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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】パラアルドールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/06 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
C07D319/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019230080
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098657
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】井上 玄
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-339256(JP,A)
【文献】特開昭62-212384(JP,A)
【文献】特開平07-010789(JP,A)
【文献】特開平06-329664(JP,A)
【文献】特開昭62-246529(JP,A)
【文献】国際公開第2001/056963(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108383684(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルドール及びアルドキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むアセトアルドール類を減圧下にて第1反応器を用いて熱分解及び縮合させて、中間反応液を得ること、
前記中間反応液を、充填塔又は濡れ壁塔である第2反応器に供給すること、及び
副生物であるアセトアルデヒドを留出させつつ前記第2反応器内で前記中間反応液に含まれる前記アセトアルドール類を熱分解及び縮合させること、
を含むパラアルドールの製造方法。
【請求項2】
前記第1反応器における前記アセトアルドール類の転化率が65%以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2反応器の反応圧力が-90~-20kPaGである請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記第1反応器が連続槽型反応器又は泡鐘塔である請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1反応器の反応圧力が-90~-20kPaGである請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記化学式Iで示されるパラアルドール(2-(2-ヒドロキシプロピル)-4-メチル-1,3-ジオキサン-6-オールの慣用名)の製造方法に関する。
【化1】
【背景技術】
【0002】
アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類(アセトアルドール、及びアルドキサン(2,4-ジメチル-1,3-ジオキサン-6-オ-ルの慣用名))は、様々な化学製品の中間体となることが知られている。例えば、アセトアルドール類は熱分解によりパラアルドールに変換され、更にパラアルドールを水添することで、1,3-ブタンジオールが製造される。1,3-ブタンジオールは、沸点208℃の無色透明で無臭の液体で、化粧品、吸湿剤、高沸点溶剤、及び不凍液の素材として需要があることに加えて、1,3-ブタンジオールの脱水反応により1,3-ブタジエンが得られることが知られている。
【0003】
1,3-ブタジエンは、従来、ナフサを原料とするスチームクラッキングを用いたエチレン及びプロピレン製造時の副生物であるC4留分に含まれており、必要に応じて抽出等の処理を行った後、合成ゴムの原料として使用されている。1,3-ブタジエンから製造される合成ゴムの1つであるS-SBRは、低燃費タイヤのトレッド部に使われることから、その需要が拡大基調にあり、それに伴い、1,3-ブタジエンの需要が大きく伸びている。
【0004】
一方、近年利用が拡大しているシェールガスを原料とするスチームクラッカーにおけるC4留分の副生割合は、従来のナフサを原料とするスチームクラッカーの数パーセントに過ぎない。近年、シェールガスの生産量が急拡大し、シェールガスを原料とするスチームクラッカーの稼働率が上がり、ナフサを原料とするスチームクラッカーの稼働率が低下している。そのため、ナフサクラッカーから副生するC4留分、すなわち1,3-ブタジエンが需要に対して不足する傾向が顕著となっている。
【0005】
このような状況下、スチームクラッキングの副生物としてではなく、C4留分、特に、1,3-ブタジエンを目的生産物として製造する工業的なプロセスの重要性が増している。1,3-ブタジエンを目的生産物として得るための工業的な製造ルートとして、前述のアセトアルデヒドを原料として出発し、アセトアルドール類、パラアルドール、1,3-ブタンジオールを経由し、1,3-ブタンジオールの脱水反応により1,3-ブタジエンを製造する方法の重要性は高く、その中間段階の反応である、アセトアルドール類からパラアルドールを製造する工程における高効率なプロセスが特に必要とされている。
【0006】
【化2】
【化3】
【化4】
【0007】
パラアルドールの製造方法としては、アセトアルデヒドの縮合により得られたアセトアルドール類を、槽型反応器又は連続フラッシュ蒸発装置を用いてアセトアルデヒドを留出させつつ熱分解し、縮合させることにより、パラアルドールを主成分とする反応粗液を得る方法が知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-212384号公報
【文献】特開平6-329664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の方法では、アセトアルドール類の熱分解及び縮合が進行しパラアルドール濃度が増加するにつれて、パラアルドールと気相に移動せず液相に残留したアセトアルデヒドとの逆反応速度が大きくなるため、アセトアルドール類を85%以上転化させるためには長時間の反応時間(滞留時間)又は高温条件を要する。長時間の滞留時間又は高温反応条件では、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒド等の副生物が増加し、その結果、パラアルドールの収率が低下する。
【0010】
本発明は、アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類から、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生を抑制しつつ、パラアルドールを高収率で製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、アセトアルドール類の熱分解及び縮合を第1反応器及び第2反応器を用いて行い、第2反応器をアセトアルデヒドの留出に有利な形式とすることにより、パラアルドールとアセトアルデヒトとの逆反応を抑制して、高収率でパラアルドールが製造できることを見出して、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の[1]から[5]を包含する。
[1]
アセトアルドール及びアルドキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むアセトアルドール類を減圧下にて第1反応器を用いて熱分解及び縮合させて、中間反応液を得ること、
前記中間反応液を、充填塔又は濡れ壁塔である第2反応器に供給すること、及び
副生物であるアセトアルデヒドを留出させつつ前記第2反応器内で前記中間反応液に含まれる前記アセトアルドール類を熱分解及び縮合させること、
を含むパラアルドールの製造方法。
[2]
前記第1反応器における前記アセトアルドール類の転化率が65%以下である[1]に記載の方法。
[3]
前記第2反応器の反応圧力が-90~-20kPaGである[1]又は[2]のいずれかに記載の方法。
[4]
前記第1反応器が連続槽型反応器又は泡鐘塔である[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記第1反応器の反応圧力が-90~-20kPaGである[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のパラアルドールの製造方法によれば、アセトアルデヒドの縮合により得られるアセトアルドール類から、クロトンアルデヒド、ビニルクロトンアルデヒドなどの副生を抑制しつつ、例えば85%以上といった高収率でパラアルドールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】パラアルドールを主成分とする反応粗液を得るための第1の実施形態の反応装置の模式図である。
図2】パラアルドールを主成分とする反応粗液を得るための第2の実施形態の反応装置の模式図である。
図3】比較例1で用いた反応装置の模式図である。
図4】実施例及び比較例のアルドキサン転化率とパラアルドール収率の関係を示すグラフである。
図5】実施例及び比較例のアルドキサン転化率とパラアルドール選択率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0016】
一実施態様のパラアルドールの製造方法は、アセトアルドール及びアルドキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むアセトアルドール類を減圧下にて第1反応器を用いて熱分解及び縮合させて、中間反応液を得ること、中間反応液を、充填塔又は濡れ壁塔である第2反応器に供給すること、及び副生物であるアセトアルデヒドを留出させつつ第2反応器内で中間反応液に含まれるアセトアルドール類を熱分解及び縮合させること、を含む。本実施態様では、第2反応器として、第2反応器内で中間反応液中のアセトアルデヒド濃度が高い領域(空間)において、中間反応液の単位体積あたりの気液接触面積が大きい充填塔又は濡れ壁塔を用いる。第1反応器で得られた中間反応液が供給される第2反応器内では、中間反応液に含まれるアセトアルデヒドを積極的に気相へ蒸散させることで、パラアルドールからの逆反応を抑制しつつ中間反応液に含まれるアセトアルドール類を効率的に熱分解及び縮合することができる。その結果、高収率でパラアルドールを製造することができる。
【0017】
図1及び図2は、パラアルドールを主成分とする反応粗液を得るための例示的な反応装置の模式図である。最終反応液中のパラアルドールは精製されていないので、本開示では最終反応液を反応「粗液」と呼ぶ。
【0018】
第1の実施形態である図1には、反応原料液1、熱分解及び縮合を行う第1反応器2、第1反応器2を減圧する真空ポンプ5、第1反応器2の気相部を凝縮させた留出液6、第1反応器2の生成物である中間反応液4、中間反応液4を移送する送液ポンプ3、熱分解及び縮合を行う第2反応器7、第2反応器7の生成物である反応粗液8、第2反応器7を減圧する真空ポンプ9、第2反応器7の気相部を凝縮させた留出液10が示されている。
【0019】
図1において、アセトアルドール類を含む反応原料液1は、真空ポンプ5により減圧されている第1反応器2においてその一部が熱分解及び縮合され、パラアルドールが生成する。第1反応器2の液相部が中間反応液4となり、中間反応液4は送液ポンプ3を介して第2反応器7の上部より第2反応器7に供給される。反応副生物であるアセトアルデヒドを主成分とする第1反応器2の気相部は凝縮装置(不図示)によって冷却され、留出液6として系外へ排出される。第2反応器7では、中間反応液4に含まれる未反応のアセトアルドール類を熱分解及び縮合させることにより、パラアルドールを主成分とする反応粗液8が得られる。第2反応器7の気相部は凝縮装置(不図示)によって冷却され、反応副生物であるアセトアルデヒドを主成分とする留出液10として系外に排出される。
【0020】
アセトアルドール類の熱分解反応は吸熱反応であることから、第1反応器2、第2反応器7、又はこれらの両方が、加熱装置を備えることが好ましい。これにより、熱分解反応を促進するために必要な熱量を反応原料液1又は中間反応液4に与えることができる。
【0021】
アセトアルドール類の転化率が低い時点では副生物のアセトアルデヒドを系外へ除去せずとも反応が進行する(すなわち逆反応が起こりにくい)ことから、第1反応器2は、設備をコンパクトにすることができる連続槽型反応器又は泡鐘塔であることが好ましい。
【0022】
第2反応器7は、充填塔又は濡れ壁塔である。充填塔及び濡れ壁塔は、中間反応液4の単位体積あたりの気液接触面積を大きくすることができる。これにより、中間反応液4に含まれるアセトアルデヒドを気相に効果的に蒸散させて、パラアルドールからの逆反応を抑制することができる。第2反応器7は、中間反応液4の体積1mあたりの気液接触面積が100m以上となるものであることが好ましい。
【0023】
第2反応器7として充填塔を使用する場合、充填材としてラッシヒリング、レッシングリング、ポールリング、マクマホンパッキン、ディクソンパッキン、スルザーパッキン等を使用することができる。
【0024】
第2反応器7として濡れ壁塔を使用する場合、濡れ壁塔は、単一管式又は多管式のいずれであってもよく、より気液接触面積が大きい多管式であることが好ましい。
【0025】
第2の実施形態である図2において、反応粗液8の循環部以外は図1と同様の構成が示されている。本実施形態では、パラアルドールの収率を向上させるため、反応粗液8の一部又は全部を第2反応器7に所望の回数循環させることができる。パラアルドールの収率が目的の範囲に到達したことを確認した後、反応粗液8を系外に取り出すことができる。
【0026】
反応原料液1としては、アセトアルデヒドの縮合反応により得られるアセトアルドール類を用いることができる。アセトアルデヒドの縮合反応は一般的な方法により行うことができる。例えば、-30℃から20℃の温度条件下、アルカリ触媒として例えば水酸化ナトリウム水溶液をアセトアルデヒドに加えて撹拌することで、アセトアルドール類を得ることができる。本開示において、アセトアルドール類とは、アセトアルデヒドの縮合物であるアセトアルドール及びアルドキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つを意味する。反応原料液1の調製方法は、特に制限されないが、例えば、アルカリ触媒を用いたアセトアルデヒドの縮合反応終了後に、酸を加えて中和したものをそのまま使用することができる。
【0027】
反応原料液1の成分の濃度は、反応原料液1が反応原料であるアセトアルドール類を含有することを条件として、特に制限されない。反応原料液1は、例えば、パラアルドールを0~5質量%、アルドキサンを50~90質量%、アセトアルデヒドを10~30質量%、水分を0~20質量%、クロトンアルデヒドを0~2質量%、アセトアルドールを含むその他の化合物を0~2質量%含んでもよい。
【0028】
第1反応器2の反応温度は、特に制限されないが、好ましくは60~120℃、より好ましくは80~100℃、更に好ましくは85~95℃である。反応温度が60℃以上であれば、熱分解及び縮合反応を促進することができる。反応温度が120℃以下であれば、副生物であるクロトンアルデヒドの生成量を低減することができる。
【0029】
第1反応器2の反応圧力は、特に制限されないが、好ましくは-90~-20kPaG(ゲージ圧)、より好ましくは-80~-40kPaG、更に好ましくは-70~-50kGPaである。
【0030】
第1反応器2における反応原料液1の滞留時間は、特に制限されないが、好ましくは5分~2時間、より好ましくは20分~1時間である。第1反応器2における反応原料液1の滞留時間が短かすぎると、アセトアルドール類の転化率を高めることができない。この場合、目標転化率を得るには、後段の第2反応器7での滞留時間が長くなるように第2反応器7のサイズを大きくする必要が生じる。第1反応器2における反応原料液1の滞留時間が好ましい範囲内であれば、クロトンアルデヒドの副生を効果的に抑えることができる。
【0031】
第1反応器2における好ましいアセトアルドール類の転化率は、20%以上80%以下であり、より好ましくは40%以上65%以下である。第1反応器2におけるアセトアルドール類の転化率を上記範囲とすることにより、第2反応器7での反応効率を高めることができる。第1反応器2におけるアセトアルドール類の転化率は、第1反応器2の反応温度及び反応圧力、並びに反応原料液1の滞留時間及び組成によってコントロールすることができる。本開示において、アセトアルドール類の転化率は、反応前のアセトアルドールとアルドキサンの合計モル数を基準として計算される。
【0032】
第1反応器2の気相部を凝縮して得られる留出液6は、アセトアルドール類の熱分解によって生成したアセトアルデヒドを主成分として含み、水、クロトンアルデヒド等の副生物又は不純物を含んでもよい。留出液6は、アセトアルデヒドを多く含むことから、アセトアルドール類を製造するためのアセトアルデヒドの縮合反応の原料として再使用することもできる。
【0033】
中間反応液4は、アセトアルドール類を25~60質量%含むことが好ましく、35~55質量%含むことがより好ましい。中間反応液4は、アセトアルドールを0~10質量%、アルドキサンを30~50質量%含むことが好ましい。中間反応液4に含まれるアセトアルデヒド、水、及びクロトンアルデヒドは合計で3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。中間反応液4は、反応生成物であるパラアルドールを40~70質量%含むことが好ましく、55~70質量%含むことがより好ましい。
【0034】
中間反応液4は第2反応器7に供給される。中間反応液4は第1反応器2から直接第2反応器7に供給されてもよく、第1反応器2と第2反応器7との間に中間反応液4を一時的に受容する中間タンクなどが設けられていてもよい。第2反応器7として気液接触面積が大きい充填塔又は濡れ壁塔を用いることで、系外へのアセトアルデヒド排出が促進される。これにより、主反応即ちをアセトアルドール類の熱分解及び縮合を促進して、パラアルドールの選択率及び収率を向上させることができる。
【0035】
第2反応器7の反応温度は、特に制限されないが、好ましくは60~120℃、より好ましくは80~100℃である。反応温度が60℃以上であれば、熱分解及び縮合反応を促進することができる。反応温度が120℃以下であれば、副生物であるクロトンアルデヒドの生成量を低減することができる。
【0036】
第2反応器7の反応圧力は、特に制限されないが、好ましくは、-90~-20kPaG、より好ましくは-80~-50kPaGである。
【0037】
第2反応器7における中間反応液4の滞留時間は、特に制限されないが、好ましくは1分~1時間、より好ましくは3分~10分である。第2反応器7における中間反応液4の滞留時間が短かすぎると、アセトアルドール類の転化率を高めることができず、その結果、パラアルドールの収率を高めることができない。第2反応器7における中間反応液4の滞留時間が好ましい範囲内であれば、クロトンアルデヒドの副生を効果的に抑えることができる。
【0038】
第1反応器2及び第2反応器7を通した好ましいアセトアルドール類の最終転化率は、反応原料液1を基準として70%以上99.9%以下であり、より好ましくは85%以上99%以下である。アセトアルドール類の最終転化率は、第2反応器7の反応温度及び反応圧力、並びに中間反応液4の滞留時間及び組成によってコントロールすることができる。
【0039】
反応粗液8の組成は特に制限されない。反応粗液8は、例えば、パラアルドールを65~95質量%、アルドキサンを4~20質量%、アセトアルデヒドを0.1~2質量%、水分を0.1~5質量%、クロトンアルデヒドを0.1~5質量%、その他の化合物を0~5質量%含んでもよい。第1反応器2及び第2反応器7を通したパラアルドールの収率は、好ましくは、反応原料液1に含まれるアセトアルドール類が全てアルドキサンに転換されたものとしたときに、アルドキサンのモル数を基準として50~98%である。
【0040】
第2反応器7の気相部を凝縮して得られる留出液10は、アセトアルドール類の熱分解によって生成したアセトアルデヒドを主成分として含み、水、クロトンアルデヒド等の副生物又は不純物を含んでもよく、その組成は特に制限されない。留出液10は、アセトアルデヒドを多く含むことから、アセトアルドール類を製造するためのアセトアルデヒドの縮合反応の原料として再使用することもできる。
【0041】
図2に示される第2の実施形態は、反応粗液8の一部又は全部が再び第2反応器7に供給される以外は、図1に示される第1の実施形態と同様である。第2反応器7での熱分解及び縮合反応をバッチ処理で行う場合は、反応粗液8の全量を循環させ、バッチ反応終了後に全量を抜き出す。第2反応器7での熱分解及び縮合反応を連続処理で行う場合は、反応粗液8の一部を第2反応器7に戻し、図示のように残部を系外に抜き出す。
【0042】
反応粗液8を循環させることは、第2反応器7の滞留時間が短い場合(例えば充填塔)に効果的である。充填塔において1パスで十分な滞留時間を得るためには、装置を大型化する必要が生じる。反応粗液8を循環させることで小型の充填塔であっても目的のパラアルドールの収率又はアセトアルドール類の転化率を達成するために必要な滞留時間(反応時間)を確保することができる。
【0043】
第2反応器7での熱分解及び縮合反応をバッチ処理する場合、反応粗液8の第2反応器7への循環回数は、特に制限されない。アセトアルドール類の転化率を高め、パラアルドールの収率を向上させるため、循環回数は、好ましくは1回から50回、より好ましくは1回から30回である。
【0044】
反応粗液8を第2反応器7に循環させる際、反応粗液8を加熱してから循環させても、加熱せずに循環させてもよい。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
各組成成分の測定において、水分についてはカールフィシャー水分計、その他の成分についてはガスクロマトグラフィー分析装置及びNMR分光器を用いて同定及び定量を行った。分析条件は次のとおりである。
【0047】
(水分分析条件)
カールフィッシャー水分計:KF-200(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)
滴定剤:アクアミクロン滴定剤 SS-Z 3mg
脱水溶剤:アミクロン脱水溶剤 KTX
【0048】
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
GC装置:Agilent 6850(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム:Agilent DB-WAX 0.32mm 30m
インジェクション温度:200℃
カラム温度:40℃から200℃に昇温
ディテクター温度:200℃
キャリアーガス:He
検出器:FID
【0049】
(NMR分析条件)
核磁気共鳴装置:JNM-ECS400(日本電子株式会社製)
【0050】
各成分の転化率・選択率は以下の方法により計算した。
(アルドキサン転化率)=[1-(抜出アルドキサン流量)/(フィードアルドキサン流量)]
(パラアルドール選択率)=(抜出パラアルドール流量)×(2/3)/[(フィードアルドキサン流量)-(抜出アルドキサン流量)]
(クロトンアルデヒド選択率)=(抜出クロトンアルデヒド流量)×(70/88)/[(フィードアルドキサン流量)-(抜出アルドキサン流量)]
(パラアルドール収率)=(アルドキサン転化率)×(パラアルドール選択率)
【0051】
<実施例1>
図1に示す反応装置を用いてパラアルドールの製造を行った。
【0052】
[中間反応液4の製造]
撹拌装置及び凝縮器を備えた容量50mLの連続槽型の第1反応器2内を真空ポンプ5により-60kPaGまで減圧し、予め調製した反応原料液1(組成は、アセトアルデヒド15.07質量%、アルドキサン82.92質量%、パラアルドール0.92質量%、水分0.50質量%、クロトンアルデヒド0.20質量%、その他の化合物0.39質量%)を、液面が50mLで一定となるように300g/h(滞留時間10分)で給液し、オイルバス内で90℃まで加温して、アセトアルドール類の熱分解及び縮合を行い、中間反応液4を得た。気相部は留出液6として回収した。得られた中間反応液4の組成は、アセトアルデヒド0.84質量%、アルドキサン36.29質量%、パラアルドール59.87質量%、水分0.69質量%、クロトンアルデヒド0.88質量%、その他の化合物1.43質量%であった。
【0053】
[反応粗液8の製造]
凝縮器を備えた第2反応器7(外径19mm、長さ100mmのSUS316L製配管30本から構成される横型濡れ壁塔)内を真空ポンプ9により-50kPaGまで減圧し、中間反応液4を90℃まで加温しつつ、滞留時間が10.5分となるように200g/hで第2反応器7に給液した。気相部は留出液10として回収した。得られた反応粗液8の組成は、アセトアルデヒド0.13質量%、アルドキサン5.75質量%、パラアルドール92.41質量%、水分0.36質量%、クロトンアルデヒド0.34質量%、その他1.02質量%であり、留出液10の組成は、アセトアルデヒド95.1質量%、水分0.2質量%、クロトンアルデヒド0.3質量%、その他の化合物4.4質量%であった。パラアルドールの収率は、反応原料液1中のアルドキサンのモル数を基準として94.8%であった(run1)。同様の実験を流量を変更することにより、滞留時間を7分又は8分に変化させて2回行った。結果を表1に示す(run2~3)。
【0054】
<実施例2>
図2に示す反応装置を用いてパラアルドールの製造を行った。
【0055】
[中間反応液4の製造]
撹拌装置及び凝縮器を備えた容量50mLの連続槽型の第1反応器2内を真空ポンプ5により-60kPaGまで減圧し、予め調製した反応原料液1(組成は、アセトアルデヒド18.40質量%、アルドキサン80.40質量%、パラアルドール0.19質量%、水分0.70質量%、クロトンアルデヒド0.16質量%、その他の化合物0.15質量%)を、液面が50mLで一定となるように200g/h(滞留時間15分)で給液し、オイルバス内で90℃まで加温して、アセトアルドール類の熱分解及び縮合を行い、中間反応液4を得た。気相部は留出液6として回収した。得られた中間反応液4の組成は、アセトアルデヒド0.91質量%、アルドキサン37.11質量%、パラアルドール56.11質量%、水分0.62質量%、クロトンアルデヒド0.86質量%、その他の化合物4.39質量%であった。
【0056】
[反応粗液8の製造]
凝縮器を備えた第2反応器7(SUS316L製6mmマクマホンパッキンを0.7リットル充填した高さ1m、内径0.03mのオルダーショウ型断熱塔)内を真空ポンプ9により-50kPaGまで減圧し、中間反応液4を90℃まで加温しつつ、1回当たりの滞留時間が6.9分となるように第2反応器7に給液した。気相部は留出液10として回収した。得られた反応粗液8の全量を第2反応器7に循環させ、同様の条件で第2反応器7に4回給液した。総滞留時間は27.7分であった。最終的に得られた反応粗液8の組成は、アセトアルデヒド0.25質量%、アルドキサン5.60質量%、パラアルドール91.43質量%、水分1.00質量%、クロトンアルデヒド0.36質量%、その他の化合物1.37質量%であり、留出液10の組成は、アセトアルデヒド94.6質量%、水分3.2質量%、クロトンアルデヒド1.3質量%、その他の化合物0.9質量%であった。パラアルドールの収率は反応原料液1中のアルドキサンのモル数を基準として95.7%であった(run4)。同様の実験を、第2反応器7での総滞留時間を9.2分、16.1分又は23.7分に変化させ3回行った。結果を表1に示す(run5~7)。
【0057】
<比較例1>
図3に示すように、2つの撹拌槽型反応器が直列に接続された反応装置を用いてパラアルドールの製造を行った。
【0058】
[中間反応液4の製造]
撹拌装置及び凝縮器を備えた容量50mLの連続槽型の第1反応器2内を真空ポンプ5により-60kPaGまで減圧し、予め調製した反応原料液1(組成は、アセトアルデヒド15.11質量%、アルドキサン82.92質量%、パラアルドール0.21質量%、水分0.95質量%、クロトンアルデヒド0.20質量%、その他の化合物0.61質量%)を、液面が50mLで一定となるように50g/h(滞留時間60分)で給液し、オイルバス内で90℃まで加温して、アセトアルドール類の熱分解及び縮合を行い、中間反応液4を得た。気相部は留出液6として回収した。得られた中間反応液4の組成は、アセトアルデヒド0.89質量%、アルドキサン37.43質量%、パラアルドール59.41質量%、水分0.68質量%、クロトンアルデヒド0.87質量%、その他の化合物0.72質量%であった。
【0059】
[反応粗液8の製造]
中間反応液4を、真空ポンプ9により-60kPaGまで減圧された撹拌装置及び凝縮器を備えた容量50mLの連続槽型の第2反応器7に、液面が50mLで一定となるように240g/h(滞留時間15分)で給液し、90℃でアセトアルドール類の熱分解及び縮合を行った。気相部は留出液6として回収した。液相部は送液ポンプ11により反応粗液8として系外に取り出した。得られた反応粗液8の組成は、アセトアルデヒド3.87質量%、アルドキサン13.65質量%、パラアルドール71.58質量%、水分2.49質量%、クロトンアルデヒド2.49質量%、その他の化合物5.92質量%であり、留出液6の組成は、アセトアルデヒド96.6質量%、水分2.1質量%、クロトンアルデヒド1.3質量%であった。パラアルドールの収率は反応原料液1中のアルドキサンのモル数を基準として82.2%であった(run8)。同様の実験を、流量を変えることにより、第2反応器7での滞留時間を31分、32分又は30分に変化させ3回行った。結果を表1に示す(run9~11)。
【0060】
【表1】
【0061】
アルドキサンの転化率を横軸、パラアルドールの収率又は選択率を縦軸として、実施例及び比較例で得られた数値をプロットしたグラフを図4及び図5にそれぞれ示す。表1及び図4から明らかなように、実施例1及び実施例2は、比較例1よりもパラアルドールの収率を向上させることができ、このことはアルドキサンの転化率が高い領域において顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、パラアルドールの効率的な製造に利用できるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 反応原料液
2 第1反応器
3 送液ポンプ
4 中間反応液
5 真空ポンプ
6 留出液
7 第2反応器
8 反応粗液
9 真空ポンプ
10 留出液
11 送液ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5