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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】水性抗PD-L1抗体製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231107BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231107BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20231107BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K9/08
A61P35/00
A61P35/02
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019548469
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018055404
(87)【国際公開番号】W WO2018162446
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】17159354.4
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】510069249
【氏名又は名称】ファイザー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】リナルディ,ジャンルカ
(72)【発明者】
【氏名】フラタールカンゲリ,シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】ショピク,マイケル ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】デル リオ,アレッサンドラ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-500207(JP,A)
【文献】特表2014-515017(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104740609(CN,A)
【文献】特表2014-516953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 47/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、またはリジン酢酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが約3.8から4.6であり、抗酸化剤を含まない、水性医薬抗体製剤。
【請求項2】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.9から5.2であり、抗酸化剤を含まない、水性医薬抗体製剤。
【請求項3】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロース、イノシトールまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2であり、抗酸化剤を含まない、水性医薬抗体製剤。
【請求項4】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン酢酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約280mMの濃度のスクロースを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2である、請求項3に記載の製剤。
【請求項7】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2である、請求項2に記載の製剤。
【請求項8】
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、請求項4に記載の製剤。
【請求項9】
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン酢酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、請求項5に記載の製剤。
【請求項10】
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のヒスチジン;
(iii)280mMの濃度のスクロース;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である、請求項6に記載の製剤。
【請求項11】
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のコハク酸;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である、請求項7に記載の製剤。
【請求項12】
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のデキストロースまたはイノシトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度の、分子量が2000~3000g/molであるCAS番号9003-39-8のポリビニルピロリドンまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2であり、抗酸化剤を含まない、水性医薬抗体製剤。
【請求項13】
前記アベルマブが、(配列番号1)または(配列番号2)のいずれかの重鎖配列、(配列番号3)の軽鎖配列を有し、Asn300にグリコシル化を有し、主なグリカン種としてFA2およびFA2G1を含み、合わせて全グリカン種の>70%を占める、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の44%~54%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の25%~41%を占める、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の47%~52%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の29%~37%を占める、請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の約49%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の約30%~約35%を占める、請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
前記アベルマブのグリコシル化が、少ないグリカン種として全グリカン種の<5%を占めるA2、全グリカン種の<5%を占めるA2G1、全グリカン種の<5%を占めるA2G2、全グリカン種の<7%を占めるFA2G2をさらに含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
前記アベルマブのグリコシル化において、前記A2が全グリカン種の3%~5%を占め、前記A2G1が全グリカン種の<4%を占め、前記A2G2が全グリカン種の<3%を占め、前記FA2G2が全グリカン種の5%~6%を占める、請求項1に記載の製剤。
【請求項19】
前記アベルマブのグリコシル化において、前記A2が全グリカン種の約3.5%~約4.5%を占め、前記A2G1が全グリカン種の約0.5%~約3.5%を占め、前記A2G2が全グリカン種の<2.5%を占め、前記FA2G2が全グリカン種の約5.5%を占める、請求項1に記載の製剤。
【請求項20】
前記アベルマブが(配列番号2)の重鎖配列を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項21】
静脈内(IV)投与用である、請求項1~20のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項22】
請求項2に記載の製剤を含有するバイアル。
【請求項23】
20mg/mLの濃度の溶液10mL中にアベルマブ200mgを含有する、請求項2に記載のバイアル。
【請求項24】
ガラスバイアルである、請求項2または2に記載のバイアル。
【請求項25】
がんを処置するための、請求項1~2のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項26】
前記がんが、非小細胞性肺がん、尿路上皮癌、膀胱がん、中皮腫、メルケル細胞癌、胃もしくは胃食道接合部がん、卵巣がん、乳がん、胸腺腫、胃腺癌、副腎皮質癌、頭頚部扁平上皮癌、腎細胞癌、メラノーマ、および/または古典的ホジキンリンパ腫から選択される、請求項2に記載の製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の抗PD-L1抗体製剤に関する。特に、本発明は抗PD-L1抗体アベルマブの水性医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プログラム死1(PD-1)受容体ならびにPD-1リガンド1および2(PD-L1、PD-L2)は、免疫制御に重要な役割を果たす。活性化T細胞上に発現されると、PD-1は、間質細胞、腫瘍細胞、またはその両方によって発現されるPD-L1およびPD-L2によって活性化され、T細胞死および局所免疫抑制を開始し(Dong H, Zhu G, Tamada K, Chen L. B7-H1, a third member of the B7 family, co-stimulates T-cell proliferation and interleukin-10 secretion. Nat Med 1999;5:1365-69;Freeman GJ, Long AJ, Iwai Y, et al. Engagement of the PD-1 immunoinhibitory receptor by a novel B7 family member leads to negative regulation of lymphocyte activation. J Exp Med 2000;192:1027-34;Dong H, Strome SE, Salomao DR, et al. Tumor-associated B7-H1 promotes T-cell apoptosis: a potential mechanism of immune evasion. Nat Med 2002; 8:793-800. Erratum, Nat Med 2002;8:1039;Topalian SL, Drake CG, Pardoll DM. Targeting the PD-1/B7-H1(PD-L1) pathway to activate anti-tumor immunity. Curr Opin Immunol 2012;24:207-12)、腫瘍の発生および増殖のために免疫寛容な環境を提供する可能性がある。逆に、この相互作用の阻害により、非臨床動物モデルにおいて局所的なT細胞応答を増強し、抗腫瘍活性を媒介することができる(Dong H, Strome SE, Salomao DR, et al. Nat Med 2002; 8:793-800. Erratum, Nat Med 2002;8:1039;Iwai Y, Ishida M, Tanaka Y, et al. Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade. Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:12293-97)。臨床現場において、PD-1とPD-L1の相互作用を遮断する抗体による処置は、進行性または転移性固形腫瘍を患う患者において客観的奏効率7%から38%をもたらし、忍容可能な安全性プロファイルを示すことが報告されている(Hamid O, Robert C, Daud A, et al. Safety and tumor responses with lambrolizumab (Anti-PD-1) in melanoma. N Engl J Med 2013;369:134-44;Brahmer JR, Tykodi SS, Chow LQ, et al. Safety and activity of anti-PD-L1 antibody in patients with advanced cancer. N Engl J Med 2012;366(26):2455-65;Topalian SL, Hodi FS, Brahmer JR, et al. Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. N Engl J Med 2012;366(26):2443-54;Herbst RS, Soria J-C, Kowanetz M, et al. Predictive correlates of response to the anti-PD-L1 antibody MPDL3280A in cancer patients. Nature 2014;515:563-67)。明らかに、応答は、患者の大半において1年またはそれ以上の期間にわたり継続して現れた。
【0003】
アベルマブ(MSB0010718Cとしても公知)は、イムノグロブリン(Ig)G1アイソタイプの完全ヒトモノクローナル抗体である。アベルマブはPD-L1に選択的に結合し、PD-L1とPD-1の相互作用を競合的に遮断する。
【0004】
T細胞を標的とする抗PD-1抗体と比較して、アベルマブは腫瘍細胞を標的とするため副作用が少ないことが期待され、PD-L1の遮断はPD-L2/PD-1経路はそのままであり末梢の自己寛容を促進するため、低リスクの自己免疫関連の安全性の問題を含む(Latchman Y, Wood CR, Chernova T, et al. PD-L1 is a second ligand for PD-1 and inhibits T cell activation. Nat Immunol 2001;2(3):261-68)。
【0005】
アベルマブは現在、非小細胞性肺がん、尿路上皮癌、中皮腫、メルケル細胞癌、胃または胃食道接合部がん、卵巣がん、および乳がんを含む多くの癌種で臨床試験中である。
【0006】
アベルマブのアミノ酸配列および配列変異体およびそれらの抗原結合断片は国際公開第2013079174号パンフレットに開示され、ここではアベルマブのアミノ酸配列を有する抗体はA09-246-2と呼ばれる。また、製造方法および特定の医薬品用途も開示されている。
アベルマブのさらなる医薬品用途は、国際公開第2016137985号パンフレット、国際公開第2016181348号パンフレット、国際公開第2016205277号パンフレット、PCT/US2016/053939、米国特許出願公開第62/423,358号明細書に記載される。国際公開第2013079174号パンフレットも、2.4節にアベルマブのアミノ酸配列を有する抗体のヒト水性製剤を記載する。この製剤は、10mg/mlの濃度の抗体、抗酸化剤としてのメチオニンを含み、pHが5.5である。抗酸化剤を含まないアベルマブ製剤はPCT/EP2016/002040に記載される。
IgG1型のアグリコシル抗PD-L1抗体の製剤試験は、国際公開第2015048520号パンフレットに記載され、ここではpHが5.8の製剤が臨床試験のために選択された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
アベルマブは通常、静脈内注入によって患者に送達され、したがって水性剤形で提供されるため、本発明は、翻訳後修飾を伴うアベルマブの安定化に好適であり、国際公開第2013079174号パンフレットに開示されるように高濃度であるさらなる水性製剤に関する。
【0008】
図1a(配列番号1)は、宿主生物として使用したCHO細胞によって発現された場合の、アベルマブの全長重鎖配列を示す。
しかしながら、抗体産生過程において、重鎖のC末端リジン(K)の切断が頻繁に観察される。Fc部分に局在して、この修飾は抗体-抗原結合に影響を及ぼさない。したがって、いくつかの実施形態では、アベルマブの重鎖配列のC末端リジン(K)は存在しない。C末端リジンがないアベルマブの重鎖配列を図1b(配列番号2)に示す。
図2(配列番号3)は、アベルマブの全長軽鎖配列を示す。
【0009】
関連性の高い翻訳後修飾はグリコシル化である。
真核細胞生物の小胞体内で産生されるほとんどの可溶性タンパク質および膜結合タンパク質はグリコシル化を受け、グリコシルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素は、タンパク質の特定のグリコシル化部位に1つまたはそれ以上の糖単位を結合する。最も頻繁には、結合点はNH基またはOH基であり、N-結合グリコシル化またはO-結合グリコシル化をもたらす。
これは、真核生物宿主細胞において組換えにより産生される抗体などのタンパク質にもあてはまる。組換えIgG抗体は、CH2ドメインにおけるFc領域の特定のアスパラギン残基において保存されたN-結合グリコシル化部位を含有する。その可溶性および安定性、プロテアーゼ耐性、Fc受容体への結合、細胞輸送、ならびにin vivoでの循環半減期に影響を及ぼすなど、抗体におけるN-結合グリコシル化の多くの公知の身体機能がある(Hamm M. et al., Pharmaceuticals 2013, 6, 393-406)。IgG抗体N-グリカン構造は、b-D-N-アセチルグルコサミン(GlcNac)、マンノース(Man)、ならびに頻繁にはガラクトース(Gal)およびフコース(Fuc)単位を含む、主に二分岐複合体型構造である。
【0010】
アベルマブにおける単一のグリコシル化部位はAsn300であり、両重鎖のCH2ドメインに位置する。グリコシル化の詳細は実施例1に記載する。
【0011】
グリコシル化が抗体の可溶性および安定性に影響を及ぼすため、抗体の、安定で薬学的に好適な製剤を開発する場合、このパラメーターを考慮に入れることは賢明である。
【0012】
驚くべきことに、本特許出願の発明者らによって、5.2未満のpH値で、抗酸化剤を含まない多くの水性製剤において、そのアミノ酸配列およびその翻訳後修飾によって完全に特性評価されたアベルマブを安定化することが可能なことが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1aはアベルマブの重鎖配列(配列番号1)を示す図であり、図1bはC末端Kを欠損している、アベルマブの重鎖配列(配列番号2)を示す図である。
図2】アベルマブの軽鎖配列(配列番号3)を示す図である。
図3】アベルマブの二次構造を示す図である。
図4】アベルマブグリカンの2AB HILIC-UPLCクロマトグラムを示す図である。
図5図4のピークの番号付けを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用した以下の用語は下記に記載した以下の意味を有する。
【0015】
本明細書で参照する「アベルマブ」は、国際公開第2013079174号パンフレットにそのアミノ酸配列を定義され、本特許出願にそのアミノ酸配列およびその翻訳後修飾を定義されたIgG1型の抗PD-L1抗体を含む。本明細書で参照する「アベルマブ」は、例えば国際公開第2013079174号パンフレットに開示されたアミノ酸配列と少なくとも75%、好適には少なくとも80%、好適には少なくとも85%、好適には少なくとも90%、好適には少なくとも95%、好適には少なくとも96%、好適には少なくとも97%、好適には少なくとも98%、または最も好適には少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を共有するバイオシミラーを含み得る。代わりにまたはさらに、本明細書で参照する「アベルマブ」は、本明細書で開示したものと翻訳後修飾、特にグリコシル化パターンが異なるバイオシミラーを含み得る。
【0016】
用語「バイオシミラー」(後発生物製剤としても公知)は当技術分野で周知であり、原薬がアベルマブのバイオシミラーであると考えられる場合に、当業者は容易に認識するであろう。用語「バイオシミラー」は、通常、事前に販売承認を公式に認可された「革新的バイオ医薬品」(原薬が生物によって産生される、または生物由来である、または組換えDNAもしくは制御された遺伝子発現方法による「生物製剤」)の後続版(通常異なる供給源由来)を記載するために使用される。生物製剤は分子の複雑性が高く、通常製造工程の変化に感受性であるため(例えば、異なる細胞系をそれらの生産に使用した場合)、ならびに後続の後発製造が通常発案者の分子クローン、細胞バンク、発酵および精製工程に関するノウハウ、または有効な原薬自体(革新者の市販の製剤のみ)にアクセスを有しないため、いずれの「バイオシミラー」も革新的な製剤と全く同じではないようである。
本明細書において、用語「緩衝液」または「緩衝溶液」は、通常、酸(通常弱酸、例えば酢酸、クエン酸、ヒスチジンのイミダゾリウム形態)およびその共役塩基(例えば、酢酸塩またはクエン酸塩、例えば酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはヒスチジン)の混合物、または代わりに塩基(通常弱塩基、例えばヒスチジン)およびその共役酸(例えばプロトン化ヒスチジン塩)の混合物を含む水性溶液を指す。「緩衝溶液」のpHは、「緩衝剤」によって付与された「緩衝効果」により少量の強酸または強塩基の添加時に非常にわずかに変化する。
【0017】
本明細書において、「緩衝系」は1つもしくはそれ以上の緩衝剤および/またはその共役酸/塩基を含み、より好適には1つまたはそれ以上の緩衝剤およびその共役酸/塩基を含み、最も好適には1つのみの緩衝剤およびその共役酸/塩基を含む。特に明記しない限り、「緩衝系」に関して本明細書で規定した任意の濃度(すなわち、緩衝液濃度)は、好適には緩衝剤および/またはその共役酸/塩基を合わせた濃度を指す。言い換えると、「緩衝系」に関して本明細書で規定した濃度は、好適には全ての関連緩衝種(すなわち、例えばクエン酸塩/クエン酸など互いに動的平衡状態にある種)を合わせた濃度を指す。したがって、ヒスチジン緩衝系の所与の濃度は、通常ヒスチジンおよびヒスチジンのイミダゾリウム形態を合わせた濃度を指す。しかしながら、ヒスチジンの場合、そのような濃度は通常、ヒスチジンまたはその塩の入力量を参照することにより算出しやすい。関連緩衝系を含む組成物の全体のpHは、通常、各関連緩衝種の平衡濃度(すなわち、緩衝剤とその共役酸/塩基とのバランス)を反映する。
【0018】
本明細書において、用語「緩衝剤」は、緩衝液または緩衝溶液の酸または塩基成分(通常弱酸または弱塩基)を指す。緩衝剤は、所与の溶液のpHをあらかじめ決定した値にまたはあらかじめ決定した値付近に維持するのに役立ち、緩衝剤は通常、あらかじめ決定した値を補足するために選択される。緩衝剤は好適には、特に適切な量(あらかじめ決定した所望のpHによる)のその相当する「共役酸/塩基」と混合される(好適にはプロトン交換できる)場合、または必要量のその相当する「共役酸/塩基」がin situで形成される場合-これは必要なpHに達するまで強酸または強塩基を添加することにより達成され得る-、所望の緩衝効果を生じる単一の化合物である。例えば、酢酸ナトリウム緩衝系では、酢酸ナトリウム(塩基性)の溶液から始め、次いで例えば塩酸によって酸性化され、または酢酸(酸性)の溶液に水酸化ナトリウムもしくは酢酸ナトリウムを所望のpHに達するまで添加することができる。
【0019】
通常、「安定剤」は、特に冷凍および/または凍結乾燥および/または保管中(特にストレスに曝露された時)に、バイオ医薬品の構造的完全性の維持を容易にする成分を指す。この安定化効果は様々な理由から生じるが、典型的にはそのような安定剤は、タンパク質変性を軽減するオスモライトとして作用し得る。本明細書で使用する場合、安定剤は、糖アルコール(例えば、イノシトール、ソルビトール)、二糖類(例えば、スクロース、マルトース)、単糖類(例えばデキストロース(D-グルコース))、またはアミノ酸リジンの形態(例えば、リジン一塩酸塩、酢酸塩または一水和物)、または塩(例えば、塩酸ナトリウム)であってよい。
【0020】
本発明による緩衝剤、抗酸化剤、または界面活性剤として使用される薬剤は、とりわけそれらが安定化作用を示し得る場合でも、本明細書で使用する用語「安定剤」の意味から除外される。
【0021】
本明細書において、用語「界面活性剤」は、表面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤を指す。本明細書で使用する界面活性剤の例としては、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレート、商標名Tween80としても公知);ポリオキシルヒマシ油、例えば、ヒマシ油をモル比1:35で酸化エチレンと反応させることによって作成され、商標名Klliphor ELPとしても公知のポリオキシル35ヒマシ油;または低分子量ポビドン(ポリビニルピロリドン)であり、CAS番号9003-39-8で公知であり、わずかに異なる分子量を有するKillidon12PFもしくは17PF(12PF:2000~3000g/mol、17PF:7000~11000g/mol)を含む。

【0022】
本発明により緩衝剤、抗酸化剤、または安定剤として使用される薬剤は、とりわけそれらが界面活性作用を示し得る場合でも、本明細書で使用する用語「界面活性剤」の意味から除外される。
【0023】
本明細書において、用語「安定な」は通常、保存/保管中の成分、典型的には有効成分またはそれらの組成物の物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的安定性を指す。
【0024】
本明細書において、用語「抗酸化剤」はバイオ医薬品の酸化を防ぎまたは減少し、製剤中で安定化され得る薬剤を指す。抗酸化剤は、ラジカルスカベンジャー(例えば、アスコルビン酸、BHT、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、または没食子酸プロピル)、キレート剤(例えばEDTAまたはクエン酸)、または連鎖停止剤(例えばメチオニンまたはN-アセチルシステイン)を含む。
本発明により緩衝剤、安定剤、または界面活性剤として使用される薬剤は、とりわけそれらが抗酸化作用を示し得る場合でも、本明細書で使用した用語「抗酸化剤」の意味から除外される。
【0025】
「希釈剤」は、例えば重量百分率が合計100%になるように任意の液体医薬組成物の成分のバランスを構成する薬剤である。本明細書において、液体医薬組成物は、本明細書で使用する「希釈剤」が水、好ましくは注射用の水(WFI)であるため、水性医薬組成物である。
【0026】
本明細書において、用語「粒子径」または「孔径」はそれぞれ、所与の粒子または孔の最長寸法の長さを指す。両径はレーザー粒子径分析器および/または電子顕微鏡(例えば、トンネル電子顕微鏡、TEMまたは走査電子顕微鏡、SEM)を使用して測定し得る。粒子数(任意の所与の径に関して)は、サブビジブル粒子の粒子数に関する実施例に概説した手順および装置を使用して得ることができる。
【0027】
本明細書において、用語「約」は、本技術分野において当業者に公知のそれぞれの値の通常のエラー範囲を指す。本明細書において「約」を付した値またはパラメーターへの言及は、その値またはパラメーター自体を対象とする実施形態を含む(および記載する)。分からない場合、または特定の値もしくはパラメーターのエラー範囲に関して当技術分野において認識される共通の理解がない場合、「約」はこの値またはパラメーターの±5%を意味する。
【0028】
本明細書において、グリカン種に関連する用語「パーセントを占める」は、異なる種の数を直接指す。例えば、用語「前記FA2G1は、全グリカン種の25%~41%を占める」は、100個の重鎖を有する分析した50個の抗体分子において、25~41個の重鎖がFA2G1グリコシル化パターンを示すことを意味する。
【0029】
「処置する」または「処置」への言及は、病状の確立された症状の予防および軽減を含むと考えられる。したがって、状態、障害、または病状を「処置する」またはそれらの「処置」は以下を含む:(1)状態、障害、または病状に苦しんでいるまたは罹患しやすいが、状態、障害、または病状の臨床症状または無症候性症状はいまだ経験していないまたは表していないヒトで発症する状態、障害、または病状の臨床症状の出現を予防するまたは遅らせること、(2)状態、障害、または病状を阻害する、すなわち疾患の発生またはその再発(維持処置の場合)または少なくとも1つの臨床症状もしくはその無症候性症状を抑止する、軽減する、または遅らせること、あるいは(3)疾患を緩和するまたは減弱する、すなわち状態、障害、もしくは病状、または少なくとも1つのその臨床症状もしくは無症候性症状の退縮を引き起こすこと。
【0030】
水性抗PD-L1抗体製剤
第1の態様では、本発明は、
(i)抗体として1mg/mLから30mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)緩衝剤として5mMから35mMの濃度のグリシン、コハク酸、クエン酸リン酸またはヒスチジン;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、リジン一水和物、リジン酢酸塩、デキストロース、スクロース、ソルビトールまたはイノシトール;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のポビドン、ポリオキシルヒマシ油またはポリソルベート;
を含み、メチオニンを含まず、さらにpHが3.8から5.2である、新規の水性医薬抗体製剤を提供する。
【0031】
好ましい実施形態では、製剤は抗酸化剤を含まない。
【0032】
一実施形態では、前記製剤中のアベルマブの濃度は約10mg/mLから約20mg/mLである。
さらに別の実施形態では、前記製剤中のグリシン、コハク酸、クエン酸リン酸またはヒスチジンの濃度は、約10mMから約20mMである。
さらなる実施形態では、前記製剤中のリジン一塩酸塩の濃度は約140mMから約280mMである、または前記リジン一水和物の濃度は約280mMである、または前記リジン酢酸塩の濃度は約140mMである。
さらに別の実施形態では、前記製剤中のデキストロース、スクロース、ソルビトールまたはイノシトールの濃度は約280mMである。
さらに別の実施形態では、前記製剤中のポビドン、ポリオキシルヒマシ油またはポリソルベート、イノシトールの濃度は約0.5mg/mLである。
好ましい実施形態では、前記製剤中の前記ポビドンは、CAS番号9003-39-8の低分子量ポリビニルピロリドンKollidon12PFまたは17PFである。
別の好ましい実施形態では、前記ポリオキシルヒマシ油はポリオキシル35ヒマシ油である。
さらに別の好ましい実施形態では、前記ポリソルベートはポリソルベート80である。
【0033】
より好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PF、ポリオキシル35ヒマシ油またはポリソルベート80を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが約3.8から4.6であり、抗酸化剤を含まない。
【0034】
等しく好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PFまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.9から5.2であり、抗酸化剤を含まない。
【0035】
等しく好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として10mMから20mMの濃度のクエン酸リン酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PFまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが3.8から4.7であり、抗酸化剤を含まない。
【0036】
等しく好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6であり、抗酸化剤を含まない。
【0037】
より好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン酢酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6であり、抗酸化剤を含まない。
【0038】
等しく好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約280mMの濃度のスクロースを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のKollidon12PFを含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2であり、抗酸化剤を含まない。
【0039】
等しく好ましい実施形態では、新規の水性医薬抗体製剤は:
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2であり、抗酸化剤を含まない。
【0040】
上記の実施形態のより好ましい実施形態では、アベルマブの濃度は約20mg/mlである。
【0041】
さらにより好ましい実施形態では、前記製剤は:
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、
または
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン酢酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、
または
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のヒスチジン;
(iii)280mMの濃度のスクロース;
(iv)0.5mg/mLの濃度のKollidon12PF;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である、
または
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のコハク酸;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である。
【0042】
別の好ましい実施形態では、製剤は270mOsm/kgと330mOsm/kgの間のオスモル濃度を有する。
【0043】
一実施形態では、上記の製剤中の前記アベルマブは、図1a(配列番号1)または図1b(配列番号2)のいずれかの重鎖配列、図2(配列番号3)の軽鎖配列を有し、Asn300にグリコシル化を有し、主なグリカン種(main glycan species)としてFA2およびFA2G1を含み、合わせて全グリカン種の>70%を占める。
【0044】
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化において、前記FA2は全グリカン種の44%~54%を占め、前記FA2G1は全グリカン種の25%~41%を占める。
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化において、前記FA2は全グリカン種の47%~52%を占め、前記FA2G1は全グリカン種の29%~37%を占める。
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化において、前記FA2は全グリカン種の約49%を占め、前記FA2G1は全グリカン種の約30%~約35%を占める。
【0045】
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化は、少ないグリカン種(minor glycan species)として全グリカン種の<5%を占めるA2、全グリカン種の<5%を占めるA2G1、全グリカン種の<5%を占めるA2G2、全グリカン種の<7%を占めるFA2G2をさらに含む。
【0046】
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化において、前記A2は全グリカン種の3%~5%を占め、前記A2G1は全グリカン種の<4%を占め、前記A2G2は全グリカン種の<3%を占め、前記FA2G2は全グリカン種の<5%~6%を占める。
【0047】
好ましい実施形態では、アベルマブのグリコシル化において、前記A2は全グリカン種の約3.5%~約4.5%を占め、前記A2G1は全グリカン種の約0.5%~約3.5%を占め、前記A2G2は全グリカン種の<2.5%を占め、前記FA2G2は全グリカン種の約5.5%を占める。
【0048】
一実施形態では、上記の製剤中の前記アベルマブは、図1b(配列番号2)の重鎖配列を有する。
【0049】
一実施形態では、上記のアベルマブ製剤は静脈内(IV)投与用である。
【0050】
薬物送達デバイス
第2の態様では、本発明は、本明細書に定義した液体医薬組成物を含む薬物送達デバイスを提供する。好適には、薬物送達デバイスは、医薬組成物が内部に存在するチャンバーを含む。好適には薬物送達デバイスは無菌である。
薬物送達デバイスは、バイアル、アンプル、シリンジ、注射ペン(例えば、基本的にはシリンジを含む)、またはi.v.(静脈内)バッグであり得る。
水性医薬製剤は、非経口的に投与され、好ましくは皮下注射、筋肉内注射、i.v.注射、またはi.v.注入による。投与の最も好ましい方法はi.v.注入である。
好ましい実施形態では、薬物送達デバイスは上記の製剤を含有するバイアルである。
より好ましい実施形態では、前記バイアルは、20mg/mLの濃度の溶液10mL中にアベルマブ200mgを含有する。
さらにより好ましい実施形態では、バイアルはガラスバイアルである。
【0051】
医学的処置
第3の態様では、本発明は、上記の製剤を患者に投与するステップを含む、がんを処置する方法を提供する。
一実施形態では、処置するがんは、非小細胞性肺がん、尿路上皮癌、膀胱がん、中皮腫、メルケル細胞癌、胃もしくは胃食道接合部がん、卵巣がん、乳がん、胸腺腫、胃腺癌、副腎皮質癌、頭頚部扁平上皮癌、腎細胞癌、メラノーマ、および/または古典的ホジキンリンパ腫から選択される。
【0052】
製造方法
本発明は、本明細書に定義した水性医薬製剤を製造する方法も提供する。本方法は、好適には、適切だと思われる任意の特定の順番で、水性医薬製剤を形成するために必要な任意の関連する成分を一緒に混合するステップを含む。当業者は、水性医薬製剤(特に、シリンジによる注射またはi.v.注入のためのもの)を形成するための当技術分野で周知の実施例または技術を参照することができる。
【0053】
本方法は、まずアベルマブを除くいくつかのまたは全ての成分(任意選択により、いくつかのまたは全ての希釈物を含む)の予混合物(または予溶液)を調製するステップを含み、次いでアベルマブはそれ自体(任意選択により、いくつかの希釈物を含むまたはいくつかの希釈物にあらかじめ溶解する)、予混合物(または予溶液)と混合されて水性医薬製剤を得る、または次いで最終成分が添加される組成物を得て最終水性医薬製剤を供給する。好ましくは、本方法は、緩衝系、好適には本明細書に定義した緩衝剤を含む緩衝系を形成するステップを含む。緩衝系は、好適には、アベルマブの添加前の予混合物において形成される。緩衝系は、緩衝剤(既製で供給される)とその共役酸/塩基(好適には、所望のpHを提供するのに適切な相対量-これは当業者によって理論的にまたは実験的に決定され得る)を単に混合することにより形成され得る。酢酸塩緩衝系の場合、これは例えば酢酸ナトリウムとHClを混合すること、または酢酸とNaOHもしくは酢酸塩を混合することを意味する。最終水性医薬製剤の予混合物のいずれかのpHは、必要量の塩基もしくは酸、または緩衝剤もしくは共役酸/塩基を添加することによって賢明に調整され得る。
【0054】
特定の実施形態では、緩衝剤および/または緩衝系は別々の混合物としてあらかじめ形成され、緩衝系は、緩衝液交換(例えば、関連濃度またはオスモル濃度に達するまで透析濾過を使用する)によって水性医薬製剤(緩衝剤および/または緩衝系を除くいくつかのまたは全ての成分を含み、好適にはアベルマブを含み、アベルマブのみの可能性もある)の前駆体へと移される。その後必要であれば、最終液体医薬組成物を産生するためにさらなる賦形剤が添加され得る。pHは全ての成分が存在すると、または全ての成分が存在する前に調整され得る。
【0055】
いずれかの、いくつかの、または全ての成分は、あらかじめ溶解される、または他の成分と混合する前に希釈剤とあらかじめ混合される。
最終水性医薬製剤は濾過され、好適には粒子状物質を除去され得る。好適には、濾過は1μmのまたは1μm未満のサイズのフィルター、好適には0.22μmのフィルターを通す。好適には、濾過はPESフィルターまたはPVDFフィルターのいずれかを通し、好適には0.22μmのPESフィルターによる。
【0056】
当業者は、抗体原薬が静脈内に投与され得るようにどのように水性医薬製剤がIV溶液を調製するために使用され得るかを周知している。
IV溶液の調製は、典型的にはプラスチックシリンジ(PP)および針によって生理食塩水バッグ(例えば、0.9%または0.45%生理食塩水)から吸引される特定の量の溶液からなり、水性医薬製剤と置き換えられる。置き換えられる溶液の量は患者の体重に依存する。
【0057】
略語
ANOVA 分散分析
CD 円偏光二色性
CE-SDS キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム
cIEF キャピラリー等電点電気泳動
DoE 実験デザイン
DP 製剤
DS 原薬
FT 凍結融解
HMW 高分子量
LMW 低分子量
SE-HPLC サイズ排除高速液体クロマトグラフィー
OD 吸光度
PES ポリエーテルスルホン
PVDF フッ化ポリビニリデン
RH 相対湿度
SE-HPLC サイズ排除高速クロマトグラフィー
UV 紫外線
WFI 注射用水
【実施例
【0058】
[実施例1]
アベルマブの構造
1.1 一次構造
アベルマブは2つの重鎖分子および2つの軽鎖分子を有するIgGである。2つの鎖のアミノ酸配列は、それぞれ図1a(配列番号1)/1b(配列番号2)および2(配列番号3)に示す。
【0059】
1.2 二次構造
LC-MSおよびMS/MS法は、分子の完全な鎖およびタンパク質への翻訳後修飾の存在を確認するために使用された。アベルマブ分子サブユニットの二次構造は図3に示す。
【0060】
トリプシン消化によって得られたペプチドのUPLC-Q-TOF質量分析によって確認されたように、ジスルフィド結合Cys21-Cys96、Cys21-Cys90、Cys147-Cys203、Cys138-Cys197、Cys215-Cys223、Cys229-Cys229、Cys232-Cys232、Cys264-Cys324およびCys370-Cys428は、9つの典型的なIgG結合パターンを形成する。
【0061】
1.3 グリコシル化
分子は、重鎖のAsn300に1つのN-グリコシル化部位を含有する。ペプチドマッピングによって決定したように、MALDI-TOFによって同定された主な構造は、0個(G0F)、1個(G1F)、または2個のガラクトース(G2F)残基を有する複雑な二分岐型のコアフコシル化オリゴサッカライドであった。主な種はG0FおよびG1Fである。2-アミノベンズアミドによって蛍光標識したアベルマブグリカンを、HILIC-UPLC-ESI-Q-TOFによって分析した。図4は、見出されたグリカン種のUPLCプロファイルを示す。
【0062】
【表1-1】
【0063】
【表1-2】
【0064】
使用したグリカンの命名法は、Harvey et al. (Proteomics 2009, 9, 3796-3801)によって提案されたOxford Notationに従った。フコースを含有する種において(FA2、FA2G1、FA2G2)、Fuc-GlcNAc連結はα1~6である。末端GlcNAcを有する種において、GlcNAc-Man連結はβ1~2である。ガラクトースを含有する種において、Gal-GlcNAc連結はβ1~4である。
【0065】
報告したクロマトグラフプロファイルは統合され、表2aに示すようにアベルマブのグリカン種分布をもたらした。
【0066】
【表2】
【0067】
グリカンマッピング分析により、ペプチドマッピングによって行った同定(2つの主なグリカン種の同定が可能)を確認し、さらにグリカン分析に特異的なこの方法によって、二次および少ない種も特性評価された。
【0068】
別の測定において、以下のグリカン種分布が観察された。
【0069】
【表3】
【0070】
[実施例2]
DoEスクリーニング
20mg/mLのアベルマブでスクリーニングする実験デザインは、様々な緩衝液型/pH、安定剤、界面活性剤型、および関連濃度などのいくつかの因子の影響を評価した。80個の異なる製剤を試験する試験は、タンパク質の安定性を最大にし得る好適な条件の選択をもたらした。
【0071】
このDoEにおいて、異なる緩衝液型および有効pH緩衝範囲にわたる4つの異なる緩衝液を調べた:
グリシン(有効pH4.0から7.5)およびヒスチジン(有効pH5.0から6.6)などのアミノ酸緩衝液。
クエン酸などのキレートイオン緩衝液(有効pH4.0から7.5)。
コハク酸(有効pH5.0から6.0)。
【0072】
化学構造に基づき、DoEにおいて7つの安定剤を選択した。DoEは、糖、ポリオール、塩、およびアミノ酸を含んだ。内訳は以下の通りである:
糖:二糖スクロースおよびマルトース、ならびに単糖デキストロース(D-グルコース)を選択した。
糖アルコール:2つの糖アルコール/ポリオールを、DoEのために選択した-ソルビトールおよびイノシトール
塩:塩化ナトリウムを、このDoEにおいて独立型の安定剤として調べた。
アミノ酸:正に荷電したアミノ酸であるリジンを調べた。
【0073】
表3は、試料およびそれらのそれぞれの組成物を列挙する。
【0074】
【表4-1】
【0075】
【表4-2】
【0076】
表4は、このDoEスクリーニングのおよび本明細書に提示のフレームワークにおいて実施した分析試験(短期安定性、機械的ストレス、光曝露、F/T)を列挙する。
【0077】
【表5】
【0078】
2.1 安定性の測定に使用する方法
熱安定性
製剤の熱安定性を、以下について40±2℃(75%R.H.)での保存の4週間後に調べた:
・凝集指標:吸光度によって算出し、HMV不純物の凝集および形成を追跡する
・視覚的な粒子の存在の目視検査
・SE-HPLCによるHMW含量(凝集を追跡する)
・バイオアナライザーによるLMW含量(断片化を追跡する)
【0079】
光ストレス
製剤を、ICHQ1Bガイドラインの要件を満たす、765W/mの強度の光に7時間曝露した。製剤を以下の技術によって分析した。
・凝集指標:ODによって算出し、光ストレスから生じる凝集形成の程度を測定する。
・目視検査:凝集から生じるビジブル粒子の存在のため
・CE-SDS:LMW不純物の産生のため、HMW不純物も示す
・SE-HPLC:凝集から生じるHMW不純物の定量
・cIEF:荷電変異体の相対量への洞察を提供し、酸化をモニターできる(光ストレスの産物により)
【0080】
機械的ストレス
機械的(振盪)ストレスは、タンパク質の自己会合および溶液中のタンパク質の疎水性領域間の相互作用による凝集の産生と関連することが多い。本研究におけるDoE製剤を、室温において200rpmでの撹拌の24時間後の振盪ストレスへの耐性について調べた。振盪ストレス製剤を、以下のように分析した:
・凝集指標:吸光度によって算出し、凝集およびHMV不純物の形成を追跡する
・視覚的な粒子の存在の目視検査
・SE-HPLCによるHMW含量(HMW不純物生成を追跡し、したがって凝集をモニターする)
・バイオアナライザーによるLMW含量(断片化を追跡する)
【0081】
凍結/融解ストレス
タンパク質製剤を凍結する場合、固化を始める溶液内の微小領域として界面が形成される。これらの微小環境では、製剤緩衝液の異なる成分が固化している液体マトリックスから除外されるまたは含まれる場合、極性の変化がある。親水性/疎水性相互作用が、これらの変化する微小環境における分子に作用した場合、タンパク質の沈殿が生じる。DoEにおいて、様々な安定剤および界面活性剤の有効性を確かめるため、試料を凍結-溶解の3サイクルに曝露した。試料を、次いで以下の分析によって調べ、凍結-融解による沈殿/凝集/分解へのそれらの耐性を測定した:
・凝集指標:吸光度によって算出し、凝集およびHMV不純物の形成を追跡する
・視覚的な粒子の存在の目視検査
・SE-HPLCによるHMW含量(HMW不純物生成を追跡し、したがって凝集をモニターする)
【0082】
2.2 製造
組成物の原薬材料:20.6mg/mLアベルマブ、51mg/mL D-マンニトール、0.6mg/mL氷酢酸、pH5.2(界面活性剤を含まない)を、3つの緩衝液:
- 10mMクエン酸-リン酸 pH5.2、
- 10mMグリシン pH5.2、
- 10mMヒスチジン pH5.2、
- 10mMコハク酸 pH5.2、
中でタンジェント流濾過(PES中、10kDaの排除限界でPellicon XL Cassette Biomaxを使用)によって平衡化した。
緩衝液交換を、4つの適当な緩衝液の1つで、上記のDSの5倍希釈によって行い、最初の容積が得られるまで平衡化/濃縮した。操作は3回繰り返した。4つの平衡化した原薬材料のタンパク質含量を、製剤製造の前にODによって試験した。
【0083】
製剤1~21(クエン酸-リン酸緩衝液中)
交換したDS材料(26.4mg/mL)をガラスビーカー(30.30グラム)中で計量した。必要であれば、緩衝液の強度をリン酸水素二ナトリウム二水和物およびクエン酸一水和物を添加することによって調整した(交換したDSの開始モル濃度:10mM;DoE製剤におけるモル濃度範囲:10~50mM)。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで安定剤:ソルビトール(2.04グラム)またはデキストロース(2.02g)またはイノシトール(2.02g)またはマルトース一水和物(4.04g)またはリジン一塩酸塩(2.02g)または塩化ナトリウム(0.327g)またはスクロース(3.83g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.4mLの50mg/mL Tween40ストックまたは0.4mLの50mg/mL Tween80ストックまたは0.4mLの50mg/mL Kolliphor ELPストックまたは20mgのKollidon12PF(保存溶液の必要なし)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して希釈したo-リン酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(40g)にした。
【0084】
製剤22~31(グリシン緩衝液中)
交換したDS材料(24.5mg/mL)をガラスビーカー(32.65g)中で計量した。必要であれば、緩衝液の強度を、グリシンを添加することによって調整した(交換したDSの開始モル濃度:10mM;DoE製剤におけるモル濃度範囲:10~50mM)。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで安定剤:ソルビトール(2.04g)またはデキストロース(2.02g)またはイノシトール(2.02g)またはマルトース一水和物(4.04g)またはリジン一塩酸塩(2.02g)または塩化ナトリウム(0.327g)またはスクロース(3.83g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.4mLの50mg/mL Tween40ストックまたは0.4mLの50mg/mL Tween80ストックまたは0.4mLの50mg/mL Kolliphor ELPストックまたは20mgのKollidon12PF(保存溶液の必要なし)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(40g)にした。
【0085】
製剤32~43(グリシン緩衝液中)
交換したDS材料(23.2mg/mL)をガラスビーカー(34.48g)中で計量した。必要であれば、緩衝液の強度を、グリシンを添加することによって調整した(交換したDSの開始モル濃度:10mM;DoE製剤におけるモル濃度範囲:10~50mM)。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで安定剤:ソルビトール(2.04g)またはデキストロース(2.02g)またはイノシトール(2.02g)またはマルトース一水和物(4.04g)またはリジン一塩酸塩(2.02g)または塩化ナトリウム(0.327g)またはスクロース(3.83g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.4mLの50mg/mL Tween40ストックまたは0.4mLの50mg/mL Tween80ストックまたは0.4mLの50mg/mL Kolliphor ELPストックまたは20mgのKollidon12PF(保存溶液の必要なし)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(40g)にした。
【0086】
製剤64~80(コハク酸緩衝液中)
交換したDS材料(22.5mg/mL)をガラスビーカー(35.55グラム)中で計量した。必要であれば、緩衝液の強度を、コハク酸を添加することによって調整した(交換したDSの開始モル濃度:10mM;DoE製剤におけるモル濃度範囲:10~50mM)。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで安定剤:ソルビトール(2.04g)またはデキストロース(2.02g)またはイノシトール(2.02g)またはマルトース一水和物(4.04g)またはリジン一塩酸塩(2.02g)または塩化ナトリウム(0.327g)またはスクロース(3.83g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.4mLの50mg/mL Tween40ストックまたは0.4mLの50mg/mL Tween80ストックまたは0.4mLの50mg/mL Kolliphor ELPストックまたは20mgのKollidon12PF(保存溶液の必要なし)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(40グラム)にした。
【0087】
製剤44~63(ヒスチジン緩衝液中)
交換したDS材料(24.4mg/mL)をガラスビーカー(32.80g)中で計量した。必要であれば、緩衝液の強度を、ヒスチジンを添加することによって調整した(交換したDSの開始モル濃度:10mM;DoE製剤におけるモル濃度範囲:10~50mM)。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで安定剤:ソルビトール(2.04g)またはデキストロース(2.02g)またはイノシトール(2.02g)またはマルトース一水和物(4.04g)またはリジン一塩酸塩(2.02g)または塩化ナトリウム(0.327g)またはスクロース(3.83g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.4mLの50mg/mL Tween40ストックまたは0.4mLの50mg/mL Tween80ストックまたは0.4mLの50mg/mL Kolliphor ELPストックまたは20mgのKollidon12PF(保存溶液の必要なし)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(40グラム)にした。
【0088】
濾過および充填
50mlシリンジに付けた0.22ミクロンフィルター(Millex GP 0.22μm Express PES膜またはMillex GV 0.22μm Durapore PVDF膜)を通し濾過した各溶液を使用した。次いで、濾過した溶液を関連容器に充填した(2mL/容器)。
【0089】
2.3 結果
製造時のODによるタンパク質含量の確認
タンパク質含量を時間0(製造時)でODによって測定した。予測される目標と一致する値(20mg/mL)が見出された。
【0090】
2.3.1 熱ストレス
ODによる凝集指標
凝集指標をODによって測定した。SE-HPLCによって検出できないサブビジブル粒子/より大きな凝集を検出するためのツールとして凝集指標へのさらなる情報を添付の節に提供する。
ヒスチジン緩衝液は通常、ストレス時の凝集指標のより高い増加(すなわち、粒子のより大きな増加)と関連し、pHが5.0から6.6に増加する場合に最も著しいことが見出された(pH依存的効果)。
他の緩衝液では、凝集指標の変化は通常低く、したがってサブビジブル粒子のより低い増加を示す。
クエン酸-リン酸およびグリシン緩衝液中で製剤化されたいくつかの(わずかな)試料で観察された凝集指標の増加は、特定の因子(例えば、安定剤または界面活性剤型)に直接は帰せられない。
データを、Response Surface Linear ModelのANOVAによって統計的に評価し、以下の転帰を提供した:
緩衝液型、強度およびpHの統計的に有意な影響(全てp値<0.001を有する):凝集指標を最小にするため、クエン酸-リン酸(4.0~5.0)およびグリシン(4.0~5.8)およびコハク酸(5.0~5.5)の低いpH範囲と関連して、低い緩衝液強度を目標(10mM)とするべきであるが、ヒスチジンは通常、サブビジブル粒子/より大きな凝集の形成への負の影響を決定する。
【0091】
SE-HPLCによる総凝集
総凝集(HMW)を、時間0および熱ストレス時にSE-HPLCによって測定した。クエン酸-リン酸は通常、特にpHが増加する場合に、参照製剤(チャート内の赤い水平な棒として強調した参照閾値)よりも高い凝集をもたらす。グリシン緩衝液では、より高いpH値はより高い凝集と関連するが、低pH範囲が好まれる(5.0より低い)(クエン酸緩衝液を使用した場合と同様)。コハク酸は通常、全ての条件で参照より高い凝集値をもたらすが、低pH(5.0~5.5)のヒスチジン緩衝液は、参照に相当する凝集値を提供するようである。
データをまた、Response Surface Linear ModelのANOVAによって統計的に評価し、緩衝液型が有意な因子(p値=0.02)であると確認された。
全体として、熱ストレス時の凝集を減らすため、クエン酸-リン酸(pH範囲4.0~5.0)、グリシン(pH範囲4.0~6.8)およびヒスチジン(pH範囲5.0~5.8)は、コハク酸緩衝液よりも好まれるべきである。
【0092】
製剤#2(クエン酸-リン酸緩衝液pH4.0中Tween40+デキストロース)、製剤#22(グリシン緩衝液pH4.0中Kollidon12PF+塩化ナトリウム)および製剤#28(グリシン緩衝液pH4.5中Tween40+塩化ナトリウム)に存在するもののような組合せは、おそらくはKollidon12PFおよびTween40の低pH(約4.0~4.5)との不適合/塩化ナトリウムのような特定の安定剤との相互作用のために、タンパク質安定化に好ましくないようである(最適なpH/緩衝液条件が適用されるにもかかわらず凝集が著しく増加する)。
【0093】
バイオアナライザーによる断片化
断片化のレベルをバイオアナライザーによって評価した。ANOVA評価によって統計的に有意な結果は強調され得なかったが、参照組成物と一致するLMWパーセンテージを提供する断片化を最小にするのに最も有効な条件が強調され得た:
- pH範囲4.5~7.0のクエン酸-リン酸緩衝液
- pH範囲4.0~5.8のグリシン緩衝液。
方法の変化性を考慮して(バイオアナライザーが適用される場合、LMWの±2~3%までが一般的である)、他の条件(ヒスチジンおよびコハク酸緩衝液中の残りの組成物のような)は、LMW%を相対的に低く維持することが観察され、したがってさらに調べる価値がある。
【0094】
目視検査によるビジブル粒子
ビジブル粒子の存在を、熱ストレス前後に目視検査によって評価した。クエン酸-リン酸緩衝液中の変化する条件は、熱ストレス後のビジブル粒子の存在を生成することができる(最も典型的には微粒子様懸濁液)。
グリシン緩衝液では、粒子形成は、Tween種(Tween40を含有する試料ID#23、24、26、28)およびTween80を含有する製剤#30の存在と最も頻繁に関連する。グリシン緩衝液中の他の製剤(試料ID#32から#39)は、ストレス時に減少する傾向がある時間0での粒子の存在を示した(可能な可逆的クラスター)。
ヒスチジンでは、Tween種は通常、ストレス時のビジブル粒子形成と関連する(ストレス後にビジブル粒子を示す全ての製剤は、2つのTween代替え物の1つを含有する)。
コハク酸緩衝液では、ほとんどの製剤において時間0で観察される粒子は、熱ストレス時に減少することが見出された(経時的な可逆的関連の可能な破壊)。
【0095】
概要:熱ストレス
熱ストレス時のSE-HPLC、ODおよびバイオアナライザーによれば、好ましい性能を提供できる条件は、以下を含む:
- 緩衝液:クエン酸-リン酸またはグリシン(好ましくはより酸性pHであり、クエン酸リン酸では4.0~5.0およびグリシンでは4.0~5.8の範囲で最も関連性がある)。
- 緩衝液強度:好ましくは低い(凝集指標転帰あたりとして)。
- 安定剤:特定の兆候は得られなかった。
- 界面活性剤:Kolliphor ELPはサブビジブル粒子を減らすのに有効であることが観察された。
【0096】
2.3.2 光ストレス
O.D.による凝集指標
クエン酸-リン酸緩衝液中のほとんどのDoE組成物の凝集指標は、参照製剤よりも高いことが見出された(高いpH範囲で最も著しい)。pH効果もまた、グリシン緩衝液中で確認されたが、クエン酸-リン酸緩衝液に関してかなり低い凝集指標が見出された(pH範囲4.0~4.5で、参照組成物に相当する値またはそれ以下の値が強調された)。ヒスチジンおよびコハク酸緩衝液は通常、凝集指標のかなりの増加を引き起こすことができる(ヒスチジンはコハク酸よりも明らかに悪い)。
ANOVAによる統計分析は、緩衝液型、pHおよび強度(p値<0.0001)からの有意な影響を確認し、粒子形成を最小にする最良の条件がクエン酸リン酸緩衝液(4.0~5.0の範囲および低い緩衝液強度)、グリシン(4.0~5.8の範囲)の利用を含むことを示した。
界面活性剤もまた、安定性にいくらかの影響を及ぼすことが観察され、粒子の減少を狙う場合、Kolliphor ELPが、考慮に入れる最良のオプションであった。
【0097】
SE-HPLCによる総凝集
総凝集(HMW)を、時間0および光ストレス時にSE-HPLCによって測定した。クエン酸-リン酸は通常、特にpHが増加する場合に、参照製剤よりも高い凝集をもたらす。グリシン緩衝液では、より高いpH値はより高い凝集と関連するが、低いpH範囲が好まれる(4.8より低い)(クエン酸緩衝液を使用した場合と同様)。コハク酸は通常、全ての条件で参照より高い凝集値をもたらすが、ヒスチジン緩衝液(少しの例外を別にした全範囲)は、参照に相当する凝集値を提供するようである。
データをまた、Response Surface Linear ModelのANOVAによって統計的に評価し、緩衝液型およびpHが有意な因子(p値<0.0001)であると確認された。
全体として、熱ストレス時の凝集を減らすため、グリシン(pH範囲4.0~5.0)およびヒスチジン(pH範囲5.0~6.0)は、コハク酸およびクエン酸リン酸緩衝液よりも好まれるべきである。
重要なことに、リジン、デキストロース、ソルビトールおよびスクロースのような安定剤は、塩化ナトリウム、マルトースおよびイノシトールよりも光ストレスに対してより良い安定化を提供する(p値<0.01)。
【0098】
CE-SDSによる純度
CE-SDSによって測定した純度は、計算:100-CE-SDSによる%HMW-CE-SDSによる%LMWの結果であるように、HMWおよびLMW種両方の情報を有する。
純度値を光ストレスの前後で測定した。
ほとんどの製剤は、光ストレス時に参照組成物よりも高い純度を示す。安定性に負に影響し得る条件は、典型的には、高pH(>7.0)のクエン酸リン酸および低pH(4.0)のグリシン緩衝液であり;後者は、低pHでTween40/Kollidon12PFからの負の影響によって最も説明されるだろう。
ヒスチジンは、光曝露に対する製剤性能を最大にする純度に正に影響することが見出された。
ANOVAによる統計分析は、クエン酸-リン酸、グリシンまたはコハク酸緩衝液を使用する場合に得られた相当する性能により、緩衝液としてのヒスチジンの利用と関連する優れた挙動を確認した。
【0099】
cIEFによるアイソフォームプロファイル
アイソフォームプロファイルを、時間0および光曝露後に測定した。光曝露は通常、光酸化現象による酸性アイソフォームの増加を測定する。そのような増加は、全てのDoE製剤で算出された。
クエン酸-リン酸およびグリシン緩衝液(最も典型的には低いpH範囲)など、いくつかの条件がタンパク質の安定化(すなわち、アイソフォームプロファイルの低い変化)に好ましい。ヒスチジンが製剤緩衝液として使用される場合、低い性能を観察した。
Response Surface Linear ModelのANOVAによって評価されたデータは、上記を確認した(p値<0.0001の統計的に有意な因子の緩衝液型)。
統計分析はまた、L-リジンを安定剤として使用する場合、正の影響を確認した(酸性アイソフォーム変化の減少)。製剤#11、29、31、38に見出される変化を観察する場合、効果は非常に明確であり、代替えの安定剤による周辺製剤スペースのものよりかなり低い。
【0100】
目視検査によるビジブル粒子
ビジブル粒子の存在を、光ストレスの前後で目視検査によって評価した。ほとんどの製剤は、ビジブル粒子に関して、光ストレスによって影響されない。どの特定の条件も光ストレス時の粒子形成に関連しなかった。
【0101】
概要:光曝露ストレス
光ストレス時のSE-HPLC、OD、CE-SDS、cIEFおよび目視検査によれば、好ましい性能を提供できる条件は、以下を含む:
- 緩衝液:グリシン緩衝液(好ましくは、より酸性pHであり、範囲4.0~4.5で最も関連性がある)。
- 緩衝液強度:好ましくは低い(凝集指標結果あたりとして)。
- 安定剤:リジン(一塩酸塩)、デキストロースおよびソルビトールはタンパク質安定性に正の影響を示した。
- 界面活性剤:Kolliphor ELPはサブビジブル粒子を減らすのに有効であることが観察された。
【0102】
2.3.3 凍結-融解
光学密度による凝集指標
3×の凍結-融解サイクル(-80℃→室温)後、もう一度、グリシン緩衝液(低pH)は、低い粒子形成を示す最も低い値を提供することが確認される。凝集指標の増加は、pHが増加する場合にクエン酸-リン酸緩衝液およびグリシン緩衝液の両方で観察される(pHは、クエン酸-リン酸緩衝液でより決定的に作用する)。通常、参照組成物よりも高い凝集指標値はヒスチジンおよびコハク酸緩衝液で観察される。
ANOVAによる統計分析は、緩衝液型、pHおよび界面活性剤型からの中程度に有意な影響を強調し(0.01<p値<0.05)、6.0より低いpHのクエン酸-リン酸およびグリシン緩衝液は、凍結-融解によって誘導される粒子形成に対するタンパク質安定化に最良のオプションであり、コハク酸およびヒスチジン緩衝液は、参照組成物に関してわずかに下回ることを示す。
異なる界面活性剤の影響の比較は、Tween80、Kollidon12PFおよびKolliphor ELP(わずかに好ましい)からの相当する性能を示すが、Tween40は凝集指標を増加すると予測される。
【0103】
SE-HPLCによる総凝集
全ての製剤は、凍結-融解ストレス時に参照組成物よりも低い総凝集を示す(値は時間0に相当する)。
クエン酸-リン酸緩衝液では、凝集は、凍結-融解時に少ない/無視できる変化を伴う範囲7.0~7.5まで増加するpH(2.0~2.5% HMW)の主な作用として、参照組成物のレベルまで増加する傾向にあるが、pH<7.0での総凝集は、典型的には1.5%より低い量である(ストレス前後)。
グリシンおよびヒスチジン緩衝液では、ストレス後の全ての総凝集値は1%より少ない量である(時間0値に相当)。コハク酸では、凍結-融解は時間0に関して重大な変化を測定することを見出されなかったが、総凝集は通常、グリシンおよびヒスチジンよりもわずかに高い(1.5%以下、すなわちストレス後の参照よりかなり低い)。
統計分析は、緩衝液型およびpHからの有意な影響を確認し(p値<0.0001)、凍結-融解に対するタンパク質安定化の最良のオプションは、クエン酸-リン酸緩衝液(pH4.0~6.0)、グリシン緩衝液(pH4.0~7.0)およびヒスチジン(5.0~6.6)である。
有意な影響(p値<0.01)はまた、安定剤型因子についても強調された:リジン塩酸塩は時間0の凝集および凍結-融解ストレスに関する影響を最小にする(クエン酸緩衝液中の試料ID#6-9-11-17参照);スクロースおよびデキストロースは、同様に安定化特性を示す。
【0104】
目視検査によるビジブル粒子
凍結-融解時の目視検査の結果において、強調され得る大まかな傾向は、以下である:
- クエン酸-リン酸では、粒子形成は、高いpHでより起こるようである。
- 低いpH(<5)のグリシン緩衝液では、粒子形成は主にTween40(不安定化界面活性剤)の存在と関連する。
- ヒスチジン緩衝液では、Tween種は通常粒子形成と関連する。
- コハク酸では、どの特定の因子も粒子形成に関連しないようであるが、これは、この緩衝液が使用される場合、非常に頻繁に起こる。
【0105】
概要:凍結-融解ストレス
3×の凍結-融解サイクル(-80℃→室温)時の、SE-HPLC、ODおよび目視検査によれば、好ましい改善した性能を提供できる条件は、以下を含む:
- 緩衝液:グリシンまたはクエン酸-リン酸緩衝液(好ましくは、より酸性pHであり、範囲4.0~6.0で最も関連性がある)。
- 安定剤:リジン(一塩酸塩)、デキストロースおよびスクロースは、タンパク質安定性に正の影響を示した(SE-HPLCによる総凝集の減少)。
- 界面活性剤:Tween種のグリシンおよびヒスチジン緩衝製剤との配合禁忌を考慮して避け、ビジブル粒子形成を最小にした。
【0106】
2.3.4 機械的ストレス
吸光度による凝集指標
先に示したように、参照と最も類似した凝集指標値を可能にする因子(すなわち時間0に関して最小または増加なし)は、以下である:
クエン酸-リン酸は通常、特にpHが増加する場合およびTween種:試料ID#2(Tween40)、#8(Tween80)、#11(Tween40)、#19(Tween40)、#21(Tween40)の存在下で、参照よりも高い凝集指標値をもたらす。
グリシンは、低pH範囲で著しい安定化効果を提供する(凝集指標値は参照よりもわずかに低い)。
ヒスチジン緩衝液は、好ましくは5.0に近いpH値で、およびTween40およびTween80なしで使用され、これは最も高い凝集指標値:試料ID#50(Tween40)、#60(Tween80)、#62(Tween40)と関連するようである。
コハク酸は通常、含まれる特定の因子にかかわらず、参照組成物よりもわずかに高い凝集指標値をもたらす。
上記の結果は、ANOVAによって確認され、緩衝液型およびpHを統計的に有意な因子(p値<0.01)および界面活性剤を中程度に有意な因子(0.01<p値<0.05)を示した。
低pH(4.0~5.5)のグリシン緩衝液は、凝集指標を最小にするための選択緩衝液として強調される。Tween種(Tween40はTween80より悪い)によって与えられる凝集指標の増加に対する傾向は表面応答モデルによって確認される。
【0107】
SE-HPLCによる総凝集
時間0での最小の増加は、この型のストレスからの小さな影響を示すほとんどの製剤で観察された。総凝集に関する区別は、ANOVAによって統計的に有意な因子であることが確認された(p値<0.0001)、すでに強調した緩衝液型およびpH;ならびに緩衝液強度(p値<0.01)および安定剤型(0.01<p値<0.05)のように、緩衝液型およびpHの主要な効果であるようである。
参照組成物のレベル(<1%)まで凝集を最小にする好ましい範囲および条件は:クエン酸-リン酸緩衝液(pH<5および低イオン強度);グリシン緩衝液(全pHおよびイオン強度範囲);ヒスチジン緩衝液(全範囲)およびコハク酸緩衝液(pH5.0~5.5および低イオン強度)を含む。好ましい安定剤は、L-リジン一塩酸塩、マルトース、スクロースおよびデキストロースである。
【0108】
バイオアナライザーによる断片
試料ID#22-23-24(グリシン緩衝液中、pH4.0、Tween40またはKollidon12PFを含有する)を除いて、残りの製剤は、この方法の変化性も考慮に入れて、機械的ストレス時に参照組成物に相当するまたはより低いLMW%を示した(LMW%結果の±2~3%は特徴的である)。したがって、試験したほとんどの条件が、グリシン緩衝液(低pH)+Tween40のような組合せが避けられる限り、断片化に対するタンパク質の耐性の改善を助けることができると結論付けることができる。
統計的な詳細は、コハク酸およびヒスチジン緩衝液における製剤のより良い性能を強調したが、上記の方法の変化性により、注意深く検討され、クエン酸-リン酸およびグリシン緩衝液における他の製剤に実質的に相当する/よりわずかに良いと評価された。
【0109】
目視検査によるビジブル粒子
凍結-融解時の目視検査の結果では、強調され得る通常の傾向は、以下である:
- クエン酸-リン酸緩衝液(試料ID#1~21)では、粒子形成は、含まれる特定の因子にかかわらずほぼ全ての条件で起こる。
- グリシン緩衝液では、粒子形成は主にTween40(試料ID#23、26、28)およびKollidon12PF(製剤#22、32、37、43)の存在と関連する。
- ヒスチジン緩衝液では、機械的な振盪時にビジブル粒子の増加を示す全ての製剤は、Tween40またはTween80のいずれかを含有する。
- コハク酸では、どの特定の因子も粒子形成に関連しないようである。
【0110】
概要:機械的ストレス
機械的振盪時のSE-HPLC、OD、バイオアナライザーおよび目視検査によれば、参照組成物に関して好ましい性能を提供できる条件は、以下を含む:
- 緩衝液:グリシン(好ましくは、より酸性pHであり、範囲4.0~5.5で最も関連性がある)、pH約5.0のヒスチジンおよびコハク酸。
- 安定剤:リジン(一塩酸塩)、スクロース、マルトースおよびデキストロースは、タンパク質安定性に正の影響を示した(SE-HPLCによる総凝集の減少)。
- 界面活性剤:Tween種のグリシン、クエン酸-リン酸およびヒスチジン緩衝製剤との配合禁忌を考慮して避け、ビジブル粒子形成を最小にした。
【0111】
[実施例3]
製剤最適化
3.1 製剤最適化
実施例2に示したデータを組み合わせ、熱、凍結-融解、機械的および光ストレスに対してアベルマブ(評価した因子:緩衝液型、pHおよび強度、安定剤型および界面活性剤)を好適に安定化することができる製剤スペースを同定した。
【0112】
各緩衝液型に関して以下の基準
・熱ストレス、機械振盪、凍結-融解および光ストレス後の(SE-HPLCによる)最小化HMW、
・熱ストレスおよび機械振盪後の(バイオアナライザーによる)最小化LMW、
・光ストレス後の(CE-SDSによる)最大化純度、
・光ストレス後の(cIEFによる)最小化酸性アイソフォーム変化、
・熱ストレス、機械振盪、凍結-融解および光ストレス後の2より低い(ODによる)目標凝集指標値、
を使用して、表5に示すように10個の最も有望な製剤を推定した。
【0113】
【表6-1】
【0114】
【表6-2】
【0115】
3.2 さらに評価されるリード製剤
表5の製剤のうち、表6に列挙した11個の製剤が最も有望なようであった。したがって、それらを製造し、表7に示す分析パネルにより熱ストレス時に評価し、凍結-融解サイクルを繰り返した。
【0116】
熱ストレスは、製剤性能を評価し、冷凍条件での安定性を予測し得る最も適当なストレス条件として選択された。温度可動域/あらかじめ配合したDS材料の保存に関する任意の問題を予想するために、凍結-融解も考慮した。
これらの製剤で実行した実験の結果を、以下の段落に記載する。
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
3.3 DoEステップから生じるリード製剤の製造
組成物の原薬材料:18.6mg/mLアベルマブ、51mg/mL D-マンニトール、0.6mg/mL氷酢酸、pH5.2(界面活性剤を含まない)を、3つの緩衝液:
10mMグリシンpH4.4、
10mMヒスチジンpH5.0、
15mMクエン酸-リン酸pH4.2、
10mMコハク酸pH5.0、
中でタンジェント流濾過(PES中50kDaの排除限界でPellicon XL Cassette Biomaxを使用)によって平衡化した。
緩衝液交換を、4つの適当な緩衝液の1つで、上記のDSの5倍希釈によって行い、最初の容積が得られるまで平衡化/濃縮した。操作は3回繰り返した。4つの平衡化した原薬材料のタンパク質含量を、製剤製造の前にODによって試験した。
【0120】
製剤1~5(グリシン緩衝液中)
交換したDS材料(21.8mg/mL)をガラスビーカー(64.2g)中で計量した。次いで安定剤:リジン一塩酸塩(DP1は3.58グラムまたはDP2は1.79g)またはリジン一水和物(DP3およびDP5は3.22グラム)またはリジン酢酸塩(DP4は2.02g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.7mLの50mg/mL Kolliphor ELPストック(DP1-2-3-4は10mMグリシンpH4.4中)または0.7mLの50mg/mL Tween80(DP5は10mMグリシンpH4.1中)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して、希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(70g)にした。
【0121】
製剤6~7(ヒスチジン緩衝液中)
交換したDS材料(23.2mg/mL)をガラスビーカー(60.3g)中で計量した。次いで安定剤:デキストロース(DP6は3.53g)またはスクロース(DP7は6.71g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:0.7mLの50mg/mL Kolliphor ELPストック(DP6および7は10mMヒスチジン緩衝液pH5.0中)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して、希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標(pH5.0)に調整した。溶液を適当な緩衝液(10mMヒスチジン緩衝液pH5.0)で最終重量(70g)にした。
【0122】
製剤8~9(クエン酸-リン酸緩衝液中)
交換したDS材料(23.4mg/mL)をガラスビーカー(59.8g)中で計量した。必要であれば(DP9)、緩衝液の強度をクエン酸(一水和物)およびリン酸水素二ナトリウム(二水和物)を添加することによって調整した。次いで安定剤:リジン一塩酸塩(DP8は1.79g)またはスクロース(DP9は6.71g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:35mgのKollidon17PF(DP8および9両方)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して、希釈したo-リン酸または水酸化ナトリウムで目標(DP8はpH4.2およびDP9は4.3)に調整した。溶液を適当な緩衝液で最終重量(70g)にした。
【0123】
製剤10~11(コハク酸緩衝液中)
交換したDS材料(24.5mg/mL)をガラスビーカー(57.1グラム)中で計量した。次いで安定剤:リジン一塩酸塩(DP10は1.79g)またはスクロース(DP11は6.71g)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。次いで界面活性剤:10mMコハク酸緩衝液pH5.0(DP10)中の0.7mLの50mg/mL Kolliphor ELP保存溶液または35mgのKollidon17PF(DP11)を添加した。溶液を、完全に溶解するまで撹拌した。pHを測定して、希釈した塩酸または水酸化ナトリウムで目標(DP10および11はpH5.0)に調整した。溶液を10mMコハク酸緩衝液pH5.0で最終重量(70g)にした。
【0124】
3.4 結果
3.4.1 熱ストレス
ODによるタンパク質含量:40℃で4週間後の時間0に関して大きな変化は観察されなかった。
pH:時間0でのpH値は目標と一致した。40℃で4週間後の時間0に関して大きな変化は観察されなかった。
【0125】
目視検査によるビジブル粒子
全ての製剤は、時間0でビジブル粒子がないことが見出された。ストレス時、1つの製剤(DP6)は粒子の存在を示した(おそらく、製剤関連)。
【0126】
比濁計による濁度
ほとんどの製剤は、ストレス後の最小変化により透明またはわずかに乳白色の範囲の濁度値を有する(DP2-4-6-7-9-10-11)。他の製剤は、わずかに乳白色から乳白色の範囲のより高い濁度変化(DP1)またはストレス後の少ない/無視できる変化により時間0ですでに乳白色の範囲の値(DP3-8)のいずれかを示す。製剤DP5は、ストレス後の濁度の著しい増加を示す(>18NTU)。
【0127】
光オブスキュレーションによるサブビジブル粒子
≧25ミクロンの粒子は、600粒子/容器(典型的には<100粒子)の薬局方制限を十分に下回った。
≧10ミクロンの粒子は、いくらか大きな数を有するが、依然として6000粒子/容器制限以下であった。クエン酸-リン酸緩衝液中のDP8および9は、ストレス後の著しい減少により時間0で他よりも高い数を示した(依然として上記制限以下)。
【0128】
SE-HPLCによる総凝集
時間0および熱ストレス後のSE-HPLCによる総凝集に関して、DP1-2-3-4(グリシン緩衝液)は安定剤型および量が様々であったが、同じ緩衝液強度、界面活性剤およびpHを有し:280mM(DP1)から140mM(DP2)へのリジン一塩酸塩の減少は、タンパク質安定性を好むようである。高い凝集率は、280mMのリジン一水和物が使用された場合に確認された(DP3)。リジン酢酸塩(140mM)は、同じ濃度で使用したリジン一塩酸塩と類似の性能を提供した(DP2)。
DP5(グリシン緩衝液)は、凝集の著しい増加を示した(おそらく、280mMのリジン一水和物+Kolliphor ELPの代わりにTween80の好ましくない組合せによる)。
DP6-7(ヒスチジン緩衝液)は、凝集の変化を示さなかった。
DP8-9(クエン酸-リン酸緩衝液):DP9のスクロースは、他の成分/パラメーターがかなり類似している場合(同じ緩衝液型、同じ界面活性剤および類似のpH:4.2対4.3)、DP8(リジン一水和物)に関して、製剤性能を著しく改善することができる重要な因子であるようである。
DP10-11(コハク酸緩衝液):凝集の著しい変化は観察されなかった(この緩衝液中のリジン一水和物およびスクロースの類似の性能)。
【0129】
バイオアナライザーによる低分子量
時間0および熱ストレス後のバイオアナライザーによる断片:
DP1-2-3-4(グリシン緩衝液)は安定剤型および量が様々であったが、同じ緩衝液強度、界面活性剤およびpHを有した:断片の同様の増加(ストレス後+3~5%)。
DP5(グリシン緩衝液)は、低分子量種の著しい増加を示した(おそらく、280mMのリジン一水和物+Kolliphor ELPの代わりにTween80の好ましくない組合せによる):ストレス後+13%増加。
DP6-7(ヒスチジン緩衝液)は、断片の変化を示さなかった。
DP8-9(クエン酸-リン酸緩衝液):DP9のスクロース(ストレス後断片で+6%)は、他の成分/パラメーターがかなり類似している場合(同じ緩衝液型、同じ界面活性剤および類似のpH:4.2対4.3)、DP8(リジン一水和物;断片で+11%)に関して、製剤性能を著しく改善することができる重要な因子であるようである。
DP10-11(コハク酸緩衝液):両方とも最小変化(この緩衝液中のリジン一水和物およびスクロースの類似の性能):ストレス後低分子量種で+1~3%。
【0130】
cIEFによるアイソフォームプロファイル
時間0および熱ストレス後のアイソフォームプロファイル:熱ストレス時、全ての試料は通常、酸性種の増加および塩基性アイソフォームのわずかな変化と同時に主な種の一部を欠損する傾向があった。より詳細には:DP1-2-3-4-5(グリシン緩衝液):アイソフォームプロファイルで類似の変化が観察された。5つの試料では、主な種は約10~12%減少した(酸性アイソフォームの14~17%増加および塩基性アイソフォームの-4/-6%減少)。
DP6-7(ヒスチジン緩衝液):DP6はアイソフォームプロファイルの大きな変化を示し、得られたプロファイルは、おそらくは選択された成分および/または分析前の試料の汚染からの不安定性のために、詳しく調べることができなかった。DP7は、グリシン緩衝液中の試料と類似の変化を示した。
DP8-9(クエン酸-リン酸緩衝液):他の緩衝液で観察されたよりも高い両製剤における著しい変化。酸性種は、ストレス後24~29%まで増加することが見出された。
DP10-11(コハク酸緩衝液):DP10は、他の緩衝液中の他の試料よりも一層低い最小の変化を示した:主な種は、約7%減少した(酸性アイソフォームの約12%増加および塩基性アイソフォームの約-5%減少)。DP11は、より高い変化を示した(ストレス後の酸性アイソフォームの増加は+20%であった)。
【0131】
円偏光二色性による三次構造
円偏光二色性は、リード製剤へのストレス前後に実施した。
試料は、WFIで1.5mg/mLに希釈し、次いで室温、走査速度20nm/分、250nm~320nmの範囲でJasco J-810の分光偏光計測装置によって、1cm光路長の石英キュベットで試験した(感度:標準;バンド幅:1mm;データ間隔0.2nm;D.I.T:8秒;4回)。
ほとんどの製剤のタンパク質構造は有効に保持され、260~280nmの領域でのわずかな変化のみであった(チロシンおよびフェニルアラニンシグナル)。しかしながら、少しの例外が観察され、熱ストレス後の構造の部分的な破壊/変性および欠損を示し得るより著しい変化が見出された:DP5(界面活性剤型の可能な効果が存在)、DP8および9(クエン酸-リン酸緩衝液中の製剤;緩衝液型および他の成分との組合せの可能な効果が存在)。
【0132】
3.4.2 凍結-融解
目視検査によるビジブル粒子
繰返しのFTサイクルは、ビジブル粒子の著しい増加を引き起こすことが観察されなかった。いくつかの製剤は、ストレス時に線維様粒子を提示した(典型的には製剤関連の微粒子/沈殿または他の形態はない)。
【0133】
比濁計による濁度
凍結-融解時、試験した製剤に著しい変化は生じない。ほとんどの製剤は、時間0およびストレス後に、透明またはわずかに乳白色である(例外:DP3、5、8、ストレス後の無視できる変化による、時間0での乳白色の溶液範囲)。
【0134】
光オブスキュレーション法によるサブビジブル粒子
≧25ミクロンの粒子は、600粒子/容器(典型的には<100粒子)の薬局方制限を十分に下回った。
≧10ミクロンの粒子は、より大きな数を有するが、依然として6000粒子/容器制限以下であった。クエン酸-リン酸緩衝液中のDP8および9は、FTストレス時のさらなる増加なく、時間0で他よりも高い数を示す(依然として上記制限以下)。
【0135】
SE-HPLCによる総凝集
FTストレス前後のSE-HPLCによる総凝集では、最小の変化が全ての製剤で観察された(総凝集は3FTサイクル後0.2~0.5%増加した)。
【0136】
3.5 結論
グリシン緩衝液中での、抗体安定化の最も好適な条件は、以下を含む:
低イオン強度(10mM)、
低pH(4.0~4.4)、
安定剤としてリジン(一塩酸塩)、デキストロース、スクロースおよびソルビトール、
好ましい界面活性剤:Kolliphor ELPおよびKollidon12PF(ビジブル粒子の懸念からTween80はできる限り避けるべきである)。
【0137】
コハク酸緩衝液中での、抗体安定化の最も好適な条件は、以下を含む:
低イオン強度(10mM)、
pH5.0~5.1、
安定剤としてリジン(一塩酸塩)、デキストロース、スクロースまたはソルビトール、
好ましい界面活性剤:Kolliphor ELPおよびKollidon12PF(ビジブル粒子の懸念からTween80はできる限り避けるべきである)。
【0138】
クエン酸-リン酸緩衝液中での、抗体安定化の最も好適な条件は、以下を含む:
低イオン強度(10~30mM)、
低pH(4.0~4.5)、
安定剤としてリジン(一塩酸塩)、デキストロース、スクロースまたはソルビトール、
好ましい界面活性剤:Kolliphor ELPおよびKollidon12PF(ビジブル粒子の懸念からTween80はできる限り避けるべきである)。
【0139】
ヒスチジン緩衝液中での、抗体安定化の最も好適な条件、以下を含む:
低イオン強度(10~15mM)、
pH5.0~5.1、
安定剤としてデキストロース、スクロース、リジン(一塩酸塩)、イノシトール、ソルビトール、
好ましい界面活性剤:Kolliphor ELPおよびKollidon12PF(ビジブル粒子の懸念からTween80はできる限り避けるべきである)。
【0140】
表6の最も好ましい製剤は、DP2、4、7、および10であることが見出された。
また、本発明は以下を提供する。
[1]
(i)抗体として1mg/mLから30mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)緩衝剤として5mMから35mMの濃度のグリシン、コハク酸、クエン酸リン酸またはヒスチジン;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、リジン一水和物、リジン酢酸塩、デキストロース、スクロース、ソルビトールまたはイノシトール;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のポビドン、ポリオキシルヒマシ油またはポリソルベート;
を含み、メチオニンを含まず、さらにpHが3.8から5.2である、水性医薬抗体製剤。
[2]
抗酸化剤を含まない、[1]に記載の製剤。
[3]
アベルマブの濃度が約10mg/mLから約20mg/mLである、[1]に記載の製剤。
[4]
前記グリシン、コハク酸、クエン酸リン酸またはヒスチジンの濃度が約10mMから約20mMである、[1]~[3]に記載の製剤。
[5]
前記リジン一塩酸塩の濃度が約140mMから約280mMである、または前記リジン一水和物の濃度が約280mMである、または前記リジン酢酸塩の濃度が約140mMである、[1]~[3]に記載の製剤。
[6]
前記デキストロース、スクロース、ソルビトールまたはイノシトールの濃度が約280mMである、[1]~[3]に記載の製剤。
[7]
前記ポビドン、ポリオキシルヒマシ油またはポリソルベートの濃度が約0.5mg/mLである、[1]~[3]に記載の製剤。
[8]
前記ポビドンが、低分子量ポビドンKollidon12PFまたは17PFである、または前記ポリオキシルヒマシ油がポリオキシル35ヒマシ油である、または前記ポリソルベートがポリソルベート80である、[1]~[3]に記載の製剤。
[9]
アベルマブの濃度が約20mg/mlである、[1]~[8]のいずれか一項に記載の製剤。
[10]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PF、ポリオキシル35ヒマシ油またはポリソルベート80を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが約3.8から4.6である、[2]に記載の製剤。
[11]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PFまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.9から5.2である、[2]に記載の製剤。
[12]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として10mMから20mMの濃度のクエン酸リン酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロースまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PFまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが3.8から4.7である、[2]に記載の製剤。
[13]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として5mMから15mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として100mMから320mMの濃度のリジン一塩酸塩、デキストロース、スクロース、イノシトールまたはソルビトールを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として0.25mg/mLから0.75mg/mLの濃度のKollidon12PFまたはポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2である、[2]に記載の製剤。
[14]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6である、[10]に記載の製剤。
[15]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のグリシンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン酢酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.2から4.6である、[10]に記載の製剤。
[16]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のヒスチジンを含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約280mMの濃度のスクロースを含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のKollidon12PFを含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2である、[13]に記載の製剤。
[17]
(i)抗体として1mg/mLから約20mg/mLの濃度のアベルマブを含み;
(ii)緩衝剤として約10mMの濃度のコハク酸を含み、他のいずれの緩衝剤も含まず;
(iii)安定剤として約140mMの濃度のリジン一塩酸塩を含み、他のいずれの安定剤も含まず;
(iv)界面活性剤として約0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油を含み、他のいずれの界面活性剤も含まず;
pHが4.8から5.2である、[11]に記載の製剤。
[18]
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、[14]に記載の製剤。
[19]
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のグリシン;
(iii)140mMの濃度のリジン酢酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが4.4(±0.1)である、[15]に記載の製剤。
[20]
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のヒスチジン;
(iii)280mMの濃度のスクロース;
(iv)0.5mg/mLの濃度のKollidon12PF;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である、[16]に記載の製剤。
[21]
(i)20mg/mLの濃度のアベルマブ;
(ii)10mMの濃度のコハク酸;
(iii)140mMの濃度のリジン一塩酸塩;
(iv)0.5mg/mLの濃度のポリオキシル35ヒマシ油;
(v)pHを調整するためのHClまたはNaOH;
(vi)溶媒としての水(注射用);
からなり、pHが5.0(±0.1)である、[17]に記載の製剤。
[22]
前記アベルマブが、(配列番号1)または(配列番号2)のいずれかの重鎖配列、(配列番号3)の軽鎖配列を有し、Asn300にグリコシル化を有し、主なグリカン種としてFA2およびFA2G1を含み、合わせて全グリカン種の>70%を占める、[1]~[21]のいずれか一項に記載の製剤。
[23]
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の44%~54%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の25%~41%を占める、[22]に記載の製剤。
[24]
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の47%]~[52%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の29%~37%を占める、[23]に記載の製剤。
[25]
前記アベルマブのグリコシル化において、前記FA2が全グリカン種の約49%を占め、前記FA2G1が全グリカン種の約30%~約35%を占める、[24]に記載の製剤。
[26]
前記アベルマブのグリコシル化が、少ないグリカン種として全グリカン種の<5%を占めるA2、全グリカン種の<5%を占めるA2G1、全グリカン種の<5%を占めるA2G2、全グリカン種の<7%を占めるFA2G2をさらに含む、[22]~[25]のいずれか一項に記載の製剤。
[27]
前記アベルマブのグリコシル化において、前記A2が全グリカン種の3%~5%を占め、前記A2G1が全グリカン種の<4%を占め、前記A2G2が全グリカン種の<3%を占め、前記FA2G2が全グリカン種の5%~6%を占める、[26]に記載の製剤。
[28]
前記アベルマブのグリコシル化において、前記A2が全グリカン種の約3.5%~約4.5%を占め、前記A2G1が全グリカン種の約0.5%~約3.5%を占め、前記A2G2が全グリカン種の<2.5%を占め、前記FA2G2が全グリカン種の約5.5%を占める、[27]に記載の製剤。
[29]
前記アベルマブが(配列番号2)の重鎖配列を有する、[22]~[28]のいずれか一項に記載の製剤。
[30]
静脈内(IV)投与用である、[1]~[29]のいずれか一項に記載の製剤。
[31]
[30]に記載の製剤を含有するバイアル。
[32]
20mg/mLの濃度の溶液10mL中にアベルマブ200mgを含有する、[31]に記載のバイアル。
[33]
ガラスバイアルである、[31]または[32]に記載のバイアル。
[34]
[1]~[30]のいずれか一項に記載の製剤を患者に投与するステップを含む、がんを処置する方法。
[35]
前記がんが、非小細胞性肺がん、尿路上皮癌、膀胱がん、中皮腫、メルケル細胞癌、胃もしくは胃食道接合部がん、卵巣がん、乳がん、胸腺腫、胃腺癌、副腎皮質癌、頭頚部扁平上皮癌、腎細胞癌、メラノーマ、および/または古典的ホジキンリンパ腫から選択される、[34]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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