(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20231106BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231106BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20231106BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20231106BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
H05H1/46 B
H01L21/302 101B
H01L21/31 C
C23C16/50
C23C16/44 B
(21)【出願番号】P 2020030327
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】北原 聡文
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533192(JP,A)
【文献】特開2012-084848(JP,A)
【文献】特開2016-086099(JP,A)
【文献】特開2002-194540(JP,A)
【文献】特開平11-238597(JP,A)
【文献】特開2004-079829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
H01L 21/3065
H01L 21/31
C23C 16/50
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VHF帯以上の周波数の電磁波を処理容器内に導入し、ガスから発生したプラズマにより基板を処理するプラズマ処理装置であって、
前記処理容器の内部に設けられ、前記基板を載置する載置台と、
前記処理容器の内壁に面して形成され、前記電磁波を前記処理容器の内部に導入する電磁波導入部と、
前記電磁波が伝播する前記内壁に設けられる誘電体部材と、を有し、
前記誘電体部材の第1の部分は、前記内壁から前記載置台に向かって突出し、
前記誘電体部材を厚さ方向に貫通する複数の排気孔を有し、複数の前記排気孔は、前記内壁から径方向に前記誘電体部材における電磁波の実効波長λgの1/4以上離れた位置に形成され、
前記誘電体部材の第2の部分は、前記内壁の凹部又は段差部に挿入される、プラズマ処理装置。
【請求項2】
VHF帯以上の周波数の電磁波を処理容器内に導入し、ガスから発生したプラズマにより基板を処理するプラズマ処理装置であって、
前記処理容器の内部に設けられ、前記基板を載置する載置台と、
前記処理容器の内壁に面して形成され、前記電磁波を前記処理容器の内部に導入する電磁波導入部と、
前記電磁波が伝播する前記内壁に設けられる誘電体部材と、を有し、
前記誘電体部材の第1の部分は、前記内壁から前記載置台に向かって突出し、
前記誘電体部材を厚さ方向に貫通する複数の排気孔を有し、複数の前記排気孔は、前記内壁から径方向に5mm以上離れた位置に形成され、
前記誘電体部材の第2の部分は、前記内壁の凹部又は段差部に挿入される、プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘電体部材は、前記内壁に対して90°±30°の角度以内に傾斜して前記載置台に向かって突出している、
請求項1
又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記誘電体部材は、前記内壁から径方向に前記誘電体部材における電磁波の実効波長λgの1/2以上突出している、
請求項1
~3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記誘電体部材は、前記内壁から径方向に5mm以上突出している、
請求項1
~3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記誘電体部材の厚さは、前記誘電体部材における電磁波の実効波長λgの1/2以上である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記誘電体部材の厚さは、5mm以上である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記誘電体部材の下面は、前記処理容器の内部空間に露出する、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記誘電体部材の下面と、前記下面に対向する前記内壁の面との間隔は、5mm以上である、
請求項
8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記誘電体部材の第2の部分の上面と、前記上面に対向する前記内壁の面との間隔は、0.5mm以下である、
請求項1~
9のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記電磁波は、100MHz以上の周波数である、
請求項1~
10のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記誘電体部材の第1の部分と前記載置台との間の空間は、排気路であり、
前記排気路に連通する前記誘電体部材の下方の排気空間からガスが排気されるように構成される、
請求項1~
11のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
前記誘電体部材の下方の排気空間は、前記処理容器の側壁の外部に形成された排気路に連通し、
前記誘電体部材の下方の排気空間を介して前記排気路からガスが側方に排気されるように構成される、
請求項
12に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
載置台とプラズマとの間で異常放電が生じることを防止することができるプラズマ処理装置が提案されている。例えば、特許文献1は、チャンバー内で載置台と対向するように設けられた上部電極と、チャンバー内に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、チャンバー内を排気する排気機構と、載置台に高周波電力を供給し、載置台と上部電極との間の処理空間に処理ガスのプラズマを形成する電源とを有する。特許文献1では、プラズマから載置台側面への短絡経路を遮蔽するように載置台上の基板の側面の周囲を囲む部材を具備することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、VHF帯以上の周波数の電磁波による異常放電を防止することができるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、VHF帯以上の周波数の電磁波を処理容器内に導入し、ガスから発生したプラズマにより基板を処理するプラズマ処理装置であって、前記処理容器の内部に設けられ、前記基板を載置する載置台と、前記処理容器の内壁に面して形成され、前記電磁波を前記処理容器の内部に導入する電磁波導入部と、前記電磁波が伝播する前記内壁に設けられる誘電体部材と、を有し、前記誘電体部材の第1の部分は、前記内壁から前記載置台に向かって突出し、前記誘電体部材の第2の部分は、前記電磁波が伝播する前記内壁の凹部又は段差部に挿入される、プラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、VHF帯以上の周波数の電磁波による異常放電を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図。
【
図2】一実施形態に係る誘電体部材の構成及び効果の一例を示す図。
【
図3】一実施形態に係る誘電体部材の構成及び効果を説明するための図。
【
図4】一実施形態に係る誘電体部材の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[プラズマ処理装置]
まず、実施形態に係るプラズマ処理装置1について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係るプラズマ処理装置1を示す断面模式図である。
図1に示すプラズマ処理装置1は、処理容器10、載置台12、上部電極14、及び電磁波導入部20を有する。
【0010】
処理容器10は、略円筒形状を有し、鉛直方向に沿って延在している。処理容器10の中心軸線は、鉛直方向に延びる軸線AXである。処理容器10は、アルミニウム又はアルミニウム合金といった導体から形成されている。処理容器10の表面上には、耐腐食性を有する膜が形成されている。耐腐食性を有する膜は、例えば酸化アルミニウム又は酸化イットリウムといったセラミックスである。処理容器10は、接地されている。
【0011】
載置台12は、処理容器10内に設けられている。載置台12は、その上面に載置された基板Wを略水平に支持するように構成されている。載置台12は、略円盤形状を有している。載置台12の中心軸線は、軸線AXに略一致している。
【0012】
上部電極14は、処理容器10内のプラズマ処理空間(以下、処理空間SPという。)を介して載置台12の上方に設けられている。上部電極14の中心軸線は、軸線AXに略一致している。上部電極14は、略円盤形状を有している。上部電極14は、プレート18を有する。載置台12とプレート18とは対向する。
【0013】
プレート18は、セラミックス等の誘電体から形成され、VHF帯以上の周波数の電磁波を透過する。プレート18の下面は処理空間SPに露出し、プレート18を透過した電磁波は処理空間SPに放射される。上部電極14は、さらに基台19を有し、基台19は、プレート18の上部に設けられる。基台19は、アルミニウム等の金属であってもよい。ただし、基台19は金属に限られず、その他の導体材料で形成されてもよい。
【0014】
プレート18の厚みは外周部が薄く、中央部が厚くなっている。これにより、電磁波による電界を処理空間SP内に均一に形成することができる。処理空間SPに形成された電磁波の電界により、ガスが処理空間SP内で励起されて、当該ガスからプラズマが生成される。これにより、プラズマは、処理空間SP内で均一な密度分布で生成される。載置台12上の基板Wには、プラズマからの化学種によって成膜、エッチング等の処理が施される。
【0015】
なお、プレート18の少なくとも下面には、耐腐食性を有する膜が形成されていてもよい。耐腐食性を有する膜は、酸化イットリウム膜、オキシフッ化イットリウム及びフッ化イットリウムからなる群のうち少なくともいずれか一種を含むことができる。耐腐食性を有する膜は、その他のセラミックス材料を用いることもできる。
【0016】
処理容器10の上方には、上部電極14を囲む円筒部材24が設けられている。円筒部材24は、略円筒形状を有し、アルミニウム又はアルミニウム合金といった導体から形成されている。円筒部材24の中心軸線は、軸線AXに略一致している。円筒部材24は、鉛直方向に延在している。円筒部材24の下端面は、処理容器10の上端面に接触する。処理容器10は接地されている。したがって、円筒部材24は、接地されている。円筒部材24の上端には、基台19の上面と共に導波通路rを構成する上壁部221が位置している。
【0017】
円筒部材24の下面と処理容器10の本体の上端面との間には、封止部材25が介在している。封止部材25は、弾性を有し、例えば、ゴム製のOリングである。封止部材25は、軸線AXの周りで周方向に延在している。なお、導波路201の下面は、処理容器10の本体の上端面で覆われることなく、導波路201と処理空間SPと隔絶するリング状誘電体21を介して処理空間SPに面している。本明細書では、円筒部材24と処理容器10とを区別するが、円筒部材24は、処理容器10の内壁の一部である。導波路201の全部、または一部には、誘電物が埋め込まれていてもよい。
【0018】
かかる構成により、プラズマ処理装置1は、処理容器10の内壁に面して形成され、VHF帯以上の周波数の電磁波を処理容器10の内部に導入する電磁波導入部20を有する。電磁波導入部20は、上部電極14の上部から周縁部の外側に垂直に曲がる導波路201を有する。電磁波導入部20は、導波路201の内部の導波通路rにVHF帯の電磁波を伝播させ、電磁波を処理空間SPに導入する。なお、電磁波導入部20は、
図1に示すように電磁波導入部20の端部から下側に電磁波を導入する構成に限られず、端部から平面視で処理空間SPの中央に向かって内側に電磁波を導入する構成であってもよい。
【0019】
電磁波は、VHF帯以上の周波数を有し、100MHz以上の周波数であることが好ましく、更に150MHz以上の周波数であることが好ましい。電磁波は、VHF帯の電磁波に限られず、マイクロ波帯の電磁波であってもよい。ただし、本明細書におけるマイクロ波帯の電磁波には、上限値が3GHzまでの周波数の電磁波が含まれる。
【0020】
電磁波導入部20の内壁を構成する上部電極14の上面には、電源30が、整合器32を介して電気的に接続されている。電源30は、電磁波を発生する電源である。電源30は、VHF波を発生してもよいし、マイクロ波を発生してもよい。整合器32は、電源30から見た負荷側のインピーダンスを電源30の出力インピーダンスに整合させるための整合回路を含んでいる。
【0021】
基台19の下面とプレート18との間には、ガス拡散用の空間225が画成されている。空間225には、配管40が接続されている。配管40には、ガス供給器42が接続されている。ガス供給器42は、基板Wの処理のために用いられる一つ以上のガス源を含む。また、ガス供給器42は、一つ以上のガス源からのガスの流量をそれぞれ制御するための一つ以上の流量制御器を含む。
【0022】
配管40は、空間225に延びている。電磁波導入部20が提供する導波路201は、接地された導体によって構成され、配管40も接地されているため、配管40内でガスが励起されることが抑制される。空間225に供給されたガスは、プレート18の複数のガス吐出孔18hを介して、処理空間SPに吐出される。電磁波は、電源30から電磁波導入部20の導波路201を介してプレート18の外周側に伝播し、プレート18を透過してプレート18の下面から処理空間SPに供給される。また、電磁波は、導波路201を介して処理容器10の内壁10dに沿って伝播し、処理空間SPに供給される。処理空間SPに供給されたガスは、導波路201から処理空間SPに導入される電磁波の電界によりプラズマ化する。プラズマ処理装置1は、発生したプラズマにより基板Wを処理する。
【0023】
処理容器10の内壁10d(側壁)には、載置台12と略水平な位置に誘電体部材13が設けられている。誘電体部材13は、略環状の板状部材である。誘電体部材13は、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)又は石英等の誘電体から形成されている。誘電体部材13は、電磁波導入部20から導入され、内壁10dに沿って伝播する電磁波の表面波(進行波)を反射させるように内壁10dから載置台に向かって突出するように構成されている。電磁波が伝播する内壁10dの載置台12と略同じ高さには段差部10fが形成されている。
【0024】
誘電体部材13は、位置Aで外側に垂直に曲がる処理容器10の内壁10d(段差部10f)の下面に沿って挿入されるように構成されている。誘電体部材13の下面は、自由空間に開放されている。
【0025】
誘電体部材13には、厚さ方向に貫通する複数の排気孔13cが形成されている。複数の排気孔13cは、誘電体部材13の周方向に均等な間隔で配置されている。誘電体部材13と載置台12との間の空間は、排気路qになっている。処理空間SPに供給されたガスは、複数の排気孔13c及び排気路qを通って、載置台12の下方の排気空間EXへ運ばれる。排気空間EXは、処理容器10の外部側壁に隣接して形成された排気機構15内の排気通路15aに連通する。排気空間EXに運ばれたガスは、排気空間EXの外周側方に流れ、排気通路15aを介して排気通路15aの上方の、排気機構15内に形成された排気路ESに運ばれる。排気路ESは、処理容器10の側壁と排気機構15の壁により画定され、環状に形成されている。
【0026】
排気路ESに形成された排気口15bには、排気装置が接続されている。排気装置は、圧力制御弁並びにターボ分子ポンプ及び/又はドライポンプといった真空ポンプを含んでいる。排気装置により、処理容器10内のガスが排気される。
【0027】
これによれば、処理容器10内のガスは、排気空間EXへ下方に排気され、更に排気空間EXから排気路ESへ処理空間SPの側方に排気される。これにより、排気経路中に異常放電が生じることを抑制しつつ、ガスを側方に排気することでプラズマ処理装置1を小型化できる。特に、
図1に示す載置台が2つ又は4つ等複数配置され、複数枚の基板Wを同時に処理可能なプラズマ処理装置1では、ガスを側方に排気する排気機構15を有するメリットは大きい。この場合、処理容器10の下方へ排気するよりも装置を小型化でき、フットプリントを改善できる。ただし、処理容器10の底壁に排気口を設けることで、排気空間EXから下方へガスを排気してもよい。
【0028】
載置台12には、図示しない静電チャック用の導電層と、ヒータ用の導電層とを有する。載置台12は、下部電極として機能させるためのアルミニウムなどの導電体としてもよいが、一例としては、窒化アルミニウムといった絶縁体から形成されている。載置台12は、略円盤形状を有している。載置台12の導電層は、導電性を有する材料、例えばタングステンから形成されている。この導電層は、本体内に設けられている。直流電源からの直流電圧が、静電チャック用の導電層に印加されると、載置台12と基板Wとの間で静電引力が発生する。発生した静電引力により、基板Wは、載置台12に引き付けられ、載置台12によって保持される。別の実施形態において、この導電層は、高周波電極であってもよい。この場合には、導電層には、電源が整合器を介して電気的に接続される。更に別の実施形態において、導電層は、接地される電極であってもよい。このような絶縁体に埋め込まれた導電層は、上部電極との間の電界を形成するための下部電極としても機能させることができる。
【0029】
[誘電体部材]
次に、実施形態に係る誘電体部材13について、
図2及び
図3を参照しながら詳細に説明する。
図2は、一実施形態に係る誘電体部材の構成及び効果の一例を示す図である。
図3は、一実施形態に係る誘電体部材の構成及び効果を説明するための図である。
【0030】
図2(a)及び
図3(a)は、比較例に係る誘電体部材113を示し、
図2(b)及び
図3(b)は、実施形態に係る誘電体部材13を示す。
図2(a)の比較例に係る誘電体部材113は、処理容器10の内壁10dから略垂直方向に載置台12に向かって内壁10dに沿って取り付けられている。かかる構造では、導波路201の導波通路rから内壁10dに沿って伝播する電磁波は、誘電体部材113の上面113sで反射する。誘電体部材113の上面113sは、異なる誘電率を有する処理空間SPの真空空間と誘電体部材113との境界であるため、電界が強くなる。これにより、載置台12と誘電体部材113との間で異常放電が生じる場合がある。
【0031】
例えば、VHF帯(30M~300MHz)よりも低い周波数の高周波を処理容器10内に導入した場合、高周波は、内壁10dを伝播する表面波としての性質を有さず、載置台12と上部電極14との間でカップリングし、放電が発生する。このため、載置台12と誘電体部材113との間で異常放電が発生する現象は生じ難い。
【0032】
一方、VHF波及びマイクロ波の周波数帯の電磁波は、載置台12と上部電極14との間でカップリングが生じ難く、電磁波の表面波が処理容器10の内壁10dの面を伝播する。このため、内壁10dに沿って伝播した電磁波によって載置台12と誘電体部材113との間で異常放電が発生し易くなる。
【0033】
そこで、本実施形態に係るプラズマ処理装置1では、
図2(b)に示すように、誘電体部材13は、内壁10dの面に対して不連続面を有する。誘電体部材13を処理容器10の内壁10dの段差部10fに沿って配置する。つまり、誘電体部材13の一部分は、載置台に向かって内壁10dから突出し、他の部分は、電磁波が伝播する処理容器10の内壁の段差部10fに挿入される。
図2(b)の例では、誘電体部材13の他の部分が、内壁10dの段差部10fの内面10f1に沿って挿入されている。
【0034】
次に、かかる構成の誘電体部材13の作用について、
図3(a)に示す比較例に係る誘電体部材113と比較しながら説明する。
図3(a)及び(b)に示す通り、電磁波の表面波は、処理容器10の内壁10dに形成されたシースSh内を伝播する。このとき、電磁波の表面波は処理空間SPでエネルギーを放出しながら、電磁波の伝播経路に配置された誘電体部材113及び誘電体部材13まで到達する。到達した電磁波は、誘電体部材113の上面113s及び誘電体部材13の上面13sにて反射し、一部が誘電体部材113及び誘電体部材13の内部を透過する。
【0035】
処理空間SPの誘電率と誘電体部材113の誘電率及び誘電体部材13の誘電率とは異なるため、誘電体部材113の上面113s及び誘電体部材13の上面13sでは、電磁波の電界が強くなる。例えば、誘電体部材113及び誘電体部材13に替えて金属部材を配置すると、金属部材の上面で誘電体部材の場合よりも電磁波の電界がさらに強くなり処理空間SPと金属部材との境界で異常放電が発生する。これに対して、誘電体部材113及び誘電体部材13は、金属部材を配置した場合よりも処理空間SPとの境界における電界は強くならない。
【0036】
誘電体部材113及び誘電体部材13の内部を透過する電磁波の電界強度は、
図3(a)及び(b)に点線で模式的に示すように、位置Aを中心として円弧状に誘電体部材113及び誘電体部材13の内部を下に向かって弱くなる。
【0037】
図3(a)の誘電体部材113の配置では、誘電体部材113の内部の電磁波の電界は、位置Aから左側へ広がりながら弱まっていく。一方、位置Aから右側へ広がろうとする電磁波は、内壁10dで反射する。その結果、位置Aから左側へ伝播する電磁波と、位置Aから右側へ伝播できずに反射する電磁波とにより、位置Aから左側へ広がる電磁波の電界強度はある程度の強さを持つ。これにより、
図3(a)に示すように誘電体部材113の側面113m及び下面113rから自由空間へ漏れ出る電界は、矢印で示すようにある程度の強度となる。この結果、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、誘電体部材113と載置台12との間又は誘電体部材113の下方で電界が強くなり、異常放電が発生する場合がある。
【0038】
このように、本明細書でいう異常放電は、電磁波の伝播経路である処理容器10の内壁10dに配置された誘電体部材と載置台との間の空間及び誘電体部材の下方の空間で発生する異常放電のことをいう。特に、VHF帯以上の周波数の電磁波では、処理容器10の内壁10dに沿って伝播する表面波の性質により、VHF帯より低い周波数の高周波と比較して誘電体部材と載置台との間の空間及び誘電体部材の下方の空間で異常放電が発生し易い。
【0039】
そこで、
図3(b)に示す本実施形態に係る誘電体部材13は、VHF帯以上の周波数の電磁波をプラズマ処理装置1に導入する際、載置台12等の近傍における異常放電を防止するように構成される。具体的には、本実施形態に係る誘電体部材13は、内壁10dの位置Aから左側の第1の部分13aは、載置台12に向かって内壁10dから突出し、位置Aから右側の第2の部分13bは、内壁10dの段差部10fに沿って挿入される。誘電体部材13の第2の部分13bは、電磁波が伝播する内壁10dの凹部(
図4(a)の凹部10g参照)に挿入されてもよい。
【0040】
誘電体部材13は、電磁波の伝播経路である処理容器10の内壁10dに対して略垂直方向、つまり略90°に載置台12に向かって突出することが好ましい。ただし、これに限られず、誘電体部材13は、内壁10dに対して90°±30°の角度以内に傾斜して突出してもよい。誘電体部材13が、内壁10dに対して90°±30°の角度よりも大きく傾斜すると、電磁波の表面波が伝播し易い角度の方へ伝播し、異常放電の発生のリスクが高まるため、これを回避するためである。
【0041】
電磁波の電界は、位置Aにおいて最も強く、位置Aから下に向かうほど左右へ広がりながら弱まる。その結果、第1の部分13aを左側へ伝播する電磁波と、第2の部分13bを右側へ伝播する電磁波とが誘電体部材13の内部を透過する間に電界強度は指数関数的に弱まる。これにより、
図3(b)に示すように誘電体部材13の内側面13m及び下面13rから漏れ出る電界は、矢印で示すように放電しない程に弱められる。この結果、
図2(b)及び
図3(b)に示すように、内壁10dに沿って伝播した電磁波は、誘電体部材13の上面13sで大部分が反射され、更に誘電体部材13を透過する電磁波は上記の通り弱められる。これにより、誘電体部材13と載置台12との間の空間や誘電体部材13の下方において異常放電が生じることを防止できる。
【0042】
[誘電体部材の寸法]
次に、誘電体部材13と載置台12との間の空間や誘電体部材13の下方において異常放電が生じることを防止するために好ましい誘電体部材13の寸法について説明する。誘電体部材13に入射する電磁波の実効波長をλ0とすると、シースShを伝播する電磁波の表面波(シース波)の波長λswは以下で示される。
【0043】
λsw=λ0/40~λ0/20
また、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgは、式(1)で示される。
【0044】
【0045】
誘電体部材13の第1の部分13aは、内壁10dから誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/2以上突出していることが好ましい。つまり、
図3(b)に示す内壁10dから誘電体部材13の内側面13mまでの径方向の幅B1は、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/2以上であることが好ましい。また、幅B1は、5mm以上であることが好ましい。
【0046】
180MHzのVHF波の電磁波の実効波長λ0は約1600mmである。このとき、電磁波の表面波の波長λswは40mm~80mmになる。式(1)から誘電体部材13における電磁波の実効波長λgは、13mm~26mmになる。以上から、誘電体部材13の幅B1は、6.5mm以上であることが更に好ましい。
【0047】
誘電体部材13の第2の部分13bは、内壁10dから段差部10fの内面10f1に沿って、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/4以上挿入されることが好ましい。つまり、
図3(b)に示す内壁10dから誘電体部材13の外側面13nまでの径方向の幅B2は、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/4以上であることが好ましい。また、幅B2は、例えば、5mm以上であることが好ましい。
【0048】
誘電体部材13の厚さhは、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/2以上であることが好ましい。また、誘電体部材13の厚さhは、例えば、5mm以上であることが好ましい。
【0049】
内壁10dの段差部10fの内面10f1と、内面10f1に対向する誘電体部材13の上面13sとの間の隙間ΔDは、0.5mm以下であることが好ましい。同様に、
図4(a)に示す内壁10dの凹部10gの上面10g1と、上面10g1に対向する誘電体部材13の上面13sとの間の隙間ΔDは、0.5mm以下であることが好ましい。これにより、隙間ΔDでプラズマが生成されることを防止することができる。これにより、誘電体部材13の上面13sで異常放電が生じることを防止できる。
【0050】
誘電体部材13の第1の部分13aには、誘電体部材13を厚さ方向に貫通する複数の排気孔13cが形成されている。複数の排気孔13cは、内壁10dから径方向に誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/4以上離れた位置に形成されている。つまり、
図3(b)に示す内壁10dから排気孔13cまでの距離B3は、誘電体部材13における電磁波の実効波長λgの1/4以上であることが好ましい。距離B3は、例えば、5mm以上であることが好ましい。これにより、排気孔13c内にて異常放電が発生することを防止できる。なお、排気孔13cの直径φは、2~3mmであってもよい。
【0051】
このように誘電体部材13に排気孔13cを設ける場合には、電界が最も集中する中心部の位置Aから離れたところに形成することが好ましい。なお、誘電体部材13の内側面13mから下方に延在する凸部分は、排気経路を確保するためと、排気空間EXへの反応生成物の進入と付着を防ぐためである。ただし、誘電体部材13の内側面13mから下方に延在する凸部分はなくてもよい。
【0052】
かかる構成では、電磁波の表面波が伝播する処理容器10の内壁10dに誘電体部材13を配置して自由空間を仕切る。これにより、誘電体部材13により電磁波の進行波を概ね反射させることができる。電磁波の一部は、誘電体部材13の内部を透過するが、誘電体部材13の内部の電界を指数関数的に減衰させることで異常放電を防止することができる。このように誘電体部材13の下面13rの下側の自由空間には放電が生じない程の弱い電界が放出される。
【0053】
ただし、誘電体部材13の下面13rと下面13rに対向する内壁10dの面との間の空間が狭いと、誘電体部材13の下面13rにて異常放電が生じる可能性がある。よって、誘電体部材13の下面13rは、処理容器10の内部空間に露出するようにする。そして、誘電体部材13の下面13rと、下面13rに対向する処理容器10の内壁10dの面との間隔は、5mm以上であることが好ましい。例えば、
図4(a)に示すように、誘電体部材13の第2の部分13bが、電磁波が伝播する内壁10dの凹部10gに挿入されている場合、誘電体部材13の下面13rと、下面13rに対向する内壁10dの面との間隔Gは、5mm以上であることが好ましい。これにより、誘電体部材13の下面13r下の自由空間にて異常放電が発生することを防止できる。凹部10gの深さは、15mm以上であることが好ましい。
【0054】
図4は、一実施形態に係る誘電体部材13の構成例として許容できる構成(
図4(a))と、許容できない構成(
図4(b)及び(c))とを示す図である。
図4は、シミュレーションの結果の一例である。
図4(a)は、誘電体部材13の厚さhが7mm、間隔Gが5mmの例を示す。誘電体部材13の厚さが十分にあるため、誘電体部材13の内部で電界の減衰が十分に起こる。かつ、誘電体部材13の下面13rと内壁10dの面との間隔Gが十分にあるため、誘電体部材13の下面13rの下の自由空間にて異常放電が発生することを防止できる。
【0055】
図4(b)は、誘電体部材13の厚さhが2mmの場合の例を示す。誘電体部材13の厚さが不十分なため、誘電体部材13の内部において電界の減衰が不十分になり、誘電体部材13の下面13r下の自由空間にて異常放電が発生している。
【0056】
図4(c)は、誘電体部材13の下面13rと、下面13rに対向する内壁10dの面との間隔Gが1mmの場合の例を示す。間隔Gが不十分なため、誘電体部材13の下面13r下の自由空間に放出する電界により、凹部10gの下面13rに対向する金属面で電界強度が高くなり、異常放電が発生している。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態に係るプラズマ処理装置1によれば、誘電体部材13をVHF帯以上の周波数の電磁波の伝播経路に設けることで、異常放電を防止することができる。
【0058】
今回開示された一実施形態に係るプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0059】
本開示のプラズマ処理装置は、radial line slot antenna、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…プラズマ処理装置、10…処理容器、12…載置台、13…誘電体部材、13a…誘電体部材の第1の部分、13b…誘電体部材の第2の部分、13c…排気孔、14…上部電極、15…排気機構、18…プレート、18h…ガス吐出孔、20…電磁波導入部、21…リング状誘電体、30…電源、32…整合器、40…配管、42…ガス供給器、201…導波路、r…導波通路、SP…処理空間、EX…排気空間、ES…排気路、W…基板