(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】導電性部材
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20231106BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20231106BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231106BHJP
C23C 14/08 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B7/025
B32B9/00 A
C23C14/08 K
(21)【出願番号】P 2019200271
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018206745
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度経済産業省 平成30年度革新的なエネルギー技術の国際共同研究開発事業(革新的省エネルギー技術開発)「研究テーマ(2)光反応による低消費電力型製造プロセスとグリーンデバイスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】野本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-211255(JP,A)
【文献】特開平10-324820(JP,A)
【文献】特開平10-199346(JP,A)
【文献】特開平05-326402(JP,A)
【文献】特開2000-285752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
B32B 7/025
B32B 9/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、
前記透明導電膜は、金属を含む物質の堆積物からなり、酸素欠陥を有
し、
前記基材が、高分子材料からなるベース基材の上に遮熱層および遮光層の少なくとも一方を備えた積層基材であり、
前記遮熱層および前記遮光層の少なくとも一方の上に、前記透明導電膜が形成され、
前記基材の全光線透過率が75%以上であり、
前記透明導電膜の抵抗率が4×10
-4
Ω・cm以下であり、
前記透明導電膜の仕事関数が5.0eV以上であることを特徴とする導電性部材。
【請求項2】
前記透明導電膜の表面およびその近傍における酸素欠陥の含有量は、前記透明導電膜の厚さ方向の中央部における酸素欠陥の含有量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記金属を含む物質が、In、Sn、Zn、Ti、GaおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記基材が透明であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記ベース基材の熱拡散率をαa、前記遮熱層の熱拡散率をαbとしたとき、αa<αbであることを特徴とする請求項
1~4のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記遮光層の光学吸収端波長が、前記ベース基材の光学吸収端波長よりも長いことを特徴とする請求項
1~5のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記遮光層の光学吸収端波長が350nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項
1~6のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記遮熱層および前記遮光層の少なくとも一方が、Si、Al、Zr、Y、Ce、In、Sn、Zn、Sr、Ti、Mg、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことを特徴とする請求項
1~
7のいずれか1項に記載の導電性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、電界放射ディスプレイ(FED)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED)等のフラットディスプレイの表示電極、電子ペーパー等の画像表示装置用透明電極、タッチパネル用透明電極、太陽電池用透明導電電極、熱線反射ガラス等の用途に広く利用されている。また、近年の携帯型移動端末の急激な小型化・軽量化に伴って、透明電極を設ける基材にも、さらなる軽量化が求められている。そのため、透明電極を設ける基材としては、ガラスに比べてより軽量な透明高分子基材が使用されつつある。
【0003】
透明導電膜を形成するための材料としては、導電性および透明性に優れる点から、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、インジウムをドープした酸化亜鉛(IZO)等の金属酸化物が、多くの用途に用いられている。
【0004】
ITO膜、FTO膜、IZO膜等の透明導電膜の製造方法としては、得られる膜の透明性および導電性に優れる点から、一般的にスパッタ法、蒸着法等の気相法が用いられている。しかしながら、気相法は、真空装置が必須であるため、多大な設備投資を要する。さらに、真空設備の維持にも過大なコストが必要となる。特に、ディスプレイの表示電極のような大面積が必要とされる用途においては、設備投資や維持費が莫大なものとなる。
【0005】
一方、透明導電膜の製造方法としては、真空装置を必要としない低コストの溶液法も開発されている。溶液法は、目的とする金属酸化物の金属を含む金属有機化合物の溶液を基材の上に塗布し、熱処理によって有機成分を乾燥、熱分解し、目的とする金属酸化物からなる透明導電膜を形成する方法である。通常、原料を焼成して酸化物を得るためには、高温による処理が必要となる。そのため、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料からなる基材(高分子基材)上へ金属酸化物からなる透明導電膜を形成することが困難であった。
【0006】
透明導電膜の導電性を高くするためには、金属酸化物の結晶性または結晶化度を高める方法も実施される。そのため、気相法では、成膜時または成膜後に、基材の温度を、150℃を超える温度、好ましくは200℃以上の温度にして、透明導電膜を形成する方法が知られている。また、溶液法では、およそ400℃以上の温度にて熱処理が必要とされる。これらの方法は、基材としてガラス基材のような無機基材を用いる場合には採用できるものの、高分子基材を用いる場合、変形、変色等の基材の耐熱性に係る問題が生じることがあるため、採用することが好ましくない。
【0007】
ITO等の酸化物半導体の電気伝導度は、移動度とキャリア濃度に依存する。そのため、酸化物半導体の電気伝導度を高くするためには、酸化物半導体を結晶化して移動度を向上するとともに、キャリア濃度を制御する必要がある。具体的には、酸化物半導体への高価数異種金属のドーピングと同時に酸素不定比性の導入が有効であるが、それを実行するためには、高温、低酸素分圧といった条件が必須であった。
【0008】
また、透明導電膜を有機ELディスプレイへ用いる場合には、透明導電膜には、導電性および透光性に加えて、約5.0eV以上の仕事関数も要求される。これは、有機EL素子の陽極である透明導電膜から有機層への正孔注入を考えた場合、正孔が透明導電膜のHOMOから有機層のHOMOへと移動するため、これらの軌道のエネルギー差が注入障壁となり、その障壁が大きい場合には発光効率の低下を招くからである。したがって、透明導電膜の仕事関数と有機層を形成する有機材料のイオン化ポテンシャルとの差を小さくする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Y.Sato,et.al. Applied Physics Express 3(2010)061101
【文献】T.Nakajima,et.al. Chem.Master.2008,20,p.7344-7351
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、高性能な透明導電性材料としては、In2O3を主成分とし、スズを適量ドープした材料(ITO)が知られている。ITO膜のうち高性能なものの1つとしては、ガラス基材上に形成され、抵抗率が1×10-4Ω・cm程度のものが挙げられる。一方、可撓性を有する高分子基材上に形成されたITO膜は、ガラス基材上に形成されたITO膜と同等の抵抗率を有していない。
【0011】
通常、ガラス基材上へITO膜を形成するには、スパッタ法等が用いられる。このとき、おおむね200℃程度より高い温度に基材を加熱したうえで、ガラス基材上に原料のイオンを堆積させる。これにより、ITOの結晶が充分に成長する。また、真空中で原料のイオンを堆積させることにより、ITO膜に酸素欠陥が生じ、結果として、移動度とキャリア濃度が高く、抵抗率の低いITO膜が得られる。
一方、非特許文献1によれば、透明導電膜の仕事関数はキャリア密度と負の相関を持つ、すなわち、例えば、キャリア密度が高くなると仕事関数が低くなることから、従来技術では、透明導電膜において、高導電性と高い仕事関数とを両立することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、抵抗率が低く、かつ仕事関数の高い透明導電膜を有する導電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、透明導電膜に光照射することにより、透明導電膜の特性改善、すなわち、透明導電膜の低抵抗化、透明導電膜の透過率の向上、および透明導電膜の仕事関数の向上を実現するために試験研究を重ねた。透明導電膜の抵抗率を下げるには、透明導電体材料の電気伝導を担うキャリアの密度(濃度)を高くするか、キャリアの移動度を高くする。通常、キャリアの移動度は、格子の乱れが少ない、すなわち、結晶性が高いほど向上する。光照射による透明導電体材料の結晶化促進は、加熱が制限される高分子基材上に透明導電膜を形成する場合に有効な手段である。また、光照射によれば、短時間に大きなエネルギーを注入することが可能で、非平衡的な結晶化や酸素欠陥の導入などが期待でき、キャリア密度の向上も可能となる。また、本発明者等は、同時にいかなるメカニズムにも限定されないが、光照射した場合、透明導電膜のキャリア密度に因らず、仕事関数を増大させることが可能であることを見出した。
【0014】
一方、透明導電膜に強い光を照射すると、そのエネルギーを吸収して、透明導電膜が発熱する。透明導電膜の表面から光を照射した場合、表面から厚さ方向の内側に向かう温度分布を一次元熱拡散モデルに従ってシミュレーションを行うことができる(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2に記載されているシミュレーションを行うと、熱拡散率の低い物質、光の吸収係数の高い物質は、光照射によって、より温度が高くなることが示される。本発明者等は、このシミュレーションによる予想を考慮して、高分子基材と透明導電膜の間に適切な中間層を介在させることにより、光を照射した際の高分子基材の温度上昇を低減することが可能であることを見出した。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
[1]基材と、該基材上に形成された透明導電膜と、を有し、前記透明導電膜は、金属を含む物質の堆積物からなり、酸素欠陥を有する導電性部材。
[2]前記透明導電膜の表面およびその近傍における酸素欠陥の含有量は、前記透明導電膜の厚さ方向の中央部における酸素欠陥の含有量よりも多い[1]に記載の導電性部材。
[3]前記金属を含む物質が、In、Sn、Zn、Ti、GaおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含む[1]または[2]に記載の導電性部材。
[4]前記透明導電膜の抵抗率が4×10-4Ω・cm以下である[1]~[3]のいずれかに記載の導電性部材。
[5]前記透明導電膜の仕事関数が5.0eV以上である[1]~[4]のいずれかに記載の導電性部材。
[6]前記基材が透明である[1]~[5]のいずれかに記載の導電性部材。
[7]前記基材が、ベース基材の上に遮熱層および遮光層の少なくとも一方を備えた積層基材であり、前記遮熱層および前記遮光層の少なくとも一方の上に、前記透明導電膜が形成された[1]~[6]のいずれかに記載の導電性部材。
[8]前記ベース基材の熱拡散率をαa、前記遮熱層の熱拡散率をαbとしたとき、αa<αbである[7]に記載の導電性部材。
[9]前記遮光層の光学吸収端波長が、前記ベース基材の光学吸収端波長よりも長い[7]に記載の導電性部材。
[10]前記遮光層の光学吸収端波長が350nm以上400nm以下である[9]に記載の導電性部材。
[11]前記遮熱層および前記遮光層の少なくとも一方が、Si、Al、Zr、Y、Ce、In、Sn、Zn、Sr、Ti、Mg、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含む[7]~[10]のいずれかに記載の導電性部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抵抗率が低く、かつ仕事関数の高い透明導電膜を有する導電性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る導電性部材を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る導電性部材の製造方法で用いられる成膜システムを示す概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る導電性部材を示す断面図である。
【
図4】実施例1における透明導電膜の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図5】実施例2における透明導電膜の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図6】比較例1における透明導電膜の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図7】比較例2における透明導電膜の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図8】実施例1における透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図9】実施例2における透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図10】比較例1における透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図11】比較例2における透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図12】実施例1における透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図である。
【
図13】実施例1における透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図である。
【
図14】実施例1において、KrFエキシマレーザを照射する前と照射した後とにおいて、透明導電膜における酸素の1s軌道のXPSスペクトルの測定結果を示す図である。
【
図15】実施例4における透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図であり、(a)は室温で形成した透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図であり、(b)は200℃で形成した透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図16】実施例4における透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図であり、(a)は室温で形成した透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図であり、(b)は200℃で形成した透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図である。
【
図17】実施例4における透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図であり、(a)は室温で形成した透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図であり、(b)は200℃で形成した透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図である。
【
図18】実施例4における透明導電膜の酸素の1s軌道のXPSスペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の導電性部材の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
(1)第1の実施形態
[導電性部材]
図1は、本実施形態の導電性部材の概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の導電性部材1は、基材10と、基材10上に形成された透明導電膜20と、を有する。すなわち、本実施形態の導電性部材1では、透明導電膜20が基材10の一方の面(
図1では上面)10aに形成されている。
【0020】
基材10の材料としては、ガラス等の無機材料、金属、高分子等が用いられる。導電性部材1全体が透明性を有する必要がある場合には、基材10としては、ガラス基材や透明な高分子基材等の透明性を有する基材が好適に用いられる。導電性部材1を軽量化し、かつ導電性部材1が可撓性を有する必要がある場合には、基材10としては、高分子基材が好適に用いられる。
【0021】
基材10の材料としては、特に限定されないが、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アクリル樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイト等が挙げられる。
【0022】
基材10の透明性は、基材10の全光線透過率によって定義される。
基材10の全光線透過率は、75%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
一般に、透明導電膜の酸素欠陥が多いと光の透過性は低くなり、基材10の全光線透過率は高いほうが、透明導電膜中の酸素欠陥を高めることが可能となり、好ましい。
【0023】
基材10の全光線透過率は、日本工業規格:JIS-K-7136に準拠する測定方法によって測定される。
【0024】
基材10の厚さは、導電性部材1の用途に応じて決定されるため、特に限定されない。
基材10が透明な基材である場合、基材10の厚さは、基材10の透明性を損なわない厚さであれば、特に限定されない。
基材10の厚さは、通常、20μm~2mmであり、30μm~1mmであることが好ましく、50μm~500μmであることがより好ましい。
【0025】
透明導電膜20は、金属を含む物質の堆積物からなり、酸素欠陥を有する。
ここで、本実施形態の透明導電膜20における酸素欠陥とは、酸素欠損、格子間酸素、水酸基(OH基)、吸着酸素等であり、透明導電膜を構成する主要成分である金属と酸素が定比で構成された化合物とは異なる組成となっている箇所のことである。これらの欠陥を明確に区別するのは実験的には困難で、定比の酸素(M-O)と酸素欠陥(Odef)は光電子分光法により区別することができる。
【0026】
透明導電膜20は、酸素欠損を有することにより、電気伝導を担う電子である、伝導電子を多く含む。さらに、透明導電膜20は、後述する製造方法によって、表面20aおよびその近傍(透明導電膜20において、表面20a付近の領域(基材10とは反対側の領域)であって、表面20aから厚さ方向の内側(内部側)の領域)に前述の水酸基や吸着酸素などの酸素欠陥が多く誘起され、高い仕事関数を有する。吸着酸素とは、透明導電膜20の表面20aに吸着した酸素分子または酸素原子のことである。
【0027】
透明導電膜20の表面20aおよびその近傍(
図1において符号20Bで示す領域)における酸素欠陥の含有量は、透明導電膜20の厚さ方向の中央部(
図1において符号20Aで示す領域)における酸素欠陥の含有量よりも多いことが好ましい。
このようにすれば、透明導電膜20の表面20aおよびその近傍に、伝導電子が多く存在するため、抵抗率がさらに低くなり、かつ仕事関数の高い透明導電膜1が得られる。
【0028】
透明導電膜20の酸素欠陥の含有量は、以下のようにして測定される。
酸素欠陥の量は光電子分光法により、定比酸素に対する相対比として見積もることができる。
【0029】
透明導電膜20を形成する堆積物を構成する金属を含む物質は、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)およびカドミウム(Cd)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。これらの金属の酸化物、窒化物および酸窒化物には、他の元素が含まれていてもよい。これらの金属の酸化物としては、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化カドミウム(CdO)、スズ酸バリウム(BaSnO3)、インジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)等が挙げられる。これらの中でも、抵抗率が低く、透明性に優れる点から、インジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)が好ましい。
【0030】
透明導電膜20の厚さは、特に限定されず、適用するものに応じて適宜調整されるが、例えば、50nm以上であることが好ましい。
【0031】
透明導電膜20は、抵抗率が4×10-4Ω・cm以下であることが好ましく、3.5×10-4Ω・cm以下であることがより好ましい。
透明導電膜20の抵抗率が4×10-4Ω・cm以下であることにより、各種素子への応用に実用的に使用可能となる。
【0032】
透明導電膜20の抵抗率は、以下のようにして測定される。
4端針を用いたホール効果測定を行うことで透明導電膜20の抵抗率は測定される。抵抗率とともに、キャリア密度、移動度も測定される。
【0033】
透明導電膜20は、仕事関数が5.0eV以上であることが好ましく、5.1eV以上であることがより好ましい。
透明導電膜20の仕事関数が5.0eV以上であることにより、有機EL素子への応用の際に、陽極である透明導電膜から有機相への正孔注入障壁が充分に低くなり、発光効率が充分に高くなる。
【0034】
透明導電膜20の仕事関数は、以下のようにして測定される。
光電子分光法または大気中で金の仕事関数を参照としたケルビンプローブ法によって、透明導電膜20の仕事関数は測定される。
【0035】
透明導電膜20の透明性は、透明導電膜20の全光線透過率によって定義される。
透明導電膜20の全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
透明導電膜20の全光線透過率が70%以上であれば、透明導電膜20の種々の応用において、充分な視認性を確保できる。
【0036】
透明導電膜20の全光線透過率は、日本工業規格:JIS-K-7136に準拠する測定方法によって測定される。
【0037】
本実施形態の導電性部材1によれば、透明導電膜20が酸素欠陥を有するため、抵抗率が低く、かつ仕事関数が高くなる。
【0038】
[導電性部材の製造方法]
図1および
図2を参照して、本実施形態の導電性部材の製造方法を説明する。
図2は、本実施形態の導電性部材の製造方法で用いられる成膜システムを示す概念図である。
図2に示すように、本実施形態の導電性部材の製造方法で用いられる成膜システム40は、第1の成膜装置41と、第2の成膜装置42と、後処理装置43と、を有する。
【0039】
本実施形態の導電性部材の製造方法は、基材10上に透明導電膜20を形成する工程(以下、「透明導電膜工程」と言うこともある。)と、基材10上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成する工程(以下、「光照射工程」と言うこともある。)と、を有する。
【0040】
第1の成膜装置41は、後述する第2の実施形態において、中間層を形成するための装置である。本実施形態では、第1の成膜装置41を使用しない。
第2の成膜装置42は、基材10上に透明導電膜20を形成するための装置である。
後処理装置43は、基材10上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成するための装置である。
【0041】
本実施形態の導電性部材の製造方法では、まず、第2の成膜装置42にて、基材10上に透明導電膜20を形成する(透明導電膜工程)。
【0042】
基材10上に透明導電膜20を形成(成膜)する方法としては、特に限定されず、例えば、真空蒸着法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法等の物理的蒸着法(PVD法)、原料を反応させて堆積させる化学的蒸着法(CVD法)、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等の塗布法等が用いられる。スパッタリング法は、第2の成膜装置42の真空チャンバー内に、ターゲットとして透明導電膜20の材料を設置し、ターゲット表面にイオン化させた希ガス元素等を衝突させて、透明導電膜20の材料の原子をはじき出し、その原子を基材10の一方の面10aに付着(堆積)させる方法である。
【0043】
透明導電膜20の材料は、上記のインジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)およびカドミウム(Cd)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。
【0044】
次に、後処理装置43にて、基材10上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成する(光照射工程)。
【0045】
透明導電膜20に照射する光は、特に限定されず、例えば、波長193nmのArFエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザ、波長308nmのXeClエキシマレーザ、紫外線、可視光線、赤外線が用いられる。これらの中でも、光子のエネルギーが高く、かつ透明導電膜20が光のエネルギーを吸収することで酸素欠陥形成や結晶化促進が可能であるという点から、エキシマレーザを含む紫外線が好ましい。
透明導電膜20に光を照射するための光源としては、特に限定されず、例えば、エキシマランプ、エキシマレーザ、YAGレーザ、色素レーザ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、マイクロ波励起メタルハライドランプ、マイクロ波励起水銀ランプ、フラッシュランプ等が用いられる。
【0046】
透明導電膜20に光を照射する際の雰囲気は、特に限定されず、透明導電膜20に対する光の照射は、大気中、真空中、酸素ガス中、窒素ガス中、希ガス中、水素中、またはこれらの混合雰囲気中のいずれであってもよい。
【0047】
透明導電膜20に照射する光の強度は、1mJ/cm2以上であり、10mJ/cm2以上であることが好ましく、20mJ/cm2以上であることがより好ましい。
透明導電膜20に照射する光の強度が1mJ/cm2以上であれば、透明導電膜20に充分に酸素欠陥が形成される。
【0048】
また、光照射工程において、光照射は透明導電膜20の表面20a側から行い、光が透明導電膜中を通過する際に減衰することから、透明導電膜20の表面から内部に向かって、光の強度は減少していく。そのため、通常、酸素欠陥の量は透明導電膜20の表面が膜内部より多くなる。
このようにすれば、伝導電子が多く存在し、透明導電膜20の表面20aおよびその近傍に、酸素欠陥が多く存在するようになるため、抵抗率が低く、かつ仕事関数の高い透明導電膜20が得られる。そして、透明導電膜20を有する導電性部材1が得られる。
【0049】
(2)第2の実施形態
[導電性部材]
図3は、本実施形態の導電性部材の概略構成を示す断面図である。
図3において、
図1に示した導電性部材と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態の導電性部材50は、
図3に示すように、基材60と、基材60上に形成された透明導電膜20と、を有する。すなわち、本実施形態の導電性部材50では、透明導電膜20が基材60の一方の面(
図3では上面)60aに形成されている。
【0050】
基材60は、
図3に示すように、ベース基材61と、ベース基材61上に形成された中間層62と、を有する積層基材である。中間層62は、ベース基材61の一方の面(
図3では上面)61aに形成された、遮熱層および遮光層の少なくとも一方である。
すなわち、透明導電膜20は、中間層62の一方の面(
図3では上面)62aに形成されている。
【0051】
ベース基材61としては、可視光領域において透明性を有するものが好ましい。
ベース基材61の材料としては、例えば、石英ガラス;ホウケイ酸塩ガラス;アクリル樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイト等の高分子材料が挙げられる。
【0052】
中間層62としては、可視光領域において透明性を有し、かつ、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、高分子材料からなるベース基材61が、その光によって加熱されるのを抑制する効果を有する材料からなるものが好ましい。
【0053】
ベース基材61と中間層62を合わせた基材60の透明性は、基材60の全光線透過率によって定義される。
基材60の全光線透過率は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
基材60の全光線透過率が75%以上であれば、透明導電膜20の酸素欠陥が多い場合にも、充分な視認性を確保できる。
【0054】
基材60の全光線透過率は、日本工業規格:JIS-K-7136に準拠する測定方法によって測定される。
【0055】
中間層62の厚さは、透明性、可撓性、中間層62の材質等を考慮して決定されるため、特に限定されない。
中間層62の厚さは、通常、10nm~100μmであり、20nm~1μmであることが好ましく、50nm~300nmであることがより好ましい。中間層62の厚さが薄過ぎると、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、高分子材料からなるベース基材61が、その光によって加熱されるのを抑制する効果が充分に得られず、ベース基材61の熱による劣化を低減する効果が弱くなる。
【0056】
中間層62は、バンドギャップが大きく、可視光で透明な材料からなる。中間層62は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。これらの金属の酸化物、窒化物および酸窒化物は、他の元素を含んでいてもよく、混合物であってもよい。また、これらの金属の酸化物、窒化物および酸窒化物は、絶縁性であってもよく、導電性であってもよい。これらの金属の酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、スズ酸カルシウム(CaSnO3)等が挙げられる。
【0057】
中間層62が遮熱層である場合、ベース基材61の熱拡散率をαa(m2/s)、遮熱層の熱拡散率をαb(m2/s)としたとき、αa<αbであることが好ましい。
αa<αbであれば、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、その光による熱が遮熱層(中間層62)で拡散するため、ベース基材61の熱による劣化を低減することができる。
【0058】
中間層62が遮光層である場合、遮光層の光学吸収端波長が、ベース基材61の光学吸収端波長よりも長いことが好ましい。
遮光層の光学吸収端波長が、ベース基材61の光学吸収端波長よりも長いことにより、光照射の際の光の波長が、ベース基材61で吸収し、発熱の原因となってしまうような波長であっても、遮光層がその波長の光を充分に遮ることができ、その光は、ベース基材61に到達しない。そのため、ベース基材61の発熱による劣化を防ぐことができる。
【0059】
中間層62が遮光層である場合、遮光層の光学吸収端波長は、350nm以上400nm以下であることが好ましい。
遮光層の光学吸収端波長が350nm以上400nm以下であることにより、大部分の紫外線を遮蔽することができ、なおかつ、可視光で透明であるため、充分な視認性を確保できる。
【0060】
遮熱層や遮光層を有する導電性部材50について、光を照射した際に得られる効果について説明する。
遮熱層や遮光層がない場合、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、透明導電膜20に光が吸収されない場合に、その光によってベース基材61が加熱され、ベース基材61に分解、変形、変色等の劣化が生じることがある。
【0061】
ベース基材61と透明導電膜20の間に、熱拡散率の高い材料からなる遮熱層(中間層62)を介在させることにより、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に生じる光熱反応による熱がベース基材61に伝わることを抑制することができる。一般に、高分子材料は、熱拡散率が低い。すなわち、高分子材料からなるベース基材61は、光を照射した際に発生する熱を効率よく逃がすことができずに、温度上昇し易い。そこで、熱拡散率が低いベース基材61と透明導電膜20の間に、熱拡散率が高い遮熱層を介在させることにより、光による熱を効率的に放出して、ベース基材61の温度上昇を抑制することができる。遮熱層の熱拡散率は、特に限定されないが、遮熱層の熱拡散率が低過ぎると、ベース基材61の発熱を抑制する効果が充分に得られず、遮熱層の熱拡散率が高過ぎると、光照射によるエネルギーが逃げてしまい、光照射による透明導電膜20の低抵抗化の効果が充分に得られない。このようなことから、遮熱層の熱拡散率は、0.5×10-6m2/s~20×10-6m2/sであることが好ましい。
【0062】
透明導電膜20が、照射した光に対する光学吸収係数から見積もられる光の侵入長よりも薄い場合には、その光が直接ベース基材61に到達する。ベース基材61と透明導電膜20の間に、遮光層(中間層62)を介在させることにより、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、透明導電膜20に充分に吸収されなかった場合でも、遮光層によって光を遮ることができる。そのため、ベース基材61に光が到達しないので、ベース基材61は光による熱で加熱されない。特にベース基材61が高分子基材の場合には、光が直接基材に到達した際に生じる有機分解反応を抑制することができる。この場合、遮光層を構成する材料としては、導電性部材50に照射する光を充分に吸収する材料を用いることが好ましく、例えば、紫外線を照射する場合には、紫外線を吸収する材料を選択すればよい。具体的には、導電性部材50に照射する光がKrFエキシマレーザ(波長248nm)の場合、光学吸収端波長が248nmより長い材料、すなわち、バンドギャップが5eV(波長248nmに相当)より小さい材料を用いる。また、導電性部材50に照射する光がXeClエキシマレーザ(波長308nm)の場合、光学吸収端波長が308nmより長い材料、すなわち、バンドギャップが4eV(波長308nmに相当)より小さい材料を用いる。このとき、遮光層の主成分として構成する材料が純粋であるときには、光を吸収しない材料であっても、不純物や欠陥が入ることによって、光学吸収端波長が長くなった材料、吸収が生じた材料であればよい。
【0063】
中間層62は、遮熱層のみから構成されていてもよく、遮光層のみから構成されていてもよく、遮熱層および遮光層から構成されていてもよい。
中間層62が、遮熱層または遮光層のいずれかで構成されていても、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、ベース基材61の発熱による劣化を抑制することができる。
また、中間層62を構成する材料としては、遮熱および遮光の作用を有するものを用いてもよい。
また、遮熱層および遮光層は、単層であってもよく、2層以上であってもよい。
【0064】
本実施形態の導電性部材50によれば、透明導電膜20が酸素欠陥を有するため、抵抗率が低く、かつ仕事関数が高くなる。また、基材60として、ベース基材61と、ベース基材61上に形成された中間層62と、を有する積層基材を用いているため、透明導電膜20側から導電性部材50に光を照射した際に、その光による熱がベース基材61に伝わることを抑制し、ベース基材61の発熱による劣化を抑制することができる。さらに、部材使用時の光による劣化や発光による発熱が抑制され、ベース基材61の長期安定化が期待できる。
【0065】
[導電性部材の製造方法]
図2および
図3を参照して、本実施形態の導電性部材の製造方法を説明する。
本実施形態の導電性部材の製造方法は、ベース基材61上に遮熱層および遮光層の少なくとも一方からなる中間層62を形成する工程(以下、「中間層形成工程」と言うこともある。)と、ベース基材61上に形成された中間層62上に透明導電膜20を形成する工程(透明導電膜工程)と、中間層62上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成する工程(光照射工程)と、を有する。
【0066】
本実施形態の導電性部材の製造方法では、まず、第1の成膜装置41にて、ベース基材61上に中間層62を形成する(中間層形成工程)。
【0067】
ベース基材61上に中間層62を形成(成膜)する方法としては、特に限定されず、例えば、真空蒸着法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法等の物理的蒸着法(PVD法)、原料を反応させて堆積させる化学的蒸着法(CVD法)、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等の塗布法等が用いられる。スパッタリング法は、第1の成膜装置41の真空チャンバー内に、ターゲットとして中間層62の材料を設置し、ターゲット表面にイオン化させた希ガス元素等を衝突させて、中間層62の材料の原子をはじき出し、その原子をベース基材61の一方の面61aに付着(堆積)させる方法である。
【0068】
中間層62の材料は、上記のケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物または酸窒化物を含むことが好ましい。
【0069】
また、中間層形成工程において、ベース基材61の熱拡散率をαa、遮熱層の熱拡散率をαbとしたとき、αa<αbとなるように、中間層62を形成することが好ましい。熱拡散率(α)は、熱伝導率(λ)、密度(ρ)、比熱容量(c)とα=λ/(ρ・c)の関係があり、熱拡散率が高い層を得るには、熱伝導率の高い物質を間隙のないように堆積させればよい。
このようにすれば、光照射工程にて、透明導電膜20側から光を照射した際に、その光による熱がベース基材61に伝わることを抑制し、ベース基材61の発熱による劣化を抑制することができる。
【0070】
次に、第2の成膜装置42にて、中間層62上に透明導電膜20を形成する(透明導電膜工程)。
【0071】
中間層62上に透明導電膜20を形成(成膜)する方法としては、第1の実施形態において、基材10上に透明導電膜20を形成する方法と同様の方法が用いられる。
【0072】
次に、後処理装置43にて、基材10上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成する(光照射工程)。
【0073】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、透明導電膜20に光を照射する。
【0074】
このようにして、導電性部材50が得られる。
【0075】
次に、本実施形態の導電性部材の製造方法の作用・効果について説明する。
【0076】
高分子基材は、ガラス基材、シリコンウェハやサファイアなどの半導体からな基材(半導体基材)と比べて、軽量かつ安価な基材である。しかしながら、高分子基材は、他の基材と比べて、軟化・分解温度が低い。そのため、高分子基材上に、スパッタリング法やその他の成膜方法で透明導電膜を形成する際に、高分子基材を加熱することができない。また、同様の理由から、高分子基材上に、スパッタリング法やその他の成膜方法で透明導電膜を形成した後も、高分子基材を加熱することができない。高分子基材を加熱することができない場合、透明導電膜の結晶化が充分に進まないため、透明導電膜は、部分的に結晶が存在する微結晶構造やアモルファスな構造となる。
【0077】
本発明者等は、高分子基材上に、高分子基材を加熱することなく、スパッタリング法やその他の成膜方法で透明導電膜を形成した後、エキシマレーザ等により、透明導電膜に光を照射して、透明導電膜の結晶性または結晶化度を向上する技術を検討している。しかしながら、本発明者等は、光照射法では、透明導電膜に照射した光が全て、透明導電膜に吸収されない場合、高分子基材が加熱または分解され、透明導電膜と高分子基材との熱膨張係数の違いから、透明導電膜に亀裂が発生することを明らかにした。
【0078】
そこで、本実施形態の導電性部材の製造方法では、予め中間層形成工程にて、ベース基材61上に中間層62を形成して積層基材からなる基材60を作製し、透明導電膜工程にて、その中間層62上に透明導電膜20を形成した後、光照射工程にて、中間層62上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成することにより、透明導電膜20に照射した光が全て吸収されない場合にも、中間層62が、残存の光を遮熱する遮熱層または遮光する遮光層として機能するため、透明導電膜20に亀裂が発生することを抑制できる。また、透明導電膜20に光を照射することによって、透明導電膜20に亀裂が発生することを抑制した状態で、透明導電膜20を結晶化させて、透明導電膜20の導電性を向上することができる。さらに、透明導電膜20に光を照射することによって、透明導電膜20に亀裂が発生することを抑制した状態で、透明導電膜20の導電性に寄与する欠陥を生成することができるため、透明導電膜20の導電性を向上することができる。
【0079】
このように、予めベース基材61上に中間層62を形成して積層基材からなる基材60を作製し、その中間層62上に透明導電膜20を形成した後、中間層62上に形成された透明導電膜20に光を照射して、透明導電膜20に酸素欠陥を形成することにより、透明導電膜20に亀裂が発生することを抑制した状態で、導電性に優れる透明導電膜20を有する導電性部材50を得ることができる。すなわち、本実施形態の導電性部材の製造方法によれば、ガラス基材や半導体基材に比べて軽量かつ安価な高分子基板を用いても、導電性に優れる透明導電膜20を有する導電性部材50を得ることができる。
【0080】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0081】
例えば、
図2において、第1の成膜装置41と第2の成膜装置42とがラインで接続され、第2の成膜装置42と後処理装置43とがラインで接続されている場合を例示したが、第1の成膜装置41と、第2の成膜装置42と、後処理装置43とは互いに別の施設に設けられていてもよい。
【0082】
また、
図2に示す成膜システム40の構成は一例に過ぎず、主旨を逸脱しない範囲で他の構成を採用してもよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
「実施例1」
高分子基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(熱拡散率約0.1×10
-6m
2/s)を用意した。
この高分子基材上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、SiO
2(熱拡散率約0.8×10
-6m
2/s)を堆積し、SiO
2からなる厚さ150nmの遮熱層を形成した。
さらに、遮熱層の上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、IZOを堆積し、IZOからなる厚さ150nmの透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、波長248nmのKrFエキシマレーザを約150秒間照射し、実施例1の導電性部材を得た。KrFエキシマレーザのエネルギー密度を36.3mJ/cm
2、31.1mJ/cm
2、25.6mJ/cm
2、16.2mJ/cm
2とした。また、それぞれのエネルギー密度の場合に、KrFエキシマレーザの繰り返し周波数を5Hz、10Hz、20Hz、30Hz、40Hz、50Hzとした。
また、それぞれのエネルギー密度と繰り返し周波数でKrFエキシマレーザを照射した後、透明導電膜の表面を光学顕微鏡で観察した。実施例1における透明導電膜の光学顕微鏡像を
図4に示す。
【0085】
「実施例2」
遮熱層の上に、ITOを堆積し、ITOからなる厚さ150nmの透明導電膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして、高分子基材上に透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、実施例1と同様にして、KrFエキシマレーザを照射し、実施例2の導電性部材を得た。
また、実施例1と同様にして、透明導電膜の表面を光学顕微鏡で観察した。実施例2における透明導電膜の光学顕微鏡像を
図5に示す。
【0086】
「比較例1」
高分子基材の一面に遮熱層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、高分子基材上に透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、実施例1と同様にして、KrFエキシマレーザを照射し、比較例1の導電性部材を得た。
また、実施例1と同様にして、透明導電膜の表面を光学顕微鏡で観察した。比較例1における透明導電膜の光学顕微鏡像を
図6に示す。
【0087】
「比較例2」
高分子基材の一面に遮熱層を形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして、高分子基材上に透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、実施例1と同様にして、KrFエキシマレーザを照射し、比較例2の導電性部材を得た。
また、実施例1と同様にして、透明導電膜の表面を光学顕微鏡で観察した。比較例2における透明導電膜の光学顕微鏡像を
図7に示す。
【0088】
(表面の観察)
図4に示す光学顕微鏡像から、実施例1では、KrFエキシマレーザを照射しても、透明導電膜に亀裂が発生していないことが確認された。
一方、
図6に示す光学顕微鏡像および
図7に示す光学顕微鏡像から、比較例1および比較例2では、エネルギー密度が25.6mJ/cm
2以上のKrFエキシマレーザを照射すると、透明導電膜に亀裂が発生することが確認された。
図5に示す光学顕微鏡像から、実施例2では、エネルギー密度が25.6mJ/cm
2のKrFエキシマレーザを照射しても、透明導電膜に亀裂が発生していないことが確認された。
【0089】
(抵抗率の測定)
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた導電性部材の透明導電膜について、抵抗率を測定した。
透明導電膜の抵抗率の測定を以下のようにして行った。実施例1、実施例2、比較例1、比較例2における透明導電膜の抵抗率の測定結果を
図8から
図11に示す。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜の抵抗率を得た。
図8の結果から、実施例1における透明導電膜にKrFエキシマレーザを照射すると、透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。また、KrFエキシマレーザのエネルギー密度を大きくする程、透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。さらに、KrFエキシマレーザのエネルギー密度が同じ場合、繰り返し周波数が大きくなる程、透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。
図9、
図10および
図11の結果から、実施例2、比較例1および比較例2における透明導電膜においても、照射条件が限定されるが、KrFエキシマレーザを照射すると、透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。
未照射の膜よりも抵抗率が上昇した理由は、
図5、
図6および
図7に示した光学顕微鏡像から明らかなように、透明導電膜に亀裂が発生し、キャリアである電子の移動が妨げられたからである。
【0090】
(キャリア密度の測定)
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた導電性部材の透明導電膜について、キャリア密度を測定した。
透明導電膜のキャリア密度の測定を以下のようにして行った。実施例1における透明導電膜のキャリア密度の測定結果を
図12に示す。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜のキャリア密度を得た。
なお、実施例2、比較例1および比較例2の透明導電膜の場合、照射条件によってはKrFエキシマレーザ照射により、透明導電膜に亀裂が生じることが原因で、正常なホール効果測定を実施できなかった。
図12の結果から、透明導電膜にKrFエキシマレーザを照射すると、透明導電膜のキャリア密度が大きくなることが確認された。また、KrFエキシマレーザのエネルギー密度を大きくする程、透明導電膜のキャリア密度が大きくなることが確認された。さらに、KrFエキシマレーザのエネルギー密度が同じ場合、繰り返し周波数が大きくなる程、透明導電膜のキャリア密度が大きくなることが確認された。
【0091】
(ホール移動度の測定)
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた導電性部材の透明導電膜について、ホール移動度を測定した。
透明導電膜のホール移動度の測定を以下のようにして行った。実施例1における透明導電膜のホール移動度の測定結果を
図13に示す。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜のホール移動度を得た。
なお、実施例2、比較例1および比較例2の透明導電膜の場合、照射条件によってはKrFエキシマレーザ照射により、透明導電膜に亀裂が生じることが原因で、正常なホール効果測定を実施できなかった。
図13の結果から、透明導電膜にKrFエキシマレーザを照射しても、ホール移動度がほとんど変化しないことが確認された。
【0092】
以上、透明導電膜の抵抗率、キャリア密度およびホール移動度の測定結果から、透明導電膜にKrFエキシマレーザを照射することにより、透明導電膜の導電性を向上できることが分かった。
【0093】
(酸素欠陥)
実施例1で得られた導電性部材の透明導電膜において、KrFエキシマレーザを照射することにより、キャリア密度が上昇する原因を明らかにするために、X線光電子分光(XPS)測定によって、酸素の1s軌道に該当する結合エネルギーを測定した。結果を
図14に示す。
図14は、KrFエキシマレーザを照射する前と照射した後とにおいて、透明導電膜における酸素の1s軌道のXPSスペクトルの測定結果を示す図である。
図14において、結合エネルギーが約530eVのピークは、酸素と母体金属であるインジウムとの結合を示す。また、結合エネルギーが約532eVのピークは、酸素欠陥周辺の酸素に由来すると考えられる。すなわち、
図14の結果から、KrFエキシマレーザを照射した後は、KrFエキシマレーザを照射する前と比べて、酸素欠陥周辺の酸素に由来するピーク強度が上昇していることが確認された。KrFエキシマレーザを照射することにより、透明導電膜に酸素欠陥が形成され、透明導電膜のキャリア密度が上昇したと考えられる。
【0094】
(仕事関数)
実施例1で得られた導電性部材の透明導電膜の仕事関数をケルビンプローブで測定した。その結果、KrFエキシマレーザを照射する前の透明導電膜の仕事関数は4.7eVであったのに対して、KrFエキシマレーザを照射した後の透明導電膜の仕事関数は5.5eVであった。
【0095】
「実施例3」
高分子基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材を用意した。
この高分子基材上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、SiO2を堆積し、SiO2からなる厚さ50nmの遮熱層を形成した。
さらに、遮熱層の上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ITOを堆積し、ITOからなる厚さ150nmの透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、窒素雰囲気中にて、波長248nmのKrFエキシマレーザを約100秒間照射し、実施例3の導電性部材を得た。KrFエキシマレーザのエネルギー密度を45mJ/cm2とした。KrFエキシマレーザの繰り返し周波数を10Hzとした。
KrFエキシマレーザを照射した後の透明導電膜をX線回折により分析した結果、透明導電膜においてわずかに微結晶が成長していることが確認された。
KrFエキシマレーザを照射した後の透明導電膜を光学顕微鏡で観察した結果、透明導電膜の表面に亀裂が発生していないことが確認された。
また、透明導電膜について、KrFエキシマレーザを照射する前と照射した後の抵抗率を測定した。その結果、透明導電膜の抵抗率は、KrFエキシマレーザを照射する前に3.5×10-4Ω・cmであったが、KrFエキシマレーザを照射した後に3.1×10-4Ω・cmに低下していた。
さらに、実施例3で得られた導電性部材の透明導電膜の仕事関数をケルビンプローブで測定した。その結果、KrFエキシマレーザを照射する前の透明導電膜の仕事関数は4.9eVであったのに対して、KrFエキシマレーザを照射した後の透明導電膜の仕事関数は5.3eVであった。
【0096】
「比較例3」
高分子基材の一面に遮熱層を形成しなかったこと以外は実施例3と同様にして、高分子基材上に透明導電膜を形成した。
KrFエキシマレーザを照射する時間を50秒間としたこと以外は実施例3と同様にして、得られた透明導電膜に、KrFエキシマレーザを照射し、比較例3の導電性部材を得た。
得られた透明導電膜の表面には多数の亀裂が見られ、電気的特性を測定することができなかった。
【0097】
「実施例4」
基材として、ホウケイ酸塩ガラス基材を用意した。
このガラス基材上に、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、基材の温度を室温もしくは200℃に制御してITOを堆積し、ITOからなる厚さ150nm、100nm、50nm、30nmもしくは20nmの透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜に、大気、もしくは全圧4Paの真空雰囲気中にて、波長248nmのKrFエキシマレーザを約20秒間照射し、実施例4の導電性部材を得た。KrFエキシマレーザのエネルギー密度を36.0mJ/cm2とした。KrFエキシマレーザの繰り返し周波数を50Hzとした。
【0098】
(抵抗率の測定)
実施例4で得られた導電性部材の透明導電膜について、抵抗率を測定した。
透明導電膜の抵抗率の測定を以下のようにして行った。実施例4における透明導電膜の抵抗率の測定結果を
図15に示す。
図15(a)は、室温で形成した透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図であり、
図15(b)は、200℃で形成した透明導電膜の抵抗率の測定結果を示す図である。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜の抵抗率を得た。
図15の結果から、実施例4における透明導電膜にKrFエキシマレーザを大気中で照射すると、何れの膜厚においても透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。また、KrFエキシマレーザを照射する雰囲気の真空度を大きくする程、透明導電膜の抵抗率が小さくなることが確認された。また、同様の効果は200℃に加熱して堆積させた透明導電膜においても認められた。
【0099】
(キャリア密度の測定)
実施例4で得られた導電性部材の透明導電膜について、キャリア密度を測定した。
透明導電膜のキャリア密度の測定を以下のようにして行った。実施例4における透明導電膜のキャリア密度の測定結果を
図16に示す。
図16(a)は、室温で形成した透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図であり、
図16(b)は、200℃で形成した透明導電膜のキャリア密度の測定結果を示す図である。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜のキャリア密度を得た。
図16の結果から、透明導電膜にKrFエキシマレーザを大気中で照射すると、何れの膜厚においても透明導電膜のキャリア密度が大きくなることが確認された。また、KrFエキシマレーザを照射する雰囲気の真空度を大きくする程、透明導電膜のキャリア密度が大きくなることが確認された。また、同様の効果は200℃に加熱して堆積させた透明導電膜においても認められた。
【0100】
(ホール移動度の測定)
実施例4で得られた導電性部材の透明導電膜について、ホール移動度を測定した。
透明導電膜のホール移動度の測定を以下のようにして行った。実施例4における透明導電膜のホール移動度の測定結果を
図17に示す。
図17(a)は、室温で形成した透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図であり、
図17(b)は、200℃で形成した透明導電膜のホール移動度の測定結果を示す図である。
東陽テクニカ製Resitest8300を用いて、ホール効果測定を行って、透明導電膜のホール移動度を得た。
図17の結果から、室温で製膜した膜の移動度は、膜厚の増加に従って低下した。一方、真空中で照射した場合は、移動度の上昇が認められた。また、200℃で製膜した膜の移動度は、KrFレーザ照射により変化しなかった。
【0101】
(仕事関数)
実施例4で得られた導電性部材の透明導電膜の仕事関数をケルビンプローブで測定した。その結果、室温で成膜した透明導電膜の仕事関数は4.7eVであったのに対して、室温で成膜した透明導電膜にKrFエキシマレーザを大気中で照射した後の仕事関数は5.0eVであった。また、KrFエキシマレーザを真空中で照射した後の室温で成膜した透明導電膜の仕事関数は5.1eVであった。
また、200℃で成膜した透明導電膜の仕事関数は4.7eVであったのに対して、KrFエキシマレーザを大気中で照射した後の仕事関数は5.0eVであった。また、200℃で成膜した透明導電膜に、KrFエキシマレーザを真空中で照射した後の仕事関数は、5.1eVであった。
【0102】
(酸素欠陥)
実施例4で得られた透明導電膜の酸素の1s軌道のXPSスペクトルを
図18に示す。
図18上部は、エネルギー1.486keVのX線照射によるXPSスペクトルであり、透明導電膜の表面近傍(おおむね3nm)のXPSスペクトルを示す。
図18下部は、エネルギー7.939keVのX線照射によるXPSスペクトルで透明導電膜全体のXPSスペクトルを示す。結合エネルギーが約530eVのピークは、酸素と母体金属であるインジウムとの結合を示す。また、結合エネルギーが約532eVのピークは、酸素欠陥周辺の酸素に由来すると考えられる。表面近傍のスペクトルで約532eVのピークが高くなっていることから、表面およびその近傍における酸素欠陥の含有量は、中央部における酸素欠陥の含有量よりも多いことが分かった。
【符号の説明】
【0103】
1,50 導電性部材
10,60 基材
20 透明導電膜
40 成膜システム
41 第1の成膜装置
42 第2の成膜装置
43 後処理装置
61 ベース基材
62 中間層