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特許7378890目立てボード及び切削ブレードの目立て方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】目立てボード及び切削ブレードの目立て方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20231107BHJP
   B24B 53/12 20060101ALI20231107BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B24B53/00 K
B24B53/12 Z
H01L21/78 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019144197
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021024031
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】石井 隆博
(72)【発明者】
【氏名】坪井 紗代
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187692(JP,A)
【文献】特開2005-251909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00
B24B 53/12
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を切削する切削ブレードを切り込ませて該切削ブレードの目立てをするための目立てボードであって、
該被加工物と同じ材質でなり砥粒を含有しない基板と、
該基板上に設けられ、砥粒を含有する目立て部材と、を備え、
該基板及び該目立て部材は、該切削ブレードと接触して該切削ブレードを摩耗させることを特徴とする目立てボード。
【請求項2】
該基板の厚さは、0.2mm以上1mm以下であり、
該目立て部材の厚さは、0.05mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1記載の目立てボード。
【請求項3】
砥粒を含有しない基板と、該基板上に設けられ砥粒を含有する目立て部材と、を備える目立てボードを用いて、被加工物を切削する切削ブレードの目立てをする切削ブレードの目立て方法であって、
切削装置のチャックテーブルによって該目立てボードの該基板側を保持する保持工程と、
該切削ブレードを該目立てボードの該目立て部材側に切り込ませ、該切削ブレードで該被加工物と同じ材質でなる該基板を該目立て部材とともに切削する目立て工程と、を備えることを特徴とする切削ブレードの目立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削する切削ブレードの目立てをするための目立てボード、及び、該目立てボードを用いた切削ブレードの目立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造工程では、格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画された複数の領域にそれぞれIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハを分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に搭載される。
【0003】
ウェーハの分割には、ウェーハを保持するチャックテーブルと、ウェーハを切削する切削ユニットとを備える切削装置が用いられる。この切削装置の切削ユニットには、ウェーハを切削するための環状の切削ブレードが装着される。切削ブレードは、例えば、ダイヤモンドでなる砥粒を金属でなるボンド材で固定することによって形成される(特許文献1参照)。切削ユニットに装着された切削ブレードを回転させ、チャックテーブルによって保持されたウェーハに切り込ませることにより、ウェーハが切削され、分割される。
【0004】
切削ブレードによってウェーハを加工する前には、切削ブレードの先端部を摩耗させ、ボンド材から砥粒を適度に露出させる、目立てが実施される。この目立ての工程では、加工対象となるウェーハと同じ材質でなる目立て用のウェーハ(ダミーウェーハ)に切削ブレードを切り込ませ、ダミーウェーハを線状に切削する作業が繰り返される。この目立てを行うことにより、ボンド材が摩耗して砥粒がボンド材から適度に突出し、切削ブレードがウェーハの切削に適した状態となる。
【0005】
しかしながら、ダミーウェーハを用いて目立てを行う場合には、切削ブレードをダミーウェーハに多数回(例えば400回程度)切り込ませる必要があり、目立て作業に手間と時間がかかる。そのため、目立て作業を実施すると、切削装置によるウェーハの加工が長時間滞ってしまい、加工効率が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、砥粒を含有する目立て用のボード(目立てボード)に切削ブレードを切り込ませることにより、切削ブレードの目立てを行う手法が提案されている(特許文献2参照)。この目立て用ボードを用いると、ダミーウェーハを用いる場合と比較して切削ブレードの摩耗量が増大する。これにより、切削ブレードの目立てに必要な切り込み回数が低減され、目立て作業に要する工程数及び時間を大幅に削減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-87282号公報
【文献】特開2011-11280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、切削ブレードの目立てに砥粒を含む目立てボードを用いることにより、目立て作業の効率化を図ることができる。しかしながら、この目立てボードに切削ブレードを切り込ませると、切削ブレードの先端部でボンド材が激しく摩耗し、砥粒がボンド材から過度に突出しやすい。そして、砥粒の突出量が大きい状態の切削ブレードでウェーハを切削すると、ウェーハに欠け(チッピング)等の加工不良が発生し、デバイスチップの品質が低下することがある。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、加工不良の発生を抑制することが可能な目立てボード、及び、該目立てボードを用いた切削ブレードの目立て方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、被加工物を切削する切削ブレードを切り込ませて該切削ブレードの目立てをするための目立てボードであって、該被加工物と同じ材質でなり砥粒を含有しない基板と、該基板上に設けられ、砥粒を含有する目立て部材と、を備え、該基板及び該目立て部材は、該切削ブレードと接触して該切削ブレードを摩耗させる目立てボードが提供される。
【0011】
なお、好ましくは、該基板の厚さは、0.2mm以上1mm以下であり、該目立て部材の厚さは、0.05mm以上1mm以下である。
【0012】
また、本発明の他の一態様によれば、砥粒を含有しない基板と、該基板上に設けられ砥粒を含有する目立て部材と、を備える目立てボードを用いて、被加工物を切削する切削ブレードの目立てをする切削ブレードの目立て方法であって、切削装置のチャックテーブルによって該目立てボードの該基板側を保持する保持工程と、該切削ブレードを該目立てボードの該目立て部材側に切り込ませ、該切削ブレードで該被加工物と同じ材質でなる該基板を該目立て部材とともに切削する目立て工程と、を備える切削ブレードの目立て方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る目立てボードは、砥粒を含有しない基板と、砥粒を含有する目立て部材とを備える。そして、切削ブレードで基板を目立て部材とともに切削することにより、切削ブレードの目立てを実施できる。このとき、切削ブレードを基板に達するように目立てボードに切り込ませると、切削ブレードの先端部の摩耗が緩和される。これにより、切削ブレードの過剰な目立てが防止され、切削ブレードによって被加工物を加工する際における加工不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)は目立てボードを示す斜視図であり、図1(B)は目立てボードを示す断面図である。
図2】フレームによって支持された目立てボードを示す斜視図である。
図3】切削装置を示す斜視図である。
図4】切削ブレードが目立てボードに切り込む様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る目立てボードの構成例について説明する。本実施形態に係る目立てボードは、被加工物を切削する環状の切削ブレードの目立て(ドレッシング)に用いられる。
【0016】
切削ブレードは、被加工物に切り込んで被加工物を切削する加工工具であり、ダイヤモンド等でなる砥粒をボンド材で固定することによって形成される。例えば、切削ブレードとして、砥粒がニッケルめっき等で固定された切刃を備える電鋳ハブブレードや、砥粒が金属、セラミックス、樹脂等でなるボンド材によって固定された切刃からなる環状のブレード(ワッシャーブレード)が用いられる。
【0017】
切削ブレードによって切削される被加工物の例としては、例えば、格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画された複数の領域にそれぞれIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスを備えるシリコンウェーハが挙げられる。このシリコンウェーハを切削ブレードで切削して、分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。
【0018】
ただし、被加工物の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、被加工物は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料でなる、任意の形状及び大きさのウェーハであってもよい。また、被加工物に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物にはデバイスが形成されていなくてもよい。また、被加工物は、CSP(Chip Size Package)基板、QFN(Quad Flat Non-leaded package)基板等のパッケージ基板であってもよい。
【0019】
切削ブレードを回転させながら、切削ブレードの先端部を目立てボードに切り込ませると、目立てボードに接触する切削ブレードの先端部でボンド材が摩耗し、砥粒のボンド材からの突出量が大きくなる。このようにして切削ブレードの目立てが行われ、切削ブレードの切れ味が向上する。
【0020】
図1(A)は目立てボード11を示す斜視図であり、図1(B)は目立てボード11を示す断面図である。目立てボード11は、板状の基板(第1目立て層)13と、基板13上に設けられた板状の目立て部材(第2目立て層)15とを備える。基板13と目立て部材15とは、互いに接するように目立てボード11の厚さ方向に重ねられている。なお、図1(A)及び図1(B)では基板13と目立て部材15とがそれぞれ平面視で矩形状である例を示しているが、基板13及び目立て部材15の形状に制限はない。
【0021】
基板13は、砥粒を含有しない板状の部材であり、表面(第1面)13a及び裏面(第2面)13bを備える。例えば基板13は、切削ブレードによって切削される予定の被加工物と同じ材質でなる。切削ブレードによって切削される被加工物がシリコンウェーハである場合には、基板13としてシリコンでなる板状の部材を用いることができる。
【0022】
基板13の表面13a上には、目立て部材15が設けられている。目立て部材15は、砥粒を含有する板状の部材であり、表面(第1面)15a及び裏面(第2面)15bを備える。例えば目立て部材15は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂でなり、SiC等でなる砥粒を含有している。目立て部材15は、裏面15b側が基板13の表面13a側と接するように、基板13上に積層されている。
【0023】
目立て部材15は、基板13とは別途独立して形成された後に、基板13と貼り合わされてもよいし、基板13上に直接形成されてもよい。例えば、目立て部材15は、SiC等でなる砥粒をフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂に含浸させた後、この樹脂を板状に成形し、所定の温度(例えば150℃以上約200℃以下)で焼成することによって形成される。このように形成された目立て部材15は、例えば、接着剤によって基板13と接合される。
【0024】
また、目立て部材15は、スクリーン印刷等によって基板13の表面13a上に直接形成してもよい。スクリーン印刷を用いると、基板13上に薄い目立て部材15(例えば、厚さ100μm以下)を形成しやすくなる。
【0025】
また、砥粒を含浸させた樹脂を基板13の表面13a上に塗布した後、この樹脂を、スキージ等の工具を用いて基板13の表面13aに押し付けながら延ばすことにより、基板13の表面13a上に厚さが概ね均一な樹脂層を形成してもよい。その後、この樹脂層を焼成することにより、基板13上に目立て部材15が形成される。
【0026】
なお、基板13及び目立て部材15の厚さに制限はない。例えば、基板13の厚さは、0.2mm以上1mm以下とすることができる。また、目立て部材15の厚さは、0.05mm以上1mm以下とすることができる。基板13及び目立て部材15の厚さの具体的な値は、後述の通り目立ての条件に応じて適宜設定される。
【0027】
また、目立て部材15に含まれる砥粒の含有量、粒径等にも制限はない。例えば砥粒は、重量比で55%以上65%以下の比率で目立て部材15に含有される。また、目立て部材15に含まれる砥粒の粒径は、目立てが行われる切削ブレードの材質、厚さ、径等に応じて適宜設定される。例えば、目立て部材15には、平均粒径が0.1μm以上50μm以下である砥粒が含有される。
【0028】
上記の目立てボード11を用いて、切削ブレードの目立てが行われる。切削ブレードの目立てを行う際は、まず、目立てボード11を環状のフレームによって支持する。図2は、フレーム19によって支持された目立てボード11を示す斜視図である。
【0029】
目立てボード11の裏面側(基板13の裏面13b側)には、円形のテープ17が貼付される。テープ17は、基板13の裏面13b側の全体を覆うことが可能な大きさを有し、このテープ17の中央部に基板13の裏面13b側が貼付される。
【0030】
なお、テープ17の材料に制限はない。例えばテープ17は、円形の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを備える。基材は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなり、粘着層は、エポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。また、粘着層は、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型の樹脂であってもよい。
【0031】
テープ17の外周部は、金属等でなり中央部に円形の開口19aを備える環状のフレーム19に貼付される。なお、開口19aの直径は、目立てボード11の外接円の直径よりも大きく、目立てボード11は開口19aの内側に配置される。目立てボード11及びフレーム19にテープ17が貼付されると、目立てボード11がテープ17を介してフレーム19によって支持される。
【0032】
フレーム19によって支持された目立てボード11に切削ブレードを切り込ませることにより、切削ブレードの目立てが行われる。この切削ブレードの目立ては、切削装置を用いて実施される。図3は、切削装置2を示す斜視図である。
【0033】
切削装置2は、被加工物又は目立てボード11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)4を備える。チャックテーブル4の上面は、X軸方向(加工送り方向、前後方向、第1水平方向)及びY軸方向(割り出し送り方向、左右方向、第2水平方向)と概ね平行に形成され、被加工物又は目立てボード11を保持する保持面を構成している。この保持面は、チャックテーブル4の内部に形成された吸引路(不図示)を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0034】
チャックテーブル4の周囲には、目立てボード11を支持するフレーム19を把持して固定する複数のクランプ(不図示)が設けられている。また、チャックテーブル4は、チャックテーブル4をX軸方向に沿って移動させる移動機構(不図示)と、チャックテーブル4をZ軸方向(鉛直方向、上下方向)に概ね平行な回転軸の周りで回転させる回転機構(不図示)とに接続されている。
【0035】
チャックテーブル4の上方には、被加工物又は目立てボード11を切削する切削ユニット6が配置されている。切削ユニット6は円筒状のハウジング8を備え、このハウジング8内には、Y軸方向と概ね平行に配置された円筒状のスピンドル(不図示)が収容されている。
【0036】
スピンドルの先端部(一端部)はハウジング8の外部に露出しており、この先端部には環状の切削ブレード10が装着される。また、スピンドルの基端部(他端部)にはモータ等の回転駆動源が接続されている。スピンドルの先端部に装着された切削ブレード10は、回転駆動源からスピンドルを介して伝達される動力によって回転する。
【0037】
また、スピンドルの先端部に切削ブレード10が装着されると、切削ブレード10はハウジング8に固定されたブレードカバー12に覆われる。ブレードカバー12は、純水等の切削液が供給されるチューブ(不図示)に接続される接続部14と、接続部14に接続され切削ブレード10の両側面側(表裏面側)にそれぞれ配置される一対のノズル16とを備える。一対のノズル16にはそれぞれ、切削ブレード10に向かって開口する噴射口(不図示)が形成されている。
【0038】
接続部14に切削液が供給されると、一対のノズル16の噴射口から切削ブレード10の両側面(表裏面)に向かって切削液が噴射される。この切削液によって、切削ブレード10と、チャックテーブル4によって保持された被加工物又は目立てボード11とが冷却されるとともに、切削加工によって生じた屑(切削屑)が洗い流される。
【0039】
また、切削ユニット6には、切削ユニット6を移動させる移動機構(不図示)が接続されている。この移動機構は、切削ユニット6をY軸方向に沿って移動させるとともに、Z軸方向に沿って昇降させる。これにより、切削ブレード10のY軸方向及びZ軸方向における位置が制御される。
【0040】
切削装置2を用いて切削ブレード10の目立てを行う際は、まず、切削装置2のチャックテーブル4によって目立てボード11を保持する(保持工程)。具体的には、目立てボード11の表面側(目立て部材15の表面15a側)が上方に露出し、目立てボード11の裏面側(基板13の裏面13b側)がチャックテーブル4の保持面に対向するように、テープ17を介して目立てボード11をチャックテーブル4上に配置する。また、目立てボード11を支持するフレーム19を、チャックテーブル4の周囲に設けられた複数のクランプ(不図示)によって固定する。
【0041】
この状態で、チャックテーブル4の保持面に吸引源の負圧を作用させると、目立てボード11がテープ17を介してチャックテーブル4によって吸引される。これにより、目立てボード11の基板13側がチャックテーブル4によって保持される。
【0042】
次に、切削ブレード10を目立てボード11の目立て部材15側に切り込ませ、切削ブレード10で基板13を目立て部材15とともに切削する(目立て工程)。切削ブレード10を目立てボード11に切り込ませることにより、切削ブレード10の先端部が摩耗し、切削ブレード10の目立てが行われる。
【0043】
目立て工程では、まず、チャックテーブル4を回転させて、目立てボード11の一辺の長さ方向をX軸方向又はY軸方向に合わせる。また、切削ブレード10と目立てボード11とが平面視で重ならず、且つ正面視で重なるように、チャックテーブル4及び切削ユニット6の位置を調整する。
【0044】
さらに、切削ブレード10の先端部が目立てボード11の基板13に切り込むように、切削ユニット6のZ軸方向における位置を調整する。具体的には、切削ブレード10の下端10a(図4参照)が、基板13の表面13aより下方で、且つ、基板13の裏面13bよりも上方に配置されるように、切削ユニット6の高さを調整する。
【0045】
そして、切削ブレード10を回転させながら、チャックテーブル4をX軸方向に移動させて、目立てボード11と切削ブレード10とを相対的に移動させる(加工送り)。これにより、切削ブレード10が目立てボード11の目立て部材15側に切り込む。その結果、目立てボード11の基板13及び目立て部材15が切削ブレード10に接触して、切削ブレード10を摩耗させる。また、目立てボード11の目立て部材15側には、線状の切削溝11aが形成される(図3参照)。
【0046】
例えば、切削ブレード10を矢印Aで示す方向に回転させながら、チャックテーブル4を矢印Bで示す方向(後方)に移動させる。この場合、切削ブレード10の下端の移動方向とチャックテーブル4の移動方向とが一致するように、チャックテーブル4と切削ブレード10とが相対的に移動する。そして、切削ブレード10が目立てボード11の表面側(目立て部材15側)から裏面側(基板13側)に向かって切り込む、所謂ダウンカットが行われる。
【0047】
図4は、切削ブレード10が目立てボード11に切り込む様子を示す断面図である。切削ブレード10は、下端10aが基板13に達する切り込み深さDで、目立てボード11の目立て部材15側に切り込む。なお、切削ブレード10の目立てボード11への切り込み深さDは、目立てボード11の表面(目立て部材15の表面15a)と切削ブレード10の下端10aとの高さの差に相当する。
【0048】
また、切削ブレード10の目立てボード11への切り込み深さDは、切削ブレード10の目立て部材15への切り込み深さDと、切削ブレード10の基板13への切り込み深さDとの和に相当する。切り込み深さDは目立て部材15の厚さに相当し、切り込み深さDは基板13の表面13aと切削ブレード10の下端10aとの高さの差に相当する。
【0049】
切削ブレード10を目立てボード11に切り込ませると、切削ブレード10は、目立て部材15を表面15a側から裏面15b側に向かって切削して切断するとともに、基板13の表面13a側の一部を切削する。その結果、切削ブレード10の先端部でボンド材の摩耗が生じる。
【0050】
その後、切削ユニット6をY軸方向に移動させ(割り出し送り)、切削ブレード10を目立てボード11の切削溝11aが形成されていない領域に更に切り込ませる。そして、切削ブレード10の先端部で砥粒がボンド材から十分に突出するまで、同様の手順を繰り返す。これにより、切削ブレード10の目立てが行われ、切削ブレード10の切れ味が向上する。
【0051】
ここで、基板13は砥粒を含有しておらず、目立て部材15は砥粒を含有している。そのため、基板13は目立て部材15よりも切削ブレード10の摩耗を生じさせにくい。そして、切削ブレード10を目立てボード11に切り込ませると、切削ブレード10の先端部は目立て部材15と接触して摩耗するとともに、基板13と接触して僅かに摩耗する。
【0052】
このように、目立て部材15の下方に砥粒を含有しない基板13を配置し、切削ブレード10を基板13に達するように切り込ませると、切削ブレード10を目立て部材15のみに切り込ませる場合と比較して、切削ブレード10の先端部の摩耗が緩和される。これにより、切削ブレード10の先端部におけるボンド材の過剰な摩耗、及び砥粒の過剰な突出が防止される。その結果、後に切削ブレード10で被加工物を切削する際、被加工物に欠け(チッピング)等の加工不良が発生することを防止できる。
【0053】
他方、切削ブレード10の摩耗は、主に砥粒を含有する目立て部材15との接触によって生じる。そのため、従来のように切削ブレード10を被加工物と材質が同一で砥粒を含有しない目立て用のウェーハ(ダミーウェーハ)に切り込ませる場合と比較して、切削ブレード10の摩耗が促進される。その結果、切削ブレード10の目立てに要する工程数及び時間が削減される。
【0054】
なお、基板13は、後に切削ブレード10によって加工される被加工物と同じ材質でなることが好ましい。例えば、被加工物がシリコンウェーハである場合は、シリコンでなる基板13を用いることが好ましい。この場合、切削ブレード10の先端部が、被加工物と材質が同じ基板13と接触して摩耗する。その結果、切削ブレード10の先端部における砥粒の突出量が、被加工物の材質に合わせて最適化される。これにより、切削ブレード10が被加工物の切削に馴染むように目立てが行われ、切削ブレード10が被加工物の加工により適した状態となる。
【0055】
ただし、基板13の材質と被加工物の材質とは異なっていてもよい。この場合、基板13の材質は、被加工物の性質(脆性、延性、靭性等)に基づき、基板13と被加工物とで切削ブレード10を摩耗させる効果が同等となるように選択されることが好ましい。例えば、被加工物がGaAsウェーハである場合は、シリコンでなる基板13を用いてもよい。
【0056】
図4に示す切り込み深さD及び切り込み深さDの値は、切削ブレード10の材質、厚さ、径、目立てボード11の材質等に応じて、切削ブレード10の目立てが適切に実施されるように設定される。そして、この切り込み深さDと切り込み深さDとの値に基づき、目立て部材15の厚さ(切り込み深さDに対応)が設定される。例えば、切り込み深さDが0.25~0.3mm程度、切り込み深さDが0.05~0.1mm程度に設定される場合には、目立て部材15の厚さは0.2mm程度に設定される。
【0057】
基板13の厚さは、切り込み深さDよりも大きい値であれば制限はない。ただし、基板13の厚さは、基板13の剛性がある程度高くなり、目立てボード11に撓みが生じにくくなるように設定されることが好ましい。例えば、基板13の厚さは目立て部材15の厚さ以上、好ましくは目立て部材15の厚さの3倍以上に設定される。また、基板13の裏面13b側に目立てボード11を支持するサポート部材を固定して、目立てボード11の剛性を高めてもよい。
【0058】
以上の通り、本実施形態に係る目立てボード11は、砥粒を含有しない基板13と、砥粒を含有する目立て部材15とを備える。そして、切削ブレード10で基板13を目立て部材15とともに切削することにより、切削ブレード10の目立てを実施できる。このとき、切削ブレード10を基板13に達するように目立てボード11に切り込ませると、切削ブレード10の先端部の摩耗が緩和される。これにより、切削ブレード10の過剰な目立てが防止され、切削ブレード10によって被加工物を加工する際における加工不良の発生が抑制される。
【0059】
なお、目立て前の切削ブレード10は、その先端部で砥粒がほとんど露出していない状態となっている。この状態の切削ブレード10を目立てボード11に切り込ませると、目立てボード11及び切削ブレード10にかかる圧力(加工負荷)が大きくなり、目立てボード11及び切削ブレード10に割れ、欠け等が発生する恐れがある。そのため、目立ての前半での加工送り速度は、目立ての後半での加工送り速度よりも小さく設定することが好ましい。
【0060】
例えば、まず、切削ブレード10を所定の回転数(例えば30000rmp)で回転させるとともに、チャックテーブル4を第1の加工送り速度(例えば10mm/s)で移動させ、1回目の切削を行う(第1切削ステップ)。その後、切削ブレード10の回転数を維持したまま、チャックテーブル4を第1の加工送り速度よりも速い第2の加工送り速度(例えば40mm/s)で移動させ、2回目以降の切削を行う(第2切削ステップ)。
【0061】
このように、少なくとも1回目の切削におけるチャックテーブル4の加工送り速度を小さく設定することにより、加工負荷を低減し、目立てボード11及び切削ブレード10に割れ、欠け等が発生することを防止できる。なお、第1切削ステップ及び第2切削ステップにおける切削回数に制限はない。例えば、第1切削ステップにおける切削回数は1回、第2切削ステップにおける切削回数は10回以上50回以下程度に設定される。
【0062】
また、第1切削ステップにおける切削ブレード10の目立てボード11への切り込み深さを、第2切削ステップにおける切削ブレード10の目立てボード11への切り込み深さより小さく設定してもよい。この場合にも、第1切削ステップにおける加工負荷を低減することができる。
【0063】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0064】
11 目立てボード
11a 切削溝
13 基板(第1目立て層)
13a 表面(第1面)
13b 裏面(第2面)
15 目立て部材(第2目立て層)
15a 表面(第1面)
15b 裏面(第2面)
17 テープ
19 フレーム
19a 開口
2 切削装置
4 チャックテーブル(保持テーブル)
6 切削ユニット
8 ハウジング
10 切削ブレード
10a 下端
12 ブレードカバー
14 接続部
16 ノズル
図1
図2
図3
図4