(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】表面保護シート用粘着剤組成物及び表面保護シート
(51)【国際特許分類】
C09J 175/16 20060101AFI20231108BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20231108BHJP
C09J 175/08 20060101ALI20231108BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231108BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231108BHJP
【FI】
C09J175/16
C09J4/02
C09J175/08
C09J11/06
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2020549103
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019036892
(87)【国際公開番号】W WO2020066870
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018180613
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】池谷 達宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一博
(72)【発明者】
【氏名】中西 健一
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095770(JP,A)
【文献】特開2018-053212(JP,A)
【文献】特開2018-016730(JP,A)
【文献】特開2017-149923(JP,A)
【文献】特開2017-025126(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069746(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン(A)と、
多官能単量体(B)と、
前記ポリウレタン(A)及び前記多官能単量体(B)と重合可能な、その他の単量体(C)と、
光重合開始剤(D)と、
イオン液体(E)と、
を含む表面保護シート用粘着剤組成物であって、
前記ポリウレタン(A)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造とポリイソシアネート由来の構造とを含む骨格を有するポリウレタンであり、
前記ポリウレタン(A)が、ポリウレタン(a1)を含み、
前記ポリウレタン(a1)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ、前記ポリウレタン(a1)の複数の末端に(メタ)アクリロイル基を有し、
前記ポリウレタン(A)の重量平均分子量が30,000~200,000であり、
前記多官能単量体(B)は、(メタ)アクリロイル基を複数有する化合物であり、
前記ポリウレタン(A)と前記多官能単量体(B)と前記その他の単量体(C)との総量100質量%に対して、
前記ポリウレタン(A)を30~60質量%、
前記多官能単量体(B)を
4~
9質量%、
前記その他の単量体(C)を30~68質量%
を含有し、
前記ポリウレタン(A)と前記多官能単量体(B)と前記その他の単量体(C)との総量100質量部に対して、
前記光重合開始剤(D)を0.1~5質量部、
前記イオン液体(E)を0.5~5質量部、
を含有することを特徴とする表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリウレタン(A)に含まれる前記ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造が、数平均分子量500~5,000のポリオキシアルキレンポリオール由来の構造である請求項1に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記イオン液体(E)が、
第四級窒素原子のアンモニウム、インモニウム、スルホニウムからなる群から選択される有機カチオンと含フッ素有機アニオンとの組み合わせである請求項1又は2に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イオン液体(E)が、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO
2)
2N
-)からなるイオン液体、及び
4-メチル-1-オクチル-ピリジニウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO
2)
2N
-)からなるイオン液体
からなる群から選択される少なくとも一方を含む請求項1~3の何れか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリウレタン(A)に含まれる前記骨格は、ポリオキシアルキレングリコール及びジイソシアネートとの共重合体である請求項1~4の何れか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項6】
前記ポリオキシアルキレングリコールが、ポリプロピレングリコールであり、
前記ジイソシアネートが、ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物である請求項5に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項7】
前記ポリウレタン(A)における、前記(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部である請求項1~6のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項8】
前記多官能単量体(B)は、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する請求項1~7のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項9】
前記多官能単量体(B)は、トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項8に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項10】
前記その他の単量体(C)は、(メタ)アクリロイル基を1個のみ有する請求項1~9のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項11】
前記その他の単量体(C)は、アルキル(メタ)アクリレートを含む請求項1~10のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項12】
前記ポリウレタン(A)は、さらに、ポリウレタン(a2)を含み、
前記ポリウレタン(a2)は、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ前記ポリウレタン(a2)のいずれか1つの末端のみに(メタ)アクリロイル基を有するものである
請求項1~11のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項13】
数基準で、前記ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタン分子の末端の90~100%に(メタ)アクリロイル基が導入されている請求項1~12のいずれか1項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
【請求項14】
シート状の基材と、
前記基材上に形成された粘着剤層と
を有し、
前記粘着剤層が、請求項1~13のいずれか一項に記載の表面保護シート用粘着剤組成物の光硬化物からなることを特徴とする表面保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護シート用粘着剤組成物、及びこの粘着剤組成物の硬化物からなる粘着剤層を有する表面保護シートに関する。
本願は、2018年9月26日に、日本に出願された特願2018-180613号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、パソコン、テレビ等の液晶ディスプレイやタッチパネル等の光学部品には、種々の光学フィルムが使用されている。これらの光学フィルムの表面には、輸送工程、製造工程、検査工程での汚れや傷つきを防止する目的で、一般的に保護シート(表面保護シート)がラミネートされる。この保護シートは、組み立て工程等の後工程において剥離される。このような保護シートのための粘着剤として、種々のウレタン粘着剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、特定のウレタン樹脂を含有する再剥離型粘着剤が再剥離性、被着体への濡れ性を改善していると記載されている。また、これらの保護シートを剥離する工程での空気中の微細な埃の付着を抑制するため、粘着剤にイオン液体を含ませて表面保護シートに帯電防止性を付与することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなウレタン表面保護シートでは、被着体へのラミネートのしやすさ(被着体への高い濡れ性)、剥離しやすさ、糊残りのし難さ、剥離時の帯電防止性は改善されているものの、まだ十分ではなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被着体へのラミネートのしやすさ(被着体への高い濡れ性)、剥離しやすさ、糊残りのし難さ、剥離時の帯電防止性をさらに高める粘着剤組成物、およびこれを硬化して得られる粘着剤層を有する表面保護シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の構成は以下の通りである。
[1] ポリウレタン(A)と、
多官能単量体(B)と、
前記ポリウレタン(A)及び前記多官能単量体(B)と重合可能な、その他の単量体(C)と、
光重合開始剤(D)と、
イオン液体(E)と、
を含む表面保護シート用粘着剤組成物であって、
前記ポリウレタン(A)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造とポリイソシアネート由来の構造とを含む骨格を有するポリウレタンであり、
前記ポリウレタン(A)が、ポリウレタン(a1)を含み、
前記ポリウレタン(a1)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ、前記ポリウレタン(a1)の複数の末端に(メタ)アクリロイル基を有し、
前記ポリウレタン(A)の重量平均分子量が30,000~200,000であり、
前記多官能単量体(B)は、(メタ)アクリロイル基を複数有する化合物であり、
前記ポリウレタン(A)と前記多官能単量体(B)と前記その他の単量体(C)との総量100質量%に対して、
前記ポリウレタン(A)を30~60質量%、
前記多官能単量体(B)を2~10質量%、
前記その他の単量体(C)を30~68質量%
を含有し、
前記ポリウレタン(A)と前記多官能単量体(B)と前記その他の単量体(C)との総量100質量部に対して、
前記光重合開始剤(D)を0.1~5質量部、
前記イオン液体(E)を0.5~5質量部、
を含有することを特徴とする表面保護シート用粘着剤組成物。
[2] 前記ポリウレタン(A)に含まれる前記ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造が、数平均分子量500~5,000のポリオキシアルキレンポリオール由来の構造である[1]に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[3] 前記イオン液体(E)が、
第四級窒素原子のアンモニウム、インモニウム、スルホニウムからなる群から選択される有機カチオンと含フッ素有機アニオンとの組み合わせである[1]又は[2]に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[4] 前記イオン液体(E)が、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO2)2N-)からなるイオン液体、及び
4-メチル-1-オクチル-ピリジニウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO2)2N-)からなるイオン液体
からなる群から選択される少なくとも一方を含む[1]~[3]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[5] 前記ポリウレタン(A)に含まれる前記骨格は、ポリオキシアルキレングリコール及びジイソシアネートとの共重合体である[1]~[4]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[6] 前記ポリオキシアルキレングリコールが、ポリプロピレングリコールであり、
前記ジイソシアネートが、ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物である[1]~[5]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[7] 前記ポリウレタン(A)における、前記(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部である[1]~[6]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[8] 前記多官能単量体(B)は、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する[1]~[7]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[9] 前記多官能単量体(B)は、トリメチロールプロパントリアクリレートである[8]に記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[10] 前記その他の単量体(C)は、(メタ)アクリロイル基を1個のみ有する[1]~[9]のいずれかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[11] 前記その他の単量体(C)は、アルキル(メタ)アクリレートを含む[1]~[10]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[12] 前記ポリウレタン(A)は、さらに、ポリウレタン(a2)を含み、
前記ポリウレタン(a2)は、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ前記ポリウレタン(a2)のいずれか1つの末端のみに(メタ)アクリロイル基を有するものである
[1]~[11]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[13] 数基準で、前記ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタン分子の末端の90~100%に(メタ)アクリロイル基が導入されている[1]~[12]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物。
[14] シート状の基材と、
前記基材上に形成された粘着剤層と
を有し、
前記粘着剤層が、[1]~[13]の何れかに記載の表面保護シート用粘着剤組成物の光硬化物からなることを特徴とする表面保護シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被着体にラミネートしやすく(被着体への濡れ性が高く)、かつ剥離しやすく、剥離した後の被着体への粘着剤の糊残りを防止でき、さらに剥離時の剥離帯電性を抑制できる表面保護シートのための粘着剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、ラミネートしやすく、かつ剥離しやすく、さらに剥離時の剥離帯電性が抑制できる表面保護シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】表面保護シートのラミネート性評価方法を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、化学式CH2=CH-CO-で表される基、および化学式CH2=C(CH3)-CO-で表される官能基から選択される一種以上を意味し、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、化学式CH2=CH-CO-O-で表される基、および化学式CH2=C(CH3)-CO-O-で表される官能基から選択される一種以上を意味する。また、イソシアナト基とは、化学式-N=C=Oで表される官能基を意味する。
【0010】
<1.表面保護シート用粘着剤組成物>
本実施形態にかかる表面保護シート用粘着剤組成物(以下、「粘着剤組成物」と言うこともある。)は、ポリウレタン(A)と、多官能単量体(B)と、前記ポリウレタン(A)及び前記多官能単量体(B)と重合可能な、その他の単量体(C)と、光重合開始剤(D)と、イオン液体(E)と、を含む。前記ポリウレタン(A)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有するポリウレタンである。前記ポリウレタン(A)が、ポリウレタン(a1)を含む。前記ポリウレタン(a1)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ、前記ポリウレタン(a1)の複数の末端に(メタ)アクリロイル基を有す。前記ポリウレタン(A)の重量平均分子量が30,000~200,000である。前記ポリウレタン(A)、前記多官能単量体(B)、及び前記その他の単量体(C)からなる成分(以下、「成分(A)~(C)」と言うこともある。)の総量100質量%に対して、前記ポリウレタン(A)を30~60質量%、前記多官能単量体(B)を2~10質量%、前記その他の単量体(C)を30~68質量%含有する。また、前記成分(A)~(C)の総量100質量部に対して、前記光重合開始剤(D)を0.1~5質量部、前記イオン液体(E)を0.5~5質量部、含有することを特徴とする。
また、本実施形態にかかる粘着剤組成物は、必要に応じて、脂肪酸エステル等の添加剤を含んでもよい。さらに、本実施形態にかかる粘着剤組成物は、溶媒を含まなくてもよいが、必要に応じて、溶媒を含んでいてもよい。
以下、粘着剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0011】
<1-1.ポリウレタン(A)>
ポリウレタン(A)は、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有するポリウレタンである。ポリウレタン(A)は、後述のポリウレタン(a1)を含む。粘着剤組成物の硬化物の凝集力を調節する目的で、ポリウレタン(A)が、後述のポリウレタン(a2)をさらに含んでもよい。
【0012】
[ポリウレタン(a1)]
ポリウレタン(a1)は、ポリオキシアルキレンポリオール由来の構造及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ複数の末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタンである。なお、ポリウレタン(a1)の末端の(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部であることが好ましい。
【0013】
[ポリウレタン(a2)]
ポリウレタン(a2)は、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネート由来の構造を含む骨格を有し、かつ1つの末端のみに(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタンである。なお、ポリウレタン(a2)の末端の(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部であることが好ましい。
なお、ポリウレタン(A)に含まれているポリウレタン(a1)とポリウレタン(a2)の含有量、すなわち、ポリウレタン(A)に含まれているポリウレタンの末端の(メタ)アクリロイル基の数の調節方法は、ポリウレタン(A)の製造方法の項においてその一例を後述する。
【0014】
本発明の「複数の末端」について、直鎖ポリマーの場合、2つの末端であり、分岐ポリマーの場合、その各分岐鎖の本数と同じ数の末端において、2つ以上の末端である。
ポリウレタン(A)にはポリウレタン(a1)、ポリウレタン(a2)以外の成分は含まれない。
ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタン(a1)は数基準でポリウレタン(A)の80~100%であることが好ましく、90~100%がより好ましく、100%がさらに好ましい。ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタン(a2)は数基準でポリウレタン(A)の0~20%であることが好ましく、0~10%がより好ましく、0%がさらに好ましい。ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタン(a1)が80%以上であれば、粘着剤組成物の硬化物の凝集力が十分に大きくなる。
【0015】
「ポリオキシアルキレンポリオール」
ポリオキシアルキレンポリオールとしては、炭素数2~4のアルキレン鎖を有するものが好ましく、その具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシブチレンポリオール等が挙げられる。また、ポリオキシアルキレンポリオールの中でも、ポリオキシアルキレングリコールが好ましく用いられ、ポリプロピレングリコールが特に好ましく用いられる。
【0016】
なお、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、2種以上のアルキレン鎖を含んでもよい。また、ポリウレタン(A)としては、2種以上の異なるポリオキシアルキレンポリオール由来の構造がポリイソシアネートを挟んで結合された構成であってもよい。
【0017】
ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量は、500~5,000であることが好ましく、800~4,000であることがより好ましく、1,000~3,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が500以上であれば、粘着剤組成物を硬化して得られた粘着剤層の剥離強度が向上する。数平均分子量が5,000以下であれば、ポリウレタン中に十分な量のウレタン結合が含まれるので粘着剤層の凝集力が向上する。
ポリオキシアルキレンポリオールは、末端に2つ又は3つの水酸基を有することが好ましい(ジオール又はトリオール型ポリオキシアルキレンポリオール)。例えば、ジオール型であるポリプロピレングリコールの場合、水酸基価が20~120mgKOH/gであることが好ましく、30~100mgKOH/gであることがより好ましく、40~80mgKOH/gであることがさらに好ましい。ポリプロピレングリコールの具体例としては、水酸基価が56mgKOH/gの水酸基(ヒドロキシ基)を末端に有するポリプロピレングリコールのアクトコールD-2000(三井化学製、数平均分子量2000、ジオール型)が挙げられる。
ここで、水酸基価とは、JISK0070に従って測定されたポリオキシアルキレンポリオールの水酸基価であって、該ポリオキシアルキレンポリオール1gをアセチル化させたときの遊離酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する。具体的には、無水酢酸を用いて試料中の水酸基をアセチル化し、その際に生じる遊離酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定することにより求めることができる。
【0018】
「ポリイソシアネート」
ポリイソシアネートとしては、イソシアナト基を複数有する化合物であれば特に限定されないが、ジイソシアネートが好ましい。ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート及びその水素添加物、キシリレンジイソシアネート及びその水素添加物、ジフェニルメタンジイソシアネート及びその水素添加物、1,5‐ナフチレンジイソシアネート及びその水素添加物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’‐ジシクロヘキシルジイソシアネート、1,3‐ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
これらの例示された化合物の中でも、耐光性、反応性の制御の点から、イソホロンジイソシアネートまたはジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物が好ましく、反応性の点でジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物がより好ましい。ポリウレタン(A)に含まれるポリイソシアネート由来の構造は1種類からなるものでもよく、2種類以上を含む構造でもよい。
ポリイソシアネートの具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物(デスモジュールW、住化コベストロウレタン製)、イソホロンジイソシアネート(デスモジュールI、住化コベストロウレタン製)などが挙げられる。
【0020】
ポリウレタン(A)の重量平均分子量は30,000~200,000であり、好ましくは50,000~150,000であり、さらに好ましくは70,000~100,000である。ポリウレタン(A)の重量平均分子量が30,000未満であると、粘着剤組成物を硬化して得られる粘着剤層は、柔軟性が不十分で、この粘着剤層を有する表面保護シートはラミネートがしにくい。また、ポリウレタン(A)の重量平均分子量が200,000より大きいと、粘着剤組成物として粘度が高くなるなど取り扱いが困難で、作業性が低下する。
【0021】
ポリウレタン(A)の含有量は、成分(A)~(C)の合計量に対して30~60質量%であり、35~55質量%であることが好ましく、40~50質量%であることがより好ましい。ポリウレタン(A)の含有量が30質量%未満であると、粘着剤組成物の硬化物の凝集力が不十分で、粘着剤層が柔らかくなり過ぎ、粘着面(粘着剤層と被着体の間)への気泡の挟み込みが発生する懸念がある。ポリウレタン(A)の含有量が60質量%より大きいと、粘着剤組成物の硬化物の凝集力が高すぎ、粘着剤層の柔軟性が足りず、粘着剤層の被着体に対する濡れ性が低下する懸念がある。
【0022】
<1-2.多官能単量体(B)>
多官能単量体(B)は、粘着剤組成物の硬化物を用いた粘着剤層(表面保護シート)の剥離強度を調整する。多官能単量体(B)は、ポリウレタン(A)以外であって、(メタ)アクリロイル基を複数有している化合物である。(メタ)アクリロイル基の数が2個以上であれば特に制限はないが、硬化性の観点から、多官能単量体(B)は3個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0023】
多官能単量体(B)としては、ポリオール化合物のポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3‐ビス(ヒドロキシエチル)‐5,5‐ジメチルヒダントインジ(メタ)アクリレート、α,ω‐ジ(メタ)アクリルビスジエチレングリコールフタレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4‐ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジアクリロキシエチルフォスフェート、ジペンタエリスリトールトリヒドロキシ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、粘着剤組成物を用いた表面保護シートの剥離強度を低く調整しやすいという点から、1,6‐ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリヒドロキシ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートがより好ましく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。また、多官能単量体(B)は、1種類の化合物からなるものでもよく、2種類以上の化合物からなるものでもよい。
【0025】
多官能単量体(B)の含有量は、成分(A)~(C)の合計量に対して2~10質量%であり、3~9質量%であることが好ましく、4~8質量%であることがより好ましい。含有量が2質量%未満であると、表面保護シートの剥離強度が高すぎ、軽剥離性に劣る。含有量が10質量%より多いと、イオン液体(E)との相溶性が悪くなることにより、帯電防止性や透明性(ヘイズ値)が悪化する。
【0026】
<1-3.その他の単量体(C)>
その他の単量体(C)は、ポリウレタン(A)以外であり、かつ多官能単量体(B)以外の化合物であって、ポリウレタン(A)及び多官能単量体(B)と重合可能であれば特に限定されない。ただし、その他の単量体(C)は、ポリウレタン(A)及び多官能単量体(B)と重合するための官能基として、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有することが好ましく、その中でもビニル基または(メタ)アクリロイル基を有することがより好ましく、(メタ)アクリロイル基を有することがさらに好ましい。
【0027】
その他の単量体(C)としては、特に限定されないが、アルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、カルボキシ基含有(メタ)アクリレート、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、不飽和カルボン酸等が挙げられる。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、tert‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n‐ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルナニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2‐メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2‐エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3‐ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,4‐ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、3‐メチルペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
カルボキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、β‐カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
フッ素化アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N‐ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N‐ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N‐メチル(メタ)アクリルアミド、N‐エチル(メタ)アクリルアミド、N‐プロピル(メタ)アクリルアミド、N‐イソプロピルアクリルアミド、N‐ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0037】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0038】
また、その他の単量体(C)として、上記の化合物以外では、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α‐メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、N‐ビニルピリジン、N‐ビニルピロリドン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、アリルアルコール、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、4‐ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル又はジエチレングリコールモノビニルエーテル、メチルビニルケトン、N‐アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等が挙げられる。
【0039】
これらの例示された化合物の中でも、ポリウレタン(A)との相溶性、粘着剤組成物の粘度、剥離強度の調整の観点から、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンがより好ましく、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。また、その他の単量体(C)は、1種類の化合物からなるものでもよく、2種類以上の化合物からなるものでもよい。
【0040】
その他の単量体(C)の含有量は、成分(A)~(C)の合計量に対して30~68質量%であり、35~62質量%であることが好ましく、40~56質量%であることがより好ましい。含有量が30質量%未満であると、粘着剤組成物の硬化物の凝集力が高すぎ、粘着剤層の柔軟性が不足して、被着体に対する濡れ性が低下する懸念がある。含有量が68質量%より高いと、粘着剤組成物を硬化物の凝集力が小さくなり、粘着剤層が柔らかすぎて、粘着面(粘着剤層と被着体の間)への気泡の挟み込みが発生する懸念がある。
【0041】
<1-4.光重合開始剤(D)>
光重合開始剤(D)としては、特に限定されないが、カルボニル系光重合開始剤、スルフィド系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、キノン系光重合開始剤、スルホクロリド系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等が挙げられる。
【0042】
カルボニル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ω‐ブロモアセトフェノン、クロロアセトン、アセトフェノン、2,2‐ジエトキシアセトフェノン、2,2‐ジメトキシ‐2‐フェニルアセトフェノン、p‐ジメチルアミノアセトフェノン、p‐ジメチルアミノプロピオフェノン、2‐クロロベンゾフェノン、4,4’‐ジクロロベンゾフェノン、4,4’‐ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン‐n‐ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニル‐プロパン‐1‐オン、1‐(4‐イソプロピルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、メチルベンゾイルホルメート、2,2‐ジエトキシアセトフェノン、4‐N,N’‐ジメチルアセトフェノン、2‐メチル‐1‐[4‐(メチルチオ)フェニル]‐2‐モルフォリノプロパン‐1‐オン等が挙げられる。
【0043】
スルフィド系光重合開始剤としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルアンモニウムモノスルフィド等が挙げられる。
【0044】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6‐トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0045】
キノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン系光重合開始剤が挙げられる。
【0046】
スルホクロリド系光重合開始剤としては、例えば、2‐ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。
【0047】
チオキサントン系光重合開始剤としては、例えば、チオキサントン、2‐クロロチオキサントン、2‐メチルチオキサントン等が挙げられる。
【0048】
これらの例示された化合物の中でも、粘着剤組成物を硬化して得られる粘着剤層の透明性の点から、カルボニル系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましく、1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドがより好ましい。また、光重合開始剤(D)は、1種類の化合物からなるものでもよく、2種類以上の化合物からなるものでもよい。
【0049】
光重合開始剤(D)の含有量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、0.1~5質量部であり、0.2~3質量部であることが好ましく、0.3~2質量部であることがより好ましい。光重合開始剤(D)の含有量が0.1質量部未満であると、粘着剤組成物が十分に光硬化せず、5質量部より大きいと、低分子量成分が多く生成し、得られる表面保護シートの剥離性が悪化する傾向にある。
【0050】
<1-5.イオン液体(E)>
本実施形態の粘着剤組成物に含まれるイオン液体(E)は、粘着剤組成物の帯電防止性を向上させる。イオン液体とは、融点が100℃以下の溶融塩化合物(イオン性化合物)を指す。イオン液体の融点は、室温(25℃)以下であることが好ましい。イオン液体(E)は、1種類の化合物からなるものでもよく、2種類以上の化合物からなるものでもよい。
【0051】
イオン液体(E)としては、有機カチオンと、無機アニオンもしくは有機アニオンとを組み合わせた有機塩化合物を用いることが好ましい。
イオン液体(E)を構成する有機カチオンとしては、オニウムが挙げられる。具体的には、有機カチオンとして、第四級窒素原子のアンモニウム(代表構造:Q1
4N+)、インモニウム(代表構造:Q2
2C=N+Q1
2)、スルホニウム(代表構造:Q1
3S+)、オキソニウム(代表構造:Q1
2O+)、第四級リン原子のホスホニウム(代表構造:Q1
4P+)、ヨードニウム(代表構造:Q1
2I+)等が挙げられる。
【0052】
上記の有機カチオンの代表構造において、Q1はアルキル基、アリール基、ヘテロ環基等の置換基を表す。Q2は水素原子または置換基を表す。分子中の複数のQ1、分子中の複数のQ2、または分子中のQ1とQ2は、互いに結合して環を形成してもよい。さらに、分子中の2つのQ1または2つのQ2が共同して二重結合の基(例えば、=O、=S、=NQ2)を形成してもよい。
【0053】
上記の有機カチオンの中でも、第四級窒素原子のアンモニウム、インモニウム、スルホニウムが好ましい。これらの有機カチオンとしては、例えば、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、トリアルキルスルホニウムカチオンなどが挙げられる。これらの有機カチオンの中でも、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンが好ましく用いられる。
【0054】
有機カチオンとして、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンを用いたイオン液体(E)を含む粘着剤組成物は、帯電防止性に優れる。
【0055】
有機カチオンとして用いられるイミダゾリウムカチオンの具体例としては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムカチオン等が挙げられる。これらのイミダゾリウムカチオンの中でも、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンが好ましく用いられる。
【0056】
有機カチオンとして用いられるピリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、1-エチルピリジニウムカチオン、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-へキシルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-へキシル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-へキシル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3,4-ジメチルピリジニウムカチオンなどが挙げられる。これらのピリジニウムカチオンの中でも、1-へキシル-4-メチルピリジニウムカチオン、4-メチル-1-オクチル-ピリジニウムカチオンなどが好ましく用いられる。
【0057】
イオン液体(E)を構成する無機アニオンとしては、イオン液体になることを満足するものであれば特に限定されない。無機アニオンとしては、例えば、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、NO3
-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)m
-(mは0以上の整数である。)、(CN)2N-等が挙げられる。
【0058】
イオン液体(E)を構成する有機アニオンとしては、イオン液体になることを満足するものであれば特に限定されない。有機アニオンとしては、例えば、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)3C-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等が挙げられる。
【0059】
イオン液体(E)を構成する無機アニオンもしくは有機アニオンとしては、上記の中でも特に、フッ素原子を含むアニオンを用いることが好ましい。フッ素原子を含むアニオンを用いることで、イオン伝導性に優れるイオン液体(E)となる。フッ素原子を含むアニオンの中でも含フッ素有機アニオンが好ましく、特に、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-を用いることが好ましい。有機アニオンとして(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-を用いたイオン液体(E)を含む粘着剤組成物は、特に帯電防止性に優れるものとなる。
【0060】
イオン液体(E)としては、市販のものを使用してもよい。市販されているイオン液体(E)中でも、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO2)2N-)からなるイオン液体(第一工業製薬(株)製、商品名:AS-110)、4-メチル-1-オクチル-ピリジニウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン((FSO2)2N-)からなるイオン液体(第一工業製薬(株)製、商品名:AS-804)が好ましい。イオン液体(E)として、上記AS-110、AS-804を含む粘着剤組成物は、帯電防止性に優れるため、好ましい。
【0061】
粘着剤組成物に含まれるイオン液体(E)の含有量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、0.5~5質量部であり、1~3質量部であることが好ましい。イオン液体(E)の含有量が0.5質量部未満であると帯電防止性能が不十分である。その結果、粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する表面保護シートの表面抵抗値が十分に低くならない懸念がある。また、イオン液体(E)の含有量が5質量部より大きいと、粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する表面保護シートを、被着体に貼り付けた後に剥離した際に、イオン液体による汚染が発生する懸念がある。
【0062】
<1-6.添加剤>
粘着剤組成物には、得られる表面保護シートのラミネート性(被着体への濡れ性)、泡抜け性(貼合時に挟み込んだ気泡の抜けやすさ)を向上させるため、必要に応じて、脂肪酸エステルを添加してもよい。脂肪酸エステルの例としては、炭素数が8~18の一塩基酸、あるいは多塩基酸と炭素数が18以下の分岐アルコールとのエステル、炭素数が14~18の不飽和脂肪酸、あるいは分岐鎖を有する酸と4価のアルコールとのエステル等が挙げられる。脂肪酸エステルとして好ましい具体的な例としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピルなどが挙げられる。脂肪酸エステルの添加量としては、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、1~40質量部が好ましく、3~35質量部がより好ましく、5~30質量部がさらに好ましい。
【0063】
また、粘着剤組成物には、透明性を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、ベンゾトリアゾール系等の光安定剤、リン酸エステル系及びその他の難燃剤、界面活性剤のような帯電防止剤、染料等が挙げられる。
【0064】
<1-7.溶媒>
粘着剤組成物は、低分子量成分として、多官能単量体(B)、その他の単量体(C)を含んでいるため、溶媒を加えなくとも塗布可能な粘度に調整することができる。すなわち、本発明の表面保護シート用粘着剤組成物は、前記ポリウレタン(A)と、前記多官能単量体(B)と、前記その他の単量体(C)と、光重合開始剤(D)と、イオン液体(E)とからなる必須成分以外に、溶媒を実質的に含まなくても良い。その場合、表面保護シートを製造する際、その溶媒を加熱乾燥する工程が省略することができ、生産性が高くなる。特に、50μmを超える膜厚の表面保護シートを製造する際に、表面保護シート用粘着剤組成物がその溶媒を実質的に含まないことが好ましい。本発明の「実質的に含まない」の意味は、本発明の表面保護シート用粘着剤組成物における前記溶媒の含有量が0~1質量%であり、好ましく0~0.5質量%であり、より好ましく0~0.1質量%である。
塗工時の粘度調整を目的として溶媒を添加してもよい。溶媒は粘着剤組成物に含まれるその他の成分等によって適宜選択可能であるが、有機溶媒が好ましい。用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、n‐へキサン、トルエン、キシレン、n‐プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。溶媒は、粘着剤組成物を基材等に塗布した後、乾燥することにより除去し、その後に光硬化を行うことが好ましい。
【0065】
<2.表面保護シート用粘着剤組成物の製造方法>
ここでは、本発明の粘着剤組成物に含まれるポリウレタン(A)の合成方法について、その例を説明する。なお、多官能単量体(B)及びその他の単量体(C)及び表面保護シート用粘着剤組成物に含まれるその他の成分については市販品の購入が容易であるし、用いる化合物の種類によって様々であるため合成方法の説明を省略する。
【0066】
<2-1.ポリウレタン(A)の合成方法>
以下、本実施形態の粘着剤組成物に含まれるポリウレタン(A)の好ましい合成方法の一例について説明するが、ポリウレタン(A)の合成方法はこれに限られず、合成に用いる原料や設備等の条件によって適宜変更可能である。また、この例においては、ヒドロキシ基とイソシアナト基の反応は、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエート、ジオクチルスズジラウレート等のウレタン化触媒を用いて行われる。反応は、30~100℃で1~5時間継続して行われることが好ましい。ウレタン化触媒の使用量は、反応物の総質量に対して、50~500質量ppmであることが好ましい。
【0067】
まず、ポリオキシアルキレンポリオールとポリイソシアネートとを、イソシアナト基量(数基準、以下同じ)がヒドロキシ基量(数基準、以下同じ)より多くなる割合で仕込み、これらを反応させて末端にイソシアナト基を有するポリウレタンを合成する。ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネートの具体的な例は、ポリウレタン(A)の項で例示したとおりである。
【0068】
このとき、ヒドロキシ基量に対するイソシアナト基量を調整することで、分子量(重合度)を調整することが可能である。具体的には、ヒドロキシ基量に対するイソシアナト基量の過剰量が少ないほど、イソシアナト基を有するポリウレタンの分子量は大きくなり、ヒドロキシ基量に対するイソシアナト基量の過剰量が多いほど、イソシアナト基を有するポリウレタンの分子量は小さくなる。
【0069】
次に、末端にイソシアナト基を有するポリウレタンと、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を持つポリウレタン(A)を合成する。なお、この化合物に含まれる(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部であることが好ましい。
【0070】
ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されないが、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;1,3‐ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,4‐ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、3‐メチルペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート等の各種ポリオール由来の(メタ)アクリロイル基を有するモノオール等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、イソシアナト基との反応性、光硬化性の点で、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0071】
また、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物に加えて、(メタ)アクリロイル基を有さず、ヒドロキシ基を1個有するアルキルアルコールを併用して、末端にイソシアナト基を有するポリウレタンと反応させることで、(メタ)アクリロイル基の導入量を調整することができる。アルキルアルコールとしては、特に限定されないが、直鎖型、分岐型、脂環型のアルキルアルコール等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これにより、少なくともいずれかの末端に上記アルキルアルコール由来の構造を有するポリウレタンが生成する。この場合、ポリウレタン(A)には、少なくともいずれかの末端に(メタ)アクリロイル基を有さないポリウレタンが含まれることになる。そのため、1つの末端にのみ(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン(a2)も含まれ得ることになる。
【0072】
数基準で、ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタンの末端の90~100%に(メタ)アクリロイル基が導入されていることが好ましく、95~100%がより好ましく、100%がさらに好ましい。(メタ)アクリロイル基の導入量が、イソシアナト基に対して、数基準で90%以上であれば、粘着剤組成物を硬化して得られる粘着剤層の凝集力が十分に得られる。全てのポリウレタン分子鎖の末端の数に対する(メタ)アクリロイル基が導入されている末端の数の割合は、IR、NMR等により測定することができる。
【0073】
<2-2.ポリウレタン(A)の合成方法の変形例>
ポリウレタン(A)の合成方法の変形例について説明する。なお、この例においても、上記の例と同様、ヒドロキシ基とイソシアナト基の反応は、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエート、ジオクチルスズジラウレート等のウレタン化触媒を用いて行われる。反応は、30~100℃で1~5時間継続して行われることが好ましい。ウレタン化触媒の使用量は、反応物の総質量に対して、50~500質量ppmであることが好ましい。本変形例では、まず、ポリオキシアルキレンポリオールとポリイソシアネートを、ヒドロキシ基量がイソシアナト基量より多くなる割合で反応させて、末端にヒドロキシ基を有するポリウレタンを合成する。
【0074】
このとき、上記の例と同様、イソシアナト基量に対するヒドロキシ基量の比を調整することで、分子量を調整することが可能である。具体的には、イソシアナト基量に対するヒドロキシ基量の過剰量が少ないほど、ヒドロキシ基を有するポリウレタンの分子量は大きくなり、イソシアナト基量に対するヒドロキシ基量の過剰量が多いほど、ヒドロキシ基を有するポリウレタンの分子量は小さくなる。
【0075】
次に、末端にヒドロキシ基を有するポリウレタンと、イソシアナト基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を持つポリウレタン(A)を合成する。なお、この化合物に含まれる(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基の一部であることが好ましい。
【0076】
イソシアナト基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されないが、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2‐(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1‐ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。また、イソシアナト基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物の市販品としては、例えば、昭和電工株式会社製のカレンズMOI(登録商標)やカレンズAOI(登録商標)などが例示できる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、ヒドロキシ基との反応性、光硬化性の点から、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。
【0077】
また、イソシアナト基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物に加えて、(メタ)アクリロイル基を有さず、イソシアナト基を1個有するアルキルイソシアネートを併用して、末端にヒドロキシ基を有するポリウレタンと反応させることで、(メタ)アクリロイル基の導入量を調整することができる。アルキルイソシアネートとしては、特に限定されないが、直鎖型、分岐型、脂環型のアルキルイソシアネート等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これにより、少なくともいずれかの末端に上記アルキルイソシアネート由来の構造を有するポリウレタンが生成する。この場合、ポリウレタン(A)には、少なくともいずれかの末端に(メタ)アクリロイル基を有さないポリウレタンが含まれることになる。そのため、この場合、ポリウレタン(A)には、1つの末端にのみ(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタンも含まれ得ることになる。
【0078】
数基準で、ポリウレタン(A)に含まれるポリウレタンの末端の90~100%に(メタ)アクリロイル基が導入されていることが好ましく、95~100%がより好ましく、100%がさらに好ましい。(メタ)アクリロイル基の導入量が、イソシアナト基に対して、数基準で90%以上であれば、粘着剤組成物を硬化して得られる粘着剤層の凝集力が十分に得られる。
【0079】
<2-3.表面保護シート用粘着剤組成物に含まれる各成分の混合方法>
粘着剤組成物は、ポリウレタン(A)と、多官能単量体(B)と、その他の単量体(C)と、光重合開始剤(D)と、イオン液体(E)と、必要に応じて添加される脂肪酸エステル、その他の添加剤、及び有機溶媒とを混合することで、製造される。混合方法は、特に限定されないが、例えば、ホモディスパー、パドル翼等の攪拌翼を取り付けた攪拌装置を用いて行うことができる。
【0080】
また、一度に全ての成分を加えて混合してもよく、成分ごとに複数回に分けて添加及び混合を繰り返してもよい。なお、常温において固体の成分がある場合は、溶媒に溶解させたもの、あるいは分散媒中に分散させたものとして添加する、あるいは、加熱して溶融させたものとして加えること等により、この成分が粘着剤組成物中に高い均一性で混合されやすくなる。
【0081】
<3.表面保護シート>
<3-1.表面保護シートの構成>
本実施形態にかかる表面保護シートは、基材の片面に、上記粘着剤組成物の硬化物を含む粘着剤層が形成されている。粘着剤層の厚みは、3~150μmであることが好ましく、5~130μmであることがより好ましく、10~100μmであることがさらに好ましい。粘着剤層の膜厚が3μm以上であれば粘着剤層の強度が十分であり、膜厚が150μm以下であれば粘着剤層の膜厚の制御が容易である。
さらに、被着体を衝撃から守る機能(耐衝撃性)を表面保護シートに付与させたい場合には、粘着剤層の膜厚は50μm以上であることが好ましい。
【0082】
粘着剤層に含まれる粘着剤組成物の硬化物のゲル分率は85~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、95~100質量%であることがさらに好ましい。ここで、ゲル分率とは、溶媒に対する抽出不溶分の質量分率であり、ここで溶媒は、粘着剤組成物の硬化物のうち、架橋されていない成分を溶解できるものを選ぶ。なお、ゲル分率の具体的な測定方法の例は、実施例において後述する。粘着剤組成物の硬化物のゲル分率は、85~100質量%であれば、表面保護シートをはがした場合に被着体へ粘着剤層の一部等が残る、いわゆる糊残りを抑制することができる。
【0083】
基材の材質は、表面保護シートの用途に応じて適宜選択可能であるが、例えば樹脂フィルムが挙げられる。表面保護シートが、例えば、製造工程における保護シートとして用いられ、被着体、すなわち製品の傷や異物の有無を検査する際に、保護シートがラミネートされた状態で行われる場合、基材は透明であることが好ましい。透明な基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、セルロース等が挙げられる。
【0084】
基材の厚さは、表面保護シートの用途に応じて適宜選択可能であり、特に限定されないが、樹脂フィルムである場合、基材の厚さはハンドリング性及び強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。また、樹脂フィルムの可撓性を考えると、基材の厚さは、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
【0085】
また、基材としては、帯電防止処理されているものが好ましく用いられる。基材に施される帯電防止処理は、特に限定されないが、基材の少なくとも片面に帯電防止層を設ける方法、基材に帯電防止剤を練り込む方法などを用いることができる。さらに、粘着剤層を形成する基材の面には、必要に応じて、酸処理、アルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、オゾン処理等の易接着処理がされていてもよい。
【0086】
表面保護シートには、粘着剤層を保護する目的で、粘着剤層の表面にセパレーターをラミネートすることが可能である。セパレーターの材料として、例えば、紙、プラスチックフィルムなどを用いることができるが、表面平滑性に優れる点からプラスチックフィルムが好適である。セパレーターとして用いるプラスチックフィルムは、上記した粘着剤層を保護し得るものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン等が挙げられる。
【0087】
<3-2.表面保護シートの製造方法>
本実施形態にかかる表面保護シートの製造方法は、例えば、基材シートに粘着剤組成物を塗布し、セパレーターをラミネートし、その後塗布した粘着剤組成物に紫外線を照射して光硬化させることにより得ることができる。
【0088】
基材に粘着剤組成物を塗布する方法は、特に限定されず、適宜選択可能である。例えば、基材に粘着剤組成物を塗布する方法として、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーター等の各種コーターを用いた方法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0089】
また、粘着剤組成物を光硬化させる際の、光源としてはブラックライト、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が挙げられる。光の照射強度としては粘着剤組成物を充分に硬化させることができればよく、例えば、50~3000mW/cm2であることが好ましい。なお、光の照射強度が弱いと硬化に時間がかかるため、生産性が低下する。光照射は透明であればセパレーター側、基材側のどちらからも可能である。
【0090】
<3-3.表面保護シートの用途及び求められる性能>
検査工程においては、製品または部品に保護シートがラミネートされた状態で、製品または部品の細かい異物や傷を十分に発見、あるいは検出できることが要求されることがある。また、保護シートは、スマートフォン、パソコン、テレビ等の液晶ディスプレイなどに用いられる偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、反射シート、輝度向上フィルム等の光学部品として用いられるプラスチックフィルムの表面を保護する目的で好適に用いられることもある。
【0091】
本実施形態にかかる表面保護シートが、これらような保護シートとして用いられる場合、表面保護シートは曇りが少ない、すなわちヘイズが低いことが求められる。その場合、表面保護シートのヘイズ値は1.5%以下あることが好ましく、1.3%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。表面保護シートのヘイズ値の具体的な測定方法は実施例において後述する。
【0092】
また、本実施形態にかかる表面保護シートが、上記のような保護シートとして用いられる場合、表面保護シートは輸送等の取扱い中に製品または部品から剥離しないようにするために、最低限の剥離強度が必要になる。一方で、表面保護シートを製品または部品から剥離する場合は、剥離する作業を容易にするため、あるいは剥離中に製品または部品を変形または破損させないために、剥離強度を低くする必要がある。これらの観点から、表面保護シートの剥離強度は、剥離速度が3.0m/分である場合、基材と粘着剤層の厚みにもよるが、粘着剤層が10~30μmであれば、1~30gf/25mmであることが好ましく、3~27gf/25mmであることがより好ましく、5~25gf/25mmであることがさらに好ましい。表面保護シートの剥離強度の具体的な測定方法は実施例において後述する。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、得られたポリウレタン(A)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(昭和電工株式会社製Shodex(登録商標) GPC-101、以下、GPCとする。)により測定されたポリスチレン換算の値である。GPCの測定条件は以下のとおりである。
カラム:昭和電工株式会社製LF-804
カラム温度:40℃
試料:ポリウレタン(A)の0.2質量%テトラヒドロフラン溶液流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI検出器(示差屈折率検出器)
【0094】
<ポリウレタン(A)の合成>
(A-1)
温度計、撹拌器、滴下ロート、乾燥管付き冷却管を備えた反応器に、ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物(デスモジュールW、住化コベストロウレタン製)を5.5kg(21mol)、及び水酸基価が56mgKOH/gのヒドロキシ基を末端に有するポリプロピレングリコール アクトコールD-2000(三井化学製、数平均分子量2000)を40.1kg(20mol)仕込んだ。その後、この反応器を60℃まで昇温して4時間反応させ、イソシアナト基を両末端に有するポリウレタンを得た。
【0095】
続いて、反応器に2-ヒドロキシエチルアクリレート232.2g(2mol)を加え、70℃まで昇温して2時間反応させ、アクリロイル基を末端に有するポリウレタン(A-1)を45.8kg得た。このポリウレタン(A-1)は、IRにより分析され、イソシアナト基由来のピークが消失したことが確認された。得られたポリウレタン(A-1)の重量平均分子量は、70,000であった。
IRでイソシアナト基由来のピークの消失が確認されたことから、イソシアナト基を両末端に有するポリウレタンの全ての末端に2-ヒドロキシエチルアクリレートが付加している。すなわち、数基準で、ポリウレタン(A-1)に含まれるポリウレタン分子の末端の100%にアクリロイル基が導入されている。
【0096】
(A-2)
ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物に代えてイソホロンジイソシアネート(デスモジュールI、住化コベストロウレタン製)を用いること以外はポリウレタン(A-1)の合成法と同様にして、アクリロイル基を両末端に有するポリウレタン(A-2)を得た。得られたポリウレタン(A-2)の重量平均分子量は、67,000であった。
【0097】
(A-3)
ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物を8mol、及び水酸基価が56mgKOH/gのヒドロキシ基を末端に有するポリプロピレングリコール アクトコールD-2000(三井化学製、数平均分子量2000)を7molに変えたこと以外はポリウレタン(A-1)の合成法と同様にして、アクリロイル基を両末端に有するポリウレタン(A-3)を得た。得られたポリウレタン(A-3)の重量平均分子量は、35,000であった。
【0098】
(A-4)
ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加物を4mol、水酸基価が56mgKOH/gのヒドロキシ基を末端に有するポリプロピレングリコール アクトコールD-2000(三井化学製)を3molに変えたこと以外はポリウレタン(A-1)の合成法と同様にして、アクリロイル基を末端に有するポリウレタン(A-4)を得た。得られたポリウレタン(A-4)の重量平均分子量は、12,000であった。
【0099】
(A-5)
2-ヒドロキシエチルアクリレート2molに代えて、2-ヒドロキシエチルアクリレート1.8molと1-オクタノール0.2molを用いること以外はポリウレタン(A-1)の合成法と同様にして、アクリロイル基を両末端または片末端に有するポリウレタンの混合物であるポリウレタン(A-5)を得た。得られたポリウレタン(A-5)の重量平均分子量は、69,000であった。
IRでイソシアナト基由来のピークの消失が確認されたことから、イソシアナト基を両末端に有するポリウレタンの全ての末端に2-ヒドロキシエチルアクリレートもしくは1-オクタノールが付加している。すなわち、数基準で、ポリウレタン(A-5)に含まれるポリウレタン分子の末端の90%にアクリロイル基が導入されている。
この時、ポリウレタン(A-5)に含まれるポリウレタン(a1)は数基準でポリウレタン(A)の80%、ポリウレタン(a2)は数基準でポリウレタン(A)の20%である。
【0100】
<粘着剤組成物の調製>
ポリウレタン樹脂(A)、多官能単量体(B)、その他の単量体(C)、光重合開始剤(D)、イオン液体(E)、及び添加剤を、表1~2に記載の組成で配合し、25℃でディスパーを用いて混合し、実施例1~15、比較例1~4にかかる粘着剤組成物を調製した。
【0101】
<表面保護シートの作製>
実施例1~15及び比較例1~4について同じ方法で、片面に光学用PETフィルムの基材を有する表面保護シートを作製した。まず、調整した粘着剤組成物を、アプリケーターを用いて厚さ75μmの光学用PETフィルム(東洋紡株式会社製A4300)上に塗布し、塗布された粘着剤組成物の上から、セパレーターとして厚さ75μmの剥離PETフィルム(東洋紡株式会社製E7006)で覆った。次に、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製、UV照射装置3kW、高圧水銀ランプ)を用い、剥離PETフィルムで覆われたシートを、剥離PETフィルム側の面から紫外線を照射して粘着剤組成物を光硬化させた。紫外線の照射距離は25cm、ランプ移動速度は1.0m/分、照射量は1000mJ/cm2である。硬化後の粘着剤層の厚さはダイヤルゲージを用いて、セパレーターを剥がした後の表面保護シートの厚さを測定した後、この測定値から基材の厚さ75μmを引いて算出した。ダイヤルゲージの測定面は、直径5mmの円形の平面で、測定力は0.8Nとした。実施例1~15、比較例1~4のいずれにおいても20μmであった。
【0102】
【0103】
【0104】
表1と表2において各成分の表記意味は以下に示す。
TMPTA: トリメチロールプロパントリアクリレート
EHA: 2‐エチルヘキシルアクリレート
IOA: イソオクチルアクリレート
ISTA: イソステアリルアクリレート
IBOA: イソボロニルアクリレート
ACMO: アクリロイルモルホリン
I-184:イルガキュア184(1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製)
エレクセルAS-110: 1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(第一工業製薬(株)製)
エレクセルAS-804: 1-オクチル-4-メチルピリジニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド(第一工業製薬(株)製)
エキセパールIPM: ミリスチン酸イソプロピル(花王(株)製)
【0105】
<粘着剤組成物及び表面保護シートの評価>
実施例1~15及び比較例1~4にかかる粘着剤組成物及び表面保護シートについて、透明性(ヘイズ値)、剥離強度、ラミネート性(濡れ性)、剥離帯電性、被着体への糊残りを以下に記載する方法により評価した。結果を表1~2に示した。
【0106】
(ヘイズ値)
実施例1~15及び比較例1~4のそれぞれで作製したセパレーター付表面保護シートを50mm×50mmの大きさに切り取り、剥離PETフィルムを剥がした。その後、露出した粘着剤層の全面を、ガラス板にラミネートして、質量2kg(荷重19.6N)のゴムローラー(直径:85mm、幅:50mm)を1往復させて、測定用サンプルを作製した。この測定用サンプルについてヘイズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、NM-150)を用いてヘイズ値の測定を行った。ヘイズ値(%)は拡散透過率を全光線透過率で除し、100を乗じて算出した。なお、測定は同じサンプルで3箇所行い、それらの平均値をヘイズ値とした。
【0107】
(剥離強度)
実施例1~15及び比較例1~4のそれぞれで作製したセパレーター付表面保護シートを25mm×150mmの大きさに切り取り、剥離PETフィルムを剥がした。その後、露出した粘着剤層の全面を、ガラス板にラミネートして、質量2kg(荷重19.6N)のゴムローラー(直径:85mm、幅:50mm)を1往復させて、測定用サンプルを作製した。
得られた測定用サンプルを、温度23℃及び相対湿度50%の環境下に1時間放置した。その後、高速剥離試験機(協和界面科学株式会社製、軽荷重タイプ粘着・皮膜剥離解析装置VPA-3)により、JIS K 6854-2に準じて、剥離速度0.3m/分、及び3.0m/分で180°方向の引張試験を行って、表面保護シートのガラス板に対する剥離強度(gf/25mm)を測定した。
【0108】
(ラミネート性)
図1は、表面保護シート10のラミネート性評価方法を示した平面図であり、
図2は、
図1におけるA-A断面図である。セパレーター付表面保護シート10を20mm×100mmの大きさに切り取り、剥離PETフィルムを剥がす。次に、表面保護シート10の長手方向の一端から15mmまでの範囲で粘着剤層12をガラス板30に貼り合わせ、粘着部分をガラス板30に固定し、
図2に示すように、表面保護シート10の他端を持ち上げる。粘着部分の固定方法としては、
図1に示すように表面保護シート10の上記一端から15mmまでの範囲で表面保護シート10の上面を、かつ表面保護シート10の幅方向の両方の外側においてはガラス板を覆うようにセロハンテープ20が貼り付けられる。
【0109】
この状態から、表面保護シート10の他端を解放し、表面保護シート10の自重で粘着剤層全体がガラス板30に密着するまでの時間を測定し、実施例1~15及び比較例1~4にかかる表面保護シート10のラミネート性を下記基準で評価した。
(ラミネート性の評価基準)
◎:密着するまで5秒未満
○:密着するまで5秒以上、10秒未満
△:密着するまで10秒以上、15秒未満
×:密着するまで15秒以上、または密着しない
【0110】
(剥離帯電性の評価(表面抵抗率の測定))
実施例1~15及び比較例1~4のそれぞれで作製したセパレーター付表面保護シートを縦120mm、横120mmの大きさに切り取り、温度23℃、相対湿度(RH)50%の環境下に3時間放置して調湿した。その後、剥離PETフィルムを剥がして粘着剤層を露出させ、印加電圧100V×60秒の条件で、高抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、ハイレスタ-UX)を使用して、粘着剤層側の表面抵抗率を測定した。そして、以下の基準で評価した。
【0111】
評価基準
◎:表面抵抗率が1×1012Ω/□未満
○:表面抵抗率が1×1012Ω/□以上であり5×1012Ω/□未満△:表面抵抗率が5×1012Ω/□以上であり1×1013Ω/□未満×:表面抵抗率が1×1013Ω/□以上
【0112】
(糊残り)
実施例1~15及び比較例1~4のそれぞれで作製したセパレーター付表面保護シートを50mm×50mmの大きさに切り取り、剥離PETフィルムを剥がした。次に露出した粘着面をガラス板にラミネートし、これをサンプルとした。このサンプルを85℃、相対湿度85%で3日間放置した後、ガラス板から表面保護シートを剥がし、ガラス板の表面への糊残りを目視で確認し、下記基準で評価した。
(糊残りの評価基準)
○:貼り合せ前と比較してガラス板の表面が変化なし。
△:ガラス板の表面に糊残りがわずかに確認される。
×:ガラス板の表面に糊残りがはっきりと確認される。
【0113】
<実施例及び比較例の評価結果>
以上の実施例及び比較例によれば、ポリウレタン(A)として、重量平均分子量が12,000のポリウレタン(A-4)を用いた比較例1の組成物はラミネート性が不十分で、糊残りも見られた。多官能単量体(B)を含まない比較例2の組成物は、剥離強度が高すぎ、ラミネート性も不十分であった。多官能単量体(B)を30質量%含んだ比較例3の組成物はヘイズ値が1.7と高いものであった。また、イオン液体(E)を含まない比較例4の組成物は表面抵抗率がオーバーレンジとなり、剥離帯電性に劣るものであった。
【符号の説明】
【0114】
10…表面保護シート
12…粘着剤層
14…基材
20…セロハンテープ
30…ガラス板