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特許7380579全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20231108BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231108BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0562
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020549170
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037130
(87)【国際公開番号】W WO2020066952
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018185737
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079786(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/106952(WO,A1)
【文献】特開2013-008611(JP,A)
【文献】特開2014-060149(JP,A)
【文献】特開2012-186152(JP,A)
【文献】特開2003-123766(JP,A)
【文献】特開2014-056813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体と、前記アクリル系重合体に対して500質量ppm以上20000質量ppm以下のリン酸エステル系乳化剤を含む、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記アクリル系重合体が、アクリル酸エチル単位とアクリル酸n-ブチル単位の双方を含む、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記アクリル系重合体が乳化重合体である、請求項1または2に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
更に有機溶媒を含む、請求項1~3の何れかに記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項5】
固体電解質と、請求項4に記載の全固体二次電池用バインダー組成物とを含む、全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項6】
前記固体電解質が無機固体電解質である、請求項5に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項7】
更に電極活物質を含む、請求項5または6に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項8】
請求項5~7の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した、固体電解質含有層。
【請求項9】
請求項8に記載の固体電解質含有層を備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。そして、用途の広がりに伴い、二次電池には安全性の更なる向上が要求されている。
【0003】
そこで、安全性の高い二次電池として、引火性が高くて漏洩時の発火危険性が高い有機溶媒電解質に代えて固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。
【0004】
ここで、全固体二次電池は、正極、負極、および、正極と負極との間に位置する固体電解質層を有している。そして、全固体二次電池の電極(正極、負極)は、例えば、電極活物質(正極活物質、負極活物質)と、バインダーと、固体電解質とを含むスラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させて集電体上に電極合材層(正極合材層、負極合材層)を設けることにより形成されている。また、全固体二次電池の固体電解質層は、例えば、バインダーと、固体電解質とを含むスラリー組成物を電極または離型基材の上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成されている。
【0005】
そして、固体電解質層の形成に用いるバインダーとしては、アクリル系重合体が従来から使用されている。例えば、特許文献1では、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの存在下、水中で単量体を乳化重合してアクリル系重合体の水分散液を得て、有機溶媒に溶媒置換することにより、アクリル系重合体と、有機溶媒を含むバインダー組成物を調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/152262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特に近年、例えば電気自動車などの分野において、全固体二次電池は高温条件下(例えば、80℃以上)に曝されることが多く、高温条件下でのサイクル特性(以下、「高温サイクル特性」と称する。)を高めるという課題があった。即ち、アクリル系重合体を含むバインダー組成物を用いて、固体電解質層や電極合材層等の固体電解質を含有する層(以下、「固体電解質含有層」と称する。)を形成し、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に確保することが求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な、全固体二次電池用バインダー組成物および全固体二次電池用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層、および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、アクリル系重合体と、所定量のリン酸エステル系乳化剤とを含むバインダー組成物を用いて調製されるスラリー組成物によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、アクリル系重合体と、前記アクリル系重合体に対して500質量ppm以上20000質量ppm以下のリン酸エステル系乳化剤を含むことを特徴とする。このように、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤とを含み、リン酸エステル系乳化剤のアクリル系重合体に対する量が上述した範囲内の割合であるバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて固体電解質含有層を形成すれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0011】
なお、本発明において、「アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上の割合で含む重合体を意味する。
ここで、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
そして、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
加えて、本発明において、重合体が、当該重合体を構成する各繰り返し単位(単量体単位)を含有する割合は、1H-NMRおよび13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
また、本発明において、「アクリル系重合体」に対する「リン酸エステル系乳化剤」の含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により特定することができる。
【0012】
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記アクリル系重合体が、アクリル酸エチル単位とアクリル酸n-ブチル単位の双方を含むことが好ましい。アクリル系重合体として、アクリル酸エチル単位とアクリル酸n-ブチル単位の双方を含む重合体を用いれば、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させることができる。
【0013】
なお、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、アクリル系重合体として乳化重合体を用いることができる。
そして、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、更に有機溶媒を含むことができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した有機溶媒を含有する全固体二次電池用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、固体電解質と、有機溶媒を含有するバインダー組成物とを含むスラリー組成物を用いて固体電解質含有層を形成すれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0015】
ここで、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記固体電解質として無機固体電解質を含むことができる。
【0016】
そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、更に電極活物質を含むことができる。電極活物質を含有する全固体二次電池用スラリー組成物を使用すれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る電極合材層を良好に形成することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の固体電解質含有層は、上述した全固体二次電池用スラリー組成物の何れかを用いて形成したものであることを特徴とする。上述した全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質含有層は、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0018】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池は、上述した固体電解質含有層を備えることを特徴とする。上述した固体電解質層を使用すれば、優れた高温サイクル特性を発揮し得る全固体二次電池が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な、全固体二次電池用バインダー組成物および全固体二次電池用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層、および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を調製する際に用いられる。そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、全固体リチウムイオン二次電池等の全固体二次電池において用いられる電極合材層や固体電解質層などの固体電解質含有層を形成する際に用いられる。また、本発明の全固体二次電池は、正極の正極合材層、負極の負極合材層および固体電解質層からなる群より選択される少なくとも一層が本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成された本発明の固体電解質含有層よりなる。
【0021】
(全固体二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤とを含み、任意に、有機溶媒などのその他の成分を更に含有しうる。また、本発明のバインダー組成物は、リン酸エステル系乳化剤の含有量が、アクリル系重合体に対して500質量ppm以上20000質量ppm以下であることを必要とする。
【0022】
そして、本発明のバインダー組成物を用いて調製されるスラリー組成物によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成することができる。
【0023】
<アクリル系重合体>
アクリル系重合体は、バインダー組成物を含むスラリー組成物から形成される固体電解質含有層において、バインダーとして機能する成分である。なお、本発明のバインダー組成物は、1種のアクリル系重合体を含有していてもよいし、2種以上のアクリル系重合体を含有していてもよい。
【0024】
<<組成>>
ここで、アクリル系重合体は、上述した通り、繰り返し単位として、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上の割合で含む重合体である。なお、アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称する。)を含んでいてもよい。
【0025】
[(メタ)アクリル酸エステル単量体単位]
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素原子数1以上8以下のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。そして、これらの中でも、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エチルおよび(メタ)アクリル酸n-ブチルが好ましく、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n-ブチルがより好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素原子数2以上8以下のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4-メトキシブチルなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。そして、これらの中でも、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させる観点から、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチルおよび(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2-エトキシエチルおよびアクリル酸2-メトキシエチルが特に好ましい。
【0028】
また、アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体の結着性を確保する観点から、50質量%以上であることが必要であり、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。一方、アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合の上限は、特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
そして、アクリル系重合体としては、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を30質量%以上100質量%以下含む重合体を用いることが好ましい。
更に、アクリル系重合体は、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させる観点から、アクリル酸エチル単位とアクリル酸n-ブチル単位の双方を含むことが好ましい。
【0029】
[その他の繰り返し単位]
その他の繰り返し単位としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位であれば特に限定されないが、芳香族ビニル単量体単位、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、アクリルアミド系単量体単位などが挙げられる。なお、その他の繰り返し単位を形成しうる単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0030】
芳香族ビニル単量体単位を形成しうる芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼンが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0031】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成しうるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0032】
アクリルアミド系単量体単位を形成しうるアクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0033】
上述した芳香族ビニル単量体、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、アクリルアミド系単量体以外にも、エチレン、酢酸ビニル、プロピレン、ブタジエン、イソプレンなどのオレフィン系単量体を、その他の繰り返し単位の形成に用いることもできる。
【0034】
そしてこれらの中でも、その他の繰り返し単位を形成しうる単量体としては、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレンおよび酢酸ビニルが好ましく、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびエチレンがより好ましい。
【0035】
アクリル系重合体におけるその他の繰り返し単位の含有割合は、50質量%以下であり、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0036】
<<調製方法>>
上述した単量体を重合してアクリル系重合体を調製する方法は、特に限定されないが、「バインダー組成物の製造方法」の項で後述する乳化重合により調製することが好ましい。即ち、アクリル系重合体は、乳化重合により調製される重合体(乳化重合体)であることが好ましい。
【0037】
<リン酸エステル系乳化剤>
リン酸エステル系乳化剤は、特に限定されないが、通常、上述した単量体を用いてアクリル系重合体を調製する際に、重合安定性確保などを目的として重合反応系に添加され、得られるバインダー組成物中に残留する。
【0038】
<<種類>>
ここで、リン酸エステル系乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルリン酸エステル塩や、アルキルエーテルリン酸エステル塩が挙げられる。
【0039】
アルキルリン酸エステル塩の例としては、モノステアリルリン酸エステルカリウム、ジステアリルリン酸エステルカリウム、モノベヘニルリン酸エステルカリウム、ジベヘニルリン酸エステルカリウム、モノセチルリン酸エステルカリウム、ジセチルリン酸エステルカリウム、モノラウリルリン酸エステルカリウム、ジラウリルリン酸エステルカリウム、モノオクチルリン酸エステルカリウム、ジオクチルリン酸エステルカリウム、モノステアリルリン酸エステルナトリウム、ジステアリルリン酸エステルナトリウム、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン、ジステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン、モノステアリルリン酸エステルジエタノールアミン、ジステアリルリン酸エステルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0040】
アルキルエーテルリン酸エステル塩の例としては、モノ(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)リン酸エステルカリウム、ジ(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)リン酸エステルカリウム、モノ(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)リン酸エステルカリウム、ジ(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)リン酸エステルカリウム、モノ(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)リン酸エステルナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)リン酸エステルナトリウム、モノ(ポリオキシプロピレンステアリルエーテル)リン酸エステルカリウム、ジ(ポリオキシプロピレンステアリルエーテル)リン酸エステルカリウムなどが挙げられる。
【0041】
上記したアルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩は単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
そして、本発明のバインダー組成物に含まれるリン酸エステル系乳化剤の含有量は、アクリル系重合体に対して、500質量ppm以上20000質量ppm以下であることが必要であり、800質量ppm以上であることが好ましく、15000質量ppm以下であることが好ましく、10000質量ppm以下であることがより好ましい。
【0043】
ここで、上述した通り、リン酸エステル系乳化剤は、通常、アクリル系重合体を調製する際に、重合安定性確保などを目的として重合反応系に添加され、かかる場合に、得られるバインダー組成物(特には、アクリル系重合体)中に不可避的に残留する。本発明者によれば、このリン酸エステル系乳化剤の量が過多であると、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に確保できないことが明らかとなった。すなわち、バインダー組成物に含まれるリン酸エステル系乳化剤の量が、アクリル系重合体に対し20000質量ppmを超えると、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させることができない。一方で、バインダー組成物中のリン酸エステル系乳化剤の量を低減すべく、リン酸エステル系乳化剤の使用量を低減すると、重合安定性が確保できず、単量体の重合転化率の低下や、重合体の反応容器や攪拌羽への付着が生じ、アクリル系重合体の回収率が過度に低下する。また、バインダー組成物中のリン酸エステル系乳化剤の量を低減すべく、得られるアクリル系重合体を過度に洗浄することも製造上の手間である。したがって、バインダー組成物の製造効率を確保する観点から、バインダー組成物に含まれるリン酸エステル系乳化剤の含有量は500質量ppm以上であることが必要である。
【0044】
なお、バインダー組成物中のリン酸エステル系乳化剤の含有量(残留量)は、アクリル系重合体の調製に用いるリン酸エステル系乳化剤の種類、重合反応系に添加するリン酸エステル系乳化剤の添加量、およびアクリル系重合体(バインダー組成物)の洗浄条件を変更することにより調整することができる。
なお、本発明のバインダー組成物に用いるリン酸エステル系乳化剤は、リン酸エステル系乳化剤以外の乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど)に比して、後述する水洗による除去が容易であるとの利点がある。
【0045】
<<その他の成分>>
バインダー組成物が、上述したアクリル系重合体およびリン酸エステル系乳化剤以外に任意に含みうる成分としては、特に限定されない。
【0046】
例えば、バインダー組成物は、その他の成分として、有機溶媒を含むことができる。ここで、有機溶媒としては、例えば、ヘキサンなどの鎖状脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、n-ブチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
中でも、固体電解質の劣化を抑制し、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を得る観点からは、有機溶媒としては、非極性有機溶媒を用いることが好ましく、ヘキサンまたはキシレンを用いることがより好ましい。更に、全固体二次電池の高温サイクル特性を一層向上させる観点から、キシレンが特に好ましい。
上述した有機溶媒は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
また、バインダー組成物には、その他の成分として、「バインダー組成物の製造方法」の項で後述するバインダー組成物の調製に用いる成分が残留していてもよく、「全固体二次電池用スラリー組成物」の項で後述する任意の成分が添加されていてもよい。
【0048】
ここで、バインダー組成物の調製に用いる成分としては、例えば凝固剤が挙げられる。なお、本発明において、「凝固剤」とは、水中に分散して存在するアクリル系重合体を、凝集させて凝固するために添加する物質で、水中に分散したアクリル系重合体の粒子を、常温域(例えば、15℃~30℃)で、瞬時に不可逆的に凝固させる物質を指す。
凝固剤は、例えば後述する「バインダー組成物の製造方法」を採用した際に、得られるバインダー組成物(特には、アクリル系重合体)中に不可避的に残留する。本発明者によれば、この凝固剤の量が過多であると、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に確保できないことが明らかとなった。一方で、凝固剤の量を低減すべく、水分散液中のアクリル系重合体を凝固させるための凝固剤の添加量を低減したり、凝固後のアクリル系重合体を過度に洗浄したりすると、アクリル系重合体の回収率が過度に低下する等、バインダー組成物の製造効率が損なわれる。
上述した観点から、本発明のバインダー組成物に含まれる凝固剤の含有量は、アクリル系重合体に対して、500質量ppm以上であることが好ましく、800質量ppm以上であることがより好ましく、5000質量ppm以下であることが好ましく、4500質量ppm以下であることがより好ましく、4000質量ppm以下であることが更に好ましく、3500質量ppm以下であることが特に好ましい。
なお、本発明において、「アクリル系重合体」に対する「凝固剤」の含有量は、元素分析により特定することができる。
また、バインダー組成物中の凝固剤の含有量(残留量)は、アクリル系重合体の水分散液に添加する凝固剤の添加量、および凝固後のアクリル系重合体(バインダー組成物)の洗浄条件を変更することにより調整することができる。
【0049】
そして、具体的な凝固剤としては、特に限定されないが、例えば、1価以上3価以下の金属塩が挙げられる。ここで、1価以上3価以下の金属塩は、水に溶解させた場合に1価以上3価以下の金属イオンとなる金属を含む塩であり、特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸および硫酸等から選ばれる無機酸や酢酸等の有機酸と、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムおよびスズ等から選ばれる金属との塩が挙げられる。また、これらの金属の水酸化物なども用いることもできる。
【0050】
1価以上3価以下の金属塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化チタン、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化スズなどの金属塩化物;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛、硝酸チタン、硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウム、硝酸スズなどの金属硝酸塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸チタン、硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム、硫酸スズなどの金属硫酸塩;等が挙げられる。これらの中でも、バインダー組成物の製造効率を確保しつつ、全固体二次電池の高温サイクル特性を十分に向上させる観点から、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、金属硫酸塩が好ましく、金属硫酸塩がより好ましく、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが更に好ましい。なお、これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0051】
<バインダー組成物の製造方法>
そして、上述した本発明のバインダー組成物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程:
リン酸エステル系乳化剤の存在下で、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含有する単量体を乳化重合することで、アクリル系重合体とリン酸エステル系乳化剤を含む乳化重合液を得る工程(乳化重合工程)、
前記乳化重合液に凝固剤を添加することでアクリル系重合体を凝固させて、アクリル系重合体とリン酸エステル系乳化剤を含む含水クラムを得る工程(凝固工程)、
前記含水クラムを洗浄する工程(洗浄工程)、および
前記洗浄後の含水クラムを乾燥する工程(乾燥工程)、
を経て製造することが好ましい。なお、上述した乳化重合工程、凝固工程、洗浄工程、および乾燥工程を経るバインダー組成物の製造方法は、乳化重合工程、凝固工程、洗浄工程、および乾燥工程以外の工程(以下、「その他の工程」と称する。)を備えていてもよい。
【0052】
<<乳化重合工程>>
乳化重合工程においては、リン酸エステル系乳化剤の存在下、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体などの単量体を水中で乳化重合して、アクリル系重合体とリン酸エステル系乳化剤を含む乳化重合液(アクリル系重合体の水分散液)を得る。ここで、乳化重合工程における乳化重合法としては、リン酸エステル系乳化剤の存在下、(メタ)アクリル酸エステル単量体などの単量体が重合可能であれば特に限定されず、リン酸エステル系乳化剤に加えて、重合開始剤、重合停止剤などを用いた任意の方法を用いることができる。
【0053】
リン酸エステル系乳化剤としては、上述したアルキルリン酸エステル塩および/またはアルキルエーテルリン酸エステル塩を好適に用いることができる。
【0054】
ここで、リン酸エステル系乳化剤の使用量は、重合に用いる全単量体100質量部に対する、用いるリン酸エステル系乳化剤の総量で、好ましくは0.1質量部以上7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上4質量部以下である。
【0055】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などを用いることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、重合に用いる全単量体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上1.0質量部以下である。
【0056】
また、重合開始剤としての有機過酸化物および無機過酸化物は、還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することが好ましい。組み合わせて用いる還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ヘキサメチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸(塩);エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウムなどのエリソルビン酸(塩);糖類;ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムの亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウムなどのピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩;亜燐酸、亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウム、亜燐酸水素ナトリウム、亜燐酸水素カリウムの亜燐酸(塩);ピロ亜燐酸、ピロ亜燐酸ナトリウム、ピロ亜燐酸カリウム、ピロ亜燐酸水素ナトリウム、ピロ亜燐酸水素カリウムなどのピロ亜燐酸(塩);ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどが挙げられる。これらの還元剤は単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、重合開始剤100質量部に対して、好ましくは0.0003質量部以上0.4質量部以下である。
なお、本発明において、「酸(塩)」とは、酸および/または当該酸の塩を意味する。
【0057】
重合停止剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノンなどが挙げられる。重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、重合に用いる全単量体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上2質量部以下である。
【0058】
水の使用量は、特に限定されないが、重合に用いる全単量体100質量部に対して、好ましくは80質量部以上500質量部以下、より好ましくは100質量部以上300質量部以下である。
【0059】
なお、乳化重合に際しては、必要に応じて、分子量調整剤、粒径調整剤、キレート化剤、酸素捕捉剤等の重合副資材を使用することもできる。これら重合副資材としては、何れも既知のものを使用することができる。
【0060】
ここで、乳化重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法で行ってもよいが、半回分式が好ましい。具体的には、重合開始剤および還元剤を含む反応系中に、重合に用いる単量体を、重合反応開始から任意の時間経過まで、重合反応系に連続的に滴下しながら重合反応を行うなど、重合に用いる単量体、重合開始剤、および還元剤のうち少なくとも1種については、重合反応開始から任意の時間経過まで、重合反応系に連続的に滴下しながら重合反応を行うことが好ましい。そして、重合に用いる単量体、重合開始剤、および還元剤の全てについて、重合反応開始から任意の時間経過まで、重合反応系に連続的に滴下しながら重合反応を行うことがより好ましい。これらを連続的に滴下しながら重合反応を行うことにより、乳化重合を安定的に行うことができ、これにより、重合反応率を向上させることができる。なお、重合は通常0℃以上70℃以下、好ましくは5℃以上50℃以下の温度範囲で行なわれる。
【0061】
また、重合に用いる単量体を連続的に滴下しながら重合反応を行う場合には、重合に用いる単量体を、乳化剤および水と混合し、単量体乳化液の状態とし、単量体乳化液の状態で連続的に滴下することが好ましい。単量体乳化液の調製方法としては特に限定されず、重合に用いる単量体の全量と、乳化剤の全量と、水とをホモミキサーやディスクタービンなどの攪拌機などを用いて攪拌する方法などが挙げられる。単量体乳化液中の水の使用量は、重合に用いる全単量体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上70質量部以下、より好ましくは20質量部以上50質量部以下である。
【0062】
また、重合に用いる単量体、重合開始剤、および還元剤の全てについて、重合反応開始から任意の時間経過まで、重合反応系に連続的に滴下しながら重合反応を行う場合には、これらは別々の滴下装置を用いて重合系に滴下してもよいし、あるいは、少なくとも重合開始剤と還元剤とについては、予め混合し、必要に応じて水溶液の状態として同じ滴下装置から重合系に滴下してもよい。滴下終了後は、さらに重合反応率向上のため、任意の時間反応を継続してもよい。
【0063】
<<凝固工程>>
凝固工程では、上述の乳化重合工程において得られた乳化重合液に凝固剤を添加することでアクリル系重合体を凝固させ、含水クラム(少なくとも、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤と、水とを含む凝固物)を得る。
【0064】
凝固剤としては、上述した1価以上3価以下の金属塩を好適に用いることができる。凝固剤の使用量は、最終的に得られるアクリル系重合体中における凝固剤の含有量(残留量)を上記範囲とするという観点より、乳化重合液中のアクリル系重合体100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上15質量部以下である。
【0065】
また、凝固温度は特に限定されないが、好ましくは50℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下である。
【0066】
<<洗浄工程>>
洗浄工程では、上述の凝固工程において得られた含水クラムを洗浄する。含水クラムを洗浄することにより、アクリル系重合体以外の成分(リン酸エステル系乳化剤、凝固剤等)の残留量を低減することができる。
【0067】
洗浄方法としては、特に限定されないが、洗浄液として水を使用し、含水クラムとともに添加した水を混合することにより水洗を行う方法が挙げられる。水洗時の温度は、特に限定されないが、好ましくは5℃以上60℃以下、より好ましくは10℃以上50℃以下である。また、混合時間は、特に限定されないが、好ましくは1分以上60分以下、より好ましくは2分以上30分以下である。
【0068】
そして、水洗時に、含水クラムに対して添加する水の量としては、特に限定されないが、最終的に得られるバインダー組成物中のアクリル系重合体以外の成分の含有量(残留量)を効果的に低減することができるという観点より、含水クラム中に含まれるアクリル系重合体100質量部に対して、好ましくは150質量部以上9,800質量部以下、より好ましくは150質量部以上1,800質量部以下である。
【0069】
水洗回数としては、特に限定されず、1回でもよいが、最終的に得られるバインダー組成物中のアクリル系重合体以外の成分の含有量(残留量)を低減するという観点より、好ましくは2回以上10回以下、より好ましくは3回以上8回以下である。なお、最終的に得られるバインダー組成物中のアクリル系重合体以外の成分の含有量(残留量)を低減するという観点からは、水洗回数が多い方が望ましいが、上記範囲を超えて洗浄を行っても、アクリル系重合体以外の成分の除去効果が小さい一方で、工程数が増加してしまうことにより製造効率の低下の影響が大きくなってしまう。従って、水洗回数は上記範囲とすることが好ましい。
また、洗浄工程においては、水洗を行った後、さらに洗浄液として酸を使用した酸洗浄を行ってもよい。
【0070】
<<乾燥工程>>
乾燥工程においては、上述の洗浄工程を経た含水クラムを乾燥して、少なくともアクリル系重合体とリン酸エステル系乳化剤を含む凝固乾燥物を得る。
乾燥工程で使用可能な乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、スクリュー型押出機、ニーダー型乾燥機、エキスパンダー乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機などの乾燥機を用いて、乾燥させることができる。また、これらを組み合わせた乾燥方法を用いてもよい。さらに、乾燥工程により乾燥を行う前に、必要に応じて、含水クラムに対し、回転式スクリーン、振動スクリーンなどの篩;遠心脱水機;などを用いたろ別を行ってもよい。
ここで、乾燥工程における乾燥温度は、特に限定されず、乾燥に用いる乾燥機に応じて異なるが、たとえば、熱風乾燥機を用いる場合には、乾燥温度は80℃以上200℃以下とすることが好ましく、100℃以上170℃以下とすることがより好ましい。
【0071】
<<その他の工程>>
上述したバインダー組成物の製造方法が含み得るその他の工程としては、特に限定されない。
例えば、上述した乾燥工程で得られた凝固乾燥物をそのままバインダー組成物としてもよいが、乾燥工程後に、凝固乾燥物に有機溶媒を添加する工程(有機溶媒添加工程)を実施し、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤と、有機溶媒を含む液状組成物をバインダー組成物としてもよい。
【0072】
(全固体二次電池用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、固体電解質と、上述した有機溶媒を含有するバインダー組成物とを含む。換言すると、本発明のスラリー組成物は、少なくとも、固体電解質と、上述したアクリル系重合体と、上述したリン酸エステル系乳化剤とが有機溶媒中に分散および/または溶解してなる組成物である。
そして、本発明のスラリー組成物は、上述した本発明のバインダー組成物を用いて調製されているため、当該スラリー組成物によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成することができる。
【0073】
なお、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、電極合材層の形成に用いられる場合(即ち、全固体二次電池電極用スラリー組成物である場合)には、通常、少なくとも、固体電解質と、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤と、有機溶媒とを含む。
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、固体電解質層の形成に用いられる場合(即ち、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物である場合)には、通常、電極活物質を含有せず、少なくとも、固体電解質と、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤と、有機溶媒とを含む。
【0074】
<固体電解質>
固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質の何れを使用することもできるが、無機固体電解質を好適に用いることができる。
【0075】
無機固体電解質としては、特に限定されることなく、結晶性の無機イオン伝導体、非晶性の無機イオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、無機固体電解質としては、通常は、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、非晶性の無機リチウムイオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。中でも、高温サイクル特性などの電池性能を高める観点からは、無機固体電解質は、硫化物系無機固体電解質を含むことが好ましい。
なお、以下では、一例として全固体二次電池用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0076】
そして、結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li3N、LISICON(Li14Zn(GeO44)、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO3、ガーネット型Li7La3Zr210、LIPON(Li3+yPO4-xx)、Thio-LISICON(Li3.25Ge0.250.754)などが挙げられる。
上述した結晶性の無機リチウムイオン伝導体は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0077】
また、非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、硫黄原子を含有し、かつ、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、ガラスLi-Si-S-O、Li-P-S、および、Li2Sと周期表第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるもの、などが挙げられる。
ここで、上記第13族~第15族の元素としては、例えばAl、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族~第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al23、SiS2、GeS2、P23、P25、As23、Sb23等を挙げることができる。更に、原料組成物を用いて非晶性の無機リチウムイオン伝導体を合成する方法としては、例えば、メカニカルミリング法や溶融急冷法などの非晶質化法を挙げることができる。そして、Li2Sと周期表第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2またはLi2S-Al23が好ましく、Li2S-P25がより好ましい。
上述した非晶性の無機リチウムイオン伝導体は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
上述した中でも、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質としては、高温サイクル特性などの電池性能を高める観点から、非晶性の無機リチウムイオン伝導体が好ましく、LiおよびPを含む非晶性の硫化物がより好ましい。LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、リチウムイオン伝導性が高いため、無機固体電解質として用いることで電池の内部抵抗を低下させることができると共に、出力特性を向上させることができる。
【0079】
なお、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、Li2SとP25とからなる硫化物ガラスであることがより好ましく、Li2S:P25のモル比が65:35~85:15であるLi2SとP25との混合原料から製造された硫化物ガラスであることが特に好ましい。また、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、Li2S:P25のモル比が65:35~85:15のLi2SとP25との混合原料をメカノケミカル法によって反応させて得られる硫化物ガラスセラミックスであることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持する観点からは、混合原料は、Li2S:P25のモル比が68:32~80:20であることが好ましい。
【0080】
なお、無機固体電解質は、イオン伝導性を低下させない程度において、上記Li2S、P25の他に出発原料としてAl23、B23およびSiS2からなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含んでいてもよい。かかる硫化物を加えると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、無機固体電解質は、Li2SおよびP25に加え、Li3PO4、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3BO3およびLi3AlO3からなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含んでいてもよい。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
【0081】
<アクリル系重合体>
アクリル系重合体は、バインダー組成物に含まれていたものであり、具体的には、上述した「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示したものを用いることができる。
なお、スラリー組成物中において、バインダーは、有機溶媒中に溶解していてもよいし、有機溶媒には溶解せずに例えば粒子状などの形状で分散していてもよい。
【0082】
ここで、全固体二次電池用スラリー組成物に含まれるアクリル系重合体の量は、特に限定されることなく、固体電解質100質量部当たり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましい。アクリル系重合体の量が上記下限値以上であれば、固体電解質含有層を良好に形成することができる。また、アクリル系重合体の量が上記上限値以下であれば、固体電解質含有層のイオン伝導性が低下するのを抑制することができる。
【0083】
<リン酸エステル系乳化剤>
リン酸エステル系乳化剤は、バインダー組成物に含まれていたものであり、具体的には、上述した「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示したものを用いることができる。
なお、リン酸エステル系乳化剤は、上述の通りバインダー組成物に由来するものであるため、本発明のスラリー組成物中におけるアクリル系重合体に対するリン酸エステル系乳化剤の含有量は、上述した本発明のバインダー組成物中におけるアクリル系重合体に対するリン酸エステル系乳化剤の含有量と同じである。
【0084】
<有機溶媒>
有機溶媒としては、上述した「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示したものを用いることができる。
なお、スラリー組成物中に含まれる有機溶媒は、バインダー組成物に含まれていたもののみであってもよいし、スラリー組成物の調製の際に別途添加されていてもよい。
【0085】
<電極活物質>
ここで、電極活物質は、全固体二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0086】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、無機化合物からなる正極活物質と、有機化合物からなる正極活物質とが挙げられる。なお、正極活物質は、無機化合物と有機化合物との混合物であってもよい。
【0087】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム含有複合金属酸化物)、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、LiFePO4、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu223、非晶質V2O-P25、MoO3、V25、V613等の遷移金属酸化物;などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
上述した無機化合物からなる正極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0088】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。
上述した有機化合物からなる正極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
また、全固体リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。なお、炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することもできる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物または硫酸塩;金属リチウム;Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコーン;なども使用できる。
上述した負極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0090】
<任意の成分>
本発明のスラリー組成物は、上述した固体電解質、アクリル系重合体、リン酸エステル系乳化剤、有機溶媒、電極活物質以外の成分を含んでいてもよい。
このような任意の成分としては、凝固剤、アクリル系重合体以外の既知のバインダー、導電材、分散剤、レベリング剤、消泡剤および補強材などが挙げられる。更に、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、その他の成分としては、リチウム塩も挙げられる。これらのその他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。
【0091】
凝固剤は、バインダー組成物に含まれていたものであり、具体的には、上述した「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示したものが挙げられる。
なお、凝固剤は、上述の通りバインダー組成物に由来するものであるため、本発明のスラリー組成物中におけるアクリル系重合体に対する凝固剤の含有量は、上述した本発明のバインダー組成物中におけるアクリル系重合体に対する凝固剤の含有量と同じである。
【0092】
アクリル系重合体以外の既知のバインダーとしては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、ニトリル系重合体等の高分子化合物を用いることができる。これらの高分子化合物は、一種単独で、或いは、複数種併せて用いることができる。ここで、フッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体としては、例えば、特開2012-243476号公報に記載されているフッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体などを用いることができる。
【0093】
導電材は、全固体二次電池用スラリー組成物(全固体二次電池電極用スラリー組成物)を用いて形成した電極合材層中において電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層のグラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
そして、リチウム塩、分散剤、レベリング剤、消泡剤および補強材としては、特に限定されることなく、例えば特開2012-243476号公報に記載されているものを用いることができる。
【0095】
<スラリー組成物の製造方法>
そして、上述した本発明のスラリー組成物を調製する方法は、特に限定されないが、「バインダー組成物の製造方法」の項で上述した手順で調製したバインダー組成物、固体電解質、並びに、必要に応じて添加される電極活物質および任意の成分を、有機溶媒の存在下で混合することにより、スラリー組成物を得ることができる。
【0096】
(固体電解質含有層)
本発明の固体電解質含有層は、固体電解質を含有する層であり、固体電解質含有層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層(正極合材層、負極合材層)や、互いに対向する正極合材層と負極合材層との間に設けられる固体電解質層等が挙げられる。
そして、本発明の固体電解質含有層は、上述した全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成されたものであり、例えば、上述したスラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の固体電解質含有層は、上述したスラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、少なくとも、固体電解質と、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤とを含む。なお、固体電解質含有層に含まれている各成分は、上記スラリー組成物中に含まれていたものであり、それらの成分の含有比率は、通常、上記スラリー組成物中における含有比率と等しい。
【0097】
そして、本発明の固体電解質含有層は、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物から形成されているので、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0098】
<基材>
ここで、スラリー組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば、離型基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して固体電解質含有層を形成し、固体電解質含有層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた固体電解質含有層を、自立膜として全固体二次電池の電池部材(例えば、電極や固体電解質層など)の形成に用いることもできる。
しかし、固体電解質含有層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材として、集電体または電極を用いることが好ましい。具体的には、電極合材層の調製の際には、スラリー組成物を、基材としての集電体上に塗布することが好ましい。また、固体電解質層を調製する際には、スラリー組成物を電極(正極または負極)上に塗布することが好ましい。
【0099】
<<集電体>>
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
<<電極>>
電極(正極および負極)としては、特に限定されないが、上述した集電体上に、電極活物質、固体電解質およびバインダーを含む電極合材層が形成された電極が挙げられる。
電極中の電極合材層に含まれる電極活物質、固体電解質およびバインダーとしては、特に限定されず、既知のものを用いることができる。なお、電極中の電極合材層は、本発明の固体電解質含有層に該当するものであってもよい。
【0101】
<固体電解質含有層の形成方法>
上述した集電体、電極などの基材上に固体電解質含有層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明のスラリー組成物を基材の表面(電極の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)本発明のスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して固体電解質含有層を製造し、得られた固体電解質含有層を電極等の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、固体電解質含有層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、スラリー組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて固体電解質含有層を形成する工程(固体電解質含有層形成工程)を含む。
【0102】
<<塗布工程>>
そして、塗布工程において、スラリー組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0103】
<<固体電解質含有層形成工程>>
また、固体電解質含有層形成工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
なお、固体電解質含有層が電極合材層である場合、乾燥後に、ロールプレス等を用いてプレス処理を行うことが好ましい。プレス処理を行うことで、得られる電極合材層をより一層高密度化することができる。
【0104】
(電極)
そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極は、少なくとも、固体電解質と、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤と、電極活物質とを含む電極合材層を備えており、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る。
【0105】
(固体電解質層)
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層は、少なくとも、固体電解質と、アクリル系重合体と、リン酸エステル系乳化剤とを含んでおり、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る。
【0106】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、通常、正極、固体電解質層および負極を有しており、正極の正極合材層、負極の負極合材層および固体電解質層の少なくとも一つが本発明の固体電解質含有層であることを特徴とする。即ち、本発明の全固体二次電池は、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池正極用スラリー組成物を用いて形成した正極合材層を備える正極、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池負極用スラリー組成物を用いて形成した負極合材層を備える負極、および、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層の少なくとも一つを備えている。
そして、本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質含有層を備えているので、高温サイクル特性等の電池性能に優れている。
【0107】
ここで、本発明の全固体二次電池に使用し得る、本発明の固体電解質含有層に該当しない電極合材層を備える全固体二次電池用電極としては、本発明の固体電解質含有層に該当しない電極合材層を有するものであれば特に限定されることなく、任意の全固体二次電池用電極を用いることができる。
【0108】
また、本発明の全固体二次電池に使用し得る、本発明の固体電解質含有層に該当しない固体電解質層としては、特に限定されることなく、例えば、特開2012-243476号公報、特開2013-143299号公報および特開2016-143614号公報などに記載されている固体電解質層などの任意の固体電解質層を用いることができる。
【0109】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極と負極とを、正極の正極合材層と負極の負極合材層とが固体電解質層を介して対向するように積層し、任意に加圧して積層体を得た後、電池形状に応じて、そのままの状態で、または、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口することにより得ることができる。なお、必要に応じて、エキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例
【0110】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、バインダー組成物の乳化剤の含有量および凝固剤の含有量、アクリル系重合体の回収率、全固体二次電池の高温サイクル特性は、以下の方法で測定および評価した。
【0111】
<乳化剤の含有量>
バインダー組成物(凝固乾燥物)をテトラヒドロフランに溶解し、テトラヒドロフランを展開溶媒として、GPC測定を行うことにより、バインダー組成物中における、リン酸エステル系乳化剤等の乳化剤の残留量を測定した。具体的には、GPC測定により得られたチャートから、製造に使用した乳化剤の分子量に対応するピークの積分値を求め、これらの積分値と、アクリル系重合体のピークの積分値とを比較し、これらの積分値と対応する分子量から質量比率を求めることで、乳化剤の残留量を算出した。
<凝固剤の含有量>
バインダー組成物(凝固乾燥物)について、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)による元素分析を行うことで、凝固乾燥物中における凝固剤の含有量を測定した。具体的には、元素分析により、使用した凝固剤を構成する元素のバインダー組成物中の含有割合を求め、求めた含有割合より、凝固剤の含有量を算出した。
<アクリル系重合体の回収率>
仕込みの全単量体量と重合転化率から想定される理論収量に対する、バインダー組成物として回収可能であったアクリル系重合体の量の割合を回収率(%)として算出した。
<高温サイクル特性>
作製した全固体二次電池を用いて、25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法で、4.2Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルを5サイクル行い、5サイクル目の放電容量を初期容量C5とした。ついで、80℃の恒温槽中で全固体二次電池を用いて同様の充放電サイクル試験を行い、20サイクル目の放電容量C20、50サイクル目の放電容量C50、および100サイクル目の放電容量C100をそれぞれ測定した。そして、各サイクル数における全固体二次電池の容量維持率(C20/C5×100%、C50/C5×100%、C100/C5×100%)を算出した。この容量維持率が高いほど、全固体二次電池が高温サイクル特性に優れることを意味する。
【0112】
(実施例1)
<バインダー組成物の調製>
<<乳化重合工程>>
ホモミキサーを備えた混合容器に、純水45.48部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのアクリル酸エチル50部およびアクリル酸n-ブチル50部(全単量体中の割合は、アクリル酸エチルが50%、アクリル酸n-ブチルが50%)、リン酸エステル系乳化剤としてモノステアリルリン酸エステルナトリウム2.5部を仕込み、攪拌することで、単量体乳化液を得た。
次いで、温度計、攪拌装置を備えた重合反応槽に、純水170部、および、上記にて得られた単量体乳化液2.98部を投入し、窒素気流下で温度12℃まで冷却した。次いで、重合反応槽中に、上記にて得られた単量体乳化液145部、還元剤としての硫酸第一鉄0.00033部およびアスコルビン酸ナトリウム0.264部、並びに、重合開始剤としての2.85%の過硫酸カリウム水溶液7.72部(過硫酸カリウムの量として0.22部)を3時間かけて連続的に滴下した。その後、重合反応槽内の温度を23℃に保った状態にて、1時間反応を継続し、重合転化率が95%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを添加して重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
<<凝固工程>>
乳化重合工程で得られた乳化重合液を凝固槽に移し、この乳化重合液100部に対して、イオン交換水60部を添加して混合液とした。混合液を85℃に昇温した後、温度85℃にて攪拌しながら、凝固剤としての硫酸ナトリウム3.3部(混合液に含まれるアクリル系重合体100部に対して11部)を連続的に添加することにより、アクリル系重合体を凝固させ、アクリル系重合体の含水クラムを得た。
<<洗浄工程>>
洗浄工程で得られた含水クラムの固形分100部に対し、イオン交換水200部を添加し、凝固槽内で、15℃、5分間攪拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの水洗を行った。この水洗を合計4回繰り返した。
<<乾燥工程>>
洗浄工程において水洗を実施した含水クラムを、熱風乾燥機にて110℃で1時間乾燥させることにより、凝固乾燥物を得た。この凝固乾燥物(バインダー組成物)を用いて、乳化剤および凝固剤の含有量、並びにアクリル系重合体の回収率を測定した。結果を表1に示す。また、NMR測定により、アクリル系重合体がアクリル酸エチル単位を50.1%、アクリル酸n-ブチル単位を49.9%含んでいることを確認した。なお、他の実施例および比較例においても、アクリル系重合体の調製に用いた全単量体に占める各単量体の割合が、アクリル系重合体中に占める当該単量体に由来する単量体単位の割合と概ね一致することを確認した。
<<有機溶媒添加工程>>
乾燥工程において得られた凝固乾燥物をキシレンに溶解した後、エバポレーターを用いて加熱減圧処理を行い、バインダー組成物としての液状組成物(水分量:82質量ppm、固形分濃度:7%)を調製した。
<固体電解質層用スラリー組成物の調製>
アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス(水分濃度0.6質量ppm、酸素濃度1.8質量ppm)で、固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:1.2μm、累積90%の粒子径:2.1μm)100部と、上述のようにして得られたバインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、さらに、有機溶媒としてのキシレンを加えて、固形分濃度65質量%に調整した。その後、プラネタリーミキサーで混合して、固体電解質層用スラリー組成物を調製した。
<正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(平均粒子径:11.5μm)100部と、固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)150部と、導電剤としてのアセチレンブラック13部と、上述のようにして得られたバインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度78%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分間混合した。その後、さらにキシレンで固形分濃度74%に調整した後に10分間混合して正極用スラリー組成物を調製した。
<負極用スラリー組成物の調製>
負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径:20μm)100部と、固体電解質としてのLi2SとP25とからなる硫化物ガラス(Li2S/P25=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)50部と、上述のようにして得られたバインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度60%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して負極用スラリー組成物を調製した。
<全固体二次電池の製造>
集電体(アルミ箔、厚さ:20μm)表面に上記正極用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて厚さが50μmの正極合材層を形成し、正極を得た。また、別の集電体(銅箔、厚さ:18μm)表面に上記負極用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて厚さが30μmの負極合材層を形成し、負極を得た。
次いで、上記正極の正極合材層表面に、上記固体電解質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、10分)させて厚さが18μmの固体電解質層を形成し、固体電解質層付き正極を得た。
上記固体電解質層付き正極と負極を、固体電解質層付き正極の固体電解質層と負極の負極合材層とが接するように貼り合わせ、プレスして全固体二次電池を得た。プレス後の全固体二次電池の固体電解質層の厚さは、11μmであった。この全固体二次電池について、高温サイクル特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例2)
バインダー組成物の調製時に、乳化重合工程において、単量体として更にアクリル酸2-エチルヘキシルを用い(全単量体中の割合は、アクリル酸エチルが48%、アクリル酸n-ブチルが45%、アクリル酸2-エチルヘキシルが7%)、凝固工程において、凝固剤として硫酸ナトリウムに代えて硫酸マグネシウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:75質量ppm、固形分濃度:7.5%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例3)
バインダー組成物の調製時に、洗浄工程における水洗の回数を1回に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:58質量ppm、固形分濃度:7.5%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例4)
バインダー組成物の調製時に、乳化重合工程において、単量体として用いるアクリル酸エチルとアクリル酸n-ブチルの量を、全単量体中の割合がそれぞれ55%と45%となるように変更し、且つ、リン酸エステル系乳化剤として、モノステアリルリン酸エステルナトリウム2.5部に代えてジ(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)リン酸エステルナトリウム1.3部を使用し、凝固工程において、凝固剤としての硫酸ナトリウムの量を1.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:88質量ppm、固形分濃度:7.2%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例5)
バインダー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、正極用スラリー組成物、および負極用スラリー組成物の調製時に、キシレンに代えてジイソブチルケトンを用いた以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:95質量ppm、固形分濃度:7.8%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例6)
バインダー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、正極用スラリー組成物、および負極用スラリー組成物の調製時に、キシレンに代えてn-ブチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:45質量ppm、固形分濃度:8.2%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(比較例1)
バインダー組成物の調製時に、乳化重合工程において、リン酸エステル系乳化剤としてのモノステアリルリン酸エステルナトリウムの量を7.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:68質量ppm、固形分濃度:7.4%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
(比較例2)
バインダー組成物の調製時に、乳化重合工程において、リン酸エステル系乳化剤としてのモノステアリルリン酸エステルナトリウムの量を0.1部に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物を調製したが、リン酸エステル系乳化剤の量が不十分であり重合安定性が確保できなかったため、アクリル系重合体の回収率が極めて低く(33%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池は製造しなかった。
【0120】
(比較例3)
バインダー組成物の調製時に、乳化重合工程において、リン酸エステル系乳化剤としてのモノステアリルリン酸エステルナトリウム2.5部に代えて、ラウリル硫酸ナトリウム1.2部およびポリオキシエチレンドデシルエーテル3.3部を用いた以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:66質量ppm、固形分濃度:7.2%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0121】
(比較例4)
バインダー組成物の調製時に、洗浄工程を実施せず、凝固工程で得られた含水クラムをそのまま乾燥工程に供した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物(水分量:87質量ppm、固形分濃度:7%)、各種スラリー組成物、全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
なお、以下に示す表1および表2中、
「XY」は、キシレンを示し、
「DIK」は、ジイソブチルケトンを示し、
「BE」は、n-ブチルエーテルを示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
表1より、固体電解質含有層の作製に、アクリル系重合体とリン酸エステル系乳化剤とを含みリン酸エステル系乳化剤の含有量が所定の範囲内であるバインダー組成物を用いた実施例1~6では、高温サイクル特性に優れる全固体二次電池が得られていることが分かる。
一方、表2より、固体電解質含有層の作製に、リン酸エステル系乳化剤の含有量が所定の上限値を超えるバインダー組成物を用いた比較例1および4では、全固体二次電池の高温サイクル特性(特には、50サイクルおよび100サイクル後の容量維持率)が損なわれることが分かる。
また、表2より、バインダー組成物の調製に際し、リン酸エステル系乳化剤の使用量を低減することでバインダー組成物に含まれる凝固剤の含有量を所定の下限値未満とした比較例2では、上述のようにアクリル系重合体の回収率が著しく低下したことが分かる。
そして、表2より、バインダー組成物の調製に際し、リン酸エステル系乳化剤以外の乳化剤を用いた比較例3では、全固体二次電池の高温サイクル特性が損なわれることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な、全固体二次電池用バインダー組成物および全固体二次電池用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、全固体二次電池に優れた高温サイクル特性を発揮させ得る固体電解質含有層、および高温サイクル特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。