(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム積層部材および発光デバイス
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20231108BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20231108BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231108BHJP
H01L 33/22 20100101ALI20231108BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B25/18
H01L21/205
H01L33/22
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2019150308
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019023916
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-064928(JP,A)
【文献】特開2013-087012(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが
50nm以上500nm以下である凸部が周期的に配置された下地面を有するサファイア基板と、
前記下地面上に成長され、表面が平坦面であり、内部にボイドを実質的に含まない、窒化アルミニウム層と、
を備え、
前記表面は、前記表面の5μm角領域の原子間力顕微鏡測定により求めた二乗平均平方根値として3nm以下の表面粗さを有し、
前記窒化アルミニウム層の断面観察像において、前記表面に平行な10μm以上の長さの線を、前記線がボイドを横切る長さが最大になるように記した場合に、前記線の長さに対する、前記ボイドの長さの比率であるボイド含有率が、10%以下であり、
前記表面は単一の結晶方位を有し、前記表面に対して最も近い低指数の結晶面が、前記窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムの+c面であり、
前記凸部の高さ方向が、前記サファイア基板を構成するサファイアのc軸方向と平行であり、
前記凸部の各々は、錘状または尾根状であり、前記凸部の各々の斜面の平面視での幅が、500nm以下であり、
最も近くに隣り合う前記凸部同士のピッチが、1000nm以下である、
窒化アルミニウム積層部材。
【請求項2】
前記表面は、ステップ・テラス構造を有する、請求項1に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項3】
前記窒化アルミニウム層は、X線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の半値幅が300秒以下である、請求項1または2に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項4】
前記窒化アルミニウム層は、X線ロッキングカーブ測定による(10-12)回折の半値幅が500秒以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項5】
前記表面は、前記表面上に他の窒化アルミニウム層をホモエピタキシャル成長させた場合に、前記他の窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムのX線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の半値幅の、前記窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムのX線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の半値幅に対する増加量が、100秒以下となるように、前記他の窒化アルミニウム層が成長可能な表面である、請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項6】
前記窒化アルミニウム層は、厚さ方向の途中の位置において酸素濃度が階段状に変化する界面を有さないような、単層の窒化アルミニウム層で構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項7】
前記窒化アルミニウム層の、前記凸部の下端から前記表面までの厚さが、800nm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム積層部材を備える、発光デバイス。
【請求項9】
前記窒化アルミニウム層の前記表面上に配置され、III族窒化物半導体層の積層で構成された発光構造を有し、
前記サファイア基板の裏面側から光が取り出される、請求項
8に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム積層部材および発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
周期的な凹凸形状が形成されたサファイア基板上に窒化アルミニウム(AlN)層を成長させる技術が、例えば、紫外発光ダイオード(UV-LED)の作製手法として提案されている(例えば非特許文献1参照)。サファイア基板の凹凸形状としては、凹部が周期的に(そして離散的に)配置された形状と、凸部が周期的に(そして離散的に)配置された形状と、が知られている(凹部が設けられたサファイア基板上にAlN層を成長させる技術について、例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H.Miyake他、「HVPE growth of thick AlN on trench-patterned substrate」、Phys Status Solidi C 8、No.5、1483-1486(2011)
【文献】L. Zhang他、「High-quality AlN epitaxy on nano-patterned sapphire substrates prepared by nano-imprint lithography」、Scientific Reports 6、35934 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、凸部が周期的に配置されたサファイア基板を用いると、不規則で乱雑なAlN結晶が成長するため、平坦な表面を有するようにAlN層を成長させることはできなかった。
【0005】
また、凹部が周期的に配置されたサファイア基板を用いることで、平坦な表面を有するAlN層を形成することは可能であるものの、このような技術においては、AlN層の内部に空洞(ボイド)が形成される(非特許文献2参照)。後述のように、このようなボイドは、得られたAlN層を例えばUV-LEDに適用する際に、不利である。
【0006】
本発明の一目的は、凸部が周期的に配置されたサファイア基板上に、平坦な表面を有するとともに、内部にボイドを実質的に含まないように成長されたAlN層を備える、AlN積層部材を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、このようなAlN積層部材を備える発光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
高さが500nm以下である凸部が周期的に配置された下地面を有するサファイア基板と、
前記下地面上に成長され、表面が平坦面であり、内部にボイドを実質的に含まない、窒化アルミニウム層と、
を備える、窒化アルミニウム積層部材
が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、
上記の一態様による窒化アルミニウム積層部材を備える、発光デバイス
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
凸部が周期的に配置されたサファイア基板上に、平坦な表面を有するとともに、内部にボイドを実質的に含まないように成長された窒化アルミニウム層を備える、窒化アルミニウム積層部材が提供される。また、このようなAlN積層部材を備える発光デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による積層部材100の例示的な概略断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態による基板10の例示的な概略平面図である。
【
図3】
図3は、実験例の結果を示す、AFM像および光学顕微鏡像である。
【
図4】
図4は、実験例の結果を示す、断面SEM像である。
【
図5】
図5は、応用例によるLEDの概略断面図である。
【
図6】
図6は、尾根状の凸部12が配置された他の実施形態を例示する、基板10の概略平面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、従来技術で用いられる加工サファイア基板、および、加工サファイア基板上に従来技術により成長させたAlN層を、それぞれ、模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<一実施形態>
本発明の一実施形態による窒化アルミニウム(AlN)積層部材100(以下、積層部材100ともいう)について説明する。
図1は、本実施形態による積層部材100の例示的な概略断面図である。積層部材100は、サファイア基板10(以下、基板10ともいう)と、基板10上に成長されたAlN層20(以下、層20ともいう)と、を備える。本実施形態による層20は、その表面21が、成長により形成された平坦面であり、内部にボイドを実質的に含まないことを特徴とする。
【0013】
基板10は、単結晶のサファイアで構成され、層20を成長させるための下地である下地面11を有する。下地面11は、周期的に(そして離散的に)配置された複数の凸部12を有する。凸部12の形状は、例えば錘状である。本実施形態において、錘状とは、円錐および角錐を含み、頂部が尖った形状だけでなく、頂部が平坦な形状(錘台)も含む。ここでは、凸部12が円錐状である態様を例示する。
【0014】
下地面11の、凸部12の外側の部分13(以下、谷部13ともいう)は、(仮想的な)平面14上に配置されている。凸部12は、平面14上に配置されていると捉えることができ、平面14の法線方向N14が、凸部12の高さ方向である。凸部12の高さH12は、平面14から凸部12の上端までの距離で規定される。凸部12の高さ方向が、基板10を構成するサファイアのc軸方向と平行となるように、凸部12が形成されている。各凸部12の頂部には、サファイアのc面が露出している。なお、本明細書において、「ある方向D1と他の方向D2とが平行である」とは、ある方向D1と他の方向D2とのなす角が、3°以下であることをいう。
【0015】
図2は、基板10の例示的な概略平面図である。本実施形態において、凸部12は、例えば、三角格子、四角格子または六角格子の格子点上に配置されることで、2次元的に周期的に(そして離散的に)配置されている。ここでは、凸部12が正三角格子の格子点上に配置されている態様を例示する。正三角格子の軸方向を、一点鎖線で示す。凸部12が配置される三角格子等の格子の軸方向は、特に限定されないが、例えば、基板10を構成するサファイアのm軸方向またはa軸方向と平行である。
【0016】
層20は、基板10の下地面11上にヘテロエピタキシャル成長されたAlNで構成されている。層20の表面(上面)21は、成長により形成された平坦面である。ここで、表面21が平坦面である(または平坦である)とは、表面21が、5μm角領域の原子間力顕微鏡(AFM)測定により求めた二乗平均平方根(RMS)値として典型的には3nm以下の表面粗さを有することをいう。基板10の下地面11が、凸部12に応じた凹凸形状を有するのに対し、層20の表面21は、平坦となっている。つまり、層20が、下地面11の谷部13を埋め込んで成長することで、平坦面である表面21が形成されている。
【0017】
層20は、内部にボイドを実質的に含まない。つまり、層20は、凸部12間の谷部13を完全に埋め込んでいる。層20が「ボイドを実質的に含まない」ことの定義については、後述する。
【0018】
層20を構成するAlNは、基板10の下地面11に露出したサファイア単結晶によって結晶方位が制御されることで、そのc軸方向が、凸部12の高さ方向と平行である。つまり、層20を構成するAlNのc軸方向は、基板10を構成するサファイアのc軸方向と、平行である(概ね一致している)。表面21に対して最も近い低指数の結晶面は、層20を構成するAlNの+c面(Al極性面)となる。層20を構成するAlNは、単結晶であり、表面21は、単一の結晶方位を有する。
【0019】
後述の実験例で説明するように(
図3参照)、層20の表面21は、ステップ・テラス構造を有し、層20を構成するAlNは、高い結晶性を有する。層20を構成するAlNのX線ロッキングカーブ(XRC)測定による半値幅は、例えば、(0002)回折について300秒以下であることが好ましく、また例えば、(10-12)回折について500秒以下であることが好ましい。
【0020】
表面21は、成長で形成された(アズグロウンの)平坦面であり、研磨等の加工により平坦化された平坦面ではないため、当該加工に起因するAlN結晶へのダメージを有しない。これにより、表面21は、表面21上に他のAlN層をホモエピタキシャル成長させた場合に、当該他のAlN層を構成するAlNのXRC測定による半値幅が、層20を構成するAlNのXRC測定による半値幅と比べて、同等程度を超えないように(つまり、層20よりも結晶性が低下しないように)、当該他のAlN層が成長可能な表面となっている。「同等程度を超えない」とは、層20の半値幅と比べて、当該他のAlN層の半値幅が、等しいか、減少するか、または、増加する場合であってもその増加量が100秒以下に抑制されていることをいう、つまり、層20の半値幅と比べて、当該他のAlN層の半値幅の増加量が、100秒以下であることをいう。ここで、半値幅は、例えば(0002)回折の半値幅であり、また例えば(10-12)回折の半値幅である。
【0021】
層20は、単層のAlN層で構成されている。ここで、「単層のAlN層」とは、酸素等の不純物の濃度が相互に異なるような、複数のAlNサブ層の積層により構成されたAlN層(以下、複層のAlN層とも称する)ではないことをいう。複層のAlN層では、AlNサブ層同士の積層界面において、酸素等の不純物の濃度が階段状に変化する。したがって、「単層のAlN層」は、厚さ方向の途中の位置において酸素等の不純物の濃度が階段状に変化する界面を有さないようなAlN層、ということができる。
【0022】
本願発明者は、表面21が平坦面となるように層20を成長させるためには、凸部12の高さH12を低くすることが好ましいという知見を得ている。具体的には、凸部12の高さH12は、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。なお、凸部12の高さH12の下限は、特に制限されないが、凸部12を明確に規定する観点から、凸部12の高さH12は、例えば50nm以上、好ましくは100nm以上とする。
【0023】
後述のように、層20は、好ましくは気相成長、例えばハイドライド気相成長(HVPE)により成長され、層20の成長の前に、下地面11には、酸素(O)を含むガス、好ましくは酸素ガス(O2ガス)に曝しながら行う熱処理(以下、酸素ガス処理ともいう)が施されている。下地面11が、酸素ガス処理により荒れることで、下地面11の全面上においてAl原子の付着しやすさが増し、さらに、AlNがサファイアとの結晶方位を揃えたかたちで付着しやすくなっているものと考えられる。
【0024】
本実施形態では、凸部12の高さH12が充分に低く、さらに、酸素ガス処理により下地面11の全面上におけるAl原子の吸着しやすさが増していることで、谷部13が埋め込まれやすくなっているのではないかと考えられる。表面21が平坦面となり、また、内部にボイドが実質的に含まれないように層20を成長させるための好適な成長条件(成長温度、V/III比等)については、後述する。
【0025】
層20の表面21を平坦面とするためには、凸部12の上端を超える高さ(厚さ)まで、層20を成長させる。つまり、層20の、谷部13(凸部12の下端)から表面21までの厚さT20は、凸部12の高さH12よりも大きい。本実施形態では、凸部12の高さH12を500nm以下とし、酸素ガス処理された下地面11上に層20を成長させることで、表面21を平坦面とするために要する、凸部12の下端から表面21までの層20の厚さT20を、800nm以下に薄くすることができる。
【0026】
凸部12の斜面の平面視での幅W12が広いほど、あるいは、最も近くに隣り合う凸部12同士のピッチP12が広いほど、下地面11の凹凸の程度が大きいといえ、層20の表面21を平坦化することが難しくなるといえる。本実施形態によって平坦な表面21が得られる下地面11の凹凸の目安として、例えば、幅W12が500nm以下であることが挙げられ、また例えば、ピッチP12が1000nm以下であることが挙げられる。
【0027】
次に、積層部材100の製造方法について説明する。基板10を準備する。基板10の凸部12の高さH12は、500nm以下とする。凸部12の斜面の幅W12は、500nm以下とすることが好ましく、凸部12のピッチP12は、1000nm以下とすることが好ましい。このような基板10は、パターン化サファイア基板(PSS)の形成技術により作製することができる。基板10の下地面11を、酸素ガス処理する。酸素ガス処理としては、例えば、酸素ガスを2slm程度流した管状炉内において、800~1100℃の温度で10~30分間加熱処理を行うのが好ましい。また、酸素プラズマを用いた、下地面11の酸化も好ましい酸素ガス処理の一形態である。
【0028】
酸素ガス処理された下地面11上に、気相成長法、好ましくはHVPEにより、AlNを成長させることで、層20を形成する。アルミニウム(Al)原料ガスとしては、例えば、一塩化アルミニウム(AlCl)ガスまたは三塩化アルミニウム(AlCl3)ガスが用いられ、窒素(N)原料ガスとしては、アンモニア(NH3)ガスが用いられる。これらの原料ガスを、水素ガス(H2ガス)、窒素ガス(N2ガス)またはこれらの混合ガスを用いたキャリアガスと混合して供給してもよい。
【0029】
成長条件としては、以下が例示される。成長温度としては、1000~1300℃が例示される。Al原料ガスに対するN原料ガスの供給量比であるV/III比としては、0.2~200が例示される。成長速度としては、0.5~500nm/分が例示される。なお、HVPE装置の成長室内に各種ガスを導入するガス供給管のノズルへのAlNの付着を防止するために、塩化水素(HCl)ガスを流してもよく、HClガスの供給量は、AlClガスまたはAlCl3ガスに対して0.1~100の比率となるような量が例示される。
【0030】
以上のようにして、表面21が平坦面であり、内部にボイドを実質的に含まない層20を成長させる。層20の厚さT20は、表面21が平坦面となる厚さ以上であれば、適宜調整されてよい。ただし、厚さT20が過度に厚いと、層20にクラックが生じるおそれがある。このため、層20の厚さT20は、例えば800nm以下とすることが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態によるAlN層20の特徴を明確にするために、従来技術による加工サファイア基板上に成長させたAlN層の特徴について説明する。従来技術による加工サファイア基板上のAlN成長は、例えば非特許文献2などに例示されている。
図7(a)および
図7(b)は、従来技術で用いられる加工サファイア基板310、および、加工サファイア基板310上に従来技術により成長させたAlN層320を、それぞれ、模式的に示した断面図である。
【0032】
従来技術では、ほとんどの場合、本実施形態とは異なり、サファイア基板310上に凹部312(穴または溝)を、周期的に(離散的に)形成したタイプの加工基板が用いられる。凹部312は、周期的に配置される。具体的には例えば、本実施形態の凸部12が配置されている三角格子等の格子点上に、凸部12ではなく凹部312が配置されているような構造(
図2参照)の、サファイア基板310が用いられる。ただし、凹部312同士のピッチは、1μm弱から数10μmと長く、また、凹部312の深さは、1μm弱から数10μmと深い。AlN層320の成長方法としては、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、あるいは、HVPE法が用いられる。
【0033】
従来技術では、サファイア基板310における凹部312間の表面311、凹部312の斜面、および、凹部312の底面の、全ての面上に、それぞれの面に対してc軸が垂直となるように、AlN層320が成長する。AlN層320の全体は、凹部312に成長したAlN結晶320aと、表面311に成長したAlN結晶320bと、で構成される。
【0034】
凹部312の斜面に成長したAlNは、表面311に成長したAlNとは、結晶方位が異なる乱雑な結晶となる。また、凹部312の斜面に成長したAlNと、凹部312の底面に成長したAlNも、お互いに結晶方位が異なるため、結果として、凹部312には、乱雑なAlN結晶320aが形成される。
【0035】
一方、表面311に成長するAlN結晶320bとサファイア基板310の結晶方位が揃っており、かつ、表面311と凹部312との間に高さの差があることで、表面311に成長するAlN結晶320bは、凹部312に成長するAlN結晶320aと距離を保って、成長する。
【0036】
成長条件によっては、表面311に成長するAlNを、ゆっくりではあるが横方向にも広げることが可能である。凹部312を挟んで隣り合う表面311のそれぞれの上に成長するAlN同士が会合するまで、凹部312に成長する乱雑なAlN結晶320aがAlN結晶320b追い付かないように、成長条件を工夫することで、最終的に、平坦な表面321を有するAlN結晶320b得ることが可能である。最終的に平坦な表面321が得られる場合には、凹部312に成長する乱雑なAlN結晶320aが、表面311に成長するAlN結晶320bに追い付かないことにより、必ず、AlN層320の内部に空洞(ボイド)330が含まれることになる。
【0037】
また、従来技術において、平坦な表面321を得ようとする場合、AlN結晶320bの成長における横方向への拡大速度が遅いため、5~20μm程度の厚さの、厚いAlN結晶320bを成長させる必要がある。
【0038】
このように、従来技術において、平坦な表面321を得ようとする場合、AlN層320がボイド330を含むとともに、厚いAlN層320を成長させる必要がある。これらは、以下に説明するように、AlN層320を、例えばUV-LEDの下地に適用しようとする場合に、不利である。
【0039】
UV-LEDは、AlN層320の平坦な表面321上に、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を成長することで形成される。p型半導体層としては、紫外光に対して透明なp型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層などを用いるのが理想的であるが、p型AlGaN層を用いると抵抗が過度に大きくなる。よって、現状は、少なくとも最表面のコンタクト層としては、紫外光を吸収するp型GaN層が用いられる。これに起因して、成長面側に紫外光を取り出そうとすると、ほとんどの光がp型GaN層に吸収される。したがって、現状のUV-LEDでは、サファイア基板の裏側から光を取り出す構造が用いられる。
【0040】
本願発明者の考察によれば、このような構造では、AlN層320にボイド330が存在することで、AlN層320とサファイア基板310との界面付近の平均的な屈折率が低下するため、発光層で発生した紫外光が、基板側へ透過しにくくなる。すなわち、AlN層320がボイド330を含むことは、 UV-LEDの出力低下の原因となるため、不利である。また、厚いAlN層320の成長が必要であることは、UV-LEDの製造コスト低減の観点で、不利である。
【0041】
次に、本実施形態に係る実験例について説明する。本実験例において、基板10(サファイア基板)としては、円錐状の凸部12が正三角格子状に配置された、直径2インチのものを用いた。凸部12の、高さH12、斜面の幅W12、および、ピッチP12は、それぞれ、220nm、250nm、および、600nmとした。層20(AlN層)の成長条件は、上記で例示した成長条件である。層20は、基板10の下地面11の谷部13から、層20の表面21までの厚さT20が700nmとなるように、成長させた。
【0042】
図3および
図4に、本実験例の結果を示す。
図3は、本実験例の結果を示す平面像である。
図3の上部は、AlN層の表面の原子間力顕微鏡(AFM)による5μm角領域の像であり、
図3の下部の左側部分および右側部分は、AlN層の表面の光学顕微鏡像である。AFM像からわかるように、AlN層の表面は、ステップ・テラス構造が観察され、平坦である。当該ステップ・テラス構造において、各ステップの高さは、AlNの1分子または2分子に相当すると推測される。当該AFM測定により求めた表面粗さのRMS値は、この場合1.6nmであり、2インチウエハ全体を10mmピッチ毎に調べた結果でも、全点でRMS値は3nm以下であった。光学顕微鏡像からも、AlN層の表面が平坦であることがわかる。
【0043】
本実験例で作製したAlN層に対して、2インチウエハの中心部のXRC測定を行ったところ、(0002)回折の半値幅は260秒であり、(10-12)回折の半値幅は300秒であった。2インチウエハ全体を10mmピッチ毎に調べた結果でも、全点で(0002)回折の半値幅は300秒以下であり、(10-12)回折の半値幅は500秒以下であった。
【0044】
図4は、本実験例の結果を示す、断面走査電子顕微鏡(SEM)像である。断面は、
図2の矢印P12に垂直な面(サファイアのM面、AlNのA面)、つまり、AlN層の表面と直交する面である。撮像時のチャージアップの影響で、実物とは若干寸法が異なって見えている。しかしながら、この断面像からも、表面が平坦なAlN層が形成されており、また、AlN層を構成する結晶内部にボイドが含まれないことが、明らかである。なお、断面を広い範囲で観察すると、極稀にボイドが形成されている場所も観察された。しがし、これは、サファイア基板におけるパターン加工の不完全性による不均一に起因したもので、本質的なものではない。
【0045】
AlN層に含まれるボイドの量は、例えば、以下のように見積もられる。低倍率(幅10μm以上の領域が観察可能な倍率)の断面SEM像において、AlN層中に、表面に平行な10μm以上の長さの線Lを、線Lがボイドを横切る長さが最大になるように記した場合に、線Lの長さに対する、ボイドの長さ(線Lがボイドを横切る長さ)の比率を、ボイド含有率と称する。AlN層に含まれるボイドの量は、例えば、このようなボイド含有率で見積もられる。ボイド含有率が10%以下である場合を、AlN層がボイドを実質的に含まない、と規定する。
【0046】
本実験例において、ボイド含有率は、10%以下であり、ほとんどの場合は5%以下であり、最適の場合には0%であった。つまり、本実験例で得られたAlN層は、ボイドを実質的に含まないものであった。ボイド含有率は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、0%(0.5%未満)であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、
図7(b)に、従来技術におけるAlN層320のボイド含有率を見積もるために記された線Lを、概念的に例示する。従来技術におけるAlN層320では、ボイド含有率が、10%を超える。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板10の、凸部12が周期的に配置された下地面11上に、平坦な表面21を有するとともに、内部にボイドを実質的に含まないように成長された層20を備える、積層部材100を得ることができる。平坦な表面21は、成長により、つまりアズグロウンの表面として、得ることができる。これにより、表面21を平坦化するための加工が不要となるため、当該加工に起因するAlN結晶へのダメージを防ぐことができる。したがって、例えば、層20の表面21上にさらにIII族窒化物層を成長させる場合に、当該III族窒化物層を、高い結晶性で成長させることができる。
【0049】
層20は、単層のAlN層として、つまり1回の成長工程で、成長させることができる。このため、複数回の成長工程を要する、複層のAlN層と比べて、層20は、容易に形成することができる。
【0050】
基板10の凸部12の高さH12は、500nm以下であり、層20の厚さT20は、上述のように、800nm以下の薄さとすることができる。このため、層20は、クラックのない高品質なAlN層として形成しやすい。また、本実施形態による層20は、従来技術によるAlN層(例えば厚さ5~20μm)よりも格段に薄い膜厚を有するので、成長に要するコストを大きく低減できるというメリットも有する。
【0051】
積層部材100は、例えば、層20の表面21上にさらにIII族窒化物層を成長させることでLEDを作製する用途に用いられてよい。層20が内部にボイドを実質的に含まないことで、以下に説明するように、積層部材100を例えばLEDの下地に適用する際、ボイドに起因する出力低下を抑制できる。なお、積層部材100は、その他、どのような用途に用いられてもよい。
【0052】
次に、応用例として、積層部材100を備える発光デバイスとして、UV-LED200(以下、LED200ともいう)について説明する。
図5は、LED200の概略断面図である。LED200は、積層部材100と、層20の表面21上に配置され、III族窒化物半導体層の積層で構成された発光構造205と、発光構造205に電流を流すためのn側電極240およびp側電極250と、を有する。
【0053】
発光構造205としては、必要に応じて種々の構造が用いられてよい。発光構造205は、例えば、層20の表面21上に形成されたn型半導体層210、n型半導体層210上に形成された発光層220、および、発光層220上に形成されたp型半導体層230を有する。なお、発光構造205は、必要に応じて、AlN層20とn型半導体層210との間に、歪緩和層を有してもよい。
【0054】
歪緩和層としては、例えば組成傾斜層が形成され、また例えば超格子層が形成される。n型半導体層210としては、例えばn型AlGaN層が形成される。発光層220としては、例えば、Al組成が互いに異なるAlGaN層が交互に積層された多重量子井戸層が形成される。p型半導体層230としては、例えば、高Al組成のp型AlGaNで構成された電子ブロック層、p型AlGaN層、および、p型GaNコンタクト層の積層が形成される。各AlGaN層は、発光波長に対して透明なAl組成を有している。発光構造205を構成する各層は、例えば、MOCVD法により成膜される。
【0055】
発光構造205のn型半導体層210上およびp型半導体層230上に、それぞれ、n側電極240およびp側電極250が形成される。n側電極240としては、Ti/Al電極等が用いられる。p側電極250としては、Ni/Au電極、Ni/Al電極、Rh電極等が用いられる。
【0056】
発光層220で発生した紫外(UV)光260(以下、光260ともいう)は、基板10の裏面側から外部に取り出される。
図5に、光260の経路のいくつかを例示する。発光層220で発生し、基板10の平坦な谷部13に垂直入射した光260は、そのまま直進して、基板10の裏面側から外部に取り出される。発光層220で発生し、基板10の凸部12の斜面に斜めに入射した光260は、当該斜面で屈折されて、基板10の裏面側から外部に取り出される。
【0057】
層20がボイドを実質的に含まないことで、ボイドに起因する、層20と基板10との界面付近の平均的な屈折率の低下が抑制される。これにより、発光層220で発生した光260が、基板10側へ透過しやすくなるため、ボイドに起因するLED200の出力低下を抑制できる。なお、基板10が凸部12を有することで、基板10の下地面11の全面が平坦である場合と比べて、光260のうち下地面11で全反射されて基板10側に透過しない成分を減らせるため、光取り出し効率を向上させられる。
【0058】
<他の実施形態>
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行ってもよい。また、種々の実施形態は、適宜組み合わせてよい。
【0059】
上述の実施形態では、層20を成長させる基板10として、錘状の凸部12を有するものを例示したが、凸部12は、錘状のものに限定されない。また、上述の実施形態では、凸部12が2次元的に周期的に配置されている態様を例示したが、凸部12の周期的配置は、2次元的なものに限定されない。
図6は、尾根状の凸部12が、尾根の延在方向同士が平行となるように、1次元的に周期的に配置されている基板10を例示する概略平面図である。紙面上下方向に延在する実線および破線が、それぞれ、凸部12の稜線および谷線を示している。
【0060】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0061】
(付記1)
高さが500nm以下である凸部が周期的に配置された下地面を有するサファイア基板と、
前記下地面上に成長され、表面が平坦面であり、内部にボイドを実質的に含まない、窒化アルミニウム層と、
を備える、窒化アルミニウム積層部材。
【0062】
(付記2)
前記表面は、前記表面の5μm角領域の原子間力顕微鏡測定により求めた二乗平均平方根値として3nm以下の表面粗さを有する、付記1に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0063】
(付記3)
前記窒化アルミニウム層の(前記表面と直交する)断面観察像において、前記表面に平行な10μm以上の長さの線を、前記線がボイドを横切る長さが最大になるように記した場合に、前記線の長さに対する、前記ボイドの長さ(前記線が前記ボイドを横切る長さ)の比率であるボイド含有率が、10%以下であり、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは0%(0.5%未満)である、付記1または2に記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0064】
(付記4)
前記表面は単一の結晶方位を有し、前記表面に対して最も近い低指数の結晶面が、前記窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムの+c面である、付記1~3のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0065】
(付記5)
前記表面は、ステップ・テラス構造を有する、付記1~4のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0066】
(付記6)
前記窒化アルミニウム層は、X線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の半値幅が300秒以下である、付記1~5のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0067】
(付記7)
前記窒化アルミニウム層は、X線ロッキングカーブ測定による(10-12)回折の半値幅が500秒以下である、付記1~6のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0068】
(付記8)
前記表面は、前記表面上に他の窒化アルミニウム層をホモエピタキシャル成長させた場合に、前記他の窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムのX線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の(または(10-12)回折の)半値幅の、前記窒化アルミニウム層を構成する窒化アルミニウムのX線ロッキングカーブ測定による(0002)回折の(または(10-12)回折の)半値幅に対する増加量が、100秒以下となるように、前記他の窒化アルミニウム層が成長可能な表面である、付記1~7のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0069】
(付記9)
前記窒化アルミニウム層は、厚さ方向の途中の位置において酸素濃度が階段状に変化する界面を有さないような、単層の窒化アルミニウム層で構成されている、付記1~8のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0070】
(付記10)
前記窒化アルミニウム層の、前記凸部の下端から前記表面までの厚さが、800nm以下である、付記1~9のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0071】
(付記11)
前記凸部の高さ方向が、前記サファイア基板を構成するサファイアのc軸方向と平行である、付記1~10のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0072】
(付記12)
前記凸部の各々は、錘状または尾根状であり、前記凸部の各々の斜面の平面視での幅が、500nm以下である、付記1~11のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0073】
(付記13)
最も近くに隣り合う前記凸部同士のピッチが、1000nm以下である、付記1~12のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材。
【0074】
(付記14)
付記1~13のいずれか1つに記載の窒化アルミニウム積層部材を備える、発光デバイス。
【0075】
(付記15)
前記窒化アルミニウム層の前記表面上に配置され、III族窒化物半導体層の積層で構成された発光構造を有し、
前記サファイア基板の裏面側から光が取り出される、付記14に記載の発光デバイス。
【符号の説明】
【0076】
10…サファイア基板、11…下地面、12…凸部、13…谷部、14…平面、20…AlN層、21…表面、100…AlN積層部材、200…LED、205…発光構造、260…光