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特許7380432ミスト発生装置、薄膜製造装置、及び薄膜製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ミスト発生装置、薄膜製造装置、及び薄膜製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 17/04 20060101AFI20231108BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20231108BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B05B17/04
B05D1/02 Z
B01J19/08 H
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020096341
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021186778
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼子
(72)【発明者】
【氏名】西 康孝
(72)【発明者】
【氏名】奥井 公太郎
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-139052(JP,A)
【文献】特開2009-202064(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163189(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/124151(WO,A1)
【文献】特開2011-246736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B05D 1/00-7/26
B01J 10/00-19/32
C23C 14/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する容器と、
前記容器内にガスを供給するガス供給部と、
前記液体との間に前記ガスのプラズマを発生させる電極と、を備え、
前記ガス供給部のガス供給口から供給される前記ガスの供給方向と重力が働く方向とが異なる、ミスト発生装置。
【請求項2】
液体を収容する容器と、
前記容器内にガスを供給するガス供給部と、
前記液体との間に前記ガスのプラズマを発生させる電極と、を備え、
前記ガス供給部のガス供給口と液面が対向しない、ミスト発生装置。
【請求項3】
前記容器内に設けられた部材を備え、
前記部材は、前記ガス供給部のガス供給口と前記液体の液面との間であって、かつ前記ガス供給口からガス供給方向に描いた線と交差する位置に配置されている、
請求項2に記載のミスト発生装置。
【請求項4】
前記部材は板状である、
請求項3に記載のミスト発生装置。
【請求項5】
前記液体をミスト化するミスト化部を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項6】
前記ガス供給部のガス供給口から供給される前記ガスの供給方向と重力が働く重力方向とのなす角が90度から150度である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項7】
ミスト化された前記液体を前記容器から排出する排出部を備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項8】
ミスト化された前記液体を前記容器から排出する排出部を備え、
前記容器は、開口部を有する収容部と、前記開口部を覆う蓋部とを備え、
前記電極と、前記ガス供給部と、前記排出部は、前記蓋部を挿通して配置されている、
請求項1から6のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項9】
前記排出部の排出口から排出される前記ガスの排出方向と重力が働く重力方向のなす角度が120度から180度である、
請求項7または8に記載のミスト発生装置。
【請求項10】
前記ガス供給部のガス供給口から供給される前記ガスの供給方向と前記排出部の排出口から排出される前記ガスの排出方向とのなす角度が30度から150度である、
請求項7から9のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項11】
前記排出部は、排出口を2つ以上有する、
請求項7から10のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項12】
前記ガス供給口は前記排出口よりも下方に設置されている
請求項9から11のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項13】
前記ガス供給部を2つ以上有する、
請求項1から12のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項14】
前記ガス供給口を2つ以上有する、
請求項1から13のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項15】
前記電極を2つ以上する、
請求項1から14のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項16】
前記容器はプラスチックまたは金属からなる、
請求項1から15のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項17】
前記ミスト化部は超音波振動子である、
請求項5に記載のミスト発生装置。
【請求項18】
前記電極の先端部の形状が球状である、
請求項1から17のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項19】
前記電極の先端部の形状が針状である、
請求項1から1のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項20】
前記ガスがヘリウム、アルゴン、キセノンのいずれかである、
請求項1から19のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項21】
前記電極に電圧を印加する電源部を備え、
前記電源部は0.1Hz以上50kHz以下の周波数で電圧を印加する、
請求項1から20のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項22】
前記電源部は21kV以上の電圧を印加する、
請求項21に記載のミスト発生装置。
【請求項23】
前記電源部は、電圧を印加することにより前記電極に1.1×10V/m以上の電界を生じさせる、
請求項21または22に記載のミスト発生装置。
【請求項24】
前記液体は粒子と分散媒とを含む分散液である、
請求項1から23のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項25】
前記分散媒は、水を含む、
請求項24に記載のミスト発生装置。
【請求項26】
前記粒子は、無機酸化物である、
請求項24または25に記載のミスト発生装置。
【請求項27】
前記粒子は、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化インジウムスズ、タンタル酸カリウム、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、酸化タングステンのいずれか1つ以上を含む、
請求項24から26のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項28】
前記粒子の平均粒径は5nm~1000nmである
請求項24から27のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項29】
前記分散液に含まれる前記粒子の濃度は0.001質量%~80質量%である
請求項24から28のいずれか一項に記載のミスト発生装置。
【請求項30】
基板上に成膜を行う薄膜製造装置であって、
請求項1から29のいずれか一項に記載のミスト発生装置と、
ミスト化した前記液体を所定の基板上に供給するミスト供給部と、
を有する薄膜製造装置。
【請求項31】
基板上に成膜を行う薄膜製造方法であって、
請求項1から29のいずれか一項に記載のミスト発生装置を用いて、前記液体をミスト化する工程と、
ミスト化した前記液体を所定の基板に供給する工程と、
を備える薄膜製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト発生装置、薄膜製造装置、及び薄膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板に薄膜を作製する技術として特許文献1に示されるような蒸着法が用いられている。一般に成膜工程では、蒸着法の他、スパッタリング法といった真空又は減圧した環境を必要とする手法が使用される。そのため、装置が大型化し、高価であることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-265508
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、ミスト発生装置であって、液体を収容する容器と、前記容器内にガスを供給するガス供給部と、前記液体との間に前記ガスのプラズマを発生させる電極と、を備え、前記ガス供給部のガス供給口から供給される前記ガスの供給方向と重力が働く方向とが異なる。
【0005】
本発明の第2の態様は、ミスト発生装置であって、液体を収容する容器と、前記容器内にガスを供給するガス供給部と、前記液体との間に前記ガスのプラズマを発生させる電極と、を備え、前記ガス供給部のガス供給口と液面が対向しない。
【0006】
本発明の第3の態様は、基板上に成膜を行う薄膜製造装置であって、第1から第3の態様のうちいずれか1つの態様の装置と、ミスト化した前記液体を所定の基板上に供給するミスト供給部と、を有する。
【0007】
本発明の第5の態様は、基板上に成膜を行う薄膜製造方法であって、第1から第3の態様のうちいずれか1つの態様の装置を用いて、前記液体をミスト化する工程と、ミスト化した前記液体を所定の基板に供給する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図2】第1の実施形態における電極78の先端部79の一例を示す概略図である。図2Aは、先端部79Aの形状が針状である電極78Aの一例であり、図2Bは、先端部79Bに針状部分を複数有する電極78Aの一例であり、図2Cは、先端部79Cの形状が球状である電極78Cの一例である。
図3】供給方向と、供給方向と重力方向とのなす角度θの一例を示す説明図である。図3Aは、第1の実施形態のガス供給部の一例を示し、供給方向を説明する概略図である。図3Bはガス供給部70Bの供給方向を説明する概略図である。図3Cは、図3Aにおける角度θを説明するための図である。
図4】排出方向と、排出方向と重力方向とのなす角度αの一例を示す説明図である。図4Aは、第1の実施形態の排出部74Aの一例を示し、排出方向を説明する概略図である。図4Bは、排出部74Bの排出方向を説明する概略図である。図4Cは、角度αを説明するための図である。
図5】供給方向と排出方向とのなす角度βの一例を示す説明図である。図5Aは、第1の実施形態のガス供給部70Cと排出部74Cとの概略図である。図5Bは、角度βを説明するための図である。
図6】第1の実施形態の変形例1におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図7】第1の実施形態の変形例2におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図8】第1の実施形態の変形例3におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図9】第1の実施形態の変形例4におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図10】第1の実施形態の変形例5におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図11】第2の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図12】第3の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図13】第3の実施形態におけるミスト発生装置の変形例を示す概略図である。
図14】第4の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図15】第5の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図16】第5の実施形態におけるミスト発生装置の変形例を示す概略図である。
図17】第6の実施形態におけるミスト発生装置の一例を示す概略図である。
図18】第6の実施形態におけるミスト発生装置の変形例を示す概略図である。
図19】第7の実施形態における薄膜製造装置の構成例を示す図である。
図20】ミスト供給部を基板側から見た斜視図の一例である。
図21】ミスト供給部の先端部と一対の電極とをY軸方向から見た断面図の一例である。
図22】高圧パルス電源部の概略構成の一例を示すブロック図である。
図23】高圧パルス電源部で得られた電極間電圧の波形特性の一例を示す図である。
図24】ヒーターユニットの構成例の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するため形態(以下「本実施形態」という)に係るミスト発生装置90、ミスト発生装置90を備える薄膜製造装置1、及び、ミスト発生装置90を用いて薄膜を作製する薄膜製造方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するためのであり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、図面中、上下左右等の位置関係は特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態における、ミストを発生させるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、図に示す矢印に従って、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とする。
【0011】
<ミスト発生装置>
図1に示すミスト発生装置90は、外部容器91内に、容器62(62A)と、ガス供給部70(70A)と、排出部74(74A)と、電極78(78A)と、ミスト化部80を備える。容器62Aは収容部60Aと蓋部61Aを備える。収容部60Aには、液体が収容されている。液体は特に限られず、分散媒64と粒子66を含む分散液63であることが好ましい。
【0012】
ミスト発生装置90を用いたミスト発生の流れを説明する。まず、ガス供給部70Aは収容部60Aにガスを供給する。電極78Aには不図示の電源部から電圧が印加されており、電極78Aと分散液63の液面(以下、単に「液面」と呼ぶことがある)との間で上述のガスがプラズマ化される。次に、ミスト化部80により収容部60A内の分散液63をミスト化する。ミスト化部80は一例として超音波振動子である。容器62Aと外部容器91との間は液体で満たされており、超音波振動子の振動が当該液体を介して容器62A内の分散液63に伝わる。その結果、分散液63がミスト化される。分散液63のミスト化は、プラズマを発生させている間に行ってもよいし、発生させた後に行ってもよい。分散液63のミスト化は、粒子66の凝集を防ぐためにプラズマ照射後に行ってもよいが、粒子66の分散性をよくするために、プラズマ照射中に行うのが好ましい。そして、ミスト化された分散液63(以下、単に「ミスト」と呼ぶことがある)はガス供給部70から供給されたガスとともに排出部74から外部に排出される。
【0013】
本実施形態におけるプラズマは水面上プラズマである。水面上プラズマとは、1つ以上の電極を液体の液面に対向して配置し、電極と液体の液面との間に生じるプラズマのことである。図1では、Z軸方向に沿って電極78が液面と対向して設けられている。また、電極の数は収容部60A内で均一にプラズマを発生させるために、電極の数は1つに限らず2以上の電極を設ける構成としても良い。静止している状態の液体の液面と電極78の間隔は30mm以下が好ましく、5nm~10mmがより好ましい。また、発生したプラズマを分散液の液面に当てやすくするために容器62Aの下にグランド(G)電極(不図示)を設けても良いものとする。
【0014】
プラズマが分散液63と接触すると、OHラジカルが発生する。このOHラジカルが粒子の表面を修飾して粒子同士の反発を高めることで、粒子の分散性を向上させることができる。
【0015】
分散媒64内で粒子66を効率よく分散させるために、電圧を0.1Hz以上50kHz以下の周波数にて印加するとよい。下限値は1Hzが好ましく、30Hzが更に好ましい。上限値は5kHzが好ましく、1kHzが更に好ましい。また、電極に印加する電圧は、21kV(電界は1.1×10V/m)以上であることが好ましい。
【0016】
電極78Aの材料としては、特に限定されないが、銅、鉄、チタン等を用いることができる。
【0017】
図2は、第1の実施形態における電極78の先端部79の一例を示す概略図である。図2Aは、先端部79Aの形状が針状である電極78Aの一例であり、図2Bは、先端部79Bに針状部分を複数有する電極78Aの一例であり、図2Cは、先端部79Cの形状が球状である電極78Cの一例である。なお、電極78B・78Cは、電極78Aの変形例である。電極78Aは先端部79Aを有する。-Z軸方向から先端部79Aを見たとき、プラズマ発生効率の観点から、先端部79Aの液面に最も近い部分の面積が小さくなることが好ましい。そのため、先端部79Aの形状は、針状である(図2A)。また、電極の先端の形状はこれに限らない。電極78Bは、針状を複数有する形状の先端部79Bを有する(図2B)。また、電極78Cは、球状の先端部79Cを有する(図2C)。ただし、先端部の寸法、形状はこの図のとおりに限定されない。
【0018】
また、図1図2に示される電極78は直線形状であるが、各々屈曲していてもかまわない。
【0019】
本実施形態に係るミスト発生装置90では、分散液63を冷却することが好ましい。なお、ここでいう冷却は徐冷も含まれる。プラズマを接触させることにより分散液63の温度が上昇することがある。分散液63の温度が上昇すると、粒子66が凝集し、分散液63内で沈降するため、分散性を維持できなくなることがある。例えば、冷却管(図示しない)を用いることで分散液63の温度上昇を抑制することができる。冷却は、プラズマの発生中に行っても良いし、発生後に行っても良いが、温度上昇抑制の観点から発生中に行うことがより好ましい。
【0020】
図1では、ミスト化部80が容器62Aと離間して配置された例について説明したが、ミスト化部80は容器62Aと直接接していても良い。ミスト化部80で発生した熱を容器62Aに直接的に熱伝導することを防ぐ場合は、ミスト化部80を容器62Aと離間して配置することが好ましい。また、ミスト化部80を容器62Aと離間して配置する場合は、上述したように、容器62Aと外部容器91との間を液体で満たすことが好ましい。このように構成することで、ミスト化部80で発生した振動を容器62Aに伝播することができる。また、振動によりミスト化部に生じる熱を冷却することもできる。なお、液体は、振動を伝播できるものであればよく、水が好ましい。
【0021】
本実施形態に係る装置によって得られるミストは後述する成膜装置、及び成膜方法等に好適に使用できる。
【0022】
蓋部61Aは収容部60Aの蓋である。蓋部61Aはなくても良いし、あってもよい。図1に示されるミスト発生装置90では、蓋部61Aはガス供給部70A、排出部74A及び、電極78Aが挿通されている。蓋部61Aは容器62Aを密閉するような構造でもよいし、密閉しなくてもよい。なお、蓋部61Aが容器62Aを密閉する構造であれば、容器62A内をガスで充満しやすく、プラズマの発生効率を良好にすることができる。
【0023】
収容部60Aは分散液63を収容する容器である。容器の材質は特に限定されないが、ミスト化部80で発生する振動を効率よく分散液63に伝播させるために、材質はプラスチックや、金属でもよい。
【0024】
粒子66は無機酸化物であることが好ましい。無機酸化物は特に限定されないが、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化インジウムスズ、タンタル酸カリウム、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、酸化タングステン等であることが好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせても良い。
【0025】
粒子66の平均粒径は特に限定されないが、5nm~1000nmとすることができる。なお、下限値としては、10nmが好ましく、15nmがより好ましく、20nmが更に好ましく、25nmがより更に好ましい。上限値としては、800nmが好ましく、100nmがより好ましく、50nmがさらに好ましい。本明細書における平均粒径とは、動的光散乱分光法によって求められる散乱強度のメジアン径である。
【0026】
分散媒64の種類は、特に限定されず、粒子が分散可能であればよい。分散媒としては、例えば、水、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール等のアルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホシキド(DMSO)、酢酸エチル、酢酸、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DME)、トルエン、四塩化炭素、n-ヘキサン等、及びこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、分散媒は、粒子の分散性や誘電率等の観点から、分散媒として水を含むことが好ましく、水溶媒であることがより好ましい。
【0027】
分散液63中の粒子66の濃度は特に限定されないが、得られる分散効果等の観点から、0.001質量%~80質量%と以下とすることができる。なお上限値は、50質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、10質量%が更に好ましい。下限値は1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、3質量%が更に好ましい。
【0028】
プラズマを発生させるプラズマ源となるガスの種類は特に限定されず、公知のものを使用することができる。ガスの具体例としては、と例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノン、酸素、窒素、空気等があげられる。これらの中でも、安定性の高いヘリウム、アルゴン、キセノンが好ましい。
【0029】
プラズマの発生時間については特に限定されないが、粒子66を良好に分散させる観点から、発生時間の合計は25秒~1800秒以下とすることができる。なお、下限値は25秒が好ましい。また、上限値は1800秒が好ましく、900秒がより好ましく、600秒がさらに好ましい。またプラズマの発生ついては、連続発生(一回発生)であっても断続発生であっても良い。断続発生の場合であってもその合計発生時間は上述した照射時間であることが望ましい。
【0030】
ガス供給部70Aはミスト発生装置90の外部から供給されるガスを容器62A内に導入する。ガス供給部70Aの形状は円筒形に限られない。ガス供給部70Aのガス供給口72Aは収容部60A内に設置されている。ガス供給口72Aの形状は円状に限られない。
【0031】
図3は、供給方向と、供給方向と重力方向とのなす角度θの一例を示す概略図である。図3Aは、第1の実施形態のガス供給部70Aの一例を示し、供給方向を説明する概略図である。図3Bはガス供給部70Bの供給方向を説明する概略図である。図3Cは、図3Aにおける角度θを説明するための図である。
【0032】
図3A及び図3Bを用いて、ガス供給部70A及びガス供給部70Bにおいて、ガス供給口72A及びガス供給口72Bから供給されるガスの供給方向について説明する。供給方向とは、ガス供給口72からガス供給部70を延長させた方向(延長方向)を指す。図3Aの場合は、ガス供給部70Aの延長方向が+X軸方向となり、供給方向は矢印(a)に示すように+X軸方向となる。図3Bの場合は、ガス供給部70Bの延長方向が重力方向となり、供給方向は矢印(a)に示すように重力方向(-Z軸方向)となる。なお、矢印(a)はガス供給口72の重心から供給方向に描いた線である。
【0033】
次に、図3Cを用いて、供給方向と重力方向(g)とのなす角度θについて説明する(図3Cでは、図3Aのガス供給部を用いる)。供給方向と重力方向とによってなす角度のうち、小さい角度のことを供給方向と重力方向とのなす角度θという。例えば、本実施形態の場合では、θは90度である。
【0034】
図1に示されるミスト発生装置の場合では、矢印(a)(ガス供給口72の重心から供給方向に描いた線)が最初に交差する部分は容器62Aの側面となり、供給されるガスの勢いが弱まる。即ち、ガス供給口72の重心から供給方向に描いた線が最初に交差する部分が、分散液63の液面とならないよう構成される。それにより、液面は大きく波打つことなく、安定的にプラズマを発生させることが可能である。ガスが液面に直接あたる場合は、液面が大きく波打つ。その結果、電極78Aが分散液63の液面と接触し、電極78Aと分散液63との間でプラズマが発生しない。
【0035】
本実施形態では、ガス供給口72と分散液63の液面は対向しないことが好ましい。ここで、本明細書中における「ガス供給口と分散液の液面が対向しない」とは、ガス供給口72の重心から供給方向へ描いた線が最初に交差する部分が分散液の液面以外の部分であることを意味する。
【0036】
排出部74Aは収容部60A内で発生したミスト及びガスを容器62Aの外部に排出する。排出部74Aの形状は円筒形に限られない。排出部の排出口76Aは収容部60A内に設置されており、収容部60A内からミスト発生装置90の外部にミスト及びガスを排出する。排出口76Aの形状は円状に限られない。
【0037】
図4は、排出方向と、排出方向と重力方向とのなす角度αの一例を示す概略図である。図4Aは、第1の実施形態の排出部74Aの一例を示し、排出方向を説明する概略図である。図4Bは、排出部74Bの排出方向を説明する概略図である。図4Cは、図4Aにおける角度αを説明するための図である。
【0038】
図4A及び図4Bを用いて、排出部74A及び排出部74Bにおいて、排出口76A及び排出口76Bから排出されるミスト及びガスの排出方向について説明する。また、排出方向とは、排出口76から排出部74を延長させた方向(延長方向)とは逆向きを指す。図4Aの場合は、排出部74Aの延長方向の逆方向が+Z軸方向になり、排出方向は矢印(b)に示すように+Z軸方向となる。図4Bの場合は、排出部74Bの延長方向の逆方向が-X軸方向となり、排出方向は-X軸方向となる。ここで、矢印(b)は排出口76の重心から排出方向に描かれているものとする。
【0039】
次に、図4Cを用いて排出方向と重力方向(g)とのなす角度αについて説明する(図4Cでは、図4Aの排出部を用いる)。図4Cに示されるように、排出方向と重力方向によってなす角度のうち、小さい角度のことを排出方向と重力方向都のなす角度αという。なお、本実施形態のように、2つの方向が互いに反対方向を向いている場合、180度となる角度が2つあるが、このときは、いずれかの一方の角度をαとする。図4Cでは、重力方向から見て半時計回りの角度を用いて180度と定義したが、時計回りの角度を用いて180度と定義しても良いものとする。
【0040】
α=180度の場合では、液面と排出口76Aが対向しているので、発生したミストは効率よく容器62Aの外部へと排出される。
【0041】
ガス供給口72Aは排出口76Aよりも上方または下方のいずれに設置されていてもよい。しかしながら、供給されるガスがより攪拌されやすく、均一なミストを容器62Aの外部へと排出するために、ガス供給口72Aは排出口76Aよりも下方に設置されていることが好ましい。
【0042】
図5は、供給方向と排出方向とのなす角度βの一例を示す説明図である。図5Aは、第1の実施形態のガス供給部70Cと排出部74Cとの概略図である。図5Bは、角度βを説明するための図である。図5Aに示す供給方向(ここでは矢印(a)で表す)と、排出方向(ここでは矢印(b)で表す)を図5Bに図示する。図5Bにおいて、2つの方向によってなす角度のうち、小さい角度のことを供給方向と排出方向とのなす角度βという。なす角度βは排出部74Cから排出されるガスにミストを含むような角度にすることが望ましい。そのため、なす角度βは30度~150度としてもよい。上限値は135度としてもよく、120度としてもよい。下限値は60度としてもよく、90度がより好ましい。
【0043】
なお、図3A及び図4Aは、θ=90度、α=180度の場合を示すものであるが、本実施形態はこれに限らない。以下に変形例を示す。
【0044】
[第1の実施形態:変形例1]
図6は、第1の実施形態の変形例1におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。以下、上述の実施形態と異なる点について説明する。なお、図6図18に示す実施形態及び変形例におけるミスト発生装置90は、上述の実施形態と同様の外部容器91と、ミスト化部80とを備える。従って、以下に示す例において、ミスト化部80と外部容器91との図示を省略する。
【0045】
図6に示されるミスト発生装置90は、ガス供給部70Dを有する。ガス供給部70Dは、ガス供給口72Dを有し、θ<90度である。本変形例において、矢印(a)(ガス供給口72Dの重心から供給方向に描いた線)が最初に交差する部分は、収容部60Aの側面である。容器側面にガスが衝突することで、供給されるガスの勢いが弱まり、液面を荒立たせることなく、ガスを容器62A内に供給することができる。本変形例において、矢印(a)が最初に交差する部分は収容部60Aの側面に限らず、排出部74Aでもよいし、電極78Aでもよい。
【0046】
[第1の実施形態:変形例2]
図7は、第1の実施形態の変形例2におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図7に示すミスト発生装置90は、ガス供給部70E(θ=0度)の下部に板状部材81が設置されている。即ち、板状部材81は、ガス供給部70Eと分散液63の液面との間に配置される。矢印(a)(ガス供給口72Eの重心から供給方向に描いた線)が最初に交差する部分は板状部材81になるため、供給されるガスの勢いが弱まり、液面を荒立たせることなくガスを容器62A内に供給することができる。また、θの角度は0度に限られず、矢印(a)が最初に接する部分が板状部材であればよい。
【0047】
[第1の実施形態:変形例3]
図8は、第1の実施形態の変形例3におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図8に示すミスト発生装置90は、ガス供給部70Fが収容部60Aの側面から挿入されている。本変形例において、矢印(a)(ガス供給口72Fの重心から供給方向に描いた線)が最初に交差する部分は電極78Aである。矢印(a)が最初に交差する部分は電極78Aに限らず、排出部74Aでもよいし、収容部60Aの側面でもよいし、蓋部61Aでもよい。
【0048】
[第1の実施形態:変形例4]
図9は、第1の実施形態の変形例4におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図9に示すミスト発生装置90は、排出方向と重力方向のとのなす角度αを180度としたまま、供給方向と重力方向とのなす角度θを90度より大きくしたガス供給部70Gを有するものである。矢印(a)(ガス供給口72Gの重心から供給方向に描いた線)が最初に交差する部分は液面と交差しないことが望ましく、ガス供給口72Gから供給されるガスは、液面に直接吹き付けられることがないので、液面が大きく揺れることを防ぐ。なす角度θは90度~150度としてもよい。上限値は、135度としてもよく、120度としてもよい。下限値は100度としてもよく、105度としてもよい。
【0049】
[第1の実施形態:変形例5]
図10は、第1の実施形態の変形例5におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図10に示すミスト発生装置90は、供給方向と重力方向とのなす角度θを90度としたまま、排出方向と重力方向とのなす角度αを180度より小さくした排出部74Dを有するものである。なす角度αは、発生したミストを効率よく収集するために120度~180度としてもよい。上限値は、165度としてもよく、150度としてもよい。下限値は130度としてもよく、135度としてもよい。
【0050】
[第2の実施形態]
図11を用いて第2の実施形態を説明する。以下、上述の実施形態と異なる点について説明する。第2の実施形態における各構成は、特に説明しない限り、上記第1の実施形態と同様とする。
【0051】
図11は、第2の実施形態におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。本実施形態におけるミスト発生装置90は、2つ以上のガス供給部70Aを有する。図11は、第2の実施形態に係るミスト発生装置90における容器62A、2つのガス供給部70A、排出部74A、及び電極78Aの配置構成を示すものである。なお、図11においては、ミスト化部80の図示を省略している。
【0052】
図11に示すミスト発生装置90は、ガス供給部70Aを2つ有する構成である。ガス供給部70Aの数を増やすと、一度に多量のガスを容器62A内に供給することができる。1つのガス供給部70Aで容器62A内に多量のガスを供給しようとすると、ガスが分散液63の液面に直接供給されていなかったとしても、局所的に流速が速いガスが供給されるため、容器62A内の気流が大きく乱れ、液面が大きく波立つ場合がある。ガス供給部70Aの数を増やすことで、ガスの供給量を増やしつつ、1つのガス供給部70Aから供給されるガスの流速の上昇を抑制することができるため、分散液63の液面が大きく波立つのを抑制することができる。
【0053】
なお、ガス供給部70Aの数は2つに限らず、3つ以上あっても良い。また、本実施形態では図11に示す構成について説明したが、これに限らず、上述した第1の実施形態で説明したガス供給部70A~70Gを組み合わせて使用してもよい。
【0054】
[第3の実施形態]
図12を用いて第3の実施形態を説明する。第3の実施形態における各構成は、特に説明しない限り、上記第1の実施形態と同様とする。
【0055】
図12は、第3の実施形態におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。本実施形態におけるミスト発生装置90は、2つ以上のガス供給口72Hを有する。図12は、第3の実施形態に係るミスト発生装置90における容器62A、ガス供給部70H、排出部74A、及び電極78Aの配置構成を示すものである。なお、図12においては、ミスト化部80の図示を省略している。
【0056】
図12に示すミスト発生装置90は、1つのガス供給部70Hに2つのガス供給口72H1、H2を有する構成である。1つのガス供給口72H1(H2)で多量のガスを容器62A内に供給しようとすると、ガス供給口72H1(H2)一つ当たりの単位時間あたりの流量が多くなる。それにより、ガスが液面に直接供給されていなかったとしても、容器62A内で局所的に流速が速いガスが供給されるため、容器62A内の気流が大きく乱れ、分散液63の液面が大きく波打つ場合がある。1つのガス供給部70Hに対して複数のガス供給口72H1(H2)を設けることで、ガス供給口72H1(H2)一つ当たりの単位時間当たりの流量が減る。その結果、多量のガスを容器62A内に供給する場合であっても分散液63の液面が大きく波打つことを抑制することができる。
【0057】
ガス供給口72H1(H2)の数は2つに限らず、3つ以上あっても良い。なお、本実施形態はこれに限らず、上述した第1の実施形態で説明したガス供給口72を組み合わせてもよい。
【0058】
[第3の実施形態:変形例]
図13は、第3の実施形態におけるミスト発生装置90の変形例を示す概略図である。図13に示すガス供給部70Iは、傾きの異なる2つのガス供給口72I1・I2を有する。なお、本変形例におけるガス供給部70Iは、傾きの異なる複数のガス供給口72Iを有するものであればよく、複数のガス供給口72Iは、それぞれの供給方向に対して上述したなす角度θ及びなす角度βを満たしていればよい。また、さらに第2の実施形態で説明したように、複数のガス供給部70を組み合わせても良い。
【0059】
[第4の実施形態]
図14を用いて第4の実施形態を説明する。第4の実施形態における各構成は、特に説明しない限り、上記第1の実施形態と同様とする。本実施形態におけるミスト発生装置90は、2つ以上の排出部74Aを有する。
【0060】
図14は、第4の実施形態におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図14は、第4の実施形態に係るミスト発生装置90における容器62A、ガス供給部70A、2つの排出部74A、及び電極78Aの配置構成を示すものである。なお、図14においては、ミスト化部80の図示を省略している。
【0061】
図14に示すミスト発生装置90は、排出部74Aを2つ有する構成である。排出部74Aの数を増やすと、一度に多量のガスを容器62A内から排出することができる。また、容器62A内で発生したミストを満遍なく排出することができる。
【0062】
なお、排出部74Aの数は2つに限らず、3つ以上あっても良い。本実施形態では図14に示す構成について説明したが、これに限らず、上述した第1の実施形態から第3の実施形態において排出部74を2つ以上設けてもよい。
【0063】
[第5の実施形態]
図15を用いて第5の実施形態を説明する。第5の実施形態における各構成は、特に説明しない限り、上記第1の実施形態と同様とする。
【0064】
図15は、第5の実施形態におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。本実施形態におけるミスト発生装置90は、2つ以上の排出口76Eを有する。図15は、第5の実施形態に係るミスト発生装置90における容器62A、ガス供給部70A、排出部74E、及び電極78Aの配置構成を示すものである。なお、図15においては、ミスト化部80の図示を省略している。
【0065】
図15に示すミスト発生装置90は、1つの排出部74Eに対し、2つの排出口76E1、E2を有する構成である。1つの排出部74Eで多量のガスとミストを容器62A内から排出しようとすると、排出口76E1(E2)一つ当たりの単位時間あたりの流量が多くなる。それにより、液面が大きく波打つ場合がある。1つの排出部74Eに対して複数の排出口76E1(E2)を設けることで、排出口76E1(E2)一つ当たりの単位時間当たりの流量が減る。その結果、液面が大きく波打つことを抑制することができる。また、異なる位置に排出口76E1(E2)が存在するので、容器62A内で発生したミストを均一に満遍なく排出できる。
【0066】
排出口76E1(E2)の数は2つに限らず、3つ以上あっても良い。なお、排出部74Eの構成は図15に示す構成に限られない。
【0067】
[第5の実施形態:変形例]
図16は、第5の実施形態におけるミスト発生装置90の変形例を示す概略図である。図16に示す排出部74Fは、傾きの異なる2つの排出口76F1・F2を有する。なお、本変形例における排出部74Fは、傾きの異なる複数の排出口76Fを有するものであればよく、各々の排出口76Fは、第1の実施形態で説明したように、それぞれの排出方向に対して上述した角度α及び角度βを満たしていればよい。また、第4の実施形態で説明したように、ミスト発生装置90は、複数の排出部74を組み合わせて用いても良い。
【0068】
[第6の実施形態]
図17を用いて第6の実施形態を説明する。第6の実施形態における各構成は、特に説明しない限り、上記第1の実施形態と同様とする。
【0069】
図17は、第6の実施形態におけるミスト発生装置90の一例を示す概略図である。図17は、第6の実施形態に係るミスト発生装置における容器62B、ガス供給部70J、排出部74A及び電極78Aの配置構成を示す図である。なお、図17では、ミスト化部80の図示を省略している。
【0070】
図17に示す容器62Bは、収容部60Bに仕切り94が設けられている。収容部60B内には、2つの空間がある。分散液が収容されている空間は収容空間96である。分散液63が収容されていない空間は空空間98である。収容空間96及び、空空間98は1つに限らず、複数あっても良い。
【0071】
ガス供給口72Jは空空間98内に設置されている。それにより、直接分散液63にガスを吹き付けることなく、容器62B内にガスを充填することができる。また、排出部74Aは収容空間96内にある。その結果、効率よくミストを容器62Bの外部へと排出することができる。なお、本実施形態は本図に示す例に限らない。
【0072】
[第6の実施形態:変形例]
図18は、第6の実施形態におけるミスト発生装置90の変形例を示す概略図である。図18に示されている容器62Cは段差を有する。分散液63は段差の高さまで収容されている。段差の数は1つに限らず、複数あっても良い。
【0073】
ガス供給口72Jは液面とは対向しない位置に設置されている。それにより、液面に直接ガスを供給することなく、容器62C内をガスで充填することができる。排出口76Aは液面と対向する位置に設置され、発生したミストを容器62Cの外部へと効率よく排出することができる。本実施形態はこれに限らず、上述した第1の実施形態から第5の実施形態のガス供給部70と排出部74を組み合わせて使用しても良い。
【0074】
[第7の実施形態]
<薄膜製造装置・製造方法>
本発明の態様のミスト発生装置90によれば、例えば、次のような装置によって薄膜を成膜することができる。以下、図19を用いて説明する。
【0075】
図19は、第7の実施形態における薄膜製造装置1の構成例を示す図である。本実施形態のミスト発生部20A、ミスト発生部20Bは上述のミスト発生装置90に相当する。また、ダクト21A、21Bは上述の排出部74に相当する。
【0076】
本実施形態における薄膜製造装置1は、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式によって、可撓性のある長尺シート基板FSの表面に連続的に粒子66による薄膜を形成する。
【0077】
(装置の概略構成)
図19では、装置本体を設置する工場の床面をXY平面とし、床面と直交する方向をZ軸方向とするように直交座標系XYZを定めている。また、図19の薄膜製造装置1では、シート基板FSの表面が常にXZ面と垂直になるような状態で長尺方向に搬送されるものとする。
【0078】
架台部EQ1に装着された供給ロールRL1には、被処理体としての長尺のシート基板FS(以下、単に基板FSと呼ぶ)が、所定の長さにわたって巻かれている。架台部EQ1には、供給ロールRL1から引き出されたシート基板FSを掛け回すローラCR1が設けられ、供給ロールRL1の回転中心軸とローラCR1の回転中心軸は互いに平行になるようにY軸方向(図19の紙面と垂直な方向)に延びて配置される。ローラCR1で-Z軸方向(重力方向)に折り曲げられた基板FSは、エアターンバーTB1でZ軸方向に折り返され、ローラCR2によって斜め上方向(XY面に対して45度±15度の範囲)に折り曲げられる。エアターンバーTB1については、例えば、WO2013/105317に説明されているように、エアベアリング(気体層)によって基板FSを僅かに浮上させた状態で搬送方向へ折り曲げるものである。なお、エアターンバーTB1は、図示しない圧力調整部の駆動によりZ軸方向に移動可能であって、基板FSに対して非接触でテンションを付与する。
【0079】
ローラCR2を通った基板FSは、第1チャンバー10のスリット状のエアシール部10Aを通った後、成膜本体部を収容する第2チャンバー12のスリット状のエアシール部12Aを通って斜め上方向に直線的に第2チャンバー12(成膜本体部)内に搬入される。基板FSが第2チャンバー12内を一定の速度で送られると、基板FSの表面には、大気圧プラズマによってアシストされたミストデポジション法、またはミストCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、粒子66による膜が所定の厚さで形成される。
【0080】
第2チャンバー12内で成膜処理を受けた基板FSは、スリット状のエアシール部12Bを通って第2チャンバーから退出した後、ローラCR3によって-Z軸方向に折り返された後、架台部EQ2に設けられたローラCR4で折り曲げられ、回収ロールRL2に巻き上げられる。回収ロールRL2とローラCR4は、その回転中心軸が互いに平行になるようにY軸方向(図19の紙面と垂直な方向)に延びて架台部EQ2に設けられる。なお、必要であれば、エアシール部10BからエアターンバーTB2までの搬送路中に、基板FSに付着又は含浸した不要な水成分を乾燥されるための乾燥部(加熱部)50を設けても良い。
【0081】
図19に示したエアシール部10A、10B、12A、12Bは、例えばWO2012/115143に開示されているように、第1チャンバー10、または第2チャンバー12の外壁の内側の空間と外側の空間との間での気体(大気等)の流通を阻止しつつ、シート基板FSを長尺方向に搬入、搬出させるスリット状の開口部を備える。その開口部の上端変のシート基板FSの上表面(被処理面)炉の間、及び、開口部の下端辺とシート基板FSの下表面(裏面)との間には、真空与圧方式のエアベアリング(静圧気体層)が形成される。そのため、成膜用のミスト気体は、第2チャンバー12内、及び第1チャンバー10内に留まり、外部に漏れだすことが防止される。
【0082】
ところで、本実施形態の場合、基板FSの長尺方向への搬送制御とテンション制御は、回収ロールRL2を回転駆動するように架台部EQ2に設けられるサーボモータと、供給ロールRL1を回転駆動するように架台部EQ1に設けられるサーボモータとによって行われる。図19では図示を省略してあるが、架台部EQ2と架台部EQ2に設けられた各サーボモータは、基板FSの搬送速度を目標値にしつつ、少なくともローラCR2とローラCR3との間で基板FSに所定のテンション(長尺方向)が与えられるように、モータ制御部によって制御される。シート基板FSのテンションは、例えば、エアターンバーTB1、TB2をZ軸方向に押し上げる力を計測するロードセル等を設けることで求められる。
【0083】
また、架台部EQ1(及び供給ロールRL1、ローラCR1)は、エアターンバーTB1に至る直前のシート基板FSの両側のエッジ(端部)Y軸方向(シート基板FSの長尺方向と直交する幅方向)変動を計測するエッジセンサーES1からの検出結果に応じて、サーボモータ等によってY軸方向に±数mm程度の範囲で微動する機能、すなわち、EPC(エッジポジションコントロール)機能を備えている。これによって供給ロールRL1に巻かれたシート基板にY軸方向の巻きムラがあった場合でも、ローラCR2を通るシート基板FSのY軸方向の中心位置は、常に一定の範囲(例えば±0.5mm)内の変動に抑えられる。従って、シート基板FSは、幅方向に関して正確に位置決めされた状態で成膜本体部(第2チャンバー12)に搬入される。
【0084】
同様に、架台部EQ2(及びロールRL2、ローラCR4)は、エアターンバーTB2を通った直後のシート基板FSの両側のエッジ(端部)位置のY軸方向変動を計測するエッジセンサーES2からの検出結果に応じて、サーボモータ等によってY軸方向に±数m、程度の範囲で微動するEPC機能を備えている。これによって、成膜後のシート基板FSはY軸方向の巻きムラが防止された状態で、回収ロールRL2に巻き上げられる。なお、架台部EQ1及びEQ2、供給ロールRL1、回収ロールRL2、エアターンバーTB1及びTB2、ローラCR1、CR2、CR3、CR4は基板FSをミスト供給部22(22A・22B)に導く搬送部としての機能を有する。
【0085】
図19の装置では、成膜本体部(第2チャンバー12)でのシート基板FSの直線的な搬送路が、基板FSの搬送進行方向に沿って45度±15度程度の傾斜(ここでは45度)で高くなるようにローラCR2、CR3が配置される。この搬送路の傾斜によって、ミストデポジション法やミストCVD法によってシート基板FS上に噴霧される分散液63のミストを、シート基板FSの表面上に程よく滞留させ、粒子66の堆積効率(成膜レート、又は成膜速度とも呼ぶ)を向上させることができる。その成膜本体部の構成については後述するが、基板FSが第2チャンバー12内では長尺方向に傾斜していることから、基板FSの被処理面と平行な面をY・Xt面とし、Y・Xt面と垂直な方向をZtとした直交座標系Xt・Y・Ztを設定する。
【0086】
本実施形態では、その第2チャンバー12内に2つのミスト供給部22A、22Bが基板FSの搬送方向(Xt方向)に沿って一定の間隔で設けられる。ミスト供給部22A、22Bは筒状に形成されており、基板FSに対向した先端側にはミスト気体(ガスとミストの混合気体)Mgsを基板FSに向けて噴出するためのY軸方向に細長く伸びたスリット状の開口部が設けられている。さらに、ミスト供給部22A、22Bの開口部の近傍には、非熱平衡状態の大気圧プラズマを発生させるための一対の平行なワイヤー状の電極24A、24Bが設けられている。一対の電極24A、24Bの各々には、高圧パルス電源部40からのパルス電圧が所定の周波数で印加される。
【0087】
ミスト供給部22A、22B内でプラズマを発生させるプラズマ源となるガス種類は特に限定されず、公知のものを使用することができる。ガスの具体例としては、例えば、ヘリウム、アルゴン、(キセノン)、酸素、窒素等があげられる。これらの中でも、安定性の高いヘリウム、アルゴン、キセノンが好ましい。また、ミスト発生部20A、20Bでプラズマの発生に用いたガスを、そのままミスト供給部22A、22B内でプラズマの発生に用いるガスとして利用してもよい。それによって、成膜装置全体として使用するガスを減らすことが可能になり、コスト削減になる。
【0088】
また、ミスト供給部22A、22Bの内部空間を設定された温度に維持するためのヒーター(温調器)23A、23Bがミスト供給部22A、22Bの外周に設けられている。ヒーター23A、23Bは温調制御部28によって設定温度となるように制御される。
【0089】
ミスト供給部22A、22Bの各々には、第1のミスト発生部20A、第2のミスト発生部20Bで発生した分散液63のミスト気体Mgsが所定の流量でダクト21A、21Bを介して供給される。ミスト供給部22A、22Bのスリット状の開口部から-Zt軸方向に向けて噴出される分散液63のミスト気体Mgsは、所定の流量で基板FSの上表面に吹き付けられるので、そのままではただちに下方(-Z軸方向)に流れようとする。分散液63のミスト気体の基板FSの上表面への滞留時間を延ばすために、第2チャンバー12内の気体はダクト12Cを介して排気制御部30によって吸引される。すなわち、第2チャンバー12内でミスト供給部22A、22Bのスリット状の開口部からダクト12Cに向けた気体の流れを作ることで、分散液63のミスト気体Mgsが基板FSの上表面から直ちに下方(-Z軸方向)に流れ落ちることを制御している。
【0090】
排気制御部30は、吸引した第2チャンバー12内の気体に含まれる粒子66、あるいはガスを除去し、正常な気体(空気)にしてからダクト30Aを介して環境中に放出する。なお図19では、ミスト発生部20A、20Bを第2チャンバー12の外側(第1チャンバー10の内部)に設けたが、これは第2チャンバー12の容積を小さくして、排気制御部30による気体の吸引時に第2チャンバー12内での気体の流れ(流量、流速、流路等)を制御しやすくするためである。もちろんミスト発生部20A、20Bは第2チャンバー12の内部に設けても良い。
【0091】
ミスト供給部22A、22Bの各々から分散液63のミスト気体Mgsを使って、ミストCVD法によって基板FS上に膜を堆積する場合は、基板FSを常温よりも高い温度、例えば200℃程度に設定する必要がある。そこで、本実施形態では、基板FSを挟んで、ミスト供給部22A、22Bの各々のスリット状の開口部と対向する位置(基板FSの裏面側)に、ヒーターユニット27A、27Bを設け、基板FS上の分散液63のミスト気体Mgsが噴射される領域の温度が設定値となるように温調制御部28によって制御する。一方、ミストデポジション法による成膜の場合は常温でもいいので、ヒーターユニット27A、27Bを稼働させる必要はないが、基板FSを常温よりも高い温度(例えば90℃以下)にすることが望ましい場合は、適宜、ヒーターユニット27A、27Bを稼働させることができる。
【0092】
以上で説明したミスト発生部20A、20B、温調制御部28、排気制御部30、高圧パルス電源部40、及びモータ制御部(供給ロールRL1、回収ロールRL2を回転駆動するサーボモータの制御系)等は、コンピュータを含む主制御ユニット100によって統括制御される。
【0093】
(シート基板)
次に、被処理体としてのシート基板FSについて説明する。上述したように、基板FSは、例えば、樹脂フィルム、ステンレス鋼等の金属または合金からなる箔(フォイル)等が用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂のうち1または2以上を含んだものを用いてもよい。また、基板FSの厚みや剛性(ヤング率)は、搬送される際に、基板FSに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であればよい。電子デバイスとして、フレキシブルなディスプレイパネル、タッチパネル、カラーフィルター、電磁波防止フィルタ等を作る場合、厚みが25μm~200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)等の安価な樹脂シートが使われる。
【0094】
基板FSは、例えば、基板FSに施される各種処理において受ける熱による変形量が実質的に無視できるように、熱膨張係数が顕著に大きくないものを選定することが望ましい。また、ベースとなる樹脂フィルムに、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化ケイ素などの無機フィラーを混合すると、熱膨張係数を小さくすることもできる。また、基板FSは、フロート法等で製造された厚さ100μm程度の極薄ガラスの単層体、又はステンレス等の金属を薄くフィルム状に圧延した金属シートの単層体であってもよいし、この極薄ガラスや金属シートに上記の樹脂フィルム、またはアルミや銅等の金属層(箔)等を貼り合わせた積層体であってもよい。さらに、本実施形態の薄膜製造装置1を使ってミストデポジション法で成膜する場合は、基板FSの温度を100℃以下(通常は常温程度)に設定できるが、ミストCVD法で成膜する場合は、基板FSの温度を100℃~200℃程度に設定する必要がある。その為、ミストCVD法で成膜する場合は、200℃程度の温度でも変形、変質しない基板材料(例えば、ポリイミド樹脂、極薄ガラス、金属シート等)が使われる。
【0095】
ところで、基板FSの可撓性(フレキシビリティ)とは、基板FSに自重程度の力を加えても線断したり破断したりすることはなく、その基板FSを撓めることが可能な性質をいう。また、自重程度の力によって屈曲する性質も可撓性に含まれる。また、基板FSの材質、大きさ、厚さ、基板FS上に成膜される層構造、温度、湿度などの環境等に応じて、可撓性の程度は変わる。いずれにしろ、本実施形態による薄膜製造装置1、或いはその前後の工程を司る製造装置の搬送路内に設けられる各種の搬送用のローラ、ターンバー、回転ドラム等に基板FSを正しく巻き付けた場合に、座屈して折り目がついたり、破損(破れや割れが発生)したりせずに、基板FSを滑らかに搬送できれば、可撓性の範囲と言える。
【0096】
なお、図19に示した供給ロールRL1から供給される基板FSは、中間工程の基板であっても良い。即ち、供給ロールRL1に巻かれている基板FSの表面に、電子デバイス用の特定の層構造が既に形成されていても良い。その層構造とは、ベースとなるシート基板の表面に、一定の厚みで成膜された樹脂膜(絶縁膜)や金属薄膜(銅、アルミニウム等)等の単層、又は、それらの膜による多層構造体である。また、図19の薄膜製造装置1でミストデポジション法が適用される基板FSは、例えばWO2013/176222に開示されているように、基板の表面に感光性シランカップリング材を塗布して乾燥させた後、露光装置によって電子デバイス用のパターンの形状に応じた分布で紫外線(波長365nm以下)を照射して、紫外線の照射部分と未照射部分とでミスト溶液に対する親撥液性に大きな差が与えられた表面状態を有するものであっても良い。この場合、図1の薄膜製造装置1を使ったミストデポジション法によって、基板FSの表面にはパターンの形状に応じてミストを選択的に付着させることができる。
【0097】
さらに、図19の薄膜製造装置1に供給される長尺のシート基板FSは、長尺の薄い金属シート(例えば厚さが0.1mm程度のSUSベルト)の表面に、製造すべき電子デバイスの大きさに対応した寸法の枚葉の樹脂シート等を、金属シートの長尺方向に一定間隔で貼り付けたものであっても良い。この場合、図19の薄膜製造装置1によって成膜される被処理体は、枚葉の樹脂シートとなる。
【0098】
次に、図19の薄膜製造装置1の各部の構成を、図19と共に図20図24を参照して説明する。
【0099】
(ミスト供給部22A、22B)
図20は、ミスト供給部22A(22Bも同様)を座標系Xt・Y・Ztの-Zt側、即ち、基板FS側から見た斜視図の一例である。ミスト供給部22Aは、石英板によって構成され、Y軸方向に一定の長さを有し、-Zt方向に向けて徐々にXt方向の幅が狭まる傾斜した内壁Sfa、Sfbと、Xt・Zt面と平行な側面の内壁Sfcと、Y・Xt面と平行な天板25A(25B)とで構成される。天板25A(25B)には、ミスト発生部20A(20B)からのダクト21A(21B)が開口部Dhに接続され、ミスト気体Mgsがミスト供給部22A(22B)内に供給される。ミスト供給部22A(22B)の-Zt軸方向の先端部には、Y軸方向に長さLaに渡って細長く延びたスロット状の開口部SNが形成され、その開口部SNをXt方向に挟むように、一対の電極24A(24B)が設けられる。従って、開口部Dhを介してミスト供給部22A(22B)内に供給されたミスト気体Mgs(陽圧)は、スロット状の開口部SNから一対の電極24A(24B)の間を通って、-Zt軸方向に一様な流量分布で噴出される。
【0100】
一対の電極24Aは、Y軸方向に長さLa以上に延びたワイヤー状の電極EPと、Y軸方向に長さLa以上に延びたワイヤー状の電極EGとで構成される。電極EP、EGの各々は、Xt方向に所定の間隔で平行になるように、誘電体Cpとして機能する円筒状の石英管Cp1、誘電体Cgとして機能する石英管Cg1内に保持され、その石英管Cp1、Cg1がスロット状の開口部SNの両側に位置するようにミスト供給部22A(22B)の先端部に固定されている。石英管Cp1、Cg1は、内部に金属成分を含まないものが望ましい。また、誘電体Cp、Cgは、絶縁耐圧性が高いセラミックス製の管としても良い。
【0101】
図21は、ミスト供給部22A(22B)の先端部と一対の電極24A(24B)とをY軸方向から見た断面図の一例である。本実施形態では、一例として、石英管Cp1、Cg1の外径φaを約3mm、内径φbを約1.6mm(肉厚0.7mm)に設定し、電極EP、EGはタングステン、チタン等の低抵抗の金属による直径0.5nm~1mmのワイヤーで構成する。電極EP、EGは、石英管Cp1、Cg1の内径の中心を直線状に通るように、石英管Cp1、Cg1のY方向の両端部で絶縁体によって保持される。なお、石英管Cp1、Cg1は、何れか一方のみが存在すれば良く、例えば、高圧パルス電源部40の正極に接続される電極EPは石英管Cp1で囲み、高圧パルス電源部40の負極(接地)に接続される電極EGはむき出しであっても良い。しかしながら、ミスト供給部22A(22B)の先端部の開口部SNから噴出されるミスト気体Mgsの気体成分によっては、むき出しの電極EGの汚染、腐食が生じるので、両方の電極EP、EGを石英管Cp1、Cg1で囲み、ミスト気体Mgsが直接に電極EP、EGに触れないような構成にするのが良い。
【0102】
ここで、ワイヤー状の電極EP、EGの各々は、共に基板FSの表面から作動距離(ワーキングディスタンス)WDの高さ位置に基板FSの表面と平行に配置され、且つ、基板FSの搬送方向(Xt方向)に間隔Lbだけ離して配置される。間隔Lbは、非熱平衡状態の大気圧プラズマを-Zt軸方向に一様な分布で安定的に継続発生させる為に、なるべく狭く設定され、一例として5mm程度に設定される。従って、ミスト供給部22A(22B)の開口部SNから噴出されるミスト気体Mgsが一対の電極間を通る際のXt方向の実効的な幅(隙間)Lcは、Lc=Lb-φaとなり、外径3mmの石英管を使う場合、幅Lcは2mm程度になる。
【0103】
さらに、必須の構成ではないが、ワイヤー状の電極EP、EGのXt軸方向の間隔Lbに比べて作動距離WDは大きくするのが良い。これは、Lb>WDの配置関係になっていると、正極となる電極EP(石英管Cp1)と基板FSとの間でプラズマが発生したり、アーク放電が生じたりする可能性があるからである。
【0104】
換言すれば、電極EP、EGから基板FSまでの距離である作動距離WDは、電極EP、EG間の間隔Lbよりも長い方が望ましい。
【0105】
しかしながら、基板FSの電位を、接地極となる電極EGの電位と正極となる電極EPの電位との間に設定できる場合は、Lb>WDに設定することも可能である。
【0106】
なお、電極24Aと電極24Bとがなす面は、基板FSに対して平行でなくともよい。その場合、電極のうち最も基板FSに近い部分から基板FSまでの距離を間隔WDとし、ミスト供給部22A(22B)又は基板FSの設置位置を調整する。
【0107】
本実施形態の場合、非熱平衡状態のプラズマは、一対の電極24A(24B)の最も間隔が狭い領域、即ち、図21中の幅Lcの間であってZt軸方向の限られた領域PA内で強く発生する。その為、作動距離WDを小さくすることは、ミスト気体Mgsが非熱平衡状態のプラズマの照射を受けてから基板FSの表面に達するまでの時間を短くできることになり、成膜レート(単位時間当りの堆積膜厚)の向上が期待できる。図21において、ワイヤー状の電極EP、EGのXt方向の間隔Lbはプラズマ発生効率の観点から10μm~20mmとしてもよく、下限値は0.1mmが好ましく、1mmが更に好ましい。上限値は15mmが好ましく、10mmがさらに好ましい。
【0108】
一対の電極24A(24B)の間隔Lb(又は幅Lc)と作動距離WDを変えない場合、成膜レートは、電極EP、EG間に印加されるパルス電圧のピーク値と周波数、ミスト気体Mgsの開口部SNからの噴出流量(速度)、ミスト気体Mgsに含まれる成膜用の特定物質(粒子、分子、イオン等)の濃度、或いは、基板FSの裏面側に配置されるヒーターユニット27A(27B)による加熱温度等によって変化する為、これらの条件は、基板FS上に成膜される特定物質の種類、成膜の厚み、平坦性等の状態に応じて、主制御ユニット100により適宜調整される。
【0109】
(高圧パルス電源部40)
図22は、高圧パルス電源部40の概略構成の一例を示すブロック図であり、可変直流電源40Aと高圧パルス生成部40Bとで構成される。可変直流電源40Aは、100V又は200Vの商用交流電源を入力して、平滑化された直流電圧Vo1を出力する。電圧Vo1は、例えば0V~150Vの間で可変とされ、次段の高圧パルス生成部40Bへの供給電源となるため、1次電圧とも呼ぶ。高圧パルス生成部40B内には、ワイヤー状の電極EP、EG間に印加する高圧パルス電圧の周波数に対応したパルス電圧(ピーク値がほぼ1次電圧Vo1の矩形状の短パルス波)を繰り返し生成するパルス発生回路部40Baと、そのパルス電圧を受けて立上り時間とパルス持続時間が極めて短い高圧パルス電圧を電極間電圧Vo2として生成する昇圧回路部40Bbとが設けられる。
【0110】
パルス発生回路部40Baは、1次電圧Vo1を周波数fで高速にターンオン/ターンオフする半導体スイッチング素子等で構成される。その周波数fは数KHz以下に設定されるが、スイッチングによるパルス波形の立上り時間/降下時間は数十nS以下、パルス時間幅は数百nS以下に設定される。昇圧回路部40Bbは、そのようなパルス電圧を20倍程度に昇圧するもので、パルストランス等で構成される。
【0111】
これらのパルス発生回路部40Ba、昇圧回路部40Bbは一例であって、最終的な電極間電圧Vo2として、ピーク値が20kV程度、パルスの立上り時間が100nS程度以下、パルス時間幅が数百nS以下のパルス電圧を、数kHz以下の周波数fで連続して生成できるものであれば、どのような構成のものでも良い。なお、電極間電圧Vo2が高ければ高いほど、図20に示した一対の電極24A(24B)間の間隔Lb(及び幅Lc)を広くすることが可能となり、基板FS上のミスト気体Mgsの噴射領域をXt方向に広げて、成膜レートを上げることが可能となる。
【0112】
また、一対の電極24A(24B)間での非熱平衡状態のプラズマの発生状態を調整する為に、可変直流電源40Aは、主制御ユニット100からの指令に応答して1次電圧Vo1(即ち電極間電圧Vo2)を変更するような機能を備えると共に、高圧パルス生成部40Bは、主制御ユニット100からの指令に応答して一対の電極24A(24B)間に印加されるパルス電圧の周波数fを変更するような機能を備える。
【0113】
図23は、図22のような構成の高圧パルス電源部40で得られた電極間電圧Vo2の波形特性の一例であり、縦軸は電圧Vo2(kV)を、横軸は時間(μS)を表す。図23の特性は、1次電圧Vo1が120V、周波数fが1kHzの場合に得られる電極間電圧Vo2の1パルス分の波形を示し、ピーク値として約18kVのパルス電圧Vo2が得られる。さらに、最初のピーク値(18kV)の5%から95%までの立上り時間Tuは、約120nSである。また、図22の回路構成では、最初のピーク値の波形(パルス時間幅は約400nS)の後の2μSまでの間にリンギング波形(減衰波形)が生じているが、この部分の電圧波形では非熱平衡状態のプラズマやアーク放電の発生には至らない。
【0114】
先に例示した電極の構成例、外径3mm、内径1.6mmの石英管Cp1、Cg1でカバーされた電極EP、EGを、間隔Lb=5mmで設置する場合、図23に示した最初のピーク値の波形部分が周波数fで繰り返されることによって、一対の電極24A(24B)間の領域PA(図21)内に非熱平衡状態の大気圧プラズマが安定に継続的に発生する。
【0115】
(ヒーターユニット27A、27B)
図24は、図19中のヒーターユニット27A(27Bも同様)の構成の一例を示す断面図である。シート基板FSは長尺方向(Xt軸方向)に一定の速度(例えば、毎分数mm~数cm)で連続搬送される為、ヒーターユニット27A(27B)の上面がシート基板FSの裏面と接触した状態では、基板FSの裏面に傷を付けるおそれがある。そこで、本実施形態では、ヒーターユニット27A(27B)の上面と基板FSの裏面との間に、数μm~数十μm程度の厚みでエアベアリングの気体層を形成し、非接触状態(或いは低摩擦状態)で基板FSを送るようにする。
【0116】
ヒーターユニット27A(27B)は、基板FSの裏面に対向配置されたベース基台270と、その上(Zt軸方向)の複数ヶ所に設けられる一定高さのスペーサ272と、複数のスペーサ272の上に設けられる平坦な金属製のプレート274と、複数のスペーサ272の間であって、ベース基台270とプレート274との間に配置される複数のヒーター275とで構成される。
【0117】
複数のスペーサ272の各々には、プレート274の表面まで貫通する気体の噴出孔274Aと、気体を吸引する吸気孔274Bとが形成されている。各スペーサ272内を貫通する噴出孔274Aは、ベース基台270内に形成された気体流路を介して、気体の導入ポート271Aにつながれ、各スペーサ272内を貫通する吸気孔274Bは、ベース基台270内に形成された気体流路を介して、気体の排気ポート271Bにつながれる。導入ポート271Aは加圧気体の供給源につながれ、排気ポート271Bは真空圧を作る減圧源につながれる。
【0118】
プレート274の表面で、噴出孔274Aと吸気孔274BとはY・Xt面内で近接して設けられているため、噴出孔274Aから噴出した気体は直ちに吸気孔274Bに吸引される。これによって、プレート274の平坦な表面と基板FSの裏面との間に、エアベアリングの気体層が形成される。基板FSが長尺方向(Xt軸方向)に所定のテンションを伴って搬送されている場合、基板FSはプレート274の表面に倣って平坦な状態を保つ。
【0119】
併せて、複数のヒーター275の発熱によって温められるプレート274の表面と基板FSの裏面とのギャップは、わずかに数μm~数十μm程度であるので、基板FSはプレート274の表面からの輻射熱によって、直ちに設定温度まで加熱される。その設定温度は、図19に示した温調制御部28によって制御される。
【0120】
また、基板FSの裏面からだけでなく、上面(被処理面)側からも加熱する必要がある場合は、基板FSの上面と所定のギャップで対向する加熱プレート(図24中のプレート274とヒーター275のセット)27Cが、基板FSの搬送方向に関してミスト気体Mgsの噴射領域の上流側に設けられる。
【0121】
以上のように、ヒーターユニット27A(27B)は、ミスト気体Mgsの噴射を受ける基板FSの一部分を加熱する温調機能と、基板FSをヘアベアリング方式で浮上させて平坦に支持する非接触(低摩擦)支持機能とを併せ持っている。図23に示した基板FSの上面と一対の電極24A(24B)とのZt方向の作動距離WDは、成膜時の膜厚の均一性を維持する為に、基板FSの搬送中も一定に保つのが望ましい。図24のように、本実施形態のヒーターユニット27A(27B)は、真空与圧型のエアベアリングで基板FSを支持するので、基板FSの裏面とプレート274の上面とのギャップがほぼ一定に保たれ、基板FSのZt方向への位置変動が抑えられる。
【0122】
以上、本実施形態(図19図24)の構成による薄膜製造装置1において、基板FSを長尺方向に一定速度で搬送した状態で、高圧パルス電源部40を作動させて一対の電極24A、24B間に非熱平衡状態の大気圧プラズマを発生させ、ミスト供給部22A、22Bの開口部SNからミスト気体Mgsを所定の流量で噴出する。大気圧プラズマが発生する領域PA(図21)を通ったミスト気体Mgsは基板FSに噴射され、ミスト気体Mgsのミストに含有される特定物質が基板FS上に連続的に堆積される。
【0123】
本実施形態では、基板FSの搬送方向に2つのミスト供給部22A、22Bを並べることによって、基板FS上に堆積される特定物質の薄膜の成膜レートが約2倍に向上する。従って、ミスト供給部22A、22Bを基板FSの搬送方向に増やすことによって、成膜レートはさらに向上する。
【0124】
なお、本実施形態では、ミスト供給部22A、22Bの各々に対して個別にミスト発生部20A、20Bを設け、個別にヒーターユニット27A、27Bを設けたので、ミスト供給部22Aの開口部SNから噴出されるミスト気体Mgsと、ミスト供給部22Bの開口部SNから噴出されるミスト気体Mgsとの特性(前駆体LQの特定物質の含有濃度、ミスト気体の噴出流量や温度等)を異ならせたり、基板FSの温度を異ならせたりすることができる。ミスト供給部22A、22Bの各々の開口部SNから噴出されるミスト気体Mgsの特性や、基板FSの温度を異ならせることによって、成膜状態(膜厚、平坦性等)を調整することができる。
【0125】
図19の薄膜製造装置1は、単独にロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式で基板FSを搬送するので、成膜レートは基板FSの搬送速度の変更によっても調整可能である。しかしながら、図19のような薄膜製造装置1で成膜される前に基板FSに下地処理等を施す前工程用装置、或いは、成膜された基板FSに直ちに感光レジストや感光性シランカップリング材等の塗布処理等を施す後工程用装置が接続されていると、基板FSの搬送速度を変更することが難しい場合がある。そのような場合でも、本実施形態による薄膜製造装置1では、設定された基板FSの搬送速度に適するように、成膜状態を調整することができる。
【0126】
もちろん、1つのミスト発生部20Aで生成させたミスト気体Mgsを、2つのミスト供給部22A、22B、或いはそれ以上のミスト供給部の各々に分配供給するようにしても良い。
【0127】
なお、本実施形態では、基板FSに対してZt軸方向からミスト気体Mgsを供給する構成について説明したが、これに限られず、基板FSに対して-Zt方向からミスト気体Mgsを供給する構成としてもよい。基板に対してZt方向からミスト気体Mgsを供給する構成の場合、ミスト供給部22A、22B内に溜まった液滴が基板FSに落下する可能性があるが、基板FSに対して-Zt軸方向からミスト気体Mgsを供給する構成とすることでこれを抑制することができる。どちらの方向からミスト気体Mgsを供給するかは、ミスト気体Mgsの供給量や、その他の製造条件に応じて適宜決定すればよい。
【符号の説明】
【0128】
1:薄膜製造装置、10:第1チャンバー、10A・10B:エアシール部、12:第2チャンバー、12A・12B:エアシール部、12C:ダクト、20A・20B:ミスト発生部、21A・21B:ダクト、22A・22B:ミスト供給部、23A・23B:ヒーター、24A・24B:電極、25A・25B:天板、27A・27B・27C:ヒーターユニット、28:温調制御部、30:排気制御部、30A:ダクト、40:高圧パルス電源部、40A:可変直流電源、40B:高圧パルス生成部、40Ba:パルス発生回路部、40Bb:昇圧回路部、50:乾燥部、60・60A・60B・60C:収容部、61・61A・61B・61C:蓋部、62・62A・62B・62C:容器、70A・70B・70C・70D・70E・70F・70G・70H・70I・70J:ガス供給部、72・72A・72B・72C・72D・72E・72F・72G・72H・72I・72J:ガス供給口、74・74A・74B・74C・74D・74E・74F:排出部、76・76A・76B・76C・76D・76E1・76E2・76F1・76F2:排出口、78・78A・78B・78C:電極、79・79A・79B・79C:先端部、80:ミスト化部、81:板状部材、90:ミスト発生装置、91:外部容器、94:仕切り、96:収容空間、98:空空間、100:主制御ユニット、270:ベース基台、271A:導入ポート、271B:排気ポート、272:スペーサ、274:プレート、274A:噴出孔、274B:吸気孔、275:ヒーター、Cg・Cp:誘電体、Cg1・Cp1:石英管、CR1・CR2・CR3・CR4:ローラ、Dh:開口部、EG・EP・EP1・EP2:電極、EQ1・EQ2:架台部、ES1・ES2:エッジセンサー、FS:基板、La・Lb・Lc:間隔、Mgs:ミスト気体、PA:領域、RL1:供給ロール、RL2:回収ロール、Sfa・Sfb・Sfc:内壁、SN:開口部、TB1・TB2:エアターンバー、Tu:時間、Vo1・Vo2:電圧、WD:間隔、φa:外径、φb:内径
図1
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