IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社荏原製作所の特許一覧

<>
  • 特許-羽根車、水力機械 図1
  • 特許-羽根車、水力機械 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】羽根車、水力機械
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/24 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
F04D29/24 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019149075
(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公開番号】P2021032080
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】能見 基彦
(72)【発明者】
【氏名】常田 友紀
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209792(JP,A)
【文献】特表2011-520185(JP,A)
【文献】特開2012-112383(JP,A)
【文献】特開2002-267584(JP,A)
【文献】特開平07-269456(JP,A)
【文献】特開2008-033658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/24
H10N 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビテーションの衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子と、
前記圧電素子が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置と、
前記蓄電装置から給電を受けて動作する電子部品と、を備え、
前記電子部品として、センサー、アンテナ、記憶装置、及び、制御装置のうち、少なくとも一つを備え
前記蓄電装置は、前記圧電素子からランダム、非一様に発生する前記電圧信号を蓄電できるように整流する整流装置を含む、ことを特徴とする羽根車。
【請求項2】
前記圧電素子と前記センサーを除く、前記蓄電装置及び他の前記電子部品は、羽根車内部に格納されている、ことを特徴とする請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の羽根車を備える、ことを特徴とする水力機械。
【請求項4】
内部流路のキャビテーションの衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子と、
前記圧電素子が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置と、
前記蓄電装置から給電を受けて動作する電子部品と、を備え、
前記電子部品として、センサー、アンテナ、記憶装置、及び、制御装置のうち、少なくとも一つを備え、
前記蓄電装置は、前記圧電素子からランダム、非一様に発生する前記電圧信号を蓄電できるように整流する整流装置を含む、ことを特徴とする水力機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車、水力機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ポンプ等の水力機械の内部流路にキャビテーションによって発生する壊食を予測する水力機械の壊食予測方法、及び壊食予測装置が開示されている。この方法及び装置では、実機水力機械或いはモデル水力機械の内部流路面にキャビテーションの衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子を設置し、該水力機械の所定位置に前記圧電素子が発する電圧信号を光に変換する発光素子を設置し、キャビテーション発生時に、前記発光素子が発する光を計測し、内部流路のキャビテーションにより壊食が発生する領域及び/又は壊食量の予測を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5065944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水力機械において発生するキャビテーションは、性能低下、振動、騒音、壊食を引き起こす有害な現象であるから、上記発光素子の光による計測だけでなく、圧力、応力、ひずみ、水温、加速度、衝撃力等の多様な計測情報を総合的に判断し、対応を考えるのが望ましい。しかしながら、水力機械の回転系でこれらの量を計測する場合、スリップリングのような複雑かつ脆弱かつ高価な機構を用いる必要がある。
【0005】
あるいは、テレメータなどにより回転系から信号を静止系に取り出すことも可能であるが、その場合は回転系に適宜、電力を供給する必要がある。そのためには、回転系に設置した一次電池あるいは二次電池あるいはキャパシタを用いることになる。一次電池は、適宜交換する作業が煩雑である。二次電池あるいはキャパシタには、回転中にスリップリングやブラシを介して適宜充電するか、回転系が静止している際に、標準的なコネクター等を介して充電するか、あるいは無線給電で充電する必要があり、いずれも作業が煩雑であり、周辺機器が大型化する傾向がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、煩雑な電池交換や充電作業を行うことなく電子部品を動作させることができる羽根車、水力機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る羽根車は、キャビテーションの衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子と、前記圧電素子が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置と、前記蓄電装置から給電を受けて動作する電子部品と、を備える。
上記羽根車においては、前記電子部品として、センサー、アンテナ、記憶装置、及び、制御装置のうち、少なくとも一つを備えてもよい。
また、上記羽根車においては、前記圧電素子と前記センサーを除く、前記蓄電装置及び他の前記電子部品は、羽根車内部に格納されていてもよい。
【0008】
また、本発明の一態様に係る水力機械は、先に記載の羽根車を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る水力機械は、内部流路のキャビテーションの衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子と、前記圧電素子が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置と、前記蓄電装置から給電を受けて動作する電子部品と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の一態様によれば、煩雑な電池交換や充電作業を行うことなく電子部品を動作させることができる羽根車、水力機械が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る水力機械の要部断面図である。
図2】一実施形態に係る圧電素子の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、水力機械としてポンプを例示する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る水力機械100の要部断面図である。
図1に示す水力機械100は、非容積型ポンプの一つである遠心ポンプであり、液体を半径方向に吐出する羽根車1を備えている。羽根車1は、水力機械100の内部流路101に配置され、内部流路101は、吸込ケーシング110及びポンプケーシング120によって形成されている。
【0014】
羽根車1は、主軸3の先端に固定されている。主軸3は、ポンプケーシング120を貫通して配置されている。ポンプケーシング120の主軸3の貫通部分には、メカニカルシール4が配置されている。羽根車1は、複数のブレード10と、主板11及び側板12と、を備えている。
【0015】
主板11は、ポンプケーシング120側に配置され、側板12は、主板11と隙間をあけて吸込ケーシング側に配置されている。主板11及び側板12は、複数のブレード10を介して接続されている。主板11、側板12、及び複数のブレード10によって囲まれた空間は、液体の流路13となっている。
【0016】
上記構成の水力機械100によれば、図示しないモータなどの駆動機によって主軸3を矢印Aに示すように回転させると、吸込ケーシング110の吸込口から矢印Bに示すように液体が流入し、流路13を通って矢印Cに示すように吐出される。
この流路13には、キャビテーション200の衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子20が設けられている。具体的に、圧電素子20は、ブレード10の前縁側の負圧面に貼り付けられている。
【0017】
圧電素子20を構成する圧電材料の種類としては、水晶、酸化亜鉛、ロッシェル塩、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、リチウムテトラボレート、ランガサイト、窒化アルミニウム、トルマリンなど、既知のいかなるものを用いることができる。また、PVDF、PVDF系共重合体、P(VDF/TrFE),P(VDCN/Vac)等の高分子圧電材を用いても良い。
【0018】
特に、上述した高分子圧電材は可撓性が高く、薄膜化しやすいので複雑な曲面に貼り付けやすい特徴を持っており、羽根車1の流路13や水力機械100の内部流路101などの複雑な形状に設置するのに適している。高分子圧電材の中でもPVDFは、機械エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が高い。
【0019】
キャビテーション200の衝撃荷重を電圧信号に変換する用途では、誘電体である圧電材料は薄膜状に成型し、加圧によって厚み方向の表面に現れる電荷を薄膜の表裏面に別途設置した薄膜状の電極から取り出して電圧信号とするとよい。電極の設置方法としては、アルミニウム等の蒸着や銀粒子の焼付けコーティングなどである。このとき、圧電体薄膜の表裏面全面に電極を設置せず、部分的に設置する場合は、表面電極と裏面電極が薄膜面に対して、おおよそ重なっている箇所の電荷のみを信号として出力することになる。
【0020】
図2は、一実施形態に係る圧電素子20の外観斜視図である。
図2に示すように、PVDF等の高分子圧電膜21の表面に細い(約1~2mm幅)のリボン状の電極22を複数本、概ね平行に設置し、更に裏面に細い(約1~2mm幅)のリボン状の電極23を複数本、前記電極22に直交させ、且つ概ね平行に設置して、高分子圧電膜21に格子状の複数の衝撃荷重センサーを設置した構成のセンサーを製作することができる。
【0021】
高分子圧電膜21の表面のリボン状の電極22の本数をM本、裏面のリボン状の電極23の本数をN本とすると衝撃荷重センサー(圧電素子)の個数はM×N個となる。このように広い面積に多数のセンサーを容易に設置することが可能となる。このように可撓性を有する高分子圧電膜21に複数個の衝撃荷重センサーを設置した構成のセンサーは羽根車1の流路13や水力機械100の内部流路101などの複雑な形状に設置するのに適している。
【0022】
ここで、リボン状の電極22,23は等しい幅である必要はなく、一つの高分子圧電膜21に対して何種類か幅を変えたリボン状の電極を設置してもよい。また、一本のリボン状の電極において途中で幅を変えても良い。例えば交差して衝撃荷重センサーを形成する箇所のみリボン状の電極を太く(幅広く)し適切な面積のセンサーを構成し、その他の箇所でリボンを細くしても良い。
【0023】
なお、徒に太いリボン状の電極を用いるとセンサーの電気容量(静電容量)が増大し、衝撃荷重センサーの電圧出力が小さくなるので望ましくない。このような面状に多数の衝撃荷重センサーを配置した構成のセンサーを製作する際は、PVDFのような可撓性が高い高分子圧電材料が適している。
【0024】
ところで、多数個の衝撃荷重センサーのうち、表面と裏面のリボン状の電極の組み合わせが全く異なるものに関しては同時計測が可能であるが、表面と裏面のリボン状の電極のうちどちらかが共通のセンサーは共通のリボン状の電極を通じて電荷が逃げるので同時計測はできない。また、圧電材料に印加される衝撃荷重の応力波としては圧電材内を伝播するので、各衝撃荷重センサー間のクロストークを十分低減するためにはリボン状の電極の幅と間隔を適切な値に設定する必要がある。
【0025】
図1に戻り、羽根車1は、圧電素子20が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置30と、蓄電装置30から給電を受けて動作する電子部品40と、を備えている。蓄電装置30は、二次電池あるいはキャパシタなどから形成されている。また、蓄電装置30は、圧電素子20からランダム、非一様に発生する電圧信号(電気パルス)を蓄電できるように整流する整流装置31を備えている。
【0026】
羽根車1は、電子部品40として、センサー41、アンテナ42、記憶装置43、及び、制御装置44を備えている。本実施形態では、センサー41が複数設けられ、例えば、圧力、応力、ひずみ、水温、加速度、衝撃力などの各種計測情報を取得する。アンテナ42は、水中アンテナなどであって、水力機械100の外部の図示しない外部装置と、各種計測信号や指令信号の送受信を行う。
【0027】
記憶装置43は、センサー41の計測情報を記憶したり、制御装置44や電子部品40の各種動作プログラムなどを記憶している。なお、記憶装置43に記憶した計測情報は、アンテナ42を介して近距離通信(NFC(Near Field Communication)等)によって外部装置に送信可能とされていてもよいし、当該計測情報を遠距離通信によって無線ネットワークにリアルタイムで送信可能とされていてもよい。
【0028】
制御装置44は、CPUなどの演算装置を備え、センサー41が取得した計測情報の記憶装置43への書き込みや、電子部品40の各種動作を制御する。また、制御装置44は、蓄電装置30に貯まった電力に応じて、電子部品40の動作を制御してもよい。例えば、制御装置44は、蓄電装置30に十分に電力が貯まったことを検知したら、各種電子部品40を自動で起動させてもよい。
【0029】
図1に示すように、圧電素子20とセンサー41を除く、蓄電装置30及び他の電子部品40は、羽根車1の内部に格納されている。本実施形態では、ブレード10の内部に、整流装置31を含む蓄電装置30、アンテナ42、記憶装置43、及び制御装置44が格納されている。これにより、蓄電装置30及び他の電子部品40の防水構造と、キャビテーション200に対する防衝撃構造を形成することができる。なお、蓄電装置30及び他の電子部品40は、主板11や側板12、主軸3近傍の図示しない空間部などに格納しても構わない。
【0030】
上記構成の羽根車1によれば、キャビテーション200の衝撃荷重を電圧信号に変換する圧電素子20と、圧電素子20が発する電圧信号を電力として蓄電する蓄電装置30と、蓄電装置30から給電を受けて動作する電子部品40と、を備えているので、キャビテーション200の発生時に、圧電素子20により電力を発生させ、この電力を蓄電装置30に蓄電し、各種計測を行うセンサー41、センサー41の計測情報を記憶する記憶装置43、記憶装置43に記憶された計測情報の外部装置(静止系)への送信を行うアンテナ42、及びこれら一連の動作のための制御装置44の電力とすることができる。
【0031】
一般に、キャビテーション200から圧電素子20を介し発生する電力は微弱であるが、常時、変化しうる状態を計測する目的でなければ、必要十分な時間をかけて、蓄電装置30に電力を蓄電した状態で、必要な動作を順次行えば良く、瞬時電力の小ささは大きな問題にはならない。
したがって、本実施形態によれば、キャビテーション200からエネルギーを収穫(ハーベスト)して、煩雑な電池交換や充電作業を行うことなく電子部品40を動作させることができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態を記載し説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【0033】
例えば、上記実施形態では、羽根車1に圧電素子20を設けたが、キャビテーション200の衝撃荷重を受ける部分であれば、例えば、水力機械100の内部流路101(例えば、吸込ケーシング110ないしポンプケーシング120の内壁面)に圧電素子20を設けても構わない。また、蓄電装置30及び電子部品40も同様に、吸込ケーシング110ないしポンプケーシング120に設けても構わない。
【0034】
また、例えば、上記実施形態では、圧電素子20(センサー41も同様)が羽根車1の負圧面に設置された例を示しているが、水力機械100の運転点によっては羽根車1の圧力面にキャビテーション200が発生する場合がある。そのため、羽根車1の圧力面に、圧電素子20を設置してもよい。また、図1では、圧電素子20が一つだけだが、複数の異なる場所に設置しても構わない。
また、強いキャビテーション200は、壊食作用を起こす場合があるので、必要に応じ圧電素子20の表面に保護膜やコーティングなどを施し、圧電素子20のキャビテーション200による破壊を防ぐことが望ましい。
【0035】
また、例えば、上記実施形態では、水力機械100として非容積型ポンプ(遠心ポンプ)を例示したが、キャビテーション200が発生するものであれば、容積型ポンプや、他の特殊ポンプ、水車、バルブなどであっても構わない。
【符号の説明】
【0036】
1 羽根車
20 圧電素子
30 蓄電装置
40 電子部品
41 センサー
42 アンテナ
43 記憶装置
44 制御装置
100 水力機械
200 キャビテーション
図1
図2