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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ゼオライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20231108BHJP
   C01B 39/36 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C01B39/48
C01B39/36
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020559098
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046334
(87)【国際公開番号】W WO2020121812
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018233264
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019113138
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊與木 健太
(72)【発明者】
【氏名】大西 貴子
(72)【発明者】
【氏名】菊政 翔
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-502267(JP,A)
【文献】特開2000-153159(JP,A)
【文献】特開平04-305010(JP,A)
【文献】特開2011-148677(JP,A)
【文献】特開昭64-005906(JP,A)
【文献】特開平08-091827(JP,A)
【文献】特開平06-298525(JP,A)
【文献】米国特許第04678766(US,A)
【文献】米国特許第03594331(US,A)
【文献】WANG, Yaquan et al.,Post-treatment of TS-1 with Mixtures of TPAOH and Ammonium Salts and the Catalytic Properties in Propylene Epoxidation ,Transactions of Tianjin University,2018年,Vol.24,461-470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00
C01B 33/20
C01B 37/00
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるゼオライト(ただし、FAU型ゼオライトおよびβ型鉄シリケートを除く)であって、
水蒸気が10体積%の雰囲気下で、前記ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(900℃)が20%以上であり、
温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下での前記加熱前の前記ゼオライトの水分吸着率が6.0重量%以下である、ゼオライト。
【請求項2】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるMFI型のゼオライトであって、
水蒸気が10体積%である雰囲気下で、前記ゼオライトを1050℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1050℃)が20%以上であり、
温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下での前記加熱前の前記ゼオライトの水分吸着率が6.0重量%以下である、ゼオライト。
【請求項3】
水蒸気が10体積%である雰囲気下で、前記ゼオライトを1150℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1150℃)が10%以上である、請求項2に記載のゼオライト。
【請求項4】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるBEA型のゼオライト(ただし、β型鉄シリケートを除く)であって、
水蒸気が10体積%である雰囲気下で、前記ゼオライトを1100℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1100℃)が20%以上である、ゼオライト。
【請求項5】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるMOR型のゼオライトであって、
水蒸気が10体積%の雰囲気下で、前記ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(900℃)が20%以上である、ゼオライト。
【請求項6】
水蒸気が10体積%の雰囲気下で、前記ゼオライトを1050℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1050℃)が10%以上である、請求項5に記載のゼオライト。
【請求項7】
温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下での前記加熱前の前記ゼオライトの水分吸着率が6.0重量%以下である、請求項4ないし6のいずれか一項に記載のゼオライト。
【請求項8】
前記ゼオライトが、細孔中にフッ素を含む、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のゼオライト。
【請求項9】
前記ゼオライトが、細孔中に有機構造規定剤を含む、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のゼオライト。
【請求項10】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるゼオライト(ただし、FAU型ゼオライトおよびβ型鉄シリケートを除く)の製造方法であって、
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上である原料ゼオライト(ただし、FAU型原料ゼオライトおよびβ型鉄シリケートを除く)を用意する工程と、
フッ化物イオンを含む溶液に前記原料ゼオライトを接触させる工程と、を備え、
前記原料ゼオライトと前記フッ化物イオンを含む溶液の接触が、有機構造規定剤の存在下で行われる、ゼオライトの製造方法。
【請求項11】
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上であるゼオライト(ただし、FAU型ゼオライトおよびβ型鉄シリケートを除く)の製造方法であって、
骨格中に少なくともSiを含み、かつSi/Alの原子比が80以上である原料ゼオライト(ただし、FAU型原料ゼオライトおよびβ型鉄シリケートを除く)を用意する工程と、
50℃以上250℃以下の熱水に前記原料ゼオライトを接触させる工程と、を備え、
前記原料ゼオライトを前記熱水に接触させる工程が、1時間~24時間行われる、ゼオライトの製造方法。
【請求項12】
前記フッ化物イオンを含む溶液に前記原料ゼオライトを接触させる前に、前記原料ゼオライトを粉砕する工程をさらに備える、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱水に前記原料ゼオライトを接触させる前に、前記原料ゼオライトを粉砕する工程をさらに備える、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記溶液における前記フッ化物イオンの濃度が、0.001質量%以上である、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2018-233264(出願日:2018年12月13日)および特願2019-113138(出願日:2019年6月18日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、骨格中の半金属元素および/または金属元素として珪素およびアルミニウムを含むゼオライト(例えば、MFI型ゼオライトやBEA型ゼオライト等)が知られている。このような珪素およびアルミニウムを含むゼオライトは、例えば、吸着剤や触媒として工業的に広く用いられている。
【0004】
一方で、ゼオライトの合成の際に、高シリカ組成のものを得るために、フッ化物を添加する技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、後処理としてフッ化物を用いて細孔容積を増加させることを目的とした技術が知られている(非特許文献2参照)。さらに、ゼオライトの耐久性を向上させる手法として、ゼオライトを水蒸気雰囲気下で500℃~700℃に加熱する技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/016338号
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. A. Camblor, L. A. Villaescusa,M. J. Diaz-CabaCas,Top.Catal.1999,9,59-76
【文献】J. Am. Chem. Soc., 2017, 139 (48), pp 17273-17276 「Opening the Cages of Faujasite-Type Zeolite」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、流通しているゼオライトは、水熱耐久性が低い。具体的には、ゼオライトに対し水蒸気が10体積%である雰囲気下で水熱耐久試験を行うと、水熱耐久試験前に比べて結晶化度が著しく低下してしまう。このため、高水熱耐久性を有するゼオライトの開発が望まれている。なお、特許文献1や非特許文献1、2に開示されている技術では、水熱耐久性が優位に向上しない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、水熱耐久性を向上させたゼオライトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]骨格中に少なくともSiを含むゼオライトであって、水蒸気が10体積%の雰囲気下で、前記ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(900℃)が20%以上であり、温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下での前記加熱前の前記ゼオライトの水分吸着率が6.0重量%以下である、ゼオライト。
【0010】
[2]前記ゼオライトが、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、またはMOR型ゼオライトである、上記[1]に記載のゼオライト。
【0011】
[3]骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるMFI型のゼオライトであって、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、前記ゼオライトを1050℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1050℃)が20%以上である、ゼオライト。
【0012】
[4]骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるBEA型のゼオライトであって、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、前記ゼオライトを1100℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(1100℃)が20%以上である、ゼオライト。
【0013】
[5]骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるMOR型のゼオライトであって、水蒸気が10体積%の雰囲気下で、前記ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、加熱前における前記ゼオライトの結晶化度に対する加熱後における前記ゼオライトの結晶化度の割合である相対結晶化度(900℃)が20%以上である、ゼオライト。
【0014】
[6]温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下での前記加熱前の前記ゼオライトの水分吸着率が6.0重量%以下である、上記[3]ないし[5]のいずれか一項に記載のゼオライト。
【0015】
[7]前記ゼオライトが、細孔中にフッ素を含む、上記[1]ないし[6]のいずれか一項に記載のゼオライト。
【0016】
[8]前記ゼオライトが、細孔中に有機構造規定剤を含む、上記[1]ないし[7]のいずれか一項に記載のゼオライト。
【0017】
[9]骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上である原料ゼオライト(ただし、FAU型原料ゼオライトを除く)を用意する工程と、フッ化物イオンを含む溶液または50℃以上250℃以下の熱水に前記原料ゼオライトを接触させる工程と、を備える、ゼオライトの製造方法。
【0018】
[10]前記フッ化物イオンを含む溶液または前記熱水に前記原料ゼオライトを接触させる前に、前記原料ゼオライトを粉砕する工程をさらに備える、上記[9]に記載の製造方法。
【0019】
[11]前記原料ゼオライトと前記フッ化物イオンを含む溶液の接触が、有機構造規定剤の存在下で行われる、上記[9]または[10]に記載の製造方法。
【0020】
[12]前記溶液における前記フッ化物イオンの濃度が、0.001質量%以上である、上記[9]ないし[11]のいずれか一項に記載の製造方法。
【0021】
[13]前記原料ゼオライトを前記熱水に接触させる工程が、1時間以上行われる、上記[9]に記載のゼオライトの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、水熱耐久性を向上させたゼオライトおよびこのようなゼオライトを得ることができるゼオライトの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図2図2は、実施例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図3図3は、比較例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図4図4は、実施例1、2および比較例1に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図5図5は、実施例3に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図6図6は、実施例4に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図7図7は、比較例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図8図8は、実施例3、4および比較例2に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図9図9は、実施例5に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図10図10は、実施例6に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図11図11は、比較例3に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図12図12は、実施例5、6および比較例3に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図13図13は、実施例7に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図14図14は、実施例8に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図15図15は、比較例4に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図16図16は、実施例7、8および比較例4に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図17図17(A)は、比較例5~7に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図17(B)は、比較例8~10に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図18図18は、実施例9~13に係る水熱耐久試験前のゼオライトのX線回折パターンである。
図19図19は、実施例9~13に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。
図20図20は、実施例1、2、14~17に係る水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図21図21は、実施例18~21に係る水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図22図22は、実施例3、4、22~25に係る水熱耐久試験(1050℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図23図23は、実施例26、27に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図24図24は、実施例28に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図25図25は、実施例29に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図26図26は、実施例28および29に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図27図27(A)は、実施例30に係る水熱耐久試験前のゼオライトのX線回折パターンであり、図27(B)は、実施例30に係る水熱耐久試験後のゼオライトのX線回折パターンである。
図28図28は、実施例31に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図29図29は、比較例11~13に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。
図30図30は、実施例27、29および比較例11~13に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図31図31は、実施例32および比較例14に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図32図32は、実施例33、34および比較例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。
図33図33は、実施例35に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。
図34図34は、実施例36および比較例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。
図35図35は、実施例37および比較例4に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。
図36図36(A)は、比較例7、15に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフであり、図36(B)は、比較例10、16に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るゼオライトおよびゼオライトの製造方法について、説明する。
【0025】
<<<ゼオライト>>>
ゼオライトは、骨格中に少なくともSiを含むゼオライト(ただし、FAU型ゼオライトを除く)である。ゼオライトは、FAU型ゼオライト以外のゼオライトであるが、これらのゼオライトの中でも、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、およびMOR型ゼオライトは、優れた水熱耐久性を示すので、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、またはMOR型ゼオライトであることが好ましい。MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、MOR型ゼオライトとは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)のStructure Commissionが定めている構造コードでMFI構造、BEA構造、またはMOR構造となる結晶構造を有するゼオライトである。なお、FAU型ゼオライトを除いているのは、水熱耐久性が有効に向上しないからである。ゼオライトが、FAU構造、MFI構造、BEA構造、またはMOR構造であるか否かは、ゼオライトの粉末X線回折測定結果をFAU型ゼオライト、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、またはMOR型ゼオライトの粉末X線回折パターンと比較することで、確認することができる。
【0026】
ゼオライトは、Alを含まない、またはAlを含む場合にはSi/Alの原子比が50以上であることが好ましい。ゼオライトが、Alを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であれば、水熱耐久性を有効に向上させることができる。上記ゼオライトのSi/Alの原子比の下限は、50を超えることが好ましく、80以上であることがより好ましい。ゼオライトのSi/Alの原子比の上限は、特に限定されず、例えば、無限大、すなわちほぼSiOのみで構成されるゼオライトでも有効であるが、5000以下であることが好ましく、2000以下がより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。
【0027】
水蒸気が10体積%である雰囲気下で、上記ゼオライトに対し900℃で3時間加熱する水熱耐久試験(以下、この水熱耐久試験を「水熱耐久試験(900℃)」と称する。)を行ったとき、水熱耐久試験(900℃)後におけるゼオライトの相対結晶化度(900℃)は20%以上となっていることが好ましい。本明細書における「相対結晶化度」とは、加熱前(水熱耐久試験前)のゼオライトの結晶化度を100%としたときの相対的な結晶化度を意味する。水熱耐久試験(900℃)後におけるゼオライトの相対結晶化度は、30%以上となっていることがより好ましく、40%以上となっていることがさらに好ましい。
【0028】
水熱耐久試験前の上記ゼオライトの水分吸着率は、温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下で測定したとき、6.0重量%以下であることが好ましい。水分吸着率が6.0重量%以下であれば、良好な疎水性を得ることができる。上記ゼオライトがMFI型ゼオライトである場合、優れた疎水性を得る観点から、上記水分吸着率は、3.0重量%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましい。また、上記ゼオライトがBEA型ゼオライトである場合、優れた疎水性を得る観点から、上記水分吸着率は、4.0重量%以下であることがより好ましい。本明細書における「相対水蒸気圧」とは、吸着平衡状態にあるときの水蒸気の圧力(吸着平衡圧)P(mmHg)と水蒸気の飽和蒸気圧P0(mmHg)との比(P/P0)を意味する。上記水分吸着率は、水分吸着容量測定装置(製品名「VSTA」、株式会社アントンパール製)を用いて、25℃の環境下によって測定することができる。
【0029】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMFI型ゼオライトである場合、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MFI型ゼオライトに対し900℃で3時間加熱する水熱耐久試験(900℃)を行ったとき、水熱耐久試験(900℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度(900℃)は30%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(900℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度は、50%以上となっていることがより好ましく、70%以上となっていることがさらに好ましい。
【0030】
また、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MFI型ゼオライトに対し1050℃で3時間加熱する水熱耐久試験(以下、この水熱耐久試験を「水熱耐久試験(1050℃)」と称する。)を行ったとき、水熱耐久試験(1050℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度(1050℃)は20%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1050℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度は、40%以上となっていることがより好ましく、60%以上となっていることがさらに好ましい。
【0031】
さらに、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MFI型ゼオライトに対し1150℃で3時間加熱する水熱耐久試験(以下、この水熱耐久試験を「水熱耐久試験(1150℃)」と称する。)を行ったとき、水熱耐久試験(1150℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度(1150℃)は10%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1150℃)後におけるMFI型ゼオライトの相対結晶化度は、30%以上であることがより好ましく、50%以上となっていることがさらに好ましい。
【0032】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMFI型ゼオライトである場合、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(900℃)が、90%以上であることが好ましい。ゼオライトのミクロ孔容積は、水熱耐久試験(900℃)によって著しく低下してしまう傾向がある。これは、水熱耐久試験(900℃)によってゼオライトの構造崩壊が起こっていることを意味する。これに対し、本発明のMFI型ゼオライトは、ミクロ孔容積維持率(900℃)を90%以上とすることができるので、水熱耐久試験(900℃)後においてもゼオライトのミクロ孔が残存しており、構造崩壊が抑制されたゼオライトを得ることができる。また、上記と同様の理由から、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1050℃)後のゼオライトの比であるミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(1050℃)が、85%以上であることがより好ましく、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1150℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の比であるミクロ孔容積維持率(1150℃)が、70%以上であることがより好ましい。上記ミクロ孔容積は、t-プロット法によって算出される値である。
【0033】
ミクロ孔容積維持率は、ミクロ孔容積維持率をA(%)とし、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積をB(cm/g)とし、水熱耐久試験後のゼオライトのミクロ孔容積をC(cm/g)とした場合、次式(1)によって求めることができる。
A=(C/B)×100 …(1)
【0034】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のBEA型ゼオライトである場合、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、BEA型ゼオライトに対し1050℃で3時間加熱する水熱耐久試験(1050℃)を行ったとき、水熱耐久試験(1050℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度(1050℃)は60%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1050℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度は、70%以上となっていることがより好ましく、80%以上となっていることがさらに好ましい。
【0035】
また、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、BEA型ゼオライトに対し1100℃で3時間加熱する水熱耐久試験(1100℃)を行ったとき、水熱耐久試験(1100℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度(1100℃)は20%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1100℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度(1100℃)は、30%以上となっていることがより好ましく、50%以上となっていることがさらに好ましい。
【0036】
さらに、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、BEA型ゼオライトに対し1150℃で3時間加熱する水熱耐久試験(1150℃)を行ったとき、水熱耐久試験(1150℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度(1150℃)は10%以上となっていることがより好ましい。水熱耐久試験(1150℃)後におけるBEA型ゼオライトの相対結晶化度(1150℃)は、20%以上となっていることがより好ましく、30%以上となっていることがさらに好ましい。
【0037】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のBEA型ゼオライトである場合、MFI型ゼオライトと同様の理由から、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1050℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(1050℃)が、90%以上であることが好ましい。また、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1100℃)後のゼオライトの比であるミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(1100℃)が、85%以上であることが好ましく、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1150℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の比であるミクロ孔容積維持率(1150℃)が、70%以上であることが好ましい。
【0038】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMOR型ゼオライトである場合、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MOR型ゼオライトに対し900℃で3時間加熱する水熱耐久試験(900℃)を行ったとき、水熱耐久試験(900℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度は20%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(900℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度は、30%以上となっていることがより好ましく、40%以上となっていることがさらに好ましい。
【0039】
また、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MOR型ゼオライトに対し1050℃で3時間加熱する水熱耐久試験(1050℃)を行ったとき、水熱耐久試験(1050℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度(1050℃)は10%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1050℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度は、20%以上となっていることがより好ましく、30%以上となっていることがさらに好ましい。
【0040】
さらに、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、MOR型ゼオライトに対し1150℃で3時間加熱する水熱耐久試験(1150℃)を行ったとき、水熱耐久試験(1150℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度(1150℃)は5%以上となっていることが好ましい。水熱耐久試験(1150℃)後におけるMOR型ゼオライトの相対結晶化度は、10%以上となっていることがより好ましく、20%以上となっていることがさらに好ましい。
【0041】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMOR型ゼオライトである場合、MFI型ゼオライトと同様の理由から、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(900℃)が、90%以上であることが好ましい。また、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1050℃)後のゼオライトの比であるミクロ孔容積の割合であるミクロ孔容積維持率(1050℃)が、85%以上であることが好ましく、水熱耐久試験前のゼオライトのミクロ孔容積に対する水熱耐久試験(1150℃)後のゼオライトのミクロ孔容積の比であるミクロ孔容積維持率(1150℃)が、70%以上であることが好ましい。
【0042】
上記ゼオライトが、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMFI型ゼオライト、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のBEA型ゼオライト、あるいは、骨格中にAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上のMOR型ゼオライトである場合においても、水熱耐久試験前のゼオライトの水分吸着率は、温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下で測定したとき、良好な疎水性が得られることから6.0重量%以下であることが好ましい。上記ゼオライトがこのMFI型ゼオライトである場合、優れた疎水性を得る観点から、上記水分吸着率は、3.0重量%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましい。また、上記ゼオライトがこのBEA型ゼオライトである場合、優れた疎水性を得る観点から、上記水分吸着率は、4.0重量%以下であることがより好ましい。
【0043】
水熱耐久試験前のゼオライトは、細孔中にフッ素および/または有機構造規定剤を含んでいてもよい。
【0044】
ゼオライトの用途は、特に限定されないが、例えば、ゼオライトは、VOC(揮発性有機化合物)吸着用ハニカムローター、石油化学触媒、自動車用触媒、自動車用吸着剤、イオン交換剤として用いることができる。
【0045】
<<<ゼオライトの製造方法>>>
上記ゼオライトは、以下のフッ化物イオンを含む溶液を用いた高耐久化処理または熱水を用いた高耐久化処理によって得ることができる。本明細書における「熱水」とは、50℃以上の水を意味するものとする。
【0046】
<<フッ化物イオンを含む溶液による高耐久化処理>>
まず、骨格中に少なくともSiを含む原料ゼオライトであって、Alを含まない原料ゼオライトまたはAlを含む場合にはSi/Alの原子比が50以上である原料ゼオライト(ただし、FAU型ゼオライトを除く)を用意する。Si/Alの原子比が低い原料ゼオライトであると、後述する高耐久化処理を行ったとしても、水熱耐久試験を行ったときに、脱Alによって構造崩壊してしまい、水熱耐久性が有効に向上しないおそれがある。これに対し、Si/Alの原子比が50以上である原料ゼオライトに対して高耐久化処理を行えば、水熱耐久試験を行ったときに、水熱耐久性を有効に向上させることができる。原料ゼオライトのSi/Alの原子比の下限は、50を超えることが好ましく、80以上であることがより好ましい。原料ゼオライトのSi/Alの原子比の上限は、特に限定されず、例えば、無限大、すなわち、ほぼSiOのみで構成される原料ゼオライトでもよいが、5000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましい。
【0047】
原料ゼオライトの種類としては、FAU型ゼオライト以外のゼオライトであれば、特に限定されないが、例えば、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、およびMOR型ゼオライト等が挙げられる。
【0048】
原料ゼオライトは、骨格中にヘテロ原子を含んでいてもよい。原料ゼオライトがヘテロ原子を含むことにより、疎水性を向上させることができる。ヘテロ原子としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ga、Ge、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、In、Sn、Hf等が挙げられる。
【0049】
用意する原料ゼオライトとしては、ゼオライト原料から合成してもよいが、市販のゼオライトを用いることができる。例えば、MFI型ゼオライトであるHSZ-890HOA(Si/Al=750)やBEA型ゼオライトであるHSZ-990HOA(Si/Al=750)(いずれも、東ソー株式会社製)を用いることができる。
【0050】
使用する原料ゼオライトは、粉砕して微細にして用いてもよい。原料ゼオライトの平均粒径は、0.01μm~15μm程度、好ましくは0.01μm~5μm程度、より好ましくは0.01μm~2μm程度である。上記平均粒径が0.01μm以上であれば、微細過ぎず、容易に取り扱うことができる。なお、原料ゼオライトの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析法またはレーザー回折法により測定することができる。両法で得られる平均粒径はほぼ同じであるが、本発明で用いる平均粒径はSEMによる画像解析法で規定する。SEMによる画像解析法は、SEM(製品名「S-4800」株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、20000倍でSEM写真を撮影し、SEM画像における50個の粒子の長軸と短軸の平均を測定し、すべての粒子の平均値から求める。レーザー回折法は、水やエタノールなどの溶媒に分散させたゼオライトをレーザー回折法により測定する。
【0051】
上記粉砕の方法は、特に限定されないが、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、ジェットミルなどを用いて行なうことができる。これらの中でもビーズミルは、原料ゼオライトの非晶質化を最低限に抑えることができる。ビーズミルは、通常、平均粒径が30μm~500μmのセラミックビーズを用い、解砕・粉砕を行う装置である。粉砕メディアに微小ビーズを用いるため、ボールミルや遊星ボールミルと異なり、処理する粉末がビーズや他の粒子と衝突する頻度が多く、また一回の衝突の際、粒子に与える力が少ないため、表面を非晶質化させることなく効率よく粉砕できる。しかし、ビーズミルを用いたとしても原料ゼオライトはある程度非晶質化する。
【0052】
原料ゼオライトまたは粉砕後の原料ゼオライトを用意した後、原料ゼオライトを、フッ化物イオンを含む溶液に接触させて、原料ゼオライトの高耐久化処理を行う。この高耐久化処理により、水熱耐久性が向上したゼオライトを得ることができる。
【0053】
フッ化物イオンを含む溶液(以下、この溶液を「高耐久化溶液」と称することもある。)は、フッ化物イオンおよび溶媒の他、有機構造規定剤を含んでいてもよい。高耐久化溶液に、有機構造規定剤を含ませることにより、有機構造規定剤によってゼオライト中の細孔を充填し構造を安定化させることができるので、より水熱耐久性を向上させることができる。ただし、有機構造規定剤は、高耐久化溶液中に含まれていなくともよい。
【0054】
フッ化物イオンを含む溶液による高耐久化処理は、より水熱耐久性を向上させるために、高耐久化溶液を攪拌しながら行うことが好ましい。撹拌の有無および撹拌速度は特に限定されないが、攪拌速度は、1rpm以上1000rpm以下であってもよい。攪拌速度の下限は、好ましくは2rpm以上、より好ましくは5rpm以上であり、攪拌速度の上限は、好ましくは800rpm以下、より好ましくは500rpm以下である。
【0055】
上記高耐久処理を行う際の高耐久化溶液の温度は、特に限定されず、0℃以上374℃未満であればよい。高耐久化溶液の温度の下限は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、高耐久化溶液の温度の上限は、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下、最も好ましくは100℃以下である。
【0056】
上記高耐久化処理を行う時間は、特に限定されないが、10分間以上であればよい。上記高耐久化処理を10分間以上行うことにより、確実に水熱耐久性が向上したゼオライトを得ることができる。フッ化物イオンを含む溶液による高耐久化処理を行う時間の下限は、特に制限はないが、1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。また、上記高耐久化処理を行う時間の上限は、エネルギー消費の観点から、72時間以下であることが好ましく、48時間以下であることがより好ましい。
【0057】
<フッ化物イオン>
フッ化物イオンは、特に限定されないが、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム等のフッ化物を溶媒に溶解させることにより得ることができる。
【0058】
高耐久化溶液中のフッ化物イオンの濃度は、0.001質量%以上であることが好ましい。フッ化物イオンの濃度が、0.001質量%以上であれば、有効に水熱耐久性を向上させることができる。フッ化物イオンの濃度の下限は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。フッ化物イオンの濃度の上限は、ゼオライトの構造が崩壊することを抑制する観点から、25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
<溶媒>
溶媒としては、特に限定されないが、水等が挙げられる。
【0060】
<有機構造規定剤>
有機構造規定剤とは、ゼオライトの細孔径や結晶構造を規定する有機分子を意味する。有機構造規定剤の種類等によって、得られるゼオライトの構造等を制御することができる。
【0061】
有機構造規定剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム;モルホリン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-イソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン、シクロヘキシルアミン、2-メチルピリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、コリン、N,N’-ジメチルピペラジン、1,4-ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N-メチルジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルピペリジン、3-メチルピペリジン、N-メチルシクロヘキシルアミン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、キヌクリジン、N,N’-ジメチル-1,4-ジアザビシクロ-(2,2,2)オクタンイオン、ジ-n-ブチルアミン、ネオペンチルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、イソプロピルアミン、t-ブチルアミン、エチレンジアミン、ピロリジン、2-イミダゾリドン、ジ-イソプロピル-エチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、N-メチル-n-ブチルアミン、ヘキサメチレンイミン等の1級アミン、2級アミン、3級アミン、ポリアミン等が挙げられる。これらの中でも、ゼオライト細孔中で骨格を安定化しやすいことから、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)を用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
高耐久化溶液が有機構造規定剤を含む場合、高耐久化溶液中の有機構造規定剤の濃度は、0.001質量%以上であることが好ましい。有機構造規定剤の濃度が、0.001質量%以上であれば、より有効に水熱耐久性を向上させることができる。有機構造規定剤の濃度の下限は、0.1質量%以上、1質量%以上であることが好ましい。有機構造規定剤の濃度の上限は、コストの観点から、50質量%以下、35質量%以下であることが好ましい。
【0063】
高耐久化処理後、ゼオライトを洗浄し、乾燥させる。その後、ゼオライトを250℃以上800℃以下で焼成してもよい。この焼成により、ゼオライトから有機物やフッ素を除去できる。これにより、高耐久化処理されたゼオライトを得ることができる。
【0064】
<<熱水による高耐久化処理>>
まず、上記同様に、骨格中に少なくともSiを含む原料ゼオライトであって、Alを含まない原料ゼオライトまたはAlを含む場合にはSi/Alの原子比が50以上である原料ゼオライトを用意する。原料ゼオライトは、フッ化物イオンによる処理の欄で説明した原料ゼオライトと同様であるので、ここでは説明を省略するものとする。また、原料ゼオライトは上記と同様に粉砕してもよい。
【0065】
原料ゼオライトまたは粉砕後の原料ゼオライトを用意した後、原料ゼオライトを50℃以上250℃以下の熱水に接触させて、原料ゼオライトの高耐久化処理を行う。この高耐久化処理により、水熱耐久性が向上したゼオライトを得ることができる。原料ゼオライトを熱水に接触させる際には、原料ゼオライトを熱水に直接投入して熱水に接触させてもよいが、原料ゼオライトを50℃未満の水に投入した後、原料ゼオライトが分散している水を加熱して、熱水に接触させてもよい。
【0066】
熱水としては、特に限定されず、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、水道水、または工業用水等を挙げることができる。これらの中でも、純水を好適に用いることができる。熱水は、本発明の効果が得られる限り、他の成分や不純物を含んでいてもよい。
【0067】
熱水の温度が50℃以上であれば、水熱耐熱性を向上させることができ、また250℃以下であれば、安全に作業することができる。熱水の温度の下限は、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。また、熱水の温度の上限は、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。
【0068】
上記高耐久化処理を行う時間(原料ゼオライトを熱水に接触させる時間)は、特に限定されないが、1時間以上であればよい。高耐久化処理を1時間以上行うことにより、確実に水熱耐久性が向上したゼオライトを得ることができる。高耐久化処理を行う時間の下限は、特に制限はないが、2時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。また、高耐久化処理を行う時間の上限は、エネルギー消費の観点から、24時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましい。
【0069】
上記高耐久化処理後、ゼオライトを洗浄し、乾燥させる。その後、ゼオライトを300℃以上800℃以下で焼成してもよい。この焼成により、ゼオライトから有機物やフッ素を除去できる。これにより、高耐久化処理されたゼオライトを得ることができる。
【0070】
本実施形態によれば、ゼオライトに対しフッ化物イオンを含む溶液または熱水を用いて高耐久化処理を行っているので、ゼオライトの水熱耐久性を向上させることができる。これは、以下の理由からであると考えられる。ゼオライトには、欠陥(シラノール欠陥)が存在するが、この欠陥が原因でゼオライトは水熱耐久性が低くなる。一方、フッ化物イオンは、ゼオライト骨格中のSi-O結合を切断および再配列させることができる。また、フッ化物イオンを原料ゼオライトに接触させると、ゼオライト骨格中のSiがマイグレーションし、表面積が減少するように欠陥が移動するので、欠陥が集まり、欠陥の数が減少する。したがって、フッ化物イオンを含む溶液を用いて高耐久化処理を行うと、フッ化物イオンの作用により欠陥が修復されるとともに、Siがマイグレーションして、欠陥の少ないゼオライトが得られる。なお、フッ化物イオンは、欠陥を修復する性能を有しているが、塩化物イオンや臭化物イオンは、欠陥を修復する性能を有していない。これは、フッ化物イオンの大きさが、塩化物イオンや臭化物イオンの大きさよりも小さいので、ゼオライト中に入りやすいからであると考えられる。また、熱水を原料ゼオライトに接触させると、フッ化物イオンを含む溶液の場合と同様に、ゼオライト骨格中のSiがマイグレーションし、表面積が減少するように欠陥が移動するので、欠陥が集まり、欠陥の数が減少する。したがって、熱水を用いて高耐久化処理を行うと、熱水の作用により、欠陥の少ないゼオライトが得られる。
【0071】
非特許文献1のように、ゼオライトを合成する際にフッ化物を用いれば、ゼオライトの水熱耐久性が向上するとも考えられるが、この方法では、ゼオライトの水熱耐久性は優位に向上しない。これは、ゼオライトを合成する際にフッ化物を添加した場合には、フッ化物は結晶構造を作る役割を果たすが、欠陥を修復する機能は発揮しにくいためのであると考えられる。これに対し、本実施形態においては、合成したゼオライトに対して高耐久化処理を行っているので、フッ化物イオンは欠陥を修復するために機能する。
【0072】
本実施形態によれば、フッ化物イオンを含む溶液または熱水による高耐久化処理によって、ゼオライトの水熱耐久性を向上させることができるので、水蒸気が10体積%の雰囲気下で、ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、ゼオライトの相対結晶化度(900℃)を20%以上とすることができる。また、ゼオライトに対し上記高耐久化処理を行うと、疎水性を示すので、温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下でのゼオライトの水分吸着率を6.0重量%以下とすることができる。
【0073】
本実施形態によれば、フッ化物イオンを含む溶液または熱水による高耐久化処理によって、ゼオライトの水熱耐久性を向上させることができるので、骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるMFI型のゼオライトにおいては、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、ゼオライトを1050℃で3時間加熱したとき、ゼオライトの相対結晶化度(1050℃)を20%以上とすることができ、骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるBEA型のゼオライトにおいては、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、ゼオライトを1100℃で3時間加熱したとき、ゼオライトの相対結晶化度(1100℃)を20%以上とすることができ、骨格中に少なくともSiを含み、かつAlを含まない、またはSi/Alの原子比が50以上であるMOR型のゼオライトにおいては、水蒸気が10体積%である雰囲気下で、ゼオライトを900℃で3時間加熱したとき、ゼオライトの相対結晶化度(900℃)を20%以上とすることができる。これらのゼオライトの相対結晶化度は、従来の方法では達成できなかった値である。
【実施例
【0074】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。図1は実施例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図2は実施例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図3は比較例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図4は実施例1、2および比較例1に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図5は実施例3に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図6は実施例4に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図7は比較例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図8は実施例3、4および比較例2に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図9は実施例5に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図10は実施例6に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図11は比較例3に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図12は実施例5、6および比較例3に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図13は実施例7に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図14は実施例8に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図15は比較例4に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンである。図16は実施例7、8および比較例4に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図17(A)は、比較例5~7に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図17(B)は、比較例8~10に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図18は実施例9~13に係る水熱耐久試験前のゼオライトのX線回折パターンであり、図19は実施例9~13に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。図20は実施例1、2、14~17に係る水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図21は実施例18~21に係る水熱耐久試験(900℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図22は実施例3、4、22~25に係る水熱耐久試験(1050℃)後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図23は実施例26、27に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図24は実施例28に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図25は実施例29に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図26は実施例28および29に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図27(A)は実施例30に係る水熱耐久試験前のゼオライトのX線回折パターンであり、図27(B)は実施例30に係る水熱耐久試験後のゼオライトのX線回折パターンであり、図28は実施例31に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図29は比較例11~13に係る水熱耐久試験前後のゼオライトのX線回折パターンであり、図30は実施例27、29および比較例11~13に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図31は実施例32および比較例14に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフである。図32は実施例33、34および比較例1に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフであり、図33は、実施例35に係る水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を示すグラフであり、図34は実施例36および比較例2に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフであり、図35は実施例37に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフである。図36(A)は、比較例7、15に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフであり、図36(B)は、比較例10、16に係る水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度を示すグラフであり、なお、図中の「試験」とは、水熱耐久試験を意味するものとする。
【0075】
<分析に用いた装置>
粉末X線回折装置:製品名「UltimaIV」、株式会社リガク製、CuKα線使用、電圧40kV、電流40mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
ガス吸着量測定装置:製品名「Autosorb-iQ2」、株式会社アントンパール製、液体窒素温度
水分吸着容量測定装置:製品名「VSTA」、株式会社アントンパール製、25℃
【0076】
<実施例1、2および比較例1>
実施例1、2においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例1、2に係るゼオライトを得た。なお、実施例1においては放置時間を3時間とし、実施例2においては放置時間を24時間とした。
【0077】
また、比較例1に係るゼオライトとして、MFI型ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径0.7μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0078】
そして、実施例1、2および比較例1に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行い、水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。具体的には、まず、ゼオライト1gを、アルミナセラミックス管に入れ、ゼオライトの上下に耐熱ウールを配置し、アルミナセラミックス管の中間位置でゼオライトを保持した。そして、そのアルミナセラミックス管をマッフル炉に配置し、アルミナセラミックス管の中に水蒸気10体積%を含む空気を流しながら、室温から所定の温度まで昇温させて、所定温度で3時間保持し、水熱耐久試験を行った。なお、実施例1、2および比較例1に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。その後、自然冷却後にゼオライトを取り出した。水熱耐久試験前後において、実施例1、2および比較例1に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、得られたX線回折パターン(図1図3参照)から結晶化度をそれぞれ求めた。結晶化度は、非晶質によるブロードなバックグラウンドピークを補正により差し引いた後に、2θ=20~30°にあるピークの積分強度の和を用いて求めた。なお、2θ=20~30°のピークの積分強度を用いるのは、サンプルの吸水による影響が小さいためである。そして、それぞれの水熱耐久試験毎に、結晶化度から水熱耐久試験前のゼオライトの結晶化度を100%としたときの水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。
【0079】
<実施例3、4および比較例2>
実施例3、4においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-990HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例3、4に係るゼオライトを得た。なお、実施例3においては放置時間を3時間とし、実施例4においては放置時間を24時間とした。
【0080】
また、比較例2に係るゼオライトとして、BEA型ゼオライト(商品名「HSZ-990HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径0.7μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0081】
そして、実施例3、4および比較例2に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例3、4および比較例2に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図5図7参照)から水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例3、4に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は1050℃、1150℃で行われ、また比較例2に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は900℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0082】
<実施例5、6および比較例3>
実施例5、6においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-960HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=50、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして後、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例5、6に係るゼオライトを得た。なお、実施例5においては放置時間を3時間とし、実施例6においては放置時間を24時間とした。
【0083】
また、比較例3に係るゼオライトとして、BEA型ゼオライト(商品名「HSZ-960HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=50、平均粒径0.7μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0084】
そして、実施例5、6および比較例3に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例5、6および比較例3に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図9図11参照)から水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例5、6および比較例3に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃でそれぞれ行われた。
【0085】
<実施例7、8および比較例4>
実施例7、8においては、まず、原料ゼオライトとしてMOR型原料ゼオライト(商品名「HSZ-690HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=120、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例7、8に係るゼオライトを得た。なお、実施例7においては放置時間を3時間とし、実施例8においては放置時間を24時間とした。
【0086】
また、比較例4に係るゼオライトとして、MOR型ゼオライト(商品名「HSZ-690HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=120、平均粒径0.7μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0087】
そして、実施例7、8および比較例4に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例7、8および比較例4に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図13図15参照)から水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例7、8および比較例4に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃でそれぞれ行われた。
【0088】
<比較例5~7>
比較例5、6においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-840HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径0.3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、比較例5、6に係るゼオライトを得た。なお、比較例5においては放置時間を3時間とし、比較例6においては、放置時間を24時間とした。
【0089】
また、比較例7に係るゼオライトとして、MFI型ゼオライト(商品名「HSZ-840HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径3μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0090】
そして、比較例5~7に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、比較例5~7に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、比較例5、6に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃でそれぞれ行われ、また比較例7に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、800℃、900℃、1050℃でそれぞれ行われた。
【0091】
<比較例8~10>
比較例8、9においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-940HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、比較例8、9に係るゼオライトを得た。なお、比較例8においては放置時間を3時間とし、比較例9においては放置時間を24時間とした。
【0092】
また、比較例10に係るゼオライトとして、BEA型ゼオライト(商品名「HSZ-940HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径0.7μm)を、フッ化物イオンを含む溶液での処理または後述する熱水での処理を行わずに用いた。
【0093】
そして、比較例8~10に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、比較例8~10に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、比較例8~10に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、950℃、1000℃、1050℃でそれぞれ行われた。
【0094】
<実施例9~13>
実施例9~13においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、1.14:x:15.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記ゼオライト5gを加えて、170℃で3時間攪拌せずに放置した。その後、得られた生成物を水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた生成物を550℃で焼成して、実施例9~13に係るゼオライトを取り出した。なお、実施例9においてはxを1.00とし、実施例10においてはxを0.50とし、実施例11においてはxを0.20とし、実施例12においてはxを0.10とし、実施例13においてはxを0とした。
【0095】
そして、実施例9~13に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例9~13に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図18参照)から水熱耐久試験前後のゼオライトの結晶化度をそれぞれ求めた。水熱耐久試験は、全て、室温から900℃まで昇温させて、900℃で3時間保持した以外は、実施例1と同様にして行われた。
【0096】
<実施例14~17>
実施例14~17においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、所定温度で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例14~17に係るゼオライトを得た。なお、実施例14においては、170℃で3時間放置し、実施例15においては、170℃で24時間放置し、実施例16においては、150℃で24時間放置し、実施例17においては、130℃で24時間放置した。
【0097】
そして、実施例14~17に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例14~17に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。水熱耐久試験は、室温から900℃まで昇温させて、900℃で3時間保持した以外は、実施例1と同様にして行われた。
【0098】
<実施例18~21>
実施例18~21においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径
3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.004:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記ゼオライト5gを加えて、所定温度で所定時間放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例18~21に係るゼオライトを得た。なお、実施例18においては、170℃で3時間放置し、実施例19においては、170℃で24時間放置し、実施例20においては、80℃で3時間放置し、実施例21においては、80℃で24時間放置した。また、上記溶液を放置する際には、実施例18、19においては、上記溶液を攪拌せず、また実施例20、21においては、上記溶液を攪拌速度20rpmで攪拌した。
【0099】
そして、実施例18~21に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例18~21に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。水熱耐久試験は、室温から900℃まで昇温させて、900℃で3時間保持した以外は、実施例1と同様にして行われた。
【0100】
<実施例22~25>
実施例22~25においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-960HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=50、平均粒径0.7μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、所定温度で所定時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例22~25に係るゼオライトを得た。なお、実施例22においては、170℃で2時間放置し、実施例23においては、170℃で1時間放置し、実施例24においては、170℃で30分放置し、実施例25においては、80℃で3時間放置した。
【0101】
そして、実施例22~25に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例22~25に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。水熱耐久試験は、室温から1050℃まで昇温させて、1050℃で3時間保持した以外は、実施例1と同様にして行われた。
【0102】
<実施例26、27>
実施例26、27においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.01:0.1:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、80℃で所定時間攪拌速度20rpmで攪拌しながら放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例26、27に係るゼオライトを得た。なお、実施例26においては、放置時間を3時間とし、実施例27においては、放置時間を24時間とした。
【0103】
そして、実施例26、27に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例26、27に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た(図23参照)。水熱耐久試験は、室温から900℃まで昇温させて、900℃で3時間保持した以外は、実施例1と同様にして行われた。
【0104】
<実施例28>
実施例28においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.01:0.1:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、80℃で3時間攪拌速度20rpmで攪拌しながら放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例28に係るゼオライトを得た。
【0105】
そして、実施例28に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例28に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た(図24参照)。なお、実施例28に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0106】
<実施例29>
実施例29においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.01:0.1:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、80℃で3時間攪拌速度20rpmで攪拌しながら放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例29に係るゼオライトを得た。
【0107】
そして、実施例29に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例29に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た(図25参照)。なお、実施例29に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0108】
<実施例30>
実施例30においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、40℃で3時間攪拌速度20rpmで攪拌しながら放置した。その後、この溶液から処理物を取り出して、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例30に係るゼオライトを得た。
【0109】
そして、実施例30に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例30に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図27(A)および図27(B)参照)を得た。なお、実施例30に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃で行われた。
【0110】
<実施例31>
実施例31においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。一方で、フッ化ナトリウム(NaF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.0040:0.035:5.3となるように水にフッ化ナトリウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、170℃で所定時間放置した。その後、この溶液から処理物を取り出して、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例31に係るゼオライトを取り出した。なお、実施例31においては、放置時間を3時間とした。
【0111】
そして、実施例31に係るゼオライトに対して、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例31に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例31に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0112】
<比較例11~13>
比較例11~13においては、MFI型ゼオライトに低温スチーム処理を行った。具体的には、まず、MFI型ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。その後、水蒸気10体積%を含む空気中で、ゼオライトを所定温度で24時間加熱した。なお、比較例11においては、500℃で加熱し、比較例12においては、600℃で加熱し、比較例13においては、700℃で加熱した。
【0113】
そして、比較例11~13に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、比較例11~13に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターン(図29参照)から水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、比較例11~13に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃で行われた。
【0114】
<実施例32および比較例14>
まず、比較例14においては、フッ化物を用いてゼオライトの合成を行った。具体的には、シリカ源であるヒュームドシリカ(商品名「Cab-O-Sil(登録商) M5」、キャボット社製)とアルミナ源である水酸化アルミニウム(和光純薬製)を水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に加え溶解させた後にフッ化アンモニウム水溶液を添加した。この混合物組成は、1SiO:0.0167Al(OH):0.35テトラエチルアンモニウム:0.4NHF:5.77HOとした。140℃にて6日間水熱処理の後に生成物を洗浄、回収した。そして、得られた生成物を550℃で焼成し、比較例14に係るゼオライトを得た。比較例14に係るゼオライトは、BEA型ゼオライトであった。また、比較例14に係るゼオライトは、平均粒径10μmであった。
【0115】
また、実施例32においては、比較例14に係るゼオライトを300μmのジルコニアビーズを用いて9m/sにて60分粉砕した。一方、フッ化アンモニウム(NHF)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および水のモル比が、0.40:0.35:5.3となるように水にフッ化アンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムを添加して、フッ化物イオンを含む溶液を得た。そして、この溶液10gに対し上記粉砕後原料ゼオライト5gを加えて、170℃で24時間攪拌せずに放置した。その後、この溶液から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例32に係るゼオライトを得た。実施例32に係るゼオライトは、BEA型ゼオライトであり、Alを含まないものであった。また、実施例32に係るゼオライトは、平均粒径0.15μmであった。
【0116】
そして、実施例32および比較例14に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例32および比較例14に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例32および比較例14に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1000℃、1100℃、1150℃で行われた。
【0117】
<実施例33~35>
実施例33~35においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-890HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径3μm)を用意した。そして、純水10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、純水が所定温度となるように加熱した状態で24時間攪拌せずに放置した。その後、純水から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例33~35に係るゼオライトを得た。なお、実施例33においては純水の温度が80℃となるように、実施例34においては純水の温度が120℃となるように、また実施例35においては純水の温度が170℃となるように加熱した。
【0118】
そして、実施例33~35に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、それぞれ水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例33~35に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例33、34に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃でそれぞれ行われ、実施例35に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0119】
<実施例36>
実施例36においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-990HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=750、平均粒径0.7μm)を用意した。そして、純水10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、純水の温度が120℃となるように加熱した状態で24時間攪拌せずに放置した。その後、純水から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例36に係るゼオライトを得た。
【0120】
そして、実施例36に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例36に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例36に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は1100℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0121】
<実施例37>
実施例37においては、まず、原料ゼオライトとしてMOR型原料ゼオライト(商品名「HSZ-690HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=120、平均粒径0.3μm)を用意した。そして、純水10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、純水の温度が120℃となるように加熱した状態で24時間攪拌せずに放置した。その後、純水から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、実施例37に係るゼオライトを得た。
【0122】
そして、実施例37に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、実施例37に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、実施例37に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃でそれぞれ行われた。
【0123】
<比較例15>
比較例15においては、まず、原料ゼオライトとしてMFI型原料ゼオライト(商品名「HSZ-840HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径3μm)を用意した。そして、純水10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、純水の温度が120℃となるように加熱した状態で24時間攪拌せずに放置した。その後、純水から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、比較例15に係るゼオライトを得た。
【0124】
そして、比較例15に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、比較例15に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、比較例15に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、1050℃、1150℃でそれぞれ行われた。
【0125】
<比較例16>
比較例16においては、まず、原料ゼオライトとしてBEA型原料ゼオライト(商品名「HSZ-940HOA」、東ソー株式会社製、Si/Al=20、平均粒径0.7μm)を用意した。そして、純水10gに対し上記原料ゼオライト5gを加えて、純水の温度が120℃となるように加熱した状態で24時間攪拌せずに放置した。その後、純水から処理物を取り出し、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。そして、乾燥させた処理物を550℃で焼成して、比較例16に係るゼオライトを得た。
【0126】
そして、比較例16に係るゼオライトに対し、実施例1と同様に、水熱耐久試験を行うとともに、水熱耐久試験前後において、比較例16に係るゼオライトに対して上記粉末X線回折装置によるX線回折測定を行い、X線回折パターンから水熱耐久試験後のゼオライトの相対結晶化度を求めた。なお、比較例16に係るゼオライトにおいては、水熱耐久試験は、900℃、1050℃でそれぞれ行われた。
【0127】
表1に実施例1~37に係るゼオライトの型、Si/Alの比、相対結晶化度を示し、表2に比較例1~16に係るゼオライトの型、Si/Alの比、相対結晶化度を示した。
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
以下、結果について述べる。まず、表1、2および図4のグラフに示されるように、実施例1、2に係るゼオライトは、比較例1に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。また、表1、2および図8のグラフに示されるように、実施例3、4に係るゼオライトは、比較例2に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。また、表1、2および図12のグラフに示されるように、実施例5、6に係るゼオライトは、比較例3に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。また、表1、2および図16のグラフに示されるように、実施例7、8に係るゼオライトは、比較例4に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。この結果から、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、およびMOR型ゼオライトを、フッ化物イオンを含む溶液に接触させると、水熱耐久性が向上することが理解できる。
【0130】
また、表2および図17(A)のグラフに示されるように、比較例5、6に係るゼオライトは、比較例7に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が低かった。また、図17(B)のグラフに示されるように、比較例8、9に係るゼオライトは、比較例10に係るゼオライトとほぼ水熱耐久試験後の相対結晶化度が変わらなかった。この結果から、ゼオライトのSi/Alの原子比が小さいと、水熱耐久性が有効に向上しないことが理解できる。
【0131】
図19のグラフから、フッ化物イオンを含む溶液に、有機構造規定剤としての水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)を添加した方が、添加しないよりも、水熱耐久性が向上することが理解できる。
【0132】
図20図22図26ならびに図27(A)および図27(B)のグラフから、フッ素イオンを含む溶液を用いた場合、高耐久化処理の際の温度が、40℃~170℃であっても、水熱耐久性が向上することが理解できる。また、図20に示されるグラフから、高耐久化処理を攪拌しながら行うと、水熱耐久性がより向上することが理解できる。
【0133】
図21のグラフから、溶液中のフッ化物イオンの濃度が極めて少なくても、水熱耐久性が向上することが理解できる。また、図28のグラフから、実施例1とは異なるフッ化物を用いて高耐久化処理を行った場合であっても、水熱耐久性が向上することが理解できる。また、図30のグラフから、低温スチーム処理よりも本発明の高耐久化処理の方が、水熱耐久性が向上することが理解できる。さらに、図31のグラフから、フッ化物を用いて合成したゼオライトよりも、合成後にフッ化物イオンを含む溶液で高耐久化処理した方が、水熱耐久性が向上することが理解できる。
【0134】
表1および表2ならびに図32図33に示されるように、実施例33~35に係るゼオライトは、比較例1に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。また、図32のグラフから、MFI型ゼオライトに対し熱水による高耐久化処理を行うと、水熱耐久試験後のみならず、水熱耐久試験前のゼオライトの結晶化度も向上することが理解できる。
【0135】
表1、2および図34のグラフに示されるように、実施例36に係るゼオライトは、比較例2に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。
【0136】
表1および表2に示されるように、実施例37に係るゼオライトは、比較例4に係るゼオライトよりも、水熱耐久試験後の相対結晶化度が高かった。また、図35のグラフから、MOR型ゼオライトに対し熱水による高耐久化処理を行うと、水熱耐久試験後のみならず、水熱耐久試験前のゼオライトの結晶化度も向上することが理解できる。
【0137】
したがって、これらの結果から、MFI型ゼオライト、BEA型ゼオライト、およびMOR型ゼオライトを、熱水に接触させると、水熱耐久性が向上することが理解できる。
【0138】
また、表2および図36(A)のグラフに示されるように、比較例15に係るゼオライトは、比較例7に係るゼオライトとほぼ水熱耐久試験後の相対結晶化度が変わらず、また表2および図36(B)のグラフに示されるように、比較例16に係るゼオライトは、比較例10に係るゼオライトとほぼ水熱耐久試験後の相対結晶化度が変わらなかった。この結果から、ゼオライトのSi/Alの原子比が小さいと、水熱耐久性が有効に向上しないことが理解できる。
【0139】
また、実施例19、34、36、37および比較例1、2、4に係るゼオライトの水熱試験前後でミクロ孔容積を測定し、上記式(1)に基づいてミクロ孔容積維持率を求めた。ミクロ孔容積は、上記ガス吸着量測定装置を用いてt-プロット法により算出された。
【0140】
以下、結果を表3に示す。
【表3】
【0141】
表3に示されるように、実施例19、34に係るゼオライトの各ミクロ孔容積維持率は、比較例1に係るゼオライトのミクロ孔容積維持率よりも高かった。また、実施例36に係るゼオライトのミクロ孔容積維持率は、比較例2に係るゼオライトのミクロ孔容積維持率よりも高かった。さらに、実施例37に係るゼオライトのミクロ孔容積維持率は、比較例4に係るゼオライトのミクロ孔容積維持率よりも高かった。これらの結果から、ゼオライトをフッ化物イオンや熱水で処理すると、水熱耐久試験を行ったとしても、ミクロ孔容積の低減が抑制できることが理解できる。
【0142】
さらに、実施例1、4、29、30、34、35、36および比較例1、2に係る水熱耐久試験前のゼオライトにおいて、水分吸着率を測定した。水分吸着率は、上記水分吸着容量測定装置を用いて、温度25℃および相対水蒸気圧0.4の環境下で平衡に到達させることで測定された。
【0143】
以下、結果を表4に示す。
【表4】
【0144】
表4に示されるように、実施例1、29、30、34、35に係るゼオライトの水分吸着率は、比較例1に係るゼオライトの水分吸着率よりも低かった。また、表4に示されるように、実施例4、36に係るゼオライトの水分吸着率は、比較例2に係るゼオライトの水分吸着率よりも低かった。これらの結果から、ゼオライトをフッ化物イオンや熱水で処理すると、水分を吸着しにくくなり、疎水性の傾向を示すことが理解できる。
図1
図2
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