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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20231108BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20231108BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C03C27/12 B
B60J1/00 H
B60J1/02 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020531315
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027935
(87)【国際公開番号】W WO2020017502
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018137082
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-103655(JP,A)
【文献】特開2011-218610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00
B32B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外側ガラス板と車内側ガラス板との間に中間膜を有する合わせガラスであって、
車内からの投影像を反射して情報を表示する表示領域を備え、
前記表示領域の少なくとも一部において、前記車外側ガラス板及び前記車内側ガラス板のうち何れか一方のガラス板と前記中間膜との間に、前記一方のガラス板に接着層で接着されたフィルムが配置され、
前記接着層の厚みが0.2μm以上70μm以下であり、
前記接着層の軟化点が前記中間膜のガラス転移点より高く、
前記接着層の軟化点と前記中間膜のガラス転移点との差が10℃以上であることを特徴とする合わせガラス。
【請求項2】
前記接着層の軟化点が50℃以上である請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記中間膜のガラス転移点が40℃以下である請求項1又は2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記接着層の厚みが0.2μm以上30μm以下である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記接着層の厚みが0.2μm以上5μm以下である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記接着層の厚みが0.2μm以上3μm以下である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記フィルムが配置された部分の前記合わせガラスは、可視光反射率が9%以上又は拡散反射率が9%以上である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記フィルムはP偏光反射フィルムであり、
前記合わせガラスに封入された状態において、入射角がブリュースター角でのP偏光の反射率が5%以上である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記フィルムの厚みが25μm以上200μm以下である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項10】
前記表示領域において、前記合わせガラスを車両に取り付けたときの車幅方向に水平方向の曲率が半径1000mm以上10000mm以下であり、前記水平方向に対し前記合わせガラスに沿って垂直方向の曲率が半径4000mm以上20000mm以下である請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項11】
前記投影像の視野角が4deg×1deg以上である請求項1乃至10の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のフロントガラスに画像を反射させて運転者の視界に所定の情報を表示するヘッドアップディスプレイ(以下、HUDとも言う。)の導入が進んでいる。HUDにおける課題の一つはHUD像の視認性の向上であり、そのために合わせガラス内に接着層を介してフィルムを固定し、フィルムが配置された領域に車内からの投影像を反射して情報を表示する技術が知られている。
【0003】
合わせガラス内に配置するフィルムは様々であるが、例えば、P偏光を反射するフィルムが挙げられる。合わせガラスにP偏光を反射するフィルムを配置し、HUDの光源をP偏光にすることで、像の偏光状態がP偏光となるため、偏光サングラス下でのHUD像の視認性を向上できる。
【0004】
合わせガラス作製時には、例えば、接着層の表面にエンボスを設けて、合わせガラス内に脱気不良による気泡が残らないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2006-512622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、合わせガラス内にフィルムを配置する場合、フィルムの平滑性がHUD像の歪に直接的に影響する。本発明者の検討により、フィルムの平滑性を向上してHUD像の歪を低減するためには、フィルムを固定するための接着層を薄くする必要があることがわかった。
【0007】
しかしながら、接着層を薄くすると、接着層の表面に脱気に必要なエンボスを十分な深さで設けることが困難となり、合わせガラス作製時の脱気性が悪化する場合があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、HUD像の歪を低減できる厚さでありかつ合わせガラス作製時の脱気性に優れた接着層、を有する合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本合わせガラスは、車外側ガラス板と車内側ガラス板との間に中間膜を有する合わせガラスであって、車内からの投影像を反射して情報を表示する表示領域を備え、前記表示領域の少なくとも一部において、前記車外側ガラス板及び前記車内側ガラス板のうち何れか一方のガラス板と前記中間膜との間に、前記一方のガラス板に接着層で接着されたフィルムが配置され、前記接着層の厚みが0.2μm以上70μm以下であり、前記接着層の軟化点が前記中間膜のガラス転移点より高く、前記接着層の軟化点と前記中間膜のガラス転移点との差が10℃以上であることを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
開示の一実施態様によれば、HUD像の歪を低減できる厚さでありかつ合わせガラス作製時の脱気性に優れた接着層、を有する合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用のフロントガラスを例示する図であり、フロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図(その1)である。
図2】車両用のフロントガラスを例示する図であり、フロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図(その2)である。
図3図1(a)に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
図4】第1圧着工程における時間と温度との関係を例示する図である。
図5図1(a)と同様の形状のフロントガラス20AをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
図6図1(a)と同様の形状のフロントガラス20BをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
図7図1(a)と同様の形状のフロントガラス20CをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
図8】実施例及び比較例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0013】
なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、実施の形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外にも適用可能である。又、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含むガラスを有する移動体を指すものとする。
【0014】
又、平面視とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視ることを指し、平面形状とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視た形状を指すものとする。又、本願明細書においては、上下は図面のZ軸方向、左右は図面のY軸方向を指すものとする。
【0015】
〈第1の実施の形態〉
図1及び図2は、車両用のフロントガラスを例示する図であり、フロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である。
【0016】
図1(a)に示すように、フロントガラス20は、HUDで使用するHUD表示領域R と、HUDで使用しないHUD表示外領域R(透視領域)とを備えている。HUD表示領域Rは、車内からの投影像を反射して情報を表示する表示領域である。HUD表示領域Rは、車内に配置されたHUDを構成する鏡を回転させ、JIS R3212のV1点から見た際に、HUDを構成する鏡からの光がフロントガラス20に照射される範囲とする。又、本願明細書において、透視領域とはJIS R3211で定められる試験領域Cの領域を指す。
【0017】
フロントガラス20の周縁部に黒セラミック層29が存在することが好ましい。黒セラミック層29は、黒セラミック印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。フロントガラス20の周縁部に黒色不透明な黒セラミック層29が存在することにより、フロントガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂が紫外線により劣化することを抑制できる。黒セラミック層29は、ガラス板210の車内側面、もしくはガラス板220の車内側面、もしくはその両方に存在することが好ましい。
【0018】
HUD表示領域Rは、例えば、フロントガラス20の下方に位置しており、HUD表示外領域Rはフロントガラス20のHUD表示領域Rの周囲に位置している。図1(a)の例では、HUD表示領域R及びその近傍領域にはフィルム240が設けられている。フィルム240は、黒セラミック層29にオーバーラップする部分を有していない。
【0019】
フィルム240は、例えば、図1(b)に示すように、HUD表示領域Rの全体及びHUD表示外領域Rの全体を含み、外周部が黒セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。又、フィルム240は、例えば、図1(c)に示すように、HUD表示領域Rの全体及びHUD表示外領域Rの全体を含み、外周部が黒セラミック層29の略全体とオーバーラップするように配置されてもよい。
【0020】
フィルム240は、例えば、図2(a)に示すように、HUD表示領域R及びその近傍領域を含み、下辺部と一方の側辺部が黒セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。又、フィルム240は、例えば、図2(b)に示すように、HUD表示領域R及びその近傍領域を含み、下辺部が黒セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。又、フィルム240は、例えば、図2(c)に示すように、HUD表示領域R及びその近傍領域を含み、下辺部と両方の側辺部が黒セラミック層29の内周部にオーバーラップするように配置されてもよい。
【0021】
なお、HUD表示領域は1か所には限定されず、例えば、Z方向の複数個所に分けて配置されてもよいし、Y方向の複数個所に分けて配置されてもよい。HUD表示領域が複数個所に分けて配置されている場合、HUD表示領域の少なくとも一部にフィルム240が設けられていればよく、HUD表示領域全体にフィルム240が設けられていることが好ましい。
【0022】
図3は、図1(a)に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。図3に示すように、フロントガラス20は、車内側ガラス板であるガラス板210と車外側ガラス板であるガラス板220との間に中間膜230とフィルム240と接着層250とを有する合わせガラスである。
【0023】
なお、ここでは、図1(a)に示すフロントガラス20の部分断面図について説明する。しかし、図1(b)、図1(c)、及び図2(a)~図2(c)についてもフィルム240の大きさや黒セラミック層29とのオーバーラップの状態が異なるのみであり、フロントガラス20としての基本的な断面形状はほぼ同じである。
【0024】
フロントガラス20のHUD表示領域Rにおいて、ガラス板210と中間膜230との間に、フィルム240及び接着層250が配置されている。フィルム240の車内側の面は接着層250でガラス板210の車外側の面に接着されている。フィルム240の車外側の面は、中間膜230でガラス板220の車内側の面に接着されている。
【0025】
フィルム240は、車内からの投影像を反射する可視光制御フィルムであり、所定の条件下で視認性を向上する等の所定の機能を有していれば特に限定されない。フィルム240としては、例えば、P偏光反射フィルム、ホログラムフィルム、散乱型透明スクリーン、HUD向け増反射フィルム等が挙げられる。フィルム240の厚みは、例えば、25μm以上200μm以下程度にできる。フィルム240の厚みは、150μm以下とすることが好ましく、100μm以下とすることがより好ましい。フィルム240の厚みを100μm以下とすることで、合わせガラス作製時の脱気性が良くなる。フィルム240は、可視光に対して透明である。
【0026】
フィルム240が配置された部分のフロントガラス20は、可視光反射率が9%以上又は拡散反射率が9%以上である。フィルム240が配置された部分のフロントガラス20は、可視光反射率が10%、11%、11.5%、12%のように更に高くなる場合もある。又、拡散反射率が10%、11%、11.5%、12%のように更に高くなる場合もある。フィルム240が封入された部分のフロントガラス20の可視光反射率又は拡散反射率が高くなる程、フィルム240の凹凸が目立ちやすくなるため、フィルム240の平滑性を向上する技術的意義が高くなる。
【0027】
ここで、可視光反射率とは、JIS R3106に記載された測定及び算定方法に従ったものである。又、拡散反射率とは、JIS R3106に記載された分光反射率の測定方法において、正反射以外の反射を含めた拡散反射光を積分球で受けて測定し、可視光反射率と同様の算出方法で導かれるものである。ここで、本願明細書において、フロントガラス20の可視光反射率及び拡散反射率は、黒セラミック層29が配置されていない透明な部分で測定される。
【0028】
なお、フィルム240がP偏光反射フィルムである場合、フィルム240がフロントガラス20に封入された状態において、入射角がブリュースター角でのP偏光の反射率が5%以上であることが好ましい。P偏光の反射率が5%以上であれば、HUD像を視認できる。なお、P偏光の反射率とは、所定の入射角において可視波長におけるP偏光を基準としてJIS R3106に記載された分光反射率を測定し、更にこれを元にJIS R3106に記載された可視光反射率の算定方法に従って算出したものである。
【0029】
接着層250の材料は、詳細は後述する所定の軟化点を有し、フィルム240を固着する機能を有していれば特に限定されないが、例えば、アクリル系、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ポリビニルブチラール系の材料が挙げられる。接着層250の材料は、可視光に対して透明である。又、接着層250の材料は、合わせガラスを作製する工程の前の常温状態において接着性を有していないことが望ましい。
【0030】
接着層250の厚みは、0.2μm以上70μm以下である。接着層250の厚みを0.2μm以上とすることで、合わせガラス作製時の圧着の際に、接着層250がガラス板210とフィルム240との熱収縮率差を緩和する。そのため、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、HUD像の歪を低減できる。又、接着層250の厚みを0.2μm以上とすることで、合わせガラスを高温高湿の環境下に繰り返し置いた際の接着層250のエッジ劣化を抑制できる。
【0031】
又、接着層250の厚みを70μm以下とすることで、フィルム240の車内側及び車外側の面がガラス板210の車外側の平滑面に追従するため、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、HUD像の歪を低減できる。特に、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる構成では、フィルム240の車内側及び車外側の面の僅かなうねりがHUD像に大きな歪を生じさせる。そのため、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性を向上することが極めて重要である。接着層250の厚みを70μm以下とすることで、凹面鏡等で拡大した画像を曲面の合わせガラスで更に拡大させて反射させる際にも、HUD像の歪を低減できる。
【0032】
接着層250の厚みが60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが更に好ましく、3μm以下であることが更に好ましく、2μm以下であることが更に好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
【0033】
上記範囲であれば、フィルム240の車内側及び車外側の面がガラス板210の車外側の平滑面にいっそう追従しやすくなるため、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が更に向上し、HUD像の歪を更に低減できる。なお、接着層250の厚みは、以下の点で、5μm以下とすることが更に好ましく、3μm以下とすることが特に好ましい。接着層250の厚みを5μm以下、更に3μm以下とすることで、HUD像のFOV(Field Of View:視野角)が大きくなった場合でもフィルムのうねりに起因するHUD像の歪が目立ちにくくなる。
【0034】
又、接着層250の厚みをt[mm]、ヤング率をE[N/mm]としたときに、tとEとの関係が、E ≧5×10-12を満たしていることが好ましい。ここで、本願におけるヤング率EはJIS Z0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」8節における「切断するまでの最大荷重」をその時の「伸び」で除し、更に試験片の「初期断面積」で除したものである。この式を満たす範囲内において、接着層250の厚みtが薄くてもヤング率Eが大きければ接着層250の剛性を確保でき、接着層250の厚みtが厚ければヤング率Eが小さくても接着層250のHUD像の歪を低減するために必要な剛性を確保できる。
【0035】
なお、5×10-12の値は、HUD像に歪が生じない接着層250の剛性に基づいて実験的に求めたものであり、tとEとの関係が、E ≧5×10-11を満たしていることがより好ましく、tとEとの関係が、E ≧5×10-10を満たしていることが更に好ましく、tとEとの関係が、E ≧5×10-9を満たしていることが特に好ましい。又、Eは5kPa以上であることが好ましく、10kPa以上であることがより好ましく、20kPa以上であることが更に好ましい。
【0036】
又、HUD像のFOVが4deg×1deg以上の場合、フロントガラス20に従来よりも大きなHUD像を投影することになりフィルム240がうねりやすくなる。そのため、接着層250の厚みを制御してHUD像の歪を低減する意義が大きくなる。HUD像のFOVが5deg×1.5deg以上、6deg×2deg以上、7deg×3deg以上となるにつれ、フロントガラス20に従来よりもいっそう大きなHUD像を投影することになり、フィルム240のうねりによるHUD像の歪が目立ちやすくなる。そのため、接着層250の厚みを制御してHUD像の歪を低減する意義がいっそう大きくなる。
【0037】
又、接着層250において、面内方向(厚み方向に対して垂直な方向)の波長550nmの光における主屈折率の差が0.1以内であることが好ましい。フィルム240よりも車内側に位置する接着層250が上記条件を満たすことで、フィルム240はP偏光フィルムの場合、フィルム240に達するP偏光の偏光状態に与える影響を低減できる。
【0038】
又、接着層250の面積は、400cm以上であってもよく、1000cm以上であってもよく、1500cm以上であってもよく、5000cm以上であってもよく、10000cm以上であってもよい。接着層250の面積が大きいほど、脱気性が悪化しやすいため、本発明の接着層を用いることが極めて有意となる。
【0039】
フロントガラス20において、車両の内側となるガラス板210の一方の面であるフロントガラス20の内面21と、車両の外側となるガラス板220の一方の面であるフロントガラス20の外面22とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。なお、ガラス板210の一方の面(内面21)及びその反対面である他方の面は平滑である。又、ガラス板220の一方の面(外面22)及びその反対面である他方の面は平滑である。
【0040】
HUD表示領域において、フロントガラス20における車幅方向に水平方向の曲率は半径1000mm以上10000mm以下であることが好ましい。又、HUD表示領域において、フロントガラス20における水平方向に対し垂直方向の曲率は半径4000mm以上20000mm以下であることが好ましく、半径6000mm以上20000mm以下であることがより好ましい。垂直方向及び水平方向の曲率が上記の範囲内であれば、フィルム240に投影したHUD像の歪を低減できる。半径が小さいとフィルムにしわが入りやすくなってしまう。図面では、水平方向はZ軸方向のフロントガラスの曲面に沿った方向であり、垂直方向とはY軸方向のフロントガラスの曲面に沿った方向である。
【0041】
ガラス板210及び220としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板210及び220は、例えば、フロート法によって製造できる。
【0042】
フロントガラス20の外側に位置するガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板220の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0043】
フロントガラス20の内側に位置するガラス板210の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板210の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス20の質量が大きくなり過ぎない。
【0044】
ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、ガラス品質(例えば、残留応力)を維持できる。ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質(例えば、残留応力)の維持に特に有効である。ガラス板210の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。
【0045】
但し、ガラス板210及び220の板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板210及び220の一方又は両方が、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
【0046】
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板210及び220は、フロート法等による成形の後、中間膜230による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0047】
ガラス板210とガラス板220とを接着する中間膜230としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0048】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0049】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜230を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。
【0050】
中間膜230の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜230の膜厚が0.5mm以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜230の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜230の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜230の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
【0051】
但し、中間膜230の膜厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、中間膜230がフロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
【0052】
中間膜230は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0053】
中間膜230を作製するには、例えば、各中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜230が完成する。
【0054】
合わせガラスを作製するには、ガラス板210とガラス板220との間に、中間膜230、フィルム240及び接着層250(接着層250は予めフィルム240の一方の側に設けておく)を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、このゴム袋を排気系に接続し、ゴム袋内が-65~-100kPaの減圧度となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70~110℃で接着する(第1圧着工程)。
【0055】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理(第2圧着工程)を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、第2圧着工程を使用しない場合もある。
【0056】
ガラス板210とガラス板220との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜230及びフィルム240の他に、赤外線反射、発光、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。
【0057】
ところで、合わせガラスを作製する際に、第1圧着工程における中間膜230の脱気性、すなわちガラス板210もしくはガラス板220と中間膜230の間の残留空気の排気性を向上するため、中間膜230の両面にエンボス加工を施す場合がある。前述のように、中間膜230の膜厚は0.5mm以上3mm以下程度であり、これに対して深さ70μm程度のエンボスを形成することで、第1圧着工程における中間膜230の脱気性が向上する。
【0058】
一方、接着層250の厚さは70μm以下であるため、脱気性を向上するために接着層250の表面に脱気に必要なエンボスを十分な深さで設けることは困難である。そこで、本実施の形態では、第1圧着工程における時間と温度との関係を図4に示すような条件にすることで、接着層250の表面にエンボスを設けない場合にも接着層250の脱気性、すなわちガラス板210と接着層250の間の残留空気の排気性を向上している。
【0059】
図4において、時刻Aで脱気が開始され、時間tが経過して時刻Bになると、ガラス板210及び220の周辺において、ガラス板210及び220と中間膜230とが密着し始める(以下、エッジシールが開始するともいう)。時間tは温度が中間膜230のガラス転移点(Tg)に達するまでの時間であり、これが中間膜230の脱気時間となる。
【0060】
エンボス加工を施すことが困難な接着層250では、中間膜230の脱気時間中に十分な脱気がなされる必要がある。そこで、フロントガラス20では、接着層250の脱気性を向上させるため、接着層250の軟化点を中間膜230のガラス転移点より高くしている。これにより、中間膜230及び接着層250のエッジシールが生じる前に、十分な脱気時間を接着層250においても確保することができ、接着層250の脱気を完了可能となる。なお、中間膜230が複数の層を有している場合には、接着層250の軟化点を中間膜230の有する全ての層のガラス転移点より高くする。
【0061】
接着層250の軟化点は50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、100℃以上であることが更に好ましい。接着層250の軟化点が高くなるほど、合わせガラス作製時に、中間膜230がガラス板210及び220と完全に密着する脱気時間tまでは、接着層250のガラス板210への密着が十分進まない。そのため、接着層250の脱気を余裕をもって完了可能となる。又、接着層250の軟化点が高くなるほど、接着層250が軟化点以上の状態にさらされる時間が短くなるため,フィルムの平滑性が崩れにくくなる。
【0062】
又、接着層250の軟化点と中間膜230のガラス転移点との差が大きいことが好ましい。具体的には、接着層250の軟化点と中間膜230のガラス転移点との差は10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることが更に好ましくい。接着層250の軟化点と中間膜230のガラス転移点との差が大きいほど、合わせガラス作製時に接着層250の、中間膜230がガラス板210及び220と完全に密着するまでの脱気時間tまでは、接着層250のガラス板210への密着が十分進まない。そのため、接着層250の脱気を余裕をもって完了可能となる。
【0063】
又、中間膜230のガラス転移点は40℃以下であることが好ましい。中間膜230のガラス転移点を40℃以下とすることで、接着層250の軟化点と中間膜230のガラス転移点との差を大きくすることが容易となる。ガラス転移点が40℃以下の材料としては、例えば、PVBが挙げられる。
【0064】
なお、接着層250の軟化点は、JIS K6863:1994に定められた測定方法により測定される。又、中間膜230のガラス転移点は、ISO 11357-2に定められた測定方法により測定される。
【0065】
又、接着層250の測定周波数10Hzにおける動的粘弾性測定での貯蔵弾性率は、20℃以下の温度域において1.0×10Pa以上、110℃の温度域において1.0×10Pa以下であることが好ましい。
【0066】
より好ましくは20~30℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~40℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~50℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~60℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~70℃の温度域において1.0×10 Pa以上、更に好ましくは20~80℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~90℃の温度域において1.0×10Pa以上、更に好ましくは20~100℃の温度域において1.0×10Pa以上である。
【0067】
このように、合わせガラスであるフロントガラス20では、接着層250の軟化点が中間膜230のガラス転移点より高い。これにより、接着層250の表面にエンボスを設けない場合にも、合わせガラス作製時にエッジシールが生じる前に脱気を完了可能な、脱気性に優れた接着層250を実現できる。
【0068】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、フィルムと中間膜との間にも接着層を設ける例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0069】
図5は、図1(a)と同様の形状のフロントガラス20AをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
【0070】
図5に示すフロントガラス20Aは、フィルム240と中間膜230との間に接着層260を設けた点がフロントガラス20(図3参照)と相違する。図5に示すように、フロントガラス20Aは、車内側ガラス板であるガラス板210と車外側ガラス板であるガラス板220との間に中間膜230とフィルム240と接着層250及び260とを有する合わせガラスである。
【0071】
フロントガラス20AのHUD表示領域Rにおいて、ガラス板210と中間膜230との間に、フィルム240並びに接着層250及び260が配置されている。フィルム240の車内側の面は接着層250でガラス板210の車外側の面に接着されている。フィルム240の車外側の面は、接着層260で中間膜230の車内側の面に接着されている。
【0072】
フィルム240と中間膜230とが直接は接着されにくい場合があり、その場合には接着層260を設けてフィルム240の車外側の面を中間膜230の車内側の面に接着することが好ましい。
【0073】
接着層260の材料は、第1の実施の形態で接着層250の材料として例示した材料の中から適宜選択できる。
【0074】
このように、フィルム240と中間膜230とを接着する接着層260を設けてもよい。この場合にも、接着層250及び260の軟化点を中間膜230のガラス転移点より高くすることにより、第1の実施の形態と同様に、脱気性に優れた接着層250及び260を実現できる。
【0075】
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、車外側のガラス板と中間膜との間に接着層及びフィルムを設ける例を示す。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0076】
図6は、図1(a)と同様の形状のフロントガラス20BをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。図6に示すように、フロントガラス20Bは、車内側ガラス板であるガラス板210と車外側ガラス板であるガラス板220との間に中間膜230とフィルム240と接着層250を有する合わせガラスである。
【0077】
フロントガラス20BのHUD表示領域Rにおいて、ガラス板220と中間膜230との間に、フィルム240及び接着層250が配置されている。フィルム240の車内側の面は中間膜230でガラス板210の車外側の面に接着されている。フィルム240の車外側の面は、接着層250でガラス板220の車内側の面に接着されている。
【0078】
このように、中間膜230よりもガラス板220側にフィルム240を配置してもよい。この場合にも、接着層250の軟化点を中間膜230のガラス転移点より高くすることにより、第1の実施の形態と同様に、脱気性に優れた接着層250を実現できる。
【0079】
〈第2の実施の形態の変形例1〉
第2の実施の形態の変形例1では、フィルムと中間膜との間にも接着層を設ける例を示す。なお、第2の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0080】
図7は、図1(a)と同様の形状のフロントガラス20CをXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
【0081】
図7に示すフロントガラス20Cは、フィルム240と中間膜230との間に接着層260を設けた点がフロントガラス20B(図6参照)と相違する。図7に示すように、フロントガラス20Cは、車内側ガラス板であるガラス板210と車外側ガラス板であるガラス板220との間に中間膜230とフィルム240と接着層250及び260とを有する合わせガラスである。
【0082】
フロントガラス20CのHUD表示領域Rにおいて、ガラス板220と中間膜230との間に、フィルム240並びに接着層250及び260が配置されている。フィルム240の車内側の面は接着層260により中間膜230に接着され、中間膜230でガラス板210の車外側の面に接着されている。フィルム240の車外側の面は、接着層250でガラス板220の車内側の面に接着されている。
【0083】
フィルム240と中間膜230とが直接は接着されにくい場合があり、その場合には接着層260を設けてフィルム240の車内側の面を中間膜230の車外側の面に接着することが好ましい。
【0084】
接着層260の材料は、第1の実施の形態で接着層250の材料として例示した材料の中から適宜選択できる。又、接着層260の軟化点、厚さ、厚みとヤング率との関係、測定周波数10Hzにおける動的粘弾性測定での貯蔵弾性率等は、接着層250と同等とすることが好ましい。
【0085】
このように、中間膜230よりもガラス板220側にフィルム240を配置し、フィルム240と中間膜230とを接着する接着層260を設けてもよい。この場合にも、接着層250及び260の軟化点を中間膜230のガラス転移点より高くすることにより、第1の実施の形態と同様に、脱気性に優れた接着層250及び260を実現できる。
【0086】
[実施例、比較例]
ガラス板210及び220を準備し、中間膜230とフィルム240と接着層250とを挟んで実施例1~9及び比較例1の合わせガラスを作製した。
【0087】
ガラス板210及び220のサイズは300mm×300mm×厚み2mmとした。中間膜230としては、厚み0.76mmでガラス転移点40℃の樹脂(積水化学工業社製
PVB)を用いた。フィルム240としては、PETにチタニアコートを施した、サイズが150mm×150mm×厚み100μmの高反射フィルムを用いた。接着層250としては、エポキシ系の接着剤を用いた。高反射フィルムは合わせガラスの中央部に位置させた。HUD表示領域において、合わせガラスの垂直方向の曲率は半径5000mm、水平方向の曲率は半径2000mmとした。
【0088】
実施例1~9は図3に示す断面形状の合わせガラスであり、実施例1では接着層250の軟化点を50℃、接着層250の厚みを70μmとした。実施例2では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを70μmとした。実施例3では接着層250の軟化点を90℃、接着層250の厚みを70μmとした。実施例4では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを60μmとした。実施例5では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを20μmとした。実施例6では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを5μmとした。実施例7では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを3μmとした。実施例8では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを2μmとした。実施例9では接着層250の軟化点を70℃、接着層250の厚みを1μmとした。
【0089】
比較例1は図3に示す断面形状の合わせガラスであり、接着層250の軟化点を40℃、接着層250の厚みを70μmとした。
【0090】
実施例1~9及び比較例1について、第1に、ガラス板210及び220、中間膜230、フィルム240、接着層250からなる積層体をゴム袋の中に入れ、このゴム袋を排気系に接続し、ゴム袋内が-100kPaの減圧度となるように減圧吸引(脱気)しながら最大温度110℃で接着する脱気工程後(第1圧着工程後)の脱気状態を評価した。脱気状態の判定基準は、脱気工程後に顕著な泡残りが見られるか否かであり、脱気工程後に顕著な泡残りが見られない場合を『○』、脱気工程後に顕著な泡残りが見られた場合を『×』とした。
【0091】
又、実施例1~9及び比較例1について、第2に、FOVが4deg×1degとなる凹面鏡を含む光学系で映したHUD像の歪について評価した。具体的には、合わせガラスの4m先に0.034deg(=2min)幅の横線を投影した場合の「線の縦方向の歪量」について評価した。そして、「線の縦方向の歪量」が0.009deg以下の場合を『◎』、0.009degより大きく0.017deg以下の場合を『〇』、0.017degより大きい場合を『×』とした。
【0092】
又、実施例1~9及び比較例1について、第3に、FOVが5deg×1.5degとなる凹面鏡を含む光学系で映したHUD像の歪について評価した。具体的には、合わせガラスの4m先に0.034deg(=2min)幅の横線を投影した場合の「線の縦方向の歪量」について評価した。そして、「線の縦方向の歪量」が0.009deg以下の場合を『◎』、0.009degより大きく0.017deg以下の場合を『〇』、0.017degより大きい場合を『×』とした。
【0093】
実施例1~9及び比較例1について、第1~第3の評価結果を図8にまとめた。図8に示すように、接着層250の軟化点が中間膜230のガラス転移点と等しい40℃である比較例1では、脱気工程後に顕著な泡残りが見られた。これは、図4に示した中間膜230がガラス板210及び220と完全に密着する脱気時間tまでに、接着層250のガラス板210への密着が進み、接着層250の脱気時間が十分に確保できなかったためと考えられる。
【0094】
これに対して、実施例1~9では、脱気工程後に顕著な泡残りが見られなかった。これは、接着層250の軟化点が中間膜230のガラス転移点より高いため、図4に示した中間膜230がガラス板210及び220と完全に密着する脱気時間tまでは、接着層250のガラス板210への密着が十分進まない。そのため、接着層250の脱気時間tが十分に確保できたためと考えられる。
【0095】
FOVが4deg×1degとなる凹面鏡を含む光学系で映したHUD像の歪については、実施例1~9及び比較例1の何れも、「線の縦方向の歪量」が0.017degを超えないことが確認された。これは、接着層250の厚みが70μm以下であるためフィルム240の車内側及び車外側の面がガラス板210の車外側の平滑面に追従し、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、HUD像の歪を低減できたと考えられる。
【0096】
特に、実施例5~9では、「線の縦方向の歪量」が0.009deg以下であり、大変良好な結果が得られた。接着層250の厚みを20μm以下としたことで、フィルム240の車内側及び車外側の面のガラス板210の車外側の平滑面に対する追従性が向上し、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が向上し、HUD像の歪を更に低減できたと考えられる。
【0097】
FOVが5deg×1.5degとなる凹面鏡を含む光学系で映したHUD像の歪については、実施例1~9及び比較例1の何れも、「線の縦方向の歪量」が0.017degを超えないことが確認された。これは、接着層250の厚みが70μm以下であるためフィルム240の車内側及び車外側の面がガラス板210の車外側の平滑面に追従し、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、HUD像の歪を低減できたと考えられる。
【0098】
特に、実施例7~9では、「線の縦方向の歪量」が0.009deg以下であり、大変良好な結果が得られた。接着層250の厚みを3μm以下としたことで、フィルム240の車内側及び車外側の面のガラス板210の車外側の平滑面に対する追従性が向上し、フィルム240の車内側及び車外側の面の平滑性が向上し、HUD像の歪を更に低減できたと考えられる。
【0099】
FOVが大きくなった場合、フィルム240のうねりによるHUD像の歪が目立ちやすくなるが、接着層250の厚みを3μm以下とすることで、FOVが5deg×1.5degの場合でもHUD像の歪を十分に低減できることが確認された。
【0100】
このように、接着層250の軟化点を中間膜230のガラス転移点より高くすることで、図4に示した接着層250の脱気時間tが十分に確保でき、脱気工程後に顕著な泡残りが見られないようにできる。
【0101】
又、ガラス板210とフィルム240とを接着する接着層250の厚みを70μm以下とすることにより、HUD像の歪を低減できる。
【0102】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0103】
本国際出願は2018年7月20日に出願した日本国特許出願2018-137082号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-137082号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0104】
20、20A、20B、20C フロントガラス
21 内面
22 外面
29 黒セラミック層
210、220 ガラス板
230 中間膜
240 フィルム
250、260 接着層
HUD表示領域
HUD表示外領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8