(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】電気脱イオン装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20231108BHJP
B01D 61/54 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/54 500
(21)【出願番号】P 2022041516
(22)【出願日】2022-03-16
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃久
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸也
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-267907(JP,A)
【文献】特開2002-205069(JP,A)
【文献】特開2021-102206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44-48
B01D 53/22
61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間にイオン交換膜によって濃縮室と脱塩室とが交互に形成され、濃縮水が該濃縮室に流通され、被処理水が脱塩室に流通されて生産水として取り出される電気脱イオン装置を運転する方法において、
すべての濃縮室に対し、脱塩室における被処理水の通水方向と反対方向に濃縮水を通水する
電気脱イオン装置の運転方法であって、
複数のサブブロック(1~6)が該電気脱イオン装置の一端側から他端側に向って配列されており、
各サブブロック(1~6)は、交互に配置されたカチオン交換膜とアニオン交換膜とによって脱塩室と濃縮室のペアが複数個形成されたものであり、
該電気脱イオン装置には、各サブブロック(1~6)への被処理水給水路及び各サブブロック(1~6)からの濃縮水集水路が設けられた第1ヘッド部が設けられているとともに、
該電気脱イオン装置には、各サブブロック(1~6)からの脱塩水集水路及び各サブブロックへの濃縮水給水路が設けられた第2ヘッド部が設けられており、
該被処理水給水路に連なる被処理水の流入ポート(11)、該脱塩水集水路に連なる脱塩水の流出ポート(12)、該濃縮水給水路に連なる濃縮水の流入ポート(13)、及び該濃縮水集水路に連なる濃縮水の流出ポート(14)が該電気脱イオン装置の前記一端側に設けられており、
該被処理水給水路に連なる被処理水の流入ポート(21)、該脱塩水集水路に連なる脱塩水の流出ポート(22)、該濃縮水給水路に連なる濃縮水の流入ポート(23)、及び該濃縮水集水路に連なる濃縮水の流出ポート(24)が該電気脱イオン装置の前記他端側に設けられており、
被処理水の流入ポート(11,21)から前記被処理水給水路に、前記一端側と他端側とを結ぶ方向の中央側に向って被処理水が導入され、
脱塩水の流出ポート(12,22)からそれぞれ脱塩水が流出し、
濃縮水の流入ポート(13,23)から前記濃縮水給水路に、前記一端側と他端側とを結ぶ方向の中央側に向って濃縮水が導入され、
濃縮水の流出ポート(14,24)からそれぞれ濃縮水が流出することを特徴とする電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項2】
給水の電気伝導率が0.2~2.0mS/mである請求項1の電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項3】
給水の無機炭酸濃度が50~300μg/L as Cである請求項1又は2の電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項4】
脱塩室の通水SVを70~150/hとし、濃縮室の通水SVを5~150/hとする請求項1~3のいずれかの電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項5】
前記第1ヘッド部は上側ヘッド部であり、前記第2ヘッド部は下側ヘッド部であり、
前記被処理水は、各脱塩室内に下降流にて通水され、
前記濃縮水は、各濃縮室内に上向流にて通水される
請求項1~4のいずれかの電気脱イオン装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱イオン水を製造するための電気脱イオン装置(電気脱イオン水製造装置)の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気脱イオン装置は、一般に陰極(カソード)及び陽極(アノード)間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とを交互に配置し、これらカチオン交換膜及びアニオン交換膜により区画形成することで脱塩室及び濃縮室を形成し、この脱塩室及び前記濃縮室にイオン交換樹脂を充填したものである。カチオン交換膜やアニオン交換膜などのイオン交換膜としては、粉末状のイオン交換樹脂にポリスチレンなどの結合剤を加えて製膜した不均質膜や、スチレン-ジビニルベンゼン等の重合によって製膜した均質膜などのほか、各種アニオン交換機能あるいはカチオン交換機能を有する単量体をグラフト重合により製膜したものなどが用いられている。
【0003】
図2は特許文献1の電気脱イオン装置の基本構成を示すものである。図示のとおり、電気脱イオン装置は、陰極(カソード)及び陽極(アノード)間にカチオン交換膜CEMとアニオン交換膜AEMとを交互に配置し、これらカチオン交換膜及びアニオン交換膜により脱塩室及び濃縮室を交互に形成し、各脱塩室及び前記濃縮室にイオン交換樹脂(図示略)を充填したものである。
【0004】
上述したような電気脱イオン装置において、脱塩室に原水を通過させるとともに濃縮室に濃縮水を通過させ、陰極及び陽極間に電流を流すと、脱塩室からアニオン交換膜及びカチオン交換膜を通って濃縮室へイオンが移動し、脱塩室流出水として脱イオン水(純水)が得られる。濃縮室から流出した濃縮水は、廃棄されるか、あるいは部分的にリサイクルされる。
【0005】
このような電気脱イオン装置は、種々の産業、例えば半導体チップの製造工程、火力又は原子力発電所、石油化学工場、医薬品製造工程などにおいて純水製造装置として利用されている。
【0006】
特に半導体市場で要求される生産水水質は高く、処理水比抵抗値15MΩ・cm以上や、高いホウ素・シリカ除去率が必要な場合も多い。また、近年は、処理水水質の高純度化に加え、節電や節水も考慮した運転条件設定が求められている。
【0007】
半導体製造工程向けの電気脱イオン装置として、Evoqua Water Technologies,LLC社(558 Clark Road Tewksbury,Massachusetts 01876,USA)製のIP-VNX55EP-2が市販されている。この電気脱イオン装置VNX55EP-2は、
図3に示すように、サブブロック1~6を備えている。各サブブロック1~6は、交互に配置されたカチオン交換膜CEMとアニオン交換膜AEMとによって、脱塩室と濃縮室のペアが複数個形成されたものである。
【0008】
図3に示す運転方法では、サブブロック1~3に給水(原水)と濃縮水とがそれぞれのポートから供給される。給水の一部は、サブブロック1~3の給水路(上側ヘッド部)を通過してサブブロック4~6の給水路(上側ヘッド部)に供給される。この給水は、各サブブロック1~6の各脱塩室を通り、脱塩水集水路(下側ヘッド部)を経て処理水取出ポートから取り出される。
【0009】
濃縮水はサブブロック1~3のヘッド部(上側ヘッド部)に供給され、サブブロック1~3の各濃縮室を通過し、サブブロック1~3の濃縮水集水路(下側ヘッド部)からサブブロック4~6の濃縮水ヘッド部(下側ヘッド部)に導入され、サブブロック4~6の各濃縮室に通水され、サブブロック4~6の濃縮水の上側ヘッド部を経て濃縮水取出ポートから取り出される。
【0010】
この電気脱イオン装置VNX55EP-2の運転方法においては、サブブロック1~3では、脱塩室と濃縮室とに給水(原水)と濃縮水とを並向流にて通水し、サブブロック4~6では脱塩室と濃縮室とで給水と濃縮水との流れを対向流(反対方向の流れ)としている。すなわち、
図3では、すべての脱塩室に給水を下降流にて通水している。一方、濃縮水の通水向きは、前半(サブブロック1,2,3)は下降流とし、後半(サブブロック4,5,6)は上向流としている。このようにサブブロック1~3とサブブロック4~6とで濃縮水の通水方向を逆にすることで濃縮水の使用水量を半分にしている。、
【0011】
しかしながら、この通水方法によると、サブブロック1~3では、脱塩室下部と濃縮室下部とでイオン濃度差が大きくなるため、濃度拡散により濃縮室から脱塩室へイオンが移動し、処理水水質が低下してしまう。
【0012】
そのため、高純度の生産水を得るためには、電気脱イオン装置の前段に給水のイオン負荷を下げる機構(例えば、逆浸透膜装置や、膜脱気装置など)を設置することや、後段に更にイオンを除去する機構を設けたりする必要がある。この結果、設備の装置点数が多くなり、設置スペースの増加やコストアップ、電力消費アップなどが生じる。
【0013】
なお、
図3に示す電気脱イオン装置VNX55EP-2のサブブロック1,3は、脱塩室と濃縮室のペアを17個備え、サブブロック2は該ペアを16個備えている。サブブロック4,6は該ペアを17個備え、サブブロック5は該ペアを16個備えている。
図3中の「-」は負極室を示し、「+」は陽極室を示す。符号10は電源ボックスを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のとおり、
図3の電気脱イオン装置の通水方式では、サブブロック1~3では、給水と濃縮水とは並向流となっており、サブブロック4~6では対向流となっているため、サブブロック1~3では、脱塩室下部と濃縮室下部とでイオン濃度差が大きくなり、濃度拡散により濃縮室から脱塩室へイオンが移動し、処理水水質が低下していた。
【0016】
本発明は、濃縮室から脱塩室へのイオンの濃度拡散を防ぎ、水質を向上させることができる電気脱イオン装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様の電気脱イオン装置の運転方法は、陽極と陰極との間にイオン交換膜によって濃縮室と脱塩室とが交互に形成され、濃縮室に濃縮水が通水され、被処理水が脱塩室に流通されて生産水として取り出される電気脱イオン装置を運転する方法において、すべての濃縮室に対し、脱塩室における被処理水の通水方向と反対方向に濃縮水を通水することを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様では、給水の電気伝導率が0.2~2.0mS/mである。
【0019】
本発明の一態様では、給水の無機炭酸濃度が50~300μg/L as Cである。
【0020】
本発明の一態様では、脱塩室の通水SVを70~150/hとし、濃縮室の通水SVを5~150/hとする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気脱イオン装置の運転方法によると、濃縮室から脱塩室へのイオンの濃度拡散を抑制することが出来る。これにより、給水水質の許容範囲の増加や、後段の処理機構の削減が行える。また、設備の簡略化が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の電気脱イオン装置の運転方法を示すフロー図である。
【
図3】従来の電気脱イオン装置の運転方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0024】
図1の電気脱イオン装置は、
図3の電気脱イオン装置と同様に、陰
極「-」と陽
極「+」との間に、脱塩室と濃縮室とのペアを多数有するサブブロック1,2,3と、同様のサブブロック4,5,6とを有する。
【0025】
給水は、サブブロック1~3及びサブブロック4~6の給水ヘッド部(上側ヘッド部)に対し各々の給水ポート11,21から供給される。各サブブロック1~6において、すべての脱塩室に給水が下降流にて通水される。サブブロック1~3の処理水(脱塩水)は、下側ヘッド部を経て処理水流出ポート12から取り出される。サブブロック4~6の処理水(脱塩水)は、下側ヘッド部を経て処理水流出ポート22から取り出される。
【0026】
また、濃縮水は、サブブロック1~3及びサブブロック4~6の濃縮水ヘッド部(下側ヘッド部)に対し各々の濃縮水流入ポート13,23から供給され、すべての濃縮室に濃縮水が上向流にて通水される。サブブロック1~3の濃縮水は、上側ヘッド部を経て濃縮水流出ポート14から取り出される。サブブロック4~6の濃縮水は、上側ヘッド部を経て濃縮水流出ポート24から取り出される。
【0027】
このように、各サブブロック1~6において、脱塩室と濃縮室に対し、給水(被処理水)と濃縮水とは対向流にて通水される。すなわち、
図1では、各サブブロック1~6において、すべての脱塩室に給水が下降流にて通水され、すべての濃縮室に濃縮水が上向流にて通水される。なお、通水方向は、上下方向に限定されるものではなく、水平方向などでもよい。
図1のその他の構成は
図3と同様である。
【0028】
脱塩室の通水SVは70~150/h特に100~120/hが好ましい。濃縮室の通水SVは5~50/h特に10~25/hが好ましい。回収率は80~99%特に90~95%が好ましい。通電する電流は0.15~2.30A/(m3/h)特に0.7A/(m3/h)~1.2A/(m3/h)が好ましい。
【0029】
給水水質(電気伝導率)は、0.1~2.0mS/m特に0.3~1.0mS/mが好ましい。給水IC(無機炭酸)濃度は50~300μg/L as C特に100~200μg/L as Cが好ましい。
【0030】
図1では、サブブロックは左右で3個ずつ、合計6個設置されているが、これに限定されず、1~6個程度であればよい。
【0031】
1つのサブブロックにおける脱塩室と濃縮室とのペアの数は1~100個程度であればよい。
【実施例】
【0032】
[実施例1、比較例1]
<実験条件>
電気脱イオン装置としてEvoqua Water Technologies,LLC社(558 Clark Road Tewksbury,Massachusetts 01876,USA)製のIP-VNX55EP-2を使用した。給水及び濃縮水の通水方法を、実施例1では
図1の通りとし、比較例1では
図3の通りとした。その他の条件は以下の通りである。
【0033】
膜面積:0.06m2
脱塩室厚み:9mm
濃縮室厚み:4mm
処理水量:10.5m3/h
脱塩室SV:100/h
濃縮水量:0.5m3/h
濃縮室SV(実施例1):22/h
濃縮室SV(比較例1):44/h
回収率:95%
運転電流値:10A
電流密度:0.86A/(m3/h)
給水導電率:0.5mS/m
給水IC濃度:150μ/L as C
【0034】
<結果・考察>
処理水比抵抗値の経時変化を
図4に示す。通水開始から150hrまで、(0~150hr)が比較例1であり、150h以降が実施例1である。
【0035】
図4のとおり、比較例1では、処理水比抵抗値を16MΩ・cm以上に上昇させることが出来なかったが、実施例1によると、処理水比抵抗値を18MΩ・cmまで上昇させることが出来た。
【0036】
比較例1の方法では、通常の半分の水量を前半で下向流とし、後半で上向流とした事で濃縮室の線流速を速くすることが出来るため、濃縮室へのイオンの蓄積(及び、濃度による逆拡散)の防止が出来るが、本発明によると、線流速が従来技術の半分にも拘わらず水質を向上させることが出来る。これにより、処理水を被処理水に対して向流で通水することによる逆拡散の防止の効果により、高純度の水を得られることが確認された。
【符号の説明】
【0037】
1~6 サブブロック
11、21 給水ポート
12、22 処理水流出ポート
13、23 濃縮水流入ポート
14、24 濃縮水流出ポート