IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-扉または壁 図1
  • 特許-扉または壁 図2
  • 特許-扉または壁 図3
  • 特許-扉または壁 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】扉または壁
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20231108BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20231108BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20231108BHJP
   E06B 7/28 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B17/06
C03C17/36
E06B7/28 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021561187
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036555
(87)【国際公開番号】W WO2021106348
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019214646
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】矢尾板 和也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 創史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕司
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-173340(JP,A)
【文献】特表2004-514636(JP,A)
【文献】特表2017-523949(JP,A)
【文献】特開平07-104104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
B32B 17/06
C03C 17/36
E06B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉または壁であって、
タッチパネルと、
積層体と、
を有し、
前記積層体は、
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記積層膜は、前記ガラス基板の側から、
窒化ケイ素を含む第1の層、
シリコンを含む第2の層、および
窒化ケイ素を含む第3の層
を有し、
前記積層体は、前記ガラス基板の側から入射される可視光の透過率が10%以上であり、前記積層膜の側から測定される表面抵抗値が200Ω/sq超であり、
前記タッチパネルは、前記積層体の前記積層膜の側に設置される、扉または壁。
【請求項2】
前記第2の層は、最大30質量%以下のアルミニウムを含む、請求項1に記載の扉または壁
【請求項3】
前記第2の層に含まれる、酸素および窒素の含有量は、それぞれ、10原子%未満であり、
前記酸素および窒素の含有量の合計は、15原子%未満である、請求項1または2に記載の扉または壁
【請求項4】
前記第2の層において、窒素とケイ素の含有量の比N/Siは、0.10以下である、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項5】
前記第1の層および/または前記第3の層は、最大30質量%以下のアルミニウムを含む、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項6】
前記積層膜は、前記ガラス基板と前記第1の層の間に酸化物層を含まない、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項7】
前記積層膜は、さらに、前記第3の層の上に保護層を有する、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項8】
前記第1の層は、前記第2の層と隣接している、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項9】
前記第3の層は、前記第2の層と隣接している、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項10】
前記ガラス基板は、熱強化されている、請求項1乃至9のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項11】
前記可視光の透過率をTvとし、前記ガラス基板の側から反射される可視光の反射率をRvとしたとき、比Tv/Rvは、

0.3≦Tv/Rv≦2.0

を満たす、請求項1乃至10のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項12】
さらに、前記積層膜の表面に、有機物層が設置されている、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の扉または壁
【請求項13】
前記積層膜の層数が10以下である、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の扉または壁
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および扉または壁に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板の上に金属製の反射層を含む積層膜を設置した積層体は、例えば、ハーフミラーおよび化粧壁等に使用されている。
【0003】
例えば、引用文献1には、ガラス基板の上に積層膜を有する積層体であって、前記積層膜が誘電体基層と、クロム層と、誘電体窒化物カバー層とを含む積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2004-514636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、前述のような積層体を、タッチパネルを含む装置に適用することが検討されている。例えば、積層体を、タッチパネルを含む扉または壁などの部材(以下、「タッチパネル含有装置」と称する)に適用すれば、ハーフミラーとしての機能を有するタッチパネル含有装置を提供できる可能性がある。
【0006】
しかしながら、従来の積層体は、積層膜に反射率を調整するための金属層を有する。タッチパネル含有装置において、そのような金属層が存在すると、タッチパネルが適正に作動しなくなってしまう。従って、従来の積層体は、タッチパネル含有装置への適用には適さないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、タッチパネル含有装置への適用が可能な積層体を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような積層体を有する扉または壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、積層体であって、
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記積層膜は、前記ガラス基板の側から、
窒化ケイ素を含む第1の層、
シリコンを含む第2の層、および
窒化ケイ素を含む第3の層
を有し、
当該積層体は、前記ガラス基板の側から入射される可視光の透過率が10%以上であり、前記積層膜の側から測定される表面抵抗値が200Ω/sq超である、積層体が提供される。
【0009】
また、本発明では、扉または壁であって、
タッチパネルと、
積層体と、
を有し、
前記積層体は、前述の特徴を有する積層体であり、
前記タッチパネルは、前記積層体の前記積層膜の側に設置される、扉または壁が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、タッチパネル装置への適用が可能な積層体を提供することができる。また、本発明では、そのような積層体を有する扉または壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による積層体の構成を模式的に示した断面図である。
図2】本発明の一実施形態による積層体が適用された扉を模式的に示した断面図である。
図3】本発明の一実施形態による積層体の製造方法の一例を模式的に示したフロー図である。
図4】本発明の一実施形態による積層体の積層膜におけるX線光電子分光(XPS)分析結果の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
(本発明の一実施形態による積層体)
図1には、本発明の一実施形態による積層体の断面を模式的に示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の一実施形態による積層体(以下、「第1の積層体」と称する)100は、ガラス基板110と、積層膜130とを有する。ガラス基板110は、相互に対向する第1の表面112および第2の表面114を有し、積層膜130は、ガラス基板110の第1の表面112の側に配置される。
【0015】
積層膜130は、ガラス基板110に近い順に、第1の層140と、第2の層150と、第3の層160とを有する。
【0016】
第1の層140および第3の層160は、窒化ケイ素を主体とした層で構成される。一方、第2の層150は、シリコンを主体とした層で構成される。
【0017】
本願において、「○○を主体とした層」とは、当該物質が層内に50質量%以上含まれることを意味する。
【0018】
第2の層150は、主として、積層膜130に所望の反射特性を発現させる役割を有する。これに対して、第1の層140および第3の層160は、主として、第2の層150を保護する役割を有する。例えば、第1の層140および第3の層160が存在することにより、第1の積層体100またはその前駆体を熱処理する際に、第2の層150の酸化が抑制される。また、第3の層160により、積層膜130の耐擦傷性を高めることができる。
【0019】
なお、第1の積層体100は、積層膜130の側から測定した際の表面抵抗値が200Ω/sq超である。また、第1の積層体100は、ガラス基板110の側から入射される可視光の透過率、すなわち可視光透過率が10%以上であるという特徴を有する。
【0020】
ここで、前述のように、積層膜に金属層を含む従来の積層体は、タッチパネルが適正に作動しなくなるため、タッチパネル含有装置への適用が難しいという問題がある。
【0021】
しかしながら、第1の積層体100において、積層膜130は、反射層として、従来のクロム層のような金属層を含まない。すなわち、第1の積層体100では、反射特性を発現させる第2の層150は、半導体材料であるシリコンを主体とする層で構成される。
【0022】
また、第1の積層体100は、可視光透過率が10%以上である。
【0023】
さらに、第1の積層体100は、表面抵抗値が200Ω/sq超であるという特徴を有する。
【0024】
従って、第1の積層体100は、タッチパネル含有装置に適正に適用することができる。
【0025】
さらに、第1の積層体100では、積層膜130の第2の層150の厚さ等の調整により、所望の反射特性および透過特性を発現させることができる。
【0026】
従って、第1の積層体100をタッチパネル含有装置に適用した場合、ハーフミラーとしての機能を発現させることができる。また、反射色を調整することにより、高い意匠性を有するタッチパネル含有装置を提供することも可能となる。
【0027】
(積層体を構成する各部材)
次に、本発明の一実施形態による積層体を構成する各部材について、より詳しく説明する。
【0028】
なお、ここでは、明確化のため、図1に示した第1の積層体100を例に、その構成部材について説明する。従って、各部材を表す際には、図1に示した参照符号を使用する。
【0029】
(ガラス基板110)
ガラス基板110としては、従来のガラス基板が使用できる。特に、ガラス基板110の平均可視光透過率は、80%以上であることが好ましい。
【0030】
また、ガラス基板110は、化学強化されていてもよく、熱強化されていてもよい。
【0031】
(第1の層140)
第1の層140は、窒化ケイ素を主体とする層で構成される。
【0032】
第1の層140は、さらにアルミニウムを含んでもよい。第1の層140に含まれるアルミニウムの量は、例えば、最大30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。
【0033】
第1の層140の厚さは、例えば、3nm~80nmの範囲である。第1の層140の厚さは、5nm~30nmの範囲であることが好ましい。
【0034】
(第2の層150)
第2の層150は、シリコンを主体とする層で構成される。シリコンは、アモルファスシリコンであることが好ましい。なお本願において、「アモルファス」とは、X線回折装置によるX線回折パターンにおいて、ピークが観測されないことを意味する。
【0035】
第2の層150は、さらにアルミニウムおよび/または炭素を含んでもよい。第2の層150に含まれるアルミニウムの量は、例えば、最大30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。第2の層150に含まれる炭素の量は、例えば、最大30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。第2の層150に含まれる炭素の量を、最大30質量%以下とすることにより、表面抵抗値の低下を有意に抑制できる。
【0036】
なお、第2の層150は、酸素および窒素をなるべく含まないことが好ましい。これらの元素は、第2の層150の反射特性に悪影響を及ぼし得るためである。
【0037】
第2の層150に含まれる酸素および窒素の含有量は、それぞれ、10原子%未満であることが好ましい。また、第2の層150に含まれる酸素および窒素の合計含有量は、15原子%未満であることが好ましい。
【0038】
なお、本願において、各層に含まれる元素の量は、X線光電子分光(XPS)分析により求めた。XPS分析における装置条件は、以下の通りである。
・測定装置;PHI Quantera II(アルバック・ファイ社製)
・測定条件
イオン中和銃;使用
光電子取出し角;45゜
X線セッティング;Alモノクロ100μmφ 25W,15kV
パスエネルギー;224eV
ステップ;0.4eV
測定元素;C,O,N,Si,Al,Ca,Na
各元素スイープ;5
スパッタパワー;1kV
スパッタ領域;2mm×2mm
インターバル;0.25分。
【0039】
また、第2の層150において、窒素とケイ素の含有量の比N/Siは、0.10以下であることが好ましい。
【0040】
ここで、第2の層150における比N/Siは、第2の層150の深さ方向におけるXPS分析結果から、以下のように算定される。
・第2の層150においてケイ素の測定値が最も高い位置(以下「中心点」という)を求める。
・中心点における窒素の値を求める。
・中心点におけるケイ素の測定値および窒素の測定値から、比N/Siを求める。
【0041】
第2の層150の厚さは、例えば、3nm~40nmの範囲である。第2の層150の厚さは、5nm~30nmの範囲であることが好ましい。
【0042】
(第3の層160)
第3の層160の厚さは、例えば、3nm~80nmの範囲である。第3の層160の厚さは、5nm~60nmの範囲であることが好ましい。
【0043】
なお、第3の層160については、上記第1の層140に関する記載が参照できるため、ここでは、詳細な記載を省略する。
【0044】
(積層膜130)
積層膜130の基本構成は前述の通りであるが、積層膜130は、さらに、最表面に保護層を有してもよい。
【0045】
保護層としては、例えば、チタニア層およびジルコニア層等が挙げられる。
【0046】
また、図1に示した例では、積層膜130において、第1の層140および第2の層150は、相互に隣接している。また、第3の層160および第2の層150は、相互に隣接している。
【0047】
しかしながら、これは単なる一例であって、第1の層140と第2の層150の間、および/または第3の層160と第2の層150との間に、別の層(金属層は除く)が存在してもよい。
【0048】
同様に、ガラス基板110と第1の層140との間に、別の層(金属層は除く)が存在してもよい。ただし、ガラス基板110と第1の層140との間には、酸化物層が存在しないことが好ましい。この場合、後述するように、ガラス基板110の熱強化処理のため、第1の積層体100を熱処理した際に、ヘイズ値の上昇を抑制することが可能になる。
【0049】
積層膜130の層数は、10以下であることが好ましい。層数が10以下であれば、積層体の厚さを低減でき、内部応力の増加が抑制されるため、耐久性の向上につながる。
【0050】
(第1の積層体100)
第1の積層体100は、積層膜130の側から測定した際に、200Ω/sq超の表面抵抗値を有する。表面抵抗値は、400Ω/sq以上であることが好ましい。
【0051】
また、第1の積層体100は、ガラス基板110から積層膜130に向かって測定した際に、10%以上の可視光透過率Tvを有し、20%以上の可視光透過率Tvを有することが好ましい。
【0052】
ここで、「可視光透過率Tv」は、ISO9050:2003に基づいて求められた値である。
【0053】
また、第1の積層体100は、ガラス基板110の側から測定した際に、20%以上の可視光反射率Rvを有することが好ましく、25%以上の可視光反射率Rvを有することがより好ましい。
【0054】
ここで、「可視光反射率Rv」は、ISO9050:2003に基づいて求められた値である。
【0055】
また、第1の積層体100は、可視光透過率Tvと可視光反射率Rvの比、Tv/Rvが0.3≦Tv/Rv≦2.0の範囲にあることが好ましい。この場合、第1の積層体100を好適なハーフミラーとして利用することができる。
【0056】
また、第1の積層体100は、意匠性の観点から、反射色のbが、-10<b<15を満たすことが好ましい。
【0057】
なお、本願において、反射色の色調は、CIE1976L色度座標に基づいて定められる。
【0058】
さらに、第1の積層体100は、ヘイズが0.5%未満であってもよい。
【0059】
(適用例)
本発明の一実施形態による積層体は、タッチパネルを有する扉および壁などに適用することができる。
【0060】
以下、図2を参照して、本発明の一実施形態による積層体の一適用例について説明する。
【0061】
図2には、本発明の一実施形態による積層体が設置された扉の断面を模式的に示す。
【0062】
図2に示すように、この扉201は、積層体200と、有機物層270と、タッチパネル280とを有する。
【0063】
積層体200は、ガラス基板210と、積層膜230とを有する。有機物層270は、積層膜230の上に設置される。また、タッチパネル280は、有機物層270の上に設置される。
【0064】
有機物層270は、扉201の意匠性を高めるために設置される。
【0065】
有機物層270は、第1の部分272および第2の部分274を有する。有機物層270の第1の部分272は、例えば、カーボンブラックのような着色剤を含む樹脂で構成される。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、またはアルキド樹脂が使用されてもよい。
【0066】
一方、有機物層270の第2の部分274は、タッチパネル280の直下に相当する。第2の部分274は、タッチパネル280の動作を妨害しないように、透明な有機物で構成される必要がある。そのような透明な有機物は、例えば、前述の樹脂等で構成されてもよい。
【0067】
ここで、扉201において、積層体200は、本発明の一実施形態による積層体、例えば前述のような第1の積層体100で構成される。
【0068】
前述のように、積層体200は、積層膜230中に金属反射層を含まず、代わりにシリコンを含む第2の層が使用される。また、積層体200は、10%以上の可視光透過率Tvを有し、200Ω/sq超の表面抵抗値を有する。
【0069】
従って、扉201では、タッチパネルを適正に作動させることが可能になる。
【0070】
以上、図2を参照して、本発明の一実施形態による積層体を備えるタッチパネル付き扉201について説明した。しかしながら、本発明の一実施形態による積層体の適用例は、これに限られるものではない。例えば、本発明の一実施形態による積層体は、タッチパネルを有する壁に適用されてもよい。あるいは、本発明の一実施形態による積層体は、その他のタッチパネル含有装置に適用されてもよい。
【0071】
(本発明の一実施形態による積層体の製造方法)
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態による積層体の製造方法について説明する。
【0072】
図3には、本発明の一実施形態による積層体の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0073】
図3に示すように、第1の製造方法は、
ガラス基板の上に第1の層を設置する工程(工程S110)と、
第1の層の上に第2の層を設置する工程(工程S120)と、
第2の層の上に第3の層を設置する工程(工程S130)と、
必要な場合に実施される、ガラス基板を熱強化処理する工程(工程S140)と、
を有する。
【0074】
以下、各工程について説明する。なお、ここでは、図1に示した第1の積層体100を例に、その製造方法について説明する。従って、各部材を表す際には、図1に示した参照符号を使用する。
【0075】
(工程S110)
まず、ガラス基板110が準備される。また、ガラス基板110の第1の表面112に、窒化ケイ素を主体とする第1の層140が設置される。
【0076】
第1の層140の設置方法は、特に限られず、従来の任意の成膜方法を用いて成膜されてもよい。第1の層140は、例えば、スパッタリング法により成膜されてもよい。
【0077】
(工程S120)
次に、第1の層140の上に、シリコンを主体とする第2の層150が設置される。第2の層150の設置方法は、特に限られず、従来の任意の成膜方法を用いて成膜されてもよい。第2の層150は、例えば、スパッタリング法により成膜されてもよい。
【0078】
(工程S130)
次に、第2の層150の上に、窒化ケイ素を主体とする第3の層160が設置される。第3の層160の設置方法は、特に限られず、従来の任意の成膜方法を用いて成膜されてもよい。第3の層160は、例えば、スパッタリング法により成膜されてもよい。
【0079】
なお、第1の層140~第3の層160がいずれもスパッタリング法で成膜される場合、各層は、同一のスパッタ装置内で成膜されてもよい。この場合、一つの層を成膜する度にガラス基板を出し入れする必要がなくなり、成膜工程を効率化できる。
【0080】
あるいは、各層は、インライン型の成膜装置を用いて、連続的に設置されてもよい。インライン型の装置では、ガラス基板が装置内を搬送されている間に、各層が順次成膜される。
【0081】
(工程S140)
工程S130までのステップにより、前述のような構成を有する第1の積層体100を製造することができる。ただし、必要な場合、工程S130の後に、さらに、ガラス基板110を熱強化処理する工程を実施してもよい。
【0082】
そのような熱強化処理は、通常、600℃~700℃の範囲で実施される。
【0083】
なお、積層膜130には、シリコンを主体とする第2の層150が含まれる。しかしながら、第2の層150は、第1の層140と第3の層160との間に挟まれている。従って、熱強化処理の際に、第2の層150が熱影響を受けて変質するという問題は生じ難い。すなわち、熱強化処理の前後で、積層膜130はほとんど変化しない。
【0084】
例えば、第1の積層体100では、熱強化処理後のヘイズを0.5%未満にすることができる。
【0085】
ただし、工程S110の前に、ガラス基板110の第1の表面112に酸化物層を設置する工程を実施した場合、化学強化処理後のヘイズが0.5%以上となる場合がある。
【0086】
従って、ガラス基板110の直上に酸化物層を設置する工程は、実施しないことが好ましい。
【0087】
(追加の工程)
以上の工程により、第1の積層体100を製造することができる。ただし、前述の図2に示した扉201を製造する場合、以下の追加工程が実施され得る。
【0088】
(有機物層の設置)
扉201を製造する場合、第1の積層体100の積層膜130の側に、さらに、有機物層270が設置される。
【0089】
有機物層270の形成方法は、特に限られない。有機物層270は、例えば、スクリーン印刷法等により設置されてもよい。
【0090】
なお、前述のように、有機物層270は、第1の部分272および第2の部分274を有する。従って、第1の部分272は、色素を含む樹脂をスクリーン印刷法することにより構成され、第2の部分274は、色素を含まない(透明な)樹脂をスクリーン印刷法することにより構成されてもよい。
【0091】
有機物層270の設置後に、第1の積層体100を熱処理してもよい。これにより、有機物層270が乾燥され、第3の層160の上に固着される。
【0092】
熱処理の温度は、例えば、50℃~200℃の範囲であってもよい。
【0093】
(タッチパネルの設置)
その後、有機物層270の第2の部分274上に、タッチパネル280が設置される。
【0094】
以上の工程により、前述の図2に示した扉201を製造することができる。
【0095】
なお、上記第1の製造方法は、単なる一例であって、本発明の一実施形態による積層体が別の製造方法で製造され得ることは、当業者には明らかである。
【実施例
【0096】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例6および例21は実施例であり、例11は比較例である。
【0097】
(例1)
以下の方法で積層体を作製した。
【0098】
まず、ガラス基板(ソーダライムガラスFL4、厚さ4mm:AGC社製)を準備した。次に、スパッタリング法により、ガラス基板上に積層膜を成膜した。積層膜は、第1の層、第2の層、および第3の層の3層構成とした。
【0099】
成膜装置には、ラボ用のインライン型スパッタリング装置を使用し、成膜室内でガラス基板を搬送させながら、反応性DCマグネトロンスパッタリング法により、順次3つの層の成膜を行うことにより、積層膜を形成した。
【0100】
各層の成膜用のターゲットとして、ポリシリコンターゲットを使用した。成膜室内は、2.0×10-4Paまで真空排気した。
【0101】
第1の層は、窒化ケイ素層(目標厚さ20nm)とし、放電ガスとして、アルゴンと窒素の混合ガス(Ar:N=40sccm:60sccm)を使用した。ターゲットの寸法は、70×200mmであり、スパッタ電力は500Wとした。成膜室の圧力は、0.4Paであった。
【0102】
第2の層は、シリコン層(目標厚さ23nm)とし、放電ガスとしてアルゴンを100sccm導入した。スパッタ電力は500Wとした。
【0103】
第3の層は、窒化ケイ素層(目標厚さ10nm)とした。第3の層の成膜条件は、第1の層と同様とした。
【0104】
以上の方法によりガラス基板上に積層膜を形成した後、ガラス基板の熱強化のため、得られた積層体を熱処理した。熱処理温度は、650℃とした。
【0105】
得られた積層体を「サンプル1」と称する。
【0106】
(例2~例5)
例1と同様の方法により、積層体を作製した。ただし、例2~例5では、積層膜に含まれる各層の厚さを例1の場合とは変化させた。
【0107】
得られた積層体を、それぞれ、「サンプル2」~「サンプル5」と称する。
【0108】
(例6)
例1と同様の方法により、積層体を作製した。ただし、この例6では、ガラス基板に第1の層を成膜する前に、ガラス基板上にチタニア層(目標厚さ40nm)を成膜した。
【0109】
チタニア層は、チタンターゲットを用いて形成した。放電ガスとして、アルゴンと酸素の混合ガス(Ar:O=40sccm:60sccm)を導入した。スパッタ電力は500Wとした。
【0110】
得られた積層体を、「サンプル3」と称する。
【0111】
(例11)
例1と同様の方法により、積層体を作製した。ただし、この例11では、第2の層として、金属クロム層(目標厚さ13nm)を形成した。
【0112】
金属クロム層は、クロムターゲットを用いて形成した。放電ガスとして、アルゴンガスを100sccm導入した。スパッタ電力は500Wとした。
【0113】
得られた積層体を、「サンプル11」と称する。
【0114】
(例21)
より実際の製造プロセスに近い状態で積層体を製造した。すなわち、生産用のインライン型成膜装置を用いて積層体を作製した。この装置で成膜される積層膜は、前述のようなラボ用の装置に比べて、不純物の影響を受けやすいと言える。
【0115】
積層体は、ガラス基板(ソーダライムガラスFL4、厚さ4mm:AGC社製)の上に、3層構造の積層膜を有する。
【0116】
積層膜の構成は、以下とした:
・第1の層:目標厚さ10nmのSiAlN(Al=10at%)
・第2の層:目標厚さ23nmのSiAl(Al=10at%)
・第3の層:目標厚さ20nmのSiAlN(Al=10at%)
第1の層、第2の層および第3の層の成膜には、SiAlターゲットを使用した。
【0117】
成膜後に、例1と同様の方法で、積層体を熱処理した。
【0118】
得られた積層体を、「サンプル21」と称する。
【0119】
以下の表1には、各サンプルにおける積層膜の仕様をまとめて示した。
【0120】
【表1】
図4には、サンプル21の積層膜において得られたX線光電子分光(XPS)分析の結果を示す。ただし、この結果は、サンプル21の熱強化処理前の状態に対応する(すなわち、熱処理が未実施の試料で測定した)。
【0121】
図4において横軸は、スパッタリング時間(層の厚さに対応する)であり、縦軸は、各原子の濃度(任意単位)である。
【0122】
図4には、サンプル21の積層膜を構成する3つの層に対応するピークが出現している。また、図4から、第2の層内には、不純物として、NおよびOがほとんど含まれていないことがわかる。
【0123】
得られた結果から、第2の層における窒素とケイ素の含有量の比N/Siを算定したところ、比N/Siは、0.06であった。
【0124】
なお、サンプル21の積層膜(すなわち熱処理実施後のもの)において、同様の分析を実施したが、分析結果は図4の結果とほぼ等しく、大きな違いは認められなかった。
【0125】
(評価)
以下の方法で各サンプルの特性を評価した。
【0126】
(光学特性)
分光光度計(U4100:HITACHI社製)を用いて、各サンプルの光学特性を評価した。
【0127】
サンプルの可視光透過率Tvおよび可視光反射率Rvを、ISO9050:2003に基づいて測定した。可視光透過率Tvは、ガラス基板から積層膜に向かって測定した。可視光反射率Rvは、ガラス基板の側から測定した。
【0128】
得られた結果から、比Tv/Rvを算定した。
【0129】
また、反射色の色調を、CIE1976L色度座標に基づいて評価した。
【0130】
(表面抵抗値)
各サンプルの表面抵抗値を測定した。
【0131】
測定装置には、携帯式表面抵抗測定器(STRATOMETER:NAGY社製)を使用した。測定は、各サンプル(10cm×10cm)において、積層膜の表面側で実施した。
【0132】
(ヘイズ値)
各サンプルのヘイズ値を測定した。
【0133】
測定にはヘイズメータを用い、各サンプルにおいて、ガラス基板の側から測定した。
【0134】
(結果)
以下の表2には、各サンプルにおいて得られた評価結果をまとめて示す。
【0135】
【表2】
表2から明らかなように、サンプル11は、表面抵抗値および可視光透過率Tvが低い値を示した。このような特性を有するサンプル11は、タッチパネルに適用することは難しいと考えられる。これに対して、サンプル1~6およびサンプル21では、表面抵抗値が1000Ω/sq超となり、可視光透過率Tvが10%以上となった。このような特性を有するサンプル1~6およびサンプル21は、タッチパネルに適正に適用することができる。
【0136】
また、サンプル1~4およびサンプル21では、反射色の色調において、bが-10<b<15を満たすことがわかる。このような積層体は、タッチパネル含有装置に適用した際に、その意匠性を高めることができる。
【0137】
また、サンプル1~3、サンプル6およびサンプル21では、比Tv/Rvが0.3から2.0の範囲となった。従って、これらのサンプルは、タッチパネル含有装置に適用した際に、ハーフミラーとしての機能を兼ね備えることができると言える。
【0138】
なお、サンプル6では、ヘイズ値が比較的高い値を示した。これは、熱処理によって、積層膜が変質したことを示す。従って、サンプル6の構成では、ガラス基板の熱強化処理の実施は好ましくないと言える。
【0139】
本願は、2019年11月27日に出願した日本国特許出願第2019-214646号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0140】
100 第1の積層体
110 ガラス基板
112 第1の表面
114 第2の表面
130 積層膜
140 第1の層
150 第2の層
160 第3の層
200 積層体
201 扉
210 ガラス基板
230 積層膜
270 有機物層
272 第1の部分
274 第2の部分
280 タッチパネル
図1
図2
図3
図4