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  • 特許-積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231108BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231108BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20231108BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20231108BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B15/08 101Z
C23C28/04
C08F293/00
C23C16/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020563028
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048151
(87)【国際公開番号】W WO2020137497
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018247732
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大道
(72)【発明者】
【氏名】荒井 邦仁
(72)【発明者】
【氏名】上村 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小原 禎二
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137376(WO,A1)
【文献】特許第3557194(JP,B2)
【文献】特開2009-078434(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043708(WO,A1)
【文献】特開2001-260275(JP,A)
【文献】特許第4408879(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 28/04
C08F 293/00
C23C 16/42
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成する中間層形成工程と、
樹脂被覆層で前記中間層の表面を被覆する樹脂被覆工程と、を含み、
前記樹脂被覆層が、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体[C]を水素化して得られるブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記金属基材の表面に前記中間層を直接形成する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記中間層表面のケイ素割合が、2.0atom%以上30.0atom%以下である、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
イトロ処理および/または大気圧プラズマコーティング処理により前記中間層を形成する、請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線が、少なくとも2つの変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを有し、前記少なくとも2つの変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークのうち、最も検出感度の高いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第1ピークとし、前記第1ピークのピークトップの溶出時間の次に溶出時間の早いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第2ピークとしたときに、前記第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)に対する前記第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)の比(第1ピーク分子量/第2ピーク分子量)が、1.50以上である、請求項1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属基材の表面上に樹脂被覆層を形成してなる積層体は、医薬品用包装材、食品用包装材、電子部品用包装材、太陽電池モジュール用裏面保護シート、水道管、ガス輸送管、燃料輸送管、およびケーブル保護管などの多様な用途で使用されている。また、このような積層体の具体例としては、LED素子、有機EL素子、および電子基板配線などの金属基材の表面上に、封止材としての樹脂被覆層を形成してなる積層体を挙げることもできる。
【0003】
例えば特許文献1では、アルコキシシリル基を導入した所定の変性ブロック共重合体水素化物からなるシートと金属箔とを積層して得られる複合多層シートが、防湿性、酸素バリアー性、遮光性、耐熱性、耐加水分解性等に優れるため、医薬品や食品の包装、太陽電池モジュール用裏面保護シート、有機EL素子の封止、電子部品の包装等の用途に有用である旨が報告されている。
【0004】
また、特許文献2では、鋼管表面に、鋼管の表面側から順に、シランカップリング剤処理層、エポキシプライマー層、接着性ポリエチレン層、ポリエチレン層を被覆した所定のポリエチレン被覆鋼管が、高温での被覆層の接着耐久性に優れ、石油、天然ガス、都市ガスおよび水などを運搬するためのラインパイプとして好適に使用し得る旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/137376号
【文献】特開2018-69592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術の積層体は、金属基材と樹脂被覆層との接着強度に改善の余地があった。特に、積層体が製造された直後における金属基材と樹脂被覆層との接着強度(以下、「初期接着強度」と称することがある。)が十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成した後に、所定の変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂被覆層で中間層の表面を被覆して製造される積層体であれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体の製造方法は、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成する中間層形成工程と、樹脂被覆層で前記中間層の表面を被覆する樹脂被覆工程と、を含み、前記樹脂被覆層が、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン単量体単位(直鎖状共役ジエン、分岐鎖状共役ジエン)を主成分とする重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体[C]を水素化して得られるブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を含むことを特徴とする。このように、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成した後に、上記所定の変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂被覆層で中間層の表面を被覆して製造される積層体は、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れている。
なお、本明細書中において、「芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]」は、「芳香族ビニル単量体単位を50質量%超含有する重合体ブロック[A]」を意味し、「鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロック[B]」は、「鎖状共役ジエン単量体単位を50質量%超含有する重合体ブロック[B]」を意味する。また、「単量体単位を含有する」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0010】
ここで、本発明の積層体の製造方法は、前記金属基材の表面に前記中間層を直接形成することが好ましい。このように、金属基材の表面に中間層を直接形成すれば、積層体が長期に亘って使用された後における金属基材と樹脂被覆層との接着強度(以下、単に「長期接着強度」と称することがある。)、および積層体の耐湿性を高めることができる。
【0011】
また、本発明の積層体の製造方法は、前記中間層表面のケイ素割合が、2.0atom%以上30.0atom%以下であることが好ましい。このように、中間層表面のケイ素割合が上記所定範囲内であれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高め得ると共に、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度、および積層体の耐湿性を高めることができる。
なお、本発明において、中間層表面のケイ素割合は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
また、本発明の積層体の製造方法は、イトロ処理および/または大気圧プラズマコーティング処理により前記中間層を形成することが好ましい。このように、イトロ処理および/または大気圧プラズマコーティング処理により中間層を形成すれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高めることができる。
【0013】
さらに、本発明の積層体の製造方法は、前記変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線が、少なくとも2つの変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを有し、前記少なくとも2つの変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークのうち、最も検出感度の高いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第1ピークとし、前記第1ピークのピークトップの溶出時間の次に溶出時間の早いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第2ピークとしたときに、前記第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)に対する前記第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)の比(第1ピーク分子量/第2ピーク分子量)が、1.50以上であることが好ましい。このように、変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する試料のGPCで測定した溶出曲線が、少なくとも上記所定の第1ピークおよび第2ピークを有し、第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)に対する第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)の比(第1ピーク分子量/第2ピーク分子量)が、上記所定値以上であれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ブロック共重合体水素化物[D]を含有する試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線の一例を説明するための図である。なお、図1の縦軸は、ポリスチレン換算分子量(左縦軸)または感度(mV)(右縦軸)を示し、図1の横軸は、溶出時間(分)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の積層体の製造方法は、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れる積層体を製造する際に用いることができる。
【0017】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成する中間層形成工程と、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層で前記中間層の表面を被覆する樹脂被覆工程と、を含む。
【0018】
ここで、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、金属基材と、ケイ素酸化物を含む中間層と、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層とを備え、中間層が金属基材の表面と樹脂被覆層との間に介在配置されている。
【0019】
そして、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れている。
【0020】
なお、本発明の積層体の製造方法は、上述した中間層形成工程および樹脂被覆工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。
【0021】
<中間層形成工程>
中間層形成工程では、金属基材の表面上に、ケイ素酸化物を含む中間層を形成する。
【0022】
<<金属基材>>
金属基材は、金属材料からなる基材である。
金属基材を構成する金属材料としては、特に限定されないが、例えば、鉄(Fe)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の遷移金属;アルミニウム(Al);鉛(Pb);亜鉛(Zn);スズ(Sn);これらを主成分とする合金;などを用いることができる。中でも、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼、および炭素鋼を用いることが好ましい。なお、ステンレス鋼としては、SUS304、SUS316、SUS410、SUS430等を用いることができる。また、炭素鋼としては、S55C、S15C、S65C等を用いることができる。
【0023】
金属基材の形状、厚み、大きさ等は、積層体の用途に応じて、適宜選択できるものとする。
【0024】
金属基材の形状としては、例えば、シート状、管状、および柱状などが挙げられる。
【0025】
なお、本明細書中において、「金属基材の表面」とは、金属基材が有する面であれば、特に限定されない。
例えば、金属基材がシート状である場合、「金属基材の表面」は、シート状の金属基材のいずれか一方の主面であってもよいし、シート状の金属基材の両方の主面であってもよい。
また、金属基材が管状である場合、「金属基材の表面」は、管状の金属基材の外側の表面(外表面)であってもよいし、管状の金属基材の内側の表面(内表面)であってもよい。
【0026】
また、金属基材の表面は、平面であってもよいし、曲面であってもよいものとする。
【0027】
さらに、積層体における金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度を高める観点から、金属基材における中間層および樹脂被覆層が形成される側の表面は、ブラスト処理などの除錆方法により、除錆されていてもよい。
【0028】
<<中間層の形成方法>>
ケイ素酸化物を含む中間層を形成する方法としては、特に限定されることはなく、例えば、イトロ処理、大気圧プラズマコーティング処理、減圧プラズマコーティング処理等の表面処理を用いることができる。中でも、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、中間層はイトロ処理および/または大気圧プラズマコーティング処理により形成されることが好ましい。
【0029】
そして、金属基材に対して上述した表面処理を行なうことにより、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成することができる。
【0030】
なお、金属基材の表面上に、事前に中間層および樹脂被覆層以外の他の層(例えば、後述する有機接着層など)を形成した後、当該他の層を介して金属基材に間接的に表面処理を行なうことで、金属基材の表面と形成される中間層との間に当該他の層が介在配置されてもよいが、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度および積層体の耐湿性を高める観点から、金属基材に対して表面処理を直接行なうことで、金属基材の表面に中間層を直接形成することが好ましい。
【0031】
また、中間層形成工程では、金属基材の樹脂被覆層を形成する側の面(樹脂被覆層形成面)の少なくとも一部の上に中間層を形成すればよいが、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、樹脂被覆層形成面の全体の上に中間層を形成することが好ましい。
例えば、シート状の金属基材の一方の主面を樹脂被覆層形成面とし、当該主面上に中間層を形成する場合、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、当該主面全体の上に中間層を形成することが好ましい。
また、例えば、管状の金属基材の外表面(または内表面)を樹脂被覆層形成面とし、当該外表面(または内表面)上に中間層を形成する場合、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、当該外表面(または内表面)全体の上に中間層を形成することが好ましい。
【0032】
さらに、金属基材の複数箇所に樹脂被覆層を形成する場合、金属基材の当該複数箇所の表面上に、同じ中間層を形成してもよいし、異なる中間層を形成してもよいものとする。
例えば、シート状の基材の両方の主面上に中間層を形成する場合、一方の主面上と他方の主面上とで、同じ中間層を形成してもよいし、異なる中間層を形成してもよいものとする。
また、例えば、管状の金属基材の外表面上および内表面上の両方に中間層を形成する場合、外表面上と内表面上とで同じ中間層を形成してもよいし、異なる中間層を形成してもよいものとする。
【0033】
なお、金属基材の樹脂被覆層形成面の少なくとも一部である領域上に中間層を形成した場合において、中間層を構成するケイ素酸化物等の成分は、当該領域上に隙間無く存在することで当該領域を完全に被覆していてもよいし、当該領域上に点在することで当該領域を部分的に被覆していてもよいものとする。
【0034】
以下に、中間層の形成方法として使用し得る表面処理であるイトロ処理、大気圧プラズマコーティング処理および減圧プラズマコーティング処理について詳述する。
【0035】
[イトロ処理]
イトロ処理では、可燃性ガスと、ケイ素供給源であるシラン化合物を気液平衡状態下で蒸発させて得られる気体と、空気との混合物を着火して放出される火炎を金属基材の表面に当てて(吹き付けて)、ケイ素酸化物を含む中間層を形成する。
【0036】
ここで、可燃性ガスとしては、例えば、プロパンガスまたはLPG(プロパンガス単独以外の液化石油ガス)を用いることができる。なお、LPGとしては、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)、ブタン/プロパンの混合ガス、エタン、ペンタン(ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン)等が挙げられる。
【0037】
また、ケイ素供給源であるシラン化合物としては、ケイ素原子を含み、イトロ処理によりケイ素酸化物を含む層を形成できるものであれば、特に限定されず、例えば、有機ケイ素化合物が挙げられる。
有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン;ヘキサメチルジシラザン;テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシラン等のアルキルシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;などを用いることができる。
【0038】
なお、イトロ処理は、例えば、上述した可燃性ガスとシラン化合物と空気との混合物を着火して火炎を放出するバーナー、および、被処理体である金属基材を搬送するテーブルなどを備えるイトロ社製「イトロ処理装置」などの装置を用いて行なうことができる。
上記装置を用いたイトロ処理において、バーナーのノズルと金属基材との間の距離、ケイ素供給源の流量、エアー流量、可燃性ガス流量、処理回数などの各種の条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【0039】
[大気圧プラズマコーティング処理]
大気圧プラズマコーティング処理では、ケイ素供給源であるシラン化合物を、大気圧下で発生させたプラズマと共に金属基材の表面に当てて、ケイ素酸化物を含む中間層を形成する。
【0040】
ケイ素供給源であるシラン化合物としては、「イトロ処理」の項で上述したシラン化合物を用いることができる。中でも、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、ヘキサメチルジシランを用いることが好ましい。
また、大気圧下でのプラズマの発生に必要なガスとしては、酸素、窒素、アルゴン、およびこれらの混合ガスが挙げられる。
大気圧プラズマコーティング処理は、例えば、AcXys Technologies社製「UL-Coat」などの装置を用いて行なうことができる。
【0041】
なお、大気圧プラズマコーティング処理における各種の条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0042】
[減圧プラズマコーティング処理]
減圧プラズマコーティング処理では、ケイ素供給源であるシラン化合物を、減圧下で発生させたプラズマと共に金属基材の表面に当てて、ケイ素酸化物を含む中間層を形成する。
【0043】
ケイ素供給源であるシラン化合物としては、「イトロ処理」の項で上述したシラン化合物を用いることができる。
また、減圧下でのプラズマの発生に必要なガスとしては、例えば、酸素、アルゴンなどが挙げられる。
減圧プラズマコーティング処理は、例えば、ULVAC社製「CME-200E」などの装置を用いることができる。
なお、減圧プラズマコーティング処理における各種の条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0044】
[中間層]
上述した中間層形成工程において形成された中間層は、ケイ素酸化物を含み、任意にケイ素酸化物以外のその他の成分を含む。そして、中間層は、上述した金属基材の表面と、後述する樹脂被覆工程で用いられる樹脂被覆層との間に介在配置される。
【0045】
製造される積層体が、金属基材の表面と樹脂被覆層との間に介在配置され、ケイ素酸化物を含む中間層を有することにより、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を高めることができる。
【0046】
中間層に含まれるケイ素酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、およびこれらの混合物などが挙げられる。また、中間層に含まれるケイ素酸化物以外のその他の成分としては、後述する中間層の形成時の表面処理で使用した有機ケイ素化合物などに由来する炭素、および炭素含有化合物などが挙げられる。
【0047】
中間層表面のケイ素割合は、特に限定されないが、2.0atom%以上であることが好ましく、5.0atm%以上であることがより好ましく、6.7atom%以上であることが更に好ましく、10.0atom%以上であることが一層好ましく、14.1atom%以上であることがより一層好ましく、30.0atom%以下であることが好ましく、25.0atom%以下であることがより好ましい。中間層表面のケイ素割合が上記所定範囲内であれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高め得ると共に、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度および積層体の耐湿性を高めることができる。
【0048】
なお、中間層表面のケイ素割合は、例えば、上述した中間層の形成方法において、イトロ処理のテーブル速度、処理回数等の各種条件を変更することにより調節することができる。
【0049】
<樹脂被覆工程>
樹脂被覆工程では、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層で前記中間層の表面を被覆する。即ち、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層で、金属基材の表面上に形成された中間層の表面を被覆する。したがって、中間層の金属基材と隣接する側とは反対側に樹脂被覆層が形成される。これにより、金属基材と、ケイ素酸化物を含む中間層と、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層と、を有し、中間層が金属基材の表面と樹脂被覆層との間に介在配置される積層体が得られる。
【0050】
ここで、樹脂被覆工程における樹脂被覆層は、金属基材の表面上に形成された中間層を被覆する。即ち、樹脂被覆層は、金属基材における中間層が配置される側の表面を被覆する。したがって、樹脂被覆層は、中間層を介して、金属基材の表面も被覆する。このように、樹脂被覆層が、中間層を介して、金属基材の表面を被覆することで、製造される積層体において金属基材が腐食されることを良好に抑制することができる。
【0051】
なお、上記樹脂被覆層で中間層の表面を被覆する際、中間層と樹脂被覆層との間には、中間層および樹脂被覆層以外の他の層を介在させてもよいが、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度を高める観点から、中間層と樹脂被覆層とを直接接着させることが好ましい。
【0052】
また、樹脂被覆工程では、中間層の表面の少なくとも一部を上記樹脂被覆層で被覆すればよいが、積層体の防食性を高める観点から、中間層の表面の全体を上記樹脂被覆層で被覆することが好ましい。
【0053】
さらに、金属基材が有する複数の表面上に形成された複数の中間層の表面を樹脂被覆層で被覆する場合、当該複数の中間層の表面を、同じ樹脂被覆層で被覆してもよいし、異なる樹脂被覆層で被覆してもよいものとする。
例えば、シート状の基材の両方の主面の表面上に中間層が形成されている場合、一方の主面の表面上に形成された中間層の表面と、他方の主面の表面上に形成された中間層の表面とを、同じ樹脂被覆層で被覆してもよいし、異なる樹脂被覆層で被覆してもよいものとする。
また、例えば、管状の金属基材の外表面上および内表面上の両方に中間層が形成されている場合、外表面上に形成された中間層の表面と、内表面上に形成された中間層の表面とを、同じ樹脂被覆層で被覆してもよいし、異なる樹脂被覆層で被覆してもよいものとする。
【0054】
<<樹脂被覆層>>
樹脂被覆層は、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体[C]を水素化して得られるブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基が導入されてなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を含み、任意に、添加剤などの変性ブロック共重合体水素化物[E]以外の成分を含む層である。
【0055】
―変性ブロック共重合体水素化物[E]―
変性ブロック共重合体水素化物[E]は、前駆体であるブロック共重合体水素化物[D]に、アルコキシシリル基が導入された高分子である。
【0056】
ここで、樹脂被覆層における変性ブロック共重合体水素化物[E]の含有割合は、初期接着強度、長期接着強度、および耐湿性の観点から、65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることが更に好ましく、100質量%以下であることが好ましい。
【0057】
――ブロック共重合体水素化物[D]――
ブロック共重合体水素化物[D]は、前駆体であるブロック共重合体[C]を水素化してなる高分子であり、より詳しくは、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]と鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロック[B]とを有する高分子であるブロック共重合体[C]を水素化してなる高分子である。
【0058】
ここで、ブロック共重合体水素化物[D]は、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン単量体に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化した高分子であってもよいし、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン単量体に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル単量体に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化した高分子であってもよいし、これらの混合物であってもよい。
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン単量体に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する場合、主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、通常95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上であり、芳香族ビニル単量体に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
ここで、「主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合を水素化すること」は、「ブロック共重合体における鎖状共役ジエン単量体に由来の二重結合を水素化すること」を意味し、「芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化すること」は、「ブロック共重合体における芳香環に由来の二重結合を水素化すること」を意味する。
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン単量体に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香族ビニル単量体に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する場合、水素化率は、通常全炭素-炭素不飽和結合の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。水素化の程度を示す水素化率が高いほど、樹脂被覆層の耐光性、および耐熱性が良好である。
【0059】
なお、本発明において、「主鎖および側鎖における炭素-炭素不飽和結合の水素化」は、「ブロック共重合体[C]における鎖状共役ジエン単量体に由来の二重結合の水素化」を意味し、「芳香環における炭素-炭素不飽和結合の水素化」は、「ブロック共重合体[C]における芳香環に由来の二重結合の水素化」を意味する。また、本発明において、ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率は、ブロック共重合体[C]およびブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定する方法等により求めることができる。
【0060】
炭素-炭素不飽和結合の水素化方法や反応形態等は、特に制限はなく、公知の方法にしたがって行えばよい。
【0061】
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合を選択的に水素化する方法としては、例えば、特開2015-78090号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0062】
また、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン単量体に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル単量体に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号等に記載された方法を挙げることができる。
水素化反応終了後においては、水素化触媒および/または重合触媒を反応溶液から除去した後、得られた溶液からブロック共重合体水素化物[D]を回収することができる。回収されたブロック共重合体水素化物[D]の形態としては、特に制限はないが、ペレット形状にして、その後のアルコキシシリル基の導入反応に供することが好ましい。
【0063】
ブロック共重合体水素化物[D]の分子量としては、特に制限はないが、樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、THFを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、35,000以上であることが好ましく、38,000以上であることがより好ましく、40,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。
また、ブロック共重合体水素化物[D]の分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限はないが、樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.7以下であることが更に好ましい。
【0064】
〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線〕
ブロック共重合体水素化物[D]を含有する試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線におけるブロック共重合体水素化物[D]由来ピークの数は、特に制限はないが、樹脂被覆層の形状追従性を高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、2つ以上であることが好ましく、4つ以下であることが好ましく、3つ以下であることがより好ましく、2つであることが特に好ましい。
ここで、溶出曲線は、ブロック共重合体水素化物[D]由来ピークを検出可能なものであればよく、ブロック共重合体水素化物[D]のみをGPC測定することにより得られた溶出曲線だけでなく、ブロック共重合体水素化物[D]を含む組成物より得られた溶出曲線(例えば、老化防止剤とブロック共重合体水素化物[D]とを含む組成物)であってもよい。
なお、本明細書において、「ピーク」とは「ベースラインに対して突出した部分」を意味し、「ピークトップ」とは「示差屈折計(RI)の検出感度(mV)が一番高い頂点」を意味する。
ここで、GPCで測定した溶出曲線におけるブロック共重合体水素化物[D]由来ピークの数が2つ以上である場合、少なくとも2つのブロック共重合体水素化物[D]由来ピークのうち、最も検出感度の高いピークトップを示すブロック共重合体水素化物[D]由来ピークを第1ピークとし、前記第1ピークのピークトップの溶出時間の次に溶出時間の早いピークトップを示すブロック共重合体水素化物[D]由来ピークを第2ピークとする。例えば、図1では、Fが第1ピークであり、Gが第2ピークであり、溶出時間約16分で検出されるHがブロック共重合体水素化物[D]を製造するときに使われた溶媒(例えば、シクロヘキサン)に由来するピークであり、16.5分以降のマイナス側に検出される2つのピークはGPC測定で用いた溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)に由来するピークである。Iは老化防止剤に由来するピークである。
また、図1において、JはGPCで測定された標準ポリスチレンの分子量のプロット(キャリブレーションカーブ)であり、図1に示すように、このキャリブレーションカーブとGPCで測定されたブロック共重合体水素化物[D]の溶出時間から、「第1ピークの感度が最も高い溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)」および「第2ピークの感度が最も高い溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)」を算出する。
なお、図1の溶出曲線では、Iの老化防止剤由来のピークは、ブロック共重合体水素化物[D]によるものではない。
【0065】
〔〔第1ピーク〕〕
第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)は、特に制限はないが、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、25000以上であることが更に好ましく、200000以下であることが好ましく、170000以下であることがより好ましく、140000以下であることが更に好ましい。第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が、15000以上であれば、樹脂被覆層の衝撃強度を確保することができ、200,000以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0066】
〔〔第2ピーク〕〕
第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)は、特に制限はないが、1000以上であることが好ましく、1200以上であることがより好ましく、1500以上であることが更に好ましく、1800以上であることが一層好ましく、153800以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、50000以下であることが更に好ましい。第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が、1000以上であり、かつ、153800以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0067】
第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)に対する第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)の比(第1ピーク分子量/第2ピーク分子量)は、特に制限はないが、1.50以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることが更に好ましく、200以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましい。第2ピーク分子量に対する第1ピーク分子量の比が、1.50以上であり、かつ、200以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0068】
第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)に対する第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)の比(第1ピークトップ感度(mV)/第2ピークトップ感度(mV))は、特に制限はないが、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましく、99以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましい。第2ピークトップ感度(mV)に対する第1ピークトップ感度(mV)の比が、1.0以上であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができ、99以下であれば、樹脂被覆層の膜厚ムラをより改良することができる。
【0069】
なお、水素化反応(水添反応)に供するブロック共重合体[C]の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)と、水素化温度(水添温度)と、水素化反応時間(水添反応時間)と、水素化反応(水添反応)における水素供給停止時間とを適宜調整することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線において所定の第1ピークと所定の第2ピークとを有するブロック共重合体水素化物[D]が得られる。
【0070】
〔ブロック共重合体[C]〕
ブロック共重合体[C]は、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロック[A]を1個以上と、鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロック[B]を1個以上有する高分子であるが、重合体ブロック[A]2個以上と、重合体ブロック[B]1個以上とからなる高分子であることが好ましい。
ここで、ブロック共重合体[C]中における重合体ブロック[A]の数は、3個以下であることが好ましく、2個であることがより好ましい。
また、ブロック共重合体[C]中における重合体ブロック[B]の数は、2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
ブロック共重合体[C]中における重合体ブロック[A]および重合体ブロック[B]の数をそれぞれ上記範囲内にすることにより、ブロック共重合体[C]を用いて得られるブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂組成物において、重合体ブロック[A]由来の水素化重合体ブロック(以下、「水素化重合体ブロック[Ah]」ということがある。)と重合体ブロック[B]由来の水素化重合体ブロックとの相分離が不明瞭となるのを防止して、水素化重合体ブロック[Ah]に基づく高温側のガラス転移温度が低下するのを防止し、ひいては、樹脂被覆層の耐熱性が低下するのを防止することができる。
【0071】
ブロック共重合体[C]のブロックの形態は、特に制限はなく、鎖状型ブロックであっても、ラジアル型ブロックであってもよいが、樹脂被覆層の機械的強度を向上させる観点から、鎖状型ブロックであることが好ましい。ここで、ブロック共重合体[C]の特に好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体([A]-[B]-[A])である。ブロック共重合体である共重合体は、ブロック重合後水素化前の段階では、末端変性がなされていないことが好ましい。
ブロック共重合体が、2つの重合体ブロック[A](第1の重合体ブロック[A1]、第2の重合体ブロック[A2])と、1つの重合体ブロック[B]とにより構成されたトリブロック共重合体([A1]-[B]-[A2])である場合において、第1の重合体ブロック[A1]由来の芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体全体に占める質量分率、および、第2の重合体ブロック[A2]由来の芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体全体に占める質量分率のうち、一方をSt1とし、他方をSt2(ただし、St1≦St2)としたとき、St1とSt2との比(St1/St2)は20/80以上であることが好ましく、50/50以下であることが好ましい。
【0072】
ブロック共重合体[C]中の全芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率をwAとし、ブロック共重合体[C]中の全鎖状共役ジエン単量体単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率をwBとしたときに、wAは60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましく、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましく、wBは80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。
ブロック共重合体[C]中の全芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率(wA)を60%以下にすることにより、得られる樹脂被覆層の接着性を確保することができる。一方、ブロック共重合体[C]中の全芳香族ビニル単量体単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率(wA)を20%以上にすることにより、樹脂被覆層の耐熱性を確保することができる。
【0073】
ブロック共重合体[C]の分子量は、特に制限はないが、樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、35,000以上であることが好ましく、38,000以上であることがより好ましく、40,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。
また、ブロック共重合体[C]の分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限はないが、樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.7以下であることが更に好ましい。
【0074】
ブロック共重合体[C]の製造方法は特に限定されず、例えば、国際公開第2003/018656号、国際公開第2011/096389号、等に記載の方法を採用することができる。
【0075】
〔〔重合体ブロック[A]〕〕
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル単量体単位を主成分とする重合体ブロックである。重合体ブロック[A]中における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、重合体ブロック[A]を構成する全構造単位を100質量%として、50質量%超であることが必要であり、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。なお、重合体ブロック[A]中における芳香族ビニル単量体単位の含有割合の上限は特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
重合体ブロック[A]中における芳香族ビニル単量体単位の含有割合が50質量%超であると、樹脂被覆層の耐熱性を確保することができる。
【0076】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含有していてもよい。
【0077】
重合体ブロック[A]が含有しうるその他の単量体単位としては、後述する鎖状共役ジエン単量体単位および/またはその他のビニル単量体単位などが挙げられる。重合体ブロック[A]中における鎖状共役ジエン単量体単位およびその他のビニル単量体単位の含有割合の合計は、重合体ブロック[A]を構成する全単量体単位を100質量%として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。重合体ブロック[A]中における鎖状共役ジエン単量体単位およびその他のビニル単量体単位の含有割合の合計が10質量%以下であると、樹脂被覆層の耐熱性を確保することができる。
【0078】
なお、重合体ブロック[A]が鎖状共役ジエン単量体単位および/またはその他のビニル単量体単位を含む場合は、重合体ブロック[A]は、通常、芳香族ビニル単量体単位、鎖状共役ジエン単量体単位、およびその他のビニル単量体単位を不規則的に繰り返してなる部分を有することが好ましい。
【0079】
また、ブロック共重合体[C]が複数の重合体ブロック[A]を有する場合、重合体ブロック[A]同士は、互いに同一であってもよく、相異していてもよい。
【0080】
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1以上6以下のアルキル基を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1以上6以下のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等の、ビニルナフタレン類;が挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
そしてこれらの中でも、樹脂被覆層の吸湿性を低下させる観点から、スチレンや、置換基として炭素数1以上6以下のアルキル基を有するスチレン類などの、極性基を含有しない芳香族ビニル単量体が好ましく、さらに、工業的な入手の容易さから、スチレンがより好ましい。
【0081】
その他のビニル単量体単位を形成し得るその他のビニル単量体としては、芳香族ビニル単量体および鎖状共役ジエン単量体以外のビニル化合物、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物、不飽和の環状酸無水物、不飽和イミド化合物、などが挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。また、これらの化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。そしてこれらの中でも、樹脂被覆層の吸湿性を低下させる観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の、炭素数2以上20以下の鎖状ビニル化合物(鎖状オレフィン);ビニルシクロヘキサン、ノルボルネン等の炭素数5以上20以下の環状ビニル化合物(環状オレフィン);1,3-シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン化合物;などであって、極性基を含有しないものが好ましい。
【0082】
〔〔重合体ブロック[B]〕〕
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン単量体単位を主成分とする重合体ブロックである。重合体ブロック[B]中における鎖状共役ジエン単量体単位の含有割合は、重合体ブロック[B]を構成する全構造単位を100質量%として、50質量%超であることが必要であり、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。なお、重合体ブロック[B]中における鎖状共役ジエン単量体単位の含有割合の上限は特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
重合体ブロック[B]中における鎖状共役ジエン単量体単位の含有割合が50質量%超であると、樹脂被覆層の柔軟性が高まり、例えば、樹脂被覆層が、環境の急激な温度変化に対しても割れ等の不具合を発生し難いため、好ましい。
【0083】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含有していてもよい。重合体ブロック[B]が含有しうるその他の単量体単位としては、上述した芳香族ビニル単量体単位および/または上述したその他のビニル単量体単位などが挙げられる。重合体ブロック[B]中における芳香族ビニル単量体単位およびその他のビニル単量体単位の含有割合の合計は、重合体ブロック[B]を構成する全構造単位を100質量%として、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。重合体ブロック[B]中における芳香族ビニル単量体単位およびその他の単量体単位の含有割合の合計が30質量%以下であると、樹脂被覆層の柔軟性が高まり、例えば、樹脂被覆層が、環境の急激な温度変化に対して割れ等の不具合を発生し難いため、好ましい。
【0084】
なお、重合体ブロック[B]が芳香族ビニル単量体単位および/またはその他のビニル単量体単位を含む場合は、重合体ブロック[B]は、通常、鎖状共役ジエン単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、およびその他のビニル単量体単位を不規則的に繰り返してなる部分を有することが好ましい。
【0085】
また、ブロック共重合体[C]が重合体ブロック[B]を複数有する場合、重合体ブロック[B]同士は、互いに同一であってもよく、相異なっていてもよい。
【0086】
ここで、重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン単量体単位の一部が、1,2-結合および/または3,4-結合で重合した構造単位(1,2-および3,4-付加重合由来の構造単位)を有し、鎖状共役ジエン単量体単位の残部が、1,4-結合(1,4-付加重合由来の構造単位)で重合した構造単位を有していてもよい。重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン単量体単位により構成される鎖状共役ジエン部分において、「1,2-結合(3,4-結合)」と「1,4-結合」との合計に対する「1,4-結合」の比率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0087】
1,2-結合および/または3,4-結合で重合した鎖状共役ジエン単量体に由来する構造単位を含有する重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン単量体、必要に応じて、芳香族ビニル単量体、その他のビニル単量体を、ランダム化剤として電子供与原子を有する特定の化合物の存在下で重合させることにより得ることができる。1,2-結合および/または3,4-結合で重合した鎖状共役ジエン単量体に由来する構造単位の含有量は、ランダム化剤の添加量により制御することができる。
【0088】
電子供与原子(例えば、酸素(O)、窒素(N))を有する化合物としては、エーテル化合物、アミン化合物、ホスフィン化合物、などが挙げられる。これらの中でも、ランダム共重合体ブロックの分子量分布を小さくすることができ、その水素添加反応を阻害し難いという観点から、エーテル化合物が好ましい。
【0089】
電子供与原子を有する化合物の具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジ(2-テトラヒドロフリル)メタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、テトラメチルエチレンジアミン、などが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの電子供与原子を有する化合物の含有量は、鎖状共役ジエン単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
【0090】
鎖状共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレン、などが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。そしてこれらの中でも、樹脂被覆層の吸湿性を低下させる観点から、極性基を含有しない鎖状共役ジエン単量体が好ましく、さらに、工業的な入手の容易さから、1,3-ブタジエン、イソプレンがより好ましい。
【0091】
――ブロック共重合体水素化物[D]へのアルコキシシリル基の導入――
上述したブロック共重合体水素化物[D]に導入するアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等の、トリ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等の、(炭素数1~20アルキル)ジ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等の、(アリール)ジ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;などが挙げられる。
また、アルコキシシリル基は、ブロック共重合体水素化物[D]に、炭素数1以上20以下のアルキレン基や、炭素数2以上20以下のアルキレンオキシカルボニルアルキレン基等の2価の有機基を介して結合していてもよい。
【0092】
〔アルコキシシリル基の導入量〕
ブロック共重合体水素化物[D]100質量部に対するアルコキシシリル基の導入量としては、特に制限はなく、0.5質量部以上であることが好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。
アルコキシシリル基の導入量が5質量部以下であると、得られる変性ブロック共重合体水素化物[E]を成形する前に微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋を抑制して、ゲル化したり、溶融時の流動性が低下して成形性が低下したりするのを防止することができる。一方、アルコキシシリル基の導入量が0.5質量部以上であると、樹脂被覆層の接着性が向上し、例えば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高めることができる。
なお、アルコキシシリル基が導入されたことは、アルコキシシリル基が導入された変性ブロック共重合体水素化物[E]のIRスペクトルで確認することができる。また、その導入量は、アルコキシシリル基が導入された変性ブロック共重合体水素化物[E]の1H-NMRスペクトルにて算出することができる。
【0093】
〔アルコキシシリル基の導入方法〕
ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入する方法としては、特に制限はなく、例えば、ブロック共重合体水素化物[D]に、有機過酸化物の存在下で、エチレン性不飽和シラン化合物を反応(グラフト化反応)させることにより、アルコキシシリル基を導入する方法、より詳細には、ブロック共重合体水素化物[D]、エチレン性不飽和シラン化合物および有機過酸化物からなる混合物を、二軸混練機、二軸押出機等にて溶融状態で所望の時間混練する方法、などが挙げられる。
【0094】
前述した導入方法で用いるエチレン性不飽和シラン化合物としては、ブロック共重合体水素化物[D]とグラフト化反応し、ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
グラフト化反応に使用する有機過酸化物としては、特に制限はないが、1分間半減期温度が170℃以上190℃以下のものが好ましく、例えば、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、1,4-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0096】
例えば、二軸押出機による混練温度としては、特に制限はないが、180℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることが更に好ましく、220℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましい。
また、加熱混練時間としては、特に制限はないが、0.1分間以上であることが好ましく、0.2分間以上であることがより好ましく、0.3分間以上であることが更に好ましく、10分間以下であることが好ましく、5分間以下であることがより好ましく、2分間以下であることが更に好ましい。
加熱混練温度および加熱混練時間(滞留時間)を上記好ましい範囲内にすることにより、連続的な混練および押出しを効率的に行うことができる。
【0097】
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]の形態としては、特に制限はないが、通常は、ペレット形状にして、その後の成形加工や添加剤の配合に供することが好ましい。
【0098】
――変性ブロック共重合体水素化物[E]の性状――
変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量としては、導入されるアルコキシシリル基の分子量が、通常、小さいため、原料として用いたブロック共重合体水素化物[D]の分子量と実質的には変わらない。ただし、ブロック共重合体水素化物[D]に、有機過酸化物の存在下で、エチレン性不飽和シラン化合物を反応(グラフト化反応)させるため、重合体の架橋反応および切断反応が併発し、変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量分布の値は大きくなる。
【0099】
変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量としては、特に制限はないが、樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、20,000以上であることが好ましく、25,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。
また、変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量分布(Mw/Mn)としては、特に制限はないが樹脂被覆層の耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。
【0100】
〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線〕
変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線における変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークの数は、特に制限はないが、樹脂被覆層の形状追従性を高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を更に高める観点から、2つ以上であることが好ましく、4つ以下であることが好ましく、3つ以下であることがより好ましく、2つであることが特に好ましい。
ここで、溶出曲線は、変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを検出可能なものであればよく、変性ブロック共重合体水素化物[E]のみをGPC測定することにより得られた溶出曲線だけでなく、変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む組成物より得られた溶出曲線(例えば、老化防止剤と変性ブロック共重合体水素化物[E]とを含む組成物)であってもよい。
なお、本明細書において、「ピーク」とは「ベースラインに対して突出した部分」を意味し、「ピークトップ」とは「示差屈折計(RI)の検出感度(mV)が一番高い頂点」を意味する。
ここで、GPCで測定した溶出曲線における変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークの数が2つ以上である場合、少なくとも2つの変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークのうち、最も検出感度の高いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第1ピークとし、前記第1ピークのピークトップの溶出時間の次に溶出時間の早いピークトップを示す変性ブロック共重合体水素化物[E]由来ピークを第2ピークとする。
【0101】
〔〔第1ピーク〕〕
第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)は、特に制限はないが、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、25000以上であることが更に好ましく、200000以下であることが好ましく、170000以下であることがより好ましく、140000以下であることが更に好ましい。第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が、15000以上であれば、樹脂被覆層の衝撃強度を確保することができ、200,000以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0102】
〔〔第2ピーク〕〕
第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)は、特に制限はないが、1000以上であることが好ましく、1200以上であることがより好ましく、1500以上であることが更に好ましく、1800以上であることが一層好ましく、153800以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、50000以下であることが更に好ましい。第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が、1000以上であり、かつ、153800以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0103】
第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)に対する第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)の比(第1ピーク分子量/第2ピーク分子量)は、特に制限はないが、1.50以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることが更に好ましく、200以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましい。第2ピーク分子量に対する第1ピーク分子量の比が、1.50以上であり、かつ、200以下であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができる。
【0104】
第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)に対する第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)の比(第1ピークトップ感度(mV)/第2ピークトップ感度(mV))は、特に制限はないが、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましく、99以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましい。第2ピークトップ感度(mV)に対する第1ピークトップ感度(mV)の比が、1.0以上であれば、樹脂被覆層の形状追従性を更に高め、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度を一層高めることができ、99以下であれば、樹脂被覆層の膜厚ムラを改良することができる。
【0105】
なお、水素化反応(水添反応)に供するブロック共重合体[C]の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)と、水素化温度(水添温度)と、水素化反応時間(水添反応時間)と、水素化反応(水添反応)における水素供給停止時間とを適宜調整することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した溶出曲線において所定の第1ピークと所定の第2ピークとを有する変性ブロック共重合体水素化物[E]が得られる。
【0106】
―添加剤―
樹脂被覆層が任意に含み得る添加剤としては、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、光安定剤、加工助剤などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、樹脂被覆層における上記の各添加剤の含有割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0107】
―酸化防止剤―
酸化防止剤を配合することで、樹脂被覆層の加工性等を高めることができる。
酸化防止剤の具体例としては、リン系酸化防止剤、フェノ-ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、などが挙げられる。
【0108】
―ブロッキング防止剤―
ブロッキング防止剤を配合することで、熱可塑性樹脂を主成分とするペレットのブロッキングを防止することができる。
ブロッキング防止剤の具体例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ミリスチン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸バリウム、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、などが挙げられる。
【0109】
―光安定剤―
光安定剤を配合することで、樹脂被覆層の耐久性を高めることができる。
光安定剤の具体例としては、ヒンダードアミン系光安定剤、などが挙げられる。
【0110】
―加工助剤―
加工助剤としては、変性ブロック共重合体水素化物[E]に均一に溶解ないし分散できるものが好ましく、数平均分子量が300以上5,000以下の炭化水素系重合体がより好ましい。
【0111】
炭化水素系重合体の具体例としては、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリ-1-オクテン、ポリイソプレン、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリイソプレン-ブタジエン共重合体等の低分子量体及びその水素化物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、透明性、耐光性を維持し、軟化効果に優れている点で、低分子量(数平均分子量が、好ましくは500以上3,000以下、より好ましくは500以上2,500以下)のポリイソブチレン水素化物、低分子量(数平均分子量が、好ましくは500以上3,000以下、より好ましくは500以上2,500以下)のポリブテン水素化物が好ましい。
【0112】
低分子量の炭化水素系重合体の配合量は、共重合体水素化物100質量部に対して、通常、40質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。低分子量の炭化水素系重合体の配合量を多くすると、合わせガラス用の中間膜とした場合に、耐熱性が低下したり、溶出物が増加し易くなる傾向がある。
【0113】
<<樹脂被覆層による被覆方法>>
上述した変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層で、金属基材の表面上に形成された中間層の表面を被覆する方法としては、例えば、
(i)上記変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂組成物を、金属基材の表面上に形成された中間層の表面を被覆する形状に成形しながら、樹脂被覆層を形成する方法(即ち、樹脂組成物の成形と被覆とを同時に行なう方法)、および、
(ii)上記変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂組成物をシート状に予め成形して樹脂被覆層を得た後、当該シート状の樹脂被覆層を、任意に変形させながら、金属基材の表面上に形成された中間層の表面に貼り付ける方法(即ち、樹脂組成物を成形した後に被覆を行なう方法)
のいずれを採用してもよい。
【0114】
なお、上記(i)および(ii)の方法で用いる樹脂組成物が変性ブロック共重合体水素化物[E]以外の添加剤を含む場合、変性ブロック共重合体水素化物[E]に添加剤を配合する方法としては、一般に用いられる公知の方法が適用でき、例えば、(a)変性ブロック共重合体水素化物[E]のペレットおよび添加剤を、タンブラー、リボンブレンダー、ヘンシェルタイプミキサー等の混合機を使用して均等に混合した後、二軸押出機等の連続式溶融混練機により溶融混合し、押出すことで、ペレット状にする方法や、(b)変性ブロック共重合体水素化物[E]を、サイドフィーダーを備えた二軸押出機により、サイドフィーダーから各種添加剤を連続的に添加しながら、溶融混練し、押出すことで、ペレット状にする方法、が挙げられる。これらの方法によって、添加剤を変性ブロック共重合体水素化物[E]に均一に分散させた樹脂組成物を製造することができる。
【0115】
そして、上記変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂組成物を、上記(i)および(ii)の方法における所望の形状に成形する方法としては、特に制限はなく、例えば、溶融押出し成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、などの成形方法が挙げられる。
【0116】
例えば、溶融押出し成形法により樹脂被覆層を成形する場合、樹脂組成物の温度を、170℃以上とすることが好ましく、180℃以上とすることがより好ましく、190℃以上とすることが更に好ましく、250℃以下とすることが好ましく、240℃以下とすることがより好ましく、230℃以下とすることが更に好ましい。樹脂組成物の温度を170℃以上とすることにより、流動性が悪化するのを防止して、樹脂被覆層の表面にゆず肌やダイライン等の不良を生じるのを防止すると共に、押出し速度を上げて、工業的に有利に成形することができる。一方、樹脂組成物の温度を250℃以下とすることにより、樹脂組成物の流動性が高くなり過ぎることを抑制して、均等な厚みの樹脂被覆層を成形することができる。
【0117】
なお、上記(i)の方法において、「金属基材の表面上に形成された中間層の表面を被覆する形状」とは、例えば、管状の金属基材を使用する場合、中間層を介して管状の金属基材の外表面もしくは内表面を被覆する管の形状、または、当該管の一部に相当する形状などを指す。
【0118】
また、上記(ii)の方法において、シート状の樹脂被覆層を任意に変形させながら、金属基材の表面上に形成された中間層の表面に貼り付ける方法としては、例えば、平板プレス、ロールプレス、真空ラミネータ装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、仮圧着後にオートクレーブで加圧する方法、TOM工法(Three-dimension Over-lay Method)などを使用することができる。
【0119】
例えば、仮圧着後にオートクレーブで加圧する方法では、金属基材の表面上に形成された中間層の表面上にシート状の樹脂被覆層を重ねて得られる積層物を、耐熱バッグに入れて脱気することで仮圧着した後、オートクレーブで加熱加圧し、樹脂被覆層を溶融させて、樹脂被覆層を中間層の表面に貼り付けることができる。
なお、耐熱バックを用いて脱気する際の減圧条件およびオートクレーブでの加熱温度および加圧条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【0120】
上述のようにして得られる樹脂被覆層の厚みは、特に限定されることはなく、積層体の用途に応じて適宜設定することができる。
【0121】
<その他の工程>
本発明の積層体の製造方法は、上述した中間層形成工程および樹脂被覆工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。
【0122】
本発明の積層体の製造方法が、例えば、樹脂被覆工程の後に、樹脂被覆層の表面上に中間層および樹脂被覆層以外の他の層を形成する工程を含むことにより、製造される積層体において、樹脂被覆層の外側(即ち、中間層と隣接する側とは反対側)に当該他の層が配置されていてもよい。
【0123】
また、本発明の積層体の製造方法が、例えば、中間層形成工程と樹脂被覆工程との間に、中間層の表面上に中間層および樹脂被覆層以外の他の層を形成する工程を含むことにより、製造される積層体において、中間層と樹脂被覆層との間に当該他の層が介在配置されていてもよい。
【0124】
さらに、本発明の積層体の製造方法が、例えば、中間層形成工程の前に、金属基材の表面上に中間層および樹脂被覆層以外の他の層を形成する工程を含むことにより、製造される積層体において、金属基材の表面と中間層との間に当該他の層が介在配置されてもよい。
【0125】
より具体的に、本発明の積層体の製造方法は、中間層形成工程の前に、金属基材の表面上に有機接着層を形成する有機接着層形成工程を含むことにより、製造される積層体において、金属基材の表面と中間層との間に有機接着層が介在配置されてもよい。
また、本発明の積層体の製造方法は、中間層形成工程と樹脂被覆工程との間に、中間層の表面上に有機接着層を形成する有機接着層形成工程を含むことにより、製造される積層体において、中間層と樹脂被覆層との間に有機接着層が介在配置されてもよい。
【0126】
<<有機接着層形成工程>>
有機接着層形成工程では、上述した中間層形成工程の前に金属基材の表面上に有機接着層を形成、および/もしくは、中間層形成工程と樹脂被覆工程との間に中間層の表面上に有機接着層を形成する。
ここで、有機接着層形成工程で形成される有機接着層の成分組成は、上述した中間層および樹脂被覆層のいずれの成分組成とも異なるものとする。
有機接着層は、特に限定されないが、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの有機ケイ素化合物を含む。
そして、有機接着層形成工程では、例えば、上述した有機ケイ素化合物を含む水溶液または水分散液を処理液として調製し、浸漬および塗布等の既知の方法により、金属基材または中間層の表面上に当該処理液の被膜を形成し、形成された被膜を加熱した後、洗浄、再加熱および乾燥等の処理を適宜行なって、水を除去することにより、金属基材の表面上に有機接着層を形成することができる。
【0127】
なお、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度および積層体の耐湿性を高める観点から、金属基材の表面に中間層を直接形成することが好ましいため、金属基材の表面上には有機接着層を形成しないことが好ましい。即ち、本発明の積層体の製造方法は、中間層形成工程の前に、上述した有機接着層形成工程を含まないことが好ましい。
【0128】
<積層体>
本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、金属基材と、ケイ素酸化物を含む中間層と、上述した所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層と、を有し、中間層が、金属基材の表面と樹脂被覆層との間に介在配置されてなる積層体である。
このように、金属基材と、ケイ素酸化物を含む中間層と、所定の変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む樹脂被覆層と、を有し、中間層が金属基材の表面と樹脂被覆層との間に介在配置されてなる積層体であれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れている。
【0129】
そして、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、医薬品用包装材、食品用包装材、電子部品用包装材、太陽電池モジュール用裏面保護シート、水道管、ガス輸送管、燃料輸送管、およびケーブル保護管などとして好適に使用することができる。また、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、LED素子、有機EL素子、および電子基板配線などの金属基材と、ケイ素酸化物を含む中間層と、封止材としての樹脂被覆層と、を有し、中間層が、金属基材の表面と樹脂被覆層(封止材)との間に介在配置されてなる積層体であってもよい。
【0130】
なお、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、任意で、上述した金属基材、中間層、および樹脂被覆層以外のその他の部材を更に有していてもよい。
【0131】
例えば、本発明の積層体の製造方法により製造される積層体は、その他の部材として、金属基材の表面と中間層との間に介在配置される有機接着層を更に有していてもよい。
【0132】
ここで、有機接着層は、例えば、上述した有機接着層の形成方法により形成することができる。
【0133】
なお、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度および積層体の耐湿性を高める観点から、金属基材の表面は中間層に直接接着していることが好ましいため、金属基材の表面と中間層との間には有機接着層が介在配置されていないことが好ましい。即ち、製造される積層体は、金属基材の表面と中間層との間に介在配置される有機接着層を有しないことが好ましい。
【実施例
【0134】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて、より具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断りがない限り、質量基準である。
なお、複数種類の単量体を共重合して調製される重合体において、ある単量体単位の当該重合体全体に占める質量分率は、別に断らない限り、通常は、その重合体の調製時に重合する全単量体の総質量に占める当該ある単量体の質量の比率(仕込み比)と一致する。
本実施例における測定および評価は、以下の方法に従って行なった。
【0135】
<重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)>
ブロック共重合体[C]、ブロック共重合体水素化物[D]、および変性ブロック共重合体水素化物[E]の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として、40℃において、0.6cc/分の速度で測定した。測定装置としては、東ソー社製「HLC8320GPC」を用い、測定カラムとしては、東ソー社製「TSKgel SuperH G5000HLX」、東ソー社製「G4000HLX」、東ソー社製「G2000HLX」の3本を直列につないで使用した。また、ポリマー量は4mg/1ccの濃度に調整した。
さらに上記と同様にして、数平均分子量(Mn)を測定した後、ブロック共重合体[C]、ブロック共重合体水素化物[D]、および変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0136】
<水素化率>
ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率(モル%)は、1H-NMR測定(測定溶媒:CDCl3)を実施し、共重合体中に存在した全不飽和結合のうち消失した不飽和結合の割合を算出することで導出した。
【0137】
<中間層表面のケイ素割合>
各実施例および比較例で形成した中間層について、XPS(アルバック・ファイ社製、「PHI5000 VersaProbeII」)を用いて、X線の照射径を100μmにして表面の元素分析を実施することで、中間層表面のケイ素割合を測定した。分析対象元素はケイ素、酸素、炭素、窒素、鉄、クロム、ニッケル、銅、アルミニウムの9元素とした。
【0138】
<初期接着強度>
各実施例および比較例で作製した評価用試験片(幅100mm×長さ150mm×厚み7mm)の樹脂被覆層側の面に、カッターナイフを用いて、樹脂被覆層を完全に貫通するように、且つ、評価用試験片の長さ方向と平行に、10mm間隔で2本の切り込みを入れた。次いで、2本の切り込みの間に形成された帯状部分の一方の端部側において、樹脂被覆層と金属片とを一部引き剥がした状態にした。上記処理を施した評価用試験片を、樹脂被覆層のみを引っ張れるように、引っ張り試験機(島津製作所社製「AGS-10KNX」)に固定し、JIS G3477-1に準じて、23℃で、180°ピール強度試験を行ない、得られた値を、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度として、下記の基準により評価を行なった。なお、初期接着強度の値が高いほど、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度が優れていることを示す。
A:初期接着強度が100N/10mm以上
B:初期接着強度が50N/10mm以上100N/10mm未満
C:初期接着強度が30N/10mm以上50N/10mm未満
D:初期接着強度が30N/10mm未満
【0139】
<温度サイクル試験後の接着強度>
各実施例および比較例で作製した評価用試験片について、-50℃で12時間保管した後、60℃で12時間保管することを1サイクルとする温度サイクル試験を30サイクル繰り返した。その後、各評価用試験片を更に23℃で24時間保管した後に、上述した初期接着強度と同様の処理および操作により180°ピール強度試験を行ない、得られた値を、金属基材と樹脂被覆層との温度サイクル試験後の接着強度とした。なお、温度サイクル試験後の接着強度の値が高いほど、金属基材と樹脂被覆層との長期接着強度が優れていることを示す。
A:温度サイクル試験後の接着強度が100N/10mm以上
B:温度サイクル試験後の接着強度が50N/10mm以上100N/10mm未満
C:温度サイクル試験後の接着強度が30N/10mm以上50N/10mm未満
D:温度サイクル試験後の接着強度が30N/10mm未満
【0140】
<耐湿性>
作製した評価用試験片を用いて、85℃、85%RHの恒温槽内で1000時間保管した後に取出し、23℃で24時間保管後に、上述した初期接着強度と同様の処理および操作により180°ピール強度試験を行い、得られた値から耐湿性の評価を行なった。
A:保管後の接着強度が100N/10mm以上
B:保管後の接着強度が50N/10mm以上100N/10mm未満
C:保管後の接着強度が30N/10mm以上50N/10mm未満
D:保管後の接着強度が30N/10mm未満
【0141】
(製造例1)
<ブロック共重合体[C]-1の合成>
攪拌装置を備え、内部が十分に窒素置換された反応器に、脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部、n-ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム(15%n-ヘキサン溶液)2.93部を加え、重合を開始し、65℃で60分間重合反応させた。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析したところ、この時点での重合転化率は99.9%であった。
次に、反応液に脱水イソプレン50.0部を加え、そのまま40分間攪拌を続けた。反応液をGCにより分析したところ、この時点で重合転化率は99.6%であった。
その後、更に、脱水スチレンを25.0部加え、60分間反応させた。反応液をGCにより分析したところ、この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここで、メタノール2.0部を加えて反応を停止した。得られたブロック共重合体[C]-1の重量平均分子量(Mw)は42,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.03であった。
なお、得られたブロック共重合体[C]-1は、スチレン単量体単位からなる重合体ブロック[A]とイソプレン単量体単位からなる重合体ブロック[B]とが[A]-[B]-[A]の順に並んでなるトリブロック共重合体であった。
【0142】
<ブロック共重合体水素化物[D]-1の合成>
次に、上記で得られたブロック共重合体[C]-1の溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としてのシリカーアルミナ担持型ニッケル触媒(クラリアント触媒(株)社製「T-8400RL」)4.0部および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。常温状態にて、反応器内部を水素ガスで置換し、反応器内部をゲージ圧力で2.0MPaまで加圧した状態で、180℃まで昇温した。耐圧反応器の内部温度が180℃になったところで、水素の供給はせずに60分間180℃の温度を保った。60分後、水素圧を4.5MPaまで加圧し、6時間水素化反応を行なった。水素化反応により得られた反応溶液に含まれるブロック共重合体水素化物[D]-1の重量平均分子量(Mw)は43,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.45であった。また、ブロック共重合体水素化物[D]-1のGPC溶出曲線において、第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が45,000であり、第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が9,200であった。さらに、第1ピーク分子量/第2ピーク分子量が4.89であり、第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)/第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)が10.18であった。
また、ブロック共重合体水素化物[D]-1の水素化率は99.9%であった。
【0143】
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、得られた溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製「Songnox1010」)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させた。
次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製「コントロ」)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、上記溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物[D]-1からなるペレットを得た。
【0144】
<変性ブロック共重合体水素化物[E]-1の調製>
得られたブロック共重合体水素化物[D]-1のペレット100部に対して、エチレン性不飽和シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン3.0部、および、有機過酸化物としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ(登録商標)25B」)0.1部を添加した。この混合物を、二軸押出し機を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60~70秒間で混練した。得られた混練物を、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[E]-1のペレットを得た。
【0145】
得られたブロック共重合体水素化物[E]-1のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解させた後、得られた溶液を脱水メタノール400部中に注いで、変性ブロック共重合体水素化物[E]-1を凝固させた。得られた凝固物を25℃で真空乾燥して、変性ブロック共重合体水素化物[E]-1のクラム9.0部を単離した。
【0146】
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-1のクラムを用いて、FT-IRスペクトルを測定したところ、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1と739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1および766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、変性ブロック共重合体水素化物[E]-1の1H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察された。ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D]-1の100部に対してビニルトリメトキシシラン2.6部が結合したことが確認された。
【0147】
なお、変性ブロック共重合体水素化物[E]-1の重量平均分子量(Mw)は40,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.38であった。また、変性ブロック共重合体水素化物[E]-1のGPC溶出曲線において、第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が45,000であり、第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が9,200であった。さらに、第1ピーク分子量/第2ピーク分子量が4.89であり、第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)/第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)が11.35であった。
【0148】
(製造例2)
<ブロック共重合体水素化物[D]-2の合成>
製造例1で得られたブロック共重合体[C]-1の溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応容器に移送し、水素化触媒としてのシリカーアルミナ担持型ニッケル触媒(製品名:T-8400RL、クラリアント触媒(株)社製)4部および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。常温状態にて反応内部を水素ガスにて置換しゲージ圧力で2MPa加圧した状態で170℃まで昇温した。耐圧反応容器の内部温度が170℃となったところで、20分間水素の供給をせず、170℃の温度を一定に保った。20分後、水素圧を4.5MPaまで加圧し7時間水素化反応を行った。水素化反応後に得られたブロック共重合体水素化物[D]-2の重量平均分子量(Mw)は39,500、分子量分布(Mw/Mn)が1.76であった。また、ブロック共重合体水素化物[D]-2のGPC溶出曲線において、第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が45,000であり、第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が31,200であった。さらに、第1ピーク分子量/第2ピーク分子量が1.44であり、第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)/第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)が2.36であった。
また、ブロック共重合体水素化物[D]-2の水素化率は99.8%であった。
【0149】
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、得られた溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製「Songnox1010」)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させた。
次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製「コントロ」)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、上記溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物[D]-2からなるペレットを得た。
【0150】
<変性ブロック共重合体水素化物[E]-2の調製>
得られたブロック共重合体水素化物[D]-2のペレット100部に対して、エチレン性不飽和シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン3.0部、および、有機過酸化物としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ(登録商標)25B」)0.1部を添加した。この混合物を、二軸押出し機を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60~70秒間で混練した。得られた混練物を、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[E]-2のペレットを得た。
【0151】
得られたブロック共重合体水素化物[E]-2のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解させた後、得られた溶液を脱水メタノール400部中に注いで、変性ブロック共重合体水素化物[E]-2を凝固させた。得られた凝固物を25℃で真空乾燥して、変性ブロック共重合体水素化物[E]-2のクラム9.0部を単離した。
【0152】
得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-2のクラムを用いて、FT-IRスペクトルを測定したところ、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1と739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1および766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、変性ブロック共重合体水素化物[E]-2の1H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察された。ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D]の100部に対してビニルトリメトキシシラン2.6部が結合したことが確認された。
【0153】
なお、変性ブロック共重合体水素化物[E]-2の重量平均分子量(Mw)は35,900、分子量分布(Mw/Mn)は2.79であった。また、変性ブロック共重合体水素化物[E]-2のGPC溶出曲線において、第1ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第1ピーク分子量)が45,000であり、第2ピークの溶出時間に基づく標準ポリスチレン換算分子量(第2ピーク分子量)が31,200であった。さらに、第1ピーク分子量/第2ピーク分子量が1.44であり、第1ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第1ピークトップ感度)(mV)/第2ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)が5.14であった。
【0154】
(実施例1)
<中間層形成工程>
金属基材として、ブラスト処理により除錆された金属片(材質:銅(Cu)、幅100mm×長さ150mm×厚み5mm)を用意した。当該金属片をアセトンで洗浄して乾燥した後、イトロ処理(以下、「イトロ処理(1)」と称することがある。)により、金属片の一方の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成した。なお、イトロ処理(1)は、下記の装置および条件により行なった。そして、形成された中間層表面のケイ素割合を測定した。結果を表1に示す。
<<イトロ処理(1)における使用装置および条件>>
装置:イトロ社製「イトロ処理装置」
バーナーノズルと金属片との間の距離:5mm
ケイ素供給源(イトロ社製「イトロ処理剤<A>」)流量:1.2NL/min
エアー流量:150NL/min
可燃性ガス(LPG)流量:8NL/min
テーブル速度:750mm/sec
処理回数:1往復
【0155】
<樹脂被覆工程>
<<シート状の樹脂被覆層の作製>>
製造例1で得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-1を、直径37mmのスクリューを備えた二軸混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出し成形機(Tダイ幅400mm)、キャストロール、ゴム製ニップロール、および、シート引き取り装置を備えた押出しシート成形機を使用して、溶融樹脂温度200℃、Tダイ温度200℃、キャストロール温度90℃の条件にて押出し成形し、ブロック共重合体水素化物[E]-1を含むシート状の樹脂被覆層(幅:330mm、厚み:0.5mm)を得た。得られたシート状の樹脂被覆層は、ロールに巻き取って回収した。
<<樹脂被覆層による被覆>>
次いで、上記で作製したシート状の樹脂被覆層(厚み:0.5mm)を、幅100mm×長さ150mmに切り出し、金属片の一方の表面上に形成された中間層の表面上に4枚重ねた。得られた積層物を、NY(ナイロン)/PP(ポリプロピレン)製の厚み75μmの耐熱バッグに入れ、耐熱バッグの開口部の中央部を200mm幅残して、両側をヒートシーラーでヒートシールした後、密封パック器(パナソニック社製「BH-951」)を使用し、耐熱バッグ内を脱気しながら開口部をヒートシールして、積層物を密封包装することで仮圧着した。その後、密封包装された積層物をオートクレーブに入れて、温度125℃、30分間、圧力0.8MPaで加熱加圧することで、金属片と、中間層と、樹脂被覆層とを備え、中間層が金属片の表面と樹脂被覆層との間に介在配置されてなる積層体である評価用試験片(金属片/中間層/樹脂被覆層の順に積層、幅100mm×長さ150mm×厚み7mm)を得た。
得られた評価用試験片を用いて、初期接着強度、長期接着強度、および耐湿性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0156】
(実施例2)
実施例1の中間層形成工程において、金属基材としての金属片の材質を銅(Cu)からアルミニウム(Al)に変更し、イトロ処理(1)の条件のうち、ケイ素供給源流量を、1.2NL/minから0.6NL/minに変更したイトロ処理(2)により中間層を形成すると共に、実施例1の樹脂被覆工程におけるシート状の樹脂被覆層の作製において、製造例1で得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-1に代えて、製造例2で得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0157】
(実施例3)
実施例1の中間層形成工程において、金属基材としての金属片の材質を銅(Cu)から炭素鋼(S55C)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0158】
(実施例4)
実施例1の中間層形成工程において、中間層を形成する前に、下記の有機接着層形成工程を実施して、金属片の一方の表面上に有機接着層を形成すると共に、中間層を形成する際に、イトロ処理(1)に代えて、下記の装置および条件下での大気圧プラズマコーティング処理により、金属片の一方の表面上に形成された有機接着層の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成することで、金属片/有機接着層/中間層/樹脂被覆層の順に積層された評価用試験片を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
<有機接着層形成工程>
3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM-5103」)の1質量%水溶液を調製した。次いで、金属片を、当該水分散液に23℃の環境下で5分間浸漬した。その後、金属片を希釈液から取り出して、40℃のオーブン中で5分間保持した。金属片をオーブンから取り出し、23℃の環境下で純水に5分間浸漬した。純水から取り出した金属片を、40℃のオーブン中で120分間保持して、溶媒としての水を蒸発させることにより、金属片の表面上に有機接着層を形成した。
<大気圧プラズマコーティング処理における使用装置および条件>
装置:大気圧プラズマ処理装置(AcXys Technologies社製「UL-Coat」)
出力:0.2kW
ノズルと金属片との間の距離:15mm
空気流量:5NL/min
ケイ素供給源(ヘキサメチルジシラン)流量:120μL/min
テーブル速度:320mm/min
【0159】
(比較例1)
実施例1において、中間層形成工程でイトロ処理(1)を行なわず、樹脂被覆工程で、一方の表面上に中間層が形成された金属片に代えて、表面上に中間層が形成されていない金属片の一方の表面上に、シート状の樹脂被覆層を直接重ねることで、金属片の表面と樹脂被覆層との間に中間層が介在配置されていない評価用試験片(金属片/樹脂被覆層の順に積層)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0160】
(比較例2)
実施例1の樹脂被覆工程におけるシート状の樹脂被覆層の作製において、製造例1で得られた変性ブロック共重合体水素化物[E]-1に代えて、アルコキシシリル基が導入されていないブロック共重合体水素化物[D]-1を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
表1より、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成する中間層形成工程と、アルコキシシリル基が導入されてなる所定の変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂被覆層で前記中間層の表面を被覆する樹脂被覆工程と、を含む実施例1~4の積層体の製造方法によれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れる積層体を製造できることがわかる。
【0163】
一方、金属基材の表面上にケイ素酸化物を含む中間層を形成しなかった比較例1の積層体の製造方法により製造される積層体は、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に劣ることがわかる。
【0164】
また、アルコキシシリル基が導入されてなる所定の変性ブロック共重合体水素化物に代えて、アルコキシシリル基が導入されていないブロック共重合体水素化物を含む樹脂被覆層で中間層の表面を被覆した比較例2の積層体の製造方法により製造される積層体も、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明によれば、金属基材と樹脂被覆層との初期接着強度に優れる積層体を提供することができる。
図1