(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】フィルム成形用組成物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 1/28 20060101AFI20231102BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231102BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231102BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08L1/28
C08J5/18
A61K47/36
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2020146913
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019161360
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】松末 慎太朗
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533231(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158870(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.5~4.5mPa・sである第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が6.0~50.0mPa・sである第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が4.5~15.0mPa・sである第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
ゲル化剤と、
溶媒と
を少なくとも含み、
前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、
第I群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.20~0.34を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースIAである一つのメンバーと、
第II群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.10~1.60、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.10~0.33を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースIIAと、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.40~0.70を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースIIBとの二つのメンバーと
の合計三つのメンバーから選択され、
前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースと同一メンバーであるが、前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSと同じであっても異なってもよく、
前記第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの群とは異なる群のメンバーであるフィルム成形用組成物。
【請求項2】
前記第一及び第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースIAであり、前記第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースIIA又はIIBである請求項1に記載のフィルム成形用組成物。
【請求項3】
前記第一及び第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースIIA又はIIBであり、前記第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースIAである請求項1に記載のフィルム成形用組成物。
【請求項4】
前記第一、第二及び第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースをブレンドして得られるヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基の置換度(DS)が1.50~2.00であり、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が0.20~0.55である請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム成形用組成物。
【請求項5】
前記第一、第二及び第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースをブレンドして得られるヒドロキシプロピルメチルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度が、3.0~15.0mPa・sである請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルム成形用組成物。
【請求項6】
前記ゲル化剤が、カッパカラギ
ーナン、イオタカラギ
ーナン、ジェランガム、ペクチン、カードラン、寒天及びタマリンドガムからなる群から選ばれる請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルム成形用組成物。
【請求項7】
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.5~4.5mPa・sである第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が6.0~50.0mPa・sである第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が4.5~15.0mPa・sである第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
ゲル化剤と
を少なくとも含み、
前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、
第I群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.20~0.34を有するドロキシプロピルメチルセルロースIAである一つのメンバーと、
第II群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.10~1.60、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.10~0.33を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースIIAと、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.40~0.70を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースIIBとの二つのメンバーと
の合計三つのメンバーから選択され、
前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースと同一メンバーであるが、前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSと同じであっても異なってもよく、
前記第三のヒドロキシプロピルメチルセルロースが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの群とは異なる群のメンバーであるフィルム。
【請求項8】
前記ゲル化剤が、カッパカラギ
ーナン、イオタカラギ
ーナン、ジェランガム、ペクチン、カードラン、寒天及びタマリンドガムからなる群から選ばれる請求項7に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム成形用組成物及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名ヒプロメロース、以下「HPMC」とも記載する。)などの水溶性セルロースエーテルは、医薬又は食品用途に広く利用されている。その中でも、特にHPMCは水への溶解性に優れ、溶液を乾燥させると強靱で柔軟性に富むフィルムを形成する。形成されたフィルムは透明性が高く、ガスバリア性、防湿性に優れるため、錠剤や顆粒剤のフィルムコーティング基剤として、また、フィルム製剤や硬カプセルの基剤として広く使用されている。
【0003】
硬カプセルは、製剤化が容易であり、内容物の味や臭いをマスキングできるために従来から広く使用されている剤形であり、その基剤としてゼラチンが汎用されてきた。しかし、ゼラチンは動物由来であるため牛海綿状脳症(BSE)等の感染リスクが存在する。更に、ゼラチンは水分量が低下すると割れやすくなるため、ゼラチンを基剤とする硬カプセルは水分を多く含まざるを得ず、その水分により薬物が失活する事がある。
一方で、水溶性セルロースエーテルは植物由来であり、フィルム中の水分量を低くしてもフィルムの強度が低下せず、上述の問題を有さない。
【0004】
水溶性セルロースエーテルを基剤とする硬カプセルは上記のように多くの利点を有するが、ゼラチンを基剤とする硬カプセルに比べて水への溶解性が低く、内容物の放出が遅延するという問題がある。
水溶性セルロースエーテルを基剤とする硬カプセルの溶解性の向上を目的として、特許文献1においては、基剤として2%水溶液の20℃における粘度が2.4~5.4センチストークスであるHPMCを18~28重量部、ゲル化剤としてカラギーナンを0.01~0.1重量部、及びゲル化補助剤としてカリウムイオン、カルシウムイオン又はこれらの両方を0.05~0.6重量部含有してなることを特徴とするカプセル用皮膜組成物、特許文献2においては、フィルム成分として、ヒプロメロース、ならびに単糖類、二糖類およびデンプンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種を含有する硬質カプセルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-208458号公報
【文献】特開2010-270039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているような、比較的低い粘度のHPMCから成形されたフィルムは脆弱であり、強度が十分でなかった。また、特許文献2に記されているような、単糖類、二糖類およびデンプンといった添加物は、急速な微生物の増加を誘発する可能性がある。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、溶解性と強度が両立されたフィルムを成形できるフィルム成形用組成物及び当該フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性セルロースエーテルとしてHPMCを用い、粘度差を有する第一と第二のHPMCの組み合わせに、異なる置換度のHPMCを組み合わせることにより、溶解性と強度に優れるフィルムを成形できる事を見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
本発明の1つの態様によれば、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.5~4.5mPa・sである第一のHPMCと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が6.0~50.0mPa・sである第二のHPMCと、
2質量%水溶液の20℃における粘度が4.5~15.0mPa・sである第三のHPMCと、
ゲル化剤と、
溶媒と
を少なくとも含み、
前記第一のHPMCが、
第I群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.20~0.34を有するHPMC-IAである一つのメンバーと、
第II群に属する、メトキシ基の置換度(DS)1.10~1.60、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.10~0.33を有するHPMC-IIAと、メトキシ基の置換度(DS)1.80~2.00、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)0.40~0.70を有するHPMC-IIBとの二つのメンバーと
の合計三つのメンバーから選択され、
前記第二のHPMCが、前記第一のHPMCと同一メンバーであるが、前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSと同じであっても異なってもよく、
前記第三のHPMCが、前記第一のHPMCの群とは異なる群のメンバーであるフィルム成形用組成物が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、前記第一のHPMCと、前記第二のHPMCと、前記第三のHPMCと、ゲル化剤とを少なくとも含むフィルムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度を維持したまま溶解性に優れるフィルムを得ることができる。加えて、後述するフィルム成形用組成物の分散液粘度を低減することができるため、効率よくフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】フィルムの溶解時間の測定に使用する試料ホルダを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、フィルム成形用組成物に用いるHPMCについて説明する。
フィルム成形用組成物には、それぞれ非イオン性である第一のHPMC、第二のHPMC及び第三のHPMCを用いる。
【0012】
<HPMCの粘度>
HPMCのフィルムの強度と溶解性は、HPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度と相関があり、HPMCの粘度が低すぎると、フィルムの溶解性は向上するが強度が低下してしまう。逆にHPMCの粘度が高すぎると、フィルムの強度は向上するが溶解性が低下してしまうため、フィルム形用組成物に用いる第一、第二及び第三のHPMCの粘度は後述する範囲内でなければならない。
第一のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、2.5~4.5mPa・s、好ましくは2.8~4.5mPa・s、より好ましくは3.0~4.5mPa・sである。粘度が2.5mPa・s未満である場合は、フィルムの強度が低下してしまい、フィルムが割れやすくなる等の問題が生じる。4.5mPa・sを超える場合は、良好なフィルムの溶解性を得ることが困難になる。
第二のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、6.0~50.0mPa・s、好ましくは6.0~40.0mPa・s、より好ましくは6.0~35.0mPa・sである。粘度が6.0mPa・s未満である場合は、粘度の低いセルロースエーテルの含有量が多くなるためフィルムの強度が低下してしまい、フィルムが割れやすくなる等の問題が生じる。50.0mPa・sを超える場合は良好なフィルムの溶解性を得ることが困難になる。
第三のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、4.5~15.0mPa・s、好ましくは4.5~14.5mPa・s、より好ましくは4.5~14.0mPa・sである。粘度が4.5mPa・s未満である場合は、フィルムの強度が低下して割れやすくなる等の問題が生じ、15.0mPa・sを超える場合は良好なフィルムの溶解性を得ることが困難になる。
【0013】
また、フィルムの溶解性の観点から、第一のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度と第二のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度の差((第二のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度)-(第一のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度))は、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.3~47.0mPa・s、更に好ましくは2.5~45.0mPa・sである。
なお、第一、第二及び第三のHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、各粘度が600mPa・s未満であるため、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて測定することができる。
【0014】
<HPMCの置換度>
次に、フィルム成形用組成物に用いるHPMCの置換度について説明する。
第一のHPMCは、第I群又は第II群に属する三つのメンバーから選択され、第二のHPMCは、置換度が同じでも異なってもよい第一のHPMCと同一のメンバーであるが、前記第二のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSが、前記第一のヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度DS及び/又はMSと同じであっても異なってもよく、第三のHPMCは、前記第一のHPMCの群とは異なる群のメンバーである。
粘度が異なり置換度が同じでも異なってもよい同じ群の同一メンバーである第一と第二のHPMCを用いることによりフィルムの溶解性の改善を図ることに加えて、これらと異なる群のメンバーである第三のHPMCを組み合せて用いることにより、更なるフィルムの溶解性の改善や後述するフィルム成形用組成物の分散液粘度の低減を図ることができる。
【0015】
第I群のHPMCは、フィルムの強度に優れたメンバーからなる群である。
具体的には、メトキシ基の置換度(DS)が1.80~2.00、好ましくは1.83~1.97、更に好ましくは1.85~1.95、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が0.20~0.34、好ましくは0.22~0.30であるHPMC-IAからなる。
【0016】
第II群のHPMCは、溶解性に優れた二つのメンバーからなる群である。
具体的には、メトキシ基の置換度(DS)が1.10~1.60、好ましくは1.30~1.60、更に好ましくは1.35~1.55、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が0.10~0.33、好ましくは0.20~0.30であるHPMC-IIAと、メトキシ基の置換度(DS)が1.80~2.00、好ましくは1.83~1.97、更に好ましくは1.83~1.95、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が0.40~0.70、好ましくは0.45~0.65であるHPMC-IIBとからなる。
【0017】
第一のHPMC、第二のHPMC及び第三のHPMCとしての各メンバーの組み合わせは、括弧内にこの順序での組合せとして記載とすると、すなわち、「(第一のHPMCのメンバー、第二のHPMCのメンバー、第三のHPMCのメンバー)」として表すと、(IA、IA、IIA)、(IA、IA、IIB)、(IIA、IIA、IA)、(IIB、IIB、IA)である。フィルムの強度または溶解性の観点から、好ましくは(IA、IA、IIA)、(IA、IA、IIB)、より好ましくは(IA、IA、IIA)である。
第二のHPMCは、置換度が同じでも異なってもよい第一のHPMCと同一メンバーから選択される。第一のHPMCと同じ置換度の第二のHPMCは、例えば解重合の程度の違いにより第一のHPMCと異なる所望の粘度に調整できる。第二のHPMCは、解重合の粘度調整の容易さの点から、好ましくは、置換度が同じである第一のHPMCと同一メンバーから選択される。
【0018】
HPMCにおけるメトキシ基の置換度(Degree of Substitution、DS)及びヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(Molar Substitution、MS)は、第十七改正日本薬局方の「ヒプロメロース」の置換度の測定方法に準拠した方法によって測定した値を換算することによって求めることができる。
【0019】
<HPMCのブレンド後の物性>
第一、第二及び第三のHPMCを、好ましくは以下の物性となるようにブレンドすることにより、フィルム形成用組成物の成分として用いられる場合、溶解性等に優れるフィルムを成形できる。
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCのメトキシ基の置換度(DS)は、フィルムの強度又は溶解性の観点から、好ましくは1.50~2.00、より好ましくは1.55~1.98、更に好ましくは1.60~1.96、特に好ましくは1.65~1.90である。
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCのヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)は、フィルムの溶解性又はフィルムの柔軟性の観点から、好ましくは0.20~0.55、より好ましくは0.21~0.50、更に好ましくは0.22~0.45、特に好ましくは0.22~0.35である。
なお、第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCのメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)は、第十七改正日本薬局方の「ヒプロメロース」の置換度の測定方法に準拠した方法によって測定した値を換算することによって求めることができる。
【0020】
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、フィルムの強度又はフィルムの膜厚制御の観点から、好ましくは3.0~15.0mPa・s、より好ましくは3.5~12.0mPa・s、更に好ましくは4.0~10.0mPa・s、特に好ましくは4.0~7.0mPa・sである。
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、ブレンド後の粘度が600mPa・s未満であるため、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて測定することができる。
【0021】
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCの分散液粘度(溶媒として水を用いた50℃における20質量%分散液の粘度)は、フィルムの生産性の観点から、好ましくは2000~15000mPa・s、より好ましくは2300~13000mPa・s、更に好ましくは2600~11000mPa・s、特に好ましくは2600~6300mPa・sである。
第一、第二及び第三のHPMCをブレンドして得られるHPMCの分散液粘度は、例えばAnton Paar社のレオメーターであるMCR301で測定することができる。
まず、アルミ製測定用カップ(C-CC27)と羽根型治具(ST24-2D/2V/2V-30)を予め80℃に温調しておき、フィルム成形用組成物に用いるHPMC7gと98℃の熱水を測定用カップ中でよく混合して、フィルム成形用組成物に用いるHPMCの20質量%分散液を調製する。羽根型治具を測定部にセットし、溶媒の蒸発を防ぐためにプラスチック製の蓋で測定用カップに蓋をする。80℃にて5分間静置して脱泡した後、60℃で4分、180rpmの速度で撹拌を行い、次いで60rpmの速度で撹拌しながら、毎分0.5℃の速度で50℃まで降温させ、50℃に達した際のせん断粘度を、フィルム成形用組成物に用いるHPMCの分散液粘度とする。なお、試料測定部はペルチェ温度制御により温調し、データは毎分2点収集する。なお、測定を3回繰り返し、その平均値をフィルム成形用組成物に用いるHPMCの分散液粘度とした。
【0022】
<HPMCの含有量>
上述した物性となるように、第一、第二及び第三のHPMCをブレンドする場合、フィルム成形用組成物における各HPMCの好ましい含有量を説明する。なお、第一、第二及び第三のHPMCを予めブレンド後、フィルム成形用組成物の他の成分と混合しても良いし、予めブレンドすることなく、他の成分と混合してもよい。
フィルム成形用組成物における第一のHPMCの含有量は、フィルムの強度又は溶解性の観点から、好ましくは2.0~15.0質量%、より好ましくは2.0~13.0質量%である。
フィルム成形用組成物における第二のHPMCの含有量は、フィルムの強度又はフィルムの膜厚制御の観点から、好ましくは0.5~7.0質量%、より好ましくは0.8~6.5質量%である。
フィルム成形用組成物における第三のHPMCの含有量は、フィルムの溶解性の観点から、好ましくは4.0~18.0質量%、より好ましくは4.5~15.5質量%である。
【0023】
<HPMCの入手方法>
第一、第二及び第三のHPMCは、公知の方法により製造することができ、例えば以下に記載の方法により製造できる。
セルロースパルプと水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロースを得る工程と、得られたアルカリセルロースを、塩化メチル、プロピレンオキサイド等のエーテル化剤と60~100℃でエーテル化反応させて反応生成物を得る工程と、得られた反応生成物の洗浄工程、乾燥工程、粉砕工程を少なくとも含む製造方法によりHPMCを得る。最後に、当該製造方法は、必要に応じて、例えば、得られたHPMCに対して塩酸等の酸を用いて、50~95℃で20~120分間解重合反応を行う解重合工程を含むことにより、低粘度化することで、所望の置換度及び粘度のHPMCを製造することができる。
また、第一、第二及び第三のHPMCは、市販のものを用いてもよい。
【0024】
<ゲル化剤>
次に、フィルム成形用組成物に用いるゲル化剤について説明する。
ゲル化剤としては、フィルム成形用組成物が室温付近(15~35℃)でゲル化するものであれば特に制限されないが、カッパカラギーナン(κ-カラギーナン)、イオタカラギーナン(ι-カラギーナン)、ジェランガム、ペクチン、カードラン、寒天、タマリンドガム等を挙げることができる。ゲル化剤は、必要に応じて二種以上を併用してもよい。ゲル化剤は、市販のものを用いることができる。
フィルム成形用組成物におけるゲル化剤の含有量は、フィルムの溶解性又はフィルムの膜厚制御の観点から、好ましくは0.04~1.0質量%、より好ましくは0.05~0.8質量%である。
【0025】
<溶媒>
次に、フィルム成形用組成物に用いる溶媒について説明する。
溶媒としては、HPMCとゲル化剤を溶解させることができれば特に制限されないが、水及び水と炭素数1~4の低級アルコールとの混合溶媒等が挙げられる。溶媒は、市販のものを用いることができ、必要に応じて二種以上を併用してもよい。フィルム成形用組成物に用いる溶媒としては、安全性及び環境面の観点から、水が好ましい。
水と炭素数1~4の低級アルコールとの混合溶媒における炭素数1~4の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。混合溶媒における水の含有量は、特に制限されないが、フィルム成形用組成物の均一性を保つ観点から、混合溶媒の総質量の好ましくは20.0~99.9質量%である。
フィルム成形用組成物に用いる溶媒の含有量は、フィルムの膜厚制御の観点から、好ましくは59.0~93.46質量%、より好ましくは70.0~88.0質量%である。
【0026】
<ゲル化剤以外の添加剤>
フィルム成形用組成物は、ゲル化補助剤、可塑剤、顔料、香料、消泡剤等のゲル化剤以外の添加剤を必要に応じて含むことができる。但し、フィルム成形用組成物は、上述した第一、第二及び第三のHPMC以外の水溶性セルロースエーテルを含まないことが好ましい。ゲル化剤以外の添加剤は、フィルム成形用組成物中に均一に溶解又は分散するように添加することが好ましい。ゲル化剤以外の添加剤は、必要に応じて二種以上を併用してもよい。ゲル化剤以外の添加剤は、市販のものを用いることができる。
ゲル化補助剤としては、カリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン等の陽イオンを含む物質を挙げることができる。カリウムイオンを含むゲル化補助剤としては、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。カルシウムイオンを含むゲル化補助剤としては、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。アンモニウムイオンを含むゲル化補助剤としては、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
例えば、ゲル化剤としてカッパカラギーナンを用いる場合は、カリウムイオンを含むゲル化補助剤、特に塩化カリウムを用いることが好ましい。また、ゲル化剤としてジェランガムを用いる場合は、カルシウムイオンを含むゲル化補助剤、特に乳酸カルシウムを用いることが好ましい。
フィルム成形用組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、ゲル化補助剤の析出を防ぐ観点から、フィルム成形用組成物に用いるHPMC100質量部に対し、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは0.25~5.0質量部である。
【0027】
可塑剤としては、医薬品又は食品に使用可能なものであれば特に制限されず、例えばクエン酸トリエチル、トリアセチン、ポリソルベート80(Tween(登録商標)80)、ポリエチレングリコール、ジオクチルソジウムスルホサクシネート等が挙げられる。
フィルム成形用組成物における可塑剤の含有量は、フィルムの強度の観点から、フィルム成形用組成物に用いるHPMC100質量部に対し、好ましくは30.0質量部以下、より好ましくは0.1~15.0質量部である。
【0028】
顔料としては、酸化チタン、アルミニウムレーキ、食用色素等が挙げられる。
フィルム成形用組成物における顔料の含有量は、遮光、着色等の添加目的により異なるが、フィルムの強度の観点から、フィルム成形用組成物に用いるHPMC100質量部に対し、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは0.1~2.5質量部である。
【0029】
香料としては、レモンオイル、オレンジオイル、ペパーミント、スペアミント、ハッカ等の精油、コーヒーフレーバー、ヨーグルトフレーバー等の合成香料等が挙げられる。
フィルム成形用組成物における香料の含有量は、フィルムの強度の観点から、フィルム成形用組成物に用いるHPMC100質量部に対し、好ましくは2.5質量部以下、より好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0030】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、ショ糖脂肪酸エステル系消泡剤、グリセリン脂肪酸エステル系消泡剤等が挙げられる。
フィルム成形用組成物における消泡剤の含有量は、フィルム強度の観点から、フィルム成形用組成物に用いるHPMC100質量部に対し、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0031】
<フィルム成形用組成物の製造方法>
フィルム成形用組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
第一、第二及び第三のHPMCと、好ましくは85~98℃の溶媒と、ゲル化剤と、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤(例えばゲル化補助剤)とを、好ましくは80℃以上の温度を保ったまま5~30分間、300~600rpmで撹拌しながら混合し、十分に溶媒中に分散または溶解させる工程と、撹拌を止め、好ましくは80℃以上の温度を保ったまま20~60分静置して脱泡する工程と、脱泡後、フィルム成形に適した温度(例えば、硬カプセルを製造する場合にはカプセル成型ピンを浸漬する際の温度)にまで100~300rpmで撹拌しながら降温する工程とを少なくとも含むフィルム成形用組成物の製造方法により、HPMCが溶媒中に分散又は溶解した、スラリー状のフィルム成形用組成物を製造することができる。なお、脱泡工程において、撹拌を止める際には、HPMCが十分に熱水中に分散又は溶解したことを確認するとよい。
フィルム成形用組成物に用いるHPMCと溶媒を混合した後、フィルム形成用組成物を冷却してHPMCを完全に溶解させ、次いでフィルム形成に適した温度にまで昇温してから、もしくは昇温する途中にゲル化剤、必要に応じてゲル化補助剤を含む添加剤を混合し、HPMCが溶媒に完全に溶解したフィルム成形用組成物を製造する事もできるが、フィルム成形用組成物の調製に時間を要しフィルムの生産性が低下するため、スラリー状のフィルム成形用組成物を製造することが好ましい。
【0032】
<フィルム成形用組成物の用途>
フィルム成形用組成物の用途としては、フィルム製剤、硬カプセル基剤、コーティング用基剤等が挙げられるが、フィルムの強度を大きく損なうことがないため、高い強度が必要とされる硬カプセルとして用いることが好適である。
【0033】
フィルムは、バーコーターやアプリケーター等を用いてガラス板等の基材上にフィルム成形用組成物を塗布したり、カプセル成形ピン等の基材をフィルム成形用組成物に浸漬して引き上げたりした後に、フィルム成形用組成物の溶媒を蒸発させることにより得ることができる。すなわち、フィルムは、フィルム成形用組成物を基材上に塗布する工程と、フィルム成形用組成物の溶媒を除去してフィルムを得る工程と、必要に応じてフィルムを基材から除去する工程とを少なくとも含む製造方法により得ることができる。
また、錠剤等にフィルム成形用組成物を吹き付けながら、溶媒を蒸発させることにより得ることができる。
例えば、水平を保ち、ゲル化剤のゲル化温度以下に温調したガラス板上に、ゲル化剤のゲル化温度以上(好ましくは50℃以上)のフィルム成形用組成物30~50gを気泡が入らないように流し、YBA型ベーカーアプリケーター(ヨシミツ精機社製)を用いてフィルム成形用組成物を流延する。次いで、水平を保ったままゲル化剤のゲル化温度以下で乾燥又は溶媒除去させることにより、フィルムの含水率又は溶媒含量が10質量%以下になるまで乾燥又は溶媒除去させた後、フィルムをガラス板から剥離することによりフィルムを得ることができる。必要に応じて、フィルムの含水率又は溶媒含量をさらに低下させるために、例えば、剥離前にフィルムを送風オーブンなどに入れて追加乾燥又は溶媒除去を行ってもよい。
また、フィルム成形用組成物に5~20℃のカプセル成型ピンを浸漬して引き上げ、ピンに付着した組成物を乾燥又は溶媒除去させてフィルムを成形し、次いでピン上に成形されたフィルムを外し、切断、嵌合することにより、硬カプセルを製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<HPMCの合成>
チップ状のウッドパルプを49質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、過剰な水酸化ナトリウム水溶液を除去して、アルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースを、容積100Lの耐圧反応器に仕込み、反応機内温を60℃から95℃まで昇温しながら、塩化メチル8.00kg、プロピレンオキサイド1.72kgを加えて反応させた。そして、HPMCの反応生成物を反応機から取り出して熱水で洗浄し、乾燥した。その後衝撃粉砕を経て、HPMCを得た。
得られたHPMCに塩酸を噴霧した後、2Lのガラス製反応器に移し入れた。反応器を85℃の水浴中で加熱しながら回転させ、80分間解重合反応を行うことにより、2質量%水溶液の20℃における粘度が3.0mPa・s、メトキシ基の置換度(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が0.25であるHPMC-IA-1を得た。
また、HPMC-IA-1と同様な方法により、各種HPMCを合成した。
合成した各種HPMCの2質量%水溶液の20℃における粘度、メトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)を、表1及び2に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
実施例1
ポリ袋にHPMC-IA-1を20g、HPMC-IA-6を30g、HPMC-IIA-3を50g入れ、よく混合した。300mLのガラス製ビーカーに、混合後のHPMCを50g、κ-カラギーナン(東京化成工業社製)を0.50g、塩化カリウム(KCl)(富士フィルム和光純薬社製)を0.25g、X-50-1105G(シリコーン系消泡剤、信越化学工業社製)を0.25g入れ、最後に90℃の熱水を加えて合計250gとし、溶媒の蒸発を防ぐために覆いをかけてから80℃の湯浴中で10分間、400rpmで撹拌した。HPMCが十分に熱水中に分散したことを確認してから撹拌を止め、80℃で30分静置して脱泡した。その後、ビーカーを60℃の湯浴に移し、30分毎に2℃ずつ湯浴の温度を下げながら200rpmで撹拌して、50℃のフィルム成形用組成物を製造した。
【0038】
<フィルム成形用組成物に用いたHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度測定>
実施例1において、HPMC-IA-1とHPMC-IA-6とHPMC-IIA-3を混合後のHPMC4.0gを、200mLのガラス製ビーカー中で90℃の熱水中に分散させた後、5℃の水浴中で30分撹拌して、フィルム成形用組成物に用いたHPMCの2質量%水溶液を調製した。その後、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて、フィルム成形用組成物に用いたHPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度を測定した。
【0039】
<フィルム成形用組成物に用いたHPMCの分散液粘度の測定>
Anton Paar社のレオメーターであるMCR301を用いて、各フィルム成形用組成物に用いたHPMCの分散液粘度を測定し、分散液粘度の平均値(n=3)を算出した。測定によって得られた分散液粘度の値を表3に示す。
【0040】
<フィルムの作製>
水平を保ち、25℃に温調したガラス板上に、50℃のフィルム成形用組成物約40gを気泡が入らないように流し、YBA型ベーカーアプリケーター(ヨシミツ精機社製)を用いて、フィルム成形用組成物を手動で流延した。次いで、水平を保った25℃の無風環境にガラス板を置き、18時間乾燥させることによりフィルムの含水率を10質量%以下とした。その後、80℃の送風オーブン内で1時間追加乾燥してからフィルムをガラス板から剥離し、膜厚が140±5μmのフィルムを得た。
【0041】
<フィルムの強度の測定>
得られたフィルムを縦8cm×横1cmの短冊状に切断してから、25℃、52RH%の環境下で3日間調湿して、加熱式水分計(A&D社製MX-50)で測定することにより求められる含水率が6.5±0.5質量%であるフィルムの試験片を作製した。
引張試験は、25℃、52RH%に設定した恒温恒湿機(エスペック社製PR-3J、前面扉にφ15cmの操作口2個を備える)中で、卓上小型引張試験機(アイコーエンジニアリング社製MODEL-FTN-1-13A)を用いて実施した。フィルムの滑りを防止する為、平型チャック(アイコーエンジニアリング社製MODEL-023)に軟質塩化ビニルシートを貼付けた治具で試験片の上下2cmずつを固定し、支点間距離4cm、試験速度10mm/min、ロードセル定格500Nの条件で測定を行い、フィルムの強度の平均値(n=10)を算出した。測定によって得られたフィルムの強度を表3に示す。
【0042】
<フィルムの溶解時間の測定>
溶解性の評価には、第十七改正日本薬局方の崩壊試験法に記載されている補助筒を元に、特表2015-522614号公報を参考にして作製した試料ホルダを使用した。試料ホルダは、第一試料ホルダ胴部1、第一クローム鋼球2、試料ホルダ蓋3、シリコーンゴム製パッキン4、第二試料ホルダ胴部6、第二クローム鋼球7から成る。
第一試料ホルダ胴部1は、前記崩壊試験法で用いる補助筒の胴部(内径12mm、外径17mm、長さ20mm)であり、試料ホルダ蓋3は、前記崩壊試験法で用いる補助筒の蓋(内径12mm、外径17mm、長さ4mm)から金網を取り外したものである。また、第二試料ホルダ胴部6は、前記崩壊試験法で用いる補助筒の胴部の側面の穴をシリコーンゴムで完全に塞いだものの下側に、前記崩壊試験法で用いる補助筒の蓋(内径12mm、外径17mm、長さ4mm)の金網をシリコーンゴムで完全に塞いだものを組み合わせたものである。シリコーンゴム製パッキン4は、フィルムの固定及び試験中にフィルムが水に触れる面積を一定に保つ目的で使用し、内径10mm、外径14mm、厚み0.5mmのものを使用した。第一クローム鋼球2は、胃内でHPMCフィルムにかかる応力を再現する目的で使用し、重さ約1.0g、直径約6.35mm(1/4インチ)のものを使用した。第二クローム鋼球7は、試験中に第二試料ホルダが浮き上がるのを防止する目的で使用し、重さ約3.55g、直径約9.53mm(3/8インチ)のものを使用した。
【0043】
フィルムの溶解時間は、以下のように測定した。まず、得られたフィルムを25℃、52RH%の環境下で3日間調湿して、加熱式水分計(A&D社製MX-50)で測定することにより求められる含水率が6.5±0.5質量%になるように調湿した。その後、φ14mmの大きさに打ち抜いたフィルム5を、フィルムの作製時に空気に触れていた面を上にして、第二クローム鋼球7を入れた第二試料ホルダ胴部6とシリコーンゴム製パッキン4の間に挟み、その上から更に試料ホルダ蓋3で挟んで固定した。次に、第一試料ホルダ胴部1と試料ホルダ蓋3を粘着テープで隙間が無いように固定し、第一クローム鋼球2をフィルムに乗せ、試料ホルダを第十七改正日本薬局方の一般試験法の崩壊試験法に記載されている試験器にセットし、低形ビーカーに純水を1150mL入れ、試験器を低形ビーカーに入れ、崩壊試験器(富山産業製NT-400)を使用して、水温37±0.5℃、試験器の振幅55mm、往復速度15往復/分の測定条件にて、フィルムの溶解時間を測定した(n=6)。なお、フィルムの溶解時間は、試験開始から第一クローム鋼球2がフィルムを貫通して第二試料ホルダ胴部6の中に入り、第二クローム鋼球7と接触するまでの時間とした。測定によって得られたフィルムの溶解時間を表3に示す。
なお、胃の中でフィルムが溶解することを考慮すると、崩壊試験法第1液(pH約1.2)を用いて試験を行うことが適切ではあるが、純水中と崩壊試験法第1液中においてHPMCフィルムの溶解性はほぼ同等であるため、純水を使用して評価した。
【0044】
実施例2~12並びに比較例1~7
表3~4に示す処方に変更する以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム成形用組成物を製造し、実施例1と同様に、フィルム成形用組成物の各種物性を評価した。また、実施例1と同様にフィルムを作成し、フィルムの強度及び溶解時間を測定した。結果を表3~4に示す。
なお、実施例2、12、及び比較例2、7においては、ゲル化剤としてジェランガム(KELCOGEL AFT、三晶株式会社製)、ゲル化補助剤として乳酸カルシウムn水和物(関東化学社製)を使用した。また、実施例11、12、及び比較例6、7においては、消泡剤を用いなかった。
【0045】
【0046】
【0047】
フィルムの溶解性は、一般的に、HPMCの粘度が低いほど、また同程度の粘度を有する場合には、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度(MS)が高いほど溶解性に優れるため、フィルム成形用組成物に用いたHPMCの粘度及び置換度が殆ど同じである実施例及び比較例を比較し、考察した。また、ゲル化剤の種類や消泡剤の有無の影響を排除するため、ゲル化剤の種類や消泡剤の有無が同じである実施例及び比較例を比較し、考察した。
実施例1、3、4は、いずれも55.7N/mm2以上のフィルムの強度を示し、比較例1に比べて溶解時間が1.1~2.3分短縮され、更に分散液粘度が、650~1950mPa・s低下した。実施例2は、58.9N/mm2のフィルムの強度を示し、比較例2に比べて溶解時間が1.2分短縮され、更に分散液粘度が、650mPa・s低下した。実施例5、6は、53.2N/mm2以上のフィルムの強度を示し、比較例3に比べて溶解時間が1.3~2.0分短縮され、更に分散液粘度が、150~200mPa・s低下した。実施例7、8は、56.6N/mm2以上のフィルムの強度を示し、比較例4に比べて溶解時間が1.1~2.3分短縮され、更に分散液粘度が、450~1300mPa・s低下した。実施例9、10は、52.1N/mm2以上のフィルムの強度を示し、比較例5に比べて溶解時間が1.2~1.3分短縮され、更に分散液粘度が、350~400mPa・s低下した。実施例11は、55.4N/mm2のフィルムの強度を示し、比較例6に比べて溶解時間が0.9分短縮され、更に分散液粘度が、650mPa・s低下した。実施例12は、60.8N/mm2のフィルムの強度を示し、比較例7に比べて溶解時間が2.1分短縮され、更に分散液粘度が、650mPa・s低下した。
以上のようにして、粘度差を有する同じ群の、置換度が同じでも異なってもよい同一メンバーである第一と第二のHPMCの組み合わせに、これらと異なる群の第三のHPMCを組み合わせることにより、強度を維持したまま溶解性に優れるフィルムを成形でき、更にはフィルム成形用組成物の分散液粘度を低減できることが知見された。
【符号の説明】
【0048】
1 第一試料ホルダ胴部
2 第一クローム鋼球
3 試料ホルダ蓋
4 シリコーンゴム製パッキン
5 φ14mmの大きさに打ち抜いたフィルム
6 第二試料ホルダ胴部
7 第二クローム鋼球