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  • 特許-切削インサートおよび加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】切削インサートおよび加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20231107BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23B1/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019068380
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163545
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月10日発表、2018年度日本機械学会年次大会、関西大学千里山キャンパス 平成30年9月3日発行、日本機械学会2018年度年次大会講演論文集
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亘
(72)【発明者】
【氏名】笹原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 章太
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-202733(JP,A)
【文献】特開2001-030101(JP,A)
【文献】実開昭63-021501(JP,U)
【文献】岩井学,外2名,「旋削バイトノーズの逃げ面を利用したバニシング加工」,2015年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,日本,2015年03月01日,417-418,https://doi.org/10.11522/pscjspe.2015S.0_417
【文献】薬師寺輝敏,外3名,「Ti-6Al-4V合金に行う切削摩擦加工とその効果」,日本機械学会論文集,日本,2014年,Vol.80,No.818,1-13,https://doi.org/10.1299/transjsme.2014smm0296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 1/00
B24B 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋削加工に用いられる多角形板状の切削インサートであって、
一対の多角形面のうち少なくとも一方に設けられるすくい面と、
前記すくい面が設けられた前記多角形面の外縁に設けられる切刃と、
前記切刃から板厚方向に沿って延びる逃げ面と、を有し、
前記切刃は、前記多角形面のコーナ部に位置するコーナ刃を含み、
前記逃げ面は、前記コーナ刃から板厚方向に沿って延びる湾曲部を有し、
前記湾曲部には、被削材の切削面に押し当てられることでバニシング加工を行う摺接領域が設けられ、
前記摺接領域の曲率半径は、前記コーナ刃の曲率半径より大きく、
前記湾曲部は、前記コーナ刃から板厚方向に離間するに従い連続的に曲率半径が大きくなる、
切削インサート。
【請求項2】
一方の多角形面の外縁にのみ切刃が設けられる片面型の切削インサートであって、
前記湾曲部は、板厚方向全長において、前記コーナ刃から板厚方向に離間するに従い連続的に曲率半径が大きくなる、
請求項に記載の切削インサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切削インサートを用いた加工方法であって、
前記切刃を回転軸線周りに回転する被削材に接触させて切削を行い切削面を形成する切削工程と、
前記摺接領域を前記切削面に押し当ててバニシングを行うバニシング工程と、を有する加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよび加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械部品の高性能化を実現するために様々な機械的性質の向上が求められている。このような要求に対し、加工面の金属表面をローラで押しなして表面粗さの改善や圧縮残留応力の付与を行うローラバニシング加工が提案されている。非特許文献1には、旋削後の工具の刃先位置を調整し逃げ面によりバニシング加工を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】岩井学,前田直樹,鈴木 清,“旋削バイトノーズの逃げ面を利用したバニシング加工”,2015 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,(2015),pp. 417-418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の切削インサートでは、バニシング加工を行う面の曲率半径が刃先の曲率半径と一致する。このため、バニシング加工後の加工面の面粗さが不十分であるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、切削加工およびバニシング加工を行うことができ、加工後の面粗さを向上できる切削インサートおよび加工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様の切削インサートは、旋削加工に用いられる多角形板状の切削インサートであって、一対の多角形面のうち少なくとも一方に設けられるすくい面と、前記すくい面が設けられた前記多角形面の外縁に設けられる切刃と、前記切刃から板厚方向に沿って延びる逃げ面と、を有し、前記切刃は、前記多角形面のコーナ部に位置するコーナ刃を含み、前記逃げ面は、前記コーナ刃から板厚方向に沿って延びる湾曲部を有し、前記湾曲部には、被削材の切削面に押し当てられることでバニシング加工を行う摺接領域が設けられ、前記摺接領域の曲率半径は、前記コーナ刃の曲率半径より大きい。
【0007】
上述の構成によれば、切削インサートは、切削加工を行った後に摺接領域において切削面をバニシング加工することができる。また、上述の構成によれば、摺接領域の曲率半径が、コーナ刃の曲率半径より大きい。摺接領域の曲率半径を大きくすることで、バニシング加工後の加工面の面粗さを向上させることができる。したがって、本実施形態によれば、コーナ刃の曲率半径に依存せずに摺接領域の曲率半径を大きくすることができ、バニシング加工後の加工面の面粗さを向上させることができる。一般的に、バニシング加工を行う場合、送り速度を低くすることで面粗さを向上できることが知られている。上述の構成によれば、摺接領域の曲率半径を大きくすることで、送り速度を高くしても所望の面粗さを実現することが可能となりバニシング加工のタクトタイムを短くすることができる。
なお、本明細書における「コーナ刃の曲率半径」とは、切削インサートの板厚方向と直交する仮想的な面内でのコーナ刃の曲率半径であり、いわゆる刃先R(又はノーズR)を意味する。
同様に、本明細書における「摺接領域の曲率半径」とは、板厚方向と直交する断面における摺接領域の曲率半径である。したがって、摺接領域の曲率半径は、板厚方向の位置によって変化してもよい。なお、摺接領域の曲率半径が、板厚方向の位置によって変化する場合、板厚方向の如何なる位置においても、摺接領域の曲率半径がコーナ刃の曲率半径より大きい。
【0008】
上述の切削インサートにおいて、前記湾曲部は、前記コーナ刃から板厚方向に離間するに従い連続的に曲率半径が大きくなる構成としてもよい。
【0009】
上述の構成によれば、摺接領域の境界部に段差が設けられる場合と比較して、切削インサートの剛性を高めて加工時に加わる応力に起因する切削インサートの損傷を抑制できる。
【0010】
上述の切削インサートにおいて、一方の多角形面の外縁にのみ切刃が設けられる片面型の切削インサートであって、前記湾曲部は、板厚方向全長において、前記コーナ刃から板厚方向に離間するに従い連続的に曲率半径が大きくなる構成としてもよい。
【0011】
上述の構成によれば、板厚方向の全長において湾曲部の曲率半径が連続的に変化する。このため、切削インサートの剛性をさらに高めることができる。
【0012】
本発明の一実施態様の加工方法は、上述の切削インサートを用いた加工方法であって、前記切刃を回転軸線周りに回転する被削材に接触させて切削を行い切削面を形成する切削工程と、前記摺接領域を前記切削面に押し当ててバニシングを行うバニシング工程と、を有する。
【0013】
上述の構成によれば、上述の切削インサートを用いて切削加工およびバニシング加工を連続的に行うことができる。すなわち、工作機械の冶具に取り付けられる工具を、切削加工用の工具からバニシング加工用の工具に付け替える必要がなく、製造工程の短時間化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切削加工およびバニシング加工を行うことができ、加工後の面粗さを向上できる切削インサートおよび加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態の刃先交換式バイトの分解斜視図である。
図2図2は、一実施形態の切削インサートの斜視図である。
図3図3は、一実施形態の刃先交換式バイトを用いた切削工程を示す図である。
図4図4は、一実施形態の刃先交換式バイトを用いたバニシング工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る切削インサート1について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の切削インサート1を有する刃先交換式バイト30の分解斜視図である。刃先交換式バイト30は、主軸回りに回転させられる金属材料の被削材に対して、旋削加工を施すバイトである。
【0017】
刃先交換式バイト30は、切削インサート1と、切削インサート1が着脱可能に装着される工具本体31と、切削インサート1を工具本体に取り付けるクランプ機構(図示略)と、シート部材35と、を有する。
【0018】
工具本体31は、軸状に延びる棒体である。本明細書では、工具本体31が延びる方向のうち、被削材Wの加工面に向かう方向を工具先端側といい、その反対側を工具基端側という。また、工具本体31が延びる方向に直交する方向のうち、切削インサート1のすくい面7が向く方向を上側として各部を説明する。なお、本明細書における上下方向は、単に説明のために用いられる方向であって、刃先交換式バイト30の使用時の姿勢を限定するものではない。
【0019】
工具本体31は、鋼材等からなる。工具本体31は、工具基端側に位置する基端部31bにおいて図示略の工作機械の冶具(刃物台)に着脱可能に保持される。また、工具本体31を保持する冶具は、不図示の旋盤等の工作機械(旋盤)に固定される。
【0020】
工具本体31の先端部31aには、切削インサート1が装着されるインサート取付座32が設けられる。また、工具本体31の先端部31aには、インサート取付座32に装着された切削インサート1の切刃5にクーラントを供給するクーラント供給孔が設けられていてもよい。
【0021】
インサート取付座32は、切削インサート1の形状に対応して切り欠かれるように形成された凹状である。凹状のインサート取付座32に配置された切削インサート1は、図示略のクランプ機構によって工具本体31に固定される。本実施形態では、切削インサート1が三角形板状に形成されているのに対応して、インサート取付座32は、工具先端側及び上方へ向けて開口する三角形穴状である。
【0022】
シート部材35は、例えば超硬合金等により形成されている。シート部材35は、切削インサート1が三角形板状に形成されているのに対応して、三角形板状である。シート部材35における表裏面のうち、裏面は、インサート取付座32の底面32aに当接する。シート部材35における表裏面のうち、表面は、切削インサート1が着座させられる取付面とされる。
【0023】
図2は、切削インサート1の斜視図である。
切削インサート1は、中心線Jに対し回転対称な平面視多角形板状(本実施形態では三角形板状)である。なお、以下の説明において、中心線Jに沿う方向のことを単に板厚方向と呼ぶ場合がある。
【0024】
切削インサート1は、板厚方向を向く一対の多角形面10と、一対の多角形面10同士を繋ぐ側面11と、を有する。切削インサート1には、板厚方向に貫通し一対の多角形面10にそれぞれ開口する平面視円形の取付孔15が設けられる。切削インサート1は、一方の多角形面10をインサート取付座32の底面32aを向けた状態で、取付孔15において、クランプ機構(図示略)により工具本体31に固定される。なお、切削インサート1と、インサート取付座32の底面32aとの間には、シート部材35が挟み込まれる。
【0025】
また、切削インサート1は、一対の多角形面10のうち一方に設けられるすくい面7と、側面11に設けられる逃げ面8と、すくい面7と逃げ面8との公差稜線に設けられる切刃5と、を有する。本実施形態の切削インサート1は、一方の多角形面10の外縁にのみ切刃5が設けられる片面型の切削インサートである。
【0026】
切削インサート1は、例えば、超硬合金等の硬質材料からなる。切削インサート1は、その外面のうち少なくとも切刃5近傍(切刃5、すくい面7及び逃げ面8)が硬質膜で被覆される。切削インサート1は、切刃5の一部が工具本体31の先端部31aから突出した状態で工具本体31に固定される。切刃5は、被削材Wの回転軸線Oの径方向を向く面、又は軸方向を向く端面に切削加工を施す。
【0027】
切刃5は、すくい面7が設けられた多角形面10の外縁に設けられる。本実施形態の切刃5は、多角形面10の外縁の全長に設けられる。しかしながら、切刃5は、多角形面10の外縁のうち、少なくともコーナ部に設けられていればよい。
【0028】
切刃5は、多角形面10のコーナ部に位置するコーナ刃5aと、コーナ刃5aの両端に接続して直線状に延びる一対の直線刃5bと、を有している。本実施形態の切刃5は、3つのコーナ刃5aと、一対のコーナ刃5a同士を繋ぐ3つの直線刃5bと、を有する。
【0029】
すくい面7は、一方の多角形面10の全域のうち、切刃5の近傍の領域に設けられる。すくい面7は、多角形面10のエッジの近傍において、エッジに沿って帯状に延びる。また、すくい面7は、切刃5によって切削加工を行う際に排出される切屑が接触(擦過)する領域である。本実施形態のすくい面7は、中心線Jと直交する平坦面である。しかしながら、すくい面7は、切刃5から中心線J側に近づくに従い下側に傾斜する面であってもよい。すくい面7は、ブレーカ溝の一部であってもよい。
【0030】
逃げ面8は、切刃5から板厚方向に沿って下側に延びる。逃げ面8は、切刃5によって被削材Wを切削する際に、被削材Wと対向配置される。逃げ面8は、コーナ刃5aから板厚方向に沿って延びる湾曲部8aと、直線刃5bから板厚方向に沿って延びる平坦部8bと、を有する。湾曲部8aは、中心線Jの径方向に凸となる凸曲面である。また、平坦部8bは、中心線Jと平行な平坦面である。
【0031】
湾曲部8aは、側面11の板厚方向の全長に設けられる。湾曲部8aは、板厚方向全長において、コーナ刃5aから板厚方向に離間するに従い連続的に曲率半径Rが大きくなる。すなわち、湾曲部8aは、コーナ刃5a側に向かうに従い先細りとなる円錐面である。湾曲部8aの上端の曲率半径は、コーナ刃5aの曲率半径rと一致する。上述したように、本実施形態の逃げ面8の平坦部8bは、中心線Jと平行な面である。したがって、湾曲部8aの先端は、切刃5から離れるに従い中心線Jに近づいて傾斜する。
なお、ここで湾曲部8aの曲率半径Rとは、板厚方向と直交する断面における湾曲部8aの曲率半径を意味する。
【0032】
湾曲部8aには、摺接領域2が設けられる。摺接領域2は、湾曲部8aの一部であって切刃5に対して板厚方向の下側に離間した一領域である。後述するように、摺接領域2は、被削材Wの切削面Waに押し当てられることでバニシング加工を行う。摺接領域2の表面には、バニシング加工に適した被膜で被覆される。この被膜は、CVDコーティング膜等の手段で形成される。
【0033】
上述したように、湾曲部8aの曲率半径Rは、コーナ刃5aから板厚方向に離間するに従って大きくなる。また、湾曲部8aの上端の曲率半径は、コーナ刃5aの曲率半径rと一致する。したがって、摺接領域2の曲率半径Rは、コーナ刃5aの曲率半径rより大きい。なお、本実施形態において、摺接領域2の曲率半径Rは、板厚方向の位置によって変化する。本実施形態において、摺接領域2の曲率半径Rは、板厚方向の如何なる位置においても、コーナ刃5aの曲率半径rより大きい。
【0034】
次に本実施形態の切削インサート1を用いた加工方法について図3および図4を基に説明する。
本実施形態の加工方法では、円柱状の被削材Wの外周面に対して、切削加工とバニシング加工とを順次行う。本実施形態の切削工程およびバニシング工程は、ともに旋盤を用いて行われる。本実施形態の切削工程およびバニシング工程は、被削材Wを回転軸線O周りに回転させながら行われる。
【0035】
図3は、刃先交換式バイト30を用いた切削工程を示す図である。
本実施形態の切削工程は、回転軸線Oの径方向外側を向く被削材Wの外周面を切削する。
【0036】
切削工程では、作業者は、まず、切削インサート1のすくい面7を被削材Wの回転方向と対向させた状態で、刃先交換式バイト30を旋盤の刃物台(冶具)に取り付ける。
さらに、作業者は、刃物台を操作して刃先交換式バイト30を移動させ、切刃5のコーナ刃5aを回転軸線O周りに回転する被削材Wの外周面に接触させる。
さらに、作業者は、回転軸線Oの径方向における切刃5の位置および姿勢を変えることなく、切刃5を回転軸線Oの軸方向に移動させる。これにより、切刃5によって被削材Wの外周面の切削を行い切削面Waが形成される。
作業者は、回転軸線Oの軸方向において十分な長さの切削面Waが形成された後に、刃先交換式バイト30を回転軸線Oの径方向外側に移動させる。これにより、切刃5が被削材Wから離間して切削工程が完了する。
【0037】
図4は、刃先交換式バイト30を用いたバニシング工程を示す図である。
バニシング工程は、切削工程の直後に行う。より具体的には、バニシング工程は、切削工程後に、被削材Wの回転を停止させることなく連続的に行うことができる。
【0038】
バニシング工程では、作業者は、まず、刃先交換式バイト30を移動させ、逃げ面8の湾曲部8aに設けられる摺接領域2を切削面Waと回転軸線Oの径方向に対向させる。
さらに、作業者は、刃先交換式バイト30を回転軸線Oの径方向内側に移動さえ摺接領域2を切削面Waに押し当ててバニシング加工を行う。
【0039】
バニシング工程において、摺接領域2が切削面Waに押し当てられることで、切削面Waに形成された凹凸が塑性変形する。これにより、バニシング加工後の被削材Wの加工面の面粗さを向上させることができる。加えて、被削材Wの表面に圧縮残留応力を付与して、バニシング加工後の被削材Wの加工面の硬度を高めることができる。
【0040】
本実施形態によれば、切刃5で切削加工を行った後に、摺接領域2において切削面Waをバニシング加工することができる。このため、加工手順において、切削工程を行う工具からバニシング加工を行う工具への付け替えの必要がなく、製造時のタクトタイムを短くして製造コストを圧縮できる。
【0041】
本実施形態によれば、摺接領域2の曲率半径Rが、コーナ刃5aの曲率半径rより大きい。摺接領域2の曲率半径Rを大きくすることで、バニシング加工後の加工面の面粗さを向上させることができる。本実施形態によれば、コーナ刃5aの曲率半径Rに依存せずに摺接領域2の曲率半径Rを大きくすることができ、バニシング加工後の加工面の面粗さを向上させることができる。
一般的に、バニシング加工を行う場合、送り速度を低くすることで面粗さを向上できることが知られている。本実施形態によれば、摺接領域2の曲率半径Rを大きくすることで、送り速度を高くしても所望の面粗さを実現することが可能となりバニシング加工のタクトタイムを短くすることができる。
【0042】
本実施形態によれば、湾曲部8aの曲率半径が板厚方向に沿って連続的に変化する。このため、摺接領域2の境界部に段差が設けられる場合と比較して、切削インサート1の剛性を高めて加工時に加わる応力に起因する切削インサート1の損傷を抑制できる。特に、本実施形態では、湾曲部8aの曲率半径は、側面11の板厚方向の全長において、板厚方向に沿って連続的に変化する。このため、切削インサート1の剛性をさらに高めることができる。
【0043】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、上述の実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【0044】
例えば、上述の実施形態では、切削インサート1が三角形板状に形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明の切削インサート1は、多角形板状であれば、矩形板状などの他の形状であってもよい。
【0045】
また、上述の実施形態の切削インサート1は、一方の多角形面10の外縁にのみ切刃5が設けられる片面型であるため、すくい面7は、一対の多角形面10のうち一方にのみ設けられる。しかしながら、切削インサートが、両方の多角形面の外縁に切刃を有する両面型である場合、すくい面は一対の多角形面10の両方に設けられる。すなわち、すくい面7は、一対の多角形面10のうち少なくとも一方に設けられる。
【0046】
また、上述の実施形態の切削インサート1は、逃げ面8を含む側面11が中心線Jに平行となるように形成されたネガティブインサートであるが、これに限定されるものではない。すなわち切削インサート1は、逃げ面8が、切刃5から板厚方向において離間するに従い中心線Jに近づくように傾斜するポジティブインサートであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…切削インサート
2…摺接領域
5…切刃
5a…コーナ刃
7…すくい面
8…逃げ面
8a…湾曲部
10…多角形面
O…回転軸線
r,R…曲率半径
W…被削材
Wa…切削面
図1
図2
図3
図4