(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】鋼製箱桁の設計方法および鋼製箱桁
(51)【国際特許分類】
E01D 2/04 20060101AFI20231106BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
E01D2/04
E01D1/00 E
(21)【出願番号】P 2020133201
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 :令和元年度土木学会全国大会第74回年次学術講演会 開催場所 :香川大学幸町キャンパス(香川県高松市幸町1番1号) 発表日:2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆司
(72)【発明者】
【氏名】足立 淳一
(72)【発明者】
【氏名】舟山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】新井 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】高尾 道明
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-195309(JP,U)
【文献】特開2006-132308(JP,A)
【文献】特開2019-194428(JP,A)
【文献】特開2018-172927(JP,A)
【文献】特開2011-080211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側フランジおよび下側フランジと、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向する第1の腹板および第2の腹板で構成された閉断面の箱型構造を有する鋼製箱桁を設計する方法であって、
前記鋼製箱桁が橋梁の上部工として架設された状態において、該鋼製箱桁に、前死荷重である鋼重に荷重倍率αを乗じた荷重を、前記荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、前記第1の腹板および前記第2の腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、前記上側フランジ及び前記下側フランジの部位のうち、圧縮力が生じている部位である圧縮フランジに全体座屈が生じて前記鋼製箱桁が終局状態に達することをFEM解析で確認する工程を有することを特徴とする鋼製箱桁の設計方法。
【請求項2】
前記第1の腹板および前記第2の腹板のうちの少なくとも一方の厚さが、道路橋示方書の規定に従って算出される最小腹板厚よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の鋼製箱桁の設計方法。
【請求項3】
前記鋼製箱桁が、曲線箱桁橋の上部工の少なくとも一部として用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼製箱桁の設計方法。
【請求項4】
上側フランジおよび下側フランジと、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向する第1の腹板および第2の腹板で構成された閉断面の箱型構造を有する鋼製箱桁であって、
前記鋼製箱桁が橋梁の上部工として架設された状態において、該鋼製箱桁にFEM解析を行って、該鋼製箱桁に、前死荷重である鋼重に荷重倍率αを乗じた荷重を、前記荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、前記第1の腹板および前記第2の腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、前記上側フランジ及び前記下側フランジの部位のうち、圧縮力が生じている部位である圧縮フランジに全体座屈が生じて終局状態に達していることを確認できたものであって、かつ、前記第1の腹板および前記第2の腹板には水平補剛材が取り付けられていないことを特徴とする鋼製箱桁。
【請求項5】
前記第1の腹板および前記第2の腹板のうちの少なくとも一方の厚さが、道路橋示方書の規定に従って算出される最小腹板厚よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の鋼製箱桁。
【請求項6】
曲線箱桁橋の上部工の少なくとも一部として用いられることを特徴とする請求項4または5に記載の鋼製箱桁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼製箱桁の設計方法および鋼製箱桁に関し、詳細には、腹板に水平補剛材を取り付けない鋼製箱桁の設計方法および鋼製箱桁に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製箱桁の腹板の水平補剛材を省略することで部材数を減らすことができ、コストダウンにつながるが、腹板に水平補剛材を取り付けないとき(水平補剛材の段数が0段のとき)には、道路橋示方書(II鋼橋・鋼部材編)・同解説(以下、「道路橋示方書」または「道示」と記すことがある。)に従って算出される最小腹板厚が厚くなるため、通常の場合、この点で不経済な設計につながることが多く、腹板に水平補剛材を取り付けた鋼製箱桁が採用されることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】道路橋示方書(II鋼橋・鋼部材編)・同解説、平成29年11月、公益社団法人 日本道路協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、腹板厚を道路橋示方書の規定ほどには大きくせずに、腹板への水平補剛材の省略を可能とした鋼製箱桁の設計方法および鋼製箱桁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の鋼製箱桁の設計方法および鋼製箱桁により、前記課題を解決したものである。
【0006】
即ち、本発明に係る鋼製箱桁の設計方法は、上側フランジおよび下側フランジと、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向する第1の腹板および第2の腹板で構成された閉断面の箱型構造を有する鋼製箱桁を設計する方法であって、前記鋼製箱桁が橋梁の上部工として架設された状態において、該鋼製箱桁に、前死荷重である鋼重に荷重倍率αを乗じた荷重を、前記荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、前記第1の腹板および前記第2の腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、前記上側フランジ及び前記下側フランジの部位のうち、圧縮力が生じている部位である圧縮フランジに全体座屈が生じて前記鋼製箱桁が終局状態に達することをFEM解析で確認する工程を有することを特徴とする鋼製箱桁の設計方法である。
【0007】
ここで、本願において、鋼製箱桁および該鋼製箱桁を構成する部材に関して上下等や橋軸方向等の方向を観念する記載については、当該鋼製箱桁が実際に橋梁の上部工として架設された状態を基準として、上下等や橋軸方向等の方向を判断するものとする。
【0008】
また、本願において、全体座屈とは、鋼製箱桁を終局状態に至らしめる座屈のことである。
【0009】
前記第1の腹板および前記第2の腹板のうちの少なくとも一方の厚さが、道路橋示方書の規定に従って算出される最小腹板厚よりも小さくなるように構成してもよい。
【0010】
ここで、「道路橋示方書の規定に従って算出される最小腹板厚」とは、道路橋示方書(II鋼橋・鋼部材編)・同解説(平成29年11月発行)の351頁に記載された「表-13.4.1 鋼桁の最小腹板厚(mm)」の規定に従って、腹板ごとに算出される値のことである。本願の他の箇所の記載においても同様である。
【0011】
前記鋼製箱桁は、曲線箱桁橋の上部工の少なくとも一部として用いられるように構成してもよい。
【0012】
ここで、曲線箱桁橋とは、上方から見た時、上部工が所定の曲率半径で曲線状に延びている箱桁橋のことである。本願の他の箇所の記載においても同様である。
【0013】
本発明に係る鋼製箱桁は、上側フランジおよび下側フランジと、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向する第1の腹板および第2の腹板で構成された閉断面の箱型構造を有する鋼製箱桁であって、前記鋼製箱桁が橋梁の上部工として架設された状態において、該鋼製箱桁にFEM解析を行って、該鋼製箱桁に、前死荷重である鋼重に荷重倍率αを乗じた荷重を、前記荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、前記第1の腹板および前記第2の腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、前記上側フランジ及び前記下側フランジの部位のうち、圧縮力が生じている部位である圧縮フランジに全体座屈が生じて終局状態に達していることを確認できたものであって、かつ、前記第1の腹板および前記第2の腹板には水平補剛材が取り付けられていないことを特徴とする鋼製箱桁である。
【0014】
前記第1の腹板および前記第2の腹板のうちの少なくとも一方の厚さが、道路橋示方書の規定に従って算出される最小腹板厚よりも小さくなるように構成してもよい。
【0015】
前記鋼製箱桁は、曲線箱桁橋の上部工の少なくとも一部として用いられるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、腹板厚を道路橋示方書の規定ほどには大きくせずに、腹板への水平補剛材の省略を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る鋼製箱桁10を示す斜視図
【
図2】
図1のII-II線断面図(橋軸方向と直交する鉛直面で切断した鉛直断面図)
【
図3】本発明の第1実施形態においてFEM解析の対象とした橋梁の平面図
【
図4】
図3のA-A線断面図(橋軸方向と直交する鉛直面で切断した鉛直断面図)
【
図5】道路橋示方書に基づいて設計された解析モデル(道示モデル32)を示す斜視図
【
図6】道示モデル32から中間支点部領域の水平補剛材34Aを省略した解析モデル(HS省略モデル36)を示す斜視図
【
図7】HS省略モデル36で省略する中間支点部領域の水平補剛材34Aを明示する道示モデル32の斜視図
【
図8】道示モデル32において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(R40、R300における中間支点部領域で水平補剛材34よりも下方に位置する内側腹板16A、外側腹板18A)を明示する斜視図
【
図9】HS省略モデル36において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(R40、R300における中間支点部領域の内側腹板16B、外側腹板18B)を明示する斜視図
【
図10】本発明の第2実施形態に係る鋼製箱桁50の支間中央部の鉛直断面図(橋軸方向と直交する鉛直面で切断した支間中央部の鉛直断面図)
【
図11】本発明の第2実施形態においてFEM解析の対象とした橋梁の平面図
【
図12】FEM解析の対象とした橋梁の支間中央部の鉛直断面図
【
図13】対象部位70についての具体的な解析モデル(道示モデル72)を示す斜視図
【
図14】道示モデル72において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(支間中央部領域で水平補剛材74よりも上方に位置する外側腹板58A)、および、HS省略モデルにおいて、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(支間中央部領域の外側腹板58B)を明示する斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
(1)第1実施形態
(1-1)構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る鋼製箱桁10を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-II線断面図(橋軸方向と直交する鉛直面で切断した鉛直断面図)である。
図1では、鋼製箱桁10の内部の構造をわかりやすく示すために、上側フランジ14および手前側の内側腹板16の大部分の記載を省略している。
【0020】
本第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、下側フランジ12と、下側縦リブ12Aと、上側フランジ14と、上側縦リブ14Aと、内側腹板16と、外側腹板18と、垂直補剛材20と、ダイアフラム22と、支点上補剛材22Aと、横リブ24とを有してなり、内側腹板16および外側腹板18のどちらにも水平補剛材は取り付けられていない。鋼製箱桁10は曲率半径40mの橋梁上部工の一部を形成しており、その曲率半径の円弧の内側の腹板が内側腹板16であり、外側の腹板が外側腹板18である。また、本実施形態に係る鋼製箱桁10の各部材の鋼種は全てSM490Yである。
【0021】
内側腹板16および外側腹板18は、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向しており、内側腹板16および外側腹板18の下端は下側フランジ12の上面に溶接され、内側腹板16および外側腹板18の上端は上側フランジ14の下面に溶接されていて、閉断面の箱型構造が形成されている。
【0022】
図1に示す鋼製箱桁10は、ピン支点上のソールプレート80上の領域およびその近傍の領域である中間支点部領域に配置されており、下側フランジ12には前死荷重である鋼重によって圧縮力が生じており、下側フランジ12は圧縮フランジになっている。上側フランジ14には前死荷重である鋼重によって引張力が生じており、上側フランジ14は引張フランジになっている。なお、本願において、中間支点部領域とは、連続桁橋の中間支点部およびその近傍の領域のことを意味するものとする。本第1実施形態では、中間支点部は、ピン支点上のソールプレート80上の領域である。
【0023】
下側フランジ12の上面には、複数の下側縦リブ12Aが、長手方向が橋軸方向となるように橋軸直角方向に所定の間隔で配置されて溶接で取り付けられていて、下側フランジ12を補剛している。
【0024】
上側フランジ14の下面には、複数の上側縦リブ14Aが、長手方向が橋軸方向となるように橋軸直角方向に所定の間隔で配置されて溶接で取り付けられていて、上側フランジ14を補剛している。
【0025】
圧縮フランジである下側フランジ12を補剛する下側縦リブ12A同士の間の間隔は、引張フランジである上側フランジ14を補剛する上側縦リブ14A同士の間の間隔よりも狭くなっており、下側縦リブ12Aの数は上側縦リブ14Aの数よりも多くなっている。
【0026】
内側腹板16および外側腹板18のどちらにも水平補剛材は取り付けられていない。内側腹板16の厚さは道路橋示方書の規定に従って上下両フランジの純間隔および鋼種から算出される最小腹板厚(以下、「道示規定による最小腹板厚」と記すことがある。)よりも大きくなっているが、外側腹板18の厚さは道示規定による最小腹板厚よりも小さくなっている。内側腹板16および外側腹板18の各寸法を具体的に挙げれば、例えば、内側腹板16における上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔が1.8mで、内側腹板16の厚さは16mmであり、外側腹板18における上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔が2.1mで、外側腹板18の厚さは16mmである。水平補剛材を設けないときの道示規定による最小腹板厚は、上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔が1.8mのときに14.5mmであるので、厚さ16mmの内側腹板16(上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔を1.8mとする。)は道路橋示方書の最小腹板厚の規定を満たしている。一方、上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔が2.1mのときに、水平補剛材を設けないときの道示規定による最小腹板厚は16.9mmであるので、厚さ16mmの外側腹板18(上側フランジ14と下側フランジ12との純間隔を2.1mとする。)は道路橋示方書の最小腹板厚の規定を満たしていない。
【0027】
なお、中間支点部領域では曲げモーメントに加えてせん断力が卓越することが多く、通常、中間支点部領域の腹板厚はせん断力に応じて決定されて道路橋示方書の最小腹板厚の規定に依らず厚めになることが多いため、水平補剛材を省略しても、腹板の曲げ座屈耐荷力の低下量(低下割合)はせん断力および腹板厚が小さい支間中央部領域と比べて小さくなることが多い。
【0028】
内側腹板16および外側腹板18の内面(鋼製箱桁10の内空部に面する面)には、橋軸方向に所定の間隔で、垂直補剛材20が鉛直方向に溶接で取り付けられており、内側腹板16および外側腹板18が補剛されている。
【0029】
また、鋼製箱桁10の内空間には、該内空間を横断するように鉛直方向にダイアフラム22が設けられていて、ダイアフラム22は橋軸方向に所定の間隔で配置されている。ダイアフラム22の四辺は下側フランジ12、上側フランジ14、内側腹板16および外側腹板18の内面(鋼製箱桁10の内空部に面する面)に溶接されていて、鋼製箱桁10の全体が補剛されている。
【0030】
ダイアフラム22のうち、ソールプレート80上に位置するダイアフラム22には、支点上補剛材22Aが鉛直方向に溶接で取り付けられており、当該ダイアフラム22自体が補剛されている。
【0031】
横リブ24は、下側フランジ12の上面および上側フランジ14の下面に、橋軸方向に所定の間隔で、橋軸直角方向に取り付けられており、下側フランジ12および上側フランジ14を補剛している。
【0032】
以上、本発明の第1実施形態に係る鋼製箱桁10の各部材について説明したが、本第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、内側腹板16および外側腹板18のどちらにも水平補剛材は取り付けられておらず、かつ、外側腹板18の厚さが道示規定による最小腹板厚よりも小さくなっている点が通常の鋼製箱桁とは異なっている。また、本第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、橋梁の上部工として架設された状態において、前死荷重(鋼重)に荷重倍率αを乗じた荷重を、荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、「腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、圧縮フランジに全体座屈が生じて終局状態に達すること」(以下、腹板座屈先行型と記すことがある。)をFEM解析により確認している。
【0033】
本発明の第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、橋梁の上部工として架設された状態において、前死荷重(鋼重)に荷重倍率αを乗じた荷重を、荷重倍率αを増大させつつ加えていったときの座屈プロセスが腹板座屈先行型であり、下側フランジ12の全体座屈で終局状態に至るので、下側フランジ12の厚さ等や、下側フランジ12を補剛する下側縦リブ12Aの寸法および数等の条件が、鋼製箱桁10の終局耐荷力に大きく影響を与える。このため、腹板から水平補剛材を省略した状態であっても、道路橋示方書に従って算出した当該腹板の曲げ座屈耐荷力の低下量ほどには、鋼製箱桁10全体としての座屈耐荷力は低下しない(この点については、後述するFEM解析で確認している。)。
【0034】
このため、本発明の第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、腹板に水平補剛材を設けていないが、腹板厚を道路橋示方書の最小腹板厚の規定ほどに大きくしなくても安全性が確保できるようになっている。
【0035】
(1-2)FEM解析の前提条件および結果
本第1実施形態に係る鋼製箱桁10の作用効果を証明するFEM解析の前提条件および結果について説明する。以下、道路橋示方書に基づいて設計された解析モデルを道示モデルと記すことがあり、腹板に取り付ける水平補剛材のうち、所定の領域の水平補剛材を省略した解析モデルをHS省略モデルと記すことがある(第2実施形態におけるFEM解析の説明でも同様に記載する。)。
【0036】
図3はFEM解析の対象とした橋梁の平面図であり、
図4は
図3のA-A線断面図である。対象橋梁は支間長35m、45m、35m、幅員7.64m、曲率半径R=40m(以下、R40と記すことがある。)の鋼3径間連続合成箱桁橋100である。具体的にFEM解析を行った鋼製箱桁の部位は、
図3におけるJ4~J5継手間の対象部位30である。
図4では、第1実施形態に係る鋼製箱桁10の対応する部材と同一の符号を便宜的に付している。また、
図4では、腹板16、18に水平補剛材34(幅150mm×厚さ12mm)が取り付けられている状態(後述する道示モデル32)を記しているが、後述するHS省略モデル36では、中間支点部領域において腹板16、18に水平補剛材34が取り付けられていない。
【0037】
FEM解析の対象部位30は、橋脚P1上の中間支点部領域に位置しており、負曲げおよびせん断が卓越する領域に位置している。
【0038】
対象部位30についての具体的な解析モデルを
図5および
図6に示す。
図5に示す解析モデルは、道路橋示方書に基づいて設計された解析モデル(本明細書において、道示モデル32と記すことがある。)で、腹板に取り付ける水平補剛材34(幅150mm×厚さ12mm)を省略していない解析モデルであり、
図6に示す解析モデルは、
図5の道示モデル32から中間支点部領域の水平補剛材34A(幅150mm×厚さ12mm)を省略した解析モデル(本明細書において、HS省略モデル36と記すことがある。)である。
図7は、
図6に示す解析モデル(HS省略モデル36)で省略する中間支点部領域の水平補剛材34Aを明示する道示モデル32の斜視図である。
【0039】
図5に示す道示モデル32および
図6に示すHS省略モデル36の各部材においては、第1実施形態に係る鋼製箱桁10の対応する部材と同一の符号を便宜的に付している。主桁、ダイアフラム、補剛材はシェル要素で、ソールプレートは、ソリッド要素でモデル化している。使用鋼材はSM490Y (ヤング係数E=2.0×10
5N/mm
2、ポアソン比ν=0.3)とした。構成則は完全弾塑性とし、幾何学的非線形を考慮した。
【0040】
FEM解析では、前死荷重(鋼重)を腹板上端に等分布荷重として加えたときに生じる断面力(以下、前死荷重による断面力と記すことがある。)を解析モデル両端部の図心位置(道示モデル32では図心位置32X、32Y、HS省略モデル36では図心位置36X、36Y)に付与した。前死荷重および前死荷重による断面力は、弧長法で増加させ、その増加割合は荷重倍率αを用いて表した。すなわち、前死荷重および前死荷重による断面力をDとすると、作用させる荷重は、αDで表される。また、ソールプレート80下端にピン支持となるように境界条件を与えた。
【0041】
また、曲率半径R=40mのケースから、曲率半径のみをR=300m(以下、R300と記すことがある。)に変更したケースについても同様にFEM解析を行った。
【0042】
表1に解析ケースをまとめて示す。R40、R300において、それぞれ道示モデル32とHS省略モデル36を用い、解析ケースは全部で4ケース(解析ケース1~4)とした。
【0043】
【0044】
表1では、各パネルについて(曲げ座屈時垂直応力度σu)/(降伏点σy)の値を示すとともに、各解析ケースが、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしているかどうかも示しており、満たしている場合を〇、満たしていない場合を×で示している。
【0045】
表1に示すように、道路橋示方書の規定に従って算出した腹板の曲げ座屈耐荷力は、水平補剛材を省略することにより最大28%低下する(解析ケース4の外側腹板)。
【0046】
図8は、道示モデル32において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(R40、R300における中間支点部領域で水平補剛材34よりも下方に位置する内側腹板16A、外側腹板18A)を明示する斜視図であり、
図9は、HS省略モデル36において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(R40、R300における中間支点部領域の内側腹板16B、外側腹板18B)を明示する斜視図である。
【0047】
表2に解析ケース1~4についてのFEM解析の結果を示す。生じた各座屈について、座屈モードおよびその座屈が生じたときの荷重倍率αを記載している。
【0048】
【0049】
表2からわかるように、解析ケース1~4はいずれも座屈プロセスが腹板座屈先行型である。そして、対象橋梁の曲率半径がR40の場合においては、全体座屈時の荷重倍率αは、道示モデルで4.14(解析ケース1)、HS省略モデルで4.11(解析ケース2)であり、水平補剛材を省略しても鋼製箱桁の終局耐荷力は約1%しか低下しておらず、また、対象橋梁の曲率半径がR300の場合においては、全体座屈時の荷重倍率αは、道示モデルで4.07(解析ケース3)、HS省略モデルで3.94(解析ケース4)であり、水平補剛材を省略しても鋼製箱桁の終局耐荷力は約3%しか低下していない。
【0050】
一方、表1に示すように、道路橋示方書の規定により算出した各腹板の曲げ座屈耐荷力は、水平補剛材を省略したHS省略モデルでR40の場合(解析ケース2)、外側腹板の曲げ座屈耐荷力が約9%低下しており、HS省略モデルでR300の場合(解析ケース4)、内側腹板の曲げ座屈耐荷力が約24%低下し、外側腹板の曲げ座屈耐荷力が約28%低下している。また、対象橋梁の曲率半径がR40、R300のいずれの場合においても、HS省略モデル(解析ケース2、4)は、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしていない。
【0051】
したがって、座屈プロセスが腹板座屈先行型となるように鋼製箱桁を設計することにより、腹板厚を道路橋示方書の規定(曲げ座屈耐荷力に基づく腹板厚についての規定)ほどに大きくしなくても、また、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしていなくても、鋼製箱桁の腹板から水平補剛材を省略することが可能であることを確認することができた。
【0052】
(2)第2実施形態
(2-1)構成
図10は、本発明の第2実施形態に係る鋼製箱桁50の支間中央部の鉛直断面図(橋軸方向と直交する鉛直面で切断した支間中央部の鉛直断面図)である。
【0053】
第1実施形態に係る鋼製箱桁10は、ピン支点である中間支点上のソールプレート80上の領域およびその近傍の領域である中間支点部領域に配置されており、下側フランジ12には前死荷重である鋼重によって圧縮力が生じており、下側フランジ12は圧縮フランジになっており、上側フランジ14には前死荷重である鋼重によって引張力が生じており、上側フランジ14は引張フランジになっていたが、本第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、支間中央部およびその近傍の領域である支間中央部領域(本願において、単に「支間中央部領域」と記すことがある。)に配置されており、下側フランジ52には前死荷重である鋼重によって引張力が生じており、下側フランジ52が引張フランジになっており、上側フランジ54には前死荷重である鋼重によって圧縮力が生じており、上側フランジ54が圧縮フランジになっている。
【0054】
このことに起因して、本第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、部材の厚さ等の寸法が第1実施形態に係る鋼製箱桁10と異なっている部位があり、また、圧縮フランジである上側フランジ54を補剛する上側縦リブ54A同士の間の間隔は、引張フランジである下側フランジ52を補剛する下側縦リブ52A同士の間の間隔よりも狭くなっており、上側縦リブ54Aの数は下側縦リブ52Aの数よりも多くなっている。これらの点以外は、鋼製箱桁50は、第1実施形態に係る鋼製箱桁10の構成とほぼ同様であるので、本第2実施形態に係る鋼製箱桁50の各部材についての説明のうち、対応する第1実施形態に係る鋼製箱桁10の各部材の説明を参照することで不要となる説明については適宜に省略する。
【0055】
本第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、下側フランジ52と、下側縦リブ52Aと、上側フランジ54と、上側縦リブ54Aと、内側腹板56と、外側腹板58と、垂直補剛材60(
図13参照)と、ダイアフラム62と、横リブ64(
図13参照)とを有してなり、内側腹板56および外側腹板58のどちらにも水平補剛材は取り付けられていない。鋼製箱桁50は曲率半径40mの橋梁上部工の一部を形成しており、その曲率半径の円弧の内側の腹板が内側腹板56であり、外側の腹板が外側腹板58である。また、本実施形態に係る鋼製箱桁50の各部材の鋼種は全てSM490Yである。
【0056】
内側腹板56および外側腹板58は、橋軸方向に沿って配置されていて橋軸直角方向に対向しており、内側腹板56および外側腹板58の下端は下側フランジ52の上面に溶接され、内側腹板56および外側腹板58の上端は上側フランジ54の下面に溶接されていて、閉断面の箱型構造が形成されている。
【0057】
内側腹板56および外側腹板58のどちらにも水平補剛材は取り付けられていない。内側腹板56および外側腹板58の厚さは、どちらも道示規定による最小腹板厚よりも小さくなっている。内側腹板56および外側腹板58の各寸法を具体的に挙げれば、例えば、内側腹板56における上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔が1.8mで、内側腹板56の厚さは12mmであり、外側腹板58における上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔が2.1mで、外側腹板58の厚さは12mmである。水平補剛材を設けないときの道示規定による最小腹板厚は、上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔が1.8mのときに14.5mmであるので、厚さ12mmの内側腹板56(上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔を1.8mとする。)は道路橋示方書の最小腹板厚の規定を満たしておらず、また、上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔が2.1mのときに、水平補剛材を設けないときの道示規定による最小腹板厚は16.9mmであるので、厚さ12mmの外側腹板58(上側フランジ54と下側フランジ52との純間隔を2.1mとする。)も道路橋示方書の最小腹板厚の規定を満たしていない。
【0058】
内側腹板56および外側腹板58の内面(鋼製箱桁50の内空部に面する面)には、第1実施形態に係る鋼製箱桁10と同様に、橋軸方向に所定の間隔で、垂直補剛材60(
図13参照)が鉛直方向に溶接で取り付けられており、内側腹板56および外側腹板58が補剛されている。
【0059】
また、鋼製箱桁50の内空間には、該内空間を横断するように鉛直方向にダイアフラム62が設けられていて、ダイアフラム62は橋軸方向に所定の間隔で配置されている。ダイアフラム62の四辺は下側フランジ52、上側フランジ54、内側腹板56および外側腹板58の内面(鋼製箱桁50の内空部に面する面)に溶接されていて、鋼製箱桁50の全体が補剛されている。
【0060】
また、第1実施形態に係る鋼製箱桁10と同様に、下側フランジ52の上面および上側フランジ54の下面に、橋軸方向に所定の間隔で、横リブ64(
図13参照)が橋軸直角方向に取り付けられており、下側フランジ52および上側フランジ54を補剛している。
【0061】
以上、本発明の第2実施形態に係る鋼製箱桁50の各部材について説明したが、本第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、内側腹板56および外側腹板58のどちらにも水平補剛材は取り付けられておらず、かつ、内側腹板56および外側腹板58のどちらの厚さも道示規定による最小腹板厚よりも小さくなっている点が通常の鋼製箱桁とは異なっている。また、本第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、橋梁の上部工として架設された状態において、前死荷重(鋼重)に荷重倍率αを乗じた荷重を、荷重倍率αを増大させつつ加えていったとき、「腹板に曲げ座屈またはせん断座屈が生じた後、圧縮フランジに全体座屈が生じて終局状態に達すること」(即ち、腹板座屈先行型であること。)をFEM解析により確認している。
【0062】
本発明の第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、橋梁の上部工として架設された状態において、前死荷重(鋼重)に荷重倍率αを乗じた荷重を、荷重倍率αを増大させつつ加えていったときの座屈プロセスが腹板座屈先行型であり、上側フランジ54の全体座屈で終局状態に至るので、上側フランジ54の厚さ等や、上側フランジ54を補剛する上側縦リブ54Aの寸法および数等の条件が、鋼製箱桁50の終局耐荷力に大きく影響を与える。このため、腹板から水平補剛材を省略した状態であっても、道路橋示方書に従って算出した当該腹板の曲げ座屈耐荷力の低下量ほどには、鋼製箱桁50全体としての座屈耐荷力は低下しない(この点については、後述するFEM解析で確認している。)。
【0063】
このため、本発明の第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、第1実施形態に係る鋼製箱桁10と同様、腹板に水平補剛材を設けていないが、腹板厚を道路橋示方書の最小腹板厚の規定ほどに大きくしなくても安全性が確保できるようになっている。
【0064】
(2-2)FEM解析の前提条件および結果
本第2実施形態に係る鋼製箱桁50の作用効果を証明するFEM解析の前提条件および結果について説明する。
【0065】
図11はFEM解析の対象とした橋梁の平面図であり、
図12はFEM解析の対象とした橋梁の支間中央部の鉛直断面図である。対象橋梁は支間長35m、45m、35m、幅員7.64m、曲率半径R=40m(以下、R40と記すことがある。)の鋼3径間連続合成箱桁橋100であり、第1実施形態におけるFEM解析の対象橋梁と同じである。本第2実施形態において、具体的にFEM解析を行った鋼製箱桁の部位は、
図11におけるJ1~J5継手間の対象部位70である。J1~J5継手間は、正曲げ領域および負曲げ領域を含む領域である。
図12では、第2実施形態に係る鋼製箱桁50の対応する部材と同一の符号を便宜的に付している。また、
図12では、腹板56、58に水平補剛材74(幅120mm×厚さ20mm)が取り付けられている状態(道示モデル72)を記しているが、HS省略モデル(図示略)では、支間中央部領域において腹板56、58に水平補剛材74が取り付けられていない。
【0066】
対象部位70についての具体的な解析モデルを
図13に示す。
図13に示す解析モデルは、道路橋示方書に基づいて設計された解析モデル(道示モデル72)で、腹板に取り付ける水平補剛材74(幅120mm×厚さ20mm)を省略していない解析モデルである。
図13では、腹板56、58に水平補剛材74(幅120mm×厚さ20mm)が取り付けられている状態(道示モデル72)を記しているが、HS省略モデル(図示略)では、支間中央部領域において腹板56、58に水平補剛材74が取り付けられていない。
【0067】
図13に示す道示モデル72の各部材においては、第2実施形態に係る鋼製箱桁50の対応する部材と同一の符号を便宜的に付している。主桁、ダイアフラム、補剛材はシェル要素で、ソールプレートは、ソリッド要素でモデル化している。使用鋼材はSM490Y (ヤング係数E=2.0×10
5N/mm
2、ポアソン比ν=0.3)とした。構成則は完全弾塑性とし、幾何学的非線形を考慮した。
【0068】
FEM解析では、前死荷重(鋼重)を腹板上端に等分布荷重として加えたときに生じる断面力(以下、前死荷重による断面力と記すことがある。)を解析モデル両端部の図心位置(道示モデル72では図心位置72X、72Y)に付与した。HS省略モデルは図示していないが、道示モデル72の両端部の図心位置72X、72Yと同様の位置に前死荷重による断面力を付与した。前死荷重および前死荷重による断面力は、弧長法で増加させ、その増加割合は荷重倍率αを用いて表した。すなわち、前死荷重および前死荷重による断面力をDとすると、作用させる荷重は、αDで表される。また、ソールプレート下端にピン支持となるように境界条件を与えた。
【0069】
表3に解析ケースをまとめて示す。水平補剛材を省略していない道示モデル72と、支間中央部領域の水平補剛材を省略したHS省略モデルを用い、解析ケースは全部で2ケース(解析ケース5、6)とした。
【0070】
【0071】
表3では、外側腹板について(曲げ座屈時垂直応力度σu)/(降伏点σy)の値を示すとともに、各解析ケースが、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしているかどうかも示しており、満たしている場合を〇、満たしていない場合を×で示している。
【0072】
表3に示すように、道路橋示方書の規定に従って算出した腹板の曲げ座屈耐荷力は、水平補剛材を省略することにより56%低下する(解析ケース6の外側腹板)。
【0073】
図14は、道示モデル72において、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(支間中央部領域で水平補剛材74よりも上方に位置する外側腹板58A)、および、HS省略モデルにおいて、道路橋示方書の規定に従って曲げ座屈時垂直応力度σuを算出したパネル(支間中央部領域の外側腹板58B)を明示する斜視図である。
【0074】
解析ケース5、6についてのFEM解析の結果を説明する。
【0075】
水平補剛材を省略していない道示モデル72を用いた解析ケース5では、終局状態に至るまで腹板は曲げ座屈せず、上側フランジの全体座屈により終局状態に達した。一方、HS省略モデルでは、内側腹板および外側腹板が曲げ座屈した後、上側フランジの全体座屈により終局状態に達した。水平補剛材の省略により、内側腹板および外側腹板に曲げ座屈が生じ、終局耐荷力は8.9%低下した。
【0076】
しかしながら、8.9%という終局耐荷力の低下量は、道路橋示方書の規定に従って算出した腹板の曲げ座屈耐荷力が水平補剛材を省略することにより56%低下すること(解析ケース6の外側腹板)と比べると、かなり少ない低下量である。
【0077】
また、表3に示すように、HS省略モデル(解析ケース6)は、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしていない。
【0078】
したがって、座屈プロセスが腹板座屈先行型となるように鋼製箱桁を設計することにより、腹板厚を道路橋示方書の規定(曲げ座屈耐荷力に基づく腹板厚についての規定)ほどに大きくしなくても、また、道路橋示方書で規定される鋼桁の最小腹板厚の規定を満たしていなくても、鋼製箱桁の腹板から水平補剛材を省略することが可能であることを確認することができた。
【0079】
なお、水平補剛材を省略することによる終局耐荷力の低下量が、水平補剛材を省略することによる腹板の曲げ座屈耐荷力の低下量よりも小さくなる理由としては、前述したように、鋼製箱桁50が橋梁の上部工として架設された状態において、前死荷重(鋼重)に荷重倍率αを乗じた荷重を、荷重倍率αを増大させつつ鋼製箱桁50に加えていったときの座屈プロセスが腹板座屈先行型であり、上側フランジ54の全体座屈で終局状態に至るので、上側フランジ54の厚さ等や、上側フランジ54を補剛する上側縦リブ54Aの寸法および数等の条件が、鋼製箱桁50の終局耐荷力に大きく影響を与えることが理由であると考えられるが、次のようなことも理由として考えられる。即ち、道路橋示方書では、腹板はパネルとして独立して設計されているが、鋼製箱桁には、腹板に面外変位が生じるとそれに連成してフランジにも面外変位が生じようとする構造システム挙動が生じるため、腹板の曲げ座屈が抑制されるということも理由と考えられる。換言すれば、鋼製箱桁は、腹板に面外変位が生じるとそれに連成してフランジにも面外変位が生じようとし、腹板の橋軸方向回りの回転をフランジが抑制するため、水平補剛材を省略し腹板の曲げ座屈耐荷力が低下したとしても、腹板座屈後も箱断面の形状が保持され、終局耐荷力の低下量が小さくなると考えられる。
【0080】
(3)補足
第1実施形態に係る鋼製箱桁10および第2実施形態に係る鋼製箱桁50は、曲率半径40mの橋梁上部工の一部を形成している鋼製曲線箱桁であるものとして説明したが、本発明に係る鋼製箱桁が曲率半径40mの鋼製曲線箱桁に限定されるわけではなく、本発明に係る鋼製箱桁は、それ以外の曲率半径でもよく、また、直線型の鋼製箱桁であってもよい。
【0081】
また、第1実施形態に係る鋼製箱桁10および第2実施形態に係る鋼製箱桁50を構成する各部材の鋼種はSM490Yであるものとして説明したが、本発明に係る鋼製箱桁の各部材の鋼種がSM490Yに限定されるわけではなく、それ以外の鋼種を設計によって適宜に選択することができる。
【0082】
また、第1実施形態に係る鋼製箱桁10および第2実施形態に係る鋼製箱桁50の説明において、内側腹板16、56および外側腹板18、58の具体的な寸法を例として挙げ、またFEM解析では、内側腹板および外側腹板以外の部材についても具体的な寸法を用いたが、本発明に係る鋼製箱桁の各部材の寸法がこれらの数値に限定されるわけではなく、各部材の寸法は設計によって適宜に設定することができる。
【0083】
また、第1実施形態に係る鋼製箱桁10および第2実施形態に係る鋼製箱桁50においては、内側腹板16、56および外側腹板18、58のいずれにも水平補剛材が取り付けられておらず、部材数が少なくなっており、かつ、水平補剛材を省略しても腹板厚を道路橋示方書の規定ほどに大きくしなくても安全性が確保できるので、この点のみでもコストダウンにつながるが、曲線箱桁橋においては、腹板に水平補剛材を溶接する場合、曲率の影響で工場での自動溶接ロボットが使用できず、手動溶接を行うため、直線箱桁橋に比べて製作コストが大きくなるので、本発明に係る鋼製箱桁(水平補剛材を省略しているが、腹板厚を道路橋示方書の規定ほどに大きくしなくても安全性が確保できる鋼製箱桁)は、特に曲線箱桁橋に適用した場合に、コストダウンの効果が大きくなる。
【符号の説明】
【0084】
10、50…鋼製箱桁
12、52…下側フランジ
12A、52A…下側縦リブ
14、54…上側フランジ
14A、54A…上側縦リブ
16、16A、16B、56…内側腹板
18、18A、18B、58、58A、58B…外側腹板
20、60…垂直補剛材
22、62…ダイアフラム
22A…支点上補剛材
24、64…横リブ
30、70…対象部位
32、72…道示モデル
32X、32Y、36X、36Y、72X、72Y…図心位置
34、34A、74…水平補剛材
36…HS省略モデル
80…ソールプレート
100…鋼3径間連続合成箱桁橋