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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】パン類用生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20231102BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20231102BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20231102BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/16
A21D13/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019116246
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2020054335
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018183572
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】山來 けい子
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】野上 弘文
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三四郎
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-175844(JP,A)
【文献】特開2001-120195(JP,A)
【文献】特開2003-230351(JP,A)
【文献】特開平08-224057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類用生地の製造方法であって、
アルファー化澱粉を80質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上20質量%以下含有し、水分(アルファー化澱粉中の水分を除く)の含有量が1質量%以下である澱粉組成物であって、前記澱粉組成物は、前記食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して得られたものである前記澱粉組成物を準備する工程と、
ミキシング中期の生地に、前記澱粉組成物を添加する工程と、
前記澱粉組成物を添加したミキシング中期の生地をさらに混練する工程と、
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記澱粉組成物の添加量が、前記パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ミキシング中期の前記生地に、油脂組成物を添加する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記油脂組成物が、油中水型乳化油脂組成物である、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記油脂組成物の添加量が、前記パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法で得られたパン類用生地を加熱する工程を含む、パン類の製造方法。
【請求項7】
パン類のしっとり感の低下を抑制する方法であって、
前記パン類の生地を得る工程において、アルファー化澱粉を80質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上20質量%以下含有し、水分(アルファー化澱粉中の水分を除く)の含有量が1質量%以下であり、前記食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して得られたものである澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加することを特徴とする、前記方法。
【請求項8】
パン類用生地の製造に際して、ミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物であって、
アルファー化澱粉を80質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上20質量%以下含有し、水分(アルファー化澱粉中の水分を除く)の含有量が1質量%以下であり、前記食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して得られたものである、前記澱粉組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパン類用生地の製造方法、パン類の製造方法およびパン類のしっとり感の低下を抑制する方法、ならびにパン類用生地の製造に際してミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファー化澱粉は、冷水溶解性、吸水性および粘着性等の諸物性が優れていることから、古くから増粘剤および保形剤などとして食品分野で広く用いられてきた。最近では、アルファー化澱粉が有する食感改良効果にも着目されており、アルファー化澱粉はパン類用生地にも用いられている。
アルファー化澱粉をパン類に使用すると経時的なパサつきが生じ易く、また、吸水性が高すぎるためにアルファー化澱粉を配合した生地がべたついて作業性が低下するという欠点もあるが、食用油脂と組み合わせて用いることでこれらの欠点を解消できることが知られている。
例えば、特開平9-233993号公報(特許文献1)では、アルファー化澱粉、糖質分解酵素および食用油脂を混合して用いることにより、乳化剤を使用せずにやわらかな食感を有するパン類が得られることが記載されている。
また、特開2001-120195号公報(特許文献2)では、澱粉スラリーを油脂の共存下で加熱してなる、所定の油脂分離度および付着度を有する油脂アルファー化澱粉質を用いることにより、生地のべたつきがなく作業性が良好であり、やわらかくてしっとりとしており口溶けの良いパン類が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-233993号公報
【文献】特開2001-120195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、アルファー化澱粉を食用油脂と組み合わせて用いることにより、生地のべたつきがなく作業性が良好であり、パン類の食感をやわらかくてしっとりとしたものに改良できることが知られている。しかし、従来の方法では、パン類のやわらかくてしっとりとした食感を長持ちさせることが難しい場合があった。
このような状況下、時間が経ってもパサパサせず、やわらかくてしっとりとした食感を長持ちさせることができるパン類の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下に示すパン類用生地の製造方法、パン類の製造方法およびパン類のしっとり感の低下を抑制する方法、ならびにパン類用生地の製造に際してミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物を提供しようとするものである。
[1]パン類用生地の製造方法であって、
アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する澱粉組成物を準備する工程と、
ミキシング中期の生地に、前記澱粉組成物を添加する工程と、
前記澱粉組成物を添加したミキシング中期の生地をさらに混練する工程と、
を含む、前記製造方法。
[2]前記澱粉組成物が、前記食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して得られたものである、[1]に記載の製造方法。
[3]前記澱粉組成物が、前記アルファー化澱粉と前記食用油脂とを混合して得られたものである、[1]に記載の製造方法。
[4]前記澱粉組成物の添加量が、前記パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の製造方法。
[5]ミキシング中期の前記生地に、油脂組成物を添加する工程をさらに含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6]前記油脂組成物が、油中水型乳化油脂組成物である、[5]に記載の製造方法。
[7]前記油脂組成物の添加量が、前記パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、[5]または[6]に記載の製造方法。
[8][1]から[7]のいずれか一項に記載の製造方法で得られたパン類用生地を加熱する工程を含む、パン類の製造方法。
[9]パン類のしっとり感の低下を抑制する方法であって、
前記パン類の生地を得る工程において、アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加することを特徴とする、前記方法。
[10]パン類用生地の製造に際して、ミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物であって、アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する、前記澱粉組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、パン類用生地の製造方法を提供する。また本発明は、パン類の製造方法、さらにはパン類のしっとり感の低下を抑制する方法、ならびにパン類用生地の製造に際してミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物を提供する。
本発明によれば、本発明のパン類用生地の製造方法を用いてパン類用生地を製造することにより、しっとりとした食感を長持ちさせることができるパン類を提供することができる。本発明の好ましい態様によれば、やわらかくてしっとりとしており、もっちり感があり、口溶けの良い食感を長持ちさせることができるパン類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明のパン類用生地の製造方法、パン類の製造方法およびパン類のしっとり感の低下を抑制する方法、ならびにパン類用生地の製造に際してミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物について説明する。
【0008】
1.パン類用生地の製造方法
本発明のパン類用生地の製造方法は、
アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する澱粉組成物を準備する工程(以下「準備工程」ともいう)と、
ミキシング中期の生地に、前記澱粉組成物を添加する工程(以下「澱粉組成物添加工程」ともいう)と、
前記澱粉組成物を添加したミキシング中期の生地をさらに混練する工程(以下「混練工程」ともいう)
を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のパン類用生地の製造方法においては、アルファー化澱粉および食用油脂を所定量含有する澱粉組成物を、他のパン類用生地原料と一緒にミキシング初期に配合するのではなく、ミキシング中期の生地に後から添加して混練することで、得られるパン類の食感を改良しようとするものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
(1)準備工程
準備工程では、アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する澱粉組成物を準備する。
【0011】
本発明に用いられるアルファー化澱粉は、アルファー化処理してなる澱粉である。前記アルファー化澱粉は、1)および2)をアルファー化処理してなる澱粉から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
1)トウモロコシ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉および米澱粉からなる群から選ばれる未加工澱粉
2)前記未加工澱粉にモノエステル化、エーテル化、架橋、酸化、酸処理、アルカリ処理および酵素処理からなる群から選ばれる1種又は2種以上の加工処理が施されてなる加工澱粉
【0012】
ここで「アルファー化処理」とは、未加工澱粉および加工澱粉から選ばれる澱粉と水とを混合した澱粉スラリーを加熱糊化して、さらに乾燥させる処理をいう。必要に応じて、乾燥させる処理後に粉砕処理を行ってもよい。具体的には、上記アルファー化処理のうち加熱糊化は、オンレーター、ジェットクッカー、エクストルーダー等の機械を使用した方法を、乾燥はドラムドライヤー、スプレードライヤー、送風乾燥機等の機械を使用した方法を、それぞれ選択することが可能である。また、ドラムドライヤーを用いる場合は、澱粉スラリーを直接ドラムに塗布することで、加熱糊化と乾燥を一体で行うことも可能である。乾燥処理後のアルファー化澱粉は、通常2質量%以上10質量%以下の水分を含んでいる。
【0013】
前記未加工澱粉としては、例えば植物由来の澱粉が挙げられる。前記未加工澱粉の由来となる植物の具体例として、レギュラートウモロコシ(デントコーン)、もちトウモロコシ(ワキシーコーン)、高アミローストウモロコシ、うるち米、もち米、小麦、甘藷、馬鈴薯、キャッサバおよびサゴヤシ等が挙げられ、好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、うるち米、もち米、小麦、馬鈴薯およびキャッサバが挙げられ、より好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、もち米、馬鈴薯およびキャッサバが挙げられ、さらに好ましくは、もちトウモロコシ、もち米およびキャッサバが挙げられる。
【0014】
前記加工澱粉の例としては、前記未加工澱粉に、アセチル化、リン酸モノエステル化等のモノエステル化;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化;酸化;酸処理;アルカリ処理;酵素処理等の加工処理を1種または2種以上施されてなる澱粉が挙げられ、好ましくは、モノエステル化、架橋、エーテル化、酸化および酸処理の加工処理を1種または2種以上施されてなる澱粉、より好ましくは、モノエステル化、架橋、エーテル化および酸処理の加工処理を1種または2種以上施されてなる澱粉、さらに好ましくは、アセチル化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉または酸処理澱粉、さらにより好ましくは、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉または酸処理澱粉が挙げられる。
【0015】
得られるパン類の目的および用途等に応じて前記澱粉の種類および組合せを適宜選択することができる。
【0016】
前記澱粉組成物中のアルファー化澱粉の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、50質量%以上97質量%以下の範囲である。アルファー化澱粉の含有量が上記範囲内であると、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。
【0017】
本発明に用いられる食用油脂は、食用として用いられている油脂であれば特に制限されない。前記食用油脂に用いられる原料油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂;魚油、豚脂、牛脂、乳脂等の動物油脂;中鎖脂肪酸トリグリセリド、およびこれらに、エステル交換、水素添加、分別からなる群から選ばれる1または2以上の加工がなされた加工油脂が挙げられる。前記食用油脂は、前記原料油脂を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0018】
前記食用油脂のヨウ素価は、0以上100以下であることが好ましく、より好ましくは0以上90以下、さらに好ましくは0以上80以下、さらにより好ましくは0以上70以下の範囲である。食用油脂のヨウ素価が上記の範囲内にあると、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。
【0019】
前記澱粉組成物中の食用油脂の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、3質量%以上50質量%以下の範囲であり、好ましくは4質量%以上48質量%以下、より好ましくは5質量%以上44質量%以下、さらに好ましくは6質量%以上40質量%以下の範囲である。食用油脂の含有量が上記範囲内であると、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。
【0020】
本発明の好ましい態様において、前記澱粉組成物中の食用油脂とアルファー化澱粉の合計含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、好ましくは90質量%以上100質量%以下の範囲であり、より好ましくは95質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは98質量%以上100質量%以下、さらにより好ましくは99質量%以上100質量%以下、殊更好ましくは99.5質量%以上100質量%以下、特により好ましくは99.7質量%以上100質量%以下、最も好ましくは99.9質量%以上100質量%以下の範囲である。食用油脂とアルファー化澱粉の合計含有量が上記範囲内であると、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つやわらかくてしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。
【0021】
澱粉組成物には、本発明の目的および効果を阻害しない範囲であれば、他の成分、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤;着色料;香料等を含有してもよい。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、澱粉組成物中の水分(アルファー化澱粉中の水分を除く)の含有量は0質量%以上1質量%以下であり、好ましくは0質量%以上0.5質量%以下、より好ましくは0質量%以上0.3質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上0.1質量%以下である。澱粉組成物中の水分量を上記の範囲内にすることで、澱粉組成物を調製する際に、食用油脂とアルファー化澱粉が均一に混合し易くなり、パン類用生地のべたつきを抑制することができ、ミキシングボウルなどの混合容器から取り出す際や、分割および成型時の生地の扱いが容易になる。
【0023】
本発明に用いられる澱粉組成物は、食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して得られたものであってもよいし、アルファー化澱粉と食用油脂とを混合して得られたものであってもよい。
【0024】
例えば、食用油脂を含む澱粉スラリーをアルファー化処理して澱粉組成物を得る場合、アルファー化処理する際に、未加工澱粉および加工澱粉から選ばれる澱粉を水に加えて、食用油脂をさらに混合した澱粉スラリーを調製し、この澱粉スラリーをアルファー化処理することで澱粉組成物を得ることができる。アルファー化処理の方法については前述したとおりである。また、アルファー化澱粉を水に加えて、食用油脂をさらに混合して澱粉スラリーを調製してもよい。
上記の方法で澱粉組成物を得る場合、前記澱粉組成物中のアルファー化澱粉の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、60質量%以上97質量%以下が好ましく、80質量%以上96質量%以下がより好ましく、90質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。また、上記の方法で澱粉組成物を得る場合、前記澱粉組成物中の食用油脂の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、3質量%以上40質量%以下が好ましく、4質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
また、例えば、アルファー化澱粉と食用油脂とを混合して澱粉組成物を得る場合、食用油脂を含む流動状の油相を準備し、この油相をアルファー化澱粉に添加して混合することにより製造することができる。
上記で用いる前記食用油脂の固体脂含量は、20℃において、3%以上97%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以上95%以下、さらに好ましくは5%以上93%以下、なお好ましくは10%以上93%以下、さらにより好ましくは15%以上93%以下、特に好ましくは20%以上93%以下である。また、例えば、7%以上80%以下であってもよく、7%以上70%以下であってもよい。また、前記食用油脂の固体脂含量は、35℃において、0%以上60%以下であることが好ましく、より好ましくは0%以上50%以下、さらに好ましくは0%以上40%以下、さらにより好ましくは2%以上38%以下、特に好ましくは0%以上25%以下、殊更好ましくは3%以上25%以下である。食用油脂の固体脂含量は、AOCS Official Method Cd 16b-93 に記載のMethod Iの方法に従って測定できる。
上記の方法で澱粉組成物を得る場合、前記澱粉組成物中のアルファー化澱粉の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、50質量%以上94質量%以下が好ましく、54質量%以上92質量%以下がより好ましく、60質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。また、上記の方法で澱粉組成物を得る場合、前記澱粉組成物中の食用油脂の含有量は、澱粉組成物の全質量に対して、6質量%以上50質量%以下が好ましく、8質量%以上46質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
具体的には、まず、食用油脂を含む流動状の油相を準備する。食用油脂が固形状の場合は適切な温度、例えば45℃以上80℃以下に加温することで流動状の油相を得ることができる。食用油脂が常温で流動状の場合はそのまま油相として用いてもよいし、油相をより安定な状態に維持するため、必要に応じて適切な温度、例えば45℃以上80℃以下に加温して用いてもよい。
次に、準備した油相をアルファー化澱粉に添加して混合する。油相をアルファー化澱粉に添加して混合する際は、均一に混合するため、必要に応じて加温、例えば45℃以上80℃以下にするなどして油相を安定な状態に維持することが好ましい。
【0027】
上記のようにして澱粉組成物を得ることができる。
なお、パン類用生地のべたつきを抑制し易くするため、澱粉組成物には水を添加しないことが好ましい。
【0028】
(2)澱粉組成物添加工程
澱粉組成物添加工程では、ミキシング中期の生地に、前記澱粉組成物を添加する。
ここで、ミキシングには、ミキシング初期、ミキシング中期およびミキシング後期がある。
ミキシング初期は、パン類用生地の原料を低速で分散および混合させて、粉類が水を徐々に吸収してひとかたまりになっていく段階である。
ミキシング中期は、ミキシング速度を中速に変えて捏ねることで、生地が粘りを持ち、ボウルの縁にくっついたり離れたりを繰り返しながら弾力を増していき、生地につながりができていく、パン類用生地の骨格を作る段階である。
ミキシング後期は、ミキシング速度を中速または高速でさらに捏ねることで、生地が弾力を増し、ボウルの縁から離れ、表面がなめらかでやや乾いた状態に変わっていく、パン類用生地を仕上げる段階である。
中種法、湯種法、ポーリッシュ法等の発酵種法の場合、パン類用生地の製造方法に、発酵種の調製工程と、前記発酵種と発酵種以外のパン類の原料とを混合する本捏ね工程の2工程以上のミキシング工程を含むが、前記澱粉組成物添加工程は、前記発酵種の調製工程および前記本捏ね工程のいずれか、もしくは、両方のミキシング中期の生地に前記澱粉組成物を添加する工程としてよい。前記澱粉組成物添加工程は前記本捏ね工程のミキシング中期の生地に前記澱粉組成物を添加する工程であることが好ましい。
ここで、パン類用ミキサーには、一般に3速変段タイプと4速変段タイプとがある。3速変段タイプの場合、回転が遅い方から、低速(1速)、中速(2速)、高速(3速)と呼ぶ。4速変段タイプの場合、回転が遅い方から、低速(1速)、中低速(2速)、中高速(3速)、高速(4速)と呼び、中低速および中高速が中速に該当する。
【0029】
本発明のパン類用生地の製造方法においては、ミキシング初期においてパン類用生地の原料の分散および混合を十分に行った後のミキシング中期の生地に、澱粉組成物を添加することで、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。さらには、やわらかくて、もっちり感があり、口溶けの良い食感を長持ちさせる効果が得られ易い。また、本発明の好ましい態様によれば、パン類用生地を加熱前に一定期間冷凍または冷蔵するなどして保管した場合も、パン類用生地を加熱して得られるパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果が得られ易い。
パン類用生地の原料としては、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよく、特に制限されない。例えば、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉等の穀粉および水のほか、膨張剤、塩、乳化剤、糖類、卵、イースト等が挙げられる。
小麦粉としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉およびこれらの組合せを使用できるが、強力粉を用いることが好ましい。
米粉としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、例えば、うるち米粉を使用できる。
大豆粉としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、例えば、全脂大豆粉、脱脂大豆粉及びこれらの組合せを使用できる。
水としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、天然水や水道水が挙げられる。また、牛乳や豆乳、果汁などの水含有液体を使用してもよい。
膨張剤としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、リン酸ナトリウムアルミニウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、リン酸一カルシウムおよびこれらの組合せを使用できる。
乳化剤としては、本発明の目的および効果を阻害しない範囲であれば、例えば、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルおよびこれらの組合せを使用できる。
糖類としては、ベーカリー製品に用いられるものであれば特に制限されなく、グルコース、フルクトース、異性化糖等の単糖類、砂糖、マルトースおよびトレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、還元澱粉分解物、蜂蜜、糖蜜、メープルシロップおよびこれらの組合せを使用できる。
【0030】
上記の他、パン類用生地の原料として、酵素、乳製品、油脂類、香辛料、酒類、香料、風味改良剤、甘味料、食物繊維、活性グルテン、増粘多糖類、ココアパウダー、野菜粉末等を含んでいてもよい。
【0031】
パン類用生地の原料の成分およびその配合量は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
澱粉組成物の添加量は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1.5質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは2質量部以上15質量部以下、さらにより好ましくは2質量部以上10質量部以下である。ここで「穀粉」としては、穀物を挽いて粉にしたものであれば特に制限されなく、例えば、小麦粉;ライ麦粉;大麦粉;米粉;大豆粉等が挙げられる。澱粉およびグルテンは穀粉には含まれない。
【0033】
(3)油脂組成物添加工程
本発明のパン類用生地の製造方法においては、ミキシング中期の生地に、油脂組成物を添加する工程(以下「油脂組成物添加工程」ともいう)をさらに含んでもよい。
油脂組成物添加工程は、澱粉組成物添加工程の前でもよく、後でもよく、同時でもよいが、前記澱粉組成物と前記油脂組成物とが均一に混合したパン類用生地を得易く、該生地を加熱したパン類の持つしっとりとした食感を長持ちさせる効果を得られ易くする観点から、ミキシング中期の生地に澱粉組成物と油脂組成物を同時に添加することが好ましい。
【0034】
油脂組成物としては、食用油脂を含むものであれば特に制限されない。食用油脂としては、澱粉組成物において例示したものと同じものを使用することができる。また、油脂組成物には、食用油脂と共に油溶性の成分を含有することができる。油溶性の成分としては、トコフェロール、着色料、香料、乳化剤などが挙げられる。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、油脂組成物として、バター、マーガリンおよびファットスプレッドなどの油中水型乳化組成物を使用することもできる。油中水型乳化組成物は、水相に非油溶性の成分を含有することができるため、風味豊かなパン類を作るのに適している。非油溶性の成分としては、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、練乳、食塩、糖類、各種エキス類等が挙げられる。なお、油中水型乳化組成物は、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を使用したものでもよい。
【0036】
ミキシング中期の生地に添加する油脂組成物の添加量は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、パン類用生地中の穀粉全量100質量部に対して1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは2質量部以上50質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0037】
(4)混練工程
混練工程では、澱粉組成物および任意に油脂組成物を添加したミキシング中期の生地をさらに混練してパン類用生地を仕上げる。本発明のパン類用生地の製造方法において、混練工程は、ミキシング後期に該当する。混練の程度は、求めるパン類に応じて適宜調整すればよいが、生地の一部を取って伸ばしたときに、生地が十分につながるまで混練することが好ましい。
混合時間および混合温度は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよい。混合時間は、例えば1分以上30分以下であり、混合温度は、例えば0℃以上40℃以下である。
ミキシングの終期は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよい。得られたパン類用生地は、必要に応じて適当なサイズに分割し成型してもよい。また、発酵させてもよい。発酵条件は、パン類の種類および目的とする製品に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のパン類用生地の製造方法を用いてパン類用生地を製造することにより、しっとりとしており、さらにはやわらかくてもっちり感があり、口溶けの良い食感を有するパン類を得ることができる。また本発明のさらに好ましい態様によれば、これらの食感を長持ちさせることができる。特に本発明によれば、得られるパン類のしっとり感を長持ちさせることができる。
【0039】
2.パン類の製造方法
本発明のパン類の製造方法は、前記「1.パン類用生地の製造方法」で得られたパン類用生地を加熱する工程を含むことを特徴とする。
ここで「加熱」とは、例えば、100℃以上300℃以下で熱することを指し、通常のベイキングの他に、フライ、蒸し上げ等の処理も含まれる。また、パン類用生地には、加熱前に、他の原料、例えばフィリング材およびトッピング材などが添加されてもよく、パン類用生地をこれらの他の原料と共に加熱して、パン類を得てもよい。あるいは、加熱後に、これらフィリング材およびトッピング材などの他の原料と組み合わせてパン類を得てもよい。また、パン類用生地には、加熱前に油脂組成物を折り込んだりしてもよい。
本発明の製造方法により得られるパン類としては、例えば、食パン、ロールパン、デーニッシュ、クロワッサン、イーストドーナツ、揚げパン、蒸しパン、米粉パン、中華まん、ピザ、菓子パン、ブリオッシュ、バンズ等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、しっとりとしており、さらにはやわらかくて、もっちり感があり、口溶けの良い食感を有するパン類が得られる。本発明のさらに好ましい態様によれば、これらの食感を長持ちさせることができる。特に本発明によれば、得られるパン類のしっとり感を長持ちさせることができる。
【0040】
3.パン類のしっとり感の低下を抑制する方法
本発明のパン類のしっとり感の低下を抑制する方法は、
前記パン類の生地を得る工程において、アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有する澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加することを特徴とする。
澱粉組成物およびその添加量、さらにはミキシング中期の生地については、前記「1.パン類用生地の製造方法」で述べたものと同じものを使用することができる。得られたパン類用生地は、前記「2.パン類の製造方法」で述べたものと同様にしてパン類を得ることができる。
パン類のしっとり感は、パン類の製造後、時間の経過と共に低下する傾向があり、パサパサした食感となるが、この方法によれば、パン類のしっとり感の低下を抑制することができる。しっとり感の評価は、澱粉組成物を他のパン類用生地の原料と一緒に混捏すること以外は同じ条件で製造したパン類を対照例としたときの比較、または澱粉組成物を使用しないこと以外は同じ条件で製造したパン類との比較により行うことができる。
【0041】
4.澱粉組成物
本発明の澱粉組成物は、パン類用生地の製造に際して、ミキシング中期の生地に添加するための澱粉組成物であって、アルファー化澱粉を50質量%以上97質量%以下および食用油脂を3質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする。
澱粉組成物およびその添加量、さらにはミキシング中期の生地については、前記「1.パン類用生地の製造方法」で述べたものと同じものを使用することができる。また、パン類用生地の製造方法についても、前記「1.パン類用生地の製造方法」で述べたとおりである。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加することで、しっとりとしており、さらにはやわらかくて、もっちり感があり、口溶けの良い食感を有するパン類が得られる。本発明のさらに好ましい態様によれば、これらの食感を長持ちさせることができる。特に本発明によれば、得られるパン類のしっとり感を長持ちさせることができる。
【実施例
【0042】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0043】
(1)アルファー化澱粉
アルファー化澱粉1:(1-1)の方法により調製したもの
アルファー化澱粉2:アルファー化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋もちトウモロコシ澱粉(株式会社J-オイルミルズ製「ジェルコールG-α」)
アルファー化澱粉3:アルファー化リン酸架橋馬鈴薯澱粉(株式会社J-オイルミルズ製「ベイクアップB-α」)
アルファー化澱粉4:(1-2)の方法により調製したもの
【0044】
(1-1)アルファー化澱粉1の調製
下記方法に従ってアルファー化澱粉1を調製した。
【0045】
200質量部の水(50℃)に、撹拌しながら、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(株式会社J-オイルミルズ製「アクトボディATP-25」)100質量部を添加し混合して澱粉スラリーを調製した。調製した澱粉スラリーをオンレーター(出口温度100℃)で糊化させ糊液とし、この糊液をただちにドラムドライヤーに薄く広げ、150℃で加熱、乾燥した後、粉砕機で粉砕してアルファー化澱粉1を得た。
【0046】
(1-2)アルファー化澱粉4の調製
下記方法に従ってアルファー化澱粉4を調製した。
【0047】
高アミローストウモロコシ澱粉を水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理高アミローストウモロコシ澱粉を得た。
レギュラートウモロコシ澱粉79質量%、上述の方法で得られた酸処理高アミローストウモロコシ澱粉20質量%、および、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を下記条件にて加圧加熱処理した。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られたアルファー化処理物を110℃にて乾燥し、水分含量を10質量%に調整した。乾燥したアルファー化処理物を、卓上カッター粉砕機で粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けしたアルファー化処理物を、以下の配合割合で混合し、アルファー化澱粉4を得た。
目開き1.4mmパス、目開き0.5mmオン:20質量%
目開き0.5mmパス、目開き0.1mmオン:75質量%
目開き0.1mmパス:5質量%
【0048】
(2)澱粉組成物の調製
下記の方法に従って澱粉組成物1-1ないし1-3、澱粉組成物2ないし8、さらには91%油脂混合アルファー化澱粉およびマーガリン混合アルファー化澱粉をそれぞれ調製した。
【0049】
(2-1)澱粉組成物1-1
200質量部の水(50℃)に、撹拌しながら、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(「アクトボディATP-25」)94質量部を添加し混合して澱粉スラリーを調製した。これに50℃で流動状にしたショートニング(食用油脂(ヨウ素価66、20℃における固体脂含量25%、35℃における固体脂含量4%)含有量100質量%、水分含量0.1質量%未満、株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」)6質量部をさらに加えて撹拌し、均一に分散させながら、調製した澱粉スラリーをオンレーター(出口温度100℃)で糊化させ糊液とし、この糊液をただちにドラムドライヤーに薄く広げ、150℃で加熱、乾燥した後、粉砕機で粉砕して澱粉組成物1-1を得た。
【0050】
(2-2)澱粉組成物1-2
200質量部の水(50℃)に、撹拌しながら、もち米澱粉94質量部を添加し混合して澱粉スラリーを調製した。これに50℃で流動状にしたショートニング6質量部をさらに加えて撹拌し、均一に分散させながら、調製した澱粉スラリーをオンレーター(出口温度100℃)で糊化させ糊液とし、この糊液をただちにドラムドライヤーに薄く広げ、150℃で加熱、乾燥した後、粉砕機で粉砕して澱粉組成物1-2を得た。
【0051】
(2-3)澱粉組成物1-3
70質量部のパーム核油と30質量部のパーム油とを混合した混合油脂を調製した。前記混合油脂をニッケル触媒により水素添加をおこない、極度硬化油を得た。前記極度硬化油からニッケル触媒を除去した後、脱色処理を行って脱色油を得た。この脱色油100質量部に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として0.3質量部添加し、80℃、真空度2.7kPaの条件で60分間攪拌しながらランダムエステル交換反応をおこなった。ランダムエステル交換反応後、反応生成物に水洗処理、脱色処理、さらに脱臭処理をおこない、油脂A(ヨウ素価0、20℃における固体脂含量91%、35℃における固体脂含量36%、水分含量0.1質量%未満)を得た。
200質量部の水(50℃)に、撹拌しながら、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋もちトウモロコシ澱粉(「A-18」、株式会社J-オイルミルズ製)を90質量部添加し混合して澱粉スラリーを調製した。これに50℃で流動状にした油脂Aをさらに10質量部加えて撹拌し、均一に分散させながら、調製した澱粉スラリーをオンレーター(出口温度100℃)で糊化させ糊液とし、この糊液をただちにドラムドライヤーに薄く広げ、150℃で加熱、乾燥した後、粉砕機で粉砕して澱粉組成物1-3を得た。
【0052】
(2-4)澱粉組成物2
ショートニング20質量部を50℃に加熱し流動状とし、これを80質量部の(1-1)で調製したアルファー化澱粉1と一緒にミキサーで混合して澱粉組成物2を得た。
【0053】
(2-5)澱粉組成物3
ショートニングを40質量部に、アルファー化澱粉1を60質量部に、それぞれ代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物3を得た。
【0054】
(2-6)澱粉組成物4
アルファー化澱粉1をアルファー化澱粉2に代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物4を得た。
【0055】
(2-7)澱粉組成物5
ショートニングを46質量部に、80質量部のアルファー化澱粉1を54質量部のアルファー化澱粉3に、それぞれ代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物5を得た。
【0056】
(2-8)澱粉組成物6
ショートニングを40質量部に、アルファー化澱粉1をアルファー化澱粉4に、それぞれ代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物6を得た。
【0057】
(2-9)澱粉組成物7
ショートニングをパーム油(ヨウ素価52、20℃における固体脂含量24%、35℃における固体脂含量5%、水分含量0.1質量%未満、株式会社J-オイルミルズ製)に代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物7を得た。
【0058】
(2-10)澱粉組成物8
ショートニングを、澱粉組成物1-3で調製した油脂Aに代えたこと以外は、澱粉組成物2と同じ方法で澱粉組成物8を得た。
【0059】
(2-11)91%油脂混合アルファー化澱粉
ショートニング91質量部を50℃に加熱し流動状とし、これに撹拌しながら(1-1)で調製したアルファー化澱粉1を9質量部添加し混合した。混合物を撹拌しながら20℃まで放冷して91%油脂混合アルファー化澱粉を得た。
【0060】
(2-12)マーガリン混合アルファー化澱粉
マーガリン(株式会社J-オイルミルズ製「マイスタージェネータ」)80質量部を50℃に加熱し流動状とし、これに撹拌しながら(1-1)で調製したアルファー化澱粉1を20質量部添加し混合した。混合物を撹拌しながら20℃まで放冷してマーガリン混合アルファー化澱粉を得た。
【0061】
(3)食パンの製造1
表1の組成に従い、下記手順にて食パンを製造した。作業性は生地調製時に作業者1名が評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(3-1)(実施例1-1、1-2、比較例1-1および1-2)
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1(株式会社オシキリ製「VM-2」、4速変段タイプ)のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速4分、3速1分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速1分、2速3分、3速4分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で60分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を250gに分割し丸めて、20分間休ませた後、丸め直して1.5斤型に3つ入れた。
1.5斤型に入れた一次発酵生地を38℃、相対湿度85%のホイロに45分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、210℃に設定したオーブンに入れ、35分焼成した。
焼成後、1.5斤型から取り出して室温(20℃)で粗熱をとり、食パンを得た。
【0063】
(3-2)(対照例1)
先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速4分、3速3分混捏し最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で60分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を250gに分割し丸めて、20分間休ませた後、丸め直して1.5斤型に3つ入れた。
1.5斤型に入れた一次発酵生地を38℃、相対湿度85%のホイロに45分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、210℃に設定したオーブンに入れ、35分焼成した。
焼成後、1.5斤型から取り出して室温(20℃)で粗熱をとり、食パンを得た。
【0064】
食パンの高さは粗熱がとれた後に定規で測定し、最も高い値とした。焼成品の外観(焼き色、形状)については、粗熱がとれた食パンを専門パネラー2名で観察し、合議により評価した。食パンの食感(やわらかさ、しっとり感)について、専門パネラー2名の合議により、次の評価基準に従って4段階評価を行った。なお、対照例は、同じだけ日数が経過したものを使用した。結果を表1に示す。
【0065】
<やわらかさ>
4 対照例よりもとてもやわらかい
3 対照例よりもやわらかい
2 対照例と同程度のやわらかさ
1 対照例よりも硬い
【0066】
<しっとり感>
4 対照例よりもとてもしっとりしている
3 対照例よりもしっとりしている
2 対照例と同程度のしっとりさ
1 対照例よりもパサパサしている
【0067】
【表1】
【0068】
表1中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」
【0069】
表1の結果に示されるとおり、アルファー化澱粉および食用油脂を所定の量比で含む澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加し混練することで、先混合生地原料として用いた対照例と比べて、得られた食パンはしっとり感が優れていた。また、時間が経過しても、対照例と比べて、しっとり感の低下が抑えられ、やわらかくてしっとりとした食感を有する食パンが得られた。
一方、食用油脂含量が多い91%油脂混合アルファー化澱粉を用いると、やわらかい食感の食パンは得られるが、しっとり感が不足し、時間が経過すると共にしっとり感が低下した。また、生地がべたついて作業性が著しく悪かった。さらに得られた食パンにコシがなく、焼成後にケービングが起き、外観を損ねていた。
また、アルファー化澱粉を含まないショートニングを用いると、食パンのしっとり感は劣っており、生地がべたついて作業性が悪かった。
【0070】
(4)食パンの製造2(実施例2-1、2-2、2-3、比較例2-1および対照例2)
表2の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いて食パンを製造した。作業性は生地調製時に作業者1名が評価した。結果を表2に示す。
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速4分、3速1分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速1分、2速3分、3速4分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で60分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を250gに分割し丸めて、20分間休ませた後、丸め直して1.5斤型に3つ入れた。
1.5斤型に入れた一次発酵生地を38℃、相対湿度85%のホイロに45分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、210℃に設定したオーブンに入れ、35分焼成した。
焼成後、1.5斤型から取り出して室温(20℃)で粗熱をとり、食パンを得た。
【0071】
食パンの高さは粗熱がとれた後に定規で測定し、最も高い値とした。食パンの外観(焼き色、形状)については、粗熱がとれた食パンを、専門パネラー4名で観察し、合議により評価した。食パンの食感(やわらかさ、しっとり感、もっちり感、口溶け)について、専門パネラー4名の合議により、次の評価基準に従って4段階評価を行った。なお、対照例は、同じだけ日数が経過したものを使用した。結果を表2に示す。
【0072】
<やわらかさ>
4 対照例よりもとてもやわらかい
3 対照例よりもやわらかい
2 対照例と同程度のやわらかさ
1 対照例よりも硬い
【0073】
<しっとり感>
4 対照例よりもとてもしっとりしている
3 対照例よりもしっとりしている
2 対照例と同程度のしっとりさ
1 対照例よりもパサパサしている
【0074】
<もっちり感>
4 対照例よりもとてももっちり感がある
3 対照例よりももっちり感がある
2 対照例と同程度のもっちり感がある
1 対照例よりももっちり感がない
【0075】
<口溶け>
4 対照例よりもとても口溶けが良い
3 対照例よりも口溶けが良い
2 対照例と同程度の口溶けである
1 対照例よりも口溶けが悪い
ここで、口溶けが良いとは、咀嚼時にパンが唾液と容易に混ざり、飲み込みやすくなることを意味する。
【0076】
【表2】
【0077】
表2中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
マーガリン:株式会社J-オイルミルズ製「マイスタージェネータ」
【0078】
表2の結果に示されるとおり、アルファー化澱粉および食用油脂を所定の量比で含む澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加し混練することで、先混合生地原料として用いた対照例と比べて、食パンが膨らんでおり、やわらかさ、しっとり感、もっちり感および口溶けが優れていた。また、時間が経過しても、対照例と比べて、しっとり感を含む食感の低下が抑えられ、やわらかくてしっとりとしており、もっちり感および口溶けに優れる、食感の良い食パンが得られた。一方、澱粉組成物に代えてマーガリン混合アルファー化澱粉を使用した場合、対照例と比べて食パンの膨らみが悪く、食感が低下した。
なお、澱粉組成物と一緒にマーガリンを添加することで、対照例と同等程度の良好なマーガリン風味を有する食パンが得られた。
【0079】
(5)バンズの製造(実施例3-1、3-2、比較例3-1、3-2および対照例3)
表3の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いてバンズを製造した。作業性は、作業者1名が作業中に下記基準で評価した。結果を表3に示す。
<生地のべたつき>
4 対照例よりもべたつかず、作業がとてもし易い
3 対照例よりもややべたつかず、作業し易い
2 対照例と同じように、べたつく
1 対照例よりもべたつき、作業しにくい
【0080】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速2分、2速4分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速2分、2速4分、3速5分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で50分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を50gに分割し丸めて、15分間休ませた後、バンズの形に成形した。
成形した一次発酵生地を38℃、相対湿度85%のホイロに45分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、200℃に設定したオーブンに入れ、10分焼成した。
焼成後、オーブンから取り出して室温(20℃)で粗熱をとり、バンズを得た。
【0081】
食パンの外観(焼き色)について、粗熱がとれた後のバンズを専門パネラー2名が観察し、合議により評価を行った。バンズの食感(やわらかさ、しっとり感)を、専門パネラー2名の合議により、次の評価基準に従って4段階評価を行った。なお、対照例は、同じだけ日数が経過したものを使用した。結果を表3に示す。
【0082】
<やわらかさ>
4 対照例よりもとてもやわらかい
3 対照例よりもやわらかい
2 対照例と同程度のやわらかさ
1 対照例よりも硬い
【0083】
<しっとり感>
4 対照例よりもとてもしっとりしている
3 対照例よりもしっとりしている
2 対照例と同程度のしっとりさ
1 対照例よりもパサパサしている
【0084】
【表3】
【0085】
表3中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」
【0086】
表3の結果に示されるとおり、アルファー化澱粉および食用油脂を所定の量比で含む澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加し混練することで、先混合生地原料として混練する対照例と比べて、生地のべたつきが抑制された。実施例のバンズは、やわらかさ、しっとり感が優れていた。また、時間が経過しても、対照例と比べて、しっとり感を含む食感の低下が抑えられ、やわらかくてしっとりとしており、良好な食感を有するバンズが得られた。
一方、澱粉組成物2を先混合生地原料として用いた場合、生地がべたついて作業がしづらく、得られたバンズは硬く、パサパサとした食感であった。
また、澱粉組成物に油脂を含まないアルファー化澱粉を使用した場合、生地がべたつき作業性が非常に悪く、得られたバンズはしっとり感の低下を抑制できていなかった。
【0087】
(6)スイートロールの製造(実施例4、比較例4および対照例4)
表4の組成を有する中種生地原料、先混合生地原料および後添加生地原料を用いてスイートロールを製造した。作業性は、作業者1名が作業中に下記基準で評価した。結果を表4に示す。
<生地のべたつき>
4 対照例よりもべたつかず、作業がとてもし易い
3 対照例よりもややべたつかず、作業し易い
2 対照例と同じように、べたつく
1 対照例よりもべたつき、作業しにくい
【0088】
まず、中種生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速1分混捏し、ミキサーボウルから取り出し、27℃で120分発酵させ、中種生地を得た。
次に、先混合生地原料と、中種生地をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速3分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速1分、2速2分、3速1分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、27℃で30分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を45gに分割し丸めて、15分間休ませた後、丸形に成形した。
成形した一次発酵生地を38℃、相対湿度80%のホイロに50分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、上下200℃/200℃に設定したオーブンに入れ、10分焼成した。
焼成後、オーブンから取り出して室温(20℃)で粗熱をとり、スイートロールを得た。
【0089】
食パンの外観(焼き色)について、粗熱がとれた後のスイートロールを専門パネラー2名が観察し、合議により評価を行った。スイートロールの食感(やわらかさ、しっとり感)を、専門パネラー2名の合議により、次の評価基準に従って4段階評価を行った。なお、対照例は、同じだけ日数が経過したものを使用した。結果を表4に示す。
【0090】
<やわらかさ>
4 対照例よりもとてもやわらかい
3 対照例よりもやわらかい
2 対照例と同程度のやわらかさ
1 対照例よりも硬い
【0091】
<しっとり感>
4 対照例よりもとてもしっとりしている
3 対照例よりもしっとりしている
2 対照例と同程度のしっとりさ
1 対照例よりもパサパサしている
【0092】
【表4】
【0093】
表4中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
マーガリン:株式会社J-オイルミルズ製「マイスタージェネータ」
【0094】
表4の結果に示されるとおり、アルファー化澱粉および食用油脂を所定の量比で含む澱粉組成物をミキシング中期の生地に添加し混練することで、先混合生地原料として混練する対照例と比べて、実施例のスイートロールは、やわらかさ、しっとり感が優れていた。また、時間が経過しても、対照例と比べて、しっとり感を含む食感の低下が抑えられ、やわらかくてしっとりとしており、良好な食感を有するスイートロールが得られた。
一方、澱粉組成物3を用いなかった場合、得られたスイートロールは硬く、パサパサとした食感であった。
【0095】
(7)ドーナツの製造(実施例5-1、5-2、比較例5)
表5の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いてドーナツを製造した。
【0096】
【表5】
【0097】
表5中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」
【0098】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速3分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速2分、2速5分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、27℃で30分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を40gに分割し丸めて、20分間休ませた後、ドーナツの形に成形した。
成形した一次発酵生地を40℃、相対湿度65%のホイロに30分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、ラックタイムを1分とり、180℃に加熱したフライ油(株式会社J-オイルミルズ製「J FryUp 301」)で4分油調した。
油調後、室温(20℃)で粗熱をとり、ドーナツを得た。
【0099】
作業性は、作業者1名が作業中に評価したが、実施例および比較例共に問題がなかった。
ドーナツの食感(やわらかさ、しっとり感)を、専門パネラー2名の合議により油調後当日および油調後20℃で2日後に評価した。
その結果、油調後当日では、比較例5のドーナツは、硬くて詰まった食感であったのに対し、実施例5-1のドーナツは、やわらかくふんわりとしていながら歯切れの良い良好な食感であった。また、実施例5-2のドーナツは、適度な弾力があり口溶けが良好であった。
油調後2日後では、比較例5のドーナツは、硬くて弾力のない食感であったのに対し、実施例5-1のドーナツは、やわらかくてさっくりとした良好な食感を維持していた。また、実施例5-2のドーナツは、口溶けが良好であり、やわらかい食感を維持していた。また、実施例5-1および5-2共に、比較例5に比べてしっとり感が維持されていた。
【0100】
(8)米粉パンの製造(実施例6、比較例6)
表6の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いて米粉パンを製造した。
【0101】
【表6】
【0102】
表6中の成分は下記のとおりである。
製パン改良剤:オリエンタル酵母工業株式会社製「Cオリエンタルフード」
マーガリン:株式会社J-オイルミルズ製「マイスタージェネータ」
【0103】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速8分、2速8分、3速2分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速1分、2速3分、3速4分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で60分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を50gに分割し丸めて、20分間休ませた後、30gの餡子を包餡してあんぱんの形に成形した。
成形した一次発酵生地を38℃、相対湿度85%のホイロに50分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、上下200℃/200℃に設定したオーブンに入れ、13分焼成した。
焼成後、室温(20℃)で粗熱をとり、米粉パンを得た。
【0104】
米粉パンの食感(やわらかさ、しっとり感)を、専門パネラー2名の合議により焼成後20℃で1日後および焼成後20℃で2日後に評価した。
その結果、焼成後1日後では、比較例6の米粉パンは、粉っぽくて硬かったのに対し、実施例6の米粉パンは、やわらかくしっとりとしていた。
焼成後2日後では、比較例6の米粉パンは、硬くてパサついていたのに対し、実施例6の米粉パンは、比較例6の米粉パンよりやわらかくしっとりとしていた。
【0105】
(9)中華まんの製造(実施例7、比較例7)
表7の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いて中華まんを製造した。
【0106】
【表7】
【0107】
表7中の成分は下記のとおりである。
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」
【0108】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速4分、2速1分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速9分、3速2分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、28℃で10分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を50gに分割し丸めて、10分間休ませた後、30gの餡子を包餡してあんまんの形に成形した。
成形した一次発酵生地を40℃、相対湿度50%のホイロに20分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、低温スチーム99℃に設定したコンベクションオーブンに入れ、10分蒸した。
スチーム後、室温(20℃)で粗熱をとり、中華まんを得た。
【0109】
中華まんの食感(やわらかさ、しっとり感)を、専門パネラー2名の合議により作製直後および作製後4℃の冷蔵庫で2日保管しレンジで再加熱後に評価した。
その結果、作製直後では、実施例7の中華まんは、比較例7の中華まんよりもやわらかくて、もっちり感のある食感だった。
作製後2日後も、実施例7の中華まんは、比較例7の中華まんよりもやわらかくて、もっちり感のある食感が維持されていた。
【0110】
(10)デーニッシュの製造(実施例8、比較例8)
表8の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いてデーニッシュを製造した。
【0111】
【表8】
【0112】
表8中の成分は下記のとおりである。
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「ファシエ」
【0113】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー2(関東混合機工業株式会社製「HP-20M」)のミキサーボウルに投入し、フックで1速3分、2速1分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで2速3分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、1800gに分割し、20℃で20分発酵させた後、-5℃で一晩冷却し、一次発酵生地を得た。
冷却した一次発酵生地をシートマーガリン(株式会社J-オイルミルズ製「マイスタージェネータシート」)500gを折り込み、3つ折り2回後、-5℃で1時間休ませ、さらに3つ折り1回後、-5℃で1時間休ませ、デーニッシュ生地を得た。
このデーニッシュ生地を厚さ3mmまで展伸し、8cm×10cmにカットしたものを急速冷凍した。
冷凍生地は、-18℃で所定の日数保管し、室温で解凍してから30℃、相対湿度75%のホイロに45分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、上下200℃/200℃に設定したオーブンに入れ、12分焼成した。
焼成後、室温(20℃)で粗熱をとり、デーニッシュを得た。
【0114】
生地を冷凍3日後に焼成した場合と、生地を冷凍5週間後に焼成した場合のデーニッシュの食感(やわらかさ、しっとり感、サクミ)を、専門パネラー2名の合議により評価した。
その結果、生地を冷凍3日後に焼成した場合、焼成当日では、実施例8のデーニッシュは、ふわっとサクッとしており軽くて良好な食感であった。20℃で1日後では、比較例8のデーニッシュはひきが強く硬くなっていたのに対し、実施例8のデーニッシュは、比較例8のものよりもやわらかくしっとりとしてふんわり感を維持していた。
生地を冷凍5週間後に焼成した場合、比較例8のデーニッシュは、浮きが悪く、平べったい外観となり、焼成当日でも食感はひきが強く硬く感じた。一方、実施例8のデーニッシュは、生地を冷凍3日後に焼成した場合と同程度のボリュームを維持しており、デーニッシュらしいサクミとしっとり感を維持していた。
【0115】
(11)プレーンピザの製造(実施例9-1、9-2、比較例9)
表9の組成を有する先混合生地原料および後添加生地原料を用いてプレーンピザを製造した。
【0116】
【表9】
【0117】
まず、先混合生地原料をパン用ミキサー1のミキサーボウルに投入し、フックで1速5分、2速5分混捏し、ミキシング中期の生地を得た。
得られたミキシング中期の生地に後添加生地原料を添加し、フックで1速2分、3速3分混捏し、最終生地を得た。
最終生地をミキサーボウルから取り出し、27℃で120分発酵させ、一次発酵生地を得た。
一次発酵生地を100gに分割し丸めて、30分間休ませた後、直径18cmのピザ形に成形した。
成形した一次発酵生地を35℃、相対湿度85%のホイロに30分入れて、最終発酵させた。
最終発酵後、上下250℃/250℃に設定したオーブンに入れ、6分焼成し、プレーンピザを得た。
プレーンピザを調製後、室温(20℃)で粗熱をとり、4℃の冷蔵庫で所定の日数保管した。
保管後のプレーンピザを1000Wのトースターで1分焼成し、評価した。
【0118】
プレーンピザを冷蔵1日後に焼成した場合と、冷蔵2週間後に焼成した場合の食感(やわらかさ、しっとり感、もっちり感)を、専門パネラー2名の合議により評価した。
その結果、プレーンピザを冷蔵1日後に焼成した場合、実施例9-1のプレーンピザは、とてもやわらかくふんわりとしていた。また、実施例9-2のプレーンピザは、やわらかくしっとり、もっちりとしてピザらしい食感であった。
プレーンピザを冷蔵2週間後に焼成した場合、比較例9のプレーンピザは、ひきが強く硬くなり、もそもそとして老化していた。一方、実施例9-1のプレーンピザは、やわらかさやふんわり感が維持されていた。また、実施例9-2のプレーンピザは、しっとり感やもっちり感が維持されていた。