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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20231106BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
A61M5/20 570
A61M5/32 500
A61M5/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020572529
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019066814
(87)【国際公開番号】W WO2020002321
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】18305804.9
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・リーデル
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-527335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0013525(US,A1)
【文献】特開2017-205556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイス(10)であって:
外側本体部(20)と、
投与予定の薬剤のためのレセプタクル(12)と、
患者の身体内へ薬剤を投与するための針(14)と、
針(14)のための針ガード(30)であって、その遠位端に針(14)のための針開口部(35)を有する、針ガード(30)と、
針(14)および/またはレセプタクル(12)および/または針ガード(30)を薬剤送達デバイス(10)の軸方向(A)に動かすための起動機構と、を含み、
薬剤送達デバイス(10)は:
該薬剤送達デバイス(10)の向きを検出するための検出要素(50)であって、
該検出要素(50)は、少なくとも第1の位置(P1)と少なくとも第2の位置(P2)との間で可動であり、
検出要素(50)は、ユーザによって、薬剤送達デバイス(10)が薬剤を患者の身体内へ注射するために使用可能である向きで薬剤送達デバイス(10)が保持される場合、少なくとも第1の位置(P1)にあり、
検出要素(50)は、ユーザによって、薬剤送達デバイス(10)が薬剤を患者の身体内へ注射するために、使用されるべきではない向きで薬剤送達デバイス(10)が保持され、および/または使用に意図されない構成にある場合、少なくとも第2の位置(P2)にある、検出要素(50)と、
検出要素(50)が少なくとも第1の位置(P1)にある場合、起動機構を解放し、検出要素(50)が少なくとも第2の位置(P2)にある場合、起動機構をロックするロッキング機構(70)と、をさらに含み、
該ロッキング機構(70)は、解放位置(RP)とロッキング位置(LP)との間で可動であり、ロッキング機構(70)は、検出要素(50)が少なくとも第1の位置(P1)にある場合、解放位置(RP)をとり、ロッキング機構(70)は、検出要素(50)が少なくとも第2の位置(P2)にある場合、ロッキング位置(LP)をとり、
ロッキング機構(70)は、少なくとも1つのロッキング要素(72)を有し、各ロッキング要素(72)は、解放位置(RP)とロッキング位置(LP)との間で可動であり、
各ロッキング要素(72)は、戻り止め、ラチェット、またはラッチであり、各ロッキング要素(72)は、外側本体部(20)内、または外側本体部(20)において、回転可能または枢動可能に取り付けられ、
起動機構は、各ロッキング要素(72)の係合のため、または各ロッキング要素(72)を受容するための、凹部、アンダーカット部、またはステップ部(36)を有し、各ロッキング要素(72)は、ロッキング要素(72)がロッキング位置(LP)へ動かされたとき、凹部、アンダーカット部、またはステップ部(36)と係合状態にあり、
検出要素(50)は、カラーまたはリング(52)であり、検出要素(50)は、重力によって動かされる、前記薬剤送達デバイス。
【請求項2】
解放位置(RP)にあるロッキング機構(70)は、起動機構と係合状態になく、ロッキング位置(LP)にあるロッキング機構(70)は、起動機構と係合状態にあることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項3】
ロッキング機構(70)は、検出要素(50)によって制御および/または起動されることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項4】
各ロッキング要素(72)は、検出要素(50)によって、それぞれのロッキング位置(LP)へともたらされ、また起動機構と係合状態にされることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項5】
検出要素(50)は、検出要素(50)が第1の位置(P1)から第2の位置(P2)へ動くときに、ロッキング要素(72)と相互作用する面(56)を有する開口部(54)を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項6】
少なくとも第2の位置(P2)にある検出要素(50)は、ロッキング要素(70)をそれらのロッキング位置(LP)に閉じ込めることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項7】
レセプタクル(12)および針(14)は、シリンジを形成し、該シリンジは、起動機構によって薬剤送達デバイス(10)の軸方向(A)に可動であり、針(14)のための針ガード(30)は、外側本体部(20)の一体となった部材であり、針(14)のための針開口部(35)は、外側本体部(20)の遠位端にあることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
薬剤送達デバイス(10)は、自動注射器であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
針ガード(30)は、起動機構の一部であり、また外側本体部(20)に対して軸方向(A)に可動であり、ロッキング機構(70)は、検出要素(50)が少なくとも第1の位置(P1)にある場合、針ガード(30)の動きを解放し、検出要素(50)が少なくとも第2の位置(P2)にある場合、針ガード(30)の動きをロックすることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)を含み、また該薬剤送達デバイス(10)に取り付けられる、具体的には一次容器の形態にある、レセプタクル(12)を含むシステムであって、前記一次容器は、投与予定の薬剤を充填される、前記システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤送達デバイスは、典型的には、手動デバイスおよび自動注射器という2つのカテゴリーに分類される。従来の手動デバイスでは、針を通じて薬剤を押し出すために手動力が必要とされる。これは、典型的には、注射中に継続して押圧される必要のあるボタンまたはプランジャを介して行われる。自動注射デバイスは、患者にとって自己注射を容易にすることを目指す。従来の自動注射器は、ばねによって注射を投与するための力を提供することができ、トリガボタン、針ガード、または他の機構が、注射を起動するために使用される。自動注射器は、使い捨てまたは再使用可能なデバイスである。
【0003】
しかしながら、注射により薬剤を投与することは、患者および医療従事者にとっていくつものリスクおよび課題が存在するプロセスである。
【0004】
患者による、薬剤送達デバイス、特に自動注射デバイスの取り扱いの分析により、一部のユーザが、自動注射器を誤った向きで保持していたことが分かっている。これらのユーザは、自動注射器の針カバーを親指で押圧し、注射部位に対して起動ボタンを押圧することによってデバイスを起動しようとしていた。このことが、大半の場合において、親指への針刺し損傷をもたらしていた。
【0005】
前述の理由により、薬剤送達デバイスの不適切な取り扱い、特に、デバイスの誤った向きは、針刺し損傷を容易にもたらす可能性がある。
【0006】
したがって、患者またはユーザを、損傷、特に針刺し損傷から守る、薬剤送達デバイスが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、針刺し損傷のための低減されたリスクを有する、改善された薬剤送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の薬剤送達デバイスによって達成される。実施形態は、従属請求項の主題である。
【0009】
本発明によると、外側本体部と、投薬されるべき薬剤のためのレセプタクルと、患者の身体内へ薬剤を投与するための針と、針のための針ガードであって、その針遠位端に針のための開口部を有する、針ガードとを含み、また、針および/またはレセプタクルおよび/または針ガードを薬剤送達デバイスの軸方向に動かすための起動機構を含む、薬剤送達デバイスが提供される。
【0010】
薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスの向きを検出するための検出要素をさらに含み、検出要素は、少なくとも第1の位置と少なくとも第2の位置との間で可動であり、検出要素は、ユーザによって、薬剤送達デバイスが薬剤を患者の身体内へ注射するために使用可能である向きで薬剤送達デバイスが保持される場合、少なくとも第1の位置をとり、検出要素は、ユーザによって、薬剤送達デバイスが薬剤を患者の身体内へ注射するために、使用されるべきではない向きで薬剤送達デバイスが保持され、および/または使用に意図されない構成にある場合、少なくとも第2の位置をとる。それに加えて、薬剤送達デバイスは、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、起動機構を解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、起動機構をロックする、ロッキング機構をさらに含む。
【0011】
検出要素およびロッキング要素は、薬剤送達デバイスのユーザが、薬剤送達デバイスが適切に保持されない、または患者の身体に誤った向きで付着される場合に、もはや針によって損傷されることがないことを確実にする。
【0012】
薬剤送達デバイスが、ユーザによって、薬剤送達デバイスが使用されるべきではない向きで保持される場合、または、デバイスが、使用に意図されない構成にある場合、たとえば、デバイスが、薬剤送達デバイスの近位端が患者の身体の注射部位に面しており、注射針および針開口部を有する遠位端がユーザの手または親指に面している向きで保持される場合、検出要素は、少なくとも第2の位置をとり、ロッキング機構は、針がデバイスの針開口部から出てくることを防ぐ。これは、ロッキング機構が起動機構をロックしているためである。ユーザの手または親指は、針と接触することができない。
【0013】
しかしながら、薬剤送達デバイスが正しく保持および使用される場合、たとえば、デバイスが、注射針および針開口部を有する薬剤送達デバイスの遠位端が、患者の身体の注射部位に面しており、近位端がユーザの手または親指に面している向きで保持される場合、検出要素は、少なくとも第1の位置をとり、針は、薬剤を患者の身体内へ注射することができる。これは、ロッキング機構が、起動機構を解放しており、針がデバイスの針開口部を通って移動するのを可能にしているためである。ここでも、ユーザの手または親指は、針と接触することができない。
【0014】
ロッキング機構は、解放位置とロッキング位置との間で可動であり、ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、解放位置をとり、ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、ロッキング位置をとる。
【0015】
したがって、検出要素は、薬剤送達デバイスの向きを認識し、デバイスが正しくなく取り扱いをされると直ちにロッキング機構を制御および/または起動する。薬剤送達デバイスが正しく使用される場合、検出要素は、第1の位置に留まり、デバイスを正常に使用することができる。
【0016】
本発明の別の態様は、解放位置にある薬剤送達デバイスのロッキング機構が、起動機構と係合状態にない場合も、これに寄与する。その一方で、ロッキング位置にあるロッキング機構は、起動機構と係合状態にある。
【0017】
前述の理由により、検出要素およびロッキング機構は一緒に、薬剤送達デバイスのための配向安全防護対策を提供し、ロッキング機構は、検出要素によって制御および/または起動される。
【0018】
薬剤送達デバイスが適切に保持または使用される場合、患者の身体内への針によって注射を行うことができる。しかしながら、薬剤送達デバイスが不適切に保持または取り扱いをされる場合、配向安全防護対策は、針が針開口部から突出することができないため、患者またはユーザが針と接触することを防ぐ。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、ロッキング機構は、検出要素によって電子的および/または磁気的に制御される。そのような実施形態において、検出要素は、電子または磁気センサである。このセンサは、垂直方向に対して、および/または患者の身体に対して、薬剤送達デバイスの向きを検知している。さらには、このセンサは、電子的または磁気的手段を介してロッキング機構を制御するように適用される。
【0020】
本発明の別の実施形態において、ロッキング機構は、検出要素によって機械的に制御され、検出要素は、機械センサおよびアクチュエータである。このセンサおよびアクタは、垂直方向に対して、および/または患者の身体に対して、薬剤送達デバイスの向きを検知している。さらには、このセンサおよびアクタは、機械的手段を介してロッキング機構を制御するように適用される。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態において、ロッキング機構は、電気機械的な検出要素によって制御される。そのような実施形態において、検出要素は、電子、磁気、または機械センサである。このセンサは、垂直方向に対して、および/または患者の身体に対して、薬剤送達デバイスの向きを検知している。さらには、このセンサは、機械的または電子的な手段を介してロッキング機構を制御するように適用される。
【0022】
検出要素は、外側本体部内、または外側本体部に位置することができる。
【0023】
建設的に、ロッキング機構が少なくとも1つのロッキング要素を有する場合、各ロッキング要素が、解放位置とロッキング位置との間で可動であることが好ましい。
【0024】
各ロッキング要素は、戻り止め、ラチェット、ラッチ、または同様のものである。
【0025】
各ロッキング要素は、外側本体部内で回転可能または枢動可能に取り付けられる。
【0026】
ロッキング要素は、互いと反対側に薬剤送達デバイスの外側本体部内に配置される。しかしながら、それらを、外側本体部内に、円形かつ互いに対して等距離に配置することもできる。
【0027】
ロッキング機構のロッキング要素が常に確実に介在するように、起動機構は、各ロッキング要素の係合のため、または各ロッキング要素を受容するための、凹部、アンダーカット部、ステップ部、または同様のものを有し、各ロッキング要素は、ロッキング要素がロッキング位置へ動かされたとき、凹部、アンダーカット部、ステップ部、または同様のものと係合状態にある。
【0028】
本発明のさらなる態様において、薬剤送達デバイスのロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置から少なくとも第2の位置へと動いているとき、検出要素によって起動される。
【0029】
こうして、常に確実に作動することができる薬剤送達デバイスの特にコンパクトな設計を可能にする。
【0030】
各ロッキング要素は、検出要素によって、それぞれのロッキング位置へともたらされ、起動機構と係合状態にされ、少なくとも第2の位置にある検出要素は、ロッキング要素をそれらのロッキング位置に固定および/または固着させる。
【0031】
検出要素は、検出要素が第1の位置から第2の位置へ動くときにロッキング要素と相互作用する面を有する開口部を有する。
【0032】
少なくとも第2の位置にある検出要素は、ロッキング要素をそれらのロッキング位置に閉じ込めている。
【0033】
したがって、検出要素は、2つの機能を前提とする:検出要素は、デバイスが、ユーザによって、正しいまたは正しくない向きまたは位置で保持されるかどうかを検出する。ユーザがデバイスを誤った向きまたは様式で使用しているため、ユーザが針で自らを損傷するリスクがある場合、検出要素は、ロッキング要素を起動し、針が針開口部から抜け出すことを防ぐ。
【0034】
検出要素は、カラーまたはリングである。
【0035】
検出要素は、重力によって駆動される、または動かされる。
【0036】
加えて、または代替的に、ロッキング要素は、リセット力に対して検出要素によって駆動される。
【0037】
本発明の1つの実施形態において、レセプタクルおよび針は、シリンジを形成することができ、シリンジは、薬剤を患者の身体内へ投与するために、起動機構によって、または起動機構内で、薬剤送達デバイスの軸方向に可動である。これらの実施形態において、針のための針ガードは多くの場合、針のための針開口部が、外側本体部の遠位端内に形成され、外側本体部自体が針ガードとして作用しているように、外側本体部の一体となった部材である。
【0038】
そのような薬剤送達デバイス、たとえば、安全シリンジが、ユーザによって、たとえば、薬剤送達デバイスの近位端が患者の身体の注射部位に面しており、注射針および針開口部を有する遠位端が、ユーザの手または親指に面している誤った向きで保持される場合、検出要素は、少なくとも第2の位置をとり、ロッキング機構は、起動機構をロックするように、シリンジは、前進することができず、また針は、針開口部から外へ出ることができない。ユーザの手または親指が針先端において負傷することはできない。
【0039】
しかしながら、この薬剤送達デバイスが正しく保持および使用される場合、検出要素は、少なくとも第1の位置をとり、ロッキング機構は、起動機構をロックしない。シリンジは、前進して、針を介して薬剤を患者の身体内へ注射することができる。これは、ロッキング機構が起動機構を解放しており、シリンジが動くことを可能にしているためである。
【0040】
別の実施形態において、シリンジは、起動機構の一部であり、ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、シリンジの動きを解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、シリンジの動きをロックする。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、薬剤送達デバイスは、自動注射器であり、針ガードは、起動機構の一部であり、また外側本体部に対して軸方向に可動であり、ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、針ガードの動きを解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、針ガードの動きをロックする。
【0042】
そのような自動注射器が、ユーザによって、たとえば、薬剤送達デバイスの近位端が患者の身体の注射部位に面しており、注射針、針ガード、および針開口部を有する遠位端が、ユーザの手または親指に面している誤った向きで保持される場合、検出要素は、少なくとも第2の位置をとり、ロッキング機構は、針ガードをロックするように、それを外側本体部内へ押圧することはできない。針は、針開口部の外へ出ることができない。ユーザの手または親指が針において負傷することはできない。
【0043】
しかしながら、自動注射器が正しく保持および使用される場合、検出要素は、少なくとも第1の位置をとり、自動注射器を、針ガードの遠位端により、患者の身体の注射部位に対して押圧することができる。起動機構および針ガードは、ロッキング機構によってロックされない。針ガードは、外側本体部内へ動くことができ、またシリンジの注射機構を起動することができるように、針は、薬剤を患者の身体内へ注射することができる。
【0044】
しかしながら、検出要素およびロッキング機構によって提供される、薬剤送達デバイスのための上に説明されるような配向安全防護対策システムは、手動デバイスおよび自動注射器の両方のシステムにおいて使用することができる。特に、検出要素およびロッキング機構は、(可動)針ガードを有するすべての注射デバイスにおいて使用することができる。
【0045】
本発明の別の実施形態において、システムは、上に説明されるような薬剤送達デバイスを含み、また薬剤送達デバイスに取り付けられる、具体的には一次容器の形態にある、レセプタクルを含み、上記一次容器は、投与予定の薬剤を充填される。
【0046】
当業者は、本発明による薬剤送達デバイスおよびシステムが、針刺し損傷の低減されたリスクを伴って、安全に取り扱うため、および薬剤送達デバイスを安全に使用するための制御およびロッキング機構を含むということを理解する。
【0047】
以下の文において、薬剤送達デバイスおよび薬剤送達デバイスを含むシステムの特に有利な態様のセットは、それぞれの態様に言及することを容易にするために数字を利用することによって提供される。しかしながら、保護の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【0048】
態様1
薬剤送達デバイスであって、
外側本体部と、
投与予定の薬剤のためのレセプタクルと、
患者の身体内へ薬剤を投与するための針と、
針のための針ガードであって、その遠位端に針のための針開口部を有する、針ガードと、
針および/またはレセプタクルおよび/または針ガードを薬剤送達デバイスの軸方向に動かすための起動機構と、を含み、
薬剤送達デバイスは、
薬剤送達デバイスの向きを検出するための検出要素であって、
検出要素は、少なくとも第1の位置と少なくとも第2の位置との間で可動であり、
検出要素は、ユーザによって、薬剤送達デバイスが薬剤を患者の身体内へ注射するために使用可能である向きで薬剤送達デバイスが保持される場合、少なくとも第1の位置にあり、
検出要素は、ユーザによって、薬剤送達デバイスが薬剤を患者の身体内へ注射するために、使用されるべきではない向きで薬剤送達デバイスが保持され、および/または使用に意図されない構成にある場合、少なくとも第2の位置にある、検出要素と、
検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、起動機構を解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、起動機構をロックする、ロッキング機構と、をさらに含む、薬剤送達デバイス。
態様2
ロッキング機構は、解放位置とロッキング位置との間で可動であり、
ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、解放位置をとり、
ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、ロッキング位置をとることを特徴とする、態様1に記載の薬剤送達デバイス。
態様3
解放位置にあるロッキング機構は、起動機構と係合状態になく、ロッキング位置にあるロッキング機構は、起動機構と係合状態にあることを特徴とする、態様1または2に記載の薬剤送達デバイス。
態様4
ロッキング機構は、検出要素によって制御および/または起動されることを特徴とする、態様1~3のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様5
ロッキング機構は、少なくとも1つのロッキング要素を有し、各ロッキング要素は、解放位置とロッキング位置との間で可動であることを特徴とする、態様1~4のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様6
各ロッキング要素は、戻り止め、ラチェット、ラッチ、または同様のものであり、各ロッキング要素は、外側本体部内、または外側本体部において、回転可能または枢動可能に取り付けられることを特徴とする、態様5に記載の薬剤送達デバイス。
態様7
起動機構は、各ロッキング要素の係合のため、または各ロッキング要素を受容するための、凹部、アンダーカット部、ステップ部、または同様のものを有し、各ロッキング要素は、ロッキング要素がロッキング位置へ動かされたとき、凹部、アンダーカット部、ステップ部、または同様のものと係合状態にあることを特徴とする、態様5または6に記載の薬剤送達デバイス。
態様8
各ロッキング要素は、検出要素によって、それぞれのロッキング位置へともたらされ、また起動機構と係合状態にされることを特徴とする、態様5~7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様9
検出要素は、検出要素が第1の位置から第2の位置へ動くときに、ロッキング要素と相互作用する面を有する開口部を有することを特徴とする、態様5または8に記載の薬剤送達デバイス。
態様10
少なくとも第2の位置にある検出要素は、ロッキング要素をそれらのロッキング位置に閉じ込めることを特徴とする、態様5~9のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様11
検出要素は、カラーまたはリングであり、検出要素は、重力によって駆動されるか、または動かされることを特徴とする、態様1~10のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様12
レセプタクルおよび針は、シリンジを形成し、該シリンジは、起動機構によって薬剤送達デバイスの軸方向に可動であり、針のための針ガードは、外側本体部の一体となった部材であり、針のための針開口部は、外側本体部の遠位端にあることを特徴とする、態様1~11のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様13
薬剤送達デバイスは、自動注射器であることを特徴とする、態様1~11のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス。
態様14
針ガードは、起動機構の一部であり、また外側本体部に対して軸方向に可動であり、ロッキング機構は、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、針ガードの動きを解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、針ガードの動きをロックすることを特徴とする、態様1に記載の薬剤送達デバイス。
態様15
態様1~14のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイスを含み、また薬剤送達デバイスに取り付けられる、具体的には一次容器の形態にある、レセプタクルを含むシステムであって、一次容器は、投与予定の薬剤を充填される、システム。
【0049】
本発明のさらなる機能、詳細、および利点は、特許請求項の文言から、および図面を参照して例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】正しい向きで保持される、薬剤送達デバイスの一部の概略断面図である。
図2】誤った向きで保持される、図1の薬剤送達デバイスの一部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
薬剤送達デバイスまたはその構成要素に関する「近位」という用語の使用は常に、薬剤送達デバイスの正規使用のもと、患者の薬剤送達部位から離れて、または最も遠くに離れて、方向付けられる、または位置付けられる、方向、部分、端部、または同様のものを指す。
【0052】
薬剤送達デバイスまたはその構成要素に関する「遠位」という用語の使用は常に、薬剤送達デバイスの正規使用のもと、患者の薬剤送達部位に向けて、または最も近くに、方向付けられる、または位置付けられる、方向、部分、端部、または同様のものを指す。
【0053】
図1および図2は、検出要素50およびロッキング機構70を含む薬剤送達デバイス10のための配向安全防護対策の基本原理を概略的に示す。
【0054】
本発明の実施形態において、薬剤送達デバイス10は、手動デバイスとして設計される。
【0055】
本デバイスは、典型的には、外側本体部20と、投与予定の薬剤のためのレセプタクル12、たとえば、シリンジまたはカートリッジと、デバイス10の遠位端に提供される針14とを有する。レセプタクル12および針14は、好ましくは、シリンジを形成し、シリンジは、外側本体部内に可動で取り付けられ、起動機構(図示されない)によって外側本体部20の軸方向Aに駆動される。
【0056】
デバイス10が使用されていない場合、シリンジは、近位位置にあり、針14は、針ガード30によって隠されている。この針ガード30は、外側本体部20の一体となった部材であり、その遠位端において針14のための針開口部35を形成する。
【0057】
デバイス10が使用されている場合、シリンジは、前進しており、針14は、薬剤を患者の身体内へ投与するために針開口部35の外へ突出している。
【0058】
本発明の別の実施形態において、薬剤送達デバイス10は、自動注射器として設計される。
【0059】
そのようなデバイス10は、典型的には、シリンジなどの薬剤レセプタクル12を保持するように適用される外側本体部20を有する。シリンジは、デバイス10の遠位端に配置される針14を有する充填済みシリンジである。針14は、ニードルシース(図示せず)によって正常に守られる。薬剤レセプタクル12はまた、薬剤を含み、かつ取り外し可能な針14に係合する、カートリッジである。
【0060】
自動注射器10は、その遠位端31に針開口部35を有する針ガード30をさらに含む。この針ガード30は、2つの機能を有する。自動注射器10の使用前、ユーザは、注射部位に対して、針ガード30をその遠位端により押圧することによってデバイスを起動する。デバイス10の使用後、針ガード30は、外側本体部とロックし、針刺し損傷に対してユーザを守る。
【0061】
前述の理由により、針ガード30は、薬剤送達デバイス10が、薬剤を注射するために使用されていないとき、針14をカバーするように設計される。針ガード30は、外側本体部20内にはめ込まれ、ガードばね(図示せず)が、針ガード30を外側本体部20に対して遠位方向に付勢するために配置される。その初期位置では、針ガード30は、その遠位端31により、外側本体部20の遠位前端において開口部11を通って突出する。注射の後、針ガード30の外側部分は、より長く、針14をカバーする。
【0062】
薬剤送達デバイス10により薬剤を自動的に投与するため、注射機構が提供される(図示せず)。この機構は、たとえば、ばねによって駆動される、外側本体部20内のピストンを有する。
【0063】
プランジャ解放機構(これも図示せず)は、外側本体部20に対する針ガード30の引き込みの前のプランジャの解放を防ぐため、および針ガード30が十分に引き込まれたらプランジャを解放するため、外側本体部20内に配置される。
【0064】
注射機構のトリガは、起動機構により発生する。この機構は、トリガ要素(図示せず)を含むか、または針ガード30がトリガ要素として使用されるかのいずれかである。
【0065】
患者へ薬剤を投与するため、自動注射器10は、保護キャップ(図示せず)の取り外しの後、針ガード30の遠位端31により、患者の皮膚S上の注射部位に置かれる。
【0066】
自動注射器のさらなる詳細および特殊性は、たとえば、本出願者の特許出願EP2 923714 A1およびEP2 944340 A1において説明され、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれ、本明細書によりそれらの全体について言及される。
【0067】
薬剤送達デバイス10のすべての実施形態は、共通して、図1および図2に示され、以下にさらに説明されるような配向安全防護対策を有する。
【0068】
この配向安全防護対策は、薬剤送達デバイス10の向きを検出するための検出要素50と、薬剤送達デバイス10の起動機構および/または針ガード30を解放またはロックするロッキング機構70とを含む、制御およびロッキング機構として設計される。
【0069】
例示的な実施形態において、検出要素50は、外側本体部20の遠位端、したがって針ガード30の領域内に配置されるリング52である。リング52は、外側本体部20の内周21に対する画成された隙間の中で着座し、外側本体部20の軸方向Aに沿って、長手方向に変位可能に取り付けられる。リング52は、軸方向Aに対してある角度で針ガード30の外周32へ向けられ、かつ針ガード30を閉じ込める傾斜面56を有する中央開口部54をさらに有する。
【0070】
検出要素50、具体的にはリング52は、外側本体部20の遠位端における、図1に示される第1の位置P1と、第1の位置P1に対して近位の距離(名称なし)にある、図2に示される第2の位置P2との間で、軸方向Aに沿って外側本体部20内で可動である。
【0071】
ロッキング機構70は、戻り止め、ラチェット、ラッチ、または同様のものの形態にある少なくとも1つのロッキング要素72を有する。各ロッキング要素72は、第1の端73および第2の端74を有し、これにより、第1の端73は、外側本体部20の内周21において軸Dの周りで枢動可能に取り付けられる。この目的のため、外側本体部20には、たとえば、軸Dを支承する、フランジ、カラー22または同様のものが少なくとも部分的に提供される。
【0072】
ピボット軸Dの向きは、要素72が、2つの位置RP、LPの間で、針ガード30、および外側本体部20の中心軸Mに対して、半径方向に枢動することができるように配置される。図1に示される第1の位置RPは、ロッキング機構70およびそのロッキング要素72が針ガード30を解放する解放位置である。図2に示される第2の位置LPは、ロッキング機構70およびそのロッキング要素72が針ガード30をロックするロッキング位置である。
【0073】
図1および図2の例示的な実施形態は、針ガード30に対して両側に配置される2つのロッキング要素72を示す。しかしながら、好ましくは針ガード30の周りに等距離間隔で配置される3つ以上のロッキング要素72を使用することも可能である。
【0074】
後者には、ロッキング要素72の第2の端74の係合のため、またはそれを受容するための、凹部、アンダーカット部、ステップ部36、または同様のものが提供される。
【0075】
薬剤送達デバイス10は、手動デバイスとしても、自動注射器としても、ユーザによって、薬剤送達デバイス10が患者の身体内へ薬剤を注射するのに使用可能である、すなわち、針ガードの遠位端31が患者の皮膚Sの注射部位に対して押圧される正しい向きで、保持される場合、検出要素50は、第1の位置P1をとり、検出要素50は、重力によって、外側本体部20の遠位端における第1の位置P1へと動かされる。
【0076】
検出要素50は、このとき、ロッキング機構70のロッキング要素72と係合状態になく、ロッキング要素72は、それらの解放位置RPにある。
【0077】
針ガード30は、起動され、特に、外側本体部20内へ軸方向Aに動かされる。
【0078】
薬剤送達デバイス10が、ユーザによって、薬剤送達デバイス10が患者の身体内へ薬剤を注射するのに使用されるべきではない、すなわち、外側本体部20の近位端が患者の皮膚Sの注射部位に対して押圧され、ユーザの親指Fが針ガード30の遠位端31上へ押圧される誤った向きで、保持される場合、検出要素50は、重力によって、第2の位置P2へ動かされる。
【0079】
検出要素50が重力によって第2の位置P2へ動かされると、リング52の傾斜表面56は、ロッキング要素74の第2の端74と係合する。これにより、ロッキング要素72は、ロッキング要素72がそれらのロッキング位置LPに到達するまで、針ガード30の方へ内向きに半径方向に枢動される。このロッキング位置LPにおいて、ロッキング要素72の第2の端74は、外側本体部20に対してその位置にロックされる針ガード30の凹部、アンダーカット部、ステップ部36、または同様のものと係合状態にある。
【0080】
ロッキング機構70は、したがって、薬剤送達デバイスがこの誤った位置で保持される限り、検出要素50がロッキング要素72をそれらのロッキング位置LPに固定することから、検出要素50によって起動されるだけでなく、制御される。
【0081】
薬剤送達デバイス10が正しい向きで保持されるときのみ、リング52は、重力によって、第1の位置P1へ逆戻りし、ロッキング要素72は、それらの解放位置LPへ振り戻ることができる。
【0082】
これを支援するため、さらなる実施形態において、ロッキング要素72は、力、好ましくは、特に、針ガード30に対して外向きに半径方向に向けられるリセット力により適用される。
【0083】
ロッキング機構70、特にロッキング要素72は、解放位置RPとロッキング位置LPとの間で、外側本体部20内で可動であり、ロッキング機構70は、検出要素50が第1の位置P1にある場合、解放位置RPをとり、またロッキング機構70は、検出要素50が第2の位置P2にある場合、ロッキング位置LPをとるということが分かる。
【0084】
別の実施形態において、配向安全防護対策は、薬剤送達デバイス10の向きを検出するための検出要素50を含み、また薬剤送達デバイス10の針ガード30を解放またはロックするロッキング機構70を伴う、その制御およびロッキング機構を伴って、安全シリンジなどの他の薬剤送達デバイスに適用することができる。
【0085】
例示的な実施形態において、配向安全防護対策システムは、動くシリンジを伴うデバイスにも同様に適用することができる。これは、おそらくは、ロッキング機構70、特にシリンジの動きをロックするロッキング要素72を伴う。
【0086】
本出願における「薬剤」という用語は、同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。
【0087】
活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0088】
以下に記載されるように、薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含みうる。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられうる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0089】
薬剤は、薬剤送達デバイス10での使用に適合化された一次パッケージまたは薬剤レセプタクルもしくは容器に包含可能である。薬剤容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬剤もしくは薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルでありうる。
【0090】
たとえば、いくつかの場合には、レセプタクルまたはチャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬剤または薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジでありうるか、またはそれを含みうる。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0091】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0092】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかでありうる。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0093】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0094】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0095】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0096】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))である。
【0097】
DPP4阻害剤の例は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0098】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0099】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0100】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体でありうる。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体でありうる。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0101】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含みうるが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0102】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与しうるか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼしうる。
【0103】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0104】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0105】
当業者は、本明細書に説明されるAPI、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または除去)が、本発明の全範囲および趣旨から逸脱することなく行われ、本発明が、そのような修正およびそれらのありとあらゆる等価物を包含することを理解するものとする。
【0106】
設計詳細、空間的配置、および方法工程を含む、請求項、説明、および図面から生じるすべての機能および利点は、それ自体、および様々な組合せの両方において、本発明に必須である。
【0107】
しかしながら、当業者は、本発明が、外側本体部と、薬剤のためのレセプタクルと、薬剤の投与のための針と、薬剤を患者の身体に注射するための起動機構を有する注射機構と、針のための針ガードとを含む薬剤送達デバイスに関するということを認識する。薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスの向きを検出するための検出要素と、検出要素が少なくとも第1の位置にある場合、注射機構および/または起動機構および/または針ガードを解放し、検出要素が少なくとも第2の位置にある場合、注射機構および/または起動機構および/または針ガードをロックする、ロッキング機構であって、検出要素によって制御および/または起動される、ロッキング機構とをさらに含む。
【0108】
機械ラチェット72は、デバイス10が誤った向きで保持される場合、デバイス10の起動を阻止する。これらのラチェット72は、自動注射器10に内蔵されている。
【0109】
図1は、可動のラチェット72と共に、正しい向きにあるデバイス10の下部および針ガード30を示す。針ガード30は、デバイス10を皮膚Sに対して押圧することによって、押圧することができる。
【0110】
ユーザがデバイス10を誤った向きで保持する場合、重力が、検出要素50を下方へ動かす(図2)。リング52は、針ガード30に対してラチェット72を押圧し、それらをこの位置に固着させる。ラチェット72は、このときアクティブであり、針ガード30が押圧されることを阻止し、デバイス10を起動することはできない。
図1
図2