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特許7380517SOIウェーハの製造方法及びSOIウェーハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法及びSOIウェーハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20231108BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01L27/12 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020176850
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067962
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2022-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】横川 功
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-095951(JP,A)
【文献】特開2008-244019(JP,A)
【文献】特開平08-139295(JP,A)
【文献】特表2019-528573(JP,A)
【文献】国際公開第2008/146441(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する工程と、
前記ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する熱酸化工程と、
前記ボンドウェーハの一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記ベースウェーハ上の前記シリコン酸化膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する薄膜化工程と、
を含むSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第2主面上に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を全て前記裏面シリコン熱酸化膜とすることを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記裏面シリコン膜として、ポリシリコン、アモルファスシリコン、及び単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第1主面上に前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するバリアシリコン層を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としてのバリアシリコン酸化膜を得て、
前記貼り合わせ工程において、前記ボンドウェーハの前記一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記シリコン酸化膜の一部である前記バリアシリコン酸化膜を介して貼り合わせることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記貼り合わせ工程より前に、前記ボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記貼り合わせ工程において、前記ボンドウェーハの前記一方の主面のシリコン単結晶表面と前記ベースウェーハの前記バリアシリコン酸化膜の表面とを直接貼り合わせることを特徴とする請求項3に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記バリアシリコン層として、ドーパントの濃度が1×1016atoms/cm以下のものを形成することを特徴とする請求項3又は請求項5に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行い、
その後に、前記バリアシリコン層の前記未酸化の状態の一部の層に前記ベースウェーハ中の前記ドーパントを拡散させるアニールを加えることを特徴とする請求項3、請求項5又は請求項6に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記貼り合わせ工程より前に、前記ボンドウェーハの内部に水素イオン及び希ガスイオンからなる群より選択される少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程を更に含み、
前記薄膜化工程において、前記イオン注入層を剥離面として前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記ボンドウェーハを薄膜化して前記SOI層を得ることを特徴とする請求項1~請求項7の何れか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記ベースウェーハとして、前記ドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上のものを準備することを特徴とする請求項1~請求項8の何れか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項10】
ベースウェーハと、埋め込み酸化膜と、前記埋め込み酸化膜を介して前記ベースウェーハに貼り合わされたSOI層とを含むSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハは、ウェーハ全体にドーパントを含有し、前記SOI層との貼り合わせ面である第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面とを有するシリコン単結晶ウェーハからなり、
前記ベースウェーハの前記第2主面に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン熱酸化膜が、前記第2主面に直接接して配置されており、
前記SOI層は、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低い濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶からなるものであることを特徴とするSOIウェーハ。
【請求項11】
前記ベースウェーハの前記第1主面に、前記埋め込み酸化膜の少なくとも一部としてのバリアシリコン酸化膜が配置されているものであることを特徴とする請求項10に記載のSOIウェーハ。
【請求項12】
前記ベースウェーハと前記バリアシリコン酸化膜との間に、バリアシリコン層が配置されており、
前記バリアシリコン層中に、前記ベースウェーハが含有するドーパントと同種のドーパントが拡散しているものであることを特徴とする請求項11に記載のSOIウェーハ。
【請求項13】
少なくとも、
ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する工程と、
前記ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する熱酸化工程と、
前記ボンドウェーハの一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記ベースウェーハ上の前記シリコン酸化膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する薄膜化工程と、
を含むSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第2主面上に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第1主面上に前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するバリアシリコン層を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としてのバリアシリコン酸化膜を得て、
前記貼り合わせ工程において、前記ボンドウェーハの前記一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記シリコン酸化膜の一部である前記バリアシリコン酸化膜を介して貼り合わせ、
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行い、
その後に、前記バリアシリコン層の前記未酸化の状態の一部の層に前記ベースウェーハ中の前記ドーパントを拡散させるアニールを加えることを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウェーハの製造方法及びSOIウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子用のウェーハの一つとして、絶縁膜であるシリコン酸化膜の上にシリコン層(以下、SOI層と呼ぶことがある)を形成したSOI(Silicon On Insulator)ウェーハがある。このSOIウェーハは、デバイス作製領域となる基板表層部のSOI層が埋め込み絶縁層(埋め込み酸化膜(BOX層))により基板内部と電気的に分離されているため、寄生容量が小さく、耐放射性能力が高いなどの特徴を有する。そのため、SOIウェーハは、高速及び低消費電力での動作の実現、並びにソフトエラー防止などの効果が期待され、高性能半導体素子用の基板として有望視されている。
【0003】
このSOIウェーハを製造する代表的な方法として、ウェーハ貼り合わせ法やSIMOX法が挙げられる。ウェーハ貼り合わせ法は、例えば2枚のシリコン単結晶ウェーハのうちの少なくとも一方の表面に熱酸化膜を形成した後、この形成した熱酸化膜を介して2枚のウェーハを密着させ、結合熱処理を施すことによって結合力を高め、その後に片方のウェーハ(SOI層を形成するウェーハ(以下、ボンドウェーハ))を鏡面研磨等により薄膜化することによってSOIウェーハを製造する方法である。また、この薄膜化の方法としては、ボンドウェーハを所望の厚さまで研削、研磨する方法や、ボンドウェーハの内部に水素イオン又は希ガスイオンの少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成しておき、形成したイオン注入層を剥離面としてボンドウェーハを剥離して、薄膜化したSOI層を得るイオン注入剥離法と呼ばれる方法等がある。
【0004】
一方、SIMOX法は、単結晶シリコン基板の内部に酸素をイオン注入し、その後に高温熱処理(酸化膜形成熱処理)を行って注入した酸素とシリコンとを反応させてBOX層を形成することによってSOIウェーハを製造する方法である。
【0005】
上記の代表的な2つの手法のうち、ウェーハ貼り合わせ法は、作製されるSOI層やBOX層の厚さが自由に設定できるという優位性があるため、様々なデバイス用途に適用することが可能である。
【0006】
中でもイオン注入剥離法は、作製されるSOI層の膜厚均一性を極めて優れたものとすることができるため、近年、盛んに使用されるようになってきている。
【0007】
一方、SOIウェーハの反りを抑制したり、ゲッタリング能力を高めるために、特許文献1及び2に記載されているように、ボロンが高濃度にドープされたベースウェーハを用いてSOIウェーハを製造することがしばしば行なわれている。
【0008】
このようなボロンが高濃度にドープされたベースウェーハを、前記イオン注入剥離法に適用する場合において、例えば、2μm以上といった厚い埋め込み絶縁層を形成したものが要求されることがある。この場合、ボンドウェーハに厚い酸化膜を形成して貼り合わせようとすると、イオン注入エネルギーを極めて大きくする必要が生じたり、作製されるSOIウェーハの反りが大きくなってしまうという問題があるため、ベースウェーハ側に厚い酸化膜を形成してボンドウェーハと貼り合わせる必要がある。
【0009】
その際、ボロンが高濃度にドープされたベースウェーハを熱酸化して厚い酸化膜を形成するため、該熱酸化膜中に多量のボロンが含まれる結果となり、イオン注入剥離法による薄膜化後のSOIウェーハに対して、結合熱処理や平坦化熱処理、あるいはエピタキシャル成長等の高温の熱処理を施す際に、SOIウェーハ裏面の熱酸化膜に含まれたボロンが外方拡散してSOI層をドーパント汚染してしまうという問題(いわゆるオートドープ)があった。このようなオートドープが発生すると、SOI層の導電型や抵抗率が変化してしまう結果となる。
【0010】
同様の問題は、例えば研削・研磨などの他の薄膜化手法を用いた場合であっても、薄膜化後にSOI層上にエピタキシャル成長を行ってSOI層を厚膜化する熱処理や、SOIウェーハを用いたデバイス製造プロセス中の熱処理によっても発生していた。
【0011】
このような問題点に対し、本発明者は、特許文献3において、ベースウェーハの熱酸化工程より前に、ベースウェーハの貼り合わせ面とは反対側の面にCVD絶縁膜を形成することによって、SOI層のドーパント汚染と反りを同時に低減する方法を提案した。
【0012】
しかしながら、この方法を用いてもSOI層のドーパント汚染については、十分に抑制できない場合があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平5-226620号公報
【文献】特開平8-37286号公報
【文献】特開2008-294045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献3に記載の方法の上記問題の原因について本発明者が鋭意検討した結果、SOI層のドーパント汚染は、ベースウェーハの裏面酸化膜からの外方拡散が主な発生源であるが、CVD絶縁膜ではSOI層のドーパント汚染を十分に抑えることができないことがあることが明らかとなった。
【0015】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができるSOIウェーハの製造方法、及びベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できるSOIウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では、少なくとも、
ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する工程と、
前記ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する熱酸化工程と、
前記ボンドウェーハの一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記ベースウェーハ上の前記シリコン酸化膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する薄膜化工程と、
を含むSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第2主面上に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得ることを特徴とするSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0017】
このような本発明のSOIウェーハの製造方法では、貼り合わせ工程において、ベースウェーハのボンドウェーハとの貼り合わせ面(第1主面)とは反対側の面である第2主面上に裏面シリコン熱酸化膜が形成されており、ベースウェーハの第1主面とボンドウェーハの一方の主面とが、シリコン酸化膜を介して貼り合されたSOIウェーハを得ることができる。そして、裏面シリコン熱酸化膜は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含む裏面シリコン膜を熱酸化して得られたものである。このような裏面シリコン熱酸化膜は、例えばCVD絶縁膜よりも緻密な構造を有し、この熱酸化膜を通してのドーパントの拡散を確実に防ぐことができる。このようなSOIウェーハでは、ベースウェーハの第2主面からのボンドウェーハへのオートドープを裏面シリコン熱酸化膜によってブロックできる。また、ベースウェーハの熱酸化工程において、ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成するので、このシリコン酸化膜により、ベースウェーハの第1主面からボンドウェーハへの固相拡散によるオートドープや、ベースウェーハのテラス部(ベースウェーハの外周部にSOI層が形成されていない部分)及びエッジ部からのドーパントの外方拡散も抑制することもできる。
【0018】
従って、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、例えば貼り合わせ工程及びこの工程に続く工程において、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、ベースウェーハの裏面である第2主面からの外方拡散によってボンドウェーハ又はSOI層中に混入したり、ベースウェーハとボンドウェーハ又はSOI層との間のシリコン酸化膜を通しての固相拡散によってボンドウェーハ又はSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。特に、熱処理を伴う工程においても、SOI層へのドーパントの上記混入を抑制することができる。
【0019】
すなわち、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができる。そして、このようにオートドープを防ぐことができるので、SOI層の導電型や抵抗率が変化するのを防ぐことができる。
【0020】
さらに、本発明のSOIウェーハの製造方法で製造したSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合にも、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、ベースウェーハの裏面である第2主面の裏面シリコン熱酸化膜を通しての外方拡散によってSOI層中に混入したり、SOIウェーハの埋め込み酸化膜としてのシリコン酸化膜からの固相拡散によってSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。
【0021】
加えて、本発明のSOIウェーハの製造方法で製造したSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合、ベースウェーハの第2主面を通してのドーパントの外方拡散を抑制できるので、熱処理炉の炉内部品へのドーパント汚染も十分に抑制でき、炉内部品からウェーハへの2次汚染を抑制する効果も得られる。
【0022】
そして、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ドーパントを含有しているベースウェーハを用いることにより、反りを抑制でき、優れたゲッタリング効果を発揮することができるSOIウェーハを製造できる。
【0023】
前記裏面シリコン膜として、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、及び単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む膜を形成することができる。
【0024】
このように、裏面シリコン膜として、様々なシリコン含有膜を用いることができる。
【0025】
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第1主面上に前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するバリアシリコン層を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としてのバリアシリコン酸化膜を得て、
前記貼り合わせ工程において、前記ボンドウェーハの前記一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記シリコン酸化膜の一部である前記バリアシリコン酸化膜を介して貼り合わせることが好ましい。
【0026】
このような製造方法によって得られたSOIウェーハでは、バリアシリコン酸化膜が更なるドーパント拡散防止層として働くことができるので、ベースウェーハの第1主面からボンドウェーハへの固相拡散によるオートドープを更に確実に抑制することができる。
【0027】
前記貼り合わせ工程より前に、前記ボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成する工程を更に含んでもよい。
【0028】
このようにボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成することにより、貼り合わせ工程において、ベースウェーハとボンドウェーハとを、ベースウェーハの第1主面に配置されたシリコン酸化膜及びボンドウェーハに配置されたシリコン酸化膜を介して貼り合せることができる。このようにして貼り合わせ工程を行うことにより、ベースウェーハの第1主面からのボンドウェーハ又はSOI層中へのドーパントの混入をより確実に抑制することができる。
【0029】
或いは、前記バリアシリコン層を形成する場合、前記貼り合わせ工程において、前記ボンドウェーハの前記一方の主面のシリコン単結晶表面と前記ベースウェーハの前記バリアシリコン酸化膜の表面とを直接貼り合わせてもよい。
【0030】
ボンドウェーハにシリコン酸化膜を形成しない場合であっても、ベースウェーハからの第1主面に配置されたシリコン酸化膜を通しての固相拡散によるSOI層中へのドーパントの混入を十分に抑制することができる。この態様は、酸化膜同士の貼り合わせが適用できない場合(例えば貼り合わせ工程において高温(例えば、1150℃以上)の熱処理ができない場合)に特に有効である。
【0031】
前記バリアシリコン層として、ドーパントの濃度が1×1016atoms/cm以下のものを形成することが好ましい。
【0032】
このようなバリアシリコン層を形成することにより、ベースウェーハからの第1主面に配置されたシリコン酸化膜を通しての固相拡散によるSOI層中へのドーパントの混入をより確実に抑制することができる。
【0033】
前記熱酸化工程において、前記バリアシリコン層の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行い、
その後に、前記バリアシリコン層の前記未酸化の状態の一部の層に前記ベースウェーハ中の前記ドーパントを拡散させるアニールを加えてもよい。
【0034】
このように、熱酸化工程において、バリアシリコン層の全てではなく一部のみをバリアシリコン酸化膜として、バリアシリコン層の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行うことができる。この場合、バリアシリコン層のうち未酸化の状態の一部の層にドーパントを拡散させるアニールを行うこともできる。
【0035】
前記貼り合わせ工程より前に、前記ボンドウェーハの内部に水素イオン及び希ガスイオンからなる群より選択される少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程を更に含み、
前記薄膜化工程において、前記イオン注入層を剥離面として前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記ボンドウェーハを薄膜化して前記SOI層を得てもよい。
【0036】
このようなイオン注入層を形成するイオン注入工程を行い、薄膜化工程でこのイオン注入層を利用することにより、優れた膜厚均一性を有する薄膜化したSOI層を得ることができる。
【0037】
前記ベースウェーハとして、前記ドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上のものを準備することができる。
【0038】
発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上のベースウェーハを用いても、本ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができる。
【0039】
また、本発明では、ベースウェーハと、埋め込み酸化膜と、前記埋め込み酸化膜を介して前記ベースウェーハに貼り合わされたSOI層とを含むSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハは、ウェーハ全体にドーパントを含有し、前記SOI層との貼り合わせ面である第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面とを有するシリコン単結晶ウェーハからなり、
前記ベースウェーハの前記第2主面に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン熱酸化膜が配置されており、
前記SOI層は、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低い濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶からなるものであることを特徴とするSOIウェーハを提供する。
【0040】
本発明のSOIウェーハでは、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含む裏面シリコン熱酸化膜が、例えばCVD絶縁膜よりも緻密な構造を有し、この熱酸化膜を通してのドーパントの拡散を確実に防ぐことができる。そのため、本発明のSOIウェーハは、このような裏面シリコン熱酸化膜により、ベースウェーハの第1主面(SOI層との貼り合わせ面)とは反対側の第2主面を通してのドーパントの外方拡散を防ぐことができる。また、本発明のSOIウェーハが含む埋め込み酸化膜は、この埋め込み酸化膜を通してのドーパントの固相拡散を抑制することができる。そのため、本発明のSOIウェーハでは、埋め込み酸化膜を通してのベースウェーハの第1主面からSOIウェーハへのドーパントの拡散も防ぐことができる。その結果、本発明のSOIウェーハは、ベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できる。
【0041】
さらに、本発明のSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合にも、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、第2主面を通しての外方拡散によってSOI層中に混入したり、埋め込み酸化膜における固相拡散によってSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。
【0042】
加えて、本発明のSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合、ベースウェーハの第2主面を通してのドーパントの外方拡散を抑制できるので、熱処理炉の炉内部品へのドーパント汚染も十分に抑制でき、炉内部品からウェーハへの2次汚染を抑制する効果も得られる。
【0043】
そして、本発明のSOIウェーハは、ドーパントを含有しているベースウェーハを含むので、反りを抑制でき、優れたゲッタリング効果を発揮することができる。
【0044】
前記ベースウェーハの前記第1主面に、前記埋め込み酸化膜の少なくとも一部としてのバリアシリコン酸化膜が配置されているものであることが好ましい。
【0045】
このようなバリアシリコン酸化膜を含むSOIウェーハは、埋め込み酸化膜を通しての固相拡散によるベースウェーハからSOI層へのドーパントの混入をより確実に防ぐことができる。
【0046】
前記ベースウェーハと前記バリアシリコン酸化膜との間に、バリアシリコン層が配置されており、
前記バリアシリコン層中に、前記ベースウェーハが含有するドーパントと同種のドーパントが拡散していてもよい。
【0047】
このように、本発明のSOIウェーハは、ベースウェーハとバリアシリコン酸化膜との間に、バリアシリコン層を更に含むことができる。
【発明の効果】
【0048】
以上のように、本発明のSOIウェーハの製造方法であれば、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができる。そして、このようにオートドープを防ぐことができるので、SOI層の導電型や抵抗率が変化するのを防ぐことができる。
【0049】
更に、本発明のSOIウェーハの製造方法で製造したSOIウェーハを用いてデバイスを製造することにより、ベースウェーハに含まれていたドーパントがSOI層中に混入することを抑制することができる。
【0050】
そして、本発明のSOIウェーハの製造方法によって製造したSOIウェーハは、反りを抑制でき、優れたゲッタリング効果を発揮することができる。
【0051】
また、本発明のSOIウェーハであれば、ベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できる。
【0052】
更に、本発明のSOIウェーハを用いたデバイスの製造プロセス中、ベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できる。
【0053】
そして、本発明のSOIウェーハは、反りを抑制でき、優れたゲッタリング効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明のSOIウェーハの第一例を示す概略断面図である。
図2】本発明のSOIウェーハの第二例を示す概略断面図である。
図3】本発明のSOIウェーハの第三例を示す概略断面図である。
図4】本発明のSOIウェーハの第四例を示す概略断面図である。
図5】本発明のSOIウェーハの製造方法の第一例を示す概略フロー図である。
図6】本発明のSOIウェーハの製造方法の第二例を示す概略フロー図である。
図7】本発明のSOIウェーハの製造方法の第三例を示す概略フロー図である。
図8】実施例6でのシミュレーション結果を示すグラフである。
図9】実施例7でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
上述のように、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながらSOIウェーハを製造することができるSOIウェーハの製造方法、及びベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できるSOIウェーハの開発が求められていた。
【0056】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ベースウェーハの熱酸化工程の前に、ベースウェーハの貼り合わせ面とは反対側の第2主面上にベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成し、その後にベースウェーハの熱酸化工程を行ない、次いでベースウェーハとボンドウェーハとの貼り合わせを行うことにより、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0057】
即ち、本発明は、少なくとも、
ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する工程と、
前記ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する熱酸化工程と、
前記ボンドウェーハの一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記ベースウェーハ上の前記シリコン酸化膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する薄膜化工程と、
を含むSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第2主面上に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得ることを特徴とするSOIウェーハの製造方法である。
【0058】
また、本発明は、ベースウェーハと、埋め込み酸化膜と、前記埋め込み酸化膜を介して前記ベースウェーハに貼り合わされたSOI層とを含むSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハは、ウェーハ全体にドーパントを含有し、前記SOI層との貼り合わせ面である第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面とを有するシリコン単結晶ウェーハからなり、
前記ベースウェーハの前記第2主面に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン熱酸化膜が配置されており、
前記SOI層は、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低い濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶からなるものであることを特徴とするSOIウェーハである。
【0059】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<SOIウェーハ>
まず、本発明のSOIウェーハを説明する。
【0061】
本発明のSOIウェーハは、ベースウェーハとSOI層とが埋め込み酸化膜を介して貼り合されており、ベースウェーハのSOI層との貼り合わせ面である第1主面とは反対側の第2主面に裏面シリコン熱酸化膜が配置されており、裏面シリコン熱酸化膜中のドーパント濃度がベースウェーハのドーパント濃度よりも低いことを特徴とする。埋め込み酸化膜は、これを通しての固相拡散によるベースウェーハからSOI層へのドーパントの混入を防ぐことができる。加えて、裏面シリコン熱酸化膜は、例えばCVD絶縁膜よりも緻密な構造を有し、この熱酸化膜を通してのベースウェーハの第1主面とは反対側の第2主面からのドーパントの外方拡散を防ぐことができる。その結果、本発明のSOIウェーハは、ベースウェーハに含まれているドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制できる。
【0062】
さらに、本発明のSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合にも、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、第2主面を通しての外方拡散によってSOI層中に混入したり、埋め込み酸化膜における固相拡散によってSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。
【0063】
加えて、本発明のSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合、ベースウェーハの第2主面を通してのドーパントの外方拡散を抑制できるので、熱処理炉の炉内部品へのドーパント汚染も十分に抑制でき、炉内部品からウェーハへの2次汚染を抑制する効果も得られる。
【0064】
本発明のSOIウェーハでは、ベースウェーハの第1主面に埋め込み酸化膜の少なくとも一部としてのバリアシリコン酸化膜が配置されていても良い。
【0065】
このようなバリアシリコン酸化膜を含むSOIウェーハは、埋め込み酸化膜を通しての固相拡散によるベースウェーハからSOI層へのドーパントの混入をより確実に防ぐことができる。
【0066】
本発明のSOIウェーハでは、ベースウェーハとバリアシリコン酸化膜との間に、バリアシリコン層が配置されていても良い。この場合、バリアシリコン層中に、ベースウェーハが含有するドーパントと同種のドーパントが拡散していても良い。
【0067】
このように、本発明のSOIウェーハは、ベースウェーハとバリアシリコン酸化膜との間に、バリアシリコン層を更に含むことができる。本発明のSOIウェーハは、他の層を含むこともできる。
【0068】
本発明のSOIウェーハは、例えば、後段で説明する本発明のSOIウェーハの製造方法によって製造することができる。
【0069】
以下、本発明のSOIウェーハの各構成部材をより詳細に説明する。
【0070】
(ベースウェーハ)
ベースウェーハは、ウェーハ全体にドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなる。ドーパントとしては、例えば、B、Ga、P、Sb、As等を挙げることができる。このようなシリコン単結晶ウェーハは、例えば、CZ法やFZ法により製造されたシリコン単結晶インゴットをスライスして得ることができる。
【0071】
ベースウェーハのドーパント濃度は、SOI層のドーパント濃度よりも高ければ特に限定されないが、例えば1×1017atoms/cm以上とすることができる。ドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上であるベースウェーハを用いることにより、優れたゲッタリング効果を示すことができると共に、SOIウェーハの反りを更に抑制することができる。そして、先に説明した理由により、本発明のSOIウェーハでは、ベースウェーハ中のドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上であるベースウェーハを用いても、ベースウェーハに含まれるドーパントがSOI層に混入することを抑制することができる。
【0072】
尚、ベースウェーハのドーパントがn型ドーパントの場合、ベースウェーハに熱酸化によってシリコン酸化膜を形成する際にシリコン酸化膜中に取り込まれるドーパント濃度はp型ドーパントに比べて低いので、前述した様なSOI層をドーパント汚染してしまうという問題はそれほど顕著には発生しないが、n型であっても、例えばベースウェーハのドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上の高濃度である場合、SOI層のドーパント汚染の問題を無視できなくなる。しかしながら、上段で述べたように、本発明のSOIウェーハでは、ベースウェーハのドーパント濃度がこのような高濃度であっても、ベースウェーハに含まれるドーパントがSOI層に混入することを抑制することができる。
【0073】
ベースウェーハのドーパント濃度の上限は、特に限定されないが、シリコン単結晶へのそのドーパントの固溶限界以下とすることができる。ベースウェーハのドーパント濃度は、1×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下であることが好ましい。
【0074】
(裏面シリコン熱酸化膜)
ベースウェーハのSOI層との貼り合わせ面である第1主面とは反対側の第2主面に、裏面シリコン熱酸化膜が配置されている。裏面シリコン熱酸化膜は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含む。
【0075】
裏面シリコン熱酸化膜中のドーパントの濃度は、ベースウェーハのドーパント濃度以下であれば特に限定されないが、例えば、1×1013atoms/cm以上1×1016atoms/cm以下であり得る。
【0076】
ドーパントとしては、例えば、B、Ga、P、Sb、As等を挙げることができる。裏面シリコン熱酸化膜は、ベースウェーハに含まれるドーパントと同種のドーパントを含んでも良いし、異種のドーパントを含んでも良い。
【0077】
裏面シリコン熱酸化膜は、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、及び単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種と、上記ドーパントとを含むシリコン膜を熱酸化に供して得られたものであり得る。これらの中では、ベースウェーハの熱酸化膜形成などの熱処理中のゲッタリング効果を考慮すると、ポリシリコンが好適である。ポリシリコンを含む裏面シリコン熱酸化膜は、ポリバックシール酸化膜と呼ぶこともできる。
【0078】
裏面シリコン熱酸化膜とベースウェーハの第2主面との間には、ポリシリコン、アモルファスシリコン、及び単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種と、上記ドーパントとを含む裏面シリコン膜(すなわち、熱酸化を受けていないシリコン膜)が配置されていても良い。
【0079】
(表面シリコン酸化膜)
また、任意に、ベースウェーハのSOI層との貼り合わせ面である第1主面に、表面シリコン酸化膜が配置されていても良い。
【0080】
表面シリコン酸化膜は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含むバリアシリコン酸化膜を含んでいても良いし、このバリアシリコン酸化膜からなっていても良いし、又はバリアシリコン酸化膜を含まなくても良い。
【0081】
表面シリコン酸化膜がバリアシリコン酸化膜を含まない場合、表面シリコン酸化膜は、ベースウェーハのSOI層と貼り合される方の主面(第1主面)が熱酸化によって酸化して形成されたシリコン熱酸化膜であり得る。
【0082】
ベースウェーハは、第1主面に、SOI層が形成されていない部分、すなわちテラス部を含むことができる。表面シリコン酸化膜は、ベースウェーハの第1主面のうち、テラス部にも配置することができる。この場合、表面シリコン酸化膜は、ベースウェーハの第1主面のテラス部を通してのドーパントの外方拡散をブロックすることができる。
【0083】
(ベースウェーハの全面に形成されたシリコン酸化膜)
また、ベースウェーハの側面に、側面シリコン酸化膜が配置されていても良い。側面シリコン酸化膜が配置されている場合、表面シリコン酸化膜、裏面シリコン熱酸化膜及び側面シリコン酸化膜は、ベースウェーハの全面に形成されたシリコン熱酸化膜を構成することができる。
【0084】
(SOI層)
SOI層は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低い濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶からなる。
【0085】
ドーパントとしては、例えば、B、Ga、P、Sb、As等を挙げることができる。SOI層は、ベースウェーハに含まれるドーパントと同種のドーパントを含んでも良いし、異種のドーパントを含んでも良い。
【0086】
SOI層のドーパント濃度は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低くければ特に限定されず、SOI層に求められる導電型及び抵抗率に応じて適宜変更できる。SOI層のドーパント濃度は、例えば1×1013atoms/cm以上1×1016atoms/cm以下とすることができる。
【0087】
SOI層は、ドーパントを含有していない部分を含むこともできる。
【0088】
SOI層のベースウェーハとの貼り合わせ面である一方の主面に、シリコン酸化膜(以下、SOI側シリコン酸化膜ともいう)が配置されていてもよい。
【0089】
(埋め込み酸化膜)
埋め込み酸化膜は、ベースウェーハとSOI層との間に配置される。
【0090】
埋め込み酸化膜は、その少なくとも一部として、先に説明した表面シリコン酸化膜を含んでもよい。埋め込み酸化膜は、表面シリコン酸化膜からなっていてもよい。
【0091】
埋め込み酸化膜は、バリアシリコン酸化膜からなっていても良い。この場合、SOIウェーハにおいて、SOI層のシリコン単結晶表面と、ベースウェーハのバリアシリコン酸化膜の表面とが直接貼り合されていても良い。
【0092】
或いは、埋め込み酸化膜は、表面シリコン酸化膜又はバリアシリコン酸化膜と、これとは別の酸化膜とを含んでいても良い。例えば、SOI層のベースウェーハとの貼り合わせ面である一方の主面にSOI側シリコン酸化膜が配置されている場合、このSOI側シリコン酸化膜は、埋め込み酸化膜の一部であってもよい。この場合、SOIウェーハにおいて、表面シリコン酸化膜又はバリアシリコン酸化膜と、SOI側シリコン酸化膜とが直接貼り合されていても良い。
【0093】
或いは、埋め込み酸化膜は、バリアシリコン酸化膜を含まなくても良い。この場合、例えば、埋め込み酸化膜は、先に説明した、ベースウェーハの一方の主面が熱酸化により酸化して形成された表面シリコン酸化膜を含むことができる。
【0094】
次に、本発明のSOIウェーハの幾つかの具体例を、図1図4を参照しながら説明する。ただし、本発明のSOIウェーハは、以下に説明する例に限定されるものではない。また、以下では各構成部材の配置のみを説明する。各構成部材の詳細は、上記を参照されたい。
【0095】
[第一例]
図1は、本発明のSOIウェーハの第一例を示す概略断面図である。
【0096】
図1に示す第一例のSOIウェーハ100は、ベースウェーハ10と、埋め込み酸化膜20と、埋め込み酸化膜20を介してベースウェーハ10に貼り合されたSOI層30とを含む。
【0097】
ベースウェーハ10は、SOI層30との貼り合わせ面である第1主面11と、この第1主面11と反対側の第2主面12とを有する。
【0098】
ベースウェーハ10の第1主面11には、表面シリコン酸化膜21が配置されている。表面シリコン酸化膜21は、先に説明した、バリアシリコン酸化膜を含んでも良いし、バリアシリコン酸化膜を含まなくても良い。図1に示す第一例のSOIウェーハ100では、埋め込み酸化膜20は、表面シリコン酸化膜21からなる。なお、図1に示す第一例のSOIウェーハ100では、ベースウェーハ10の第1主面11のうち、SOI層30を担持していない部分、すなわちテラス部14にも、表面シリコン酸化膜21が形成されている。一方、ベースウェーハ10の第2主面12には、裏面シリコン熱酸化膜51が配置されている。更に、ベースウェーハ10の側面(エッジ部)13には、側面シリコン酸化膜52が配置されている。
【0099】
すなわち、図1に示す第一例のSOIウェーハ100では、ベースウェーハ10の全面が、表面シリコン酸化膜21、裏面シリコン熱酸化膜51及び側面シリコン酸化膜52を含むシリコン酸化膜50で被覆されている。
【0100】
そして、図1に示す第一例のSOIウェーハ100では、SOI層30の一方の主面32が、表面シリコン酸化膜21、すなわち埋め込み酸化膜20の表面に直接貼り合されている。
【0101】
[第二例]
図2は、本発明のSOIウェーハの第二例を示す概略断面図である。
【0102】
図2に示す第二例のSOIウェーハ100は、ベースウェーハ10の第2主面12と裏面シリコン熱酸化膜51との間に、先に説明した裏面シリコン膜40が配置されている以外は、第一例のSOIウェーハ100と同様である。
【0103】
[第三例]
図3は、本発明のSOIウェーハの第三例を示す概略断面図である。
【0104】
図3に示す第三例のSOIウェーハ100は、SOI層30の表面の一部にシリコン酸化膜(SOI側シリコン酸化膜)22が形成されている以外は、第一例のSOIウェーハ100と同様である。
【0105】
具体的には、図3に示すように、SOI層30のベースウェーハ10との貼り合わせ面である一方の主面32に、SOI側シリコン酸化膜22が配置されている。
【0106】
また、図3に示す第三例のSOIウェーハ100では、SOI層30の一方の主面32に配置されたSOI側シリコン酸化膜22と、ベースウェーハ10の第1主面11に配置された表面シリコン酸化膜21とが貼り合されて、埋め込み酸化膜20を構成している。言い換えると、第三例のSOIウェーハ100は、埋め込み酸化膜20の一部としての表面シリコン酸化膜21と、埋め込み酸化膜20の他の一部としてのSOI側シリコン酸化膜22とを含んでいる。
【0107】
[第四例]
図4は、本発明のSOIウェーハの第四例を示す概略断面図である。
【0108】
図4に示す第四例のSOIウェーハ100は、ベースウェーハ10の第1主面11と表面シリコン酸化膜21との間にバリアシリコン層60が配置されている以外は、第二例のSOIウェーハ100と同様である。
【0109】
<SOIウェーハの製造方法>
次に、本発明のSOIウェーハの製造方法を説明する。
【0110】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、少なくとも、
ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、前記ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する工程と、
前記ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する熱酸化工程と、
前記ボンドウェーハの一方の主面と前記ベースウェーハの前記第1主面とを、前記ベースウェーハ上の前記シリコン酸化膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する薄膜化工程と、
を含むSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハの熱酸化工程より前に、前記ベースウェーハの前記第2主面上に、前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有する裏面シリコン膜を形成する工程を更に含み、
前記熱酸化工程において、前記裏面シリコン膜を熱酸化して、前記シリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得ることを特徴とする。
【0111】
このような本発明のSOIウェーハの製造方法では、貼り合わせ工程において、ベースウェーハのボンドウェーハとの貼り合わせ面(第1主面)とは反対側の面である第2主面上に裏面シリコン熱酸化膜が形成されており、ベースウェーハの第1主面とボンドウェーハの一方の主面とが、シリコン酸化膜を介して貼り合されたSOIウェーハを得ることができる。そして、裏面シリコン熱酸化膜は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含む裏面シリコン膜を熱酸化して得られたものである。このような裏面シリコン熱酸化膜は、例えばCVD絶縁膜よりも緻密な構造を有し、この熱酸化膜を通してのドーパントの拡散を確実に防ぐことができる。このようなSOIウェーハでは、ベースウェーハの第2主面からのボンドウェーハへのオートドープを裏面シリコン熱酸化膜によってブロックできる。また、ベースウェーハの熱酸化工程において、ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成するので、このシリコン酸化膜により、ベースウェーハの第1主面からボンドウェーハへの固相拡散によるオートドープや、ベースウェーハのテラス部及びエッジ部からのドーパントの外方拡散を抑制することもできる。
【0112】
従って、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、例えば貼り合わせ工程及びこの工程に続く工程において、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、ベースウェーハの裏面である第2主面からの外方拡散によってボンドウェーハ又はSOI層中に混入したり、ベースウェーハとボンドウェーハ又はSOI層との間のシリコン酸化膜を通しての固相拡散によってボンドウェーハ又はSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。特に、熱処理を伴う工程においても、SOI層へのドーパントの上記混入を抑制することができる。
【0113】
すなわち、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ベースウェーハに含まれるドーパントの混入によるSOI層の汚染を抑制しながら、SOIウェーハを製造することができる。そして、このようにオートドープを防ぐことができるので、SOI層の導電型や抵抗率が変化するのを防ぐことができる。
【0114】
さらに、本発明のSOIウェーハの製造方法で製造したSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合にも、ベースウェーハに含まれていたドーパントが、ベースウェーハの裏面である第2主面の裏面シリコン熱酸化膜を通しての外方拡散によってSOI層中に混入したり、SOIウェーハの埋め込み酸化膜としてのシリコン酸化膜からの固相拡散によってSOI層中に混入したりすることを抑制することができる。
【0115】
加えて、本発明のSOIウェーハの製造方法で製造したSOIウェーハを用いてデバイスを製造する場合、ベースウェーハの第2主面を通してのドーパントの外方拡散を抑制できるので、熱処理炉の炉内部品へのドーパント汚染も十分に抑制でき、炉内部品からウェーハへの2次汚染を抑制する効果も得られる。
【0116】
そして、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ドーパントを含有しているベースウェーハを用いることにより、反りを抑制でき、優れたゲッタリング効果を発揮することができるSOIウェーハを製造できる。
【0117】
以下、本発明のSOIウェーハの製造方法をより詳細に説明する。
【0118】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、少なくとも、ベースウェーハ及びボンドウェーハを準備する工程と、ベースウェーハの熱酸化工程と、貼り合わせ工程と、薄膜化工程とを含み、ベースウェーハの熱酸化工程より前に、裏面シリコン膜を形成する工程を更に含む。
【0119】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、熱酸化工程より前に、ベースウェーハの前記第1主面上に前記ベースウェーハの前記ドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するバリアシリコン層を形成する工程を更に含むことが好ましい。この場合、熱酸化工程において、バリアシリコン層を熱酸化して、ベースウェーハの全面に形成するシリコン酸化膜の一部としてのバリアシリコン酸化膜を得て、貼り合わせ工程において、ボンドウェーハの一方の主面とベースウェーハの第1主面とを、上記シリコン酸化膜の一部であるバリアシリコン酸化膜を介して貼り合わせることが好ましい。
【0120】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、貼り合わせ工程より前に、ボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成する工程を更に含んでもよい。
【0121】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、貼り合わせ工程より前に、ボンドウェーハの内部に水素イオン及び希ガスイオンからなる群より選択される少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程を更に含むことができる。この場合、薄膜化工程において、イオン注入層を剥離面として前記ボンドウェーハを剥離することにより、ボンドウェーハを薄膜化して前記SOI層を得てもよい。
【0122】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、他の工程を更に含むこともできる。
【0123】
次に、本発明のSOIウェーハの製造方法の各工程を更に詳細に説明する。
【0124】
(ベースウェーハ及びボンドウェーハを準備する工程)
この工程では、ウェーハ全体にドーパントを含有し且つ第1主面及び第1主面と反対側の第2主面を有するシリコン単結晶ウェーハからなるベースウェーハと、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するシリコン単結晶ウェーハからなるボンドウェーハとを準備する。
【0125】
準備するベースウェーハとしては、本発明のSOIウェーハの説明において挙げたベースウェーハを挙げることができる。特に、ドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上であるベースウェーハを用いることにより、優れたゲッタリング効果を示すことができると共に、製造するSOIウェーハの反りを更に抑制することができる。そして、先に説明した理由により、本発明のSOIウェーハの製造方法では、ベースウェーハ中のドーパント濃度が1×1017atoms/cm以上であるベースウェーハを用いても、ベースウェーハに含まれていたドーパントがボンドウェーハ又はSOI層に混入することを防ぐことができる。
【0126】
ボンドウェーハは、後段に説明する薄膜化工程でSOI層となる。よって、製造するSOIウェーハのSOI層に求められる導電型及び抵抗率を有するボンドウェーハを準備するのが好ましい。具体的には、準備するボンドウェーハとしては、本発明のSOIウェーハの説明において挙げたSOI層のシリコン単結晶からなるボンドウェーハを挙げることができる。
【0127】
(ボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成する工程)
任意のこの工程では、後段で説明する貼り合わせ工程の前に、準備したボンドウェーハの全面に、シリコン酸化膜を形成する。
【0128】
シリコン酸化膜を形成する手段は、特に限定されないが、例えばボンドウェーハの表面を熱酸化してシリコン酸化膜を形成することができる。
【0129】
(イオン注入工程)
任意のこの工程では、ボンドウェーハの内部に水素イオン及び希ガスイオンからなる群より選択される少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成する。
【0130】
イオンを注入する具体的な手段は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0131】
(裏面シリコン膜を形成する工程)
この工程では、ベースウェーハの第2主面(ボンドウェーハの貼り合わせ面(第1主面)に対する裏面)上に裏面シリコン膜を形成する。
【0132】
裏面シリコン膜として、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、及び単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種を含む膜を形成することができる。先にも述べたように、これらの中では、ベースウェーハの熱酸化膜形成などの熱処理中のゲッタリング効果を考慮すると、ポリシリコンが好適である。ポリシリコンを含む裏面シリコン膜は、ポリバックシールと呼ぶこともできる。
【0133】
裏面シリコン膜は、ドーパントを含有する。裏面シリコン膜のドーパントは、ベースウェーハが含有するドーパントと同種であっても良いし、異なっていても良い。裏面シリコン膜におけるドーパントの濃度は、ベースウェーハのドーパント濃度よりも低ければ特に限定されないが、例えば1×1013atoms/cm以上1×1016atoms/cm以下とすることができる。
【0134】
裏面シリコン膜は、例えば、CVD炉内にあるサセプタにベースウエーハをその第1主面が下になるように載置し、その反対側の面である第2主面に、ドーパントを含む、ポリシリコン又はアモルファスシリコンの膜をCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)によって堆積して、形成することができる。また、エピタキシャル法により、ドーパントを含む単結晶シリコンの膜を、裏面シリコン膜として形成することもできる。
【0135】
(バリアシリコン層を形成する工程)
任意のこの工程では、ベースウェーハの第1主面上にベースウェーハのドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含有するバリアシリコン層を形成する。
【0136】
この任意の工程で形成したバリアシリコン層は、後の熱酸化工程で、ベースウェーハの全面に形成するシリコン酸化膜の一部としての、バリアシリコン酸化膜とすることができる。このようなバリアシリコン酸化膜は、更なるドーパント拡散防止層として働くことができるので、ベースウェーハの第1主面からボンドウェーハへの固相拡散によるオートドープを更に確実に抑制することができる。
【0137】
バリアシリコン層は、例えば、エピタキシャル成長によりベースウェーハの第1主面上に形成することができる。
【0138】
バリアシリコン層として、ドーパントの濃度が1×1016atoms/cm以下のものを形成することが好ましい。
【0139】
このようなバリアシリコン層を形成することにより、ベースウェーハからの第1主面に配置されたシリコン酸化膜を通しての固相拡散によるSOI層中へのドーパントの混入をより確実に抑制することができる。
【0140】
バリアシリコン層のドーパント濃度は、いわゆるノンドープとして、不可避的に混入するもの程度とすることができる。バリアシリコン層に含有させるドーパントは、ベースウェーハのドーパントと同種でもよいし、又は異なっていても良い。
【0141】
バリアシリコン層の膜厚は、特に限定されないが、例えば本発明のSOIウェーハの製造方法によって得られるSOIウェーハのSOI層とベースウェーハとの間のシリコン酸化膜(埋め込み酸化膜)の総厚の半分以上とすることができる。このような膜厚を有するバリアシリコン層を形成し、これを後段で説明する熱酸化工程によりバリアシリコン酸化膜とすることで、ベースウェーハの第1主面からボンドウェーハ又はボンドウェーハを薄膜化して得られるSOI層へのドーパントの固相拡散による混入をより十分に抑制できる。バリアシリコン酸化膜の膜厚は、400nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましく、600nm以上であることが更に好ましい。バリアシリコン酸化膜の膜厚は、例えば1000nm以下とすることができる。
【0142】
なお、バリアシリコン層の厚さを厚くすることで、ベースウェーハからのドーパントの拡散を抑制しやすくなるが、SOIウェーハの埋め込み酸化膜(BOX層)の厚さに対して、ドーパント濃度が低い層が厚すぎると、BOX層直下に、ドーパント濃度が低い層が出来てしまう。このようなSOIウェーハが製造されるのが望まれない場合、これを防止する方法として、一つに、バリアシリコン層の厚さを薄くすることが望ましく、例えば、製造するSOIウェーハの埋め込み酸化膜の厚さの半分程度の厚さにすることが望ましい。ここでは、Si/SiO=0.45の酸化比率(Si層全体を熱酸化によりSiO層に変化させた場合のSi層とSiO層の膜厚の比率)から半分程度とした。
【0143】
本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、ベースウェーハの第1主面が、SOI層を担持していない部分、すなわちテラス部を含むSOIウェーハを製造することができる。この場合、バリアシリコン層を形成する任意の工程において、ベースウェーハの第1主面のうちテラス部となる部分にも、バリアシリコン層を形成しても良い。後段で説明する熱酸化工程によりバリアシリコン層をバリアシリコン酸化膜とすることにより、バリアシリコン層のうちテラス部上に形成された部分もバリアシリコン酸化膜の一部となる。バリアシリコン酸化膜のこの一部は、SOIウェーハのテラス部からのドーパントの外方拡散を更に抑制することができる。
【0144】
そのため、この場合、ベースウェーハの外周部にSOI層が形成されていない部分、すなわちテラス部があっても、バリアシリコン酸化膜により、このテラス部を通してのSOI層へのドーパントの混入を更に防ぐことができる。
【0145】
尚、ベースウェーハの熱酸化工程より前に行う裏面シリコン膜を形成する工程と、任意のバリアシリコン層を形成する工程との工程順は、特に限定されない。また、貼り合わせ不良を低減するために、裏面シリコン膜とバリアシリコン層との両者を形成したベースウェーハの貼り合わせ側の表面(すなわちバリアシリコン層)を、熱酸化工程の前に、再研磨することもできる。
【0146】
(熱酸化工程)
この工程では、ベースウェーハの全面にシリコン酸化膜を熱酸化によって形成する。また、この工程では、ベースウェーハの第2主面上に形成した裏面シリコン膜を熱酸化して、ベースウェーハの全面に形成するシリコン酸化膜の一部としての裏面シリコン熱酸化膜を得る。
【0147】
この工程では、裏面シリコン膜の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行ってもよい。
【0148】
また、ベースウェーハの第1主面上にバリアシリコン層を形成しない場合、この工程において、ベースウェーハの第1主面(ボンドウェーハとの貼り合わせ面)も熱酸化され、先に説明した表面シリコン酸化膜となる。この工程ののち、ベースウェーハのうち、表面シリコン酸化膜に接した面が、新たな第1主面となる。
【0149】
また、ベースウェーハの第1主面上にバリアシリコン層を形成した場合、この工程で、バリアシリコン層の少なくとも一部を熱酸化して、ベースウェーハの全面に形成するシリコン酸化膜の一部としてのバリアシリコン酸化膜を得ることができる。
【0150】
そして、この工程では、バリアシリコン層の一部が未酸化の状態で残るように熱酸化を行なってもよい。
【0151】
熱酸化工程において、バリアシリコン層を完全に酸化せずに未酸化の残厚が残るように熱酸化を行なって埋め込み酸化膜(BOX層)の少なくとも一部となるシリコン酸化膜を形成すると、シリコン酸化膜直下に、ドーパント濃度が低い、バリアシリコン層の未酸化の状態の一部の層ができる。その場合、熱酸化工程の後にドーパント拡散熱処理(アニール)を追加することで、シリコン酸化膜直下のドーパント濃度を補うことが出来る。この拡散熱処理は、結合熱処理、もしくは、熱処理時間の延長などで補うことが出来る。
【0152】
或いは、バリアシリコン層の全てを熱酸化してバリアシリコン酸化膜とし、ベースウェーハのうちバリアシリコン層の直下にある部分を更に熱酸化しても良い。
【0153】
熱酸化の程度は、例えば、熱酸化温度及び時間によって調整できる。
【0154】
この熱酸化により得られたシリコン酸化膜のうち、バリアシリコン酸化膜は、バリアシリコン層の少なくとも一部が熱酸化したものであり、裏面シリコン熱酸化膜は、裏面シリコン膜が熱酸化したものである。
【0155】
また、本発明のSOIウェーハの製造方法でテラス部を含むSOIウェーハを製造し、これを用いてデバイスを製造する場合、この熱酸化工程においてベースウェーハの全面に形成したシリコン酸化膜は、ベースウェーハの第2主面を通してのドーパントの外方拡散だけでなく、SOIウェーハのテラス部のシリコン酸化膜を通してのドーパントの外方拡散も抑制できる。よって、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、熱処理炉の炉内部品へのドーパント汚染も十分に抑制でき、炉内部品からウェーハへの2次汚染を抑制する効果も得られる。
【0156】
(貼り合わせ工程)
この工程では、ボンドウェーハの一方の主面とベースウェーハの第1主面とを、ベースウェーハ上のシリコン酸化膜を介して貼り合わせる。
【0157】
この貼り合わせ工程の前にボンドウェーハの全面にシリコン酸化膜を形成した場合、貼り合わせ工程において、ベースウェーハとボンドウェーハとを、ベースウェーハの第1主面に配置されたシリコン酸化膜及びボンドウェーハに配置されたシリコン酸化膜を介して貼り合せることができる。このようにして貼り合わせ工程を行うことにより、ベースウェーハの第1主面からのボンドウェーハ又はSOI層中へのドーパントの混入をより確実に抑制することができる。
【0158】
或いは、この貼り合わせ工程において、ボンドウェーハの一方の主面のシリコン単結晶表面とベースウェーハの表面シリコン酸化膜の表面とを直接貼り合わせてもよい。
【0159】
ボンドウェーハにシリコン酸化膜を形成しない場合であっても、ベースウェーハからの第1主面に配置されたシリコン酸化膜を通しての固相拡散によるSOI層中へのドーパントの混入を十分に抑制することができる。この態様は、酸化膜同士の貼り合わせが適用できない場合(例えば貼り合わせ工程において高温の熱処理ができない場合)に特に有効である。
【0160】
特に、バリアシリコン酸化膜を形成する場合、この貼り合わせ工程において、ボンドウェーハの一方の主面のシリコン単結晶表面とベースウェーハのバリアシリコン酸化膜の表面とを直接貼り合わせることにより、ベースウェーハからの第1主面に配置されたシリコン酸化膜を通しての固相拡散によるSOI層中へのドーパントの混入を十分に抑制することができる。
【0161】
(薄膜化工程)
この工程では、ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を形成する。
【0162】
薄膜化の手段は、特に限定されず、研削、研磨あるいはエッチング等によってもよいが、イオン注入剥離法による薄膜化を行うことが好ましい。イオン注入剥離方法を行う場合、予め先に説明したイオン注入工程を行なってボンドウェーハにイオン注入層を形成しておく。そして、このイオン注入層を剥離面としてボンドウェーハを剥離することにより、ボンドウェーハを薄膜化してSOI層を得ることができる。
【0163】
このようなイオン注入剥離法を行なえば、優れた膜厚均一性を有する薄膜化したSOI層を得ることができる。
【0164】
薄膜化工程に次いで、犠牲酸化処理工程、平坦化熱処理工程、研磨工程、鏡面処理工程及び洗浄工程などを行なっても良い。
【0165】
本発明のSOIウェーハの製造方法では、薄膜化工程、又はその後の任意の工程を経て、SOIウェーハを得ることができる。そして、本発明のSOIウェーハの製造方法によれば、例えば、先に説明した本発明のSOIウェーハを製造できる。
【0166】
次に、本発明のSOIウェーハの製造方法の幾つかの具体例を、図5図7を参照しながら説明する。ただし、本発明のSOIウェーハの製造方法は、以下に説明する例に限定されるものではない。
【0167】
[第一例]
図5は、本発明のSOIウェーハの製造方法の第一例を示す概略フロー図である。この例の製造方法によれば、例えば、図1を参照しながら説明した第一例のSOIウェーハであって、表面シリコン酸化膜21がバリアシリコン酸化膜を含まないSOIウェーハを製造することができる。
【0168】
まず、工程(a)において、ベースウェーハ10とボンドウェーハ31とを準備する。ベースウェーハ10は、図5において上方を向いた第1主面11、第1主面11とは反対側の第2主面12、及び第1主面11と第2主面12とをつなぐ側面(エッジ部)13とを有する。ボンドウェーハ31は、のちにベースウェーハ10の第1主面11と貼り合せる一方の主面32を有する。ベースウェーハ10とボンドウェーハ31とは、共にドーパントを含むが、その濃度はベースウェーハ10の方が高い。
【0169】
次に、工程(b)において、工程(a)で準備したベースウェーハ10の第2主面12上に裏面シリコン膜40を形成する。裏面シリコン膜40は、ベースウェーハ10のドーパント濃度よりも低濃度でドーパントを含む。
【0170】
次に、工程(c)において、ベースウェーハ10を熱酸化に供して、シリコン酸化膜50を得る。この例では、この熱酸化工程(c)において、裏面シリコン膜40の全てを裏面シリコン熱酸化膜51としている。また、ベースウェーハ10の第1主面11を含んでいた部分も表面シリコン酸化膜21となり、ベースウェーハ10では、この表面シリコン酸化膜21に接する新たな第1主面11が生じている。そして、ベースウェーハ10の側面13上に、側面シリコン酸化膜52が形成される。表面シリコン酸化膜21、裏面シリコン熱酸化膜51及び側面シリコン酸化膜52が、ベースウェーハ10の全面を被覆するシリコン酸化膜50を形成している。
【0171】
次に、工程(d)において、工程(a)で準備したボンドウェーハ31の一方の主面32と、工程(c)での熱酸化に供されたベースウェーハ10の第1主面11とを、シリコン酸化膜50、具体的には表面シリコン酸化膜21を介して貼り合せる。
【0172】
次に、工程(e)において、ボンドウェーハ31を薄膜化して、SOI層30を得る。
【0173】
貼り合わせ工程(d)の前に、ボンドウェーハ31の内部に水素イオン及び希ガスイオンからなる群より選択される少なくとも1種を注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程を行なえば、薄膜化工程(e)をイオン注入剥離法により行うこともできる。
【0174】
薄膜化工程(e)を行うことにより、図1に示した第一例のSOIウェーハ100を得ることができる。
【0175】
なお、熱酸化工程(c)における熱酸化の程度を弱めれば、図2に示した第二例のSOIウェーハ100を得ることもできる。
【0176】
[第二例]
図6は、本発明のSOIウェーハの製造方法の第二例を示す概略フロー図である。この例の製造方法によれば、例えば図1を参照しながら説明した第一例のSOIウェーハであって、表面シリコン酸化膜21がバリアシリコン酸化膜からなるSOIウェーハを製造することができる。
【0177】
第二例の製造方法は、工程(b)で裏面シリコン膜を形成した後、熱酸化工程(c)の前に、ベースウェーハ10の第1主面11上にバリアシリコン層60を形成する工程(f)を行なう点で、第一例の製造方法と異なる。
【0178】
工程(f)では、ベースウェーハ10のドーパント濃度よりも低濃度であるバリアシリコン層60を形成する。
【0179】
この例の製造方法では、熱酸化工程(c)により、バリアシリコン酸化膜からなる表面シリコン酸化膜21が形成される。
【0180】
なお、熱酸化工程(c)における熱酸化の程度を弱めれば、図4に示した第四例のSOIウェーハ100を得ることもできる。
【0181】
[第三例]
図7は、本発明のSOIウェーハの製造方法の第三例を示す概略フロー図である。この例の製造方法によれば、例えば、図3を参照しながら説明した第三例のSOIウェーハを製造することができる。
【0182】
第三例の製造方法は、工程(a)で準備したボンドウェーハ31の、ベースウェーハ10と貼り合せる側の一方の主面32、それとは反対側の主面(裏面)36及びこれらをつなぐ側面(エッジ部)33を含む全面に、シリコン酸化膜34を形成する工程(g)を含む点で、第一例の製造方法と異なる。
【0183】
工程(g)で形成するシリコン酸化膜34は、ボンドウェーハ31の一方の主面32に形成されたSOI側シリコン酸化膜22と、主面36に形成された裏面シリコン酸化膜37と、側面33に形成された側面シリコン酸化膜35とを含む。
【0184】
また、第三例の製造方法では、貼り合わせ工程(d)において、ベースウェーハ10とボンドウェーハ31とを、表面シリコン酸化膜21及びSOI側シリコン酸化膜22とを介して貼り合せる。
【0185】
そして、第三例の製造方法では、薄膜化工程(e)において、ボンドウェーハ31のうち裏面シリコン酸化膜37が形成された部分を含む部分を剥離して、SOI層30を得る。このような薄膜化工程(e)を行うことにより、図3に示した第三例のSOIウェーハ100を得ることができる。
【0186】
[測定方法]
ベースウェーハ、ボンドウェーハ、裏面シリコン膜、裏面シリコン熱酸化膜、バリアシリコン層、バリアシリコン酸化膜などにおけるドーパント濃度は、例えば、2次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて測定することができる。
【0187】
SOIウェーハが含む各構成部材の厚さ、並びにSOIウェーハの製造方法で準備する各ウェーハ及び形成する各層の厚さは、例えば、断面SEM、光反射法、エリプソメトリ等で確認することができる。
【実施例
【0188】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0189】
(実施例1)
実施例1では、図6に概略的に示すフローと同様のフローで、SOIウェーハ100の製造を行なった。
【0190】
<工程(a)>
まず、ボンドウェーハ31として、直径300mm、ボロンドープ(ドーパント濃度1×1015atoms/cm)のp型シリコン単結晶ウェーハ(抵抗率10Ωcm)を準備した。また、ベースウェーハ10として、直径300mm、ボロンドープ(ドーパント濃度1×1017atoms/cm)のp型シリコン単結晶ウェーハ(抵抗率0.1Ωcm)を準備した。
【0191】
また、準備したボンドウェーハ31の内部に、貼り合わせ面である一方の主面32側から、下記表1の条件で水素イオンを注入し、イオン注入層を形成した。
【0192】
<工程(b)>
次に、ベースウェーハ10を、貼り合わせ面である第1主面11を下にして、CVD炉のサセプタに載置し、第2主面12上に裏面シリコン膜40として、ボロンドープのポリシリコン膜をCVD法により形成した。形成したポリシリコン膜の厚さは、500nmとした。形成したポリシリコン膜のドーパント濃度は、1×1015atoms/cmとした。
【0193】
<工程(f)>
次に、ベースウェーハ10の貼り合わせ面である第1主面11上に、バリアシリコン層60をエピタキシャル成長させた。バリアシリコン層は、導電型がp型であり、厚さが400nmであり、抵抗率が10Ωcmであり、ドーパント濃度が1×1015atoms/cmであった。
【0194】
<工程(c)>
次に、ベースウェーハ10の全面を熱酸化して、ベースウェーハ10の全面を被覆するシリコン酸化膜50を形成した。
【0195】
熱酸化は、シリコン酸化膜50の膜厚が1000nmとなるように行なった。そのため、この熱酸化工程(c)により、裏面シリコン膜40の全てが酸化されて、裏面シリコン熱酸化膜51となった。また、バリアシリコン層60の全ても酸化されて、バリアシリコン酸化膜21となった。
【0196】
<工程(d)>
次に、工程(c)の熱酸化に供したベースウェーハ10と、イオン注入層を形成したボンドウェーハ31とを、バリアシリコン酸化膜21とボンドウェーハ31の一方の主面32とが接するように貼り合わせた。
【0197】
<工程(e)>
この貼り合わせたウェーハに対して30分間、500℃のアルゴン雰囲気下で剥離熱処理を施し、イオン注入層を剥離面としてボンドウェーハ31を剥離することにより、ボンドウェーハ31を薄膜化してSOI層30を得た。
【0198】
続いて、SOI層30のダメージ除去のために下記表1に示した条件で犠牲酸化処理を施した。この犠牲酸化処理は、ウェーハ同士の結合を強固にするための結合熱処理を兼ねている。そして、下記表1に示す条件で平坦化熱処理を施し、SOIウェーハ100を製造した。
【0199】
(実施例2~5、並びに比較例1)
製造条件を下記表1~表3のそれぞれに示す条件としたこと以外は実施例1と同様の条件で、各例のSOIウェーハ100を製造した。
【0200】
<評価>
各例のSOIウェーハ100のSOI層30中のドーパント濃度を、SIMSを用いて測定した。その結果を以下の表1~表3にそれぞれ示す。
【0201】
【表1】
【0202】
【表2】
【0203】
【表3】
【0204】
(比較例2及び3)
比較例2及び3では、ベースウェーハ10の第2主面12上にポリシリコン膜を形成しなかったこと以外は実施例3及び5とそれぞれ同様の条件で、各例のSOIウェーハ100を製造した。比較例2のSOIウェーハのSOI層のボロン濃度は、8×1017atoms/cmであった。また、比較例3のSOIウェーハのSOI層のリン濃度は、3×1015atoms/cmであった。
【0205】
表1に示した実施例1と比較例1との結果の比較から、裏面シリコン膜を形成した実施例1のSOIウェーハは、裏面シリコン膜を形成しなかった比較例1のSOIウェーハよりも、ベースウェーハからのボロンの混入によるSOI層のボロン濃度の上昇を顕著に抑えることができたことが分かる。
【0206】
また、表2に示した実施例2及び3と、先に示した比較例2との結果の比較から、裏面シリコン膜を形成した実施例2及び3のSOIウェーハは、裏面シリコン膜を形成しなかった比較例2よりも、ベースウェーハからのボロンの混入によるSOI層のボロン濃度の上昇を顕著に抑えることができたことが分かる。
【0207】
さらに、表2に示した実施例2と実施例3との結果の比較から、バリアシリコン層を更に形成した実施例2のSOIウェーハは、バリアシリコン層を形成しなかった実施例3のSOIウェーハよりも、ベースウェーハからのボロンの混入によるSOI層のボロン濃度の上昇を更に抑えることができたことが分かる。
【0208】
また、表3に示した実施例4及び5と、先に示した比較例3との結果の比較から、裏面シリコン膜を形成した実施例4及び5のSOIウェーハは、裏面シリコン膜を形成しなかった比較例3よりも、ベースウェーハからのリンの混入によるSOI層のリン濃度の上昇を顕著に抑えることができたことが分かる。
【0209】
そして、表3に示した実施例4と実施例5との結果の比較から、バリアシリコン層を更に形成した実施例4のSOIウェーハは、バリアシリコン層を形成しなかった実施例5のSOIウェーハよりも、ベースウェーハからのリンの混入によるSOI層のリン濃度の上昇を更に抑えることができたことが分かる。
【0210】
(実施例6)
実施例6では、形成するバリアシリコン層の厚さを変化させたこと以外は実施例2と同一条件でSOIウェーハを作製した場合の、バリアシリコン層(エピ層)の厚さとSOI層/埋め込み酸化膜(BOX層)界面付近のSOI層中のボロン濃度との関係をシミュレーションした。その結果を図により算出した結果を図8に示す。
【0211】
図8及び表2によれば、バリアシリコン層を形成すれば、バリアシリコン層を形成しなかった実施例3に比べて、SOI層のボロン濃度の上昇を更に抑えることができることが分かる。また、図8によれば、バリアシリコン層を400nm形成すれば、SOI層のボロン濃度の上昇を2倍以内に抑制できること、更には、バリアシリコン層をのちに形成する埋め込み酸化膜の半分である500nmの厚さで形成すれば、SOI層のボロン濃度の上昇をほぼ抑制できることがわかる。
【0212】
(実施例7)
実施例7では、埋め込み酸化膜の膜厚を2μmとした以外は実施例6と同一条件でシミュレーションを行った。バリアシリコン層(エピ層)の厚さとSOI層/埋め込み酸化膜界面付近のSOI層中のボロン濃度との関係を算出したシミュレーション結果を、図9に示す。
【0213】
図9及び表2によれば、埋め込み酸化膜の厚さを2μmに増加させても、バリアシリコン層を形成すれば、バリアシリコン層を形成しなかった実施例3に比べて、SOI層のボロン濃度の上昇を顕著に抑えることができることが分かる。
【0214】
また、図9によれば、埋め込み酸化膜の厚さを2μmに増加させても、1μmの場合と同様に、バリアシリコン層を400~500nm程度形成すれば、SOI層のボロン濃度の上昇を十分に抑制できることがわかる。
【0215】
これは、厚さ2μmの埋め込み酸化膜の後半部分(SOI層とは離れた部分)では高濃度のベースウェーハのボロンを高濃度に含んだ酸化膜が形成されるが、バリアシリコン層が酸化してなるバリアシリコン酸化膜を含む埋め込み酸化膜中のボロンの拡散速度が遅いため、ボロンがSOI層まで拡散せず、SOI層中のボロン濃度に影響が及ばないことを意味している。従って、埋め込み酸化膜を2μmを超える厚膜とする場合であっても、バリアシリコン層を形成すればSOI層中のドーパント濃度の上昇を抑えることができ、バリアシリコン層の厚さは400~500nm程度が好ましく、安全を見ても、600~1000nm程度形成すれば十分であることを示唆している。
【0216】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0217】
10…ベースウェーハ、 11…第1主面(貼り合わせ面)、 12…第2主面、 13…側面(エッジ部)、 14…テラス部、 20…埋め込み酸化膜、 21…表面シリコン酸化膜(バリアシリコン酸化膜)、 22…SOI側シリコン酸化膜、 30…SOI層、 31…ボンドウェーハ、 32…一方の主面(貼り合わせ面) 33…側面、 34…シリコン酸化膜、 35…側面シリコン酸化膜、 36…他方の主面(裏面)、 37…裏面シリコン酸化膜、 40…裏面シリコン膜、 50…シリコン酸化膜、 51…裏面シリコン熱酸化膜、 52…側面シリコン酸化膜、 60…バリアシリコン層、 100…SOIウェーハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9