IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-フレキシブル基板の製造方法 図1
  • 特許-フレキシブル基板の製造方法 図2
  • 特許-フレキシブル基板の製造方法 図3
  • 特許-フレキシブル基板の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】フレキシブル基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20231108BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H05K3/38 B
H05K3/24 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020042949
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021145044
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下地 匠
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069578(JP,A)
【文献】特開2012-149284(JP,A)
【文献】特開2013-142034(JP,A)
【文献】特開2016-191104(JP,A)
【文献】特開2020-012156(JP,A)
【文献】特開2012-246511(JP,A)
【文献】特開2001-270034(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H05K 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)、(2);
(1)下地金属層形成工程:ベースフィルムの両面に下地金属層を形成し第1基板を製造する工程、
(2)銅導体層形成工程:前記第1基板の下地金属層に重畳して湿式めっき法により銅導体層を形成し、第2基板を製造する工程、
を包含し、前記下地金属層形成工程の後段階であり、かつ前記銅導体層形成工程の前段階において、前記第1基板をロールに巻き付ける際に、前記第1基板に金属箔を重ね合わせて巻き付ける、
ことを特徴とするフレキシブル基板の製造方法。
【請求項2】
前記下地金属層形成工程は、
前記ベースフィルムの一方の面に前記下地金属層を形成し、片面基板を製造した後、
該片面基板をロールに巻き付けることなく、他方の面に前記下地金属層を形成し前記第1基板を製造する、
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項3】
前記下地金属層の最表面側の金属層は、銅が99.99%以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属箔は、前記下地金属層の最表面側の金属層と同じ成分である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフレキシブル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板の製造方法に関する。さらに詳しくは、フレキシブル基板の寸法安定性を高くすることが可能なフレキシブル基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COF(Chip on Film)、FPC(Flexible Printed Circuits)などの電子機器用のフレキシブル配線基板は、搭載される電子機器の薄型、小型化の要求により、より高密度な実装を可能とするため、形成される配線パターンの微細化、狭ピッチ化が進んでいる。この中でも特にCOFは、液晶パネル、有機ELパネルとドライバICと、を接続する配線材料として使用されているため、液晶パネル等の表示画面の高精細化に伴い、より狭ピッチ化が進み、最近では20μmピッチ以下の極微細配線を有するフレキシブル配線基板が使用されている。これらのフレキシブル配線基板は、現在特許文献1または2に開示されているメタライジング法で製造されたフレキシブル基板から製造されることが多い。すなわち、フレキシブル基板からサブトラクティブ法またはセミアディティブ法により、フレキシブル配線基板が製造される。
【0003】
上記のようなフレキシブル配線基板は、ドライバICなどのデバイスを実装する際、配線ピッチが狭いため、配線幅は高い精度で形成される必要があるとともに、配線の位置が正確である必要がある。このため、これらの微細配線を有するフレキシブル配線基板を製造するためのフレキシブル基板は、その製造工程において伸縮挙動が制御可能であることが求められる。
【0004】
フレキシブル配線基板の伸縮挙動の指標として、一般に寸法安定性(DS:Dimension Stability)という評価が用いられる。たとえばJIS K 7133では「プラスチック-フィルム及びシート-加熱寸法変化測定方法」が規定されている。この規定に従い、フレキシブル基板では例えば以下のように測定を行う。すなわち、ベースフィルムにあらかじめ測定基準点を形成し、その測定基準点間の距離を測定する(Method A)。つぎにCu層をエッチングした後の測定基準点間の距離を測定する(Method B)。さらに150℃、30分間加熱し、冷却した後の測定基準点間の距離を測定する(Method C)。これらの数値から、寸法変化率(以下DS値ということがある。)を求めて、寸法安定性を評価する。例えば、加熱前の測定基準点間の距離をL、加熱後の測定基準点間の距離をLとすると、寸法変化率、すなわちDS値は数1のように表される。このDS値のばらつきが大きいと寸法安定性が低く、ばらつきが小さいと寸法安定性が高いと判断する。
【0005】
(数1)
DS値 = (L-L)/L
【0006】
また、COF、FPCなどに用いられるフレキシブル基板は、ロール状になった状態から巻き出し、所定の工程を経た後、ロール状に巻き取られる方式、すなわちロールトゥーロール方式で製造される。
【0007】
両面に銅導体層が形成されているフレキシブル基板を、ロールトゥーロール方式で製造する場合、例えば以下のようにフレキシブル基板は製造される。すなわち、ベースフィルムの片面に下地金属層をスパッタリング法により形成する。そしてこの状態の基板をロール状に巻き取る。次にこのロール状に巻き取られた基板のもう一方の面に、同じようにスパッタリング法により下地金属層を形成する。そしてこの状態の基板をロール状に巻き取る。両面に下地金属層が形成された後において、基板をロール状に巻き取る際は、下地金属層同士が直接接触しないように、スペーサフィルムを重ね合わせながら、基板をロール状に巻き取る。
【0008】
スペーサフィルムを重ね合わせながら、ロール状に巻き取るのは、真空中でスパッタリングされた直後の金属層は表面の活性が高く、直接金属層同士が接触すると、これらの金属層同士が固着する現象(ブロッキング現象)が生じるため、これを防止するためである。ブロッキング現象が生じると下地金属層がベースフィルムから剥がれ、その部分がピンホール等の不良となる。スペーサフィルムとしては一般に樹脂フィルムが用いられている。樹脂フィルムとしてはPET、PE、PIなどが該当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平2-98994号公報
【文献】特開平6-97616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
下地金属層が形成された状態でロール状に巻き取られた基板は、湿式めっきするまでの間、ロール状に巻き取られた状態で保管される。しかし、上述したようにCOFなどでは配線の位置が高度に制御されていることが求められているところ、その保管期間の長短により、フレキシブル基板の寸法変化率がばらつくという問題がある。これは、スペーサフィルムに用いられている樹脂フィルム内の水分が、ベースフィルムに吸収されるためだと推測される。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、両面に下地金属層が形成された後、銅導体層が形成されるまでの間の基板の保管期間の長短に関わらず、寸法変化率のばらつきの小さいフレキシブル基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明のフレキシブル基板の製造方法は、次の工程(1)、(2);(1)下地金属層形成工程:ベースフィルムの両面に下地金属層を形成し第1基板を製造する工程、(2)銅導体層形成工程:前記第1基板の下地金属層に重畳して湿式めっき法により銅導体層を形成し、第2基板を製造する工程、を包含し、前記下地金属層形成工程の後段階であり、かつ前記銅導体層形成工程の前段階において、前記第1基板をロールに巻き付ける際に、前記第1基板に金属箔を重ね合わせて巻き付けることを特徴とする。
第2発明のフレキシブル基板の製造方法は、第1発明において、前記下地金属層形成工程は、ベースフィルムの一方の面に下地金属層を形成し、片面基板を製造した後、該片面基板をロールに巻き付けることなく、他方の面に下地金属層を形成し第1基板を製造することを特徴とする。
第3発明のフレキシブル基板の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記下地金属層の最表面側の金属層は、銅が99.99%以上であることを特徴とする。
第4発明のフレキシブル基板の製造方法は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記金属箔は、前記下地金属層の最表面側の金属層と同じ成分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、両面に下地金属層が形成された下地金属層形成工程の後段階で、第1基板をロールに巻き付ける際に、第1基板に金属箔を重ね合わせて巻き付ける。金属箔にはベースフィルムに影響を与える水分を含まないことから、保管期間による寸法変化率のばらつきが小さくなる。
第2発明によれば、ベースフィルムの一方の面に下地金属層が形成された片面基板を製造した後、片面基板をロールに巻き付けることなく他方の面に下地金属層を形成して第1基板を製造することにより、第1基板の製造するための時間を短縮することができる。
第3発明によれば、下地金属層の最表面側の金属層は、銅が99.99%以上であることにより、湿式めっきによる銅導体層と下地金属層との密着度が向上する。
第4発明によれば、金属箔が、下地金属層の最表面側の金属層と同じ成分であることにより、異なる成分である場合は両金属層間に電位差が生じることがあるところ、電位差が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法で使用される真空成膜装置の概略の構成図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法で製造されるフレキシブル基板の説明図である。
図3】本発明の第2実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法で使用される真空成膜装置の概略の構成図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法で製造されたフレキシブル基板のDS値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明に係るフレキシブル基板の製造方法の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのフレキシブル基板の製造方法を例示するものであって、本発明はフレキシブル基板の製造方法を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0016】
本発明に係るフレキシブル基板10の製造方法は、次の工程(1)、(2);(1)下地金属層形成工程:ベースフィルム11の両面に下地金属層12を形成し、第1基板11aを製造する工程、(2)銅導体層形成工程:第1基板11aの下地金属層12に重畳して湿式めっき法により銅導体層13を形成し、第2基板を製造する工程、を包含し、前記下地金属層形成工程の後段階であり、かつ前記銅導体層形成工程の前段階において、前記第1基板11aをロールに巻き付ける際に、前記第1基板11aに金属箔16を重ね合わせて巻き付ける。
【0017】
両面に下地金属層12が形成された下地金属層形成工程の後段階で、第1基板11aをロールに巻き付ける際に、第1基板11aに金属箔16を重ね合わせて巻き付ける。金属箔16にはベースフィルム11に影響を与える水分を含まないことから、保管期間による寸法変化率のばらつきが小さくなる。
【0018】
また、前記下地金属層形成工程は、ベースフィルム11の一方の面に下地金属層12を形成し、片面基板11cを製造した後、該片面基板11cをロールに巻き付けることなく、他方の面に下地金属層12を形成し第1基板11aを製造することが好ましい。
【0019】
ベースフィルム11の一方の面に下地金属層12が形成された片面基板11cを製造した後、片面基板11cをロールに巻き付けることなく他方の面に下地金属層12を形成して第1基板11aを製造することにより、第1基板11aの製造するための時間を短縮することができる。
【0020】
また、前記下地金属層12の最表面側の金属層は、銅が99.99%以上であることが好ましい。下地金属層12の最表面側の金属層は、銅が99.99%以上であることにより、湿式めっきによる銅導体層13と下地金属層12との密着度が向上する。
【0021】
また、前記金属箔16は、前記下地金属層12の最表面側の金属層と同じ成分であることが好ましい。金属箔16が、下地金属層12の最表面側の金属層と同じ成分であることにより、異なる成分である場合は両金属層間に電位差が生じることがあるところ、電位差が生じることがない。
【0022】
<第1実施形態>
(フレキシブル基板10の構成)
図2には、本発明の第1実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法により製造したフレキシブル基板10の断面図を示す。図2に示すように、フレキシブル基板10は、ベースフィルム11と、このベースフィルム11の両面に形成されている下地金属層12と、この下地金属層12に重畳して形成されている銅導体層13と、を含んで構成されている。下地金属層12は、たとえば、ベースフィルム11側に設けられているニッケルクロム合金層14と下地銅層15とを積層して構成されている。
【0023】
(ベースフィルム11)
本実施形態に係る製造方法で用いられるベースフィルム11は、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムが該当する。ポリイミドフィルムの他に、PET(Polyethylene Terephthalate)、LCP(Liquid Crystal Plymer)などが該当する。ベースフィルム11となる樹脂フィルムは、フレキシブル配線基板の用途により選択される。ベースフィルム11の厚さは任意に選択することができる。ただし厚さ12μm以上100μm以下のものが好ましく、さらに25μm以上38μm以下のものがさらに好ましい。
【0024】
(下地金属層12)
本実施形態に係る製造方法では、ベースフィルム11の両面に下地金属層12が形成される。下地金属層12は、下地金属層12に重畳して形成される銅導体層13とベースフィルム11との密着性を高めるために設けられる。この下地金属層12の構成は、ベースフィルム11と銅導体層13との密着力を高めるものであれば特に限定されない。本実施形態では下地金属層12は、ベースフィルム11に直接重畳されるニッケルクロム合金層14と、このニッケルクロム合金層14に直接重畳される下地銅層15と、を含んで構成されている。なお、下地金属層12は、1層だけまたは3層以上の場合もある。
【0025】
ニッケルクロム合金層14および下地銅層15は、乾式メッキであるスパッタリングにより形成されるのが好ましい。なおニッケルクロム合金層14および下地銅層15の形成は、他の乾式めっきである真空蒸着、イオンプレーティングであっても問題ない。
【0026】
ニッケルクロム合金層14の厚さは2nm以上50nm以下であることが好ましい。さらにニッケルクロム合金層14の厚さは2nm以上4nm以下であることが、より好ましい。ニッケルクロム合金層14の厚さが2nm未満である場合は、その後の各処理工程時に密着性の問題が生じやすい。また50nmよりも厚い場合は、配線加工時にニッケルまたはクロムの除去が困難になるとともに、ニッケルクロム合金層14にクラックまたはそりが生じやすくなり、この点において、ベースフィルム11と下地金属層12との密着性の問題が生じやすくなる。
【0027】
ニッケルクロム合金層14におけるクロムの重量パーセントは12パーセント以上50パーセント以下であることが好ましい。
【0028】
下地銅層15の厚さは、50nm以上500nm以下であることが好ましい。下地銅層15の厚さが50nm未満である場合、ピンホールによる欠陥の軽減効果が少なくなるとともに、その後に行われる湿式めっきの際に通電不良を引き起こす可能性がある。また、500nmを超えると、下地銅層15にクラックまたはそりが生じやすくなり、この点においてベースフィルム11と下地金属層12との密着性の問題を生じやすくなる。
【0029】
本実施形態においては、下地銅層15は下地金属層12の最表面側の金属層である。下地銅層15は銅が99.99%以上であることが好ましい。下地銅層15では、銅が99.99%以上であることにより、湿式めっきによる銅導体層13と下地金属層12との密着度が向上する。
【0030】
(下地金属層形成工程)
図1には、本発明の第1実施形態に係るフレキシブル基板10の製造方法で使用される真空成膜装置19の概略の構成図を示す。なお、以下の説明では、すでに片面に下地金属層12が形成されている片面基板11cの、下地金属層12が形成されていない面に下地金属層12を形成し、第1基板とする工程について説明する。図1では、モータで駆動するロールはM(モータ)、張力測定ロールはTP(テンションピックアップ)、フリーロールはF(フリー)の記号を付している。
【0031】
本実施形態で使用される真空成膜装置19は、巻出室20、成膜室30、および、巻取室40を含んで構成されている。真空成膜装置19は、例えば巻出室20と成膜室30との間に、巻き出された基板を乾燥させる乾燥室、またはプラズマ照射またはイオンビーム照射を行ってフィルムと金属膜の密着力を向上させる表面処理室が組み込まれる場合もある。
【0032】
巻出室20には、片面に下地金属層12が形成された片面基板11cを巻回した巻出ロール21が配置され、巻出ロール21から巻き出された片面基板11cが、フリーロール22、張力測定ロール23、および、フリーロール24を経由して成膜室30へ搬出されるように構成されている。なお、片面基板11cの巻出張力は、張力測定ロール23で測定され、巻出ロール21にフィードバック制御されるように構成されている。
【0033】
成膜室30内には、スパッタリングカソード32、33、34、35が配置されている。スパッタリングカソード32、33は、ニッケルクロム合金層14用であり、スパッタリングカソード34、35は、下地銅層15用である。成膜室30では、巻出室20から搬入された片面基板11cの片面に下地金属層12が形成されると共に、モータ駆動ロール36、張力測定ロール38、キャンロール31、張力測定ロール39、および、モータ駆動ロール37を経由して巻取室40へ搬出されるように構成されている。また、キャンロール31上流のフィルム張力(搬入張力)は、張力測定ロール38で測定され、モータ駆動ロール36にフィードバック制御されるように構成され、キャンロール31下流のフィルム張力(搬出張力)は、張力測定ロール39で測定され、モータ駆動ロール37にフィードバック制御されるように構成されている。
【0034】
巻取室40内には、巻取ロール41および金属箔巻出ロール42が配置され、成膜室30から搬入された第1基板11aが、金属箔巻出ロール42から巻き出される金属箔16を、フリーロール47を経由して第1基板11aの層間に挟み込みながら、フリーロール44、張力測定ロール45、および、フリーロール46を経由して巻取ロール41に巻き取られるように構成されている。なお、第1基板11aの巻取張力は、張力測定ロール45で測定され、巻取ロール41にフィードバック制御されるように構成されている。このように、巻出室20、成膜室30を通過し、下地金属層12が形成された第1基板11aは、この第1基板11aに重畳するように、金属箔16を挟み込みながら巻取室40の巻取ロール41に巻き取られるようになっている。
【0035】
金属箔16の材料は、銅、アルミニウム、またはこれらの合金が好ましい。金属箔16は、表面が大気に接触したものであることが好ましい。表面が大気に接触すると、表面が僅かに酸化する。この酸化した層があることにより、真空中でスパッタリングにより形成された下地金属層12と固着することが防止され、ブロッキング現象を防止できるからである。
【0036】
また、金属箔16は、下地金属層12の最表面側の金属層、すなわち下地銅層15と同じ成分であることが好ましい。金属箔16が、下地金属層12の最表面側の金属層と同じ成分であることにより、異なる成分である場合は両金属層間に電位差が生じることがあるところ、電位差が生じることがない。
【0037】
なお、図1においては、真空成膜装置19を説明するための最低限のロールしか記載していないが、図示していないロールも存在する。また、巻出室20、成膜室30、および、巻取室40を構成する各真空室は排気設備を備え、特に、成膜室30ではスパッタリング成膜のため到達圧力10-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガス導入による0.1~10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。各真空室の形状および材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。各真空室内を減圧してその状態を維持するため、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が設けられている。
【0038】
両面に下地金属層12が形成された下地金属層形成工程の後段階で、第1基板11aをロールに巻き付ける際に、第1基板11aに金属箔16を重ね合わせて巻き付ける。金属箔16にはベースフィルム11に影響を与える水分を含まないことから、保管期間による寸法変化率のばらつきが少なくなる。
【0039】
(銅導体層形成工程)
本実施形態に係る製造方法では、銅導体層形成工程において、第1基板の両面に湿式めっきにより銅導体層13を形成し、第2基板を製造する。すなわち本実施形態における第2基板は、第1基板の両面に、銅導体層13のみが形成された状態の基盤である。
【0040】
銅導体層13は、下地金属層12の表面に直接形成されている。本実施形態に係る製造方法で製造されたフレキシブル基板10が、セミアディティブ法によりフレキシブル配線基板となる場合は、銅導体層13の厚さは2μm前後である。これはフレキシブル基板10のハンドリング性が良好になるからである。また、本実施形態に係る製造方法で製造されたフレキシブル基板10が、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板となる場合は、銅導体層13の厚さは8μm前後である。なおフレキシブル基板10は、これらの厚さに限定されない。本実施形態に係るフレキシブル基板の製造方法で実施される湿式めっきは、公知の電気めっきである。
【0041】
<第2実施形態>
第1実施形態に係るフレキシブル基板10の製造方法と第2実施形態との相違点は、下地金属層形成工程に関する点のみであり、特に使用される真空成膜装置19の構成が異なっているので、この点について説明する。他の点は第1実施形態と同じである。図3には、本発明の第2実施形態に係るフレキシブル基板10の製造方法で使用される真空成膜装置19の概略の構成図を示す。図1と同様図3では、モータで駆動するロールはM(モータ)、張力測定ロールはTP(テンションピックアップ)、フリーロールはF(フリー)の記号を付している。
【0042】
第2実施形態で使用される真空成膜装置19は、巻出室20、第1成膜室50、搬送室60、第2成膜室70および、巻取室40を含んで構成されている。本実施形態で使用される真空成膜装置19は、例えば巻出室20と第1成膜室50との間に、巻き出された基板を乾燥させる乾燥室、またはプラズマ照射またはイオンビーム照射を行ってフィルムと金属膜の密着力を向上させる表面処理室が組み込まれる場合もある。
【0043】
巻出室20には、ベースフィルム11を巻回した巻出ロール21が配置され、巻出ロール21から巻き出されたベースフィルムが、フリーロール22、張力測定ロール23、および、フリーロール24を経由して成膜室30へ搬出されるように構成されている。なお、ベースフィルム11の巻出張力は、張力測定ロール23で測定され、巻出ロール21にフィードバック制御されるように構成されている。
【0044】
第1成膜室50内には、スパッタリングカソード52、53、54、55が配置されている。スパッタリングカソード52、53は、ニッケルクロム合金層14用であり、スパッタリングカソード54、55は、下地銅層15用である。第1成膜室50では、巻出室20から搬入されたベースフィルム11の片面に下地金属層12が形成されると共に、モータ駆動ロール56、張力測定ロール58、キャンロール51、張力測定ロール59、および、モータ駆動ロール57を経由して搬送室60へ搬出されるように構成されている。すなわち、第1成膜室50では、ベースフィルム11の片面に下地金属層12が形成され、片面基板11cが製造される。また、キャンロール51上流のフィルム張力(搬入張力)は、張力測定ロール58で測定され、モータ駆動ロール56にフィードバック制御されるように構成され、キャンロール51下流のフィルム張力(搬出張力)は、張力測定ロール59で測定され、モータ駆動ロール57にフィードバック制御されるように構成されている。
【0045】
搬送室60にはフリーロール61、62、63が配置され、第1成膜室50から搬入された片面基板11cがフリーロール61、62、63を経由して第2成膜室70へ搬出されるように構成されている。なお、片面基板11cが搬送室60を経由することで、次工程の第2成膜室70内において、両面に下地金属層が形成された第1基板が形成される。
【0046】
第2成膜室70内には、2つ目の成膜手段としてのスパッタリングカソード72、73、74、75が配置されている。スパッタリングカソード72、73は、ニッケルクロム合金層14用であり、スパッタリングカソード74、75は、下地銅層15用である。搬送室60から搬入された片面基板11cのもう一方の面、すなわち下地金属層12が形成されていない面に下地金属層12が形成されると共に、モータ駆動ロール76、張力測定ロール78、第二冷却キャンロール71、張力測定ロール79、および、モータ駆動ロール77を経由して巻取室40へ搬出されるように構成されている。すなわち、第2成膜室70では、他方の面に下地金属層を形成し、両面に下地金属層12が形成された第1基板11aが製造される。また、第二冷却キャンロール71上流のフィルム張力(搬入張力)は、張力測定ロール78で測定され、モータ駆動ロール76にフィードバック制御されるように構成され、第二冷却キャンロール71下流のフィルム張力(搬出張力)は、張力測定ロール79で測定され、モータ駆動ロール77にフィードバック制御されるように構成されている。
【0047】
巻取室40内には、巻取ロール41および金属箔巻出ロール42が配置され、第2成膜室70から搬入された第1基板11aが、金属箔巻出ロール42から巻き出される金属箔16を、フリーロール47を経由して第1基板11aの層間に挟み込みながら、フリーロール44、張力測定ロール45、および、フリーロール46を経由して巻取ロール41に巻き取られるように構成されている。なお、第1基板11aの巻取張力は、張力測定ロール45で測定され、巻取ロール41にフィードバック制御されるように構成されている。このように、巻出室20、第1成膜室50、搬送室60、第2成膜室を通過し、下地金属層12が形成された第1基板11aは、片面基板11cがロールに巻き付けられることなく、この第1基板11aに重畳するように、金属箔16を挟み込みながら巻取室40の巻取ロール41に巻き取られるようになっている。
【0048】
ベースフィルム11の一方の面に下地金属層12が形成された片面基板11cを製造した後、片面基板11cをロールに巻き付けることなく他方の面に下地金属層12を形成して第1基板11aを製造することにより、第1基板11aの製造するための時間を短縮することができる。
【0049】
(実施例)
以下、本発明の実施例と比較例を示して説明する。なお、本発明に係るフレキシブル基板の製造方法は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
ベースフィルム11として、厚さ34μm、幅570mmのポリイミドフィルム(宇部興産製、ユーピレックス)が用意された。このベースフィルム11の一方の面にスパッタリング法により厚さ0.05μmのニッケルクロム合金層14を形成した。このニッケルクロム合金層14における、ニッケルとクロムの割合は4:1である。さらにこのニッケルクロム合金層14に重畳するように、スパッタリング法により厚さ0.2μmの下地銅層15を形成した。ここで、ニッケルクロム合金層14と下地銅層15とは、下地金属層12を形成する。これにより片面基板11cが製造された。この片面基板11cを、直径6インチのロールに巻き取った。
【0051】
次に上記の片面基板11cの他方の面、すなわち下地金属層12が存在しない面に、同じ構成、同じ材料、同じ厚さの下地金属層12を形成し、第1基板11aを製造した。そして第1基板11aの製造の後、この第1基板11aを厚さ12μmの銅箔と重ね合わせて直径6インチのロールに巻き取った。
【0052】
上記の第1基板11aを、ロール状のままクリーンルーム内(室温25℃、湿度55%)に、1~22日にわたって保管し、数日ごとにいくつかのサンプルをピックアップし、そのサンプルに電気めっき法により銅導体層13を両面に形成し、第2基板を製造した。
【0053】
得られた第2基板のサンプルを縦(長手方向)170mm、横(幅方向)170mmのサイズにカットし、各サンプルの4つ角に直径1mmの穴を、縦横の間隔がそれぞれ150mmとなる部分に設けた。そしてこれらの穴の幅方向の間隔を、光学式測長機を用いて測定し、測定値Aを得た。
【0054】
次に上記のサンプルを40%塩化第二鉄溶液に浸漬し、サンプルの両面の銅導体層13、下地銅層15、ニッケルクロム合金層14を溶解して除去した後、温度150℃で30分間加熱し、その後湿度50%温度23℃の環境に24時間保管した後、測定値Aの測定と同じ方法で、穴の幅方向の間隔を測定し、測定値Bを得た。
【0055】
以下の数2で定義されるDS値をそれぞれ計算した。計算結果を図4に示す。
【0056】
(数2)
DS値=(測定値B-測定値A)/測定値A×100
【0057】
(比較例1)
第1基板11aに重ね合わせるものを、厚さ15μmのPETフィルムとした以外は、実施例1と同じである。比較例1で計算されTがDS値の計算結果を図4に示す。
【0058】
(実施例1および比較例1の計算結果)
図4に示すように、第1基板11aに銅箔を重ね合わせたものは、保管日数に限らず、DS値の変化割合が0.05~0.06%であり、寸法変化率のばらつきの小さいフレキシブル基板10が製造されていることがわかる。これに対し、第1基板11aにPETフィルムを重ね合わせたものは、保管日数が経過するとDS値が小さくなり、寸法変化率のばらつきが大きいことがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10 フレキシブル基板
11 ベースフィルム
11a 第1基板
11b 第2基板
11c 片面基板
12 下地金属層
13 銅導体層
16 金属箔
図1
図2
図3
図4