(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ボイラの化学洗浄方法
(51)【国際特許分類】
F28G 9/00 20060101AFI20231108BHJP
F22B 37/52 20060101ALI20231108BHJP
B08B 9/032 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F28G9/00 L
F22B37/52 B
B08B9/032 321
(21)【出願番号】P 2020028484
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】清滝 一宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆信
(72)【発明者】
【氏名】財津 昭則
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124412(JP,A)
【文献】特開2004-329978(JP,A)
【文献】特開2015-132453(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0151656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28G 9/00
F22B 37/52
B08B 9/032
F28G 15/00
F22B 37/48
B08B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置された複数の蒸発管よりなる蒸発管パネルを有するボイラ
の該蒸発管パネルに洗浄液を通液して該蒸発管パネルを化学洗浄する
ボイラの化学洗浄方法において、
該蒸発管パネルを
赤外線カメラで撮影して得られる該蒸発管パネルの温度分布を
モニタリングしながら昇温と洗浄を行う
ボイラの化学洗浄方法であって、
前記蒸発管パネルの全ての蒸発管を同時にモニタリングし、
前記蒸発管パネルに通液する洗浄液の温度を50℃以上とすることを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、前記温度分布が所定以上不均一となった場合には、化学洗浄液をボイラ内に循環させるポンプの流量増大を行うか、又はポンプの起動停止もしくはポンプ吐出流量の増減を繰り返す事で流量変化を与えることを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記
赤外線カメラがボイラ炉内に設置されており、該
赤外線カメラが収納箱内に設置されており、
該収納箱内を冷却手段で冷却することを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、前記赤外線カメラを複数台設置して前記蒸発管パネルの全ての蒸発管について同時にモニタリングすることを特徴とするボイラの化学洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラの化学洗浄方法に係り、特に並列された蒸発管を満遍なく化学洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電ボイラの蒸気系の概略的な構成を
図2に示す。バーナ1により火炉2で燃料を燃焼させることにより発生した蒸気は、蒸気ドラム3、飽和蒸気管4、過熱器5、主蒸気管6、主蒸気止弁6aを通って高圧タービン7に供給される。そして、高圧タービン7で仕事をした蒸気は、低温再熱蒸気管8を通って再熱器9に送られて加熱され、高温再熱蒸気管10を通って中圧タービン11及び低圧タービン12に供給されて仕事を行う。また、低圧タービン12で仕事をした蒸気は復水器13で復水された後、脱気管14、ボイラ給水ポンプ15、節炭器16を通って再び火炉2に戻される。
【0003】
なお、主蒸気管6にはドレン弁を有したドレン管6bが接続されている。
【0004】
火炉壁管上部の出口側にノーズ壁管20が設けられている。ノーズ壁管20は、
図3に示すように、側面視形状がノーズ形(く字形)となるように曲成された多数の蒸発管21を有しており、火炉内方へ張り出している。ノーズ壁管20は、燃焼ガスが火炉出口へ短絡的に流れることを防止するためのものである(特許文献1)。
図4の通り、ノーズ壁管20の下端はノーズ壁管入口管寄せ22に連なり、上端はノーズ壁管出口管寄せ23に連なっている。
【0005】
このような火力発電ボイラの蒸気系において、蒸発管、蒸気ドラム、降水管、集合管寄せなどに洗浄薬液を循環させて化学洗浄する方法が知られている(特許文献2~4)。
【0006】
事業用および一般産業用のボイラにおいて、水冷壁蒸発管の内面に付着生成する鉄酸化物等のスケールを化学洗浄で除去する際に、ボイラ構造によって化学洗浄液の通液バランスが蒸発管毎に不均等になり、流量が低下した蒸発管では放熱により所定の温度が維持できなくなる等の障害が発生し、スケールが除去できずに残留する懸念がある。
【0007】
特に、大型の事業用ボイラではボイラ蒸発管の構成や構造が複雑であり、蒸発管の管路の途中で中部側壁管とノーズ壁管や、上部水冷壁管とノーズ壁管に缶水が分流される構造のものがある。
【0008】
化学洗浄の際にはボイラ運転中よりも洗浄設備の制約から小流量で循環洗浄を行っており、ボイラに送り込む流量は管理するものの、分流後の各々の蒸発管に流れる流量のバランスが把握できず、一部の蒸発管に化学洗浄液が多く通液し、他の蒸発管では通液不足となり、洗浄が不十分となるおそれがある。
【0009】
例えば、ノーズ壁管は1本の管寄におよそ500本前後の蒸発管が一列に並んで配置されており、化学洗浄液がノーズ壁管入口管寄の両端より供給されるが、管寄の左右と中央部では均一の流量で蒸発管に流れるか否かが把握できておらず、
図5に示すように流量が不均一になるおそれがある。
【0010】
また、ノーズ壁管の水平部では、流量が少ないと、化学洗浄中に有機酸が分解して発生する炭酸ガスや、酸とボイラ構成材料の炭素鋼と反応して発生する水素ガスが滞留し始め、やがて化学洗浄液が通液しなくなる可能性がある。
【0011】
このような事象を防止するため、例えば超音波流量計を各蒸発管に設置し、流量又は流速を管理しながら化学洗浄することが考えられる(特許文献4)。しかしながら、多数の蒸発管の各々に超音波流量計を設置することは作業に長時間を要し、また超音波流量計のコストも高くなり、不適である。
【0012】
また、化学洗浄液をボイラ内に注入する昇温工程で、循環水に蒸気を注入する際に、40~50℃程度の低温の段階で素手による触診を行ったり、接触温度計の熱電対を蒸発管に取り付けたりしておき、蒸発管温度が化学洗浄液の温度と同等であれば二次的に化学洗浄液が通液できていると判断する方法もあるが、すべての蒸発管に熱電対を設置するため、長時間がかかり、またコスト高であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】WO2004/023037号公報
【文献】特開2006-322672号公報
【文献】特開2015-230150号公報
【文献】特開2019-124412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、化学洗浄中の蒸発管内流量(流速)が把握できないため、化学洗浄中に一部の蒸発管路に空気やガス溜まりが発生する事により通液が阻害され、その蒸発管には化学洗浄液が行き渡らなくなる懸念や、化学洗浄液の通液不均一が発生する事により、洗浄液の流量が低下して放熱により液温度が低下し、スケールが除去できなくなる可能性があった。
【0015】
本発明は、蒸発管の流量を容易に管理することができ、各蒸発管を十分に化学洗浄することができるボイラの化学洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のボイラの化学洗浄方法は、並列配置された複数の蒸発管よりなる蒸発管パネルを有するボイラを化学洗浄する方法において、該蒸発管パネルをサーモグラフィで撮影して得られる該蒸発管パネルの温度分布を管理しながら昇温と洗浄を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様では、前記温度分布が所定以上不均一となった場合には、化学洗浄液をボイラ内に循環させるポンプの流量増大を行うか、又はポンプの起動停止もしくはポンプ吐出流量の増減を繰り返す事で流量変化を与える。
【0018】
本発明の一態様では、前記サーモグラフィがボイラ炉内に設置されており、該サーモグラフィが収納箱内に設置されており、該収納箱内を冷却手段で冷却する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボイラの化学洗浄方法では、蒸発管パネルの温度分布を管理し、蒸発管パネルの温度分布が均一であることを確認しながら各蒸発管に化学洗浄液を均等に通液することにより、各蒸発管を十分に化学洗浄することができる。
【0020】
本発明によると、化学洗浄中の各蒸発管への通液が均等となるので、ガスやエアー溜まりによる通液不良や、放熱による温度低下を回避してスケールの取り残しを防止し、十分に化学洗浄することができる。これにより、ボイラプラントの長期安全運転に繋げる事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態に係るボイラの化学洗浄方法における蒸発管パネルの温度分布測定システムを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1を参照して実施の形態について説明する。この実施の形態に係る洗浄方法が適用されるボイラの構成は
図2と同様であり、ノーズ壁管20の構成は
図3,4と同様である。
【0023】
この実施の形態では、蒸発管パネル(本例ではノーズ壁管20)の温度分布を測定するために赤外線カメラ30を用いている。赤外線カメラ30は三脚等によって安定に保持されている。
【0024】
具体的には、1台以上の赤外線カメラ(サーモグラフィ)30を測定対象とする蒸発管パネル(ノーズ壁管20)の近傍に配置する。なお、
図1では、赤外線カメラを三脚によって保持しているが、これに限定されない。赤外線カメラ30の画像出力信号をLANケーブル40等を用いるなどして化学洗浄を管理する場所まで伝送し、温度データ管理用のコンピュータ41に入力し蒸発管から放射される赤外線を解析し熱分布図とすることで温度分布のモニタリングを行う。
【0025】
即ち、蒸発管パネルから放射される赤外線を赤外線カメラ(サーモグラフィ)で捉え、画像信号として画像処理用コンピュータに伝送し、温度分布画像を作成する。蒸発管パネルのチューブ本数により、必要に応じて赤外線カメラの台数を複数化することで、全ての蒸発管を同時にモニタリングする事も可能である。
【0026】
なお、赤外線カメラ30を高温のボイラ炉内に設置する場合は、化学洗浄中に高温となる炉内雰囲気から保護するため、赤外線カメラを冷却ジャケット内に収納し、冷却水や冷却エアーを流通させる事で赤外線カメラを冷却して保護する。
図1では圧縮空気を冷却器32で冷却し、冷却空気を冷却ジャケット内に供給する。
【0027】
蒸発管パネルの温度分布が不均一となった場合(例えば、最も温度の高い蒸発管の温度と最も温度の低い蒸発管の温度との差が設定値以上となった場合)には、直ちに化学洗浄液をボイラ内に循環させる仮設循環ポンプの起動停止やポンプ吐出流量の増減を繰り返す事で流量変化を与え当該蒸発管の通液改善を促す。
【0028】
このボイラの各壁管及び節炭器等を化学洗浄するに際しては、ボイラの運転停止後、仮設供給管を介して水張りし、仮設循環ポンプを作動させると共に、加温用蒸気及び洗浄薬液を注入する。洗浄水は、仮設配管、給水管、節炭器、火炉の下部壁管及び上部壁管と、火炉出口壁管又はノーズ壁管、マニホールド、汽水分離器及びドレンタンクに循環され、この間の汽水分離器、ドレンタンク、節炭器、壁管及び各管寄せが化学洗浄される。
【0029】
所定時間この化学洗浄を継続した後、仮設循環ポンプを停止し、洗浄水を排水管へ流出させる。また、清水を供給し、汽水分離器、ドレンタンク、節炭器、壁管及び各管寄せを水洗し、排水管から流出させる。
【0030】
系内に残留していた洗浄薬液の押出しが終了した後は、防錆及びブローを行った後、仮設配管を撤去し、通常の水洗及び起動操作を行ってボイラの運転を再開する。
【0031】
この洗浄方法によると、化学洗浄中の通液の不均一を赤外線カメラによって温度分布を測定して管理する事により、ガスやエアー溜まりによる通液不良や、放熱による温度低下を回避してスケールの取り残しを防止し、十分に化学洗浄することができる。これにより、ボイラプラントの長期安全運転に繋げる事が可能となる。
【0032】
本発明方法は、ボイラ全体を洗浄する場合にも、またノーズ壁管のみを選択的に化学洗浄する場合にも適用可能である。
【0033】
スケールを溶解除去する洗浄剤としては、無機酸では塩酸、フッ酸、スルファミン酸、有機酸ではクエン酸、グリコール酸、ギ酸、シュウ酸、グルコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、酢酸などを用いる事ができ、キレート系洗浄剤ではエチレンジアミン四酢酸やその塩類などを用い、これらに還元剤としてアスコルビン酸、エリソルビン酸、ヒドラジン、腐食抑制剤などの助剤を混合して使用する。適用する薬品はスケール成分や付着状態から事前試験などを実施して最も経済性の良い薬品組成を選定するのが望ましい。蒸発管に通液する洗浄液の温度は、50℃以上特に60℃以上程度が好ましい。
【符号の説明】
【0034】
2 火炉
20 ノーズ壁管
30 赤外線カメラ