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  • 特許-高純度酸化スカンジウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】高純度酸化スカンジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20231108BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20231108BHJP
   C01F 17/00 20200101ALI20231108BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20231108BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20231108BHJP
   C22B 3/28 20060101ALI20231108BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C22B59/00
B01D11/02 A
C01F17/00
C22B1/02
C22B3/08
C22B3/28
C22B3/44 101A
C22B3/44 101Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019180407
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055152
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127634(JP,A)
【文献】特開2018-111858(JP,A)
【文献】特開2019-014928(JP,A)
【文献】特開2018-204088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 1/02
C22B 3/08
C22B 3/28
C22B 3/44
C01F 17/00
B01D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウムを含有する溶液にシュウ酸を用いてシュウ酸化処理を施し、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を400℃~800℃の温度で焼成する第1焼成工程と、
焼成して得られるスカンジウム化合物を硫酸に溶解させ溶解液を得る溶解工程と、
前記溶解液と抽出剤とを接触させ不純物元素を抽出させる抽出工程と、
前記抽出工程を経て得られる抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施し、中和澱物と中和濾液とを得る中和工程と、
中和後溶液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施し、シュウ酸スカンジウムを生成させる再シュウ酸化工程と、
前記シュウ酸スカンジウムを焼成して酸化スカンジウムを得る第2焼成工程と、
を有
前記中和工程は、
前記抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施し、固液分離により1次中和澱物と1次中和濾液とを得る第1中和工程と、
前記1次中和濾液にさらに中和剤を添加して中和処理を施し、固液分離により2次中和澱物である水酸化スカンジウムと2次中和濾液とを得る第2中和工程と、を含み、
前記第1中和工程では、前記中和剤を添加して前記抽出残液のpHを3.8~5.5の範囲に調整するとともに、前記ジメチルグリオキシムを前記抽出残液に含まれるニッケル量に対して3当量~50当量に相当する量で添加して中和処理を施し、
前記溶解工程を第1溶解工程としたとき、前記第2中和工程で得られる前記水酸化スカンジウムを鉱酸に溶解させ溶解液を得る第2溶解工程をさらに有し、
前記再シュウ酸化工程では、前記第2溶解工程で得られる前記溶解液を前記中和後溶液として、該溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施す、
高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【請求項2】
前記スカンジウムを含有する溶液は、ニッケルを含む原料を酸で浸出して得られる溶液である、
請求項1に記載の高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【請求項3】
前記第2中和工程では、前記1次中和濾液のpHを5.5~7.0の範囲に調整する、
請求項1又は2に記載の高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【請求項4】
前記再シュウ酸化工程では、前記中和後溶液の温度を20℃以上100℃未満に調整してシュウ酸化処理を施す、
請求項1乃至のいずれかに記載の高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【請求項5】
前記抽出工程にて使用する抽出剤は、アルキルアミン系抽出剤又はアルキルアミン系抽出剤を希釈剤で希釈した抽出剤である、
請求項1乃至のいずれかに記載の高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【請求項6】
前記抽出工程において、前記抽出剤と接触させる前記溶解液に含まれるSO 成分の濃度が0.1mol/L~2.0mol/Lである、
請求項1乃至のいずれかに記載の高純度酸化スカンジウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化スカンジウムの製造方法に関するものであり、より詳しくは、不純物の品位を低減させた高純度な酸化スカンジウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウムとの高性能合金や燃料電池の材料として注目されているスカンジウムは、チタン精製残渣やウラン鉱石を酸浸出することで得られる浸出液から精製することが主流となっており、副産物としての回収が進められている。
【0003】
このような従来のスカンジウムの回収においては、主として、不純物を分離する浄液処理を通して高純度品の生産を行っている。すなわち、スカンジウムは、上述したような主要工程における溶液(例えば浸出液等)に低濃度で存在するものであるため、イオン交換法や溶媒抽出法等の方法を多段階に実施することで徐々に濃縮させていき、溶液中の濃度を高めていくことが必要となる。これらの方法を用いて、合金に必要な品位、例えば99.9%(3N品)以上のグレードまで高純度化していくのであるが、かなりの手間がかかり、精製に要するコストが高止まりとなる一因となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、低品位の酸化スカンジウムを硝酸で加熱溶解し、その硝酸溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて液中に溶存する不純物を吸着させ、さらに溶液に塩酸を添加し、陰イオン交換樹脂に接触させて他の不純物を樹脂に吸着させることでスカンジウムと不純物とを分離する方法が開示されている。この方法では、さらにシュウ酸又はフッ酸を添加し、得られた沈殿物を焼成することによって、高純度の酸化スカンジウムを得ることが示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、スカンジウムと同量、あるいはスカンジウムよりもはるかに大量に共存する不純物を分離することから、不純物の分離に要する手間とコストがかかり、また不純物を完全に分離しきれないという問題がある。
【0006】
不純物を分離する方法として、一度精製したものを再度溶解して析出させることで精製する方法が知られており、工業的にも広く用いられている。しかしながら、酸化スカンジウムに対してこのような方法を用いようとしても、酸化スカンジウムは酸等の水溶液に対して難溶性であり、溶解するには高濃度の酸を用いる必要がある。
【0007】
さらに、酸化スカンジウムを溶解できたとしても、酸濃度が高いことから、スカンジウム濃度が1g/L~3g/L程度の溶液しか得ることができない。また、再度シュウ酸化しようとしても、酸濃度が高いために、80%程度の実収率を得るのに12当量程度のシュウ酸を添加することが必要となり、薬剤コストが高くなるという問題が生じる。
【0008】
このように、従来の方法では、高純度の酸化スカンジウムを得るために、多くの手間とコストがかかり、さらには高濃度の酸を取扱うことから安全性の問題が生じるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-232026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、スカンジウムを含有する溶液から、効率よく高純度の酸化スカンジウムを得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、シュウ酸スカンジウムの結晶に対して特定の温度条件で焼成することで、酸等の水溶液に対して易溶性を示すスカンジウム化合物を得ることができることが分かり、そして、その易溶性のスカンジウム化合物を溶解させた液に対して溶媒抽出処理を施すとともに、ジメチルグリオキシムの添加を含む中和処理を施して不純物を除去し、不純物を除去した溶液から生成させたシュウ酸スカンジウムを焼成して酸化スカンジウムを製造することで、効率よく高純度の酸化スカンジウムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、スカンジウムを含有する溶液にシュウ酸を用いてシュウ酸化処理を施し、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を400℃~800℃の温度で焼成する第1焼成工程と、焼成して得られるスカンジウム化合物を硫酸に溶解させ溶解液を得る溶解工程と、前記溶解液と抽出剤とを接触させ不純物元素を抽出させる抽出工程と、前記抽出工程を経て得られる抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施し、中和澱物と中和濾液とを得る中和工程と、中和後溶液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施し、シュウ酸スカンジウムを生成させる再シュウ酸化工程と、前記シュウ酸スカンジウムを焼成して酸化スカンジウムを得る第2焼成工程と、を有する、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記中和工程では、前記ジメチルグリオキシムを、前記抽出残液に含まれるニッケル量に対して3当量~50当量に相当する量で添加する、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記スカンジウムを含有する溶液は、ニッケルを含む原料を酸で浸出して得られる溶液である、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記中和工程は、前記抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施し、固液分離により1次中和澱物と1次中和濾液とを得る第1中和工程と、前記1次中和濾液にさらに中和剤を添加して中和処理を施し、固液分離により2次中和澱物である水酸化スカンジウムと2次中和濾液とを得る第2中和工程と、を有する、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記第1中和工程では、前記抽出残液のpHを3.8~5.5の範囲に調整する、高純度酸化スカンジウムの回収方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記第2中和工程では、前記1次中和濾液のpHを5.5~7.0の範囲に調整する、高純度酸化スカンジウムの回収方法である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第4乃至第6のいずれかの発明において、前記溶解工程を第1溶解工程としたとき、さらに、前記第2中和工程で得られる前記水酸化スカンジウムを鉱酸に溶解させ溶解液を得る第2溶解工程を有し、前記再シュウ酸化工程では、前記第2溶解工程で得られる前記溶解液を前記中和後溶液として、該溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施す、高純度酸化スカンジウムの回収方法である。
【0019】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至第7のいずれかの発明において、前記再シュウ酸化工程では、前記中和後溶液の温度を20℃以上100℃未満に調整してシュウ酸化処理を施す、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0020】
(9)本発明の第9の発明は、第1乃至第8のいずれかの発明において、前記抽出工程にて使用する抽出剤は、アルキルアミン系抽出剤又はアルキルアミン系抽出剤を希釈剤で希釈した抽出剤である、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【0021】
(10)本発明の第10の発明は、第1乃至第9のいずれかの発明において、前記抽出工程において、前記抽出剤と接触させる前記溶解液に含まれるSO成分の濃度が0.1mol/L~2.0mol/Lである、高純度酸化スカンジウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スカンジウムを含有する溶液から、効率よく高純度の酸化スカンジウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】酸化スカンジウムの製造方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0025】
≪1.概要≫
本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法は、スカンジウムを含有する溶液にシュウ酸を用いてシュウ酸化処理を施し、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶から酸化スカンジウムを得る方法である。
【0026】
この製造方法では、スカンジウムを含有する溶液からシュウ酸処理により得られるシュウ酸スカンジウムを低温焼成することで易溶性化し、溶解して得られるスカンジウム溶解液中の不純物を抽出処理により除去し、再度シュウ酸化処理を施して焼成する。これにより、不純物の少ない高純度な酸化スカンジウムを効率的に得ることができる。
【0027】
具体的に、本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法は、スカンジウムを含有する溶液にシュウ酸を用いてシュウ酸化処理を施し、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を所定の温度で焼成する第1焼成工程と、焼成して得られるスカンジウム化合物を硫酸に溶解させて溶解液を得る溶解工程と、その溶解液と抽出剤とを接触させ不純物元素を抽出剤に抽出させる抽出工程と、抽出処理により得られる抽出残液に対して中和処理を施して中和澱物と中和濾液とを得る中和工程と、中和後溶液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施しシュウ酸スカンジウムを生成させる再シュウ酸化工程と、シュウ酸スカンジウムを焼成して酸化スカンジウムを得る第2焼成工程と、を有する。
【0028】
この製造方法では、第1焼成工程においてシュウ酸スカンジウムの結晶に対して特定の温度条件で焼成することで、酸に対して易溶性を示すスカンジウム化合物を得ることができる。次に、得られた易溶性のスカンジウム化合物を利用し、硫酸に溶解させて溶解液(再溶解液)を得る。また、得られる溶解液を抽出剤と接触させて不純物元素を除去する抽出処理を施し、その後、シュウ酸スカンジウムの再沈殿物を生成させる。
【0029】
そして特に、この製造方法においては、抽出工程での抽出処理により得られる抽出残液に対して中和処理を施す中和工程を有し、その中和処理では、抽出残液に対してジメチルグリオキシムの添加を含む処理を行うことを特徴としている。
【0030】
このような方法によれば、抽出残液に残留する不純物をより効果的に分離除去することができ、得られる中和後溶液においてスカンジウムを有効に濃縮できる。そして、有効にスカンジウムが濃縮した中和後溶液からシュウ酸スカンジウムの形態の再沈殿物を得て、その再沈澱物に対して所定の温度条件で焼成処理を施すことで、効率的に不純物を分離除去した高純度な酸化スカンジウムを得ることができる。
【0031】
ここで、原料となる、スカンジウムを含有する溶液(以下、「スカンジウム含有溶液」ともいう)として、例えば、ニッケル酸化鉱石に対して高圧酸浸出(HPAL)処理を施して得られた浸出液を硫化処理してニッケルを分離した後の硫化後液を用いることができる。また、その硫化後液に対して、イオン交換処理及び/又は溶媒抽出処理によって不純物を分離して、スカンジウムを濃縮させた溶液(硫酸酸性溶液)を用いることができる。
【0032】
ニッケル酸化鉱石のHPALプロセスを経て得られた硫化後液等のスカンジウム含有溶液に対するイオン交換処理としては、特に限定されない。例えば、キレート樹脂として、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いた処理が挙げられる。具体的な処理工程として、例えば硫化後液を処理対象とする場合には、硫化後液をキレート樹脂に接触させスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる工程と、キレート樹脂に硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する工程と、キレート樹脂に硫酸を接触させてスカンジウム溶離液を得る工程と、キレート樹脂に硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したクロムを除去する工程と、を有するものを例示できる。
【0033】
また、溶媒抽出処理についても特に限定されず、上述したようなイオン交換処理を経て得られたスカンジウム溶離液に対して、アミン系抽出剤、リン酸系抽出剤等を使用した溶媒抽出処理を行うことができる。例えば、スカンジウム溶離液と抽出剤とを混合して不純物を抽出した抽出後有機溶媒とスカンジウムを含む抽残液とに分離する抽出工程と、抽出後有機溶媒に塩酸溶液又は硫酸溶液を混合して抽出後有機溶媒に微量含まれるスカンジウムを分離するスクラビング工程と、洗浄後有機溶媒に逆抽出始液を混合して洗浄後有機溶媒から不純物を逆抽出し、逆抽出液を得る逆抽出工程と、を有するものを例示できる。
【0034】
このように、イオン交換処理や溶媒抽出処理を施して得られたスカンジウム含有溶液では、不純物成分が低減されてスカンジウムが溶液中で濃縮されていることから、そのスカンジウム含有溶液を原料として得られる酸化スカンジウムは、スカンジウム品位がより一層に高いものとなる。
【0035】
なお、スカンジウム含有溶液としては、上述したようなニッケル酸化鉱石を原料として浸出処理を施して得られる溶液に限られず、スカンジウムと共に、ニッケルをはじめとする不純物を含む原料から得られる溶液であれば、有効に適用することができる。
【0036】
≪2.酸化スカンジウムの製造方法の各工程について≫
図1は、酸化スカンジウムの製造方法の流れの一例を示す工程図である。
【0037】
具体的に、図1に示すように、本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法は、スカンジウム含有溶液にシュウ酸化処理を施すシュウ酸化工程S11と、シュウ酸スカンジウムの結晶を所定の温度で焼成する第1焼成工程S12と、焼成物であるスカンジウム化合物を硫酸に溶解させて溶解液を得る溶解工程(第1溶解工程)S13と、溶解液と抽出剤とを接触させて抽出処理を施す抽出工程S14と、抽出残液に対して中和処理を施す中和工程S15と、中和後溶液に対してシュウ酸化処理を施してシュウ酸スカンジウムの結晶の再沈殿物を得る再シュウ酸化工程S16と、シュウ酸スカンジウムの再沈殿物を焼成して酸化スカンジウムを得る第2焼成工程S17と、を有する。
【0038】
また、中和工程S15は、抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施すことで1次中和澱物と1次中和濾液とを得る第1中和工程S51と、1次中和濾液にさらに中和剤を添加して中和処理を施すことで2次中和澱物である水酸化スカンジウムと2次中和濾液とを得る第2中和工程S52と、を有する。
【0039】
さらに、その中和工程S15は、第2中和工程S52で得られる水酸化スカンジウムを鉱酸に溶解させ溶解液を得る溶解工程(第2溶解工程)S53を有する。なお、再シュウ酸化工程S16では、第2溶解工程S53で得られる溶解液を中和後溶液として、その溶解液にシュウ酸を添加してシュウ酸化処理を施す。
【0040】
[シュウ酸化工程]
シュウ酸化工程S11は、スカンジウム含有溶液に対してシュウ酸化処理を施す工程である。具体的に、シュウ酸化工程S11では、スカンジウム含有溶液に対してシュウ酸を用いてスカンジウムをシュウ酸塩(シュウ酸スカンジウム)とする反応を生じさせる。
【0041】
スカンジウム含有溶液としては、特に限定されないが、好ましくはスカンジウム濃度が5g/L~50g/Lとなるように、より好ましくは10g/L~20g/L程度の濃度となるように調整し、硫酸等の酸を用いてpHを0程度に調整したものを用いる。
【0042】
シュウ酸化処理の方法としては、スカンジウム含有溶液に対してシュウ酸を添加して、スカンジウム含有溶液中のスカンジウムに基づいてシュウ酸スカンジウムの固体結晶を析出生成させる方法を用いることができる。このとき、使用するシュウ酸としては、固体であっても溶液であってもよい。なお、シュウ酸化処理の方法において、スカンジウム含有溶液中に不純物成分として2価鉄イオンが含まれる場合には、シュウ酸鉄(II)の沈殿生成を防止するために、シュウ酸化処理に先立って、酸化剤を添加して酸化還元電位(ORP,参照電極:銀/塩化銀)を500mV以上の範囲に制御して酸化処理を施すことが好ましい。
【0043】
処理に用いるシュウ酸としては、スカンジウム含有溶液中のスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍~1.2倍の範囲の量を使用することが好ましい。使用量が必要な当量の1.05倍未満であると、スカンジウムを有効に全量回収できなくなる可能性がある。一方で、使用量が必要な当量の1.2倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加することでスカンジウムが再溶解して回収率が低下する可能性がある。また、過剰なシュウ酸を分解するために次亜塩素ソーダのような酸化剤の使用量が増加するため、好ましくない。
【0044】
このようなシュウ酸化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの結晶は、濾過、洗浄処理を行うことによって回収することができる。
【0045】
[第1焼成工程]
第1焼成工程S12は、シュウ酸化工程S11で得られたシュウ酸スカンジウムの結晶に対して所定の温度で焼成する工程である。このような所定の温度での焼成処理により、焼成物であるスカンジウム化合物を得ることができる。
【0046】
そして、第1焼成工程S12においては、焼成温度を400℃~800℃の範囲として焼成を行うことを特徴としている。これにより、酸等の水溶液に対して易溶性を示すスカンジウム化合物を焼成物として得ることができる。
【0047】
このようにして得られる易溶性のスカンジウム化合物は、焼成処理前のシュウ酸スカンジウムの結晶の重量に対する減量率が、53%~65%、好ましくは55%~65%、より好ましくは55%~60%の範囲となる。なお、減量率とは、焼成による重量の減少割合をいい、焼成前後の重量際に基づいて下記式[1]で表すことができる。
減量率(%)=(1-焼成後物量/焼成前物量)×100 ・・・[1]
【0048】
ここで、シュウ酸スカンジウム(Sc12;分子量353.92)を焼成することで酸化スカンジウム(Sc;分子量137.92)を得る場合、焼成前後の減量率としては、理論的には(1-137.92/353.92)×100=61%になる。ところが、400℃~800℃の範囲の条件で焼成処理を施すことで得られる易溶性のスカンジウム化合物においては、減量率が55%~65%の範囲で幅があるものになることから、難溶性のシュウ酸スカンジウムを加熱して難溶性の酸化スカンジウムに分解される際に、易溶性の形態を呈する領域がある。
【0049】
つまり、この易溶性を示すスカンジウム化合物は、原料であるシュウ酸スカンジウムの結晶が、焼成により完全に分解してその全量が酸化スカンジウムになったものではなく、部分的にシュウ酸スカンジウムが残留したり、あるいは分解で生成したCOやCO等が残留した状態にある化合物であると考えられる。実際に、400℃~800℃の範囲の温度条件で焼成して得られる易溶性のスカンジウム化合物は、従来の高温で焼成して得られる酸化スカンジウムに比べて、炭素(C)が多く含まれている。
【0050】
また、この易溶性を示すスカンジウム化合物は、X線回折分析を行っても、とりわけより易溶性を示す下限の温度側では、特有の回折ピークを示さず、その化合物の形態を特定することが困難である。そのため、易溶性の領域にある化合物を、単に「スカンジウム化合物」と総称する。具体的に、400℃~800℃の範囲の温度条件で焼成して得られる易溶性のスカンジウム化合物では、シュウ酸スカンジウムのピークも観察されず、酸化スカンジウムのピークに相当するピーク強度も11000カウント以下となる。このことから、400℃~800℃の温度で焼成して得られるスカンジウム化合物では、結晶化度が低くなり、易溶性の性質を有するものになると考えられる。
【0051】
さらに、この易溶性を示すスカンジウム化合物は、BET比表面積が70m/g以上の微細なものであるという性質を有する。特に、焼成温度を400℃として得られたスカンジウム化合物では、BET比表面積が250m/g以上となる。このように、400℃以上800℃℃以下の温度条件で焼成して得られるスカンジウム化合物では、比表面積が大きくなり、その結果として、酸溶液に対する溶解に際しての酸溶液との接触面積が多くなり、易溶性を示すようになると考えられる。スカンジウム化合物の比表面積としては、100m/g以上であることがより好ましく、200m/g以上であることがさらに好ましく、250m/g以上であることが特に好ましい。
【0052】
第1焼成工程S12における焼成処理では、シュウ酸化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を水で洗浄し、乾燥させた後に、所定の炉を用いて焼成する。炉としては、特に限定されないが、管状炉等が挙げられ、また工業的にはロータリーキルン等の連続炉を用いることで乾燥と焼成とを同じ装置で連続して行うことができる。
【0053】
[溶解工程(第1溶解工程)]
溶解工程S13は、第1焼成工程S12での焼成処理により得られる焼成物である、易溶性のスカンジウム化合物を、硫酸に全溶解させて溶解液を得る工程である。なお、後述する中和工程S15における溶解工程を「第2溶解工程」とすることに対して、当該溶解工程を「第1溶解工程S13」ともいう。
【0054】
第1溶解工程S13における溶解処理としては、特に限定されず、スカンジウム化合物に対して純水を加え、さらにそこに硫酸溶液を添加していき、撹拌することによって行うことができる。また、溶解処理における温度条件としても、20℃~80℃程度の範囲に調整して行うことができる。
【0055】
また、溶解時のpH条件は特に限定されず、例えばpH0~2程度に調整した硫酸溶液を用いればよい。
【0056】
なお、第1溶解工程S13で得られる再溶解液としては、例えば、スカンジウム濃度を50g/L程度にまで高めて任意の値に調整することができ、これにより、液量の削減や、延いては設備容量の減少を図ることができる。
【0057】
[抽出工程]
抽出工程S14は、スカンジウム化合物を硫酸に溶解して得られた溶解液中の不純物元素を、抽出剤を用いた抽出処理により除去する工程である。抽出工程S14における抽出処理では、溶解液中の不純物元素が抽出剤により抽出され、一方で、スカンジウムは抽出されずに抽出残液(抽出後液)に移行するようになる。このような抽出処理により、スカンジウムと不純物元素とを効果的に分離することができ、以後の工程を経て得られる酸化スカンジウムの純度を向上させることができる。
【0058】
抽出剤としては、特に限定されないが、アルキルアミン系の抽出剤、又は、アルキルアミン系の抽出剤を希釈剤で希釈したものを好適に用いることができる。
【0059】
具体的に、アルキルアミン系抽出剤は、特に限定されないが、PrimeneJM-T、AmberliteLA-2、TOA(Tri-n-octylamine)、TIOA(Tri-i-octylamine)等の商品名で知られる抽出剤を使用することができる。このような抽出剤の中でも、目的とする抽出対象の不純物元素とスカンジウムとの分離性に優れているものを選定することが好ましい。例えば、抽出対象の不純物元素がThやUである場合には、PrimeneJM-Tを用いることで、スカンジウムとの分離性がより優れるため好適である。
【0060】
ここで、アルキルアミン系抽出剤は、その抽出挙動が溶解液中の塩濃度の影響を受ける。そのため、抽出処理前に、溶解液中のSO濃度を調整することが好ましく、これにより分離性を高めることができる。具体的には、溶解液中のSO成分の濃度としては、0.1mol/L~2.0mol/Lの範囲であることが好ましい。溶解液中のSO濃度が0.1mol/L未満であると、溶解液が希薄になりすぎて大量の抽出剤が必要になり、また設備が大型化する。一方で、SO濃度が2.0mol/Lを超えると、不純物元素と同時にスカンジウムも多く抽出され、分離性が低下する可能性がある。
【0061】
抽出処理後は、静置分離等を行って、不純物元素を抽出した抽出剤(抽出液)と抽出残液とに分離し、スカンジウムを含む抽出残液を回収する。なお、不純物元素を含む抽出剤については、洗浄して、逆抽出処理を施すことで不純物を分離回収したのち、抽出処理に用いる抽出剤として繰り返し使用することができる。
【0062】
[中和工程]
中和工程S15は、抽出工程S14を経て得られる、スカンジウムを含む抽出残液に対して中和処理を施す工程である。このような中和処理を施すことによって、抽出残液に残留した不純物を沈澱物として除去することができ、スカンジウムを濃縮できる。
【0063】
このとき、本実施の形態に係る製造方法では、中和処理において、中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して処理することを特徴としている。このような方法によれば、抽出残液に含まれる不純物をより効果的に分離することができ、特にスカンジウムの製造方法においては不純物となるニッケルを効果的にかつ効率的に分離することができる。
【0064】
ここで、中和工程S15における中和処理としては、中和剤を用いた中和によるpH調整を2段階で行うことが好ましい。これにより、より一層に効率的に不純物を分離してスカンジウムを濃縮することができる。
【0065】
具体的に、中和工程S15としては、図1に示すように、抽出残液に中和剤及びジメチルグリオキシムを添加して中和処理を施すことで1次中和澱物と1次中和濾液とを得る第1中和工程S51と、1次中和濾液にさらに中和剤を添加して中和処理を施すことで2次中和澱物である水酸化スカンジウムと2次中和濾液とを得る第2中和工程S52と、第2中和工程S52で得られる水酸化スカンジウムを鉱酸に溶解させ溶解液を得る溶解工程(第2溶解工程)S53と、を有するものとすることができる。
【0066】
(第1中和工程)
具体的に、第1中和工程S51として、抽出工程S14を経て得られる、スカンジウムを含む抽出残液に対して水酸化ナトリウム等の中和剤を添加して溶液のpHが所定の範囲となるように調整するとともに、ジメチルグリオキシムを添加して沈澱物を生成させる1段目の中和を行う。
【0067】
この1段目の中和処理によってpH調整を行うことで、スカンジウムより塩基性が低い成分である鉄、クロム等の不純物元素の大部分が水酸化物の形態の沈澱物となる。一方、ニッケルはスカンジウムよりは塩基性の高いものの、水酸化ナトリウム等の中和剤によるpH調整では十分な沈澱物生成が生じない可能性がある。そこで、中和剤を添加するとともに、ジメチルグリオキシムを添加することによって、下記式[1]に示すようにジメチルグリオキシムとニッケルとのキレート反応により、ビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルの沈澱物を生じさせるようにする。
【0068】
Ni2++2dmgH → Ni(dmgH)↓+2H ・・・式[1]
(なお、式中の「dmgH」はジメチルグリオキシム(C)を意味する)
【0069】
このような中和処理により得られるスラリーを濾過することで、1次中和澱物と1次中和濾液とに分離される。なお、スカンジウムは、1次中和濾液中に濃縮される。
【0070】
第1中和工程S51における中和処理では、中和剤及びジメチルグリオキシムの添加により、溶液(抽出残液)のpHが、好ましくは3.8~5.5の範囲となるように調整する。また、より好ましくは、pHが4.5~5.3の範囲となるように調整する。中和処理対象である抽出残液のpHがこのような範囲となるように中和剤を添加することで、不純物である特にニッケルを分離除去して、スカンジウムをより効率的に1次中和濾液中に濃縮することができる。
【0071】
調整する溶液のpHに関して、上記の式[1]において右向きの反応を促進させるためには、中性領域に近いことが好ましい。このことから、pH3.8未満であると、ジメチルグリオキシムの酸解離がほとんどなく、ビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルの沈澱物が十分に生じない可能性がある。一方で、pHが5.5より大きくなると、水酸化スカンジウムの沈澱量が多くなるため、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離できない可能性がある。
【0072】
中和剤としては、抽出残液を所望とするpH範囲に調整できれば特に限定されず、例えば水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、その水酸化ナトリウム等の中和剤の濃度は、特に限定されず適宜設定すればよいが、例えば4mol/Lを超えるような高濃度の中和剤を添加すると、反応槽内でpHが局部的に上昇してスカンジウムの沈殿物が生じる可能性があり、この沈澱が残存することでスカンジウムのロスとなる。このことから、中和剤としては濃度4mol/L以下に希釈された溶液とすることが好ましく、これにより反応槽内の中和反応ができるだけ均一に生じるようにするとよい。
【0073】
また、ジメチルグリオキシムの添加量としては、特に限定されないが、中和処理対象の抽出残液に含まれるニッケル量に対して3当量~50当量に相当する量とすることが好ましく、4当量~40当量に相当する量とすることがより好ましく、10当量~35当量に相当する量とすることがさらに好ましい。このような割合でジメチルグリオキシムを添加することで、スカンジウム溶離液に含まれるニッケルをより効果的にスカンジウムから分離できる。
【0074】
ジメチルグリオキシムの添加量がニッケル量に対して3当量未満であると、ニッケルと反応するジメチルグリオキシムが不十分となり、十分にニッケルを除去できないことがある。なお、ジメチルグリオキシムの添加量の上限値については特に限定されないが、ニッケル量に対して50当量を超えてもニッケルを除去する効果はそれ以上向上せず、逆に経済性が損なわれる可能性があるため、50当量以下とすることが好ましい。
【0075】
なお、上述したように、中和処理により得られるスラリーを濾過することで1次中和澱物と1次中和濾液とに分離されるが、分離して回収した1次中和澱物であるビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルを酸溶解し、ニッケルとジメチルグリオキシムとに分離してそれぞれ回収するようにしてもよい。また、後述する第2中和工程S52での中和処理において、処理対象の1次中和濾液中にニッケルを添加することで、その濾液中に残存するジメチルグリオキシムをビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルとして沈澱させることができ、同様に酸溶解することでニッケルとジメチルグリオキシムを回収できる。
【0076】
(第2中和工程)
次に、第2中和工程S52として、1段目の中和により得られた1次中和濾液に対して、さらに水酸化ナトリウム等の中和剤を添加し、溶液のpHが所定の範囲となるように調整する2段目の中和を行う。
【0077】
この2段目の中和処理によって、1次中和濾液に含まれるスカンジウムを水酸化スカンジウムの沈澱物(2次中和澱物)として回収できるとともに、スカンジウムより塩基性が高い成分であるマンガンは沈澱物とならないため2次中和濾液に残留させることができる。そして、得られた中和スラリーを固液分離することで、2次中和澱物、すなわち不純物を分離したスカンジウムの水酸化物を回収することができる。
【0078】
第2中和工程S52における中和処理では、中和剤の添加により、1次中和濾液のpHが、好ましくは5.5~7.0の範囲、より好ましくは6.0~6.5の範囲となるように調整する。1次中和濾液のpHがこのような範囲となるように中和剤を添加することで、水酸化スカンジウムの沈澱物をより効率的に生成させることができる。
【0079】
中和剤としては、1次中和濾液を所望とするpH範囲に調整できれば特に限定されず、例えば水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、その水酸化ナトリウム等の中和剤の濃度は、特に限定されず適宜設定すればよいが、例えば4mol/Lを超えるような高濃度の中和剤を添加すると、反応槽内でpHが局部的に上昇して、不純物が共沈してしまう等の弊害が生じ、高純度なスカンジウムが得られない可能性がある。このため、中和剤としては、4mol/L以下に希釈された溶液とすることが好ましく、これにより中和反応を均一に生じさせるようにするとよい。一方、例えば水酸化ナトリウム溶液等の中和剤の濃度が低すぎると、添加に要する溶液量がその分だけ増加してしまい、取り扱う液量が増加し、結果として設備規模が大きくなりコスト増加の原因となるなど好ましくない。このため、中和剤としては、1mol/L以上の濃度のものを用いることが好ましい。
【0080】
なお、上述した1次中和澱物や2次中和澱物のように、水酸化ナトリウム等のアルカリの中和剤の添加を含む処理により得られた沈澱物は、濾過性が極めて悪いのが一般的である。そのため、中和に際しては、種晶を添加して濾過性を向上させるようにしてもよい。種晶は、中和処理前の溶液に対し約1g/L以上となる量で添加することが好ましい。
【0081】
(溶解工程(第2溶解工程))
溶解工程S53では、上述した第2中和工程S52における中和処理を経て回収された水酸化スカンジウムを主成分とする中和澱物(2次中和澱物)に対して鉱酸を添加することによって溶解し、再溶解液となる水酸化物溶解液を得る。なお、当該溶解工程S53については、上述した第1溶解工程S13に対して第2溶解工程S53として定義できる。
【0082】
中和澱物を溶解させるための溶液としては、上述したように鉱酸を用いることができ、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。その中でも、硫酸を用いることが好ましい。なお、硫酸溶液を用いた場合、その再溶解液は硫酸スカンジウム溶液となる。例えば硫酸溶液を用いる場合、その濃度としては特に限定されないが、工業的な反応速度を考慮すれば2N以上の濃度の硫酸溶液を用いることが好ましい。
【0083】
溶解時におけるpH条件としては、特に限定されず、例えば0~2程度の範囲とすることができ、好ましくは0.8~1.5の範囲、より好ましくは1.0程度とする。溶解時においてこのようなpH範囲に維持するように溶解することで、水酸化スカンジウムの溶解を効率的に行うことができ、未溶解によるスカンジウムの回収ロスを抑制できる。
【0084】
また、溶解時にける温度条件についても、特に限定されず、例えば20℃~80℃の範囲に調整して行うことができる。
【0085】
なお、第2溶解工程S53で得られる溶解液としては、例えば、スカンジウム濃度を50g/L程度にまで高めて任意の値に調整することができる。これにより、液量の削減や、延いては設備容量の減少を図ることができる。
【0086】
[再シュウ酸化工程]
再シュウ酸化工程S16は、中和後溶液としての第2溶解工程S53を経て得られる溶解液を用い、再度、シュウ酸化処理を施すことで、シュウ酸スカンジウムの結晶の再沈殿物を得る工程である。
【0087】
再シュウ酸化工程S16におけるシュウ酸化処理の方法としては、上述したシュウ酸化工程S11にて行った処理と同様にして行うことができる。再シュウ酸化工程S16では、溶解液に残存する、鉄やマンガン、ニッケル等のシュウ酸塩を形成しない元素を分離除去することができ、このシュウ酸化処理を経ることでさらに不純物を低減できる。
【0088】
ここで、再シュウ酸化工程S16におけるシュウ酸化処理では、溶解液の温度(液温)を20℃以上100℃未満の範囲に調整することが好ましい。溶解液の液温をこのような範囲に調整することで、より純度の高いシュウ酸スカンジウムを生成できる。
【0089】
[第2焼成工程]
第2焼成工程S17は、再シュウ酸化工程S16で得られたシュウ酸スカンジウムの再沈殿物を所定の温度で焼成する工程である。すなわち、第2焼成工程S17では、再シュウ酸化工程S16で得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を焼成する2回目の焼成処理を行い、この焼成処理により酸化スカンジウムを得る。
【0090】
第2焼成工程S17における焼成処理では、シュウ酸スカンジウムを全て酸化スカンジウムにするため、焼成温度の条件を800℃以上とすることが好ましい。高温条件で焼成することで、シュウ酸に由来する炭素(C)が残留することを防ぐことができる。
【0091】
そして、上述したように、易溶性のスカンジウム化合物を再溶解し、その再溶解液から抽出剤を用いた抽出処理や中和剤等を用いた中和処理によって不純物を除去し、そして、再度シュウ酸スカンジウムの結晶を生成させて焼成していることから、不純物品位を効果的に低減させた高純度な酸化スカンジウムを得ることができる。
【実施例
【0092】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0093】
[実施例1]
<スカンジウム含有溶液の生成>
(ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス)
オートクレーブを用いてニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出し、得られた浸出液に消石灰を添加して中和した。次いで、得られた中和後液に硫化剤を添加して硫化反応を生じさせ、ニッケルやコバルト等を硫化物として分離し、スカンジウムを含有する硫化後液を得た。
【0094】
(イオン交換処理、中和処理)
次に、得られた硫化後液に対してキレート樹脂を用いたイオン交換処理に付し、溶液中の不純物を分離するとともに、キレート樹脂から溶離したスカンジウムを含む溶離液(スカンジウム溶離液)を得た。その後、スカンジウム溶離液に対して中和剤を添加して、水酸化スカンジウムの沈殿物を生成させた。
【0095】
(溶媒抽出処理)
次に、水酸化スカンジウムの沈殿物に硫酸を添加して再度溶解して溶解液(スカンジウム溶解液)とし、このスカンジウム溶解液に対してアミン系抽出剤を用いた溶媒抽出処理に付し、抽出残液として硫酸スカンジウム溶液(スカンジウム含有溶液)を得た。
【0096】
<シュウ酸化工程>
得られた硫酸スカンジウム溶液(スカンジウム含有溶液)を、スカンジウム濃度が5g/L程度となるまで水を加えて希釈し、硫酸でpHが0になるように調整した。そして、調整後の溶液をシュウ酸化始液とし、合計65リットルを準備した。
【0097】
次に、始液中のスカンジウムに対して2.7当量のシュウ酸を反応させるため、シュウ酸を100g/Lの濃度で溶解した溶液を合計27リットル準備した。そして、そのシュウ酸溶液を反応容器に収容し、そのシュウ酸溶液の中に始液を270ml/minの流量で添加した。始液を全量添加した後、1時間かけて撹拌した。なお、反応温度を25℃とし、滞留時間を5時間、添加時間を4時間とする条件とした。下記表1に、シュウ酸化(1回目のシュウ酸化)の処理条件をまとめて示す。
【0098】
【表1】
【0099】
撹拌終了後、全量濾過を行ってシュウ酸スカンジウムの結晶を分離し、分離した結晶50gに対して純水1リットルを使用するレパルプ洗浄を3回繰り返した。
【0100】
<第1焼成工程>
次に、シュウ酸スカンジウム結晶から500gを分取し、これを炉に入れて400℃の温度で2時間かけて焼成し、約215gの焼成物を得た。下記表2に、焼成条件、焼成前の試料(シュウ酸スカンジウム)及び焼成後の試料(酸化スカンジウム)の重量、その重量から算出した減量率を示す。また、下記表3に、焼成して得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。下記表3に示すように、特に、ニッケル、鉄、トリウムが不純物として含まれていた。
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
<第1溶解工程>
次に、焼成温度400℃で焼成して得られた焼成物80gを採取し、それに純水を加えて混合しながら硫酸を添加してpHを1.0に調整した。この操作により、50g/Lのスカンジウム濃度の溶解液を得た。
【0104】
得られたスカンジウム溶解液について、溶液中のSO濃度が0.46g/Lとなるように純水で希釈した。なお、希釈後のスカンジウム濃度は13g/Lとなった。
【0105】
<抽出工程>
抽出剤としてPrimeneJM-T25mlに希釈剤であるスワゾール1800を475ml加えて調製した有機溶媒を準備した。そして、有機溶媒500mlと希釈後の溶解液500mlとを30分間混合して接触させた。この抽出処理を行うことにより、抽出処理前に溶液中に1.7mg/Lの割合で存在していた不純物のThが、抽出処理後に得られた抽出残液では0.1mg/L未満に低減していた。なお、得られた抽出残液中には、Niが4mg/L存在していた。
【0106】
<第1中和工程>
次に、抽出工程を経て得られた抽出残液490mlに、中和剤である4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液、及び、抽出残液に存在するニッケル量の10当量に相当するジメチルグリオキシム78mgを添加し、溶液のpHが5.0となるように調整する1段目の中和処理を行った。この中和処理により、ビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルの沈殿物(1次中和澱物)が生じた。中和処理後、固液分離を行うことにより、530mlの1次中和濾液を得た。
【0107】
<第2中和工程>
次に、第1中和工程を経て得られた1次中和濾液530mlに、中和剤である4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を添加し、溶液のpHが6.0となるように調整する2段目の中和処理を行った。この中和処理により、水酸化スカンジウムの沈澱物(2次中和澱物)が生成した。中和処理後、固液分離を行うことにより、その沈殿物を回収した。
【0108】
<第2溶解工程>
次に、第2中和工程を経て得られた水酸化物98g(水分率約90%)を採取し、それに純水を加えて混合しながら硫酸を添加して溶解し、pHを1.0に調整した。この操作により、スカンジウム濃度が10g/Lである溶解液を得た。
【0109】
<再シュウ酸化工程>
次に、第2溶解工程を経て得られた溶解液475mlに、シュウ酸濃度が100g/Lの溶液(シュウ酸溶液)385mlを添加し、1時間混合してシュウ酸化処理を行った。なお、溶解液の温度(反応温度)を25℃とし、滞留時間を5時間、添加時間を4時間とする条件とした。
【0110】
撹拌終了後、全量濾過を行ってシュウ酸スカンジウムの結晶を分離し、分離した結晶13gに対して純水100mlを使用するレパルプ洗浄を3回繰り返した。
【0111】
<第2焼成工程>
次に、洗浄後のシュウ酸スカンジウムの結晶を炉に入れて2回目の焼成を、焼成温度900℃で2時間かけて行い、酸化スカンジウムを生成させた。そして、炉から取り出した酸化スカンジウムを分析した。
【0112】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。
【0113】
[実施例2]
実施例2では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の5当量に相当する量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを製造した。
【0114】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。
【0115】
[実施例3]
実施例3では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の30当量に相当する量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを製造した。
【0116】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。
【0117】
[実施例4]
実施例4では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の30当量に相当する量とし、溶液のpHが4.2となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを生成した。
【0118】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。なお、ニッケルは4ppm検出された。
【0119】
[実施例5]
実施例5では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の30当量に相当する量とし、溶液のpHが4.5となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを生成した。
【0120】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。
【0121】
[実施例6]
実施例6では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の10当量に相当する量とし、溶液のpHが5.3となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを生成した。
【0122】
下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、不純物の含有量が低減された高純度の酸化スカンジウムを得ることができた。
【0123】
[比較例1]
比較例1では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の1当量に相当する量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で中和処理を行った。
【0124】
しかしながら、その中和処理では、ビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルの沈澱物は生成しなかった。
【0125】
その後、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを生成した。下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、酸化スカンジウム中にはニッケルが18ppm含まれていた。
【0126】
[比較例2]
比較例2では、第1中和工程において、ジメチルグリオキシムの添加量を、抽出残液に存在するニッケル量の30当量に相当する量とし、溶液のpHが3.5となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で中和処理を行った。
【0127】
しかしながら、その中和処理では、ビス(ジメチルグリオキシマト)ニッケルの沈澱物は生成しなかった。
【0128】
その後、実施例1と同様の方法で酸化スカンジウムを生成した。下記表4に、得られた酸化スカンジウムの分析結果を示す。表4に示されるように、酸化スカンジウム中にはニッケルが18ppm含まれていた。
【0129】
【表4】
図1