(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】被覆活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231107BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231107BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231107BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/36 E
(21)【出願番号】P 2021126977
(22)【出願日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】村石 一生
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】石垣 有基
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-061017(JP,A)
【文献】特開2017-098196(JP,A)
【文献】特開2013-089321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、LiとM元素とを含み表面エネルギーが72mN/m以下、であるコート液とを混合して、スラリーを製造
した後、
前記スラリーを、気流中で乾燥して、前記電極活物質の表面における少なくとも一部にLi含有酸化物を付着させて被覆活物質を得る、被覆活物質の製造方法。
但し、M元素は、Nb,F,Fe,P,Ta,V,Ge,B,Al,Ti,Si,W,Zr,Mo,S,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種類以上の元素であ
り、前記コート液は、Liを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、M元素を0.05質量%以上35質量%以下含み、水分を60質量%以上98.4質量%以下含む。
【請求項2】
前記M元素は、Nb,Pから選択される、少なくとも1種類以上の元素である、
請求項1に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項3】
前記コート液は、さらに、分子中に炭素原子を3つ以上含み水への溶解性を有するアルコール、および/または、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルから選択される1種以上の非イオン性界面活性剤を0.01質量%以上20.0質量%以下含む、請求項1または2に記載の被覆活物質の製造方法。
【請求項4】
電極活物質と、LiとM元素とを含み表面エネルギーが72mN/m以下であるコート液との混合物
であるスラリーを、気流中で乾燥した乾燥物である被覆活物質。
但し、M元素は、Nb,F,Fe,P,Ta,V,Ge,B,Al,Ti,Si,W,Zr,Mo,S,Cl,Br,Iから選択される、少なくとも1種類以上の元素であ
り、前記コート液は、Liを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、M元素を0.05質量%以上35質量%以下含み、水分を60質量%以上98.4質量%以下含む。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆活物質を、正極活物質として用いた全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池を含む、二次電池に用いられる電極活物質であって、当該電極活物質の表面における少なくとも一部にリチウム含有酸化物が付着している被覆活物質、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、安全性を確保するためのシステムを簡素化しやすい等の長所を有している。このような全固体電池に関する技術として、出願人は特許文献1を開示した。そして、特許文献1において、活物質の表面へ、Nb(ニオブ)のペルオキソ錯体およびLi(リチウム)を含有するコート液を噴霧し、且つ、これと並行して前記コート液を乾燥する噴霧乾燥工程と、当該噴霧乾燥工程の後に熱処理する熱処理工程とを実施することにより、表面にニオブ酸リチウムが付着しており、且つ、所定のBET比表面積を有する活物質複合粉体の製造方法、および、当該活物質複合粉体を用いたリチウム電池の製造方法を開示した。
【0003】
一方、特許文献1に係る全固体電池に限らず、電極活物質の表面にLi化合物を被覆することでリチウムイオン電池の特性を向上する試みがなされている。
例えば、出願人は特許文献2において、容量維持率が高い、すなわち耐久性に優れた非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池を提供するため、正極活物質における表面の少なくとも一部に、気相法(ALD:原子層堆積)装置を用いてAl2O3やLi3PO4を被覆した活物質複合粉体に係る技術を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6034265号公報
【文献】特開2018-60749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らのさらなる検討によると、特許文献1および2に開示された活物質複合粉体の製造方法は、生産性の観点において課題があることが見出された。
【0006】
即ち、特許文献1に開示された活物質複合粉体の製造方法においては、噴霧乾燥工程において転動流動法を用いている。ところが転動流動法では粉に加わる解砕力が弱いため、一旦、活物質とコート液からなる大きな造粒体が生成すると、解砕が難しい。そして、大きな造粒体の生成は、反応抵抗増大等の電池の性能低下につながる可能性がある。そこで、活物質へのコート液の噴霧速度を抑制し、大きな造粒体が生成する前に乾燥を行うこととなる為、加工速度を抑制せざるを得なかった。つまり、加工速度と加工品質(造粒体生成の抑制)の両立が難しいという本質課題があり、生産性の低い工程となっていた。
【0007】
尚、本発明において「解砕」とは、凝集した粒子に機械的エネルギーを投入して、固体の新生表面の生成をほとんど伴わずに、凝集した粒子の結び付きをほぐして、粒子の大きさを減少させる操作のことである。そして、固体粒子にエネルギーを投入して、粒子の大きさを減少させて、新しい表面を生成する操作である粉砕とは、異なる概念として用いている。
【0008】
一方、特許文献2に開示された気相法(ALD:原子層堆積)装置を用いる方法は、ALD装置が真空プロセスであるために、加工速度の点で実用的ではない。
【0009】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、電池の反応抵抗を低減できる優れた特性を有する被覆活物質、および、加工速度と加工品質との両立を可能とする被覆活物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために研究を行った結果、本発明者らは、まず、表面エネルギーの低いコート液に想到した。具体的には、表面エネルギーが72mN/m以下であるコート液に想到した。これに対し、例えば、特許文献1に記載のコート液の表面エネルギーは72mN/mを超えるものであった。
そして、当該表面エネルギーの低いコート液と電極活物質とをあらかじめ混合してスラリーとし、当該スラリーを気流中で乾燥しながら解砕することにより被覆活物質を製造する構成に想到して本発明を完成した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
電極活物質と、LiとM元素とを含み表面エネルギーが72mN/m以下であるコート液とを、混合してスラリーを製造し、
前記スラリーを気流中で乾燥して、前記電極活物質の表面における少なくとも一部にLi含有酸化物を付着させて被覆活物質を得る、被覆活物質の製造方法である。
但し、M元素は、Nb,F,Fe,P,Ta,V,Ge,B,Al,Ti,Si,W,Zr,Mo,S,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種類以上の元素である。
第2の発明は、
前記コート液は、Liを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、M元素を0.05質量%以上35質量%以下含み、水分を60質量%以上98.4質量%以下含む、第1の発明に記載の被覆活物質の製造方法である。
第3の発明は、
前記M元素は、Nb,Pから選択される、少なくとも1種類以上の元素である、第1または第2の発明に記載の被覆活物質の製造方法である。
第4の発明は、
電極活物質と、LiとM元素とを含み表面エネルギーが72mN/m以下であるコート液との混合物の乾燥物である被覆活物質である。
但し、M元素は、Nb,F,Fe,P,Ta,V,Ge,B,Al,Ti,Si,W,Zr,Mo,S,Cl,Br,Iから選択される、少なくとも1種類以上の元素である。
第5の発明は、
第4の発明に記載の被覆活物質を、正極活物質として用いた全固体電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被覆活物質の製造において、加工速度と加工品質との両立が可能となり、電池の反応抵抗を低減できる優れた特性を有する被覆活物質を、高い生産性をもって製造出来た。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】正極活物質被覆用のコート液において、表面エネルギーの値と被覆率との関係を示すグラフである。
【
図2】正極活物質被覆用のコート液において、表面エネルギーにおける極性成分の値と被覆率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、全固体電池や非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池に用いられる、電極活物質の表面における少なくとも一部にリチウム含有酸化物を付着させた被覆活物質、およびその製造方法係るものである。具体的には、電極活物質と、Liと(後述する)M元素を含む表面エネルギーの低いコート液とを、混合してスラリーを製造する。そして、当該スラリーを気流中にて乾燥し、前記電極活物質の表面における少なくとも一部にLi含有酸化物を付着させた被覆活物質、および、その製造方法である。
そして、本発明においては、コート液、および、被覆活物質の製造の際に、[1]表面エネルギーが低く調整されたコート液を用いる、[2]電極活物質とコート液とをあらかじめ混合してスラリーを調製した後、当該スラリーを気流中で乾燥して被覆活物質を得る、との特徴と、その結果としての効果を有する。
【0015】
[1]表面エネルギーが低く調整されたコート液を用いる
表面エネルギーが72mN/m以下であるコート液を用いることにより、原理上、後述する気流中でのスラリーの液滴が小さくなるため、当該スラリーが乾燥して生成する造粒体のサイズが小さくなる。そして生成した小さなサイズの造粒体は、気流中で互いに衝突して速やかに解砕されるため、結果として生成する被覆活物質の造粒を抑制できる。そのため、追加の解砕工程などを必要とせず、加工速度と加工品質との両立が可能である。
【0016】
[2]電極活物質とコート液とをあらかじめ混合してスラリーを調製した後、当該スラリーを気流中で乾燥して被覆活物質を得る
気流中での乾燥方法に特に制限はないが、例えば、スプレードライ装置を好ましく用いることが出来る。この場合、噴霧方式に制限はなく、ロータリーアトマイザーやノズルによりスラリーを液滴化することができる。さらに、得られた粉体を、スプレードライヤー装置の下流に設けられたサイクロン装置に輸送し、気流中においてさらに乾燥しながら解砕することも好ましい構成である。
【0017】
要するに、従来技術に係る転動流動のように、電極活物質へ少量ずつコート液を噴霧するのではなく、あらかじめ電極活物質とコート液とを混合してスラリー化し、例えば、スプレードライヤー装置とサイクロン装置とを用いて、当該スラリーを気流中で乾燥し粉体としながら、当該粉体を解砕するため、加工速度が向上したものである。なお、上述したスプレードライヤー装置とサイクロン装置との組み合わせは、サイクロン装置中でも解砕がある程度進行するため、好ましい構成ではある。しかし、サイクロン装置がなくても、スプレードライヤー装置の気流中で解砕が進行するので、本発明において必須の構成ではない。
【0018】
これに対し、従来技術である転動流動においては、電極活物質に対してコート液を少しずつ長時間にわたって噴霧していた。この為、コート液の噴霧速度に限界があり加工速度が上げられないという課題があった。本発明では、初めからコート液と電極活物質を混ぜたスラリーを作製することで、被覆活物質の製造速度の大幅な向上を達成した。
【0019】
以下、本発明について、1.コート液、2.電極活物質およびコート液を含むスラリー、3.電極活物質へのコート被覆、4.被覆活物質前駆体の焼成、5.被覆活物質の評価、の順に説明する。
【0020】
1.コート液
本発明に係るコート液について(1)コート液の組成、(2)リチウム化合物、(3)M元素化合物、(4)表面エネルギーの調整方法、(5)コート液の表面エネルギーにおける極性成分と分散成分との評価、(6)水分量の定量方法、(7)本発明に係るコート液の特徴、の順に説明する。
【0021】
(1)コート液の組成
本発明に係るコート液は、Liを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、Nb,F(フッ素),Fe(鉄),P(リン),Ta(タンタル),V(バナジウム),Ge(ゲルマニウム),B(ホウ素),Al(アルミニウム),Ti(チタン),Si(ケイ素),W(タングステン),Zr(ジルコニウム),Mo(モリブデン),S(ケイ素),Cl(塩素),Br(臭素),I(ヨウ素)から選択される、少なくとも1種類以上の元素(本発明において「M元素」と記載する場合がある。)を0.05質量%以上35質量%以下含み、水分を60質量%以上98.4質量%以下含むものである。
【0022】
本発明に係るコート液において、Liの濃度が0.1質量%以上であることにより、リチウム含有酸化物被覆層のコート液を得ることが出来る。一方、Liの濃度が5.0質量%以下であることにより、コート液に含まれる溶媒への溶解度を担保することが出来る。
【0023】
本発明に係るコート液は、Liと共にM元素を含むことで、リチウム伝導性を有する酸化物被覆層を得る為のコート液となる。中でも、被覆層の耐電圧性を高める観点から、Nb、Pは好ましいM元素である。被覆層の耐電圧性が高いと、より高電圧で電池を動作させることが可能となり、例えば充電時間の短縮することが可能となる。
また、コート液中におけるM元素の濃度が0.05質量%未満であると、コート液中のLiの濃度が過剰となり、被覆層の形成時に低リチウムイオン伝導性の水酸化リチウムが生成し混入する可能性が高まる。従って、コート液中のM元素の濃度は、形成される被覆層のリチウムイオン伝導性を担保する観点から、0.05質量%以上であることが好ましい。一方、M元素の濃度が35質量%以下であることにより、コート液に含まれる溶媒への溶解度を担保出来る。M元素は複数種含まれていても良いが、その場合、上記の理由から、複数種のM元素の濃度の合計は、0.05質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るコート液は、水が主体である溶液を溶媒として用いる。
そして、コート液中における水分を60質量%以上とすることにより、大気中で安定なコート液となる。この結果、当該コート液を用いた電極活物質の被覆操作が、大気中において容易に実施出来る。一方、水分を98.4質量%以下とすることにより、所定の膜厚の被覆層を得ようとした場合に、コート液におけるLiとM元素の濃度が低いことによるコート液使用量の増大を回避出来る。
【0025】
(2)リチウム化合物
本発明に係るコート液に含有されるリチウム化合物は、使用溶媒に溶解するものであれば良く、特に制限はない。
尤も、溶媒として水を主体としたものを用いるなら、好適な例としては、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、炭酸リチウム(Li2CO3)、亜硝酸リチウム(LiNO2)等のリチウム塩が挙げられるが、溶液へ不純物を持ち込まないという観点より水酸化リチウムが好ましい。
【0026】
(3)M元素化合物
本発明に係るコート液に含有されるM元素化合物は、使用溶媒に溶解するものであれば良く、特に制限はない。
尤も、溶媒として水を主体としたものを用いるなら、M元素の錯体化合物(本発明において、「M元素錯体」と記載する場合がある。)を形成できるM元素の場合は、M元素錯体を用いることが好ましい。M元素錯体は、水を主体とした溶媒中で安定的に溶解する観点から好ましいからである。
中でも、水溶性M元素錯体として、M元素のペルオキソ錯体を好ましく使用することが出来る。M元素のペルオキソ錯体は、化学構造中に炭素を含有しないので、最終的に、電極活物質上に生成する被覆膜中に炭素が残留することがなく、特に好適である。
【0027】
一方、例えばLiと、M元素としてNbとを含有する溶液におけるNbのペルオキソ錯体の同定は、FT-IR装置を用いた一回反射ATR法を用い、ゲルマニウムプリズムへの入射角を45°として測定することにより同定することができる。
当該測定の結果よりペルオキソ錯体に帰属される855cm-1±20cm-1および1650cm-1±10cm-1にピークが確認されれば、LiとNbとを含有する溶液に溶解しているNbは、ニオブ錯体(詳しくは、ペルオキソ錯体)の形態をとっていると考えられる。
尚、M元素としてPを用いる場合は、PとLiとの化合物で水溶性であるリン酸リチウムを用いることが好ましい。
【0028】
(4)表面エネルギーの調整方法
本発明に係るコート液を構成する溶媒ヘ、界面活性剤を適宜量添加することで、当該溶媒の表面エネルギーの値や、極性成分の値を制御することが出来る。
【0029】
ここで界面活性剤とは、分子内に親水性の部分と疎水性(親油性)の部分とをあわせもち、その親水親油バランスによって、水―油の2相界面に吸着されて、界面の自由エネルギー(界面張力)を低下させる作用を示す物質である。
界面活性剤としては、アルコールおよび非イオン性の極性基をもつ非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0030】
アルコールとしては、1,2-プロパンジオール、1‐ブタノールのような、分子中に炭素原子を3つ以上含み、水への溶解性があり、M元素化合物の安定性を担保出来るものが特に好ましい。また、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンエーテル(例えば、エチレンオキサイド付加モル数22である(登録商標)フタージェント222F((株)ネオス社製))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、エチレオサイド付加モル数12である(登録商標)レオコールTD-120(ライオン(株)製))、ジエチレングリコールジエチルエーテル(例えば、(登録商標)DEDG(日本乳化剤(株)製))、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(例えば、(登録商標)エマルゲン108(花王(株)製))のような、非イオン性の極性基がエーテル結合で構成されているものが、特に好ましい。
【0031】
本発明に係るコート液を構成する溶媒の表面エネルギーの値や、極性成分の値を制御する為、当該溶媒へ、アルコール、非イオン性界面活性剤から選択される1種以上の界面活性剤を添加する際の添加量は、表面エネルギーを低減し、極性成分の値を制御して、電極活物質との濡れ性を改善する効果の観点から、0.01質量%以上20.0質量%以下であれば良い。界面活性剤がアルコールであれば、0.1質量%以上、20.0質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0質量%以上、10.0質量%以下である。一方、界面活性剤が非イオン性界面活性剤であれば、0.01質量%以上、10.0質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.01質量%以上、5.0質量%以下である。
【0032】
当該添加範囲内において、当該溶媒の表面エネルギーの値や、極性成分の値を測定しながらアルコール、非イオン性界面活性剤から選択される1種以上を添加する。そして、表面エネルギーの値を72mN/m以下に調整する。このとき、極性成分の値を0mN/m以上45mN/m以下とすることが好ましい。表面エネルギーの値は15mN/m以上40mN/m以下であることが更に好ましく、このとき、極性成分の値を0mN/m以上15mN/m以下とすることがより好ましい。
【0033】
本発明に係るコート液の表面エネルギーの値は、72mN/m以下と、表面エネルギーが低く調整されたのもので、電極活物質の粉末表面へ塗布・乾燥して被覆層を形成した際に、粉末表面を十分に被覆すると共に液架橋力も低い。この結果、コート液と電極活物質との混合物が造粒体を形成した場合でも、当該造粒体は、気流乾燥の際に解砕され易いものとなっている。
【0034】
さらに、コート液の表面エネルギーの値を低減させることで、電極活物質との濡れ性が良くなり、電極活物質表面にコート液を塗布した場合に均一に濡れ広がるようになるので、形成される被覆層が均一化し、薄膜部が低減するので、被覆率が向上することによる。そして、表面エネルギーの値を72mN/m以下とすることで、十分な被覆率を得ることが出来る。
一方、コート液の表面エネルギーの値が、電極活物質の表面エネルギーの値に対して小さ過ぎると、コート液が電極活物質表面から剥がれ易くなってしまう。その結果、形成される被覆層が不均一化し、被覆率が減少してしまう可能性が高まる。そのため、表面エネルギーは、15mN/m以上であることが好ましい。
【0035】
(5)コート液の表面エネルギーにおける極性成分と分散成分との評価
本発明に係るコート液の表面エネルギーの値は、協和界面科学(株)、自動表面張力計CBVP-Zを用いて、25℃にて測定した。
本発明に係るコート液の表面エネルギーにおける極性成分と分散成分との評価は、次の方法で行った。
ホットプレート上にて90℃で溶融させたパラフィン(富士フィルム和光純薬(株)、試薬1級)にスライドガラスを浸し、取り出した後に25℃にて大気中で徐冷し、パラフィン基板を作製した。形状測定レーザマイクロスコープ((株)キーエンス、VK-9710)を用いて測定した表面粗さはRaを測定した。
パラフィン基板温度25℃および溶液温度25℃にて、大気中で、基板上にコート液を約10μL滴下し、θ/2法により3秒後の接触角を求めた。
得られた接触角と、コート液の表面エネルギーの値と、パラフィンの表面エネルギー文献値(表面エネルギー:γ=25.5mJ/m2,表面エネルギーの分散成分:γd=25.5mJ/m2,表面エネルギーの極性成分:γp=0.00mJ/m2)から、Young-Dupreの式を用いて、コート液の表面エネルギーの値における分散成分および極性成分の値を算出した。
【0036】
(6)水分量の定量方法
カールフィッシャー水分計を用い、容量滴定法により水分量を測定した。
具体的には、容量滴定式カールフィッシャー水分計(MKA-610、京都電子工業(株)製、MKA-610)を用い、滴定液として(Honeywell製、コンポジット5K)、溶媒として(Honeywell製、ミディアムK)を用いた。
そして、滴定フラスコ内の溶媒を滴定液で無水化した後、試料を直接投入して水分量を測定した。
【0037】
(7)本発明に係るコート液の特徴
以上説明した本発明に係るコート液は、電極活物質粉末に塗布・乾燥することで、被覆層を有する被覆活物質を製造することが出来るものである。そして、本発明に係るコート液は、加水分解する成分を含まないため、大気下で取扱うことが出来、ドライルームのような乾燥雰囲気設備が必要ないという利点を有する。さらに、電極活物質への濡れ性に優れるため、一度の塗布で電極活物質表面全体を隙間なく被覆することが出来る上、被覆率が向上するので、被覆活物質表面において、出力を向上させることが可能となるものである。
【0038】
2.電極活物質およびコート液を含むスラリー
電極活物質としては、二次電池などに用いられる一般的な電極活物質であれば、特に限定なく使用することが出来る。正極活物質に限らず負極活物質を用いても良い。具体例として、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO4やそれらに異種元素をドーピングしたもの、チタン酸リチウムやLiFePO4などのリン酸金属リチウム、グラファイトやカーボンなどが上げられる。これらの中から選んだ2種以上の電極活物質を混合して用いることも出来る。尤も、好ましい電極活物質例としては、正極活物質であるLi-Ni-Mn-Co-O系複合酸化物を挙げることが出来る。
【0039】
本発明に係るコート液と電極活物質とを混合して、混合物であるスラリーを製造する。
ここで上述したように、本発明に係るコート液は大気中で安定なので、当該混合操作は大気中で実施することが可能である。勿論、窒素ガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気中で当該混合操作を実施することも、好ましい構成である。
【0040】
攪拌装置としては、前記スラリーとして均一なものが製造出来るのであれば、各種のメカニカルスターラーやマグネットスターラーが使用可能である。尤も、当該攪拌工程において、前記スラリー中にコート液と電極活物質とによる造粒体が生成したとしても、本発明においては後工程にて対処が可能である。
【0041】
3.電極活物質へのコート被覆
前記コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥し、被覆活物質または被覆活物質前駆体を製造する工程である。
ここで、前記コート液の組成により、前記コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥した際に、被覆活物質が生成する場合と、被覆活物質前駆体が生成する場合とがある。そして、被覆活物質前駆体が生成した場合は、当該被覆活物質前駆体に対し、後述する所定の熱処理を加えることにより被覆活物質を得ることが出来る。
【0042】
例えば、前記コート液として、M元素にPを用いた場合は、前記コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥した際に、被覆活物質が生成する。
また、例えば、前記コート液として、M元素にNbを用いた場合は、前記コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥した際に、被覆活物質前駆体が生成する。
即ち、コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥した際に、被覆活物質が生成するか、または、被覆活物質前駆体が生成するかは、気流乾燥の際の運転条件(給気温度)やLiとM元素の反応性による。そして、乾燥時点で狙った被覆層が生成しない場合に、追加で所定の熱処理をすることとしても良い。
【0043】
前記コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥し、被覆活物質または被覆活物質前駆体を製造する工程における気流乾燥条件としては、
スラリーの送液速度は、0.1~1.0g/秒、
気流乾燥に用いる乾燥ガスの入口温度は100~350℃、
乾燥ガスの風量は0.3m3/min~2.5m3/min、
スラリーを液滴化して乾燥する際の気液比(単位時間当たりの乾燥ガス体積をスラリー体積で除した値)は、1000以上であれば良い。
【0044】
具体的な例として、スプレードライヤーを用いて、コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥するのであれば、送液ポンプを用いて、前記コート液と電極活物質とのスラリーを0.1~1.0g/秒の送液速度でスプレードライヤーへ供給し、気流乾燥に用いる乾燥ガスの入口温度は100~350℃とすることができる。狙いの被覆状態や材料に応じて変えても良い。乾燥ガスの風量は同じく0.3m3/min~2.5m3/minの範囲で任意に設定すればよい。スプレーノズルを用いてスラリーを液滴化して乾燥する場合、気液比は1000以上とすればよい。これにより、安定した液滴を形成し加工を安定させることが出来る。
【0045】
特に、スプレードライヤー装置として、スプレーノズルを備えた乾燥室の下流にサイクロンを接続したものを用いることも好ましい。当該サイクロン内にて気流乾燥を行うことで、スラリー中にコート液と電極活物質とによる造粒体が生成していても、サイクロン内の大きな流速による解砕力と、コート液の表面エネルギーの値が72mN/m以下であることが相俟って、加工速度を担保しながら、当該造粒体が解砕された被覆活物質や被覆活物質前駆体を製造することが出来る。
【0046】
これに対し、従来技術に係る転動流動により電極活物質へのコート被覆を行った場合、例えば給気ガスの温度を120℃、吸気風量を0.4m3/hとする場合、送液速度を0.2g/秒程度以上に上げると、表面エネルギーを問わず、コート液と電極活物質とによる造粒体が生成し、被覆活物質においても造粒体が残留して最終的には電池性能の低下につながる可能性がある。
【0047】
ここで、コート液と電極活物質とによる造粒体の生成を発見した段階で、気流中において追加の解砕を実施することも考えられる。しかしながら追加の解砕を実施すると、その反動として被覆活物質における被覆率が低下してしまう場合がある(後述する、比較例1~4参照)。また、追加の解砕によって加工品質が低下するだけでなく、追加の工程が発生し加工速度が低下してしまう。当該観点からも、コート液の表面エネルギーの値を72mN/m以下とする構成は肝要である。
【0048】
以上の観点より、加工速度と加工品質(造粒体生成の抑制)との両立が困難である従来技術に対し、スラリー液滴を気流乾燥することで、加工速度を大きく上げることが可能である本発明は大きな進歩性を有していると考えられる。
【0049】
4.被覆活物質前駆体の焼成
「3.電極活物質へのコート被覆」で説明したように、コート液と電極活物質とのスラリーを気流中にて乾燥した際に、被覆活物質前駆体が生成した場合は、当該被覆活物質前駆体を、例えばマッフル炉を用いて、100~500℃で、0分間を超えて10時間以下焼成する。この結果、リチウム含有酸化物を電極活物質表面で合成し、電極活物質の表面における少なくとも一部にリチウム含有酸化物を付着させることにより、被覆活物質を製造することが出来る。
上述したようにコート液の組成によっては気流乾燥の時点で、目的のリチウム含有酸化物が生成する場合があるため、本焼成工程は必要に応じて実施すればよい。
【0050】
5.被覆活物質の評価
本発明に係る被覆活物質の評価について、(1)加工品質(造粒体生成の抑制)、(2)コート被覆の被覆率、の順に説明する。
【0051】
(1)加工品質(造粒体生成の抑制)
被覆活物質に対して、体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径D90を測定することにより、被覆活物質における造粒体の発生量を評価することが出来る。電極活物質へのコート液被覆時に造粒体が発生すると、電極作成時に、電極活物質と固体電解質の接触面積が減少し出力低下するため、造粒体の発生量は小さいことが肝要である。
【0052】
具体的には、レーザー回折・散乱測定装置(マイクロトラック・ベル社製エアロトラックII)を用い、電極活物質および被覆活物質の、体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径D90を測定する。そして、「被覆活物質のD90/電極活物質のD90」の値が1.0以上1.55以下であることが肝要であり、1.0以上1.5以下であることが好ましく、さらには、1.0以上1.2以下であることが好ましく、1.0に近いことが最も好ましい。
【0053】
(2)コート被覆の被覆率
被覆活物質は、電極活物質の表面がリチウム含有酸化物にて十分に被覆されていることが肝要である。
例えば、M元素としてNbを選択した場合に製造された被覆活物質を例として、コート被覆の被覆率の測定方法を説明する。
具体的には、X線光電子分光分析装置(XPS)(アルバック・ファイ(株)製 X-tool)で表面元素分析を行う。そして、C1s、O1s、Nb3d、Ni2p3、Co2p3、Mn2p3の各種ピークから表面の元素比を求め、下記式から被覆率を算出した。
被覆率(%)=(100×Nb)/(Ni+Co+Mn+Nb)・・・・(式)
但し、各元素記号は、各元素比率[atomic%]を表す
一方、例えば、M元素としてPを選択した場合は、Nb3dに代えてP2pのピークから表面の元素比を求める。
そして、同様の分析を行った被覆活物質において、被覆率の相対値が0%以上15%以下であることが肝要である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
1.コート液の調製
純水19.6gへ、濃度35質量%の過酸化水素水7.7gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。この過酸化水素水溶液へ、ニオブ酸(Nb2O5・5.5H2O(Nb2O5含有率58.0%))4.4gを添加した。ニオブ酸の添加後、ニオブ酸を添加した液の液温が20℃~30℃の範囲内となるように温度調整した。
【0056】
このニオブ酸を添加した液ヘ、濃度28質量%のアンモニア水3.5gを添加し、大気下で十分に撹拌して透明溶液を得た。
【0057】
窒素ガス雰囲気中で、得られた透明溶液へ、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)0.9gを添加し、Liと、Nbのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液を得た。その後、このLiとペルオキソニオブ錯体とを含有する水溶液を、25℃の温度で6時間程度静置した。静置中に沈殿物が生成した場合には、当該沈殿物が分散する程度に、Liとペルオキソニオブ錯体とを含有する水溶液を撹拌した後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過した。
【0058】
調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液29.7gへ、1,2-プロパンジオール(試薬特級)0.3gを添加し、液温が20℃~30℃の範囲内になるように温度調整しながら10分間以上撹拌し、実施例1に係るコート液を得た。
【0059】
得られた実施例1に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0060】
2.スラリーの調製
電極活物質として正極活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を準備し、当該電極活物質40.0gへ、実施例1に係るコート液23.3gを加えた後、マグネティックスターラーで攪拌し、スラリーを調製した。
【0061】
3.被覆活物質の前駆体の作製
調製したスラリーを、送液ポンプを用いて0.5g/秒の速度で、スプレードライヤー装置(ビュッヒ社製、ミニスプレードライヤー B-290)へ供給した。尚、当該スプレードライヤー装置はスプレーノズルを備え、下流にサイクロン装置が設けられている。
そして、スラリーの液滴を気流中で乾燥して被覆活物質の前駆体を回収した。
但し、スプレードライヤーの運転条件は、以下のとおりである。
給気温度(乾燥ガス入口温度):200℃
給気風量:0.45m3/分
【0062】
4.被覆活物質の調製
回収された被覆活物質の前駆体を、マッフル炉を用いて200℃で5時間焼成し、ニオブ酸リチウムを電極活物質表面で合成することにより、実施例1に係る被覆活物質を得た。
【0063】
5.被覆活物質の特性評価
(1)粒子径測定
実施例1に係る被覆活物質、および、前記準備した電極活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)に対して、レーザー回折・散乱測定装置(マイクロトラック・ベル社製エアロトラックII)を用い、体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径D90を測定した。
そして、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
(2)被覆率評価
実施例1に係る被覆活物質に対し、X線光電子分光法(アルバック・ファイ製 X-tool)で表面元素分析を行った。そして、Nb3d、Ni2p3、Co2p3、Mn2p3の各種ピークから表面の元素比を求め、下記式から被覆率を算出した。
被覆率(%)=(100×Nb)/(Ni+Co+Mn+Nb)・・・・(式)
但し、各元素記号は、各元素比率[atomic%]を表す
そして、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。すると、比較例1に係る被覆活物質の被覆率より5%増加していることが判明した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例2]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液27.0gへ、1,2-プロパンジオール(試薬特級)3.0gを添加した以外は実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係るコート液を得た。
【0066】
得られた実施例2に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例2に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例2に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例3]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液29.97gへ、1,2-プロパンジオールを添加する替わりにフタージェント222F((株)ネオス製)0.03gを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係るコート液を得た。
【0069】
得られた実施例3に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0070】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例3に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例3に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例4]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液29.7gへ、1,2-プロパンジオールを添加する替わりにフタージェント222F((株)ネオス製)0.3gを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4に係るコート液を得た。
【0072】
得られた実施例4に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0073】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例4に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例4に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例5]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液29.7gへ、1,2-プロパンジオールを添加する替わりにレオコールTD-120(ライオン(株)製)0.3gを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5に係るコート液を得た。
【0075】
得られた実施例5に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0076】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例5に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例5に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液29.7gへ、1,2-プロパンジオールを添加する替わりにDEDG(日本乳化剤(株)製)0.3gを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係るコート液を得た。
【0078】
得られた実施例6に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例6に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例6に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
上述した[実施例1]の「1.コート液の調製」において、調製したLiとペルオキソニオブ錯体を含有する溶液へ、1,2-プロパンジオールを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係るコート液を得た。
【0081】
得られた比較例1に係るコート液に対し、(1)Li量、Nb量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて比較例1に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係る被覆活物質を作製した。
作製した比較例1に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値を算出した。
そして、比較例1に係る被覆活物質に対し、実施例1と同様にX線光電子分光法表面元素分析を行い、Nb3d、Ni2p3、Co2p3、Mn2p3の各種ピークから表面の元素比を求め、被覆率を算出した。そして、当該比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値とした。これらの結果を表1に示す。
【0083】
[比較例2]
上述した[比較例1]の「3.被覆活物質の前駆体の作製」において、回収した比較例2に係る被覆活物質の前駆体を、スプレーノズルを外したスプレードライヤーの開口部へ、薬さじを用いて約0.5g/秒の速度で供給してサイクロン気流内で、追加の解砕を行った。そして追加の解砕を行った被覆活物質の前駆体を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、比較例2に係る被覆活物質を作製した。
作製した比較例2に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、上述した比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例3]
上述した[比較例1]の「3.被覆活物質の前駆体の作製」において、回収した比較例2に係る被覆活物質の前駆体を、スプレーノズルを外したスプレードライヤーの開口部へ、薬さじを用いて約0.5g/秒の速度で供給してサイクロン気流内で、追加の解砕を行った。そして追加の解砕を行った被覆活物質の前駆体を、再度、スプレーノズルを外したスプレードライヤーの開口部へ、薬さじを用いて約0.5g/秒の速度で供給してサイクロン気流内で、2回目の追加の解砕を行った。そして2回の追加の解砕を行った被覆活物質の前駆体を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、比較例3に係る被覆活物質を作製した。
作製した比較例3に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/活物質のD90(μm)」の値、および、上述した比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例4]
上述した[比較例1]の「3.被覆活物質の前駆体の作製」において、回収した比較例2に係る被覆活物質の前駆体を、スプレーノズルを外したスプレードライヤーの開口部へ、薬さじを用いて約0.5g/秒の速度で供給してサイクロン気流内で、追加の解砕を行った。そして追加の解砕を行った被覆活物質の前駆体を、さらに2度、スプレーノズルを外したスプレードライヤーの開口部へ、薬さじを用いて約0.5g/秒の速度で供給してサイクロン気流内で追加の解砕を行い、計3回の追加の解砕を行った。そして3回の追加の解砕を行った被覆活物質の前駆体を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行って、比較例4に係る被覆活物質を作製した。
作製した比較例4に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、上述した比較例1に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例7]
リン酸リチウム0.7226gへ純水170mLを混合し、アンモニア水を添加した。調整されたリン酸リチウムと水との混合液の液温が、20℃~30℃の範囲内になるように温度調整しながら大気下で十分に撹拌し、透明溶液を得た。
得られた透明溶液を孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過することで、Liとリン酸とを含有する溶液を得た。
得られたLiとリン酸とを含有する溶液29.7gへ、エマルゲン108(花王(株)製)0.3gを添加し、液温が20℃~30℃の範囲内になるように温度調整しながら10分間以上撹拌し、実施例7に係るコート液を得た。
【0087】
得られた実施例7に係るコート液に対し、(1)Li量、P量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0088】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて実施例7に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例7に係る被覆活物質を作製した。
作製した実施例7に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値、および、後述する比較例5に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値として、被覆率の変化量を算出し、この値を被覆率の増減の相対値として求めた。結果を表1に示す。
尚、実施例7におけるX線光電子分光法においては、Nb3dのピークに代えてP2pのピークを用い、下記式から被覆率を算出した。
被覆率(%)=(100×P)/(Ni+Co+Mn+P)・・・・(式)
但し、各元素記号は、各元素比率[atomic%]を表す。
【0089】
[比較例5]
得られたLiとリン酸とを含有する溶液へ、界面活性剤を添加することなく、そのままLiとリン酸とを含有する溶液とした以外は、実施例7と同様の操作を行って、比較例5に係るコート液を得た。
【0090】
得られた比較例5に係るコート液に対し、実施例7と同様の操作を行って、(1)Li量、P量の定量分析、(2)水分量の定量分析、(3)表面エネルギー(極性成分、分散成分)値の測定、を実施した。結果を表1に示す。
【0091】
上述した[実施例1]の「2.スラリーの調製」において、実施例1に係るコート液に代えて比較例5に係るコート液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例5に係る被覆活物質を作製した。
作製した比較例5に係る被覆活物質について、実施例1と同様の操作を行って、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値を算出した。
そして、比較例5に係る被覆活物質に対し、実施例7同様にX線光電子分光法表面元素分析を行い、P2p、Ni2p3、Co2p3、Mn2p3の各種ピークから表面の元素比を求め、被覆率を算出した。そして、当該比較例5に係る被覆活物質の被覆率の値を基準値とした。これらの結果を表1に示す。
【0092】
[まとめ]
上述した実施例1~7、比較例1、5に係るコート液において、表面エネルギーの値と被覆率との関係を示すグラフを
図1に、極性成分の値と被覆率との関係を示すグラフを
図2に示す。
【0093】
表1および
図1のグラフより、実施例に係るコート液において、表面エネルギーの値が72mN/m以下であると、正極活物質に対して被覆率が向上し、高い被覆率を発揮することが理解できる。
また、表1および
図2のグラフより、実施例に係るコート液において、表面エネルギーの極性成分の値が45mN/m以下であると、正極活物質に対して被覆率が向上し、高い被覆率を発揮することも理解できる。
【0094】
表1より、実施例に係るコート液において、表面エネルギーの値が72mN/m以下であると、表面エネルギーの低いコート液を用いることで、「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値が抑制されて1.0に近づき、すなわち造粒体の発生頻度が抑制されていることが理解できる。
【0095】
以上より、表面エネルギーの低いコート液を用いたスラリーを気流中で乾燥することにより、加工品質と加工速度を両立することが可能であることが解った。ニオブ酸リチウムだけでなくリン酸リチウムを被覆材料として選定した場合も同様の効果が確認された。
【0096】
これに対し、表面エネルギーの値が72mN/mを超えるコート液を用いた比較例1~4においては、実施例1~6に較べて「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値が大きく、造粒体が生成していると考えられる。同様に、比較例5においては、実施例7に較べて「被覆活物質のD90(μm)/電極活物質のD90(μm)」の値が大きい。
ここで、造粒体を追加で解砕することも考えられるが、比較例2~4に示すように被覆率が低下し加工品質が低下することに加え、余分な工程が生じるので加工速度が低下してしまう課題がある。
【0097】