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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20231107BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231107BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20231107BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20231107BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B24B27/06 M
H01L21/78 F
B24B49/10
B23Q17/09 G
G01H17/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019184693
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021058966
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(72)【発明者】
【氏名】津野 貴彦
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219756(JP,A)
【文献】特開2012-192511(JP,A)
【文献】特開2018-176394(JP,A)
【文献】特開2017-226027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
H01L 21/301
B24B 49/10
B23Q 17/09
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物を切削する切削ブレードを備えた切削手段と、該切削ブレードに切削水を供給する切削水供給手段と、該切削ブレードと該保持手段とを相対的に切削送り方向に移動させる切削送り手段と、該切削手段または該保持手段に配設され切削加工により該切削ブレードから発生される弾性波を検知するAEセンサと、制御手段と、を備える切削装置であって、
該制御手段は、該切削ブレードが被加工物を切削加工する際に発生した複数の周波数成分を含む弾性波を該AEセンサで検知し、該AEセンサが検知した弾性波信号をフーリエ変換して、該切削ブレードから発生されているであろう該弾性波信号の周波数帯域を2つ以上特定し、該特定の周波数帯域で測定された弾性波信号を継続して記録し、所定の時間内で記録された該弾性波信号の周波数帯域の値の集合から、近似値を表す多項式を求め、被加工物を切削したときに測定されるであろう該弾性波信号の周波数帯域の値の予測値を得て、所定の時間内で記録された該弾性波信号の周波数帯域の値の予測値と該弾性波信号の周波数帯域で実際に測定された実測値の差分の集合における、被加工物を切削したときに測定された2つ以上の該弾性波信号おのおのの該予測値と該実測値の差分のマハラノビス汎距離を求め、該マハラノビス汎距離があらかじめ設定した閾値を越えたら、該切削ブレードで被加工物を切削したカーフにチッピングが発生し切削加工に異常があると判断する、切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削加工する切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャックテーブルに保持された被加工物を切削ブレードで切削する切削装置は、切削ブレードに切削水を供給しながら、切削ブレードと被加工物とを接触させて被加工物を切削加工している。切削加工においては、切削ブレードの目詰まりや、目つぶれ、欠け等の発生により、または切削送り速度の設定間違いなどにより、切削ブレードが通常よりも大きく振動して被加工物の表面にチッピングが発生する可能性がある。
【0003】
そのため、発生したチッピングを検知するために、特許文献1及び特許文献2に開示されているように、切削加工中に切削ブレードの振動をAEセンサで検知して切削ブレードの振動の大きさ(AE値)が閾値を超えた場合に被加工物にチッピングが発生していると判断する手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-170745号公報
【文献】特開2018-117092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した切削ブレードは、切削加工によって磨耗する。切削ブレードの摩耗量に応じてAEセンサが検知する弾性波信号の大きさ(AE値)は変化し、また変化量および変化率は周波数帯域によって異なる。そのため、切削加工中に切削ブレードに負荷がかかり大きな振動が発生するなどのような加工異常が発生していないにも関わらずAE値が切削ブレードの摩耗に従って増大して、あらかじめ設定された閾値を超えてしまい、加工異常と誤判定してしまう場合がある。
【0006】
上記とは逆に、該特徴量が切削ブレードの摩耗に従って減少してしまうことにより、実際に加工異常が発生しているにもかかわらず、AE値があらかじめ設定された閾値を超えることができず、正常な加工であると誤判定してしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物を切削する切削ブレードを備えた切削手段と、該切削ブレードに切削水を供給する切削水供給手段と、該切削ブレードと該保持手段とを相対的に切削送り方向に移動させる切削送り手段と、該切削手段または該保持手段に配設され切削加工により該切削ブレードから発生される弾性波を検知するAEセンサと、制御手段と、を備える切削装置であって、該制御手段は、該切削ブレードが被加工物を切削加工する際に発生した複数の周波数成分を含む弾性波を該AEセンサで検知し、該AEセンサが検知した弾性波信号をフーリエ変換して、該切削ブレードから発生されているであろう弾性波信号の周波数帯域を2つ以上特定し、所定の時間内における弾性波信号の該特定の該周波数帯域のAE値を記録し、該記録したAE値から切削加工中の弾性波信号の該周波数帯域のAE値を予測し、実際に測定された弾性波信号の該周波数帯域のAE値との差分に基づいてチッピングなどの加工異常を検知する制御手段を具備している。
【0008】
該制御手段では、弾性波信号から周波数帯域を2つ以上特定し、該特定の該周波数帯域で測定されたAE値を継続して記録する。
また、該制御手段では所定の時間内で記録された弾性波信号から最小二乗法により近似値を表す多項式を求めることで、切削ブレードの摩耗に応じたAE値を予測する。
【0009】
該制御手段では所定の時間内で記録された弾性波信号全てにおいても、該時間内の弾性波信号から近似値を表す多項式により予測された該特定周波数帯域のAE値(予測AE値)と該時間内で実際に記録された該特定周波数帯域のAE値(実測AE値)との差分を求めることで、切削ブレードの摩耗による変動の影響を受けずに弾性波信号のばらつきの大きさを求めることができ、2つ以上の該周波数帯域で測定された弾性波信号のばらつきの大きさを用いることで、分散共分散行列を求めることができる。
また、該制御手段では上述の分散共分散行列と、2つ以上の周波数帯域の予測AE値と実測AE値との差分値から、該時間内で記録された全ての予測AE値と実測AE値の差分同士の相関関係を考慮した平均からの外れ度合い(マハラノビス汎距離)を求めることができる。
該マハラノビス汎距離をあらかじめ設定した閾値等と比較することで、切削加工に異常があると判断することができる、切削装置。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】切削装置全体を表す斜視図である。
図2】切削手段を構成する要素を表した斜視図である。
図3】切削手段を表す断面図である。
図4】弾性波信号の時間軸波形を表すグラフである。
図5】弾性波信号の周波数軸波形を表すグラフである。
図6】弾性波信号の変化の傾向を表すグラフである。
図7】弾性波信号の相関関係と外れ値を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 切削装置の構成
切削装置1は、図1に示すように、保持手段15において保持された被加工物Wの表面Waに切削手段40に備える切削ブレード43を切り込ませて、被加工物Wを切削加工する切削装置である。図1に示す切削装置1は、二つの切削手段40を備えるデュアルダイサーであるが、切削装置はこれに限定されるものではなく、一つの切削手段を備えた切削装置でもよい。半導体ウェーハ等である被加工物Wの表面Waに形成された分割予定ラインLによって区画された領域には、各々デバイスDが備えられており、分割予定ラインLに沿って切削ブレード43を切り込ませることで被加工物Wを個々のデバイスDに分割することができる。被加工物Wの裏面Wbには貼着テープTが貼着されており、被加工物Wに貼着された貼着テープTの端部が環状のフレームFに貼着されることで、被加工物WがフレームFに支持されている。切削装置1には、ベース10とベース10上における-X側に立設された門型コラム13とが備えられている。
【0012】
ベース10の上における中央には、円形の板状テーブルである保持手段15と、保持手段15を下から囲繞するカバー11と、カバー11に連結された蛇腹カバー12とが備えられている。保持手段15は、吸引部150と吸引部150を支持する枠体151とを備え、吸引部150の上面は被加工物Wが載置される保持面150aとなっている。保持手段15の下方には、吸引手段80が配設されており、保持面150aと吸引手段80とが接続されている。保持面150aに被加工物Wが載置された状態で、吸引手段80によって生み出される吸引力を吸引部150に伝達することで、保持面150aに被加工物Wを吸引保持することができる。
【0013】
また、保持手段15に隣接された位置には、保持手段15を四方から囲むようにして四つのクランプ17が配設されており、保持面150aに環状のフレームFに支持された状態の被加工物Wを載置して、フレームFを四つのクランプ17を用いて四方から挟持することで、被加工物Wを保持手段15に固定することができる。さらに、保持手段15の下側には、有底筒状のケーシング83が接続されており、ケーシング83の内部には、保持手段15をZ軸方向の回転軸82のまわりに回転させる回転手段81が配設されている。
【0014】
ベース10の内部には、被加工物Wを保持する図示しないカセットを収容するカセット収容エリア20が備えられている。カセット収容エリア20の上面は、ステージ22となっており、被加工物Wを保持したカセットが載置された状態のステージ22がカセット昇降手段21により昇降移動して、カセットの高さ位置が調整される。
【0015】
ベース10の上における保持手段15を挟んでカセット昇降手段21と対向する位置には洗浄手段24が配設されている。洗浄手段24には、スピンナーテーブル25と、洗浄水ノズル26とが備えられている。図示しない昇降手段によって被加工物Wを保持したスピンナーテーブル25をベース10の内部に降下させ、図示しない回転手段によってスピンナーテーブル25を回転させながら、洗浄水ノズル26から洗浄水を噴きつけることで被加工物Wを洗浄することができる。また、被加工物Wを洗浄した後、洗浄水の噴射を停止し、引き続き被加工物Wを回転させることで、表面Waに付着している水滴が、表面Waの外側に向かって飛ばされる。これにより被加工物Wの表面Waを乾燥させることができる。
【0016】
ベース10の内部には、切削送り手段18が配設されている。切削送り手段18は、X軸方向の回転軸184を有するボールネジ180と、ボールネジ180に平行に配設された一対のガイドレール181と、ボールネジ180の一端に接続されたモータ182と、内部のナット構造がボールネジ180に螺合し底部がガイドレール181に摺接する可動板183とを備える。また、可動板183は、ケーシング83を介して保持手段15を支持している。モータ182により駆動されてボールネジ180がX軸方向の回転軸184のまわりに回転すると、可動板183がガイドレール181に案内されてX軸方向である切削送り方向に移動し、これに伴いケーシング83を介して可動板183に支持された保持手段15が可動板183とともにX軸方向に移動する構成となっている。なお、保持手段15がX軸方向に移動する際には、保持手段15を囲繞するカバー11がX軸方向に保持手段15と一体的に移動し、カバー11がX軸方向に移動すると、蛇腹カバー12が伸縮することとなる。
【0017】
門型コラム13の左右の側壁には、二つの切削手段40がそれぞれ配設されている。二つの切削手段40は同様に構成されており、その構成要素には同じ符号を付す。
【0018】
切削手段40には、切削ブレード43と、切削ブレード43を支持するスピンドル42と、スピンドル42を収容する四角筒状のスピンドルハウジング41とが備えられている。スピンドルハウジング41には、ブレードカバー45が取り付けられている。ブレードカバー45の中央部には、切削ブレード43を取り付けるための開口部が備えられており、切削ブレード43の外周縁の上方から側方にかかる領域を覆っている。また、ブレードカバー45の下部には、被加工物Wを切削する際に切削ブレード43や、被加工物Wと切削ブレード43とが接触する部分に切削水を供給するノズルを備えた切削水供給手段46が上下動可能に取り付けられており、切削加工時には、図示しない切削水供給源から切削水供給手段46に給水がなされて、切削水供給手段46から切削ブレード43や、被加工物Wと切削ブレード43とが接触する部分に切削水を供給しながら被加工物Wを切削することとなる。
【0019】
図2及び図3に示すように、スピンドルハウジング41の先端面41aには、スピンドル42の先端側をカバーするカバー部材47が取り付けられている。カバー部材47には一対のブラケット48が配設されており、スピンドル42の先端部分をカバー部材47の開口49から突出させた状態で、カバー部材47がブラケット48を介してスピンドルハウジング41にねじ止めされて、カバー部材47とスピンドル42とが連結されている。
【0020】
ブレードマウント51は、円板状のフランジ部56とフランジ部56の表面56a(-Y方向側)に形成されたボス部53とを備えている。フランジ部56の背面56b(+Y方向側)には、図3に示すように、スピンドル42の先端に装着される嵌合穴52が形成されている。ボス部53には、円形凹部54が形成され、円形凹部54の底面には、嵌合穴52に連なる貫通穴55が形成されている。ブレードマウント51の貫通穴55からスピンドル42の先端面42aが露出した状態で、ブレードマウント51にスピンドル42がはめ込まれ、スピンドル42の先端面42aのネジ穴44に固定ボルト59がワッシャ58を介して締め付けられることで、スピンドル42にブレードマウント51が固定されている。
【0021】
切削ブレード43は円形のハブ基台61と、ハブ基台61の外周縁に環状に配設された切り刃62とを備えるハブブレードであり、ハブ基台61の円の内側には挿入穴63が形成されている。この挿入穴63がボス部53に押し込まれて、ハブ基台61からボス部53が突出される。そして、ボス部53の突出部分に形成された雄ネジ57に固定ナット65が締め付けられてブレードマウント51に切削ブレード43が固定される。
【0022】
切り刃62は、金属や樹脂等の結合材にダイヤモンドやCBN等の砥粒を混合して所定厚みに形成されている。なお、切削ブレード43は、切り刃62のみによって構成されたワッシャブレードを用いてもよい。
【0023】
図3に示すように、ブレードマウント51のフランジ部56には、AEセンサ71が配設されている。AEセンサ71は圧電素子を有しており、切削加工時に切削ブレード43から発生してブレードマウント51に伝わった弾性波を、電気的な検出信号である弾性波信号に変換して出力することができる。
【0024】
ブレードマウント51とカバー部材47との境界領域において、ブレードマウント51側では、AEセンサ71に第1のコイル手段73が接続されており、さらに、カバー部材47側では、第1のコイル手段73に第2のコイル手段74が接続されている。AEセンサ71により弾性波が検知されると、AEセンサから弾性波信号が第1のコイル手段73に送信され、さらに、第1のコイル手段73から磁気的な相互誘導作用によって第2のコイル手段74に伝達されることとなる。
【0025】
第1のコイル手段73に磁気的に結合されている第2のコイル手段74には、制御手段75が接続されている。制御手段75には、AEセンサ71で検出された時間軸波形を周波数解析する解析手段76と、周波数解析の結果からチッピングが形成されているかどうかを判断する判断手段77とが備えられている。AEセンサ71で検出された弾性波信号が、第1のコイル手段73及び第2のコイル手段74を介して制御手段75に伝達された後、その時間軸波形が解析手段76においてフーリエ変換されて周波数軸波形に変換されることとなる。
【0026】
また、制御手段75には、判断手段77によってチッピングが発生していると判断された場合にオペレータ等にその旨を報知する報知手段78が備えられている。
【0027】
図1に示すように、門型コラム13には、上記の構成の二つの切削手段40をそれぞれ、Y軸方向及びZ軸方向に移動させる割り出し送り手段30及び切込み送り手段35が備えられている。
【0028】
割り出し送り手段30には、Y軸方向の軸心を有するボールネジ33と、ボールネジ33をY軸に平行な回転軸330のまわりに回動させるモータ34と、ボールネジ33に平行に配設されたガイドレール31と側部のナットがボールネジ33に螺合してガイドレール31に摺接する可動板32とが備えられている。モータ34によって駆動されて、ボールネジ33が回転軸330のまわりに回転すると、これに伴い可動板32がガイドレール31に案内されてY軸方向に移動する構成となっている。
【0029】
また、切込み送り手段35には、Z軸方向の軸心を有するボールネジ38と、ボールネジ38をZ軸に平行な回転軸380のまわりに回動させるモータ39と、ボールネジ38と平行に配設されたガイドレール36と、側部のナットがボールネジ38に螺合してガイドレール36に摺接する支持部材37とを備えている。モータ39により駆動されてボールネジ38が回転すると、支持部材37がガイドレール36に案内されてZ軸方向に移動する。
【0030】
支持部材37の下端には、スピンドルハウジング41が連結されており、支持部材37がY軸方向及びZ軸方向に移動すると、これに伴い切削手段40が同じくY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0031】
スピンドルハウジング41の側面にはアライメント手段9が配設されている。アライメント手段9は、被加工物Wを撮像するカメラ90を備えており、カメラ90は、例えば、被加工物Wに光を照射する光照射部と、被加工物Wからの反射光を捕らえる光学系および反射光に対応した電気信号を出力する撮像素子(CCD)とを備えている。アライメント手段9は、カメラ90によって取得した画像に基づいて、被加工物Wの切削すべき分割予定ラインLを検出することができる。アライメント手段9と切削手段40とは一体となって構成されており、両者は連動してY軸方向及びZ軸方向へと移動する。
2 切削装置の動作
【0032】
(切削加工)
上記の切削装置1によって被加工物Wを切削加工する際の切削装置1の動作について説明する。なお、被加工物Wには貼着テープTが貼着されており、その状態で貼着テープTが環状のフレームFに把持されることで被加工物WがフレームFによって固定されている。
【0033】
まず、カセット収容エリア20において、カセット昇降手段21によってステージ22を上昇させ、フレームFに固定された被加工物Wが載置されたカセットをベース10の上方に位置付けた後、図示しないアーム等によって環状のフレームFを把持して保持手段15の保持面150aの上に載置させ、吸引手段80によって生み出される吸引力を保持面150aに伝達させて保持面150aの上で被加工物Wを吸引保持する。そして、四つのクランプ17でフレームFを四方から挟持して固定する。
【0034】
その後、切削送り手段18のモータ182の駆動力によりボールネジ180を回転軸184のまわりに回転させることで、ガイドレール181に沿って可動板183及び可動板183に支持された保持手段15を-X方向に移動させ、保持手段15に吸引保持されている被加工物Wをアライメント手段9の下方に位置付ける。被加工物Wをアライメント手段9の下方に位置付けた後、カメラ90によって被加工物Wの表面Waを撮像する。カメラ90によって撮像された被加工物Wの表面Waの画像に、アライメント手段9によるパターンマッチング等の画像処理が行われ、二つの切削ブレード43を切り込ませるべき分割予定ラインLが検出される。
【0035】
アライメント手段9によって分割予定ラインLが検出されるのに伴って、切削手段40が割り出し送り手段30によってY軸方向に駆動され、切削すべき分割予定ラインLと切削ブレード43とのY軸方向における位置合わせが行われる。分割予定ラインLと切削ブレード43とのY軸方向の位置合わせにおいては、上記のパターンマッチングの結果を基に、割り出し送り手段30のモータ34によってボールネジ33を回転軸330のまわりに回転させることで、これに伴い可動板32がガイドレール31に沿ってY軸方向に移動し、可動板32に接続された支持部材37及び、支持部材37に支持された切削手段40がY軸方向に移動する。
【0036】
Y軸方向の位置合わせが完了した後、切削手段40のスピンドル42を図示しないモータにより回動させ、スピンドル42に接続された切削ブレード43を回転させる。切削ブレード43が回転している状態で、切込み送り手段35のモータ39によってボールネジ38を駆動させてボールネジ38を回転軸380のまわりに回転させ、切削ブレード43をZ軸方向に降下させる。これにより、切削ブレード43が切削加工を開始するための高さ位置に位置付けられる。
【0037】
上記のように、切削ブレード43を切り込ませるべき分割予定ラインLの位置に位置付け、さらに、切削加工開始のための高さ位置に位置付けた後、切削加工を開始する。その際は、被加工物Wを保持する保持手段15が所定の切削送り速度でさらに-X方向に送り出されることで、保持手段15と切削ブレード43とが相対的に所定速度で切削送り方向(X軸方向)に移動し、切削ブレード43が高速回転しながら被加工物Wの検出された分割予定ラインLに切り込み、その分割予定ラインLが切削される。
【0038】
次に、隣り合う分割予定ラインLの間隔だけ切削手段40をY軸方向に割り出し送りし、同様の切削を行うことにより、切削済みの分割予定ラインLの隣の分割予定ラインLを切削する。このようにして、割り出し送りと切削とを繰り返し行うことにより、同方向の分割予定ラインLがすべて切削される。そして、回転手段81により保持手段15を90度回転させてから同様の切削を行い、すべての分割予定ラインLが縦横に切削され、被加工物Wを個々のチップに分割できる。

なお、切削加工は、下記の様な加工条件が用いられる。
切削ブレード:砥粒径 #2000~#3000
切削ブレード幅(カーフ幅):20~30μm
被加工物材質:シリコン
切削送り速度:50~100mm/sec
スピンドル回転数:20000min-1~30000min-1
【0039】
(チッピング検出)
上記のように切削装置1を作動させて被加工物Wを切削加工する間、切削手段40のブレードマウント51に取り付けられているAEセンサ71によって切削中に発生する複数の周波数成分を含む弾性波を検知し、検知された弾性波を第1のコイル手段73及び第2のコイル手段74に磁気的に伝達して制御手段75に電気信号として送信する。制御手段75では、例えば図4に示す情報を取得する。図4においては、横軸を時間(t)、縦軸を切削加工時にAEセンサ71が検知する弾性波信号の値であるAE値(V)として、弾性波のAE値の時間的変化のデータである時間特性データを表した時間軸波形のグラフが描画されている。
【0040】
この弾性波信号の時間特性データに対して、解析手段76を用いて、サンプリング時間Toを例えば1ミリ秒としてフーリエ変換(例えばFFT)を行う。これにより、周波数毎に分解された弾性波信号のスペクトルである周波数特性データを得る。図5は、横軸を周波数(f)、縦軸を周波数毎に分解された弾性波のスペクトルの大きさ(強さ)として、弾性波信号の周波数特性データをプロットした周波数軸波形のグラフである。
【0041】
切削加工において切削ブレード43と被加工物Wとの接触によって発生する弾性波の周波数帯域は、200kHzから600kHzという特定の周波数帯域であることが知られている。なお、200kHzよりも小さな周波数の振動は切削水供給手段46から供給される切削水の音や駆動部の音等によるものであり、600kHzよりも大きな周波数の振動はモータドライバ等のノイズによるものである。そこで、解析手段76において、図5に示すように、周波数軸波形へと変換された弾性波信号の200kHzから600kHzの周波数帯域を特定して100kHzごと4つに分割し、それぞれの周波数帯域におけるAE値を記録する。
【0042】
それぞれの周波数帯域におけるAE値は、切削ブレード43の摩耗などの理由により、加工が進むに従って変化する。図6の実線グラフに示すように、周波数帯域によって増加する場合もあれば減少する場合もあるが、ランダムなノイズ成分に加えて、特定の傾向が現れる。
【0043】
周波数帯域ごとのAE値の増加または減少の傾向は、図6の破線グラフに示すように近似値のグラフを描くことができる。この近似値のグラフは、周波数帯域ごとのAE値の集合を用いて最小二乗法により多項式表現で求めることができる。求める多項式が一次式の場合は近似直線あるいは近似平面となり、二次以上の式の場合は近似曲線あるいは近似曲面となる。
【0044】
近似値を表す多項式を求めるための説明変数として切削ブレードが加工した切削距離や被加工物の加工済み数量、または装置パラメータなどを用いることができる。これらの説明変数は、加工結果との因果関係が認められるものであることが望ましい。
【0045】
近似値を表す多項式を求めるための目的変数はそれぞれの周波数帯域のAE値である。つまり図5に示すように200kHzから600kHzまでを4つの周波数帯域に分割してAE値を得た場合、近似値を表す多項式も4つ得ることができる。
【0046】
このようにして近似値を表す多項式が得られたのちに、この多項式に、切削ブレードが加工した切削距離や被加工物の加工済み数量、加工パラメータなどを説明変数として入力することで、目的変数である各周波数帯域幅のAE値の予測値を得ることができる。この値はあくまで予測であり、実際に測定される各周波数帯域幅のAE値とは異なる。この予測値と実際に得られた各周波数帯域幅のAE値との差分を計算することで、加工パラメータなどから得られる予測値との差違を得ることができる。
【0047】
この予測値との差違は、加工パラメータの変動の影響を受けないAE値の偏差と見なすことができ、偏差の絶対値の大きさを参照することで、切削装置が想定する加工状況からの相違を判断することができる。
【0048】
ただし、この偏差は周波数帯域ごとに異なる値となるが、AE値の大きさは加工負荷のばらつきによっても一様に変動するため、図7に示すように複数の周波数帯域間で一定の相関関係をもつ。そのため、単に一つの周波数帯域のAE値の偏差が大きいという事実から、加工異常が発生していると見なすことはできない。
【0049】
そこで、2つ以上の周波数帯域から得られたAE値の偏差の集合から相関係数を求めて、分散共分散行列を得ることで、切削加工毎のAE値の偏差のマハラノビス汎距離を得ることができる。
【0050】
このマハラノビス汎距離はAE値の偏差同士の相関係数から推測される母集団の傾向から離れるほど大きくなる。そのため、図7に示す異常値の例のようなAE値は、破線の集合で示す正常と見なす空間から離れているためマハラノビス汎距離の値は大きくなる。
【0051】
このようにして得られたマハラノビス汎距離があらかじめ設定された閾値を越えた場合には、単なる加工負荷の変動だけでは説明しきれない切削加工の異常が発生していると判断することができる。
【0052】
上記のように定められたマハラノビス汎距離の値を用いることで、チッピングなどの加工異常が発生しているかどうかをより精度よく判断することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:切削装置 10:ベース 11:カバー 12:蛇腹カバー
13:門型コラム
15:保持手段 150:吸引部 150a:保持面 151:枠体
17:クランプ 18:切削送り手段 180:ボールネジ 181:ガイドレール
182:モータ 183:可動板 184:回転軸
20:カセット収容エリア 21:カセット昇降手段 22:ステージ
24:洗浄手段 25:スピンナーテーブル 26:洗浄水ノズル
30:割り出し送り手段 32:可動板 31:ガイドレール
33:ボールネジ 330:回転軸 34:モータ 35:切削送り手段
36:ガイドレール 38:ボールネジ 380:回転軸 39:モータ
40:切削手段 41:スピンドルハウジング
41a:スピンドルハウジングの先端面 42:スピンドル
43:切削ブレード 44:ネジ穴 45:ブレードカバー 46:切削水供給手段
47:カバー部材 48:ブラケット 49:開口
51:ブレードマウント 52:篏合穴 53:ボス部 54:円形凹部
55:貫通穴 56:フランジ部 57:雄ネジ 58:ワッシャ 59:固定ボルト
61:ハブ基台 62:切り刃 63:挿入穴 65:固定ナット
71:AEセンサ 73:第1のコイル手段 74:第2のコイル手段
75:制御手段 76:解析手段 77:判断手段 78:報知手段
80:吸引手段 81:回転手段 82:回転軸 83:ケーシング
9:アライメント手段 90:カメラ
W:被加工物 Wa:被加工物の表面 Wb:被加工物の裏面 T:貼着テープ
F:フレーム
To:サンプリング時間


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7