IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許7380424酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法
<>
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図1
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図2
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図3
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図4
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図5
  • 特許-酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/192 20220101AFI20231108BHJP
   B01F 23/233 20220101ALI20231108BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20231108BHJP
   B01F 27/93 20220101ALI20231108BHJP
   B01J 19/18 20060101ALI20231108BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20231108BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231108BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B01F27/192
B01F23/233
B01F27/90
B01F27/93
B01J19/18
C22B23/00 102
C22B3/44 101A
C01G49/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020092896
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021186720
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大乗 孔威
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104797(JP,A)
【文献】実開平4-89541(JP,U)
【文献】特開2015-54272(JP,A)
【文献】特表2010-529003(JP,A)
【文献】特開2017-39075(JP,A)
【文献】特開2018-171562(JP,A)
【文献】特開2000-300979(JP,A)
【文献】特表2007-500662(JP,A)
【文献】実開昭50-111334(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/87814(US,A1)
【文献】国際公開第2000/18948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/192
B01F 27/90
B01F 27/93
B01F 23/23
B01J 19/18
C22B 23/00
C22B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に中心軸を有する略円筒状の反応槽と、
前記反応槽の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる回転軸と、
前記回転軸に固定して設けられる複数の攪拌翼と、
ガス状の酸化剤を供給するガス供給管と、
スラリー状の中和剤を供給するスラリー供給管と、
を、備える酸化中和反応装置であって、
前記反応槽の内径(D)に対する液高さ(H)の比(H/D)が2以上であり、
前記攪拌翼のうち、前記回転軸の下端部に固定して設けられる最下段攪拌翼が傾斜ブレード型のディスクタービン翼であり、
前記攪拌翼のうち、前記最下段攪拌翼の上部に位置し、前記回転軸に固定して設けられる主攪拌翼が傾斜パドル翼であり、
前記最下段攪拌翼と前記主攪拌翼の羽根の傾斜方向が同一となるように設置されており、
前記ガス供給管は、ガス供給口の鉛直位置が、前記最下段攪拌翼よりも低い位置となるように設置されていて、
前記スラリー供給管は、スラリー供給口の鉛直位置が、最上段の前記主攪拌翼よりも高い位置となるように設置されている、
酸化中和反応装置。
【請求項2】
複数の前記主攪拌翼が互いに離間するように前記回転軸に固定して設けられている、
請求項1に記載の酸化中和反応装置。
【請求項3】
複数の前記主攪拌翼が何れも同一形状同一サイズの傾斜パドル翼である、
請求項1又は2に記載の酸化中和反応装置。
【請求項4】
前記ガス供給管は、ガス供給口の水平位置が、前記傾斜ブレード型のディスクタービン翼の旋回範囲より内側の位置となるように設置されている、
請求項1から3の何れかに記載の酸化中和反応装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の酸化中和反応装置の運転方法であって、
前記回転軸の回転方向が前記反応槽の中心軸に沿って下降し、前記反応槽の内壁に沿って上昇する攪拌流を形成する方向である、酸化中和反応装置の運転方法。
【請求項6】
前記回転軸の回転数を60rpm以上100rpm以下とする、
請求項5に記載の酸化中和反応装置の運転方法。
【請求項7】
前記酸化剤は塩素ガスであり、
前記反応槽中において、不純物として少なくとも鉄イオンを含んだ塩化ニッケル水溶液に、塩素ガスを吹込んで酸化し、中和剤を添加して中和を行って、水酸化鉄の沈殿物を生成させて、塩化ニッケル水溶液中の鉄イオンを除去する、
請求項5又は6に記載の酸化中和反応装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応槽と攪拌翼とを備える酸化中和反応装置、及び、そのような酸化中和反応装置の運転方法に関する。詳しくは、酸化中和法により混合物から一部の成分を除去する処理を行う酸化中和反応装置、及び、その運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ニッケルの湿式製錬法として、塩素浸出、電解採取法が知られている。この方法においては、ニッケルマット及びニッケル・コバルト混合硫化物から浸出された塩化ニッケル水溶液を用いて電解採取することにより電気ニッケルを得ることができる。そして、この湿式製錬法においては、塩化ニッケル水溶液から不純物である鉄、砒素等を酸化中和法により除去する脱鉄工程が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
上記のような酸化中和法による処理を行う際に、塩素ガス等のガス状の酸化剤が用いられることがある。気液接触による酸化反応では、ガスの粒子を小さくして均一に分散させることが、最も重要な物理的操作となってくる。そこで、反応槽内での気液接触反応を効率良く進行させるために、円筒状の反応槽と、複数の攪拌翼とを有する各種の攪拌装置(反応装置)が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-3104号公報
【文献】特開2015-54272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塩素ガス等のガス状の酸化剤を用いた酸化中和反応を行うに当たって、酸化中和法による反応効率を高めるための手段の一つとして、反応槽の内径(D)に対する反応槽の液高さ(H)の比(H/D)をより大きくすることが考えられる。反応槽の下方部から吹き込んだガス状の酸化剤が液面まで上昇する迄の滞留時間をより長くすることができるからである。
【0006】
しかしながら、酸化中和反応装置として用いる反応槽の形状を、上記比(H/D)が2以上となるような縦長の形状とした場合には、槽全体で上下に循環する循環流を安定的に形成することが難しくなる。循環流の流れが不安定であると、酸化剤と中和剤とを十分に均一に混合することができない。酸化中和反応では、化学的にはpHと酸化還元電位を適正範囲に精密に制御することが求められる。ところが、酸化剤及び中和剤の混合状態が不均一であると、反応槽内において局所的にpHと酸化還元電位が大きくバラツクことになり、pHと酸化還元電位を適正範囲に維持できなくなる。そうすると、例えば上記脱鉄工程において、ニッケル水酸化物の生成等の望ましくない反応や、目的とする脱鉄反応が不十分となることが起こる。そこで、縦長の反応槽において、ガス状の酸化剤粒子を小さくして均一に分散させ、酸化剤と中和剤を均一に混合させるという全ての条件を満たす中和反応装置が求められていた。
【0007】
本発明は、反応槽の形状を、縦横比(上記比(H/D))が特に大きい縦長の形状とした場合においても、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができる酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、反応槽の内径(D)に対する液高さ(H)の比(H/D)を2以上とする場合において、最下段攪拌翼を傾斜ディスクタービン翼とし、その他の攪拌翼を傾斜パドル翼とした上で、尚且つ、それらの各攪拌翼の羽根の傾斜方向を同一に統一し、ガス供給口の鉛直位置を最下段攪拌翼よりも低い位置となるように配置し、スラリー供給口の鉛直位置を最上段攪拌翼よりも高い位置となるように配置することによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 鉛直方向に中心軸を有する略円筒状の反応槽と、前記反応槽の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる回転軸と、前記回転軸に固定して設けられる複数の攪拌翼と、ガス状の酸化剤を供給するガス供給管と、スラリー状の中和剤を供給するスラリー供給管と、を、備える酸化中和反応装置であって、前記反応槽の内径(D)に対する液高さ(H)の比(H/D)が2以上であり、前記攪拌翼のうち、前記回転軸の下端部に固定して設けられる最下段攪拌翼が傾斜ブレード型のディスクタービン翼であり、前記攪拌翼のうち、前記最下段攪拌翼の上部に位置し、前記回転軸に固定して設けられる主攪拌翼が傾斜パドル翼であり、前記最下段攪拌翼と前記主攪拌翼の羽根の傾斜方向が同一となるように設置されており、前記ガス供給管は、ガス供給口の鉛直位置が、前記最下段攪拌翼よりも低い位置となるように設置されていて、前記スラリー供給管は、スラリー供給口の鉛直位置が、最上段の前記主攪拌翼よりも高い位置となるように設置されている、酸化中和反応装置。
【0010】
(1)の酸化中和反応装置によれば、反応槽の内径(D)に対する反応槽の液高さ(H)の比(H/D)を2以上とすることにより、ガス供給管から供給されるガスの滞留時間をより長く確保しながら、尚且つ、槽全体で上下に循環する適切な循環流を安定的に形成することができる。又、最下段攪拌翼が傾斜ブレード型のディスクタービン翼であるので、ガスの粒子を小さくして均一に分散させることができる。これにより、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができ、酸化中和法により鉄等を除去する処理において、ニッケル水酸化物の生成等の望ましくない反応や、目的とする脱鉄反応が不十分となることを回避できる。尚、反応槽をこのように鉛直方向に細長い、縦長の形状とすることで、酸化中和反応装置の設置面積をより小さくすることができるので、製造プラントを設計する上での自由度が高くなる点において経済的メリットも享受することができる。
【0011】
(2) 複数の前記主攪拌翼が互いに離間するように前記回転軸に固定して設けられている、(1)に記載の酸化中和反応装置。
【0012】
(2)の酸化中和反応装置によれば、(1)の発明の設計思想に基づき、更に、主攪拌翼を複数配置することによって、反応槽内を上下に循環する適切な循環流を、より安定的に形成することができる。これにより、より一層、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができる。
【0013】
(3) 複数の前記主攪拌翼が何れも同一形状同一サイズの傾斜パドル翼である、(1)又は(2)に記載の酸化中和反応装置。
【0014】
(3)の酸化中和反応装置によれば、主攪拌翼の形状とサイズを統一することによって、反応槽内を上下に循環する適切な循環流を、更に安定的に形成することができる。これにより、更により一層、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができる。
【0015】
(4) 前記ガス供給管は、ガス供給口の水平位置が、前記傾斜ブレード型のディスクタービン翼の旋回範囲より内側の位置となるように設置されている、(1)から(3)の何れかに記載の酸化中和反応装置。
【0016】
(4)の酸化中和反応装置によれば、ガス供給口から供給されたガス状の酸化剤の粒子を細かくせん断して均一に分散させ、反応槽の外側に形成される循環流に合流させることができる。
【0017】
(5) (1)から(4)の何れかに記載の酸化中和反応装置の運転方法であって、前記回転軸の回転方向が前記反応槽の中心軸に沿って下降し、前記反応槽の内壁に沿って上昇する攪拌流を形成する方向である、酸化中和反応装置の運転方法。
【0018】
(5)の酸化中和反応装置の運転方法によれば、酸化中和反応装置の反応槽の内径(D)に対する反応槽の液高さ(H)の比(H/D)を2以上とすることにより、ガス供給管から供給されるガスの滞留時間を長くしたものでありながら、反応槽上部から供給されたスラリー状の中和剤が中心軸に沿って吸い込まれて下降流に乗る際に、スラリー状の中和剤が攪拌翼によって均一に分散され、反応槽下部において細かくせん断されて均一に分散されたガス状の酸化剤が上昇流に乗る際に、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤の均一な混合が達成される。
【0019】
(6) 前記回転軸の回転数を60rpm以上100rpm以下とする、(5)に記載の酸化中和反応装置の運転方法。
【0020】
(6)の酸化中和反応装置の運転方法によれば、回転軸の回転数を独自の範囲に最適化することによって、安定的な上下対流を生成することができる傾斜パドル翼と、ガス状の酸化剤を細かくせん断して分散させることができる傾斜ディスクタービン翼のそれぞれの性能を極めて良好な水準で引き出してガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができる。
【0021】
(7) 前記酸化剤は塩素ガスであり、前記反応槽中において、不純物として少なくとも鉄イオンを含んだ塩化ニッケル水溶液に、塩素ガスを吹込んで酸化し、中和剤を添加して中和を行って、水酸化鉄の沈殿物を生成させて、塩化ニッケル水溶液中の鉄イオンを除去する、(5)又は(6)に記載の酸化中和反応装置の運転方法。
【0022】
(7)の酸化中和反応装置の運転方法によれば、(5)又は(6)に記載の方法が奏し得る上記効果を享受して、塩素ガスとスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることによって、局所的なpHと酸化還元電位の変動を抑えることができる。その結果、水酸化ニッケルの生成によるニッケルロスの増加や、脱鉄反応不足による脱鉄後液の鉄濃度の上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、反応槽の形状を、縦横比(上記比(H/D))が特に大きい縦長の形状とした場合においても、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散、混合させることができる酸化中和反応装置、及び、酸化中和反応装置の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の酸化中和反応装置の全体構成を示す正面図である。
図2】本発明の酸化中和反応装置が最下段攪拌翼として備える傾斜ブレード型のディスクタービン翼の斜視図である。
図3図2に示すディスクタービン翼の正面図であり、最下段攪拌翼とガス供給口との位置関係も示したものである。
図4】本発明の酸化中和反応装置が主攪拌翼として備える傾斜パドル翼の斜視図である。
図5図4に示す傾斜パドル翼の正面図である。
図6】本発明の酸化中和反応装置の運転方法の説明に供する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の酸化中和反応装置、及び、その運転方法の好ましい実施形態について説明する。酸化中和反応装置は、上述の通り、ニッケルの湿式製錬法において、不純物として少なくとも鉄イオンを含んだ塩化ニッケル水溶液に、塩素ガスを吹込んで酸化し、中和剤を添加して中和を行って、水酸化鉄の沈殿物を生成させて、塩化ニッケル水溶液中の鉄イオンを除去する、脱鉄処理を行う装置として好ましく用いることができる。但し、本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明の酸化中和反応装置は、これに限らず、酸化中和法によって液処理を行う様々な他の工程にも広く適用することができる。
【0026】
<酸化中和反応装置>
[基本動作・基本構成]
図1に示す酸化中和反応装置10は、本発明の好ましい実施形態の一例である。酸化中和反応装置10は、鉛直方向に中心軸を有する略円筒状の反応槽1、反応槽1の中心軸に沿って垂下され回転可能に設けられる回転軸2、回転軸2に固定して設けられる複数の攪拌翼3、反応槽1の内部にガス状の酸化剤を供給するガス供給管4、及び、スラリー状の中和剤を供給するスラリー供給管5を有する。
【0027】
酸化中和反応装置10は、反応槽1の形状が、縦横比が特定比以上である縦長の形状であること、及び、攪拌翼3のうち、回転軸2の下端部に固定して設けられる最下段攪拌翼31が傾斜ブレード型のディスクタービン翼であり、最下段攪拌翼31の上部に位置し、回転軸2に固定して設けられる主攪拌翼32が傾斜パドル翼であること、及び、最下段攪拌翼31と主攪拌翼32の羽根の傾斜方向が同一であることを主たる特徴とする。
【0028】
尚、本明細書において、「羽根の傾斜方向」とは、後述するブレード312又はパドル321の傾斜方向(図3図5参照)のことである。より詳細には、攪拌羽根(ブレード312又はパドル321)の円周方向から攪拌軸方向に向かって見た側面が、回転軸と垂直な平面に対して形成する角度(図3におけるθ31図5におけるθ32。以下、この角度のことを「傾斜角度」と言う)によって規定される方向のことである。この角度は、攪拌羽根の進行方向前方側の平面を起点(ゼロ)として、時計回りに計測される0°以上90°以下の角度である。図3及び図5の例においては、この「羽根の傾斜方向」は、紙面に対して左上がりであって、かつ攪拌羽根の回転によって液が押し下げられる方向を向いているので、「羽根の傾斜方向が同一」であると言える。
【0029】
上記構成からなる酸化中和反応装置10においては、縦長の反応槽1の内部において、図6に示すように、反応槽1の中心軸に沿って下降し、反応槽1の内壁に沿って上昇する攪拌流が形成される。そして、この攪拌流によって、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤が反応槽1の内部で均一に分散され、均一に混合される。
【0030】
ガス状の酸化剤としては、塩素ガスを好ましく用いることができる酸化剤の一例として挙げることができる。ガス状の酸化剤は、その他、空気、酸素等であってもよい。又、スラリー状の中和剤としては、炭酸ニッケルスラリーを好ましく用いることができる中和剤の一例として挙げることができる。スラリー状の中和剤は、その他、水酸化ニッケル、消石灰、又は、水酸化マグネシウムを含むスラリー等であってもよい。尚、本明細書において「液状」とは、純粋な液体状態のみならず、固体粒子が液体中に分散した「懸濁液(スラリー)状」であることも含むものとする。
【0031】
[反応槽]
反応槽1は、その内部に液状の被処理物を収容する槽である。反応槽1の形状は、鉛直方向に中心軸を有する略円筒状の形状である。反応槽1の大きさは、要求される処理能力や設置場所の状況に応じた大きさの範囲内であればよい。但し、反応槽1の内径(D)に対する液高さ(H)の比(H/D)については、2.0以上、好ましくは、2.0以上3.0以下とする。例えば、内径(D)が3114mm、液高さ(H)が6725mm、両者の比(H/D)が2.16である反応槽を、本発明の酸化中和反応装置を構成する反応槽の好ましい一例として、挙げることができる。
【0032】
尚、反応槽1の上面は開口していてもよく、あるいは閉口していてもよい。但し、供給されるガス状の酸化剤が、例えば、塩素ガスのような有毒ガスである場合、蓋と吸引装置により反応槽の気相部のガスが外部に漏洩することを防止する処置が取られ、併せて、吸引された反応槽の気相部のガスを無害化する処置が取られる。
【0033】
尚、本明細書において反応槽の液高さ(H)とは、酸化中和反応装置の正常な運転時において想定されている、液状の被処理物の液面高さのことを言う。例えば、反応槽の側壁上部にオーバーフロー用の抜出口がある場合であれば、当該抜出口の下端迄の高さが、即ち、反応槽の液高さ(H)となる。又、液面レベル計とポンプ等の抜出し装置によって液面レベルを一定範囲に維持するような運転がなされているときは、その液面レベルが液高さ(H)になる。正常な運転時とは、少なくとも最上段の主攪拌翼が液面下に埋没して正常な攪拌効果を発現する液面レベル以上の高さであって、反応槽の高さ未満の高さが液高さ(H)になる。
【0034】
[回転軸]
回転軸2は、これに固定して設けられる攪拌翼3を回転させる棒状の部材である。回転軸2は、反応槽1の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる。回転軸2を回転させるために、その上部には駆動手段(図示しない)が設けられる。回転軸2の動作(回転数)の詳細については後述する。
【0035】
[攪拌翼]
攪拌翼3は、回転軸2に固定して設けられる。攪拌翼3は、少なくとも、回転軸2の下端部に固定して設けられる最下段攪拌翼31と、最下段攪拌翼31よりも上方に位置し、同じく回転軸2に固定して設けられる主攪拌翼32とを含んで構成される。
【0036】
尚、主攪拌翼32は複数設置されていることが好ましい。例えば、図1に示すように複数の主攪拌翼32A、32B、32Cが互いに離間するように回転軸2に固定して設けられている形態を主攪拌翼32の好ましい実施形態の一例として挙げることができる。複数の主攪拌翼の総数は、反応槽の形状や主攪拌翼の翼径によって決まるが、反応槽の内径(D)に対する複数の主攪拌翼の平均翼径(dave)の比(dave/D)が0.25以上0.4以下であり、複数の主攪拌翼の平均翼径(dave)に対する複数の主攪拌翼間の平均離間距離(have)の比(have/dave)が1.1以上1.4以下であることが好ましい。
【0037】
(最下段攪拌翼)
攪拌翼3のうち、回転軸2の下端部に固定して設けられる最下段攪拌翼31は、「傾斜ブレード型のディスクタービン翼(図2、3参照)」とする。ここで、「ディスクタービン翼」とは、円盤状のディスクにその外縁から突出する態様で複数の板状のブレードが接合されている攪拌翼である。本発明の最下段攪拌翼31に用いる「傾斜ブレード型のディスクタービン翼」とは、図3に示すように、ブレード312をディスク311と直交させずに所定の同一角度で傾けた状態で接合した「ディスクタービン翼」のことを言う。
【0038】
最下段攪拌翼31を構成する「傾斜ブレード型のディスクタービン翼」は、ブレード312のディスク311に対する角度でもある傾斜角度を所定の傾斜角度θ31図3参照)とする。一般的に、ディスクタービン翼は、スタビライザー(図示せず)の下方から吹込まれた気体の粒子を細かくせん断して均一に分散させる働きをするが、ブレードを傾斜させることによって下降流を形成することもできる。ブレード312の傾斜角度(θ31)は、具体的には、30°以上60°以下であることが好ましい。
【0039】
(主攪拌翼)
攪拌翼3のうち、最下段攪拌翼31の上部に位置し回転軸2に固定して設けられる主攪拌翼32は「傾斜パドル翼(図4、5参照)」とする。「傾斜パドル翼」とは、回転軸に対して複数のパドル(翼)が上部から流体を吸い込んで下方向へ吐出させる角度で接合されている攪拌翼である。この作用により、反応槽上部から供給されたスラリー状の中和剤が中心軸に沿って吸い込まれて下降流に乗る際に、スラリー状の中和剤が攪拌翼によって均一に分散される。
【0040】
主攪拌翼32を構成する「傾斜パドル翼」は、傾斜角度を所定の傾斜角度θ32図5参照)とする。パドル321の傾斜角度(θ32)は、具体的には、ブレード312と同様、30°以上60°以下であることが好ましい。又、主攪拌翼32のパドルの傾斜角度(θ32)と上述した最下段攪拌翼31のブレード312の傾斜角度(θ31)とは、両者の「羽根の傾斜方向」が同一である範囲において特に限定はされないが、相互に同一角度であることがより好ましい。
【0041】
尚、図1に示すように複数の主攪拌翼32(32A、32B、32C)が設けられる場合、個々の主攪拌翼のパドルの傾斜角度は、「羽根の傾斜方向」が同一となる角度範囲であればよいが、同一形状同一サイズであることが好ましい。
【0042】
(ガス供給管)
ガス供給管4は、反応槽1の内部の液状物中に、ガス状の酸化剤を供給する管状の部材である。ガス供給管4は、その先端にガス供給口41を有する。
【0043】
ガス供給口41の鉛直位置は、反応槽1の中心軸方向において、反応槽1の底面と最下段攪拌翼31との間とする(図3参照)。これにより、ガス供給口41から供給されたガスが上昇した後に、ガスの粒子が細かくせん断されて均一に分散される。そして、均一に分散されたガスの粒子は、傾斜パドル翼の主攪拌翼によって形成された中心軸に沿った下降流に乗って運ばれてきた、均一に分散された中和剤と混合され、上昇流に転じる際に、ガス状の酸化剤と中和剤の均一な混合が行われる。
【0044】
又、ガス供給口41の水平位置は、最下段攪拌翼31を構成する「傾斜ブレード型のディスクタービン翼」のブレード312の旋回範囲より内側の位置となるようにすることが好ましい。図3は好ましいガス供給口41の水平位置の一例であり、この場合、ガス供給口41の水平位置は、ブレード312の旋回範囲より幅Wだけ内側に入った位置とされている。これにより、上述した通り、より効率良く、ガス供給口41から供給されたガス状の酸化剤を細かくせん断し、中和剤と均一に混合することができる。
【0045】
(スラリー供給管)
スラリー供給管5は、反応槽1の内部の液状物中に、スラリー状の中和剤を供給する管状の部材である。スラリー供給管5は、その先端にスラリー供給口51を有する。
【0046】
スラリー供給口51の鉛直位置は、反応槽1の中心軸方向において、最上段の主攪拌翼32よりも高い位置とする。反応槽1の側壁に沿った上昇流は、液面でその向きを中心方向へと転じて内向流になり、更に、最上段の主攪拌翼の回転により中心軸に沿った下降流へと向きを再び転じる。スラリー供給口51の鉛直位置を上記位置とすることによって、スラリー供給口51から排出されたスラリーを、この内向流及び下降流に、より効率良く合流させることができる。又、反応槽上部から供給されたスラリー状の中和剤が中心軸に沿って吸い込まれて下降流に合流する際に、スラリー状の中和剤が攪拌翼によって均一に分散される。
【0047】
<酸化中和反応装置の運転方法>
以下においては、上述の酸化中和反応装置の具体的な運転方法について説明する。この運転方法において、図6に示すように、反応槽1の中心軸に沿って下降し反応槽の内壁に沿って上昇する撹拌流を形成するように回転軸2の回転方向を設定して酸化中和反応装置10を運転する。
【0048】
この運転方法による場合、主攪拌翼32の回転によって生じた中心軸方向に沿った下降流は、最下段攪拌翼31の回転によって中心から内壁に向かった外方向かつ斜め下方向の流れとなって底面近くの内壁に衝突する。又、最下段攪拌翼31の回転によって、ガス供給口41から供給されたガス状の酸化剤粒子が細かくせん断されて均一に分散される。そのとき、ガス状の酸化剤と中和剤の均一な混合が行われる。
【0049】
又、この運転方法における回転軸2の回転数については、60rpm以上100rpm以下とすることが好ましく、80rpm以上100rpm以下とすることがより好ましい。これにより、上述した通り、傾斜パドル翼と傾斜ブレード型のディスクタービン翼との組合せによって構成される攪拌翼の処理能力を高めることができる。
【0050】
<ニッケルの湿式製錬プロセス>
本発明の一実施形態に係る酸化中和反応装置は、ニッケルの湿式製錬プロセスの脱鉄工程に好適に適用される。ニッケルの湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケル硫化物として、ニッケルマットとニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)との2種類が用いられる。
【0051】
ニッケルマットは乾式製錬により得られる。具体的には、ニッケルマットは硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。
【0052】
ニッケル・コバルト混合硫化物は湿式製錬により得られる。具体的には、低品位ラテライト鉱等のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)し、浸出液から鉄等の不純物を除去した後、硫化水素ガスを浸出液に吹き込んで硫化反応によりニッケル・コバルト混合硫化物を得る。
【0053】
まず、ニッケル・コバルト混合硫化物の一部と後述のセメンテーション残渣とからなるスラリーを塩素浸出工程に供給する。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーは浸出液と浸出残渣とに固液分離される。
【0054】
ニッケルマットは、粉砕工程において粉砕した後、レパルプしてマットスラリーとし、セメンテーション工程に供給する。又、セメンテーション工程には、ニッケル・コバルト混合硫化物の残部も供給される。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液が供給されている。浸出液には回収目的金属であるニッケルやコバルトのほか、不純物として銅、鉄、鉛、マンガン等が含まれている。
【0055】
浸出液には2価の銅クロロ錯イオンが含まれている。セメンテーション工程では、浸出液とニッケルマット、及びニッケル・コバルト混合硫化物とを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行なう。これにより、ニッケルマット、及びニッケル・コバルト混合硫化物中のニッケルが液に置換浸出され、浸出液中の銅イオンが硫化銅(CuS)又は金属銅(Cu0)の形態で析出する。固液分離により得られたセメンテーション残渣は塩素浸出工程に供給される。
【0056】
セメンテーション工程から得られたセメンテーション終液からは、脱鉄工程において不純物である鉄が除去される。脱鉄工程の詳細は後に説明する。
【0057】
脱鉄工程から得られた液を抽出始液として溶媒抽出工程に供給する。溶媒抽出工程では、抽出始液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得る。
【0058】
塩化ニッケル水溶液は浄液工程を経て更に不純物除去されて高純度塩化ニッケル水溶液となる。高純度塩化ニッケル水溶液は電解給液としてニッケル電解工程に供給される。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0059】
塩化コバルト水溶液は浄液工程を経て更に不純物除去されて高純度塩化コバルト水溶液となる。高純度塩化コバルト水溶液は電解給液としてコバルト電解工程に供給される。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0060】
脱鉄工程に供給される前述のセメンテーション終液(塩化ニッケル水溶液)には、回収目的金属であるニッケル、コバルトのほか、不純物として鉄が含まれている。
【0061】
脱鉄工程では、セメンテーション終液にガス状の酸化剤を作用させて酸化還元電位を調整しつつ、スラリー状の中和剤を添加してpHを調整する。ここで、酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。又、中和剤として、例えば炭酸ニッケルスラリーが用いられる。酸化中和反応により塩化ニッケル水溶液に含まれる鉄を水酸化鉄の沈殿物として析出させ、澱物スラリーを得る。澱物スラリーは固液分離工程で脱鉄後液と、脱鉄澱物とに固液分離される。
【0062】
脱鉄後液は抽出始液として溶媒抽出工程に供給される。脱鉄澱物は、乾式製錬炉やロータリーキルン等の乾式処理設備で処理され、スラグやクリンカーとして排出される。このように、脱鉄澱物は系外に排出されるため、脱鉄澱物にニッケルが含まれていると、その分だけニッケルロスとなる。そのため、脱鉄澱物に含まれるニッケルの量を極力抑えることが求められる。
【0063】
脱鉄工程における酸化中和反応条件は、Ni2+が安定して存在する領域であり、ニッケル水酸化物又はニッケル・鉄複合酸化物の安定領域ではない。しかし、実際に脱鉄澱物には不溶性ニッケルが含まれる。酸化中和反応を行なう反応槽にガス状の酸化剤及びスラリー状の中和剤を添加すると、反応槽内の塩化ニッケル水溶液のうち特に酸化剤及び中和剤の添加口の近傍において酸化剤及び中和剤の濃度が局所的に高くなる。このような高濃度領域では塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位及び/又はpHが高くなる。その結果、局所的にニッケル水酸化物又はニッケル・鉄複合酸化物の安定領域となることがあり、これらが生成され、脱鉄澱物に含まれる。
【0064】
そのため、酸化中和反応装置においては、ガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に分散させ、更にガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤を均一に混合することが、極めて重要となる。
【0065】
本発明の酸化中和反応装置の一実施形態として、ニッケルの湿式製錬プロセスの脱鉄工程に適用することによって、脱鉄澱物の不溶性ニッケル品位を低減させることができた。具体的には、図1に示したような全体構成の酸化中和反応装置10を用いて、脱鉄工程を行った。反応槽1の内径(D)に対する液高さ(H)の比(H/D)は2.16であった。最下段攪拌翼は6枚羽根の傾斜ブレード型のディスクタービン翼であり、主攪拌翼が3段の同一形状同一サイズの傾斜パドル翼であり、最下段攪拌翼と主攪拌翼の羽根の傾斜を全て45°とし、塩素ガスを最下段攪拌翼の旋回範囲の下方から供給し、炭酸ニッケルスラリーを液面よりも上部から供給し、80rpmの回転数で撹拌を行った。その結果、反応槽内のガス状の酸化剤とスラリー状の中和剤の分散、混合状態を均一化させることができ、従来は脱鉄澱物の不溶性ニッケル品位が1.08重量%だったものを、0.66重量%に低減させることができた。
【符号の説明】
【0066】
1 反応槽
2 回転軸
3 攪拌翼
31 最下段攪拌翼(ディスクタービン翼)
311 ディスク
312 ブレード
32(32A、32B、32C) 主攪拌翼(傾斜パドル翼)
321 パドル
4 ガス供給管
41 ガス供給口
5 スラリー供給管
51 スラリー供給口
10 酸化中和反応装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6