(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】水銀回収装置及び水銀回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 43/00 20060101AFI20231102BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20231102BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20231102BHJP
C22B 1/08 20060101ALI20231102BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20231102BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20231102BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20231102BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20231102BHJP
B01D 47/10 20060101ALI20231102BHJP
C02F 1/62 20230101ALI20231102BHJP
【FI】
C22B43/00
C08J11/12 ZAB
B09B3/40
C22B1/08
C22B7/00 F
C22B7/00 Z
B01D53/64 100
B01D53/78
B01D53/14 200
B01D47/10 Z
C02F1/62 D
(21)【出願番号】P 2019134437
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】植田 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩平
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05569436(US,A)
【文献】特開2011-068771(JP,A)
【文献】特開2011-183269(JP,A)
【文献】特開2010-167330(JP,A)
【文献】特開2010-115602(JP,A)
【文献】特開2015-178084(JP,A)
【文献】特公昭51-010028(JP,B1)
【文献】特開昭51-031621(JP,A)
【文献】特開2001-314757(JP,A)
【文献】特開2001-259610(JP,A)
【文献】特開昭61-222525(JP,A)
【文献】特開2018-095913(JP,A)
【文献】特開平09-109149(JP,A)
【文献】特表2010-527287(JP,A)
【文献】実開平06-085094(JP,U)
【文献】特開2020-033593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00,43/00
B01D 53/34,53/64
B09B 3/00
C02F 1/58-1/64
C08J 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀及び塩素成分を含む分解ガスを生成する脱塩炉と、
バーナを備え、前記脱塩炉で生成した前記分解ガスを
前記バーナで燃焼して塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼炉と、
前記燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の少なくとも一方を含む固形分を回収する回収部と、
前記燃焼ガスに含まれる前記塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収部と、
を備える、水銀回収装置。
【請求項2】
前記有機性廃棄物はプラスチックを含んでおり、
前記脱塩炉では、前記プラスチックに由来する炭素を含む炭化物を得る、請求項1に記載の水銀回収装置。
【請求項3】
前記脱塩炉は微粉炭を供給する供給部を有する、請求項1又は2に記載の水銀回収装置。
【請求項4】
前記燃焼炉の燃焼温度が850℃以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項5】
前記吸収部から導出される吸収液の一部を前記吸収部に戻す循環流路を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項6】
前記燃焼ガスと吸収液とを接触させて前記燃焼ガスを冷却する減温部を備え、前記減温部で冷却された前記燃焼ガスが前記回収部又は前記吸収部に供給される、請求項1~5のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項7】
前記回収部は湿式スクラバーを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項8】
前記湿式スクラバーはベンチュリスクラバーである、請求項7に記載の水銀回収装置。
【請求項9】
前記吸収部、及び前記燃焼ガスと前記吸収液とを接触させて前記燃焼ガスを冷却する減温部、の少なくとも一方から排出される塩酸を含む排液を、前記回収部に供給する流路を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項10】
前記排液から、前記排液に含まれる固形分の少なくとも一部を分離する固液分離部を備える、請求項9に記載の水銀回収装置。
【請求項11】
前記流路は、前記固液分離部において前記固形分の少なくとも一部を分離して得られる前記排液を前記回収部に供給する、請求項10に記載の水銀回収装置。
【請求項12】
前記吸収部から導出される排液から水銀を含む沈殿物を得る沈殿部を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の水銀回収装置。
【請求項13】
前記沈殿部は、塩化水銀(II)と水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄の少なくとも一方との共沈によって前記排液から水銀を含む前記沈殿物を得る沈殿槽を備える、請求項12に記載の水銀回収装置。
【請求項14】
前記沈殿部は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一種を含むアルカリを供給する供給部を備える、請求項12又は13に記載の水銀回収装置。
【請求項15】
脱塩炉において、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀、及び塩素成分を含む分解ガスを生成する脱塩工程と、
バーナを備えた燃焼炉内において、前記脱塩炉で生成した前記分解ガスを
前記バーナで燃焼して、塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼工程と、
前記燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の少なくとも一方を含む固形分を回収する回収工程と、
前記燃焼ガスに含まれる前記塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収工程と、を有する、水銀回収方法。
【請求項16】
前記吸収工程で前記吸収液に吸収された前記塩化水銀(II)と、水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄の少なくとも一方との共沈によって、水銀を含む沈殿物を得る沈殿工程をさらに有する、請求項15に記載の水銀回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水銀回収装置及び水銀回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造工程において廃プラスチックのサーマルリサイクルを行う際、廃プラスチックに含まれる塩素がコーチングの異常生成による装置トラブルの原因となる。このため、バイオマス灰及び廃プラスチックを脱塩炉内で炭化させることによって塩素が低減された燃料に改質する方法が試みられている。この方法では、改質の際に塩素又は塩化水素を含む排ガスが発生する。特許文献1では、このようは排ガスを清浄化する設備が提案されている。
【0003】
一方で、有機性廃棄物の中には、プラスチック等の有機成分の他に、自動車のHIDライトに由来する水銀等の微量の重金属成分が含まれることがある。このような有機性廃棄物を加熱すると水銀蒸気が発生し、排ガスが大気を汚染してしまうことが懸念される。そこで、水銀を含む排ガスの清浄化方法として、塩素ガスと気化した水銀とを反応させ、水溶性の塩化水銀として回収する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-183269号公報
【文献】特開昭61-222525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2の発明では、廃棄物の燃焼と水銀の反応を同一炉内で行うため、廃棄物の品質によっては燃焼が不安定になり、ガス状水銀と塩素の反応が円滑に進行しないことが懸念される。また、燃焼温度条件が低くなり、燃焼時にダイオキシン類などの有機塩素化合物が発生することも懸念される。そこで、本開示は、廃棄物に含まれる水銀を十分に安定的に回収することが可能な水銀回収方法及び水銀回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討の結果、脱塩炉において塩素と水銀を含有する有機性廃棄物を加熱することで発生した塩素成分と水銀とを、脱塩炉で同時に発生した有機ガスを燃焼させて加熱するせることで、別の燃料源を用いることなく水銀を水溶性の塩化水銀に転化し、吸収液に吸収させて回収できることが分かった。
【0007】
すなわち、本開示の一側面に係る水銀回収装置は、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀及び塩素成分を含む分解ガスを生成する脱塩炉と、分解ガスを燃焼して塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼炉と、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の少なくとも一方を含む固形分を回収する回収部と、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収部と、を備える。
【0008】
上述の水銀回収装置では、低酸素雰囲気で加熱する脱塩炉と、脱塩炉で生じた分解ガスを燃焼する燃焼炉とを備える。このように、脱塩炉と燃焼炉の2段階での加熱処理を行っているため、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物から安定的に塩化水銀(II)を生成させることができる。そして、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収部を有していることから、安定的に有機性廃棄物中の水銀を回収することができる。また、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の少なくとも一方を含む固形分を回収する回収部を備えることから、大気放出される微細なダスト等の固形分を一層低減することができる。このような微細なダストには、金属水銀が付着する場合もあるため、水銀の放出を一層確実に低減することができる。また、各機器及び配管等における閉塞を抑制することができる。したがって、廃棄物に含まれる水銀を十分に安定的に回収することができる。
【0009】
有機性廃棄物はプラスチックを含んでおり、脱塩炉では、プラスチックに由来する炭素を含む炭化物を得ることが好ましい。これによって、有機性廃棄物を塩素成分及び水銀が低減された燃料源を得ることができる。このため、本開示の水銀回収装置は、燃料製造装置ということもできる。
【0010】
脱塩炉は微粉炭を供給する供給部を有することが好ましい。当該供給部から微粉炭を供給すると、溶融状態にある有機性廃棄物及び生成する炭化物の表面に微粉炭が付着し、脱塩炉の炉壁に有機性廃棄物及び炭化物が融着することを抑制できる。
【0011】
燃焼炉の燃焼温度は850℃以上であることが好ましい。これによって、ダイオキシン等の有機塩素化合物の生成を抑制することができる。
【0012】
吸収部から導出される吸収液の一部を吸収部に戻す循環流路を備えることが好ましい。これによって、吸収液に塩化水銀(II)が十分に濃縮されることとなり、最終的に排出される廃液の量を低減することができる。
【0013】
上記水銀回収装置は、燃焼ガスと吸収液とを接触させて燃焼ガスを冷却する減温部を備えてよい。この場合、減温部で冷却された燃焼ガスは回収部又は吸収部に供給されてよい。これによって、吸収液による塩化水銀(II)の吸収効率を向上することができる。
【0014】
上記回収部は湿式スクラバーを有してよい。これによって、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀等の固形分を効率よく捕捉することができる。湿式スクラバーはベンチュリスクラバーであってよい。これによって、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の濃度が高い場合であっても、簡便な装置構成でダスト及び金属水銀を捕捉することができる。
【0015】
上記水銀回収装置は、吸収部、及び燃焼ガスと吸収液とを接触させて燃焼ガスを冷却する減温部の少なくとも一方から排出される塩酸を含む排液を、回収部に供給する流路を有してもよい。このように排液を再利用することによって、排液中に塩化水銀(II)を一層濃縮することができる。このため、運転コストを低減することができる。
【0016】
上記水銀回収装置は、排液に含まれる固形分の少なくとも一部を分離する固液分離部を備えてよい。これによって、各機器が固形分で閉塞することを抑制できる。上記流路は固液分離部において固形分の少なくとも一部を分離して得られる排液を回収部に供給してもよい。これによって、回収部の安定性を向上することができる。
【0017】
上述の水銀回収装置は、吸収部から導出される排液から水銀を含む沈殿物を得る沈殿部を備えることが好ましい。水銀を沈殿物として固液分離して回収することによって、産業廃棄物の量を低減することができる。
【0018】
沈殿部は、塩化水銀(II)と水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄の少なくとも一方との共沈によって吸収液から水銀を含む沈殿物を得る沈殿槽を備えることが好ましい。これによって、水銀を固形物として十分に回収して環境への影響を十分に低減することができる。
【0019】
沈殿部は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一種を含むアルカリを供給する供給部を備えることが好ましい。これによって、吸収液のpHを調節して効率よく水銀を含む沈殿物を得ることができる。
【0020】
本開示の一側面に係る水銀回収方法は、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀、及び塩素成分を含む分解ガスを生成する脱塩工程と、分解ガスを燃焼して、塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼工程と、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀を回収する回収工程と、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収工程と、を有する。
【0021】
上述の水銀回収方法では、低酸素雰囲気で加熱する加熱工程と、加熱工程で生じた分解ガスを燃焼する燃焼工程とを備える。このように、加熱工程と燃焼工程の2段階での加熱処理を行っているため、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物から安定的に塩化水銀(II)を生成させることができる。そして、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収工程を有していることから、安定的に有機性廃棄物中の水銀を回収することができる。また、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀を回収する回収工程を有することから、大気放出される微細なダスト等の固形分を一層低減することができる。このような微細なダストには、金属水銀が付着する場合もあるため、水銀の放出を一層確実に低減することができる。また、各機器及び配管等における閉塞を抑制することができる。したがって、廃棄物に含まれる水銀を十分に安定的に回収することができる。
【0022】
上述の水銀回収方法は、吸収工程で前記吸収液に吸収された塩化水銀(II)と、水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄の少なくとも一方との共沈によって吸収液から水銀を含む沈殿物を得る沈殿工程をさらに有することが好ましい。これによって、水銀を十分に回収して環境への影響を十分に低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の水銀回収装置及び水銀回収方法によれば、廃棄物に含まれる水銀を十分に安定的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】焼成炉の構造の一例を模式的に示す図である。
【
図3】減温部の構造の一例を模式的に示す図である。
【
図4】減温塔を上方から見たときの各ノズルの配置を示す図である。
【
図6】吸収部の構造の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
図1は、一実施形態に係る水銀回収装置を模式的に示す図である。
図1の水銀回収装置は、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀及び塩素成分を含む分解ガスを生成する脱塩炉10と、分解ガスを燃焼して可溶性の塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼炉20と、燃焼ガスを吸収液で冷却する減温部30と、減温部30で冷却された燃焼ガスからダスト及び金属水銀を回収する回収部50と、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収部60と、吸収液から水銀を含む沈殿物を得る沈殿槽40と、を備える。
【0027】
脱塩炉10には、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を供給する第1供給部12と、微粉炭を供給する第2供給部14とが接続されている。有機性廃棄物としては、プラスチックを含む廃棄物が挙げられる。有機性廃棄物は、塩素を含む廃プラスチックと、水銀を含む廃棄物の混合物であってよい。水銀を含む廃棄物としては、自動車のシュレッダーダスト等が挙げられる。特に自動車のHIDライト等の部品には高濃度の水銀が含まれる。
【0028】
第2供給部14から供給される微粉炭は、溶融状態にある有機性廃棄物又は燃料の表面に微粉炭が付着する。これによって、脱塩炉10の炉壁に有機性廃棄物及び燃料が融着することを抑制できる。脱塩炉10における加熱温度は、例えば200℃以上であり、好ましくは250~500℃であり、より好ましくは250~400℃である。熱源としては、例えばセメントキルンの排ガス等を用いることができる。このような排ガスと、有機性廃棄物と、必要に応じて微粉炭とを脱塩炉10に供給することによって、塩素成分(塩素又は塩化水素)及び水銀を含む分解ガスと、塩素成分及び水銀が低減された炭化物とが得られる。炭化物は、廃プラスチックに由来する炭素を含む。
【0029】
脱塩炉10の下部排出部16から排出される炭化物は、固形燃料として例えばセメントキルンに供給してもよい。一方、脱塩炉10の上部排出部18から排出される分解ガスは、燃焼炉20に供給される。分解ガスは、塩素成分(塩素及び塩化水素)、ガス状の水銀、及び可燃性有機成分を含有する。脱塩炉10は低酸素雰囲気であることから、水銀の酸化を抑制し、ガス状の水銀を効率よく生成することができる。水銀の酸化を十分に抑制する観点から、脱塩炉10の酸素濃度は好ましくは12体積%以下である。脱塩炉10の酸素濃度は市販の酸素センサを用いて測定することができる。燃焼炉20は、分解ガスを、空気を用いて燃焼するためのバーナを備える。
【0030】
図2は、燃焼炉20の構造の一例を模式的に示す図である。燃焼炉20は、一次空気の存在下で分解ガスを燃焼するバーナ22と、二次空気を燃焼炉20内に供給する二次空気供給部24と、燃焼ガスを排出する排出部26とを備える。燃焼炉20における分解ガスの燃焼によって、ガス状の水銀が酸化され、塩素ガス又は塩化水素ガスと反応して水溶性の塩化水銀(II)が生成する。排出部26から排出される燃焼ガスは塩化水銀(II)を含有する。
【0031】
バーナ22は分解ガスを下向きに吐出する。これによって、バーナ22からの炎は下方に向かうように形成される。分解ガスの燃焼によって生じる燃焼ガスは、燃焼炉20の下方に設けられた排出部26から排出される。燃焼炉20における燃焼温度は、ダイオキシン類などの有機塩素化合物の生成を抑制する観点から、例えば850℃以上であり、好ましくは900℃以上であり、より好ましくは1,000℃以上である。
【0032】
燃焼炉20では、脱塩炉10で発生した可燃性有機成分を燃焼している。このように、可燃性有機成分を分解しつつ、熱エネルギー源として有効利用している。また、ガスを熱エネルギー源として利用していることから、焼却灰を殆ど発生させることなく塩化水銀(II)を生成させることができる。
【0033】
図1に戻り、燃焼炉20で得られる塩化水銀(II)を含有する燃焼ガスは、減温部30に導入される。減温部30において、燃焼ガスは水と接触して例えば80℃以下、好ましくは70~75℃に冷却される。
【0034】
図3は、減温部30の一例である減温塔を模式的に示す図である。
図3は、減温塔を側面から見たときの図である。減温塔は、本体部30Aと、本体部30Aの下部に燃焼ガスを供給するノズル28と、ノズル28から供給される燃焼ガスを冷却する吸収液を供給するノズル31(ノズル31A、31B,31C,31D,31E,31F)と、酸化剤又は吸収補助剤を供給するノズル33と、を備える。吸収液としては、水又は水と酸化剤を含む流体を用いることができる。以下、吸収液として水を用いた場合を例として説明する。
【0035】
酸化剤は、次亜塩素酸、塩素、過酸化水素水、過マンガン酸カリウム、硝酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する。吸収補助剤としては、塩酸等を用いることができる。このような酸化剤又は吸収補助剤を供給することによって水銀の回収率を向上することができる。酸化剤は、ノズル31A、31B,31C,31D,31E,31Fから供給される水に溶解して供給してもよい。ノズル31A、31B,31C,31D,31E,31F、及びノズル33は、それぞれ先端に複数の吐出口を有することによって、水、及び酸化剤をスプレー状又は霧状に散布してもよい。これによって燃焼ガスとの接触効率を向上することができる。
【0036】
ノズル31A、31B,31C,31D,31Fは、それぞれ、その先端が本体部30Aの中心に向かうように放射状に4本設置される。
図4(A)は、減温塔を上から見たときのノズル31A(31B)と、燃焼ガスを供給するノズル28との位置関係を示す図である。
図4(A)に示すように、ノズル31A(31B)は、その基端から先端に向かう方向が、ノズル28における燃焼ガスの導入方向に対して45°又は135°の角度をなすように設置される。
【0037】
図4(B)は、減温塔を上から見たときのノズル31D(31F)と、ノズル28との位置関係を示す図である。ノズル31D(31F)は、その基端から先端に向かう方向が、ノズル28における燃焼ガスの導入方向に対して0°、90°又は180°の角度をなすように設置される。このように、同じ高さにおいて放射状に複数のノズルを設けることに加えて、異なる高さに設けられるノズルを本体部30Aの周方向に沿ってずれるように配置することによって、燃焼ガスの冷却のばらつきを低減し、燃焼ガスと水との接触効率を向上することができる。
【0038】
ノズル31A、31B,31C,31D,31Fの先端に設けられる吐出口は、吐出される水と燃焼ガスとが向流接触するように水を吐出してもよい。これによって、燃焼ガスの冷却のばらつきをさらに低減し、燃焼ガスと水との接触効率を一層向上することができる。また、上方に設置される各ノズルが向流接触するように水を吐出することで、水が本体部30Aの内壁をつたって流下しやすくなる。これによって水がライニングの機能を発揮して、内壁の腐食を低減することができる。なお、各ノズルの本数及び向きは図示のものに限定されない。
【0039】
減温塔に導入された燃焼ガスは、ノズル31A、31B,31C,31D,31E,31Fから供給される水と接触しながら本体部30A内を上昇する。このとき、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)の一部は水に吸収されてよい。塩化水銀(II)を吸収して得られる吸収液は、下方に流下して本体部30Aの底部に貯留される。吸収液は、塩化水銀(II)の他に塩酸を吸収してもよい。冷却された燃焼ガスは、本体部30Aの上部に接続された流路32から排出される。一方、本体部30Aの底部に貯留された吸収液は、本体部30Aの底部に接続された流路34から排液として導出される。
【0040】
図1に戻り、流路32から排出された燃焼ガスは、回収部50に導入される。回収部50では、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀を含む固形分を回収する。回収部50を備えることによって、最終的に大気に放出される清浄ガスに含まれる固形分を低減することができる。
【0041】
回収部50は、湿式スクラバーであってもよいし、集塵器又は濾過器であってもよい。このうちメンテナンス作業の容易性及び安全性の観点から、湿式スクラバーが好ましい。湿式スクラバーは、ベンチュリスクラバーであってもよいし、トルネードスクラバーであってもよい。湿式スクラバーである場合、燃焼ガス中に含まれる固形分は例えばミストと衝突してミストに捕捉される。このミストを凝集させて得られる凝集液として回収してもよいし、固形分が付着したミストの状態で、下流側の吸収部60に導入されてもよい。凝集液として回収する場合は、回収部50に設けられた図示しない配管等を用いて回収してよい。
【0042】
回収部50が湿式スクラバーである場合、湿式スクラバーに供給される液体(スクラビング液)は、工業用水であってもよいし、塩酸等の酸を含む酸性液体であってもよい。酸性液体としては、減温部30又は吸収部60から排出される排液であってもよい。このような排液を用いることによって、産業廃棄物を低減することができる。また、酸性液体を用いることによって、金属水銀を酸化して排液中に吸収することができる。
【0043】
図5は、回収部50の一例であるベンチュリスクラバーを模式的に示す図である。この例では流体が鉛直下方に流下するように配置されているが、ベンチュリスクラバーの設置の向きは特に限定されない。ベンチュリスクラバーの上流側には、減温部30からの燃焼ガスを供給する流路32が接続されている。ベンチュリスクラバーのスロート部51には、流路56が連結されている。流路56からは加圧された排液がスクラビング液として供給される。スクラビング液はスロート部51においてミストとなり、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀を含む固形分と衝突する。ミスト状のスクラビング液と衝突した固形分はスクラビング液に吸収され、ベンチュリスクラバーの下流側に接続される流路58から燃焼ガスとともに流出する。
【0044】
回収部50は、減温部30で吸収液に吸収されずに燃焼ガスに残存する固形分をスクラビング液中に吸収して回収することができる。固形分を吸収したスクラビング液は、ミスト状のまま燃焼ガスとともに吸収部60に導入される。吸収部60では吸収液と燃焼ガス及び固形分を吸収したスクラビング液とが向流接触する。燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)及び固形分は吸収液に吸収される。
【0045】
図6は、吸収部の一例である吸収塔の構造を模式的に示す図である。吸収塔は、本体部60Aを備える。本体部60Aの下部には、塩化水銀(II)及びミスト状のスクラビング液を含む燃焼ガスを供給する流路58が接続され、頂部には燃焼ガスから塩化水銀(II)を除去することによって得られる洗浄ガスを排出する流路64が接続されている。また、本体部60Aの上部には、吸収液である水を導入するノズルと排液を導入するノズルが設けられている。ノズルから導入される水と流路58から供給される燃焼ガス及びミスト状のスクラビング液とが本体部60A内において接触する。
【0046】
流路64から導出される洗浄ガスは、有害成分が十分に低減されているが、例えば活性炭等の補助的な水銀吸着装置を経由した後、大気に放出してもよい。当該洗浄ガスは、ダスト及び金属水銀等の固形分が十分に低減されていることから、水銀吸着装置の閉塞を十分に抑制することができる。
【0047】
本体部60Aは、中央部に、充填物が充填された充填層62を備える。充填物としてはポールリングが挙げられる。充填層62を備えることによって、水と燃焼ガスとの接触効率を高めることができる。燃焼ガス中の塩化水銀(II)及び固形分を含むミストを吸収した水(吸収液)は底部に貯留され、流路66から排液として導出される。排液は、塩化水銀(II)の他に塩酸及び固形分を含有してもよい。
【0048】
流路66から導出される排液の一部は、
図1及び
図6に示すように、流路68(循環流路)を流通して吸収部60に循環される。このように、排液の一部を循環することによって、排液中に塩化水銀(II)及び固形分が十分に濃縮されることとなり、最終的に放出される廃液の量を低減することができる。なお、吸収塔における流路68の接続位置は、
図6に示される位置に限定されず、別の位置でもよいし、水が供給されるノズルの少なくとも一つから排液を供給してもよい。
【0049】
図1に示すとおり、減温部30及び吸収部60から導出される、塩化水銀(II)及び固形分を含有する排液の一部は、流路36及び流路65をそれぞれ経由して固液分離部70に導入される。固液分離部70では、排液に含まれる固形分の少なくとも一部が除去される。固液分離部70は例えばフィルターを備える濾過器であってよい。固液分離部70を備えることによって、排液中の固形分が低減される。固形分が低減された排液の一部は、流路56を流通して回収部50に導入される。この排液は、固形分が低減されていることから、流路56の閉塞を抑制することができる。このため、回収部50として、ベンチュリスクラバーを用いても、排液を供給するノズル及びスロート部51における閉塞が抑制され、一層安定的に水銀の回収を継続することができる。
【0050】
固液分離部70から導出される、固形分が低減された排液の別の一部は、流路54を経由して減温部30に供給される。排液は塩酸等の酸を含む。したがって、減温部30から排出される排液に塩化水銀(II)を濃縮し、吸収部60の負荷を軽減することができる。なお、減温塔における流路54の接続位置は、
図3に示される位置に限定されず、別の位置でもよいし、ノズル31A、31B,31C,31D,31E,31Fの少なくとも一つから排液を供給してもよい。
【0051】
減温部30及び吸収部60から流路34及び流路66から導出される、塩化水銀(II)及び固形分(水銀及びダスト)を含有する排液の一部は、沈殿槽40(沈殿部40)に導入される。沈殿槽40には、排液と第一鉄塩化合物又は第二鉄塩化合物とアルカリと高分子凝集剤が導入される。ここで、「第一鉄塩化合物又は第二鉄塩化合物」は、どちらか一方であってもよいし、両方であってもよい。沈殿槽40では、アルカリを導入することによってpHを例えば8~12、好ましくは9~11に調整する。また高分子凝集剤として例えば高アニオン高分子凝集剤を導入する。これによって、水銀が水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄の少なくとも一方と共沈し、水銀を含む沈殿物が得られる。
【0052】
アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムが挙げられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一種を含む塩基性廃液をアルカリとして用いてもよい。第一鉄塩化合物としては、塩化第一鉄、塩化第一鉄二水和物、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄四水和物、硫酸第一鉄五水和物、硫酸第一鉄七水和物、ポリ硫酸第一鉄等が挙げられる。第二鉄塩化合物としては、例えば、塩化第二鉄、塩化第二鉄六水和物、硫酸第二鉄、硫酸第二鉄三水和物、硫酸第二鉄六水和物、硫酸第二鉄七水和物、及びポリ硫酸第二鉄等が挙げられる。
【0053】
沈殿槽40では固液分離を行うことによって、沈殿物と残渣液に分離される。沈殿物は、スラッジとして回収される。一方、沈殿槽40で固液分離して得られる水溶液(廃液)は、水銀が十分に低減されていることから外部に放流することができる。なお、沈殿槽は複数設置してもよい。
【0054】
本実施形態の水銀回収装置は、脱塩炉10と燃焼炉20の2段階での加熱処理を行っているため、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物から安定的に塩化水銀(II)を生成させることができる。そして、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収部60において吸収液で吸収して排液とし、沈殿槽40において排液から水銀を沈殿物として回収している。また、燃焼ガスに含まれる金属水銀及びダスト等の固形分を回収部50で回収し、固液分離部70によって固形分を分離している。このようにして、有機性廃棄物中の水銀を十分安定的に回収することができる。
【0055】
次に、有機性廃棄物からの水銀回収方法の一実施形態を説明する。本実施形態の水銀回収方法は、上述の水銀回収装置を用いて行うことができる。したがって、水銀回収装置の説明内容は水銀回収方法にも適用される。また、以下に説明する水銀回収方法の説明内容は、上述の水銀回収装置にも適用される。
【0056】
本実施形態の水銀回収方法は、塩素及び水銀を含む有機性廃棄物を酸素濃度が空気よりも低い低酸素雰囲気で加熱して、可燃性有機成分、水銀、及び塩素成分を含む分解ガスと、炭化物と、を生成する脱塩工程と、分解ガスを燃焼して塩化水銀(II)を含む燃焼ガスを得る燃焼工程と、燃焼ガスに含まれるダスト及び金属水銀の少なくとも一方を含む固形分を回収する回収工程と、燃焼ガスに含まれる塩化水銀(II)を吸収液に吸収させる吸収工程と、を有する。また、これらの工程に付帯して、燃焼ガスと吸収液とを接触させて燃焼ガスを冷却する減温工程と、排液に含まれる固形分の少なくとも一部を分離する固液分離工程と、吸収液中の水溶性水銀を不溶化して沈殿物として回収する沈殿工程と、を有してもよい。
【0057】
脱塩工程は、脱塩炉10において、塩素を含む廃プラスチックと水銀を含む廃棄物とを含有する有機性廃棄物を低酸素雰囲気で加熱する。これによって、有機性廃棄物から塩素及び塩化水素等の塩素成分、水銀、及び可燃性有機成分を含む分解ガスを分離する。脱塩工程は低酸素雰囲気で有機性廃棄物を加熱することから、水銀の酸化を抑制し、ガス状の水銀を効率よく生成することができる。脱塩工程では、有機性廃棄物とともに微粉炭を加熱してもよい。脱塩工程で得られる固形の炭化物はセメント製造設備の燃料として利用してよい。脱塩工程における加熱温度は例えば200℃以上であり、好ましくは250~500℃であり、より好ましくは300~350℃である。
【0058】
燃焼工程では、加熱工程で得られた分解ガスを燃焼炉20において燃焼する。燃焼工程では、ガス状水銀が酸化され、塩素又は塩化水素ガスと反応して水溶性の塩化水銀(II)を生成する。脱塩炉10で得られる分解ガスは、燃焼炉20に供給されるまでの流通段階において、組成が十分均一になるように混合される。このように組成のばらつきが十分に低減された分解ガスを燃焼炉20で燃焼することで、分解ガスに含まれる水銀を十分均等に反応させることができる。このため、未反応の水銀を十分に低減することができる。
【0059】
燃焼工程における燃焼温度は、例えば850℃以上であり、好ましくは900℃以上であり、より好ましくは1,000℃以上である。このような温度範囲にすることで、ダイオキシン類などの有機塩素化合物の発生を十分に抑制することができる。燃焼工程では、加熱工程で発生した分解ガスに含まれる可燃性有機成分を燃焼させている。このように、可燃性有機成分を処理しつつ、熱エネルギー源として有効利用を図っている。また、ガスを熱エネルギー源として利用しているため、実質的に焼却灰を発生させることなく反応を進行させることができる。
【0060】
減温工程では、例えば減温部30において燃焼ガスを吸収液と接触させて冷却する。吸収液は水であってもよいし、酸化剤を含有する水であってもよい。酸化剤を含有することによって、未反応の金属水銀が酸化され、未反応の塩化水素と水銀が反応して塩化水銀に転化し、塩化水銀を吸収液で吸収することができる。これによって燃焼ガス中の水銀濃度を一層低下することができる。減温工程では、吸収液のみならず、減温工程及び後述する吸収工程で発生する排液を循環して燃焼ガスと接触させてもよい。これによって、排液中に塩化水銀(II)を一層濃縮することができる。
【0061】
回収工程では、回収部50において燃焼ガスに含まれる固形分が回収される。固形分は、金属水銀及びダストの少なくとも一方を含む。回収工程を湿式スクラバーで行う場合、減温工程及び/又は後述する吸収工程で発生する排液をスクラビング液として用いてもよい。回収工程で固形分の少なくとも一部をミスト中等に回収することによって、大気に放出される固形分を十分に低減することができる。
【0062】
固液分離工程は、固液分離部70において、排液に含まれる固形分を排液から分離する。これによって、排液に含まれる固形分を低減することができる。このような排液であれば、回収工程及び減温工程において好適に再利用することができる。再利用される排液は塩酸等の酸を含んでいてもよい。
【0063】
吸収工程では、塩化水銀を含む燃焼ガスが、吸収部60において吸収液に吸収される。吸収液の原液は工業用水等の水を利用できる。水に加えて、酸化剤を添加してもよい。酸化剤としては、次亜塩素酸、塩酸、過酸化水素水、過マンガン酸カリウム、硝酸及び硫酸等が挙げられる。
【0064】
吸収部60は、複数の吸収塔を並列又は直列に有していてもよい。吸収塔内を流れる燃焼ガスと吸収液との接触面積を増加させるために、塔内に充填物を設置してもよく、吸収液を霧状にして供給する噴霧装置を用いてもよい。吸収塔内で吸収液の少なくとも一部を循環させると、吸収液中の塩化水銀の濃度を高め、吸収液からの水銀回収をより効率化することが可能となる。
【0065】
吸収部60において金属水銀を可溶性の塩化水銀に転化することも可能である。このため、例えば、吸収塔内に酸化剤を散布してもよい。吸収塔内で未反応の金属水銀を酸化することで、未反応の塩化水素と水銀が反応して塩化水銀に転化し、塩化水銀を吸収液に吸収することができる。これによってガス中の水銀濃度を一層低下することができる。
【0066】
吸収部60における燃焼ガスと吸収液の接触条件に特に制限は無く、燃焼ガスの組成及び燃焼ガスの量に応じて適宜選択すればよい。吸収部60から得られる洗浄ガスは、吸収部の下流側に設置される補助的な水銀吸着装置に導入してもよい。水銀吸着装置の具体例としては、活性炭による吸着装置等が挙げられる。
【0067】
減温部30及び吸収部60において水溶性水銀を吸収した排液は、沈殿槽40に輸送される。沈殿槽40では、沈殿工程によって水銀が回収される。沈殿工程では、沈殿槽40において、吸収液に第一鉄塩化合物又は第二鉄塩化合物が添加される。沈殿工程では必要に応じてアルカリを添加してpHを8~12、好ましくは9~11に調節して、高分子凝集剤を添加する。この不溶化工程で第一鉄塩化合物又は第二鉄塩化合物が塩化水銀(II)等の水銀成分を取り込んで共沈する。これによって、吸収液中に溶存している水銀を沈殿物として回収することができる。
【0068】
第一鉄塩化合物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第一鉄二水和物、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄四水和物、硫酸第一鉄五水和物、硫酸第一鉄七水和物、ポリ硫酸第一鉄等が挙げられる。第二鉄塩化合物としては、例えば、塩化第二鉄、塩化第二鉄六水和物、硫酸第二鉄、硫酸第二鉄三水和物、硫酸第二鉄六水和物、硫酸第二鉄七水和物、及びポリ硫酸第二鉄等が挙げられる。高分子凝集剤としては、高アニオン高分子凝集剤等が挙げられる。高分子凝集剤は水酸化鉄を主成分とする沈殿の凝集を促進し、固液分離を容易にする作用を有する。
【0069】
液相のpH調節剤に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウム等が挙げられる。pH調節剤は塩基性廃液を利用してもよい。塩基性廃液を利用することで工業薬品の使用量を削減したり、廃液の処理設備を集約したりすることができる。使用できる塩基性廃液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムの少なくとも一種を含むものが挙げられる。また、pH調整のため、アルカリとともに硫酸又は塩酸などの酸を併用してもよい。
【0070】
本実施形態の水銀回収方法によれば、余分な燃料コストや薬品コストを抑制し、有害な有機塩素化合物を発生させずに、有機性廃棄物から水銀を回収することができる。また、沈殿工程でアルカリとして塩基性廃液を使用することで、工業薬品の使用量を低減することができる。
【0071】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、別の実施形態では、回収部50は、流路64の下流側に設け、吸収部60で塩化水銀(II)が吸収された後の燃焼ガスが導入されてもよい。これによって、吸収部60で捕捉できなかった固形分を回収部50で回収することができる。この場合、回収部50で発生する固形分を含むミスト等は、固液分離部70に導入してもよいし、減温部30及び吸収部60に直接導入してもよい。さらに別の実施形態では、固液分離部70を、流路54及び流路56に個別に設けてもよいし、流路66及び流路34に設けてもよい。さらに別の実施形態では、減温部30は例えば熱交換器であってもよいし、減温部30は設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本開示の水銀回収装置及び水銀回収方法によれば、廃棄物に含まれる水銀を十分に安定的に回収することができる。
【符号の説明】
【0073】
10…脱塩炉,12,14…供給部,16…下部排出部,18…上部排出部,20…燃焼炉,22…バーナ,24…二次空気供給部,26…排出部,28…ノズル,30…減温部,30A…本体部,32…流路,34…流路,36…流路,40…沈殿槽(沈殿部),50…回収部,51…スロート部,60…吸収部,60A…本体部,62…充填層,70…固液分離部。