0035】
<分極試験>
各基準構造物10それぞれについて、陽極材20から鋼材10cへ電流を供給し(電流供給工程)、基準コンクリート部10bに位置する鋼材10cの分極量(基準コンクリート部分極量)が100mVとなる際の基準埋戻部10aに位置する鋼材10cの分極量(以下では、「基準埋戻部分極量」とも記す)を求める。
基準埋戻部分極量および基準コンクリート部分極量は、以下の方法で求めることができる。
具体的には、図4(a)(b)に示すように、基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bのそれぞれに鉛照合電極X3を設置し、基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bそれぞれの鉛照合電極X3と、基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bそれぞれに位置する鋼材10cとを電気的に接続する。また、鋼材10cと鉛照合電極X3との間に電位差計V3を接続する。そして、鋼材10cへ陽極材20から電流が供給されていない状態において、鉛照合電極X3を基準に鋼材10cの電位(自然電位)を測定する。
また、基準構造物10において陽極材20から鋼材10cに電流を供給し(電流供給工程)、鋼材10cの電位を安定させた後、電流を遮断し、その直後に基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bそれぞれの鋼材10cの電位(インスタントオフ電位)を鉛照合電極X3を基準に測定する。そして、下記(4)式に基づいて、基準コンクリート部分極量および基準埋戻部分極量を算出する。

分極量=鋼材10cの自然電位―鋼材10cのインスタントオフ電位…(4)
【0036】
<基準電気抵抗率比>
基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量が同一であり、且つ、基準埋戻部10aの電気抵抗率が異なる複数の基準構造物10のそれぞれについて、個別基準電気抵抗率比と、基準埋戻部分極量(即ち、基準コンクリート部分極量が100mVとなる際の基準埋戻部10aに位置する鋼材10cの分極量)との関係を示す散布図を作成する。
そして、斯かる散布図の近似曲線(累乗近似曲線)における基準埋戻部分極量が100mVである際の個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を基準電気抵抗率比とする。該基準電気抵抗率比は、基準埋戻部10aおよび基準コンクリート部10bそれぞれに位置する鋼材10cの分極量が共に100mVとなる際の基準コンクリート部10bの電気抵抗率に対する基準埋戻部10aの電気抵抗率の比である。
基準電気抵抗率比は、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量が異なる基準構造物10毎に求める。これにより、異なる塩化物イオンの含有量のそれぞれに対応した基準電気抵抗率比を得ることができる。
【0037】
次に、基準電気抵抗率比と基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量との関係を示す散布図を作成すると共に、該散布図の近似曲線(累乗近似曲線)を作成する。
そして、該散布図の近似曲線に基づいて、対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量に対応した基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求める。
更に、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物1の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部4を形成する埋戻材を選定する。

要求電気抵抗率=対象電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)
【0038】
以上のように、本発明に係る電気防食工法、埋戻材の選定方法、排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物は、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行うことができると共に、埋戻部に位置する鋼材の部分に過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0039】
即ち、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物1の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部4を形成する。これにより、対象コンクリート構造物1における埋戻部4以外の領域に位置する鋼材1aで100mV程度の分極を生じさせても埋戻部4に位置する鋼材1aでは100mVを超えないことになる。このため、埋戻部4以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部4では鋼材1aに過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0040】
また、個別基準電気抵抗率比と、基準コンクリート部10bにおける鋼材10cの分極量を100mVとした際の基準埋戻部10aにおける鋼材10cの分極量と、の関係を示す散布図を作成する。そして、該散布図の近似曲線に基づいて基準埋戻部10aにおける鋼材10cの分極量が100mVであるときの個別基準電気抵抗率比を求め、該個別基準電気抵抗率比を前記基準電気抵抗率比とする。これにより、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図をより正確に作成することができるため、上記の効果を得るために要求される埋戻部4の電気抵抗率をより正確に推定することができる。
【0041】
また、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量が異なる複数の基準構造物10のそれぞれにおける基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と、前記複数の基準構造物10のそれぞれにおける前記基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図を作成すると共に、該散布図の近似曲線を作成する。そして、該近似曲線に基づいて対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求めることで、上記の効果を得るために要求される埋戻部4の電気抵抗率を対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量に基づいて容易に推定することができる。
【0042】
また、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と、基準電気抵抗率比と、の関係を示す散布図に基づいて、対象コンクリート構造物1の塩化物イオンの含有量に対応する対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物1の電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部4を形成する埋戻材を選定する。これにより、選定した埋戻材で対象コンクリート構造物1に埋戻部4を形成した際に、対象コンクリート構造物1における埋戻部4以外の領域に位置する鋼材1aで100mV程度の分極を生じさせても埋戻部4に位置する鋼材1aでは100mVを超えないことになる。このため、埋戻部4以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部4では鋼材1aに過剰な防食電流が供給されるのを抑制することができる。
【0043】
なお、本発明に係る電気防食工法、埋戻材の選定方法、排流端子の設置方法、および、コンクリート構造物は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【実施例
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<基準埋戻部10aの作製>
セメント(C)、細骨材(S)、セメント混和用ポリマー(P)、及び、水(W)を材料とし、図5(a)に示す条件で、基準埋戻部10a(サイズ:100mm×100mm×100mm)を複数作製した。各基準埋戻部10aの電気抵抗率は、W/C、S/C、P/Cを変動させることにより調節した。各基準埋戻部10aの電気抵抗率は、上記実施形態の測定方法で測定した。各基準埋戻部10aの塩化物イオンの含有量、及び、電気抵抗率は、下記表1~3に示す。
鋼材10cとしては、D13鉄筋(長さ:80mm)を使用した。また、陽極材20としては、チタンリボンメッシュ陽極材(サイズ:12.7mm×120mm×1mm)を使用した。
【0046】
<基準コンクリート部10bの作製>
塩化物イオンの含有量が下記表1~3の数値となる基準コンクリート部10b(サイズ:100mm×100mm×100mm)を、図5(b)に示す条件で複数作製した。鋼材10cとしては、D13鉄筋(長さ:120mm)を使用した。また、陽極材20としては、チタンリボンメッシュ陽極材(サイズ:12.7mm×120mm×1mm)を使用した。
また、基準コンクリート部10bの電気抵抗率を上記実施形態の測定方法で測定した。基準コンクリート部10bの電気抵抗率は、下記表1~3に示す。
【0047】
<基準構造物10>
塩化物イオンの含有量が同一の2つの基準コンクリート部10bの間に1つの基準埋戻部10aを配置し、上記実施形態と同様に複数の基準構造物10を作成した。
【0048】
<個別基準電気抵抗率比>
各基準構造物10のそれぞれにおいて、基準コンクリート部10bの電気抵抗率に対する基準埋戻部10aの電気抵抗率の比(個別基準電気抵抗率比)を上記実施形態と同様の方法で求めた。各基準構造物10それぞれの個別基準電気抵抗率比については、下記表1~3に示す。
【0049】
<分極量>
上記実施形態と同様に、各基準構造物それぞれについて、基準コンクリート部分極量が100mVとなる際の基準埋戻部分極量を上記実施形態と同様の方法で求めた。基準埋戻部分極量については、下記表1~3に示す。
【0050】
<個別基準電気抵抗率比と基準埋戻部分極量との関係を示す散布図>
基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量が同一であり、且つ、基準埋戻部10aの電気抵抗率が異なる複数の基準構造物10のそれぞれについて、個別基準電気抵抗率比と、基準埋戻部分極量(即ち、基準コンクリート部分極量が100mVとなる際の基準埋戻部10aに位置する鋼材10cの分極量)との関係を示す散布図を作成した。該散布図は、基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量が異なる基準構造物10毎に作成した。個別基準電気抵抗率比と基準埋戻部分極量との関係を示す散布図は、図6~8に示す。
また、各散布図における近似曲線(累乗近似曲線)を作成し、各近似曲線の数式から基準埋戻部分極量が100mVの時の個別基準電気抵抗率比を算出し、該個別基準電気抵抗率比を基準電気抵抗率比とした。基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と基準電気抵抗率比は、下記表4に示す。
【0051】
<塩化物イオンの含有量と基準電気抵抗率比との関係を示す散布図>
各基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と該塩化物イオンの含有量に対応した基準電気抵抗率比との関係(表4の関係)を示す散布図を作成すると共に、近似曲線(指数近似曲線)を作成した。散布図は、図9に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
<まとめ>
基準コンクリート部10bの塩化物イオンの含有量と基準電気抵抗率比との関係を示す散布図の近似曲線(図9の近似曲線)よりも上の領域は、基準コンクリート部分極量が100mVとなるように基準構造物10の陽極材20から鋼材10cに電流を供給した際に、基準埋戻部分極量が100mVを超えない領域である。
そこで、図9の近似曲線に基づいて、電気防食の対象となる対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量に対応する基準電気抵抗率比である対象電気抵抗率比を求める。そして、該対象電気抵抗率比と、対象コンクリート構造物の塩化物イオンの含有量と、電気抵抗率と、下記(1)式と、に基づいて、要求電気抵抗率を算出し、該要求電気抵抗率を超える電気抵抗率を有する埋戻部を形成するような埋戻材を選定する。

要求電気抵抗率=基準電気抵抗率比×対象コンクリート構造物の電気抵抗率…(1)

これにより、対象コンクリート構造物における埋戻部以外の領域に位置する鋼材で100mV程度の分極を生じさせても埋戻部に位置する鋼材では100mVを超えないことになる。このため、埋戻部以外の領域で効果的な電気防食を行いつつ、埋戻部では鋼材に過剰な電流が供給されるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…対象コンクリート構造物、1a…鋼材、1b…凹部、3…排流端子、4…埋戻部、10…基準構造物、10a…基準埋戻部、10b…基準コンクリート部、10c…鋼材、20…陽極材、R1~R4…抵抗器、V1~V3…電位差計、X1…直流電源装置、X2…交流電源装置、X3…鉛照合電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9