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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ガラス、合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20231108BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20231108BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20231108BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C03C27/12 L
C03C27/12 N
G02F1/13 505
B60J1/00 H
B60J3/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020546773
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2019031395
(87)【国際公開番号】W WO2020054286
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018168518
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-039134(JP,U)
【文献】特開2017-212148(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-27/12
G02F 1/00- 1/39
B60J 1/00- 1/20
B60J 3/00- 3/06
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラスに画定された透視領域と、
前記ガラス板の、平面視において、前記透視領域と重複する領域の少なくとも一部に配置された、光の透過率を切り替え可能な調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
調光層と、
前記調光層を挟む一対の導電性薄膜と、
前記一対の導電性薄膜に通電して前記調光層を駆動する調光用バスバーと、
前記一対の導電性薄膜の少なくとも一方を加熱する一対の加熱用バスバーと、を含み、
前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は熱線反射機能を有し、前記透視領域のエネルギー反射率が25%以上であるガラス。
【請求項2】
車両用のガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラスに画定された透視領域と、
前記ガラス板の、平面視において、前記透視領域と重複する領域の少なくとも一部に配置された、光の透過率を切り替え可能な調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
調光層と、
前記調光層を挟む一対の導電性薄膜と、
前記一対の導電性薄膜に通電して前記調光層を駆動する調光用バスバーと、
前記一対の導電性薄膜の少なくとも一方を加熱する一対の加熱用バスバーと、を含み、
前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は銀を含むガラス。
【請求項3】
車両用のガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラスに画定された透視領域と、
前記ガラス板の、平面視において、前記透視領域と重複する領域の少なくとも一部に配置された、光の透過率を切り替え可能な調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
調光層と、
前記調光層を挟む一対の導電性薄膜と、
前記一対の導電性薄膜に通電して前記調光層を駆動する調光用バスバーと、
前記一対の導電性薄膜の少なくとも一方を加熱する一対の加熱用バスバーと、を含み、
前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は、赤外線を反射する材料を含むn層(nは2以上の整数)の機能層と、前記機能層を挟むように積層されるn+1層の誘電体層と、を有するガラス。
【請求項4】
車両用のガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラスに画定された透視領域と、
前記ガラス板の、平面視において、前記透視領域と重複する領域の少なくとも一部に配置された、光の透過率を切り替え可能な調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
調光層と、
前記調光層を挟む一対の導電性薄膜と、
前記一対の導電性薄膜に通電して前記調光層を駆動する調光用バスバーと、
前記一対の導電性薄膜の少なくとも一方を加熱する一対の加熱用バスバーと、を含み、
前記調光素子は、TN型液晶、VA型液晶、ゲストホスト型液晶、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶、懸濁粒子デバイスの何れかであるガラス。
【請求項5】
前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は銀を含む請求項に記載のガラス。
【請求項6】
前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は、赤外線を反射する材料を含むn層(nは2以上の整数)の機能層と、前記機能層を挟むように積層されるn+1層の誘電体層と、を有する請求項1、2、又は5に記載のガラス。
【請求項7】
前記調光素子は、TN型液晶、VA型液晶、ゲストホスト型液晶、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶、懸濁粒子デバイスの何れかである請求項1、2、3、5、又は6に記載のガラス。
【請求項8】
前記透視領域は、車両内に搭載されるデバイスが情報を送信及び/又は受信する情報送受信領域である請求項1乃至7の何れか一項に記載のガラス。
【請求項9】
前記調光素子は、光透過モード及び光吸収モードを有し、
前記光透過モードにおける前記調光素子を含む前記透視領域の最大の可視光透過率は50%以上である請求項1乃至8の何れか一項に記載のガラス。
【請求項10】
前記調光素子は、非通電時に前記光透過モードとなる請求項に記載のガラス。
【請求項11】
前記一対の加熱用バスバーが対向して配置される請求項1乃至10の何れか一項に記載のガラス。
【請求項12】
前記調光用バスバーは、一対の調光用バスバーを含み、
前記一対の調光用バスバーと前記一対の加熱用バスバーが独立している請求項1乃至11の何れか一項に記載のガラス。
【請求項13】
前記一対の加熱用バスバーのうち一方が前記調光用バスバーを兼ねている請求項1乃至11の何れか一項に記載のガラス。
【請求項14】
前記一対の加熱用バスバーにより加熱される前記導電性薄膜での発熱量は、600W/m以上である請求項1乃至13の何れか一項に記載のガラス。
【請求項15】
平面視において、前記調光用バスバーは、前記一対の加熱用バスバーの延在方向と直交する方向に延在している請求項1乃至14の何れか一項に記載のガラス。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか一項に記載のガラスと、中間膜と、第2のガラス板と、を有し、前記ガラス板と前記第2のガラス板とが前記中間膜を挟んで接着された車両用の合わせガラスであって、
前記調光素子が前記中間膜に封入されている合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、安全のためガラスに透視領域を有し、車外の状況を、例えば乗員が把握できる。又、近年、車両の安全性向上を目的に、自動的に前方を走行する車両や歩行者との衝突を回避する機能を有する車両が開発されている。このような車両は、例えば、カメラ等のデバイスを車内に搭載し、車両のガラス(例えば、フロントガラス等)を介して、道路状況等の情報の送受信を行う。
【0003】
しかし、透視領域は、太陽光や対向車のヘッドライト等による逆光により、車外からの情報が取得困難になる場合がある。同様に、カメラ等のデバイスは、太陽光や対向車のヘッドライト等による逆光により、車外からの情報が取得困難になる場合がある。そのため、カメラ等のデバイスの前面に、複数領域に分割された領域毎に光の透過率を変化させること、すなわち調光が可能な、液晶板を配置する技術が提案されている。この技術では、逆光等に際して領域間に生じる入射光の光量の差を調光により平均化し、カメラ等のデバイスの画像全体の輝度を平準化することで、防眩性能を達成している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-214827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、調光素子を車両のガラスに適用する際には、低温下(例えば、-20℃程度)における調光素子の応答速度が低下するため、低温下ではオンデマンドな防眩性能を達成できない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、調光素子を有するガラスにおいて、低温下での調光素子の応答速度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本ガラスは、車両用のガラスであって、ガラス板と、前記ガラスに画定された透視領域と、前記ガラス板の、平面視において、前記透視領域と重複する領域の少なくとも一部に配置された、光の透過率を切り替え可能な調光素子と、を有し、前記調光素子は、調光層と、前記調光層を挟む一対の導電性薄膜と、前記一対の導電性薄膜に通電して前記調光層を駆動する調光用バスバーと、前記一対の導電性薄膜の少なくとも一方を加熱する一対の加熱用バスバーと、を含み、前記一対の導電性薄膜のうち、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜は熱線反射機能を有し、前記透視領域のエネルギー反射率が25%以上であることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
開示の一実施態様によれば、調光素子を有するガラスにおいて、低温下での調光素子の応答速度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図である。
図2】第1の実施の形態に係る調光素子を例示する図である。
図3】第1の実施の形態の変形例1に係る調光素子を例示する平面図である。
図4】第1の実施の形態の変形例2に係る調光素子を例示する断面図である。
図5】比較例に係る合わせガラスの断面構造を示す図である。
図6】実施例及び比較例の条件及び結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0011】
なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、実施の形態に係るガラスは、車両用のフロントガラス以外にも適用可能である。又、ここでは透視領域として情報送受信領域を例にして説明するが、これには限定されず、透視領域はガラスにおいて光が透過し車外の状況を把握できる領域を指す。又、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含むガラスを有する移動体を指すものとする。
【0012】
又、平面視とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視ることを指し、平面形状とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視た形状を指すものとする。又、本願明細書においては、上下は図面のZ軸方向、左右は図面のY軸方向を指すものとする。
【0013】
又、本発明の可視光透過率は、JIS R3108:1998で規定される値である。
【0014】
又、本発明のエネルギー反射率は、JIS R3108:1998で規定される値である。
【0015】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図であり、図1(a)はフロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である(フロントガラス20はZ方向を上方として車両に取り付けられた状態である)。図1(b)は、図1(a)に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た断面図である。なお、図1(b)において、便宜上、フロントガラス20と共にデバイス300を図示しているが、デバイス300はフロントガラス20の構成要素ではない。
【0016】
図1に示すように、フロントガラス20は、車内側ガラス板であるガラス板21と、車外側ガラス板であるガラス板22と、中間膜23と、遮蔽層24と、調光素子25とを有する車両用の合わせガラスである。
【0017】
フロントガラス20において、ガラス板21とガラス板22とは、中間膜23及び調光素子25を挟持した状態で固着されている。中間膜23は、複数層の中間膜から形成されてもよい。ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23の詳細については後述する。
【0018】
遮蔽層24は、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に設けられている。遮蔽層24は、不透明な層であり、例えば、所定の色の印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。遮蔽層24は、例えば、不透明な(例えば、黒色の)着色セラミック層である。フロントガラス20の周縁部に不透明な遮蔽層24が存在することで、フロントガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の接着部材や、デバイス300を係止するブラケットをフロントガラス20に貼り付ける接着部材等の紫外線による劣化を抑制できる。
【0019】
なお、図1(b)では、遮蔽層24がガラス板21の車内側の面21aに設けられているが、これには限定されない。遮蔽層24は、例えば、ガラス板22の車内側の面に設けてもよいし、ガラス板21の車内側の面21aとガラス板22の車内側の面の両方に設けてもよい。
【0020】
フロントガラス20には、JIS規格R3212で規定される試験領域Aが画定されている。又、フロントガラス20には、透視領域、ここでは情報送受信領域26が画定されている。試験領域Aは平面視で遮蔽層24に囲まれた領域の内側に位置し、情報送受信領域26は遮蔽層24に設けられた開口部内に位置している。
【0021】
情報送受信領域26は、車両内のフロントガラス20の上辺周縁部等にデバイス300が配置される場合に、デバイス300が情報を送信及び/又は受信する領域として機能する。情報送受信領域26の平面形状は特に限定されないが、例えば、等脚台形とすることができる。情報送受信領域26は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに、運転手の視界を阻害しないと同時に、情報の送信及び/又は受信に有利なため、試験領域Aよりも上側に位置することが好ましい。
【0022】
なお、デバイス300は、情報を送信及び/又は受信するデバイスであり、例えば、可視光や赤外光等を取得するカメラ、ミリ波レーダ、赤外線レーザ等が挙げられ、代表的にはカメラである。車両内に、デバイス300以外に情報送受信領域26を介して情報を送信及び/又は受信する他のデバイスが配置されてもよい。ここで、「信号」とは、ミリ波、及び可視光、赤外光等の光を含む電磁波を指すが、代表的には可視光である。
【0023】
調光素子25は、ガラス板21とガラス板22との間の、平面視において、試験領域Aの外側であって情報送受信領域26と重複する領域の少なくとも一部に配置された、情報送受信領域26の光の透過率を切り替え可能な素子である。調光素子25は、必要に応じて、ガラス板21とガラス板22との間の、平面視において、試験領域Aの内側に配置されてもよい。
【0024】
調光素子25の平面形状は、例えば、情報送受信領域26の平面形状よりも若干大きな矩形とすることが好ましいが、台形としてもよいし、矩形や台形の任意の辺が曲線状になった形状としてもよいし、その他の形状としてもよい。調光素子25の平面形状は、情報送受信領域26の平面形状より小さくてもよい。
【0025】
図2は、第1の実施の形態に係る調光素子を例示する図であり、図2(a)は情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図、図2(b)は図2(a)のA-A線に沿う断面図である。なお、図2(a)において、ガラス板21及び22、中間膜23、遮蔽層24の図示は省略している。又、図2(a)において、便宜上、情報送受信領域26を破線で示している。
【0026】
調光素子25は中間膜23に封入されており、基材251と、導電性薄膜252と、調光層253と、導電性薄膜254と、基材255と、加熱用バスバー256と、調光用バスバー257とを備えている。
【0027】
基材251及び255としては、例えば、透明な樹脂やガラスを用いることができる。基材251及び255の厚さは、5μm以上500μm以下とすることができるが、好ましくは10μm以上200μm以下であり、更に好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0028】
基材251及び255となるプラスチックフィルムは、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルブチラール、ポリエチル酢酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーのホモポリマー又はコポリマーから形成できる。基材251及び255となるガラスの材料としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等が挙げられる。
【0029】
導電性薄膜252は、基材251のガラス板21側の面に形成されており、調光層253のガラス板22側の面に接している。導電性薄膜254は、基材255のガラス板22側の面に形成されており、調光層253のガラス板21側の面に接している。すなわち、導電性薄膜252及び254は、調光層253を挟む一対の導電性薄膜である。
【0030】
導電性薄膜252及び254としては、例えば、透明導電性酸化物(TCO:transparent conductive oxide)を用いることができる。TCOとしては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO:tin-doped indium oxide)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:aluminum doped zinc oxide)、インジウム添加酸化カドミウム等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0031】
導電性薄膜252及び254として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)又はポリ(4,4-ジオクチルシクロペンタジチオフェン)等の透明導電性ポリマーも好適に使用できる。又、導電性薄膜252及び254として、金属層と誘電体層との積層膜、銀ナノワイヤー、銀や銅のメタルメッシュ等も好適に使用できる。
【0032】
導電性薄膜252及び254は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法やイオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)を用いて形成できる。導電性薄膜252及び254は、化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)やウェットコーティング法を用いて形成してもよい。
【0033】
ところで、調光素子25をフロントガラス20に適用する際には、調光素子25が太陽からの熱線により高温になって劣化することを防ぐ必要がある。これを実現するため、例えば、調光素子25を熱線反射ガラスや熱線反射フィルムと共に用いることが考えられる。この場合、熱線反射ガラスを情報送受信領域26の近傍のみに適用すると高コストになるため、比較的低コストである熱線反射フィルムを使用することが好ましい。しかし、熱線反射フィルムを使用すると、熱線反射フィルムが追加された分フロントガラス20の透過率が低下したり、フロントガラス20の色が変化したりすることで、デバイス300のセンシング性能を阻害するおそれがある。
【0034】
フロントガラス20では、調光素子25とは別に熱線反射層を設けるのではなく、調光層253に通電するための導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254に熱線反射層の機能を持たせることができる。この場合、調光素子25とは別に熱線反射層を設ける場合と比べて、デバイス300のセンシング性能に与える影響を低減できる。すなわち、デバイス300のセンシング性能を維持しながら熱線による調光素子25の変化を抑制できる。具体的には、調光素子25とは別に熱線反射層を設ける場合と比べて、フロントガラス20の調光素子25を封入した部分の光透過モードでの可視光透過率の低下や色の変化を抑制できる。
【0035】
ここで、色の変化は、所定波長(436nm、546nm、700nm)における透過率の最大値と最小値の差で規定し、所定波長(436nm、546nm、700nm)における透過率の最大値と最小値の差が12%以下であれば許容範囲であるとした。なお、所定波長(436nm、546nm、700nm)は、CIE(国際照明委員会)が定めるRGB表色系の青緑赤に対応する波長であり、3波長の透過率の差が12%より大きいとデバイス300のセンシング性能に悪影響を及ぼす。
【0036】
なお、調光素子25が熱線により高温になって劣化することを防ぐためには、導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254に熱線反射層の機能を持たせることができるが、少なくとも車外側に配置される導電性薄膜252が熱線反射機能を有することが好ましい。これにより、調光素子25が熱線により高温になることを効果的に防止可能となり、調光素子25が劣化するおそれを防止できる。又、情報送受信領域26のエネルギー反射率は25%以上であることが好ましい。これにより、調光素子25が熱線により高温になることを効果的に防止可能となり、調光素子25が劣化するおそれを防止できる。
【0037】
導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254に熱線反射層の機能を持たせる場合、導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254の材料として、上記に例示した何れかの材料を用いることができる。
【0038】
但し、導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254として、赤外線を反射する材料を含むn層(nは2以上の整数)の機能層と、機能層を挟むように積層されるn+1層の誘電体層とを有する積層膜を用いることが好ましい。導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254として、このような積層膜を用いることにより、情報送受信領域26のエネルギー反射率を高くする(例えば25%以上)ことが可能となり、調光素子25の劣化抑制の効果を向上できる。
【0039】
例えば、赤外線を反射する材料を銀とし、銀を含む2層の機能層と、機能層を挟むように積層される3層の誘電体層とを有する積層膜や、銀を含む3層の機能層と、機能層を挟むように積層される4層の誘電体層とを有する積層膜を用いることができる。
【0040】
赤外線を反射する材料を銀とする場合、銀を含む機能層は、銀のみから形成してもよいし、銀を主成分とする金属層や合金層としてもよい。銀を主成分とする場合、銀以外の金属元素として、例えば、Pd、Au、Cu、Pt等を含んでもよい。機能層や誘電体層の膜厚は、全体の層数や各層の構成材料に応じて適宜決定できるが、例えば、数nm~数100nm程度とすることができる。
【0041】
調光層253は、導電性薄膜252と導電性薄膜254との間に挟まれている。調光層253としては、例えば、懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device:SPD)フィルムを用いることができる。SPDフィルムとしては、電圧の印加により配向可能な懸濁粒子を含有するポリマー層を、透明導電膜を内側にコートした2枚の電気絶縁性フィルムで挟み込むようにして構成された、一般的なSPDフィルムが使用可能である。このような、SPDフィルムは、電源スイッチをオンにして透明導電膜間に電圧を印加することにより、ポリマー層中の懸濁粒子が配向することで可視光透過率が高く、透明性が高い状態になる。電源スイッチがオフの状態では、ポリマー層中の懸濁粒子が配向することがなく可視光透過率が低く、透明性が低い状態となる。
【0042】
なお、調光層253として、SPDフィルムに代えて、高分子分散型液晶(PDLC)を用いてもよい。PDLCフィルムは、プレポリマー、ネマチック液晶、及びスペーサ材料を特定の比率で混合して作製し、その後2つの軟質透明導電性フィルムの間に配置できる。動作原理には、以下のものが含まれる。電界が印加されていない場合、液晶滴は、その配向子が自由に配向された状態でポリマー材料中にランダムに分布できる。このような場合、通常光に対する液晶の屈折率はポリマー材料のそれと一致せず、光に対して相対的に強い散乱効果を引き起こし、その結果PDLCフィルムの外観は半透明又は不透明の「乳白色」となる。電界下では、液晶滴は、その正の誘電率異方特性のため、その配向子を外部電界の方向に沿って配列させることができる。通常光に対する液晶の屈折率がポリマー材料のそれと一致する場合、光はPDLCフィルムを通過することができ、したがってPDLCフィルムは透明の外観を有することになる。具体的には、PDLCフィルムに供給される電圧が高いほど、PDLCフィルムはより透明となる。
【0043】
又、調光層253として、高分子ネットワーク型液晶(PNLC)、ゲストホスト型液晶、TN型液晶、VA型液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック等を用いてもよい。
【0044】
又、調光層253として、電圧が印加されていない場合に配向粒子が透明導電膜に対して垂直に立っているものを用いることがより望ましい。このような調光層は、電界が印加されていない場合、光を透過し、電圧が印加されると配向粒子が寝て、光を吸収又は散乱させることができる。このような調光モードをリバースモードといい、負の誘電率異方特性を持つ液晶材料で実現できる。
【0045】
車両の窓ガラスの透視域に調光素子25を配置する場合には、事故の衝撃による断線故障のリスクを鑑みると、調光素子25はリバースモードのものを適用することがより望ましい。
【0046】
一対の加熱用バスバー256は、導電性薄膜252のガラス板21側の面のY方向の両端部に沿ってZ方向に延び、調光層253を挟んで対向して配置されている。一対の加熱用バスバー256は、導電性薄膜252と電気的に接続されており、導電性薄膜252を加熱する。
【0047】
一対の加熱用バスバー256の一方の極は例えば正極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の正側と接続される。又、一対の加熱用バスバー256の他方の極は例えば負極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の負側と接続される。
【0048】
バッテリー等の電源から一対の加熱用バスバー256を介して導電性薄膜252に電流が供給されると、導電性薄膜252が発熱する。導電性薄膜252で発生した熱は、調光層253を温めるため、低温下(例えば、車外温度が-20℃程度)における調光素子25の応答速度の低下を防止可能となり、低温下においてもオンデマンドな防眩性能を達成できる。
【0049】
又、導電性薄膜252で発生した熱は、フロントガラス20の情報送受信領域26を温め、情報送受信領域26を構成するガラス板21及び22の表面の凍結や曇を取り除き、デバイス300による良好なセンシングを確保できる。
【0050】
加熱用バスバー256により加熱される導電性薄膜252での発熱量は、600W/m以上であることが好ましい。更に好ましくは800W/m以上、より好ましくは1000W/m以上である。これにより、低温下における調光素子25の応答速度の低下を効果的に防止できる。又、情報送受信領域26を構成するガラス板21及び22の表面の凍結や曇を取り除く性能が向上し、デバイス300による更に良好なセンシングを確保できる。
【0051】
又、導電性薄膜252の加熱は、外気温をセンシングして効果的に制御できる。例えば、外気温が5℃より高い場合は、調光素子25の応答速度の低下は少ないため、導電性薄膜252を加熱せず、外気温が5℃を下回ると加熱し、調光素子25の応答速度低下を防止する、というように制御できる。これにより、外気温が高い場合の不必要な消費電力を抑制できるだけでなく、外気温が高い場合に、導電性薄膜252の発熱により中間膜23や調光素子25が過剰に高温になり劣化することも防ぐことができる。
【0052】
なお、一対の加熱用バスバー256は、導電性薄膜252に代えて、導電性薄膜254と電気的に接続してもよい。この場合は、導電性薄膜254を加熱できる。又、一対の加熱用バスバー256を導電性薄膜252と電気的に接続し、他の一対の加熱用バスバーを導電性薄膜254と電気的に接続してもよい。この場合は、導電性薄膜252及び254を加熱できるため、全体の発熱量を大きくできる。
【0053】
図2(b)の断面には現れないが、一対の調光用バスバー257は、導電性薄膜252のガラス板21側の面のZ方向の一端部に沿ってY方向に延びている。一対の調光用バスバー257の一方は導電性薄膜252と電気的に接続され、他方は導電性薄膜254と電気的に接続されており、導電性薄膜252及び254に通電して調光層253を駆動する。一対の調光用バスバー257は、一対の加熱用バスバー256と独立している。
【0054】
一対の調光用バスバー257の一方の極は例えば正極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の正側と接続される。又、一対の調光用バスバー257の他方の極は例えば負極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の負側と接続される。
【0055】
バッテリー等の電源から一対の調光用バスバー257を介して調光層253に電圧が供給されると、電圧に応じて調光層253の透過率が切り替わる。
【0056】
加熱用バスバー256及び調光用バスバー257としては、銀ペーストが好適に用いられる。銀ペーストは、例えば、スクリーン印刷等の印刷方式により塗布できる。加熱用バスバー256及び調光用バスバー257は、銀、銅、錫、金、アルミニウム、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1つの金属、この群から選択される2つ以上の金属を含む合金、又は導電性有機ポリマーから、スパッタ法等により形成してもよい。又、加熱用バスバー256及び調光用バスバー257として、銅リボンや平編み銅線、導電性粘着剤を有する銅テープを用いてもよい。
【0057】
調光素子25は、光透過モード(可視光透過率が高いモード)及び光吸収モード(可視光透過率が低いモード)を有している。光透過モードにおける調光素子25を含む情報送受信領域26の最大の可視光透過率は、40%以上であれば許容範囲であるが、50%以上であることが好ましい。光透過モードにおける調光素子25を含む情報送受信領域26の最大の可視光透過率を50%以上とすることにより、デバイス300による良好なセンシングを十分に確保できる。なお、最大の可視光透過率とは、可視光透過率が最も大きくなるように調光層253に印加される電圧を調整した状態における可視光透過率を意味している。
【0058】
例えば、調光素子25が通電時において光透過モードになる場合、通電時において、最大の可視光透過率を50%以上にできることが好ましい。この場合、通電時において、最大の可視光透過率を60%以上にできることがより好ましく、70%以上にできることが更に好ましい。又、調光素子25が非通電時において光吸収モードになる場合、非通電時において、可視光透過率を20%未満にできることが好ましい。又、可視光透過率は5%以上であることが望ましい。5%未満であると、車外の状況を認識しづらくなるためである。
【0059】
調光素子25は、非通電時に光透過モードとなってもよい。この場合は、通電/非通電の制御を逆にすればよい。この場合も、光透過モードにおける調光素子25を含む情報送受信領域26の最大の可視光透過率が50%以上にできることが好ましく、60%以上にできることがより好ましく、70%以上にできることが更に好ましく、光吸収モードにおける最小の可視光透過率が5%以上であることが好ましい。
【0060】
フロントガラス20は、調光素子25を有することで、車外から情報送受信領域26に入射する光の量に応じて、情報送受信領域26を透過する光の量を調整可能となる。例えば、直射の太陽光や対向車のヘッドライト等により入射光の光量が過剰な場合には、可視光透過率を低くすることで情報送受信領域26の光の透過量を低減して、デバイス300に入射する光量を適度な光量にできる。又、情報透過領域に入射する光の量が過剰でない場合には、低透過領域の可視光透過率を高く変更することで、情報送受信領域26で光を十分透過できるようにし、デバイスに入射する光量を適度な光量にできる。
【0061】
フロントガラス20は、車外から情報送受信領域26に入射する光量を測定し、この光量に応じて調光素子25の通電及び非通電を制御する制御装置を更に有することが好ましい。例えば、調光素子25として、通電時に可視光透過率が高い調光素子を用いた場合に、このような制御装置を用いて、入射光量が過剰でない場合には電源をオンにした状態を保持し、逆光等で入射光量が過剰である場合には電源をオフにできる。これにより、常時、情報送受信領域26が透過する光量を最適化し、デバイス300に入射する光量を適度な光量にできる。非通電時において可視光透過率が高い調光素子25を用いる場合、通電/非通電の制御を逆にすることで同様の効果が期待できる。
【0062】
ここで、ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23について詳述する。
【0063】
フロントガラス20において、ガラス板21の車内側の面21a(フロントガラス20の内面)と、ガラス板22の車外側の面22a(フロントガラス20の外面)とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。
【0064】
ガラス板21及び22としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板21及び22が無機ガラスである場合、例えば、フロート法によって製造できる。
【0065】
フロントガラス20の外側に位置するガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板22の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0066】
フロントガラス20の内側に位置するガラス板21の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板21の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス20の質量が大きくなり過ぎない。なお、ガラス板21及びガラス板22は断面楔形状であってもよい。
【0067】
但し、ガラス板21及び22の板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板21及び22の一方又は両方が、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
【0068】
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板21及び22は、フロート法等による成形の後、中間膜23による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0069】
ガラス板21とガラス板22とを接着する中間膜23としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0070】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0071】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜23を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。又、中間膜23は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、発光剤等の機能性粒子を含んでもよい。
【0072】
中間膜23の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜23の膜厚が0.5mm以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜23の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜23の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜23の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。又、中間膜23は断面楔形状であってもよい。
【0073】
なお、中間膜23は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0074】
中間膜23を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜23が完成する。
【0075】
合わせガラスを作製するには、ガラス板21とガラス板22との間に、中間膜23、調光素子25を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。加熱条件、温度条件、積層方法は調光素子の性質に配慮して、例えば積層中に劣化しないように適宜選択される。
【0076】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0077】
ガラス板21とガラス板22との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜23及び調光素子25の他に、発光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。上記機能性フィルム及びデバイスは、ガラス板21、ガラス板22の主面上に直接形成されてもよい。
【0078】
このように、フロントガラス20は調光素子25を有している。そして、調光素子25は、調光層253と、調光層253を挟む導電性薄膜252及び254と、導電性薄膜252及び254に通電して調光層253を駆動する調光用バスバー257と、導電性薄膜252を加熱する加熱用バスバー256とを含んでいる。
【0079】
これにより、加熱用バスバー256を介して導電性薄膜252を加熱可能となるため、車外温度が低温となった場合でも、調光層253の温度を車外温度よりも高くできる。その結果、車外温度が低温となった場合でも、調光素子25の応答速度の低下を防止可能となり、オンデマンドな防眩性能を達成できる。
【0080】
又、フロントガラス20において、導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254に熱線反射層の機能を持たせることが好ましい。これにより、調光素子25とは別に熱線反射層を設けなくても、デバイス300のセンシング性能を維持しながら調光素子25が熱線により高温になるおそれを低減可能となり、調光素子25が劣化するおそれを防止できる。又、この場合、調光素子25とは別に熱線反射層を設ける場合と比べて、フロントガラス20の調光素子25を封入した部分の光透過モードでの可視光透過率の低下や色の変化を抑制できる。
【0081】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、加熱用バスバーのうち一方が調光用バスバーを兼ねる例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0082】
図3は、第1の実施の形態の変形例1に係る調光素子を例示する平面図であり、情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示している。なお、第1の実施の形態の変形例1に係る調光素子の断面構造は図2(b)と同様であるため、図示を省略する。
【0083】
図3に示すように、第1の実施の形態の変形例1に係るフロントガラス20Aでは、調光素子25Aは、導電性薄膜254と電気的に接続された1つの調光用バスバー257のみを有している。調光素子25Aのその他の点については、調光素子25と同様である。
【0084】
加熱用バスバー256は導電性薄膜252と電気的に接続されているため、加熱用バスバー256の何れか一方と調光用バスバー257との間に電圧を印加すると、電圧に応じて調光層253の透過率を切り替えることができる。すなわち、調光素子25Aでは、加熱用バスバー256のうち一方が調光用バスバー257を兼ねている。
【0085】
このように、加熱用バスバー256のうち一方が調光用バスバー257を兼ねることで、調光素子25Aの構造を調光素子25の構造よりも簡略化できる。
【0086】
〈第1の実施の形態の変形例2〉
第1の実施の形態の変形例2では、フロントガラスが合わせガラスではない例を示す。本実施態様は、サイドガラス、リアガラスとして好適であるが、本明細書ではフロントガラスとしての実施態様として説明する。なお、第1の実施の形態の変形例2において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0087】
図4は、第1の実施の形態の変形例2に係る調光素子を例示する断面図であり、図2(b)に対応する断面を示している。なお、第1の実施の形態の変形例2において、情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図は図2(a)と同様であるため、図示を省略する。
【0088】
図4に示すように、フロントガラス20Bは、車両用のガラス(合わせガラスではない)であって、ガラス板22と、調光素子25と、接着層27とを有している。調光素子25は、接着層27により、ガラス板22の車内側の面22bに固着されている。
【0089】
接着層27の材料は、調光素子25を固着する機能を有していれば特に限定されないが、例えば、アクリル系、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ポリビニルブチラール系の材料が挙げられる。接着層27の材料は、可視光に対して透明である。接着層27の厚みは、例えば、0.2μm以上70μm以下とすることができる。
【0090】
このように、フロントガラス20Bが合わせガラスではない場合にも、調光素子25が、調光層253を駆動する調光用バスバー257に加え、導電性薄膜252を加熱する加熱用バスバー256を有することにより、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。又、導電性薄膜252及び/又は導電性薄膜254に熱線反射層の機能を持たせることにより、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0091】
〈実施例及び比較例〉
[実施例1]
実施例1では、図2に示す調光素子25を備えた合わせガラスを作製した。具体的には、ガラス板21及び22として板厚2mmのクリアガラスを用い、サイズは150mm×150mmの平板とした。中間膜23としては、厚み0.38mmのPVBを用いた。
【0092】
調光素子25として、SPD-AはLCF-1103DHA(日立化成社製、厚さ30μm)と同様の構成とした。具体的には、導電性薄膜252としてITOをスパッタ法で形成した基材251と、導電性薄膜254としてITOをスパッタ法で形成した基材255を、導電性薄膜252及び254が調光層253を挟み込むように配置して調光素子25を作製した。
【0093】
加熱用バスバー256と接続された導電性薄膜252の発熱量は800[W/m]とした。又、本構成における合わせガラスの調光素子25を封入した部分のエネルギー反射率は6[%]である。
【0094】
[実施例2]
実施例2では、導電性薄膜252としてAg3を用いた。又、加熱用バスバー256と接続された導電性薄膜252の発熱量は1000[W/m]とした。又、本構成における合わせガラスの調光素子25を封入した部分のエネルギー反射率は35[%]である。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。なお、Ag3とは、銀を含む3層の機能層と、機能層を挟むように積層される4層の亜鉛と錫とを主成分として含む酸化物の誘電体層とを交互にスパッタ法により積層した積層膜である。
【0095】
[実施例3]
実施例3では、導電性薄膜252としてAg2を用いた。又、加熱用バスバー256と接続された導電性薄膜252の発熱量は600[W/m]とした。又、本構成における合わせガラスの調光素子25を封入した部分のエネルギー反射率は25[%]である。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。なお、Ag2とは、銀を含む2層の機能層と、機能層を挟むように積層される3層の亜鉛と錫とを主成分として含む酸化物の誘電体層とを交互にスパッタ法により積層した積層膜である。
【0096】
[実施例4]
実施例4では、調光素子25として、SPD-BはLCF-1103DHA(日立化成社製、厚さ90μm)と同様の構成とした。具体的には、導電性薄膜252としてITOをスパッタ法で形成した基材251と、導電性薄膜254としてITOをスパッタ法で形成した基材255を、導電性薄膜252及び254が調光層253を挟み込むように配置して調光素子25を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。
【0097】
[比較例1]
比較例1では、加熱用バスバーを設けなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。
【0098】
[比較例2]
比較例2では、図5に示すように、基材351上に熱線反射層352としてAg3を形成した熱線反射フィルム35を、中間膜23の調光素子25よりも車外側に封入した合わせガラスを作製した。又、本構成における合わせガラスの調光素子25を封入した部分のエネルギー反射率は35[%]である。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。
【0099】
[比較例3]
比較例3では、加熱用バスバー256と接続された導電性薄膜252の発熱量を500[W/m]とした。それ以外は、実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。
【0100】
[評価]
第1に、合わせガラスを-20℃の低温環境内に配置し、調光素子25の低温下における応答速度について評価した。ここで、応答速度とは、調光素子25において光透過モードと光吸収モードの透過率の差を100としたとき、光吸収モードから光透過モードへ変化する際に透過率が50%変化するのに要する時間である。応答速度が3秒未満であれば〇、3秒以上であれば×とした。
【0101】
第2に、調光素子25の劣化抑制について評価した。具体的には、スーパーキセノンウェザーメーターで、紫外線放射照度180W/m(300~400nm)、ブラックパネル温度(BPT)63℃の条件において、合わせガラスの調光素子25を封入した部分に紫外線を3000時間照射する試験を行った。試験後に、調光素子25の光透過モードにおける透過率の保持率(試験前後の光透過モードにおける透過率の比率)を測定し、保持率が90%以上であれば◎、80%以上90%未満であれば○、80%未満であれば×とした。
【0102】
第3に、調光素子25の光透過モードにおける可視光透過率(Tv)について評価し、最大の可視光透過率が60%以上であれば◎、50%以上60%未満であれば○、40%以上50%未満であれば△、40%未満であれば×とした。
【0103】
第4に、調光素子25の光透過モードにおける色の変化について評価した。色の変化は、所定波長(436nm、546nm、700nm)における透過率で規定し、所定波長(436nm、546nm、700nm)における透過率の最大と最小の差が12%以下であれば○、12%より大きければ×とした。
【0104】
実施例及び比較例の条件及び結果を図6にまとめた。なお、何れの評価においても『×』は好ましくない状態であることを示している。又、『△』、『〇』、及び『◎』は何れも好ましい状態を示しているが、『△』よりも『〇』の方が好ましく、『〇』よりも『◎』の方がより好ましい。
【0105】
図6に示すように、調光素子25の低温下(-20℃)における応答速度については、導電性薄膜252に加熱用バスバー256を設け、導電性薄膜252を発熱量が600[W/m]以上になるように加熱することで、低下を抑制できることがわかる。なお、600[W/m]は、合わせガラスの曇を晴らしたり、冬季に窓ガラスに付着した水分の凍結を解消したりするのに十分な熱量である。
【0106】
一方、比較例1では、加熱用バスバーを設けておらず、導電性薄膜252を加熱することができないため、低温下(-20℃)における調光素子25の応答速度が低下している。又、比較例3では、加熱用バスバーは設けているが、導電性薄膜252の発熱量が600[W/m]未満であり不十分であるため、低温下(-20℃)における調光素子25の応答速度が低下している。
【0107】
調光素子25の劣化抑制については、何れも調光素子25の光透過モードにおける透過率の保持率が80%以上であり許容範囲である。但し、熱線反射層としてAg2又はAg3を用いた場合(合わせガラスの調光素子25を封入した部分のエネルギー反射率が25[%]以上の場合)は、調光素子25の劣化抑制の効果が特に大きい。
【0108】
調光素子25の光透過モードにおける最大の可視光透過率については、何れも40%以上であり許容範囲である。特に、導電性薄膜252がAg2である場合は、調光素子25の応答速度の低下防止及び劣化抑制の何れの性能も優れているうえ、調光素子25の光透過モードにおける最大の可視光透過率についても60%以上確保できており、好ましい構成であるといえる。
【0109】
調光素子25の光透過モードにおける色の変化については、実施例1~4並びに比較例1及び3については許容範囲である。しかし、比較例2では、所定波長(436nm、546nm、700nm)の透過率の最大値と最小値の差が12%より大きいため、デバイス300のセンシング性能に悪影響を及ぼす。すなわち、比較例2のように調光素子とは別に熱線反射フィルムを挿入する構成では、低温下(-20℃)における調光素子25の応答速度の低下は改善できるものの、デバイス300のセンシング性能を阻害する弊害が生じる。従って、図5に示す構成は好ましくない。
【0110】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0111】
本国際出願は2018年9月10日に出願した日本国特許出願2018-168518号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-168518号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0112】
20、20A、20B フロントガラス
21 ガラス板
21a、22a、22b 面
22 ガラス板
23 中間膜
24 遮蔽層
25、25A 調光素子
26 情報送受信領域
27 接着層
251、255 基材
252、254 導電性薄膜
253 調光層
256 加熱用バスバー
257 調光用バスバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6