(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231108BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231108BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
(21)【出願番号】P 2020005516
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019027371
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】赤時 正敏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 靖之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 知夫
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528842(JP,A)
【文献】特開2006-100713(JP,A)
【文献】特開2009-006469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物と、酸化セリウム粒子と、水と、を含有することを特徴とする研磨用組成物。
【化1】
式(1)
式(1)中、R
1は、S
-
、またはNR
13R
14(R
13およびR
14は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素
基である。
)であり
、
前記R
1
がS
-
である場合において、R
2
は、NR
23
R
24
(R
23
およびR
24
は、互いに結合して複素環を形成する基である。)、またはOR
26
(R
26
はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)であり、
前記R
1
がN
-
R
13
R
14
である場合において、R
2
は、炭化水素基、または、NR
43
R
44
(R
43
およびR
44
は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基である。)であり、
X
+は一価カチオンであり
、
n
は1である。
【請求項2】
下記式(2)で示される化合物と、酸化セリウム粒子と、水と、を含有することを特徴とする研磨用組成物。
【化2】
式(2)
式(2)中、R
1
は、N
-
R
12
(R
12
は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)、NR
13
R
14
(R
13
およびR
14
は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)、またはN=NR
15
(R
15
は炭化水素基である。)であり、
R
2
は、NR
43
R
44
(R
43
およびR
44
は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)またはN=NR
45
(R
45
は炭化水素基である。)であり、
X
+
は一価カチオンであり、
nはR
1
がN
-
R
12
の場合1であり、それ以外の場合0である。
【請求項3】
実質的に酸化剤を含有しない請求項1~
2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
さらに分散剤を含有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記分散剤は、カルボキシ基またはカルボン酸塩基を有する高分子化合物である請求項
4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
pHが2.0以上11.0以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pHが4.0以上9.5以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記化合物の含有割合が、前記研磨用組成物の全質量に対して0.0001質量%以上10質量%以下である請求項1~
7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を研磨パッドに供給し、半導体集積回路装置の被研磨面と前記研磨パッドとを接触させて、両者間の相対運動により研磨する方法であって、前記被研磨面はコバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属を有する研磨方法。
【請求項10】
コバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属の埋め込み配線と絶縁層とが交互に配置されたパターンを有する半導体集積回路装置を製造するための研磨方法であって、溝を有する前記絶縁層上に、前記溝を埋めるように設けられた前記金属からなる金属層を、前記研磨用組成物を用いて研磨する請求項
9に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨方法に係り、特に、半導体集積回路の製造における化学的機械的研磨のための研磨用組成物と、その研磨用組成物を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の高集積化や高機能化に伴い、半導体素子の微細化および高密度化のための微細加工技術の開発が進められている。従来から、半導体集積回路装置(以下、半導体デバイスともいう。)の製造においては、層表面の凹凸(段差)がリソグラフィの焦点深度を越えて十分な解像度が得られなくなる、等の問題を防ぐため、化学的機械的研磨法(Chemical Mechanical Polishing:以下、CMPという。)を用いて、層間絶縁膜や埋め込み配線等を平坦化することが行われている。
【0003】
従来、埋め込み配線には銅やタングステンが用いられてきたが、銅は結晶粒界が存在するため抵抗が上がり、細線化に限界があった。また、タングステンについても細線化に限界があった。そこで、コバルト、ルテニウム、モリブデン等の抵抗が低く細線化可能な金属を埋め込み配線に用いることが行われたり、検討されたりしている。
【0004】
配線形成に関わるCMPでは、このような埋め込み配線の金属材料の変更に応じて新規な研磨用組成物に対するニーズが大きい。なお、CMP用の研磨用組成物は、単なる機械的な研磨用組成物と比較して、極めて精度の高い研磨を要求されるため、非常に緻密な調整が必要となる。
【0005】
上記細線化可能な金属のうち、コバルトにおいてはCMP用の研磨用組成物が知られている。例えば、特許文献1には、それぞれ特定の化合物からなる阻害剤、酸化剤、研磨剤、錯化剤と水を所定の割合で含有するpH調整されたコバルト用のCMP用スラリーが記載されている。
【0006】
特許文献1のCMP用スラリーにおける酸化剤は、半導体デバイスを構成する金属配線のCMPにおいて加工速度を高めるために、導入することが一般的な成分である。しかし酸化剤は金属配線の腐食や研磨装置の腐食の原因となる。さらに、酸化剤は不均化反応により分解しやすく、研磨用組成物中の酸化剤濃度を一定に制御できないため、加工速度のバラつきの原因となり、研磨加工の再現性を低下させる。また、酸化剤は研磨停止層(SiN等)を酸化により変性させ、研磨停止層としての機能を弱め、研磨の制御を困難にするという問題があった。
【0007】
また、ルテニウムやモリブデンを埋め込み配線とする半導体デバイスに用いる金属配線形成のためのCMP用の研磨用組成物としては、非特許文献1に酸化剤として過炭酸ナトリウムを使うことが開示されているが、研磨速度が遅いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】M. C. Turk et al. Investigation of Percarbonate Based Slurry Chemistry for Controlling Galvanic Corrosion during CMP of Ruthenium, ECS J. Solid State Sci. Technol. 2013 volume 2, issue 5, P205-P213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、コバルト、ルテニウム、モリブデン等の抵抗が低く細線化可能な金属を用いた、特にはこれらの金属を埋め込み配線として用いた、半導体集積回路装置における配線形成のためのCMPに用いられる組成物において、酸化剤を用いなくても金属層を高い研磨速度で研磨可能な研磨用組成物と、その研磨用組成物を用いた研磨方法を提供し、さらに、金属層と絶縁膜の研磨速度の調整が可能な研磨用組成物と研磨方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の研磨用組成物は、下記式(1)で示される化合物と、酸化セリウム粒子と、水と、を含有することを特徴とする。
【0012】
【0013】
式(1)中、R1は、S-、SR11(R11は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)、N-R12(R12は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)、NR13R14(R13およびR14は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)、またはN=NR15(R15は炭化水素基である。)であり、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。X+は一価カチオンであり、nはR1がS-またはN-R12の場合1であり、それ以外の場合0である。
【0014】
本発明の研磨用組成物において、式(1)中のR1は、S-またはSR11であり、R2は、NR23R24(R23およびR24は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)、N=NR25(R25は炭化水素基である。)またはOR26(R26はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)であることが好ましい。
【0015】
本発明の研磨用組成物において、式(1)中のR1は、N-R12、NR13R14またはN=NR15であり、R2は、NR43R44(R43およびR44は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)またはN=NR45(R45は炭化水素基である。)であることが好ましい。
【0016】
本発明の研磨用組成物は、pHが2.0~11.0であることが好ましい。
【0017】
本発明の研磨用組成物における上記化合物の含有割合は、研磨用組成物の全質量に対して0.0001質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の研磨用組成物は、さらに砥粒を含有することが好ましい。
【0019】
本発明の研磨方法は、上記本発明の研磨用組成物を研磨パッドに供給し、半導体集積回路装置の被研磨面と前記研磨パッドとを接触させて、両者間の相対運動により研磨する方法であって、前記被研磨面はコバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属を有する研磨方法である。
【0020】
本発明の研磨方法は、例えば、コバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属の埋め込み配線と絶縁層とが交互に配置されたパターンを有する半導体集積回路装置の製造において、溝を有する前記絶縁層上に、前記溝を埋めるように設けられた前記金属からなる金属層を上記本発明の研磨用組成物を用いて研磨する方法に用いられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の研磨用組成物および研磨方法によれば、コバルト、ルテニウム、モリブデン等の抵抗が低く細線化可能な金属を用いた、特にはこれらの金属を埋め込み配線として用いた、半導体集積回路装置の配線形成のためのCMPに用いられる組成物において、酸化剤を用いなくても高い研磨速度で金属層を研磨可能である。本研磨用組成物は、酸化剤を含有しないと、このような酸化剤に起因する金属配線の腐食や研磨装置の腐食を招くことなく、金属層を高い研磨速度で研磨可能である。さらに、上記半導体集積回路装置の配線形成のためのCMPにおいて、研磨停止層が用いられる場合に、研磨停止層の機能を弱めることなく十分に制御された研磨が可能である。また、金属層と絶縁膜の研磨速度を調整することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】CMPによる埋め込み配線形成時の研磨工程(研磨前)を模式的に示す半導体集積回路装置の断面図である。
【
図2】CMPによる埋め込み配線形成時の研磨工程(研磨後)を模式的に示す半導体集積回路装置の断面図である。
【
図3】本発明の研磨方法に使用可能な研磨装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施の形態も本発明の範疇に属し得る。
【0024】
本明細書において、式(1)で示される化合物を化合物(1)という。他の式で示される化合物または基においても、化合物名または基の名称の代わりに式番号を化合物または基の略称として用いる。
【0025】
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0026】
本発明の研磨用組成物(以下、「本研磨用組成物」ともいう。)は、上記式(1)で示される化合物(1)と水を含有することを特徴とする。
【0027】
本研磨用組成物は、半導体集積回路の埋め込み配線の形成に用いられる金属層を研磨する用途に好適に用いられる。金属層は、埋め込み配線となる金属層であってもよく、銅配線を形成する際に用いられるバリア層のように埋め込み配線以外の金属層であってもよい。本研磨用組成物は、特に埋め込み配線となる金属層を研磨するのに好適に用いられる。
【0028】
金属層は、該金属層を構成する金属が、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)およびモリブデン(Mo)から選ばれる少なくとも1種を含む金属(以下、「金属M」ともいう。)であるのが好ましい。これらのうちでも、金属Mが、Ruを含む場合に本発明の効果が特に顕著である。金属MはCo、Ru、Moのそれぞれ1種を含んでもよく、2種以上を含んでもよい。また、Co、Ru、Mo以外の他の金属を含んでいてもよい。金属Mが複数の金属を含む場合、合金であっても、混合物であってもよい。
【0029】
以下、金属Mからなる金属配線を有する半導体集積回路装置に適用する場合を中心に説明するが、本発明に係る研磨用組成物は、金属配線研磨用であれば、その他の場合においても使用できる。
【0030】
図1および
図2は、CMPによる埋め込み配線形成時の研磨工程を説明するために、模式的に示す半導体集積回路装置の断面図である。
図1は研磨前の状態を示し、
図2は研磨後の状態を示す。これらの図面における各部材の構成は典型的な構成であって、本発明はこれに限定されない。
【0031】
図1に示す研磨前の半導体集積回路装置10は、半導体基板1上に絶縁層2、研磨停止層3、金属Mからなる金属層4がその順に形成されている。絶縁層2は溝を有し、研磨停止層3は絶縁層2上に絶縁層2の表面形状に追従する形に形成されている。金属層4は、研磨停止層3上に溝を埋める形で形成されている。
【0032】
図2は、
図1に示す研磨前の半導体集積回路装置10を研磨対象として、本研磨用組成物を用いてCMPを行い、金属層4のみを研磨し(第1研磨工程)、次いで、金属層4、研磨停止層3、および絶縁層2を研磨して(第2研磨工程)、表面を平坦化した後の、埋め込み配線6と絶縁層2とが交互に配置されたパターンを有する半導体集積回路装置11の断面図である。
【0033】
本研磨用組成物は、化合物(1)を含有することで、例えば、上記
図1および
図2に示す半導体集積回路装置の配線形成のためのCMPにおいて、酸化剤を用いなくても、金属層、特には、コバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属からなる金属層を高い研磨速度で研磨可能である。
【0034】
本研磨用組成物によれば、金属層4のみを研磨する第1研磨工程において、高い研磨速度が達成可能であり、生産効率の向上に貢献できる。さらに、金属層4、研磨停止層3、および絶縁層2を研磨する第2研磨工程において、金属層4、研磨停止層3、および絶縁層2を均等に研磨可能であり、被研磨面の平坦性が担保された研磨が可能である。本研磨用組成物によれば、酸化剤を用いない場合、得られる埋め込み配線6を構成する金属Mを腐食することが殆どなく、信頼性の高い半導体集積回路装置11が得られる。また、研磨装置の腐食等の問題がない。なお、研磨方法の詳細については後述する。
【0035】
以下、本発明の研磨用組成物に含有される各成分、およびpHについて説明する。本研磨用組成物は化合物(1)と、酸化セリウム粒子と、水と、を必須成分とする。本研磨用組成物は任意成分として、pH調整剤、砥粒、防錆剤、分散剤等を含有してもよい。
【0036】
<化合物(1)>
化合物(1)は、下記式(1)で示される。
【0037】
【0038】
式(1)中、R1は、S-、SR11(R11は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)、N-R12(R12は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)、NR13R14(R13およびR14は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)、またはN=NR15(R15は炭化水素基である。)であり、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。X+は一価カチオンであり、nはR1がS-またはN-R12の場合1であり、それ以外の場合0である。
【0039】
式(1)の説明において、炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってもよい。炭素原子数は、1~11が好ましく、1~8がより好ましい。ヘテロ原子としては、S、N、O等が挙げられる。ヘテロ原子は、炭素-炭素原子間にあってもよく、炭化水素基が結合する側の末端にあってもよい。また、ヘテロ原子は、炭素原子に結合する水素原子を置換する形で存在してもよく、炭素原子に結合する水素原子を置換する基に含まれていてもよい。ヘテロ原子を含む水素原子を置換する基として具体的には、水酸基、メルカプト基、アミノ基が挙げられる。
【0040】
化合物(1)中、R1はS-、SR11、N-R12、NR13R14、またはN=NR15である。ただし、R11~R15は、上記のとおりである。R1において、S=Cの炭素原子に結合する原子はSまたはNの2種類である。すなわち、化合物(1)は、R1の種類によって、大きく2種類に分類できる。R1におけるS=Cの炭素原子に結合する原子がSの場合の化合物(1)を、以下、化合物(1S)という。R1におけるS=Cの炭素原子に結合する原子がNの場合の化合物(1)を、以下、化合物(1N)という。
【0041】
化合物(1)は、R1がS-またはN-R12の場合、一価のアニオンであり、対カチオンとして、一価のカチオンであるX+を有する。X+の種類は特に制限されず、R1またはR2の種類に応じて適宜選択される。
【0042】
化合物(1)中、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。炭化水素基およびヘテロ原子の種類は上記のとおりである。R2の種類は、R1の種類に応じて適宜選択される。R1がいずれの場合であっても、R2においてS=Cの炭素原子に結合する原子はヘテロ原子であることが好ましい。以下、化合物(1S)および化合物(1N)における好ましい態様を説明する。
【0043】
化合物(1S)において、R1がS-の場合を化合物(1Si)、R1がSR11の場合を化合物(1Sii)とする。
【0044】
化合物(1Si)の場合、R2としては、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基が挙げられる。これらの炭化水素基が有するアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。また、これらの炭化水素基は、炭素-炭素原子間、および/またはS=Cの炭素原子に結合する原子として、ヘテロ原子を有していてもよい。また、炭素原子に結合する水素原子を置換する原子や置換基にヘテロ原子を有してもよい。
【0045】
化合物(1Si)において、R2は、S=Cの炭素原子に結合する原子がヘテロ原子であるのが好ましく、該ヘテロ原子はNまたはOであるのが好ましい。R2として具体的には、NR23R24(R23およびR24は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)、N=NR25(R25は炭化水素基である。)、OR26(R26はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。)が挙げられる。
【0046】
R23、R24、R25、R26としては、それぞれ独立して、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基が挙げられる。アルキル基の場合、炭素数は1~3がより好ましい。アリール基の場合、炭素数は6~7がより好ましい。アルアルキル基の場合、炭素数は7~8がより好ましい。なお、上記におけるアルキル基、アリール基やアルアルキル基が有するアルキレン基やアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。
【0047】
また、R23、R24、R26における炭化水素基は、炭素-炭素原子間、および/またはS=Cの炭素原子に結合する原子として、ヘテロ原子を有していてもよい。また、炭素原子に結合する水素原子を置換する原子や置換基にヘテロ原子を有してもよい。R23およびR24が互いに結合して環を形成している場合、Nを含む複素環の員数は3~7が挙げられ、5~6が好ましい。さらに、Nを含む複素環の環を構成する原子に結合する水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基、OH基に置換されていてもよい。
【0048】
化合物(1Si)におけるR2として、具体的には、NR23R24およびOR26が好ましい。化合物(1Si)の具体例を表1に示す。表1中、「Ph」はフェニル基を示す。なお、X+の具体例は後述する。また、表1に示す化合物(1Si)のうち、好ましい化合物について、化学式を示す。表1には、化学式番号を併せて示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
上記各式においてX+は一価カチオンを示す。
化合物(1Si)におけるX+として、具体的には、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、NH4
+、NH3
+R51、NH2
+R52R53、NH+R54R55R56、N+R57R58R59R60等が挙げられる。R51、R52、R53、R54、R55、R56、R57、R58、R59、R60としては、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~12のアリール基または炭素数7~13のアルアルキル基が挙げられる。アルキル基の場合、炭素数は1~4がより好ましい。アリール基の場合、炭素数は6~7がより好ましい。アルアルキル基の場合、炭素数は7~8がより好ましい。なお、上記におけるアルキル基、アリール基やアルアルキル基が有するアルキレン基やアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。
【0053】
なお、NH2
+R52R53において、R52およびR53が互いに結合して環を形成していてもよい。NH+R54R55R56において、R54、R55、R56のいずれか2つが互いに結合して環を形成していてもよい。N+R57R58R59R60において、R57、R58、R59、R60のいずれか2つが互いに結合して環を形成していてもよい。その場合、Nを含む複素環の員数は3~7が挙げられ、5~6が好ましい。さらに、Nを含む複素環の環を構成する原子に結合する水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基に置換されていてもよい。
【0054】
NH2
+R52R53として、具体的には、下記式(X-1)~(X-4)で示される一価カチオンが挙げられる。
【0055】
【0056】
化合物(1Si)において、R2がNR23R24の場合、X+は、Na+、K+、NH4
+、NH2
+R52R53等が好ましい。また、X+がNH2
+R52R53の場合、R23、R24とR52、R53が同一であるのが好ましい。例えば、化合物(1Si-2)におけるX+は、カチオン(X-1)が好ましい。同様に、化合物(1Si-5)におけるX+は、カチオン(X-3)が、化合物(1Si-6)におけるX+は、カチオン(X-4)が、化合物(1Si-7)におけるX+は、カチオン(X-2)が、それぞれ好ましい。
【0057】
化合物(1Si)において、R2がOR26の場合、X+は、Na+、K+等のアルカリ金属イオンが好ましく、K+がより好ましい。なお、化合物(1Si)は、必要に応じて水和物として用いてもよい。例えば、化合物(1Si-1)において、X+がNa+の場合、該化合物の二水和物が知られているが、このような水和物を本研磨用組成物に用いてもよい。ただし、その場合、後述に示す化合物(1)の含有量は、水和物のH2Oを除いた量として示される。
【0058】
化合物(1Sii)において、R1はSR11であり、R11としてはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基が好ましい。R11としては、例えば、S-C(=S)-R3が挙げられる。ここで、R3としては、R2と同様の基が挙げられる。
【0059】
化合物(1Sii)におけるR2は、上記化合物(1Si)の場合のR2と好ましい態様を含めて同様にできる。化合物(1Sii)として、具体的には、以下の化合物(1Sii-1)が挙げられる。
【0060】
【0061】
化合物(1N)において、R1がNR13R14の場合を化合物(1Ni)、R1がN=NR15の場合を化合物(1Nii)、R1がN-R12の場合を化合物(1Niii)とする。
【0062】
化合物(1Ni)におけるNR13R14のR13およびR14は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。R13およびR14は、両方が水素原子であるのが好ましく、いずれか一方が水素原子であり、もう一方がヘテロ原子を含む炭化水素基であることがより好ましい。ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基としては、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基が挙げられる。アルキル基の場合、炭素数は1~3がより好ましい。アリール基の場合、炭素数は6~7がより好ましい。アルアルキル基の場合、炭素数は7~8がより好ましい。なお、上記におけるアルキル基、アリール基やアルアルキル基が有するアルキレン基やアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。
【0063】
また、これらの炭化水素基は、炭素-炭素原子間、および/または窒素原子に結合する原子として、ヘテロ原子を有していてもよい。窒素原子に結合するヘテロ原子としては窒素原子が好ましい。R13およびR14のいずれか一方がヘテロ原子を有する炭化水素基の場合、該基としては、NR33R34が好ましい。R33およびR34は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。
【0064】
化合物(1Ni)において、R2としては炭素原子またはヘテロ原子を含む炭化水素基が挙げられる。R2は、S=Cの炭素原子に結合する原子が炭素原子であるのが好ましい。R2として具体的には、CH3、CH2CH3、C(=S)NH2、C(=O)OCH2CH3、Ph、CH2Ph、PhCl(オルト体, メタ体, パラ体),PhCF3(オルト体, メタ体, パラ体)、PhOH(オルト体, メタ体, パラ体)、2-Py、3-Py,4-Pyが挙げられる。なお、前記「Py」はピリジル基を示す。また、R2として具体的には、化合物(1Si)の場合のR2と同様の基も挙げられる。化合物(1Ni)において、R2は、S=Cの炭素原子に結合する原子がヘテロ原子であるのも好ましく、該ヘテロ原子は窒素原子であるのが好ましい。R2として具体的には、NR43R44(R43およびR44は、それぞれ独立して水素原子もしくはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基、または、互いに結合して複素環を形成する基である。)またはN=NR45(R45は炭化水素基である。)が挙げられる。
【0065】
R43、R44、R45としては、それぞれ独立して、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基が挙げられる。アルキル基の場合、炭素数は1~3がより好ましい。アリール基の場合、炭素数は6~7がより好ましい。アルアルキル基の場合、炭素数は7~8がより好ましい。なお、上記におけるアルキル基、アリール基やアルアルキル基が有するアルキレン基やアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。
【0066】
また、R43、R44における炭化水素基は、炭素-炭素原子間、および/またはS=Cの炭素原子に結合する原子として、ヘテロ原子を有していてもよい。R43およびR44が互いに結合して環を形成している場合、Nを含む複素環の員数は3~7が挙げられ、5~6が好ましい。さらに、Nを含む複素環の環を構成する原子に結合する水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基に置換されていてもよい。
【0067】
化合物(1Nii)におけるN=NR15のR15は炭化水素基である。炭化水素基としては、炭素数1~7のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~11のアルアルキル基が挙げられる。アルキル基の場合、炭素数は1~3がより好ましい。アリール基の場合、炭素数は6~7がより好ましい。アルアルキル基の場合、炭素数は7~8がより好ましい。なお、上記におけるアルキル基、アリール基やアルアルキル基が有するアルキレン基やアルキル基は、鎖状、分岐状、環状およびこれらを組み合わせた構造であってよい。
【0068】
化合物(1Nii)におけるR2として、化合物(1Ni)の場合のR2と同様の基が挙げられ、好ましい態様も同様にできる。
【0069】
化合物(1Niii)におけるN-R12のR12は水素原子またはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基である。R12としては、R13、R14と同様の態様が挙げられる。化合物(1Niii)におけるX+としては、化合物(1Si)におけるX+と同様の態様が挙げられる。また、化合物(1Niii)におけるR2は、上記化合物(1Ni)の場合のR2と好ましい態様を含めて同様にできる。
【0070】
化合物(1Ni)および化合物(1Nii)の具体例を表2に示す。表2中、「Ph」はフェニル基を示す。また、表2に示す化合物(1Ni)および化合物(1Nii)のうち、好ましい化合物について、化学式を示す。表2には、化学式番号を併せて示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
これらの化合物(1)の中でも、化合物(1Si-1)~(1Si-7)、化合物(1Sii-21)~(1Sii-25)、化合物(1Ni-1)、(1Ni-2)、化合物(1Nii-1)(1Nii-2)が好ましく、(1Si-1)、(1Si-2)、(1Si-4)、(1Si-5)、(1Si-6)がより好ましい。本研磨用組成物は、化合物(1)の1種のみを含有しても、2種以上を含有してもよい。
【0075】
本研磨用組成物における化合物(1)の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して0.0001質量%以上10質量%以下が好ましく、0.005質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。本研磨用組成物における化合物(1)の含有量は、研磨用組成物に対して3×10-7モル/kg以上7×10-2モル/kg以下が好ましく、2×10-5モル/kg以上4×10-2モル/kgがより好ましく、4×10-5モル/kg以上7×10-3モル/kg以下がさらに好ましい。
【0076】
化合物(1)の含有量を0.0001質量%以上とすることで、本研磨用組成物は、高い研磨速度で金属層、特には、金属Mからなる金属層を研磨可能である。化合物(1)の含有量を10質量%以下とすることで、金属層の腐食の防止や砥粒の凝集を防止することが可能である。化合物(1)の含有量を3×10-7モル/kg以上とすることで、本研磨用組成物は、高い研磨速度で金属層、特には、金属Mからなる金属層を研磨可能である。化合物(1)の含有量を7×10-2モル/kg以下とすることで、金属層の腐食の防止や砥粒の凝集を防止することが可能である。
【0077】
<砥粒>
本研磨用組成物は、必須成分として、砥粒として酸化セリウム粒子を含有する。本研磨用組成物は、酸化セリウム粒子を含有しているため、高い研磨速度で、金属層、特には、金属Mからなる金属層を研磨することができる。また、被研磨面に金属層と酸化ケイ素等からなる絶縁膜等が混在し、当該混在した膜を同時に平坦化する場合において、絶縁膜等の研磨速度の調整ができる。
【0078】
本研磨用組成物は、酸化セリウム(セリア)に加えて、その他の公知の砥粒を含有してもよい。ここで含有できる砥粒としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)、酸化クロム、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン等の金属酸化物、ダイヤモンド、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素等からなる微粒子が挙げられる。
【0079】
本研磨用組成物に含有される酸化セリウム粒子は、砥粒として用いられる粒子であれば特に限定されないが、例えば、特開平11-12561号公報や特開2001-35818号公報に記載された方法で製造された酸化セリウム粒子が使用できる。すなわち、硝酸セリウム(IV)アンモニウム水溶液にアルカリを加えて水酸化セリウムゲルを作製し、これをろ過、洗浄、焼成して得られた酸化セリウム粒子、または高純度の炭酸セリウムを粉砕後焼成し、さらに粉砕、分級して得られた酸化セリウム粒子を使用できる。また、特表2010-505735号に記載されているように、液中でセリウム(III)塩を化学的に酸化して得られた酸化セリウム粒子も使用できる。
【0080】
砥粒の粒子径は、平均二次粒子径で10nm以上200nm以下が好ましい。砥粒は研磨用組成物中において一次粒子が凝集した凝集粒子(二次粒子)として存在しているので、砥粒の好ましい粒子径を、平均二次粒子径で表すものとする。平均二次粒子径200nm超では、砥粒径が大きすぎて砥粒の濃度を大きくすることが困難となり、10nm未満では、研磨速度の向上が困難となる。砥粒の平均二次粒子径は、好ましくは20nm以上120nm以下の範囲である。平均二次粒子径は、純水等の分散媒中に分散した分散液を用いて、レーザー回折・散乱式等の粒度分布計を使用して測定される。
【0081】
砥粒は酸化セリウム粒子を単独で用いてもよく、その他の砥粒を用い2種以上を併用してもよい。なお、酸化セリウム粒子とその他の砥粒を併用する場合、砥粒中に酸化セリウム粒子を0.5質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0082】
砥粒を用いる場合、本研磨用組成物の全質量に対する砥粒の割合は、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がさらに好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより一層好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下が特に好ましい。
【0083】
砥粒は、事前に媒体に分散した状態の砥粒分散液を使用してもよい。媒体としては、水が好ましく使用できる。
【0084】
<水>
本研磨用組成物は必須成分として水を含有する。本研磨用組成物は、典型的には、化合物(1)を、水を含有する液状媒体に溶解してなる。本研磨用組成物における液状媒体は主として水からなり、液状媒体は水のみまたは水と水溶性溶媒との混合物からなることが好ましい。水としては、イオン交換し、異物が除去された純水を用いることが好ましい。水溶性溶媒としては、水溶性アルコール、水溶性ポリオール、水溶性エステル、水溶性エーテルなどを使用できる。
【0085】
本研磨用組成物における液状媒体は水のみまたは水を80質量%以上含む水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が好ましく、実質的に水のみからなることが最も好ましい。また、本研磨用組成物における液状媒体の割合は85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、特に95質量%以上が好ましい。この液状媒体の実質的全量は水からなることが好ましく、その場合、本研磨用組成物における水の含有量は、90質量%以上が好ましく、特に95質量%以上であることが好ましい。
【0086】
なお、本研磨用組成物の各成分の割合は研磨を行うときの組成割合をいう。研磨に先立ち研磨用濃縮組成物を希釈し、その希釈物を研磨に使用する場合、上記および後述の各成分の割合はこの希釈物における割合である。研磨用濃縮組成物は通常液状媒体(特に水)で希釈され、したがって、その場合、液状媒体を除く各成分の相対的割合は希釈の前後で通常は変化しない。
【0087】
(pH)
本研磨用組成物のpHは、2.0以上11.0以下が好ましい。pHが2.0以上11.0以下の範囲にあれば、本研磨用組成物は、高い研磨速度で金属層、特には、金属Mからなる金属層を研磨可能であるとともに、貯蔵安定性にも優れる。また、研磨用組成物を輸送する際や、研磨用組成物を使用する際に、より安全に扱うことができる。本研磨用組成物のpHは、3.0以上10.0以下がより好ましく、4.0以上9.5以下が特に好ましく、4.5以上9.5以下が極めて好ましい。
【0088】
本研磨用組成物は、pHを2.0以上11.0以下の所定の値にするために、pH調整剤として、種々の無機酸、および有機酸またはそれらの塩もしくは塩基性化合物を含有してもよい。
【0089】
無機酸または無機酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、およびそれらのアンモニウム塩もしくはカリウム塩等を用いることができる。有機酸またはその他の有機酸の塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸等のカルボン酸およびその塩を用いることができる。
【0090】
塩基性化合物は水溶性であることが好ましいが、特に限定されない。塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の金属水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、TMAHという。)やテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウムヒドロキシド、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等の有機アミン等を用いることができる。
【0091】
<防錆剤>
本研磨用組成物は、任意成分として、防錆剤を含むことができる。防錆剤としては、公知の防錆剤を使用でき、例えば、含窒素複素環化合物、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0092】
含窒素複素環化合物として、具体的には、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等が挙げられる。
【0093】
これらの化合物の中でも、研磨対象物の表面の平坦性向上の観点から、テトラゾール化合物、ピラゾール化合物、トリアゾール化合物、特に、トリアゾール化合物が好適である。
【0094】
トリアゾール化合物の中でも、少なくとも1つのヒドロキシアルキル基で置換されたアミノ基を有する、ベンゾトリアゾール基であることが、本発明の所期の効果を奏する上で好ましい。ここで、ヒドロキシアルキル基の数にも特に制限はないが、研磨用組成物中の分散安定性の観点から、好ましくは1つまたは2つである。
【0095】
また、ヒドロキシアルキル基におけるアルキル基の炭素数についても、特に制限はないが、研磨対象物の研磨速度低下の抑制の観点から、その炭素数は、好ましくは1~5、より好ましくは1~4、さらに好ましくは2~3である。また、ヒドロキシアルキル基の数が2つ以上になる場合のアルキル基の数は、それぞれ同じであっても異なるものであってもよいが、化合物としての保管安定性の観点や、化合物の酸化防止の観点から同じであることが好ましい。
【0096】
トリアゾール化合物は、縮合環を有しているものが好ましく、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等と縮合しているものが、化合物としての安定性の観点や、研磨用組成物の酸化防止の観点から同じであることが好ましい。また、トリアゾール化合物は、炭素数1~3のアルキル基や、ヒドロキシ基、あるいはハロゲン原子などの置換基を有するものであってもよい。
【0097】
トリアゾール化合物の例としては、例えば、2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1-メチル-1,2,4-トリアゾール、メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-3-カルボキシレート、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール、3,5-ジアミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール-5-チオール、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-ベンジル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール、3-ブロモ-5-ニトロ-1,2,4-トリアゾール、4-(1,2,4-トリアゾール-1-イル)フェノール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジプロピル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジメチル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジペプチル-4H-1,2,4-トリアゾール、5-メチル-1,2,4-トリアゾール-3,4-ジアミン、1H-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、1-カルボキシベンゾトリアゾール、5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール、5-ニトロ-1H-ベンゾトリアゾール、5-カルボキシ-1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-(1’,2’-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-5-メチルベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等が好適である。
【0098】
これらの化合物の中でも、本発明の所期の効果を効率的に奏するという観点で、また、所望の研磨速度を得ながら被研磨面の平坦性を実現できる観点で、2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1,2,3-トリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-5-メチルベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、1,2,3-トリアゾール、および1,2,4-トリアゾールなどが好ましい。
【0099】
また、ピラゾール化合物の例としては、例えば、1H-ピラゾール、4-ニトロ-3-ピラゾールカルボン酸、3,5-ピラゾールカルボン酸、3-アミノ-5-フェニルピラゾール、5-アミノ-3-フェニルピラゾール、1-アリル-3,5-ジメチルピラゾール、3,4,5-トリブロモピラゾール、3-アミノピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3,5-ジ(2-ピリジル)ピラゾール、3,5-ジイソプロピルピラゾール、3,5-ジメチル-1-ヒドロキシメチルピラゾール、3,5-ジメチル-1-フェニルピラゾール、3-メチルピラゾール、1-メチルピラゾール、4-メチルピラゾール、N-メチルピラゾール、3-アミノ-5-メチルピラゾール、3-アミノ-5-ヒドロキシピラゾール、4-アミノ-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン、アロプリノール、4-クロロ-1H-ピラゾロ[3,4-D]ピリミジン、3,4-ジヒドロキシ-6-メチルピラゾロ(3,4-B)-ピリジン、6-メチル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン等が挙げられる。
【0100】
イミダゾール化合物の例としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾール、2-クロロベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-(1-ヒドロキシエチル)ベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-フェニルベンズイミダゾール、2,5-ジメチルベンズイミダゾール、5-メチルベンゾイミダゾール、5-ニトロベンズイミダゾール、1H-プリン、1,1’-カルボニルビス-1H-イミダゾール、1,1’-オキサリルジイミダゾール、1,2,4,5-テトラメチルイミダゾール、1,2-ジメチル-5-ニトロイミダゾール、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン等が挙げられる。
【0101】
テトラゾール化合物の例としては、例えば、1H-テトラゾール、5-メチルテトラゾール、5-アミノテトラゾール、5-アミノ-1-ヒドロキシテトラゾール、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールおよび5-フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0102】
インダゾール化合物の例としては、例えば、1H-インダゾール、5-アミノ-1H-インダゾール、5-ニトロ-1H-インダゾール、5-ヒドロキシ-1H-インダゾール、6-アミノ-1H-インダゾール、6-ニトロ-1H-インダゾール、6-ヒドロキシ-1H-インダゾール、3-カルボキシ-5-メチル-1H-インダゾール等が挙げられる。
【0103】
インドール化合物の例としては、例えば1H-インドール、1-メチル-1H-インドール、2-メチル-1H-インドール、3-メチル-1H-インドール、4-メチル-1H-インドール、5-メチル-1H-インドール、6-メチル-1H-インドール、7-メチル-1H-インドール、4-アミノ-1H-インドール、5-アミノ-1H-インドール、6-アミノ-1H-インドール、7-アミノ-1H-インドール、4-ヒドロキシ-1H-インドール、5-ヒドロキシ-1H-インドール、6-ヒドロキシ-1H-インドール、7-ヒドロキシ-1H-インドール、4-メトキシ-1H-インドール、5-メトキシ-1H-インドール、6-メトキシ-1H-インドール、7-メトキシ-1H-インドール、4-クロロ-1H-インドール、5-クロロ-1H-インドール、6-クロロ-1H-インドール、7-クロロ-1H-インドール、4-カルボキシ-1H-インドール、5-カルボキシ-1H-インドール、6-カルボキシ-1H-インドール、7-カルボキシ-1H-インドール、4-ニトロ-1H-インドール、5-ニトロ-1H-インドール、6-ニトロ-1H-インドール、7-ニトロ-1H-インドール、4-ニトリル-1H-インドール、5-ニトリル-1H-インドール、6-ニトリル-1H-インドール、7-ニトリル-1H-インドール、2,5-ジメチル-1H-インドール、1,2-ジメチル-1H-インドール、1,3-ジメチル-1H-インドール、2,3-ジメチル-1H-インドール、5-アミノ-2,3-ジメチル-1H-インドール、7-エチル-1H-インドール、5-(アミノメチル)インドール、2-メチル-5-アミノ-1H-インドール、3-ヒドロキシメチル-1H-インドール、6-イソプロピル-1H-インドール、5-クロロ-2-メチル-1H-インドール等が挙げられる。
【0104】
チアゾール類としては、2,4-ジメチルチアゾール等が挙げられる。ベンゾチアゾール類としては、2-メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0105】
ノニオン性界面活性剤としては、親油基(以下の例示においてRで示される基)が炭素数12~18である高級アルコールの誘導体が挙げられる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH2CH(OH)CH2OH)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、天然由来の脂肪酸とのエステル等がある。また、脂肪アルコールエトキシレート(RO(CH2CH2O)nH)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC6H4O(CH2CH2O)nH)、アルキルグリコシド(RC6H11O6)といったエーテル等が挙げられる。
【0106】
本研磨用組成物は防錆剤の1種または2種以上を含有できる。本研磨用組成物における防錆剤の含有量は、研磨用組成物の全量に対して0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0107】
<分散剤>
本研磨用組成物には、上記成分以外に、任意成分として、分散剤(または凝集防止剤)を含有させることができる。分散剤とは、砥粒を純水等の分散媒中に安定的に分散させるために含有させるものである。分散剤としては、公知の分散剤を使用でき、例えば、陰イオン性、陽イオン性、両性の界面活性剤や、陰イオン性、陽イオン性、両性の高分子化合物が挙げられ、これらの1種または2種以上を含有させることができる。
【0108】
分散剤としては、カルボキシ基、スルホ基、ホスホン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、またはホスホン酸塩基を有する高分子化合物が好ましく、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、p-スチレンスルホン酸、ビニルホスホン酸等のカルボキシ基、スルホ基またはホスホン酸基を有するモノマーの単独重合体や、当該重合体のカルボキシ基、スルホ基またはホスホン酸基の部分がアンモニウム塩等の塩となっている単独重合体が挙げられる。また、カルボキシ基、スルホ基またはホスホン酸基を有するモノマーと、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基またはホスホン酸塩基を有するモノマーや、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基またはホスホン酸塩基を有するモノマーとカルボン酸のアルキルエステル等の誘導体と、の共重合体も好ましく使用される。さらに、ポリビニルアルコール等の高分子化合物、オレイン酸アンモニウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等の陰イオン性界面活性剤が好適に使用できる。
【0109】
これらの中でも、分散剤としては、特にカルボキシ基またはその塩を有するポリマーが好ましい。具体的には、ポリアクリル酸、またはポリアクリル酸のカルボキシ基の少なくとも一部がカルボン酸アンモニウム塩基に置換されたポリマー(以下、ポリアクリル酸アンモニウムと称する)等が挙げられる。ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子化合物を使用する場合は、その重量平均分子量は1000~50000であることが好ましく、2000~30000であることがより好ましく、3000~25000が特に好ましい。
【0110】
本研磨用組成物における分散剤の含有量は、分散安定性維持の目的のために、研磨用組成物の全質量に対して、0.001~0.5質量%であることが好ましく、特に0.001~0.2質量%であることが好ましい。
【0111】
また、本研磨用組成物には、潤滑剤、粘性付与剤または粘度調節剤、防腐剤等を必要に応じて適宜含有させることができる。
【0112】
本研磨用組成物は、酸化剤を添加することもできるが、酸化剤を用いなくても金属層を高い研磨速度で研磨可能で、実質的に酸化剤を含有しないことが好ましい。酸化剤として、典型的には、熱や光等の外部エネルギーによって酸素-酸素結合が解離しラジカルを生成する酸素-酸素結合を持つ過酸化物が挙げられる。過酸化物系酸化剤の例としては、過酸化水素、過硫酸塩類、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム等の過ヨウ素酸塩、ペルオキソ炭酸塩類、ペルオキソ硫酸塩類、ペルオキソリン酸塩類等の無機過酸化物や、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、過ギ酸、過酢酸、メタクロロ過安息香酸等の有機過酸化物などが挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。また、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、過硫酸塩、硝酸セリウム塩等、次亜塩素酸、オゾン水が挙げられる。
【0113】
従来の配線形成用の研磨用組成物においては、酸化剤を含有することで金属層の研磨において高い研磨速度を得る一方、金属配線の腐食や研磨装置の腐食等その弊害が問題であった。本研磨用組成物は、酸化剤を含有しないことで、このような酸化剤に起因する金属配線の腐食や研磨装置の腐食を招くことなく、金属層を高い研磨速度で研磨可能である。
【0114】
<研磨用組成物の調製方法>
本研磨用組成物を調製するには、純水やイオン交換水等の水を含む液状媒体に、必須成分である化合物(1)および酸化セリウム粒子を加えて、さらに、必要に応じて任意成分としての防錆剤等を加えて、混合すればよい。その際、必要に応じてpH調整剤を加えて、得られる研磨用組成物のpHが上記好ましい範囲内となるように調製してもよい。本研磨用組成物に酸化セリウムやその他の砥粒を含有させるには、砥粒を分散させた分散液に、上記各成分を加えて混合する方法が用いられる。混合後、撹拌機等を用いて所定時間撹拌することで、均一な本研磨用組成物が得られる。また、混合後、超音波分散機を用いて、より良好な分散状態を得ることもできる。
【0115】
本研磨用組成物は、必ずしも予め構成する成分をすべて混合したものとして、研磨の場に供給する必要はない。研磨の場に供給する際に、各成分が混合されて研磨用組成物の組成やpHになってもよい。
【0116】
<研磨方法>
本発明は、上記本発明の研磨用組成物を用いて半導体集積回路装置の被研磨面を研磨する研磨方法を提供する。本発明の研磨方法は、本研磨用組成物を研磨パッドに供給し、半導体集積回路装置の被研磨面と上記研磨パッドとを接触させて、両者間の相対運動により研磨する方法であって、上記被研磨面はコバルト、ルテニウムおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種を含む金属、すなわち金属Mを含む。
【0117】
なお、本発明において、「被研磨面」とは、半導体集積回路装置を製造する過程で現れる中間段階の表面を意味する。例えば、
図1および
図2に示す半導体集積回路装置の研磨においては、金属層、研磨停止層および絶縁層が研磨の対象物となり得る。この場合、「被研磨面」には、金属層が存在し、金属層に加えて研磨停止層および絶縁層が存在することがある。
【0118】
また、本発明における「金属層」とは、面状の金属層よりなる層を意味するが、必ずしも
図1のように一面に広がった層だけを指すものではなく、
図2のように個々の配線の集合としての層も含まれる。また、面状の金属層と他の部分とを電気的に接続するためのビア等の部分も含めて、「金属層」と考えることができる。
【0119】
図1および
図2に示す研磨においては、金属Mからなる金属層4のみを研磨する第1研磨工程と、金属層4、研磨停止層3、および絶縁層2を研磨する第2研磨工程の2段階の研磨工程を有する。本発明に係る研磨用組成物は、この研磨工程のどの段階に使用してもよい。本研磨用組成物を用いる第1研磨工程においては、金属層4を高速で研磨可能である。本研磨用組成物を用いる第2研磨工程においては、金属層4、研磨停止層3、および絶縁層2が、高い研磨速度で略均等に研磨され被研磨面の平坦化が効率よく達成できる。
【0120】
なお、絶縁層2としてはケイ素酸化物(SiO2)膜が知られている。このようなケイ素酸化物膜としてはテトラエトキシシラン(TEOS)をCVD法により堆積させたものが一般的である。
【0121】
また、近年は、信号遅延の抑制を目的としてこのSiO2膜の替わりに低誘電率絶縁層が用いられる場合も増えてきた。この材料としてフッ素添加酸化ケイ素(SiOF)からなる膜、有機SOG(Spin on glassにより得られる有機成分を含む膜)、ポーラスシリカ等の低誘電率材料以外に、CVD法(化学的気相法)によるSiOC膜が知られている。
【0122】
低誘電材料の有機ケイ素材料としては、商品名:Black Diamond(比誘電率2.7、アプライドマテリアルズ社技術)、商品名Coral(比誘電率2.7、Novellus Systems社技術)、Aurora2.7(比誘電率2.7、日本ASM社技術)等を挙げることができ、とりわけSi-CH3結合を有する化合物が好ましく用いられている。本研磨用組成物は、これら各種の絶縁層を採用する場合に好適に使用することができる。
【0123】
また、研磨停止層3としては、SiN層、TiN層等が知られている。本研磨用組成物は、これら各種の研磨停止層を採用する場合に好適に使用することができる。本研磨用組成物は酸化剤を含有しないことで、例えば、SiN等を酸化により変性させ、研磨停止層としての機能を弱め、研磨の制御を困難にするということも殆どない。
【0124】
上記研磨方法において、研磨装置としては従来公知の研磨装置を使用することができる。
図3は、本発明の実施形態に使用可能な研磨装置の一例を示す図である。この研磨装置20は、半導体集積回路装置21を保持する研磨ヘッド22と、研磨定盤23と、研磨定盤23の表面に貼り付けられた研磨パッド24と、研磨パッド24に研磨用組成物25を供給する供給配管26とを備えている。供給配管26から研磨用組成物25を供給しながら、研磨ヘッド22に保持された半導体集積回路装置21の被研磨面を研磨パッド24に接触させ、研磨ヘッド22と研磨定盤23とを相対的に回転運動させて研磨を行うように構成されている。なお、本発明の実施形態に使用される研磨装置はこのような構造のものに限定されない。
【0125】
研磨ヘッド22は、回転運動だけでなく直線運動をしてもよい。また、研磨定盤23および研磨パッド24は、半導体集積回路装置21と同程度またはそれ以下の大きさであってもよい。その場合は、研磨ヘッド22と研磨定盤23とを相対的に移動させることにより、半導体集積回路装置21の被研磨面の全面を研磨できるようにすることが好ましい。さらに、研磨定盤23および研磨パッド24は回転運動を行なうものでなくてもよく、例えばベルト式で一方向に移動するものであってもよい。
【0126】
このような研磨装置20の研磨条件には特に制限はないが、研磨ヘッド22に荷重をかけて研磨パッド24に押しつけることで、より研磨圧力を高め、研磨速度を向上させることも可能である。研磨圧力は0.5~50kPa程度が好ましく、研磨速度の半導体集積回路装置21の被研磨面内均一性、平坦性、スクラッチなどの研磨欠陥防止の観点から、3~40kPa程度がより好ましい。研磨定盤23および研磨ヘッド22の回転数は、50~500rpm程度が好ましいがこれに限定されない。また、研磨用組成物25の供給量については、被研磨面構成材料や研磨用組成物の組成、上記各研磨条件等により適宜調整、選択されるが、例えば、直径200mmのウェハを研磨する場合には、概ね100~300ml/分程度の供給量が好ましい。
【0127】
研磨パッド24としては、一般的な不織布、発泡硬質ポリウレタン、多孔質樹脂、非多孔質樹脂などからなるものを使用することができる。また、研磨パッド24への研磨用組成物25の供給を促進し、あるいは研磨パッド24に研磨用組成物25が一定量溜まるようにするために、研磨パッド24の表面に格子状、同心円状、らせん状などの溝加工が施されていてもよい。
【0128】
また、必要により、パッドコンディショナーを研磨パッド24の表面に接触させて、研磨パッド24表面のコンディショニングを行いながら研磨してもよい。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0130】
例1~11は実施例、例12~13は比較例である。以下の例において、「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。また、特性値は下記の方法により測定し評価した。
【0131】
[pH]
pHは、東亜ディーケーケー社製のpHメータHM-30Rを使用して測定した。
【0132】
[平均二次粒子径]
平均二次粒子径は、レーザー散乱・回折式の粒度分布測定装置(堀場製作所製、装置名:LA-920)を使用して測定した。
【0133】
[研磨特性]
研磨特性は、全自動CMP研磨装置(Applied Materials社製、装置名:Mirra)を用いて以下の研磨を行い評価した。研磨パッドは、発泡硬質ポリウレタンパッドを使用し、研磨パッドのコンディショニングには、CVDダイヤモンドパッドコンディショナー(スリーエム社製、商品名:Trizact B5)を使用した。研磨条件は、研磨圧力を13.8kPa(2psi)、研磨定盤の回転数を80rpm、研磨ヘッドの回転数を79rpmとした。また、研磨剤の供給速度は200ミリリットル/分とした。
【0134】
研磨速度[オングストローム/分]の測定のために、研磨対象物(被研磨物)として、以下の(A)および(B)を準備した。
(A)8インチシリコンウェハ上に、テトラエトキシシランを原料にプラズマCVDにより二酸化ケイ素膜が成膜された二酸化ケイ素膜付き基板。
(B)8インチシリコンウェハ上に、ルテニウム層を有するルテニウム層付き基板。
【0135】
基板上に成膜された二酸化ケイ素膜の膜厚の測定には、KLA-Tencor社の膜厚計UV-1280SEを使用した。また、ルテニウム層の膜厚の測定には、国際電気セミコンダクターサービス社製の抵抗率測定器VR300Dを使用した。
【0136】
[例1]
純水、化合物(1Si-1)・K+、ポリアクリル酸およびpH調整剤を混合して、所定のpHになるように調整した混合液を作製し、この混合液をさらに、平均一次粒子径60nm(平均二次粒子径90nm)の酸化セリウム粒子を純水に分散させた酸化セリウム分散液に加えて混合し、pHが9.0の研磨用組成物(1)を得た。研磨用組成物(1))中の各成分の含有量は表3に示すとおりである。
【0137】
[例2~4]
例1の酸化セリウム粒子の含有量を変更した以外は例1と同様に調製して、研磨組成物(2)~(4)を得た。研磨用組成物(1)~(4)について上記の方法により研磨特性を測定した。結果を併せて表3に示す。
【0138】
化合物(1Si-1)・K+は、化合物(1Si-1)においてX+がK+である化合物である。以下、化合物(1)については化合物(1Si-1)・K+と同様に、表1の化合物の略称とX+を示すカチオン自体またはその略称との組み合わせで表記する。
【0139】
[例5~11]
化合物(1Si-1)・K+のかわりに、表3に示す化合物(1)を用い、酸化セリウムの配合量とpHを表3に示す数値に調整した以外は、例2と同様にして、例5~11の研磨用組成物(5)~(11)を調製し、上記の方法により研磨特性を測定した。結果を表3に示す。
【0140】
[例12]
化合物(1Si-1)・K+と水を混合し、さらにpH調整剤によりpHを10.0に調整して、研磨用組成物(12)を得た。研磨用組成物(12)中の各成分の含有量は表3に示すとおりである。研磨用組成物(12)について上記の方法により研磨特性を測定した。結果を併せて表3に示す。
【0141】
[例13]
例13として、酸化セリウム粒子の含有量を表3に示す数値に調整し、化合物(1)を含有しない以外は例3と同様にして研磨用組成物(13)を調製し、上記の方法により研磨特性を測定した。研磨用組成物(13)の組成と評価結果を表3に示す。
【0142】
【0143】
表3から、実施例の研磨用組成物は、ルテニウム層の研磨速度が高いと言える。式(1)で示される化合物の種類を変えることで、ルテニウム層の研磨速度を変えることが可能である。また、酸化セリウム砥粒の濃度を調整することで、二酸化ケイ素膜の研磨速度や、ルテニウム層と二酸化ケイ素膜の研磨速度の選択比を任意に調整することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の研磨用組成物および研磨方法によれば、コバルト、ルテニウム、モリブデン等の抵抗が低く細線化可能な金属を用いた、特にはこれらの金属を埋め込み配線として用いた半導体集積回路装置の配線形成のためのCMPに用いられる組成物において、酸化剤を用いなくても高い研磨速度で金属層を研磨可能である。また、同時に、二酸化ケイ素膜等の絶縁膜も任意の研磨速度で研磨可能である。以上により、金属層と絶縁層を研磨する工程において、金属層と絶縁層を均等に研磨することが可能となり、被研磨面の平坦性が担保された研磨が可能となる。
【符号の説明】
【0145】
1…半導体基板、2…絶縁膜、3…研磨停止層、4…金属層、6…埋め込み配線、
20…研磨装置、21…半導体集積回路装置、22…研磨ヘッド、23…研磨定盤、
24…研磨パッド、25…研磨用組成物、26…供給配管