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  • 特許-パラアルドールの製造方法 図1
  • 特許-パラアルドールの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】パラアルドールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/06 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
C07D319/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019222139
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021091625
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
(72)【発明者】
【氏名】井上 玄
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-339256(JP,A)
【文献】特開昭62-212384(JP,A)
【文献】特開平07-010789(JP,A)
【文献】特開平06-329664(JP,A)
【文献】特開昭62-246529(JP,A)
【文献】国際公開第2001/056963(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108383684(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドキサンを主成分とする水分濃度1質量%以下の反応原料液を、反応圧力-40~-90kPaG(ゲージ圧)にて、アセトアルデヒドを留出させつつ、熱分解及び縮合させることを特徴とするパラアルドールの製造方法。
【請求項2】
前記反応原料液中、主成分のアルドキサンの含有量が50~90質量%である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記化学式Iで示されるパラアルドール(2-(2-ヒドロキシプロピル)-4-メチル-1,3-ジオキサン-6-オールの慣用名)の製造方法に関する。
【化1】
【背景技術】
【0002】
アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類(アセトアルドール、及びアルドキサン)は、様々な化学製品の中間体となることが知られている。例えば、アセトアルドール類は熱分解によりパラアルドールに変換され、更にパラアルドールを水添することで、1,3-ブタンジオールが製造される。1,3-ブタンジオールは、沸点208℃の無色透明で無臭の液体で、化粧品、吸湿剤、高沸点溶剤、及び不凍液の素材として需要があることに加えて、1,3-ブタンジオールの脱水反応により1,3-ブタジエンが得られることが知られている。
【0003】
1,3-ブタジエンは、従来、ナフサを原料とするスチームクラッキングを用いたエチレン及びプロピレン製造時の副生物であるC4留分に含まれており、必要に応じて抽出等の処理を行った後、合成ゴムの原料として使用されている。1,3-ブタジエンから製造される合成ゴムの1つであるS-SBRは、低燃費タイヤのトレッド部に使われることから、その需要が拡大基調にあり、それに伴い、1,3-ブタジエンの需要が大きく伸びている。
【0004】
一方、近年利用が拡大しているシェールガスを原料とするスチームクラッカーにおけるC4留分の副生割合は、従来のナフサを原料とするスチームクラッカーの数パーセントに過ぎない。近年、シェールガスの生産量が急拡大し、シェールガスを原料とするスチームクラッカーの稼働率が上がり、ナフサを原料とするスチームクラッカーの稼働率が低下している。そのため、ナフサクラッカーから副生するC4留分、すなわち1,3-ブタジエンが需要に対して不足する傾向が顕著となっている。
【0005】
このような状況下、スチームクラッキングの副生物としてではなく、C4留分、特に、1,3-ブタジエンを目的生産物として製造する工業的なプロセスの重要性が増している。1,3-ブタジエンを目的生産物として得るための工業的な製造ルートとして、前述のアセトアルデヒドを原料として出発し、アセトアルドール類、パラアルドール、1,3-ブタンジオールを経由し、1,3-ブタンジオールの脱水反応により1,3-ブタジエンを製造する方法の重要性は高く、その中間段階の反応である、アセトアルドール類からパラアルドールを製造する工程における高効率なプロセスが特に必要とされている。
【0006】
【化2】
【化3】
【化4】
【0007】
パラアルドールの製造方法としては、アセトアルデヒドの縮合により得られたアセトアルドール類を、槽型反応器又は連続フラッシュ蒸発装置を用いてアセトアルデヒドを留出させつつ熱分解し、縮合させることにより、パラアルドールを主成分とする反応液を得る方法が知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-212384号公報
【文献】特開平6-329664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の方法では、パラアルドールの収率を高めるためにアセトアルドール類の反応器中の滞留時間を長くすると、脱水反応を介してクロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生物が多く生成する。
【0010】
本発明は、アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類から、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生を抑制しつつ、パラアルドールを高い選択率で製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、反応圧力を低下させることによりアルドキサンの分解が促進可能であるが、製造プロセスにおいては気化した水分が留出冷却器にて凍結するため、反応圧力を下げることができないという問題に注目した。このような状況に鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、水分濃度を1質量%以下にまで低下させたアルドキサンを含む原料を用いて低圧力下にて熱分解及び縮合させることにより、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生を抑制して、高い選択率でパラアルドールが製造できることを見出して、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の[1]から[2]を包含する。
[1]
アルドキサンを主成分とする水分濃度1質量%以下の反応原料液を、反応圧力-40~-90kPaG(ゲージ圧)にて、アセトアルデヒドを留出させつつ、熱分解及び縮合させることを特徴とするパラアルドールの製造方法。
[2]
前記反応原料液中、主成分のアルドキサンの含有量が50~90質量%である[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類から、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生を抑制しつつ、パラアルドールを高い選択率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】パラアルドールの製造方法に使用されるCSTR(連続槽型反応器)型反応装置の模式図である。
図2】実施例及び比較例のアルドキサン転化率とパラアルドール選択率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0016】
一実施態様のパラアルドールの製造方法は、アルドキサンを主成分とする水分濃度1質量%以下の反応原料液を、反応圧力-40~-90kPaG(ゲージ圧)にて、アセトアルデヒドを留出させつつ、熱分解及び縮合させることを特徴とする。
【0017】
アルドキサンを反応原料として熱分解及び縮合を行う従来の方法では、通常、水分濃度が比較的高い、例えば10~25質量%である反応原料液を用いて反応が行われていた。そのため、従来の方法では、水分の触媒作用により、反応中間体であるアセトアルドールがクロトンアルデヒド又はビニルクロトンアルデヒドに変換される副反応が促進されるおそれがあった。
【0018】
反応圧力を低下させることによりアルドキサンの熱分解速度を上昇させることができることが知られているが、低圧力下で反応を行うと、反応原料液由来のアセトアルデヒド及び反応生成物であるアセトアルデヒドの気化物を捕集するための凝縮器の温度を0℃以下、たとえばマイナス70℃に設定する必要がある。しかし、そのような温度条件を設定すると、アセトアルデヒドの気化物に随伴する水分が凝縮器にて凍結してしまい、結果として反応圧力を低下させることができなくなる。
【0019】
本実施態様のポイントは、水分濃度が1質量%以下である、アルドキサンを主成分として含む反応原料液を用いることにより、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの生成を抑制し、反応圧力を低下させることにより分解速度を促進しても、高い選択率でパラアルドールを製造できるところにある。
【0020】
図1は、パラアルドールの製造方法に使用されるCSTR(連続槽型反応器)型反応装置の模式図である。1が反応原料液、2が反応器、3が凝縮器、4が反応系を減圧する真空ポンプ、5が反応液を抜き出す送液ポンプ、6が反応系の気相を冷却凝縮させて得られる留出液、7が反応液(液相)である。
【0021】
反応原料液1は、真空ポンプ4より減圧されている反応器2に供給され、反応器2の内部にてアルドキサンが熱分解及び縮合されることにより、パラアルドールを生成物として含む反応液7が得られる。反応により副生したアセトアルデヒドの気化物は凝縮器3で冷却され、留出液6として留去される。
【0022】
従来法の反応原料液は、通常、アルドキサンを50~80質量%、アセトアルデヒドを10~30質量%、水分を10~25質量%、クロトンアルデヒドを0~2質量%、その他の化合物を0~2質量%含む。
【0023】
一実施態様の反応原料液1は、主成分のアルドキサンを50~90質量%含み、水分は1質量%以下である。反応原料液1の水分濃度は、0.8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。水分濃度が1質量%以下の反応原料液1は、アセトアルデヒドからアルドキサンを合成する際に触媒として用いる水酸化ナトリウム水溶液など、水分を含む化合物の使用量を調整することにより得ることができる。反応原料液1は、アセトアルデヒドを10~30質量%、クロトンアルデヒドを0~2質量%、その他の化合物を0~2質量%含んでもよい。
【0024】
反応器2内の反応圧力は、通常、-40~-90kPaG(ゲージ圧)である。反応圧力は、好ましくは-60~-90kPaGである。
【0025】
反応原料液の反応器2での滞留時間は、好ましくは5分~2時間、より好ましくは30分~1時間である。
【0026】
反応器2の形式は、図1に示すような槽型反応器、又は連続フラッシュ蒸発装置であることが好ましい。
【0027】
反応温度は、好ましくは60~120℃、より好ましくは80~100℃である。
【0028】
従来法の反応液は、通常、アルドキサンを1~45質量%、アセトアルデヒドを0.1~2質量%、水分を0.1~20質量%、クロトンアルデヒドを0.1~10質量%、その他の化合物を0~5質量%含み、パラアルドールの収率は反応原料液基準で50~98%である。
【0029】
一実施態様では、パラアルドールの選択率は、96%以上、98%以上、又は99%以上である。パラアルドールの選択率は式:
(パラアルドール選択率)=(生成したパラアルドールの質量)×(2/3)/(消費されたアルドキサンの質量)
を用いて計算される。
【0030】
一実施態様では、反応液7中の水分濃度を1質量%以下、0.8質量%以下、又は0.7質量%以下に抑えることができる。
【0031】
一実施態様では、反応液7中のクロトンアルデヒドの濃度を2質量%以下、1.5質量%以下、又は1質量%以下に抑えることができる。
【0032】
従来法の留出液は、通常、アセトアルデヒドを70~99質量%、水分を2~10質量%、クロトンアルデヒドを0.1~10質量%含む。
【0033】
一実施態様では、留出液7中の水分濃度は1質量%以下であり、これにより凝縮器3内部での水分の凍結を抑制することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
各組成成分の測定において、水分についてはカールフィシャー水分計、その他の成分についてはガスクロマトグラフィー分析装置及びNMR分光器を用いて同定及び定量を行った。分析条件は次のとおりである。
【0036】
(水分分析条件)
カールフィッシャー水分計:KF-200(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)
滴定剤:アクアミクロン滴定剤 SS-Z 3mg
脱水溶剤:アミクロン脱水溶剤 KTX
【0037】
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
GC装置:Agilent 6850(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム:Agilent DB-WAX 0.32mm 30m
インジェクション温度:200℃
カラム温度:40℃から200℃に昇温
ディテクター温度:200℃
キャリアーガス:He
検出器:FID
【0038】
(NMR分析条件)
核磁気共鳴装置:JNM-ECS400(日本電子株式会社製)
【0039】
各成分の転化率・選択率は以下の方法により計算した。
(アルドキサン転化率)=[1-(抜出アルドキサン流量)/(フィードアルドキサン流量)
(パラアルドール選択率)=(抜出パラアルドール流量)×(2/3)/[(フィードアルドキサン流量)-(抜出アルドキサン流量)]
(クロトンアルデヒド選択率)=(抜出クロトンアルデヒド流量)×(70/88)/[(フィードアルドキサン流量)-(抜出アルドキサン流量)]
(パラアルドール収率)=(アルドキサン転化率)×(パラアルドール選択率)
【0040】
[実施例1]
図1に示すCSTR(連続槽型反応器)型反応装置を用いてパラアルドールの製造を行った。
【0041】
真空ポンプにより-70kPaGまで減圧した撹拌装置付き100mL丸底フラスコに、予め調製した反応原料液1(組成は、アセトアルデヒド15.1質量%、アルドキサン82.9質量%、パラアルドール0.9質量%、水分0.5質量%、クロトンアルデヒド0.2質量%、その他の化合物0.4質量%)を、液面が25mLで一定となるように300g/hで給液し、オイルバス内で80℃まで加温して、アルドキサンの熱分解及び縮合を滞留時間5分で行った。得られた反応液7の組成は、アセトアルデヒド1.2質量%、アルドキサン72.6質量%、パラアルドール24.0質量%、水分0.7質量%、クロトンアルデヒド0.2質量%、その他の化合物1.2質量%であった(run1)。同様の実験を、反応原料液の給液速度を下げることにより、滞留時間を10分、15分又は20分に変化させて3回行った(run2~4)。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
反応圧力を大気圧(0kPaG)とし、反応原料液の組成を、アセトアルデヒド12.4質量%、アルドキサン62.3質量%、パラアルドール0.2質量%、水分24.0質量%、クロトンアルデヒド0.2質量%、その他の化合物0.9質量%とした以外は実施例1と同様の反応を行った。得られた反応液の組成は、アセトアルデヒド1.1質量%、アルドキサン60.7質量%、パラアルドール7.9質量%、水分28.2質量%、クロトンアルデヒド1.0質量%、その他の化合物1.0質量%であった(run5)。同様の実験を、滞留時間を10分、15分又は30分に変化させて3回行った(run6~8)。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例2]
反応圧力を大気圧(0kPaG)とした以外は実施例1と同様の反応を行った。得られた反応液の組成は、アセトアルデヒド0.9質量%、アルドキサン86.2質量%、パラアルドール10.1質量%、水分0.6質量%、クロトンアルデヒド0.5質量%、その他の化合物0.8質量%であった(run9)。同様の実験を、滞留時間を10分、15分又は20分に変化させて3回行った(run10~12)。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1と比較例1を比較すると、実施例1ではクロトンアルデヒドの選択率を大幅に低下させ、かつパラアルドールの選択率を向上させることができる。実施例1と比較例2を比較すると、パラアルドールの選択率については実施例1がやや高い程度であるが、実施例1では副生物であるクロトンアルデヒドの生成が抑制されている。
【0046】
アルドキサンの転化率を横軸、パラアルドールの選択率を縦軸にとって、実施例1、比較例1、及び比較例2で得られた数値をプロットしたグラフを図2に示す。
【0047】
表1及び図2から、アルドキサンを主成分とする水分濃度1質量%以下の反応原料液を用いて、反応圧力-40~-90kPaG(ゲージ圧)の減圧下で、アセトアルデヒドを留出させつつ、熱分解及び縮合させることにより、クロトンアルデヒドの選択率を約1%以下でかつ高い選択率でパラアルドールを製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、パラアルドールの効率的な製造に利用できため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 反応原料液
2 反応器
3 凝縮器
4 真空ポンプ
5 送液ポンプ
6 留出液
7 反応液
図1
図2