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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から腸細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231102BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019117748
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2020039337
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018168957
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業、再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発、「ヒトiPS由来腸細胞の安定供給と迅速培養システムの構築」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】粂 昭苑
(72)【発明者】
【氏名】白木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】前田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】楠原 洋之
(72)【発明者】
【氏名】石川 晶也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 輝彦
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/060315(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147975(WO,A1)
【文献】特表2005-525104(JP,A)
【文献】特表2009-525030(JP,A)
【文献】特表2016-530219(JP,A)
【文献】OGAKI, S. et al.,Wnt and Notch Signals Guide Embryonic Stem Cell Differentiation into the Intestinal Lineages,Stem Cells,2013年,vol.31,p.1086-1096,Abstract, MATERIALS AND METHODS, FIGURE 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GSK3阻害剤と、(a)副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、及び肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、又は(b)副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、及びジメチルスルホキシドとを含むことを特徴とする腸細胞分化用培地。
【請求項2】
GSK3阻害剤が、BIOであることを特徴とする請求項1に記載の腸細胞分化用培地。
【請求項3】
肝細胞増殖因子受容体の活性化剤が、HGFであることを特徴とする請求項1又は2に記載の腸細胞分化用培地。
【請求項4】
副腎皮質ホルモンが、デキサメタゾンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の腸細胞分化用培地。
【請求項5】
以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする腸細胞の作製方法、
(1)多能性幹細胞を、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地中で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、GSK3阻害剤及びγ-セクレターゼ阻害剤を含む培地中で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の腸細胞分化用培地中、高密度コラーゲンゲル膜上で培養し、腸細胞を得る工程。
【請求項6】
工程(2)において、工程(1)で得られた細胞を高密度コラーゲンゲル膜上で培養することを特徴とする請求項5に記載の腸細胞の作製方法。
【請求項7】
工程(1)において、多能性幹細胞をM15細胞上で培養することを特徴とする請求項5又は6に記載の腸細胞の作製方法。
【請求項8】
工程(1)において、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、アクチビンAであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の腸細胞の作製方法。
【請求項9】
工程(2)において、GSK3阻害剤がBIOであり、γ-セクレターゼ阻害剤がDAPTであることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載の腸細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸細胞分化用培地、多能性幹細胞から腸細胞の作製方法、及びその方法によって作製された腸細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
腸は、栄養素、水及び薬物の吸収に重要な組織であり、薬物の吸収及び代謝が薬物の生物学的利用能を決定することから、薬物開発にとっても重要である。薬物開発のために、ヒト結腸癌細胞株であるCaco-2は、吸収及び代謝機能を試験するための腸上皮のモデルとして広く使用されている。しかしながら、大腸由来のCaco-2細胞は代謝酵素の活性が低く、しかも、その代謝酵素の活性は小腸のものと類似していない(Hubatsch et al. (2007). Nat. Protoc. 2, 2111-2119; Sun et al. (2002). Pharm. Res. 19, 4-6)。さらに、Caco-2細胞は、細胞株間に特性の差異が存在する。したがって、ヒト小腸に類似し、薬物試験においてCaco-2細胞に置き換えることができるヒトインビトロモデルを確立する必要がある。
【0003】
ヒト胚性幹細胞(hESCs)及びヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)(Takahashi et al. (2007). Cell 131, 861-72)は、3つの胚葉に由来するすべての細胞に分化し、適切な成長因子に暴露することにより特定の細胞に分化する能力を持っている。最近の研究では、胚性幹細胞(ES)や人工多能性幹細胞(iPS)が、胚体内胚葉やそれから誘導される臓器、例えば、膵臓、肝臓、腸へ分化することが示されている。
【0004】
腸管上皮では、腸幹細胞(ISC)から吸収性の細胞や分泌細胞(例えば、杯細胞、腸内分泌細胞、Paneth細胞)といった分化した細胞が生じる(Nakamura et al. (2007). J. Gastroenterol. 42, 705-10; Sato, T. and Clevers, H. (2013). Science 340, 190-194)。変異マウスの研究により、Wnt /β-カテニン及びNotchシグナル伝達のような腸幹細胞の増殖及び分化の維持及び調節に関与する多数の遺伝子及び因子が明らかにされている(Buczacki et al. (2013). Nature 495, 65-9; Chiba, (2006). Stem Cells 24, 2437-47; Fre et al. (2005). Nature 435, 964-8; Fre et al. (2009). Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 106, 6309-14; Gerbe et al. (2011). J. Cell Biol. 192, 767-80; Gregorieff et al., (2015). Nature)。ISCは、LGR5(Barker et al. (2007). Nature 449, 1003-7)を発現する。LGR5は、R-スポンジン1の結合に際してWnt /β-カテニンシグナル伝達を媒介するWntシグナル伝達受容体である。組織培養においてISCを維持する因子のスクリーニングを通して、表皮成長因子(EGF)、Noggin及びR-スポンジン1は、培養においてISCを維持するニッチ因子として定義された(Sato et al. (2009). Nature 459, 262-5)。細胞外マトリックスがISCの維持にとって重要であることが知られているので、マトリゲルが使用され、ISCの増殖をサポートするため増殖因子が補充される。その後、分子化合物スクリーニングにより、ニッチ因子であるWnt3a、EGF、Noggin 、R-スポンジン1、ニコチンアミド、A83-01(TGF-β I型受容体キナーゼの阻害剤、アクチビン様キナーゼ5(ALK5)とも呼ばれる。)の補充により、成人ヒト小腸初代細胞又は結腸上皮組織からの長期オルガノイド培養法が確立された(Sato et al. (2011) Gastroenterology 141, 1762-1772)。
【0005】
ISCのオルガノイド培養系を利用して、hiPSCをアクチビンによって胚体内胚葉に分化させた後、高濃度のFGF及びWntを補充したマトリゲルで培養することにより腸細胞に分化させることが知られている(Spence et al. (2011). Nature 470, 105-9)。しかし、これらのhiPSC由来の細胞は、Lgr5を発現する細胞の数が少ないことから、未成熟な細胞であると考えられている。これらのiPSC由来腸細胞を長期間培養し、マウス腎臓カプセル下へ移植することにより、さらに成熟し、移植6週間後に分化した細胞が生成されたと報告されている(Watson et al. (2014). Nat. Med. 20)。
【0006】
オルガノイド培養は3次元培養系である。一方、2次元単層培養における腸上皮細胞の誘導の試みも検討されている。FGF4及びWnt3Aが内胚葉をCDX2陽性腸細胞に分化させたことが以前に報告されている(Ameri et al. (2010). Stem Cells 28, 45-56; Hansson et al., (2009). Dev. Biol. 330, 286-304)。本発明者のグループは、マウス及びヒト胚性幹(ES)細胞から腸上皮を分化させる2次元培養を報告している。胚体内胚葉分化後、グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)-3β阻害剤である6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(BIO)及びγ-セクレターゼ阻害剤であるDAPTは、CDX2を発現する後期胚体内胚葉細胞を相乗的に誘導した。この胚体内胚葉細胞は、その後、4つの成熟した腸細胞、すなわち、腸細胞、杯細胞、腸内分泌細胞及びPaneth細胞に分化した(Ogaki et al.(2013). Stem Cells 31, 1086-96)。16日の分化迅速プロトコル(Ogaki et al. (2015) Sci. Rep. 5, 17297)によって、腸の成熟細胞が得られた。
【0007】
オルガノイド培養系を模倣するいくつかの低分子化合物を用いてヒトiPSCから腸細胞様細胞を分化することが以前に報告され、ヒトiPSCの腸細胞への分化が促進された。この腸細胞様細胞は、成人の腸に匹敵するPEPT1又はBCRPの発現を示した(Iwao et al., (2015). Drug Metab. Dispos. 43, 603-610; Kodama et al. (2016). Drug Metab. Dispos. 44)。hiPSC由来腸細胞では、PEPT1又はBCRPが介する能動輸送活性を、それらの基質であるグリシルサルコシン又はHoechst 33342の取り込みによって評価し、特異的阻害剤であるイブプロフェン又はKo-143による特異性をそれぞれ確認した。最近、BIO及びDAPTへの暴露によって生成されたhiPSC由来腸細胞は、いくつかの主要なトランスポーター、CYP3A4及びその転写制御因子を発現することが明らかにされた(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ozawa, T. et al. (2015). Sci. Rep., 5:16479
【文献】Negoro, R. et al. (2016). Res. Commun. 472, 631-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薬物動態研究のためには、薬物吸収と薬物代謝を同時に評価できる腸のモデル細胞が必要である。これまで、このようなモデル細胞としてCaco-2細胞が用いられてきたが、代謝酵素の発現が不十分であるという問題がある。また、ヒト初代培養小腸上皮細胞をモデル細胞とすることもが考えられるが、入手及び培養の困難性から、現実的ではない。本発明は、このような背景の下、実際の腸細胞に近い機能を示す腸細胞を、多能性幹細胞から作製する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、多能性幹細胞を腸細胞に分化させる培養方法において、その後期段階の培養をコラーゲンビトリゲル(登録商標)膜(CVM)上で行うことにより、高い成熟度を示し、実際の腸細胞に近い腸細胞が得られることを見出した。また、本発明者は、腸細胞の成熟段階(例えば、分化開始から15日目以降)の培養をBIO、HGF、デキサメタゾン、及びカルシトリオールを含む培地、又はBIO、ジメチルスルホキシド、デキサメタゾン、及びカルシトリオールを含む培地中で行うことにより、高い成熟度の腸細胞が得られることも見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔10〕を提供するものである。
〔1〕GSK3阻害剤と、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むことを特徴とする腸細胞分化用培地。
【0012】
〔2〕GSK3阻害剤が、BIOであることを特徴とする〔1〕に記載の腸細胞分化用培地。
【0013】
〔3〕肝細胞増殖因子受容体の活性化剤が、HGFであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の腸細胞分化用培地。
【0014】
〔4〕副腎皮質ホルモンが、デキサメタゾンであることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の腸細胞分化用培地。
【0015】
〔5〕以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする腸細胞の作製方法、
(1)多能性幹細胞を、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地中で培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞を、GSK3阻害剤及びγ-セクレターゼ阻害剤を含む培地中で培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞を、〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の腸細胞分化用培地中、高密度コラーゲンゲル膜上で培養し、腸細胞を得る工程。
【0016】
〔6〕工程(2)において、工程(1)で得られた細胞を高密度コラーゲンゲル膜上で培養することを特徴とする〔5〕に記載の腸細胞の作製方法。
【0017】
〔7〕工程(1)において、多能性幹細胞をM15細胞上で培養することを特徴とする〔5〕又は〔6〕に記載の腸細胞の作製方法。
【0018】
〔8〕工程(1)において、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤が、アクチビンAであることを特徴とする〔5〕乃至〔7〕のいずれかに記載の腸細胞の作製方法。
【0019】
〔9〕工程(2)において、GSK3阻害剤がBIOであり、γ-セクレターゼ阻害剤がDAPTであることを特徴とする〔5〕乃至〔8〕のいずれかに記載の腸細胞の作製方法。
【0020】
〔10〕〔5〕乃至〔9〕のいずれかに記載の方法によって作製された腸細胞。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、成熟度の高い腸細胞、並びにそれを作製するための培地及び方法を提供する。このような成熟度の高い腸細胞は、薬物動態研究のためのモデル細胞として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】コラーゲンビトリゲルは、ヒトiPSCの腸細胞への分化をサポートする。ChiPS18又はRPChiPS771ヒトiPS細胞は、膜形成及びCVMセルカルチャーインサート(以下、CVMインサートと略記)の腸マーカー発現によって特徴付けられる腸細胞に分化する。(A)腸細胞への分化を誘導するためのhiPSCの分化手順の模式図。hiPSCをM15フィーダー上で3日目(D3)までM1培地を用いて培養することにより胚体内胚葉(DE)を、さらに3日目から10日目(D10)、又は15日目(D15)までM2培地を用いて継続培養することにより、腸前駆細胞への分化を行った。3日目(D3)のDE、10日目(D10)又は15日目(D15)の腸前駆細胞を解離させて凍結させ、 D3(a)、D10(b)又はD15(c)ストックと命名する。使用時に、低温保存された細胞ストックを凍結融解し、CVM上にプレーティングし、分化を継続する。CVM上で培養し、培地を3日目にM2に切り替え、15日目まで培養し、さらに15日目にM3培地に切り替え、20日目又は40日目まで培養する。(B)4日目の内胚葉マーカーSOX17(赤色)、及び10日目の腸マーカーCDX2(緑色)の発現。DAPI(青色)は核カウンター染色を示す。(C)Caco-2細胞(左)、又は3日目、10日目若しくは15日目のストックからのiPSC由来腸(右)のTEER(経上皮電気抵抗)値は、日数とともに増加し、特定の日の培養後にプラトーに達する。(D)iPSC由来腸細胞のZO1(緑色)発現。(E)VILLIN(赤色)発現は、hiPSC-腸細胞の頂端側に局在することが観察される。I(緑色の線)とII(赤い線)の面における、Z軸方向をスキャンして得られた像のZ-スタックを、ボックス領域に表示される断面に示している。
図2】hiPSC由来腸細胞におけるトランスポーター及びP450酵素の時間依存的発現。ヒトiPSCは、分化し、腸のマーカー、トランスポーター、及びCYP酵素の発現といった腸細胞の特徴を示す。(A)hiPSCを、3日目のDEへ、次いで、CVMに再プレーティングし、40日目まで培養する分化手順の模式図。(B)CDX2(腸前駆細胞マーカー)、VILLIN1(腸細胞マーカー)、及びLGR5(腸幹細胞マーカー)の時間依存的発現。LGR5は初期に一過性にアップレギュレートされるが、CDX2及びVILLIN1発現の増加が観察される分化の後期にダウンレギュレートされる。(C)ABCB1、ABCG2及びSLC15A1のトランスポーター発現は、分化の10日又は15日目からアップレギュレートされ、そのレベルは成人の腸のレベル(= 1)に匹敵する。(D)CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A4は、20日目からアップレギュレートされる。
図3】腸前駆細胞はCVMインサート上で成熟腸細胞に分化する。(A)実験デザインの模式図。3日目(D3)、10日目(D10)及び15日目(D15)のhiPSC由来凍結保存細胞ストックをCVMインサート上にプレーティングし、35日目又は40日目まで培養する。(B)10日目又は15日目のストックは分化し、CDX2及びVILLINを3日目DE凍結保存細胞ストックから生じる腸細胞株よりも高いレベルで発現する。LGR5の発現はすべてのサンプルで低い。(C)全ての凍結保存された細胞ストックは、ABCB1、ABCG2及びSLC15A1を発現する分化細胞を生じる。(D)10日目又は15日目の凍結保存された細胞ストックは、3日目DE凍結保存細胞ストックから生じる腸細胞よりも高いレベルでCYP2C9又はCYP2C19を発現する腸細胞を生じる。全ての凍結保存された細胞ストックは、CYP3A4を発現する腸細胞を生じる。10日目の細胞ストックから生じる腸細胞のCYP3A4発現レベルは、3日目の細胞ストックから生じる腸細胞のCYP3A4発現レベルと同様であるが、15日目の細胞ストックから生じる腸細胞のCYP3A4発現レベルは、3日目の細胞ストックから生じる腸細胞のCYP3A4発現レベルよりも低い。データは平均±SEMとして表す。 N = 3である。3日目の凍結保存細胞ストック由来の腸細胞と10日目の凍結保存細胞ストック由来の腸細胞間の差異、又は3日目の凍結保存細胞ストック由来の腸細胞と15日目の凍結保存細胞ストック由来の腸細胞間の差異をスチューデントのt検定によって分析した。有意性は* P <0.05又は** P <0.01として示す。
図4】hiPSC由来の腸細胞は、Caco-2細胞よりも高いトランスポーター発現又はCYP酵素発現を示す。(A)実験デザインの模式図。 Caco-2細胞をコントロールとして用いる。RPChiPS771又はChiPS18 hiPSCの3日目のDE凍結保存細胞ストックを21日まで分化させ、分子マーカーの発現レベルをCaco-2細胞の発現レベルと比較する。(B)hiPSC由来の腸細胞は、Caco-2のレベルと比較して、高いレベルでCDX2及びVILLINを発現したが、LGR5の発現レベルは低い。(C)hiPSC由来の腸細胞は、Caco-2細胞のレベルと比較して、高いレベルでABCB1、ABCG2及びSLC15A1を発現した。(D)hiPSC由来の腸細胞は、CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A4を発現した。CYP3A4は、Caco-2細胞で発現されなかった。RPChiPS771及びChiPS18 hiPSCに由来する腸細胞間の差異をスチューデントのt検定よって分析した。有意性は* P <0.05又は** P <0.01として示す。
図5】hiPSC由来の腸細胞は、排出トランスポーター機能を示した。排出トランスポーター(P-gp、BCRP)の活性を、ヒトiPSC由来腸細胞を使って調べる。(A)P-gp及びBCRPの輸送活性を、それらの基質及び阻害剤を使って試験した。(左パネル)ベラパミル(P-gp阻害剤)の非存在下又は存在下でのジゴキシン(P-gp選択的基質)の方向性経細胞輸送(BからAへの輸送及びAからBへの輸送)。(中央パネル)エラクリダー(P-gp及びBCRP二重阻害剤)の非存在下又は存在下でのプラゾシン(BCRP及びP-gp基質)の方向性経細胞輸送(BからAへの輸送及びAからBへの輸送)。(右パネル)実験の模式図。上部又は下部チャンバーに基質を添加することによって基質の方向性輸送を試験し、最初の薬物適用の反対側で薬物濃度を測定した。次いで、細胞単層を通り抜ける基質の吸収性(AからBへ)又は分泌性(BからAへ)輸送を評価した。(B)細胞単層を通り抜けるプロプラノロールの輸送を調べた。プロプラノールは、能動的な輸送システムを使われずに、主に細胞内経路を介して輸送される。(C)マンニトールの輸送を調べた。マンニトールは、傍細胞経路を介して輸送される。
図6】代替分化プロトコル下で生成されたhiPSC由来腸細胞。(A)hiPS RPChiPS771を腸細胞に分化させるための実験手順の模式図。M15上で分化させたRPChiPS771細胞由来の3日目DE凍結保存細胞を凍結融解し、コラーゲンビトリゲル膜(CVM)上にプレーティングし、15日目までM2中で培養し、次いでM3-1又はM3-2に交換した(a)。あるいは、10日目までiMatrix被覆プレート上で3日目のDE凍結保存細胞を培養することにより、10日目の腸前駆体ストックを調製し、次いで10日目の凍結保存細胞ストックを調製した。使用時に、D10凍結保存細胞ストックを凍結融解し、そしてCVM上にプレーティングし、そしてM2培地中で培養した。15日目に、培地をM3-1又はM3-2に交換し、21~30日目まで培養を続けた。(B)15日目からM3-1又はM3-2で培養したiPSC由来腸のTEER(経上皮電気抵抗)値は、日数とともに増加し、特定の日数の間培養した後プラトーに達した。腸は、3日目(左)又は10日目(右)の凍結保存細胞ストックから分化させたものである。
図7】hiPSC由来腸細胞における分化マーカー、トランスポーター及びP450酵素の時間依存的発現。ヒトiPSCは分化し、腸マーカー、並びに腸細胞に特有のトランスポーター及びCYP酵素の発現を示す。(A)hiPSCの分化手順の模式図。RPChiPS771細胞を使用した。3日目のDE凍結保存細胞ストックを使用した。3日目のDEを凍結融解し、コラーゲンビトリゲル膜(CVM)上にプレーティングし、そして15日目までM2培地中で培養し、次いでM3-2培地に交換し、30日目まで培養した。(B)CDX2(腸マーカー)、VILLIN1(腸細胞マーカー)、及びLGR5(腸幹細胞マーカー)の時間依存的発現。LGR5は初期に一過性にアップレギュレートされるが、CDX2及びVILLIN1発現が増加する分化の後期にダウンレギュレートされる。(C)ABCB1、ABCG2及びSLC15A1の発現は分化の10日目又は15日目からアップレギュレートされ、そのレベルは成人の腸のレベルに匹敵する(=1)。(D)CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A4の発現は15日目からアップレギュレートされる。
図8】CVMインサート上で凍結保存された3日目内胚葉又は10日目腸前駆細胞が成熟腸細胞に分化する。(A)実験計画の模式図。3日目(D3)DE又は10日目腸前駆細胞の凍結保存細胞ストックを使用した。凍結保存した細胞を凍結融解し、コラーゲンビトリゲル膜(CVM)上にプレーティングし、分化15日目までM2中で培養した。その後、培地をM3-1又はM3-2に交換した。細胞を30日目までCVMインサート上で培養した。(B、C)21日目(B)又は30日目(C)の分化マーカー、トランスポーター及び代謝酵素の発現を調べた。(B、C)3日目のDE凍結保存細胞は分化し、CDX2及びVILLIN、ABCB1、ABCG2若しくはSLC15A1トランスポーター、又は代謝酵素CYP2C9、CYP2C19若しくはCYP3A4を発現する細胞を生じた。調べたマーカーの発現レベルは、培地M3-1及びM3-2中で培養した細胞間で異ならなかった。凍結保存された10日目の腸前駆細胞ストックもまた分化マーカーを発現する細胞に分化した。 LGR5発現はすべてのサンプルで低い。データは平均±SEMとして表す。 N=3。
図9】凍結保存された3日目の内胚葉細胞又は10日目の腸前駆細胞は、Caco2細胞よりも高いトランスポーター発現又はCYP酵素発現を示す成熟腸細胞に分化する。(A)実験計画の模式図。Caco2細胞を対照として使用する。RPChiPS771の3日目の凍結保存細胞ストックを21日目まで分化させ、分子マーカーの発現レベルをCaco2細胞の発現レベルと比較する。(B)Caco2細胞は日数とともに増加するTEERを示し、その値は12日目に約60Ωcm2でプラトーに達した。(C)hiPSC由来腸細胞は、Caco2のレベルと比較し、より高いレベルのCDX2及びVILLINを発現した一方、より低いレベルのLGR5を発現した。(D)hiPSC由来腸細胞は、ABCB1、ABCG2及びSLC15A1を発現した。発現レベルは、Caco2細胞のものと比較してあまり変わらない。(E)hiPSC由来腸細胞は、Caco2と同様のレベルでCYP2C9、CYP2C19を発現した。CYP3A4の発現は、hiPSC由来腸細胞において見られ、Caco2細胞においては発現されなかった。
図10】hiPSC由来腸細胞は、排出トランスポーターの機能を示した。26日目のローダミン123流束分析は、特異的基質であるローダミン123を基底方向から先端方向に輸送する際のP-gpトランスポーター活性がhiPS由来細胞において活性があることを明らかにした。(A)ヒトRPChiPS771 iPSC由来腸細胞を、M3培地に代えてM3-1を用いて分化させた。凍結保存した3日目DE細胞ストック(左パネル)又は10日目腸細胞ストック(右パネル)を使用した。ローダミン123(P-gp選択的基質)の指向性経細胞輸送(AからB及びBからA)は分化の21日目(上のパネル)又は30日目(下のパネル)に観察された。(B)ヒトRPChiPS771 iPSC由来腸細胞を、M3培地に代えてM3-2を用いて分化させた。ローダミン123の指向性経細胞輸送が26日目に観察された。透過率の値は各グラフの下の表に示されている。
図11】23~25日目におけるM3-2培地中での培養がCYP3A4の発現を誘導する。23~25日目においてM3-2培地中で培養された腸細胞は、15~25日目においてM3-2培地中で培養された腸細胞と同等のレベルのCYP3A4発現を示した。
図12】カルシトリオールはCYP3A4の発現誘導に重要な役割を果たす。カルシトリオールを除いた培地中で培養された腸細胞はほとんどCYP3A4を発現しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)腸細胞分化用培地
本発明の腸細胞分化用培地は、GSK3阻害剤と、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むことを特徴とするものである。
【0024】
本発明において「腸細胞分化用培地」とは、腸細胞に分化していない細胞を、腸細胞に分化させるために用いる培地である。「腸細胞に分化していない細胞」とは、例えば、後述する本発明の腸細胞の作製方法における工程(2)で得られた細胞であり、より具体的には、腸前駆細胞である。
【0025】
本発明の腸細胞分化用培地が含む培地成分としては、GSK3阻害剤、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、ジメチルスルホキシドを挙げることができる。これらのうち、GSK3阻害剤は必須成分であるが、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、及びジメチルスルホキシドについては、これらから選ばれる少なくとも1種が培地中に含まれていればよい。また、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤とジメチルスルホキシドは、通常、いずれか一方だけが含まれていればよい。更に、CYP3A4の発現を誘導する場合は、培地中にカルシトリオールが含まれていることが好ましい。好ましい培地成分の組み合わせとしては、GSK3阻害剤と副腎皮質ホルモンとカルシトリオールとジメチルスルホキシドの組み合わせ、GSK3阻害剤と副腎皮質ホルモンとカルシトリオールと肝細胞増殖因子受容体の活性化剤の組み合わせなどを挙げることができる。
【0026】
GSK3阻害剤は、GSK3α阻害活性を有する物質、GSK3β阻害活性を有する物質、及びGSK3α阻害活性とGSK3β阻害活性とを併せ持つ物質からなる群より選択される。GSK3阻害剤としては、GSK3β阻害活性を有する物質又はGSK3α阻害活性とGSK3β阻害活性とを併せ持つ物質が好ましい。上記GSK3阻害剤として、具体的にはCHIR98014、CHIR99021、ケンパウロン(Kenpaullone)、AR-AO144-18、TDZD-8、SB216763、BIO、TWS-119及びSB415286等が例示される。これらは市販品として購入可能である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。また、GSK3のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA等もGSK3阻害剤として使用することができる。これらはいずれも商業的に入手可能であるか既知文献に従って合成することができる。用いられるGSK3阻害剤は、好ましくは、BIOである。培地中のGSK3阻害剤の濃度は、用いるGSK3阻害剤の種類によって適宜設定されるが、GSK3阻害剤としてBIOを使用する場合の濃度は、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。
【0027】
肝細胞増殖因子受容体の活性化剤は、肝細胞増殖因子受容体を活性化できるものであれば特に限定されず、例えば、HGFをあげることができる。培地中の肝細胞増殖因子受容体の活性化剤の濃度は、用いる肝細胞増殖因子受容体の活性化剤の種類によって適宜設定されるが、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤としてHGFを使用する場合の濃度は、好ましくは1~50ng/mLであり、より好ましくは5~30ng/mLである。
【0028】
副腎皮質ホルモンは、化学的に合成されたものであっても、天然のものであってもよい。副腎皮質ホルモンの具体例としては、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾンなどを挙げることができる。好ましい副腎皮質ホルモンは、デキサメタゾンである。培地中の副腎皮質ホルモンの濃度は、用いる副腎皮質ホルモンの種類によって適宜設定されるが、副腎皮質ホルモンとしてデキサメタゾンを使用する場合の濃度は、好ましくは0.01~1μMであり、より好ましくは0.05~0.3μMである。
【0029】
培地中のカルシトリオールの濃度は特に限定されないが、好ましくは0.1~5μMであり、より好ましくは0.5~3μMである。
【0030】
培地中のジメチルスルホキシドの濃度は特に限定されないが、好ましくは0.1~1%であり、より好ましくは0.3~0.8%である。
【0031】
本発明の腸細胞分化用培地は、GSK3阻害剤、肝細胞増殖因子受容体の活性化剤、副腎皮質ホルモン、カルシトリオール、ジメチルスルホキシド以外の成分を含んでいてもよい。例えば、アスコルビン酸、ウシ血清アルブミン(脂肪酸を含まないものが好ましい。)、トランスフェリン、インスリン、L-グルタミンなどを含んでいてもよい。
【0032】
本発明の腸細胞分化用培地は、公知の基礎培地をもとに作製することができる。このような公知の基礎培地としては、例えば、BME培地、BGjB培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagles MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、William’s E培地、及びこれらの混合培地等を挙げることができるが、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0033】
本発明の腸細胞分化用培地は、血清代替物を含んでいてもよい。血清代替物としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えばセレン)、B-27サプリメント、E5サプリメン、E6サプリメン、N2サプリメント、ノックアウトシーラムリプレースメント(KSR)、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロール、又はこれらの均等物が挙げられる。これらの血清代替物は、市販されている。好ましくは、ゼノフリーB-27サプリメント又はゼノフリーノックアウトシーラムリプレースメント(KSR)を挙げることができ、例えば、0.01~30重量%、好ましくは0.1~20重量%の濃度にて、培地中に添加できる。また、この培地は、他の添加物、例えば、脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、抗生物質(例えばペニシリンやストレプトマイシン)又は抗菌剤(例えばアンホテリシンB)等を含有してもよい。
【0034】
(B)腸細胞の作製方法
本発明の腸細胞の作製方法は、下記の工程(1)~(3)を含むことを特徴とするものである。
工程(1)では、多能性幹細胞を、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含む培地中で培養する。
【0035】
「多能性幹細胞」とは、自己複製能を有し、in vitroにおいて培養することが可能で、かつ、個体を構成する細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(GS細胞)、体細胞由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞等を挙げることができるが、本発明で好ましく用いられるのはiPS細胞又はES細胞であり、特に好ましくは、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞である。
【0036】
ES細胞は、哺乳類動物由来のES細胞であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル又はヒト等を挙げることができ、好ましくは、マウス又はヒトであり、さらに好ましくはヒトである。
【0037】
ES細胞は、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と一緒に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に細胞株として樹立することができる。
【0038】
また、iPS細胞とは、分化多能性を獲得した細胞のことで、体細胞(例えば、線維芽細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(分化多能性因子)遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞のことである。「分化多能性因子」としては、多くの因子が報告されており、特に限定しないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15及びSox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、Mycファミリー(例えば、c-Myc、N-Myc、L-Mycなど)、Nanog、LIN28などを挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの報告がなされており、それらを参考にすることができる(例えば、Takahashi et al., Cell, 2006, 126:663-676;Okita et al., Nature, 2007, 448:313-317:Wernig et al., Nature, 2007, 448:318-324;Maherali et al., Cell Stem Cell, 2007, 1:55-70;Park et al., Nature, 2007, 451:141-146;Nakagawa et al., Nat Biotechnol 2008, 26:101-106;Wernig et al., Cell Stem Cell, 2008, 10:10-12;Yu et al., Science, 2007, 318:1917-1920;Takahashi et al., Cell, 2007, 131:861-872;Stadtfeld et al., Science, 2008, 322:945-949など)。
【0039】
使用する多能性幹細胞は、当該分野で通常用いられている方法にて培養及び維持することができる。ES細胞の培養方法は常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用い、白血病阻害因子、KSR(ノックアウト血清代替物)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM培地を用いて維持することができる。iPS細胞の培養も常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてMEF細胞を用いて、bFGF、KSR(ノックアウト血清代替物)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地を用いて維持することができる。
【0040】
多能性幹細胞は、工程(1)での培養前に、公知の方法(WO2015/125662)に従い、メチオニンを含まない未分化維持培地中で培養してもよい。これにより、多能性幹細胞の分化効率を促進することができる。ここで、「メチオニンを含まない」とは、メチオニンを培地中に、全く含まない場合の他、10μM以下、好ましくは5μM以下、より好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下含有することを意味する。メチオニンを含まない培地中での培養時間は特に限定されないが、好ましくは3~24時間であり、より好ましくは少なくとも5~24時間であり、更に好ましくは少なくとも5~10時間である。
【0041】
アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)-4,7の活性化剤は、ALK-4及び/又はALK-7に対し活性化作用を有する物質から選択される。使用されるアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤の例としては、アクチビン、Nodal、Myostatinが挙げられ、好ましくはアクチビンである。アクチビンは、アクチビンA、B、C、D及びABが知られているが、そのいずれのアクチビンも用いることができる。用いるアクチビンとしては、特に好ましくはアクチビンAである。また、用いるアクチビンとしては、ヒト、マウス等いずれの哺乳動物由来のアクチビンをも使用することができるが、分化に用いる幹細胞と同一の動物種由来のアクチビンを用いることが好ましく、例えばヒト由来の多能性幹細胞を出発原料とする場合、ヒト由来のアクチビン、特にはヒト由来のアクチビンAを用いることが好ましい。これらのアクチビンは商業的に入手可能である。培地中のアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤の濃度は、用いる種類によって適宜設定されるが、ヒトアクチビンAを使用する場合は、好ましくは3~500ng/mLであり、より好ましくは5~200ng/mLである。
【0042】
培地中には、アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤のほかに、GSK3阻害剤も含まれていてもよい。また、培養を2段階に分け、前半の培養ではアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤とGSK3阻害剤を含む培地を使用し、後半の培養ではアクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤を含み、GSK3阻害剤を含まない培地を使用してもよい。
【0043】
GSK3阻害剤は、本発明の腸細胞分化用培地において使用するものと同様のものを使用することができるが、工程(1)において使用する好適なGSK3阻害剤は、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)、SB216763(3-(2,3-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、及びSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)からなる群から選択され、特に好ましくはCHIR99021である。培地中のGSK3阻害剤の濃度は、用いるGSK3阻害剤の種類によって適宜設定されるが、GSK3阻害剤としてCHIR99021を使用する場合の濃度は、好ましくは1~10μMであり、より好ましくは2~5μMである。
【0044】
工程(1)において使用する培地は、公知の基礎培地をもとに作製することができる。基礎培地は、本発明の腸細胞分化用培地において使用するものと同様のものを使用することができる。また、工程(1)において使用する培地は、血清代替物を含んでいてもよい。血清代替物は、本発明の腸細胞分化用培地において使用するものと同様のものを使用することができる。更に、工程(1)において使用する培地は、本発明の腸細胞分化用培地において使用する培地と同様の添加物を含んでいてもよい。
【0045】
工程(1)の培養は、M15フィーダー細胞上で行うことが好ましい。これにより、多能性幹細胞を効率的に内胚葉細胞に誘導することができる(Shiraki et al., 2008, Stem Cells 26, 874-85)。
【0046】
工程(1)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、1日~5日であり、好ましくは、3日~4日である。また、培養期間は、培養中の多能性幹細胞が胚体内胚葉細胞に分化したことを確認し、それによって決めてもよい。多能性幹細胞が胚体内胚葉細胞に分化したことの確認は、内胚葉細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(内胚葉マーカー)の発現変動を評価することによって行うことができる。内胚葉マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT-PCRを利用した遺伝子発現評価方法等によって行うことができる。内胚葉マーカーの例としては、SOX17、FOXA2を挙げることができる。
【0047】
工程(2)では、工程(1)で得られた細胞を、GSK3阻害剤及びγ-セクレターゼ阻害剤を含む培地中で培養する。
【0048】
工程(2)の培養は、工程(1)の培養後すぐに行ってもよいが、工程(1)終了後、細胞を凍結保存し、一定期間保存した後に細胞を解凍し、工程(2)の培養を行ってもよい。
【0049】
GSK3阻害剤は、本発明の腸細胞分化用培地で使用するものと同様のものを使用することができ、好適なGSK3阻害剤として、BIOを使用することができる。培地中のGSK3阻害剤の濃度は、用いるGSK3阻害剤の種類によって適宜設定されるが、GSK3阻害剤としてBIOを使用する場合の濃度は、好ましくは0.5~20μMであり、より好ましくは1~10μMである。
【0050】
γ-セクレターゼ阻害剤としては、例えば、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、DAPT、L-685458、又はMK0752を挙げることができる。これらは市販品として購入可能である。また、市販品として入手できない場合であっても、当業者であれば既知文献に従って調製することもできる。好適なγ-セクレターゼ阻害剤としては、DAPTを挙げることができる。培地中のγ-セクレターゼ阻害剤の濃度は、用いるγ-セクレターゼ阻害剤の種類によって適宜設定されるが、γ-セクレターゼ阻害剤としてDAPTを使用する場合の濃度は、好ましくは1~30μMであり、より好ましくは5~20μMである。
【0051】
工程(2)の培養は、M15フィーダー細胞又は高密度コラーゲンゲル膜上で行うことが好ましい。また、工程(2)の培養の前段をM15フィーダー細胞上で行い、後段を高密度コラーゲンゲル膜上で行ってもよい。
【0052】
「高密度コラーゲンゲル」とは、生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維より構成されるコラーゲンゲルであり、強度と透明性に優れている。高密度コラーゲンゲルとしては、コラーゲンビトリゲル(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構による登録商標)を挙げることができる(竹澤俊明: 生物工学学会誌. 91: 214-217, 2013、WO2012/026531、特開2012-115262)。高密度コラーゲンゲルは、例えば、コラーゲンのゾルをゲル化し、そのコラーゲンゲルを乾燥させて、ガラス化し、その後、再水和することにより作製することができる。高密度コラーゲンゲルにおけるコラーゲン繊維密度は、21~45(W/V)%が好ましく、26~40(W/V)%がより好ましく、31~35(W/V)%がさらに好ましい。
【0053】
高密度コラーゲンゲル膜上での培養はどのような方法で行ってもよいが、筒状の枠体の底面部分に高密度コラーゲンゲル膜を設け、この膜上で細胞を培養することが好ましい。
【0054】
工程(2)において使用する培地は、公知の基礎培地をもとに作製することができる。基礎培地は、本発明の腸細胞分化用培地において使用するものと同様のものを使用することができる。また、工程(2)において使用する培地は、血清代替物を含んでいてもよい。血清代替物は、本発明の腸細胞分化用培地において使用するものと同様のものを使用することができる。培地中の血清代替物の濃度は特に限定されず、例えば、0.01~30重量%、好ましくは0.1~20重量%の濃度とすることができる。更に、工程(2)において使用する培地は、本発明の腸細胞分化用培地において使用する培地と同様の添加物を含んでいてもよい。
【0055】
工程(2)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、8日~20日であり、好ましくは、10日~15日である。また、培養期間は、培養中の細胞が腸前駆細胞に分化したことを確認し、それによって決めてもよい。腸前駆細胞に分化したことの確認は、腸前駆細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(腸前駆細胞マーカー)の発現変動を評価することによって行うことができる。腸前駆細胞マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT-PCRを利用した遺伝子発現評価方法等によって行うことができる。腸前駆細胞マーカーの例としては、CDX2及びIFABPを挙げることができる。
【0056】
工程(3)では、工程(2)で得られた細胞を、本発明の腸細胞分化用培地中、高密度コラーゲンゲル膜上で培養し、腸細胞を得る。
【0057】
工程(3)の培養は、工程(2)の培養後すぐに行ってもよいが、工程(2)終了後、細胞を凍結保存し、一定期間保存した後に細胞を解凍し、工程(3)の培養を行ってもよい。
【0058】
高密度コラーゲンゲル膜上での培養は、工程(2)における培養と同様に行うことができる。
【0059】
工程(3)においては、本発明の腸細胞分化用培地を使用するが、腸細胞を得ることができる培地であれば他の培地を使用してもよい。このような他の培地としては、例えば、Cellartis(登録商標)Hepatocyte Maintenance Mediumを含む培地を挙げることができる。
【0060】
CYP3A4を高レベルで発現する腸細胞を作製する場合は、工程(3)の後半においてカルシトリオールを含む培地中で培養することが好ましい。その一方、工程(3)の前半においては必ずしもカルシトリオールを含む培地中で培養する必要はない。従って、工程(3)の前半と後半で異なる培地を使用してもよい。即ち、工程(3)の前半ではカルシトリオールを含まない本発明の腸細胞分化用培地を使用し、後半ではカルシトリオールを含む本発明の腸細胞分化用培地を使用することが可能である。
【0061】
工程(3)の培養は、細胞の培養に適した培養温度(通常30~40℃、好ましくは37℃程度)で、通常、CO2インキュベーター内で行われる。培養期間は、通常、3日~40日であり、好ましくは、5日~30日である。また、培養期間は、培養中の細胞が腸細胞に分化したことを確認し、それによって決めてもよい。腸細胞に分化したことの確認は、腸細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子(腸細胞マーカー)の発現変動を評価することによって行うことができる。腸細胞マーカーの発現変動の評価は、例えば、抗原抗体反応を利用したタンパク質の発現評価方法、定量RT-PCRを利用した遺伝子発現評価方法等によって行うことができる。腸細胞マーカーの例としては、VILLINを挙げることができる。
【0062】
上記の腸細胞の作製方法によって作製される腸細胞も本発明の対象である。なお、この腸細胞は、構造や特性ではなく、製造方法によって特定されることになるが、これは、腸細胞は生体の一部であることから、その構造や特性は極めて複雑であり、それらを特定する作業を行うことは、著しく過大な経済的支出や時間を必要とするからである。
【0063】
本発明の腸細胞は、例えば、以下のような性質を有する。
a)細胞接合部にタイトジャンクション関連タンパク質であるZO1を発現する。
b)単層膜を形成する。TEER値の測定により、この単層膜は十分なバリア機能を有することが確認されている。
c)取り込みトランスポーター遺伝子(例えば、SLC15A1)及び排出トランスポーター遺伝子(例えば、ABCB1及びABCG2)が成体小腸と同等なレベルで発現している。
d)ジゴキシン及びプラゾシンの基底側から頂端側への経細胞方向性輸送が観察される。
e)CYP酵素(例えば、CYP2C9、CYP2C19、CYP3A4)遺伝子発現量が正常成体レベルの発現量に近いレベルである。
f)VILLINを発現し、その発現は頂端側に局在する。
【実施例
【0064】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(A)結果
(1)コラーゲンビトリゲルは、ヒトiPSCが、膜形成及び腸のマーカー発現を特徴とする腸細胞へ分化することをサポートする。
ヒトiPS細胞の成熟腸細胞への分化を誘導する試みにおいて、本発明者は最初にM15細胞上でヒトiPSCから胚体内胚葉(DE)細胞を誘導した。3日目(D3)のDE細胞を解離させ、CVMインサート上に置き換え、15日目までM2培地で培養した。その後、培地を成熟培地(M3、M3-1、又はM3-2)に交換し、40日目まで培養した(図1A図6A)。あるいは、3日目DE細胞をiMatrix511プレコートプレート上に再プレーティングし、M2培地中で10日目まで培養し、次いで10日目の腸前駆細胞ストックとして凍結保存した。使用時に、凍結保存した10日目細胞ストックを凍結融解し、CVMインサート上に播種し、15日目までM2中で培養し、次いでM3-1又はM3-2培地に交換した。3日目DEは凍結細胞ストックとして保存することもできた。本発明者の実験では、3日目DE細胞ストック又は10日目腸前駆細胞ストックのいずれかを使用した。免疫細胞化学分析の結果、CVM上にプレーティングした4日目のDE細胞はSOX17発現を示し、その後10日目にCDX2発現が上昇することが明らかになった(図1B)。
【0065】
次いで、膜の完全性を検査するために、経上皮電気抵抗(TEER)値をアッセイした。結腸癌由来の細胞株であるCaco-2細胞を、5.0×104細胞/ウェルの濃度で播種した。TEER値は時間と共に増加し、14日目に35Ωcm2に達した。凍結保存された3日目(D3)のDE細胞を、8.0×104細胞/ウェルの濃度で播種し、単層を形成させた。この細胞は、時間と共にTEER値の増加を示し、その値は、14日目に約40Ωcm2でプラトーに達した。凍結保存された10日目及び15日目の腸前駆細胞を1.6×105細胞/ウェルの濃度で播種し、単層を形成させた。これらの細胞は、時間と共にTEER値の増加を示し、その値は、プレーティングの11日後に、約50Ωcm2のレベルで、プラトーに達した(図1C)。
【0066】
腸細胞は、細胞接合部にタイトジャンクション関連タンパク質であるZO1を発現した。この結果は、細胞のバリア機能が形成されることを示唆している(図1D)。腸細胞特異的マーカーであるVILLINの発現が観察された。VILLINの発現は、ヒトiPSC由来腸細胞の基底側よりも頂端側において高発現し、極性化された局在化を示した。これは、分化30日目に、共焦点顕微鏡の検査によって明らかにされた(図1E)。
【0067】
以上の結果は、hiPSC由来の腸細胞が、マーカー発現、膜の完全性、及び極性化した頂端-基底構造(これらはいずれも腸細胞の特徴である。)を示したことを表す。
【0068】
細胞のTEER値を調べた(図6)。分化した細胞は凍結融解時にTEERの増加を示し、14日目に3日目の凍結保存細胞ストック(図6左)と10日目の凍結保存細胞ストック(図6右)の両方で40Ωcm2のプラトーに達した。したがって、M3培地はM3-1又はM3-2培地に置き換えることができた。
【0069】
(2)hiPSC由来の腸細胞は、腸細胞に特徴的なトランスポーター及びP450酵素を発現した。
次に、定量的PCR分析により、腸のマーカー、トランスポーター及び代謝酵素の発現を分析した。この一連の実験では、凍結保存された3日目のDE細胞を使用した。凍結保存された3日目のDE細胞を、CVMインサート上にプレーティングし、最初にM2培地で培養し、次いでM3培地に交換し、分化の40日目まで培養することによって、腸分化を誘導した(図2A)。
【0070】
Q-PCR分析により、陰窩基底部円柱細胞のマーカーであるLGR5が一過性にアップレギュレートされ、5日目にピークに達し、その後ダウンレギュレーションされることが明らかになった。LGR5発現の減少により、腸前駆細胞マーカーであるCDX2及び腸細胞マーカーであるVILLINの発現は、LGR5発現と相互排他的にアップレギュレートされる。CDX2又はVILLIN発現は、それぞれ10日目又は15日目にプラトーに達し(図2A、B)、それらの発現レベルは十分なレベルで維持される。マーカーの発現レベルは、成人の腸の発現レベル(成人の腸= 1)に対して正規化される。
【0071】
ABCG2(ATP-binding cassette family G member 2)によってコードされるBCRP(breast cancer resistance protein)やABCB1(ATP-binding cassette family B member 1)によってコードされるP-gp / MDR1(P-glycoprotein/multidrug resistance 1)などの腸内で発現する薬物排出トランスポーターは、腸における薬物吸収に対する制限障壁であると考えられている(Estudante et al. (2013). Adv. Drug Deliv. Rev. 65, 1340-1356)。SLC15A1(solute carrier family 15 member 1)によってコードされるPEPT1(peptide transporter 1)は、オリゴペプチド及びペプチド模倣薬の腸内取り込みに関与する。これらのトランスポーターは、経口投与された薬物の腸内利用能を決定するために重要であるため、hiPSCからの分化におけるそれらの培養期間依存的な発現パターンを調べた。ABCG2のmRNA発現は、分化の10日目からアップレギュレートされ、15日目にピークに達し、その後あるレベルで維持された。ABCB1は15日目にアップレギュレートされ、30日目にピークに達した。SLC15A1は、15日目から検出され、その後徐々にアップレギュレートされ、30日目にプラトーに達した。全体的にみると、トランスポーターの発現は、21日目以後にあるレベルで検出された(図2C)。
【0072】
薬物代謝も、生体異物の解毒のための腸細胞の重要な機能である。シトクロムP450(CYP)アイソフォームの中でも、CYP3A4は小腸における主要な薬物代謝酵素である。CYP3A4、CYP2C9及びCYP2C19のmRNA発現は、hiPSC由来腸細胞において、20日目からアップレギュレートされ、その後増加したことが観察された(図2D)。hiPSC由来の腸におけるCYP酵素の発現レベルは、成人の腸内における発現レベルに対する倍数として示されている。したがって、結果は、CYP2C9及びCYP2C19が成人の腸内の内在の酵素の約0.1~0.3倍であることを示す。CYP3A4は、分化の30日目から40日目において、成人の腸におけるCYP3A4の約0.08~0.15倍で、発現された。M3培地をM3-1又はM3-2培地と交換した場合にも同様の結果が得られた(図7、9)。
【0073】
(3)CVMは、成熟腸細胞に分化する腸前駆細胞をサポートする。
次に、hiPSC由来腸前駆細胞の分化能を試験した。この実験では、凍結保存された3日目DE細胞、10日目及び15日目の hiPSC由来腸前駆細胞を使用した。これらの細胞をCVMインサート上に播種し、35日又は40日まで培養し、その後回収し、腸マーカー、トランスポーター及びCYP酵素をリアルタイムPCRによって分析した(図3A)。hiPSC由来10日目及び15日目の腸前駆細胞は分化し、低レベルのLGR5発現を示した。3日目DE細胞及び10日目腸前駆細胞は、35日目でCDX2及びVILLIN上を同様のレベルで発現する腸細胞を生じる。しかし、15日目の腸前駆細胞由来の40日目の腸細胞は、3日目のDE細胞由来のものより高いレベルでCDX2又はVILLINを発現した(図3B)。この結果は、10日目及び15日目のhiPSC由来腸前駆細胞の凍結保存された細胞ストックが、CVM上で腸細胞に分化できたことを示唆している。
【0074】
続いて、MDR1、BCRP又はPEPT1のトランスポーター分子又はCYP2C9、CYP2C19又はCYP3A4のCYP酵素分子の発現レベルを試験した。結果として、10日目のhiPSC由来腸前駆細胞の凍結保存細胞ストックは、3日目のDE細胞由来のものと同様のレベルでABCB1及びABCG2を発現する細胞に分化した。一方、15日目のhiPSC由来腸前駆細胞は腸細胞を生じるが、その腸細胞におけるABCB1及びABCG2の発現は3日目のDE由来細胞の発現よりも低い(図3C)。しかし、SLC15A1の発現は、これらのhiPSC由来細胞において異なる傾向を示した。10日目の凍結保存細胞は、3日目のDE細胞よりもSLC15A1の発現が高い腸細胞を生じるが、15日目の凍結保存細胞は3日目のDE細胞と同様の分化能を示した。CYP酵素発現に関して、hiPSC由来の10日目の腸前駆細胞は、分化し、3日目のDE由来細胞と同様のレベルでCYP3A4を発現した。hiPSC由来の15日目の腸前駆細胞は、より低いCYP3A4を発現する腸細胞を生じる。しかし、hiPSC由来の10日目及び15日目の腸前駆細胞は、3日目のDE由来細胞のレベルと比較して、より高いレベルでCYP2C9又はCYP2C19を発現する腸細胞を生じた。発現レベルが成人の腸におけるレベルを1として正規化しているので、この結果は、分化した腸細胞が腸で発現されるCYP分子を適切なレベルで発現することを示唆する。M3培地の代わりにM3-1又はM3-2培地を用いた場合にも同様の結果が得られた(図9)。iMatrixを使用して3日目のストックから作製した凍結保存10日目細胞ストックも使用できた。
【0075】
(4)hiPSC由来腸細胞はCaco-2細胞の発現と同等のトランスポーターのmRNA発現、及びCaco2細胞では発現されなかったCYP3A4酵素発現を示す。
結果は、hiPSC由来の腸細胞が、腸細胞と類似する腸マーカー、トランスポーター及びCYP酵素を発現することを示している。次に、hiPSC由来腸細胞のマーカーの発現レベルを、Caco-2細胞の発現レベルと比較した。Caco-2細胞は、薬剤開発プロセスにおける薬物の腸内吸収特性を評価するための最も一般的に使用されるヒト腸細胞モデルである。Caco-2細胞をCVM 24ウェルインサート上にプレーティングし、21日間培養した。2つの異なるhiPSC細胞株(RPChiPS771及びChiPS18)由来の3日目のDE細胞をCVM上にプレーティングし、それぞれ18日間培養し(分化日数は21日)、分子マーカーの発現を調べた(図4A)。
【0076】
結果は、Caco-2が、hiPSC由来の腸細胞では観察されない相当量のLGR5を発現することを示す。CDX2及びVILLINの発現レベルは、Caco-2細胞で発現されたものと比較して、hiPSC由来腸細胞において高い(図4B)。従って、結果は、Caco-2細胞が腸の未成熟細胞に似ていることを示唆している。
【0077】
21日間培養したCaco-2は、成人腸細胞のレベルと比較して高レベルのABCB1を発現した(図9D)。分化21日目のhiPSC由来腸細胞は、成人の腸のレベルに匹敵するレベルで、ABCB1、ABCG2及びSLC15A1を発現した(図9D)。本発明者は、Caco-2細胞がCYP3A4を発現しないことを確認した。対照的に、CYP3A4発現は、hiPSC由来腸細胞において検出され始める(図4D)(図2D図7D図8C図9Eも参照)。 CYP2C9及びCYP2C19発現もまた検出される(図4D)(図7D、8C、9E)。
【0078】
従って、本発明者の結果は、CVMインサート上で培養されたhiPSCが分化し、腸細胞を生成できたことを示す。生成された腸細胞は、成熟した腸のマーカー、トランスポーター及びCYP酵素の発現を、Caco-2細胞で発現されるレベルよりも高いレベルで示す。M3培地の代わりにM3-1培地又はM3-2培地を用いた場合にも同様の結果が得られた。iMatrixを使用して3日目のストックから作製した凍結保存10日目細胞ストックも使用できた。
【0079】
(5)hiPSC由来の腸細胞は、能動的な排出輸送及び薬物のCYP3A4を介した代謝能力が観察された。
ABCG2及びABCB1 mRNAはhiPSC由来の腸細胞で高度に発現するので、細胞培養インサート上の腸細胞における排出トランスポーター(P-gp、BCRP)の輸送活性を調べるために双方向における経細胞輸送アッセイを行った(図5A、右)。P-gpの典型的な基質であるジゴキシンの基底側から頂端側への方向性の輸送(BからAへの輸送)は、時間依存的に、頂端側から基底側への輸送(AからBへの輸送)より高いレベルで観察された(図5A、左パネル)。一方、P-gpの典型的な阻害剤であるベラパミルの存在下では、ジゴキシンのBからAへの輸送は、AからBへの輸送とほぼ同じであった。同様に、BCRP及びP-gpの基質であるプラゾシンのBからAへの輸送は、AからBへの輸送よりも高いことが判明した。BCRP及びP-gp両トランスポーターの阻害剤であるエラクリダーの存在下では、プラゾシンのBからAへの輸送は減少したが、AからBへの輸送は増加した。したがって、これらの結果は、hiPSC由来の腸細胞が、腸管排出トランスポーターであるP-gp及びBCRPの輸送活性を示すことを示唆した(図5A、中央パネル)。
【0080】
本発明者はプロプラノロールの輸送及びマンニトールの輸送も試験した。プロプラノロールの輸送は、その高い疎水性に起因する受動的膜透過によって媒介されると考えられる。また、マンニトールの輸送は、その低分子量及び高親水性に起因する傍細胞経路を介して媒介されると考えられる。その結果、細胞単層を通り抜けるプロプラノロール及びマンニトールの方向性の輸送は観察されず(図5B、5C)、能動的な輸送の関与は認められなかった。さらに、プロプラノロールの輸送は、マンニトールの輸送よりはるかに高かった。これは、それらの異なる物理化学的特性によって合理的に説明される。
【0081】
本発明者はまた、ミダゾラムがヒドロキシル化し、1'-OHミダゾラムを形成することを観察することで、CYP3A4代謝活性を評価した。このミダゾラムのヒドロキシル化は、CYP3A4によって選択的におこることが知られている。結果として、1'-OHミダゾラムの形成は、LC-MS / MSによる評価の結果、0.773μL/分/ mg細胞タンパク質のクリアランスでおこることが分かった。まとめると、本発明者の結果は、腸細胞がP-gp及びBCRPの両方の排出輸送活性及びCYP3A4代謝活性を有することを示す。
【0082】
(6)hiPS由来腸細胞を生成するための代替分化法
上記の分化法において、本発明者は、hiPS由来腸細胞が15日目に一定レベルでトランスポーターABCB1を発現し(図2C)、15日目以降ABCG2及びSLC15A1の発現を増加させることを見出した。これらのhiPS由来腸細胞はM3中で培養した後、15日目から薬物代謝酵素も発現し始める(図2D)。前駆細胞の成熟をトランスポーター及び代謝酵素を発現する成熟腸細胞に導くために重要である分子を明らかにするために、本発明者は、M3培地をM3-1又はM3-2培地で置き換える効果を調べた(図6-10)。その結果、BIO、DMSO、デキサメタゾン、カルシトリオール(M3-2)を細胞に添加した場合、hiPS由来腸細胞は、従来のM3培地での培養下で生成したhiPS由来腸細胞と同等のレベルでトランスポーター及び代謝酵素CYP3A4を発現し、また、そのレベルはM3-1培地によって得られた結果よりも高いことが明らかとなった(図8、9)。
【0083】
以上をまとめると、本発明者の結果は、M3-2中のBIO、DMSO、デキサメタゾン、カルシトリオールの存在が、代謝酵素CYP3A4発現のための腸細胞の成熟を促進するのに重要であることを示した(図8B、C)。得られたhiPS-腸細胞は、P-gpを介した排出輸送活性を示し、ローダミン123基質を排出した。
【0084】
(7)カルシトリオールによるCYP3A4の発現誘導
M3-2培地の代わりに、M3-2培地からカルシトリオールを除いた培地を用いて、CYP3A4の発現を調べた。カルシトリオールを除いた培地中で培養されたhiPSC由来腸細胞は、分化21日目において、ほとんどCYP3A4を発現しなかった(図12)。
【0085】
15~22日目においてM3-2培地からカルシトリオールを除いた培地中で培養され、次いで、23~25日目においてM3-2培地中で培養されたhiPSC由来腸細胞におけるCYP3A4の発現を調べた。このhiPSC由来腸細胞のCYP3A4発現レベルは、15~25日目においてM3-2培地中で培養した細胞の発現レベルと同等であり、M3培地中で培養した細胞よりも高かった(図11)。
【0086】
以上の結果は、腸細胞分化の最終段階(分化23~25日目)におけるカルシトリオールを含む培地中での培養がCYP3A4の発現誘導に重要であることを示す。
【0087】
(B)考察
ここでは、hiPSC由来の内胚葉又は腸前駆細胞をCVM上で培養することにより、hiPSCから機能性腸細胞を生成することを確立した。本発明者は、CVMが腸の成熟細胞の誘導及び維持のための良好な基材であることを見出した。本発明者は以前に、M15細胞上でhiPSCを培養し、Wntシグナル活性化剤であるBIO及びNotchシグナル阻害剤であるDAPTを添加することによって、CDX2陽性腸細胞を得ることができることを報告した。CVM上で培養されたhiPSC由来腸前駆細胞は、頂端膜に局在するVILLINを発現する単層を形成することができる。分化した細胞はZO1陽性であり、TEER測定によって明らかにされたバリア機能を示す。これらの特徴は、機能性腸細胞が生成されることを示している。
【0088】
遺伝子発現分析により、誘導された腸細胞は、取り込みトランスポーター(SLC15A1)及び排出トランスポーター(ABCB1及びABCG2)の高いmRNA発現レベルを示すことが明らかになった。これらのトランスポーターは、21日目に相当なレベルで発現し、40日目まで維持される。本発明者のhiPSC由来腸細胞では、ジゴキシン及びプラゾシンのBからAへの方向性のある経細胞輸送が明確に観察され、その方向性輸送はベラパミル及びエラクリダーによって阻害された。ジゴキシンはP-gpの選択的基質であり、ベラパミルは8.1-17.3 μMのKi/IC50値でP-gpを強力に阻害する。一方、プラゾシンはBCRP及びP-gpの良好な基質であり、エラクリダーはBCRP(Ki/IC 50値:0.31μM)及びP-gp(Ki/IC 50値:0.027-0.44 μM)の両方を阻害する。したがって、本発明者の輸送実験の結果、hiPSC由来腸細胞におけるP-gp及びBCRPが、AからB方向への吸収方向の膜透過に対して抑制的に機能していることを示すものであった。
【0089】
hiPSC由来腸細胞におけるジゴキシンの輸送活性は、Caco-2細胞(Djuv and Nilsen, (2008). Phytother. Res. 22, 1623-1628)で測定されたものと同等であり、プラゾシンのBからA/AからBの輸送活性の比も以前に報告されたCaco-2細胞におけるもの(Wright et al., (2011). Eur. J. Pharmacol. 672, 70-76)と同等であった。傍細胞輸送に関しては、Caco-2細胞単層を通り抜けるマンニトールの輸送クリアランスは3%/cm2/hrであると報告されている(Cogburn JN et al. (1991). Pharm Res. 8,210-216)。hiPSC由来の腸細胞では、マンニトールの輸送クリアランスは8.6%/cm2/hrと推定された。これは、Caco-2細胞のより堅固なタイトジャンクションのために、完全な腸管上皮細胞と比較して、傍細胞輸送がCaco-2細胞においてより制限されていたためと考えることができる。経細胞輸送に関して、プロプラノロールは、Caco-2細胞(Artursson, (1990). J. Pharm. Sci. 79, 476-482)において41.9×10-6 cm /秒を示すこと(これは、約99.4μL/ 120分/ウェルに相当する。)が報告されている。これは、現在の結果(48μL/ 120分/ウェル)に匹敵する。すべての結果を考慮して、本発明者のiPSC由来腸細胞の単層による静的及び能動的バリアの形成は、Caco-2細胞のバリア形成と同様のものであると確認される。
【0090】
以上をまとめると、本発明者の結果は、腸細胞への分化を促進し、約3週間トランスポーター及びCYP酵素の発現レベルを維持するためにCVMを使うことができることを示している。
【0091】
別の重要な知見は、10日目又は15日目のhiPSC由来内胚葉又は腸前駆細胞を凍結保存できることである。凍結保存された細胞を解凍し、CVM上に播種すると、これらの細胞は単層を形成し、2週間以内に膜の完全性を示し、さらに機能性腸細胞に成熟する。凍結保存された10日目の腸前駆細胞は、3日目のDE細胞由来のものと同様のレベルのトランスポーター及び代謝酵素を発現する腸細胞に分化することができる。トランスポーター及びCYP酵素の発現レベルはhiPSC由来の3日目のDE細胞由来のものよりも低かったが、凍結保存された15日目の腸前駆細胞も腸細胞に分化する。本発明者の結果は、凍結保存された10日目又は15日目の腸前駆細胞ストックの使用が腸細胞への迅速な分化を提供することを示している。
【0092】
本発明者のプロトコルは異なるhiPSC株にも適用可能であることも示される。本発明者は、2つのhiPSC系統を使用し、どちらの細胞系統に由来する腸細胞も、ABCB1発現及びCYP酵素発現に関して類似のレベルを示すことを見出した。但し、ChiPS18細胞由来腸細胞において、より高いABCG2及びSLC15A1発現が観察された。
【0093】
結論として、CVMを用いることにより、トランスポーターを介した方向性のある薬物の透過が観察され、Caco-2細胞と同様の透過性を示す機能的腸細胞を作製することに成功した。 hiPSC由来腸細胞はCYP3A4代謝活性を示した。総合すれば、本発明者の結果は、このhiPSC由来腸細胞モデルが、薬物吸収、薬物間相互作用、及び他の薬理学的研究に有用であることを示している。
【0094】
(C)材料と方法
(1)ヒトiPS細胞株
ChiPS18(Asplund et al., 2015)(TakaraBio)及びRPChiPS771(ReproCell)の二つのヒトiPS細胞株を使用した。未分化の細胞を、Synthemax II(Corning Cat No.3535)で予めコーティングした細胞培養皿(Invitrogen)上のAK02 StemFit培地(Ajinomoto)で維持した。メチオニン除去のために、ChiPS18細胞及びRPChiPS771細胞を、StemFit培地(Ajinomoto)完全又はMet除去KA01培地(Ajinomoto)で培養した。
【0095】
(2)CVMインサートの調製
コラーゲンキセロゲル膜は、関東化学株式会社(Tokyo, Japan)によって製造されている。簡単に説明すると、CVMは、以前に報告されているように(Oshikata-Miyazaki and Takezawa, 2016, Cytotechnology 68, 1801-1811;Yamaguchi et al., 2013, Toxicol. Sci. 135, 347-355;Yamaguchi et al., 2016, J. Appl. Toxicol. 36, 1025-1037)以下の3工程によって調製された:1)0.2mLの0.25%I型コラーゲンゾルから、直径35mmの培養皿に不透明な軟質ゲルを形成させたゲル化工程;2)十分な乾燥によってゲルが硬質材料となったガラス化工程;3)水分を補給することによってガラス化材料をゲル強度が増強された薄い透明なゲル膜に変換する再水和工程。続いて、分離可能なシート上にコラーゲンビトリゲル膜を再ガラス化することによって、遊離水を含まない乾燥CVMとして定義されるコラーゲンキセロゲル膜を調製した。コラーゲンキセロゲル膜を、内外径11~13mm、長さ15mmのプラスチックシリンダーの底端に貼り付け、シリンダーの上端に2本のハンガーを接続した。これにより、以前報告したように(Oshikata-Miyazaki and Takezawa, 2016, Cytotechnology 68, 1801-1811;Yamaguchi et al., 2013, Toxicol. Sci. 135, 347-355;Yamaguchi et al., 2016, J. Appl. Toxicol. 36, 1025-1037)、培養培地で再水和することによって容易にCVMチャンバーに変換可能なコラーゲンキセロゲル膜チャンバーを作製できた。
【0096】
(3)iPS細胞の腸細胞への分化
未分化ChiPS18又はRPChiPS771細胞を、まずM15細胞を用いて内胚葉に分化させた。簡潔には、直径100mmのプレートに、マイトマイシンで処理した凍結M15フィーダー細胞を、5×106細胞/皿の密度でプレコートした。内胚葉分化のために、未分化ChiPS18又はRPChiPS771細胞をM15細胞被覆100mm直径プレート上に5×105細胞/皿の密度でプレーティングし、3μM CHIR99021(Wako, Tokyo)を補充した内胚葉分化培地であるM1培地で1日間培養し、次にM1培地(CHIR99021を含まない)に変更し、さらに2日間培養した。M1培地は、DMEM(Thermo Fisher)、4,500mg/Lグルコース、NEAA(ThermoFisher)、L-Gln(Nacalai Tesque)、PS(Nacalai Tesque)、0.1mM β-ME(Sigma)、無血清B27サプリメント(#12587001, ThermoFisher)、100ng/mL組換えヒトアクチビンA(Cell Guidance Systems, Cambridge, UK)からなる。3日目(D3)に、ChiPS18又はRPChiPS771由来内胚葉細胞を集め、Bambanker hRM(NIPPON Genetics Co Ltd, CS-07-001)で2.0×106細胞/mLで凍結し、その後の使用まで液体窒素中に貯蔵した。
【0097】
凍結保存した3日目のDEストックを作製する代わりに、10日目又は15日目の腸前駆凍結保存細胞を調製するために、分化培養をM15細胞上で続け、3日目に培地をM2培地に変更した。M2培地は、NEAA、L-Gln、PS、0.1mM β-ME、D-グルコース1mg / ml、10%KnockOut(登録商標)Serum Replacement(Gibco, 10828028)、5μM 6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(WAKO, 029-16241)、及び10μM DAPT(WAKO, 049-33583)を補充したDMEM(Gibco, 11885-084, low glucose)からなる。
【0098】
凍結保存細胞の腸分化のために、3日目のDE細胞を凍結融解し、8×104細胞/ウェルの濃度で、再水和したCVM24ウェルインサート(ad-MED VitrigelTM 2, KANTO KAGAKU, culture area:0.33cm2/insert)上にプレーティングした。培地の量は、インサートの上層に200μL、下層に500μLとした。分化に使用した培地は、3~15日目をM2培地とし、15~21日目又は15~40日目をM3培地とした。M3培地は、Cellartis(登録商標)Hepatocyte Maintenance Medium(Takara Bio Y30051)からなる。上層及び下層の両方の培地を、新鮮な培地及び増殖因子で2日ごとに交換した。10日目又は15日目の凍結保存された細胞ストックを用いた腸の分化のために、細胞を解凍し、CVM24ウェルインサートに1.6×10 5細胞/ウェルの濃度でプレーティングした。10日目の細胞については、M2培地を15日目まで使用し、次いでM3培地に交換し、40日目まで培養した。15日目の細胞については、M3培地を使用し、細胞を40日目まで培養した。
【0099】
(4)10日目の腸前駆凍結保存細胞の調製のための改訂プロトコル
10日目の腸前駆凍結保存細胞を調製するために、3日目のDE細胞を、4×106細胞/皿の密度で、iMatrix-551(FUJIFILM WAKO, 380-13041)でプレコートされた直径100mmの正常組織培養プレート(又はCellSeed, CS3005)上にプレーティングし、10日目(D10)までM2培地で培養した。培地は、2日ごとに新鮮なM2培地と交換した。その後、細胞を収集し、10日目の腸前駆凍結保存細胞ストックとして凍結した。
腸管分化のために、10日目の腸前駆細胞ストックを凍結融解し、M2培地中の再水和ビトリゲル膜(CVM)24ウェルインサート(ad-MED Vitrigel TM 2, KANTO KAGAKU, 培養面積:0.33cm2/insert)上に、1.6×105細胞/ウェルの濃度でプレーティングした。最初の2日間のプレーティングの際に、Y-27632(WAKO:251-00514)を培地に添加した。細胞をM2中で15日目まで培養した。培地の量は、セルカルチャーインサートの上層については200μL、下層については700μLとした。培地を15日目から21日目の間、又は30日目まで、M3-1又はM3-2に変更した。培地は2日ごとに新しい培地と交換した。
【0100】
M3-1培地:L-グルタミン、HCM SingleQuots(GA1000及びヒトEGFを含まない)(Lonza, CC-4182)、1%のPS(Nacalai)、10ng/mlの組換えヒトHGF(PeproTech 100-39)、1μMのデキサメタゾン(Sigma-Aldrich, D8893)、1.4μMのBIO及び1μMのカルシトリオール(Sigma-Aldrich、D1530)を補充したWilliam's Medium E。
M3-2培地:HGFの代わりに0.5%のジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma-Aldrich, D2650)を使用すること以外はM3-1培地と同じ成分。
【0101】
(5)Caco-2細胞培養
Caco-2細胞を、直径10cmの組織培養皿中の10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM培地(low glucose)中で5.0×105細胞/ mlで培養し、およそ80%の集密度で3~4日ごとに継代した。Caco-2細胞を新たに凍結融解し、使用前に一度継代した。膜の完全性の測定のために、Caco-2細胞を1.0×104細胞/ウェルでCVM24ウェルインサート上において継代し、培養を続けた。Caco-2細胞は、典型的には、およそ7日間培養した後に単層を形成した。
【0102】
(6)TEER測定
CVM上で培養したヒトiPSC由来の腸細胞とCaco-2細胞の膜の完全性を、TEER Measuring System(Kanto kagaku, Inc Tokyo)を用いて測定した。
【0103】
(7)免疫細胞化学
細胞を、4%パラホルムアルデヒド(Nacalai Tesque)を含むPBS中で固定し、0.1%Triton X-100(Nacalai Tesque)で透過処理し、次いで20%Blocking One(Nacalai Tesque, Japan)を含むPBST(0.1%Tween-20 in PBS)でブロッキングした。抗体を、20%Blocking One(Nacalai Tesque, Japan)を含むPBST(0.1%Tween-20 in PBS)で希釈した。細胞を6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Roche Diagnostics, Switzerland)で対比染色した。
【0104】
抗体は以下のものを使用した:抗SOX17 (R&D systems, Minneapolis, MN)、抗CDX2 (BioGenex, San Ramon, CA)、抗ZO1 (R40.76; Santa Cruz sc-33725)、抗VILLIN (BD Transduction Laboratories, San Diego)、Alexa 568結合及びAlexa 488結合抗体 (Invitrogen)。
【0105】
(8)リアルタイムPCR分析
RNeasy micro-kit又はQiaxol(Qiagen, Germany)を用いてiPS細胞からRNAを抽出し、次いでDNase(Qiagen)で処理した。逆転写反応のために、PrimeScript TM RT Master Mix(Takara, Japan)を用いて2.5μgのRNAを逆転写した。リアルタイムPCR分析のために、mRNA発現をStepOne Plus(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用い、SyberGreenで定量した。PCR条件は以下の通りであった:95℃で30秒間の初期変性、続いて95℃で5秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング及び伸長を1サイクルとし、40サイクル繰り返した。標的mRNAレベルを任意単位として表し、ΔΔCT法を用いて決定した。プライマーの詳細は下表に示す。また、プライマーの配列を配列番号1~18に示す。
【表1】
【0106】
(9)経細胞輸送アッセイ
P-gpのトランスポーター活性を選択的に評価するために、細胞単層を通り抜ける[3 H]-ジゴキシン(0.1μCi/3mL)の時間依存的方向性輸送(BからAへの輸送及びAからBへの輸送)を、100μMベラパミルの非存在下又は存在下で測定した。BCRP及びP-gp活性を評価するために、20μMエラクリダーの非存在下又は存在下で、[3 H]-プラゾシン(0.1μCi/3mL)の時間依存的方向性輸送を測定した。細胞単層を通り抜ける受動的膜透過及び傍細胞輸送によって媒介される経細胞輸送を評価するために、[3 H]-プロプラノロール(0.1μCi/3mL)及び[3 H]-マンニトール(0.1μCi/3mL)をそれぞれ試験した。
【0107】
経細胞輸送アッセイでは、hiPS由来の腸細胞培養培地を除去し、37℃でトランスポートバッファー(TB; 118mM NaCl、23.8mM Na2CO3、4.8mM KCl、1.0mM KH2PO4、1.2mM MgSO4、12.5mM HEPES、5mM グルコース及び1.5 mM CaCl2、pHを7.4に調整した)に置き換え、10分間プレインキュベートした。TBを基質+/-阻害剤を含むTBに置き換えることによってアッセイを開始した。加えられたTBの量は、CVMインサート上層に200μl、下層に500μlであった。次いで、薬物インキュベーションを開始してから30、60及び120分後、最初の薬物を適用した側と反対側の区画の培地の一部を採取し、サンプリングした量と同じ量の新鮮なTB(基質+/-阻害剤)で置換した。 AからBへの輸送の測定のために、下部区画から100μlのTBを採取し、BからAへの輸送の測定のために、上部区画から50μlのTBを採取した。次いで、試料をCLEAR-SOL I(Nacalai Tesque)と混合し、その放射能を液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer)で定量した。
【0108】
あるいは、ローダミン123(10μM;Dojindo, R233)を、P-gpの阻害剤であるシクロスポリンA(10μM)(Wako CAS RN 59865-13-3)の非存在下又は存在下で、P-gpのトランスポーター活性を評価するための基質として使用した。ローダミン123の流束をルミノメーター(GloMax Microplate Luminometer, Promega)によって決定した。TEER > 30Ω・cm2を示す分化細胞を使用した。hiPS由来腸細胞培養培地を除去し、次に洗浄し、5%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したハンクス平衡塩類溶液(HBSS)と交換した。FBS含有HBSS緩衝液を基質(+/-シクロスポリン)と交換することによりアッセイを開始し、37℃で2時間インキュベートした。見かけの膜透過係数(Papp)は次のように計算した。Papp=dQ/dt×1/AC0
dQ/dtが単位時間当たりに透過した化合物の量である場合、Aはセルカルチャーインサート膜の表面積(0.33cm2)であり、そしてC0はドナーチャンバー中の初期化合物濃度である。ローダミン123の流出比は以下のように計算した。
流束比= Papp, basolateral to apical/Papp, apical to basolateral
【0109】
(10)CYP代謝アッセイ
分化21日目のhiPS由来腸細胞におけるCYP3A4活性を評価した。hiPS由来腸細胞培養培地(M3)を除去し、37℃でトランスポートバッファー(TB)に置き換え、10分間プレインキュベートした。ミダゾラムを含むTBを上部(200μl)及び下部(500μl)区画の両方に添加することによってアッセイを開始した。120分のインキュベーション後、すべてのインキュベーション培地を上部及び下部区画の両方から集め、ミダゾラムの代謝産物である1'-OHミダゾラムのLC-MS / MS分析を行うまでサンプルを-80℃で保存した。 Pierce BCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher, Rockford, IL)を製造元の指示に従って使用して、1ウェルあたりのタンパク質量を定量した。代謝クリアランスは、細胞タンパク質量で標準化した値として求めた。
【0110】
(11)統計
データは、平均値±S.D.(n = 3)として表した。 グループ間の差は、スチューデントのt検定又はポストホックダネットの検定を用いた一元配置ANOVAによって分析した。各図の説明には、それぞれの統計分析とP値が記載されている。スチューデントのt検定による*p<0.05又は**p<0.01;ポストホックダネットの検定を用いた一元配置ANOVAによる§P<0.05又は§§P<0.01が有意であるとみなされる。
【0111】
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【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、腸細胞に関するものなので、この細胞を使用する産業分野において利用可能である。
図1
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【配列表】
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