(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】SiCインゴットの評価方法、SiCデバイスの製造方法およびSiC種結晶の評価方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20231108BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20231108BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/02
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2019159585
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】郭 玲
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131350(JP,A)
【文献】特開2014-203833(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170500(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/02
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚以上のSiC基板を準備する準備工程と、
前記2枚以上のSiC基板のうちの第1ウェハ及び第2ウェハにそれぞれ存在し、同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第1欠陥と第2欠陥とを検出し、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置を特定する欠陥位置特定工程と、
前記欠陥位置特定工程の結果に基づき、その他のSiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測する推測工程と、を有し、
前記準備工程において、同一のSiCインゴットから前記第1ウェハと前記第2ウェハと第3ウェハを含む3枚以上のSiC
基板を準備し、
前記推測工程は、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置と、前記第1ウェハと前記第2ウェハとの枝番と、を基に前記同じ貫通欠陥の位置を推測し、
前記欠陥位置特定工程は、前記3枚以上のSiC基板のうちの第3ウェハに存在し、前記第1欠陥および前記第2欠陥と同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第3欠陥を検出し、前記第3欠陥の位置をさらに特定する、SiCインゴットの評価方法。
【請求項2】
同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚以上のSiC基板を準備する準備工程と、
前記2枚以上のSiC基板のうちの第1ウェハ及び第2ウェハにそれぞれ存在し、同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第1欠陥と第2欠陥とを検出し、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置を特定する欠陥位置特定工程と、
前記欠陥位置特定工程の結果に基づき、その他のSiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測する推測工程と、を有し、
前記推測工程は、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置と、前記第1ウェハと前記第2ウェハとの枝番と、を基に前記同じ貫通欠陥の位置を推測する工程であり、
前記推測工程は、(2)式により、前記SiCインゴット中に存在し、前記SiCインゴットの種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における前記同じ貫通欠陥の位置を推測する、SiCインゴットの評価方法
【数1】
(X:種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、H:加工されたSiC基板の厚さ)。
【請求項3】
同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚以上のSiC基板を準備する準備工程と、
前記2枚以上のSiC基板のうちの第1ウェハ及び第2ウェハにそれぞれ存在し、同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第1欠陥と第2欠陥とを検出し、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置を特定する欠陥位置特定工程と、
前記欠陥位置特定工程の結果に基づき、その他のSiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測する推測工程と、を有し、
前記推測工程は、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置と、前記第1ウェハと前記第2ウェハとの枝番と、を基に前記同じ貫通欠陥の位置を推測する工程であり、
前記推測工程は、(3)式により、前記SiCインゴット中に存在し、前記SiCインゴットの種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における前記同じ貫通欠陥の位置を推測する、SiCインゴットの評価方法
【数2】
(X:種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、θ:SiCインゴットのオフセット角)。
【請求項4】
前記準備工程において、同一のSiCインゴットから前記第1ウェハと前記第2ウェハと第3ウェハを含む3枚以上のSiC
基板を準備し、
前記欠陥位置特定工程は、前記3枚以上のSiC基板のうちの第3ウェハに存在し、前記第1欠陥および前記第2欠陥と同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第3欠陥を検出し、前記第3欠陥の位置をさらに特定する、請求項2又は3に記載のSiCインゴットの評価方法。
【請求項5】
前記推測工程は、(1)式により、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記第1ウェハと前記第2ウェハ以外の前記SiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測する、請求項1に記載のSiCインゴットの評価方法;
【数3】
(x:枝番nのSiC基板における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥のx座標、X2:第2欠陥のx座標、N1:第1ウェハの枝番、N2:第2ウェハの枝番、n:貫通欠陥の位置を推測するSiC基板の枝番)。
【請求項6】
前記第1ウェハは、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記種結晶から1~5枚目以内のSiC基板である、請求項1~5のいずれか一項に記載のSiCインゴットの評価方法。
【請求項7】
前記第1ウェハは、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記種結晶から1枚目のSiC基板である、請求項1~6のいずれか一項に記載のSiCインゴットの評価方法。
【請求項8】
前記第1ウェハと前記第2ウェハとは、前記SiCインゴットの厚みの1/5以上離間していたSiC基板である、請求項1または2に記載のSiCインゴットの評価方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のSiCインゴットの評価方法を行い、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する推測工程と、
前記SiCインゴットから前記SiC基板を切り出し、前記SiC基板の一面にエピタキシャル層を積層し、SiCエピタキシャルウェハを製造するSiCエピタキシャルウェハ製造工程と、
前記SiCエピタキシャルウェハにデバイスを形成するデバイス形成工程と、
前記SiCエピタキシャルウェハをダイシングして、デバイスが形成
された複数のチップを作製するチップ化工程と、
前記複数のチップのうち、貫通欠陥を有するチップを取り除く、選択工程と、
前記チップをパッケージ評価するパッケージ評価工程と、を有する、SiCデバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のSiCインゴットの評価方法で推測した前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を基に前記種結晶に存在する貫通欠陥の位置を推定する工程を有する、SiC種結晶の評価方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のSiCインゴットの評価方法を行い、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する推測工程と、
前記SiCインゴットから前記SiC基板を切り出し、前記SiC基板の一面にエピタキシャル層を積層し、SiCエピタキシャルウェハを製造するSiCエピタキシャルウェハ製造工程と、
前記推測工程で推測した前記貫通欠陥の位置を基にデバイス形成する位置を決定するデバイス形成位置決定工程と、
前記SiCエピタキシャルウェハをダイシングして、デバイスが形成された複数のチップを作製するチップ化工程と、を有するSiCデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCインゴットの評価方法、SiCデバイスの製造方法およびSiC種結晶の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、特徴的な特性を有する。例えば、炭化珪素(SiC)はシリコン(Si)と比べて、絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い。そのため、炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
しかし、SiCデバイスには解決すべき多くの課題が残されている。
課題の一つとして製造プロセスの効率化があり、歩留まりの改善も課題の一つである。SiCの結晶成長技術は現在も発展途上にあるため、基板中に多くの結晶欠陥が存在する。これらの結晶欠陥がSiCデバイスの特性を劣化させるデバイスキラー欠陥となり、歩留まりを阻害する大きな要因となっている。
【0004】
SiCエピタキシャルウェハを用いた半導体デバイスとして、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)が知られている。MOSFETでは、SiCエピタキシャル層上に熱酸化などを用いてゲート酸化膜を形成し、そのゲート酸化膜の上にゲート電極を形成する。このとき、SiCデバイスを形成する基体であるSiC基板に欠陥があるとSiCデバイスに異常をもたらすことがある(例えば、特許文献1等)。そのため、SiCエピタキシャルウェハを用いたSiCデバイスの実用化の促進には、高品質のSiCエピタキシャルウェハ、及び高品質のエピタキシャル成長技術の確立が不可欠である。
【0005】
一方で、SiCエピタキシャルウェハには、種々の欠陥が存在する。これらの欠陥は、すべてが半導体デバイスに悪影響を及ぼす訳ではない。すなわち、欠陥の種類によっては、SiCデバイスへの影響が無い又は小さい欠陥も存在する。そのため、種々の欠陥のうち、SiCデバイスの特性を劣化させるデバイスキラー欠陥を特定することが求められている。SiCエピタキシャルウェハに存在する貫通欠陥は、デバイスキラー欠陥の1つである。貫通欠陥を有するSiCエピタキシャルウェハは、デバイスプロセス中に液漏れを引き起こす場合がある。また、デバイスを形成したとしても耐圧不良を引き起こす場合がある。
【0006】
特許文献2に記載の発明は、SiC基板の表面側に水或いは水と同等の粘度を持つ液を塗布すると同時にSiC基板の中央周辺を裏面側から真空吸引し、SiC基板に発生するマイクロパイプ等の貫通孔を簡便に検査する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2015-521378号公報
【文献】特開2006-286893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、1つのSiCデバイスを検査することができる。しかしながら、それぞれのSiCデバイスを逐一検査するためには、コストも時間もかかる。そのため、特許文献1に記載の方法ではスループットが悪い。
【0009】
特許文献2に記載の方法でデバイスキラー欠陥を有するSiC基板を特定するためには、SiCデバイスを製造するための工程に別途SiC基板を検査する工程が必要である。特許文献2に記載の方法における検査には、水或いは水と同等の粘度を有する液体を塗布し、SiC基板を真空吸引することが必要であり、コストも時間もかかる。そのため、スループットが悪い。また、特許文献2に記載の方法では、検査するSiC基板が有する貫通孔の位置を特定することができない。
【0010】
貫通欠陥は、SiCインゴットの広範囲にわたって存在する欠陥である。特許文献1および2は、いずれも特定のSiC基板に位置する貫通欠陥を特定しているのみであり、SiCインゴット中の他のSiC基板における貫通欠陥が存在する領域を推測することができない。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、SiCインゴット中の貫通欠陥が存在する領域を推測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様にかかるSiCインゴットの評価方法は、同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚以上のSiC基板を準備する準備工程と、前記2枚以上のSiC基板のうちの第1ウェハ及び第2ウェハにそれぞれ存在し、同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第1欠陥と第2欠陥とを検出し、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置を特定する欠陥位置特定工程と、前記欠陥位置特定工程の結果に基づき、その他のSiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測する推測工程と、を有し、前記推測工程は、前記第1欠陥と前記第2欠陥との位置と、前記第1ウェハと前記第2ウェハとの枝番と、前記SiCインゴットのオフセット角と、を基にその他のウェハにおける前記同じ貫通欠陥の位置を推測する。
【0013】
(2)上記態様に係るSiCインゴットの評価方法は、前記準備工程において、同一のSiCインゴットから前記第1ウェハと前記第2ウェハと第3ウェハを含む3枚以上のSiCウェハを準備し、前記欠陥位置特定工程は、前記3枚以上のSiC基板のうちの第3ウェハに存在し、前記第1欠陥および前記第2欠陥と同じ貫通欠陥に伴う欠陥である第3欠陥を検出し、前記第3欠陥の位置をさらに特定してもよい。
【0014】
(3)上記態様にかかるSiCインゴットの評価方法において、前記推測工程は、(1)式により、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記第1ウェハと前記第2ウェハ以外の前記SiC基板における前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測してもよい;
【数1】
(x:枝番nのSiC基板における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥のx座標、X2:第2欠陥のx座標、N1:第1ウェハの枝番、N2:第2ウェハの枝番、n:貫通欠陥の位置を推測するSiC基板の枝番)。
【0015】
(4)上記態様に係るSiCインゴットの評価方法において、前記推測工程は、(2)式により、前記SiCインゴット中に存在し、前記SiCインゴットの種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における前記同じ貫通欠陥の位置を推測してもよい;
【数2】
(X:種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、H:加工されたSiC基板の厚さ)。
【0016】
(5)上記態様に係るSiCインゴットの評価方法において、前記推測工程は、(3)式により、前記SiCインゴット中に存在し、前記SiCインゴットの種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における前記同じ貫通欠陥の位置を推測してもよい;
【数3】
(X:種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における貫通欠陥のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、θ:SiCインゴットのオフセット角)。
【0017】
(6)上記態様にかかるSiCインゴットの評価方法において、前記第1ウェハは、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記種結晶から5枚目以内のSiC基板であってもよい。
【0018】
(7)上記態様にかかるSiCインゴットの評価方法において、前記第1ウェハは、前記SiCインゴットから切り出されるSiC基板のうち、前記種結晶から1枚目のSiC基板であってもよい。
【0019】
(8)上記態様にかかるSiCインゴットの評価方法において、前記第1ウェハと前記第2ウェハとは、前記SiCインゴットの厚みの1/5以上離間していたSiC基板であってもよい。
【0020】
(9)本発明の第2の態様にかかるSiCデバイスの製造方法は、上記態様に係るSiCインゴットの評価方法を行い、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する推測工程と、前記SiCインゴットから前記SiC基板を切り出し、前記SiC基板の一面にエピタキシャル層を積層し、SiCエピタキシャルウェハを製造するSiCエピタキシャルウェハ製造工程と、前記SiCエピタキシャルウェハにデバイスを形成するデバイス形成工程と、前記SiCエピタキシャルウェハをダイシングしてデバイスが形成された複数のチップを作製するチップ化工程と、前記複数のチップのうち、貫通欠陥を有するチップを取り除く、選択工程と、を有する。
【0021】
(10)本発明の第3の態様にかかるSiC種結晶の評価方法は、第1の態様にかかるSiCインゴットの評価方法で推測した前記同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を基に前記種結晶に存在する貫通欠陥の位置を推定する工程を有する。
【0022】
(11)本発明の第4の態様に係るSiCデバイスの製造方法は、第1の態様にかかるSiCインゴットの評価方法を行い、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する推測工程と、前記SiCインゴットから前記SiC基板を切り出し、前記SiC基板の一面にエピタキシャル層を積層し、SiCエピタキシャルウェハを製造するSiCエピタキシャルウェハ製造工程と、前記推測工程で推測した前記貫通欠陥の位置を基にデバイス形成する位置を決定するデバイス形成位置決定工程と、前記SiCエピタキシャルウェハをダイシングして、デバイスが形成された複数のチップを作製するチップ化工程と、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様にかかるSiCインゴットの評価方法によれば、SiCインゴット中の貫通欠陥が存在する領域を推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態にかかるSiCインゴットの一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態にかかるSiC基板のSICA像である。
【
図3】本実施形態にかかるSiC基板の一例を示す上面模式図である。
【
図4】本実施形態にかかるSiCインゴットの一部分の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】加工される前のSiC基板の厚さと加工されたSiC基板の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一態様にかかるSiCインゴットの評価方法、SiCデバイスの製造方法およびSiC種結晶の評価方法の好ましい例について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0026】
本実施形態において、結晶方位及び面は、ミラー指数として以下の括弧を用いて表記される。()と{}は面を表す時に用いられる。()は特定の面を表現する際に用いられ、{}は結晶の対称性による等価な面の総称(集合面)を表現する際に用いられる。一方で、<>と[]は方向を表す特に用いられる。[]は特定の方向を表現する際に用いられ、<>は結晶の対称性による等価な方向を表現する際に用いられる。
【0027】
本明細書において、SiCエピタキシャルウェハはSiCエピタキシャル層を形成後のウェハを意味し、SiC基板はSiCエピタキシャル層を形成前のウェハを意味する。SiCデバイスとは、SiCエピタキシャルウェハを用いて製造した半導体デバイスのことをいう。また、本明細書において、貫通欠陥とはサイズの大きいマイクロパイプを含む。
【0028】
<SiCインゴットの評価方法>
(第1実施形態)
本実施形態にかかるSiCインゴットの評価方法は、同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚のSiC基板を準備する工程と、同じ貫通欠陥に伴う欠陥を検出する工程と、検出した欠陥の位置を特定する工程と、SiC基板に存在する欠陥の位置からその他のSiC基板における同じ貫通欠陥に伴う欠陥が存在する領域を推定する工程と、を有する。
【0029】
図1は、本実施形態にかかるSiCインゴットの評価方法を行うSiCインゴットの一例を概略的に示した模式図である。SiCインゴット2は、スライスされ、符号W1、W2で一部を示されるSiC基板を形成する。SiCインゴット2は、オフセット角を有する。SiCインゴット2のオフセット角の大きさはθである。SiCインゴット2には、貫通欠陥1および貫通欠陥11が存在する。貫通欠陥1の成長方向は、SiCインゴット2の積層方向と一致する。貫通欠陥11の成長方向は、SiCインゴット2の積層方向と角度θをなす。
図1中の符号1A、1Bは同じ貫通欠陥1に伴う欠陥である。符号1A、1Bの貫通欠陥はそれぞれ異なるSiC基板W1、W2に存在する。SiCインゴット2からSiC基板は、SiCインゴット2の積層方向に垂直な方向に対し、θだけ傾いた角度に切断される。
【0030】
(準備工程)
準備工程では、同一の種結晶から成長したSiCインゴットから2枚のSiC基板を準備する。SiC基板は、単結晶のSiCインゴットをスライスして得られる。
【0031】
本実施形態では、準備する2枚のSiC基板のうち、SiC種結晶の最も近くに位置していたSiC基板を第1ウェハという。例えば、
図1に示すようにSiCインゴット2から2枚のSiC基板W1、W2を準備したとき、種結晶の近くに位置していたSiC基板を第1ウェハW1といい、種結晶から離れた位置のSiC基板を第2ウェハW2という。
【0032】
第1ウェハW1は、SiC種結晶の表面からインゴットの厚みの1/2以内の範囲から取り出されたSiC基板であることが好ましく、1/4以内の範囲から取り出されたSiC基板であることがより好ましい。また、第1ウェハW1は、SiCインゴット2から切り出されたSiC基板のうち、種結晶から1~5枚以内であることが好ましく、種結晶の最も近くに位置していたSiC基板であることが最も好ましい。貫通欠陥には、種結晶に存在していた貫通欠陥が伸長した種結晶由来の欠陥とSiCインゴットが成長する過程で生じた結晶成長面由来の欠陥とがある。このうち、SiCインゴットに存在する貫通欠陥は種結晶由来の欠陥が多い。また、貫通欠陥はSiCインゴット中で伸張又は閉塞する場合がある。第1ウェハW1をSiC種結晶の近くの基板とすることで、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥を見落す確率を下げることができる。さらに、後述するSiC種結晶の評価方法によりSiC種結晶に存在する貫通欠陥の位置の推定を高精度に行うことができる。
【0033】
第2ウェハW2は、第1ウェハW1と枝番が連続するものであっても良いし、枝番が連続していないものであってもよい。ここで枝番は、同一のSiCインゴットにおける位置を示し、種結晶に近い側から順に若い数字が振られる。例えば、枝番が「2」の場合、種結晶から2枚目のSiC基板である。枝番は、種結晶に遠い側から順に若い数字が振られる場合もある。本実施形態においては、枝番は種結晶に近い側から順に若い数字となるように変換して行う。種結晶に遠い側から枝番が振られるSiCインゴットの枝番の扱いについて記載する。例えば、10枚のSiC基板が切り出されるSiCインゴットにおいて、枝番が「2」の場合、種結晶側から9枚目のSiC基板である。本実施形態においては、このSiC基板の枝番を「9」として扱う。
【0034】
第1ウェハW1の枝番と第2ウェハW2の枝番とが連続している場合、切り出されるSiC基板は隣り合っておりSiCインゴットの評価方法を簡便に行うことができる。一方、詳細は後述するが第1ウェハW1の枝番と第2ウェハW2の枝番が離れていると、詳細は後述するが、SiC基板のロス部分によるぶれの影響が小さくなり、貫通欠陥の存在する位置を推測する精度を向上することができる。ロス部分のぶれをなくす観点から、例えば、第1ウェハW1と第2ウェハW2とは、インゴットの厚みの1/5以上離間していた基板であることが好ましく、1/4以上離間していた基板であることがより好ましく、1/2以上離間していた基板であることがさらに好ましい。
【0035】
(欠陥位置特定工程)
欠陥位置特定工程は、準備工程で準備したSiC基板を観察し、準備したSiC基板における同じ貫通欠陥に伴う欠陥を検出し、さらに、同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を特定する。同じ貫通欠陥に伴う欠陥の検出と、同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置の特定は、同じ装置を用いて行ってもよいし、それぞれ異なる装置を用いて行ってもよい。
【0036】
同じ貫通欠陥に伴う欠陥の検出および位置の特定は、公知の方法で行うことができる。例えば、同じインゴットから切り出された異なるSiC基板に存在する欠陥の位置を比較することにより行うことができる。欠陥位置特定工程は、SiC基板の主面全体を観察し、観察したSiC基板に存在するすべての貫通欠陥を検出してもよいし、SiC基板の任意の領域を観察し、特定の領域に存在する貫通欠陥を検出してもよい。
【0037】
以下に、本実施形態に係る同じ貫通欠陥に伴う欠陥を検出する方法の概要について記載する。欠陥の検出は、例えば、表面検査によりSiC基板の主面を観察して行う。表面検査は、公知の装置を用いて行うことができる。例えば、共焦点微分干渉顕微鏡とフォトルミネッセンス(PL)観察機能を併設した検査装置(レーザーテック株式会社製、SICA88と同様の原理の装置)の共焦点微分干渉顕微鏡や、光学式表面検査装置(オリンパス 株式会社社製、OLYMPUS MX51と同様の原理の装置)、電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、HD-2300と同様の原理の装置)等を用いることができる。尚、本明細書においてSiC基板の主面とはSiC基板の表面のうち、面積の広い部分のことをいう。SiCエピタキシャルウェハを製造する場合、SiC基板の主面にはSiCエピタキシャル層が積層される。
【0038】
次いで、準備したSiC基板の主面を公知の方法で表面検査し、欠陥の位置を特定する。SiC基板の欠陥の検出と、欠陥の位置の特定は、同じ表面検査装置を用いて行ってもよいが、この例に限定されず、任意の方法により行う。以下、本実施形態では、SiCインゴット2に存在する貫通欠陥1を検出した場合について記載する。第1欠陥1A、第2欠陥1Bは、いずれも貫通欠陥1に伴う欠陥である。貫通欠陥1Aは第1ウェハW1に存在し、第2欠陥1Bは第2ウェハW2に存在する。第1ウェハW1および第2ウェハW2には、それぞれ同じ貫通欠陥1に伴う欠陥である第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bが存在する。第1ウェハW1は、第2ウェハW2よりも種結晶の近くに位置していた基板である。
【0039】
欠陥位置特定工程で欠陥であると識別する欠陥は、任意の貫通欠陥であるが、例えばSICAのPL観察機能を用いた像において、欠陥と思われる、発光する部分の輝度Sと欠陥でない部分と思われる、発光しない部分の輝度Nとの比(S/N比)が2.0以上の点である。
【0040】
次いで、位置を特定した、2枚以上のSiC基板の欠陥の位置を比較する。以下、2枚以上のSiC基板の欠陥の位置を比較する工程を比較工程という場合がある。比較工程は、欠陥位置特定工程に含まれる工程である。比較工程では、例えば、第1ウェハW1と第2ウェハW2とを比較する。比較工程は、第1ウェハに存在する欠陥と第2ウェハに存在する欠陥を任意に組み合わせて比較する。組み合わせの一例としては第1欠陥1Aと第2欠陥1Bとを比較する。比較工程は、第1ウェハにおける欠陥と第2ウェハにおける欠陥との全ての組み合わせに対して行うことが好ましい。
【0041】
比較工程では、第1ウェハの欠陥と第2ウェハの欠陥とを比較する。比較工程において、第1ウェハの欠陥と第2ウェハの欠陥との[11-20]方向の欠陥距離が0.6mm以上の場合、比較した2つの欠陥は同じ貫通欠陥に伴う欠陥ではないと判断する。また、第1ウェハの欠陥と第2ウェハの欠陥との[11-20]方向の欠陥距離が0.2mm未満の場合、比較した2つの欠陥は同じ貫通欠陥に伴う欠陥であると判断する。第1ウェハの欠陥と第2ウェハの欠陥との[11-20]方向の欠陥距離が0.6mm以上であれば、比較した2つの欠陥は同じ貫通欠陥に伴う欠陥であることは統計的に考えにくく、第1ウェハの欠陥と第2ウェハの欠陥との[11-20]方向の欠陥距離が0.2mm以内であれば、比較した2つの欠陥は同じ貫通欠陥に伴う欠陥であることは統計的に確からしい。
【0042】
比較工程で比較した2つの欠陥の[11-20]方向の欠陥距離が0.2mm以上0.6mm未満の場合には、比較工程の後に欠陥距離と枝番との相関を求めることが好ましい。以下、欠陥距離と枝番との相関を求めることを相関決定工程という場合がある。相関決定工程は、欠陥位置特定工程に含まれる。相関決定工程を行うことで、[11-20]方向の欠陥距離が0.2mm以上0.6mm未満の欠陥が同じ貫通欠陥に伴う欠陥であるか否かを精度よく識別できる。
【0043】
相関決定工程では、準備工程で同一の種結晶から成長したSiCインゴットから得られた3枚以上のSiC基板を準備し、それぞれのSiC基板に対して欠陥位置特定工程を行う。相関決定工程を行う場合、第1ウェハW1および第2ウェハW2以外のSiC基板である第3ウェハに存在する第3欠陥を特定する。第3欠陥は、第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bとの[11-20]方向の欠陥距離が0.6mm未満の欠陥である。第3ウェハとしては、SiCインゴットから切り出された任意のSiC基板を選択することができる。
【0044】
相関決定工程では、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥の位置と第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥を有するSiC基板の枝番についての決定係数(相関決定係数)R2を求める。例えば、決定係数R2が0.7以上のとき、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥は同一の貫通欠陥に伴う欠陥であると判断する。また、決定係数R2は、求められるスクリーニングの精度によって変更できる。例えば、決定係数R2が0.5以上のとき、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥は同一の貫通欠陥に伴う欠陥である可能性が高いと判断してもよい。決定係数R2が0.5以上であると、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥は、同じ貫通欠陥に伴う欠陥である蓋然性が高い欠陥も検出することができる。
【0045】
ここで決定係数を求めるためには、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥のそれぞれの[11-20]方向成分([11-20]方向の位置座標)とそれぞれの欠陥が存在するSiC基板の枝番とが必要である。以下、本明細書において[11-20]方向をX方向という場合がある。(枝番、欠陥のX方向成分)=(n、x)として、共分散をsnx、枝番の標準偏差をsn、欠陥の位置座標の標準偏差をsxとしたとき、決定係数R2は、R2={snx/(sn×sx)}2で求められる。すなわち、相関決定工程に用いたSiC基板の枚数がNであり、それぞれのSiC基板の種結晶側からの順番をiとし、種結晶側からの順番がi番目のSiC基板の枝番をni、相関を決定する欠陥のX方向成分をxiとし、枝番およびX方向成分の相加平均をna、xaとしたとき、決定係数R2は、下記式(4)に記載の式により求めることができる。
【0046】
【0047】
尚、本実施形態においてSiC基板の「枝番」は、種結晶側から順に大きくなる枝番の付し方を想定している。例えば、種結晶側から1、2、3、・・・と順に大きくなる枝番の付し方を想定している。しかしながら、上述のように、枝番の付し方には、種結晶側から順に小さくなる方法もある。例えば、10枚のSiC基板を得られるSiCインゴットから得られたSiC基板が種結晶側から10、9、8、・・・と順に小さくなる枝番の付し方もある。本実施形態に係るSiC基板の評価方法は、いずれの枝番の付し方をされたSiC基板に対しても適用することができる。種結晶側から順に小さくなる枝番の付し方のSiCインゴットに本実施形態に係るSiC基板の評価方法を適用する場合、上述の実施形態において、「枝番」として「(SiCインゴットから得られるSiC基板の枚数)-(枝番)+1」を適用すればよい。例えば、種結晶側から順に小さくなる枝番の付し方のSiCインゴットを用いるとき、そのSiCインゴットから10枚のSiC基板が得られるとき、種結晶側から3枚目のSiC基板の枝番は、本来8であるが、(10-8+1=3)より、本実施形態を適用する場合、「枝番」として「3」を用いればよい。
相関決定工程は、第1欠陥1A、第2欠陥1Bおよび第3欠陥のX方向位置と各欠陥を有する枝番についての近似直線を作成した上で、決定係数を求めても良い。
【0048】
欠陥位置特定工程を行うことで、SiCインゴット2に存在する貫通欠陥を検出し、検出した貫通欠陥の位置を特定することができる。
【0049】
図2(a)および(b)は、それぞれSICAを用いて第1ウェハW1および第2ウェハW2の主面を観察して得られた顕微鏡像(以下、SICA像という)である。SICAは、共焦点微分干渉顕微鏡とフォトルミネッセンス(PL)観察機能を併設した検査装置である。
【0050】
図3は、第1ウェハW1の上面を模式的に示す上面模式図である。第1ウェハW1は、オリエンテーションフラット10を有する。欠陥位置特定工程は、識別した第1欠陥1Aの欠陥位置について、例えば
図3に示すX成分とY成分とを特定する。
図3において、X方向は[11-20]であり、Y方向は[1-100]である。[11-20]および[1-100]がSiC基板Wの主面方向と相違する場合、X方向を[11-20]方向から±Z軸方向に傾けた方向、Y方向を[1-100]方向から±Z軸方向に傾けた方向としてもよい。
【0051】
(推測工程)
推測工程は、欠陥位置特定工程で特定した同じ貫通欠陥に伴う2つ以上の欠陥のうち、2つの欠陥の位置を基に、SiCインゴット2中における貫通欠陥1の存在する領域を推測する。2つの欠陥の組み合わせは任意に選択することができる。例えば、第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bの位置を基にSiCインゴット2に存在する貫通欠陥1の領域を推測する。貫通欠陥1の領域を推測することで、SiCインゴット2から切り出される全てのSiC基板について同じ貫通欠陥に伴う欠陥の位置を推測することができる。推測工程は、第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bの位置と、第1ウェハW1および第2ウェハW2の枝番と、SiCインゴットのオフセット角と、を基に貫通欠陥1の位置を推測する。
【0052】
貫通欠陥1は、SiCインゴット中に直線的に存在する。そのため、枝番nのSiC基板における貫通欠陥の位置座標xは、SiC基板1枚あたりの貫通欠陥の座標変化量と、貫通欠陥が通る点の位置座標を基に推測することができる。
【0053】
例えば、枝番nのSiC基板における貫通欠陥の位置座標は、下記式(5)の関係で定義することができる。
(枝番nのSiC基板における貫通欠陥1の位置座標)=(SiC基板の枝番が1増えたときの貫通欠陥の位置座標変化量)×(n-1)+(枝番1のSiC基板での貫通欠陥の位置座標)・・・(5)
【0054】
第1欠陥1Aと第2欠陥1Bを用いて貫通欠陥1の位置を推測する場合を例とする。第1ウェハW1の枝番をN1、第2ウェハW2の枝番をN2とすると、第1ウェハW1と第2ウェハW2との間には、(N2-N1-1)枚のSiC基板が存在する。
また、第1欠陥1Aと第2欠陥1BとのX方向における位置座標変化量は、(X2-X1)と表すことができる。
【0055】
従って、(SiC基板の枝番が1増えたときの貫通欠陥の位置座標変化量)は、(X2-X1)/(N2-N1)と表すことができる。
【0056】
第1ウェハW1と種結晶との間には、(N1-1)枚のSiC基板が位置しており、貫通欠陥1は、直線的に成長する。従って、(枝番1のSiC基板での貫通欠陥の位置座標)は、[X1-{(X2-X1)/(N2-N1)}×(N1-1)]で表すことができる。
【0057】
枝番nのSiC基板における貫通欠陥1のx座標をxとし、式(5)に上記の関係を反映すると、枝番nのSiC基板における貫通欠陥1のx座標は、下記式(1)のように示すことができる。
【0058】
【数5】
(x:枝番nのSiC基板における貫通欠陥1のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、n:貫通欠陥の位置を推測するSiC基板の枝番)
【0059】
本実施形態に係るSiCインゴットの評価方法は、(1)式により、貫通欠陥1の枝番nのSiC基板での位置を推測することができる。
【0060】
本明細書において、貫通欠陥の位置座標とは、SiCインゴットに存在する貫通欠陥においてSiC基板の種結晶側の主面における位置座標のことをいうが、適宜変更して行ってもよい。例えば、SiC基板の主面のうち、種結晶から離れた面のx座標を貫通欠陥の位置座標としてもよい。
尚、本実施形態に係るSiC基板の評価方法はアライメント精度が±500μm以下を想定している。アライメント精度が±500μm以下の範囲内に収まらない場合、比較工程において同じ貫通欠陥に伴う欠陥であるか否かについての欠陥距離の臨界値および相関決定工程を行うか否かについての欠陥距離の臨界値を適宜調整して行うことができる。
【0061】
また、本実施形態では、オフセット角とSiCインゴット2の積層方向に対するSiC基板の切断角度とが一致する場合を例に記載したが、この例に限定されない。例えば、オフセット角と切断角度とが異なる場合であっても、本実施形態により、枝番nのSiC基板での貫通欠陥1の位置を推測することができる。
【0062】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態と推測工程が異なる。その他の工程は、第1実施形態と同様に行うことができる。
SiC基板は、SiCインゴットから切り出された後、鏡面加工や洗浄などの加工が行われ、加工されたSiC基板は、SiCインゴットから切り出された直後のSiC基板よりも薄い場合がある。本実施形態においては、加工によりSiCインゴットから切り出されたときと比較して、なくなった部分をロス部分という。
図4は、第2実施形態に係るSiCインゴット12の一部分概略的に示す概略図である。
図4において、ロス部分は、Lで示される部分である。加工されたSiC基板の厚さをHとし、ロス部分の厚さをhとする。また、
図4において、第1ウェハW1と第2ウェハW2との間には、1枚のSiC基板が存在していたものとする。尚、本実施形態においては、切り出されたSiCインゴット12の主面の片側のみが加工された場合を図示しているが、主面の両面が加工され、両面にロス部分が存在していてもよい。
【0063】
(推測工程)
本実施形態における推測工程は、欠陥位置特定工程と、比較工程と、ロス部分推定工程と、を有する。欠陥位置特定工程および比較工程は、第1実施形態と同様の方法でおこなってもよい。欠陥位置特定工程で観察するSiC基板は、鏡面加工等の加工が行われたSiC基板でもよいし、加工が行われる前のSiC基板でもよい。比較工程で、第1欠陥1Aと第2欠陥1Bとの[11-20]方向における欠陥距離が0.2mm以上0.6mm未満であった場合、推測工程は相関決定工程をさらに有する。相関決定工程は、第1実施形態と同様の方法で行ってもよい。
【0064】
(ロス部分推定工程)
ロス部分推定工程は、加工されたSiC基板の厚さを基にロス部分の厚さを推定する工程である。ロス部分推定工程は、まず加工されたSiC基板の厚さHを測る。SiC基板の厚さは、公知の方法により測る。例えば、平面度測定解析装置(TROPEL社製、FlatMasterと同様の原理の装置および、TROPEL社製、UltraSortと同様の原理の装置)等により測る。
【0065】
加工されたSiC基板の厚さHとロス部分の厚さhとの間には、下記式(6)の関係が成り立つ。従って、下記式(6)に加工されたSiC基板の厚さHを適用することで、ロス部分の厚さhを求めることができる。
h=3.295H-1013.4・・・(6)
【0066】
ロス部分の厚さhを求めることで、SiC基板の面内方向とSiCインゴットの積層方向についての関係式で貫通欠陥1の位置を示すことができる。具体的には、下記式(7)により貫通欠陥1の位置を示すことができる。
【0067】
第1欠陥1Aと第2欠陥1Bとは積層方向に距離(N2-N1)×(H+h)だけ離間している。また、第1欠陥1Aと第2欠陥1Bとは、[11-20]方向に距離(X2-X1)だけ離間している。すなわち、貫通欠陥は積層方向に距離yだけ離間すると、[11-20]方向に[(X2-X1)/{(N2-N1)×(H+h)}×Y]だけ離間する。
【0068】
第1ウェハW1の枝番がN1のとき、(枝番1のSiC基板での貫通欠陥の位置座標)は、[X1-{(X2-X1)/(N2-N1)}×(N1-1)]で表すことができるので、貫通欠陥1の種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における[11-20]方向の位置座標は、下記式(7)で示すことができる。
【0069】
【数6】
(X:種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における貫通欠陥1のx座標、X1:第1欠陥1Aのx座標、X2:第2欠陥1Bのx座標、N1:第1ウェハW1の枝番、N2:第2ウェハW2の枝番、H:加工されたSiC基板の厚さ、h:SiC基板のロス部分)
【0070】
ここで、式(6)は、統計により求められた関係式である。表1は、切りだされたSiC基板の厚さ(H+h)と加工されたSiC基板の厚さHとを集計した表である。表1によると、加工されたSiC基板の厚さ500μmのSiC基板は、加工される前の厚さの平均値が1246μmである。また、加工されたSiC基板の厚さが350μmのSiC基板は、加工される前の厚さの平均値が551μmである。また、加工されたSiC基板の厚さが330μmのSiC基板は、加工される前の厚さの平均値が464μmである。従って、加工されたSiC基板の厚さHが330μm、350μm、500μmのとき、加工される前の厚さ(H+h)は、それぞれ464μm、551μm、1246μmであると推定することができる。
【0071】
【0072】
図5は、加工される前のSiC基板の厚さの平均値と加工されたSiC基板の厚さとの関係を示すグラフである。
図5に示すグラフにおいて(加工されたSiC基板の厚さ)をHとし、加工される前のSiC基板の厚さの平均値を(H+h)とすると、下記式(8)の関係が成り立つ。
(H+h)=4.35295H―1013.4・・・(8)
式(8)の決定係数は、0.99であった。式(8)は、H≧300μmの範囲で適用できる。
式(8)をhについて解くと、(6)式が求められる。また、式(8)を式(7)に適用すると、下記式(2)が求まる。
【0073】
【0074】
本実施形態に係るSiCインゴットの評価方法は、(2)式を用いることで、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥1の位置を求めることができる。
【0075】
また、本実施形態では、オフセット角とSiCインゴット2の積層方向に対するSiC基板の切断角度とが一致する場合を例に記載したが、この例に限定されない。例えば、オフセット角と切断角度とが異なる場合であっても、適用することができる。
【0076】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るSiCインゴットの評価方法は、ロス部分推定工程が第2実施形態に係るSiCインゴットの評価方法と異なる。その他の工程は、第2実施形態と同様とすることができる。
【0077】
(ロス部分推定工程)
図4に存在する直角三角形に着目すると、第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bを結んだ線は直角三角形の斜辺に対応する。第1欠陥1Aと第2欠陥1Bとの[11-20]方向における距離(X2-X1)は、下記式(9)で示される。
(X2-X1)=(N2-N1)×(H+h)×tanθ・・・(9)
従って、ロス部分の厚さhは、下記式(10)で示される。
【0078】
【0079】
従って、第1欠陥1Aおよび第2欠陥1Bの積層方向における距離は、下記式(11)で示される。
(N2-N1)×(H+h)=(X2-X1)/tanθ・・・(11)
【0080】
第1ウェハW1の枝番がN1のとき、(枝番1のSiC基板での貫通欠陥の位置座標)は、[X1-{(X2-X1)/(N2-N1)}×(N1-1)]で表すことができるので、貫通欠陥1の種結晶から積層方向に距離Yだけ離間した位置における[11-20]方向の位置座標は、下記式(3)で示すことができる。
【0081】
【0082】
本実施形態に係るSiCインゴットの評価方法は、(3)式を用いることで、SiCインゴット中に存在する貫通欠陥1の位置を求めることができる。
【0083】
また、本実施形態では、オフセット角とSiCインゴット2の積層方向に対するSiC基板の切断角度とが一致する場合を例に記載したが、この例に限定されない。例えば、オフセット角と切断角度とが異なる場合であっても、適用することができる。具体的には、オフセット角がθであり、切断角度がαであるとき、上記式(3)における(tanθ)を(tanα)に置き換えることで、貫通欠陥の位置を推測することができる。
【0084】
(第4実施形態)
<SiCデバイスの製造方法>
本実施形態にかかるSiCデバイスの製造方法は、推測工程と、SiCエピタキシャルウェハ製造工程と、デバイス形成工程と、チップ化工程と、選択工程と、を有する。推測工程は、上記実施形態にかかるSiCインゴットの評価方法を用いてSiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する。
【0085】
SiCエピタキシャルウェハ製造工程は、SiCインゴットから準備したSiC基板を用いて公知の方法でSiCエピタキシャルウェハを形成する。例えば、化学気相成長法等によりSiCエピタキシャルウェハを製造する。デバイス形成工程は、公知の方法でSiCエピタキシャルウェハにデバイスを形成する。デバイスを形成するために方法は、形成するデバイスに併せて、任意の方法をとることができる。次いで、形成したデバイスについて、初期特性評価工程を行う。初期特性評価は、公知の方法で行う。初期特性評価工程は、推測工程で推測した貫通欠陥の位置を基に、特性を評価する位置を決定することが好ましい。次いで、チップ化工程を行う。チップ化工程は、デバイスを形成したSiCエピタキシャルウェハを公知の方法でダイシングし、チップ化する。チップ化する際、貫通欠陥が含まれるチップをなるべく少なくすることが好ましい。次いで、選択工程を行う。選択工程は、推測工程で推測した貫通欠陥の位置を参考に貫通欠陥を有するチップを選択する。貫通欠陥はデバイスキラーであるため、選択工程において貫通欠陥を有するチップは取り除く。次いで、検査工程を行うことが好ましい。検査工程では、例えばパッケージ評価を行う。パッケージ評価は、公知の方法でSiCデバイスの信頼性を評価する。検査工程で特性不良を示すチップは取り除く。本実施形態においては、選択工程後の貫通欠陥を有するチップが取り除かれたチップをSiCデバイスという。
【0086】
本実施形態にかかるSiCデバイスの製造方法は、特性不良を示すチップをパッケージ評価等の検査を行う前に取り除く。すなわち、検査を簡便に行うことができる。すなわち、本実施形態にかかるSiCデバイスの製造方法は製造コストの抑制およびスループットの向上をすることができる。
【0087】
(第5実施形態)
第5実施形態にかかるSiCデバイスの製造方法は、推測工程と、SiCエピタキシャルウェハ製造工程と、デバイス形成位置決定工程と、デバイス形成工程と、チップ化工程と、を有する。推測工程は、上記実施形態にかかるSiCインゴットの評価方法を用いてSiCインゴット中に存在する貫通欠陥の位置を推測する。デバイス形成位置決定工程は、推測工程で推測した貫通欠陥の位置を基に、SiCウェハにおけるデバイスを形成する位置を決定する。デバイスを形成する位置は、後に行われるチップ化工程におけるチップの境界を考慮し、貫通欠陥を有さないチップに対応する位置としてもよい。デバイス形成位置決定工程を行うことにより、SiCデバイスの歩留りを改善することができる。また、SiCデバイス製造にかかるコストを抑制することができる。
【0088】
SiCエピタキシャルウェハ製造工程は、SiCインゴットから準備したSiC基板を用いて公知の方法でSiCエピタキシャルウェハを形成する。例えば、化学気相成長法等によりSiCエピタキシャルウェハを製造する。デバイス形成位置決定工程は、推測工程で推測した貫通欠陥の位置を基に、デバイス形成する位置を決定する。デバイス形成位置決定工程を行うことで、デバイスキラー欠陥の一種である貫通欠陥を避けてデバイス形成をできるため、NGチップを低減することができる。デバイス形成工程は、公知の方法でSiCエピタキシャルウェハの主面上にデバイスを形成する。次いで、公知の方法で初期特性評価工程を行っても良い。チップ化工程は、公知の方法でデバイス形成されたSiCエピタキシャルウェハをダイシングし、チップ化する。次いで、パッケージ評価工程を行うことが好ましい。パッケージ評価工程は、公知の方法でパッケージ評価を行う。パッケージ評価工程を行うことで、特性不良を示すチップを特定し、取り除いてもよい。
【0089】
また、本実施形態に係るSiCデバイスの製造方法では、貫通欠陥を有するチップは特性不良を示すため、デバイス形成を行わずに取り除く。すなわち、SiCデバイス製造におけるスループットを向上することができる。また、デバイス形成や特性評価を行うチップを低減し、SiCデバイス製造にかかるコストを抑制することができる。
【0090】
<SiC種結晶の評価方法>
本実施形態にかかるSiC種結晶の評価方法は、上記実施形態に記載のSiCインゴットの評価方法により推測した貫通欠陥の位置を基に種結晶に存在する貫通欠陥の位置を推測する工程を有する。
【0091】
上記(1)式において、n=1とすることや、(2)、(3)式においてY=0とすることで、種結晶に存在する貫通欠陥の位置を推測することができる。貫通欠陥には、種結晶に存在する貫通欠陥がSiCインゴットにも伸長したものと、SiCインゴットの結晶成長面で発生するものとがある。このうち、多くは種結晶に存在する貫通欠陥がSiCインゴットにも伸長したものである。SiCインゴットのステップフロー成長方向は、SiC種結晶に依存するため貫通欠陥を有する特定の種結晶から成長するSiCインゴットは同じ位置に貫通欠陥が伸長するリスクが高い。
【0092】
本実施形態にかかるSiC種結晶の評価方法は、種結晶に存在する貫通欠陥の位置を推測することで、同じ種結晶から成長するSiCインゴットに存在する貫通欠陥の位置を同定することができる。すなわち、検査を行うSiCインゴットの数を限定することができ、スループットを向上することができる。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、第1実施形態においてSiC基板の厚さを測定し、第2、第3実施形態と同様にしてロス部分を考慮して貫通欠陥の位置を推測してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1、11:貫通欠陥
2、12:SiCインゴット