(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】硫化水素捕捉剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20231108BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20231108BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01D53/14 100
B01D53/14 210
B01J20/02 C
(21)【出願番号】P 2019230490
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幸徳
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-108578(JP,A)
【文献】特開平04-346831(JP,A)
【文献】特開昭62-193631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
B01J 20/281-20/292;
G01N 30/00-30/96
B01D 53/14-53/18
B01D 53/02-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン又はその化学的に許容される塩、及び3価の鉄化合物を含む硫化水素捕捉剤。
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、又は炭素数7~15のアリールアルキル基を表す。nは1~6の整数を表す。複数のRは同一又は相異なっていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)において、Rが、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェニル基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の硫化水素捕捉剤。
【請求項3】
3価の鉄化合物が、塩化第二鉄及び/又は硫酸第二鉄であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の硫化水素捕捉剤。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかに記載の硫化水素捕捉剤を使用することを特徴とする硫化水素の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素の捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素は、生活環境における代表的な臭気物質であり、目、皮膚、粘膜等への刺激性も有する。硫化水素は、悪臭防止法に基づく特定悪臭物質の一つであり、大気中から除去することが求められている。
【0003】
硫化水素を除去する方法としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、若しくは酸化第二鉄等の3価の鉄化合物で硫化水素を酸化し、安定な鉄硫化物及び硫黄に化学変換して除去する方法が汎用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来の方法では、捕捉速度が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、硫化水素を速やかに捕捉する硫化水素捕捉剤を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定のカルボキシ基含有O-置換ヒドロキシルアミン又はこれらの化学的に許容される塩、及び3価の鉄化合物を含む硫化水素捕捉剤が、硫化水素を速やかに且つ持続的に捕捉することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
【0009】
[1]カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン又はその化学的に許容される塩、及び3価の鉄化合物を含む硫化水素捕捉剤。
【0010】
[2]下記一般式(1)で表されるカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン又はその化学的に許容される塩を1種以上含むことを特徴とする[1]に記載の硫化水素捕捉剤。
【0011】
【0012】
(式中、Rは水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、又は炭素数7~15のアリールアルキル基を表す。nは1~6の整数を表す。複数のRは同一又は相異なっていてもよい。)
[3]一般式(1)において、Rが、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェニル基のいずれかであることを特徴とする[2]に記載の硫化水素捕捉剤。
【0013】
[4]3価の鉄化合物が、塩化第二鉄及び/又は硫酸第二鉄であることを特徴とする[1]乃至[3]に記載の硫化水素捕捉剤。
【0014】
[5][1]乃至[4]に記載の硫化水素捕捉剤を使用することを特徴とする硫化水素の除去方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硫化水素捕捉剤は、硫化水素類を速やかに且つ持続的に捕捉する。その結果、人体に有害な硫化水素を低減し、ヒトの生活環境を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の硫化水素捕捉剤は、カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン又はその化学的に許容される塩、及び3価の鉄化合物を含むことをその特徴とする。
【0017】
上記一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~14のアリール基、又は炭素数7~15のアリールアルキル基を表す。nは1~6の整数を表す。複数のRは同一又は相異なっていてもよい。
【0018】
炭素数1~18のアルキル基は、直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基であってもよく、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、オレイル基、エライジル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数6~14のアリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ビニルフェニル基、ビフェニリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0020】
炭素数7~15のアリールアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基、トリルメチル基、キシリルメチル基、クメニルメチル基、ビニルフェニルメチル基、ビフェニリルメチル基、フェナントリルメチル基等が挙げられる。
【0021】
これらのうち、一般式(1)において、Rが、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェニル基のいずれかであるカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミンが特に好ましい。
【0022】
上記のカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミンのヒドロキシルアミノ基は、一部又は全てが無機酸又は有機酸との化学的に許容される塩となっていてもよい。塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、過塩素酸塩、ケイ酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、トシル酸塩等の有機酸塩が挙げられ、安価である点で無機酸塩が好ましく、塩酸塩がさらに好ましい。
【0023】
また、上記のカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミンのカルボキシ基は、分子内のヒドロキシルアミノ基と分子内塩を形成してもよい。さらに、当該カルボキシ基の一部がカルボン酸塩となっていてもよいが、本発明の硫化水素捕捉剤はアルカリ性になると捕捉効果が低下するため、pHが7以下となる範囲でカルボン酸塩を形成することが好ましい。カルボン酸塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0024】
3価の鉄化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化第二鉄や硫酸第二鉄が挙げられる。
【0025】
本発明の硫化水素捕捉剤は、目的、用途に応じて任意の形態で使用することができる。例えば、カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン又はその化学的に許容される塩及び3価の鉄化合物(以下、「カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物」という。)を任意の溶媒に溶解させて液状硫化水素捕捉剤として使用したり、カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物又は前記の液状硫化水素捕捉剤を任意の担体に担持し、固体状硫化水素捕捉剤として使用することができる。
【0026】
本発明の液状硫化水素捕捉剤を調製する際の溶媒へのカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物の溶解量は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、本発明の液状硫化水素捕捉剤に対して各々0.1~30重量%の範囲が好ましく、1~20重量%の範囲がさらに好ましい。
【0027】
本発明の固体状硫化水素捕捉剤を調製する際にカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物を担持する担体としては、水に不溶性のものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、高分子担体として、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン)、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー、セルロース、アガロース、デキストラン等の高分子量多糖類等が挙げられ、無機担体として、活性炭、シリカゲル、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0028】
ここで、架橋ポリスチレンとは、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等のモノビニル芳香族化合物とジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビスビニルジフェニル、ビスビニルフェニルエタン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体を主体とするものであり、これらの共重合体にグリセロールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等のメタクリル酸エステルが共重合されていてもよい。
【0029】
本発明の固体状硫化水素捕捉剤の調製において用いられる担体の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、球状(例えば、球状粒子など)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜など)等の一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、これらのうち、球状、膜状、粒状、顆粒状、又は繊維状のものが好ましい。球状、粒状、又は顆粒状担体は、カラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を自由に設定できることから、特に好ましく用いられる。球状、粒状、又は顆粒状担体の粒子サイズとしては、通常、平均粒径1μm~10mmの範囲のものを用いることができるが、2μm~1mmの範囲が好ましい。
【0030】
本発明の固体状硫化水素捕捉剤の調製において用いられる担体は多孔質でもよいし、無孔質でもよい。多孔質担体の平均細孔径としては、通常、1nm~1μmのものを用いることができるが、硫化水素捕捉速度の点で1nm~300nmの範囲が好ましい。
【0031】
本発明の固体状硫化水素捕捉剤を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の液状硫化水素捕捉剤又はカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物を担体に物理的に吸着させて固定化する方法が挙げられる。
【0032】
カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物を物理的に吸着させて固定化する方法としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物を水等の溶媒に溶解させ、次いで上記した担体を加え、カルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物を当該担体に含浸させて、さらに溶媒を留去する方法が挙げられる。
【0033】
担体へのカルボキシ基含有O-置換モノヒドロキシルアミン類及び3価鉄化合物の担持量は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、本発明に用いる担体に対して各々0.1~30重量%の範囲が好ましく、1~20重量%の範囲がさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1及び比較例1~3における硫化水素濃度の経時変化を示す図である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0036】
実施例1
アミノオキシ酢酸と塩化第二鉄を各々3重量%含有する捕捉剤の水溶液を、円状ろ紙(直径125mm、アドバンテック製)に10g/m2の割合で塗布し、室温で24時間乾燥させた。このろ紙をテドラーバッグに封入して真空脱気し、20ppmの硫化水素ガスを1L注入後、25℃で放置した。1時間後、2時間後、及び3時間後のテドラーバッグ中の硫化水素濃度を検知管(ガステック製)で定量した。
【0037】
比較例1
捕捉剤を用いないこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0038】
比較例2
捕捉剤としてアミノオキシ酢酸のみを3重量%含有する水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
比較例3
捕捉剤として塩化第二鉄のみを3重量%含有する水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0040】
実施例1及び比較例1~3の結果を表1及び
図1に示した。表1、
図1より明らかなように、本発明の硫化水素捕捉剤は既存の硫化水素捕捉剤と比較して高い硫化水素捕捉性能を示した。
【0041】
【0042】
実施例2
捕捉時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様に実施した結果、24時間経過後も硫化水素濃度は0.1ppm未満であり、本発明の硫化水素捕捉剤は長時間経過後も高い硫化水素捕捉性能を維持した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の硫化水素捕捉剤は、硫化水素を速やかに且つ持続的に捕捉する。その結果、人体に有害な硫化水素を低減し、ヒトの生活環境を改善することができる。