(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法及び電子デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/52 20060101AFI20231107BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20231107BHJP
C23C 16/52 20060101ALI20231107BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20231107BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231107BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C23C14/52
C23C14/04 A
C23C16/52
C23C16/04
H05B33/14 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2019189668
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】10-2019-0003967
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0004176
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-138467(JP,A)
【文献】特開2005-240121(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1436895(KR,B1)
【文献】特開2012-140671(JP,A)
【文献】特開2010-185120(JP,A)
【文献】特開2018-003143(JP,A)
【文献】特許第6401885(JP,B1)
【文献】特開2014-118611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/52
C23C 14/04
C23C 16/52
C23C 16/04
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜装置であって、
真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、基板を保持するための基板保持ユニットと、
前記真空容器内に設けられ、マスクを支持するためのマスク支持ユニットと、
前記真空容器の大気側に設置され、基板とマスクの相対的な位置関係を測定するためのアライメントカメラを有するアライメントカメラユニットと、
前記真空容器内に設けられ、成膜材料を収納し、前記成膜材料を粒子化して放出するための成膜源と、
を備え、
前記アライメントカメラは、前記真空容器の内側に突出するように設置され
、
前記アライメントカメラユニットは、前記アライメントカメラを前記真空容器に対して相対的に移動させることができるカメラ調整ステージ部と、前記カメラ調整ステージ部と前記真空容器との間に設けられた除振架台と、を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記真空容器は、該真空容器の容器壁から該真空容器の内側に突出するように前記容器壁に設けられた真空対応筒を備え、
前記アライメントカメラは、前記真空対応筒の大気側に挿入されるように配置されることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記真空対応筒は、その先端が前記真空容器における前記容器壁と前記基板保持ユニットとの間に位置するように設置されることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板保持ユニットの位置を調整するためのアライメントステージ機構を備え、
前記アライメントステージ機構は、前記真空容器に固定されるように設置された第1プレート部と、該第1プレート部に対して移動可能に設置される第2プレート部とを有し、
前記真空対応筒は、その先端が前記第1プレート部と前記第2プレート部との間に位置するように設置されることを特徴とする請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記真空対応筒は、前記真空容器における前記容器壁に設けられる側壁部と、透明な材質からなる先端部とを備えることを特徴とする請求項2,3または4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記真空対応筒は、前記側壁部と前記先端部とを連結する連結部を備え、
前記連結部は、前記側壁部と前記先端部との間の隙間を封止することを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記カメラ調整ステージ部は、前記アライメントカメラを前記真空容器の容器壁から前記基板保持ユニットに向かう方向に移動させることができることを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記カメラ調整ステージ部は、前記アライメントカメラの前記真空容器における容器壁に対する角度を変更するように、前記アライメントカメラを移動させることができることを特徴とする請求項
7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記アライメントカメラユニットは、前記基板保持ユニットを介して、前記アライメントカメラとは反対側に設けられる照明手段を有することを特徴とする請求項1~
8のいずれか一つに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記基板は、シリコンウエハであることを特徴とする請求項1~
9のいずれか一つに記載の成膜装置。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一つに記載の成膜装置と、
マスクを収納するためのマスクストック装置と、
基板及びマスクのうちの少なくともいずれか一方を搬送するための搬送装置と、
を備えることを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【請求項12】
アライメントカメラと、前記アライメントカメラを真空容器に対して相対的に移動させることができるカメラ調整ステージ部と、前記カメラ調整ステージ部と前記真空容器との間に設けられた除振架台と、を有するアライメントカメラユニットを用いて、基板上にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜方法であって、
マスクを成膜装置の
前記真空容器内に搬入するステップと、
基板を前記真空容器内に搬入するステップと、
前記基板を、前記真空容器内の基板保持ユニットに保持するステップと、
前記真空容器の大気側に設置され、前記真空容器を介して前記真空容器の内側に突出するように設置された
前記アライメントカメラを用いて、前記基板と前記マスクの相対的な位置関係を測定するステップと、
測定された相対的な位置関係に基づいて、前記真空容器内に設けられたアライメントステージ機構によって前記基板保持ユニットを移動させることで、前記基板と前記マスクの相対的な位置関係を調整するステップと、
前記マスクを前記基板の成膜面に密着させるステップと、
前記真空容器内の成膜源によって粒子化された成膜材料を、前記マスクを介して前記基板に成膜するステップと、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを介して基板に成膜材料を成膜させるための成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法及び電子デバイスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR-HMD(Virtual Reality Head Mount Display)などにその応用分野が広がっている。これらの装置においては、画素パターンを高精度に形成することが望まれている。特に、VR HMDに用いられるディスプレイは、ユーザーの眩暈を防止するために画素パターンをより高精度で形成することが求められる。
【0003】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して基板上に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。
【0004】
このような成膜装置においては、成膜精度を高めるため、成膜工程の前に、基板とマスクの相対的な位置関係が測定され、位置がずれている場合には、基板および/またはマス
クを相対的に移動させて、これらの位置が調整(アライメント)される。
【0005】
基板とマスクの相対的な位置関係の測定は、真空容器の外側(大気側)上面に設置されたアライメントカメラを用いて、真空容器内の基板とマスクのそれぞれに形成されているアライメントマークを撮影することにより行われる。
【0006】
アライメントカメラの設置面である真空容器の外側上面から基板やマスクまでの距離が長いと、基板やマスクのアライメントマークに対してアライメントカメラによる焦点を合わせ難くなることがある。焦点が合わないと、アライメントの精度が低下してしまう。
【0007】
また、成膜装置によって処理される基板の厚さが変わる場合にも、真空容器の外側上面に固定されたアライメントカメラでは、基板やマスクに形成されアライメントマークに正確に焦点を合わせることが困難となり、アライメントの精度が低下してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アライメントカメラによる測定精度を高めることのできる成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法及び電子デバイスの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0011】
すなわち、本発明の成膜装置は、基板にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜装置であって、
真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、基板を保持するための基板保持ユニットと、
前記真空容器内に設けられ、マスクを支持するためのマスク支持ユニットと、
前記真空容器の大気側に設置され、基板とマスクの相対的な位置関係を測定するためのアライメントカメラを有するアライメントカメラユニットと、
前記真空容器内に設けられ、成膜材料を収納し、前記成膜材料を粒子化して放出するための成膜源と、
を備え、
前記アライメントカメラは、前記真空容器の内側に突出するように設置され、
前記アライメントカメラユニットは、前記アライメントカメラを前記真空容器に対して相対的に移動させることができるカメラ調整ステージ部と、前記カメラ調整ステージ部と前記真空容器との間に設けられた除振架台と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の電子デバイスの製造装置は、
上記の成膜装置と、
マスクを収納するためのマスクストック装置と、
基板及びマスクのうちの少なくともいずれか一方を搬送するための搬送装置と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の成膜方法は、
アライメントカメラと、前記アライメントカメラを真空容器に対して相対的に移動させることができるカメラ調整ステージ部と、前記カメラ調整ステージ部と前記真空容器との間に設けられた除振架台と、を有するアライメントカメラユニットを用いて、基板上にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜方法であって、
マスクを成膜装置の前記真空容器内に搬入するステップと、
基板を前記真空容器内に搬入するステップと、
前記基板を、前記真空容器内の基板保持ユニットに保持するステップと、
前記真空容器の大気側に設置され、前記真空容器を介して前記真空容器の内側に突出するように設置された前記アライメントカメラを用いて、前記基板と前記マスクの相対的な位置関係を測定するステップと、
測定された相対的な位置関係に基づいて、前記真空容器内に設けられたアライメントステージ機構によって前記基板保持ユニットを移動させることで、前記基板と前記マスクの相対的な位置関係を調整するステップと、
前記マスクを前記基板の成膜面に密着させるステップと、
前記真空容器内の成膜源によって粒子化された成膜材料を、前記マスクを介して前記基板に成膜するステップと、
を有することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の電子デバイスの製造方法は、上記の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アライメントカメラによる測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る電子デバイスの製造装置の一部を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態に係る成膜装置の模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施形態に係る磁気浮上ステージ機構の概略構成図である。
【
図4】
図4は本発明の実施形態に係る磁気浮上ステージ機構の模式的断面図である。
【
図5】
図5は本発明の実施形態に係る磁気浮上リニアモータの概略構成図である。
【
図6】
図6は本発明の実施形態に係る磁気浮上リニアモータの概略構成図である。
【
図7】
図7は本発明の実施形態に係る自重キャンセル機構の模式的断面図である。
【
図8】
図8は本発明の実施形態に係るアライメントカメラユニット付近の構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に限定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。
【0019】
基板の材料としては、半導体(例えば、シリコン)、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができる。基板としては、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板を採用することもできる。また、成膜材料としては、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選ぶことができる。
【0020】
なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置に限らず、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置など各種の成膜装置にも適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。本発明は、特に、OLEDなどの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造装置に好適に適用できる。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含まれる。
【0021】
<電子デバイスの製造装置>
図1を参照して、本実施形態に係る電子デバイスの製造装置の全体構成等について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る電子デバイスの製造装置の一部を示す概略構成図であり、電子デバイスの製造装置の一部を平面的に見た場合の概略構成を示している。
【0022】
この製造装置は、例えば、VR HMD用の有機EL表示装置における表示パネルの製造を行うために用いられる。VR HMD用の表示パネルの場合、例えば、所定のサイズのシリコンウエハに有機EL素子の形成を行うための成膜が行われた後に、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿ってシリコンウエハが切り出され、複数の小さなサイズのパネルに製作される。
【0023】
本実施形態に係る電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置とを備える。クラスタ装置1は、基板Wに対する処理(例えば、成膜)を行う成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納するマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13(搬送装置)とを備えている。搬送室13は、
図1に示したように、成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続される。
【0024】
搬送室13内には、基板WおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置される。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板W又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0025】
成膜装置11では、成膜源から放出された成膜材料がマスクMを介して基板W上に成膜される。搬送ロボット14による基板WやマスクMの受け渡し動作、基板WとマスクMとの相対的位置の調整(アライメント)動作、マスク上への基板Wの固定、及び成膜などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0026】
有機EL表示装置の製造装置においては、成膜装置11は、成膜される材料の種類によって、有機膜用の成膜装置と金属膜用の成膜装置に分けることができる。有機膜用の成膜装置は、有機物の成膜材料を蒸着又はスパッタリングによって基板Wに成膜し、金属膜の成膜装置は、金属性の成膜材料を蒸着またはスパッタリングにより基板Wに成膜する。
【0027】
有機EL表示装置の製造装置において、どの成膜装置をどの位置に配置するかは、製造される有機EL素子の積層構造によって異なり、有機EL素子の積層構造に応じてこれを成膜するための複数の成膜装置が配置される。
【0028】
有機EL素子の場合、通常、アノードが形成されている基板W上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、カソードがこの順に積層される構造を有し、これらの層を順次成膜できるように基板の流れ方向に沿って適切に成膜装置が配置される。
【0029】
例えば、
図1において、成膜装置11aは正孔注入層HILおよび/または正孔輸送層HTLを成膜し、成膜装置11b,11fは青色の発光層を成膜し、成膜装置11cは赤色の発光層を成膜し、成膜装置11d,11eは緑色の発光層を成膜し、成膜装置11gは電子輸送層ETLおよび/または電子注入層EILを成膜し、成膜装置11hはカソード金属膜を成膜するように配置される。素材の特性上、青色の発光層と緑色の発光層の成膜速度が赤色の発光層の成膜速度より遅いので、処理速度のバランスを取るために青色の発光層と緑色の発光層とをそれぞれ2つの成膜装置で成膜するようにしている。ただし、本発明はこれに限定されず、他の配置構造を採用することもできる。
【0030】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納されている新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0031】
複数のクラスタ装置1の間を連結する中継装置は、あるクラスタ装置1から別のクラスタ装置1に基板Wを搬送するためのパス室15も備えられている。
【0032】
搬送室13に配置された搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Wを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Wを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11e)から受け取って、下流側に連結されたパス室15に搬送する。
【0033】
中継装置は、パス室15の他に、上流側のクラスタ装置1と下流側のクラスタ装置1での基板Wの処理速度の差を吸収するためのバッファ室(不図示)、及び基板Wの方向を変えるための旋回室(不図示)とを備えることができる。例えば、バッファ室には複数の基
板Wを一時的に収納する基板積載部が備えられる。また、旋回室には基板Wを180度旋回させるための基板旋回機構(例えば、回転ステージまたは搬送ロボット)が備えられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Wの向きを同一にすることができ、基板処理を容易にすることができる。
【0034】
また、パス室15が、複数の基板Wを一時的に収納するための基板積載部(不図示)や基板旋回機構を備える構成を採用することもできる。つまり、パス室15が、バッファ室や旋回室の機能を兼ね備えるようにすることもできる。
【0035】
クラスタ装置1を構成する成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13などは、有機発光素子の製造過程で、高真空状態に維持される。中継装置のパス室15は、通常、低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されても構わない。
【0036】
有機EL素子を構成する複数の層の成膜が完了した基板Wは、有機EL素子を封止するための封止装置(不図示)や基板を所定のパネルサイズに切断するための切断装置(不図示)などに搬送される。
【0037】
本実施例では、
図1に示されるような電子デバイスの製造装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置が異なる構成を採用することもできる。
【0038】
例えば、本発明に係る電子デバイス製造装置は、
図1に示されるようなクラスタタイプではなく、インラインタイプにも適用可能である。インラインタイプの電子デバイス製造装置の場合には、基板WとマスクMがキャリアに搭載されて、一列に並んだ複数の成膜装置内をキャリアと共に基板WとマスクMが通過しながら成膜が行われる。また、本発明に係る電子デバイスの製造装置は、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせた構造を採用することもできる。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から封止工程及び切断工程などは、インラインタイプの製造装置で行うようにしてもよい。
【0039】
<成膜装置>
図2を参照して、本実施形態に係る成膜装置11について、より詳細に説明する。
図2は本発明の実施形態に係る成膜装置の模式的断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とし、水平面(成膜時の基板表面)をXY平面とするXYZ直交座標系を用いる。また、X軸まわりの回転角をθ
X、Y軸まわりの回転角をθ
Y、Z軸まわりの回転角をθ
Zで表す。
【0040】
図2は、成膜材料を加熱によって蒸発または昇華させ、マスクMを介して基板Wに成膜する成膜装置11の一例を示している。成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21内に設けられ、基板Wの位置を少なくともX方向、Y方向、及びθ
Z方向に調整するための磁気浮上ステージ機構22と、真空容器21内に設けられ、マスクMを支持するマスク支持ユニット23と、真空容器21内に設けられ、基板Wを吸着して保持する基板吸着手段24と、成膜材料を収納し、成膜時にこれを粒子化して放出する成膜源25とを備えている。また、成膜装置11は、磁気力によってマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段26をさらに備えると好適である。
【0041】
本実施形態に係る成膜装置11における真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が配置される第1真空容器部211と、成膜源25が配置される第2真空容器部212とを備える。真空容器21の全体の内部空間は、例えば、第2真空容器部212に接続されて
いる真空ポンプ(不図示)によって高真空状態に維持される。
【0042】
また、少なくとも第1真空容器部211と第2真空容器部212との間には、伸縮可能部材213が設置される。伸縮可能部材213は、第2真空容器部212に連結される真空ポンプからの振動や、成膜装置11が設置された床又はフロアからの振動が、第2真空容器部212を通じて第1真空容器部211に伝わることを低減する機能を発揮する。伸縮可能部材213としては、例えば、ベローズを採用することができる。ただし、本発明はこれに限定されることはなく、第1真空容器部211と第2真空容器部212との間で振動の伝達を低減することができる限り、他の部材を採用してもよい。
【0043】
このように、本実施形態においては、真空容器21を複数の容器部(例えば、第1真空容器部211と第2真空容器部212)に分け、その間に伸縮可能部材213を設ける構成を採用している。これにより、磁気浮上ステージ機構22が設置される第1真空容器部211に外部振動が伝わることを低減させることができる。
【0044】
真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が固定された状態で連結される基準プレート214と、基準プレート214を所定の高さに支持するための基準プレート支持部215とを備えている。
図2に示すように、基準プレート214と第1真空容器部211との間に伸縮可能部材213をさらに設置するのが望ましい。これにより、基準プレート214を介して磁気浮上ステージ機構22に外部振動が伝わることをさらに低減することができる。
【0045】
真空容器21には、真空容器21の内側に突出するように、基準プレート214、つまり、真空容器21の上部容器壁に設置される真空対応筒212を備えている(
図8参照)。アライメントカメラユニット27のアライメントカメラは、真空対応筒212の大気側に挿入された状態で配置される。真空対応筒212に関しては、後に、より詳細に説明する。
【0046】
そして、基準プレート支持部215と成膜装置11の設置台217との間には、除振ユニット216が設置されている。除振ユニット216は、成膜装置11が設置された床又はフロア等から成膜装置11の設置台217を通じて基準プレート支持部215に振動が伝わることを抑制する役割を担っている。なお、除振ユニット216については、空圧または油圧を利用して、外部からの振動を吸収する機構を採用することもできるし、スプリングなどのような弾性手段を利用して振動を吸収する機構を採用することもできる。
【0047】
磁気浮上ステージ機構22は、アライメントカメラユニット27により撮影される情報に基づいて、基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整するためのアライメントステージ機構の一例である。本実施形態に係る磁気浮上ステージ機構22は、磁気浮上リニアモータによって基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整するためのステージ機構であって、少なくともX方向、Y方向、θZ方向、好ましくは、X方向、Y方向、Z方向、θX方向、θY方向、θZ方向の6つの方向における基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整する機能を備えている。
【0048】
磁気浮上ステージ機構22は、固定台として機能するステージ基準プレート部221(第1プレート部)と、可動台として機能する微動ステージプレート部222(第2プレート部)と、微動ステージプレート部222を磁気力により浮上させつつ、ステージ基準プレート部221に対して移動させるための磁気浮上ユニット223とを備えている。磁気浮上ステージ機構22による基板W及び基板吸着手段24を移動させるための具体的な構成及びメカニズムについては、後に、より詳細に説明する。
【0049】
マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14により搬送されるマスクMを受け取って、マスクを保持する機能を備えており、マスクホルダとも呼ばれる。
【0050】
マスク支持ユニット23は、少なくとも鉛直方向に昇降可能に設置される。これにより、基板WとマスクMとの間の鉛直方向における間隔を容易に調節することができる。本実施形態のように、基板Wの位置を磁気浮上ステージ機構22によって調整する場合には、マスクMを支持するマスク支持ユニット23は、モータ(不図示)及びボールねじまたはガイド(不図示)によって機械的に昇降移動可能に構成されるのが望ましい。
【0051】
また、マスク支持ユニット23については、水平方向(つまり、XYθZ方向)に移動可能な構成を採用することもできる。この場合、マスクMがアライメント用カメラの視野から外れた場合にも、迅速にこれを視野内に移動させることができる。
【0052】
マスク支持ユニット23は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入されたマスクMを一時的に受け取るためのマスクピックアップ231をさらに備えている。マスクピックアップ231は、マスク支持ユニット23のマスク支持面に対して相対的に昇降できるように構成される。例えば、
図2に示したように、マスクピックアップ昇降機構232によって、マスクピックアップ231はマスク支持ユニット23のマスク支持面に対して相対的に昇降可能に構成される。ただし、本発明はこれに限定されず、マスクピックアップ231とマスク支持ユニット23のマスク支持面とが相対的に昇降可能な限り、他の構成を有してもいい。例えば、マスクピックアップ231が基準プレート214又は磁気浮上ステージ機構22のステージ基準プレート部221に固定され、代わりに、マスク支持ユニット23が昇降可能に構成されてもよい。あるいは、マスクピックアップ231及びマスク支持ユニット23の両方が昇降可能な構成を採用することもできる。
【0053】
搬送ロボット14のハンドからマスクMを受け取ったマスクピックアップ231は、マスク支持ユニット23のマスク支持面に対し相対的に下降し、マスクMをマスク支持ユニット23のマスク支持面に降ろす。逆に、使用済みのマスクMを搬出する場合には、マスクMをマスク支持ユニット23のマスク支持面から持ち上げ、搬送ロボット14のハンドがマスクMを受け取る。
【0054】
マスクMは、基板W上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23によって支持される。例えば、VR-HMD用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMとしては、有機EL素子の発光層のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(Fine Metal Mask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成するのに使われるオープンマスク(open mask)が利用される。マスクMの開口パターンは、成膜材料の粒子を通過させない遮断パターンによって定義される。
【0055】
基板吸着手段24は、基板Wを保持するための基板保持ユニットの一例である。基板吸着手段24は、搬送ロボット14により搬送される、被成膜体でありかつ被吸着体としての基板Wを吸着して保持する機能を備えている。この基板吸着手段24は、磁気浮上ステージ機構22における可動台である微動ステージプレート部222に固定される。
【0056】
基板吸着手段24としては、例えば、誘電体または絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する静電チャックを採用することができる。
【0057】
基板吸着手段24としての静電チャックは、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が高い誘電体が介在して、電極と被吸着体との間のクーロン力によって吸着が行われるクーロン力タイプの静電チャックを採用することができる。また、静電チャックとして、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が低い誘電体が介在して、誘電体の吸着面と被吸着体との間に発生するジョンソン・ラーベック力によって吸着が行われるジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを採用することもできる。さらに、静電チャックとして、不均一電界によって被吸着体を吸着するグラジエント力タイプの静電チャックを採用することもできる。
【0058】
被吸着体が導体または半導体(シリコンウエハ)である場合には、クーロン力タイプの静電チャックまたはジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを用いることが好ましく、被吸着体がガラスのような絶縁体である場合には、グラジエント力タイプの静電チャックを用いることが好ましい。
【0059】
静電チャックは、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもいい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で、位置によって静電引力が異なるように制御可能に構成することも好適である。
【0060】
なお、
図2には示していないが、成膜装置11は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入された基板Wを基板吸着手段24が吸着して保持する前に、一時的に基板Wを保持する基板支持ユニットをさらに含んでもよい。例えば、基板支持ユニットは、マスク支持ユニット23に一体的に設けることができる。つまり、マスク支持ユニット23において、マスクMを支持するマスク支持面とは別の位置に基板Wを支持する基板支持面を設けることで、基板支持ユニットを構成することができる。
【0061】
また、
図2には示していないが、基板吸着手段24の吸着面とは反対側に基板Wの温度上昇を抑制する冷却手段(例えば、冷却板)を設けてもよい。これにより、基板W上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制することが可能となる。
【0062】
成膜源25は、基板Wに成膜される成膜材料が収納される坩堝(不図示)と、坩堝を加熱するためのヒータ(不図示)と、成膜源25からの蒸発レートが一定になるまで成膜材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを備えている。成膜源25は、点(point)成膜源や線状(linear)成膜源など、用途に従って多様な構成が採用され得る。なお、成膜源25は、互いに異なる成膜材料を収納する複数の坩堝を備える構成を採用することもできる。このような構成においては、真空容器21を大気開放することなく成膜材料を変更できるように、異なる成膜材料を収納する複数の坩堝を成膜位置に移動可能に設置するとよい。
【0063】
磁力印加手段26は、成膜工程時に磁力によってマスクMを基板W側に引き寄せて密着させる機能を備えており、鉛直方向に昇降可能に構成される。例えば、磁力印加手段26は、電磁石および/または永久磁石で構成される。
【0064】
なお、
図2に示していないが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を備えると好適である。
【0065】
真空容器21の上部外側(大気側)には、つまり、基準プレート214上には、マスクピックアップ231を昇降させるためのマスクピックアップ昇降機構232、及び磁力印加手段26を昇降させるための磁力印加手段昇降機構261などが設置される。マスク支持ユニット23を昇降させるためのマスク支持ユニット昇降機構(不図示)を基準プレー
ト214上に設置してもよいが、本発明はこれに限定されず、例えば、マスク支持ユニット昇降機構(不図示)を、第1真空容器部211の下部の大気側に設置してもよい。
【0066】
また、成膜装置11は、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板WとマスクMの相対的な位置関係を測定するためのアライメントカメラを含むアライメントカメラユニット27を備えている。このアライメントカメラユニット27は、真空容器21の上部外側(大気側)、より具体的には、真空容器21の上部容器壁としての役割を担う支持プレート214の上側の大気側に設置される。また、このアライメントカメラユニット27は、真空容器21の内側に突出するように設置される。
【0067】
成膜装置11は、制御部(不図示)を備えている。制御部は、基板W及びマスクMの搬送制御、基板W及びマスクMのアライメント制御、成膜源25の制御、成膜の制御などの役割及び機能を備えている。また、制御部は、静電チャックへの電圧印加を制御する機能を有することもできる。
【0068】
制御部は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成することができる。この場合、制御部の機能は、メモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0069】
<磁気浮上ステージ機構>
特に、
図3~
図7を参照して、磁気浮上ステージ機構22について、より詳細に説明する。磁気浮上ステージ機構22は、前述したように、ステージ基準プレート部221と、微動ステージプレート部222と、磁気浮上ユニット223とを備えている。
【0070】
ステージ基準プレート部221は、微動ステージプレート部222の移動の基準となる部材であって、その位置が固定されるように設置される。例えば、
図2に示したように、ステージ基準プレート部221は、XY平面に平行に、真空容器21の基準プレート214に固定されるように設置される。ただし、本発明はこれに限定されず、ステージ基準プレート部221は、その位置が固定できる限り、基準プレート214に直接固定されず、他の部材(例えば、別の基準フレーム)に固定されてもよい。
【0071】
ステージ基準プレート部221は、微動ステージプレート部222の移動の基準となる部材であるため、伸縮可能部材213及び除振ユニット216などにより、真空ポンプまたは床からの振動のような外乱から影響を受けないように設置されるのが好ましい。
【0072】
微動ステージプレート部222は、ステージ基準プレート部221に対して移動可能に設置され、微動ステージプレート部222の主面(例えば、下面)には、静電チャックのような基板吸着手段24が設置される。したがって、微動ステージプレート部222の移動により、基板吸着手段24及びこれに吸着された基板Wの位置を調整することができる。
【0073】
磁気浮上ユニット223は、可動台である微動ステージプレート部222を固定台であるステージ基準プレート部221に対して移動させる駆動力を発生させるための磁気浮上リニアモータ31と、微動ステージプレート部222の位置を測定するための位置測定手段と、微動ステージプレート部222を浮上させる浮上力を与えることで微動ステージプ
レート部222にかかる重力をキャンセル(相殺)させるための自重キャンセル手段33と、微動ステージプレート部222の原点位置を決める原点位置決め手段34とを含む。
【0074】
磁気浮上リニアモータ31は、微動ステージプレート部222を移動させるための駆動力を発生させる駆動源である。本実施形態においては、次の3種類の磁気浮上リニアモータが設けられている。1種類目は、微動ステージプレート部222をX方向に移動させるための駆動力を発生させる2つのX方向磁気浮上リニアモータ311である。2種類目は、微動ステージプレート部222をY方向に移動させるための駆動力を発生させる2つのY方向磁気浮上リニアモータ312である。3種類目は、微動ステージプレート部222をZ方向に移動させるための駆動力を発生させる3つのZ方向磁気浮上リニアモータ313である。
【0075】
これらの複数の磁気浮上リニアモータ31を用いて、微動ステージプレート部222を6つの方向(X方向、Y方向、Z方向、θX方向、θY方向、θZ方向)に移動させることができる。
【0076】
例えば、X方向、Y方向、Z方向への並進移動については、X方向磁気浮上リニアモータ311、Y方向磁気浮上リニアモータ312、およびZ方向磁気浮上リニアモータ313のそれぞれを同じ方向に駆動すればよい。
【0077】
θZ方向への回転移動については、2つのX方向磁気浮上リニアモータ311と2つのY方向磁気浮上リニアモータ312の駆動方向を調整すればよい。例えば、X方向磁気浮上リニアモータ311aを+X方向に、X方向磁気浮上リニアモータ311bを-X方向に、Y方向磁気浮上リニアモータ312aを+Y方向に、Y方向磁気浮上リニアモータ312bを-Y方向に駆動させれば、微動ステージプレート部222を、Z軸を中心に反時計まわりに回転移動させることができる。θX方向及びθY方向への回転移動についても同様に、3つのZ方向磁気浮上リニアモータ313のそれぞれの駆動方向を調整すればよい。
【0078】
図3に示した磁気浮上リニアモータ31の数や配置は、例示的なものであり、本発明はこれに限定されず、微動ステージプレート部222を所望の方向に移動させることができる限り、その個数や配置については、その他の構成を採用することができる。
【0079】
なお、機械的モータとボールねじ/リニアガイドを使うアライメントステージの代わりに、磁気浮上ステージ機構22を採用することによって、基板Wの位置調整の精度をさらに向上させることができる。
【0080】
また、機械的ステージ機構とは違って、磁気浮上ステージ機構22は、パーティクルによる汚染や潤滑剤の蒸発による汚染の恐れが少なく、磁気浮上ステージ機構22を真空容器21内に設置することが可能となる。これにより、基板Wの保持手段(基板吸着手段24)とステージ機構との間の距離が小さくなるので、ステージ機構の駆動時の揺動や外乱が基板吸着手段24に及ぼす影響を低減することができる。
【0081】
図5は、Z方向磁気浮上リニアモータ313の構造を示す模式的断面図であり、
図6は、X方向磁気浮上リニアモータ311またはY方向磁気浮上リニアモータ312の構造を示す模式的断面図である。
【0082】
磁気浮上リニアモータ31は、ステージ基準プレート部221に設置される固定子314と、微動ステージプレート部222に設置される可動子315とを備える。なお、ステージ基準プレート部221および微動ステージプレート部222のうちの一方に固定子3
14を設け、他方に可動子315を設ければよい。従って、ステージ基準プレート部221に可動子315が設けられ、微動ステージプレート部222に固定子314が設けられる構成を採用することもできる。
【0083】
図示のように、磁気浮上リニアモータ31の固定子314は、磁界発生手段、例えば、電流が流れるコイル3141を備え、可動子315は、磁性体、例えば、永久磁石3151を備える。
【0084】
磁気浮上リニアモータ31は、固定子314のコイル3141に電流を流すことで発生した磁界によって、可動子315の永久磁石3151に駆動力を付与する。磁気浮上リニアモータ31は、固定子314に流れる電流の方向を調整することによって、可動子315である永久磁石3151に加えられる力の方向を調整することができる。
【0085】
例えば、
図5(b)に示したように、固定子314のコイル3141に流れる電流の方向を、紙面上で反時計回りにすると、
図5(a)において、コイル3141の左側(-X側)にN極が誘導され、右側(+X側)にはS極が誘導される。これにより、可動子315は、下方(-Z)方向に力を受けて、下方に移動する。逆に、コイル3141に流れる電流の方向を時計回りにすると、可動子315は上方(+Z)方向に移動する。
【0086】
同様に、
図6に示したX方向磁気浮上リニアモータ311、又はY方向磁気浮上リニアモータ312も、固定子314のコイル3141に流れる電流の方向を制御することによって、可動子315をそれぞれX方向、Y方向に移動させることができる。
【0087】
本実施形態に係る磁気浮上ユニット223の位置測定手段は、微動ステージプレート部222の位置を測定するための手段であって、レーザー干渉計32と、これと対向するように微動ステージプレート部222に設置された反射部324とを備える。反射部324としては、例えば、平面鏡を採用することができる。
【0088】
レーザー干渉計32は、測定ビームを微動ステージプレート部222に設置された反射部324に照射し、その反射ビームを検出することで、反射部324の位置(微動ステージプレート部222の位置)を測定する。より具体的には、レーザー干渉計32は、測定ビームの反射光と参照ビームの反射光との干渉光に基づいて、微動ステージプレート部222の位置を測定することができる。
【0089】
本実施形態に係る磁気浮上ユニット223の位置測定手段は、微動ステージプレート部222のX方向における位置を測定するためのX方向位置測定部と、Y方向における位置を測定するためのY方向位置測定部と、Z方向における位置を測定するためのZ方向位置測定部とを備える。
【0090】
図3に示すように、本実施形態に係る位置測定手段であるレーザー干渉計32は、微動ステージプレート部222のX軸方向の位置を検出するための二つのX方向レーザー干渉計321と、微動ステージプレート部222のY軸方向の位置を検出するための一つのY方向レーザー干渉計322と、微動ステージプレート部222のZ軸方向の位置を検出するための3つのZ方向レーザー干渉計323が用いられる。
【0091】
微動ステージプレート部222には、これらのレーザー干渉計32からの測定ビームを反射させる反射部324が、レーザー干渉計32に対向するように設置される。例えば、反射部324は、X方向レーザー干渉計321に対向するように設置されたX方向反射部3241と、Y方向レーザー干渉計322に対向するように設置されたY方向反射部3242と、Z方向レーザー干渉計323に対向するように設置されたZ方向反射部3243
が用いられる。
【0092】
X方向位置測定部は、X方向レーザー干渉計321とX方向反射部3241とを備え、Y方向位置測定部は、Y方向レーザー干渉計322とY方向反射部3242とを備え、Z方向位置測定部は、Z方向レーザー干渉計323とZ方向反射部3243とを備える。
【0093】
このような位置測定手段の構成により、6つの自由度(degree of freedom)で、微動ステージプレート部222の位置を精密に測定することができる。つまり、X方向レーザー干渉計321、Y方向レーザー干渉計322、及びZ方向レーザー干渉計323によって、微動ステージプレート部222のX方向位置、Y方向位置、及びZ方向位置を測定することができる。また、X方向レーザー干渉計321を複数設置することによって、Z軸を中心とした回転(θZ)方向の位置も測定することができる。また、Z方向レーザー干渉計323を複数設置することによって、X軸および/またはY軸を中心とした回転方向(θXまたはθY)の位置(つまり、微動ステージプレート部222の傾斜角度)も測定することができる。
【0094】
本実施形態に係る成膜装置11の制御部は、レーザー干渉計32によって測定された微動ステージプレート部222(またはこれに設置された基板吸着手段24)の位置情報に基づいて、磁気浮上リニアモータ31を制御する。例えば、成膜装置11の制御部は、微動ステージプレート部222または基板吸着手段24を、レーザー干渉計32で測定された微動ステージプレート部222または基板吸着手段24の位置と、アライメント用カメラユニット27で測定された基板WとマスクM間の相対的位置ずれ量とによって決められる位置決め目標位置に移動させる。これにより、微動ステージプレート部222または基板吸着手段24の位置をナノメートル単位で高精度に制御することができる。
【0095】
自重キャンセル手段33は、微動ステージプレート部222の重量をキャンセル(相殺)するための手段である。例えば、自重キャンセル手段33は、
図4(c)及び
図7に示したように、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332との間の反発力または吸引力を利用して、微動ステージプレート部222にかかる重力に相当する大きさの浮上力を、重力と反対方向に発生させる。
【0096】
第1の磁石部331と第2の磁石部332は、電磁石または永久磁石で構成することができる。
図4(c)および
図7に示された第1の磁石部331と第2の磁石部332において、右下がりの線でハッチングされた部分と、右上がり線でハッチングされた部分は、それぞれ別の磁極(S極またはN極)を示している。
【0097】
例えば、
図4(c)に示したように、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332を、逆極性の磁極が対向するように配置することによって、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331が微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332を上方に吸引し、微動ステージプレート部222にかかる重力を相殺することができる。
【0098】
または、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332との間の反発力によって、微動ステージプレート部222の重力を相殺することもできる。
【0099】
例えば、
図7に示すように、第1の磁石部331と第2の磁石部332を同じ極性の磁極が対向するように配置するとともに、微動ステージプレート部222と第2の磁石部3
32との間にZ方向に延びるスペーサー333を介在させ、第2の磁石部332の下端(端部)が第1の磁石部331の下端(端部)よりも高くなるように設置してもよい。つまり、スペーサー333のZ方向の長さを、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332の下端がステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331の下端よりも高くなるように(つまり、微動ステージプレート部222から、より遠くなるように)する。
【0100】
図7に示す構成によって、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332は、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331により上方に反発力を受け、微動ステージプレート部222にかかる重力を相殺することができる。
【0101】
微動ステージプレート部222をより安定的に支持することができるように、
図3に示したように、自重キャンセル手段33は、XY平面内で少なくとも3つの位置に設置するのが好ましい。例えば、微動ステージプレート部222の重心の周りに対称になるように設置するのが好ましい。
【0102】
このように、自重キャンセル手段33を採用することによって、磁気浮上リニアモータ31の負荷を低減させ、磁気浮上リニアモータ31の発熱量を抑制することができる。これにより基板Wに成膜された有機材料が熱変性することを抑制することができる。
【0103】
本実施形態に係る磁気浮上ユニット223の原点位置決め手段34は、微動ステージプレート部222の原点位置を決める手段であって、三角錐状の凹部341と半球状の凸部342とを含むキネマティックカップリング(kinematic coupling)で構成することができる。
【0104】
例えば、
図4(b)に示したように、ステージ基準プレート部221側に三角錐状の凹部341を設け、微動ステージプレート部222側に半球状の凸部342を設ける。そして、半球状の凸部342が三角錐状の凹部341に挿入されると、凸部342が3つの支点で凹部341の内面に接触し、微動ステージプレート部222の位置が決められる。
【0105】
このようなキネマティックカップリングタイプの原点位置決め手段34を、
図3に示したように、微動ステージプレート部222の中心の周りに、X方向とY方向を含む平面上で、3つを等間隔(例えば、120°間隔)に設置することで、微動ステージプレート部222の中心位置を定めることができる。つまり、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に接近させて3つの原点位置決め手段の凸部342が凹部341内に着座したときの、微動ステージプレート部222の位置を、レーザー干渉計32により測定し、これを原点位置とする。
【0106】
このように、本実施形態に係る成膜装置11によれば、機械的な駆動機構を使わずに、磁気浮上駆動機構(磁気浮上リニアモータ)を使うことによって、ステージ及びその駆動機構を成膜装置11の真空容器21内に配置することができる。これにより、外乱による振動の影響を効果的に低減することができる。また、機械的駆動による振動を低減することができ、その結果、基板の位置調整の精度を向上させることができる。さらに、レーザー干渉計32を含む位置測定手段、自重キャンセル手段33、及びキネマティックカップリングからなる原点位置決め手段34を採用することによって、基板の位置調整の精度をさらに向上させることができる。
【0107】
ただし、本発明においては、基板W及び基板吸着手段24の位置調整を行う機構については、磁気浮上ステージ機構22に限らず、各種公知技術を採用することができる。
【0108】
<アライメントカメラユニット>
図8及び
図9を参照して、本実施形態に係るアライメントカメラユニット27について説明する。
図8はアライメントカメラユニット27の構成及び配置を示す模式的断面図であり、
図9は
図8中の点線円の部分を拡大して示す図である。
【0109】
アライメントカメラユニット27は、アライメントカメラ27aと、カメラ調整ステージ部27bと、除振架台27cと、照明手段27dとを備えている。
【0110】
アライメントカメラ27aは、基板WとマスクMのそれぞれのアライメントマークを撮影して、基板WとマスクMの相対的な位置関係を測定するための装置である。
【0111】
本実施形態においては、アライメントカメラ27aとして、基板WとマスクMの相対的な位置関係を大まかに調整するために用いられるラフアライメントカメラと、基板WとマスクMの相対的な位置関係を高精度に調整するために用いられるファインアライメントカメラが用いられる。ラフアライメントカメラは、相対的に視野角が広く、低解像度であり、ファインアライメントカメラは、視野角は相対的に狭いが、高解像度を持つカメラである。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、アライメントカメラ27aは、ラフアライメントカメラのみ、又はファインアライメントカメラのみであってもいい。
【0112】
ラフアライメントカメラとファインアライメントカメラは、基板WとマスクMに形成されたアライメントマークに対応する位置に設置される。例えば、ファインアライメントカメラについては、4つのカメラを矩形の4つのコーナー部のそれぞれに設置させ、ラフアライメントカメラについては、2つのカメラを該矩形の対向する二つの辺の中央に設置させることができる。ただし、本発明はこれに限定されず、基板WとマスクMのアライメントマークの位置に応じて、各カメラの個数や配置位置を適宜設定すればよい。
【0113】
本実施形態に係るアライメントカメラ27aは、成膜装置11における真空容器21の外側である大気側に配置されるが、真空容器21の内側に突出するように設置される。これにより、磁気浮上ステージ機構22が設けられたことで、基板WとマスクMが基準プレート214から比較的遠く離れていても、基板WとマスクMに形成されたアライメントマークにアライメントカメラ27aの焦点を正確に合わせることができる。
【0114】
アライメントカメラ27aを上記のように配置させるために、本実施形態に係る真空容器21は、その容器壁211から真空容器21の内側に突出するように設置される真空対応筒212が備えられている。しかし、本発明においては、このような構成に限定されることはなく、アライメントカメラ27aが真空容器21の内側に突出するように設置されることができれば、他の構造を採用してもよい。
【0115】
真空対応筒212は、真空容器21の容器壁211(
図2の基準プレート214に対応する)を介して真空容器21の内側に突出するように設置され、上面が開放されている筒形状の構造物である。開放された上面を介して外部と連通された真空対応筒212の内部は、大気に曝されている。そして、アライメントカメラ27aは、この真空対応筒212の大気側に挿入されるように設置される。これにより、アライメントカメラ27aは、その少なくとも一部が真空容器21の内側に突出するように設置される。
【0116】
また、真空対応筒212は、真空容器21の内部が真空状態に維持されるように構成される。したがって、真空対応筒212は、大気側に配置されるアライメントカメラ27aを取り囲むように設けられ、かつ真空容器21の内部とアライメントカメラ27aとを隔てるように設けられる。
【0117】
真空対応筒212は、例えば、真空容器21の容器壁211に固定される筒状の側壁部212aと、この側壁部212aの下端に設けられる先端部212bとから構成される。側壁部212aと容器壁211が固定される部分から空気が内部に侵入しないように、シール材(不図示)を介した状態で、側壁部212aは容器壁211に固定される。
【0118】
先端部212bは、真空対応筒212の大気側に挿入されるアライメントカメラ27aで基板WとマスクMのアライメントマークを撮影できるように、透明な材質により構成される。例えば、先端部212bをガラスにより構成することができる。ただし、先端部212bの材料は、ガラスに限定されるものではない。
【0119】
真空対応筒212は、側壁部212aと先端部212bとを連結する連結部212cを備えると好適である。この連結部212cは、側壁部212aと先端部212bとの間の隙間を封止する役割を担っている。これにより、側壁部212aと先端部212bとの連結部分位から空気が内部に侵入してしまうことを防止することができる。なお、
図9に示す連結部212cの構造は、一例を示したに過ぎない。連結部212cについては、側壁部212aと先端部212bの連結部位から空気が内部に侵入することを防止することができる限り、他の構造を採用しても構わない。
【0120】
真空対応筒212の下端(先端)、すなわち先端部212bの位置は、アライメントカメラ27aの焦点深度と基板W及びマスクMと容器壁211との距離に応じて適宜設定される。
【0121】
例えば、真空対応筒212の先端は、容器壁211と基板吸着手段24との間に位置するように設けられる(
図2参照)。特に、真空対応筒212の先端は、ステージ基準プレート部221(第1プレート部)と微動ステージプレート部222(第2プレート部)との間に位置するように設けられるとよい(
図2参照)。このような構成を採用することで、アライメントカメラ27aが基板W及びマスクMに近接している位置で、これら基板W及びマスクMのアライメントマークを撮影することができる。
【0122】
一方、真空対応筒212の先端は、真空対応筒212の先端と基板吸着手段24に吸着された基板Wの上面との間の距離が磁力印加手段26の厚さと基板吸着手段24の厚さの合計よりも長くなるように、配置させるのが好ましい。
【0123】
カメラ調整ステージ部27bは、アライメントカメラ27aに連結され、このアライメントカメラ27aを真空容器21に対して相対的に移動させる機能を備えている。より具体的には、カメラ調整ステージ部27bは、アライメントカメラ27aを少なくとも上下方向(Z軸方向)、すなわち、真空容器21の容器壁211から基板吸着手段24に向かう方向および/またはその反対の方向(例えば、容器壁211に垂直な方向)に移動させることができる。このような構成を採用することで、基板Wの厚さに多少誤差があってもアライメントカメラ27aと基板Wとの間の距離を適切に調整して、基板Wのアライメントマークに正確にアライメントカメラ27aによる焦点が合わせることができる。
【0124】
カメラ調整ステージ部27bについては、Z軸アクチュエータなど、アライメントカメラ27aを上下方向に移動させることができる公知の機構を採用すればよい。ただし、本発明はこれに限定されず、カメラ調整ステージ部27bは、アライメントカメラ27aを基板面に平行な方向、すなわち、前後および/または左右方向(X軸および/またはY軸方向)に移動させることができるようにしてもよい。つまり、カメラ調整ステージ部27bは、X軸アクチュエータおよび/またはY軸アクチュエータのような駆動手段をさらに備えてもよい。
【0125】
カメラ調整ステージ部27bは、アライメントカメラ27aの姿勢を調整できる機能を有すると、より好適である。より具体的には、カメラ調整ステージ部27bは、アライメントカメラ27aの真空容器21の容器壁211に対する角度を変更するようにアライメントカメラ27aを移動させる機能を有すると好適である。この構成を採用する場合には、例えば、カメラ調整ステージ部27bが、容器壁211に対するアライメントカメラ27aの起立角度を変更可能な回転アクチュエータを備えるようにすればよい。
【0126】
このような構成を採用すれば、真空排気時に真空容器21が変形し、アライメントカメラ27aが、基板WやマスクMに対して傾斜してしまった場合に、アライメントカメラ27aの真空容器21の容器壁211に対する角度を調整することで、アライメントカメラ27aを、基板WやマスクMに対して垂直に対向させることができる。これにより、基板W及びマスクMのアライメントマークに対して、アライメントカメラ27aの焦点を合わせることができる。
【0127】
除振架台27cは、カメラ調整ステージ部27bと、真空容器21(例えば、真空容器21の容器壁211)との間に設置される。除振架台27cは、真空容器21からの振動が、カメラ調整ステージ部27b、及び、これに連結されているアライメントカメラ27aに伝わることを低減させる機能を有する。除振架台27cは、多様な構造を採用し得る。例えば、除振架台27cは、真空容器21に固定設置される支持台と、この支持台とカメラ調整ステージ部27bとの間に配置された除振ユニットとを有する構成を採用することができる。
【0128】
照明手段27dは、基板吸着手段24および/またはマスク支持ユニット23を介して、アライメントカメラ27aとは反対側に配置されて、基板WやマスクMのアライメントマークを照らす機能を有する。なお、
図8においては、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23については省略している。照明手段27dは、特に真空容器21の内側に突出するように設置されるアライメントカメラ27aが、基板WやマスクMのアライメントマークを撮影することが難しいほど暗い状況で、基板WやマスクMのアライメントマークを撮影するのに十分な光量で光を照らすことができる。
【0129】
<アライメント方法>
以下、本発明の磁気浮上ステージ機構22を用いて、基板WとマスクMとの間の相対的位置の調整を行うアライメント方法を説明する。
【0130】
まず、マスクMと基板Wが真空容器21内に搬入され、それぞれ、マスク支持ユニット23と基板支持ユニットにより支持される。次に、成膜装置11の制御部は、基板支持ユニットによって支持された基板Wを磁気浮上ステージ機構22の微動ステージプレート部222に設置された基板吸着手段24に向かって移動させる。そして、成膜装置11の制御部は、基板Wが基板吸着手段24に十分に近づくと、基板吸着手段24に基板吸着電圧を印加し、静電引力により基板Wを基板吸着手段24に吸着させる。なお、成膜装置11の制御部が、基板Wを基板吸着手段24に吸着させる際に、基板吸着手段24の吸着面全体に基板Wの全面を同時に吸着させる構成を採用することもできるし、基板吸着手段24の複数の領域のうち一領域から他の領域に向かって順次に基板Wを吸着させる構成を採用することもできる。
【0131】
次に、成膜装置11の制御部は、マスク支持ユニット昇降機構を駆動して、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させる。この際、成膜装置11の制御部は、基板吸着手段24に吸着された基板Wとマスク支持ユニット23によって支持されたマスクMとの間の距離が、予め設定されたラフアライメント計測距離になるまで、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に接近(例えば、マスク支持ユニット23
を上昇)させる。
【0132】
成膜装置11の制御部は、基板WとマスクMとの間の距離がラフアライメント計測距離になると、ラフアライメントカメラにより、基板W及びマスクMのアライメントマークを撮像させ、XYθZ方向における基板WとマスクMの相対的な位置関係を測定し、これに基づき、これらの間の相対的な位置ずれ量を算出する。
【0133】
成膜装置11の制御部は、レーザー干渉計によって測定された微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)の位置と、ラフアライメントカメラによって算出された相対的な位置ずれ量とに基づいて、微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)の移動目標位置の座標を算出する。
【0134】
成膜装置11の制御部は、移動目標位置の座標に基づいて、微動ステージプレート部222の位置をレーザー干渉計で測定しながら、磁気浮上リニアモータによってXYθZ方向に微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)を移動目標位置まで移動させる。これにより、基板WとマスクMの相対的な位置関係が調整される。ラフアライメントでは、微動ステージプレート部222を磁気浮上リニアモータによって移動させると説明したが、基板WとマスクMとの間の位置ずれ量の大きさに応じてマスク支持ユニット23をXYθZ方向に移動させ、ラフアライメントを行ってもよい。
【0135】
ラフアライメントが完了すると、成膜装置11の制御部は、マスク支持ユニット昇降機構によってマスク支持ユニット23をさらに上昇させ、マスクMを基板Wに対してファインアライメント計測位置まで移動させる。
【0136】
マスクMが基板Wに対してファインアライメント計測位置まで移動したら、成膜装置11の制御部は、ファインアライメントカメラで基板W及びマスクMのアライメントマークを撮像させ、XYθZ方向における基板WとマスクMの相対的な位置ずれ量を測定する。
【0137】
成膜装置11の制御部は、ファインアライメント計測位置における基板WとマスクMとの間の相対的な位置ずれ量が所定の閾値より大きければ、マスクMを再度下降させ、基板WとマスクMを離間させる。その後、成膜装置11の制御部は、レーザー干渉計32によって測定された微動ステージプレート部222の位置と、基板WとマスクMの相対的な位置ずれ量に基づいて、微動ステージプレート部222の移動目標位置を算出する。
【0138】
成膜装置11の制御部は、算出された移動目標位置に基づいて、微動ステージプレート部222の位置をレーザー干渉計で測定しながら、磁気浮上リニアモータによってXYθZ方向に微動ステージプレート部222を移動目標位置まで移動させることによって、基板WとマスクMの相対的な位置関係を調整する。
【0139】
そして、必要な場合には、ラフアライメントおよび/またはファインアライメントを行う途中やその前後に、ラフアライメントカメラおよび/またはファインアライメントカメラの位置および/または姿勢を調整することもできる。例えば、ラフアライメントカメラおよび/またはファインアライメントカメラに対して、基板Wが適切な焦点位置に位置するように、ラフアライメントカメラおよび/またはファインアライメントカメラをZ軸方向に移動させることができる。また、ラフアライメントカメラおよび/またはファインアライメントカメラが基板Wに対して垂直に対向しない場合には、ラフアライメントカメラおよび/またはファインアライメントカメラの容器壁に対する傾斜を調整することもできる。
【0140】
このような過程が、基板WとマスクMの相対的な位置ずれ量が所定の閾値より小さくな
るまで繰り返される。
【0141】
基板WとマスクMの相対的な位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、成膜装置11の制御部は、基板吸着手段24に吸着された基板Wの成膜面がマスクMの上面と接触する蒸着位置になるように、マスク支持ユニット23を上昇させる。基板WとマスクMが接触した蒸着位置に達すると、成膜装置11の制御部は、磁力印加手段261を下降させ、基板Wに向けてマスクMを引き寄せることで、基板WとマスクMを密着させる。
【0142】
この過程で、基板WとマスクMのXYθZ方向における位置ずれが生じたかを確認するために、成膜装置11の制御部は、ファインアライメントカメラを用いて、基板WとマスクMの相対的な位置関係の計測を行い、計測された相対的な位置のずれ量が所定の閾値の以上である場合、基板WとマスクMを所定の距離まで再び離間(例えば、マスク支持ユニット23を下降)させた後、基板WとマスクMとの間の相対的な位置関係を調整し、同じ過程を繰り返す。基板WとマスクMが蒸着位置に位置する状態で、基板WマスクMの相対的な位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、アライメント工程は終了し、成膜工程に移行する。
【0143】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態によるアライメント方法を採用した成膜方法について説明する。
【0144】
真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが支持された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって、基板Wが成膜装置11の真空容器21内に搬入される。真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが基板Wを基板支持ユニットの支持部上に載置する。基板支持ユニットが基板吸着手段24に十分に近接或いは接触した後に、静電チャック24に基板吸着電圧が印加され、基板Wが静電チャック24に吸着される。
【0145】
基板吸着手段24に基板Wが吸着された状態で、前述の本実施形態によるアライメント方法に従って、アライメント工程による一連の動作がなされる。
【0146】
本実施形態のアライメント方法によって、基板WとマスクMの相対的な位置のずれ量が所定の閾値より小さくなると、成膜源25のシャッタが開き、マスクを介して基板Sに成膜材料による薄膜が形成される。所望の厚さの薄膜が形成された後に、成膜装置11の制御部は、磁力印加手段26を上昇させてマスクMを分離させ、マスク支持ユニット23を下降させる。
【0147】
次に、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、基板吸着手段24の電極部にゼロ(0)または逆極性の基板分離電圧が印加され、基板Wは基板吸着手段24から分離される。分離された基板は、搬送ロボット14によって真空容器21から搬出される。
【0148】
なお、上記の例においては、成膜装置11においては、基板Wの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向き蒸着方式(デポアップ)の構成を採用した場合を例にして説明した。しかしながら、本発明は、この方式に限定されることはなく、基板Wが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Wの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる方式の場合でも適用可能である。
【0149】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、
図10を参照して、製造する有機EL表示装置について説明する。
図10(a)は有機EL表
示装置60の全体図、
図10(b)は1画素の断面構造を示している。
【0150】
図10(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施形態にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0151】
図10(b)は、
図10(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0152】
図10(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されことができる。
【0153】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0154】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63が準備される。陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂がスピンコートで形成される。そして、アクリル樹脂は、リソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングされ、絶縁層69が形成される。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0155】
絶縁層69がパターニングされた基板63は、第1の有機材料成膜装置に搬入され、静電チャックにて基板63が保持され、表示領域の陽極64の上に共通する層として正孔輸送層65が成膜される。なお、正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0156】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63は、第2の有機材料成膜装置に搬入され、静電チャックにて保持される。その後、基板とマスクとのアライメントが行われ、基
板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rが成膜される。そして、発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gが成膜され、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bが成膜される。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67が成膜される。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0157】
電子輸送層67まで形成された基板は金属性蒸着材料成膜装置に搬送されて陰極68が成膜される。金属性蒸着材料成膜装置は、蒸発加熱方式の成膜装置であってもよく、スパッタリング方式の成膜装置であってもよい。
【0158】
本実施形態によれば、アライメントカメラが真空容器21の内側に突出するように設置されるため、真空容器21の天井と基板やマスクとの間の距離が長くなっても、基板やマスクにアライメントカメラによる焦点を合わせることができる。また、アライメントカメラは、その位置や姿勢が調整されるように構成されるため、アライメントの精度をより一層高めることができる。
【0159】
陰極68が成膜された基板63は、プラズマCVD装置に搬送されて、保護層70が成膜されて、有機EL表示装置60が完成する。なお、絶縁層69がパターニングされた基板63が成膜装置に搬入されてから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気に曝されてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0160】
これまで説明した実施形態は本発明の一例であって、本発明は上記の実施形態の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形され得る。
【符号の説明】
【0161】
11 成膜装置
21 真空容器
22 磁気浮上ステージ機構
23 マスク支持ユニット
24 基板吸着手段
25 成膜源
26 磁気印加手段
27 アライメントカメラユニット