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特許7380179多層SOIウェーハ及びその製造方法並びにX線検出センサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】多層SOIウェーハ及びその製造方法並びにX線検出センサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20231108BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 23/52 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20231108BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20231108BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 31/08 20060101ALI20231108BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20231108BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
H01L27/12 C
H01L29/78 613Z
C30B29/06 B
C30B33/06
H01L31/00 A
H01L31/10 A
G01T1/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019229696
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021100013
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥泰
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153797(JP,A)
【文献】特表2014-509087(JP,A)
【文献】特開2016-164951(JP,A)
【文献】特開平10-189404(JP,A)
【文献】特開2009-272619(JP,A)
【文献】特開2014-204009(JP,A)
【文献】特開平08-130315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 23/52
H01L 29/786
C30B 29/06
C30B 33/06
H01L 31/08
H01L 31/10
G01T 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表面に設けられた第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層の表面に設けられた多結晶シリコン層と、
前記多結晶シリコン層の表面に設けられた第2の絶縁層と、
前記第2の絶縁層の表面に設けられた単結晶シリコンからなる活性層と、を備え、
前記第1の絶縁層の厚みは100nm以上であり、
前記第2の絶縁層は酸化シリコンであり、
前記第2の絶縁層の厚みは500nm以上であり、
前記シリコンウェーハの導電型がp型で抵抗率が100Ω・cm以上であり、かつ、厚さが100μm以上であって、酸素濃度が5.0×1017atoms/cm以下であることを特徴とする多層SOIウェーハ。
【請求項2】
前記多結晶シリコン層の抵抗率は0.0001Ωcm以上0.001Ωcm以下である、請求項1に記載の多層SOIウェーハ。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の多層SOIウェーハの製造方法であって、
シリコンウェーハの表面に第1の絶縁層を形成する第1の絶縁層形成工程と、
前記第1の絶縁層の表面に多結晶シリコン層を形成する多結晶シリコン層形成工程と、
前記多結晶シリコン層の表面に第2の絶縁層を形成する第2の絶縁層形成工程と、
前記第2の絶縁層の表面と、活性層用シリコンウェーハの表面に、真空常温下で活性化処理を施して前記両方の表面を活性化面とする活性化処理工程と、
前記活性化処理工程に引き続き、前記真空常温下で前記両方の活性化面を接触させることで、前記両方の活性化面同士を接合する接合工程と、
前記接合工程の後、前記活性層用シリコンウェーハを薄膜化して活性層を得る薄膜化工程と、
を含むことを特徴とする多層SOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の多層SOIウェーハの製造方法であって、
シリコンウェーハの表面に第1の絶縁層を形成する第1の絶縁層形成工程と、
活性層用シリコンウェーハの表面に第2の絶縁層を形成する第2の絶縁層形成工程と、
前記第1の絶縁層の表面に多結晶シリコン層を形成する多結晶シリコン層形成工程と、
前記多結晶シリコン層の表面と、前記第2の絶縁層の表面に、真空常温下で活性化処理を施して前記両方の表面を活性化面とする活性化処理工程と、
前記活性化処理工程に引き続き、前記真空常温下で前記両方の活性化面を接触させることで、前記両方の活性化面同士を接合する接合工程と、
前記接合工程の後、前記活性層用シリコンウェーハを薄膜化して活性層を得る薄膜化工程と、
を含むことを特徴とする多層SOIウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記請求項1又は2に記載の多層SOIウェーハを用いて形成されたX線検出センサであって、
前記シリコンウェーハにX線検出部が設けられ、
前記多結晶シリコン層に電気的に接続して接地電位が供給される接地電極部が設けられ、
前記活性層にMOS型トランジスタ部が設けられることを特徴とするX線検出センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層SOIウェーハ及びその製造方法並びにX線検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は手荷物検査、食品異物検査、医療、天体観測などの種々の分野で利用されている。感光性フィルムを用いてX線を検出することがかつては一般的であったものの、その利用拡大に伴い、X線を高速かつ高感度に測定するために、シリコンなどの半導体ウェーハを用いて作製した光電変換素子から構成されるX線検出センサが近年では着目されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されるX線検出センサでは、支持基板を兼ねるシリコン単結晶からなるn型半導体層上に、シリコン酸化膜からなる埋め込み酸化層及びp型半導体層が積層されたSOI(Silicon on Insulator)ウェーハが利用されている。例えば、このSOIウェーハを用いて作製されたX線検出センサでは、支持基板がX線センサ部(X線受光部)に使用される。これは、シリコン単結晶によるX線の吸収率を考慮すると、X線センサ部には十分な厚さが必要となるからである。また、p型半導体層にはX線検出センサ部から伝達される信号を処理するCMOS回路などのデバイスが形成される。
【0004】
なお、SOIウェーハでは、一般的にはBOX層が1層設けられる。しかしながら、BOX層を複数設け、これらBOX層間に単結晶シリコンからなるSOI層を設けた多層SOIウェーハも知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/111754号
【文献】特開2007-109961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SOIウェーハを用いて半導体デバイスを作製する場合、活性層をプラズマエッチングなどするとBOX層が帯電(チャージアップ)してしまうことによりゲート膜等のデバイス素子構造への影響が危惧される。また、X線検出センサの用途にSOIウェーハを用いると高エネルギーであるX線の照射を受けるため、X線検出センサの使用中においてもBOX層のチャージアップが危惧される。
【0007】
そこで本発明者はBOX層のチャージアップを防止するため、特許文献2等により知られる多層SOIウェーハを用いつつ、BOX層間の単結晶シリコン層に接地電位を供給することを検討した。しかしながら、単結晶シリコン層では導電性を高めるのに限界があり、十分にチャージアップを防止することはできない。そこで本発明は、X線検出センサに供して好適な、多層SOIウェーハ及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、この多層SOIウェーハを用いたX線検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し、多層SOIウェーハにおける絶縁層間のSOI層として多結晶シリコン層を用いることを着想し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0009】
(1)シリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表面に設けられた第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層の表面に設けられた多結晶シリコン層と、
前記多結晶シリコン層の表面に設けられた第2の絶縁層と、
前記第2の絶縁層の表面に設けられた単結晶シリコンからなる活性層と、
を備えることを特徴とする多層SOIウェーハ。
【0010】
(2)前記シリコンウェーハの導電型がp型で抵抗率が100Ω・cm以上であり、かつ、厚さが100μm以上であって、酸素濃度が5.0×1017atoms/cm以下である、前記(1)に記載の多層SOIウェーハ。
【0011】
(3)シリコンウェーハの表面に第1の絶縁層を形成する第1の絶縁層形成工程と、
前記第1の絶縁層の表面に多結晶シリコン層を形成する多結晶シリコン層形成工程と、
前記多結晶シリコン層の表面に第2の絶縁層を形成する第2の絶縁層形成工程と、
前記第2の絶縁層の表面と、活性層用シリコンウェーハの表面に、真空常温下で活性化処理を施して前記両方の表面を活性化面とする活性化処理工程と、
前記活性化処理工程に引き続き、前記真空常温下で前記両方の活性化面を接触させることで、前記両方の活性化面同士を接合する接合工程と、
前記接合工程の後、前記活性層用シリコンウェーハを薄膜化して活性層を得る薄膜化工程と、
を含むことを特徴とする多層SOIウェーハの製造方法。
【0012】
(4)シリコンウェーハの表面に第1の絶縁層を形成する第1の絶縁層形成工程と、
活性層用シリコンウェーハの表面に第2の絶縁層を形成する第2の絶縁層形成工程と、
前記第1の絶縁層の表面に多結晶シリコン層を形成する多結晶シリコン層形成工程と、
前記多結晶シリコン層の表面と、前記第2の絶縁層の表面に、真空常温下で活性化処理を施して前記両方の表面を活性化面とする活性化処理工程と、
前記活性化処理工程に引き続き、前記真空常温下で前記両方の活性化面を接触させることで、前記両方の活性化面同士を接合する接合工程と、
前記接合工程の後、前記活性層用シリコンウェーハを薄膜化して活性層を得る薄膜化工程と、
を含むことを特徴とする多層SOIウェーハの製造方法。
【0013】
(5)前記(1)又は(2)に記載の多層SOIウェーハを用いて形成されたX線検出センサであって、
前記シリコンウェーハにX線検出部が設けられ、
前記多結晶シリコン層に電気的に接続して接地電位が供給される接地電極部が設けられ、
前記活性層にMOS型トランジスタ部が設けられることを特徴とするX線検出センサ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、X線検出センサに供して好適な多層SOIウェーハ及びその製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、この多層SOIウェーハを用いたX線検出センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による多層SOIウェーハを説明する模式断面図である。
図2-1】本発明による多層SOIウェーハの製造方法の第1実施形態の説明において、第1の絶縁層形成工程から活性化処理工程までを示した模式断面図である。
図2-2】本発明による多層SOIウェーハの製造方法の第1実施形態の説明において、接合工程から薄膜化工程までを示した模式断面図である。
図3-1】本発明による多層SOIウェーハの製造方法の第2実施形態の説明において、第1の絶縁層形成工程から活性化処理工程までを示した模式断面図である。
図3-2】本発明による多層SOIウェーハの製造方法の第2実施形態の説明において、接合工程から薄膜化工程までを示した模式断面図である。
図4】本発明による多層SOIウェーハの製造方法の一実施形態において、真空常温接合を行う際に用いる装置の模式断面図である。
図5】本発明の一実施形態によるX線検出センサを説明する模式断面図である。
図6】実施例において多層SOIウェーハに形成した円柱状電極を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として数字下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。また、図1図5では図面の簡略化のため、各構成の厚さについて、実際の厚さの割合と異なり誇張して示す。なお、説明の便宜上、図2-1及び図2-2を併せて図2図3-1及び図3-2を併せて図3と称する。
【0017】
(多層SOIウェーハ)
図1を参照する。本発明の一実施形態に従う多層SOIウェーハ100は、シリコンウェーハ110と、シリコンウェーハ110の表面に設けられた第1の絶縁層120と、第1の絶縁層120の表面に設けられた多結晶シリコン層130と、多結晶シリコン層130の表面に設けられた第2の絶縁層140と、第2の絶縁層140の表面に設けられた単結晶シリコンからなる活性層150と、を備える。以下、各構成の詳細を順次説明する。
【0018】
<シリコンウェーハ>
シリコンウェーハ110は、第1の絶縁層120を成膜するための支持基板であり、かつ、その上方の構成を支持する。シリコンウェーハ110は、チョクラルスキ法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。多層SOIウェーハ100を用いてX線検出センサを作製する場合、シリコンウェーハ110にセンサ部が形成されることになる。なお図示しないが、ゲッタリング能力を得るためにシリコンウェーハ110の裏面側(絶縁層を形成しない側)に多結晶シリコン層を形成(PBS)してもよい。
【0019】
<第1の絶縁層>
第1の絶縁層120はシリコンウェーハ110の表面に設けられ、酸化シリコンを用いることが一般的である。また、電気絶縁性が確保できれば酸化シリコンに限られず、ダイヤモンド(多結晶、単結晶)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC;Diamond Like Carbon)などを用いてもよい。
【0020】
<多結晶シリコン層>
多結晶シリコン層130は第1の絶縁層120の表面に設けられ、CVD法等により形成することができる。多結晶シリコンは粒界を含むため、この粒界で低抵抗化できて電流が流れ易くなる。そのため、多結晶シリコンは単結晶シリコンに比べて低抵抗である。多結晶シリコン層130は、抵抗率を0.0001Ω・cm以上0.001Ω・cm以下とすることが好ましい。導電型はp型でもn型でも、いずれでもよい。また、多結晶シリコンの結晶粒径を1μm以下とすることが好ましい。
【0021】
<第2の絶縁層>
第2の絶縁層140は多結晶シリコン層130の表面に設けられ、第1の絶縁層120と同様に酸化シリコンなどを用いることができる。第2の絶縁層140を構成する材料は第1の絶縁層120と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
<活性層>
活性層150は第2の絶縁層140の表面に設けられ、単結晶シリコンからなる。活性層150を、シリコンウェーハ110と同様にバルクのシリコンウェーハから得てもよいし、バルクのシリコンウェーハの表面に形成したシリコンエピタキシャル層から得てもよい。
【0023】
以上のとおり、本発明の一実施形態に従う多層SOIウェーハ100は、多結晶シリコン層130を備えるため、これを低抵抗の導電層として利用することができる。したがって、多層SOIウェーハ100を用いた半導体デバイスを形成するときに、多結晶シリコン層130に電気的に接続して接地電位を供給する配線部の形成に利用することができ、半導体デバイス作製時等において第1及び第2の絶縁層120、140がチャージアップすることを防止することができる。
【0024】
また、多層SOIウェーハ100では第1及び第2の絶縁層120、140のチャージアップを有効に防止できるため、この多層SOIウェーハ100を、X線検出センサの用途に供することが特に好ましい。この場合、シリコンウェーハ110にX線検出センサのセンサ部を設けることができる。なお、シリコンウェーハ110がp型の高抵抗基板(具体的には抵抗率が100Ω・cm以上)である場合、シリコン単結晶インゴットの育成時に必然的に混入する酸素の影響によって、センサ部及びMOS型トランジスタ部などのデバイス素子構造部を作製する際の熱処理に伴う抵抗変動が懸念される。そこで、シリコンウェーハ110の酸素濃度を5.0×1017atoms/cm以下に制限することが好ましく酸素濃度が3.0×1017atoms/cm以下であることが好ましく、2.0×1017atoms/cm以下であることがより好ましい。酸素濃度の下限は限定されないが、工業的生産性を考慮すると下限の一例は1.0×1015atoms/cmである。こうした酸素濃度の条件を満たすシリコンウェーハ110は、MCZ(Magnetic field applied Czochralski)法で育成された単結晶シリコンインゴットから得られるMCZウェーハであることが好ましい。酸素濃度に関して同様の理由により、シリコンウェーハ110は、FZ(Floating Zone)法で育成された単結晶シリコンインゴットから得られるFZウェーハであることも好ましい。なお、シリコンウェーハの酸素濃度はASTM F121-1979に準拠し、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectrometer)を用いて測定した値を採用する。
【0025】
さらに、多層SOIウェーハ100をX線検出センサのセンサ部に適用可能とするために、シリコンウェーハ110は、COPを含まないシリコンウェーハを採用することも好ましい。なお、本明細書における「COPを含まないシリコンウェーハ」とは、以下に説明する観察評価によってCOPが検出されないシリコンウェーハを意味する。すなわち、まず、CZ法により育成された単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハに対して、SC-1洗浄(すなわち、アンモニア水と過酸化水素水と超純水とを1:1:15で混合した混合液による洗浄)を行い、洗浄後のシリコンウェーハ表面を、表面欠陥検査装置としてKLA-Tenchor社製:Surfscan SP-2を用いて観察評価し、表面ピットと推定される輝点欠陥(LPD:Light Point Defect)を特定する。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行うものとする。こうして特定されたLPDに対して、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、COPか否かを評価する。なお、FZ法により育成された場合は、シリコンウェーハ110にCOPは形成されない。
【0026】
上述したとおり、多層SOIウェーハ100をX線検出センサの作製用途に用いることが特に好ましいものの、多結晶シリコン層130を低抵抗の導電層として利用するものであれば、その用途が制限されることはない。
【0027】
以下、本発明に適用して好適な多層SOIウェーハ100の具体的態様を説明する。
【0028】
シリコンウェーハ110の導電型は任意であり、p型にするためには例えばボロン(B)をドーパントに用いればよいし、n型にするためには例えばリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)等を用いればよい。また、X線検出センサのセンサ部に用いる場合、用途に応じてシリコンウェーハ110の厚さを研削及び研磨等により薄くしてもよい。その場合、シリコンウェーハ110の厚さは200μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。シリコンウェーハ110の厚さの上限は特に制限されないが、例えば直径300mmのウェーハであればその厚さ775μm±25μmが上限の一例となる。
【0029】
第1の絶縁層120及び第2の絶縁層140の膜厚は、絶縁性が確保される限りは特に制限されないが、多層SOIウェーハとしての耐圧性を確保するため100nm以上とすることが好ましく、500nm以上とすることが好ましい。膜厚の上限は特に制限されないが、工業的な生産性を考慮すれば膜厚の上限は50μm程度である。なお、両者の厚さは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
また、多結晶シリコン層130の厚さも特に制限されないが、例えば100nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0031】
活性層150の厚さは特に制限されず、作製するデバイスの用途に応じて適宜設定すればよく、例えば1μm以上10μm以下であればよい。また、活性層150の導電型は任意であり、抵抗率も特に制限されず例えば0.1Ω・cm以上10Ω・cm以下であればよい。これらは活性層150を得るための活性層用シリコンウェーハに応じて定まる。
【0032】
上述した多層SOIウェーハ100ではいわゆるBOX層と称される絶縁層が2層設けられているが、さらなる絶縁層と、単結晶シリコン層又は多結晶シリコン層が設けられていても構わない。
【0033】
(多層SOIウェーハの製造方法)
次に、これまで説明してきた本発明に従う多層SOIウェーハ100を製造する方法の実施形態について、図2図4を参照して、本発明による多層SOIウェーハ100を製造するための実施形態を説明する。先に述べたとおり、同一の構成要素には原則として数字下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。図2を参照する製造方法の第1実施形態では、支持基板となるシリコンウェーハ210の上に設けられた第2の絶縁層240と、活性層用シリコンウェーハ255とを真空常温下で接合する。図3を参照する製造方法の第2実施形態は、支持基板となるシリコンウェーハ310の上に設けられた多結晶シリコン層330と、活性層用シリコンウェーハ355の表面に形成された第2の絶縁層340とを真空常温下で接合する。
【0034】
(第1実施形態)
図2を参照する。多層SOIウェーハ200の製造方法の実施形態は、第1の絶縁層形成工程と、多結晶シリコン層形成工程と、第2の絶縁層形成工程と、活性化処理工程と、接合工程と、薄膜化工程と、を少なくとも含む。これら、各工程を少なくとも行うことにより、多層SOIウェーハ200を得ることができる。以下では、活性化処理工程及び接合工程による接合手法を「真空常温接合法」と称し、第2実施形態においても同様である。以下、第1実施形態における各工程の詳細を順次説明する。
【0035】
<第1の絶縁層の形成工程>
この第1実施形態において、第1の絶縁層形成工程では、シリコンウェーハ210の表面に第1の絶縁層220を形成する。酸化シリコンからなる第1の絶縁層220を形成する場合、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255のそれぞれに対して熱酸化法、プラズマCVD法等の一般的な手法を適用すればよい。
【0036】
<多結晶シリコン層の形成工程>
第1の絶縁層220を形成した後、多結晶シリコン層形成工程では、第1の絶縁層220の表面に多結晶シリコン層230を形成する。例えばキャリアガスとしての水素ガスと、シリコンソースとしてのトリクロロシランを導入することにより、多結晶シリコン層230を第1の絶縁層220上に堆積して成膜することができる。なお、多結晶シリコン層230を形成するときには、成膜温度を900℃以下にすることが好ましい。
【0037】
次に、第2の絶縁層形成工程では、多結晶シリコン層230の表面に第2の絶縁層240を形成する。第2の絶縁層240の成膜手法は、上述した第1の絶縁層220の形成手法と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
<活性化処理工程>
次に、活性化処理工程では、第2の絶縁層240の表面及び活性層用シリコンウェーハ255の表面に、真空常温下で活性化処理を施して両方の表面を活性化面240A、255Aとする。この真空常温下での活性化処理は、例えばイオンビーム又は中性原子ビームを各表面に照射すればよい。ビーム照射に伴う活性化作用により、第2の絶縁層240の表面と、活性層用シリコンウェーハ255の表面のそれぞれが活性化面240A、255Aとなる。これらの活性化面240A、255Aにはシリコン原子同士が結合するためのダングリングボンド(結合の手)が現れる。
【0039】
活性化処理の手法としては、プラズマ雰囲気でイオン化した元素を基板表面へ加速させる方法と、イオンビーム装置から加速したイオン化した元素を基板表面へ加速させる方法が挙げられる。この方法を実現する装置の一形態を、図4を参照して説明する。真空常温接合装置70は、プラズマチャンバ71と、ガス導入口72と、真空ポンプ73と、パルス電圧印加装置74と、ウェーハ固定台75A、75Bと、を有する。なお、図4の真空常温接合装置70では各ウェーハを鉛直方向に支持しているが、各ウェーハを水平方向に支持することも好ましい。この場合、活性化のためのイオンビームスパッタリングにより活性化用ウェーハ255由来のシリコン原子が、対向配置された第2の絶縁層240に付着して、シリコンダングリングボンドを形成しやすくなる点で有利である。もっとも、酸化シリコンであっても、接合に必要な程度のシリコンダングリングボンドを十分に形成することは可能である。
【0040】
まず、プラズマチャンバ71内のウェーハ固定台75A、75Bに、第2の絶縁層240が形成されたシリコンウェーハ210と、活性層用シリコンウェーハ255とをそれぞれ載置して固定する。次に、真空ポンプ73によりプラズマチャンバ71内を減圧し、ついで、ガス導入口72からプラズマチャンバ71内に原料ガスを導入する。続いて、パルス電圧印加装置74によりウェーハ固定台75A、75B(並びに、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255)に負電圧をパルス状に印加する。これにより、原料ガスのプラズマを生成するとともに、生成したプラズマに含まれる原料ガスのイオンをシリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255のそれぞれに向けて加速して、各表面にイオンを照射することができる。照射する元素は、Ar、Ne、Xe、H、HeおよびSiから選択される少なくとも一種とすることが好ましい。
【0041】
<<活性化処理条件>>
以下では、チャンバ圧力、パルス電圧及び基板温度の具体的条件についてそれぞれ詳細に説明するが、これらは一例にすぎない。
【0042】
プラズマチャンバ71内のチャンバ圧力は5.0×10-5Pa以下とすることが好ましい。活性化対象の表面へスパッタされた元素が再付着し、ダングリングボンドの形成率の低下を防止することができる。
【0043】
シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255に印加するパルス電圧は、それぞれの被照射面に対する照射元素の加速エネルギーが100eV以上10keV以下となるように設定すればよい。加速エネルギーが100eV以上であれば、照射した元素が基板表面へ堆積するのを抑制することができ、効率よく基板表面にダングリングボンドを形成することができる。加速エネルギーが10keV以下であれば、照射した元素が基板内部に注入されるのを防ぐことができるので、効率よく基板表面にダングリングボンドを形成することができる。
【0044】
パルス電圧の周波数は、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255のそれぞれの被照射面にイオンが照射される回数を決定する。パルス電圧の周波数は、10Hz以上10kHz以下とすることが好ましい。10Hz以上であれば、イオン照射ばらつきを吸収することができるので、イオン照射量が安定する。10kHz以下であれば、グロー放電によるプラズマ形成が安定する。
【0045】
パルス電圧のパルス幅は、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255のそれぞれの被照射面にイオンが照射される時間を決定する。パルス幅は、1μ秒以上10m秒以下とすることが好ましい。1μ秒以上であれば、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255にイオンを安定して照射することができる。10m秒以下であれば、グロー放電によるプラズマ形成が安定する。
【0046】
この活性化処理工程において、シリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255は加熱されず、その温度は常温(通常、30℃~90℃)となり、続く接合工程においても常温が維持される。
【0047】
<接合工程>
上述した活性化処理工程に引き続き、真空常温下で両方の活性化面240A、255Aを接触させる。こうした接触により、上記両方の活性化面240A、255Aに対して瞬時に接合力が働き、上記両方の活性化面240A、255Aを貼合せ面としてシリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255が強固に接合されて一体化する。このように、上述した活性化処理工程及び接合工程を含む真空常温接合法では、両ウェーハの接合が常温下で瞬時かつ強固に行われる。
【0048】
<活性層用シリコンウェーハの薄膜化工程>
上記両方の活性化面240A、255Aを貼合せ面としてシリコンウェーハ210及び活性層用シリコンウェーハ255を接合した後、薄膜化工程では、活性層用シリコンウェーハ255を薄膜化して活性層250を得る。こうして、多層SOIウェーハ200を得ることができる。なお、薄膜化工程において公知または任意の化学エッチング、研削及び研磨法を好適に用いることができ、具体的には平面研削および鏡面研磨法が挙げられる。また、接合工程前に活性層用シリコンウェーハ255に剥離目的で水素イオンなどを注入しておけば、本薄膜化工程において公知のスマートカット法を適用することもできる。
【0049】
こうして得られる多層SOIウェーハ200は、シリコンウェーハ210と、シリコンウェーハ210表面に設けられた第1の絶縁層220と、第1の絶縁層220表面に設けられた多結晶シリコン層230と、多結晶シリコン層230の表面に設けられた第2の絶縁層240と第2の絶縁層240の表面に設けられた活性層250と、を有する。
【0050】
なお、本実施形態において、真空常温接合に先立ち、活性化面240Aを形成するための第2の絶縁層240の表面を研磨しておくことも好ましい。
【0051】
(第2実施形態)
図3に戻り、第2実施形態による多層SOIウェーハ300の製造方法を説明する。第1実施形態では、多結晶シリコン層230の表面に形成した第2の絶縁層240と、活性層用シリコンウェーハ255との表面同士で真空常温接合を行う。これに対して、この第2実施形態では、多結晶シリコン層330と、活性層用シリコンウェーハ355の表面に形成した第2の絶縁層340との表面同士で真空常温接合を行う。その他の構成及び工程は、第1実施形態と同様である。すなわち、本実施形態による多層SOIウェーハ300の製造方法は、シリコンウェーハ310の表面に第1の絶縁層320を形成する第1の絶縁層形成工程と、活性層用シリコンウェーハ355の表面に第2の絶縁層340を形成する第2の絶縁層形成工程と、第1の絶縁層320の表面に多結晶シリコン層330を形成する多結晶シリコン層形成工程と、多結晶シリコン層330の表面と、第2の絶縁層340の表面に、真空常温下で活性化処理を施して両方の表面を活性化面330A、340Aとする活性化処理工程と、活性化処理工程に引き続き、真空常温下で両方の活性化面330A、340Aを接触させることで、両方の活性化面330A、340A同士を接合する接合工程と、接合工程の後、活性層用シリコンウェーハ355を薄膜化して活性層350を得る薄膜化工程と、を含む。上述のとおり、第1実施形態と同一の構成要素には原則として数字下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、活性層用シリコンウェーハ355の表面に第2の絶縁層340を形成する。形成手法は第1の絶縁層320と同様にして行うことができ、第1の絶縁層320及び第2の絶縁層340を同時に形成してもよいし、第1の絶縁層形成工程とは別に第2の絶縁層340を形成してもよい。
【0053】
本実施形態では、真空常温接合法を行うときに、多結晶シリコン層330と、活性層用シリコンウェーハ355の表面に形成した第2の絶縁層340との両表面に活性化面330A、340Aを形成する。多結晶シリコン層330と第2の絶縁層340とが対向配置されるように真空常温接合装置70に各ウェーハを配置すれば、第1実施形態と同様にして真空常温接合法を用いることにより、両方の活性化面330A、340A同士を接合することができる。
【0054】
こうして得られる多層SOIウェーハ300は、シリコンウェーハ310と、シリコンウェーハ310表面に設けられた第1の絶縁層320と、第1の絶縁層320表面に設けられた多結晶シリコン層330と、多結晶シリコン層330の表面に設けられた第2の絶縁層340と、第2の絶縁層340の表面に設けられた活性層350と、を有する。
【0055】
上述した製造方法の第1実施形態及び第2実施形態のいずれであっても、本発明に従う多層SOIウェーハを製造することが可能である。ただし、活性層用シリコンウェーハと、多結晶シリコン層上に形成した第2の絶縁層とを真空常温接合で接合する第1実施形態よりも、活性層用シリコンウェーハに第2の絶縁層を形成した後、これと多結晶シリコン層とを真空常温接合法で接合する第2実施形態の方が、第2の絶縁層の膜質が緻密になる点で有利である。
【0056】
(X線検出センサ)
これまで説明してきた多層SOIウェーハ100を用いてX線検出センサを形成することができる。このX線検出センサは、シリコンウェーハ110にX線検出部が設けられ、活性層150にMOS型トランジスタ部が設けられる。そして、多結晶シリコン層130に電気的に接続して接地電位が供給される接地電極部が設けられることで接地できる。したがって、デバイス形成時等において、各絶縁層へのチャージアップを防止することができる。
【0057】
多層SOIウェーハ100を用いて形成されるX線検出センサの一具体例を、図5を参照して説明する。図5に記載のX線検出センサ400は、シリコンウェーハ110由来で、高濃度n型拡散領域414がその表層部に設けられたp型シリコン層410と、第1の絶縁層120由来の第1BOX層420と、多結晶シリコン層130由来の導電層430と、第2の絶縁層由来の第2BOX層440と、活性層150由来のn型拡散領域454及びp型拡散領域455が設けられたp型シリコン層450とをこの順に備える。さらに、X線検出センサ400には、素子表面から第1BOX層表面にまで到達するよう貫通する酸化シリコンからなる素子分離溝470が設けられ、導電層430表面にまで到達するよう貫通するCu、Al等からなる接地電極部480が設けられる。さらに、Cu、Al等からなる導電体460でp型シリコン層410の裏面並びに高濃度n型拡散領域414、n型拡散領域454及びp型拡散領域455が接続される。p型シリコン層410がX線検出部に相当し、p型シリコン層450がMOS型トランジスタ部に相当する。なお、このX線検出センサ400はp型シリコン層410の裏面(導電体460が設けられた側)をX線の入射面とする。貫通溝を設けるための手法は公知のフォトリソグラフィ処理及びエッチング処理を適用することができる。なお、X線検出効率を上げるため、図5に示すように、高濃度n型拡散領域414の下方ではp型シリコン層410の裏面が露出するよう、導電体460に開口部490を設けることも好ましい。
【実施例
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
[実験例1]
(発明例1)
支持基板としてFZ単結晶から得たp型シリコンウェーハ(厚さ:750μm、ドーパント種類:ボロン、抵抗率:100Ω・cm、酸素濃度:2×1016atoms/cm)を用意した。また、活性層用基板として、CZ単結晶から得たCOPフリーのp型シリコンウェーハ(厚さ:750μm、ドーパント;ボロン、抵抗率、1Ω・cm)を用意した。
【0060】
次いで、酸素雰囲気下における熱酸化法により、支持基板及び活性層用基板のそれぞれの表面に、厚さ500nmの酸化シリコン膜を形成した。活性層用基板の酸化シリコン膜を便宜状BOX層と称する。支持基板に対しては、酸化シリコン膜上に、さらに水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガスとして400℃でのCVD法により厚さ1.0μmの多結晶シリコン層を成膜した。
【0061】
続いて、図3に示す方法に従って、真空常温接合法により、多結晶シリコン層と、活性層用基板のBOX層とを貼合せ面として接合した。具体的にはまず、25℃、5.0×10-5Pa未満の真空チャンバ内にArを流してプラズマを発生させ、上記支持基板層及び活性層用基板の各被照射面に加速電圧:1.0keV、周波数:140Hz、パルス幅:55μ秒にてArイオンを照射して、各面を活性化処理した。その後、引き続き真空常温下で両活性化面を接触させることで、多結晶シリコン層と、BOX層とを貼合せた。その後、活性層用基板を研削及び研磨し、厚さ5.0μmの活性層を得て、発明例1に係る多層SOIウェーハを得た。
【0062】
(従来例1)
発明例1と同様の支持基板及び活性層用基板を用意した。次に、支持基板の表面に厚さ500nmの酸化シリコン膜を形成した。続けて、この酸化シリコン膜と、活性層用基板とを発明例1の真空常温接合法と同様にして貼合せて、従来例1に係るSOIウェーハを作製した。なお、発明例1と異なり、従来例1では酸化シリコン膜上へ多結晶シリコン層を成膜しなかった。従来例1に係るSOIウェーハの酸化シリコン膜についても説明の便宜状、以下ではBOX層と称する。
【0063】
(比較例1)
まず、発明例1と同様の支持基板及び活性層用基板を2枚ずつ用意した。次いで、酸素雰囲気下における熱酸化法により、各ウェーハのそれぞれの表面に厚さ500nmの酸化シリコン膜を形成し、さらに支持基板と活性層用基板とを酸化シリコン膜を介して大気雰囲気下で貼合せ、次いで接合強化熱処理を行った。そして、活性層用基板を研削研磨して、活性層の厚さが500nmであるSOIウェーハを2枚作製した。その後、両SOIウェーハの活性層同士を真空常温接合法により貼合せ、BOX層間のシリコン単結晶層の厚さを1μmにした。さらに、片方の支持基板を研削研磨して、厚さ5μmの活性層を形成し、比較例1に係る多層SOIウェーハを作製した。
【0064】
(評価1:TZDB評価)
発明例1、従来例1及び比較例1のそれぞれのBOX層(発明例1及び比較例1については活性層側に形成した酸化シリコン膜)に対してGOI(Gate Oxide Integrity)特性評価を実施するため、各BOX層上に図6の平面図に模式的に示す円柱状電極を形成した。具体的な円柱状電極の作成手順は下記のとおりである。
【0065】
(i)Alをスパッタリングして活性層表面に膜厚300nmのAl膜を成膜した後、フォトリソグラフィ処理及びプラズマエッチング処理を順次行った。さらに、Al膜と活性層をエッチングし、円柱状電極形成用の1cmφの貫通溝を形成した。
(ii)1cmφの貫通溝の形成後、膜厚500nmでTEOS(テトラエトキシシラン)膜を成膜し、上記貫通溝中心へ5mmφのコンタクトビアを、フォトリソグラフィ処理及びプラズマエッチング処理を順次行って形成した。また、発明例1及び比較例1では、当該1cmφの円柱状電極の5mm外側に、BOX層直下のシリコン層まで貫通する3mmφのコンタクトビアを同時形成した。
(iii)次に、Alをスパッタリングして上記コンタクトビアを埋め込んだ後、フォトリソグラフィ処理及びプラズマエッチング処理を順次行って、活性層へ導通する5mmφの円柱状電極と、シリコン層へ導通する円柱状電極を形成した。
【0066】
デバイスプロセスにおけるプラズマエッチング処理時に発生するダメージを想定し、上記コンタクトエッチング処理を3回繰り返した後、判定電流を1×10-4A/cmとして、TZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)評価を実施した。TZDB評価では、支持基板の裏面を0(ゼロ)Vにした状態で、電極へ電圧を0Vから0.1Vステップで印加していき、測定した電流値をBOX層膜厚で割った値(MV/cm)を求めた。発明例1では、9.1MV/cmであった、一方、従来例1では6.3MV/cmであり、比較例1では7.1MV/cmであった。したがって、発明例1では、プラズマエッチングに伴うダメージの影響を低減でき、BOX層のチャージアップを抑制できたことが確認された。
【0067】
[実験例2]
(発明例2-1)
実験例1における発明例1-1と同様にして、発明例2-1に係る多層SOIウェーハを作製した。
【0068】
(発明例2-2)
発明例2-1ではFZウェーハを用いていたところ、これをMCZ単結晶から得たp型シリコンウェーハ(厚さ:750μm、ドーパント種類:ボロン、抵抗率:100Ω・cm、酸素濃度:3.0×1017atoms/cm)に変えた以外は発明例2-1と同じ条件で、発明例2-2に係る多層SOIウェーハを作製した。
【0069】
(発明例2-3)
発明例2-2のp型シリコンウェーハの酸素濃度は3.0×1017atoms/cmであったところ、これを5.0×1017atoms/cmに変えた以外は発明例2-2と同じ条件で、発明例2-3に係る多層SOIウェーハを作製した。
【0070】
(比較例2)
発明例2-2のp型シリコンウェーハの酸素濃度は3.0×1017atoms/cmであったところ、これを7.0×1017atoms/cmに変えた以外は発明例2-2と同じ条件で、比較例2に係る多層SOIウェーハを作製した。
【0071】
(評価2:抵抗変動評価)
発明例2-1、2-2、2-3及び比較例2に係るそれぞれの多層SOIウェーハに対し、さらにデバイス作製プロセスを想定して、450℃、10時間の熱処理を窒素雰囲気下で行った。熱処理前後でのシリコンウェーハの裏面側の抵抗率を、4短針法により評価した。結果を表1に記載する。
【0072】
【表1】
【0073】
評価2により、発明例2-1、2-2、2-3に係る多層SOIウェーハは、いずれも熱処理による抵抗変動が十分に小さいことが確認された。しかしながら、酸素濃度が高い比較例2では、熱処理に伴い抵抗変動することが確認された。
【0074】
以上の実験例1、2より、本発明条件を満たす多層SOIウェーハでは多結晶シリコン層がBOX層のチャージアップを防止でき、また、支持基板をセンサ部として利用する場合でも、デバイス作製プロセスに伴う熱処理を経ても抵抗変動することがないことが確認された。したがって、本発明に従う多層SOIウェーハは、X線検出センサに供して好適である。
【0075】
本発明によれば、X線検出センサに供して好適な多層SOIウェーハ及びその製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、この多層SOIウェーハを用いたX線検出センサを提供することができる。
【符号の説明】
【0076】
100 多層SOIウェーハ
110 シリコンウェーハ
120 第1の絶縁層
130 多結晶シリコン層
140 第2の絶縁層
150 活性層
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6