(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】上水の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20231108BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20231108BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20231108BHJP
【FI】
C02F1/28 D
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 531P
C02F1/50 560B
C02F1/50 560Z
C02F1/76 A
C02F1/50 520B
(21)【出願番号】P 2022046560
(22)【出願日】2022-03-23
(62)【分割の表示】P 2018130015の分割
【原出願日】2018-07-09
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】志水 浩三
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-275832(JP,A)
【文献】特開2014-087787(JP,A)
【文献】特開平10-165826(JP,A)
【文献】特開平07-016561(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1962493(CN,A)
【文献】Wat.Res.,1994年,Vol.28, No.5,P.1059-1069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
C02F 1/70 - 1/78
C02F 1/52 - 1/56
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に
、塩素酸を含む次亜塩素酸ナトリウムと凝集剤を添加して凝集処理した後固液分離し、固液分離水を活性炭処理し、活性炭処理水に次亜塩素酸塩を添加する上水の製造方法において、
前記原水は、
前記塩素酸を含
む次亜塩素酸ナトリウム
が添加
されることにより塩素酸濃度が0.6mg/Lを上回
るものとなる上水の製造方法であって、
該活性炭処理に先立ち、該固液分離水に酸を添加してpH6.0以下の酸性条件下で活性炭処理し、該活性炭処理水に次亜塩素酸塩とアルカリを添加することを特徴とする上水の製造方法。
【請求項2】
原水に
、塩素酸を含む次亜塩素酸ナトリウムと凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理手段であって、
前記原水は、
前記塩素酸を含
む次亜塩素酸ナトリウム
が添加
されることにより塩素酸濃度が0.6mg/Lを上回る
ものとなる凝集処理手段と、
該凝集処理手段で凝集処理された凝集処理水を固液分離する固液分離手段と、該
固液分離手段で固液分離された固液分離水に酸を添加してpH6.0以下に調整するpH調整手段と、該pH調整手段でpH調整された固液分離水が通水される活性炭塔と、該活性炭塔の流出水に次亜塩素酸塩とアルカリを添加する薬注手段とを有する上水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素酸含有水を活性炭により処理して水中の塩素酸を吸着除去する塩素酸含有水の処理方法及び処理装置に関する。本発明はまた、この技術を利用した上水の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理システムでは、通常、雨水や河川水等の原水に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を添加して殺菌処理すると共に凝集剤を添加して凝集処理した後、沈殿、ろ過による固液分離が行われている。殺菌剤として使用される次亜塩素酸ナトリウムは保管中に酸化されて塩素酸濃度が上昇する。特に高温下での塩素酸濃度の上昇は顕著である。塩素酸を含む次亜塩素酸ナトリウムを添加して得られた上水には次亜塩素酸ナトリウム由来の塩素酸が含まれることとなるが、平成19年に、「塩素酸濃度0.6mg/L以下」が水道水基準として追加されたことに伴い、この基準を満たさない場合は、塩素酸の処理が必要となる。
【0003】
塩素酸は重亜硫酸ナトリウム等の還元剤で除去することはできず、その除去方法としては、活性炭による吸着処理が挙げられる。従って、塩素酸を含む次亜塩素酸ナトリウムの添加で塩素酸濃度が0.6mg/Lを上回った場合は、沈殿、ろ過して得られた分離水を活性炭処理し、その後再度酸次亜塩素酸ナトリウムを添加することが行われる。
【0004】
しかし、活性炭塔に塩素酸含有水を通水すると早期に活性炭による塩素酸の吸着量が飽和に達し、それ以上は活性炭を吸着除去できず、活性炭の交換頻度が高いという問題がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】内藤環境管理株式会社「水道水質基準への「塩素酸」の追加について」(2008.3.5)インターネットhttp://www.knights.jp/knightsreport/reports/KR06012.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩素酸含有水を活性炭で処理して水中の塩素酸を吸着除去するに当たり、活性炭の塩素酸吸着量を高めて活性炭の交換頻度を低減する塩素酸含有水の処理方法及び処理装置と、この技術を利用した上水の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、塩素酸含有水を酸性条件下で活性炭と接触させることで、上記課題を解決することができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] 塩素酸含有水を酸性条件下で活性炭と接触させることを特徴とする塩素酸含有水の処理方法。
【0009】
[2] [1]において、前記塩素酸含有水に酸を添加してpH6.0以下の酸性条件下で活性炭と接触させることを特徴とする塩素酸含有水の処理方法。
【0010】
[3] 原水に次亜塩素酸塩と凝集剤を添加して凝集処理した後固液分離し、固液分離水を活性炭処理し、活性炭処理水に次亜塩素酸塩を添加する上水の製造方法において、該活性炭処理に先立ち、該固液分離水に酸を添加して酸性条件下で活性炭処理し、該活性炭処理水に次亜塩素酸塩とアルカリを添加することを特徴とする上水の製造方法。
【0011】
[4] 塩素酸含有水を活性炭塔に通水して処理する塩素酸含有水の処理装置であって、該活性炭塔に通水される塩素酸含有水に酸を添加してpH6.0以下に調整するpH調整手段を有することを特徴とする塩素酸含有水の処理装置。
【0012】
[5] 原水に次亜塩素酸塩と凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理手段と、凝集処理水を固液分離する固液分離手段と、該固液分離水に酸を添加してpH6.0以下に調整するpH調整手段と、該pH調整手段でpH調整された固液分離水が通水される活性炭塔と、該活性炭塔の流出水に次亜塩素酸塩とアルカリを添加する薬注手段とを有する上水の製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩素酸含有水を活性炭で処理して水中の塩素酸を吸着除去するに当たり、活性炭の塩素酸吸着量を高めて活性炭の交換頻度を低減することができる。
本発明によればまた、この技術を利用して塩素酸濃度を低減した上で上水を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の上水の製造方法及び装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【
図2】実施例1~4と比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の塩素酸含有水の処理方法は、酸性条件下で塩素酸含有水を活性炭に接触させることを特徴とする。
本発明に従って、塩素酸含有水を酸性条件下で活性炭に接触させると、活性炭の塩素酸吸着量が増大するメカニズムについては、以下の通り推定される。
即ち、塩素酸は分子式HClO3で表される酸化剤であり、特にpHを低くすると強い酸化剤として反応する。このため、低pHの酸性条件下で活性炭に塩素酸含有水を接触させると、塩素酸含有水中の塩素酸が強い酸化剤として活性炭と反応することで、活性炭に効率的に吸着するようになり、活性炭吸着量が増大する。
【0017】
塩素酸含有水を活性炭と接触させる際のpH条件は、低い程活性炭の塩素酸吸着量を増加させることができ、活性炭交換頻度の面では好ましいが、上水等、処理水の用途によってはpH中性であることが好ましい場合があり、その場合活性炭処理水の中和のためのアルカリ添加量が増え好ましくない。
活性炭の塩素酸吸着量と活性炭処理水へのアルカリ添加量との双方を勘案した場合、塩素酸含有水は塩酸又は硫酸等の酸の添加でpH6.0以下、例えばpH4.0~5.0の酸性条件に調整して活性炭と接触させることが好ましい。
【0018】
なお、塩素酸含有水を活性炭に接触させる方法としては特に制限はなく、塩素酸含有水中に活性炭を投入して撹拌又は振とうする方法であってもよいが、工業的には活性炭を充填した活性炭塔に塩素酸含有水を上向流又は下向流で通水する方法が好ましい。
【0019】
塩素酸の吸着除去に用いる活性炭の種類には特に制限はない。
【0020】
本発明において処理する塩素酸含有水としては特に制限はないが、本発明は、特に長期保存により塩素酸が生成した次亜塩素酸ナトリウムを添加した水、とりわけ、上水の製造において、原水に殺菌剤としてこのような次亜塩素酸ナトリウムを添加することで塩素酸を含む水の処理に好適である。このような塩素酸含有水の塩素酸含有量は通常0.6~0.8mg/L程度であり、本発明では、このような塩素酸含有水を酸性条件下に活性炭と接触させて、水道水基準の塩素酸濃度0.6mg/L以下、特に0.5mg/L以下、例えば0.3~0.5mg/Lとなるように塩素酸を吸着除去することが好ましい。
【0021】
図1は、本発明を適用して上水を製造する装置を示す系統図であり、雨水、河川水等の原水は凝集処理槽1で次亜塩素酸ナトリウムが添加されて殺菌処理されると共に、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤が添加されて凝集処理され、凝集処理水は沈殿槽2で沈降分離され、上澄水は更にろ過器3でろ過される。ろ過処理水は塩酸、硫酸等の酸が添加されてpH酸性に調整された後活性炭塔4に通水されて水中の塩素酸が吸着除去される。この活性炭塔4の流出水は、酸性であると共に、活性炭により前段で添加された次亜塩素酸ナトリウムも除去されているため、水酸化ナトリウム等のアルカリが添加されてpH中性にpH調整されると共に再度次亜塩素酸ナトリウムが添加されて上水として供給される。
【0022】
このような上水処理に本発明を適用することで、活性炭塔における塩素酸吸着効率を高めると共に活性炭の交換頻度を低減して効率的な処理を行える。
【実施例】
【0023】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1~4、比較例1]
以下の原水と活性炭を用いて、以下の試験方法で原水pHと活性炭の塩素酸吸着量及び処理水塩素酸濃度との関係を調べる実験を行った。
【0025】
<原水>
工業用水
pH=7.5
塩素酸濃度=0.64mg/L
TOC=2.2mg/L
【0026】
<活性炭>
栗田工業(株)製 石炭系活性炭「クリコール(登録商標)WG160」
【0027】
<試験方法>
硫酸を添加してそれぞれ以下のpHに調整した原水300mlに、活性炭0.1gを添加した後、5日間振とうした。その後、No.5Aろ紙でろ過して得られた水(処理水)の塩素酸濃度を分析し、この塩素酸濃度から1g当たりの活性炭に吸着された塩素酸量を算出した。
【0028】
<調整pH>
実施例1=6.0
実施例2=5.0
実施例3=4.0
実施例4=3.0
比較例1=7.0
【0029】
処理水塩素酸濃度と活性炭1g当たりの塩素酸吸着量(g-塩素酸/g-AC)との関係を
図2に示す。
図2より、塩素酸含有水のpHが低い程処理水塩素酸濃度が低く、活性炭の塩素酸吸着量が多く、pH調整を行わない従来法に対して、本発明によれば活性炭の塩素酸吸着量を増加させて、活性炭の交換頻度を低減することができることが分かる。
【符号の説明】
【0030】
1 凝集処理槽
2 沈殿槽
3 ろ過器
4 活性炭塔