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特許7380947導電性金属粒子の製造方法および導電性金属粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】導電性金属粒子の製造方法および導電性金属粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20231108BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20231108BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231108BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20231108BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231108BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20231108BHJP
【FI】
B22F9/24 C
C22C19/03 M
B22F1/00 M
B22F1/05
H01B13/00 501Z
C22C1/04 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023511093
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013732
(87)【国際公開番号】W WO2022210217
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021056511
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 英人
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197317(JP,A)
【文献】特開2006-131978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 - 9/30
C22C 19/03
B22F 1/00 - 8/00
C22C 1/04 - 1/059
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiおよびNaOHを含む第1水溶液とPを含む還元剤となる第2水溶液とを混合してpHが7超の第3水溶液を調製し、前記第3水溶液の中で還元析出反応を生じさせてNiを基とする導電性金属粒子を形成する製造方法において、
前記第3水溶液におけるNaOHの濃度により、前記導電性金属粒子のメジアン径を調製し、
前記第3水溶液のNaOHの濃度を0.190mol/L以上0.230mol/L以下とする、導電性金属粒子の製造方法。
【請求項2】
前記導電性金属粒子のメジアン径を10μm以下となるように前記第3水溶液におけるNaOHの濃度を調製する、請求項1に記載の導電性金属粒子の製造方法。
【請求項3】
前記導電性金属粒子の散布度が1.0以下となるように前記第3水溶液におけるNaOHの濃度を調整する、請求項1に記載の導電性金属粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1水溶液はCuを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性金属粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1水溶液はSnを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の導電性金属粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)を5.5未満に調製する、請求項5に記載の導電性金属粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性金属粒子の製造方法および導電性金属粒子に関し、詳しくは、Niを基とする還元析出型の導電性金属粒子の製造方法および導電性金属粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Niを基とする還元析出型の導電性金属粒子およびその製造方法が知られている。たとえば、特許文献1には、1~15質量%のP(リン)および0.01~18質量%のCuを含む、Niを基とする還元析出型の導電性金属粒子およびその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、1~15質量%のP、0.01~18質量%のCuおよび0.05~10質量%のSn(錫)を含む、Niを基とする還元析出型の導電性金属粒子およびその製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1、2に開示されるNiを基とする還元析出型の導電性金属粒子(以下、NiP粒子という。)は、体積抵抗率が小さく導電性がよいという利点がある。また、還元析出反応により生成されるNiP粒子は、反応の初期段階でNiP粒子に成長するための核(以下、NiPの核という。)が生成され、その後の反応でNiPの核が所定の粒径まで成長し、所定のメジアン径を有するNiP粒子となる。そのため、NiPの核の成長を適切に制御すれば、たとえば10μm以下の真球性のよいNiP粒子の製造が可能になる。
【0004】
ここで、NiP粒子の小粒化に関して、特許文献1には、Cuイオンを含むNi塩などからなるNiP粒子の還元析出用の水溶液において、NiイオンとCuイオンのモル比(Ni/Cu)を大きくすることによって、還元析出するNiP粒子のサイズが小さくなるとともに、NiP粒子のサイズのばらつきが小さくなる傾向がある旨が記載されている。また、特許文献2には、CuイオンおよびSnイオンを含むNi塩などからなるNiP粒子の還元析出用の水溶液において、NiイオンとSnイオンのモル比(Ni/Sn)を小さくすることによって、還元析出するNiP粒子のサイズが小さくなるとともに、NiP粒子のサイズのばらつきが小さくなる傾向がある旨が記載されている。なお、NiP粒子のサイズは粒度分布曲線におけるメジアン径(d50)と解される。また、NiP粒子のサイズのばらつきは粒度分布曲線における散布度((d90-d10)/d50)と解され、散布度が小さいほどシャープな粒度分布を呈することができる。
【0005】
こうしたNiP粒子などの導電性金属粒子には、最近の電子通信機器などの一層の小型化および高精細化の欲求に伴って、異方性導電フィルム(ACF)、異方性導電ペースト(ACP)や異方性導電接着剤(ACAs)と呼ばれるペースト状の材料、フレックスオンボード(FOB)やフレックスオンフレックス(FOF)の接続方式などの広範な用途において、より一層の小粒化の実現および供給の安定化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第5622127号公報
【文献】日本国特許第5327582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、特許文献2に係る導電性粒子調整方法においては、NiP粒子の散布度を小さくするために、分級処理の工程を挟まなければならず、手間であるほか、メジアン径を小さくするために高価な試薬を使う必要があり、製造コストが過度に高くなるなど、改善の余地があった。
【0008】
この発明の目的は、導電性金属粒子(NiP粒子)のメジアン径の簡易かつ安価な調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、特許文献1、2に開示されるNiP粒子の製造方法において、NiP粒子の還元析出に使用する各種の水溶液の構成および還元析出条件などを多面的に検討し、NiP粒子のメジアン径と還元析出反応が生じる水溶液中のNaOHの濃度との間に、従来知見されていない比較的強い相関の存在を見出した。そして、還元析出反応が生じる水溶液中のNaOHの濃度でNiP粒子のメジアン径の調製が可能で、上記課題が解決できることを確かめ、この発明に想到することができた。
【0010】
この導電性金属粒子の製造方法に係る発明は、Ni(Niイオン)およびNaOHを含む第1水溶液とP(次亜リン酸イオン)を含む還元剤となる第2水溶液とを混合してpHが7超の第3水溶液を調製し、第3水溶液の中で還元析出反応を生じさせてNiを基とする導電性金属粒子を形成する製造方法において、第3水溶液におけるNaOHの濃度により、導電性金属粒子のメジアン径を調製する、というものである。
【0011】
上記した導電性金属粒子の製造において、好ましくは、導電性金属粒子のメジアン径を10μm以下となるように第3水溶液におけるNaOHの濃度を調製する。
【0012】
上記した導電性金属粒子の製造において、好ましくは、導電性金属粒子の散布度が1.0以下となるように前記第3水溶液におけるNaOHの濃度を調整する。
【0013】
上記した第1水溶液にNi(Niイオン)を含む製造方法に係る発明により導電性金属粒子の小粒化を図る場合において、好ましくは、第3水溶液のNaOHの濃度を0.190mol/L以上0.230mol/L以下とする。
【0014】
上記した第1水溶液にNi(Niイオン)を含む製造方法に係る発明において、好ましくは、第1水溶液はCu(Cuイオン)を含む。
【0015】
上記した第1水溶液にNi(Niイオン)を含む製造方法に係る発明において、好ましくは、第1水溶液はSn(Snイオン)を含む。
【0016】
第1水溶液にNi(Niイオン)とCu(Cuイオン)とSn(Snイオン)を含む製造方法に係る発明において、好ましくは、第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)を5.5未満に調製する。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、導電性金属粒子(NiP粒子)のメジアン径の簡易な調製方法を含み、たとえば1.0μm以上10μm以下の範囲から選択されるメジアン径を有し、たとえば1.0以下の散布度を呈する、導電性粒子(NiP粒子)の簡易な調製方法を含む。これにより、たとえば1.0μm以上10μm以下の範囲から選択されるメジアン径を有する導電性金属粒子を、安価かつ安定に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実験結果であって、第3水溶液におけるNaOHの濃度と、得られたNiP粒子(NiP粒子群)のd50との関係を示す図(グラフ)である。
図2】実験結果であって、第3水溶液におけるNaOHの濃度と、得られたNiP粒子(NiP粒子群)の散布度を示す図(グラフ)である。
図3】Niを基とし、Pを含む、NiP粒子(NiP粒子群)の観察像(写真)の一例である。
図4】Niを基とし、PとCuを含む、No.5のNiP粒子(NiP粒子群)の観察像(写真)の一例である。
図5】Niを基とし、PとCuとSnを含む、代表的なNiP粒子(NiP粒子群)であって、No.3のNiP粒子(NiP粒子群)の観察像(写真)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明に係る導電性金属粒子の製造方法および導電性金属粒子について詳細に説明する。なお、この発明に係る導電性金属粒子の製造方法の構成および導電性金属粒子の構成は、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれると解することが相当である。また、以下の記載(図面を含む)において、単一の粒(単粒子)を意図する場合も、粒の集まり(粒子群)を意図する場合も、いずれも「粒子」と表記する。但し、特に限定する必要がある場合に限り、「単粒子」や「粒子群」などの表記を用いることがある。また、水溶液に係る「Ni(Niイオン)」「P(次亜リン酸イオン)」「Cu(Cuイオン)」および「Sn(Snイオン)」の表記として、簡便のため、それぞれ「Ni」「P」「Cu」「Sn」と表記することがある。
【0020】
また、この発明に係るメジアン径は、積算体積分布曲線に基づいて求め得るメジアン径を意図し、「d50」と表記する。また、この発明に係る散布度は、積算体積分布曲線に基づいて求め得るd50、d10およびd90を用いた(d90-d10)/d50の値を意図する。この散布度が小さい粒子群はシャープな粒度分布を呈する。なお、d10、d50(メジアン径)およびd90は、それぞれ、粒子群の積算体積分布曲線における積算体積が10%、50%および90%となるときの粒子径である。なお、上記積算体積分布曲線は、特段の断りがない限り、レーザー回折散乱法を採用する測定装置で求められるものを意図する。
【0021】
<導電性金属粒子の製造方法>
この発明に係る導電性金属粒子の製造方法は、Ni(Niイオン)およびNaOHを含む第1水溶液とP(次亜リン酸イオン)を含む第2水溶液とを混合してpHが7超の第3水溶液を調製し、この第3水溶液の中で還元析出反応を生じさせてNiを基とする導電性金属粒子を形成するものである。さらに、第3水溶液におけるNaOHの濃度により、導電性金属粒子のメジアン径を調製する。この製造方法によって、Niを基とし、Pを含む、導電性金属粒子(NiP粒子)を製造することができる。たとえば、NiとPを含む第3水溶液におけるNaOHの濃度を調製することによって、Niを基とし、Pを含む、NiP粒子を製造することができる。この場合のNiP粒子の一例を、図3に示す。第3水溶液に適量のPが含まれていると得られたNiP粒子の表面が硬くなる傾向があるため、NiP粒子の機械的強さの向上効果が期待できる。
【0022】
この発明に係る製造方法おいて、第1水溶液は、好ましくは、Cu(Cuイオン)を含む。これにより、NiとPとCuを含む第3水溶液のNaOHの濃度に対応するd50を有し、Niを基とし、PとCuを含む、NiP粒子を製造することができる。この場合のNiP粒子の一例を、図4に示す。第3水溶液に適量のCuが含まれていると得られたNiP粒子の導電性が高まる傾向があるため、NiP粒子の導電率の向上効果が期待できる。また、第3水溶液に適量のCuが含まれていると、得られるNiP粒子の散布度が小さく抑制される傾向がある。
【0023】
この発明に係る製造方法おいて、第1水溶液は、好ましくは、Sn(Snイオン)を含む。これにより、NiとPとSnを含む第3水溶液のNaOHの濃度に対応するd50を有し、Niを基とし、PとSnを含む、NiP粒子を製造することができる。第3水溶液に適量のSnが含まれていると得られたNiP粒子のd50が小さくなる傾向があるため、NiP粒子をより小粒化する効果が期待できる。また、第3水溶液に適量のSnが含まれていると、得られるNiP粒子の散布度が小さく抑制される傾向がある。
【0024】
この発明に係る製造方法おいて、第1水溶液は、より好ましくは、Cu(Cuイオン)とSn(Snイオン)を含む。これにより、NiとPとCuとSnを含む第3水溶液のNaOHの濃度に対応するd50を有し、Niを基とし、PとCuとSnを含む、NiP粒子を製造することができる。この場合のNiP粒子の一例を、図5に示す。第3水溶液に適量のCuとSnが含まれていると、得られるNiP粒子のd50および散布度がより安定になる傾向があるため、NiP粒子の小粒化をより安定化する効果が期待できる。
【0025】
この発明において、第3水溶液の中で還元析出反応を生じさせてNiを基とする導電性金属粒子を形成する工程は、無電解還元法を利用した工程である。以下、このプロセスを「造粒工程」という。なお、第3水溶液の中で生じる還元析出反応(無電解還元法)に関する詳細な説明は、特許文献1、2の知見を参照されたい。
【0026】
ところで、本願発明者は、特許文献1、2の知見に基づき、NiP粒子の技術的により安定な小粒化の実現およびNiP粒子の供給の安定化を目的として、NiP粒子のメジアン径の簡易な調製方法を検討し、望ましくは、所定のメジアン径を有しつつシャープな粒度分布を呈するNiP粒子の簡易な調製方法を探求した。
【0027】
第1の実験として、還元析出の開始時の水溶液の中のNi/Cu(モル比)を大きくするための実験を行った。準備した水溶液は、硫酸ニッケル六水和物の水溶液を7dm(以下、A液という。)、硫酸銅五水和物の水溶液を0.5dm(以下、B液という。)、すず酸ナトリウム三水和物の水溶液を3dm(以下、C液という。)、pH調製水溶液を15dm、pH緩衝剤水溶液を3.5dm、および、還元剤水溶液を16dmである。A液は、硫酸ニッケル六水和物を使用し、pHが5.3で、硫酸ニッケル六水和物の濃度が1.03mol/LのNi(Niイオン)を含む水溶液である。B液は、硫酸銅五水和物を使用し、pHが3.6で、硫酸銅五水和物の濃度が0.43mol/LのCu(Cuイオン)を含む水溶液である。C液は、すず酸ナトリウム三水和物を使用し、pHが12.0で、すず酸ナトリウム三水和物の濃度が0.55mol/LのSn(Snイオン)を含む水溶液である。pH調製水溶液は、NaOHを使用し、pHが13で、NaOHの濃度が0.685mol/Lの水溶液である。このpH調製水溶液は、還元析出の開始時の水溶液をpHが7超のアルカリ性に調製するという特許文献1、2の開示に従って、加えるものである。pH緩衝剤水溶液は、酢酸ナトリウムを使用し、pHが9.0で、酢酸ナトリウムの濃度が4.29mol/Lの水溶液である。還元剤水溶液は、次亜リン酸ナトリウム一水和物を使用し、pHが6.2で、次亜リン酸ナトリウム一水和物の濃度が1.8mol/LのP(次亜リン酸イオン)を含む水溶液である。
【0028】
次いで、A液とB液とC液とpH調製水溶液とpH緩衝剤水溶液を混合し、Ni(Niイオン)とCu(Cuイオン)とSn(Snイオン)を含み、pHが9.3のアルカリ性を呈する混合水溶液を29dm作製した。そして、反応槽の中で窒素ガスによるバブリング撹拌を行いながら水温を約60℃に保持した29dmの混合水溶液に対して、同様な状態で水温を約60℃に保持した16dmの還元剤水溶液を混合し、還元析出を開始させた。この還元析出の開始時、撹拌層の中の水溶液は、pHは9.3のアルカリ性を呈していた。この第1の実験の結果、NiP粒子のメジアン径は小さくなったが、特許文献1の記載とは異なり、NiP粒子の散布度が大きくなった。このNiP粒子の散布度をより小さくしてシャープな粒度分布を呈するNiP粒子を得るためには、分級処理を多く繰り返すことになる。しかし、NiP粒子の分級処理の工数が増大するとともに、NiP粒子の収率が大きく低下するため、製造コストが過度に高くなるなどの不都合が生じた。
【0029】
また、第2の実験として、還元析出の開始時の水溶液の中のNi/Sn(モル比)を小さくするための実験を行った。準備した水溶液は、第1の実験と同じA液を7dm、第1の実験よりも高濃度に調製したB液(濃度0.58mol/L、pH3.7)を0.5dm、第1の実験よりも低濃度に調製したC液(濃度0.50mol/L、pH12.0)を3dm、第1の実験と同じpH調製水溶液を15dm、第1の実験と同じpH緩衝剤水溶液を3.5dm、および、第1の実験と同じ還元剤水溶液を16dmである。
【0030】
次いで、A液とB液とC液とpH調製水溶液とpH緩衝剤水溶液を混合し、Ni(Niイオン)とCu(Cuイオン)とSn(Snイオン)を含み、pHが9.3のアルカリ性を呈する混合水溶液を29dm作製した。そして、反応槽の中で窒素ガスによるバブリング撹拌を行いながら水温を約60℃に保持した29dmの混合水溶液に対して、同様な状態で水温を約60℃に保持した16dmの還元剤水溶液を混合し、還元析出を開始させた。この還元析出の開始時、撹拌層の中の水溶液は、pHは9.3のアルカリ性を呈していた。この第2の実験の結果、NiP粒子のメジアン径を小さくすることに成功した。しかし、硫酸銅五水和物やすず酸ナトリウム三水和物などの試薬は比較的高価である。そのため、高価な試薬による調製方法では製造コストが過度に高くなるなどの不都合が生じた。
【0031】
特許文献1や特許文献2とは違いこの発明では、造粒工程において、第1水溶液におけるNaOHの濃度ではなく、第3水溶液におけるNaOHの濃度が重要である。従来、第1水溶液および第2水溶液において、それぞれの水溶液を構成する各種成分を所定の範囲に調製する作業(操作)そのもの、および、還元析出反応を生じさせる第3水溶液の液温の制御(操作)そのものは、容易かつ簡易な操作であった。そのため、従来、特許文献1、2に開示されるように、NiP粒子のd50および散布度の調製は、主に、第1水溶液に含まれるNiの濃度の調製と、第3水溶液の液温を狭い範囲(たとえば、70±1℃、特許文献1、2参照)で制御することによって行われていた。また、第1水溶液にCuとSnのいずれかを含む場合またはCuとSnの両方を含む場合は、Niの濃度と液温に加えて、Niに対するCuの濃度(Ni/Cu(モル比))および/またはSnの濃度(Ni/Sn(モル比))の調製が行われていた。
【0032】
こうした従来の調製方法では、第1水溶液におけるNaOHの濃度の調製は、特許文献1、2に開示されるように、還元析出反応を生じさせる第3水溶液をアルカリ性(pH>7)にする目的で行われていた。たとえば、特許文献1、2では、還元析出の開始時のpHが7超のアルカリ性となるように調製することを規定(特許請求の範囲を参照)した上で、その実施例において混合水溶液(この発明における第1水溶液に対応する)のpHを具体的に開示しているが、還元析出の開始時の水溶液(この発明における第3水溶液に対応する)のpHを開示していない。また、特許文献1、2には、還元析出の開始時の水溶液(この発明における第3水溶液に対応する)のpHを調製することに関して、還元析出の開始時の水溶液をアルカリ性(pH>7)にする以外の目的については記載や示唆がない。それゆえ、特許文献1、2が開示する還元析出の開始時のpHを7超のアルカリ性に調製することと、この発明における第1水溶液のpHを7超に調製することとは、同意である。また、特許文献1、2が開示する還元析出の開始時のpHを7超のアルカリ性に調製することとこの発明における第三水溶液のpHを調整することは同義ではない。
【0033】
つまり従来の調整方法では、還元析出開始時の水溶液が少なくともアルカリ性(pH>7)でありさえすればよく、第1水溶液をアルカリ性とするNaOHの濃度は比較的高濃度に調整することが通常であった。
本願発明者はこの度、NiP粒子のd50と第3水溶液におけるNaOH濃度との間に存在する比較的強い相関を見出したことにより、従来重要視されていなかった「第3水溶液のNaOH濃度」によりNiP粒子のd50を調整するという、この発明の手法に想到することができた。
【0034】
この発明では、第3水溶液におけるNaOHの濃度がより高濃度であることにより、NiP粒子のd50をより小さくすることができる。第3水溶液において還元析出反応を生じさせたとき、NaOHの濃度がより高濃度であることによって、還元析出反応の初期段階で生成されるNiPの核の生成量(個数)を増やすことができる。第3水溶液におけるNi(Niイオン)の濃度は、還元析出反応の初期段階で生成されたNiPの核が成長するとともに低下して行く。このNi(Niイオン)の濃度の低下は、NiPの核の生成量(個数)が多いほど速く進む。そのため、NiPの核の個数が多いほど、1つのNiPの核の成長、すなわち、1つのNiP粒子の形成に寄与するNi(Niイオン)の絶対量が低減し、最終的に得られるNiP粒子の大きさ(d50)が小さく抑制される。
【0035】
実験による近似解析的な知見(二次近似式)に基づけば、たとえば、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L以上(0.23mol/L以下)であることによって、NiP粒子のd50を効率よく10μm以下とすることができる。同様に、たとえば、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.20mol/L以上(0.23mol/L以下)であることによって、NiP粒子のd50を効率よく7μm以下とすることができる。同様に、たとえば、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.21mol/L以上(0.23mol/L以下)であることによって、NiP粒子のd50を効率よく4μm以下とすることができる。
【0036】
本願発明者は、実験による近似解析(二次近似式)によって、第3水溶液におけるNaOHの濃度に対するNiP粒子のd50の感度が十分に高いことを知得することができた。たとえば、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L、0.20mol/L、そして、0.21mol/Lのように次第に大きくなると、これに対応して、NiP粒子のd50が10μm、7μm、そして、4μmのように次第に小さくなることを知得することができた。すなわち、第3水溶液におけるNaOHの濃度とNiP粒子のd50との間には比較的強い負の相関が存在することが判明した。第3水溶液におけるNaOHの濃度に対するNiP粒子のd50の感度が十分に高いことから、第3水溶液におけるNaOHの濃度(mol/L)は、少なくとも小数点第二位まで精度よく調整し、小数点第三位を四捨五入して示すことが望ましいと考える。こうした第3水溶液におけるNaOHの濃度とNiP粒子のd50との間の高感度の負の相関を利用すれば、所望のNiP粒子のd50を達成するための第3水溶液のNaOH濃度の最小値が推定できるため、過度なNaOHの使用を抑えることができ、NiP粒子の小径化を簡易かつ効率よく行うことができる。
【0037】
上記した観点から、この製造方法に係る発明において、NiP粒子のd50を、たとえば10μm以下に調製したい場合、第3水溶液のNaOHの濃度が0.190mol/L以上0.230mol/L以下であることが好ましい。第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.190mol/L以上であると、得られるNiP粒子のd50が小さくなり、d50が10μm以下のNiP粒子を効率よく形成することができる。なお、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.190mol/L未満であると、NiP粒子のd50が10μmを超えて大きくなる傾向が強まる。また、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.230mol/L以下であると、得られるNiP粒子の散布度が小さくなる効果、たとえば1.0以下となる効果が期待できる。なお、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.230mol/Lを超えると、得られるNiP粒子のd50がさらに小さくなる傾向が弱まる。
【0038】
この発明に係る製造方法おいて、第3水溶液にCu(Cuイオン)とSn(Snイオン)の両方を含む場合、第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)を5.5未満に調製することが好ましい。第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)が5.5未満(たとえば1.60以上5.25以下)に調製されていると、得られるNiP粒子の散布度が小さくなる傾向がある。そのため、散布度が1.0以下のNiP粒子の形成を効率よく進行させる効果が期待できる。なお、第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)が過度に大きく5.5以上に調製されていると還元析出反応に及ぶ影響が強まるため、NiP粒子のd50や散布度が不安定になるおそれがある。たとえば、第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)を7.5に調製した場合、還元析出反応が不安定になって、良質のNiP粒子が得られないおそれがある。この観点から、第3水溶液におけるSn/Cu(モル比)は、7.7よりも相応に小さく調製し、5.5未満に調製することが好ましい。
【0039】
上記造粒工程において、還元析出反応は、第1水溶液と第2水溶液とを混合した第3水溶液の中で生じさせる。そのため、第3水溶液のpHを7超(たとえば、8以上10以下)に調製する。第3水溶液のpHが7超のアルカリ性であると、還元析出反応が速やかに進行するため、NiP粒子を効率よく形成することができる。
【0040】
上記造粒工程において、第3水溶液の液温は、還元析出反応の進行の速さ、NiP粒子のd50などに影響を及ぼす可能性がある。たとえば、還元析出反応を速やかに進行させつつd50が10μm以下のNiP粒子を形成したい場合、第3水溶液の液温を50℃以上80℃以下(好ましくは50℃以上75℃以下、より好ましくは50℃以上70℃以下)の範囲で制御するのがよい。また、第3水溶液の液温が高いほど還元析出反応の進行が速くなるため、NiP粒子をさらに小径化(たとえば7μm以下のd50)したい場合、第3水溶液の液温を55℃以上65℃以下の比較的低温域で制御するのがよい。さらに小径化(たとえば5μm以下のd50)を進めたい場合、第3水溶液の液温を55℃以上60℃以下のさらに低温域で制御するのがよい。このように第3水溶液の液温を低温域(たとえば55℃以上65℃以下)で制御すれば、得られるNiP粒子の散布度がより安定化する効果も期待できる。
【0041】
この発明では、第1水溶液は、Ni(Niイオン)およびNaOHを含む。NiおよびNaOHを含む第1水溶液は、Niを含む水溶液とNaOHの水溶液とを混合することにより、作製することができる。第1水溶液におけるNiおよびNaOHの濃度は、第2水溶液と混合して得られるpHが7超の第3水溶液におけるNaOHの濃度が所定の範囲となるように十分に考慮して調製する。たとえば、NiP粒子のd50を1μm以上10μm以下の範囲で選択したい場合、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L以上(0.23mol/L以下)の範囲であることが好ましいことを考慮し、第1水溶液におけるNiおよびNaOHの濃度を調製するとよい。
【0042】
第1水溶液を構成するためのNi(Niイオン)を含む水溶液は、たとえばNi塩の水溶液であってよく、具体的には硫酸ニッケル(II)六水和物の水溶液などであってよい。Ni塩としては、たとえば、塩化ニッケル(NiCl)、硫化ニッケル(NiS)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)、および、炭酸ニッケル(NiCO)などがある。
【0043】
この発明において、第1水溶液は、Ni(Niイオン)およびNaOHに加えて、好ましくは、Cu(Cuイオン)を含む。Ni、CuおよびNaOHを含む第1水溶液は、Niを含む水溶液と、Cuを含む水溶液と、NaOHの水溶液とを混合することにより、作製することができる。第1水溶液におけるNi、CuおよびNaOHの濃度は、第2水溶液と混合して得られるpHが7超の第3水溶液におけるNaOHの濃度が所定の範囲となるように十分に考慮して調製する。たとえば、NiP粒子のd50を1μm以上10μm以下の範囲で選択したい場合、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L以上(0.23mol/L以下)の範囲であることが好ましいことを考慮し、第1水溶液におけるNi、CuおよびNaOHの濃度を調製するとよい。
【0044】
第1水溶液を構成するためのCu(Cuイオン)を含む水溶液は、たとえばCu塩の水溶液であってよく、具体的には硫酸銅(II)五水和物の水溶液などであってよい。
【0045】
この発明において、第1水溶液は、Ni(Niイオン)およびNaOHに加えて、好ましくはCu(Cuイオン)を含み、より好ましくはSn(Snイオン)を含む。Ni、Cu、SnおよびNaOHを含む第1水溶液は、Niを含む水溶液と、Cuを含む水溶液と、Snを含む水溶液と、NaOHの水溶液とを混合することにより、作製することができる。第1水溶液におけるNi、Cu、SnおよびNaOHの濃度は、第2水溶液と混合して得られるpHが7超の第3水溶液におけるNaOHの濃度が所定の範囲となるように十分に考慮して調製する。たとえば、NiP粒子のd50を1μm以上10μm以下の範囲で選択したい場合、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L以上(0.23mol/L以下)の範囲であることが好ましいことを考慮し、第1水溶液におけるNi、Cu、SnおよびNaOHの濃度を調製するとよい。
【0046】
ここで、第1水溶液におけるNaOHの濃度は、第1水溶液と第2水溶液とを混合した後の第3水溶液におけるNaOHの水溶液の割合(mol/L)を算定し、その算定値に基づいて調製するとよい。また、第1水溶液にCuを含む場合、第1水溶液におけるCuの濃度は、第3水溶液におけるCuを含む水溶液の割合(mol/L)またはNi/Cu(モル比)を算定し、その算定値に基づいて調製するとよい。また、第1水溶液にCuおよびSnを含む場合、第1水溶液におけるCuおよびSnの濃度は、第3水溶液におけるCuを含む水溶液の割合(mol/L)またはNi/Cu(モル比)と、第3水溶液におけるSnを含む水溶液の割合(mol/L)またはNi/Sn(モル比)とを算定し、その算定値に基づいて調製するとよい。なお、Ni/Cu(モル比)およびNi/Sn(モル比)は、第3水溶液におけるNiを含む水溶液の割合(mol/L)、Cuを含む水溶液の割合(mol/L)およびSnを含む水溶液の割合(mol/L)を算定し、その算定値から求めることができる。また、Sn/NiをCu/Niで除したSn/Cu(モル比)を求めることもできる。
【0047】
第1水溶液を構成するためのSn(Snイオン)を含む水溶液は、たとえば錫塩の水溶液であってよく、具体的には錫酸ナトリウム三水和物の水溶液などであってよい。
【0048】
この発明において、第1水溶液には、pH緩衝剤として、たとえば、酢酸ナトリウム、マレイン酸二ナトリウムなどを混合してもよい。強塩基であるNaOHを含む第1水溶液にpH緩衝剤を混合することによって、pHの変化に対抗する作用が生じるため、第1水溶液のpHを略一定に保つのに有効である。
【0049】
この発明では、第2水溶液は、P(次亜リン酸イオン)を含む。Pを含む第2水溶液は、Pを含むホスフィン酸(HPO)などの還元剤の水溶液であってよく、具体的にはホスフィン酸ナトリウムなどの水溶液であってよい。第2水溶液におけるPの濃度は、第1水溶液と混合して得られるpHが7超の第3水溶液におけるNaOHの濃度が所定の範囲となるように十分に考慮して調製する。たとえば、NiP粒子のd50を1μm以上10μm以下の範囲で選択したい場合、第3水溶液におけるNaOHの濃度が0.19mol/L以上(0.23mol/L以下)の範囲であることが好ましいことを考慮し、第2水溶液におけるPの濃度を調製するとよい。
【0050】
この発明を適用して製造されるNiP粒子(導電性金属粒子)は、少なくとも、NiおよびPを含む。また、還元析出反応を生じさせる第3水溶液の中に含有を意図しない不可避的不純物を含む場合、NiP粒子は、含有を意図しない不可避的不純物を含む。たとえば、1質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる、NiP粒子である。特に、1μm以上10μm以下の範囲のd50を有するNiP粒子の場合、好ましくは、散布度が1.0以下で、5質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。Niを基とする還元析出型のNiP粒子は、導電性に優れ、安価かつ安定な量産が可能となる。また、Pを適度に含むNiP粒子は、Pを含まないNi粒子と比べて、硬さなどの機械的強さに優れる。
【0051】
また、第1水溶液にCu(Cuイオン)を含む場合、NiP粒子は、少なくとも、Ni、CuおよびPを含む。また、還元析出反応を生じさせる第3水溶液の中に含有を意図しない不可避的不純物を含む場合、NiP粒子は、含有を意図しない不可避的不純物を含む。たとえば、0.01質量%以上18質量%以下のCuおよび1質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる、NiP粒子である。特に、1μm以上10μm以下の範囲のd50を有するNiP粒子の場合、好ましくは、散布度が1.0以下で、3.20質量%以上5.40質量%以下のCuおよび5質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。Cuを含むNiP粒子は、Cuを含まないNiP粒子と比べて、導電性が向上される。
【0052】
また、第1水溶液にSn(Snイオン)を含む場合、NiP粒子は、少なくとも、Ni、SnおよびPを含む。また、還元析出反応を生じさせる第3水溶液の中に含有を意図しない不可避的不純物を含む場合、NiP粒子は、含有を意図しない不可避的不純物を含む。たとえば、0質量%を超えて10質量%以下のSnおよび1質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる、NiP粒子である。特に、1μm以上10μm以下の範囲のd50を有するNiP粒子の場合、好ましくは、散布度が1.0以下で、0質量%を超えて1.30質量%以下のSnおよび5質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。
【0053】
また、第1水溶液にCu(Cuイオン)およびSn(Snイオン)を含む場合、NiP粒子は、少なくとも、Ni、Cu、SnおよびPを含む。また、還元析出反応を生じさせる第3水溶液の中に含有を意図しない不可避的不純物を含む場合、NiP粒子は、含有を意図しない不可避的不純物を含む。たとえば、0.01質量%以上18質量%以下のCu、0質量%を超えて10質量%以下のSnおよび1質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる、NiP粒子である。特に、1μm以上10μm以下の範囲のd50を有するNiP粒子の場合、好ましくは、散布度が1.0以下で、3.20質量%以上5.40質量%以下のCu、0質量%を超えて1.30質量%以下のSnおよび5質量%以上15質量%以下のPを含み、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。
【0054】
この発明を適用して製造されるNiP粒子(導電性金属粒子)は、その表面に、Auめっき層、Cuめっき層、Niめっき層またはPd(パラジウム)めっき層など、1または複数の導電性金属めっき層を形成することができる。上記した材質の導電性金属めっき層は、NiP粒子よりも導電率が大きいため、NiP粒子が互いに接触したときの導電性の向上および通電の安定化に有利である。特に、Auめっき層は、NiP粒子の表面よりも軟質であるため、NiP粒子が互いに接触したときの接触状態の安定化および通電の安定化に有利である。
【0055】
ここで、導電性金属粒子の用途と求められるサイズおよび散布度について補足する。導電性金属粒子(たとえば、NiP粒子)のサイズ(たとえば、d50)は、その用途に応じて任意に要求される。NiP粒子のd50は、たとえば、10μm以下で、7μm以下で、または、4μm以下で、その用途に応じて要求される。d50が10μm以下のNiP粒子は、たとえば、一般的なフレキシブル基板(FPC)などの用途に広く利用される。d50が7μm以下のNiP粒子は、たとえば、ファインピッチと呼ばれるピッチがより高精細な導電部分を有するFPCなどの用途に利用される。ファインピッチの用途に利用されるNiP粒子のd50は3μm以上5μm以下の範囲が主流であるが、将来に向けて1μm以上4μm以下の範囲のd50が必要とされている。そのため、d50が4μm以下のNiP粒子は、ファインピッチ化に向けたより一層の貢献が期待される。
【0056】
また、たとえば、1μm以上10μm以下の範囲のd50、1μm以上7μm以下の範囲のd50、または、1μm以上4μm以下の範囲のd50を有するNiP粒子を製造する場合、この発明を適用すれば、NiP粒子の散布度を1.0以下とすることが可能である。NiP粒子の散布度が小さいほど、NiP粒子の相互接触により安定な接合構造が形成される確率が高まるため、電気的接続の信頼性が高めることができる。一方、NiP粒子の散布度が大きいほど、還元析出反応の制御精度の低減、分級の繰り返し回数の低減および収率の向上が可能となり製造コストが低減されるため、NiP粒子の安価かつ安定な供給が実現しやすくなる。したがって、NiP粒子の散布度は、電気的接続の信頼性を高めながら安価かつ安定な供給を実現する観点で、好ましくは0.7以上1.0以下、より好ましくは0.8以上1.0以下、より一層好ましくは0.9以上1.0以下である。
【0057】
上記した製造方法に係る発明によれば、得られるNiP粒子の積算体積分布曲線におけるd50を10μm以下に調製しやすく、散布度(d90-d10)/d50を1.0以下に調製しやすい。こうして得られたNiP粒子を市場に安定に供給すれば、ACF、ACP、ACAs、FOBおよびFOFなどの多様な用途における欲求を満足させることができる。
【0058】
以下、この発明に係る導電性金属粒子(NiP粒子)の製造方法の効果を確認するための実験およびその結果について、適宜図面を参照して説明する。
【0059】
<反応槽の準備>
回転翼を備える撹拌装置、窒素ガス供給装置および液温測定装置を備えた、還元析出反応に耐え得る容器(反応槽)を準備する。この反応槽内を窒素ガスで満たし、窒素ガスを供給し続けることで反応槽内への大気の侵入を抑制し、還元析出反応による生成ガスの排出を促進する。この窒素ガスの供給は、窒素ガス量(流量)を適時制御しながら、NiP粒子の製造を終了するまで継続する。
【0060】
<第1水溶液の準備>
反応槽内に純水を入れ、回転翼による撹拌を行いながら、水酸化ナトリウム(NaOH)を加える。この撹拌は、回転翼の回転速度を制御しながら、NiP粒子の製造を終了するまで継続する。次いで、Ni(Niイオン)源となる硫酸ニッケル(II)六水和物を加える。ここで、必要に応じて、Cu(Cuイオン)源となる硫酸銅(II)五水和物、pH緩衝剤となる酢酸ナトリウム、および、Sn(Snイオン)源となる錫酸ナトリウム三水和物を加えることができる。なお、第1水溶液におけるNaOHの濃度は、第1水溶液と第2水溶液との混合により第3水溶液を得た際に、第3水溶液におけるNaOHの濃度が所望のd50に対応する特定の濃度値となるように、第1水溶液および第2水溶液を構成する個々の物質の配合割合を的確に算定し、調製した。これにより、第1水溶液が得られる。
【0061】
<第2水溶液の準備>
反応槽とは別の容器を準備し、純水を入れる。この容器内に、P(次亜リン酸イオン)源となるホスフィン酸ナトリウム一水和物を加える。なお、第2水溶液は、第1水溶液と第2水溶液との混合により第3水溶液を得た際に、第3水溶液におけるNaOHの濃度が所望のd50に対応する特定の濃度値となるように、第1水溶液を構成する個々の物質の配合割合を十分に考慮し、第2水溶液を構成する個々の物質の配合割合を的確に算定し、調製した。これにより、第2水溶液が得られる。
【0062】
<第3水溶液>
Ni(Niイオン)およびNaOHを含む第1水溶液を、外部ヒーターを用いて加熱する。第1水溶液の液温は、還元析出反応を生じさせる温度(反応温度)で制御する。なお、この第1水溶液には、必要に応じてCu(Cuイオン)が含まれ、さらに、必要に応じてSn(Snイオン)が含まれる。また、P(次亜リン酸イオン)を含む第2水溶液を、外部ヒーターを用いて加熱する。第2水溶液の液温も同様に、還元析出反応を生じさせる温度(反応温度)で制御する。次いで、第1水溶液が入っている反応槽内に第2水溶液を加え、撹拌混合し、混合水溶液とする。これにより、第1水溶液と第2水溶液との混合水溶液、すなわち第3水溶液が得られる。この第3水溶液は、そのpHが、第1水溶液に含まれるNaOHに起因して、7超となるとともに、そのNaOHの濃度が、第1水溶液においてNaOHを特定の濃度値に調製したことに起因して、特定の濃度値となる。この第3水溶液の液温は、外部ヒーターを用いてNiP粒子の製造を終了するまで反応温度に制御し続ける。
【0063】
<NiP粒子の形成>
上記の手順で得られ、反応温度に制御された第3水溶液において、第2水溶液に含まれるホスフィン酸ナトリウム一水和物が還元剤となって、還元析出反応が生じる。この第3水溶液の中で生じさせた還元析出反応により、Niを基とする多数の金属核が形成され、やがて多数のNiP粒子に成長する。このとき、第3水溶液におけるNaOHの濃度値に対応して、特定のd50を有するNiP粒子を円滑かつ安定に形成することができる。
【0064】
上記の手順に基づいて、第3水溶液を表1に示す条件に調製し、それぞれの実験を行った。このとき、第1水溶液と第2水溶液とを混合した直後(還元析出の開始時)の第3水溶液はアルカリ性を呈しており、そのpHは、たとえば、No.2で7.6、No.3で8.9、No.4で9.1、No.8で8.9、No.9で9.3およびNo.12で8.1であった。それぞれの実験の結果、表2に示すNiP粒子を得ることができた。先に示した図5は、得られたNiP粒子のうちの代表的な観察像(写真)であって、No.3のNiP粒子(d50が1.13μm、散布度が0.91、Pが10.05質量%、Cuが4.04質量%、Snが0.97質量%、残部が0.01質量%未満)である。なお、表1に示すNiP粒子のd50および散布度は、レーザー回折散乱法を採用する測定装置で得た積算体積分布曲線から求めたものである。表2に示すNiP粒子の化学成分(質量%)は、一定量(0.1g)のNiP粒子を王水で溶解した溶液を用いて、ICP分析(Inductively Coupled Plasma analysis)を行ったものである。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
<NaOHの濃度とd50の関係>
図1に示すグラフは、表1に示す第3水溶液のNaOHの濃度(mol/L)と、表2に示すNiP粒子のd50との関係を表わすものである。また、図中に示す曲線Aは、図中に示す全データ、すなわち、表1に示す複数の実験条件に対応する表2に示す複数の実験結果から得られた2次近似曲線(Y=4655X-2162X+252.6、但し、XはNaOHの濃度、Yはd50)である。この複数の実験に基づく曲線Aは、還元析出反応を生じさせる第3水溶液におけるNaOHの濃度が高いほど得られるNiP粒子のd50が小さくなるという、負の強い相関を示している。この曲線Aを利用して、第3水溶液におけるNaOHの濃度によって得られるNiP粒子のd50を、的確に予測、調整することができる。この予測結果を考慮した第3水溶液におけるNaOHの濃度により、得られるNiP粒子のd50を的確に調製することができる。つまり、導電性金属粒子のメジアン径を10μm以下となるように前記第3水溶液におけるNaOHの濃度を調製する。
【0068】
具体的には、第3水溶液のNaOHの濃度が、たとえば0.190mol/Lであった場合、上記曲線Aにより、得られるNiP粒子のd50が約9.9μmとなることを予測することができる。同様に、NaOHの濃度が0.200mol/L、0.210mol/L、0.220mol/Lおよび0.230mol/Lであった場合、得られるNiP粒子のd50が、それぞれ、約6.4μm、約3.9μm、約2.3μmおよび約1.6μmとなることを予測することができる。また、曲線Aを参照すると、第3水溶液のNaOHの濃度が0.180mol/Lであった場合、得られるNiP粒子のd50が約14.3μmとなることを容易に予測することができるため、NaOHの濃度を小さくした場合、d50が10μmを超えて急激に大きくなるリスクを事前に知得することができる。また、曲線Aにより、第3水溶液のNaOHの濃度が0.230mol/Lであった場合、得られるNiP粒子のd50が1.59となり、NaOHの濃度が0.240mol/Lであった場合、得られるNiP粒子のd50が約1.8μmとなることを予測することができる。つまり、NaOHの濃度をさらに高めてもd50を小さくする効果が弱まることを事前に知得することができる。
【0069】
<Sn含有とd50の関係>
ここで、図1に示すグラフから、第3水溶液にSn(Snイオン)を含まないNo.1、No.2およびNo.5の場合、第3水溶液のNaOHの濃度が高くなると曲線Aに対して明らかに上側(+側)に位置することが分かる。これより、得られるNiP粒子のd50が大きくなる傾向を事前に知得することができる。また、No.2およびNo.5は、d50がNo.1よりも小さくなったが、曲線Aから上側(+側)に大きく離間することが分かる。これより、NiP粒子のd50をより小さくしたい場合、還元析出反応を生じさせる第3水溶液には適量のSn(Snイオン)を含むのが好ましいことを事前に知得することができる。
【0070】
<NaOHの濃度と散布度の関係>
図2に示すグラフは、表1に示す第3水溶液のNaOHの濃度(mol/L)と、表2に示すNiP粒子の散布度との関係を表わすものである。また、図中に示す曲線Bは、図中に示す全データ、すなわち、表1に示す複数の実験条件に対応する表2に示す複数の実験結果から得られた2次近似曲線(Y=354X-142.1X+14.86、但し、XはNaOHの濃度、Yは散布度)である。この複数の実験に基づく曲線Bは、還元析出反応を生じさせる第3水溶液におけるNaOHの濃度が高いほど得られたNiP粒子の散布度が大きくなるという、正の比較的強い相関を示している。この曲線Bを利用して、第3水溶液におけるNaOHの濃度によって得られるNiP粒子の散布度を、的確に予測することができる。この予測結果を考慮した第3水溶液におけるNaOHの濃度により、得られるNiP粒子の散布度を的確に調製することができる。つまり、導電性金属粒子の散布度が1.0以下となるように前記第3水溶液におけるNaOHの濃度を調整する。
【0071】
具体的には、第3水溶液のNaOHの濃度が、たとえば0.190mol/Lであった場合、上記曲線Bにより、得られるNiP粒子の散布度が約0.64となることを予測することができる。同様に、NaOHの濃度が0.200mol/L、0.210mol/L、0.220mol/Lおよび0.230mol/Lであった場合、得られるNiP粒子の散布度が、それぞれ、約0.60、約0.63、約0.73および約0.90となることを予測することができる。また、第3水溶液のNaOHの濃度が0.180mol/Lであった場合、得られるNiP粒子の散布度が約0.75となることを予測することができる。つまり、曲線Bを参照すると、NaOHの濃度を0.180mol/Lから高めると散布度は抑制されるが、NaOHの濃度をある一定以上よりさらに高めても散布度の抑制効果が弱まることを事前に知得することができる。また、第3水溶液のNaOHの濃度が0.240mol/Lであった場合、得られるNiP粒子の散布度が約1.15となることを予測することができるため、散布度が1.0を超えて急激に大きくなるリスクを事前に知得することができる。
【0072】
<Sn/Cu(モル比)と散布度の関係>
ここで、図2に示すグラフから、第3水溶液のSn/Cu(モル比)が大きいNo.4およびNo.9の場合、曲線Bに対して明らかに上側(+側)に位置することが分かる。これより、得られるNiP粒子の散布度が大きくなる傾向を事前に知得することができる。また、No.9は、散布度がNo.4よりも大きくなったが、曲線Bから上側(+側)にNo.4よりも大きく離間することが分かる。これより、NiP粒子の散布度をより小さくしたい場合、還元析出反応を生じさせる第3水溶液のSn/Cu(モル比)を適切に調製するのが好ましいことを事前に知得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明は、特に小径(たとえば、d50が1μm以上10μm以下)であることが要求される用途に向けた導電性金属粒子(NiP粒子)の製造方法として、たとえば、異方性導電膜、異方性導電シート、異方性導電接着剤または異方性導電ペーストなどを構成するための導電性金属粒子(NiP粒子)の製造方法として適用することができる。
【0074】
本出願は、2021年3月30日出願の日本特許出願2021-056511号に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0075】
A 曲線(二次近似曲線)
B 曲線(二次近似曲線)
図1
図2
図3
図4
図5