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特許7380690フィルム、フィルムの製造方法、金属張積層体、及び被覆金属導体
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  • 特許-フィルム、フィルムの製造方法、金属張積層体、及び被覆金属導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】フィルム、フィルムの製造方法、金属張積層体、及び被覆金属導体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20231108BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231108BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20231108BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20231108BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20231108BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231108BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/30 D
B32B15/082
B32B15/088
C08L27/18
C08L79/08 B
H05K1/03 630D
H05K1/03 610N
H05K1/03 630H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021542901
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031873
(87)【国際公開番号】W WO2021039735
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019154856
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019175255
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020025351
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/002251(WO,A1)
【文献】特開2018-2980(JP,A)
【文献】特開2000-143922(JP,A)
【文献】特開平6-172745(JP,A)
【文献】特開2017-78102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/34
B32B 27/30
B32B 15/082
B32B 15/088
C08L 27/18
C08L 79/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族性ポリイミドのベースフィルムと、前記ベースフィルムの両面にそれぞれ設けられた、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーと芳香族性ポリマーとを含む層と、を有する、フィルム。
【請求項2】
前記ベースフィルムと前記層とが直接接触している、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、極性官能基を有するポリマー、又は、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマーである、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記芳香族性ポリマーが芳香族性ポリイミドである、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記層の表面に極性官能基が存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記フィルムの厚さが25μm以上であり、前記ベースフィルムの厚さに対する2つの前記層の合計での厚さの比が1以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記層において、前記ポリマーと前記芳香族性ポリマーとの合計量に対する、前記芳香族性ポリマーの量が10質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記フィルムの吸水率が0.1%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記フィルムの波長355nmの光線吸収率が50%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
前記フィルムの誘電正接が0.003未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
芳香族性ポリイミドのベースフィルムの表面に、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーのパウダーと、芳香族性ポリマー又はその前駆体と、液状媒体とを含むパウダー分散液を塗布し、加熱して層を形成し、前記ベースフィルムの両面にそれぞれ前記層が設けられたフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記パウダー分散液が、さらに熱分解性のノニオン性の界面活性剤を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
酸素ガスを含む雰囲気下、加熱して層を形成する、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載のフィルムと、前記フィルムの両面にそれぞれ貼着された金属箔とを有する、金属張積層体。
【請求項15】
金属導体と、前記金属導体を被覆するように設けられた請求項1~11のいずれか1項に記載のフィルムとを有する、被覆金属導体。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族性ポリイミドのベースフィルムの両面のそれぞれに、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーと芳香族性ポリマーとを含むポリマー層を有するフィルム及びその製造方法、並びに、かかるフィルムを使用した、金属張積層体及び被覆金属導体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムをベースフィルムとし、その両面のそれぞれに、テトラフルオロエチレン系ポリマー(TFE系ポリマー)の層を設けた3層構成のフィルムが知られている(特許文献1参照)。
ポリイミドは成形特性や機械的性質に優れたエンジニアリングプラスチックであり、TFE系ポリマーは電気特性及び耐熱性に特に優れるため、かかる3層構成のフィルムは、プリント基板、電線被覆等のハイエンドな電気・電子分野に使用される材料として有用である。
また、特許文献2には、かかるフィルムにおける層を、TFE系ポリマーのパウダーを含むパウダー分散液から形成する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2015/080260号
【文献】特開平09-157418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記フィルムの使用態様(はんだリフロー工程等の高温領域での使用等)を拡張させるべく、溶融温度が高く耐熱性に優れた、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマー(PFA系ポリマー)の使用を検討した。その際、それから得られる3層構成のフィルムは反りやすく、その寸法安定性が低下する課題と、PFA系ポリマーの層及びポリイミドフィルムが剥離する課題とがある点を、本発明者らは知見した。
また、かかる3層構成のフィルムを他の基材に貼着する場合、その密着力は未だ充分とは言えず、特に高温領域において、その密着力が低下しやすい課題を知見した。さらに、上記フィルムにおける、TFE系ポリマーの物性(特に電気特性)を調整する観点から、上記層を厚くすると、これらの課題がより顕著になる点を知見した。
【0005】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、芳香族性ポリイミドのベースフィルムとPFA系ポリマーの層とを有するフィルムにおいて、PFA系ポリマーの層中へ芳香族性ポリマーを配合すれば、フィルムの反りを好適に抑制できる点を知見した。また、芳香族性ポリマーの配合により、上記層と芳香族性ポリイミドフィルムとの密着性がより向上するだけでなく、UV吸収性等の光学物性、折り曲げ性等の機械物性というフィルム物性も向上し、構成の自由度が高いフィルムが得られる点を知見した。
【0006】
本発明は、かかる知見に基づいてなされた発明であり、その目的は、耐熱性に優れた、反りが生じにくい密着力の高いフィルム及びその製造方法、並びに、かかるフィルムを使用した、金属張積層体及び被覆金属導体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 芳香族性ポリイミドのベースフィルムと、前記ベースフィルムの両面にそれぞれ設けられた、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーと芳香族性ポリマーとを含む層と、を有する、フィルム。
[2] 前記ベースフィルムと前記層とが直接接触している、[1]に記載のフィルム。
[3] 前記ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、極性官能基を有するポリマー、又は、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマーである、[1]又は[2]に記載のフィルム。
[4] 前記芳香族性ポリマーが芳香族性ポリイミドである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のフィルム。
[5] 前記層の表面に極性官能基が存在する、[1]~[4]のいずれか1項に記載のフィルム。
[6] 前記フィルムの厚さが25μm以上であり、前記ベースフィルムの厚さに対する2つの前記層の合計での厚さの比が1以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のフィルム。
[7] 前記層において、前記ポリマーと前記芳香族性ポリマーとの合計量に対する、前記芳香族性ポリマーの量が10質量%以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のフィルム。
[8] 前記フィルムの吸水率が0.1%以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載のフィルム。
[9] 前記フィルムの波長355nmの光線吸収率が50%以上である、[1]~[8]のいずれか1項に記載のフィルム。
[10] 前記フィルムの誘電正接が0.003未満である、[1]~[9]のいずれか1項に記載のフィルム。
[11] 芳香族性ポリイミドのベースフィルムの表面に、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーのパウダーと、芳香族性ポリマー又はその前駆体と、液状媒体とを含むパウダー分散液を塗布し、加熱して層を形成し、前記ベースフィルムの両面にそれぞれ前記層が設けられたフィルムを得る、フィルムの製造方法。
[12] 前記パウダー分散液が、さらに熱分解性のノニオン性の界面活性剤を含む、[11]に記載の製造方法。
[13] 酸素ガスを含む雰囲気下、加熱して層を形成する、[11]又は[12]に記載の製造方法。
[14] 前記[1]~[11]のいずれか1項に記載のフィルムと、前記フィルムの両面にそれぞれ貼着された金属箔とを有する、金属張積層体。
[15] 金属導体と、前記金属導体を被覆するように設けられた[1]~[11]のいずれか1項に記載のフィルムとを有する、被覆金属導体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れ、反りが生じにくい密着力の高いフィルム、並びに、かかるフィルムを使用した、金属張積層体及び被覆金属導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フィルム1から得られた両面銅張積層体における貫通孔の周辺の断面を撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「降伏強度」とは、歪みが大きくなると、歪みと応力との関係が比例しなくなり、応力を除去しても歪みが残る現象が起き始める応力を意味し、ASTM D882に従って、ベースフィルムの引張弾性率を測定した際の「5%ひずみ時応力」の値で規定する。
「難塑変形性」とは、ベースフィルムを塑性変形させた際に応力が増加していく特性、又は塑性変形させた際に必要な応力が大きい特性を意味し、ASTM D882に従って、ベースフィルムの引張弾性率を測定した際の「15%ひずみ時応力」の値で規定する。
「テトラフルオロエチレン系ポリマー」とは、テトラフルオロエチレンに基づく単位を含有するポリマーであり、単に「TFE系ポリマー」とも記す。
「パウダーのD50」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーを構成する粒子(以下、「パウダー粒子」とも記す。)の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径(体積基準累積50%径)である。
「パウダーのD90」は、同様にして測定される、パウダーの体積基準累積90%径である。
なお、D50及びD90は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用い、パウダーを水中に分散させて測定した値である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーのガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「パウダー分散液の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下でパウダー分散液について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「フィルムの引張弾性率」は、広域粘弾性測定装置を用いて、測定周波数10Hzにて測定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。また、モノマーAに基づく単位をモノマーA単位とも記す。
「金属箔の表面の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
【0011】
本発明のフィルムは、芳香族性ポリイミド(以下、「芳香族性PI」とも記す。)のベースフィルムと、このベースフィルムの両面にそれぞれ設けられた、テトラフルオロエチレンに基づく単位(TFE単位)及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位(PAVE単位)を含有するポリマー(以下、「PFA系ポリマー」とも記す。)と芳香族性ポリマー(以下、「AR系ポリマー」とも記す。)とを含む層(以下、「ポリマー層」とも記す。)と、を有する。
【0012】
PFA系ポリマーは、例えば、同じTFE系ポリマーである、TFE単位及びヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含有するポリマー(FEP)に比較して、溶融温度が高く耐熱性に優れる。しかし、PFA系ポリマーの線膨張係数は高く、その成形品(ポリマー層等)は反りやすい。また、PFA系ポリマーは、その柔軟性が高い反面、他の基材に対する密着力は低いとされ、その成形品は他の基材に貼着しにくい。
これに対して、本発明のフィルムは、PFA系ポリマーを使用しながらも、反りが発生しにくく、その耐熱性が向上している。この要因は、ベースフィルムの両面に形成されたポリマー層が、それぞれのポリマー層による反りを、ある程度、相殺するためと考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、それだけでは、フィルムの反りは充分に抑制されず、上記層とベースフィルムと間の剥離も生じやすい。また、他の基材に対する貼着性も未だ充分ではない。
【0013】
本発明者らは、ポリマー層中にAR系ポリマーを配合すれば、反りと剥離とが充分に抑制され、他の基材に対する貼着性も向上した、TFE系ポリマーの物性(特に電気特性)を高度に発現する耐熱性フィルム(本発明のフィルム)が得られる点を知見したのである。この要因は、ポリマー層中に高度に分散したAR系ポリマーがポリマー層の線膨張を緩和するため、及び、ポリマー層の表層に存在するAR系ポリマーの芳香族環が相互作用するためと考えられる。具体的には、ポリマー層とベースフィルムとの界面付近に存在する、AR系ポリマーの芳香族環と芳香族性PIの芳香族環とがスタッキングするため、ポリマー層のベースフィルムに対する密着性が向上したと考えられる。
【0014】
本発明のフィルムの線膨張係数の絶対値は、30ppm/℃以下が好ましく、20ppm/℃以下がより好ましく、10ppm/℃以下がさらに好ましい。この場合、フィルムが配置される雰囲気の温度等に依らず、フィルムの反りの発生が効果的に防止される。フィルムの線膨張係数の絶対値の下限は、0ppm/℃である。
本発明のフィルムの剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。この場合、フィルムをプリント基板材料、金属導体の被覆材料(電線等の被覆材料)として好適に使用できる。フィルムの剥離強度の上限は、100N/cmである。
【0015】
また、本発明のフィルムは、紫外線(UV)吸収性が高く、UV-YAGレーザー等のレーザーによる加工に適する。この要因は、ポリマー層中において、AR系ポリマーが、高度に分散し、ある種のマトリックスを形成しつつ、均一に分布するため、AR系ポリマーが有する芳香族環の良好なUV吸収性が発現した点にあると考えられる。
かかるフィルムは、レーザー加工により、良好な形状を有するビアホールを簡便に形成できるため、特に、プリント基板材料として好適に使用できる。
本発明のフィルムの波長355nmの光線吸収率は、50%以上であるのが好ましく、75%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。前記光線吸収率の上限は、100%である。
なお、フィルムの波長355nmの光線吸収率は、分光光度計(株式会社島津製作所製、「UV-3600」)を使用して測定できる。
【0016】
さらに、本発明のフィルムは、低い吸水性(高い水バリア性)を発揮する。この要因は、ポリマー層とベースフィルムとが相溶した一体化物でなく、互いに独立して存在するため、PFA系ポリマーの低吸水性が芳香族性PIの高吸水性を補完するためであると考えられる。
フィルムの吸水率は、0.1%以下が好ましく、0.07%以下がより好ましく、0.05%以下がさらに好ましい。この場合、フィルムは、水蒸気がより透過し難く、長期にわたって優れた絶縁性を発揮するため、特に、金属導体の被覆材料として好適に使用できる。フィルムの吸水率の下限は、0%である。
なお、フィルムの吸水率は、ASTM D570に準拠して求められる。具体的には、フィルムを50℃×48時間で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬し、純水に浸漬する前後のフィルムの質量を測定し、以下の式に基づいて求められる。
吸水率(%)=(水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
【0017】
本発明におけるベースフィルムは、高い降伏強度を有するのが好ましい。具体的には、ベースフィルムの5%ひずみ時応力は、180MPa以上が好ましく、210MPa以上がより好ましい。上記5%ひずみ時応力は、500MPa以下が好ましい。
さらに、本発明におけるベースフィルムは、難塑変形性であるのが好ましい。具体的には、ベースフィルムの15%ひずみ時応力は、225MPa以上が好ましく、245MPa以上がより好ましい。上記15%ひずみ時応力は、580MPa以下が好ましい。
本発明におけるベースフィルムが、高い降伏強度、特に難塑性変形性を有すれば、本発明のフィルムの線膨張係数の絶対値を充分に低くしやすく、反りの発生をより確実に防止できる。
【0018】
ベースフィルムの320℃における引張弾性率は、0.2GPa以上が好ましく、0.4GPa以上がより好ましい。その引張弾性率は、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。
この場合の本発明のフィルムは、それを加工する際に加熱及び冷却してもハンドリング性に優れている。つまり、ベースフィルムの引張弾性率が、上記下限値以上であれば、加工時の加熱及び冷却に際して、ポリマー層の収縮がベースフィルムの弾性により効果的に緩和され、フィルムに皺が生じにくくなり、得られる加工品の物性(表面平滑性等)が向上しやすい。かかる傾向は、ポリマー層中のPFA系ポリマーの含有量やポリマー層の厚さが大きい場合に顕著になる。また、ベースフィルムの引張弾性率が、上記上限値以下であれば、本発明のフィルムの柔軟性が一層高まりやすい。
【0019】
ベースフィルムを構成する芳香族性PIのイミド基密度は、0.20~0.35が好ましい。イミド基密度が上記上限値以下であれば、ベースフィルムの吸水率がより低くなり、本発明のフィルムの誘電特性の変化をより抑制しやすい。イミド基密度が上記下限値以上であれば、イミド基が極性基として機能して、ベースフィルムとポリマー層との密着力がより向上するだけでなく、吸水率が顕著に低下しやすい。
また、上記イミド基密度がかかる範囲にあれば、本発明のフィルムの加工において皺が発生し難い。なお、かかる皺は、ベースフィルムにおける芳香族性PIのガラス転移点が低い場合に発生しやすい。
【0020】
なお、イミド基密度は、ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドにおいて、イミド基部分の単位当たりの分子量(140.1)をポリイミドの単位当たりの分子量で除した値である。例えば、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)の1モルと3,4’-オキシジアニリン(分子量:200.2)の1モルとの2成分からなるポリイミド前駆体をイミド化したポリイミド(単位当たりの分子量:382.2)のイミド基密度は、140.1を382.2で除した値である0.37となる。
【0021】
芳香族性PIとは、芳香族基を繰り返し単位構造に含むポリイミドであり、例えば、ジアミンとカルボン酸二無水物とを反応させてポリアミック酸を合成し、このポリアミック酸を熱イミド化法又は化学イミド化法によりイミド化して得られる芳香族性ポリイミドが挙げられる。
ポリアミド酸を合成するための溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0022】
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル、2,4-ジアミノトルエンが挙げられる。これらのジアミン成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
カルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物が挙げられる。これらのカルボン酸二無水物成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、ジアミンとカルボン酸二無水物との合計モル数に対する、ジアミン及びカルボン酸二無水物が含有するエーテル結合に由来する酸素原子の総モル数の割合は、35~70%が好ましく、45~65%がより好ましい。この場合、芳香族性PIのポリマー主鎖の柔軟性が高まり、芳香族環のスタック性が向上して、ベースフィルムとポリマー層との接着性がより向上する。また、この場合、本発明のフィルムのUV加工性もより良好になる。
本発明におけるベースフィルムには、降伏強度、難塑性変形性、熱伝導性、ループスティフネス等の特性を高める目的で、無機フィラーを添加してもよい。かかる無機フィラーとしては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムが挙げられ、シリカ及び窒化ホウ素が好ましい。
【0025】
本発明におけるPFA系ポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含有する。PFA系ポリマーは、TFE単位及びPAVE単位のみからなってもよく、さらに他の単位を含有してもよい。
PFA系ポリマーは、さらに、極性官能基を有するのが好ましい。この場合、ポリマー層のベースフィルムに対する接着性がより向上する。その結果、フィルムの剥離強度がより高くなりやすい。また、フィルムの外側の最表面の接着性も向上しやすい。
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基、アセタール基又はホスホノ基(-OP(O)OH)が好ましく、基材との接着性をより高める観点から、水酸基含有基又はカルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH、-C(CFOH又は1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)がより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
【0026】
極性官能基は、PFA系ポリマーを構成する単位に含まれてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれてもよい。極性官能基は、プラズマ処理等によりPFA系ポリマーに導入してもよい。ポリマー主鎖の末端基に極性官能基が含まれるPFA系ポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するPFA系ポリマーが挙げられる。
極性官能基を有するPFA系ポリマーは、ベースフィルムに対する密着性をより高める観点から、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有する単位(極性官能基を有するモノマーに基づく単位)を有するのが好ましい。
【0027】
極性官能基を有するモノマーは、酸無水物残基を有するモノマーが好ましく、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸がより好ましい。
PAVEは、CF=CFOCF(PMVE)、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(PPVE)が好ましく、PFA系ポリマーの溶融粘度又は溶融温度を後述する範囲に調整しやすい観点から、PPVEがより好ましい。
【0028】
PFA系ポリマーは、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1~5モル%含むポリマーが好ましい。
PFA系ポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、極性官能基を有するポリマー(1)、又は、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマー(2)が好ましい。
かかるPFA系ポリマーを使用すれば、比較的小さい半径を有する球晶が形成されやすい。このため、ポリマー層は、表面平滑性が高くなり、ベースフィルムに対する接着性がより向上する。
【0029】
ポリマー(1)は、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含む、極性官能基を有するポリマーか、TFE単位とPAVE単位とを含み主鎖末端基に極性官能基を有するポリマーが好ましく、前者のポリマーがより好ましい。極性官能基としては、水酸基含有基及びカルボニル基含有基が好ましい。
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を0.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸又は5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(NAH)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0030】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するPFA系ポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するPFA系ポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0031】
PFA系ポリマーは、熱溶融性であるのが好ましく、その380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
PFA系ポリマーの溶融温度は、280℃以上が好ましく、290℃以上がより好ましい。上記溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。かかるPFA系ポリマーを使用すれば、緻密かつ密着性に優れたポリマー層が形成されやすく、耐熱性に優れたフィルムが得られやすい。
【0032】
本発明におけるAR系ポリマーは、芳香族基を繰り返し単位構造に含むポリマーであり、例えば、芳香族性ポリアミド、芳香族性ポリイミド、芳香族性ポリアミドイミド、芳香族マレイミド、スチレンエラストマー、液晶ポリエステルなどが挙げられ、その中でも、本発明においては、芳香族性ポリイミドであるのが好ましい。AR系ポリマーが芳香族性ポリイミドである場合、ポリマー層のベースフィルムに対する密着性が向上しやすいだけでなく、フィルム物性(UV吸収性等)が向上しやすい。
AR系ポリマーの5%重量減少温度は、260℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。AR系ポリマーの5%重量減少温度は、600℃以下が好ましい。
上記範囲において、AR系ポリマーの分解ガス(気泡)やAR系ポリマー自体の反応に伴う副生物によるガス(気泡)による、ポリマー層の界面荒れを効果的に抑制でき、ポリマー層のベースフィルムに対する接着性が一層向上しやすい。
【0033】
AR系ポリマーは、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。
AR系ポリマーが熱可塑性であれば、その可塑性により、ポリマー層中のAR系ポリマーの分散性がより向上し、緻密かつ均一なポリマー層が形成されやすい。その結果、ポリマー層のベースフィルムに対する密着性と、フィルム物性(UV吸収性等)とが向上しやすい。
熱可塑性のAR系ポリマーは、熱可塑性ポリイミドが好ましい。熱可塑性ポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
熱可塑性のAR系ポリマーのガラス転移点は、500℃以下が好ましく、PFA系ポリマーの溶融温度以下がより好ましい。熱可塑性のAR系ポリマーのガラス転移点は、PFA系ポリマーのガラス転移点以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。この場合、上記効果が、一層発現しやすい。
【0034】
AR系ポリマーが熱硬化性であれば、換言すれば、熱硬化性の芳香族性ポリマーの硬化物であれば、ポリマー層の線膨張性が一層低下し、フィルムの反りが抑制されやすい。
熱硬化性のAR系ポリマーとしては、マレイミド、及び、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸等)のイミド化反応により形成される可塑性を有さないポリイミドが好ましい。
【0035】
AR系ポリマーの具体例としては、「HPC」シリーズ(日立化成社製)等の芳香族性ポリアミドイミド、「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)等の芳香族性ポリイミドが挙げられる。AR系ポリマーである芳香族性ポリイミドとして、ベースフィルムで説明した芳香族性PIを使用してもよい。
【0036】
本発明におけるPFA系ポリマー及びAR系ポリマーの好適な態様としては、AR系ポリマーのガラス転移点がPFA系ポリマーの溶融温度以下であり、PFA系ポリマーの溶融温度が280~325℃であり、AR系ポリマーのガラス転移点が180~360℃である態様が挙げられる。AR系ポリマーのガラス転移点のより具体的な態様としては、200~320℃である態様や、260~360℃である態様が挙げられる。
これらの態様においては、ポリマー層中でPFA系ポリマーとAR系ポリマーとが均一に分散してフィルム物性が向上しやすいだけでなく、高温環境下において、PFA系ポリマーとAR系ポリマーとが高度に相互作用して、フィルムの耐熱性がより向上しやすい。
【0037】
本発明のフィルムでは、ベースフィルムとポリマー層とが直接接触しているのが好ましい。すなわち、ベースフィルムの表面に、シランカップリング剤、接着剤等による表面処理を施すことなく、ポリマー層が直接形成(積層)されているのが好ましい。この場合、本発明のフィルム物性が低下しにくい。なお、本発明のフィルムによれば、上述した構成により、ベースフィルムとポリマー層とが直接接触していても、ベースフィルムとポリマー層との間に高い接着性が発現する。
本発明のフィルムの厚さ(総厚)は、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。上記厚さは、1000μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
ポリマー層の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。ポリマー層の厚さは、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
ベースフィルムの厚さは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。ベースフィルムの厚さは、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0038】
ベースフィルムの厚さに対する、2つのポリマー層の合計での厚さの比は、1以上が好ましい。上記比は、3以下が好ましい。この場合、ベースフィルムにおける芳香族性PIの物性(高降伏強度、難塑性変形性等)と、ポリマー層におけるPFA系ポリマーの物性(低誘電率、低誘電正接等の電気特性、低吸水性等)とがバランスよく発現しやすい。また、上記比が大きく、ポリマー層が厚いフィルムにおいても、反りや剥離が抑制されやすい。特に、ベースフィルムの引張弾性率が上述した下限値以上であると、この傾向が顕著になりやすい。
【0039】
また、2つのポリマー層の厚さは等しいのが好ましい。この場合、2つのポリマー層の線膨張係数がより近づくため、フィルムに反りが一層発生しにくくなる。
なお、本発明のフィルム、ベースフィルム又はポリマー層の厚さは、接触式厚み計DG-525H(小野測器社製)にて、測定子AA-026(Φ10mm、SR7)を使用して求められる。
【0040】
本発明のフィルムの誘電率(比誘電率)は、2.0~3.0が好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板材料等に、本発明のフィルムを好適に使用できる。
本発明のフィルムの誘電正接は、0.0001~0.003が好ましい。より具体的には、本発明のフィルムの誘電正接は、0.003未満が好ましく、0.0025以下がより好ましく、0.002以下がさらに好ましい。
【0041】
それぞれのポリマー層におけるPFA系ポリマーの含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。また、上記含有量は、100質量%未満であって、99質量%以下が好ましい。
それぞれのポリマー層におけるAR系ポリマーの含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、上記含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
それぞれのポリマー層において、PFA系ポリマーとAR系ポリマーとの合計量に対する、AR系ポリマーの量は、10質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。また、上記AR系ポリマーの量は、0.1質量%以上が好ましい。
ポリマー層に含まれるPFA系ポリマー及びAR系ポリマーのそれぞれの含有量が上記比率を満たし、PFA系ポリマーに対するAR系ポリマーの含有割合が低い状態にあれば、ポリマー層において、AR系ポリマーがPFA系ポリマー中に高度に分散した状態を形成しやすい。その結果、ポリマー層における、PFA系ポリマーの物性(上述した電気特性や低吸水性等)の発現と、AR系ポリマーによるベースフィルムに対する接着性の向上と、それによるフィルムの反り及び剥離の抑制とがバランスしやすい。
【0042】
それぞれのポリマー層の表面(ベースフィルムと反対側の面)には、極性官能基が存在するのが好ましい。極性官能基がポリマー層の表面に存在すれば、その表面の接着性が増大するため、フィルムの表面に接合(接着)させる基材(金属箔、電線等)との接着強度を向上できる。また、ポリマー層の線膨張係数を低減する効果も期待できる
ポリマー層の表面に存在する極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましい。
ポリマー層の表面に極性官能基を存在させる方法としては、極性官能基を有するPFA系ポリマーを使用する方法、又は、ポリマー層の表面に対して、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理等の表面処理をして、極性官能基を導入する方法を採用できる。
【0043】
コロナ放電処理は、効率的に極性官能基を導入できる観点から、可燃性ガス(酢酸ビニル等)の存在下に行うのが好ましい。
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスは、希ガス、水素ガス又は窒素ガスが好ましい。かかるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。
さらに、本発明のフィルムは、アニール処理に供して、その残留応力が調整されてもよい。アニール処理における条件は、温度120~180℃、圧力0.005~0.015MPa、時間30~120分間が好ましい。
【0044】
本発明のフィルムは、好適には、芳香族性PIのベースフィルムの表面に、PFA系ポリマーのパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)とAR系ポリマー又はその前駆体と液状媒体とを含むパウダー分散液を塗布し加熱して、ポリマー層を形成し、ベースフィルムの両面にそれぞれポリマー層が設けられたフィルムを得る方法(本法)によって製造できる。
【0045】
本法におけるFパウダーのD50は、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50は、0.05μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、FパウダーのD90は、100μm未満が好ましく、6μm以下がより好ましい。
Fパウダーの比表面積は、1~8m/gが好ましく、1~5m/gがより好ましく、1~3m/gがさらに好ましい。
この場合、Fパウダーの流動性と分散性とが良好となり、ポリマー層の電気物性や耐熱性がより発現しやすい。
Fパウダーは、PFA系ポリマーを主成分とするのが好ましく、PFA系ポリマーからなるのがより好ましい。パウダーにおけるPFA系ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。Fパウダーは、Fポリマーとは異なるポリマーを含んでもよい。異なるポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
Fパウダーは、無機物を含んでもよい。無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金、カーボンが挙げられ、より具体的には、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、メタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられる。無機物を含むFパウダーは、PFA系ポリマーをコアとし、このコアの表面に、無機物を有するのが好ましい。
【0046】
本法におけるAR系ポリマー又はその前駆体は、パウダー分散液の液状媒体に可溶なポリマーが好ましい。これにより、パウダー分散液中でのAR系ポリマーと他成分(PFA系ポリマー、液状媒体)との相互作用が高まり、パウダー分散液の分散性がより向上しやすい。その結果、ポリマー層の形成における加熱において、AR系ポリマーの流動性が高まり、AR系ポリマーが高度に分散しつつ、電気特性等のPFA系ポリマー物性が高度に発現した、ベースフィルムに対する接着性のより高い、ポリマー層が形成されやすい。
【0047】
AR系ポリマー又はその前駆体の、パウダー分散液の液状媒体に対する25℃における溶解度(g/溶媒100g)は、5~30が好ましい。
なお、AR系ポリマーの前駆体とは、ポリマー層の形成における加熱において、AR系ポリマーを形成する化合物である。例えば、AR系ポリマーがポリイミドである場合には、その前駆体としては、ポリアミック酸が挙げられる。
【0048】
本法における液状媒体は、25℃で液状のFパウダーと反応しないFパウダーの分散媒であり、AR系ポリマーを溶解する溶媒が好ましい。液状媒体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
液状媒体の沸点は、125~250℃が好ましい。この範囲において、パウダー分散液から液状媒体を揮発させる際に、Fパウダーが、高度に流動して緻密にパッキングし、その結果、緻密なポリマー層が形成されやすい。
液状媒体は、非プロトン性の極性媒体であるのが好ましい。
【0049】
液状媒体の具体例としては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、酢酸ブチル、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
液状媒体は、パウダー分散液の液物性(粘度、チキソ比等)の調整と各成分の高度な相互作用との観点から、エステル、ケトン又はアミドが好ましく、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0050】
本法におけるパウダー分散液は、Fパウダーの分散及びAR系ポリマーとの相互作用を促し、形成されるポリマー層の物性を向上させる観点から、さらにポリマー分散剤を含むのが好ましい。なお、ポリマー分散剤は、PFA系ポリマーともAR系ポリマーとも異なる成分(化合物)であり、親水部位と疎水部位とを有するノニオン性の界面活性剤であるのが好ましい。
親水部位は、ノニオン性の官能基(アルコール性水酸基、オキシアルキレン基等)を含む分子鎖が好ましい。
疎水部位は、アルキル基、アセチレン基、シロキサン基又は含フッ素基を含む分子鎖が好ましく、含フッ素基を含む分子鎖がより好ましい。
かかるノニオン性の界面活性剤をパウダー分散液が含めば、その分散安定性が向上し、加熱により形成される層の均一性が向上しやすい。
【0051】
ノニオン性の界面活性剤は、熱分解性のノニオン性の界面活性剤であるのが好ましく、加熱により層を形成する温度範囲内にて熱分解するノニオン性の界面活性剤であるのがより好ましい。かかる界面活性剤との具体例としては、80~300℃の温度領域における質量減少率が1質量%/分以上であるノニオン性の界面活性剤が挙げられ、より具体的には、100~200℃の温度領域における質量減少率が1質量%/分以上であるノニオン性の界面活性剤、200~300℃の温度領域における質量減少率が1質量%/分以上であるノニオン性の界面活性剤が挙げられる。
【0052】
界面活性剤の質量減少率は、昇温ペースを10℃/分とし、界面活性剤の試料量は10mgとし、混合ガス(ヘリウム90体積%と酸素10体積%)雰囲気下にて、熱重量測定装置(TG)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を使用して測定できる。
例えば、「界面活性剤の200~300℃の温度領域における質量減少率」は、界面活性剤の10mgを、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用い、混合ガス(ヘリウム90体積%と酸素10体積%)雰囲気下、10℃/分のペースで200℃から300℃に昇温させた際の質量減少量を、昇温時間(10分)と界面活性剤の試料量(10mg)とで除した値のパーセンテージ値として求められる。
質量減少率の上限は、50質量%/分が好ましい。
質量減少率は、2~50質量%/分が好ましく、4~20質量%/分がより好ましく、6~15質量%/分が特に好ましい。
【0053】
パウダー分散液がかかる界面活性剤を含めば、加熱により層を形成した際に界面活性剤の分解し、形成されるポリマー層の表面に界面活性剤の分解物に由来する親水性成分が偏析し、本発明のフィルムの剥離強度や、本発明のフィルムと他の基材(銅箔等)との接着性を調整しやすい。また、ポリマー層中の界面活性剤の残渣量が低減され、その物性(電気特性等)が向上しやすい。
かかる界面活性剤の具体例としては、ポリオルガノシロキサン、ポリオール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリカプロラクタムが挙げられる。ポリオールとしては、炭素-炭素不飽和二重結合を有するモノマーに基づく単位と2以上の水酸基を有するポリマー状ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール及びフルオロポリオールがより好ましい。
【0054】
ノニオン性の界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤が挙げられる。
フッ素系界面活性剤の好適な態様としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とオキシアルキレン基又はアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有するポリマー界面活性剤が挙げられる。
【0055】
ポリマー界面活性剤は、ノニオン性が好ましい。
ポリマー界面活性剤の重量平均分子量は、2000~80000が好ましい。
ポリマー界面活性剤のフッ素含有量は、20~50質量%が好ましい。
オキシアルキレン基を有する場合のポリマー界面活性剤のオキシアルキレン基含有量は、20~50質量%が好ましい。
アルコール性水酸基を有する場合のポリマー界面活性剤の水酸基価は、10~300mgKOH/gが好ましい。
【0056】
上記ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素数は、4~16が好ましい。また、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素原子-炭素原子間には、エーテル性酸素原子が挿入されていてもよい。
上記オキシアルキレン基は、1種のオキシアルキレン基から構成されていてもよく、2種以上のオキシアルキレン基から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
オキシアルキレン基は、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基が好ましく、オキシエチレン基がより好ましい。
ポリマー分散剤の好適な具体例としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートと、オキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとのコポリマーが挙げられる。
【0057】
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)OCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)が挙げられる。
【0058】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH120OCHが挙げられる。
かかるポリマー分散剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)が挙げられる。
【0059】
パウダー分散液中のPFA系ポリマーの割合(含有量)は、20~50質量%が好ましい。
パウダー分散液中のAR系ポリマー又はその前駆体の割合(含有量)は、0.1~25質量%が好ましい。
パウダー分散液中の液状媒体の割合(含有量)は、40~80質量%が好ましい。
パウダー分散液中において、PFA系ポリマーとAR系ポリマーとの合計量に対する、AR系ポリマーの量は、10質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。また、上記AR系ポリマーの量は、0.1質量%以上が好ましい。この範囲において、パウダー分散液の分散性がより向上し、形成されるポリマー層の物性(電気特性、接着性、表面平滑性、UV吸収性等)と、形成されるポリマー層のベースフィルムに対する接着性がより向上しやすい。なお、上記比率は、形成されるポリマー層においても維持される。
【0060】
パウダー分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の材料を含んでいてもよい。かかる他の材料としては、チキソ性付与剤、消泡剤、無機フィラー、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤が挙げられる。
これらの他の材料は、パウダー分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
【0061】
パウダー分散液の粘度は、50~100000mPa・sがより好ましく、75~1000mPa・sがより好ましい。この場合、パウダー分散液の塗工性に優れるため、任意の厚さを有するポリマー層を形成しやすい。
パウダー分散液のチキソ比(η/η)は、1.0~2.2が好ましい。この場合、パウダー分散液の塗工性に優れるだけでなく、その均質性にも優れるため、より緻密なポリマー層を形成しやすい。なお、チキソ比(η/η)は、回転数が30rpmの条件で測定されるパウダー分散液の粘度ηを、回転数が60rpmの条件で測定されるパウダー分散液の粘度ηで除して算出される。
【0062】
パウダー分散液のベースフィルムへの塗布方法は、ベースフィルムの表面にパウダー分散液からなる安定した液状被膜が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
【0063】
液状被膜が形成されたベースフィルムを加熱する際には、低温領域の温度に保持して、液状媒体を留去(すなわち乾燥)するのが好ましい。これにより、乾燥被膜が得られる。低温領域の温度は、80℃以上180℃未満が好ましい。低温領域の温度は、乾燥における雰囲気の温度を意味する。
低温領域の温度での保持は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等)雰囲気、還元性ガス(水素ガス等)雰囲気、不活性ガス(希ガス、窒素ガス)雰囲気のいずれであってもよい。
【0064】
本法においては、さらに、低温領域での保持温度を超える温度領域(以下、「焼成領域」とも記す。)にて乾燥被膜を加熱し、Fパウダー(PFA系ポリマー)を加熱して、つまり、Fパウダー(PFA系ポリマー)を焼成させて、ベースフィルムの表面にポリマー層を形成するのが好ましい。焼成領域の温度は、焼成における雰囲気の温度を意味する。
ポリマー層の形成は、Fパウダーの粒子が密にパッキングし、Fパウダー(PFA系ポリマー)が融着して進行すると考えられる。なお、AR系ポリマーが熱溶融性であれば、PFA系ポリマーとAR系ポリマーとの混合物からなるポリマー層が形成され、AR系ポリマーが熱硬化性であれば、PFA系ポリマーとAR系ポリマーの硬化物とからなるポリマー層が形成される。なお、パウダー分散液が、上述した熱分解性の界面活性剤を含む場合には、界面活性剤の熱分解が進行するため、ポリマー層が電気特性に優れやすい。
【0065】
焼成における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等)雰囲気、還元性ガス(水素ガス等)雰囲気、不活性ガス(希ガス、窒素ガス)雰囲気のいずれであってもよい。
焼成における雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気が好ましい。この際の酸素ガス濃度(体積基準)は、1×10~3×10ppmが好ましく、0.5×10~1×10ppmが特に好ましい。この場合、各成分の流動が促進され、特に、パウダー分散液が上述した熱分解性の界面活性剤を含む場合には、その分解及び流動が促され、ポリマー層の接着性と、ポリマー層の物性(電気物性等)とが、より向上しやすい。
焼成領域の温度は、PFA系ポリマーの溶融温度以上が好ましく、300~380℃がより好ましい。
焼成領域の温度に保持する時間は、30秒~5分間が好ましく、1~2分間が特に好ましい。
【0066】
この際、ベースフィルムの320℃における引張弾性率は、0.2GPa以上が好ましく、0.4GPa以上がより好ましい。また、その引張弾性率は、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。ベースフィルムの引張弾性率が、上記下限値以上であれば、Fパウダーの焼成や、熱プレス後の冷却に際するポリマー層の収縮がベースフィルムの弾性により効果的に緩和されやすい。その結果、本発明のフィルムに皺が生じにくくなり、表面平滑性等の物性により優れたフィルムが得られやすい。かかる傾向は、ベースフィルムにおける芳香族性PIの、イミド基密度又はガラス転移点が低い場合に顕著になる。また、ベースフィルムの引張弾性率が、上記上限値以下であれば、本発明のフィルムの柔軟性が一層優れやすい。
なお、本発明のフィルムは、上述した製造方法に限らず、ポリマー層となる2つのポリマーフィルムで、別途作製したベースフィルムを挟持した状態とした後、これらを熱プレスしても製造できる。
【0067】
本発明のフィルムは、ポリマー層の表面の接着性に優れるため、他の基材と容易かつ強固に接合できる。他の基材としては、金属箔、金属導体が挙げられる。
本発明の金属張積層体は、本発明のフィルムと、本発明のフィルムの両面にそれぞれ貼着された金属箔とを有する。金属箔を加工すれば、金属張積層体をプリント基板に容易に加工できる。金属箔を構成する金属としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金が挙げられる。
金属箔としては、銅箔が好ましく、表裏の区別のない圧延銅箔又は表裏の区別のある電解銅箔がより好ましく、圧延銅箔がさらに好ましい。圧延銅箔は、表面粗さが小さいため、金属張積層体をプリント配線板に加工した場合でも、伝送損失を低減できる。また、圧延銅箔は、炭化水素系有機溶剤に浸漬し圧延油を除去してから使用するのが好ましい。
【0068】
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.01~4μmが好ましい。この場合、ポリマー層との接着性が良好となり、伝送特性に優れたプリント基板が得られやすい。
金属箔の表面は、粗化処理されていてもよい。粗化処理の方法としては、粗化処理層を形成する方法、ドライエッチング法、ウエットエッチング法が挙げられる。
金属箔の厚さは、金属張積層体の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、20μm未満が好ましく、2~15μmがより好ましい。
また、金属箔の表面は、その一部又は全部がシランカップリング剤により処理されていてもよい。
【0069】
本発明の金属張積層体において、ポリマー層の表面に金属箔を積層する方法としては、本発明のフィルムと金属箔とを熱プレスする方法が挙げられる。
熱プレスにおけるプレス温度は、310~400℃が好ましい。
熱プレスは、気泡混入を抑制し、酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空度で行うのが好ましい。
また、熱プレス時には上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。上記真空度に到達する前に昇温すると、ポリマー層が軟化した状態、すなわち一定程度の流動性、密着性がある状態にて圧着されてしまい、気泡の原因となる場合がある。
熱プレスにおける圧力は、金属箔の破損を抑制しつつ、ポリマー層と金属箔とを強固に密着させる観点から、0.2~10MPaが好ましい。
特に、ベースフィルムの引張弾性率が上述した下限値以上であると、熱プレスにおける加熱冷却による皺の発生を抑制しやすい。
【0070】
本発明の金属張積層体は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
プリント基板は、例えば、本発明の金属張積層体における金属箔をエッチング等によって所定のパターンの導体回路(パターン回路)に加工する方法や、本発明の金属張積層体を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によってパターン回路に加工する方法を使用して製造できる。
プリント基板の製造においては、パターン回路を形成した後に、パターン回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに導体回路を形成してもよい。層間絶縁膜は、上記パウダー分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にソルダーレジストを積層してもよい。ソルダーレジストは、上記パウダー分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。
【0071】
本発明の被覆金属導体は、金属導体と、この金属導体を被覆するように設けられた、本発明のフィルムとを有する。かかる被覆金属導体は、例えば、航空宇宙用の電線又は電線コイルに好適に使用できる。
金属導体の構成材料は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい。これらの金属は、優れた導電性を有するためである。
また、金属導体の横断面形状は、円形であってもよく、矩形であってもよい。
本発明の被覆金属導体は、本発明のフィルムの一方の表面に金属導体を配置し、フィルムで金属導体を被覆する方法で製造できる。
かかる被覆金属導体の製造方法としては、本発明のフィルムを細幅の帯状に切断してテープを作製し、このテープを金属導体の周囲に螺旋状に卷回して製造する方法が挙げられる。また、金属導体の周囲にテープを卷回した後、さらにその周囲にテープを重ねて卷回してもよい。なお、テープは、ラッピングマシーン等を用いて金属導体の周囲に卷回してもよい。
【0072】
以上、本発明のフィルム、フィルムの製造方法、金属張積層体、及び被覆金属導体について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明のフィルム、金属張積層体及び被覆金属導体は、いずれも上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明のフィルムの製造方法は、いずれも上述した実施形態の構成において、他の任意の工程を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の工程と置換されていてよい。
【実施例
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[TFE系ポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含むPFA系ポリマー(溶融温度:300℃)
Fポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むPFA系ポリマー(溶融温度:305℃)
Fポリマー3:TFE単位及びHFP単位からなる非PFA系ポリマー(FEP。溶融温度:250℃)
[パウダー]
パウダー1:D50が1.9μmである、Fポリマー1からなるパウダー
パウダー2:D50が0.3μmである、Fポリマー2からなるパウダー
パウダー3:D50が0.3μmである、Fポリマー3からなるパウダー
【0074】
[AR系ポリマー1のワニス]
ARポリマー1のワニス:芳香族性ポリイミドとしてAR系ポリマー1を含むNMP溶液(固形分:10重量%、対数粘度:1.2dL/g)
なお、AR系ポリマー1は、3,3’4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、2,4-ジアミノトルエンと、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンとのブロックコポリマー(モル比=1:1:1:1)であり、そのガラス転移点は322℃である。
[界面活性剤]
界面活性剤1:CH=CHCOO(CHOCF(CF)(C(CF(CF)(=C(CF)とCH=CHCOO(CHCHO)OHとのコポリマー(モル比=1:1、重量平均分子量:約10000、200~300℃における質量減少率:6質量%/分、ノニオン性)
【0075】
[ベースフィルム]
ポリイミドフィルム1:厚さが50μm、ガラス転移点が310℃、イミド基密度が0.25、320℃における引張弾性率が0.3GPaの芳香族性ポリイミドフィルム(SKC Kolon PI社製、「FS-200」)
ポリイミドフィルム2:厚さが50μm、ガラス転移点が298℃、イミド基密度が0.26、320℃における引張弾性率が0.1GPaの芳香族性ポリイミドフィルム
ポリイミドフィルム3:厚さが50μm、ガラス転移点が420℃、イミド基密度が0.38、320℃における引張弾性率が7GPaの芳香族性ポリイミドフィルム
【0076】
2.パウダー分散液の調製
(パウダー分散液1)
まず、47質量部のNMPと、3質量部の界面活性剤1と、49.5質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、混合液を得た。
次に、この混合液に、AR系ポリマー1のワニスを、攪拌機を500rpmの回転数で撹拌しつつ、パウダー分散液中のARポリマー1の量(固形分)が0.5質量%となるように添加して、パウダー分散液1を調製した。つまり、Fポリマー1とARポリマー1との合計量に対するARポリマー1の量は、1質量%である。
【0077】
(パウダー分散液2)
パウダー1をFパウダー2に変更した以外は、パウダー分散液1と同様にして、パウダー分散液2を調製した。
(パウダー分散液3)
パウダー分散液2の調製過程で得られる混合液(NMP、界面活性剤1及びパウダー2のみを含む混合液)を、そのままパウダー分散液3とした。
(パウダー分散液4)
パウダー1をパウダー3に変更した以外は、パウダー分散液1と同様にして、パウダー分散液4を調製した。
【0078】
3.フィルムの製造
(例1)
ポリイミドフィルム1の一方の面に、パウダー分散液1を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。
さらに、ポリイミドフィルム1の他方の面にも、同様に、パウダー分散液1を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたポリイミドフィルム1を、遠赤外線炉(炉温:380℃)に20分間で通過させて、パウダー1を溶融焼成させた。これにより、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム1)を得た。
【0079】
(例2)
パウダー分散液1に代えて、パウダー分散液2を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー2及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム2)を得た。
(例3)
パウダー分散液1に代えて、パウダー分散液3を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー2を含み、ARポリマー1を含まないポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム3)を得た。
【0080】
(例4)
パウダー分散液1に代えて、パウダー分散液4を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー3及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム4)を得た。
(例5)
ポリイミドフィルム1に代えて、ポリイミドフィルム2を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム2の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム5)を得た。
【0081】
(例6)
ポリイミドフィルム1に代えて、ポリイミドフィルム3を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム3の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム6)を得た。
それぞれのフィルムの外観を目視にて確認した結果、フィルム1~4及び6には波皺の発生が認められず、フィルム5には波皺の発生が認められた。
【0082】
3.測定
3-1.線膨張係数の測定
熱機械的分析装置(SIIナノテクノロジー社製、「TMA/SS6100」)を用いて、フィルム(幅3mm、長さ10mm)を、10℃/分にて0℃から400℃に昇温させた後、40℃/分にて10℃まで冷却し、さらに10℃/分にて10℃から200℃に昇温させた際の線膨張係数として求めた。なお、測定荷重を29.4mNとし、測定雰囲気を空気雰囲気とした。
【0083】
3-2.剥離強度の測定
フィルムから、長さ100mm、幅10mmの矩形状の試験片を切り出した。その後、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置まで、ベースフィルムとポリマー層とを剥離した。次いで、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機(オリエンテック社製)を用いて、引張り速度50mm/分で90度剥離し、最大荷重を剥離強度(N/cm)とした。
【0084】
3-3.吸水率の測定
フィルムを、ASTM D570に準拠して、50℃×48時間で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬した。純水に浸漬する前後のF層の質量を測定し、以下の式に基づき、吸水率を求めた。
吸水率(%)=(水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
以上の例1~4の測定結果を、以下の表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
なお、それぞれのフィルムの波長355nmの光線吸収率は、フィルム1及び2がそれぞれ90%であり、フィルム3が10%であり、フィルム4が50%であった。
【0087】
4.両面銅張積層体
上記で得られたフィルムの両面に、銅箔(電解銅箔CF-T49A-DS-HD2-12、福田金属箔粉工業株式会社)を配し、340℃にて20分間、真空下でプレスした。これにより、フィルム1から両面銅張積層体1を、フィルム2から両面銅張積層体2を、フィルム3から両面銅張積層体3を、フィルム4から両面銅張積層体4をそれぞれ作製した。両面銅張積層体1~4の外観を目視にて確認した結果、波皺の発生は認められなかった。
【0088】
5-1.UVレーザー加工性の評価
レーザー加工機を使用して、両面銅張積層体に対して、直径100μmの円周上を周回するように、波長355nmのUV-YAGレーザーを照射した。これにより、両面銅張積層体に円形の貫通孔を形成した。なお、レーザー出力を1.2W、レーザー焦点径を25μm、円周上の周回回数を20回、発振周波数を40kHzとした。
その後、貫通孔を含む両面銅張積層体の断片を切り出し、熱硬化性エポキシ樹脂で固めた。次いで、貫通孔の断面が露出するまで研磨し、貫通孔が形成された部分の断面を顕微鏡で観察した。
【0089】
両面銅張積層体1における貫通孔5の周辺の断面を撮影した顕微鏡写真を図1に示す。
両面銅張積層体1では、ポリマー層が芳香族性ポリイミドを含むので、UV加工性が良好である。このため、図1の顕微鏡写真に示す通り、貫通孔5の周囲においてUVによるポリマー層及びポリイミドフィルムの劣化の程度が抑制された。
一方、両面銅張積層体3では、ポリマー層が芳香族性ポリイミド(ARポリマー1)を含まないため、貫通孔5を形成するのにUVの照射時間を長くせざるを得ず、貫通孔5の周囲においてUVによるポリマー層及びポリイミドフィルムの劣化の程度が激しかった。
また、両面銅張積層体4においても、貫通孔5を形成するのにUVの照射時間を長くせざるを得ず、貫通孔5の周囲においてUVによるポリマー層及びポリイミドフィルムの劣化の程度が激しかった。
【0090】
5-2.はんだリフロー耐性の評価
両面銅張積層体1~4を288℃のはんだ浴に60秒間、10回浮かべた後、ポリマー層と銅箔との界面の膨れの有無、及び、上記界面の剥離の有無を確認し、以下の評価基準に従って評価した。
○(良) :上記界面に膨れ及び剥離のいずれも発生していない。
△(可) :上記界面に膨れは発生していないが、一部の縁で剥離が発生している。
×(不可):上記界面に膨れ及び剥離の双方が発生している。
この評価結果を、以下の表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
また、面銅張版両面銅張積層体1と同様にして、フィルム5から両面銅張積層体5を、フィルム6から両面銅張積層体6をそれぞれ作成した。外観を目視にて確認した結果、両面銅張積層体5には、ポリマー層に由来する波皺の発生が認められ、両面銅張積層体6には、波皺の発生が認められなかった。
それぞれの両面銅張積層体を、5mm角に切断し、曲率半径(300μm)の条件で180°折り曲げ、上から荷重(50mN、1分間)をかけた後に折り曲げを戻し、外観を確認した結果、両面銅張積層体1~5では折り目に外観異常は認められず、両面銅張積層体6では折り目に白化が認められた。
【0093】
(例7)
遠赤外線炉の炉温を330℃、遠赤外線炉の雰囲気ガスを、酸素ガス濃度8000ppmの窒素ガスとし、3分間で通過させた以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム7)を得た。
(例8)
遠赤外線炉の雰囲気ガスを、酸素ガス濃度100ppm未満の窒素ガスとした以外は、例7と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム、上記ポリマー層がこの順に直接形成されたフィルム(フィルム8)を得た。
【0094】
フィルム7及び8について、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、上記ポリマー層の誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定した。その結果、フィルム7の誘電正接は0.002、フィルム8の誘電正接は0.003であり、フィルム7の電気特性はより向上していた。また、フィルム7の表面の親水性と、フィルム8の表面の親水性は異なっていた。なお、フィルム7の製造において、パウダー分散液1における界面活性剤1を非熱分解性の界面活性剤にかえた場合には、これらの効果は発現しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のフィルムが有するポリマー層は、UV加工性、低吸水性及び接着性を具備した耐熱性や電気特性等のTFE系ポリマー物性に優れる。このため、かかるフィルムを含む金属張積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品等に加工して使用できる。また、かかるフィルムで被覆された金属導体は、長期にわたって高い絶縁性を発揮し、航空宇宙用の電線又は電導コイルに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0096】
1…フィルム、4…銅箔、5…貫通孔、A…両面銅張積層体
【0097】
なお、2019年9月26日に出願された日本特許出願2019-175255号、2020年2月18日に出願された日本特許出願2020-025351号、および2019年8月27日に出願された日本特許出願2019-154856号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。



図1